特許第6482830号(P6482830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482830
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】カチオン性界面活性剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 213/10 20060101AFI20190304BHJP
   C07C 213/06 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 219/06 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C07C213/10
   C07C213/06
   C07C219/06
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-233576(P2014-233576)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-98175(P2016-98175A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 遥香
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−507756(JP,A)
【文献】 特表平04−506804(JP,A)
【文献】 特開2014−114530(JP,A)
【文献】 特開2016−102103(JP,A)
【文献】 特開平09−249636(JP,A)
【文献】 特開平11−029539(JP,A)
【文献】 特開2003−277334(JP,A)
【文献】 特表平05−507073(JP,A)
【文献】 Bajpai Divya, et al.,Synthesis and characterization of imidazolinium surfactants derived from tallow fatty acids and diethylenetriamine,European Journal of Lipid Sci Technology,2008年10月,vol.110 no.10,page.935-940
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C11D
D06MJSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1、工程2、工程3および工程4を有するカチオン性界面活性剤の製造方法であって、
工程2及び工程4の酸化処理が、酸化剤による処理であり、かつ、
工程2及び工程4で使用する酸化剤が、亜塩素酸、次亜塩素酸、及びそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、
カチオン性界面活性剤の製造方法。
工程1:次亜リン酸又はその塩の存在下、アルカノールアミンを脂肪酸又は脂肪酸アルキルエステルと反応させてアルカノールアミンエステルを得る工程
工程2:工程1で得たアルカノールアミンエステルを酸化処理する工程
工程3:工程2で酸化処理したアルカノールアミンエステルをジアルキル硫酸により4級化してカチオン性界面活性剤を得る工程
工程4:工程3で得たカチオン性界面活性剤を酸化処理する工程
【請求項2】
工程2における酸化剤の使用量が、アルカノールアミンエステル100質量部に対して0.001質量部以上1.0質量部以下である、請求項1記載のカチオン性界面活性剤の製造方法。
【請求項3】
工程4における酸化剤の使用量が、アルカノールアミンエステル100質量部に対して0.001質量部以上1.0質量部以下である、請求項1又は2記載のカチオン性界面活性剤の製造方法。
【請求項4】
工程2の酸化剤の使用量と工程4の酸化剤の使用量の合計が、アルカノールアミンエステル100質量部に対して0.002質量部以上1.5質量部以下である、請求項1〜4のいずれか1項記載のカチオン性界面活性剤の製造方法。
【請求項5】
工程1における次亜リン酸又はその塩の使用量が、アルカノールアミン、脂肪酸及び脂肪酸アルキルエステルの合計量100質量部に対して0.001質量部以上1.0質量部以下である、請求項1〜4のいずれか1項記載のカチオン性界面活性剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られた、カチオン性界面活性剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性界面活性剤の製造方法に関する。詳しくは、生分解性が良好で、匂い及び着色が抑制され、保存安定性に優れたカチオン性界面活性剤の製造方法、並びにそれにより製造されるカチオン性界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維用柔軟剤に用いられるカチオン性界面活性剤としては、処理後の残存物が河川等の自然界に放出された場合の生分解を考慮して、トリエタノールアミンやメチルジエタノールアミン等を長鎖脂肪酸或いは脂肪酸メチルと反応させ、中間体のアルカノールアミンエステルを合成した後、ジメチル硫酸やジエチル硫酸等のジアルキル硫酸により4級化して得られるカチオン性界面活性剤が好適に利用されている。
【0003】
しかしながら、これらのエステル基を有するカチオン性界面活性剤には、製造時に使用される4級化剤に由来して副生されるメタンチオールやジメチルジスルフィド等の硫黄(S)含有化合物に起因して悪臭が発生したり、また貯蔵時の長期保存における匂いや色相の悪化が商品の品質に悪影響を及ぼしたりするといった問題がある。これらの問題に関して特許文献1には、4級化する前のアルカノ−ルアミンエステルに過酸化物および水素化ホウ素アルカリ金属塩を添加する方法が開示され、また特許文献2には、4級化する前のアルカノ−ルアミンエステルに空気を接触させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−507756号公報
【特許文献2】特表平4−506804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2など、従来技術で開示された方法では、製造後および保存時における匂いおよび色相の品質改善効果は十分ではない。本発明の課題は、柔軟基剤として有用であり、生分解性が良好で匂い及び着色の抑制並びに保存安定性に優れたカチオン性界面活性剤の製造方法、並びにそれにより製造されるカチオン性界面活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記の工程1、工程2、工程3および工程4を有するカチオン性界面活性剤の製造方法が提供される。
工程1:次亜リン酸又はその塩の存在下、アルカノールアミンを脂肪酸又は脂肪酸アルキルエステルと反応させてアルカノールアミンエステルを得る工程
工程2:工程1で得たアルカノールアミンエステルを酸化処理する工程
工程3:工程2で酸化処理したアルカノールアミンエステルをジアルキル硫酸により4級化してカチオン性界面活性剤を得る工程
工程4:工程3で得たカチオン性界面活性剤を酸化処理する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次亜リン酸又はその塩を用いてアルカノールアミンエステルを得た後、4級化する前と後とに酸化処理を行うことによって、匂い及び着色が抑制され良好な保存安定性を有する高品質なカチオン性界面活性剤が得られる。得られたカチオン性界面活性剤は繊維用柔軟剤に用いられる柔軟基剤として有用であり、また良好な生分解性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の工程1は、次亜リン酸又はその塩の存在下、アルカノールアミンと脂肪酸又は脂肪酸アルキルエステルとを反応させてアルカノールアミンエステルを得る工程である。
次亜リン酸又はその塩は反応の促進の観点から触媒として用いられ、次亜リン酸塩としては例えばアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を用いることができる。エステル化反応の反応速度向上の観点から、次亜リン酸を用いることが好ましい。
【0009】
次亜リン酸又はその塩の使用量は、エステル化反応の反応速度の向上の観点から、アルカノールアミン、脂肪酸及び脂肪酸アルキルエステルの合計量100質量部に対して好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、触媒コストの低減と匂い抑制の観点から好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下、よりさらに好ましくは0.1質量部以下、よりさらに好ましくは0.08質量部以下、よりさらに好ましくは0.05質量部以下、よりさらに好ましくは0.03質量部以下である。
【0010】
アルカノールアミンは生分解性及び柔軟性にすぐれる観点から、ジアルカノールアミン又はトリアルカノールアミンであることが好ましく、トリエタノールアミン又はメチルジエタノールアミン等のアミノアルコールがより好ましく、トリエタノールアミンがさらに好ましい。エステル化反応に用いられる脂肪酸は、柔軟性に優れる観点から、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化パーム油脂肪酸又はそれらから選ばれる2種以上の混合物のような、好ましくは炭素数8以上30以下、より好ましくは12以上24以下の長鎖脂肪酸である。また柔軟性に優れる観点から、反応に用いられる脂肪酸エステルは好ましくは脂肪酸アルキルエステル又は低級アルキルエステル、より好ましくは炭素数1以上3以下の低級アルキルのエステル、さらに好ましくはメチルエステルである。
【0011】
アルカノールアミンエステルのエステル化度、即ちアルカノールアミンに対して結合する脂肪酸のモル数は、柔軟剤への配合安定性及び柔軟性能に優れる観点から好ましくは1.0以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.4以上であり、同様の観点から好ましくは2.2以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下である。
【0012】
工程1では反応速度向上の観点から、場合に応じて不活性ガス等のキャリアガスを使用しても良く、好ましくは窒素ガスが使用される。
【0013】
工程1の反応の温度は、反応速度向上の観点から好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上であり、着色や副反応を抑制する観点から好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。工程1の反応の圧力は、遊離した水を除去して反応速度を向上させる観点から好ましくは減圧とされ、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは20kPa以下であり、製造設備負荷の観点から好ましくは1kPa以上、より好ましくは5kPa以上である。工程1の反応は、生産性の観点から、好ましくは前記圧力で熟成することにより行う。工程1の反応時間は、反応率を高めて残存する原料脂肪酸量を低減させる観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましく1.0時間以上であり、生産性の観点から好ましくは20時間以下、より好ましく15時間以下、さらに好ましくは10時間以下、よりさらに好ましくは5時間以下である。また、工程1を減圧して行う場合、減圧に要する時間と反応時間との合計は、反応率を高めて残存する原料脂肪酸量を低減させる観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、生産性の観点から好ましくは25時間以下、より好ましく18時間以下、さらに好ましくは12時間以下、よりさらに好ましくは6時間以下である。
【0014】
工程1から得られるアルカノールアミンエステルの酸価(mgKOH/g)は、反応率が低く原料脂肪酸が残存して柔軟性能が低下するのを防止する観点から、好ましくは10以下であり、より好ましくは6以下であり、さらに好ましくは4以下、よりさらに好ましくは3以下、よりさらに好ましくは2.5以下である。下限については特に指定するものではないが、生産性の観点から0.5以上、1.0以上、1.5以上又は1.7以上であっても差し支えない。
【0015】
工程1において、色相安定化の観点から好ましくはフェノール系酸化防止剤を、より好ましくはビス−アルキルヒドロキシトルエン及びビス−アルキルアニソールから選ばれる1種以上、さらに好ましくは2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHTともいう)及び2,6−ジ−tert−ブチルアニソールから選ばれる1種以上、よりさらに好ましくはBHTを用いる。フェノール系酸化防止剤の使用量は、同様の観点から、アルカノールアミン、脂肪酸及び脂肪酸アルキルエステルの合計量100質量部に対して、好ましくは0.005質量部、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、経済性の観点から好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0.07質量部以下である。
【0016】
本発明の工程2は、工程1で得られたアルカノールアミンエステルを酸化処理する工程である。酸化処理は匂い悪化の抑制の観点から、例えば雰囲気ガスを空気とすることによる酸素酸化、或いは一般的な酸化剤の添加などによって行うことができる。
【0017】
空気や酸素と接触させて酸化処理を行う場合、工程2は単独で行ってもよく、また次の工程3を空気又は酸素雰囲気として、酸化処理と4級化を同時に行ってもよい。匂い抑制効果を高める観点から、空気や酸素での処理温度は好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。処理時間は、匂い抑制効果を高める観点から好ましくは0.01時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0018】
酸化剤を用いて酸化処理を行う場合、酸化剤としては、匂い悪化の抑制の観点から、好ましくは亜塩素酸、次亜塩素酸、及びそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上を、より好ましくは亜塩素酸、次亜塩素酸及びそれらのナトリウム塩を、さらに好ましくは亜塩素酸ナトリウムを用いる。酸化剤の使用量は、匂い抑制効果を高める観点から、アルカノールアミンエステル100質量部に対して好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上、よりさらに好ましくは0.06質量部以上、よりさらに好ましくは0.10質量部以上、よりさらに好ましくは0.12質量部以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、よりさらに好ましくは0.20質量部以下、よりさらに好ましくは0.16質量部以下である。
【0019】
酸化剤は、取扱い性の観点から、好ましくは水溶液として用いる。酸化剤の濃度は、入手性及び経済性の観点から、10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、 50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0020】
酸化剤による酸化処理の温度は、匂い抑制効果を高める観点から好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。処理時間は、匂い抑制効果を高める観点から好ましくは0.05時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、生産性の観点から好ましくは10時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。酸化剤により酸化処理を行う場合は、色相悪化等を防止する観点から不活性雰囲気とすることが好ましく、経済性の観点から不活性ガスとしては窒素ガスを用いるのが好ましい。
【0021】
工程2において、色相安定化の観点から、好ましくはフェノール系酸化防止剤を、より好ましくはビス−アルキルヒドロキシトルエン及びビス−アルキルアニソールから選ばれる1種以上、さらに好ましくはBHT及び2,6−ジ−tert−ブチルアニソールから選ばれる1種以上を、よりさらに好ましくはBHTを用いる。工程2で用いるフェノール系酸化防止剤は、工程1と異なってもよいが、経済性の観点から好ましくは工程1と同じものである。
【0022】
フェノール系酸化防止剤の使用量は、同様の観点から、工程1得られたアルカノールアミンエステル100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上であり、経済性の観点から好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下である。
【0023】
本発明の工程3は、工程2で酸化処理したアルカノールアミンエステルをジアルキル硫酸により4級化してカチオン性界面活性剤を得る工程である。
【0024】
4級化剤としての反応性及び経済性、工業的入手性の観点から、ジアルキル硫酸としてはジメチル硫酸又はジエチル硫酸が好ましく用いられ、ジメチル硫酸がより好ましい。
【0025】
工程3は上記のように工程2と同じ空気又は酸素雰囲気で行うことができる。匂い抑制効果を高め色相悪化を防止する観点からは、工程2は空気又は酸素雰囲気で行うことが好ましい。また、引火性の安全面の観点から好ましくは不活性ガス等のキャリアガスが、経済性の観点からより好ましくは窒素ガスが使用される。
【0026】
ジアルキル硫酸の使用量は、4級化率を向上させる観点から、アルカノールアミンエステル1当量に対して好ましくは0.90当量以上、より好ましくは0.93当量以上であり、匂いの悪化や副反応の抑制の観点から好ましくは1.00当量以下、より好ましくは0.98当量以下である。
【0027】
4級化反応は、高い4級化率を達成する観点からは、無溶媒で行うのが好ましい。また粘度を低下させ生産時の操作性を向上させる観点からは、有機溶媒を使用することができる。有機溶媒は、柔軟剤製品への匂いの影響、工業的入手性及びコスト等の観点から、好ましくは炭素数2以上3以下のアルコール及び下記一般式(1)から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である。
−O−(AO)−R (1)
式中、R及びRは同一又は異なって、水素、炭素数1以上30以下のアルキル基、炭素数1以上30以下のアルケニル基又は炭素数1以上30以下のアシル基を示し、Aは炭素数2以上4以下のアルキレン基、nは平均値で1以上40以下の数を示す。Aは全て同じであるか又は一部異なっていてもよい。
同様の観点から、有機溶媒は、より好ましくは炭素数2以上3以下の一価アルコール又は炭素数2以上3以下の多価アルコール、さらに好ましくはエタノール又はイソプロピルアルコールである。
【0028】
有機溶媒の使用量は、アルカノールアミンエステル及びジアルキル硫酸の合計100質量部に対して、粘度を低減し取扱性を向上させる観点から好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、4級化率を向上させる観点から好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0029】
4級化反応において、アルカノールアミンエステルにジアルキル硫酸を供給しながら反応させることが好ましい。
ジアルキル硫酸の供給温度は、反応速度向上の観点から好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上であり、匂い悪化の抑制及び副反応の抑制の観点から好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは70℃以下である。またジアルキル硫酸の供給時間は、副反応を抑制する観点から好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.25時間以上、さらに好ましくは0.5時間以上、よりさらに好ましくは1時間以上であり、生産性及び経済性の観点から好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下、よりさらに好ましくは3時間以下である。
【0030】
4級化反応は常圧下で行っても、加圧下又は減圧下で行ってもよい。反応圧力は、絶対圧力で、設備負荷の観点から好ましくは0.09MPa以上、より好ましくは0.10MPa以上であり、好ましくは0.5MPa以下、より好ましくは0.2MPa以下、さらに好ましくは0.11MPa以下である。
【0031】
工程3でアルカノールアミンエステルをジアルキル硫酸により4級化した後、熟成を行うことが好ましい。熟成温度は、反応速度の向上の観点から好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、匂い悪化の抑制及び副反応の抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは70℃以下である。熟成時間は、未反応原料を低減させ反応率を向上させる観点から好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、生産性の観点から好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下、よりさらに好ましくは3時間以下である。
【0032】
熟成は常圧下で行っても、加圧下又は減圧下で行ってもよい。熟成時の圧力の好ましい範囲は4級化反応時の圧力の好ましい範囲と同様である。
【0033】
本発明の工程4は、工程3で得たカチオン性界面活性剤に対して再度の酸化処理を行う工程である。このように工程3の4級化の前の工程2と後の工程4において酸化処理を行うことによって、匂い及び着色の抑制された、高品質なカチオン性界面活性剤を得ることができる。
【0034】
工程4の酸化処理は、空気や酸素による酸化、又は一般的な酸化剤の添加などによって行うことができる。匂い悪化の抑制の観点から、酸化処理は酸化剤をカチオン性界面活性剤に混合して行うことが好ましく、酸化剤としては亜塩素酸、次亜塩素酸、及びそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上を、より好ましくは亜塩素酸、次亜塩素酸及びそれらのナトリウム塩を、さらに好ましくは亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。工程4で用いる酸化剤は、経済性の観点から、好ましくは工程2で用いる酸化剤と同じである。
【0035】
酸化剤により酸化処理を行う場合は、色相悪化防止や引火性の安全面の観点から不活性雰囲気とすることが好ましく、経済性の観点から不活性ガスとしては窒素ガスを用いるのが好ましい。
【0036】
工程4の酸化剤の使用量は、匂い抑制効果を高める観点から、アルカノールアミンエステル100質量部に対して好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上、よりさらに好ましくは0.05質量部以上、よりさらに好ましくは0.1質量部以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、よりさらに好ましくは0.25質量部以下である。
【0037】
工程2及び工程4で酸化剤を使用する場合、工程2の酸化剤の使用量と工程4の酸化剤の使用量の合計は、匂い抑制効果を高める観点から、アルカノールアミンエステル100質量部に対して好ましくは0.002質量部以上、より好ましくは0.006質量部以上、さらに好ましくは0.015質量部以上、よりさらに好ましくは0.02質量部以上、よりさらに好ましくは0.04質量部以上、よりさらに好ましくは0.08質量部以上、よりさらに好ましくは0.16質量部以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.3質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以下、よりさらに好ましくは0.8質量部以下、よりさらに好ましくは0.75質量部以下、よりさらに好ましくは0.6質量部以下、よりさらに好ましくは0.5質量部以下、よりさらに好ましくは0.45質量部以下、よりさらに好ましくは0.41質量部以下である。色相悪化を防止する観点からよりさらに好ましくは0.24質量部以上0.26質量部以下である。匂い抑制効果を高める観点からよりさらに好ましくは0.27質量部以上0.29質量部以下である。
【0038】
酸化剤は、取扱い性の観点から、好ましくは水溶液として用いる。酸化剤の濃度は、匂い抑制効果を高める観点から、10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0039】
工程4の酸化処理の温度は、匂い抑制効果を高める観点から好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、色相悪化を防止する観点から好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。処理時間は、匂い抑制効果を高める観点から好ましくは0.05時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、生産性及び経済性の観点から好ましくは10時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0040】
工程3又は工程4の終了後に、流動性を確保するため必要に応じて溶媒添加工程を行うことができる。操作性向上の観点から、溶媒添加工程は工程3の終了後に行うのが好ましい。溶媒は柔軟剤製品に使用しても品質に影響しない溶媒であれば使用可能である。溶媒は、カチオン性界面活性剤の粘度を低減させる観点から、好ましくは有機溶媒、より好ましくは炭素数2以上3以下のアルコール及び前記一般式(1)から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である。同様の観点から炭素数2以上3以下の一価アルコール又は炭素数2以上3以下の多価アルコールがより好ましく、エタノール又はイソプロピルアルコールがさらに好ましい。また操作性の観点から、工程3で用いたのと同一の溶媒が好ましく用いられる。
【0041】
溶媒の添加量は、粘度を低減させて取扱性を向上させる観点から、溶媒添加後のカチオン性界面活性剤中において、他の工程で用いられた溶媒との合計量で好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、経済性の観点から好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以下である。
【0042】
溶媒添加工程における混合温度は、混合の容易性及び速度を高める観点から好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、色等の品質悪化を低減する観点から好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。また混合時間は、混合の均一性の観点から好ましくは0.05時間以上、より好ましくは0.1時間以上であり、生産性の観点から好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0043】
本発明の製造方法によって得られるカチオン性界面活性剤は、匂い及び着色が抑制され良好な保存安定性を有する。得られたカチオン性界面活性剤は繊維用柔軟剤に用いられる柔軟基剤として有用であり、また良好な生分解性を有する。
【0044】
柔軟基剤として繊維用柔軟剤組成物に用いる場合、カチオン性界面活性剤の含有量は、柔軟性能を適切に発揮する観点から好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上であり、使用感及び経済性の観点から好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0045】
繊維用柔軟剤組成物には、更に柔軟性能や保存安定性を向上させるために、炭素数8以上24以下のアルコールのアルキレンオキサイド付加物等の非イオン界面活性剤、炭素数8以上24以下のアルコール等の高級アルコール、炭素数8以上24以下の脂肪酸等の高級脂肪酸、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、グリコール、ポリオール、さらにはそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物等を含有することができ、また無機塩、pH調整剤、ハイドロトロープ剤、香料、消泡剤、顔料等を必要に応じて含有することができる。
【実施例】
【0046】
例中の%は、特記しない限り質量基準である。
【0047】
実施例1
工程1として、1L反応容器にトリエタノールアミン149g(1.0モル)と半硬化パーム脂肪酸449g(1.65モル、ACIDCHEM製Palmac605T)、BHT0.28g(トリエタノールアミンと脂肪酸の合計量100質量部に対して0.047質量部)、50%次亜リン酸水溶液0.57g(トリエタノールアミンと脂肪酸の合計量100質量部に対して純分0.048質量部)を仕込み、窒素置換を行った。次いで、窒素を50mL/minでバブリングしながら、170℃で常圧から13.3kPaに1時間かけて減圧して、3時間エステル化反応を行い、酸価1.6mgKOH/gのトリエタノールアミンエステル569gを得た。
【0048】
次に工程2として、工程1で得られたトリエタノールアミンエステル512g(0.9モル)とBHT0.7gとを混合し、その混合物について気相部の雰囲気ガスを空気に置換し、45から65℃において攪拌下で3時間の酸化処理を行った。
次いで工程3として、窒素置換を行った後に、45から65℃の範囲でジメチル硫酸107.8g(0.855モル)を2時間かけて滴下し、60から65℃で1.5時間熟成した後に、添加後のカチオン性界面活性剤中におけるエタノールの合計含有量が12質量%となるように、エタノール85gを加えて0.5時間混合した。
【0049】
さらに工程4としては、25%亜塩素酸Na水溶液4.2gを添加し、窒素雰囲気下、55から65℃で0.5時間混合して酸化処理して、カチオン性界面活性剤を得た。なお表1における酸化剤の使用量は、すべてトリエタノールアミンエステル100質量部に対する純分の質量部で示している。得られたカチオン性界面活性剤の製造直後の匂いと色(ガードナー色数)及び窒素雰囲気下60℃で8週間保存後の匂いについて、下記方法で評価を行った。結果は、表1に示す。
【0050】
<匂い評価サンプルと評価方法>
・原体の15%水溶液100gを450mlガラス瓶に入れて調製した。
・専門パネラー5名で次の基準で官能評価し、5人の評価の平均値を評価値とした(匂い合格は評価値3.5以下である)。
1:悪臭が全くしない
2:悪臭がほとんどない(極僅かに匂う)
3:悪臭が弱く匂う
4:悪臭がはっきり匂う
5:悪臭が強く匂う
6:悪臭が非常に強く匂う
【0051】
<色の評価>
色は、日本電色工業株式会社製OME2000を使用して、ガードナー色数を測定した。
【0052】
実施例2
工程1の窒素流量を5mL/minとし、工程2の酸化処理時間を0.02時間とし、工程3を空気雰囲気下にした以外は、実施例1と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
工程2において空気置換をせず窒素雰囲気のまま25%亜塩素酸Na水溶液1.4gを添加して45℃から65℃で0.5時間混合の酸化処理を行い、工程4において25%亜塩素酸Na水溶液の添加量を2.8gにした以外は、実施例1と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
工程2の25%亜塩素酸Na水溶液の添加量を0.8gとし、工程4の25%亜塩素酸Na水溶液の添加量を4.2gにした以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0055】
実施例5
工程2の25%亜塩素酸Na水溶液の添加量を2.8gにした以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0056】
実施例6
工程1の50%次亜リン酸水溶液の使用量を0.28g(トリエタノールアミンと脂肪酸の合計量100質量部に対して純分0.023質量部)にした以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
実施例7
工程1の50%次亜リン酸水溶液の使用量を1.14g(トリエタノールアミンと脂肪酸の合計量100質量部に対して純分0.095質量部)にした以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0058】
実施例8
工程2において、25%亜塩素酸Na水溶液の代わりに12.5%次亜塩素酸Na水溶液2.8gを添加し、45℃から65℃で0.5時間混合して酸化処理を行い、工程4において25%亜塩素酸Na水溶液の代わりに12.5%次亜塩素酸Na水溶液8.4gを添加した以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0059】
比較例1
工程2の酸化処理および工程4の酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0060】
比較例2
工程4の酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0061】
比較例3
工程4の酸化処理を行わなかった以外は、実施例3と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例3と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0062】
比較例4
工程2の酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に操作を行ってカチオン性界面活性剤を得た。得られたカチオン性界面活性剤について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0063】
【表1】