(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グリセリンと直鎖脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分(A)と、分子内にエーテル結合を少なくとも1つ有する4価以上の多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分(B)とを含有し、
前記エステル成分(A)と前記エステル成分(B)のHLB値の差が5以下であり、
前記エステル成分(A)100重量部に対して、前記エステル成分(B)の割合が0.0001〜1重量部である、
合成繊維用処理剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の合成繊維用処理剤は、HLBの差が5以下となる特定のエステル成分(A)と特定のエステル成分(B)とを、特定の割合で含有するものである。以下、詳細に説明する。
【0014】
[エステル成分(A)]
エステル成分(A)は、本発明の処理剤の必須成分であり、グリセリンと直鎖脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステルである。エステル成分(A)の代わりに、1価アルコールと脂肪酸がエステル結合した構造を持つエステルを用いた場合、平滑性に優れるが、熱処理時の発煙が増加し、作業環境を悪化させる。エステル成分(A)は、1種又は2種以上を使用してもよい。また、グリセリンと分岐脂肪酸とがエステル結合した構造を持つエステルを用いた場合、平滑性が不足し、毛羽が増加する。なお、エステル成分(A)は、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。
【0015】
エステル成分(A)を構成する直鎖脂肪酸は、炭素骨格が直鎖構造である脂肪族モノカルボン酸をいう。直鎖脂肪酸には、ヒドロキシ脂肪酸も含まれてもよいが、ヒドロキシ脂肪酸が含まれると該処理剤の平滑剤としての役割が不足することから、ヒドロキシ脂肪酸は含まれないことが好ましい。
【0016】
エステル成分(A)として、グリセリンオレエート、グリセリンリノレート、アマニ油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、大豆油、オリーブ油、アボカド油、米油等を用いた場合、低温で処理剤成分が固化する問題は緩和されるが、耐熱性が乏しく熱処理時にタールが蓄積し、毛羽・断糸を誘発し、満管率の低下につながるおそれがある。このような観点から、エステル成分(A)を構成する直鎖脂肪酸は、リノール酸と、リノール酸を除く炭素数14〜22の脂肪酸(以下、脂肪酸(a)という)とを含有し、直鎖脂肪酸全体に占めるリノール酸の割合が5〜20重量%であることが好ましい。又、リノール酸と直鎖脂肪酸(a)との合計の重量割合は95重量%以上であることが好ましい。つまり、該直鎖脂肪酸は、リノール酸と脂肪酸(a)から実質的に構成されているものが好ましい。
【0017】
直鎖脂肪酸全体に占めるリノール酸の割合は、6〜19重量%がより好ましく、7〜18重量%がさらに好ましい。リノール酸の割合が5重量%未満の場合、十分な油膜強度が得られなくなり、毛羽が発生し、高品位の繊維が得られないことがある。一方、リノール酸の割合が20重量%超の場合、処理剤の耐熱性が悪化し、ローラー汚れが発生し、その結果、毛羽、断糸が発生することがある。
【0018】
直鎖脂肪酸全体に占める直鎖脂肪酸(a)の割合は、75〜95重量%が好ましく、76〜94重量%がより好ましく、77〜93重量%さらに好ましい。該割合が75重量%未満の場合、該エステルの油膜強度が不足したり、分子量が大きくなり十分な平滑性が得られなくなったりする。そのため、毛羽が発生し、高品位の繊維が得られないことがある。一方、該割合が95重量%超の場合、油膜強度が低下し、毛羽が発生することがある。
【0019】
また、直鎖脂肪酸全体に占めるリノール酸と直鎖脂肪酸(a)との合計の重量割合は、96重量%以上が好ましく、97重量%以上がより好ましい。該割合が95重量%未満の場合、十分な油膜強度が得られなくなり、毛羽が発生し、高品位の繊維が得られないことがある。
【0020】
直鎖脂肪酸全体に占めるリノレン酸の重量割合は、2重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、0.5重量%以下がさらに好ましく、0重量%が特に好ましい。該重量割合が2重量%超の場合、処理剤の耐熱性が悪化し、ローラー汚れが発生し、その結果、毛羽、断糸が発生することがある。
【0021】
また、直鎖脂肪酸(a)は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。直鎖脂肪酸(a)の炭素数は14〜22であり、14〜20がさらに好ましい。炭素数が14未満の場合、十分な油膜強度が得られなくなり、毛羽が発生することがある。炭素数が22超であると、エステルの平滑性が不足し、毛羽が増加することがある。
【0022】
直鎖脂肪酸(a)としては、例えば、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノレン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0023】
本発明の効果をより発揮させる点から、エステル成分(A)の凝固点は、−10℃以上が好ましく、−10〜15℃が好ましく、−10〜10℃がさらに好ましい。該凝固点が−10℃未満の場合、エステル成分(B)の併用の必要がない場合がある。なお、本発明でいう凝固点とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料を50℃まで昇温し1分間等温し、次に10℃/分で−60℃まで冷却し8分間等温して固化し、その後10℃/分で50℃まで昇温した時に得られるDSC曲線の吸熱ピークのうち、最も吸熱が大きいピークの温度をいう。
【0024】
エステル成分(A)のヨウ素価は、30〜80が好ましく、35〜75がより好ましく、40〜75がさらに好ましい。該ヨウ素価が30未満の場合、エステル成分(A)の凝固点が高く、エステル成分(B)を使用しても、低温で凝固し易く、本発明の効果が得られにくい。一方、該ヨウ素価が80超の場合、耐熱性が悪化し、その結果、毛羽、断糸も悪化する場合がある。なお、本発明でのヨウ素価は、JIS K−0070に基づき測定した値をいう。
【0025】
エステル成分(A)の酸価は、7以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。エステル成分(A)の酸価が7超の場合、熱処理時に多量の発煙が発生したり、臭気が発生したりして、使用環境を悪化する場合がある。なお、本発明での酸価は、JIS K−0070に基づき測定した。
【0026】
エステル成分(A)の水酸基価は、0.1〜25が好ましく、0.5〜23がより好ましく、1.0〜20がさらに好ましい。エステル成分(A)の水酸基価が0.1未満の場合、エステルを得るのは困難な場合がある。一方、エステル成分(A)の水酸基価が25超の場合、該処理剤の平滑剤としての役割が不足し、毛羽が増加する場合がある。なお、本発明での水酸基価は、JIS K−0070に基づき測定した。
【0027】
エステル成分(A)の重量平均分子量は、500〜1200が好ましく、700〜1000がより好ましく、800〜1000がさらに好ましい。該重量平均分子量が500未満の場合、油膜強度が不足し、毛羽が増加したり、熱処理時の発煙が増加したりする場合がある。一方、該重量平均分子量が1200超の場合、平滑性が不足して毛羽が多発し、高品位の繊維が得られないだけでなく、製織や編み工程での品位が劣る場合がある。なお、本発明における重量平均分子量は、東ソー(株)製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC−8220GPCを用い、試料濃度3mg/ccで、昭和電工(株)製分離カラムKF−402HQ、KF−403HQに注入し、示差屈折率検出器で測定されたピークより算出した。
【0028】
エステル成分(A)のHLB値は、0.1〜3が好ましく、0.2〜2.8がより好ましく、0.3〜2.6がさらに好ましく、0.4〜2.4が特に好ましい。ここでHLBとは、Hydrophilic Lipophilic Balanceの略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、この数値が大きい程、親水性が強い事を示す。本発明におけるHLBはGriffinらが提唱したアトラス法により、実験的に求めることができる。
エステル成分(A)は、分子内に3個のエステル基を有する化合物である。
【0029】
エステル成分(A)は、天然の種子や花など天然より得られる天然エステルを公知の方法で精製したり、更に精製したエステルを公知の方法で融点差を利用して分離、再精製をしたりして得ることができる。天然エステルとしては、あまに油、ひまわり油、大豆油、菜種油、胡麻油、オリーブ油、パーム核油、パーム油、ヤシ油等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、パーム油が好ましい。
エステル成分(A)は、脂肪酸とグリセリンとを反応させて得られる合成エステルや、2種以上の天然エステル(油脂)をエステル交換して得られたエステルや、天然エステルと脂肪酸とグリセリンとを混合し、ランダムにエステル交換して得られるエステルを除くものが好ましい。
【0030】
[エステル成分(B)]
エステル成分(B)は、本発明の必須成分であり、「エーテル結合を少なくとも1つ有する4価以上の多価アルコール」と「脂肪酸」とがエステル結合した構造を有する化合物である。エステル成分(A)とエステル成分(B)のHLBの差が5以下となる関係で、これら両エステル成分を特定の割合で併用することにより、季節要因等の温度変化による製糸性の変動を抑制することができ、毛羽や糸切れを低減することができる。エステル成分(B)は、1種又は2種以上を使用してもよい。また、エステル成分(B)は、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物である。
【0031】
エステル成分(A)とエステル成分(B)のHLBの差が5以下とは、エステル成分(A)のHLB(Haとする)とエステル成分(B)のHLB(Hbとする)の差の絶対値(│Ha−Hb│)が5以下であることをいう。エステル成分(A)とエステル成分(B)のHLBの差が5を超えると、季節要因等の温度変化による製糸性の変動を抑制することができない。エステル成分(A)とエステル成分(B)のHLBの差は、5以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5以下が特に好ましい。なお、エステル成分(A)を複数使用する場合はHLBが低いものをHaとし、エステル成分(B)を複数使用する場合は、HLBが低いものをHbとする。
【0032】
エステル成分(B)を構成する「エーテル結合を少なくとも1つ有する4価以上の多価アルコール」とは、分子内に、エーテル結合を1つ以上有し、かつ水酸基を4つ以上有する多価アルコールをいう。また、分子内にポリオキシアルキレン基を有しない化合物をいう。このような多価アルコールとしては、例えば、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの中でも、本発明の効果をより発揮させる観点から、ポリグリセリン、ショ糖、ソルビタンが好ましい。
【0033】
ポリグリセリンは、平均重合度が3以上のものをいい、平均重合度3未満はポリグリセリンに含まれない。ポリグリセリンの平均重合度は、4〜60が好ましく、4〜45、5〜20が好ましく、6〜19がより好ましく、7〜18がさらに好ましい。該平均重合度が60超の場合、処理剤への溶解性が低下することがある。
【0034】
エステル成分(B)を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。当該脂肪酸の炭素数は、4〜24が好ましく、6〜22がより好ましく、8〜22がさらに好ましい。該炭素数が4未満の場合及び24超の場合、本願発明の効果を発揮できないことがある。
当該脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラドコサン酸等が挙げられる。
【0035】
エステル成分(B)は、分子内に3個以上のエステル基を有する化合物であることが好ましい。エステル基の数は、3〜60個がより好ましく、3〜40個がさらに好ましく、3〜30個が特に好ましく、3〜20個が最も好ましい。
【0036】
エステル成分(B)の重量平均分子量は、750〜20000が好ましく、770〜17000、800〜15000、830〜13000、850〜10000、870〜7000の順に好ましい。該重量平均分子量が750未満の場合、本願発明の効果を発揮できないことがある。一方、該重量平均分子量が20000超の場合、処理剤への溶解性が低下することがある。
【0037】
本願発明の効果をより発揮させる点から、エステル成分(B)のヨウ素価は、65以下が好ましく、62以下がより好ましく、58以下がさらに好ましく、55以下が特に好ましい。
【0038】
本願発明の効果をより発揮させる点から、エステル成分(B)の水酸基価は、130以下が好ましく、2〜127がより好ましく、25〜123がさらに好ましく、40〜120が特に好ましい。
【0039】
本願発明の効果をより発揮させる点から、エステル成分(B)のエステル化率は、51モル%以上が好ましく、53〜98モル%がより好ましく、55〜95モル%がさらに好ましい。エステル成分(B)のエステル化率が51モル%未満の場合、処理剤への溶解性が低下することがある。なお、本発明におけるエステル化率とは、多価アルコールの全水酸基に対して、脂肪酸によりエステル化された割合をいう。
【0040】
本願発明の効果をより発揮させる点から、エステル成分(B)のHLBは、0.1〜6.0が好ましく、0.5〜5.8がより好ましく、1.0〜5.7がさらに好ましく、1.5〜5.5が特に好ましい。
【0041】
これらの中でも、成分(B)としては、ポリグリセリンと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分(B1)、ショ糖と脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分(B2)、及びソルビタンと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分(B3)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エステル成分(B1)と、エステル成分(B2)及び/又はエステル成分(B3)とを必須とする場合がさらに好ましい。
【0042】
エステル成分(B)の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。例えば、アルカリ触媒下、酸触媒下、又は無触媒下にて、常圧又は減圧下でエステル化することができる。具体的には、多価アルコールと脂肪酸と触媒とを仕込み、窒素ガス気流下で160〜260℃の温度で遊離脂肪酸がなくなるまで反応させて得ることができる。なお、得られたエステル成分(B)は使用される製品の使用上の要求によってさらに精製してもよい。精製の方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。例えば、活性炭や活性白土等にて吸着処理したり、水蒸気、窒素等をキャリアーガスとして用いて減圧下脱臭処理を行ったり、酸やアルカリを用いて洗浄を行ったり、分子蒸留を行ったりして、精製することができる。
また、エステル成分(B)は公知のエステル交換反応に準じて製造することができ、溶媒を用いる方法を例に取り以下に簡単に説明する。所定量の原料、溶媒、触媒を仕込み、減圧下で40〜130℃の温度に保ちながら、エステル交換反応を通常20〜80時間行う。
【0043】
[ノニオン界面活性剤]
本発明の処理剤は、さらにノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤を用いることにより、水系付与するための乳化性を与えることができる。また、油膜強度の向上、集束性の向上を図ることができ、高い製糸性が得られる。ノニオン界面活性剤は、1種又は2種以上を使用してもよい。
【0044】
処理剤の油膜強度を向上させ、高い製糸性を得ることができる点から、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル及びポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルから選ばれる少なくとも1種のノニオン界面活性剤(1)を含むことが好ましい。
【0045】
ノニオン界面活性剤全体に占めるノニオン界面活性剤(1)の重量割合は、5〜95重量%が好ましく、8〜93重量%がより好ましく、10〜91重量%がさらに好ましい。該重量割合が5重量%未満の場合、処理剤の油膜強度が低下し毛羽が増加したり、本処理剤をエマルションで使用する場合の安定性が不足したりすることがある。一方、該重量割合が95重量%超の場合、処理剤の平滑性が不足し、毛羽が増加することがある。
【0046】
ノニオン界面活性剤(1)の一つであるポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)は、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上の水酸基がエステル化されている。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0047】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、例えば、炭素数6〜22(好ましくは16〜20)のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。
【0048】
炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が挙げられ、リシノール酸が好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0049】
アルキレンオキシドの付加モル数は、3〜60が好ましく、8〜50がさらに好ましい。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
2種類以上のアルキレンオキシドを付加する場合、それらの付加順序は特に限定されるものでなく、付加形態はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。アルキレンオキシドの付加は公知の方法により行うことができるが、塩基性触媒の存在下にて行うことが一般的である。
【0050】
ポリヒドロキシエステルは、例えば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、ひまし油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ひまし油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによっても、好適に製造できる。
【0051】
ノニオン界面活性剤(1)には、上述のポリヒドロキシエステルの少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルも含まれる。封鎖する脂肪酸の炭素数は6〜24が好ましく、12〜18がさらに好ましい。脂肪酸中の炭化水素基の炭素数は分布があってもよく、炭化水素基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、多環構造を有していてもよい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。エステル化の方法、反応条件等については特に限定はなく、公知の方法、通常の条件を採用できる。
【0052】
ノニオン界面活性剤(1)としては、例えば、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物モノオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物ジオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレート、ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレートが挙げられる。これらのなかでも処理剤の相溶性、油膜強度、毛羽減少の点から、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物トリステアレートが好ましい。
【0053】
ノニオン界面活性剤(1)以外のノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル(2)、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル(3)、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(4)、ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(5)、多価アルコール脂肪酸エステル(6)等が挙げられる。
【0054】
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル(2)とは、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した構造を持つ化合物である。
【0055】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでもグリセリン、トリメチロールプロパン、ショ糖、が好ましい。
【0056】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3〜100が好ましく、4〜70がより好ましく、5〜50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテルの重量平均分子量は、300〜10000が好ましく、400〜8000がより好ましく、500〜5000がさらに好ましい。
【0057】
ポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル(2)としては、ポリエチレングリコール、グリセリンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジグリセリンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシド付加物、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシド付加物、ソルビトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジトリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ショ糖エチレンオキシド付加物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0058】
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル(3)は、多価アルコールに対して、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドが付加した化合物と、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。
【0059】
多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ショ糖等が挙げられる。これらのなかでも、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールが好ましい。
【0060】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラドコサン酸等が挙げられる。
【0061】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、3〜100が好ましく、5〜70がより好ましく、10〜50がさらに好ましい。また、アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0062】
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル(3)の重量平均分子量は、300〜7000が好ましく、500〜5000がより好ましく、700〜3000がさらに好ましい。
【0063】
ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル(3)としては、グリセリンエチレンオキシド付加物モノラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物ジラウレート、グリセリンエチレンオキシド付加物トリラウレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物トリラウレート、ソルビタンエチレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物モノオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物ジオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリオレエート、ソルビタンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物トリラウレート、ショ糖エチレンオキシド付加物トリラウレート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0064】
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(4)とは、脂肪族一価アルコールに対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。
【0065】
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(4)としては、例えば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
【0066】
アルキレンオキシドの付加モル数としては、1〜100モルが好ましく、2〜70モルがより好ましく、3〜50モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキシド全体に対するエチレンンオキシドの割合は、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
【0067】
ポリアルキレングリコールの脂肪酸エステル(5)とはポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと、脂肪酸とがエステル結合した構造を持つ化合物である。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、100〜1000が好ましく、150〜800がより好ましく、200〜700がさらに好ましい。
【0068】
ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル(5)としては、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジラウレート、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノオレエート、ポリエチレンポリプロピレングリコールジオレエート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
多価アルコール脂肪酸エステル(6)は、多価アルコールと脂肪酸がエステル結合した構造を持ち、かつ少なくとも1つ又は2つ以上の水酸基を有し、さらに上記のエステル成分(A)及びエステル成分(B)を除く化合物である。
【0070】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン等が挙げられる。これらのなかでも、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトールが好ましい。
【0071】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、イソイコサン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0072】
多価アルコール脂肪酸エステル(6)の重量平均分子量は、750未満が好ましく、200〜700がより好ましく、300〜600がさらに好ましい。
【0073】
多価アルコール脂肪酸エステル(6)としては、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0074】
多価アルコール脂肪酸エステル(6)は、乳化性を付与する観点から、分子内のエステル基が3個未満の化合物が好ましい。
多価アルコール脂肪酸エステル(6)の水酸基価は、130超が好ましく、150〜1200がより好ましく、200〜800がさらに好ましい。
多価アルコール脂肪酸エステル(6)のエステル化率は、51モル%未満が好ましく、5〜40モル%がより好ましく、10〜30モル%がさらに好ましい。
【0075】
[合成繊維用処理剤]
本発明の合成繊維用処理剤は、原料合成繊維に付与された後に巻き取られること無く、熱延伸される合成繊維を製造する際に使用される処理剤であり、HLBの差が5以下となる、前述のエステル成分(A)とエステル成分(B)とを必須に含有するものである。エステル成分(B)の割合は、エステル成分(A)100重量部に対して、0.0001〜1重量部であり、0.0002〜0.9重量部がより好ましく、0.0005〜0.8重量部がさらに好ましく、0.0008〜0.7重量部が特に好ましい。該割合が0.0001重量未満の場合、または該割合が1重量部超の場合は、季節要因等の温度変化による製糸性の変動を抑制することができない。
【0076】
処理剤の不揮発分に占めるエステル成分(A)の重量割合は、10〜70重量%が好ましく、13〜67重量%がより好ましく、15〜65重量%がさらに好ましい。該重量割合が10重量%未満の場合、処理剤の発煙による作業環境の悪化の改善効果が小さくなることがある。一方、該重量割合が70重量%超の場合、本願発明の効果を発揮できないことがある。なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理等して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0077】
処理剤がノニオン界面活性剤を含有する場合、処理剤の不揮発分に占めるノニオン界面活性剤の重量割合は、15〜65重量%が好ましく、20〜63重量%がより好ましく、25〜60重量%がさらに好ましい。該重量割合が15重量%未満の場合、処理剤の油膜強度が低下し、毛羽が増加したりすることがある。一方、該重量割合が65重量%超の場合、エステル成分の使用量が減少して平滑性が不足し、毛羽が増加することがある。
【0078】
(その他成分)
本発明の合成繊維用処理剤は、処理剤のエマルション化、繊維への付着性補助、繊維からの処理剤の水洗、繊維への制電性、潤滑性、集束性の付与等のために、上記のノニオン界面活性剤以外の界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、アルキルホスフェートの金属塩又はアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルホスフェートの金属塩又はアミン塩、アルカンスルホン酸塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキルイミダゾリニウム塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これら界面活性剤は、1種又は2種以上で併用してもよい。これら界面活性剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める界面活性剤の重量割合は、特に限定はないが、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%がより好ましい。なお、ここでいう界面活性剤は、重量平均分子量が1000未満のものをいう。
【0079】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、上記エステル成分(A)以外の平滑剤として、鉱物油、一価アルコールと脂肪酸のエステル、多価アルコールと脂肪酸のエステル及び一価アルコールと多価カルボン酸のエステルから選ばれる少なくとも1種の平滑剤(E)を含有してもよい。これら平滑剤(E)は1種又は2種以上を使用してもよい。ここでいう鉱物油は処理剤を希釈するために用いる低粘度希釈剤ではなく、不揮発分に含まれる。処理剤の不揮発分に占める平滑剤(E)の重量割合は、0.1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%が好ましい。
【0080】
鉱物油としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができる。鉱物油の30℃における粘度は、100〜500秒が好ましい。
一価アルコールと脂肪酸のエステルとしては、特に限定はないが、イソオクチルパルミテート、イソトリデシルステアレート、オレイルオレエート等を挙げることができる。一価アルコールと脂肪酸のエステルの重量平均分子量は300〜600が好ましい。
多価アルコールと脂肪酸のエステルとしては、特に限定はないが、トリメチロールプロパントリラウレート、ネオペンチルグリコールジオレエート、ペンタエリスリトールテトラデカネート等を挙げることができる。多価アルコールと脂肪酸のエステルの重量平均分子量は300〜1200が好ましい。
一価アルコールと多価カルボン酸のエステルのとしては、特に限定はないが、ジオレイルアジペート、ジオクチルセバケート、トリオクチルトリメリテート等を挙げることができる。一価アルコールと多価カルボン酸のエステルの重量平均分子量は300〜1200が好ましい。
【0081】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、耐熱性を付与するため、さらに酸化防止剤や変成シリコーンを含有してもよい。酸化防止剤としては、フェノール系、チオ系、ホスファイト系等の公知のものが挙げられる。酸化防止剤は1種または2種以上を使用してもよい。酸化防止剤を含有する場合の処理剤の不揮発分に占める酸化防止剤の重量割合は、特に限定はないが、0.1〜5重量%が好ましく、0.1〜3重量%が好ましい。
【0082】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、更に原液安定剤(例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール)を含有してもよい。原液安定剤を含有する場合の処理剤に占める原液安定剤の重量割合は、0.1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。
【0083】
また、本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのジエステル化合物を含有してもよい。
チオジプロピオン酸と脂肪族アルコールとのジエステル化合物は、抗酸化能を有する成分である。該ジエステル化合物を使用することで、処理剤の耐熱性を高めることができる。1種または2種以上を使用してもよい。該ジエステル化合物の分子量は、400〜1000が好ましく、500〜900がより好ましく、600〜800がさらに好ましい。該ジエステル化合物を構成する脂肪族アルコールは、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪族アルコールの炭素数は8〜24が好ましく、12〜24がより好ましく、16〜24がさらに好ましい。脂肪族アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、イソセチルアルコール、オレイルアルコールおよびイソステアリルアルコールなどが挙げられ、これらの中でもオレイルアルコール、イソセチルアルコール、イソステアリルアルコールが好ましい。
【0084】
本発明の合成繊維用処理剤は、不揮発分のみからなる前述の成分で構成されていてもよく、不揮発分と原液安定剤とから構成されてもよく、水中に不揮発分を乳化した水系エマルションであってもよい。本発明の合成繊維用処理剤が水中に不揮発分を乳化した水系エマルションの場合、不揮発分の濃度は5〜35重量%が好ましく、6〜30重量%がより好ましい。
【0085】
本発明の合成繊維用処理剤の製造方法については、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。合成繊維用処理剤は、構成する前記の各成分を任意又は特定の順番で添加混合することによって製造される。
【0086】
[合成繊維フィラメント糸条、その製造方法及び繊維構造物]
本発明の合成繊維フィラメント糸条は、本発明の合成繊維用処理剤が付与されたものである。また、本発明の合成繊維フィラメント糸条の製造方法は、原料合成繊維フィラメント糸条に、本発明の合成繊維用処理剤を付与する工程を含むものである。本発明の製造方法によれば、スカムや糸切れの発生を低減することができ、糸品位に優れた合成繊維フィラメント糸条を得ることができる。なお、本発明における原料合成繊維フィラメント糸条とは、処理剤が付与されていない合成繊維フィラメント糸条をいう。
【0087】
合成繊維用処理剤を付与する工程としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。通常、原料合成繊維フィラメント糸条の紡糸工程で合成繊維用処理剤を付与する。処理剤が付与された後、熱ローラーにより延伸、熱セットが行われ、巻き取られる。このように、処理剤を付与した後、一旦巻き取られることなく熱延伸する工程を有する場合に、本発明の合成繊維用処理剤は好適に使用することができる。熱延伸する際の温度として一例をあげると、ポリエステル、ナイロンでは、産業資材用であれば210〜260℃、衣料用であれば110〜180℃が想定される。
【0088】
原料合成繊維フィラメント糸条に付与する際の合成繊維処理剤は、水中に不揮発分を乳化した水系エマルション処理剤が挙げられる。付与方法としては、特に限定されるものではないが、ガイド給油、ローラー給油、ディップ給油、スプレー給油等が挙げられる。これらの中ででも、付与量の管理のしやすさから、ガイド給油、ローラー給油が好ましい。
【0089】
合成繊維用処理剤の不揮発分の付与量は、原料合成繊維フィラメント糸条に対して、0.05〜5重量%が好ましく、0.1〜3重量%がより好ましく、0.1〜2重量%がさらに好ましい。0.05重量%未満の場合、本発明の効果を発揮することができない場合がある。一方、5重量%超の場合、処理剤の不揮発分が糸道に脱落しやすく、熱ローラー上のタールが著しく増加し、毛羽、断糸に繋がる場合がある。
【0090】
合成繊維フィラメント糸条としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維のフィラメント糸条が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維に適している。ポリエステル繊維としては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PET)、トリメチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PTT)、ブチレンエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル(PBT)、乳酸を主たる構成単位とするポリエステル(PLA)等が挙げられ、ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられ、ポリオレフィン繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。合成繊維フィラメント糸条の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【0091】
本発明の繊維構造物は、上記の本発明の製造方法で得られた合成繊維フィラメント糸条を含むものである。具体的には、本発明の合成繊維用処理剤が付与された合成繊維フィラメント糸条を用いてウォータージェット織機、エアジェット織機、または、レピア織機で織られた織物、および丸編み機、経編み機、または、緯編み機で編まれた編物である。また繊維構造物の用途としては、タイヤコード、シートベルト、エアバッグ、魚網、ロープ等の産業資材、衣料用等が挙げられる。織物、編物を製造する方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例により本発明を説明するが、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、文中及び表中の「%」は「重量%」を意味する。
【0093】
[実施例1]
表4に記載の成分を混合して、70℃で均一になるまで攪拌し、処理剤(I)を調製した。上記で調製した各処理剤(I)を用いて、下記の方法により、凝固性と乳化液の安定性を評価した。その結果を表4に示す。なお、表4の処理剤成分の数字は、処理剤の不揮発分の重量部を示す。また、処理剤成分の詳細は、表1、2及び3に示す。
表1は、グリセリンと脂肪酸とがエステル結合した構造を有するエステル成分であって、エステル成分を構成する脂肪酸の重量割合、エステル成分のHLB、ヨウ素価、水酸基価、酸価、重量平均分子量を示すものである。エステル成分としては、天然より得られるエステルを公知の方法で精製したり、更に精製したエステルを公知の方法で融点差を利用して分離、再精製を行ったり、一般的に市販されているエステルを用いた。また、表1中のCの次にくる数字は脂肪酸の炭素数を示し、Fの次にくる数字は脂肪酸中の二重結合の数を示す。
【0094】
(凝固性)
処理剤(I)を容量100mLのふた付きガラス瓶中に80mL入れ、容器を密閉し、所定温度(5℃)に設定したエスペック株式会社製環境試験機(PL−3KP)に処理剤(I)を封入したガラス瓶を72時間静置した。その後の処理剤(I)の外観を目視判定し、以下の基準により凝固性を評価した。
○:凝固しておらず、流動性がある。
△:外観に曇り、濁りがあり、一部が固化している。
×:外観に曇り、濁りがあり、大半が固化している。
【0095】
(乳化液の安定性)
凝固性の評価で用いた処理剤(I)の入ったふた付きガラス瓶を所定温度(20℃)に設定したエスペック株式会社製環境試験機(PL−3KP)に2時間静置した。その後、処理剤(I)を20℃の攪拌下のイオン交換水に徐々に投入した。投入後、均一な状態になるまで60分攪拌し、不揮発分濃度が15重量%である処理剤(II)(O/W型エマルション状態)を調製した。得られた処理剤(II)を20℃で1日保存した。その後の処理剤(II)の外観を目視判定し、以下の基準により乳化液の安定性を評価した。
○:均一な乳化状態を維持している。
△:液面に浮遊物が見られる。
×:分離している。
【0096】
次に、温度変化、耐熱性による製糸性の変動抑制を評価した。
処理剤(I)をそれぞれ2℃、5℃、15℃、25℃、35℃で72時間静置後、20℃で2時間静置した。その後の各処理剤(I)を20〜30℃の攪拌下のイオン交換水に徐々に投入した。投入後、均一な状態になるまで60分攪拌し、不揮発分濃度が15重量%である処理剤(III)(O/W型エマルション状態)を調製した。調製した処理剤(III)を用いて、以下の方法で、耐熱性、断糸数、毛羽数を評価した。
【0097】
溶融紡糸工程において、ポリエステルポリマーを溶融紡糸し、冷却固化した糸条に対して、上記で調製した処理剤(III)を、ノズル給油法を用いて、不揮発分の付与量が0.8重量%となるよう付与した。
処理剤が付与された糸条は、一旦巻き取ること無く連続して延伸され、180℃のホットローラーを介し、2.6倍に延伸し、83デシテックス、36フィラメントを得た。延伸、熱セットされた糸条は巻き上げられるが、巻き上げ直前に糸条にインターレースをかけ、フィラメント相互を集束させた。インターレースは高圧の流体、例えば高圧空気を、ノズルを通して噴きつけることによって行った。24時間走行させたときの耐熱性、断糸数、毛羽数について、下記の基準で評価した。その結果を表4に示す。
【0098】
(耐熱性)
耐熱性について、評価後のホットローラーに付着したタール量から、次の基準で評価した。
○:タール化物が認められないか、ごくわずかである。
×:著しくタール化物が認められる。
【0099】
(断糸数)
発生した断糸数を次の基準で評価した。
○:断糸数 1回未満
△:断糸数 1回以上〜3回未満
×:断糸数 3回以上
【0100】
(毛羽数)
100万m当たりの毛羽数について、フライカウンター(東レエンジニア社製)を用いて測定し、次の基準で評価した。
○:毛羽数 1個未満
△:毛羽数 1個以上〜3個未満
×:毛羽数 3個以上
【0101】
[実施例2〜30、比較例1〜18]
実施例1の処理剤(I)において、表4〜8に記載の処理剤成分及びそれらの配合量に変更する以外は、実施例1と同様に評価した。その結果を表4〜8に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
【表7】
【0109】
【表8】
【0110】
表4〜8からわかるように、本発明の実施例1〜30は凝固し難く、乳化液の安定性に優れている。さらに耐熱性にも優れている。凝固し難く耐熱性に優れる処理剤は季節要因等の温度変化や熱処理により発生したタールによる製糸性の変動を抑制して、毛羽や糸切れを低減させることができる。そのため、高品位な布帛を得ることができる。
一方、比較例1〜18は、凝固性が劣り、乳化液の安定性に劣る。凝固性が劣り、乳化液の安定性に劣る処理剤は、紡糸工程での毛羽や糸切れに繋がり、満管率の低下や後加工工程での製織性・製編性不良につながる。さらに、耐熱性が劣る処理剤は、紡糸工程での熱処理時にタールが発生し、毛羽や糸切れに繋がり、満管率の低下につながる。