特許第6483067号(P6483067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483067
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】灰造粒固化体、防草材および飛砂防止材
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20190304BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20190304BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20190304BHJP
   A01N 25/08 20060101ALI20190304BHJP
   C09K 3/22 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B09B3/00 301M
   B09B3/00 304G
   A01P13/00
   A01N59/06 Z
   A01N25/08
   C09K3/22 AZAB
   C09K3/22 B
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-171706(P2016-171706)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-34134(P2018-34134A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】北岡 敏民
(72)【発明者】
【氏名】栗橋 弘人
(72)【発明者】
【氏名】下舘 裕
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−017323(JP,A)
【文献】 特開2012−213713(JP,A)
【文献】 特開2011−212563(JP,A)
【文献】 特開2010−173912(JP,A)
【文献】 特開2004−209372(JP,A)
【文献】 特開2013−202550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00、
B09C1/00−1/10、
A01N1/00−65/48、
A01P1/00−23/00、
C09K3/00、
C09K3/20−3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物からなり、平均細孔半径が0.1μm以下且つ累積細孔容積が0.2ml/g以上0.4ml/g未満である灰造粒固化体。
【請求項2】
前記灰造粒固化体において、灰造粒固化体全体の80質量%以上が直径1mm以上10mm以下の範囲である請求項1に記載の灰造粒固化体。
【請求項3】
前記灰造粒固化体が、水熱固化反応物を含まない請求項1または2に記載の灰造粒固化体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の灰造粒固化体を含む防草材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の灰造粒固化体を含む飛砂防止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーパースラッジ焼却灰を用いて得られる灰造粒固化体に関し、さらにそれを含む防草材および飛砂防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全、循環型社会の構築などの観点から、産業廃棄物の削減、あるいはその再利用方法の確立が強く求められている。製紙業においては、パルプ製造工程、紙製造工程、古紙処理工程などから発生するペーパースラッジを焼却した際に発生するペーパースラッジ焼却灰の再利用方法の確立が課題の一つとなっている。
【0003】
一般的に、ペーパースラッジ焼却灰は土壌汚染対策法施行規則(平成14年環境省令第29号)第五条第三項第四号の規定に基づき定められた土壌環境基準(平成15年環境省告示第18号)に挙げられている有害成分の溶出量が基準値を超過することが多い。この有害成分のうち、有機物有害成分は焼却時に分解されるため、ペーパースラッジ焼却灰では問題となる場合が少ないが、フッ素、ホウ素、六価クロム、鉛をはじめとする無機物有害成分の溶出量は基準を超過することが多い。特にフッ素、六価クロムの溶出量が基準を超過することが多い。有害物質溶出量が土壌環境基準値を超過しているペーパースラッジ焼却灰は直接埋立処理ができず、埋立を行う場合は、管理型処分場といわれる遮水シート等で外部への浸透水流出を防止した処分場で埋立処分しなければならないように義務づけられている。もしくは埋立を行う場合は、有害物質の溶出を抑制するための中間処理が必要である。中間処理として薬剤(キレート)処理や溶融固化処理があるが、高価なキレート剤が処理すべき灰に対して数%程度必要であり、溶融固化処理では設備費及び多くのエネルギーが必要となり、これらの中間処理する方法は焼却灰処理費用を増大させる要因となる。また、埋立処分場を確保すること自体が、近年ますます困難になってきている。
【0004】
従って、ペーパースラッジ焼却灰の再利用を進めることは、地球環境の保全、循環型社会の構築などの効果に加え、処理費用の抑制効果も伴い、非常に有益である。
ペーパースラッジ焼却灰を土壌改良材や路盤材へ有効利用するために固化体の製造方法が公知である(例えば、特許文献1〜3参照)。また、ペーパースラッジ焼却灰の再利用として雑草抑制材が公知である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−292956号公報
【特許文献2】特開2005−313032号公報
【特許文献3】特開2011−212563号公報
【特許文献4】特許第5924566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペーパースラッジ焼却灰の有効な再利用において、特許文献1〜3に記載されるが如き土壌改良材や路盤材は締め固め後の強度を得ることを目的にし、また、特許文献4に記載されるが如き雑草抑制材は雑草の生育を抑制することを目的にしている。
【0007】
空き地などの環境改善維持において、雑草の発生抑制に並んで、飛砂の防止が求められる。すなわち、雑草の発生を抑制したところで飛砂が発生しては、空き地などの環境改善維持に不適当である。飛砂の防止になるよう土壌被覆できる必要がある。
【0008】
本発明の課題は、雑草の発生を抑制できる雑草抑制性を有しながら、飛砂を防止することができる土壌被覆性に優れる灰造粒固化体を提供することである。また、ペーパースラッジ焼却灰について可能性がある有害成分の溶出を十分抑制し、ペーパースラッジ焼却灰を再利用した灰造粒固化体を提供することである。
ここで、「雑草抑制性を有する」とは、土壌上に敷設することによって雑草の発生を抑制すること、発生しても雑草の成長を抑えること、または発生しても雑草を枯れさせることである。「土壌被覆性に優れる」とは、灰造粒固化体を土壌上に敷設することによって、風や雨などによって灰造粒固化体が容易に飛散および流動することがなく、また灰造粒固化体によって土壌の飛砂が抑制されていることである。
なお、本発明において雑草とは、ヒトが栽培、保護することで市場価値がある植物以外の植物であり、ヒトの活動を妨げるあらゆる植物を指す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の課題は、下記の灰造粒固化体によって解決される。
[1]水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物からなり、平均細孔半径が0.1μm以下且つ累積細孔容積が0.2ml/g以上0.4ml/g未満である灰造粒固化体。
【0010】
[2]前記灰造粒固化体において、灰造粒固化体全体の80質量%以上が直径1mm以上10mm以下の範囲である前記[1]に記載の灰造粒固化体。
【0011】
[3]前記灰造粒固化体が、水熱固化反応物を含まない[1]または[2]に記載の灰造粒固化体。
【0012】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の灰造粒固化体を含む防草材。
【0013】
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の灰造粒固化体を含む飛砂防止材。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、雑草抑制性を有しながら土壌被覆性に優れる灰造粒固化体を提供でき、また、ペーパースラッジ焼却灰について可能性がある有害成分の溶出を十分抑制し、ペーパースラッジ焼却灰を再利用した灰造粒固化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
ペーパースラッジは、パルプ製造工程、紙製造工程、古紙処理工程などから発生する廃棄物であって、通常、製紙スラッジとも呼ばれる。ペーパースラッジには、一般的に製紙分野で使用される各種原材料が含まれ、顔料や填料として使用される珪素成分になるシリカ、タルク、カオリン、硅砂、カルシウム成分になる炭酸カルシウムなどの無機物質、パルプや製紙用薬品などの有機物質、および古紙に含まれるインク成分などを含有する。
【0017】
ペーパースラッジ焼却灰は、前記ペーパースラッジを燃焼装置で焼却して得られる生石灰を含有する灰である。燃焼装置は特に限定されず、従来公知の装置を使用することができる。燃焼装置は、例えば、ロータリーキルン、サイクロン型、流動床型などの焼却炉を挙げることができる。また燃焼温度は特に限定されないが、500℃以上であることが好ましい。焼却の時間は適宜選択することができる。
【0018】
ペーパースラッジ焼却灰は、混練する前に、前処理を行うことができる。前処理は、例えば、粉砕、破砕、解砕、分級、再燃焼、再乾燥、磁力選別などを挙げることができ、当業者に周知のあらゆる適切な装置を用いて行うことができる。勿論、そのまま混練に用いることができる。消費エネルギー及びコストの観点から、これら前処理は行わない方が好ましい。
【0019】
ペーパースラッジを焼却する際は、ペーパースラッジに他の材料を併せて混焼して構わない。他の材料は、例えば、廃タイヤ、RDF(ごみ固形燃料)、RPF(産業系廃プラスチック・古紙類固形燃料)、木屑、おがくず、綿、レーヨン、麻、新聞、雑誌、用水泥、排水汚泥、その他一般可燃物を挙げることができる。助燃用とする程度であれば、重油や石炭などの化石燃料をペーパースラッジと共に混焼して構わない。ただし、混焼に用いる他の材料や化石燃料は、ペーパースラッジ焼却灰の性状である多孔性を損なわない程度である。
【0020】
石炭灰とは、フライアッシュとも呼ばれ、石炭を燃焼させた後に残る灰であって、特に成分を限定するものではない。本発明では、製紙工程で必要とする熱の供給のために燃焼させた石炭から生成した石炭灰であることが好ましい。石炭灰は、通常、アルミン酸カルシウム(CaO・Al)やシリカ(SiO)を多く含有するものである。
【0021】
本発明の灰造粒固化体は、水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物からなる。混練は、水、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種を一度に供給して構わない。また混練は、前記材料の1種あるいは複数種を順次に供給して構わない。
【0022】
有害成分の溶出が十分に抑制できるという本発明の効果は、水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物による相乗効果によって得ることができる。すなわち以下と考えられる。
【0023】
ペーパースラッジ焼却灰中の生石灰と、石炭灰、硫酸塩および水とが化学反応し、針状結晶であるエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を生成する。エトリンガイトがフッ素や六価クロムをはじめとするそれぞれの有害成分を結晶構造の中に取り込むことによって、得られる灰造粒固化体から有害成分の溶出が抑制される。さらに石炭灰が、アルミン酸カルシウムを多く含有することによってエトリンガイトが効果的に生成し、有害成分の溶出が土壌環境基準未満であることを可能にすることができる。エトリンガイトの生成の点から、ペーパースラッジ焼却灰と石炭灰との含有比率は、ペーパースラッジ焼却灰:石炭灰=95:5〜70:30が好ましい。
硫酸第一鉄は、還元剤であって、六価クロムを三価クロムへ還元することができる。三価クロムは無害である。水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物において、亜硫酸ナトリウムや塩化第一鉄など他の還元剤ではこのような還元作用が得られ難い。
ポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種は、凝集剤であって、硫酸第一鉄によって生成した三価クロムを凝集させて固体として分離することができる。これにより、酸化されて再び六価クロムに戻ることを抑制することができる。水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練物において、ポリ塩化アルミニウムなど他の凝集剤ではこのような凝集作用が得られ難い。また、ポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種は、エトリンガイトの生成を妨げない。
水は、生石灰との反応およびエトリンガイトの生成に必要である。
【0024】
本発明の灰造粒固化体は、雑草抑制性を有する。本発明の灰造粒固化体が雑草抑制性を有する理由は定かではないが、後記の平均細孔半径および累積細孔容積を有する灰造粒固化体が高い吸水性を有することが確認されており、このことで、雑草は生育に必要な水分を得られなくなり、その結果として雑草が成長できないあるいは十分に生育する前に枯れてしまう、と考えられる。
本発明の灰造粒固化体は、水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種とを混練して得られる混練物からなる。この混練物を養生することで灰造粒固化体を得ることができる。水と、ペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、並びに凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種との混練により、混練物中に針状結晶であるエトリンガイトが生成し、灰造粒固化体内部が多孔性となり空隙が増す。結果として灰造粒固化体の吸水性が増し、雑草抑制性を有すると考えられる。
また、過剰の鉄や亜鉛などの無機塩類は雑草の生育を抑制することから、灰造粒固化体は、鉄などの無機塩類を含有することによっても雑草抑制性を有する、と考えられる。
また、後記の平均細孔半径および累積細孔容積を有する前記混練物からなる灰造粒固化体は、灰造粒固化体の粒子が水によって軟凝集状態を形成し易く、その結果として土壌を覆った灰造粒固化体は粒子どうしがくっついて土壌被覆性に優れて飛砂の防止ができる、と考えられる。
【0025】
本発明の灰造粒固化体は、平均細孔半径が0.1μm以下、累積細孔容積が0.2ml/g以上0.4ml/g未満である。本発明の灰造粒固化体の平均細孔半径および累積細孔容積は、灰造粒固化体を真空脱気による前処理した後、水銀圧入法により測定された値である。
灰造粒固化体の平均細孔半径が0.1μm超または累積細孔容積が0.2ml/g未満であると、雑草抑制効果を得ることができない。灰造粒固化体の累積細孔容積が0.4ml/g以上であると、優れた土壌被覆性を得ることができない。
灰造粒固化体の平均細孔半径と累積細孔容積とは、混練の時間や強度を変更すること、またはペーパースラッジ焼却灰、石炭灰、還元剤として硫酸第一鉄、凝集剤としてポリ硫酸第二鉄および硫酸アルミニウムから選択される少なくとも1種、並びに水の混合比率を調整することで制御可能である。
【0026】
本発明の灰造粒固化体の直径は、特に限定されないが、灰造粒固化体全体の80質量%以上が直径1mm以上10mm以下の範囲であることが好ましい。このような灰造粒固化体の直径の分布は、水の添加量や混練の時間を変更することによって、または灰造粒固化体を篩によって分級することによって、達成される。分級は、例えば、直径10mm以下が通過する円孔板篩および直径1mm以上が通過しない円孔板篩を使用して灰造粒固化体の粒子の比率を灰造粒固化体全体に対して80質量%以上になるよう篩い別けする方法である。
灰造粒固化体は、直径が上記条件を満足することによって、雑草抑制性および土壌被覆性がより良化する。この理由は定かではないが、灰造粒固化体の直径が上記条件を満足することでより良好に、灰造粒固化体自体が飛散することなく且つ灰造粒固化体の粒子どうしがくっつきやすく、雑草やその種子へ水分の移動を阻止できるからと考えられる。
【0027】
灰造粒固化体の平均細孔半径、累積細孔容積および直径の分布は、例えば、混練を高速回転・中速回転・低速回転の順で3段階以上とし、最初の高速回転の混練時間を長くすると平均細孔半径が小さくなる傾向を、混練機の回転速度を低下させるときに追加する水の添加量を抑えると累積細孔容積が増す傾向を、低速回転の混練時間を短く且つ追加する水の添加量を抑えると1mm以上10mm以下の粒子が比較的増す傾向を示す。
【0028】
混練は、従来公知の装置であって特に限定されない。例えば、混練ロールや混練羽根を備えた装置が好ましく、転動混練機がさらに好ましい。このような装置としては、株式会社北川鉄工所製ペレガイア、日本アイリッヒ株式会社製アイリッヒインテンシブミキサー、株式会社クリハラ製エルバEMSタイプミキサーなどを挙げることができる。
【0029】
本発明の灰造粒固化体は、混練後に養生することが好ましい。養生を行うことにより灰造粒固化体の強度が向上する。養生の方法は自然養生と強制養生とに大別される。養生は、自然養生または強制養生のいずれであってよい。自然養生は、特に手を加えることなく時間をかけて静置する方法である。5日以上放置することが好ましい。強制養生は、高温状態に短期間で養生する方法である。養生は、40℃未満で実施されることが好ましい。この理由は、灰造粒固化体の粒子が水によって軟凝集状態を形成し易くなって、土壌被覆性が良化するからである。
【0030】
水熱固化反応とは、飽和蒸気圧で水が反応媒体となってカルシウム成分と珪素成分とが絡み合って再結晶化して、高い強度を有する固化体を生成させるセラミック生産技術である。例えば、蒸気による加熱を利用する強制養生の一種として蒸気養生がある。蒸気養生は、水熱固化反応を利用している。
本発明の灰造粒固化体は、水熱固化反応物を含まないことが好ましい。この理由は、水熱固化反応物を有しない方が土壌被覆性が良化するからである。養生では、蒸気養生すると水熱固化反応物を生成するため、蒸気養生をせず、自然養生が好ましい。
【0031】
雑草抑制性を有する本発明の灰造粒固化体は防草材に好適である。本発明の灰造粒固化体を含むことによって、土壌の上にある一定の厚みで敷設した係る防草材は、雑草抑制性を有し且つ土壌の飛砂を防止することができる。
土壌被覆性に優れる本発明の灰造粒固化体は飛砂防止材に好適である。本発明の灰造粒固化体を含むことによって、土壌の上にある一定の厚みで敷設した係る飛砂防止材は、優れた土壌被覆性によって飛砂を防止し且つ雑草の発生を抑制することができる。
【0032】
敷設は、土壌上に5cm以上30cm以下が好ましく、10cm以上20cm以下がより好ましい。この範囲であれば、灰造粒固化体が十分に土壌を覆うことができ、灰造粒固化体の使用量が少なくて済む。
土壌被覆性を求めず且つ雑草抑制性を求める場合は、灰造粒固化体を、土壌上に敷設する方法以外に土壌中に敷設する方法を採用することができる。
【0033】
本発明の灰造粒固化体は、防草材や土壌被覆材以外に、例えば、埋戻し材、盛土材、地質改良材、路盤材、凍上抑制材などに用いることができる。灰造粒固化体を含む防草材や土壌被覆材あるいは前記用途材では、各用途に基づいて、灰造粒固化体を単独で使用して、または他の土質材料と混合して使用して構わない。
【0034】
灰造粒固化体は、硬化促進剤、分散剤、増強剤など従来公知の添加剤を本発明の所望の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す質量%および質量部は、乾燥固形分あるいは実質成分の値を示す。
【0036】
(雑草抑制性の評価)
試験区画Aは、屋外の比較的雑草の例年繁茂する平坦地において、高さ20cmの立て板で周囲と1m×1mの大きさに仕切られた隣接する領域(21区画)とした。同様の試験区画を、各々が1km離れた場所にさらに2箇所(試験区画BおよびC)に設けた。全試験区画は、既に繁茂する雑草を地面から上の部分を刈り取った。灰造粒固化体を敷設する試験区画では、灰造粒固化体を10cmの厚みで敷設した。
全試験区画を4月に準備し、4ヶ月間で雑草の発生状況を観察した。
雑草抑制性は、4ヶ月後における雑草の発生状況を下記の基準により評価した。本発明において、灰造粒固化体は、評価2または3であれば雑草抑制性を有するものとする。
3:一試験区画において20cm以上の高さに成長した雑草が確認されない。
2:一試験区画において20cm以上の高さに成長した雑草が5本未満である。
1:一試験区画において20cm以上の高さに成長した雑草が5本以上である。
【0037】
(土壌被覆性の評価)
屋外で、且つ周囲100m以内に雨や風を妨げるような高さ50cm以上の擁壁または建造物などが設置されていない且つ植物が生育していない平坦な砂土地において、試験区画は大きさ1m×1mの領域(21区画)とした。灰造粒固化体を敷設する試験区画では、灰造粒固化体を10cmの厚みで敷設した。灰造粒固化体を敷設した試験区画では、灰造粒固化体を水平に均し、締め固めるための転圧処理を実施しなかった。準備した試験区画に、その後、20L分の水を試験区画全体に均一に散水してから、3日間、乾燥した。各試験区画の中心部にステンレス製のスケールを地面に対して垂直の方向に設置した。
試験区画は、覆いや屋根などの雨や風を妨げる構造物等が周辺に無い状態で3ヶ月間放置した。土壌被覆性は、前記スケールによって試験区画の3ヶ月後の地面高さの相対的変化を読み取り、下記の基準により評価した。本発明において、灰造粒固化体は、評価2または3であれば土壌被覆性に優れるものとする。
3:相対変化が0.5cm以下。
2:相対変化が0.5cm超1.0cm以下。
1:相対変化が1.0cm超。
【0038】
(有害成分溶出の評価)
有害成分の溶出の抑制評価は、灰造粒固化体からの有害成分の溶出量から判断した。
灰造粒固化体からの有害成分の溶出量は、「平成15年環境省告示第18号、環境省告示第46号付表」に準じて測定した。灰造粒固化体を乳鉢で破砕し、非金属製である目開き2mmの篩を通過させた。得られた灰造粒固化体50gと水(純水、pH5.8〜6.3)500mLとを混合し、常温常圧下、振とう機で6時間連続振とうした(振とう幅4〜5cm、振動数200回/分)。得られた懸濁液を30分間静置後、毎分約3000回転で20分間遠心分離処理し、上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過して濾液を採取し、定量に必要な量を正確に計り取り、これを検液とした。溶出量基準は、フッ素0.8mg/L以下、ホウ素1mg/L以下、六価クロム0.05mg/L以下、鉛0.01mg/L以下である。各実施例および各比較例の灰造粒固化体からのホウ素、鉛の溶出量はいずれも溶出量基準値以下であった。フッ素と六価クロムの溶出量について以下の3段階に区分した。本発明において、灰造粒固化体は、評価3であれば有害成分の溶出が十分に抑制されているものとする。
3:フッ素、六価クロム共に溶出量基準値以下。
2:フッ素、六価クロムのいずれかが溶出量基準値を上回る。
1:フッ素、六価クロム共に溶出量基準値を上回る。
【0039】
(ペーパースラッジ焼却灰の調製)
製紙工場から排出されたペーパースラッジ、これに廃タイヤや木屑を適宜加えて焼却炉を用いて約900℃の条件で焼却し、ペーパースラッジ焼却灰を得た。
【0040】
(灰造粒固化体の調製)
各実施例および各比較例の灰造粒固化体を以下の手順によって調製した。
ペーパースラッジ焼却灰と石炭灰とを表1に記載の質量%で、ペーパースラッジ焼却灰と石炭灰との合計質量が25kgになるように混練機(株式会社北川鉄工所製、商品名ペレガイア)に投入した。さらにペーパースラッジ焼却灰と石炭灰との合計質量100質量部に対して、それぞれ濃度15質量%水溶液の還元剤および凝集剤を、表1に記載の質量部をそれぞれ投入した。さらに水を5.5L投入し、混練機によって混練を行った。混練は、高速回転から中速回転さらに低速回転へと撹拌を3段階に調整しつつ、中速回転および低速回転に切り替え時に追加の水を投入し、実施した。この時、平均細孔半径、累積細孔容積、灰造粒固化体全体における直径1mm〜10mmの範囲の灰造粒固化体の比率(表1では「特定直径比率」と記載)が表1に記載の値となるように、追加で投入する水の量と混練時間および撹拌速度とを調整して造粒した。次に、養生処理を行い、灰造粒固化体を得た。
【0041】
(灰造粒固化体の平均細孔半径、累積細孔容積の測定)
灰造粒固化体の平均細孔半径および累積細孔容積を以下の手順によって測定した。前処理として70℃で3時間かけて灰造粒固化体を真空脱気した。その後、島津製作所社製オートポアIV9500を用いて水銀圧入法によって灰造粒固化体の平均細孔半径および累積細孔容積を測定した。灰造粒固化体の平均細孔半径および累積細孔容積の値を表1に示す。
【0042】
表1における還元剤および凝集剤は以下の通りである。
硫酸第一鉄:昭和化学株式会社製、硫酸第一鉄七水和物市販品
亜硫酸ナトリウム:大東化学株式会社製、市販品
硫酸アルミニウム:浅田化学工業株式会社製、市販品
ポリ硫酸第二鉄:タイキ薬品工業株式会社製、市販品
ポリ塩化アルミニウム:大明化学工業株式会社製、市販品
【0043】
各実施例および各比較例の評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から、ペーパースラッジ焼却灰を利用した本発明の灰造粒固化体に該当する実施例1〜12は、雑草抑制性を有しながら土壌被覆性に優れる灰造粒固化体を提供でき、また、ペーパースラッジ焼却灰について可能性がある有害成分の溶出を十分抑制できると分かる。一方、本発明の灰造粒固化体に該当しない比較例1〜8は、雑草抑制性、土壌被覆性および有害成分の溶出に係る本発明の効果を得ることができないことが分かる。灰造粒固化体を敷設しなかった比較例9では、雑草抑制性および土壌被覆性を得ることができない。
主に、実施例1、実施例9および実施例11と実施例10との対比から、灰造粒固化体全体の80質量%以上が直径1mm以上10mm以下の範囲である灰造粒固化体が、より好ましいと分かる。
主に、実施例1と実施例12との対比から、水熱固化反応物を含む灰造粒固化体になる蒸気養生より、水熱固化反応物を含まない自然養生が好ましいと分かる。
本発明の灰造粒固化体は、雑草抑制性を有することから防草材に、または土壌被覆性に優れることから飛砂防止材に、好適であることが分かる。本発明の灰造粒固化体を含む防草材は飛砂を防止することができ、本発明の灰造粒固化体を含む飛砂防止材は雑草の発生を抑制することができる。