特許第6483108号(P6483108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483108
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】超偏極カルボン酸塩化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/41 20060101AFI20190304BHJP
   C07C 53/10 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 59/19 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 69/14 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 69/68 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 227/12 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 229/08 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20190304BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20190304BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20190304BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20190304BHJP
   A61K 49/10 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C07C51/41CSP
   C07C53/10
   C07C59/08
   C07C59/19
   C07C69/14
   C07C69/68
   C07C69/716 Z
   C07C227/12
   C07C229/08
   C07C231/12
   C07C233/47
   A61B5/055 383
   G01N24/08 510Y
   A61K49/10
【請求項の数】23
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-525524(P2016-525524)
(86)(22)【出願日】2014年10月27日
(65)【公表番号】特表2016-537329(P2016-537329A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014072983
(87)【国際公開番号】WO2015063020
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】13190409.6
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィオ・アイメ
(72)【発明者】
【氏名】エリカ・チェルッティ
(72)【発明者】
【氏名】トンマーゾ・ボイ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスカ・レイネリ
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−504438(JP,A)
【文献】 特表2001−522819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/41
A61B 5/055
A61K 49/10
C07C 53/10
C07C 59/08
C07C 59/19
C07C 69/14
C07C 69/68
C07C 69/716
C07C 227/12
C07C 229/08
C07C 231/12
C07C 233/47
G01N 24/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のためのパラ水素誘導偏極方法であって、該カルボン酸塩含有分子の不飽和C2-C4アルケニルまたはアルキニルエステルを分子パラ水素により水素化することを含み、
該不飽和エステルが、以下の一般式(II):
R-C*(O)-O-R’ (II)
[式中、C*は、13C超偏極を受ける天然に13C富化、または任意に13C標識されたカルボン酸塩炭素原子を意味する;
R’は、ビニルまたはアリルまたはプロパルギル残基である;
Rは、C1-C5直鎖または分枝鎖アルキルであり、任意に、カルボニル(-CO-)、ヒドロキシル(-OH)、-NHR1で示されるアミノ基、ハロゲン原子(単数または複数)、ハロアルキル基(単数または複数)および炭素環式脂肪族もしくは芳香族環から選ばれる1つ以上の基で中断または置換され、その後、任意に、1つ以上のヒドロキシル基によって置換される;
R1は、H、またはトリフルオロアセチル、アセチル、ベンゾイル、カルボベンゾキシ、tert-ブチルカーボネートから選ばれるアミノ保護基である]
で示される化合物およびその生理学的に許容しうる塩である、方法。
【請求項2】
Rが、直線または分枝C1-C5アルキル残基、メチルカルボニル、ヒドロキシエチルおよび式:R2-CH(NHR1)-で示されるアミノアルキル残基(ここで、R1はHであり、R2はHあるいはC1-C4直鎖または分枝鎖アルキルであり、ヒドロキシ基またはフェニルもしくはヒドロキシフェニル環によって任意に置換される)から選ばれる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
Rがメチルである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
Rがメチルカルボニルである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
Rが、式:R2-CH(NHR1)-(ここで、R1およびR2は請求項と同意義である)で示されるアミノアルキル残基である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
Rが、式:CH3CH(OH)-で示されるヒドロキシエチル残基である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
a)対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルを得、該不飽和エステルを分子パラ水素と反応させること;
b)付加された偏極水素から[1-13C]-カルボン酸塩炭素原子の13Cシグナルへの偏極移行を誘導すること;
c)水素化エステル部分を除去し、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子または対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸の水溶液を回収すること;
を含む、請求項1〜のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
ステップa)が、水溶性水素化触媒の存在下、任意に10%〜30%の単鎖アルコールまたはアセトンを含む水性媒体中で不飽和エステルを分子パラ水素と反応させることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
水素化触媒が、式:[Rh(ジホスフィン)ジエン)]+[アニオン]-のロジウム錯体[ここで、ジホスフィンは、(1,4-ビス(R1R2)エタン)、(1,4-ビス(R1R2)ブタン)(ここで、R1およびR2は互いに同一もしくは異なって、DPPETS、DPPBTSおよびDAPBTSから選ばれるスルホン酸基である)から選ばれるキレート形成ホスフィン、スルホン化CHIRAPHOSおよびスルホン化BINAPから選ばれるキラルスルホン化ジホスフィンであり;ジエンは、1,5-シクロオクタジエンおよびノルボルナンジエンから選ばれ;アニオンは、任意のアニオンでありうる]である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)が、有機溶媒または有機溶媒の適当な混合物中、有機溶媒に可溶性であり、水性溶媒に不溶性である水素化触媒の存在下、で不飽和エステルを分子パラ水素と反応させることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
水素化触媒が、式:[Rh(ジホスフィン)ジエン)]+[アニオン]-のロジウム錯体[ここで、ジホスフィンは、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンおよび1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、および、キラルホスフィン:2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、2,3-ジフェニルホスフィノブタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,4-ビスデオキシ-2,3-O-イソプロピリデン-L-トレイトールおよび1,2-ビス[(2-メトキシフェニル)(フェニルホスフィノ)]エタンなどのその誘導体から選ばれる;ジエンは、1,5-シクロオクタジエンおよびノルボルナンジエンから選ばれ;アニオンは、任意のアニオンでありうる]である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素およびその混合物から選ばれる有機塩素系溶媒;およびこれらの溶媒と10%〜30%の単鎖アルコールまたはアセトンとの混合物であり、水素化触媒が、[Rh(COD)dppb][BF4](ここで、CODは、シクロ-1,5-オクタジエンであり、dppbは、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンである)である、請求項10または11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
ステップb)が、方法のステップa)で得られたパラ水素化されたエステルに磁場循環手順を適用することによって行われて、対応する[1-13C]-超偏極エステルが得られる、請求項7〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
方法のステップc)が、ステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルを加水分解することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)が、ステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルの有機溶液を、対応する水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子または対応するカルボン酸へのエステルの加水分解を促進する水溶液で希釈し、次いで、対象の[1-13C]-超偏極化合物のインビボ適用において使える状態の不純物フリーの水溶液を相移動によって回収することによって行われる、請求項10〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
方法のステップc)が、ステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルの水溶液を、その加水分解を促進する塩基とともに加えて、対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の水溶液を得ることによって行われる、請求項8または9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
得られた水溶液から、水素化触媒および任意の共溶媒を除去して、インビボ適用において使える状態の対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の水溶液を得ることを含むステップd)をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
PHIP技術によるMR適用のための、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための、適当な水素化可能な基質前駆体としての、請求項に記載の式(II)の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルの使用。
【請求項19】
式(III):
R-C*(O)-O-R” (III)
[式中、C*およびRは、請求項と同意義であり、R”は、パラ水素化されたエチル、プロピルまたはアリル残基である]
のパラ水素化されたエステル。
【請求項20】
対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルが、プロパルギルエステルである、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法または請求項18に記載の使用。
【請求項21】
請求項17に記載の方法のステップd)から、または請求項15に記載の方法のステップc)から直接回収された、診断MR適用における使用のための[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の不純物フリーの水溶液からなるMR造影剤。
【請求項22】
[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子が、ピルビン酸塩である、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法または請求項21に記載のMR造影剤。
【請求項23】
個々の患者のインビボまたはエクスビボでのMR評価のための、診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールを得る方法であって、
i)請求項17に記載の方法のステップd)から、または請求項15に記載の方法ステップc)から直接、対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液を回収すること;
ii)回収された水溶液を、個々の患者の身体器官、体液または組織のエクスビボサンプルと接触させること;
iii)接触させたエクスビボサンプルを、カルボン酸塩分子の超偏極13C-標識炭素原子を励起させうる電磁波の周波数に当てること;
iv)カルボン酸塩分子および/またはその任意の適当な代謝産物もしくは異化産物の励起された核によって生成されたシグナル強度を記録すること;および
v)記録されたシグナル強度値から、対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールを得ること;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像法(MRI)の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、MR代謝プローブとしての診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物の製造のためにパラ水素誘導偏極(PHIP)技術を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法は、インビトロおよびインビボの両方での医療および生物学的調査にとって十分に確立された強力な手段である。この技術の主な欠点は、MRIの基盤であるNMR分光法に内在する低感度によるものである。実際に、NMRシグナルの強度は、撮像する核の核スピン状態集団間の差異をよりどころとする。周知のボルツマン方程式(ΔN=γhB0/(2πkT))によれば、この差異は、温度および適用された磁場の関数であり、熱平衡において、10-5のオーダーであって、すなわち、非常に低い。
【0003】
近年、該欠点の可能な解決策として超偏極分子が提案されており、ここ数年は、実行可能かつ効果的なMR-超偏極手段の開発に多くの努力が注がれている。
【0004】
可能性のある記録された開発の幹における推進力として、この技術は、化学および生物学の両方、特に生物学における多くの革新的適用を開く、従来のMR画像法の感受性における制限の解消を提供する。
【0005】
実際に、代謝過程における重要な分子を表す化合物を検出するためのこの技術によって可能になったシグナル強度の有意な改善は、細胞プロセスの特定の段階を直ちに報告する重要な代謝産物の検出を引き出す革新的MR手段の開発をもたらした(代謝画像法)。たとえば、適切に超偏極させた代謝物質を用いるインビボ画像法が行われており、代謝マーカーとして1-13C-標識されたピルビン酸塩により代謝のリアルタイム画像が観察されており(たとえば、Goldman K. et al、Real time metabolic imaging. PNAS 2006、103(30)、11270-11275を参照)、インビボ腫瘍診断における、超偏極13C磁気共鳴(MR)画像法を用いるこの(および他の)重要な代謝産物の有利な使用の可能性が強く示唆される(Albers MJ. et al.、Hyperpolarizatied 13C lactate、pyruvate、and alanine:noninvasive biomarkers for prostate cancer detection and grading;Cancer Research 2008、68(20):8607-15)。
【0006】
同時に、13C超偏極のための方法の開発が、13C標識超偏極分子を用いるインビボ灌流研究において新たな分野を開いている(Mansson、S. et al、 Eur. Radiol.、2006、16、57-67)。
【0007】
この点で、最も使用された超偏極アプローチは、本質的に以下のステップからなる動的核偏極(DNP)手順の適用をよりどころとする:
i)安定な有機ラジカルをもつ対象の基質のガラス固溶体の製造;ii)該固溶体を低温(1K近く)にして磁石にし、基質分子のNMR活性核に電子偏極を遷移させるための有機ラジカルの電子常磁性共鳴(e.p.r.)遷移の周波数にての数分間の照射;iii)材料の迅速な溶解;iv)インビボでの超偏極分子の投与およびそれらの分布および代謝的変換について報告するためのNMRまたは画像獲得。
【0008】
いくつかの代謝産物、その中でも、ピルビン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩および多くの他の代謝的に興味深い分子が、DNP-溶解法によって偏極されている。通例、検出された共鳴は、カルボン酸部分の13C炭素原子の共鳴であり、20-60秒の範囲にT1値を有する。
【0009】
全体として、超偏極する可能性はあるが、原則的に任意の基質において、DNP-溶解法は、洗練された高価な装置を必要とする。この技術のもう1つの欠点は、満足できる核偏極に到達するために必要な、約1時間という長い偏極周期によって代表される。
【0010】
別のパラ水素誘導偏極(PHIP)法は、パラ水素のスピン秩序の、ヘテロ核の超偏極への変換を可能にする、不飽和基質へのパラ-水素(またはパラ水素;本明細書で互換的に用いる)分子の付加をよりどころとする。
【0011】
DNP法とは異なり、パラ水素の使用に基づく超偏極手順は、取扱いが非常に容易であり、簡単な装置しか必要とせず、わずかな技術的努力のみにより105までのシグナル対雑音増強が得られることによって、1分間という超偏極周期によるより速い製造を提供する。
【0012】
この技術の使用における障害は、むしろ、スピン秩序の源として働くパラ水素の分子付加に必要である関連する不飽和分子前駆体の利用可能性が制限されていることである。
【0013】
13Cまたは15N超偏極分子(バックグラウンドシグナルが約ゼロであり、より長い緩和時間T1を有することにより、インビボ適用にとって好ましいとみなされ、緩和による偏極の喪失を制限する)を製造するための最適基質前駆体は、偏極されるヘテロ核に隣接する不飽和-C=C-または-C≡C-結合からなる。13C化合物にとって、これは、たとえば、血管撮影への適用が有用であることが見い出されている、パラ水素化後にプロピオン酸塩化合物をもたらすアクリレート部分による正しく表された三炭素制限(a three carbon limitation)を表す(Goldman、M. et al.、C. R. Phys. 2005、6、575-581)。しかしながら、水素化可能な二重または三重結合を含む適当な基質の必要性は、実際に、この偏極技術の使用によって得ることが可能な超偏極分子の数に強く制限されている。
【0014】
魅力的な不飽和前駆体をさらに減らすことに寄与するもう1つの論点は、ビニルアルキコールを対応するアルデヒドに変換する、安定した分子内転位、いわゆるケト-エノール互変異性による不安定な性質によって代表される。パラ水素添加後に超偏極ホスホラクテートを形成するホスフェートの形成によって安定化されたエノール体、いわゆるホスホエノールピルベートのPHIPパラ水素化が、Chekmenev et al.のたとえば、 J. Am. Chem. Soc. 2012、134、3957-3960によって報告されている。
【0015】
さらに最近では、超偏極基質、パラ水素および有機金属錯体の三元アダクトの可逆的形成によって分子上の偏極を達成するのを可能にする、パラ水素を用いる超偏極分子を得るための新たな方法、いわゆるSABREが導入されている(Adams、R. W. et al.、Science 2009. 323、17081711)。この方法は、水素付加が起こることなく分子における偏極を達成することを可能にし、適用の主な制限の1つを回避することができる。
【0016】
さらに、所望の超偏極アルケニル系またはアルキニル系生成物のアルケニル系またはアルキニル系前駆体の有機相におけるパラ水素化をよりどころとするパラ水素化された分子の水溶液を得るための一段階法、およびそれに続く、最終分子への迅速変換および水相中での抽出が、本出願人によってWO 2010/037771に開示されている。この方法を用いて、コハク酸の水溶液が、たとえば、クロロホルム/アセトン混合液中でのマレイン酸無水物のパラ水素化、およびそれに続く塩基性水溶液による希釈および相間移動によって得られている。
【0017】
しかしながら、我々の知る限りでは、特に13C-超偏極酢酸塩およびピルビン酸塩などの診断対象の13C-超偏極分子は、現在、DNP超偏極技術のよってのみ利用可能である(Kohler、S.J. et al.;Magn Reson. Med. 2007、58、6569)が、PHIP技術によるその製造は、実現可能でない場合、非常に困難なものであるとみなされている(前述のJ. Am. Chem. Soc. 2012、134、3957-3960を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明の概略
本明細書に開示するように、1つの不飽和直接前駆体へのパラ水素の付加による技術では直接得ることができず、したがって、現在、DNP超偏極技術を用いて得られる診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子を得ることを可能にする、適当な不飽和基質および製造手順が、現在、同定されている。
【0019】
特に、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子を製造するための適当な水素化可能な基質前駆体として本明細書において同定する適切な不飽和エステルを用いることを含む別のPHIPベースの偏極プロセスが、本明細書において提案される。
【0020】
本発明方法にしたがって、対象のカルボン酸塩分子の適当な不飽和エステルを得、分子パラ水素により水素化し、それによって対応するパラ水素化されたエステルを得る;次いで、たとえば、磁場循環のトラフ適用(trough application)などの公知の手段により、付加されたH原子からカルボン酸塩の炭素原子の13Cシグナルへ偏極移行を誘導し、[1-13C]-超偏極水素化エステルを得、水素化基の除去によって所望の[1-13C]-超偏極有利カルボン酸塩分子に変換し、最終的に、水溶液で、対応するカルボン酸として、それ自体で、またはプロトン化体で回収する。
【0021】
本発明の診断対象のカルボン酸塩含有分子は、磁気共鳴画像法(MRI)または磁気共鳴分光法(MRS)、典型的には、血管造影、灌流マッピング、インターベンション造影または分子造影におけるMRプローブとしての適当な適用を見い出すカルボン酸塩化合物;およびたとえば、トリカルボン酸(TCA)回路(クエン酸回路としても知られる)、解糖、β酸化、尿素回路およびケト体代謝経路などの生物学的プロセスおよび代謝経路の重要な部分であり、代わって代謝MRマーカーとしての常に増加している用途を見い出すカルボン酸塩分子の両方である。
【0022】
本発明の使用のため、すなわち、上記カルボン酸塩含有分子の適当な水素化可能な基質前駆体としての最適不飽和エステルは、ビニル基のパラ水素化により付加されたプロトンから所望の3結合距離(three bond distance)にて13Cカルボン酸塩炭素原子を有するビニルエステルである。
【0023】
しかしながら、ケト−エノール平衡により容易に適当なエテノールまたはエチノールアルコールを得ることが不可能であるため、対象の適切なカルボン酸塩分子のビニルエステルの簡便な製造は、たとえば、ピルビン酸塩の場合のように、ほとんど実現可能ではない場合もあり、あるいは、常に増加する医療需要を満たすことを承諾するスケールでは実現困難である。
【0024】
我々は、今や、予期せぬことに、このことが、満足できる偏極移行を得るのに必要であるとして従来から用いられ、推奨されている3結合を超える13Cカルボン酸塩炭素原子からの距離にて水素化可能な不飽和性を移動させることを含むにもかかわらず、たとえばアリルおよびプロパフギルエステルなどの不飽和エステルの異なるファミリーが、簡便に製造され、対応する対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子、または対応するカルボン酸を、良好な収率および満足できる偏極度で得ることを可能にする適当な水素化可能な前駆体分子として使用されうることを見い出し、たとえば、ビニルエステルの結合などの隣接する不飽和炭素-炭素結合により得ることができるものと実質的に同じであることを実証した。
【0025】
これらの、対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和エステルの分子パラ水素による水素化が、実際、最終的にインビボMR適用において使える状態の水溶液中で回収されうる対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子または対応するカルボン酸の簡便なPHIPベースの製造を可能にすることが実証されている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
したがって、本発明は、一般に、分子パラ水素による対象のカルボン酸塩分子の適当な水素化可能な基質前駆体として用いられる関係するカルボン酸塩分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルを水素化することを含む、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための、パラ水素誘導偏極技術を利用する方法に関する。
【0027】
さらに詳しくは、1つの実施態様において、本発明は、MR診断適用における使用のための、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のためのPHIP法であって、以下のステップ:
a)対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルを得、該不飽和エステルを分子パラ水素と反応させて、対応するパラ水素化されたエステルを得ること;
b)付加された偏極Hから[1-13C]-カルボン酸塩炭素原子の13Cシグナルへの偏極移行を誘導して、対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸塩エステルを得ること;
c)水素化エステル部分を除去し、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子または対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸の水溶液を回収すること;
を含む方法に関する。
【0028】
異なる実施態様において、上記方法は、診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールのインビボまたはインビトロ、エクスビボMR評価のために、回収された対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液を用いることをさらに含む。
【0029】
さらなる実施態様において、本発明は、PHIP技術によるMR適用のための、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための、適当な水素化可能な基質前駆体としての不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルの使用に関する。
【0030】
もう1つの実施態様において、本発明は、代謝マーカーとしての使用のための[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子を製造するためのPHIP法における中間体化合物としての本発明のパラ水素化されたアルキルまたはアリルエステルに関する。
【0031】
さらなる実施態様において、本発明は、個々の患者における、インビボまたはインビトロ(エクスビボ)での身体器官、領域、体液または組織の診断的視覚化方法あるいは診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールのMRベースの評価方法であって、以下のステップ:
i)上述の通り、本発明方法にしたがって対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の不純物を含まない水溶液を回収すること;
ii)該水溶液を個々の患者に投与するか、または該水溶液を患者の身体器官、体液または組織のエクスビボサンプルに接触させること;
iii)投与された患者または接触させたエクスビボサンプルを、カルボン酸塩分子の超偏極13C-炭素原子を励起させうる電磁波の周波数に当てること;
iv)投与されたカルボン酸塩分子および/またはその任意の適当な代謝産物もしくは異化産物の励起された核によって生成されたシグナル強度を記録すること;および
v)記録されたシグナル強度値から、個々の患者の身体器官、領域、体液または組織の画像、あるいは対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールの適当な評価を得ること;
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】a)水性媒体中のカルボン酸基をもつ分子のビニルエステル;b)水性媒体中のカルボン酸基をもつ分子のプロパルギルエステル;c)水性媒体中のカルボン酸基をもつ分子のプロパルギルエステル;をパラ水素化し、および水相中の対応する超偏極カルボン酸塩化合物を単離することによる、1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液を製造するための本発明の超偏極手順の図式的表示。
図2】磁場循環の適用前に、唯一検出可能な13Cシグナルは、それに結合したパラ水素原子によって影響を及ぼされるエチル基の脂肪族炭素原子のシグナルであり、一方、カルボニルシグナルは、影響を及ぼされず、したがって、偏極しないことを示す、ビニルエステルの水中パラ水素化後の酢酸エチルの13C-NMRスペクトル(14 T、298 K、D2O)である。
図313C-NMRスペクトル(14 T、298 K、D2O):a)ビニルエステルの水中パラ水素化および磁場循環後の酢酸エチルの13C超偏極シグナル;b)水中での超偏極酢酸エチルの加水分解から得られた酢酸ナトリウム;c)水中での酢酸プロパルギルのパラ水素化および磁場循環からの酢酸アリル;d)酢酸アリルの加水分解からの酢酸ナトリウム。
図4】磁場循環後のピルビン酸プロパルギルのパラ水素化生成物の13Cカルボニルシグナル。パラ水素化は、15%メタノールを加えた水中で行われる。図中のアリルピルビン酸エステル(160ppm:構造 a)、図中の水和物体(172 ppm:構造 b)、および図中のヘミアセタール(171 ppm:構造 c)によるカルボニル領域における3つのシグナルが、明確に検出可能である。
図5】メタノール中のピルビン酸塩のアセタール体。
図6】a)メタノール中でパラ水素化されたピルビン酸プロパルギルによって提供された13C超偏極シグナル:最も強いシグナルは、メタノール媒体中でのアセタール体に対応する;b)200 μlのNaOD 1Mの添加後の13C超偏極シグナル。
図7】a)メタノール/CDCl3中で得られた水素化されたピルビン酸プロパルギル(すなわち、ピルビン酸アリル)の13C偏極シグナル:ピルビン酸アリルカルボニル体(163.8 ppm)および水和体(174.2 ppm);b)塩基性加水分解(NaOD 1M)およびDCl(1M)pH=2による酸性化後:ピルビン酸、カルボニル体(164.5ppm)、水和体(174 ppm)およびヘミアセタール体(173 ppm);c)NaODによる塩基性加水分解およびDCl pH=4によるさらなる酸性化後:ピルビン酸ナトリウム(168 ppm);d)検出可能なMeOHシグナルの不在を確認する、MeOH関連領域にて記録されたスペクトル。
図8】MeOH中での対応するビニルグリシンへのパラ水素の添加および磁場循環によって得られたパラ水素化されたTFA-エチルグリシンの13C偏極シグナル(167 ppm)。
図9】遊離グリシンに起因する、13C超偏極TFA-アリルグリシンの塩基性加水分解によって得られた13C偏極シグナル(181 ppm)を示す実施例5の試験から直接集められた水溶液の13C-NMRスペクトル。メタノールシグナル(49.5 ppm)は、観察されない。
図10】水素化生成物ピルビン酸アリルの1H NMRスペクトル:c、c’ 5.75 ppm(m);e、e’ 5.15 ppm(dd、2J=17.5 Hz、3J=17Hz);d,d’ 5.07 ppm(dd、2J=17.5 Hz、3J= 10Hz);b 4.49 ppm(d 3J=5.93 Hz);b’ 5.54 ppm(d、3J=5.5 Hz);a 2.27 ppm(s);a’ 1.28 ppm(s);COA 水素化触媒に由来するシクロオクタン。
図11】水素化溶媒MeOD/CDCl3中の水素化生成物ピルビン酸アリルの13Cスペクトル。A:26 ppm;A’ 24 ppm;D:66.5 ppm;D’ 66 ppm;B’ 96 ppm;E,F 119、131 ppm;E’、F’ 132、118 ppm;C 160 ppm;C’ 171 ppm;B 192 ppm;観察されたオクタンシグナルは、有機溶液中の水素化触媒に由来する。
図12】ビニルエステルのパラ水素化および磁場循環後(上のスペクトル)ならびにソレに続く超偏極エステルの加水分解後(下のスペクトル)の13C超偏極乳酸エチルの13C-NMRスペクトル(14 T、298 K、D2O)。上のスペクトルにおいて、2-アセトキシプロピオン酸エチルエステルの13C偏極カルボニルシグナル(3)が、173 ppmにて検出可能である;下のスペクトルにおいて、[1-13C]-超偏極乳酸塩の13C-超偏極シグナルが、177.5 ppmにて検出可能である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な記載
本発明は、不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルおよび診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための水素化可能な基質前駆体として、特にMR代謝プローブとしてそれらを用いるパラ水素誘導偏極法に関する。
【0034】
本発明のカルボン酸塩含有分子(その[1-13C]-超偏極誘導体は、本発明によって提案されるパラ水素誘導偏極法の使用によって簡便に製造されうる)が、以下の一般式(I):
R-C*(O)-OH (I)
[式中、C*は、本発明方法の13C超偏極を受けるカルボン酸塩炭素原子を意味する;
Rは、C1-C5直鎖または分枝鎖アルキルであり、任意に、カルボニル(-CO-)、ヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NHR1)、ハロゲン原子(単数または複数)およびハロアルキル基(単数または複数)から選ばれる1つ以上の基で中断または置換されるか、あるいは炭素環式脂肪族もしくは芳香族環によって中断または置換され、その後、任意に、1つ以上のヒドロキシル基によって置換される;
R1は、H、またはたとえば、トリフルオロアセチル、アセチル、ベンゾイル、カルボベンゾキシ、tert-ブチルカーボネート、および、好ましくは、トリフルオロアセチルなどのアミノ保護基である]
で示されるカルボン酸化合物およびその生理学的に許容しうる塩を包含するのが好ましい。
【0035】
本明細書で用いるC1-C5直鎖または分枝鎖アルキル、あるいはC1-C5アルキル残基は、任意のC1-C5アルキル残基を意味し、したがって、該残基として、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、2-メチルブチルが挙げられ、ここで、メチル、エチル、プロピルおよびイソプロピルが好ましい。単独または基の一部のいずれかにおいてのハロゲン(またはハロゲン原子:本明細書において互換的に用いる)は、塩素、臭素およびフッ素を意味するが、後者が好ましい。
【0036】
本明細書に関するハロゲノアルキル基として、たとえば、過フッ素化C1-C3アルキル残基、すなわち、たとえば、-CF3、-C2F5、および-C3F7基などのすべての水素原子がフッ素によって置換される任意のC1-C3アルキル残基が挙げられ、-CF3(すなわち、トリフルオロメチル)が好ましい。
【0037】
本発明の炭素環の例として、たとえば、好ましくはフェニル環などの脂肪族または芳香族C6員環が挙げられる。
【0038】
上記式(I)において、Rが、式:-C1-C5で示されるC1-C5アルキル残基、式:CH3C(O)-のメチルカルボニル、好ましくは式:CH3CH(OH)-のヒドロキシエチル残基などのヒドロキシアルキル、および式:R2-CH(NHR1)-のアミノアルキル残基(ここで、R1は、前記と同意義であり、R2は、Hまたは好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチルおよびiso-ブチルなどのC1-C4直鎖または分枝鎖アルキルである)から選ばれる基(ヒドロキシ(-OH)基またはフェニルまたはヒドロキシフェニル環によって任意に置換される)を意味するのが好ましい。
【0039】
より好ましくは、Rが、メチル、プロピル、ヒドロキシ、メチルカルボニルおよび式:R2-CH(NHR1)-(ここで、R1はHであり、R2はHあるいは上述のC1-C4直鎖または分枝鎖アルキルであり、ヒドロキシ(-OH)基またはフェニルまたはヒドロキシフェニル環によって任意に置換される)のアミノアルキル残基から選ばれ、Rが、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、1-ヒドロキシエチル、ヒドロキシメチルおよびp-ヒドロキシなどであるのが最も好ましい。
【0040】
1つの好ましい実施態様では、上記式(I)において、Rはメチル残基(-CH3)であり、本発明の対象のカルボン酸塩含有分子は、酢酸塩である。
【0041】
もう1つの好ましい実施態様では、上記式(I)において、Rは式:CH3CH(OH)-のヒドロキシエチル残基であり、本発明の対象のカルボン酸塩含有分子は、乳酸塩である。
【0042】
さらなる実施態様では、上記式(I)において、Rは式:R2-CH(NHR1)-のアミノアルキル基(ここで、R1はHであり、R2はHあるいはイソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、ヒドロキシメチル、1-ヒドロキシエチルおよびp-ヒドロキシベンジルから選ばれる基である)であり、本発明の対象のカルボン酸塩含有分子は、天然アミノ酸である。
【0043】
本発明の特に好ましい実施態様では、上記式(I)において、Rは式:CH3C(O)-のメチルカルボニル基であり、本発明の対象のカルボン酸塩含有分子は、ピルビン酸塩である。
【0044】
本発明のカルボン酸塩含有分子は、前述のように、前記式(I)の化合物の生理学的に許容しうる塩をさらに含む。
【0045】
本明細書において、医薬的に許容しうる塩は、内部的にまだ中和されていないカルボン酸基が、超偏極化合物の活性を破壊しないか、または活性に影響を及ぼさない、非毒性で安定な塩の形態である前記式(I)のカルボン酸塩化合物の誘導体を意味する。
【0046】
該塩の適当な例として、代表的には、式(I)のカルボン酸残基のアルカリまたは有機塩が挙げられる。
【0047】
この点において、本発明化合物を適当に塩化するのに用いることができる無機塩基の好ましいカチオンは、カリウム、ナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムなどのアルカリまたはアルカリ土類金属のイオンを含む。有機塩基の好ましいカチオンは、特に、エタノールアミン、ジエタノールアミン、モルホリン、グルカミン、N-メチルグルカミン、N、N-メチルグルカミンなどの第1級、第2級および第3級アミンのカチオンを含む。好ましいアミノ酸のカチオンは、たとえば、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカチオンを含む。
【0048】
ナトリウム塩およびカリウム塩が特に好ましい。
【0049】
前記式(I)で示されるカルボン酸塩化合物は、R残基中に適当な不飽和炭素-炭素結合を含まず、したがって、それらに存在する不飽和結合に適当な分子パラ水素を添加し、カルボン酸塩基の13C炭素原子に偏極移行しても、超偏極することができない。
【0050】
本発明が提供する解決は、前記式(I)のカルボン酸塩化合物の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステル、好ましくはC2-C4直線または分枝アルケニルまたはアルキニルエステルを得ること、および得られた不飽和エステルを所望の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の便利な水素化可能な基質前駆体として用いることを含む。
【0051】
本発明の範囲において、本明細書で用いる用語「基質前駆体」または「水素化可能な前駆体」または「不飽和前駆体」または、単に「前駆体」は、分子パラ水素による該不飽和結合の水素化、非プロトン核への偏極の移行、および所望の超偏極生成物への得られる水素化化合物の変換によって、所望の超偏極生成物が得られる1つの不飽和結合、たとえば二重もしくは三重炭素-炭素結合などを含む不飽和分子を互換的に意味する。
【0052】
超偏極可能な非プロトン核(またはヘテロ核)の例として、19F、13C、15Nまたは29Siが挙げられる。本発明によれば、他に特記しない限り、用語「超偏極へテロ核」は、対象のカルボン酸塩分子の13C、さらに詳しくは、13Cカルボン酸炭素原子(または1-13C-炭素原子)を意味する。
【0053】
本発明の使用のための基質前駆体は、対象のカルボン酸塩分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステル、すなわち、-O-R’エステル部分の炭化水素鎖R’内に1つの不飽和結合、たとえば、二重または三重結合を包含するエステルであり、容易に水素化することができる。
【0054】
したがって、本発明の目的は、PHIP技術の使用による、対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための水素化可能な基質前駆体としての診断対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルの使用に関する。
【0055】
さらに詳しくは、本発明は、分子パラ水素による関係するカルボン酸塩分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルの水素化を含む、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のためのPHIP法に関する。
【0056】
この点において、本発明の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステル、すなわち、PHIP技術による[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物の製造のための水素化可能な基質前駆体としての使用のための本発明の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルは、好ましくは、対象のカルボン酸塩含有分子のC2-C4直線または分枝アルケニルまたはアルキニルエステルを包含し、より好ましくは、該関係するカルボン酸塩分子のビニル、アリルまたはプロパルギルエステルから選ばれる。
【0057】
好ましい実施態様によれば、本発明の不飽和エステルは、本明細書において互換的であるが、13C富化、または13C標識されている。用語「富化」または代替的に「標識」は、化合物中のゼロでないスピン核の濃度が、該核の天然の存在量の典型的な値以上、好ましくは、天然の存在量の少なくとも10%以上、より好ましくは、天然の存在量の少なくとも25%以上、さらにより好ましくは、天然の存在量の少なくとも75%以上、および最も好ましくは、天然の存在量の少なくとも90%以上であることを意味する。本発明によれば、富化は、13C-富化(または[1-13C]-富化:本明細書において互換的に用いる)される、該エステルのカルボン酸1-C炭素原子に集中する。該ゼロでない13C核は、得られたカルボン酸塩含有分子(またはカルボン酸塩生成物、または、単に生成物:本明細書において互換的に用いる)に、約0.5 mT〜約20 T(テスラ)の磁場に付された溶液中で測定される、少なくとも5秒、好ましくは少なくとも10秒、好ましくは少なくとも20秒、好ましくは少なくとも30秒およびより好ましくは少なくとも40秒のT1緩和時間を付与する。適切な13C富化は、カルボン酸塩エステルが天然において1-13C富化される場合、天然であってもよく、あるいは該分子のカルボン酸1-C炭素原子の選択的富化(または13C標識:本明細書において互換的に用いる)を包含してもよい。この点において、市販の富化前駆体を適当に利用することができ、あるいは、念のため、従来技術の教示にしたがって、化学合成または生物学的標識によって富化の選択を達成することができる。
【0058】
基質前駆体としての本発明の使用のための不飽和エステルは、強く偏極可能であるべきである。特に、好ましいエステルは、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%またはより高い%に対応する程度まで偏極可能であり、水素化部分の除去および診断対象の遊離超過分局カルボン酸塩分子の単離後に、上記限度内で、カルボン酸塩生成物において13C正味磁化を維持する能力がある。
【0059】
この点において、分子パラ水素による水素化およびカルボン酸13C-炭素原子への偏極の移行後に、本発明の好ましい不飽和エステルは、典型的には加水分解によって、水性媒体中での水素化部分の容易な除去を可能にし、インビボMR適用において使える状態の遊離[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液の迅速な単離を可能にするべきである。
【0060】
一般的には、本発明の使用のための不飽和エステルは、好ましくは、以下の一般式(II):
R-C*(O)-O-R’ (II)
[式中、C*は、13C超偏極を受ける天然に13C富化、または任意に13C標識されたカルボン酸塩炭素原子を意味する;
Rは、前記式(I)と同意義である;および
R’は、二重または三重炭素-炭素結合を含むC2-C4直鎖または分枝鎖炭化水素である]
によって表すことができる。
【0061】
上記式に(II)おいて、R’が、ビニル(式:-CH=CH2)、アリル(式:-CH2-CH=CH2)およびプロパルギル(式-CH2-C≡CH)から選ばれるアルケニルまたはアルキニル残基であるのが好ましい。
【0062】
R’が、ビニルまたはプロパルギル残基であるのがより好ましい。
【0063】
1つの好ましい実施態様において、本発明は、R’がビニル残基である、上記式(II)の不飽和エステルに関する。
【0064】
1つの好ましい実施態様において、本発明は、R’がプロパルギル残基である、式(II)の不飽和エステルに関する。
【0065】
本発明のさらなる目的は、パラ水素誘導偏極技術の使用による、特にMR代謝プローブとしての診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のための、パラ水素による、好ましくは上記式(II)分の化合物の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルの水素化を含む方法に関する。
【0066】
さらに詳しくは、1つの実施態様において、本発明は、式(I)の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造方法であって、以下のステップ:
a)対象のカルボン酸塩含有分子の不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルを得、該不飽和エステルを分子パラ水素と反応させて、対応するパラ水素化されたエステルを得ること;
b)付加されたパラ水素から[1-13C]-カルボン酸塩炭素原子の13Cシグナルへの偏極移行を誘導して、対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸塩エステルを得ること;
c)水素化エステル部分を除去し、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子または対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸の水溶液を回収すること;
を含む方法に関する。
【0067】
本発明方法のステップa)で得られた不飽和エステルが、前記式(II)のアルケニルまたはアルキニルエステルであるのが好ましい。
【0068】
この点において、前記式(II)の適当な不飽和エステルは、たとえば、酢酸ビニルの場合のように市販品を入手可能であるか、または合成有機化学技術における当業者に容易に利用できる従来の製造手順によって得てもよい。本発明の代表的不飽和エステルの非限定的例の製造を、後記実験セクションにおいてさらに提供する。
【0069】
本発明方法のステップa)における不飽和エステルの水素化は、適当な水素化触媒の存在下で、PHIP技術の使用によって行われる。典型的に、触媒は、当業者に周知の触媒量、たとえば、10:1〜5:1の基質/触媒比で用いられる。
【0070】
したがって、本発明のさらなる実施態様は、MR代謝マーカーとしての使用のための超偏極分子、たとえば、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子を製造するためのPHIP法における中間体化合物としての適用が見い出される、たとえば、分子パラ水素により、好ましくは前記式(II)の不飽和エステルを水素化することによって得られたパラ水素化されたアルキルまたはアリルエステルに関する。
【0071】
さらに詳しくは、さらなる実施態様において、本発明は、式(III):
R-C*(O)-O-R” (III)
[式中、C*およびRは、前記と同意義であり、R”は、たとえば、分子パラ水素による前記式(II)(ここで、R’は、それぞれ、ビニル、アリルまたはプロパルギル、最も好ましくはビニルまたはプロパルギル残基を表す)の不飽和エステルの水素化によって得られた、好ましくはパラ水素化されたエチル、プロピルまたはアリル、最も好ましくはエチルまたはアリルなどのパラ水素化されたアルキルまたはアリル残基である]
のパラ水素化されたエステル、ならびに、たとえば、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造用中間体化合物などのそのPHIP法における使用に関する。
【0072】
さらなる実施態様において、本発明は、中間体化合物として式(III)のパラ水素化されたエステルを得ることを含むパラ水素誘導偏極技術の使用による、超偏極分子の製造方法に関する。
【0073】
本発明の式(III)のパラ水素化中間体の適当な例として、たとえば、酢酸ビニル前駆体への分子パラ水素の付加によって得られた酢酸エチル(その13C-NMR特性決定を図2に示す)、ピルビン酸プロパルギル前駆体への分子パラ水素の付加によって得られたピルビン酸アリル(その1H-NMR特性決定を図10に示し、13Cスペクトルを図11に示す)が挙げられる。
【0074】
本発明方法によれば、分子パラ水素による不飽和エステルの水素化を、水性媒体中、または有機溶媒もしくは有機溶媒の適当な混合物中のいずれかで、簡便に行うことができる。
【0075】
本発明の1つの実施態様において、不飽和エステルを分子パラ水素と反応させることを包含する本発明方法のステップa)は、当技術分野で周知の水素化手順にしたがって、水性媒体中および水溶性水素化触媒の存在下で行われる。
【0076】
この点に関して、本明細書で互換的に用いる表現「水性溶媒」または「水性媒体」は、たとえば、リン酸緩衝液(H3PO4/H2PO4)などの適当な緩衝液の使用によって、たとえば、およそ中性のpH値、たとえば、pH6〜8に、好ましくは約pH7に、任意に適切に緩衝されうる水、好ましくは滅菌水を意味する。
【0077】
水性溶媒における使用に適した触媒の例として、式:[Rh(ジホスフィン)ジエン)]+[アニオン]-のロジウム(I)錯体、ここで、ジホスフィンは、(1,4-ビス(R1R2)エタン)、(1,4-ビス(R1R2)ブタン)(ここで、R1およびR2は互いに同一もしくは異なって、たとえば、DPPETS(1,2-ビス[ビス(m-ソジオスルファナトフェニル)ホスフィノ]エタン)(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)、DPPBTS(テトラスルホン化1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、ここで、R1=R2)、DAPBTS(テトラスルホン化ビス(ジアニシルホスフィノ)ブタン)から選ばれるスルホン酸基(sulfonated group)を含む)、スルホン化CHIRAPHOS(2,3-ビス[ビス(m-ソジオスルファナトフェニル)ホスフィノ]ブタン)およびスルホン化BINAP(2,2-ビス[ビス(m-ソジオスルファナトフェニル)ホスフィノ]-1,1-ビナフチル)などのキラルスルホン化ジホスフィンから選ばれるキレート形成ホスフィンが挙げられる。ジエンが、1,5-シクロオクタジエンおよびノルボルナジエンから選ばれるのが好ましく、アニオンは、任意のアニオンでありうるが、テトラフルオロホウ酸塩またはトリフルオロメチル硫酸塩であるのが好ましい。
【0078】
ホスフィン基がジフェニルホスフィノブタンである水素化触媒が好ましく、[Rh(NBD)ホス][BF4](ここで、NBDは、ノルボルナジエンであり、ホスは、1,4-ビス[(フェニル-3-プロパンスルホネート)ホスフィン]ブタン二ナトリウム塩である)が、特に好ましい。
【0079】
1つの実際的な実施において、本発明の不飽和基質の水素化反応は、水素が、基質および触媒を含む溶液の噴霧化を引き起こす反応チャンバーに、典型的には6バールより高い、好ましくは少なくとも8バールの高圧で導入され、水素の溶解度を最適化しうる超偏極装置の使用によって適当に行われる。水素化反応が、30℃〜90℃、より好ましくは60℃〜90℃の温度で行われるのが好ましい。
【0080】
水素化反応が、上述のように水性媒体中で行われる場合、水素化触媒および不飽和基質分子がこの媒体に溶解可能であるべきであることは当業者には明らかである。
【0081】
この点において、たとえば、メタノールまたはエタノール、あるいは好ましくはアセトンなどの任意の水溶性有機溶媒などの少量の単鎖アルコールを、総溶媒量の少なくとも10%より多い、好ましくは10%〜30%、より好ましくは10%〜20%の量で水性媒体に加えることができ、水性媒体における触媒効率ならびに基質と水素ガスの溶解度の両方を増加させることができる。
【0082】
あるいは、好ましくはメタノールまたはエタノール、より好ましくはメタノールなどの単鎖アルコールを、水素化反応溶媒として適当に用いることができる。この場合、好ましい水素化触媒は、[Rh(COD)dppb][BF4](ここで、CODは、シクロ-1,5-オクタジエンであり、dppbは、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンである)である。
【0083】
パラ水素による不飽和エステルの水素化の後、付加された偏極Hから[1-13C]-炭酸塩炭素原子の13Cシグナルへ、既知の手段の使用によるスカラー結合(または核オーバーハウザー効果)を介して偏極を移行させる。
【0084】
この点において、パラ水素化された化合物を有効な13C MRI造影剤として有利に用いるために、付加されたパラ水素からの偏極移行を介して得られた超偏極炭素原子の「逆位相」シグナルが、画像取得に有用な「同相」シグナル内に全体的に変換されることが必要である。たとえば、Goldman M. et al、上記引用文献(C. R. Phisique 2005、6、575)によって教示された適当なパルスシーケンスを用いるか、または適当な磁場循環手順をパラ水素化された生成物に適用することによって、このステップを行うことができる。この最後は、水素化サンプルを磁気スクリーン(磁場強度=0.1μT)に迅速に(非断熱的に)導入し、次いで、磁気スクリーンをゆっくりと(断熱的に)除去して、サンプルを地球磁場(50 μT)(これに関しては、たとえば、C. R. Phisique 2004、5、315を参照)に対応するフィールド値にすることを包含する。
【0085】
好ましい実施態様によれば、本発明方法のステップb)は、ステップa)で得られたパラ水素化されたエステルに適切な磁場循環手順を適用して、プロトン核(不飽和エステルへのパラ水素付加に由来する)から対象の非プロトン核、すなわち、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子への偏極移行を促進することによって行われる。
【0086】
一般論として、パラ水素から対象のヘテロ核への偏極移行が、主としてスカラー結合(またはj結合)によって推進され、不飽和に隣接するヘテロ原子が、スカラー結合したパラ水素プロトンからの偏極移行のレシピエントとして働くことは注目に値する(たとえば、図2参照)。この点において、ヘテロ核偏極の強度は、形成されたスピン系に関与するすべてのj結合に依存する。したがって、たとえば、13C化合物に対して、パラ水素プロトンによる、AA’Xスピン系を形成するパラ水素プロトン(AおよびA’で示される)からヘテロ原子(Xで示される)への最大偏極移行は、すべての核間のJ結合が定義された比にとどまる場合に達成されうることが計算されている(Barkemeyer J.;Haake、M.;Bargon J. J. Am. Chem. Soc. 1995、117、2927-2928)。特に、2つのプロトンとヘテロ原子のスカラー結合との間の差JAX-JAXならびに生成物上の2つのプロトン間のスカラー結合JAA’において、偏極移行は、比の値|JAX−JA’X/JAA’|が、√8である場合に最大である。JAA’定数が5〜15Hzであるので、ヘテロ核のJ結合(プロトン-炭素結合)の間の最適差は、15〜45 Hzである。このような高いスカラー結合値は、2つのパラ水素プロトンが、偏極が移されるヘテロ原子から2または3結合の距離で付加される場合に達成されうるものであり、付加されたパラ水素プロトンからの距離が増加するにつれて徐々に減少する。
【0087】
上述のすべてから、当業者は、対象の13C炭素原子から2または3結合以上の距離に置かれたパラ水素プロトンからの偏極移行による、MR診断適用および代謝MR評価に有用な、満足できるヘテロ核偏極を観察することができることを予測しなかったと言える。当業者は、付加されたパラ水素プロトンから4-5結合の距離にむしろ置かれた13C炭素原子によって、最適距離(上述)に置かれたヘテロ核により得られる偏極に対して実質的に等価であるか、またはそれに匹敵するヘテロ核13C偏極を観察することができることをまったく予測しなかった。
【0088】
代わりに、我々は、磁場循環の適用後のパラ水素化されたビニルおよびプロパルギルエステルから得られるカルボン酸13Cシグナルの強度を比較すると、予期せぬことに、たとえば図3から明らかなように、磁場循環の適用後、[1-13C]-炭酸塩炭素原子の13Cシグナルの実質的に同一の超偏極が、パラ水素化されたビニルエステルの偏極Hプロトン核(関与する13Cヘテロ核に対して推奨される3結合の距離を有する)および対応するパラ水素化されたプロパルギルエステルの偏極Hプロトン核(対象のヘテロ核に対して増加した(4-5結合)距離を有する)の両方からの偏極移行によって達成されうることを観察している。
【0089】
対照的に、図2に示されるように、誘導偏極移行の不在下(すなわち、磁場循環の適用前)において、唯一の検出可能な13Cシグナルは、ビニル残基に付加されたパラ水素原子に結合し、したがってパラ水素原子によって影響を及ぼされるエチル基の脂肪族隣接炭素原子のシグナルであり、一方、より大きい距離に置かれ、したがって、実質的に影響を及ぼされないカルボン酸13C炭素原子については検出可能なシグナルは観察されない。
【0090】
これらの予期せぬ結果は、カルボン酸[1-13C]-炭素原子に対して適当に超偏極されたエステルを製造すること、したがって、その不飽和アリルまたはプロパルギル前駆体から、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子を適当に得ることを可能にし、それによって、その直接不飽和前駆体ならびに適切なビニルエステルの不在下でさえも、PHIP技術の使用によって満足できる程度の偏極を付与された[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物を得ることが可能になる。
【0091】
その製造後正確に、たとえば、本発明方法のステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルは、所望の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物または対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸に定量的に変換され、次いで、それは、インビボ適用において使える状態の水溶液で回収される。本発明の好ましい実施態様によれば、該定量的変換は、水素化エステル部分の加水分解的除去によって行われ、対象の遊離カルボン酸塩または対応するカルボン酸が得られる。
【0092】
この点において、本明細書で用いる表現「定量的変換」は、対応する遊離カルボン酸塩への、エステル前駆体の20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、およびさらにより好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%のの量での化学的変換(好ましくは加水分解)を意味する。
【0093】
本明細書で用いる用語「加水分解」は、水が、出発化合物と反応して、1種以上の得られる化合物を生成する化学反応を意味する;加水分解は、典型的に、得られる化合物を得るための、出発化合物上の結合(エステル結合)の分解、および出発化合物の構造への水素カチオンおよび/またはヒドロキシアニオンの任意の付加を含む。一般的に言えば、加水分解反応は、酸性(pH<7)、塩基性(pH>7)または中性(pH=7)条件下で行うことができるが、以下に詳細に記載するように、たとえば、pH7〜14、より好ましくは8〜14、最も好ましくは10〜14の溶液に対応する塩基性条件が、本発明方法にとって、特に好ましいとみなされるべきである。
【0094】
上記のすべてに沿って、本発明方法のステップc)は、本発明方法のステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルを加水分解して、対応する水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有化合物にし、次いで、それを水溶液中で回収することを含む。
【0095】
さらに詳しくは、1つの好ましい実施によれば、たとえば、図1の工程式a)およびb)に図示するように、本発明方法のステップc)は、適当な量の塩基、たとえば、NaOHまたはNaHCO3またはNa2COならびに塩基性水性反応物(たとえば、トロメタミンまたはリン酸トリナトリウムとしても知られるトリメチロールアミノメタン)を有する有機もしくは無機化合物を含む水溶液中に、本発明方法のステップb)で得られた[1-13C]-超偏極エステルを加えることによって行われる。
【0096】
本発明の範囲にとって特に好ましいのは、水性NaOHの使用である。
【0097】
たとえば、10-100 mMの濃度の本発明方法のステップb)で得られた超偏極エステルの水溶液は、約20℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、最も好ましくは60℃〜80℃の温度にて水溶液に加えられる0.1-1 MのNaOHの存在下で加水分解され、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物の水溶液が得られる。
【0098】
この点において、インビボMR適用のために、得られる超偏極生成物の水溶液の生体適合性が要求されることが考慮されなければならない。したがって、ステップa)〜c)の後、好ましくは上述のように水性媒体中で前駆体エステル分子の13C偏極を行うことを含む上記の本発明方法は、ステップc)で得られた[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物の水溶液から水素化触媒および任意の有機共溶媒を除去し、それによってインビボ適用における使用に適した対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の水溶液を得ることを含む、追加のステップd)を包含する。
【0099】
この最後の作業は、たとえば、超偏極生成物の水溶液の急速蒸発によって、たとえば、真空ポンプに接続したチャンバーまたはフラスコ内に溶液を噴霧することによって達成することができる。次いで、たとえば、1 ml未満の陽イオン交換樹脂を含むマイクロカラムにおける、任意の有機溶媒または共溶媒の除去から得られる水溶液(超偏極分子の)の溶離によって、潜在的に毒性のRh(I)錯体の除去を簡便に行って、正荷電した水素化触媒を保持することができる。
【0100】
すべての上記精製ステップを乗り越えるために、特定の好ましい実施態様によれば、不飽和エステルを分子パラ水素と反応させることを含む本発明方法のステップa)は、有機溶媒または有機溶媒の適当な混合物中、有機媒体に可溶であり、水性溶媒に不溶である水素化触媒の存在下で行われる。
【0101】
本発明の目的に適した有機溶媒は、水と混和せず、好ましくは、たとえば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などの有機塩素系溶媒;たとえば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびブチルエーテルなどのエーテル;およびたとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチルなどを含む
【0102】
それらのうち、塩素系溶媒が好ましく、クロロホルムおよびジクロロメタンならびにそれらの適当な混合物が特に好ましく、または任意に、上記溶媒と最小量の典型的にはエタノールまたは好ましくはメタノールあるいは代替的にアセトンなどの単鎖アルコールとの混合物が好ましい。この点において、本明細書で用いられる最小量は、総溶媒量の30%未満、好ましくは10%〜30%、より好ましくは10〜20%の量を意味し、最終的に回収される超偏極カルボン酸塩含有分子の水溶液中の検出不可能な残渣をもたらす。一方、たとえば、多量の水混和性溶媒を用いることによってもたらされる任意の痕跡物を、たとえば、前述の急速蒸発または噴霧乾燥によって、回収された所望の超偏極分子の水溶液から適当に除去することができる。
【0103】
本発明の使用に適した触媒の例として、式:[Rh(ジホスフィン)ジエン)]+[アニオン]-のロジウム錯体[ここで、ジホスフィンは、DPPB(1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン)、DPPE(1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)、および、たとえば、DINAP(2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル)、CHIRAPHOS(2,3-ジフェニルホスフィノブタン)、DIOP(1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,4-ビスデオキシ-2,3-O-イソプロピリデン-L-トレイトール)およびDIPAMP(1,2-ビス[(2-メトキシフェニル)(フェニルホスフィノ)]エタン)などのキラルホスフィンといったようなその誘導体から選ばれるのが好ましく;ジエンは、1,5-シクロオクタジエンおよびノルボルナジエンから選ばれるのが好ましく;およびアニオンは、任意のアニオンでありうるが、テトラフルオロボレートまたはトリフルオロメチルスルホネートが好ましい]が挙げられる。
【0104】
それらのうち、ホスフィン基がジフェニルホスフィノブタンである触媒が好ましく、[ビス(ジフェニルホスフィノブタン)(1,5-シクロオクタジエン)]Rh(I)が特に好ましい。
【0105】
実際的に言えば、不飽和基質の水素化は、たとえば、基質および触媒を含む有機溶液を、好ましくは6〜10、より好ましくは8〜10および最も好ましくは約10アトムの圧力のパラ-H2で予め加圧した反応チャンバー内に噴霧することによって行われる。水素化反応は、好ましくは40℃〜90℃、より好ましくは70℃から90℃の温度で行われる。
【0106】
パラ水素による不飽和エステルの水素化に合わせて、偏極は、付加された偏極Hから[1-13C]-炭酸塩炭素原子の13Cシグナルに移行する。
【0107】
この点において、好ましい実施によれば、本発明方法のステップb)の偏極移行は、上述のように、たとえば、本発明方法のステップa)で得られたパラ水素化されたエステルへの、付加されたプロトン核からカルボン酸塩分子(すなわち、水素化エステル)の[1-13C]-炭素原子への所望の偏極移行を促進し、対応する[1-13C]-超偏極エステルの有機溶液を付与する適当な磁場循環手順の適用によって行われる。
【0108】
次いで、水素化エステル部分の加水分解的除去が、本発明方法のステップc)にしたがって行われ、所望の水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物または対応する[1-13C]-超偏極カルボン酸が得られ、次いで、インビボ適用において使える状態の水溶液として回収される。
【0109】
好ましい実施態様によれば、たとえば、図1で反応工程式c)にて示すように、本発明方法のステップc)は、好ましくは本発明方法のステップb)で得られた超偏極エステルの有機溶液を、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物または対応するカルボン酸への加水分解を促進する適当な水溶液で単に希釈することによって行われる。
【0110】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、たとえば、前述したように、本発明の方法は、たとえば、有機溶媒に可溶性であるが、水に不溶性または難水溶性である式(II)の不飽和エステルから、有機媒体中の水に不溶性または難水溶性[1-13C]-超偏極エステルを得ること;適当な水溶液での有機溶液(超偏極エステルの)の希釈によって行われる水素化エステル部分の加水分解的除去によって、それを対応する水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物に定量的に変換すること、および、次いで、インビボにおける使用に適した不純物フリーの水溶液として、相移動抽出によって、水相中で得られた[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物を回収すること;を含むことは、前述に起因する。
【0111】
本発明によれば、そして、他に特記しない限り、本発明の式(II)の不飽和エステルまたは[1-13C]-超偏極エステルに関して、本明細書において互換的に用いる表現「乏しい水溶性(poorly water soluble)」または「難水溶性(scarcely water soluble)」は、化合物の総量の好ましくは20%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満の水中最小溶解度を有する化合物を意味する。
【0112】
一方、そして、他に特記しない限り、本明細書において互換的に用いる用語「水溶液」または「適当な水溶液」または「適切な水溶液」は、いかなる場合でも生理的に耐容性でありインビボ診断適用に用いるのに適した、任意に適切に緩衝された滅菌水または生理食塩水、または、さらに、対応する水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物への水素化エステルの急速および選択的な変換を促進し、結果として、さらなる精製することなくインビボ診断適用に適した、その生理的に許容しうる水溶液を生成する能力がある適当な量の適切に選択された試薬を含む上記水溶液を意味する。
【0113】
対応するカルボン酸塩化合物へのパラ水素化された基質の加水分解を促進する能力がある本発明の水溶液の適当な例は、最小量の塩基、たとえば、NaOHもしくはNaHCO3、またはNa2CO3ならびに塩基性水性反応物(たとえば、トロメタミンまたはリン酸トリナトリウムとしても知られるトリメチロールアミノメタン)を有する有機もしくは無機化合物または対応する重水素化分子を含む。NaOHの水溶液または対応する重水素化分子が、本発明の範囲にとって特に好ましい。
【0114】
しかしながら、上述のすべてから、本発明方法のステップc)にしたがってエステル加水分解を促進するために用いた試薬が、NaOHの場合などのそれ自体生理的に許容しうるものでない場合、加えられた水溶液中のその量は、水溶性および生理的適合性(生理的pH条件にて)遊離カルボン酸塩へのパラ水素化されたエステルの変換反応においてすべて用いられるように、反応自体の化学量論に基づいて正確に決定されなければならないか、あるいは過剰量は、所望のカルボン酸化合物のインビボ適用において使える状態の生理的に許容しうる水溶液をもたらすように、さらなる精製および/または続いての製剤化を必要とすることなく、適当に中和されなければならない(たとえば、塩基と生理的に許容しうる塩を生成する適当な量の酸の添加によって)ことが明らかである。
【0115】
したがって、[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子(またはカルボン酸)の水溶液は、前記の本発明の好ましい方法のステップc)から直接回収され、不純物フリーであり、さらなる精製を必要とすることなく、それ自体をインビボMRI診断造影において使用可能である。
【0116】
この点において、超偏極エステルが有機溶媒中で得られる実験的試験からの加水分解後、メタノールまたはアセトンを有機共溶媒として含むが、不純物または有機溶媒の検出可能な痕跡は、回収された[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の水溶液において観察されていない。実際に、これらの共溶媒の残留物は、共溶媒としてMeOHを用いる実施例3(図7c参照)および実施例5(図9参照)の試験から得られた水溶液中に、少なくとも検出可能なレベルにおいては見い出されていない。
【0117】
したがって、特に好ましい実施態様によれば、本発明は、
a)最小量の単鎖アルコールまたはアセトンを任意に包含しうる、水と非混和性の有機溶媒(または溶媒混合物)中で、対象の任意に[1-13C]-富化したカルボン酸塩含有分子の適当な不飽和アルケニルまたはアルキニルエステルを得、有機溶媒に可溶性であるが、水不溶性の触媒の存在下で、得られたエステルを分子パラ水素と反応させて、対応するパラ水素化されたエステルを得ること;
b)得られたパラ水素化されたエステルに、適切な磁場循環手順を適用して、対応する[1-13C]-超偏極エステルの有機溶液を得ること;
c)対応する水溶性[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子または対応するカルボン酸への超偏極エステルの加水分解を促進する適当な水溶液で[1-13C]-超偏極エステルの有機溶液を希釈し、次いで、得られる分子またはカルボン酸を相移動によって水相へ抽出し、インビボ適用において使える状態の不純物フリーの水溶液として直接回収すること;
を含む、診断対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩含有分子の製造のためのパラ水素誘導偏極法に関する。
【0118】
興味深いことに、本発明方法にしたがって得られた、それ自体インビボ適用において使える状態の水溶液としての[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物は、インビボ造影において十分な感度を提供する少なくとも5%の偏極を有する。得られる偏極が、少なくとも10%であるのが好ましく、少なくとも15%であるのがより好ましい。一方、本発明にしたがって得られた超偏極分子の不純物フリーの水溶液は、臨床的に許容しうる期間の使用に適している;特に、少なくとも10%であるこの偏極が、通例、超偏極カルボン酸塩の製造の直後に行われる注入の時点で維持されるのが好ましく、少なくとも約30%の偏極が維持されるのがより好ましく、少なくとも約80%の偏極が維持されるのが最も好ましい。
【0119】
この点において、本明細書に提案する偏極法が、前駆体の化学的変換直後の超偏極されたカルボン酸塩分子が有意に偏極されたままである時間枠内で行われるべきであることは明らかであろう。したがって、このような活性基質の投与およびそれに続くMR測定は、できるだけ迅速に行なわれるのが好ましい。このことは、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかの身体のサンプルが、偏極が起こる領域に近接して利用可能でなければならないことを意味する。
【0120】
本発明によれば、水溶液が、0.002〜1.0 M、好ましくは0.01〜0.5 Mの濃度で、対象の超偏極分子を包含するのが好ましい。
【0121】
たとえば、本発明方法のステップd)によって得られた、あるいは本発明の特に好ましい実施態様によれば、より好ましくは上述のように本発明方法のステップc)から直接回収された超偏極分子の不純物フリーの水溶液は、ヒトまたは動物の身体の器官、体液、領域または組織のインビトロ、エクスビボおよび特にインビボMR診断造影において、それ自体で(すなわち、さらなる精製および/または続いての製剤化を行うことなく)、ならびに個々のヒトまたは動物患者における診断対象の生理学的パラメーターの診断評価のために、有利に使用することができる。
【0122】
さらに好ましいことに、MR造影技術の使用による個々の患者における診断対象の代謝プロフィールの評価に関する新興分野において、それらの有利な用途を見い出すこともできる。特に、関係する超偏極カルボン酸塩の代謝変換の評価は、個々の患者における代謝プロセスの評価および/または健康または病気の患者の組織または器官の代謝状態に関する情報を提供することができる。
【0123】
したがって、さらなる実施態様において、本発明は、本発明の特に好ましい実施態様にしたがって、本発明方法のステップd)により回収されるか、またはより好ましくはステップc)から直接回収された[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物の不純物フリーの水溶液を含むか、または好ましくは、それからなることを特徴とするMR造影剤に関する。
【0124】
特に好ましい実施態様において、該[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物は、[1-13C]-超偏極乳酸塩である。
【0125】
別の同様に好ましい実施態様において、該[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物は、[1-13C]-超偏極酢酸塩である。
【0126】
特に好ましい実施態様において、本発明の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩化合物は、[1-13C]-超偏極ピルビン酸塩である。
【0127】
本発明は、さらに、上述の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の不純物フリーの水溶液を得ることを可能にする、方法のステップa)〜c)またはa)〜d)に加えて、個々の患者のMR診断造影のため、またはインビボまたはインビトロ、エクスビボでの診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールのMR評価のために、回収された水溶液を用いることをさらに含む、パラ水素誘導偏極法に関する。
【0128】
さらに詳しくは、さらなる実施態様によれば、本発明は、
i)上述のとおり、本発明方法のステップd)にしたがって、より好ましくはステップc)から直接、対象の[1-13C]-超偏極分子の水溶液を回収すること;
を含む、パラ水素誘導偏極法であって、さらに、
ii)回収された対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液を、個々の患者に投与するか、または該水溶液を、個々の患者の身体器官、体液または組織のエクスビボサンプルと接触させること;
iii)投与された個々の患者(またはエクスビボサンプル)を、カルボン酸塩分子の超偏極13C-標識炭素原子を励起させうる電磁波の周波数に当てること;
iv)投与されたカルボン酸塩分子および/またはその任意の適当な代謝産物もしくは異化産物の励起された核によって生成されたシグナル強度を記録すること;および
v)記録されたシグナル強度値から、個々の患者の身体器官、領域または組織の画像、あるいは対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールの適当な評価を得ること;
を含む、パラ水素誘導偏極法に関する。
【0129】
この点において、適切な励起照射に投与された患者またはエクスビボサンプルを当て、励起された核によって生成されたシグナル強度を記録し、次いで、記録されたシグナル強度値から、個々の患者の身体器官、領域または組織の画像、あるいは対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールの適当な評価を得ることを含む、上記方法のステップは、従来の技術および当業者には周知の手術手順にしたがって適当に行うことができる。
【0130】
本発明は、さらに、個々の患者における、身体の器官、領域、体液または組織のインビボ診断MR造影のため、または診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールのインビボまたはインビトロ、エクスビボでのMR評価のための方法であって、
i)上述のとおり、たとえば、本発明方法のステップd)にしたがって、より好ましくはステップc)から直接、対象の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液を回収すること;
ii)回収された水溶液を、個々の患者に投与するか、または該水溶液を、個々の患者の身体器官、体液または組織のエクスビボサンプルと接触させること;
iii)投与された個々の患者または接触させたエクスビボサンプルを、カルボン酸塩分子の超偏極13C-標識炭素原子を励起させうる電磁波の周波数に当てること;
iv)投与されたカルボン酸塩分子および/またはその任意の適当な代謝産物もしくは異化産物の励起された核によって生成されたシグナル強度を記録すること;および
v)記録されたシグナル強度値から、個々の患者の身体器官、領域または組織の画像、あるいは対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールの適当な評価を得ること;
を含む、方法に関する。
【0131】
別法として、上記方法は、適切な量の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液で前処置された患者を、13C-超偏極カルボン酸塩分子を励起させる電磁波の波長に当て、次いで、励起された核によって生成されたシグナル強度を記録することを含んでもよく、あるいは、さらなる別法として、上記方法は、有効量の[1-13C]-超偏極カルボン酸塩分子の水溶液で適切に処置され、カルボン酸塩分子の超偏極13C-シグナルを励起させる電磁波の周波数に適当に当てられ、次いで、トモグラフのコンソールメモリまたはローカルもしくはリモートデジタルデータ保存デバイスにデジタルで保存された、個々の患者によって適当な時点で獲得されたMRIシグナルのコレクションから、シグナル強度値(および、次に、診断対象の生物学的パラメーターまたは代謝プロフィールの評価)を得ることを包含することができる。
【0132】
この点において、他に特記しない限り、本明細書で用いる「個々の患者」または「患者」は、ヒトまたは動物患者を意味し、MR診断評価を受けるヒトが好ましい。
【0133】
一方、本明細書で互換的に用いる「有効量」または「適当な量」は、
本発明方法にしたがって回収された、好ましくは、その意図する診断目的、すなわち、たとえば、投与されたカルボン酸塩分子および/またはその任意の適当な代謝産物または異化産物の励起された核によって生成されたシグナルを獲得することなどを満たすのに十分でな、好ましい方法を実施するステップc)から直接回収された超偏極された分子の水溶液の量を意味する。
【0134】
この目的のために、本発明方法の使用によって得られた[1-13C]-超偏極カルボン酸塩(またはカルボン酸)の不純物フリーの水溶液を、場合によって、血管系に、あるいは器官または筋組織に直接、あるいは真皮下または皮下経路で、それ自体で投与することができる。次いで、本発明方法によれば、該超偏極13C-カルボン酸シグナルにおける核スピン遷移を励起させるように選ばれる周波数の照射によって、サンプルを均一磁場(「一次磁場」としても知られる)に曝露させる。カルボン酸エステルおよびそれに続く対応するカルボン酸塩分子の13C-シグナルの超偏極は、磁気共鳴シグナルを引き起こすこのような核の励起および基底核スピン状態の間の集団差の増加をもたらす。このシグナル強度は、この集団差に比例するので、最終の検出されたMRシグナルは、より大きい振幅のシグナルをもたらす。誘導されたMRシグナルの振幅もまた、磁場の強度、サンプルの温度、造影する核の同位体的性質および化学的環境などのいくつかの他のファクターに従属する。
【0135】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明するが、それらは説明することを意図するものであり、本発明の範囲を決して制限するものではない。
【0136】
実験的部分
すべての13C-NMRスペクトルは、14.1 Tおよび298 Kで操作することによって、600MHz Bruker分光計内に獲得された。
【0137】
実施例
用いたすべての化学物質および試薬は、市販されているか、または当技術分野で周知のほう本発明にしたがって製造することができる。
【実施例1】
【0138】
ビニルエステルからの[1-13C]-超偏極酢酸塩の製造:水性媒体中で行われる超偏極
【化1】
【0139】
酢酸ビニルのパラ水素化
酢酸ビニル(Sigma-Aldrichから購入;参照コード V1505)のパラ水素化を、水溶性触媒[Rh(NBD)ホス][BF4](NBD=ノルボルナジエン、ホス=1,4-ビス[(フェニル-3-プロパンスルホネート)ホスフィン]ブタンジナトリウム塩)(2.5mM 重水素化水溶液)(この触媒は、たとえば、Magn. Reson. Mat. Phys. Biol. Med. 22、123-34(2009)に記載の手順にしたがって製造することができる)を用いて水中で行った。0.3 mlの触媒、0.03 mmolの基質(3μl、最終濃度約100 mM)、0.05 mlのメタノールおよび8バールのパラ水素を充填したヤングバルブを備えたNMR管内へパラ水素化反応を行った(77Kにて富化した、50%富化)。
【0140】
[1-13C]-超偏極エチルエステルの製造
溶液を90℃にて温めた後、NMR管を10秒間激しく振とうし、次いで、ただちに、13Cスペクトルを得た。図2において、超偏極が、脂肪族13Cシグナル上のみであることがわかる。次いで、上述のとおり、NMR管を振とうした後に磁場循環を適用する実験を繰り返した。実験期間中、NMR管をμ-金属磁場シールドに入れ、次いで、シールドから約5秒間ゆっくりと引き出した。次いで、ただちに、得られた溶液の13C-NMRスペクトルを600MHz Bruker分光計で得た。図3a)は、176ppmにて形成された[1-13C]-超偏極エチルエステルの超偏極13C-炭酸塩共鳴を示す、記録された13C-NMRスペクトルを報告する。
【0141】
[1-13C]-超偏極酢酸塩の製造
対応する[1-13C]-超偏極酢酸塩を得るために、上述のように、第二の量の酢酸ビニルでパラ水素化反応を繰り返した。次いで、磁場循環手順の直後に0.05mlの6M NaODを添加することによって、得られた[1-13C]-超偏極エステルを加水分解し、次いで、13C-NMRスペクトルを得る。図3b)は、181 ppmにて酢酸塩の13C-超偏極シグナルを検出することができる、ナトリウム塩として得られた酢酸塩の13C-NMRスペクトルを報告する。興味深いことに、獲得された偏極シグナル強度は、図3a)に示す親のエチル酢酸塩について観察されたものと非常に類似する。
【実施例2】
【0142】
プロパルギルエステルからの[1-13C]-超偏極酢酸塩の製造:水性媒体中で行われた[1-13C]-超偏極
【0143】
酢酸プロパルギルの合成
【化2】
【0144】
酢酸(2.00 g、34.1 mmol)およびプロパルギルアルコール(2.29 g、40.9 mmol)を、ディーン-スターク装置を用い、触媒量のp-TsOH(0.32 g、1.7 mmol)の存在下、C6H6(120 cm3)中で灌流しながら4時間加熱した。反応物を室温に冷却し、飽和NaHCO3(2 x100 mL)、次いで、水(2 x100 mL)で洗浄した。有機層を回収し、乾燥(無水Na2SO4)し、ろ過し、濃縮して、無臭で流動性の黄色油状物(1.67 g、50%)で粗生成物を得、さらなる精製を行うことなく用いた。
【0145】
[1-13C]-超偏極酢酸塩の製造
酢酸塩分子について実施例1において先述したように、および図1の反応工程式b)に示したように(ここで、Rは、CH3である)、含水アルコール媒体中で、得られたプロパルギルエステルのパラ水素化反応を行った。実施例1で先述したように磁場循環を適用した後、それぞれ加水分解する前(図3c)および実施例1に先述したように加水分解した後(図3d)のビニルエステルで観察されるものに相当する、カルボン酸塩炭素原子の13C-偏極を得た。
【実施例3】
【0146】
プロパルギルエステルからの[1-13C]超偏極ピルビン酸塩の製造:水性媒体中およびメタノール/CDCl3中で行われる超偏極
【0147】
ピルビン酸プロパルギルの製造
【化3】
【0148】
ピルビン酸(3.00 g、34.1 mmol)およびプロパルギルアルコール(2.29 g、40.9 mmol)を、ディーン-スターク装置を用い、触媒量のp-TsOH(0.32 g、1.7 mmol)の存在下、C6H6(120 cm3)中で灌流しながら4時間加熱した。反応物を室温に冷却し、飽和NaHCO3(2 x100 mL)、次いで、水(2 x100 mL)で洗浄した。有機層を回収し、乾燥(無水Na2SO4)し、ろ過し、濃縮して、無臭で流動性の黄色油状物(2.08 g、49%)で粗生成物を得、さらなる精製を行わなかった。
【0149】
[1-13C]-超偏極ピルビン酸塩の製造
水性媒体中での[1-13C]-超偏極アリル-エステル
水溶性触媒[Rh(NBD)ホス][BF4](2.5mM重水素化水溶液)を用い、含水アルコール水素化媒体(15%メタノール水溶液)中で、ピルビン酸プロパルギルのパラ水素化を行った。
【0150】
0.3 mlの触媒、0.03 mmolの基質(3μl、濃度約70 mM)、0.05 mlのメタノールおよび8バールのパラ水素を充填したヤングバルブを備えたNMR管内へパラ水素化反応を行った(77Kにて富化した、50%富化)。
【0151】
溶液を90℃にて温めた後、NMR管を10秒間激しく振とうし、次いで、NMR管をμ-金属磁場シールドに入れ、次いで、シールドから約5秒間ゆっくりと引き出した。次いで、ただちに、得られた溶液の13C-NMRスペクトルを600MHz Bruker分光計で得た。図1の反応工程式bに示すように(ここで、R=CH3-CO)、[1-13C]-超偏極ピルビン酸アリルを得る。
【0152】
磁場循環の適用の直後に得られた13Cスペクトル(図4に示す)において、ピルビン酸アリルエステル(160ppm:図4の構造a)、水和物形態(172ppm:図4の構造b)およびヘミアセタール(171ppm:図4の構造c)に起因する、カルボニル領域における3つのシグナルが明確に見られる。最後の種は、その形成を促進する、水への基質の溶解を促進し、触媒効率を改善するために加えられた15%メタノール水溶液の存在による。
【0153】
メタノール中での[1-13C]-超偏極アリル-エステルの製造
次いで、市販の触媒[Rh(COD)dppb][BF4](COD=シクロ-1,5-オクタジエン、dppb=1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン)を用い、反応溶媒としてのメタノール中でパラ水素化反応を行った。2 mgの触媒および0.4 mlのメタノール-d3を充填したヤングバルブを備えたNMR管内へパラ水素化反応を行った。配位したCODの水素化によって触媒を活性化し、次いで、3 μlの基質を加え、8バールのパラ水素でNMR管を加圧した(77Kにて富化した、50%富化)。
【0154】
溶液を室温にて温めた後、NMR管を10秒間激しく振とうし、実施例1に記載したように磁場循環を適用し、次いで、13Cスペクトルを得た。記録されたスペクトルに見られるように、図6に示すとおり、ほとんどの偏極生成物は、図5に示す構造を有するピルビン酸のアセタール体によるものである。
【0155】
メタノール/CDCl3中での[1-13C]-超偏極アリル-エステルの製造
次いで、水素化触媒を除去し、実質的に検出不可能な値まで最終水性混合物中の任意のアルコール性(または水混和性)共溶媒の量を減少させることができ、それによって、実質的に不純物フリーの所望の[1-13C]-超偏極ピルビン酸塩の水溶液をもたらすことができる、[1-13C]-超偏極ピルビン酸塩の相移動抽出の利点を受ける有機媒体中でピルビン酸プロパルギルのパラ水素化反応を行った。
【0156】
さらに詳しくは、水素化触媒として市販の[ビス(ジフェニルホスフィノブタン)(1,5-シクロオクタジエン)]Rh(I)を用い、メタノール/CDCl3混合物(75 μlのメタノールおよび500 μlのCDCl3)中でピルビン酸プロパルギルのパラ水素化反応を行った。2 mgの触媒および0.054 mlのメタノール-d3を充填したヤングバルブを備えたNMR管内へパラ水素化反応を行った。配位したジエンの水素化によって触媒を活性化し、次いで、CDCl3および基質(メタノール25μl中のプロパルギルエステル3μ)を加え、8バールのパラ-H2で管を加圧した。溶液を90℃にて温めた後、NMR管を10秒間激しく振とうして、アセタール体(溶液中のメタノールによる)において、図10(1H-NMRスペクトル)および図11(13C-NMRスペクトル)のパラ水素化された中間体を得た。次いで、上述のように、溶液を90℃にて温めた後、NMR管を10秒間激しく振とうし、実施例1に記載したように磁場循環を適用して、第二の量のピルビン酸プロパルギルで実験を繰り返し、[1-13C]-超偏極エステルを得た。次いで、温度を約90℃に維持しながら0.5 mlの1M NaODを反応混合物に加えることによって、超偏極エステルの塩基性加水分解を行った。添加を、有機相を介したNaODの水溶液の急速注入によって行い、それによって有機相および水相の2つの所望の最速混合を得るのが好ましい。
【0157】
次いで、0.5 mlのDClを添加して、得られた塩基性溶液を酸性pH(pH 4)にした。次いで、水相を回収し、不純物フリーで、約168 ppmにてピルビン酸塩の13C偏極シグナルを示す13Cスペクトル(図7、スペクトルc)を迅速に記録する。
【0158】
インビボ適用において超偏極ピルビン酸塩の回収された水溶液を用いるために、水溶液を生理的pH(pH〜7)にて適当に緩衝することが必要である。しかしながら、α-脱プロトン化ピルビン酸塩および塩基性(pH>8)加水分解条件にて任意に形成されたその対応する水和体から、ピルビン酸塩分子のメチル基をもとに戻すように、たとえば、上述のようにDClの添加によって、超偏極ピルビン酸塩(NaOD(1M)の添加によって得られた)の塩基性溶液をまず酸性pHに酸性化するのが好ましい。次いで、たとえば、0.1 Mリン酸緩衝液によって、酸性溶液をpH〜7にて適当に緩衝して、インビボ適用において使える状態の、不純物フリーで生理的に許容しうる超偏極ピルビン酸塩の溶液を得る。
【実施例4】
【0159】
[1-13C]超偏極TFA-グリシンエチルエステルの製造:MeOHおよびアセトン中で行われた[1-13C]-超偏極
a)基質分子の合成
i)2-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)酢酸(prepared as described in Tetrahedron、2003、59、9019-9029の記載にしたがって製造)
メタノール中のナトリウムメトキシドの30% w/w溶液6 mL中の2 g(25.5 mmol)のグリシンの攪拌懸濁液に、10 mL(51.10 mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを0℃にてゆっくりと加えた。次いで、温度を室温までゆっくりと上昇させ、溶液を4時間攪拌した。次いで、メタノールを蒸発させ、残渣を水性1M HClとジエチルエーテルに分配した。有機相をジエチルエーテル(2x100 mL)で抽出し、合わせた有機層を食塩水(3x100 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧蒸発させた。白色固体(3.61 g、79%)を得、さらに精製することなく用いた。
【0160】
NMR特性決定:
1H NMR(アセトン-d6 400 MHz)d 8.90(1H、bs、NH)、4.06(2H、d、J=5.86 Hz、CH2)
13C NMR(アセトン-d6、100 MHz)d 169.7 [C、COOH]、158.0 [C、q、2JC-F=36.8 Hz、COCF3]、117.0 [C、q、JC-F=285.3 Hz、COCF3] 41.4 [CH2]。
19F NMR(アセトン-d6 376 MHz)d -76.44
【0161】
ii)2-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)酢酸ビニル(TFA-Gly-Oビニル)(たとえば、Org. Process Research and Development、2009、13、706-709の開示にしたがって製造)
15 mLのビニル酢酸塩中のステップi)で得られた中間体化合物(1.30 g、7.60 mmol)の攪拌懸濁液に、アルゴン雰囲気下で、Pd(OAc)2(0,02 g、0.08 mmol)およびKOH(0.04 g、0.76 mmol)を加えた。溶液を室温にて一夜攪拌した。次いで、混合物に水を加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを加えた。水相をジエチルエーテル(2x50 mL)で抽出し、食塩水(3x50 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、ろ過し、溶媒を蒸発させた。次いで、粗生成物を、溶離液としてジエチルエーテル/石油エーテル(40/60)を用いるシリカゲルで精製して、所望生成物を淡黄色固体で得た(0.37 g、25%)。
【0162】
NMR特性決定:
1H-NMR(アセトン-d6 400 MHz)d 9.00(1H、s、NH)、7.26(1H、dd Jcis=6.16 Hz、Jtrans=13.76 Hz CH)、4.93(1H、Jtrans=13.76Hz、CH2)、4.68(1H、d、Jcis=6.16 Hz、CH2)、4.25(2H、d、J=4.25、CH2)
13C-NMR(アセトン-d6、100 MHz)d 166.6 [C、COOビニル]、158.3 [C、2JC-F=36.7 Hz、COCF3]、141.8 [CH]、116.9 [C、JC-F=285.2 Hz、COCF3]、99.0 [CHCH2]、41.5 [NHCH2]
19F NMR(アセトン-d6 376 MHz EK 492)d -76.5
【0163】
b)アセトンおよびメタノール中でのトリフルオロ-アセチルグリシンビニル-エステルのパラ水素化
以下の反応工程式にしたがって、アセトン中またはメタノール中のいずれかにおいて、上両溶媒について、市販の水素化触媒[Rh(COD)dppb]を用い、および両方の場合において、実施例3に記載のメタノール中で[1-13C]-超偏極アリル-エステルを製造するのに用いた手順にしたがって、記のように得られたトリフルオロ-アセチルビニル-グリシン1の水素化反応を行った。
【化4】
磁場循環の適用に続いて、たとえば、メタノール中で行われた水素化反応から記録された図8の13C-NMRスペクトルにおいて観察されたように、両溶媒中で13C偏極カルボニルシグナル(167 ppm)が観察された。
【実施例5】
【0164】
プロパルギルエステルからの[1-13C]超偏極グリシンの製造:メタノール/CDCl3混合物中で行われた[1-13C]-超分極
a)2-(2,2,2-トリフルオロアセトアミド)酢酸プロプ-2-イニル(TFA-Gly-Oプロパルギルの製造)(たとえば、J. Org. Chem、2009、74、3406-3413にしたがって製造)
アルゴン雰囲気下、0.2 mL(3.51 mmol)のプロパルギルアルコールおよび0.02 g(0.18 mmol)のDMAP((ジメチルアミノ)ピリジン)を、無水ジクロロメタン中の化合物1の攪拌溶液に加えた。温度を0℃に下げ、2.63 g(2.63 mmol)のDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)を加えた。温度を室温までゆっくりと上昇させ、溶液を3時間攪拌した。形成した白色沈殿をろ去し、ジクロロメタンを減圧蒸発させた。粗生成物を、溶離液としてジエチルエーテル/石油エーテル(50:50)を用いるシリカゲルで精製して、所望生成物を白色固体で得た。
【0165】
NMR特性決定:
1H-NMR(アセトン-d6 400 MHz、EK 473)d 8.89(1H、bs、NH)、4.79(2H、d、J4=2.36 Hz、COOCH2)、4.17(2H、d、J=5.88、NHCH2)、3.05(1H、t、J4=2.36 Hz、CH)
13C-NMR(アセトン-d6、100 MHz、EK 473)d 168.4 [C、COO-プロパルギル]、158.3 [C、2JC-F=36.7 Hz、COCF3]、116.9 [C、q、JC-F=285.2 Hz、COCF3]、78.2 [C、CCH]、76.8 [CH、CCH]、53.3 [CH2、COOCH2]、41.5 [CH2、NHCH2]
19F NMR(アセトン-d6 376 MHz EK 492)d -76.4
【0166】
b)[1-13C]-超偏極-グリシンの不純物フリーの水溶液の製造
【化5】
【0167】
メタノール/CDCl3中の[1-13C]-超偏極アリル-エステルの製造のために実施例3に記載したものと同じ手順を用いて、75 μlの代わりに200 μlのメタノール-d3を用い、メタノール/CDCl3(200μ /500μl)混合物中で、市販の触媒[Rh(COD)dppb]を用いて、得られたTFA-Gly-Oプロパルギル 1のパラ水素化を行った。磁場循環の適用に続いて、1mlの2M NaODの添加によって、[1-13C]-超偏極TFA-Gly-Oアリルエステルの加水分解を行い、水素化エステル部分(すなわち、アリル-アルコール)および保護基TFA(トリフルオロ酢酸)の両方を除去した。次いで、図9に示す、直接回収された水相の13C-NMRスペクトルを記録した。13C偏極シグナルは、記録されたスペクトルの[1-13C]-超偏極フリーグリシン、不純物フリーに対応する181 ppmにて観察される。興味深いことに、水素化エステルの加水分解および[1-13C]-超偏極グリシンの相移動抽出の直後に回収された水相において記録されているにもかかわらず、記録されたスペクトルは、水素化共溶媒として用いたメタノールの、機器によって検出可能な残留物などの検出可能な不純物がない。
【実施例6】
【0168】
水性媒体中での[1-13C]超偏極乳酸塩の製造
a)基質分子 2-アセトキシ-プロピオン酸ビニルエステル(乳酸ビニル)の製造
66 mLのビニル酢酸塩中の2-アセトキシ-プロピオン酸(3.0 g、23 mmol)の攪拌懸濁液に、窒素雰囲気下、Pd(OAc)2(0,076 g、0.34 mmol)およびKOH(0.200 g、3.5 mmol)を加えた。溶液を室温にて48時間攪拌した。次いで、混合物に水を加えて反応を停止し、触媒をろ過し、ジエチルエーテルを加えた。水相をジエチルエーテル(3x40 mL)で希釈し、食塩水(3x50 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、ろ過し、溶媒を蒸発させた。次いで、粗生成物を、溶離液としてジエチルエーテル/石油エーテル(1/4)を用いるシリカゲルで精製して、所望生成物を淡黄色油状物で得た(0.579 g、16%)。
【0169】
1H-NMR(CDCl3 400 MHz)7.2(1H、dd、CH2)、5.1(1H、q、CH)4.95(1H、d CH)、4.65(1H、d CH2)、2.12(3H、s、CH3)、1.5(3H、d、CH3)
13C-NMR(CDCl3、100 MHz)d 171 [C、COOビニル]、168[C、COOCH3]、141 [CH]、100 [CHCH2]、67 [CH]、20 [CH3]、17 [CH3]
【0170】
b)[1-13C]-超偏極乳酸エチルの製造
反応工程式:
【化6】
【0171】
[1-13C]-超偏極酢酸エチルエステルの製造のために実施例1に記載したものと同じ手順を用いて、メタノールの代わりに0.05 mlのアセトンを用い、水溶性触媒[Rh(NBD)ホス][BF4]を用い、水中にて2-アセトキシ-プロピオン酸ビニルエステル(1)のパラ水素化を行った。
【0172】
磁場循環の適用に続いて、2-アセトキシ-プロピオン酸エチルエステル(3)の13C偏極カルボニルシグナル(173 ppm)を観察した(図12の上のスペクトル)。
【0173】
c)[1-13C]-超偏極乳酸塩の製造
対応する[1-13C]-超偏極乳酸塩を得るために、上述のように、第二の量のビニルエステル(1)でパラ水素化反応を繰り返し、磁場循環手順の直後に0.05mlの12M NaODを添加することによって、得られた[1-13C]-超偏極エステルを加水分解する。次いで、0.05 mlの12M DClの添加によって得られた溶液を酸性化して、13C-NMRスペクトルを迅速に得る。図12(下のスペクトル)は、乳酸塩の13C-超偏極シグナルが177.5 ppmにて検出可能である、得られた乳酸塩の13C-NMRスペクトルである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12