(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェット印刷における印刷品質は、着弾径および着弾精度の2点に主に依存する。前記着弾径は、インクが吐出されるときの液滴の径に依存し、小さければ小さいほど緻密で高品位な印刷結果が得られる。また、前記着弾精度は、一般的に、インクが吐出されるときの液滴が有する運動エネルギーが大きいほど高い。なぜならば、液滴の運動エネルギーが大きい(質量および速度が大きい)ほど、空気中を真っ直ぐに飛翔する距離が長くなるため、意図した位置にインクを着弾させることができるためである。ここで、液滴径が小さいと、着弾径は小さくなるが運動エネルギーも小さくなるので、液滴が空気中を真っ直ぐに飛翔する距離が短くなってしまう。これは、ヘッドとワークの間の距離(「ワーキングディスタンス」と呼ぶ)を短くしなければならないということを意味する。一般的な平面ワーク用のインクジェットヘッドは、ワーキングディスタンスは短くても問題ないため、液滴を微小化しやすいドロップオンデマンド(DoD)型が採用され、着弾径を小さくすることで印刷品質を向上させることが基本的な技術思想である。
【0006】
前記特許文献1および2では、ヘッドを多軸型ロボットに取り付けることで、三次元ワークにもインクジェット印刷できることが示されている。しかしながら、インクジェットヘッドの方式に関する記載はなく、上記のワーキングディスタンスの問題については全く不明である。仮に、一般的な平面ワーク用のDoD型のインクジェットヘッドを利用することを仮定した場合、市販のヘッドはこのような用途は想定されていないため、ワーキングディスタンスは通常、かなり短い(典型的には1mm以下)。この場合、曲面では局所的にワーキングディスタンスが長くなってしまう箇所がどうしても存在してしまうため、結果的に着弾位置ずれが発生しやすくなる。印刷型エレクトロニクスの場合、たった一箇所の着弾位置ずれであっても、電気的な短絡または断線となり、その結果、エレクトロニクス素子全体の機能不全を引き起こすため、この問題は深刻である。
【0007】
また、前記特許文献3では、多軸型ロボットにコンティニュアス型インクジェット(CIJ)を取り付けた例が開示されている。CIJ型は、インクに圧力をかけてノズルから高速で飛び出させ、その後液滴に分割した後、高電界で液滴の軌道を曲げて着弾位置を調整する方式であるため、ワーキングディスタンスは原理的に十分確保できる。
しかし、CIJ型は着弾径が一般的に大きく(典型的には1mm程度)、印刷型エレクトロニクスに要求される精度の高い印刷(典型的には100μm以下)には不向きである。さらに、CIJ型は、インク液滴を帯電させる必要があること、大気中を常に循環させることによるインクの性質変化に対する対策が必要であること、等、使用されるインクに要求される条件がDoD型よりはるかに厳しいため、印刷エレクトロニクスに適したCIJ型インクジェット用インクを開発することは至難であることが実情である。
【0008】
すなわち、従来技術の印刷装置では、三次元ワークに、印刷エレクトロニクスで要求される高い印刷品質でインクジェット印刷を行うことができないという課題があった。
【0009】
さらに、高精度な印刷を行なおうとした場合、ヘッドの位置決めに多軸型ロボットを用いることに起因する、重大な問題点も存在する。多軸型ロボットは、複数の回転軸を組み合わせて位置決めを行う機構であるため、原理的に、特定の一方向に直線動作(「直動」と呼ぶ)させることが不得意である。すなわち、任意の2点間を直動により移動させようとしても、実際の軌跡は、複数の円弧を組み合わせた、蛇行した軌跡になってしまう。この蛇行した軌跡の振幅は、典型的には数mmのオーダーで発生し得るものである。それに加えて、この軌跡は各軸の絶対位置、動作速度、その他の外的要因により常に変動するものであり、事前に軌跡を精密に予測することは困難である。このような状態では、100μm以下の精度が要求される印刷型エレクトロニクスに、多軸型ロボットをそのまま適用することはできないという課題があった。
【0010】
さらに、インクジェットを用いた印刷エレクトロニクス装置では、ヘッドの吐出状態の観察、監視を高い頻度で行なうことが必要不可欠となる。なぜならば、印刷エレクトロニクスに用いられるインクは、乾燥後に電気的特性を発現させる固体物となるものであり、インクの乾燥がヘッドの吐出口(「ノズル」と呼ぶ)付近で起これば、吐出不良を引き起こし、印刷プロセスを実行できなくなるためである。
ヘッドの吐出状態の観察、監視は、典型的には、数μm程度の分解能を有する撮像装置、およびストロボ光源により行なわれる。ここで、撮像装置の分解能が高いため、必然的に、撮像装置の被写界深度は小さくなる(典型的には数μm程度)。したがって、ヘッドの吐出状態の観察、監視には、精度の高いヘッドの位置決めが必要となるが、ここでも、多軸型ロボットの位置決め精度不足が問題となる。すなわち、液滴観察位置にヘッドを移動させても、液滴を観察できる位置に精密に位置決めをすることは困難であり、ヘッドの吐出状態の観察、監視に重大な支障をきたす。この点においても、印刷エレクトロニクスに、多軸型ロボットをそのまま適用することはできないという課題があった。
【0011】
さらに、三次元ワークに対するインクジェットを用いた印刷エレクトロニクス装置では、ワーキングディスタンスに加えて、ヘッドとワークの間の角度(「ワーキングアングル」と呼ぶ)も重要となる。特許文献1〜3では、距離センサによるワーキングディスタンスの測定および利用について開示されているが、距離測定値はワーキングディスタンスを示すのみであり、ワーキングアングルを測定、利用することについては開示されていない。
【0012】
このような課題に鑑みて、発明者等は鋭意研究を重ね、次のような技術思想により、前記課題を解決した。
すなわち、(1)着弾径の小ささと(2)着弾精度の高さを両立するために、液滴を小さくした上で、速度を上げるという技術思想である。この技術思想は、プッシュ式インクジェットヘッドを利用することにより実現することができた。
【0013】
さらに、多軸型ロボットの位置精度不足に起因する問題点は、多軸ロボットの先端部に高精度な直動機構を取り付け、多軸型ロボットの動きと協調させて動作させることにより、解決することができた。
【0014】
さらに、ワーキングアングルを測定、利用することについては、複数の非接触センサおよび距離データ計算部を用いることにより実現することができた。
【0015】
その結果、多軸型ロボットを用いて、三次元ワークに印刷エレクトロニクスで要求される高い印刷品質でインクジェット印刷を行うことができる印刷装置の発明に至った。
したがって、本発明は、軸型ロボットを用いて、三次元ワークに印刷エレクトロニクスで要求される高い印刷品質でインクジェット印刷を行うことができる印刷装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかる印刷装置は、
エレクトロニクスデバイスを製造する印刷装置であって、プッシュ式インクジェットヘッド、直動機構を備えるインク吐出ユニットが、多軸型ロボットの先端部に取り付けられ、前記プッシュ式インクジェットヘッドは、前記直動機構に取り付けられ、前記多軸型ロボットは、前記プッシュ式インクジェットヘッドの高さ、水平面内位置、および傾斜をそれぞれ独立して制御できる機能を有し、前記直動機構は、前記多軸型ロボットの先端に取り付けられ、前記多軸型ロボットよりも高い位置決め精度を有
し、かつ前記直動機構は、互いに直交した3軸の可動軸を有し、更に、複数の非接触距離センサ、および距離データ計算部を有し、前記複数の非接触距離センサは、前記多軸型ロボットの先端に取り付けられ、前記多軸型ロボットの先端から被印刷物までの距離データをそれぞれ出力し、前記距離データ計算部は、前記複数の非接触距離センサと電気的に接続され、前記距離データを元に、前記プッシュ式インクジェットヘッドから被印刷物までの距離、および角度を算出する機能を有し、複数の距離センサの距離データの差分が0とみなされる状態になった際、複数の距離データの平均値をワーキングディスタンスとし、前記ワーキングディスタンスに基づいて調整値を決定し、更に直動機構でワーキングディスタンスを調整することを特徴としている。
尚、プッシュ式インクジェットヘッドは、圧電素子式インクジェットヘッドを意味している。
【0017】
ここで、撮像部および光源を有し、前記プッシュ式インクジェットヘッドを、撮像部および光源の間に配置し、プッシュ式インクジェットヘッドから吐出されるインク液滴を観察することが望ましい。
また、前記撮像部および前記光源は、前記多軸型ロボットの先端に取り付けられ、前記撮像部および光源に対し、それぞれ一つの光反射ミラーを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、三次元ワークに、印刷エレクトロニクスで要求される高い印刷品質でインクジェット印刷を行うことができる。
これによって、ワークの材質を選ばないというインクジェット印刷技術の利点がさらに拡張され、様々な形状のワークに直接電子回路を印刷することが実現される。本発明は様々な技術分野に応用が可能であるが、代表的には、ガラスや射出形成樹脂等の曲面を有する車載部品に対して電子回路を直接形成する技術分野が、市場も大きく有望である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、ここで説明される実施の形態は、本発明にかかる技術思想を具体化し説明を容易にするためになされるものであって、形態を限定するものではない。また、本発明にかかる技術思想の範囲内で、これから説明される全ての技術要素は、適宜組み合わせることができる。
(第1実施形態)
【0022】
本実施の形態では、本発明にかかる最も基本的な技術要素群およびそれらの相互の関係性について説明する。
本発明にかかる最も基本的な技術要素は、
図1および
図2に示すように、多軸型ロボット1と、プッシュ式インクジェットヘッド3と、直動機構4である。本実施形態の説明においては、本発明にかかる技術思想の一例として、プッシュ式インクジェットヘッド3および直動機構4をまとめてインクジェット吐出ユニット2を形成し、そのインクジェット吐出ユニット2を多軸型ロボット1の先端部に取り付ける形態を取り上げる。すなわち、プッシュ式インクジェットヘッド3は、直動機構4およびインクジェット吐出ユニット2を介して多軸型ロボット1に接続される形となっている。
【0023】
図1を参照して、多軸型ロボット1の各部について説明する。
多軸型ロボット1は、台座部10、第1の回転軸11、第2の回転軸12、第3の回転軸13、第4の回転軸14、第5の回転軸15、第6の回転軸16、およびインクジェット吐出ユニット2を有している。
なお、本発明において多軸型ロボット1を用いる意図は、インクジェット吐出ユニット2の高さ、水平位置、および傾斜をできるだけ自由に設定できるようになすためであり、軸数をこれより多くすれば、より高い自由度で位置決めを行うことができるので、好ましい。一方、軸数を少なくすれば、パラメータが少ない分、動作が単純で分かりやすくなり、さらに装置のコストを低減することができるので、好ましい。このように、多軸型ロボット1の構成は、印刷対象物や印刷の目的に合わせて、適宜選択できる。
【0024】
次に、
図2を参照して、本実施の形態におけるインクジェット吐出ユニット2の各部について説明する。
インクジェット吐出ユニット2は、プッシュ式インクジェットヘッド3、直動機構4、を有する。プッシュ式インクジェットヘッド3は、直動機構4を介して、インクジェット吐出ユニット2に取り付けられ、インクをワークに吐出する機能を持つ。直動機構4は、多軸型ロボット1よりも高い位置決め精度を有し(典型的には数μm)、プッシュ式インクジェットヘッド3を精密に位置決めする機能を有する。
【0025】
多軸型ロボット1は、インクジェット吐出ユニット2の高さ、水平位置、および傾斜を、その動作範囲内で自由に設定できる機能を有するため、ワークが三次元曲面を有していても、または被印刷面が水平でなく傾斜していたとしても、それに対応してインクジェット吐出ユニット2の高さ、水平位置、および傾斜を設定でき、ワークに直接印刷を行なうことができる。
しかし、位置決めの自由度が高い反面、その精度は必ずしも高いものではない。印刷エレクトロニクス用の印刷装置としては、少なくとも100μmの着弾位置をピンポイントで狙うことができる必要がある。
【0026】
本実施の形態における印刷装置によれば、直動機構4により、多軸型ロボット1に必要とされる位置決め精度および回数を、大幅に緩和することが可能である。すなわち、多軸型ロボット1は、直動機構4の可動範囲内(典型的には数十mm程度)の一点で位置決めを行い、その位置で、直動機構4を動かして印刷を行なう。直動機構4の可動範囲内では、直動機構4が有する高い位置決め精度で印刷を行なうことができる。
そして、直動機構4の可動範囲内での印刷が終了したら、多軸型ロボット1を用いて次の範囲内の一点に移動し、そこで再び直動機構4を動かして印刷を行なう。これを繰り返すことで、印刷範囲が広範囲であっても、直動機構4がない場合と比較して、圧倒的に少ない位置決め回数で印刷を行なうことが可能である。
【0027】
次に、
図4a乃至
図4cを用いて、直動機構4の構成について詳細に説明を行なう。なお、直動機構4は、軸数を適宜変更することが可能である。
【0028】
図4aは、直動機構4として第1の1軸直動機構4aのみを用いた場合の模式図である。この場合、直動機構4は、一方向に高精度に動作させることができる。これは、例えば、多数(典型的には十数個〜数百個)のノズルを有したプッシュ式インクジェットヘッド3を用いる場合に効果的である。なぜならば、プッシュ式インクジェットヘッド3が多数のノズルを有していれば、1回の直動動作により、高速で広範囲の印刷を行なうことができるためである。
【0029】
図4bは、直動機構4として、可動軸が互いに直交するように接続された第1の1軸直動機構4a、および第2の1軸直動機構4bを用いた場合の模式図である。
この場合、直動機構4は、二方向に高精度に動作させることができる。この構成では、二つの可動軸の方向をワーク表面に対して両方とも平行にする場合(平行配置)と、一方は平行でもう一方は垂直にする場合(垂直配置)を、選択することが可能である。
平行配置は、少数(典型的には1個〜十数個)のノズルを有したプッシュ式インクジェットヘッド3を用いる場合に効果的である。プッシュ式インクジェットヘッド3のノズルが少数の場合、1回の直動動作ではあまり広範囲に印刷することができないが、二次元的にスキャン動作をさせることで、多数のノズルを備えた場合と同様に、広範囲に印刷することが可能であるためである。
垂直配置では、プッシュ式インクジェットヘッド3が多数のノズルを有する場合で、かつ、ワーキングディスタンスを精密に制御する必要がある場合に効果的である。
【0030】
図4cは、直動機構4として、可動軸が互いに直交するように接続された第1の1軸直動機構4a、第2の1軸直動機構4b、および第3の1軸直動機構4cを用いた場合の模式図である。
この場合、直動機構4は、三方向に高精度に動作させることができる。この構成では、少数のノズルを有したプッシュ式インクジェットヘッド3を用い、かつ、ワーキングディスタンスを精密に制御する必要がある場合に効果的である。
なお、多数のノズルを有したプッシュ式インクジェットヘッド3を用いる場合であっても、三つの可動軸を有する構成は有効である。なぜならば、こうすることで、印刷範囲がさらに広範囲であっても、ワーキングディスタンスを精密に制御する機能を持たせつつ、高速で高精細な印刷を行なうことができるためである。
【0031】
ここで、このような直動機構4を有することが、多軸型ロボット1を用いたインクジェット印刷に関してどの程度有効なのか、例を挙げて説明を行なう。
例として、プッシュ式インクジェットヘッド3のノズル数は一つ、印刷範囲は100mm×100mm、直動機構4の可動軸は二つで平行配置、可動範囲は20mm×20mm、着弾位置精度は100μm、の場合を考える。
【0032】
まず、直動機構4がない場合、そもそも着弾位置精度100μmを実現することが困難であるので、そこでまず直動機構4を有する場合に圧倒的な優位性が存在する。ただ、それでは比較ができないため、仮に、多軸型ロボット単体で100μmの位置決めが可能であるとして考える。
多軸型ロボット1単体でプッシュ式インクジェットヘッド3の位置決めを行なうには、全ての着弾位置において、位置教示を行なう必要がある。この教示ポイント数は、印刷範囲が100mm×100mm、1ポイントの範囲が100μm×100μmであるので、総数は1000000ポイントに上る。この百万ものポイントを教示する労力、手間、時間がどれほど膨大なものなのかは容易に想像がつき、ほぼ実行不可能といっても良い状態である。
一方、可動範囲が20mm×20mmである直動機構4を有する場合は、教示ポイント数は25ポイントにまで削減される。25ポイントの教示であるなら、十分実行可能であるし、応用も容易である。本発明により、これほどの圧倒的な効果が得られることは、強調されるべき点である。
【0033】
なお、印刷方法としては、従来技術で開示されているとおり、多軸型ロボット1を直接移動させて印刷する方法も考えられるが、これは課題の項目で述べたとおり、実際の軌道が蛇行してしまい、予測も困難であることから、限られた状況(数mmの蛇行が許容され、変動が予測の範囲内)以外では適用しにくく、汎用性に問題が生じる。
本発明の技術思想の根幹は、高精細なインクジェット印刷に対する汎用性を確保する(様々な形状のワークに対応する)ことであるので、多軸型ロボット1を直接移動させて印刷する方法は、本発明にかかる印刷方法としては適当ではない。
【0034】
次に、プッシュ式インクジェットヘッド3の詳細な構成について説明する。
本発明にかかる技術思想は、着弾径の小ささと着弾精度の高さを両立するために、液滴を小さくした上で、速度を上げるというものである。この思想のもとで、三次元ワークに対する最適なインクジェット方式について鋭意研究を行った結果、プッシュ式インクジェットヘッドが最適であるという結論を得た。
プッシュ式は、ピストン式とも呼ばれ、DoD型インクジェットの一つに分類されている。プッシュ式インクジェットヘッドの特徴は、小さな液滴径を実現しながら、同時に、液滴を押し出す力を大きくできる(力を効率的に液滴に乗せることができる)点である。
【0035】
研究の結果、プッシュ式のこのような特徴は、
図3に示すような機械的構造によって実現されていることが見出された。
図3は、本発明にかかるプッシュ式インクジェットヘッド3の構造を示しており、本発明にかかるプッシュ式インクジェットヘッド3は、オリフィス21と、インク貯留部22と、隔壁23と、圧電素子24と、を有する。
【0036】
さらに、第1の特徴である「力の大きさ」について、圧電素子24の形状により得られることを見出した。
圧電素子24は、電圧を印加したときに、長辺方向が最も大きく変位するように、隔壁23の反対側で固定される構造となっている。そして、その変位量は、圧電素子24が長いほど大きくなる。研究により、圧電素子24の最長辺の長さが最短辺の長さの5倍以上である直方体の形状である場合に、本発明にかかる装置において十分な力を有することがわかった。
【0037】
そして、第2の特徴である「力を効率的に液滴に乗せること」については、
図3に示すように、圧電素子24と、隔壁23と、インク貯留部22と、オリフィス21が、同じ直線上に配置されることに起因している。
圧電素子24で得られた力は、隔壁23を通じてインク貯留部22に伝えられ、インク貯留部22内を圧力波として伝播し、オリフィス21を通じて、液滴を飛翔させる運動エネルギーとなる。このとき、圧電素子24と、隔壁23と、インク貯留部22と、オリフィス21が、同じ直線上に配置されることによって、圧電素子24で発生した力が効率よく液滴に伝えられるということである。逆に、たとえば、それぞれが同じ直線上になかったとした場合、発生した圧力波はインク貯留部22の内部で反射、減衰を繰り返してオリフィス21に到達することになり、その分、液滴に与える運動エネルギーは小さくなってしまう。
【0038】
このように、圧電素子24で発生した力が効率よく液滴に与えられるようにした上で、オリフィス21の径を小さくすることで、液滴径が小さく、かつ速度を上げることができる。
具体的には、液滴径を小さくできることにより、着弾径は100um以下とすることができ、同時に、液滴速度を速くできることにより、ワーキングディスタンスを30mm以上とすることができる。
ここで、着弾径、およびワーキングディスタンスをそれぞれ独立して従来技術と比較すると、それぞれはそれほど優れた値ではないかもしれない。しかし、この2つを両立することができることこそが重要であると考える。
【0039】
なお、
図3に示すようなインクジェットヘッドの構造は、インク貯留部22が存在することにより、同一ヘッドに複数のノズルを並べる場合には、ノズル間距離を短くすることが難しく、微細化の観点から見ると一見不利であるように見えるため、これまであまり省みられなかった構造である。
しかし、この構造こそが、着弾径の小ささと着弾精度の高さを両立することを可能とし、三次元ワークに対する印刷エレクトロニクスを実現する優れたソリューションとなる。
(第2実施形態)
【0040】
本実施の形態においては、多軸型ロボット1を用いた印刷装置において、ヘッドの吐出状態を観察、監視することのできる装置構成例について説明する。第1実施形態において、直動機構4を用いることは、多軸型ロボット1を用いたインクジェット印刷に関して圧倒的な優位性を与えることを詳細に説明した。本実施の形態では、直動機構4が、ヘッドの吐出状態を観察、監視することにおいても、大きな優位性を与えることを説明する。
【0041】
図5は、
図2で示した第1の実施形態にかかるインクジェット吐出ユニット2を用いて、ヘッドの吐出状態を観察、監視する場合の装置構成の一例を示した図である。
図5において、インクジェット吐出ユニット2は、プッシュ式インクジェットヘッド3と、直動機構4と、を有する。さらに、本実施の形態にかかる装置は、吐出観察ユニット支持部9、撮像部5、光源6、を有する。
撮像部5および光源6は、それぞれ吐出観察ユニット支持部9に取り付けられ、撮像部5と光源6は直線的に配置される。このような配置となっているところに、多軸型ロボット1の位置決め機構を利用して、インクジェット吐出ユニット2を撮像部5および光源6に近接させる。
そして、プッシュ式インクジェットヘッド3を、撮像部5および光源6の間に配置することで、プッシュ式インクジェットヘッド3から吐出されるインク液滴を観察することができる。
【0042】
しかしながら、この場合、多軸型ロボット1のみでプッシュ式インクジェットヘッド3の位置決めを行なおうとしても、観察位置に確実に位置決めすることは困難である。なぜならば、本発明にかかる印刷装置では、インク液滴は100μm以下と小さいことに起因し、撮像部5に要求される空間分解能が高く(典型的には数μm)、その結果、撮像部5の被写界深度(焦点が合う範囲)は、非常に小さくなってしまう(典型的には数μm)ため、焦点が合う範囲に確実にインク液滴を位置決めするためには、高精度な位置決め機構(典型的には数μm)が必要となるためである。
【0043】
そこで、実施の形態1で示した構成である、プッシュ式インクジェットヘッド3を精密に位置決めする機能を有する直動機構4を利用することで、インク液滴を観察位置に確実に位置決めすることが可能となる。
このとき、直動機構4は、
図4cで示したように、3つの可動軸を有することが好ましい。なぜならば、インク液滴の精密な位置決めは三次元空間内で行なわれるため、3つの可動軸で最適な位置に精密に位置決めする必要があるためである。
【0044】
ただし、直動機構4の可動軸数が1つまたは2つであっても、インク液滴を観察位置に確実に位置決めすることは可能である。
たとえば、直動機構4の可動軸数が2つである場合は、残りの1つの可動軸を、吐出観察ユニット支持部9に組み込めばよい。同様に、直動機構4の可動軸数が1つである場合は、残りの2つの可動軸を、吐出観察ユニット支持部9に組み込めばよい。
このように、観察に必要となる3軸の可動軸数のうちの一部を、吐出観察ユニット支持部9に組み込む場合は、可動軸の可動範囲や位置決め精度を、観察に特化した形で設計することができる。
【0045】
次に、ヘッドの吐出状態を観察、監視することができる、別の構成について説明する。
図6は、撮像部5、および光源6を、インクジェット吐出ユニット2の内部に組み込んだ場合の構成を示す図である。
インクジェット吐出ユニット2は、プッシュ式インクジェットヘッド3と、直動機構4と、撮像部5と、光源6と、第1の光反射ミラー7aと、第2の光反射ミラー7bと、を有する。
プッシュ式インクジェットヘッド3は、直動機構4を介してインクジェット吐出ユニット2に取り付けられる。撮像部5、光源6は、プッシュ式インクジェットヘッド3から吐出されるインク液滴の方向と平行な向きでインクジェット吐出ユニット2に取り付けられる。第1の光反射ミラー7aおよび第2の光反射ミラー7bは、光源6から発せられた光が第2の光反射ミラー7b、および第1の光反射ミラー7aでそれぞれ反射されて、撮像部5に到達するように、インクジェット吐出ユニット2の内部に取り付けられる。
このように配置されることで、プッシュ式インクジェットヘッド3より先端に位置する領域に撮像部5および光源6を配置することを避けることができるので、印刷動作時に撮像部5および光源6がワークと干渉することを回避することができる。
ここで、直動機構4は、
図4cで示したように、3つの可動軸数を有することが好ましい。なぜならば、インク液滴の精密な位置決めは三次元空間内で行なわれるため、3つの可動軸で最適な位置に精密に位置決めする必要があるためである。
【0046】
ただし、
図5の場合と同様に、直動機構4の可動軸数が1つまたは2つであっても、インク液滴を観察位置に確実に位置決めすることは可能である。
たとえば、直動機構4の可動軸数が2つである場合は、残りの1つの可動軸を、撮像部5および光源6に組み込めばよい。
図6の構成では、撮像部5および光源6をプッシュ式インクジェットヘッド3に近接させるほど、プッシュ式インクジェットヘッド3から遠い位置のインク液滴を観察することが可能である。同様に、直動機構4の可動軸数が1つである場合は、残りの2つの可動軸を、撮像部5および光源6に組み込めばよい。
このように、観察に必要となる3軸の可動軸数のうちの一部を、撮像部5および光源6に組み込む場合は、可動軸の可動範囲や位置決め精度を、観察に特化した形で設計することができる。
【0047】
図6に示すように、撮像部5、および光源6を、インクジェット吐出ユニット2の内部に組み込む場合、さらなる好ましい効果を得ることができる。
すなわち、インクジェット吐出ユニット2を決められた吐出観察位置(
図5の例では、吐出観察ユニット支持部9を設置した位置)に移動させることなく、多軸型ロボット1の動作状態とは無関係に、吐出状態を観察、監視することができる点である。これにより、どのような動作状態であっても即座に吐出状態を観察、監視することができるため、吐出状態の変動をいち早く確認し、対処することが可能となる。
なお、撮像部5、および光源6を、プッシュ式インクジェットヘッド3と同様に、直動機構4を介してインクジェット吐出ユニット2に取り付ければ、プッシュ式インクジェットヘッド3が直動している最中であっても観察を継続することができるので、さらに好ましい。
(第3実施形態)
【0048】
本実施の形態においては、印刷動作時のワーキングディスタンス、およびワーキングアングルを測定、利用することができる構成例について説明する。
図7は、第1実施形態において説明したインクジェット吐出ユニット2に、ワーキングディスタンス、およびワーキングアングルの測定機能を付加した場合の装置構成例である。
【0049】
図7におけるインクジェット吐出ユニット2は、プッシュ式インクジェットヘッド3と、直動機構4と、第1の非接触距離センサ8aと、第2の非接触距離センサ8bと、第3の非接触距離センサ8cと、第4の非接触距離センサ8dと、を有する。
プッシュ式インクジェットヘッド3は、直動機構4を介してインクジェット吐出ユニット2に取り付けられ、第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dは、インクジェット吐出ユニット2の先端にそれぞれ対称的な位置関係をもって取り付けられる。
さらに、第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dは、配線を介して距離データ計算部40と電気的に接続される。距離データ計算部40は、インクジェット吐出ユニット2の内部に設置されてもよいし、外部に設置されてもよい。
【0050】
第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dから発生する信号は、それぞれ距離データ計算部40に送られ、距離データとして計算される。距離データ計算部40では、得られた複数の距離データを基に、距離データの平均値、および差分が計算される。距離データの平均値は、実質的なワーキングディスタンスを表し、距離データの差分は、実質的なワーキングアングルを表す。ここで、典型的には、ワーキングアングルは90°となるように制御するのが好ましく、したがって、距離データの差分ができるだけ0に近づくように、インクジェット吐出ユニット2の角度を、多軸型ロボット1を用いて制御することが好ましい。そして、距離データの差分が0とみなせるような状態になったとき、複数の距離データの平均値を実質的なワーキングディスタンスとして扱う。
ここで、直動機構4により、ワーキングディスタンスの精密な調整ができる場合、その調整値は、このように計算された実質的なワーキングディスタンスを基にして決定することができる。すなわち、直動機構4が存在することにより、本実施の形態で説明されたようなワーキングディスタンス測定機能は、より有効に利用されることが可能となる。
【0051】
なお、本実施の形態において、非接触距離センサの総数は4個として説明を行なったが、本実施の形態における技術思想においては、センサは複数であればよく、4個に限定されるものではない。例えば、センサの総数が2個の場合、特定の一方向に対するワーキングアングル、および実質的なワーキングディスタンスを、上述した方法で同様に算出することができる。センサの総数が3個の場合、特定の二方向に対するワーキングアングル、および実質的なワーキングディスタンスを、上述した方法で同様に算出することができる。センサの総数が4個以上の場合、さらに多くの方向に対するワーキングアングル、または検出位置(プッシュ式インクジェットヘッド3からの距離)の違いによる補正等、さらに細やかな距離検出、測定、利用が可能となり、好ましい。
【0052】
図8は、第2実施形態において説明したインクジェット吐出ユニット2に、ワーキングディスタンス、およびワーキングアングルの測定機能を付加した場合の装置構成例である。
図8におけるインクジェット吐出ユニット2は、プッシュ式インクジェットヘッド3と、直動機構4と、撮像部5と、光源6と、第1の光反射ミラー7aと、第2の光反射ミラー7bと、第1の非接触距離センサ8aと、第2の非接触距離センサ8bと、第3の非接触距離センサ8cと、第4の非接触距離センサ8dと、を有する。
プッシュ式インクジェットヘッド3は、直動機構4を介してインクジェット吐出ユニット2に取り付けられ、撮像部5、光源6は、プッシュ式インクジェットヘッド3から吐出されるインク液滴の方向と平行な向きでインクジェット吐出ユニット2に取り付けられる。
第1の光反射ミラー7aおよび第2の光反射ミラー7bは、光源6から発せられた光が第2の光反射ミラー7b、および第1の光反射ミラー7aでそれぞれ反射されて、撮像部5に到達するように、インクジェット吐出ユニット2の内部に取り付けられる。
第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dは、インクジェット吐出ユニット2の先端にそれぞれ対称的な位置関係をもって取り付けられる。さらに、第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dは、配線を介して距離データ計算部40と電気的に接続される。
距離データ計算部40は、インクジェット吐出ユニット2の内部に設置されてもよいし、外部に設置されてもよい。
【0053】
第1乃至第4の非接触距離センサ8a乃至8dから発生する信号の処理方法および利用方法は、上述したとおりであるが、
図8に示す構成の場合、さらなる好ましい効果を得ることができる。
本発明にかかる印刷方法においては、ワーキングディスタンスおよびワーキングアングルの測定を含め、多軸型ロボット1の位置決めを行なってから印刷をおこなう手順を踏むため、通常は、ワーキングディスタンスおよびワーキングアングルを測定している間は、印刷を行なわない。
この間、プッシュ式インクジェットヘッド3は、断続的に、多軸型ロボット1の位置決めに伴う振動にさらされることになるので、プッシュ式インクジェットヘッド3にとって、多軸型ロボット1の位置決めの最中が、特に吐出不良に対する注意が必要となる状態となる。
ここで、
図8に示す構成であれば、多軸型ロボット1の位置決めの最中であっても、常に吐出状態を観察、監視することができるので、吐出状態の変動をいち早く確認し、対処することが可能となる。なお、非印刷状態で吐出状態を観察する場合は、意図しないインクの付着を防止するため、プッシュ式インクジェットヘッド3とワークの間に遮蔽物を挿入できる構造とするのが、さらに好ましい。