【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正確で再現性の良い分光特性を取得するためには、固定ミラー部で反射された測定光と可動ミラー部で反射された測定光を結像レンズによって結像面上で確実に交差させる必要がある。そのため、固定ミラー部及び可動ミラー部の相対的な位置関係を調整し、両ミラー部の反射面の向きを揃えるようにしている。このような固定ミラー部及び可動ミラー部の調整は通常、装置の製造時に行われている。
【0005】
しかしながら、可動ミラー部の繰り返しの移動に伴い、あるいは振動等の外的要因により、可動ミラー部の反射面と固定ミラー部の反射面の向きにずれが生じる場合がある。このような2つの反射面の向きのずれは、本来、結像レンズによって結像面の同一位置に集光するはずの固定ミラー部による反射光及び可動ミラー部による反射光の間に集光位置のずれを生じさせる。そこで、ピエゾ素子やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)技術による静電駆動アクチュエータ等によって高精度に可動ミラー部を移動させることにより、可動ミラー部の移動時に反射面の向きが変化することを極力抑えるようにしているが、固定ミラー部及び可動ミラー部の反射面の向きのずれが視覚的に認識できない程度でも、干渉光が形成されないほど集光位置が大きくずれる場合がある。
【0006】
具体的には、
図2に示すように、固定反射面と可動反射面の角度のずれ量をφ[deg.]、結像レンズの焦点距離をf[mm]、結像面上の集光位置のずれ量をd[mm]とするとd、φ、fの関係は次の式(1)で表される。
d=2×f×tanφ (1)
式(1)から分かるように、角度のずれ量φが小さくても、結像レンズの焦点距離fの大きさによっては、集光位置のずれ量dが大きくなる。
このように固定ミラー部の反射光と可動ミラー部の反射光の集光位置が大きくずれると、両反射光が結像面上で干渉せず、インターフェログラムを取得することができない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、固定反射面と可動反射面の傾きの僅かなずれを認識して、正確で再現性の良い分光特性を取得することができる分光特性測定装置及び分光特性測定装置の調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光特性測定装置は、
a) 並んで配置された固定反射面及び可動反射面と、
b) 被測定物の測定点から発せられた測定光を前記固定反射面と前記可動反射面に導く導入光学系と、
c) 前記固定反射面に導入され該固定反射面によって反射された測定光と、前記可動反射面に導入され該可動反射面によって反射された測定光をそれぞれ結像面上に集光させる結像光学系と、
d) 前記結像面上に2次元配置された複数の検出画素を有する、前記結像面上に集光した光の強度を検出するための光検出部と、
e) 前記可動反射面を移動させることにより前記光検出部で検出される光強度変化に基づき、前記測定光のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備えた分光特性測定装置において、
前記光検出部の検出結果に基づき前記固定反射面に対して前記可動反射面が相対的に傾いているか否かを判別する判別手段と
を備えることを特徴とする。
【0009】
上記分光特性測定装置においては、
さらに、前記可動反射面に平行な第1軸周りの該可動反射面の傾き量を調整するための第1治具と、前記第1軸に垂直で且つ前記固定反射面に平行な第2軸周りの該固定反射面の傾き量を調整するための第2治具を備えることが好ましい。
このような構成によれば、判別手段により固定反射面に対して可動反射面が相対的に傾いていると判別されたときに、前記第1治具又は前記第2治具、あるいは第1及び第2治具の両方を用いて可動反射面及び/又は固定反射面の傾きを簡単に調整することができる。
【0010】
また、本発明に係る分光特性測定装置の調整方法は、
a) 並んで配置された固定反射面及び可動反射面と、
b) 被測定物の測定点から発せられた測定光を前記固定反射面と前記可動反射面に導く導入光学系と、
c) 前記固定反射面に導入され該固定反射面によって反射された測定光と、前記可動反射面に導入され該可動反射面によって反射された測定光をそれぞれ結像面上に集光させる結像光学系と、
d) 前記結像面上に2次元配置された複数の検出画素を有する、前記結像面上に集光した光の強度を検出するための光検出部と、
e) 前記可動反射面を移動させることにより前記光検出部で検出される光強度変化に基づき、前記測定光のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備えた分光特性測定装置において、
前記光検出部の検出結果に基づき前記固定反射面に対する前記可動反射面の相対的な傾きを調整することを特徴とする。
【0011】
物体面上の理想的な輝点から発せられた光線群は、
導入光学系や結像光学系を構成するレンズの円形開口によるフラウンホーファー回折を生じ、エアリーパターンと呼ばれる同心円状の明暗パターンである干渉縞を結像面上に形成する。エアリーパターン(明暗パターン)は、その中心が「エアリーディスク」とよばれる明るい領域であり、その周りを複数の同心円環がとりまく。一般的に、エアリーディスクは、レンズの円形開口による多光線干渉現象として理解される。
【0012】
従って、固定反射面によって反射された測定光と可動反射面によって反射された測定光についても、フラウンホーファー回折によって結像面上にエアリーパターンを形成する。固定反射面と可動反射面の傾きが同じであるとき、固定反射面によって反射された測定光と可動反射面によって反射された測定光は結像面上の同一点に集光するため、各測定光に対応するエアリーパターンが1つに重なった状態で観察される(
図3参照)。
【0013】
一方、固定反射面と可動反射面の間に相対的な角度ずれφが生じた場合、結像面上において固定反射面と可動反射面のそれぞれで反射された測定光は幾何光学的に結像面上で1点に交わることができない。このため、
図4に示すように、結像面上には、固定反射面及び可動反射面からの測定光によるエアリーパターンがずれた状態で観察される。
従って、結像面上に観察されるエアリーパターンの状態から固定反射面に対して可動反射面が相対的に傾いていると判別することができる。
【0014】
ところで、レイリーの判断基準による2つの像の分解の限界は、ある焦点像のエアリーディスクの中心と、隣り合う輝点の焦点像のエアリーディスクの第1暗環(エアリーディスクを取り巻く暗い同心環)が重なる条件(エアリーディスク半径r=0.61λ/N.A.。ここで、λ:波長、N.A.:数値開口数 Numerical Aperture=n×sinθ)として定義されている。固定反射面により反射された測定光と可動反射面により反射された測定光がこの条件を満たすときは、これら2つの測定光の位相がπ[rad.]異なることから、互いの干渉縞を打ち消しあってしまい、高い鮮明度の干渉像(インターフェログラム)を得ることができない。言い換えると、固定反射面により反射された測定光と可動反射面により反射された測定光が上記条件を満たさなければ、鮮明度は落ちるものの両測定光の干渉像を得ることができる。
【0015】
本発明に係る分光特性測定装置では、物体光束を2分割していることから、可動反射面、固定反射面それぞれで反射した物体光束の実効的なN.A.は、レンズのN.A.の半分になる。つまり、物体光束の実効的なN.A.は、レンズのN.A.の1/2倍となり、許容値は1.22×λ/N.A.により求めることができる。つまり、固定反射面により反射された測定光と可動反射面により反射された測定光の結像面上の集光位置の間隔がレイリーの判断基準による2つの像の分解の限界である1.22×λ/N.A.よりも狭いことが必要となる。従って、1.22×λ/N.A.、あるいはこれよりも小さい値(例えばλ/N.A.)を、結像面上に測定光の干渉光を形成するための許容値とし、2つのエアリーディスクの中心間の距離が該許容値よりも大きいか否かによって、固定反射面と可動反射面が相対的に傾いているか否かを判別する指標にしても良い。