特許第6483111号(P6483111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6483111-アルカリ溶液の電解セル 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483111
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】アルカリ溶液の電解セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/03 20060101AFI20190304BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20190304BHJP
   C25B 1/10 20060101ALI20190304BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20190304BHJP
   C25B 13/04 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C25B11/03
   C25B11/08 Z
   C25B1/10
   C25B9/00 A
   C25B13/04 301
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-526577(P2016-526577)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2016-527396(P2016-527396A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2014065097
(87)【国際公開番号】WO2015007716
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年6月19日
(31)【優先権主張番号】61/847,255
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】クラソビック,ジュリア・リン
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−138086(JP,A)
【文献】 特開昭57−063683(JP,A)
【文献】 実開平02−051263(JP,U)
【文献】 特開平09−143778(JP,A)
【文献】 特開昭52−078788(JP,A)
【文献】 特開昭60−141885(JP,A)
【文献】 米国特許第5316643(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜によってアノード区画とカソード区画に仕切られた電解セルであって、それぞれの区画にアルカリ性溶液を供給するための手段とこの溶液を排出するための手段が設けられていて、前記アノード区画は酸素を発生させるのに適したアノードを有し、前記カソード区画は水素を発生させるのに適したカソードを有し、またカソード区画は白金とパラジウムから選択される少なくとも1種の貴金属を含む触媒活性層を介して前記の膜と密接している多孔質のウェブを有する、前記電解セル。
【請求項2】
水素を発生させるのに適した前記カソードは炭素または金属の粉末とポリマー結合剤からなる第二の層を有し、この第二の層は前記の膜とは反対側で前記触媒活性層と隣接していて、そして前記触媒活性層よりも親水性が低い、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記陽イオン交換膜は非強化単層のスルホン膜である、請求項1または2に記載のセル。
【請求項4】
前記カソード区画は前記膜の反対側でカソード壁によって画定されたチャンバからなり、そして前記カソードは、多孔質な金属構造物(場合により、ニッケルまたは鋼の気泡体)からなる集電体を介して前記カソード壁と電気的に接触している、請求項1から3のいずれかに記載のセル。
【請求項5】
前記アノード区画は前記膜の反対側でアノード壁によって画定されたチャンバからなり、そして酸素を発生させるのに適した前記アノードは、多孔質な金属構造物(場合により、ニッケルまたは鋼の気泡体またはマット)からなる集電体を介して前記アノード壁と電気的に接触している、請求項1から4のいずれかに記載のセル。
【請求項6】
酸素を発生させるのに適した前記アノードは、ニッケルまたは鋼のメッシュまたは拡張シートまたは打抜きシートで作った基材からなり(この基材は、場合により触媒被覆によって活性化されている)、そして前記の膜と直接に接触している、請求項1から5のいずれかに記載のセル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のセルをモジュール配置させたものからなるアルカリ溶液の電解装置であって、二極式または単極式の構成になるように前記アノード壁とカソード壁を介して電気的に接続した、前記電解装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のセルにおいて電気分解を行う方法であって、以下の各同時工程または連続工程:
− アルカリ金属水酸化物の溶液からなる電解液を前記アノード区画とカソード区画に供給すること;
− 前記カソード区画を電源装置の陰極に接続し、また前記アノード区画を陽極に接続し、次いで、直流を供給すること;
− 前記触媒活性層の中で水素をカソード反応によって発生させ、そして前記カソード区画から前記水素を排出させること;
− 前記アノードの表面上で酸素を発生させること;
を含む、前記電気分解の方法。
【請求項9】
前記電解液は10〜20重量%の濃度の苛性ソーダの水溶液からなる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学セルに関し、特に水素のカソード生成と酸素のアノード生成を伴う苛性ソーダまたは苛性カリの電解セル(電解槽)に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液の電気分解による水素と酸素の製造は、当分野において広く知られている。酸性溶液とアルカリ性溶液のいずれかの電気分解に基づく技術は過去において用いられていたが、電解液の侵襲性が弱く、そのことにより金属材料を製造するのにより広い選択肢が可能となるために、主として後者が好まれていた。苛性ソーダまたは苛性カリのようなアルカリ溶液の電気分解は、大気圧において半透性の隔膜によって仕切られたセルにおいて、70年代以来、工業規模で行われている。よく知られているように、通常用いられる隔膜は処理条件に関して厳しい制限を伴い、安全な条件下での加圧した操作については、また例えば3kA/mを超えるような高い電流密度の操作については、不適切である。加えて、操作を単純にするために、カソード区画の出口における電解液(これのpHはカソード反応の影響下で増大する傾向がある)は、セルに再循環させる前に、アノード区画の出口における電解液(これのpHは逆に低下する傾向がある)と混合させなければならない。これら二つの出口の流れの中に溶解した水素と酸素は(わずかな量ではあるが)混合することになり、それにより最終製品の純度が低下し、商業上の観点から、このことは製品の水素について特に重大なことと考えられる。隔膜式アルカリ電解装置において製造される水素の典型的な純度は、乾燥したカソード生成物中の酸素の濃度について測定して、約0.5%のO含有量(5000ppm)の範囲である。
【0003】
そのような限界を克服する試みにおいて、純水を電気分解することができる「PEM」または「SPE」(それぞれ「プロトン交換膜」および「固体高分子電解質」)と呼ばれる世代の電解セルが後年になって開発されたが、これらは、ガスチャンバ(ガス室)からなる二つの区画を分離するための、二つの面上で適切に触媒化されたイオン交換膜の使用に基づくものである。イオン交換膜は実際に、数バールの圧力差に耐えることができ、そしてはるかに高い電流密度(極端な場合には、約25kA/mの値に達する電流密度)で操作することができる。このタイプのセルを使用して得られる水素の純度は、乾燥したカソード生成物中のOについて約400〜700ppmの範囲である。それにもかかわらず、PEMセルまたはSPEセルもまた、幾つかの重大な欠点を有し、特に、構造上の許容度を補うことができて、また局部的な電気的連続性を維持することができる高度に導電性の電解質が無いときは、大きなサイズのセルを設計する困難さと関連する欠点を有する。この理由から、この種の技術について備えることができる最大の出力は数kWのオーダーのものであると、一般に考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、先行技術の限界を克服する水素と酸素の製造のための電解技術であって、高純度の製品をもたらすとともに、高い電流密度で大規模に運転することができる技術を提供することに対する必要性が確認されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の様々な側面が、添付する特許請求の範囲に示されている。
【0006】
一つの側面において、本発明はアルカリ溶液の電気分解のためのセルに関し、このセルはアルカリ性電解液(典型的には、苛性ソーダまたは苛性カリ)が供給されるアノード区画とカソード区画に陽イオン交換膜によって仕切られていて、アノード区画は酸素の発生に適したアノードを有し、そしてカソード区画は水素の発生のためのカソードを有する。カソードは多孔質のウェブ(薄板)から得られて、白金とパラジウムから選択される少なくとも1種の金属を含む触媒活性層を介して交換膜と密接している。この種のカソード構造物はしばしばガス拡散用のカソードとして用いられ、その場合、ガスの輸送に適していて通常は炭素質の材料または金属材料から得られる多孔質のウェブに、ポリマー結合剤(これは、場合により焼結される)と混合された金属または炭素の粉末からなる一つ以上の拡散性の層が通常設けられる。これらの層(またはこれらの層の一部)は、適宜に触媒化することができる。ガス拡散用のカソードとして用いられるとき、この種の電極には、例えば燃料電池または減極型電解セルにおいて酸素の還元を行うために、ガス状の反応物質が供給される。それにもかかわらず、発明者らは、この種の電極の構成は苛性ソーダまたは苛性カリの電解プロセスにおいてカソードで水素を極めて高い純度で得るのに特に適していることを見いだした。
【0007】
この種の電極のこの意外な性能は、電極をガスチャンバの中に配置するよりも液体の区画の中に置いたとき、交換膜と接触している触媒化した層ならびに出発の多孔質ウェブと接触している層に比較的に親水性の適当な特性を付与することによって、さらに改善することができる。拡散性の層の親水性または疎水性の度合いは、疎水性の成分(例えば、ポリマー結合剤)に対する親水性の成分(例えば、炭素質粉末または金属の粉末)の比率を操作することによって調整することができ、また電極層の親水性を調整するためには様々な炭素粉末の適切な選択を行ってもよい。触媒活性層の様々な配合が発明者らによって試験され、例えば、貴金属の様々な混合物が用いられ、幾つかの場合には、白金および/またはパラジウムをベースとする触媒によってもたらされる値に近似するセル電圧が得られた。しかしながら、後者(白金および/またはパラジウムをベースとする触媒)は、製品としての水素の純度に関しては無条件に優れた性能を示した。
【0008】
本発明に係るセルにおいて、アルカリ性電解液(例えば、苛性ソーダまたは苛性カリ)はセルの二つの区画における適当な供給手段と排出手段によって循環される。一つの態様において、アノード区画とカソード区画の中で同じ濃度のアルカリ性電解液が維持される。このことは、陽イオン交換膜を通しての一つの区画から他の区画への電解液の移動を最小限にするという利点を有するかもしれない。この陽イオン交換膜は水圧セパレーターとして作用するけれども、輸送されるイオンの溶媒和球(solvation sphere)として水の浸透を依然として受けて、その水にはアノードで生成する少量の酸素が伴う可能性があり、この酸素がカソードで生成する水素を汚染するかもしれない。この場合におけるアノード液とカソード液の組成は同一であるが、二つの出口の流れの循環は、生成物の純度を最大限にするために離れた状態に維持される。一つの態様において、アノード区画の内部には酸素の電解発生のためのアノードが存在し、それは金属酸化物(例えば、スピネルまたはペロブスカイトの群に属するもの)を主成分とする触媒を含む薄膜で被覆したニッケル基材からなる。
【0009】
セパレーターとしてのカチオン交換膜(これはアルカリ性溶液の電気分解においては全く非典型的なものである)の使用は加圧条件においてさえもガスの分離をさらに向上させ、そのことは一つの区画と他方の区画との間でかなりの差圧を伴う運転を可能にし、全体的な効率の最適化に寄与する。一方、本発明に係るセルはPEMまたはSPEのタイプのセルについても確かな利点をもたらすのであり、というのは、高度に導電性の液体電解質の存在により、さほど厳重ではない構造上の許容誤差を伴って運転することができ、それにより、局所的な電気的接触がより重大となる領域の存在が補償されるからである。さらに、最も驚くべき側面は、本発明に係るセルで生成される水素の純度はPEMまたはSPEのタイプのセルにおいて観察される純度よりもいっそう高い、ということである。
【0010】
一つの態様において、ガス拡散性のカソードには、隔膜と直接に接触する触媒化された親水性の高い層と外側の親水性の比較的低い層が設けられ、後者はガス状の生成物の放出を促進するのに適している。このことは物質輸送の現象を改善する利点を有するはずであり、液体の電解質を触媒の位置に容易に接近させるとともにガスに対して優先的な出口通路を与える。疎水性の層は触媒化されていなくてもよい。一つの態様において、ガス拡散性のカソードは白金含有触媒を用いて(少なくとも親水性の高い層において)活性化されている。白金はアルカリ溶液からのカソードでの水素の発生のために、活性と安定性に関して特に適しているが、代替物として、パラジウム、または白金とパラジウムの混合物を主成分とする触媒を用いることができる。
【0011】
一つの態様において、陽イオン交換膜は、燃料電池の用途のために一般的に用いられるタイプの非強化単層(monolayer)のスルホン膜である。厚さの薄い非強化膜であっても、それらが適当な機械的構造によって適切に支持されているならば、アルカリ性の電解質を用いて運転される場合であっても、指定された処理条件において高い性能を示す、ということを発明者らは認めた。これは、アルカリ性電解液を用いる工業用途に典型的である内部補強手段を備えた単層のスルホン膜についての低い抵抗降下と比較的安い費用、およびかなり高いセル電圧を生じさせることによって特徴づけられるタイプの隔膜を使用することを可能にする、という利点を有する。同様のことは工業用途においてしばしば用いられる陰イオン交換膜との比較においても認められ、アノード液とカソード液の分離に関して、はるかに高い電気的効率と良好な特性という追加の利益を伴い、製品としての水素の純度において明白な結果をもたらす。
【0012】
一つの態様において、カソードとカソード壁は多孔質な金属構造物(例えば、ニッケルまたは鋼の気泡体(foam))からなる集電体を用いて電気的に接触している。これは、カソードの表面の全体に沿って密に分布した点による電気的接触が確立されるという利点をもたらすだろう。カソードは、炭素質の基材から得たものであると、かなり低い表面導電性を有する場合がある。同時に、この種の集電要素は機械的な負荷が低くなる均等に良好に分布した機械的支持を補償することができ、そのことは、二つのセル区画の間で加圧差がある条件の下であっても陽イオン交換膜が保護されることに寄与する。
【0013】
一つの態様において、酸素を発生させるためのアノードはニッケルまたは鋼のメッシュまたは拡張シートまたは打抜きシートで作った基材からなり、場合により、触媒被覆によって活性化されている。ニッケルと鋼は工業用隔膜電解装置のカソード区画のために典型的に用いられる材料であり、本発明に係るセル構造によって可能になった電解液の組成についての特定の条件は、それらをアノード区画についても用いることを可能にし、セルの構造を単純にする。一つの態様において、アノードと隔膜の隙間の中の電解液に関連する抵抗降下を解消するために、酸素を発生させるためのアノードは隔膜と直接に接触して配置される。
【0014】
一つの態様において、酸素を発生させるためのアノードは、カソード側について示した集電体と同様に、多孔質の金属構造体(例えば、ニッケルまたは鋼の気泡体)からなる集電体を介して関連するアノード壁と電気的に接触していて、隔膜とカソードのパッケージの機械的支持を最適にすることにさらに寄与する。アノードの集電体の寸法取りはカソードの集電体の寸法取りとは異なっていてもよく、特に、多孔度と接触点の密度の点で異なっていてもよい。上述の集電体を最適に寸法取りすることによって、アノードを隔膜と直接接触させて配置することができて、それによって隔膜が適切なやり方で支持され、同時に、隔膜に穴があく危険性が実質的に制限されるのであり、さもなければ、隔膜は(例えば、摩滅によって)損傷するだろう。
【0015】
別の側面において、本発明は上述した通りのセルをモジュール配置(組み立て配置)させたものからなるアルカリ溶液の電解装置に関し、二極式または単極式の構成に従うアノード壁とカソード壁を介して直列式または並列式に電気的に接続したものである。
【0016】
別の側面において、本発明は電気分解の方法に関するもので、この方法は、苛性ソーダまたは苛性カリのようなアルカリ金属水酸化物の溶液からなる電解液を上述したセルのアノード区画とカソード区画に別々に供給し、カソード区画を整流器またはその他の直流電源の陰極に接続し、またアノード区画を陽極に接続すると同時に、直流を供給し、溶解した酸素を含む排出電解液をアノード区画から取り出し、そして溶解した水素を含む排出電解液をカソード区画から取り出すこと、を含む。
【0017】
一つの態様において、プロセス電解液は8〜45重量%の濃度(より好ましくは、10〜20重量%の濃度)の苛性ソーダの水溶液からなる。これは、最適な処理効率を達成すると同時に、陽イオン交換膜の保全性を適切に維持する、という利点を有するだろう。
【0018】
本発明を例証する幾つかの具体例を添付図面を参照して以下で説明するが、その図面は本発明の特定の具体例についての様々な構成要素の相互の配置を相対的に例示することだけを目的にしていて、特に、各構成要素は必ずしも一定の縮尺で描かれてはいない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本発明に係る電解セルの側面の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は陽イオン交換膜100によってアノード区画とカソード区画に細分された電解セルの側面の断面図を示し、アノード区画は隔膜100の反対側でアノード壁200によって画定されたチャンバ(室)からなり、アノード区画の内部で、メッシュまたはその他の多孔質金属構造物で作られた基材からなるアノード300が隔膜100と直接接触して存在しているか、あるいは数ミリメートルのオーダーの大きさの極めて小さな所定の隙間をもって隔膜100から離れている。アノード300と対応するアノード壁200との間の電気的接触は、多孔質金属構造物(例えば、ニッケルまたは鋼の気泡体またはマット(織物))からなるアノード集電体600を介して行われる。アノード区画は処理するアノード液(例えば、苛性ソーダまたは苛性カリ)の供給手段400と排出手段401を備えている。図面では上からの電解液の供給と下からの排出を示しているが、しかし電解液を逆さまに供給することによってセルを運転してもよい。アノード区画において、酸素500が生成し、そして電解液の相の中の泡の形で排出される。カソード区画は隔膜100の反対側でカソード壁210によって画定されたチャンバからなり、白金および/またはパラジウムで触媒活性化された層を備えた多孔質のウェブ(薄板)からなるカソード310が、例えば熱間圧縮またはその他の公知の技術によって、隔膜100と密接して配置されている。カソード310とカソード壁210との間の電気的接触は、多孔質金属構造物(好ましくは、ニッケルまたは鋼の気泡体)からなるカソード集電体610を介して行われる。カソード区画は処理するカソード液の供給手段410と排出手段411を備えていて、一つの態様において、カソード液は処理用アノード液と同じ組成を有するが、しかしアノード液とは別々に循環される。カソードの生成物は、電解液の相の中の泡として排出される水素510からなる。例示しているセルは、ガスケット系(図示せず)と締結手段(例えば、アノード壁とカソード壁の外周に沿って配置された連結棒(図示せず))も有する。これまでに説明したセルの複数のものが電解装置の組み立て要素として用いるのにいかに適しているかは、当業者には明快であろう。例として、電気的に連続して接続したセルの積層からなる二極構成の電解装置は、当分野で広く知られているフィルタープレス(圧濾器)の構成に従って、中間のセル壁のそれぞれが一つのセルのアノード壁および隣接するセルのカソード壁として同時に作用するように、セルを組み立てることによって得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下の実施例は本発明の特定の態様を証明するために提示されるものであり、本発明の実行可能性は特許請求の範囲に記載された数値の範囲内で十分に実証されている。当業者であれば、実施例において開示された構成と技術は本発明を実施するために十分に機能するものであることが発明者によって見いだされた構成と技術を示していることを理解するはずであるが、しかるに、当業者であれば、本明細書の開示に照らして、開示された特定の態様において多くの変更を行うことができて、それでもなお、本発明の範囲から逸脱することなく、同様の結果または類似する結果が得られることを理解するだろう。
【0022】
実施例
二つの電解装置を組み立てたが、一方は8個のセルからなり、他方は4個のセルからなり、それらのセルは63cmの電極面積を有する図面に示したタイプのもので、電気的に連続するように相互に連結し、フィルタープレス二極構成になるように組み立てた。異なるセル区画を画定する壁はニッケルのシートで形成した。アノード集電体として、ワイヤーを組み合わせて重ねた四つの層からなるニッケル製のマット(織物)で、圧縮しない状態で2mmの厚さを有するものを用い、カソード集電体として、1mmの厚さの気泡体を用いた。アノードをニッケルのメッシュで製造し、ランタン、コバルトおよびニッケルの酸化物の混合物を含む触媒の薄い層で活性化させ、隔膜と密接させて組み立てた。カソードを、高表面積のカーボンブラックの上に担持した20重量%の白金を主成分とする触媒からなる親水性の層で活性化させた炭素布で製造したが、この際、デュポン(DuPont)から得たナフィオン(Nafion(登録商標))スルホン化過フッ素化イオノマー分散液を炭素布の上に噴霧して堆積させることによって炭素布に浸み込ませて、Ptの総添加量を0.5mg/cmとした。隔膜とは反対側の親水性の層の上に、低表面積のカーボンブラックとPTFEを1:1の重量比で混合したものから得た疎水性の層を、やはり噴霧することによって堆積させた。デュポンが製造した単層スルホンナフィオン膜にカソードを重ね、そしてセル締結(cell tightening)の作用の下で冷圧(コールドプレス)した。平衡状態に早く達するように、発明者らは、セルを組み立てる前にカソードと隔膜を熱圧(ホットプレス)する可能性についても確かめた。
【0023】
電解装置を3000時間の二つの試験の展開において運転したが、一方は苛性カリについて、そして他方は苛性ソーダについて行い、電解液の濃度(アルカリについて45重量%以下)、電流密度(9.5kA/m以下)およびカソード圧力(1〜2バール(絶対圧))を変化させた。全ての試験において、PEMまたはSPEの純水の電解装置に典型的なものに相当する高い純度の水素が生成した。同様に大気圧および中程度の電解液濃度において、セル電圧についての性能は予想したのと完全に適合した。例えば、両方の区画において大気条件において20%の苛性ソーダを用い、そして73℃の平均温度において運転することによって、9.5kA/mにおいて1.92Vの安定した電圧が得られた。
【0024】
生成物としての水素の純度を、乾燥したカソード生成物における酸素の濃度について測定し、異なる各試験においてOについて0.1〜1ppmの範囲内の値が得られた。
【0025】
比較例
上の実施例のうちの一つと同様に、4個のセルを有する電解装置を組み立てたが、ただし、代替のカソードとして、5g/mの白金の電気被覆で活性化したニッケルのメッシュを用い、これを隔膜と密接させて組み付けた。前の実施例の試験の展開を、大気圧だけにおいて繰返し行った。その理由は、隔膜の二つの面に接触している二つの金属メッシュを有するセルに加圧することは、隔膜の保全性に対してあまりに有害であると考えられたためである。20%の苛性ソーダについて73℃において運転することによって、9.5kA/mにおいて2.34Vの安定した電圧が得られた。この試験を展開する間に検出した最大の水素の純度は、乾燥したカソード生成物において400ppmのOに相当するものであった。
【0026】
以上の説明は本発明を限定することを意図しておらず、本発明はその範囲から逸脱することなく様々な態様に従って用いることができ、本発明の範囲は添付する特許請求の範囲だけによって確定される。
【0027】
本出願の明細書と特許請求の範囲の全体を通して、「含む」という用語は、他の元素、構成要素または追加の加工工程の存在を排除することを意図していない。
【0028】
文献中の検討事項、法令、資料、デバイス、記事、その他同種類のものは、単に本発明についての背景を提供するという目的のために本明細書に含まれる。これらの事項の何らかのもの、あるいはそれらの全てが先行技術の基礎の部分を形成していたか、あるいは、それらが、本出願の各々の請求項の優先日の前に、本発明に関連する分野において一般的な共通認識になっていた、ということは示唆されていないし、表明されてもいない。
【符号の説明】
【0029】
100 陽イオン交換膜(隔膜)、 200 アノード壁、 210 カソード壁、 300 アノード、 310 カソード、 400 アノード液の供給手段、 401 アノード液の排出手段、 410 カソード液の供給手段、 411 カソード液の排出手段、 500 酸素、 510 水素、 600 アノード集電体、 610 カソード集電体。
図1