(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482832
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】ブタノール製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/16 20060101AFI20190304BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20190304BHJP
C12R 1/145 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
C12P7/16
C12N1/20 A
C12R1:145
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-235432(P2014-235432)
(22)【出願日】2014年11月20日
(65)【公開番号】特開2016-96764(P2016-96764A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】向山 正治
(72)【発明者】
【氏名】市毛 栄太
【審査官】
吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−216591(JP,A)
【文献】
特開2014−207885(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/090061(WO,A1)
【文献】
特開2005−318858(JP,A)
【文献】
特開2005−318859(JP,A)
【文献】
特開平06−197774(JP,A)
【文献】
特開2011−036194(JP,A)
【文献】
特開2009−261287(JP,A)
【文献】
Appl. Microbiol. Biotechnol.,1989年,32,p.22-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塊状のクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)を基質存在下で培養し、且つ同時に、該培養物を、デカノール、ウンデカノール及びドデカノールから成る群より選択される炭素数10〜12のアルコールを用いた溶媒抽出に供する工程を含む、ブタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ブタノール発酵によるブタノール製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタノール発酵では、アセトン、n-ブタノール及びエタノールがそれぞれ3:6:1の割合で生成する。このうち、n-ブタノールは再生可能資源からのドロップイン自動車用燃料として期待されており、また、各種有機酸のエステル用アルコールとして産業上有用である。
【0003】
しかしながら、ブタノール発酵における生成物のうち、n-ブタノールの毒性が最も高く、通常1%程度の蓄積でブタノール発酵菌は生育を停止してしまう。ブタノールの毒性が高いため培地中のブタノール蓄積濃度が低く、従来においては、n-ブタノールを培地から蒸留で分離回収するのに多大なエネルギーを要していた。この問題を解決するために各種の方法が開発されており、例えば、溶媒抽出法、パーベーパレーション法、ガスストリッピング法、担体吸着等が挙げられる。
【0004】
このうち、溶媒抽出方法としては、n-ブタノールの水との分配比が大きい長鎖の脂肪族アルコールが用いる方法が提案されている。特許文献1は、オレイルアルコールを抽出剤として用いる方法を開示する。オレイルアルコールはn-ブタノールの分配係数が比較的大きく、また発酵菌に対する毒性が低いため優れている。しかしながら、オレイルアルコール自体が界面活性剤的な性質を持っているため、抽出のために培地と混合した際にエマルションの形成が起こり、その後の液液分離ができなくなる問題がある。
【0005】
特許文献2は、発酵によるブタノール製造方法において、炭素数10〜14のアルコールを含む抽剤を発酵液と接種させながら発酵を行うことを開示する。このようなオレイルアルコールよりも短い脂肪族の長鎖アルコールは鎖の長さが短くなるほどn-ブタノールの分配係数が大きくなり、またエマルション形成しにくくなるが、その一方で発酵菌に対する毒性が高くなり、発酵菌を含んだ培養液を用いてこれら溶媒による抽出操作を行うと発酵菌が死滅する問題を生じる。
【0006】
また経済的な問題から製造コストを低く抑えるためにn-ブタノールを抽出した後の培養液を再度ブタノール発酵に使用することが望ましいが、毒性の高い長鎖アルコール溶媒で抽出した後の培養液は発酵菌の生育に適さないため、発酵菌に無害な第二の有機溶媒で長鎖アルコールを培養液から再抽出し、培養液に残存する長鎖アルコールの残存量を少なくすることによって培養液を再使用する方法が考案されている。しかしながら、二種類の溶媒で抽出する方法は工程が煩雑でコストアップの原因となる。
【0007】
さらに、n-ブタノールの抽出に適した毒性の低い有機溶媒としては、オレイルアルコールの他に脂肪酸メチルエステル等が挙げられている。しかしながら、脂肪酸メチルエステルは発酵菌に対する毒性は低いが、n-ブタノールの分配係数が小さく、n-ブタノールを抽出するには大量の脂肪酸メチルエステルが必要となるため効率的ではない。
【0008】
一方、特許文献3は、親水性固定化担体に付着固定化させた微生物を用いた有機化合物の変換方法を開示する。しかしながら、特許文献3において、当該固定化微生物を用いて、ブタノール生産が行われたことは開示されていない。
【0009】
依然として、ブタノール発酵において、ブタノールを効率的に生産する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60-172290号公報
【特許文献2】特開昭59-216591号公報
【特許文献3】特開平5-91878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の実情に鑑み、ブタノール発酵においてブタノールの収率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ブタノール発酵の際に、塊状になる菌株や担体に固定化した菌株を使用し、且つブタノール発酵と同時に、抽出溶媒としてドデカノール等の炭素数10〜12のアルコールを使用して、生産されたブタノールを当該抽出溶媒相に抽出することで、ブタノールの収率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)塊状のブタノール発酵微生物又は担体に固定化したブタノール発酵微生物を基質存在下で培養し、且つ同時に、該培養物を、炭素数10〜12のアルコールを用いた溶媒抽出に供する工程を含む、ブタノールの製造方法。
(2)ブタノール発酵微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、(1)記載の方法。
(3)クロストリジウム属に属する微生物が、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)及びクロストリジウム・ベージェリンキー(Clostridium beijerinckii)から成る群より選択される、(2)記載の方法。
(4)炭素数10〜12のアルコールが、デカノール、ウンデカノール及びドデカノールから成る群より選択される、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブタノール発酵におけるブタノール収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における(A)バッチ培養(ビン)及び(B)連続抽出発酵の様式を示す模式図である。
【
図2】実施例1における塊状ブタノール発酵菌株でのドデカノール重層培養によるブタノール生産を示すグラフである。
【
図3】比較例1における遊離菌体でのドデカノール重層培養によるブタノール生産を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るブタノールの製造方法(以下、「本方法」と称する)は、塊状のブタノール発酵微生物又は担体に固定化したブタノール発酵微生物を基質存在下で培養し、且つ同時に、該培養物を、炭素数10〜12のアルコールを用いた溶媒抽出に供する工程を含む方法である。
【0017】
本方法は、ブタノール発酵の際に、ブタノールの分配係数が大きいがブタノール発酵微生物に対する毒性が高いアルコール系溶媒を用いて、培養と同時にブタノール抽出を行う方法である。
【0018】
通常のブタノール発酵微生物は、毒性の高いアルコール系溶媒を培地と二相分離する量を添加して培養した場合、生育が停止し、ブタノール発酵も停止してしまう。しかしながら、塊状になるブタノール発酵微生物は二相分離する量の毒性の高いアルコール系溶媒を添加しておいても、添加していない場合と遜色ない生育、ブタノール発酵性を示すことを見出した。また、塊状になるブタノール発酵微生物と同様に、担体に固定化したブタノール発酵微生物も、毒性の高いアルコール系溶媒を添加しておいても、添加していない場合と遜色ない生育、ブタノール発酵性を示すことを見出した。
【0019】
本方法において、ブタノール発酵微生物としては、ブタノール発酵能を有する微生物であれば特に限定されないが、例えばクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム、クロストリジウム・アセトブチリカム及びクロストリジウム・ベージェリンキー等のクロストリジウム属に属する微生物が挙げられる。また、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムの菌株としては、例えばATCC27021株が挙げられる。さらに、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムの菌株としては、例えば遺伝子変異株が挙げられ、具体的には、特開2014-207885号公報に記載のブチリルCoAから酪酸が生成する経路に関与する酪酸生成酵素遺伝子(例えば、ptb遺伝子、buk遺伝子)を欠損又は破壊させたクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムの菌株;あるいは当該酪酸生成酵素遺伝子に加えてアセチルCoAから酢酸が生成する経路に関与する酢酸生成酵素遺伝子(例えばpta遺伝子、ack遺伝子)、アセトアセチルCoAからアセトンが生成する経路に関与するアセトン生成酵素遺伝子(例えばadc遺伝子、ctfAB遺伝子)及び/又はピルビン酸から乳酸が生成する経路に関与する乳酸生成酵素遺伝子(例えばldh1遺伝子)を欠損又は破壊させたクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムの菌株等の高ブタノール収率株が挙げられる。
【0020】
塊状の(又は凝集体の)ブタノール発酵微生物としては、例えばブタノール発酵微生物を連続培養等で長期間培養し、培養容器への付着等によって塊状になったものが挙げられる。例えばクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム等のクロストリジウム属に属する微生物を、TYA培地をフィード速度1/dayで3ヶ月培養することで培養容器の壁に付着するようになったものを塊状のブタノール発酵微生物として得ることができる。この付着した菌体を容器から剥がして培養容器に改めて接種し、塊状の菌体を安定に植え継ぎ培養することができる。
【0021】
担体に固定化することで塊状にしたブタノール発酵微生物としては、例えばカラギーナンやアルギン酸カルシウム等のゲルを担体として包括固定化したブタノール発酵微生物が挙げられる。例えば、カラギーナン水溶液にブタノール発酵微生物を加えて混合し、KCl溶液中に滴下することで、ビーズ状の包括固定化ブタノール発酵微生物を得ることができる。その他の担体への固定化の方法としては、例えばポリビニルアルコールでの包括固定化、ポリエチレンイミン等による凝集固定化、多孔質のウレタンや無機の担体への固定化等が挙げられる。
【0022】
一方、本方法において、抽出溶媒として用いるアルコールは炭素数10〜12のアルコールであり、例えばデカノール、ウンデカノール及びドデカノールが挙げられる。
【0023】
有機溶媒の毒性には二つの作用があると考えられる。一つは培地等水性媒体に溶解している溶媒であり、もう一つは培地等水性媒体と分離している溶媒である。
【0024】
ブタノールより長鎖のアルコールとしては、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、ウンデカノール、トリデカノール等があるが、これらのアルコールの炭素鎖の長さが長くなるほどブタノール発酵微生物に対する毒性が強くなる。一方、炭素鎖が長くなればなるほど培地等水性媒体への溶解度が小さくなり、培地に溶媒を重層した場合の培地中のアルコール系溶媒の濃度が低くなる。実質的にデカノール以上の長鎖のアルコールは水への溶解度が100ppm以下となり培地に飽和濃度のアルコール系溶媒を添加してもブタノール発酵に対する影響は小さい。
【0025】
一方、二相に分離したアルコール系溶媒は培地等の水性媒体との境界面を有するが、ブタノール発酵微生物の細胞表面は疎水性部分を含んでいると考えられ、この境界面に付着する性質を有する。通常のブタノール発酵微生物はこの界面に取り込まれることで菌の細胞膜や細胞膜に存在するタンパク質が変性を受けることによって死滅する。
【0026】
しかしながら、本方法において、塊状のブタノール発酵微生物はアルコール系溶媒と培地等の水性媒体の境界面に付着した場合でも、有機溶媒と付着するのは表面の一部の菌に限られる。塊内部の菌はアルコール系溶媒に直接接触しないため細胞膜や細胞膜に存在するタンパク質が変性することがないため死滅せずにブタノール発酵を行うことができる。
【0027】
本方法において、上述の塊状のブタノール発酵微生物又は担体に固定化したブタノール発酵微生物を、基質(例えばグルコース、キシロース、シュークロース、アラビノース等)を含む培地において培養する一方、同時に、当該培養物を炭素数10〜12のアルコール(以下、「アルコール系溶媒」と称する)を用いた溶媒抽出に供し、生産されたブタノールを当該アルコール系溶媒中に抽出する。例えば上述の塊状のブタノール発酵微生物又は担体に固定化したブタノール発酵微生物を、基質1〜100g/Lを含む培地に添加し、培養を行う。培養に適した温度は、20〜40℃、好ましくは25〜35℃である。具体的には、培養は、例えばクロストリジウム属に属する微生物を使用する場合には、嫌気条件下で20〜40℃において1〜300日間行う。
【0028】
図1は、本発明における(A)バッチ培養(ビン)及び(B)連続抽出発酵の様式を示す模式図である。
【0029】
図1(A)に示すように、培養物(培地)上にアルコール系溶媒を重層することで、培養物からアルコール系溶媒へとブタノールを抽出することができる。あるいは、培地に重層したアルコール系溶媒を連続的に取り出して新しい当該アルコール系溶媒を追加してもよく、また連続的に抜き出したアルコール系溶媒からブタノールを蒸留等の方法で取り出した後、当該アルコール系溶媒を培地に循環してもよい。
【0030】
さらに、
図1(B)に示すように、培地を外部循環し、アルコール系溶媒との間で液液抽出した後、二相分離して培地とアルコール系溶媒に分け、培地は培養に戻すとともに、アルコール系溶媒は蒸留等の方法によってブタノールを除去回収した後、液液抽出に再使用する方法を採用することができる。また培地に再使用する際に糖や培地成分を追加してもよい。糖や培地成分を追加することによって長期間の連続培養を行うこともできる。
【0031】
本方法においては、アルコール系溶媒から蒸留等の方法によりブタノールを精製し、ブタノールを回収することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕塊状ブタノール発酵菌株とドデカノール重層によるブタノール発酵
1. 塊状菌体の取得
特開2014-207885号公報の実施例1に記載のClostridium saccharoperbutylacetonicum ATCC27021株を親株として作製したpta遺伝子及びptb遺伝子を破壊した高ブタノール収率株(ΔptaΔptb株)を、TYA培地を含有するABLE製100mlマイクロジャーファーメンターを用いて3ヶ月間連続培養した。培地のフィード速度を100ml/dayとした。TYA培地の組成は、以下の通りである:トリプトン6g、酵母エキス2g、グルコース40g、酢酸アンモニウム3g、硫酸マグネシウム7水塩0.3g、リン酸1カリウム0.5g、硫酸鉄7水塩10mg、蒸留水1L。
【0034】
約3ヶ月の当該連続培養により、培養容器の壁や攪拌軸に菌の付着物が発生した。この付着物を剥がして、TYA培地で培養し、塊状態を保った菌体を得た。
【0035】
2. ドデカノール重層によるブタノール発酵
上記第1節で得られた塊状の菌体を用いて、ドデカノールを重層したブタノール発酵を実施した。
【0036】
具体的には、TYA培地50mlを入れた100ml培地ビンにドデカノールを50ml加え、ここに塊状の菌体を1ml添加してスターラーで攪拌しながら嫌気条件下、30℃で培養した。なお、TYA培地のグルコース濃度は83.6g/Lとした。
【0037】
培養2日目から毎日サンプリングし、培地、ドデカノール中のブタノール含有量を分析した。
結果を表1及び
図2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1及び
図2に示すように、塊状の菌体でのブタノール発酵ではブタノール発酵が正常に進み、有機相(ドデカノール相)にブタノールが抽出され、培地(水相)中のブタノールの濃度が低く維持された。培地とドデカノールに含まれるブタノールの合計は培地1L当たり27.5gとなった。
【0040】
〔比較例1〕遊離菌体でのドデカノール重層培養
遊離状で生育する、実施例1に記載の高ブタノール収率株(ΔptaΔptb株)を用いた以外は、実施例1と同様にしてTYA培地にドデカノールを重層して培養した。なお、TYA培地のグルコース濃度は83.2g/Lとした。
結果を表2及び
図3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2及び
図3に示すように、培養5日目まで培養を継続したが、培養液の濁度の上昇がなく、グルコースの消費もブタノールの生成も見られなかった。
【0043】
〔実施例2〕各鎖長のアルコールでの培養
TYA培地50mlに炭素数7〜14の各アルコールを50ml重層し、実施例1に記載の塊状の菌体又は比較例1に記載の遊離状の菌体を接種してスターラーで撹拌しながら30℃、嫌気条件下で培養した。なお、TYA培地のグルコース濃度は40g/Lとした。
【0044】
結果を表3に示す。表3において、培養7日後の培地と重層したアルコールに含まれているブタノールの合計量を培地1L当たりの表記で示した。
【0045】
【表3】
【0046】
表3に示すように、均一に分散して生育する遊離状菌体は炭素数12までの長鎖アルコールを添加した場合生育しなかった。トリデカノールとテトラデカノールは培養温度30℃では固化しており、生育したがブタノール生成量は長鎖のアルコールを添加しない場合と同じであった。
【0047】
一方、塊状菌体は炭素数10以上の長鎖アルコールを添加した条件で生育し、炭素数10から12の長鎖アルコールを添加した場合にブタノール生成量が27g/Lに増大した。炭素数13、14の長鎖アルコールでは長鎖アルコールが固化しており、ブタノール生成量は長鎖アルコールを加えない場合と同じであった。しかしながら、溶媒が固化しているトリデカノール、テトラデカノールで培養した条件でも、塊状菌体は、遊離状菌体よりもブタノール生成量が多かった。
【0048】
このように、遊離状菌体は液体状の長鎖アルコール存在下では生育しなかったのに対して、塊状菌体は炭素数10から12の液体状の長鎖アルコール存在下でも生育しブタノール生成することができた。
【0049】
〔実施例3〕カラギーナンでの菌体固定化ブタノール発酵
κ-カラギーナン(和光純薬社製)2%水溶液8 mlを100℃に加熱して完全に溶解させた後冷却し、42℃以下まで冷却した。このカラギーナン水溶液に、実施例1に記載の高ブタノール収率株(ΔptaΔptb株)の菌体懸濁液3mlを加えて混合し、2% KCl溶液中に滴下してビーズ状の固定化菌体を調製した。
【0050】
この固定化菌体を濾別し、90g/Lグルコースを含むTYA培地50mlにドデカノールを50ml重層したものに接種し、スターラーで撹拌しながら30℃、嫌気条件下で培養した。
【0051】
培養4日後に分析したところ、グルコースは完全に消費され、培地とドデカノールを合わせて培地1L当たり27.3gのブタノールが含まれていた。