(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が、炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するカルシウムサリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の異種金属部材間の腐食電流を抑制する表面保護剤組成物。
(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が、炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩であって、金属比が1〜7.5である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の異種金属部材間の腐食電流を抑制する表面保護剤組成物。
(f)増粘剤が、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン及びその水素化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項15に記載の異種金属部材間の腐食電流を抑制する表面保護剤組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような事情に鑑みなされたものであって、本発明が解決する課題は、近接する異種金属部材における金属間の腐食電流による部材の腐食を抑制する表面保護剤組成物を提供するとともに、これを用いた電気接続構造及び電気接続構造の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、銅又は銅合金を含む第1金属部材(一部または全部に錫めっき層が形成されていてもよい)と、前記第1金属部材と電気的に接続される第2金属部材と、前記第1金属部材の表面に形成された表面保護層とを備え、前記表面保護層が特定の構造を有する表面保護剤組成物を塗布することによって形成されることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次の通りである。
〔1〕(a)潤滑油基油に、
(b)下記一般式(1)で表されるリン化合物及び一般式(2)で表されるリン化合物からなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種を、組成物全量基準で、リン元素換算量として、0.005〜2.0質量%、
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(1)において、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは酸素原子であり、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す)
【0010】
【化2】
【0011】
(一般式(2)において、X
4、X
5、X
6及びX
7は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも3つは酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す)
(c)アミド化合物を、組成物全量基準で、0.1〜40質量%、
(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩を、組成物全量基準で、金属元素換算量として、0.005〜3.0質量%、
を配合してなる表面保護剤組成物。
【0012】
〔2〕(a)潤滑油基油は、100℃の動粘度が2〜50mm
2/sである上記〔1〕に記載の表面保護剤組成物。
【0013】
〔3〕(b)一般式(2)で表されるリン化合物の少なくとも1種の化合物の一般式(2)におけるX
4、X
5、X
6及びX
7の全てが酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16の少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基である上記〔1〕又は〔2〕に記載の表面保護剤組成物。
〔4〕(b)一般式(2)で表されるリン化合物の少なくとも1種の化合物の一般式(2)におけるX
4、X
5、X
6及びX
7の全てが酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16の少なくとも1つが炭素数8〜30の分岐状の炭化水素基である上記〔1〕又は〔2〕に記載の表面保護剤組成物。
【0014】
〔5〕(c)アミド化合物が、下記一般式(3)〜(5)で表される少なくとも1種である上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
R
21−CO−NH−R
22 (3)
R
23−CO−NH−Y
31−NH−CO−R
24 (4)
R
25−NH−CO−Y
32−CO−NH−R
26 (5)
(一般式(3)〜(5)において、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25及びR
26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R
22は水素であってもよい、Y
31及びY
32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、又は炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す)
〔6〕(c)アミド化合物が、一般式(3)〜(5)で表される少なくとも1種のアミド化合物であり、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25及びR
26は、それぞれ個別に炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基、又はR
22は水素であるアミド化合物及び/又はR
21とR
22、R
23とR
24、及びR
25とR
26の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物である上記〔5〕に記載の表面保護剤組成物。
〔7〕(c)アミド化合物が、融点20℃〜200℃の脂肪酸アミドである上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
【0015】
〔8〕(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が、炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するカルシウムサリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩である上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
〔9〕(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩が、炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩であって、金属比が1〜7.5である上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
【0016】
〔10〕さらに、(e)酸化防止剤を、組成物全量基準で、0.01〜5質量%配合してなる上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
〔11〕(e)酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記〔10〕に記載の表面保護剤組成物。
〔12〕(e)酸化防止剤が、アルキルフェノール類、ビスフェノール類からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記〔10〕に記載の表面保護剤組成物。
【0017】
〔13〕さらに、(f)増粘剤を、組成物全量基準で、0.1〜20質量%配合してなる上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
〔14〕(f)増粘剤が、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン及びその水素化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記〔13〕に記載の表面保護剤組成物。
【0018】
〔15〕さらに、(g)グリースを、組成物全量基準で、0.1〜10%配合してなる上記〔1〕〜〔14〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
〔16〕(g)グリースが、リチウム系グリースである上記〔15〕に記載の表面保護剤組成物。
〔17〕さらに、(h)染料を配合してなる上記〔1〕〜〔16〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
〔18〕融点が120℃〜150℃である上記〔1〕〜〔17〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物。
【0019】
〔19〕銅又は銅合金を含む第1金属部材と、前記第1金属部材と電気的に接続される第2金属部材とを備えた電気接続構造において、少なくとも前記第1金属部材の表面に上記〔1〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物からなる表面保護層を形成させた電気接続構造。
〔20〕前記銅又は銅合金を含む第1金属部材が、少なくとも一部に錫めっき層が形成されたものである上記〔19〕に記載の電気接続構造。
〔21〕前記第2金属部材が、アルミニウムまたはアルミニウム合金である上記〔19〕又は〔20〕に記載の電気接続構造。
〔22〕前記第2金属部材が、アルミニウム電線またはアルミニウム合金電線である上記〔19〕又は〔20〕に記載の電気接続構造。
〔23〕前記第2金属部材が、銅または銅合金である上記〔19〕又は〔20〕に記載の電気接続構造。
〔24〕前記第2金属部材が、銅電線または銅合金電線である上記〔19〕又は〔20〕に記載の電気接続構造。
【0020】
〔25〕銅又は銅合金を含む第1金属部材と、前記第1金属部材と電気的に接続される第2金属部材とを備えた電気接続構造において、少なくとも前記第1金属部材の表面に上記〔1〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物からなる表面保護層を形成させる電気接続構造の腐食抑制方法。
〔26〕上記〔19〕〜〔24〕のいずれか1つに記載の電気接続構造の表面保護層が、融点以上に加熱した状態の上記〔1〕〜〔18〕のいずれか1つに記載の表面保護剤組成物に浸漬塗布して得られる電気接続構造。
〔27〕上記〔19〕〜〔24〕及び〔26〕のいずれか1つに記載の電気接続構造を用いる自動車用ワイヤーハーネス。
〔28〕上記〔27〕に記載の自動車用ワイヤーハーネスを用いる自動車の軽量化方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面保護剤組成物により、金属部材の電気接続構造において金属部材の腐食を抑制することができる。
また、本発明の表面保護剤組成物は、厳しい腐食環境下においても金属部材の腐食耐久性を向上させることができるため、自動車用ワイヤーハーネスのような輸送用機器の配線の耐久性を向上させることができる。
さらに、本発明の表面保護剤組成物を塗布した電気接続構造は、腐食環境における腐食抑制が困難であったアルミニウム(合金)の耐腐食性を抑制することができる。
さらにまた、本発明の表面保護剤組成物を塗布した電気接続構造は、車両の軽量化に有効であるアルミニウム(合金)を、ワイヤーハーネスの芯線の材料とすることを可能とするため、自動車の軽量化に寄与し、自動車の省燃費化、炭酸ガス排出量削減に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の内容をさらに詳細に説明する。
本発明の表面保護剤組成物には、(a)潤滑油基油(以下、「(a)成分」ともいう)を配合する。
上記(a)成分としては、通常の潤滑油の基油として用いられる任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
鉱油としては、具体的には例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0024】
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適当な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらは潤滑油基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0025】
また合成油としては、特に制限はないが、ポリ−α−オレフィン(1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、並びにポリフェニルエーテル等が使用できる。
【0026】
なお、これら潤滑油基油の動粘度は、特に限定されず任意であるが、通常、100℃における動粘度は好ましくは1〜70mm
2/sである。揮発性および製造時の扱いやすさに優れることから、100℃における動粘度が2〜50mm
2/sであることがより好ましい。
【0027】
本発明の表面保護剤組成物には、(b)下記一般式(1)で表されるリン化合物及び一般式(2)で表されるリン化合物からなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種(以下、「(b)成分」ともいう)を配合する。
【0029】
一般式(1)において、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは酸素原子であり、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0031】
一般式(2)において、X
4、X
5、X
6及びX
7は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、かつこれらのうちの少なくとも3つは酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
上記R
11〜R
16で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0032】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0033】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0034】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0035】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0036】
上記R
11〜R
16で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、炭素数3〜18のアルキル基又は炭素数3〜18のアリール基であることがより好ましい。
【0037】
一般式(1)のX
1〜X
3は、その内の2個以上が酸素原子であることが好ましく、3個全てが酸素原子であることがより好ましい。
一般式(2)のX
4〜X
7は、その内2個以上が酸素原子であることが好ましく、3個以上が酸素原子であることがより好ましく、全てが酸素原子であることが特に好ましい。
【0038】
一般式(2)のX
4、X
5、X
6及びX
7の全てが酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16の少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましく、一般式(2)のX
4、X
5、X
6及びX
7の全てが酸素原子であり、R
14、R
15及びR
16の少なくとも1つが炭素数8〜30の分岐状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0039】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、例えば、以下のリン化合物を挙げることができる。
亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル;及びこれらの混合物。
【0040】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、以下のリン化合物を挙げることができる。
リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、トリチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、トリチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、トリチオリン酸トリエステル;及びこれらの混合物。
【0041】
これらの(b)成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
本発明の表面保護剤組成物において、(b)成分の配合量は、組成物全量基準でリン元素換算量として0.005質量%以上であり、一方、その含有量は、2.0質量%以下である。(b)成分の含有量が、リン元素換算量として0.005質量%未満の場合は、金属表面の保護に対して効果が乏しく、2.0質量%を超える場合は、配合量に見合うだけの金属表面の保護効果が得られないため、それぞれ好ましくない。
【0042】
本発明の表面保護剤組成物には、(c)アミド化合物(以下、「(c)成分」ともいう)を配合する。
上記(c)成分としては、アミド基(−NH−CO−)を1つ以上有するアミド化合物であり、次の式(3)で表されるアミド基が1個のモノアミド化合物、式(4)及び式(5)で表されるビスアミド化合物を好ましく用いることができる。
【0043】
R
21−CO−NH−R
22 (3)
R
23−CO−NH−Y
31−NH−CO−R
24 (4)
R
25−NH−CO−Y
32−CO−NH−R
26 (5)
【0044】
一般式(3)〜(5)において、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25及びR
26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R
22は水素であってもよい、Y
31及びY
32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、又は炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。
【0045】
モノアミド化合物は、上記式(3)で表されるが、R
21及びR
22を構成する炭化水素基の水素の一部は水酸基(−OH)で置換されていてもよい。このようなモノアミド化合物として、具体的には、ラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、及びステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和又は不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミド類等が挙げられる。
これらのアミド化合物の中でも、式(3)のR
21、R
22が、それぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基、又はR
22は水素であるアミド化合物及び/又はR
21、R
22の少なくとも一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物であることが好ましく、具体的にはステアリルステアリン酸アミドが好ましい。
【0046】
ビスアミド化合物としては、ジアミンの酸アミド又はジ酸の酸アミドの形をした上記式(4)及び(5)でそれぞれ表される化合物である。なお、式(4)及び式(5)でR
23、R
24、R
25及びR
26、さらに、Y
31及びY
32で表される炭化水素基において、一部の水素が水酸基(−OH)で置換されていてもよい。
【0047】
式(4)で表されるビスアミド化合物として、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。式(5)で表されるアミド化合物として、具体的には、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
これらビスアミド化合物の中でも、モノアミド化合物の場合と同様に、式(4)のR
23とR
24及び式(5)のR
25とR
26が、それぞれ独立に炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物及び/又はR
23とR
24及びR
25とR
26の少なくとも一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましく、このような化合物として、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0048】
これらの(c)成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
アミド化合物は、液状の潤滑油基油と均一に混合すると、常温でゲル状の組成物を形成する。すなわち、アミド化合物は液状の潤滑油基油を常温で半固体状化(ゲル化)する半固体状化化合物として機能する。金属の表面保護剤として機能する常温では半固体状であること、金属表面に均一な表面保護膜を形成するために、高温での塗布作業では液状で使用することを考えると、本発明の表面保護剤組成物に配合するアミド化合物の融点は、20〜200℃であることが好ましく、80〜180℃であることがより好ましく、120℃〜150℃であることが特に好ましい。また、アミド化合物の分子量は100〜1000が好ましく、150〜800であることがより好ましい。
【0049】
本発明の表面保護剤組成物において、(c)成分の配合量は、組成物全量基準で0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。一方、その配合量は、40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。(c)成分の配合量が0.1質量%未満の場合は、常温でゲル状の組成物を形成することができず、40質量%を超える場合は、表面保護剤組成物のハンドリング性が乏しくなるため、それぞれ好ましくない。
【0050】
本発明の表面保護剤組成物には、(d)炭素数10〜40のアルキル基又はアルケニル基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩(以下、「(d)成分」ともいう)を配合する。
上記(d)成分のアルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、特にカルシウムが好ましく用いられる。
【0051】
上記炭素数10〜40のアルキル基としては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0052】
上記炭素数10〜40のアルケニル基としては、例えば、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0053】
(d)成分の製造方法としては、特に制限はなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができ、例えば、フェノールを出発原料として、当量の炭素数10〜40のオレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいはサリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。
【0054】
本発明の(d)成分は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
【0055】
本発明の(d)成分には(過)塩基性塩を用いることが好ましく、(d)成分を構成する、炭酸カルシウム等の無機化合物の、有機化合物に対する金属比が1〜7.5であることが好ましく、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3.5である。ここでいう金属比とは(過)塩基性塩の金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはサリチル酸基等を意味する。
【0056】
これらの(d)成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
本発明の表面保護剤組成物において、(d)成分の配合量は、組成物全量基準で金属元素換算量として0.005質量%以上であり、一方、その含有量は、3.0質量%以下である。(d)成分の含有量が、金属元素換算量として0.005質量%未満の場合は、金属表面の保護に対して効果が乏しく、3.0質量%を超える場合は、配合量に見合うだけの金属表面の保護効果が得られないため、それぞれ好ましくない。
【0057】
本発明の表面保護剤組成物には、組成物の熱・酸化安定性を向上させるために、さらに酸化防止剤(以下、「(e)成分」ともいう)を配合することが好ましい。
上記(e)成分としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。これらのうち、ヒンダードフェノール類等といったアルキルフェノール類及びビスフェノール類がより好ましい。
具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビスフェノール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジアルキルジチオリン酸亜鉛類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が挙げられる。
これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の酸化防止剤は、任意の量を配合させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01〜5.0質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明の表面保護剤組成物には、組成物の表面保護性を向上させるために、さらに増粘剤(以下、「(f)成分」ともいう)を配合することが好ましい。
上記(f)成分としては、具体的には、ポリアルキルメタクリレート等といった各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等がある。
これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の増粘剤は、任意の量を配合させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明の表面保護剤組成物には、組成物の表面保護性を向上させるために、さらにグリース(以下、「(g)成分ともいう」を配合することが好ましい。
上記(g)成分としては、具体的には、鉱物油および又はポリ−α−オレフィンや脂肪酸エステルなどの化学合成油を基油とし、金属石けんおよび又はウレア化合物等を増ちょう剤成分とした、金属石けん系グリース、ウレアグリース等が例示できる。金属石けん系増ちょう剤としては、単一石けんとコンプレックス石けんが挙げられる。単一石けんとは、脂肪酸または油脂をアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物などでケン化した金属石けんである。コンプレックス石けんとは、単一石けんで用いられている脂肪酸に加え、さらに異なった分子構造の有機酸とを組み合わせて複合石けんとしたものである。脂肪酸はヒドロキシ基などを有する脂肪酸誘導体であってもよい。脂肪酸は、ステアリン酸などの脂肪族カルボン酸でも、テレフタル酸などの芳香族カルボン酸でもよいが、1価または2価の脂肪族カルボン酸、特には炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸が用いられ、特には、炭素数12〜20の1価脂肪族カルボン酸や炭素数6〜14の2価脂肪族カルボン酸が好ましく用いられる。1個のヒドロキシル基を含む1価脂肪族カルボン酸が好ましい。また、コンプレックス石けんで組み合わせる有機酸としては、酢酸、アゼライン酸やセバシン酸などの二塩基酸、安息香酸などが好適な有機酸として挙げられる。
【0060】
金属石けん系増ちょう剤の金属としては、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムのような両性金属でもよいが、アルカリ金属、特にはリチウムが好ましく用いられる。
カルボン酸金属塩は、1種類を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属石けん系増ちょう剤の含有量は、所望のちょう度が得られれば良く、例えば、グリース組成物の全量基準で、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜20%である。
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られるジウレア化合物やジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られるポリウレア化合物等を用いることができる。
【0061】
ジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネートや芳香族ジイソシアネートなどがある。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば飽和および又は不飽和の直鎖状、分岐鎖、又は脂環式の炭化水素基を有するジイソシアネートが挙げられる。一例として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が好ましい。また、モノアミンとしては、脂肪族モノアミンや芳香族モノアミンなどがある。脂肪族モノアミンとしては、例えば飽和および又は不飽和の直鎖状、分岐鎖、又は脂環式の炭化水素基を有するモノアミンが挙げられる。一例として、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が好ましい。さらに、ジアミンとしては、脂肪族ジアミンや芳香族ジアミンなどがある。脂肪族ジアミンとしては、例えば飽和および又は不飽和の直鎖状、分岐鎖、又は脂環式の炭化水素基を有するジアミンが挙げられる。具体的には、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が好ましい。
【0062】
ウレア系増ちょう剤は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。この増ちょう剤の含有量は、所望のちょう度が得られれば良く、例えば、グリース組成物の全量基準で、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜20質量%である。
これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上のグリースは、任意の量を配合させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0063】
本発明の表面保護剤組成物には、塗布状態の視認性を向上させるために、さらに染料(以下、「(h)成分」ともいう)を配合することが好ましい。
本発明の表面保護剤に配合できる(h)成分は任意であり、また任意の量を配合することができるが、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.0001質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以下であることが好ましい。また、塗布状態の視認性をさらに向上させるため、(h)成分が蛍光染料であることがより好ましい。
【0064】
また、本発明の表面保護剤組成物においては、融点が120℃〜150℃であることが好ましい。
【0065】
本発明において、第1金属部材と第2金属部材との電気接続構造において、少なくとも第1金属部材には、表面保護剤組成物を塗布することにより形成された表面保護層が形成される。
つまり、本発明によれば、表面保護剤組成物を塗布することにより形成された表面保護層が第1金属部材の表面に安定的に保持されるので、第1金属部材に含まれる銅(合金)と錫めっき層とにまたがるように水(特に塩化物などのイオンを含む水溶液)が付着した場合も、第1金属部材と第2金属部材とにまたがるように水(特に塩化物などのイオンを含む水溶液)が付着した場合であっても、腐食電流が流れるのを抑制することができる。その結果、本発明によれば、金属部材の電気接続構造において、金属部材の腐食を抑制することができる。
【0066】
前記第2金属部材は前記第1金属部材よりもイオン化傾向の大きい金属材料からなる構成としてもよい。このような構成とすると、たとえば第2金属部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部材である場合などにおいても有効に金属部材の腐食を抑制することができる。
前記第1金属部材は第1端子である一方、前記第2金属部材は前記第1端子に電気的に接続される電線の芯線であってもよい。このような構成とすると、銅製の端子とアルミニウム(合金)製の芯線を有する電線との接続構造においても金属部材の腐食を防止することができる。例えば自動車のワイヤーハーネスのように、様々な温度範囲において、水分の影響も受ける過酷な環境下で使用される場合であっても、軽量なアルミニウム(合金)を芯線に採用することができ、自動車の軽量化、すなわち省燃費化に有効に活用することができる。
【0067】
前記第1金属部材は第1端子である一方、前記第2金属部材は前記第1端子と相互に嵌合する第2端子であってもよい。このような構成とすると、たとえば第1端子と第2端子との接続構造においても金属部材の腐食を防止しかつ、端子間にリーク電流が流れるのを抑制することができる。
本発明の表面保護剤組成物は、表面保護層として機能することを求められる一般的な使用温度範囲において、半固体状(ゲル状)であり、塗布工程においては液状であることが好ましい。このような構成とすると、一般的な使用温度範囲において前記表面保護層が金属部材表面からの流出を防止し腐食抑制機能を維持することができるとともに、第1金属部材が電気端子である場合の電気的な接続部において接圧や摺動により表面保護層を容易に除去できるので、電気的な接続の信頼性を高めることができる。また、組成物が半固体状から液状に変化する融点以上で塗布することにより、塗布工程の作業を容易足らしめ、かつ表面保護層を均一に形成することができる。
【0068】
<実施形態1>
本発明に係る実施形態1の電気接続構造20について、
図1〜3を参照しつつ説明する。本実施形態は、銅又は銅合金を含む端子21(第1金属部材の一例)と、銅よりもイオン化傾向の大きな金属を含む芯線22A(第2金属部材の一例)を備えた電線22との電気接続構造20である。
【0069】
(電線22)
電線22は、芯線22Aの外周を合成樹脂製の絶縁被覆22Bで包囲してなる。芯線22Aを構成する金属としては、銅よりもイオン化傾向の大きな金属を用いることが可能であって、例えば、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、亜鉛、クロム、鉄、カドミウム、コバルト、ニッケル、スズ、鉛等、又はこれらの合金を例示することができる。本実施形態においては、芯線22Aはアルミニウム又はアルミニウム合金を含む。
本実施形態に係る芯線22Aは複数の金属細線を撚り合わせてなる撚り線である。芯線22Aとしては、金属棒材からなる、いわゆる単芯線を用いてもよい。アルミニウム又はアルミニウム合金は比較的に比重が小さいので、端子付き電線20を全体として軽量化することができる。
【0070】
(端子21)
図1に示すように、端子21は、電線22の末端から露出する芯線22Aに接続されるワイヤバレル部21Bと、ワイヤバレル部21Bの後方に形成されて絶縁被覆22Bを保持するインシュレーションバレル部21Aと、ワイヤバレル部21Bの前方に形成されて雄端子のタブ(図示せず)が挿入される本体部21Cと、を備える。
また、端子21の、電線22の末端において露出する芯線22Aが接続される領域には、
図2に示すように、複数の凹部21Dが形成されている。ワイヤバレル部21Bが芯線22Aに圧着されると凹部21Dの孔縁部に形成されたエッジが芯線22Aの表面と摺接し、芯線22Aの表面に形成された酸化被膜が剥がされる。 これにより芯線22Aの金属表面が露出され、当該金属表面とワイヤバレル部21Bとが接触することにより芯線22Aとワイヤバレル部21B(端子21)とが電気的に接続されるようになっている。
端子21は、銅又は銅合金からなる金属板材を所定の形状にプレス加工してなる。端子21の表面及び裏面には、錫めっき層(図示せず)が形成されている。錫めっき層は、芯線22Aとワイヤバレル部21Bとの接触抵抗を低減させることができる機能を有する。
端子21の端面においては、錫めっき層は形成されておらず、銅又は銅合金を含む板材が露出している。
【0071】
(表面保護層24)
本実施形態では、
図1に示すように、端子21全体の表面に表面保護層24が形成されている。表面保護層24は
図1中、網掛けで示されている。つまり、本実施形態においては、端子21の端面(少なくともワイヤバレル部21Bの端面)を含む端子21の表面には、本発明の表面保護剤組成物を塗布することによって形成される、表面保護層24が形成されている。
また、
図1(b)に示すように表面保護剤組成物が端子21及びそれと接続した電線22の表面全体に形成されていても良い。この場合、端子21と電線22を接続した端子付き電線20全体に表面保護剤組成物を浸漬,スプレー,刷毛塗りなどの手段で塗布することで容易に実現可能である。
さらに、ワイヤバレル部21Bの前方及び後方においては、芯線22Aがワイヤバレル部21Bから露出した状態になっているが、芯線22Aの表面にも表面保護層24が形成されている。
本実施形態において表面保護層24は、例えば、電線22に端子21を圧着して
図3に示すような状態とした後に、少なくとも端子21と、電線22から露出した芯線22Aとを、融点以上に加温して液状にした表面保護剤組成物に、浸漬した後に引き上げることにより、形成することができる。
【0072】
本実施形態において、端子21と電線22との電気接続構造20において、錫めっき層が形成された銅(合金)を含む端子21には、表面保護剤組成物の塗布により形成された表面保護層24が形成されている。したがって、本実施形態によれば、表面保護層24が端子21の表面に安定的に保持されるので、端子21の錫めっき層の形成されていない部分と錫めっき層とにまたがるように水(特に塩化物などのイオンを含む水溶液)が付着した場合や、端子21と電線22とにまたがるように水(特に塩化物などのイオンを含む水溶液)が付着した場合であっても、腐食電流が流れるのを抑制することができ、端子21と電線22との電気接続構造20において、端子21および電線22の腐食を抑制することができる。
【0073】
<実施形態2>
次に、本発明に係る実施形態2の電気接続構造30を、
図4を参照しつつ説明する。本実施形態は、銅又は銅合金を含む銅芯線32A(第2金属部材の一例)を備えた銅電線32と、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むアルミニウム芯線33A(第2金属部材の一例)を備えたアルミニウム電線33と、がスプライス端子31に接続された構造である。銅芯線32Aの外周は合成樹脂製の絶縁被覆32Bで覆われており、アルミニウム芯線33Aの外周は合成樹脂製の絶縁被覆33Bで覆われている。なお、実施形態1と重複する説明については省略する。
本実施形態においては、銅芯線32Aと、アルミニウム芯線33Aとは、スプライス端子31により電気的に接続されている。スプライス端子31は、銅芯線32A及びアルミニウム芯線33Aの双方に巻き付くように圧着されるワイヤバレル部31Aを備える。スプライス端子31は、銅または銅合金を含む板材からなり、その表面に錫めっき層(図示せず)が形成されている(第1金属部材の一例)が、その端面においては錫めっき層が形成されていない。
【0074】
スプライス端子31に銅芯線32Aおよびアルミニウム芯線33Aを接続した状態としてから、表面保護剤組成物をゲル化点以上に加温して液体状にした状態で浸漬した後に引き上げることにより形成することができる。
本実施形態では、
図4に示すように、少なくとも、スプライス端子31の端面を含む表面、ならびに、銅芯線32Aおよびアルミニウム芯線33Aのうちスプライス端子31から露出している部分の表面には表面保護層34が形成されている。表面保護層34は
図4中、網掛けで示されている。
本実施形態においても、実施形態1と同様に、スプライス端子31と2種の電線32,33との電気接続構造30において、錫めっき層が形成された銅(合金)を含むスプライス端子31には、金属親和性化合物と、基油とを含む表面保護剤組成物の塗布により形成された表面保護層34が形成されている。したがって、本実施形態によっても、スプライス端子31および電線32,33の腐食を抑制することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
<表面保護剤組成物>
表1に示す組成により、本発明に係る表面保護剤組成物(実施例1〜8)を、また、比較のための組成物(比較例1〜5)をそれぞれ調製した。
【0076】
【表1】
【0077】
(a−1)鉱油系基油 動粘度(100℃):4.0mm
2/s
(a−2)鉱油系基油 動粘度(100℃):11.1mm
2/s
(a−3)鉱油系基油 動粘度(100℃):32.0mm
2/s
(b−1)イソステアリルアシッドホスフェイト P含有量:6.3質量%
(b−2)オレイルアシッドホスフェイト P含有量:6.5質量%
(b−3)ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト P含有量:9.4質量%
(c−1)エチレンビスステアリルアミド
(d−1)炭素数10〜20のアルキル基を有するカルシウムサリシレート系清浄剤 Ca含有量:8.0質量%、金属比:3.4
(d−2)炭素数10〜20のアルキル基を有するカルシウムサリシレート系清浄剤 Ca含有量:2.3質量%、金属比:1.1
(e−1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
(f−1)オレフィンコポリマー 重量平均分子量:120,000
【0078】
<評価>
(腐食電流評価)
150℃に加温して液状とした表面保護剤組成物に、錫めっき端子(材質:銅合金)に銅電線(銅耐電面積0.75mm
2)を圧着した銅電線圧着端子を浸漬(15秒)、その後1cm/秒の速さで引き上げて表面保護層付き銅電線圧着端子を作成する。このように処理した銅電線圧着端子とアルミ板(幅1cm,板厚0.2mm)を5%食塩水に浸漬(銅電線圧着端子は全体を浸漬,アルミ板は先端1cmを浸漬)し50℃に加熱した状態で銅電線圧着端子の銅電線とアルミ板を短絡してその間に流れる電流を1時間後に測定した。
また、表面保護剤組成物の耐熱性の評価として、上記により作成した表面保護層付き銅電線圧着端子をJASO D618の耐熱評価条件である120℃×168時間放置後に上記と同様の測定方法で腐食電流を測定した(未処理の銅電線圧着端子について上記方法にて測定した腐食電流は初期,高温放置後いずれも50μA)。
この結果を表1の下段に記載した。
【0079】
(アルミ電線圧着端子腐食評価)
150℃に加温して液状とした表面保護剤組成物に、錫めっき端子(材質:銅合金)にアルミ電線(銅耐電面積0.75mm
2)を圧着したアルミ電線圧着端子を浸漬(15秒)、その後1cm/秒の速さで引き上げて表面保護層付きアルミ電線圧着端子を作成する。このように作成したアルミ電線圧着端子をJIS2371に準拠した塩水噴霧試験(35℃ 5%塩水噴霧)を168時間行い、その後のアルミ電線の腐食状況を確認した。
また、表面保護剤組成物の耐熱性の評価として、上記により作成した表面保護層付きアルミ電線圧着端子を120℃×168時間放置後に上記と同様の方法でアルミ電線の腐食状況を表2の判断基準により確認した。
この結果を表1下段に記載した。
【0080】
【表2】
【0081】
(結果の考察)
表1に示すように、実施例1〜8では、初期及び、耐熱後(120℃168時間後)に於いても腐食電流の抑制効果が維持されていることが確認できた。また、端子腐食評価(塩水噴霧168時間後)においても端子及びアルミ電線の腐食が効果的に抑制できていることが確認できた。
対して、比較例1の潤滑油のみでは初期,耐熱後ともに、腐食電流抑制効果な確認できず、また端子腐食評価においても腐食抑制効果は確認できなかった。
また比較例2〜4では(b)(リン化合物)成分及び(d)(アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩)成分の一方または両方が含まれず、腐食抑制効果,端子の腐食抑制効果が実施例に対して劣ることが確認できた。
また、比較例5は(c)(アミド)成分が含まれず、ゲル化していない表面保護剤組成物である。評価結果としては、初期に於いては、腐食電流の抑制効果,端子の腐食抑制効果両方が確認できたが、耐熱後には効果が失われていることが確認できた。これは、ゲル化していない場合には高温放置時に表面保護剤組成物が流出してしまうことが原因と推定される。