(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記脈波信号検出手段の装着部位が誤っていると前記誤装着判定手段が判定した場合、前記脈波信号検出手段の装着部位の確認をユーザに促す報知手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載の脈波信号計測装置。
前記2つの部位の一方が上腕部または頸部であり、他方が大腿部、膝、足首、または足趾であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の脈波信号計測装置。
前記タイミング判定手段は、前記2つの部位のうち、第1の部位よりも心臓からの距離が遠い第2の部位で計測された脈波信号の特徴点の発生タイミングが、前記第1の部位で計測された脈波信号の特徴点の発生タイミングより早い場合、前記想定される前後関係に合致しないと判定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の脈波信号計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。
●(装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る脈波信号計測装置の一例としての血圧脈波検査装置の構成例を示すブロック図である。血圧脈波検査装置は、本体200と、本体200に接続されるカフやセンサなどから構成される。
【0013】
演算制御部10は、本実施形態の血圧脈波検査装置全体の動作を制御する。演算制御部10は、例えば図示しない1つ以上のプログラマブルプロセッサ(CPU、MPUなど)と、ROM、RAM(不揮発性RAMを含む)を有する。演算制御部10は、ROMや保存部80に記憶されている制御プログラムを実行することにより、後述するカフ誤装着検出処理を含む、血圧脈波検査装置の機能を実現する。保存部80は例えばハードディスクドライブや書き込み可能な光ディスクドライブ、不揮発性半導体メモリ等の不揮発性記憶装置であってよい。
【0014】
表示部70は例えばLCDなどの表示装置であり、各種の操作ガイダンス、GUI(Graphical User Interface)画面、計測した生体信号、計測結果レポートなどを表示する。表示部70は本体200に内蔵されていても、本体200に接続される外部表示装置であってもよい。
【0015】
記録部75は典型的にはサーマルプリンタであり、計測した生体信号や計測結果レポートなどを印字出力する。音声発生部85はスピーカを含み、各種の音声メッセージや報知音を出力する。入力/指示部90は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル等の入力デバイスであり、ユーザが血圧脈計測装置に指示や設定を入力するために用いられる。入力/指示部90も表示部70と同様、本体200に内蔵されていても、外付けされてもよい。
【0016】
上肢用駆血制御部201は、右上肢(右上腕)に装着するためのカフ21R内のゴム嚢21aRと、左上肢(左上腕)に装着するためのカフ21L内のゴム嚢21aLとにそれぞれ接続された1対のホース21hを接続するためのコネクタを有する。また、上肢用駆血制御部201は、1対のホース21hそれぞれの内圧を検出する圧力センサ211R,211Lを有する。
【0017】
下肢用駆血制御部202は、右下肢(右足首)に装着するためのカフ22R内のゴム嚢22aRと、左下肢(左足首)に装着するためのカフ22L内のゴム嚢22aLとにそれぞれ接続された1対のホース22hを接続するためのコネクタを有する。また、下肢用駆血制御部202は、1対のホース22hそれぞれの内圧を検出する圧力センサ221R,221Lを有する。
【0018】
なお、ここでは上肢用駆血制御部201と下肢用駆血制御部202にカフが2つずつ接続される構成を示したが、カフが1つずつ接続される構成であってもよい。
上肢用駆血制御部201と下肢用駆血制御部202は基本的に同一構成を有するが、演算制御部10は、上肢用駆血制御部201からは上肢の計測信号が出力され、下肢用駆血制御部202からは下肢の計測信号が出力されているものとして取り扱う。
【0019】
上肢用駆血制御部201と下肢用駆血制御部202はそれぞれ、演算制御部10から動作を制御可能なポンプおよび排気弁を有する。演算制御部10は、これらのポンプおよび排気弁の動作を制御することにより、カフのゴム嚢(21aR,21aL,22aR,22aL)の加圧/減圧(給気/排気)制御を行う。圧力センサ211R、Lおよび221R、Lは、接続されたカフのゴム嚢21aR,21aL,22aR,22aLの内圧に応じた電気信号を出力する。上肢用駆血制御部201と下肢用駆血制御部202は、圧力センサ211R、Lおよび221R、Lが出力する電気信号に増幅やA/D変換等の信号処理を適用し、脈波情報として演算制御部10へ出力する。これにより、演算制御部10はPWVの算出に必要な脈波や、ABIの算出に必要な血圧などを取得することができる。
【0020】
心音検出部203には心音マイク23が接続され、被検者に装着された心音マイク23により検出された心音信号に対して増幅やA/D変換など所定の信号処理を行い、演算制御部10に供給する。後述するように、心音信号は主に、心臓における脈波の開始時点を決定するために用いられる。
【0021】
心電信号検出部204は心電計であり、接続された複数の心電電極24a、24bから得られる心電信号に所定の信号処理を適用して演算制御部10へ供給する。図では簡単のため2つの心電電極24a、24bを図示しているが、実際には取得する心電信号の種類や数に応じた数や種類の電極を用いる。心電信号はより総合的な診断を行う際に必要に応じて取得する。
【0022】
脈波検出部205は、例えばアモルファス脈波センサやエアバッグ式の脈波センサである脈波センサ25a、25bにより検出した脈波信号、具体的には頸動脈波、股動脈波や膝窩動脈波の信号に所定の信号処理を適用して演算制御部10へ供給する。脈波センサの数は計測する脈波信号の数に応じて3つ以上であってもよい。
【0023】
なお、血圧脈波検査装置の本体200には、図示した以外にも、他の機器と通信を行うための有線及び/又は無線通信インタフェースや、リムーバブルメディアを用いる記憶装置等が設けられても良い。また、表示部70や記録部75を本体200とは別個の装置とすることを可能にする場合には、周知のディスプレイインタフェース、プリンタインタフェースが設けられる。
【0024】
なお、血圧脈波検査装置の本体200が有する構成要素のうち、心音検出部203、心電信号検出部204、脈波検出部205の1つ以上については、個別の回路として実現する代わりに、演算制御部10が有するプログラマブルプロセッサがソフトウェアを実行することにより機能を実現してもよい。
【0025】
●(計測前の準備)
このような構成を有する血圧脈波検査装置を用いて計測を行う際の手順、動作について説明する。ここでは、最も精度の高い計測を行う場合について説明する。なお、時刻設定等の装置動作に関する初期設定処理や、センサやカフ類を本体200に装着する処理、ID、年齢、性別、身長、体重といった被検者の個人情報を入力/指示部90を用いて入力する処理は既に行ってあるものとする。また、以下では、4つのカフを全て用いて計測する場合について説明するが、上肢、下肢一つずつを用いた計測も可能である。
【0026】
本実施形態の血圧脈波検査装置は、脈波計測と血圧計測とを実施可能であり、例えば上述の評価値β(以下ではCAVI値という)を算出する場合には、PWVを算出するための脈波計測、血圧計測の順に実行する。PWTやPWVの計測だけ行う場合には脈波計測のみを実行する。また、ABIやTBIの計測だけ行う場合には血圧計測のみを実行する。ただし、以下では、本発明に関連する脈波計測について詳細に説明する。
【0027】
まず、準備段階として、カフ、センサ等を被検者の所定部位に装着する。具体的には、上肢用のカフ21Rを被検者の右上腕部に、カフ21Lを被検者の左上腕部に、下肢用のカフ22Rを被検者の右足首又は足趾に、カフ22Lを被検者の左足首または足趾に、それぞれ装着する。なお、足首に装着するカフと足趾に装着するカフとはその構成が異なるが、ここではいずれも下肢用カフとして説明する。カフ21、22の装着は面ファスナー等により行うことができる。また、心電電極24a、24bを例えば左右手首に装着する。装着部位には良好な検出のために通常行われるようにクリーム等を塗布する。心電電極24a,24bの装着部位は取得する誘導種別に応じて変更可能である。なお、心電信号を計測しない場合には心電電極24a,24bの装着は不要である。
【0028】
また、心音マイク23を被検者の胸部所定位置(第II肋間胸骨左縁部)にテープ等で貼り付ける。さらに、脈波センサ25aを頸部(頸動脈拍動部位)に取り付ける。また、必要により鼠蹊部(股動脈拍動部位)や、右または左の膝窩中心に脈波センサ25bを取り付ける。脈波信号をカフだけで計測する場合、脈波センサ25a,25bの装着は不要である。
【0029】
PWVを計測する場合には次に、被検者の
・第II肋間胸骨左縁部(心音マイク23の装着部位)から右股動脈拍動部位(脈波センサ25bの装着部位)までの距離D、
・右股動脈拍動部位から右膝関節中央部までの距離L2、
・右膝関節中央部から右足首カフ装着部位中央までの距離L3、
をそれぞれスケール等で計測して入力する。これらの距離は血管長として用いられる。なお、これらの距離は、実測せずに、被検者の身長に該当する統計値を自動的に用いるようにしてもよい。以上で計測前の準備は終了する。
【0030】
●(脈波計測処理)
計測の準備が完了し、例えば入力/指示部90から計測開始指示が与えられると、演算制御部10はまず、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202に対し、脈波計測の開始を指示する。これに応答して上肢用駆血制御部201は、圧力センサ211R,211Lで検出される、カフ21R,21Lのゴム嚢21aR,21aLの内圧(以下、カフ圧という)が所定の圧力(例えば50〜60mmHg程度)となるまでポンプで給気する。下肢用駆血制御部202もまた同様に、ゴム嚢22aR,22aLに給気する。
【0031】
また、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202は、給気制御の開始とともに、圧力センサ211R,211L,221R,221Lで検出されるカフ圧の変化を表す信号(脈波信号)の、演算制御部10への出力を開始する。
【0032】
演算制御部10は、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202から脈波信号を受信し始めると、脈波信号を保存部80に保存しながら、カフ誤装着判定処理を実行する。カフ誤装着判定処理は、カフの装着部位が誤っていないかどうか(本実施形態では上肢と下肢を取り違えて装着されていないかどうか)を判定する処理である。
【0033】
(カフ誤装着判定処理)
図2のフローチャートを用いて、カフ誤装着判定処理の詳細について説明する。S101で演算制御部10は、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202から受信している脈波信号について、予め定められた特徴点(区分点)が検出されるかどうか判定する。ここでは、特徴点として、脈波信号の立ち上がり点を検出するものとするが、切痕点など他の特徴点であってもよい。そして、演算制御部10は、特徴点が検出できない脈波信号があれば、例えば表示部70にメッセージを表示するなどして、その脈波信号に対応する装着部位のカフの装着状態を確認するように促し(S103)、処理をS101に戻す。
【0034】
脈波信号のすべてで特徴点が検出できたと判定されれば、S105で演算制御部10は、右半身で計測された脈波信号として受信している1対の脈波信号について、同じ心拍に対応する特徴点を検出する。ここでは、脈波信号の立ち上がり点を検出するものとするが、切痕点など他の特徴点であってもよい。そして、演算制御部10は、上肢(右上腕)で計測されたものとして受信している脈波信号と、下肢(右足首)で計測されたものとして受信している脈波信号の、同一心拍に係る同じ特徴点の発生タイミングの前後関係が、カフの装着部位が正しい場合に想定される前後関係と合致するか否か判定する。
【0035】
図3に示すように、上肢と下肢とでカフの装着部位の取り違えがなければ、同一心拍に係る脈波信号では、右上腕で計測される立ち上がり点301よりも、心臓からの距離が右上腕より遠い右足首で計測される立ち上がり点302の方が遅れて発生するはずである。換言すれば、図中のTba(上腕部−足首間の脈波伝播時間)は正の値になるはずである。このように、正しい装着部位が心臓からの距離において異なる位置関係を有している場合には、同一心拍に係る脈派の特徴点の検出タイミングの前後関係を予め想定することができる。そのため、演算制御部10は、同半身で計測されたものとして受信している1対の脈波信号の特徴点の発生タイミングの前後関係が、カフの装着部位が正しい場合に想定される前後関係と合致するか否かを判定する。なお、S105の判定は、下肢(右足首)で計測されたものとして受信している脈波信号の立ち上がり点よりも、上肢(右上腕)で計測されたものとして受信している脈波信号の立ち上がり点が早いかどうかの判定であってもよい。演算制御部10は、左半身で計測された脈波信号として受信している1対の脈波信号についても同様の判定を行う。
【0036】
S105で、受信している脈波信号の特徴点の発生タイミングの前後関係が、想定される前後関係と合致していれば、演算制御部10は処理をS107に進め、上肢と下肢の装着部位の取り違えはないと判定する。そして、後述する、PWT計測処理に移行する。
【0037】
一方、受信している脈波信号の特徴点の発生タイミングの前後関係が、想定される前後関係と合致していない(食い違っている)場合、演算制御部10は処理をS109に進め、上肢と下肢の装着部位の取り違えが発生していると判定する。そして、S111で波形計測の中止を上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202に指示し、例えば表示部70にメッセージを表示するなどして、誤装着されていると思われる装着部位の情報とともに、カフの装着部位を確認するように促す。そして、入力/指示部90から計測開始指示が再度与えられるまで待機する。
【0038】
(PWT計測処理)
次に、PWVの算出に先立って実施するPWTの計測処理について、
図4のフローチャートを用いて説明する。上述したカフ誤装着判定処理において、上肢および下肢の取り違えなくカフが装着されていると判定された場合、演算制御部10はPWTの算出を開始する。本実施形態では、予め定められた所定時間(例えば、5秒、8秒、または16秒)の区間に検出された複数拍分の脈波信号について算出した複数のPWTの値のばらつきが所定の条件を満たすまでPWTの算出処理を継続して実施する。
【0039】
まず、演算制御部10は、心音検出部203、心電信号検出部204、および脈波検出部205に対し、心音信号、心電信号、脈波信号の計測を開始するように指示する。上述の通り、心電信号と、頸動脈や股動脈の脈波信号の計測は必要に応じて行われる。心音検出部203、心電信号検出部204、および脈波検出部205は、この指示に応答して、心音マイク23、心電電極24a,24b、および脈波センサ25a,25bを通じて計測された信号の、演算制御部10への出力を開始する。
【0040】
なお、心音信号(および必要に応じて心電信号や脈波信号)の計測開始指示は、脈波信号の計測開始指示と同時またはそれ以降の任意のタイミングで行うことができる。
【0041】
演算制御部10は、心音検出部203、心電信号検出部204、および脈波検出部205から出力される心音信号、心電信号、脈波信号を保存部80に保存しながら、
図4に示すPWT算出処理を開始する。
【0042】
演算制御部10は、S201で、PWT(TbおよびTba)の算出を開始する。具体的には、演算制御部10はまず、心音検出部203を介して取得した心音信号における心II音の発生タイミングを検出する。心電信号を計測している場合、演算制御部10は、心電信号のR波の発生タイミング近傍に存在する心音信号のピーク群(心I音由来のピーク群)が小康状態となった後に現れるピーク群の最初の立ち上がり点を心II音の発生タイミングとして検出する。心電信号を計測していない場合、演算制御部10は、いずれかの脈波信号の立ち上がり点の後で心音信号に最初に現れるピーク群の最初の立ち上がり点を心II音の発生タイミングとして検出する。
【0043】
そして、演算制御部10は、PWTとして、以下のTbおよびTba、並びにTb+Tbaの値を算出し、保存部80に保存する。
Tb:心II音の発生タイミングから上腕脈波(または頸動脈波)の切痕点(ノッチ)までの時間差
Tba:上腕脈波(または頸動脈波)の立ち上がり点から足首(又は足趾)脈波の立ち上がり点までの時間差
【0044】
S203で演算制御部10は、設定された時間分の脈波信号についてPWTの算出を行ったか判定し、まだであれば処理をS201に戻し、算出が終わっていれば処理をS205に進める。
【0045】
S205で演算制御部10は、設定された時間分の脈波信号について算出したPWTの品質を、例えばPWTの値のばらつき度合いに基づいて評価する。設定された時間にn拍の脈波信号が計測され、S201でn個のPWTが算出されているとする。この場合、演算制御部10は、ばらつき度合いの評価値として、総数nのPWTのうち、所定のばらつき度合いの範囲に含まれるものの割合に基づいてPWTの品質を判定することができる。
評価値は例えば
評価値(%)=(平均値±σの範囲に含まれる算出値の数)/算出値の総数n×100
であってよい。ここで、σはn個のPWTの標準偏差である。評価値は、Tb、Tba、またはTb+Tbaのうち、少なくとも1つについて求めればよい。評価値を1つ求める場合にはTb+Tbaについて求めることが好ましい。
【0046】
そして、演算制御部10は、設定された時間分の脈波信号について算出したPWTの品質を評価値に応じて例えば以下のように判定する。
◎:75%以上
○:50%以上75%未満
△:25%以上50%未満
×:25%未満
【0047】
演算制御部10は、ここで判定した結果を、例えば表示部70を通じてユーザに報知することができる。
図5は、本実施形態に係る血圧脈波検査装置の表示部70における表示画面例を示す。演算制御部10は、例えば計測の準備段階からこの画面の表示を開始し、心電信号331や心音信号332、脈波信号333が受信されるとリアルタイムで画面内の波形表示部330に、直近の所定時間分の波形を表示する。
【0048】
波形表示部330の上部には、右半身で計測された脈波に基づいて算出されたPWTに対応した品質表示領域310と、左半身で計測された脈波に基づいて算出されたPWTに対応した品質表示領域320が設けられている。演算制御部10は、上述した評価値に応じた表示を品質表示領域310,320で行うことにより、ユーザにPWTの品質を報知することができる。なお、品質表示は波形表示画面で行う以外に、血圧脈波検査装置の筐体に設けられたLEDなど、他の表示デバイスや表示装置で行ってもよい。
【0049】
本実施形態ではPWTの品質(計測される脈波信号の品質ともいえる)を、4段階に区分しているため、品質表示も4段階で行う。具体的な表示方法に特に制限はないが、本実施形態では、品質表示領域310,320をそれぞれ4つの部分領域311〜314,321〜324に分割し、上述の4段階の区分に合わせた表示を行う。なお、品質評価の区分の数と、部分領域の数とは一対一の対応関係を有さなくてもよい。
【0050】
具体的には、4つの部分領域311〜314,321〜324の一番左から、上述の評価区分に応じて、×では1つ、△では左から2つ、○では3つ、◎では4つ(全て)表示(点灯表示)する。表示する部分領域の数だけでなく、数に応じて表示色を変更してもよい。本実施形態では、×と△は品質に問題があると判定するため、×と△に該当する場合と、○と◎に該当する場合とで表示効果(色、輝度、点滅の有無など)を異ならせてもよい。なお、複数のPWT(本実施形態ではTb、Tba、Tb+Tbaの2つ以上)について評価値を算出する場合、品質表示領域310,320にはそのうち1つ(本実施形態ではTb+Tab)の評価結果を表示すればよい。
【0051】
設定された時間分の脈波信号について算出されたPWTの品質をリアルタイムで表示することで、ユーザは算出されたPWTの精度を把握することができる。そして、精度が低い場合には計測を中止し、カフが適切に装着されているか確認したり、被検者が安静状態になるのを待ったりしてから、再計測することで、精度の良いPWTの算出結果を得ることができる。
【0052】
しかしながら、精度の低いPWTしか得られていない場合でも、従来は設定された時間分の脈波信号についてのPWTの算出が終われば、PWT計測処理を終了していた。そのため、ユーザが品質表示領域310,320を見落としたり、表示の意味を理解していなかったりした場合、PWTの精度が低いままになってしまうという問題があった。前者はユーザが品質表示領域310,320を監視していれば防止できるが、ユーザの負担となる。また、品質表示領域310,320を見た結果、より精度の良いPWTを得ようとして、許容できる品質(○)が得られているにもかかわらず、最良品質(◎)が得られるまで計測を何度もやりなおし、ユーザと被検者双方の負担を増す原因になる場合もある。
【0053】
そのため、本実施形態では、品質評価結果が閾値に満たない場合(上述の×または△の区分に該当する場合)には、設定された時間が経過しても、閾値以上の品質のPWT算出結果が得られるまで、血圧脈波検査装置がPWTの計測処理を自動的に延長する。
【0054】
具体的にはS207で演算制御部10は、S205での評価結果が所定基準以上(ばらつき度合いが所定基準未満)であれば処理をS209へ、評価結果が所定基準未満(ばらつき度合いが所定基準以上)であれば処理をS211へ進める。ここでは、上述した評価値(%)が50%以上、すなわち○または◎に区分される評価値であれば評価結果が所定基準以上(ばらつき度合いが所定基準未満)であるものとする。なお、複数のPWT(本実施形態ではTb、Tba、Tb+Tbaの2つ以上)について評価値を算出する場合、その全て、あるいは予め定めた1つ以上の評価結果が所定基準未満(ばらつき度合いが所定基準以上)であれば処理をS211へ進める。本実施形態では、Tb+Tbaの評価結果が所定基準未満(ばらつき度合いが所定基準以上)であれば、他のPWTの評価結果にかかわらず処理をS211へ進めるものとする。
【0055】
S209で演算制御部10は、脈波計測処理の終了処理を行う。これにより、直近の設定された時間分の脈波信号から算出したPWTの品質が所定の基準を満たした時点で自動的に計測が終了される。また、演算制御部10はともに、設定された時間分の脈波信号から算出したn個のPWT(Tb,TbaおよびTb+Tba)の算出値のうち、全体の平均値±標準偏差σの範囲に含まれるPWTの平均値を、設定された時間分の脈波信号におけるPWTの代表値として算出する。そして、CAVI値および/またはABI値を算出する場合には血圧計測処理に移行し、血圧計測を行わない場合には必要に応じてS210で脈波伝播速度(PWV)を算出して処理を終了する。なお、PWVはS209で算出したTbおよびTbaの代表値、あるいはTb+Tbaの代表値を用いて、例えばPWV=(D×1.3+L2+L3)/(Tb+Tba)として算出することができる。なお、PWVの算出は血圧計測処理で行ってもよい。
【0056】
脈波計測処理の終了処理により、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202はカフ21R、21L、22R、22Lのゴム嚢21aR,21aL,22aR,22aLの排気を行う。また、心音検出部203、心電信号検出部204、および脈波検出部205の動作を停止させてもよい。
【0057】
CAVI値やABI値を計測する場合、演算制御部10は、上肢用駆血制御部201および下肢用駆血制御部202に対し、血圧計測の開始を指示し、オシロメトリック法による血圧計測を行う。CAVI値のみを計測する場合は右上腕の血圧のみ計測すれば良い。ABI値を計測する場合には、PWTの計測と同様、上肢および下肢の1対または2対で血圧計測を行う。血圧計測の詳細およびCAVI値やABI値の算出については公知の方法を用いることができるため、これ以上の詳細については説明を省略する。
【0058】
一方、S211で演算制御部10は、予め定められた脈波計測の上限時間(例えば120秒)に達したか否かを判定し、上限時間に達していればS217へ、上限時間に達していなければS213へ処理を進める。
【0059】
S217で演算制御部10は、S209と同様の脈波計測処理の終了処理を行うとともに、例えば表示部70にメッセージを表示するなどして、ユーザに脈波計測が正常に行えなかった旨を報知する。この際、品質が基準に達しなかった部位(右半身および/または左半身)を合わせて報知することが望ましい。
【0060】
脈波計測の継続時間が上限時間に達していなければ、S213で演算制御部10は、脈波計測とPWTの算出を継続する。この際、演算制御部10は、表示部70にメッセージを表示するなどして、PWTの計測処理を自動延長している旨を報知してもよい。S215で演算制御部10は、直近の設定された時間分の脈波信号から算出したn個のPWT(Tb,Tba,Tb+Tba)の予め定めた1種類以上についてS205と同様に品質評価を行い、処理をS207へ戻す。
【0061】
このように、演算制御部10は、脈波の計測を開始してから、直近の設定された時間分の脈波信号から算出したn個のPWT(Tb,Tba,Tb+Tba)の予め定めた1種類以上についてばらつき度合いが所定基準を満たすまで、PWTの算出とその品質評価を自動的に延長(継続)する。そして、新たなPWTを算出するごとに、直近の設定された時間分の脈波信号から算出したn個のPWTのばらつき度合いが所定基準を満たすか判定し、所定基準を満たせば自動的に脈波計測処理を終了する。
【0062】
そのため、ユーザは、計測開始指示を与えるだけで、カフの装着が適切でない場合を除き、必要な基準を満たした品質のPWTを計測することができる。また、上肢と下肢とを取り違えてカフが装着されている場合には、PWTの計測前に装置が自動的に検出してユーザに報知するため、早期に対応が可能であり、PWTの計測動作を無駄に行うことを防止できる。また、本実施形態の脈波信号計測装置を、脈波計測と血圧計測とを同じ構成(ここではカフ)で行う血圧脈波検査装置のような装置に適用すれば、血圧測定に先立ってカフが上肢と下肢の取り違えなく装着されていることを確認することが可能であり、有用である。
【0063】
(他の実施形態)
なお、PWVの計測だけを行う場合、PWTを、心電信号のR波のタイミングと、1カ所の脈波の切痕点(ノッチ)との時間差として求めてもよい。この場合、カフでの脈波計測は1カ所で行えばよい。
【0064】
また、カフの誤装着判定処理については、同一心拍に係る脈派の同種の特徴点の検出タイミングに有意に差がある2カ所で脈波を計測する構成であれば、計測部位は上腕部と足首または足趾といった、上肢の1部位と下肢の1部位に限られない。また、脈派信号の検出手段はカフに限定されず、脈派を検出可能な任意のセンサであってよい。
【0065】
なお、上述の実施形態においては説明及び理解を容易にするため、予め設定された計測時間分の脈波信号に含まれるn個の心拍全てについて算出したPWTをまとめて評価し、かつ代表値を求める場合について説明した。しかしながら、評価したり代表値を求めたりするPWTの数は、予め設定された計測時間分の脈波信号に含まれる総心拍数より少なくてもよい。この場合、予め設定された計測時間分の脈波信号について複数回行った評価結果がいずれも基準以上であれば計測を終了する。
【0066】
また、予め設定された計測時間分の脈波信号に含まれる全ての心拍についてまとめて評価値を求める場合でも、複数の評価値を用いて予め設定された計測時間分のPWTの品質を評価してもよい。例えば、予め設定された計測時間が8秒である場合、直近の8秒間に計測された脈波信号で得られたPWTの品質評価を1秒毎に行い、8回連続して基準以上の評価結果が得られた時点における直近の8秒を計測結果として計測を終了するように構成してもよい。この場合、1秒毎に品質評価が行われるため、8秒分の計測時間に対して8回の評価が実行され、より高精度に品質評価を行うことができる。1秒毎の代わりに1拍ごとに評価を実行してもよい。
【0067】
なお、本発明に係る脈波信号計測装置の制御方法は、演算制御部10が有するプログラマブルプロセッサ(コンピュータ)に、上述した動作を実行させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)として実現することもできる。従って、このようなプログラムおよび、プログラムを格納した記憶媒体(CD−ROM、DVD−ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。