【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載されている発明では、かぎ部を先端に設けた金属製の針体において、手指で握持する部分を含む基端側にグリップ体が設けられている。
【0007】
かぎ針を用いた手編み作業における疲労感を緩和するには、かぎ針に握持力を効果的に作用させて、できるだけ小さな力でかぎ針を握持して作業を行うことができるとともに、かぎ針を手指と一体感をもって操作できることが重要である。
【0008】
上記特許文献に記載されている発明では、手指で握持する部分に針体より太く形成されたグリップ体を設けているため握持し易く、また握持するのに必要な力をある程度軽減することができる。ところが、上記のようなグリップ体を設けたかぎ針では、グリップ体の断面が針体より大きくなるため、小さな力で握持し易い反面、編み作業において編み糸をすくいにくくなり、また、手指との一体感が低下するという問題があった。
【0009】
本願発明の発明者は、上記一体感が低下する原因が、グリップ体を設けることによって、針体先端部に設けられるかぎ部の手指に対する位置が、従来のかぎ針のかぎ部の位置から変位することが原因であることを見出した。
【0010】
すなわち、上記グリップ体を設けることにより、従来の棒状の針体を直接握持して作業を行う場合に比べて、グリップ体の厚み分針体の表面から離間した位置を手指で握持することになる。このため、上記かぎ部からの距離や角度も異なることになり、握持位置によっては、編み糸をかぎ部ですくいにくくなったり、手指とかぎ針との一体感が低下するといった問題が発生しやすかった。
【0011】
本願発明は、上記課題を解決し、握持し易いばかりでなく、手指と一体感をもって編み作業を行うことができるかぎ針を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明に係るかぎ針は、 先端にかぎ部が設けられ、
円形断面を有する直線棒状の針体と、この針体の先端部を突出させるようにして基端側を覆うグリップ体とを備えるかぎ針であって、上記グリップ体は、
円形断面を有する基端部と、この基端部の先端側に設けられるとともに外周の一側に凹部が形成された握持部とを備え、上記凹部は、上記かぎ部の掛止部を設けた側に形成されるとともに、長手方向中央部が窪む断面弧状に形成されており、上記針体の
軸先端が、上記基端部の軸に対して、上記凹部を設けた側と反対側に変位して設けられている
とともに、上記掛止部の半径方向外方面が、上記基端部の軸に平行で上記凹部の底面位置を通る延長線上から半径方向外方側で、かつ、上記凹部を設けた側の基端部表面の延長線上から半径方向内方側に位置するように構成されており、上記凹部を設けた側と上記基端部の軸を挟んで反対側に、上記基端部の表面より半径方向外方に向けて膨出する第1の膨出部を設ける一方、上記凹部の底面における上記基端部の軸と直交する方向の両側縁部に、上記基端部の表面より半径方向外方に膨出する第2の膨出部を設けて構成されている。
【0013】
本願発明の発明者は、試行錯誤の結果、上記かぎ部の位置を、親指で握持する位置を基準として所定の位置に設けることにより、上記不都合を回避することができることを見出した。すなわち、手編み作業を行う際に、かぎ針の掛止部の動きに最も関与しているのは親指であり、親指の位置を基準として上記かぎ部の位置を所定の位置に設定することにより、編み糸がすくい易くなるとともに、かぎ針と手指との一体感を得られることを見出した。
【0014】
従来のかぎ針のグリップ体には、親指の位置決めを行う部位が設けられることがなく、使用者の好みに応じた位置に親指を添えて握持できるように構成されていた。このため、グリップ体を設けることによって、親指が針体から離間した状態になるばかりでなく、親指の軸方向位置が定まらない。このため、親指に対するかぎ部の位置が定まらず、編み糸をすくいにくくなったり、かぎ針と手指との一体感が低下する等の問題が生じた。
【0015】
また、本願発明の発明者は、かぎ針と手指の一体感を得るために、親指で握持する部分(グリップ体の表面)から基端部の軸方向(グリップ体の軸方向)の延長線上に、上記かぎ部の掛止部を設定するのが好ましいことを見出した。
【0016】
本願発明では、基端部と、この基端部の先端側に設けられるとともに外周の一側に凹部が形成された握持部とを備えるグリップ体を設ける。上記基端部の断面形態は特に限定されることはないが、
円形断面が変化しない棒状に形成するのが好ましい。なお、本願発明では、上記基端部を、上記握持部の寸法及び形態の基準として用いている。上記凹部は、上記かぎ部の掛止部を設けた側に形成されるとともに、長手方向中央部が窪む断面弧状に形成されている。このため、上記凹部に親指を添えて握持部を握持することにより、親指の軸方向位置及び周方向位置を定めることが可能となる。また、上記凹部は、グリップ体の周面を切り欠くように形成されているため、親指の握持位置が針体側に変位させられる。このため、親指の握持位置から上記基端部の軸方向の延長線上に、上記かぎ針の掛止部を設けることができる。
【0017】
さらに、上記針体の
軸先端を、上記基端部の軸に対して、上記凹部を設けた側と反対側に変位して設けることにより、編み糸をすくい易くなることを見出した。すなわち、編み作業においては、先端に設けたかぎ部を、編み込んだ編成体の所定の隙間に挿入し、編み糸をすくう動作が繰り返される。上記編成体は、通常親指より下側に位置するため、上記かぎ部を上記凹部を設けた側と反対側、すなわち、親指で握持する側から反対側へ変位させることにより、上記動作において編み糸をすくい易くなるのである。特に本願発明では、上記凹部を設けることにより親指の握持位置を上記針体に近接させることができるため、上記針体の先端、すなわち、かぎ部の掛止部を親指の延長線上に設定し、かつ、上記基端部の軸に対して、上記凹部を設けた側と反対側に変位して設けることが可能となった。
【0018】
上記針体の先端の変位量は特に限定されることはないが、たとえば、針体のグリップ体からの突出量が35mmの場合、上記基端部の軸と直交する方向へ0.4〜1mm変位させるのが好ましい。また、上記基端部の軸に対して、上記凹部を設けた側と反対側に変位させる手法は特に限定されることはない。たとえば、直線状の針体を、上記基端部の軸に対して、上記凹部を設けた側と反対側に0.4°〜0.6°傾斜して設けることができる。なお、上記変位量は、グリップ体の太さや、針体の突出量に応じて変更できる。
【0019】
上記針体の上記傾斜角度が0.4°より小さい場合、針体の先端部の変位量が小さくなって、上記効果を期待できない。一方、0.6°より大きくなると、グリップ体を設けることができなくなる。なお、上記の角度範囲内で、親指の握持位置から上記軸方向の延長線上に、上記掛止部が位置するように設定するのが好ましい。また、上記針体のグリップ体から延出する部分のみを所定角度で曲折して傾斜させることもできる。
【0020】
上記針体を、上記凹部を設けた側と反対側に向けて傾斜させることにより、針体のかぎ部の位置が、従来のかぎ針に比べて上記握持位置から反対側へ変位させられる。この構成によって、かぎ部を編成体の編み目に挿入しやすくなるとともに、編み糸をすくい易くなる。このため、これまでにない感触でかぎ針を握持して編み作業を行うことができるとともに、長時間使用しても疲れにくいかぎ針を構成できる。
【0021】
また、上記凹部を設ける部位において、上記グリップ体の厚みが小さくなる。このため、親指を確実に位置決めできる深さの凹部を設けられなかったり、凹部の底部におけるグリップ体の厚みが小さくなってグリップ体の強度が低下したり、握持感が低下するという問題が生じる。本願発明では、上記針体を傾斜して設けることにより、凹部を設ける部位においてグリップ体の厚みを増加させることができる。このため、所要の深さの凹部を設けることができるという効果もある。
【0022】
さらに、上記凹部の深さを確保するために、上記針体における上記凹部に対応する部分を偏平状に形成するのが好ましい。この構成を採用することにより、より深さの大きな凹部を設けることが可能となる。また、凹部の底面の上記軸方向延長線上に、上記かぎ部を設定することも容易になる。
【0023】
上記凹部は、上記基端部の表面より1〜2mmの深さで形成するのが好ましい。これにより、親指を所定位置に位置決めすることができるとともに、握持部との間の軸方向の滑りを防止できる。また、小さな握持力でかぎ針を安定して握持することが可能となる。上記凹部の深さが1mm以下であると、親指を確実に掛止することできない。一方、2mm以上の深さの凹部を設けることは困難であり、また、他の部位におけるグリップ体の厚みが大きくなって使用感が低下する。
【0024】
さらに、上記凹部を設けた側と上記軸を挟んで反対側に、上記基端部の表面より半径方向外方に向けて膨出する第1の膨出部を設けるのが好ましい。また、上記凹部の底面における上記軸と直交する方向の両側縁部に、上記基端部の表面より半径方向外方に膨出する第2の膨出部を設けるのが好ましい。上記各膨出部は、上記凹部の底面に対応する部分において最大高さで膨出するとともに、上記軸に沿う断面を弧状に形成するのが好ましい。
【0025】
上記各膨出部を設けることにより、これら膨出部間に、人差指及び中指を位置させる握持面を形成することができる。これにより、親指によって作用する押圧力を、人差指と中指とで確実にバックアップすることができる。また、所要の握持力を低減させることができるとともに、操作性が向上する。
【0026】
上記各膨出部の形態は特に限定されることはないが、上記膨出部を、上記基端部の表面から、2〜3mmの最大高さで形成するのが好ましい。これにより、十分な握持力を作用ささせることができる握持面を設けることができる。
【0027】
上記基端部を、円形断面を有する棒状に形成するとともに、上記掛止部の半径方向外方面が、上記基端部の軸に平行で上記凹部の底面位置を通る延長線上から半径方向外方側で、かつ、上記凹部を設けた側の基端部表面の延長線上から半径方向内方側に位置するように構成するのが好ましい。上記構成によって、編み糸を掛止する掛止部が、親指の握持位置(表面位置)から基端部の軸方向のほぼ延長線上に設定される。このため、編み糸をすくい易くなるとともに、かぎ針と手指との一体感を得ることができる。
【0028】
通常、上記握持部は、親指と人差指と中指の間で握持される。握持部をより安定して握持するために、上記凹部を設けた部位の上記基端部の軸に直交する断面を、上記凹部の底面と、上記第1の膨出部と上記第2の膨出部間に形成される一対の握持面とで構成される三角形状とするのが好ましい。この構成を採用することにより、各指を安定して位置決めして握持することができる。特に、軸周りの手指の角度位置を確実に設定できるため、かぎ針の操作性が向上する。また、操作に必要な握持力を低減させることもできる。さらに、初心者でも、かぎ針の握持位置を容易に見出すことができるため、初心者用のかぎ針としても好適なものとなる。
【0029】
また、各指先と握持部とのフィット感を高めるため、上記凹部の底面、及び一対の上記握持面を、内方に窪む曲面状に形成するのが好ましい。上記曲面の窪み量は特に限定されることはない。たとえば、0.02mmから0.12mmの窪みを形成することにより効果を期待できる。
【0030】
上記針体の上記グリップ体から延出する部分の長さは特に限定されることはないが、上記グリップの先端部から30〜40mmの長さで延出させるのが好ましい。延出量が30mmより小さいと、掛止部が親指に近接しすぎて掛止部の移動範囲が小さくなり、操作性が低下する。一方、40mmより大きくなると、掛止部の移動範囲が大きくなりすぎて、編み糸をすくいにくくなる。上記延出長さを確保した上で、上記掛止部を上述した位置に設定するのが好ましい。