【文献】
民家付近でもトンネル発破が可能に,日経コンストラクション,日本,日経BP社,2015年 1月12日,第607号,p.30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御発破に際しては、発破によって生じる振動や騒音が所定の基準値以下となるように各種の条件が制御される。
例えば、発破時に発生する発破振動(変位速度)の予想式は下記式(1)で示され、この値が基準値以下になるように段当たりの薬量(W)等の値が制御される。
V=K×W
m×D
n……(1)
V:変位速度(cm/s)
K:発破条件や地盤条件によって変化する定数
W:段当たりの薬量(kg)
D:発破場所からの距離(m)
m:定数、n:定数
なお、「段当たり」とは、1回の同時の爆破当たりを意味する。
【0005】
ここで、発破によって構造物の解体を行う場合、解体作業が進むにつれて構造物の残存質量が減少し、構造物周辺の地盤の拘束力が低減する。
この結果、解体作業が進むにつれて解体作業の開始時と比較して周辺に振動や騒音が伝わりやすくなるという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、発破による構造物の解体時に、解体作業の進行状況に合わせて適切に発破条件を設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる構造物の解体方法は、複数の爆薬付き雷管を所定の起爆間隔で順次起爆させて構造物を解体する構造物の解体方法であって、前記構造物の残存質量が小さくなるほど前記雷管1つ当たりの装薬量を低減させるとともに、前記起爆間隔を短くする、ことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる構造物の解体方法は、前記構造物を複数の領域に分割する工程と、前記複数の領域に対して解体順序を設定する工程と、前記複数の領域それぞれにおける前記雷管1つ当たりの装薬量および前記雷管の起爆間隔を決定する工程と、それぞれの前記領域に雷管を設置するとともに、設置した前記雷管を前記解体順序に沿って順次起爆させる工程と、を含み、前記装薬量および前記起爆間隔を決定する工程では、前記解体順序が遅い領域ほど前記装薬量を少なく、前記起爆間隔を短い値とする、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる構造物の解体方法は、前記雷管を起爆させる工程では、複数設置した雷管の起爆を1つの雷管ごとに行なう1孔1段発破を行う、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる構造物の解体方法は、解体前の前記構造物の質量をV0、解体開始時の前記起爆間隔をT0とした場合、前記構造物の前記残存質量がV1となった際の前記起爆間隔T1が、下記式(2)で表される、ことを特徴とする。
【0007】
【数1】
【0008】
請求項5の発明にかかる構造物の解体方法は、前記起爆間隔が30ms以上の場合は電気雷管を用いるとともに、前記起爆間隔が30ms未満の場合は電子雷管を用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、発破によって構造物を解体する際に、構造物の残存質量が小さくなるほど、すなわち解体作業が進行するほど雷管1つ当たりの装薬量を低減させるので、構造物周辺の地盤の拘束力が低減して振動や騒音が伝わりやすくなった場合であっても、周辺環境への影響を低減する上で有利となる。また、装薬量の低減に伴って起爆間隔を短くするので、発破の段数が多くなった際に解体作業時間を短期に完了させる上で有利となる。
請求項2の発明によれば、構造物を複数の領域に分割して、複数の領域それぞれにおける装薬量および起爆間隔を決定するので、構造物の形状や材質などに合わせて装薬量および起爆間隔を決定することができ、解体作業の効率を向上させる上で有利となる。
請求項3の発明によれば、1孔1段発破を行うので多段発破と比較して振動および騒音の発生を低減する上で有利となる。
請求項4の発明によれば、任意の解体状態における起爆間隔を定量的に決定することができ、解体作業の作業品質を安定させる上で有利となる。
請求項5の発明によれば、起爆間隔が30ms以上の場合には比較的コストの低い電気雷管を用い、起爆間隔が30ms未満の場合には比較的コストが高いが精密な起爆間隔の制御が可能な電子雷管を用いるので、コストと作業効率とのバランスを取る上で有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる構造物の解体方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、解体対象となる構造物として、コンクリート製のダムを例に挙げて説明する。
図1は、本実施の形態において解体対象となるダムを示す説明図であり、
図1Aは下流側から見たダム10の正面図、
図1Bは
図1Aの紙面左側から見たダム10の側面図である。
ダム10は、重力式コンクリートダムであり、
図1に示す状態では紙面左側の門柱1002の一部や門柱間に設けられたゲート等が既に解体されている。本実施の形態では、
図1Aの紙面左側の堤体の一部領域(以下、「解体領域12」という)を発破により解体する。
【0012】
図3は、実施形態にかかる構造物の解体方法の手順を示すフローチャートである。
解体作業者は、まず解体対象の構造物(解体領域12)を複数の領域に分割する(ステップS300)。領域の分割数および分割線は、解体領域12の強度や大きさ、形状等により適宜決定する。
本実施の形態では、
図2に示すように解体領域12を6つの領域(分割領域1〜分割領域6)に分割した。
つぎに、解体作業者は、分割した複数の領域に対して解体順序を設定する(ステップS302)。解体順序についても、各分割領域1〜6の位置や強度、形状等により適宜決定する。
本実施の形態では、
図2に示す分割領域1〜分割領域6の順に解体することとした。
【0013】
つづいて、分割した複数の領域それぞれにおける、雷管の起爆間隔および1段当たりの装薬量を決定する(ステップS304)。
このとき、解体順序が遅い領域ほど雷管1つ当たりの装薬量が少なく、また起爆間隔が短くなるようにする。
解体順序が遅い領域ほど雷管の装薬量を少なくするのは、解体作業が進むにつれて構造物の残存質量が減少し、構造物が立っている地盤の拘束力が低減することにより、解体作業が進むにつれて解体作業の開始時と比較して周辺に振動や騒音が伝わりやすくなるためである。
上述のように、発破による振動や騒音は、段当たりの装薬量Wに依存するので、解体作業の進行につれ1段当たりの装薬量Wを低減することにより、振動や騒音を低減することができる。
一方で、ある大きさの構造物を解体するために必要な総薬量は一定であるため、段当たりの装薬量Wを低減すると発破の段数が増加する。このため、解体作業の開始から完了まで一定の起爆時間での発破を行うと、発破完了までの所要時間が増大して振動や騒音の発生時間が長くなる。
また、発明者らは、段ごとの起爆間隔が長いと、発破により発生するガスが次の発破までに施工継ぎ目等から逃げてしまい、構造物の破壊力が低減するという課題を見出した。
このため、本実施の形態では、
図4に示すような発破システム20を用いて発破を行う。
【0014】
図4は、実施の形態にかかる構造物の解体方法で使用される発破システム20の一例を示す説明図である。
発破システム20は、発破器22、分岐器23、分割領域1に設置される第1の雷管群24、分割領域2に設置される第2の雷管群26、分割領域3に設置される第3の雷管群28、分割領域4に設置される第4の雷管群30、分割領域5に設置される第5の雷管群32、分割領域6に設置される第6の雷管群34を含んで構成されている。
【0015】
発破器22は専用ケーブルで分岐器23に接続されている。
分岐器23は複数の端子23A〜23Fを有し、各端子23A〜23Fが発破母線および補助母線を介していずれかの雷管群24〜34の脚線に接続されている。
発破器22は、各雷管群24〜34が互いに異なる時刻に起爆されるように、所定の時間刻みで起爆用電気エネルギーを各雷管群24〜34に送出するようになっている。分岐器23の端子23A〜23Fは、発破器22からの起爆用電気エネルギーの送出タイミングに対応しており、例えば1回目の送出タイミングには端子23Aを介して第1の雷管群24に、2回目の送出タイミングには端子23Bを介して第2の雷管群26に、3回目の送出タイミングには端子23Cを介して第3の雷管群28に、4回目の送出タイミングには端子23Dを介して第4の雷管群30に、5回目の送出タイミングには端子23Eを介して第5の雷管群32に、6回目の送出タイミングには端子23Fを介して第6の雷管群34に、それぞれ起爆用電気エネルギーが送出される。
【0016】
なお、
図4では各雷管群24〜34を1つの発破器22で発破させるようにしたが、例えば分割領域1の解体後、分割領域1の瓦礫を撤去した後に分割領域2を解体するような場合には、例えば
図5に示すように各雷管群24〜34に対してそれぞれ1つの発破器を設置してもよい。
図5では、雷管群24に対して発破器22Aが、雷管群26に対して発破器22Bが、雷管群28に対して発破器22Cが、雷管群30に対して発破器22Dが、雷管群32に対して発破器22Eが、雷管群34に対して発破器22Fが、それぞれ設置されている。
構造物の解体を行う際は、発破器22A〜22Fから順次起爆用電気エネルギーを送出して雷管群24〜34を起爆させる。
【0017】
つぎに、各雷管について説明する。
第1の雷管群24および第2の雷管群26はDS電気雷管24A〜24N,26A〜26Nであり、第3の雷管群28はMS電気雷管28A〜28N、第4〜第6の雷管群30,32,34は電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nである。
各雷管群24〜34における雷管の本数、すなわち段数は同一でなくてもよい。例えば、各雷管群24〜34の段数は、各雷管群24〜34がそれぞれ解体する領域を破壊するのに必要な総薬量を、振動や騒音を考慮した1段当たりの薬量で除した値となる。
【0018】
DS電気雷管24A〜24N,26A〜26NおよびMS電気雷管28A〜28Nは、段発電気雷管であり、点火部と起爆薬の間に延時薬を挟んであり、通電から一定時間遅延して起爆する。電気雷管は、絶縁性樹脂で密封した管内に電気的刺激に敏感な起爆薬を装填した構造を持つ。
図6は、DS電気雷管およびMS電気雷管の基準秒時を示す説明図である。
基準秒時とは、発破器22(
図4参照)から電気エネルギーが供給され雷管が通電されてから起爆するまでの遅延時間(起爆間隔)であり、各遅延時間に対応して段数が対応付けられている。
図6に示すように、DS電気雷管では基準秒時が0.25秒(250ミリ秒)〜0.6秒(600ミリ秒)であり、MS電気雷管では基準秒時が25ミリ秒〜90ミリ秒であり、MS電気雷管の方が起爆間隔が短くなっている。本実施の形態では、先に解体される分割領域1および分割領域2にDS電気雷管を使用し、分割領域3にMS電気雷管を使用しているので、解体が進んで構造物の残存質量が小さくなるほど起爆間隔が短くなる。
また各雷管の段数は、DS電気雷管、MS電気雷管でともに最大20段となっている。ステップS300(
図3参照)における領域分割は、例えばDS電気雷管、MS電気雷管を使用して20段以内で解体できる範囲となるように決定してもよい。
【0019】
また、電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nは、電気雷管よりも更に精密な起爆間隔の制御が可能であり、電気雷管に併せてコンデンサと電子タイマを密封している。
電子雷管には、工場出荷時に予め起爆間隔(基準秒時)の秒時設定がなされているものと、発破を行なう現場で各電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nごとに個別に起爆間隔(基準秒時)の秒時設定を行なうものが知られているが、本実施の形態では、起爆間隔の秒時設定を発破の現場で設定可能なものを用いる。
この電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nは、発破器22により遅延時間が任意に設定可能に構成されている。
より詳細には、各電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nの導電線には、出荷時に個々の電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nを識別するための識別データを示すバーコードが記載されたタグが付けられている。
発破現場では、電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nを設けた爆薬を装薬孔に装薬(装填)したのち、爆破順に発破器22のスキャナーでこのバーコードを読み込む。
さらに、発破器22と各電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nとを導電線を介して電気的に接続する。
そして、発破器22は、スキャナーで読み込まれたバーコードに基づいて導電線を介して各電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nに対して、起爆間隔の秒時設定を行なう。
電子雷管30A〜30N,32A〜32N,34A〜34Nには起爆間隔を任意に設定することができるので、発破による振動が収束する最小の起爆間隔を選択することにより、1孔1段でも全体の発破時間の短縮を図ることができ、周辺の環境負荷を軽減することができる。
【0020】
なお、各領域に設定した起爆間隔が例えば30ms以上の場合は電気雷管(DS電気雷管またはMS電気雷管)を用いるとともに、起爆間隔が30ms未満の場合は電子雷管を用いるようにする。電子雷管は電気雷管よりも更に精密な起爆間隔の制御が可能であるが、電気雷管の数倍の価格であり、多用するとコストが上昇する。
電気雷管と電子雷管とを使い分けることによって、コストの上昇を抑えつつ解体作業の効率を向上させることができる。
【0021】
電子雷管に設定する起爆間隔は、解体順序が遅い領域に配置する雷管ほど短くすればよい。
具体的には、例えば解体前の構造物の質量をV0、解体開始時の起爆間隔をT0とした場合、構造物の残存質量がV1となった際の起爆間隔T1が、下記式(2)で表されるようにしてもよい。
【0023】
図7は、上記式(2)の具体的な値の一例を示す表である。
図7では、解体前の構造物の質量V0を100%とし、残存質量V1が10%変化するごとの起爆間隔T1を示した。なお、解体開始時の起爆間隔T0(起爆間隔の初期値)は、DS電気雷管の最初の起爆間隔である0.25秒(250ミリ秒)とした。
上記式(2)に従えば、例えば構造物の4分の1の解体が済んだ場合(残存質量75)には起爆間隔を125ミリ秒程度とし、構造物の半分の解体が済んだ場合(残存質量50)には起爆間隔を25ミリ秒程度とすればよい。
【0024】
また、上述したように、雷管1つ当たりの装薬量は解体順序が遅い領域ほど少なくする。
図8は、解体順序と装薬量との関係の一例を示す表である。
図8には、解体領域12の各分割領域を示す領域番号と、当該領域における1段当たりの装薬量と、当該領域における起爆間隔と、当該領域に用いる雷管の種類が示されている。
最も解体順序が早い分割領域1における1段当たりの装薬量を100とすると、分割領域2における装薬量を90、分割領域3における装薬量を80、分割領域4における装薬量を70、分割領域5における装薬量を60、分割領域6における装薬量を50と、徐々に低減させていく。
これにより、解体の進行による地盤環境変化に合わせて1段当たりの振動および騒音を低減し、周辺環境への影響を低減することができる。
【0025】
また、各分割領域における起爆間隔は、分割領域1および2における起爆間隔を250ミリ秒〜600ミリ秒、分割領域2における起爆間隔を25ミリ秒〜90ミリ秒、分割領域4における起爆間隔を25ミリ秒、分割領域5および6における起爆間隔を15ミリ秒とした。
【0026】
図3の説明に戻り、ステップS304で決定した装薬量および起爆間隔に沿ってそれぞれの分割領域に雷管を設置し(ステップS306)、設置した雷管を解体順序に沿って順次起爆させて(ステップS308)、本フローチャートによる処理を終了する。
このような解体作業の結果、例えば分割領域5および6(起爆間隔15ミリ秒)における振動レベルは59dBであり、MS電気雷管(起爆間隔25ミリ秒〜90ミリ秒)を用いて同様の構造物を解体した場合の振動レベルである75dBと比較して振動レベルを低減することができた。
【0027】
以上説明したように、実施の形態にかかる構造物の解体方法は、発破によって構造物を解体する際に、構造物の残存質量が小さくなるほど、すなわち解体作業が進行するほど雷管1つ当たりの装薬量を低減させるので、構造物周辺の地盤の拘束力が低減して振動や騒音が伝わりやすくなった場合であっても、周辺環境への影響を低減する上で有利となる。
また、装薬量の低減に伴って起爆間隔を短くするので、発破の段数が多くなった際に解体作業時間を短期に完了させる上で有利となる。
また、解体対象の構造物を複数の領域に分割して、複数の領域それぞれにおける装薬量および起爆間隔を決定するので、構造物の形状や材質などに合わせて装薬量および起爆間隔を決定することができ、解体作業の効率を向上させる上で有利となる。
また、1孔1段発破を行うことにより、多段発破と比較して振動および騒音の発生を低減する上で有利となる。
また、上記式(2)を用いることにより、任意の解体状態における起爆間隔を定量的に決定することができ、解体作業の作業品質を安定させる上で有利となる。
また、起爆間隔が30ms以上の場合には比較的コストの低い電気雷管を用い、起爆間隔が30ms未満の場合には比較的コストが高いが精密な起爆間隔の制御が可能な電子雷管を用いることにより、コストと作業効率とのバランスを取る上で有利となる。
【0028】
なお、本実施の形態では、解体対象の構造物を複数の領域に分割し、各分割領域内における雷管の装薬量および起爆間隔は同一としたが、これに限らず、例えば解体対象の構造物の全領域に渡って、連続的に装薬量および起爆間隔を変化させるようにしてもよい。この場合にも、構造物の残存質量が小さくなるほど雷管1つ当たりの装薬量を低減させるとともに、起爆間隔を短くする。