特許第6483139号(P6483139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483139
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】増強した安定性のEMDの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20190304BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20190304BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190304BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20190304BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20190304BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20190304BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20190304BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   A61K38/16
   A61K8/64
   A61K47/36
   A61K8/73
   A61P1/02
   A61Q11/00
   A61P17/02
   A61K47/18
【請求項の数】28
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-546927(P2016-546927)
(86)(22)【出願日】2015年1月19日
(65)【公表番号】特表2017-502995(P2017-502995A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】EP2015000079
(87)【国際公開番号】WO2015106970
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】1450046-6
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】1450546-5
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】506415207
【氏名又は名称】ストラウマン ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドラ・アピチェッラ
(72)【発明者】
【氏名】ペギー・ホイヌマン
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−504520(JP,A)
【文献】 特表2002−538212(JP,A)
【文献】 特表2012−522801(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/166626(WO,A1)
【文献】 特表2008−523047(JP,A)
【文献】 J Struct Biol., 2007, Vol.160 No.1, p.57-69
【文献】 Langmuir, 2006, Vol.22, p.2227-2234
【文献】 Jpn J Oral Biol., 2001, Vol.43, p.175-183
【文献】 J Struct Biol., 1998, Vol.122, p.320-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 8/00
A61K 47/00
A61P
A61Q 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法であって、以下の工程:
a.エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を発育中の哺乳類の歯から単離する工程、
b.前記単離物を好適な医薬担体に溶解する工程、
c.前記製剤のpHを最初にpH4未満まで下げる工程、および
d.前記製剤を40〜100℃の間に少なくとも10分間加熱する工程
を含
ただし、前記哺乳類はヒトではない、
前記製造方法。
【請求項2】
工程c.において、前記製剤のpHを、2までのように、最高で3.5までのように、3.5未満まで下げる、請求項1に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項3】
工程d.において、工程c.の前記製剤を、少なくとも80℃に少なくとも3時間加熱する、請求項1または2に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項4】
工程d.において、工程c.の前記製剤を、少なくとも50℃に少なくとも1時間加熱する、請求項1または2に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項5】
前記好適な医薬担体は、ユニバーサル緩衝液である、請求項1または2に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパ
ク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項6】
前記好適な医薬担体は、酢酸水溶液、クエン酸水溶液、または水である、請求項3に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項7】
前記エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、18〜25kDaの間、20〜24kDaの間、20〜22kDaの間、および20kDaからなる群から選択される平均分子量を有するアメロゲニンを少なくとも60〜70%含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項8】
工程d.の前記製剤を好適な粘度調節剤と混合する工程を更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項9】
前記製剤を好適な粘度調節剤と混合する前に、工程d.の前記製剤のpHを少なくともpH5に調節する工程を更に含む、請求項6に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項10】
前記粘度調節剤は、PGAである、請求項6または7のいずれか1項に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項11】
前記PGAは、電子ビーム殺菌されたPGAであり、かつ前記製剤は、少なくともpH5のpHを有する、請求項8に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項12】
前記PGAは、130kDaより大きい重量平均分子量を有する殺菌されたアルギン酸プロピレングリコール(PGA)である、請求項8または9に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項13】
工程d.の前記製剤のpHを最高でpH5に調節する工程を更に含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項14】
前記製剤のpHをpH2.5のような、pH2.5〜pH4.5の間のような、pH2〜pH5の間に調節する、請求項13に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項15】
前記製剤を好適な粘度調節剤と混合する、請求項13または14のいずれか1項に記載
のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項16】
前記粘度調節剤は、ヒアルロン酸である、請求項13または15のいずれか1項に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項17】
前記ヒアルロン酸は、電子ビーム殺菌されている、請求項16に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法で製造される、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項19】
アルギニンを更に含む、請求項18に記載のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項20】
前記アルギニンは、最高で500mMの濃度を有する、請求項19に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項21】
2℃〜室温で少なくとも12か月の貯蔵寿命および/または耐久性を特徴とする、請求項18〜20のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項22】
室温で少なくとも12か月の期間にわたる貯蔵寿命および/または耐久性を特徴とする、請求項18〜21のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項23】
好適なボーンセラミックおよび/または骨移植片を更に含む、請求項18〜22のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項24】
前記エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、前記製剤1ml当たり5〜35mgの間の濃度を有する請求項18〜23のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項25】
前記エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、前記製剤1ml当たり少なくとも29mgの濃度を有する請求項24に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項26】
医薬品に用いられる、請求項18〜25のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項27】
創傷治療ならびに/またはインプラント周囲疾患および/もしくは歯周炎の治療に用いられる、請求項18〜26のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤。
【請求項28】
請求項18〜27のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤、ならびに顆粒、ボーンセラミック、足場、骨移植片、天然骨材料、骨ブロック、義歯、およ
びインプラントからなる群から選択される少なくとも1つの更なる成分を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を含む、医薬、歯科用および/または化粧品製剤であって熱安定性な製剤の製造方法に関する。特に、本発明は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質の安定な製剤の製造方法であって、上記タンパク質および/または誘導体を、熱処理工程を施す前に低pH製剤に溶解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメルマトリックス内に存在するエナメルマトリックスタンパク質は、エナメル質の前駆体として最も周知である。セメント質形成前に、エナメルマトリックスタンパク質を発育中の歯根の先端部の歯根の表面に付着させる。付着したエナメルマトリックスがセメント質形成の開始因子であるという証拠がある。更に、セメント質の形成自体が歯周靱帯および歯槽骨の発育と関係がある。それゆえエナメルマトリックスタンパク質は、歯における自然な付着物の成長を模倣して歯周再生を促進することができる(非特許文献1)。
【0003】
単離されたエナメルマトリックスタンパク質は、エナメルマトリックスに隣接して発育する組織に天然にみられる1つの因子だけでなく変性されたカスケードの因子を誘導することができる。それらは、発育中の組織の自然環境に類似しており、従って組織再生、細胞分化および/または細胞の成熟のための天然の刺激を模倣することができる。
【0004】
エナメルマトリックス誘導体(EMD)は、ブタエナメルマトリックス由来の精製されたタンパク質の酸抽出物の形態で、重度の歯の付着喪失に罹患している患者において機能性の歯周靱帯、セメント質および歯槽骨を回復させるためにすでに成功裏に使用されてきた(非特許文献2)。
【0005】
更に、培養された歯周靱帯細胞(PDL)に関する研究において、EMDが培養物中に存在する場合、これらの細胞の付着速度、成長および代謝が著しく増加することが示された。更に、EMDに曝露された細胞では、対照と比較した場合、細胞内cAMPシグナル伝達および成長因子の自己分泌産生を増加することが示された。他方で、上皮細胞では、EMDが存在した場合にcAMPシグナル伝達および成長因子分泌を増加させるが、増殖および成長いずれも阻害された(非特許文献3)。
【0006】
エナメルマトリックスタンパク質およびエナメルマトリックス誘導体(EMD)は、すでに硬組織形成の誘導(すなわちエナメル質の形成、特許文献1)、硬組織間結合の確保(特許文献2および特許文献3)、皮膚および粘膜などの開口創治癒の促進、感染症および炎症性疾患の治療の際有益な効果の保有(特許文献4および特許文献5)、象牙質再生の誘導(特許文献6)、移植片定着の促進(特許文献7)、腫瘍処置におけるアポトーシスの誘導(特許文献8)、全身性感染または炎症に対する免疫応答不均衡の制御(特許文献9)、および腫瘍縮小術などの処置および/または外傷後の創腔および/または組織欠陥の充填促進(特許文献10)を可能にすることが特許文献に記載されている。
【0007】
EMDは、多くのタンパク質、例えば、アメロゲニン、エナメリン、タフトタンパク質、プロテアーゼ、およびアルブミンから構成されている。アメロゲニンは、少なくとも60%〜90%まで、例えば、70〜90%であるEMDの主成分であり、選択的スプライシングおよび制御された分泌後プロセッシングにより単一遺伝子から誘導可能な一群の疎水性タンパク質である。それらは、脊椎動物の進化を通して高度に保存されており、また調べたすべての高等脊椎動物間で全体に高いレベルの配列相同性を示す(80%)。実際、ブタとヒトのアメロゲニン遺伝子転写物の配列は、塩基の4%しか異ならない。従って、エナメルマトリックスタンパク質および/またはEMDタンパク質は、ブタ起源であっても、人体に接触した時に「自己」であるとみなされ、またアレルギー反応または他の望まない反応を引き起こすことなくヒトの歯の再生を促進できる。エナメルマトリックス誘導体タンパク質(EMD)は、最も周知なエナメル質の前駆体である。PGAで増粘したその水溶液は、商標Straumann(登録商標)、Emdogain(登録商標)の下で商品化されている。
【0008】
EMDはStraumann Emdogain(登録商標)ゲルの有効成分であり、歯周病患者のための再生治療に使用される。この製剤において、アルギン酸プロピレングリコール(PGA)は、患部組織上にEMDを放出するための担体として働く。Emdogain(登録商標)が、EMDの等電点(pH6.8)に近い、すなわち、ほぼ中性pHの条件下で、適用されると、EMDは、沈殿し、細胞増殖および靭帯伸長を促進する緻密層を形成し、結果として比較的迅速に組織を再成長させる。Emdogain(登録商標)で処理された個体は、著しい骨の増加、および臨床付着の回復を経験し、また歯槽骨は、治療後1年を超えて持続を示している。しかし、EMDが安定であり続けることまたは適用前の沈殿が回避された場合、保管の間、EMDが特性において予測可能な進化を示すことが重要である。
【0009】
水溶液中にEMDを保持するためには、溶液は、タンパク質の等電点(IEP)をはるかに下回るpHを有するべきである。EMDに関して、IEPはpH6.5であり、従ってより好ましくは、溶液のpHは約5.0である。一般的に、溶液の耐久性は、EMDが歯の表面上にまだ沈殿できるpH値によって決定される。沈殿は、生理的な条件、すなわち、IEPに近いpHで生じることが考えられる。従ってまた、容易な適用のためには、溶液は、PGAで増粘させる。歯根環境およびEMD−PGA混合物両方のpHおよび緩衝能が、EMDタンパク質の沈殿挙動に影響する。
【0010】
化学的に、PGAは、ケルプ(海藻)に由来するアルギン酸のエステルである。カルボキシル基の一部がプロピレングリコールによりエステル化され、一部は適切なアルカリにより中和され、また一部は遊離のままである。PGA自体は酸性であり、従って、EMD溶液に溶解した後、EMD溶液のpHは低下する。更に、酸性条件下では、PGAの自然な分解により、pHは時間と共に低下し続ける。従って、添加されるPGAの固有な特性のために、製品のより長い貯蔵寿命を可能とするためには、溶液の比較的高いpHで開始することが必要である。
【0011】
アルギン酸プロピレングリコールは、25℃で、1年後に約40%の粘度減少を示し、また更に溶解しにくくなる。アルギン酸アンモニウムは、一般に上記のいずれよりも安定性が低い。アルギン酸は、上記製品の中で最も安定性が低く、周囲温度下で数か月以内に、いかなる長鎖材料もより短鎖に分解する。しかし、短鎖材料を含むアルギネートは、安定であり、また、鎖あたり約40単位のウロン酸の重合度(DP)を有するアルギン酸は、20℃で、1年間にわたって非常に小さい変化しか示さない。しかし、医薬錠剤における崩壊剤のとしてのアルギン酸の主な用途は、湿ったときの膨潤能に依存し、これは、DPの変化に影響されない。従って、市販のアルギネートは、冷所、すなわち25℃またはそれ以下の温度で中性のpHで保存されるべきであり、その理由は、高温および酸性pHは、かなりの脱重合を引き起こし、商業的に有用な特性、例えば、粘度およびゲル強度に影響を及ぼすからである。上記アルギネートは、通常水分10〜13%を含み、また水分の比率が増加するに従って脱重合速度は増加し、従って、保管場所は、乾燥しているべきである。
【0012】
先述のように、EMDタンパク質は、以前よりPGA水溶液の形態で製剤化されてきており、PGAの分解は、酸性生成物をもたらし、これによりpHを時間と共に順々に低下させる。高温において、分解が加速される。生成物の加速される酸性化を防ぐためにまた、よってこの効果を制限するために、生成物を低温、すなわち、2〜8℃の温度範囲に移動および保存しなくてはならない。
【0013】
更に、市販のStraumann Emdogain(登録商標)製剤中、エナメルマトリックスタンパク質(EMD)をその単離の後、3時間約80℃で加熱して、残りのプロテアーゼを不活性化する。この必要な熱−処理は、最近、EMD自体の不可逆分解および変性をもたらす主要な因子であることが分かってきており、順々に製剤のより短い貯蔵寿命および/またはより低い活性に寄与する。
【0014】
その相対的に高いアメロゲニン含量を前提とすると、EMD自己組織化は、ナノスケールの球状の凝集物、「ナノ球体」と言及されるものにもとづいて階層的な構造を含むことが予想される。しかし、そのような構造は、一般的にわずかにだけ安定であり、従って、環境的ストレス、例えば、温度またはpHの変化に敏感である。これらは、その自然なフォールディング状態において一般的に最も安定なタンパク質の溶解性の増加を順々に導く不可逆的アンフォールディングとなってよい。いずれにしても、タンパク質は、もはやその機能を実行できず、また最終的には早々沈殿する。更に、時々、凝集は、部分的にアンフォールディングな種間でも生じてもよく、生成物の制限的効果を誘導する。疎水性接触は、タンパク質の分子間相互作用および凝集の大いなる原因となると知られるが、荷電した残基もまた、重要な役割を担ってよい。従って、これらの後者の正に荷電したアミノ酸との相互作用は、アンフォールディングおよび/または早期の沈殿を制限する手段をもたらす。明らかに、いかなるそのような凝集抑制因子も、タンパク質の立体構造およびEMDの再生特性に干渉すべきでない。更に、添加剤の選択は歯科用用途の臨床条件に適合すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,672,032号(Slavkin)
【特許文献2】EP−B−0337967
【特許文献3】EP−B−0263086
【特許文献4】EP−1059934
【特許文献5】EP−01201915.4
【特許文献6】国際特許公開第01/97834号
【特許文献7】国際特許公開第00/53197号
【特許文献8】国際特許公開第00/53196号
【特許文献9】国際特許公開第03/024479号
【特許文献10】国際特許公開第02/080994号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Gestrelius S、Lyngstadaas SP、Hammarstrom L.Emdogain−periodontal regeneration based on biomimicry.Clin oral Invest4:120〜125頁(2000)
【非特許文献2】Hammarstromら、1997、Journal of Clinical Periodontology24、658〜668頁
【非特許文献3】Lyngstadaasら、2001、Journal of Clinical Periodontology28、181〜188頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
実験項で明らかに示されるように、水溶液環境中のEMD安定性を、タンパク質の凝集およびアンフォールディングを加速させるためにpH変化および熱ストレスを用いて研究した(Casal HL、Kohler U、Mantsch HH.Structural and conformational changes of β−lactoglobulin B:an infrared spectroscopic study of the effect of pH and temperature.Biochimica et Biohysica Acta(BBA)−Protein structure and Molecular Enzymology 1998;957(1):11〜20頁.)。次いで結果をアルギニン存在下で得られる結果と更に比較して、EMD分子間相互作用を制限するpHおよび/またはアルギニンの効果および従って変性、凝集、沈殿、アンフォールディングおよび/またはリフォールディングの程度を評価した。最後に、EMDおよびEMD/PGAの沈殿速度論におけるアルギニンの影響をストップトフロー(SF)濁度法を用いて評価した。この結論は、EMDのアンフォールディング/リフォールディング過程への新しくかつ驚くべき見通しをもたらしおよびEMDベース生成物に対する低いpHおよび/または安定化添加剤としてのアルギニンの使用は、これらの効果的な貯蔵寿命を著しく延ばすための可能性を有する証拠をもたらした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は、改良された安定性、すなわち保管中EMD製剤の延長された再生能を有するEMD製剤の製造方法を初めて記載する。
【0019】
本発明は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法を初めて記載し、この製剤は、2℃〜室温で少なくとも12か月、例えば室温で12か月の貯蔵寿命および/または耐久性を有することを特徴とする。
【0020】
エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む上記製剤の製造方法は、一般的に以下の工程、
a.発育中の哺乳類の歯に由来のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を単離する工程、
b.上記単離物を好適な医薬担体に溶解する工程、
c.上記製剤のpHを最初にpH4未満または最高でpH4まで下げる工程、および、
d.上記製剤を20〜100℃の間に少なくとも10分間加熱する工程
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一つの実施形態において、本発明の製剤のpHを、工程c.において、pH4、3.9、3.8、3.7、3.6未満、または3.5未満まで、または最高で4まで、例えば2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9または4まで下げる。
【0022】
あるいは、工程c.における本発明の製剤のpHを、別にpH4〜pH2の間まで、例えば、pH4〜pH3.5の間まで、または例えばpH3.5〜pH2の間まで下げることができる。
【0023】
工程c.の製剤を、工程d.において、少なくとも10分間、20〜100℃に、例えば、20、30、40、50、60、70、80、90または100℃に加熱する。一つの実施形態において、工程c.の製剤を、工程d.において、少なくとも80℃に少なくとも1〜3時間、例えば、少なくとも80℃に少なくとも3時間、または少なくとも50℃に少なくとも1時間、または少なくとも20℃に少なくとも1時間加熱する。
【0024】
工程d.は、製剤中の内在するプロテアーゼおよび/または残渣汚染物質の不活性化の所望の結果を達成するために、必要であれば一回または数回繰り返すことができる。
【0025】
実験項において明らかに示されるように(図2Aを参照)、熱処理および12時間、25℃でのインキュベーションの後、EMDは、α−へリックスの立体配座の著しい変化を示し、一方で、ネイティブ(native)のβ−シートは、熱処理により大きく影響を受けることはなく、すなわち、EMDのかなりの凝集を観察することができた。
【0026】
pH2でのアルギニンの添加は、α−へリックスに関連した立体配座が熱処理後でさえ安定のままであること示す知見を導いた。更にβ−シートは、熱処理の後、不変のままであり、これは、露出面の立体配座の限定的な変化が生じたことを示唆する。従って、アルギニンは、EMDタンパク質の外部凝集部位であって、β−ターンを含んでよい部位に結合すると推論された。更に、EMD結合部位を中和する間、アルギニンは、ナノ球体のサイズの増加にも見られる、タンパク質構造の緊密さを促進すると予想される。これらをまとめると、これらの結果は、熱処理に関して、アルギニンがpH2でEMD構造を安定化することを暗示する。
【0027】
アルギニン非存在下、pH2でのEMD粒径分布(図2Cを参照)は、70℃までの熱処理と20℃への冷却が配座変化を導くことを示した(図3A〜BにおけるTEM顕微鏡写真も参照)。そのネイティブ状態(7)のアメロゲニン特有の約70nmまたはそれ以下の直径のナノフィラメントおよびナノ球体が、図3Aで見られるが、図3Bで見られるように、これらは、熱処理後部分的に凝集していた。pH2、アルギニン存在下では、熱処理後の凝集はなかった。アルギニン存在下ではEMDの変性が生じなかったとすれば、熱誘導アンフォールディングは、pH2において存在しなかったと結論づけられる。従って、EMDのナノ球体構造は、実質的に元のままであった(図3C〜D)。
【0028】
それにもかかわらず、低いpH、例えば、pH2で溶解され、20および90℃で、および熱処理後20℃で測定されたEMDは、温度−誘導される凝集は、冷却の間大いに逆進したことを示唆する(実験は示されない)。
【0029】
図4Aに示されるように、pH5でのEMD製剤の熱処理により、結果として著しく改変したEMDの分子組織となった。
【0030】
図4Cに見られるように、pH5でのEMD製剤の熱処理は、結果として凝集を増加させた(図5A〜Bも参照)。ナノフィラメントおよび単離されたナノ球体は、最初に存在したが(図5A)、熱処理の後広範囲の凝集が観察された。(図5B)。調製されたままの(as−prepared)EMDの大きさがアメロゲニン特有のものと更に一致するナノ球体は、熱処理の間凝集するものとみなされた。図4Dから分かるように、アルギニンは、この凝集を制限する。
【0031】
従って、pH2で観測されるように、pH5でのEMD製剤の熱処理は、結果として部分的にナノ球体の解離を生じることがある。このことは、図5C〜Dにおいて反映され、検体に最初存在するナノフィラメントは、熱処理後ナノ球体および更に小さい断片に分裂したことを示唆する。
【0032】
対照的に、pH10において、タンパク質の立体配座は、より低いpHで見られるネイティブの立体配座に対して強力に改変される(図6A)。更に、高いpHとイオン電荷の組み合わせは、アルギニン非存在下、熱処理の間二次構造を安定化する。他方で、アルギニン存在下、熱処理の前後で得られるスペクトルは、もはや重ならず;ランダムコイルの割合は減り、またβ−ターン構造に対応するピークは、再び区別できる(図6B)。
【0033】
図7は、高いpHにおけるEMDの形態が、より低いpHで観察されるものと非常に異なり、広範囲なアモルファスゲル様凝集物を特徴とすることを確認する。
【0034】
好適な医薬担体は、一般的にユニバーサル緩衝液、例えば、ブリトン−ロビンソン緩衝液、カーモディ(Carmody)緩衝液、酢酸緩衝液(酢酸/酢酸ナトリウム)、生理食塩水緩衝液、クエン酸緩衝液(クエン酸/クエン酸ナトリウムおよび/またはHCl/クエン酸ナトリウム)、または物理的にナトリウムの緩衝液である。
【0035】
好適な医薬担体は、更に酢酸水溶液、クエン酸水溶液および水からなる群から選択される。
【0036】
一つの実施形態において、酢酸を、pH2〜pH8、例えばpH5で使用する。
【0037】
特に、実験的試験において、ブリトン−ロビンソン緩衝液を使用する。
【0038】
本発明は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法に関し、ここでエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、18〜25kDaの間、例えば20〜24kDaの間、20〜22kDaの間および20kDaからなる群から選択される平均分子量を有するアメロゲニンを少なくとも60〜100%、例えば少なくとも60〜70、60〜80、70〜90、60、65、70、75、80、85、90、95または97%、例えば少なくとも99%含む。
【0039】
本発明は、更にエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤の製造方法であって、工程d.の製剤を好適な粘度調節剤と混合することを更に含む方法に関する。
【0040】
一つの実施形態において、上記方法は、上記製剤を好適な粘度調節剤、例えばPGAと混合する前に、工程d.の製剤のpHを少なくともpH5に調節することを更に含む。上記PGAは、電子ビーム殺菌されたPGAでもよい。好ましくは、上記PGAは、130kDaを超える重量平均分子量を有する殺菌されたアルギン酸プロピレングリコール(PGA)である。
【0041】
別の実施形態において、上記方法は、上記製剤を好適な粘度調節剤と混合する前に、工程d.の製剤のpHを最高でpH5に調節することを更に含む。上記製剤のpHは、一般的にpH2〜pH5の間に、例えばpH2.5〜pH4.5の間に、または、pH2〜pH4の間に、例えばpH2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.3、3.5、3.8、4.0、4.3、または4.5に調節される。
【0042】
上記別の実施形態において、粘度調節剤は、ヒアルロン酸からなる群から選択される。
ヒアルロン酸は電子ビーム殺菌することができる。
【0043】
さらに別の実施形態において、本発明の方法は、上記製剤をいかなる好適な粘度調節剤とも混合せずに、工程d.の製剤のpHを最高でpH5に調節することを含む。上記製剤のpHは、一般的にpH2〜pH5の間に、例えばpH2.5〜pH4.5の間に、またはpH2〜pH4の間に、例えばpH2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.3、3.5、3.8、4.0、4.3、または4.5に調節される。
【0044】
本発明は、本発明に従う方法により製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤にも関する。
【0045】
従って、本発明は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤であって、2℃〜室温で少なくとも12か月、例えば室温で少なくとも12か月の貯蔵寿命および/または耐久性を特徴とする製剤に関し、この製剤は以下の工程:
a.発育中の哺乳類の歯に由来のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を単離する工程、
b.上記単離物を好適な医薬担体に溶解する工程、
c.上記製剤のpHを最初にpH4未満または最高でpH4まで下げる工程、および
d.上記製剤を20〜100℃の間に少なくとも10分間加熱する工程、
を含む方法により製造される。
【0046】
本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤は、一般的にエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を上記製剤1ml当たり5〜35mgの間の濃度、例えば上記製剤1ml当たり少なくとも5、10、15、20、25、29、30、31、32または35mgの濃度で含む。
【0047】
別の実施形態において、本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を製剤1ml当たり100μ〜5mgの間、例えば、製剤1ml当たり少なくとも100、150、250、500μglまたは、例えば、製剤1ml当たり少なくとも1、2、3、4、または5mgの濃度で含む。
【0048】
本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤は、更にアルギニンを含むことができる。一つの実施形態において、上記アルギニンは、上記製剤に添加される場合、1〜500mMの濃度、例えば、少なくとも1、10、100、250、300、400または500mMの濃度を有する。別の実施形態において、上記アルギニンは、1、10、100、250、300、400、450、または500mMの濃度を有する。一般的に、製剤中のアルギニン濃度は、最高で500mMである。
【0049】
アルギニンは、一般的な天然のアミノ酸である。その構造、H結合を形成するその能力および生理的な条件の下でのその電荷分布によって、アルギニンが容易に負に荷電した基と結合し、また極性環境、例えば水と強く相互作用もできる。アルギニンは、実際にタンパク質の凝集阻害のための添加剤として有効であることが証明され、また多くの場合ネイティブの構造の安定性において相対的に小さい効果を有することも知られており、よって非変性試薬とみなされる。
【0050】
本発明者らは、pH変化および熱ストレスを使用して、タンパク質の凝集およびアンフォールディングを加速させて、水性環境中でのEMDの安定性を研究した。次いで、その結果を低いpHおよび/またはアルギニン存在下で得られた結果と比較して、EMD分子間相互作用を制限するそれらの効果および従って変性、凝集、沈殿、アンフォールディングおよび/またはリフォールディングの程度を評価した。最後に、EMDおよびEMD/PGAの沈殿速度論に対する低いpHおよびアルギニンの影響をストップトフロー(SF)濁度法を用いて評価した。
【0051】
本発明を導くこの知見は、EMDアンフォールディング/リフォールディング方法への新しくまた驚くべき見通しおよび低いpHおよび/またはEMDベース生成物に対する安定化添加剤としてのアルギニンの使用は、その有効貯蔵寿命を著しく延長する可能性を有するという証拠をもたらす。
【0052】
様々な分析技術の使用により、本発明は、EMD水溶液へのアルギニンの添加が酸性pHでのEMDの変性を制限できることを初めて示し、更に、EMD水溶液へのアルギニンの添加により、高いpHでの大規模の凝集を逆転できることも立証した。EMDの等電点に近いpH7へのpHの段階状(a step−like)の増加に続くEMDの放出速度論の研究は、アルギニンが水溶液またはPGAゲル担体からの沈殿速度に対して不利な影響を有さないことも示した。実際に、初期pH5を有しアルギニンを伴う系の応答は、アルギニンの有無両方でpH2での応答と同様であり、更にEMDにおけるアルギニンの安定化効果を反映する。従って、実験1に示される結果は、アルギニンは、適用部位でのEMDの放出を損なうことまく、再生治療で使用されるEMD/PGAベースゲルの貯蔵寿命を著しく改良する能力を有することを示す。
【0053】
本発明は、更に本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤であって、好適なボーンセラミックおよび/または骨移植片を更に含む該製剤に関する。
【0054】
本発明は、医薬用途の、本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤に関する。
【0055】
特に、本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤は、創傷治療ならびに/またはインプラント周囲疾患および/もしくは歯周炎の治療または石灰化組織の形成を誘導するための用途の医薬の製造における使用することが意図される。
【0056】
創傷治癒のための方法ならびに/またはインプラント周囲疾患および/もしくは歯周炎の治療のための方法または石灰化組織の形成を誘導するための方法もまた、本発明において想定される。ここで、それを必要とする患者は、本発明の方法で製造されたエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質ならびに好適な医薬担体を含む医薬、歯科用および/または化粧品製剤で治療されるかまたは製剤を投与される。
【0057】
請求項18〜28のいずれか1項に記載の医薬、歯科用および/または化粧品製剤、ならびに顆粒、ボーンセラミック、足場(scaffolds)、骨移植片、天然骨材料、骨ブロック、義歯、およびインプラントからなる群から選択される少なくとも1つの更なる成分を含むキットが記載される。
【0058】
定義
「軟組織」、(すなわち、非石灰化組織)は、本文脈において、歯肉組織と互換的に使用することができ、またコラーゲンまたは上皮含有組織として定義されてもよく、皮膚および粘膜、筋肉、血液およびリンパ管、神経組織、腺、腱、眼および軟骨が挙げられる。一般に、本発明の製剤は、それを必要とする患者の皮膚および粘膜だけでなくすべての歯肉組織の創傷の治癒を促進するために使用できる。
【0059】
用語「石灰化組織」における「硬組織形成」は、酵素アルカリホスファターゼ活性および良好な血液供給を前提条件として、ミネラル受容できる有機マトリックスの細胞による産生であると要約することができる。一般的に、本発明の製剤は、それを必要とする患者における硬組織形成の促進に用いることができる。
【0060】
活性エナメル物質
本明細書で用いられるとき、「エナメルマトリックス」は、エナメル質の前駆体を意味し、またいかなる関連した自然源から、すなわち、歯が発育中の哺乳動物から得ることができる。好適な源は、屠畜された動物、例えば仔牛、ブタまたは子羊に由来する発育中の歯である。別の源は、例えば、魚の皮である。本文脈において、用語「活性エナメル物質」は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を起源無差別に包含するために用いられる。
【0061】
エナメルマトリックスは、前に記載のように発育中の歯から調製することができる(EP−B−0337967およびEP−B−0263086)。エナメルマトリックスを、削り取り、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を、例えば、緩衝液、希酸もしくは塩基または水/溶媒混合物のような水溶液で抽出し、次いでサイズ排除、脱塩または他の精製工程、或いは続く、凍結乾燥により調製される。酵素は、熱または溶媒処理により選択的に失活させてもよく、その場合、その誘導体は、凍結乾燥なしで、液体形態で保存することができる。
【0062】
エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質の代わりの源として、一般的に当業者に周知な適用できる合成経路も使用しても良く、または、DNA−技術により修飾された真核生物および/または原核生物の培養細胞を使用してよい。エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、従って組み換え体の源の、或いは遺伝学的および/または化学的に修飾されたものでもよい(例えばSambrook、J.ら:Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989を参照)。
【0063】
本文脈において、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、選択的スプライシングもしくはプロセシングにより、または自然長タンパク質の酵素的もしくは化学的開裂のいずれかにより、またはin vitroもしくはin vivoでのポリペプチドの合成により(例えば、組み換えDNA法および/または二倍体細胞の培養)によって自然に製造された、1つまたはいくつかのエナメルマトリックスタンパク質またはそのようなタンパク質の部分もしくは断片を含む。エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、更にエナメルマトリックスに関連するポリペプチドまたはタンパク質を含む。ポリペプチドまたはタンパク質は、好適な生分解性の担体分子、例えば、ポリアミン酸もしくは多糖、またはそれらの組み合わせと結合していてよい。更に、用語のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、また、合成の類似物質を包含する。
【0064】
タンパク質は、ペプチド結合により共に連結したアミノ酸残基により構成される生体高分子である。アミノ酸の線状ポリマーとしてのタンパク質は、ポリペプチドとも呼ばれる。一般的に、タンパク質は、50〜800アミノ酸残基を有し、従って、約6,000〜約数十万ダルトンまたはそれ以上の範囲の分子量を有する。小さいタンパク質は、ペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドと呼ばれる。本発明の文脈において、本発明に従って用いられるための「ポリペプチド断片」は、これに限定されないが、長さで、1〜50アミノ酸、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50アミノ酸のポリペプチドに言及する。そのようなポリペプチドは、更に50アミノ酸より長くてもよい。
【0065】
エナメルマトリックスタンパク質は、エナメルマトリックスに通常存在するタンパク質、すなわちエナメル質の前駆体(Ten Cate:Oral Histology、1994;Robinson:Eur.J.Oral Science、Jan.1998、106Suppl.1:282−91)、またはそのようなタンパク質の切断により得ることができるタンパク質である。一般的にそのようなタンパク質は、120,000ダルトンより低い分子量を有し、またアメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニンおよびタフテリンを含む。
【0066】
本発明に従って使用されるタンパク質の例は、アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、タフテリン、タフトタンパク質、血清タンパク質、唾液タンパク質、アメロブラスティン、シースリン、およびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物である。更に、本発明に従って使用される他のタンパク質は、市販品EMDOGAIN(登録商標)(スウェーデン、ビオラAB)に見られる。
【0067】
EMDOGAIN(登録商標)(スウェーデン、ビオラAB、S−205 12Malmo)は、残留するプロテアーゼを不活化するために約80℃で3時間加熱された30mgエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質、およびタンパク質およびビヒクルを別々に試験しない場合には適用前に混合される1mlのビヒクル溶液(アルギン酸プロピレングリコール)を含む。重量比は、20、14および5kDaの主なタンパク質のピークの間においてそれぞれ約80/8/12である。
【0068】
一般的に、エナメルマトリックスの主要なタンパク質は、アメロゲニンとして知られる。それらは、生理学的条件下で凝集物を形成する著しく疎水性の物質である。それらは、他のタンパク質またはペプチドを有してもよく、またはそれらのための担体であってもよい。
【0069】
それにもかかわらず、アメロゲニンが、進化の非常に保存的なタンパク質であり、またその種の間のホモロジーは高いと記録されているという周知の事実の観点で、類似配列がラット、ヒト、またはマウスのエナメルマトリックスタンパク質で、例えば類似の生物学的効果、例えば造骨活性を発するアメロゲニン中において見られることが現に想定される。従って、本発明は、更にブタアメロゲニンの類似配列も包含し、これらは、ヒトアメロゲニンに少なくとも80〜95%同一であり、例えば少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一であり、また類似の生物活性を示す。
【0070】
本発明において、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、哺乳類組織から単離すること、精製された組み換えポリペプチド断片であること、または合成的に製造されたポリペプチド断片であることができる。当業界で周知なように、組み換え技術により製造されたポリペプチドは、特に、原核生物系で製造される場合、内因性の鋳型タンパク質とわずかに異なる。本発明は、組み換え技術により製造されたポリペプチド断片を包含し、これらは、内因性ヒトアメロゲニンに少なくとも95%同一、例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一であり、また類似の生物活性を示す。
【0071】
他方で、合成的に製造されるポリペプチドは、当業界で周知なように、当然、その本来の生物学的活性、例えば、その抗炎症、またはその血管新生促進効果に妨害および/または影響を及ぼさないような化学的順列の多様性を持たせて設計することができる。従って、本発明は、更に合成的に並び替えされたポリペプチド断片であって、ヒトアメロゲニンに対して少なくとも80〜95%同一である断片、その同族体、類似物または医薬的に許容されるそれらの塩を包含し、例えば少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一であり、また類似の生物活性を示す。
【0072】
更に、ポリペプチド断片の配列の任意の保存的変異体であって、ヒトアメロゲニンに少なくとも80〜95%同一であり、例えば少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%同一であり、また類似の生物活性を示す変異体は、上記配列との機能的な関係により本発明の範囲内であるとみなされる。
【0073】
配列の保存的変異体は、本文脈において異なる種間の同一のアミノ酸配列の変異体を比較した場合、それは、少なくとも例えば少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%に保持されたアミノ酸配列として定義される。この分野で周知なように、変異体の保持の度合いは、PAM(Dayhoff、Schwartz、and Orcutt(1978)Atlas Protein Seq.Struc.5:345−352参照)の誘導に従って、またはHenikoff and Henikoff(1992)Proc Natl Acad Sci USA89(22):10915−9に記載のようにブロックスのデータベースに由来のブロックスの配列の比較にもとづいて算出することができる。
【0074】
エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、実質的に単離された形態であってよい。それらを、好適な担体または希釈剤と混合してよく、それらの企図された目的を妨げなることはなく、実質的に単離されたとみなされていると理解されるであろう。
【0075】
本発明において、ローカルアルゴリズムプログラムは、同一性を決定するのに最も好適である。ローカルアルゴリズムプログラム、(例えばSmith−Waterman)は、1つの配列の部分列と次の配列の部分列を比較し、また部分列の組み合わせおよびそれらの部分列のアラインメントを見つけ出し、それにより最も高い全体的な類似スコアを生み出す。内部ギャップがあれば、ペナルティーになる。ローカルアルゴリズムは、単一ドメインまたはちょうど共通の結合部位を有する2つのマルチドメインタンパク質の比較に有効である。
【0076】
同一性および類似性を決定する方法は、公に利用可能なプログラム中に成文化されている。2つの配列間の同一性および類似性を決定する好ましいコンピュータプログラム法としては、GCGプログラムパッケージ(Devereux、Jら(1994))BLASTP、BLASTN、およびFASTA(Altschul、S.F.ら(1990))が挙げられるが、これに限定されない。BLASTXプログラムは、NCBIおよび他の出所(BLAST Manual、Altschul、S.F.ら(1990))から公に利用可能である。それぞれの配列解析プログラムは、デフォルト・スコアリング・マトリックスおよびデフォルト・ギャップ・ペナルティを有する。一般的に、分子生物学者は、使用するソフトウェアプログラムにより確立したデフォルトの設定を使用することが予想される。
【0077】
エナメルマトリックスのタンパク質は、一般的に高分子量部分と低分子量部分に分けることができ、それらのフラクションは、一般的にアメロゲニンと言及される酢酸抽出可能なタンパク質を含む(EP−B−0337967およびEP−B−0263086を参照せよ)。
【0078】
一般的に、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体およびエナメルマトリックスタンパク質は、疎水性物質であり、すなわち水に、特に上昇した温度下で溶解しにくい。一般的に、これらのタンパク質は、非生理学的pH値および低温、例えば約4〜20℃、一般的にほぼ4〜8℃で水溶性であり、一方で、体温(35〜37℃)および天然のpH(約pH7)では凝集して沈殿するであろう。
【0079】
特に好ましい実施形態において、本発明に従って使用できる製剤は、従って、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質であって、in vivoの適用の後凝集物またはオリゴマーを形成できまた沈殿するタンパク質を含む。沈殿しやすい上記凝集物の粒径は、70nm未満であり、一般的に1nm〜70nmの間の範囲であり(アメロゲニンナノ球体)例えば約1μm〜約20nm、例えば1μm〜20nmの間、1μm〜10nmの間、5μm〜10nmの間、10μm〜1nmの間、100μm〜10nmの間、100μm〜1nmの間、1μm〜1nmの間、1μm〜5nmの間、1μm〜15nmの間である。
【0080】
医薬製剤
本発明に従う医薬製剤は、ユニバーサル緩衝液、例えば、ブリトン−ロビンソン緩衝液、カーモディ緩衝液、酢酸緩衝液(酢酸/酢酸ナトリウム)、生理食塩水緩衝液、クエン酸緩衝液(クエン酸/クエン酸ナトリウムおよび/またはHCl/クエン酸ナトリウム)、または物理的ナトリウム緩衝液、酢酸水溶液、クエン酸水溶液および水からなる群から選択される好適な医薬担体を含む。
【0081】
アルギニンが製剤に添加する場合、アルギニンを緩衝液に添加し、また緩衝液とEMDを混合する前にpHを調節する。
【0082】
ブリトン−ロビンソン緩衝液(aka BRB aka PEM)は、pH2〜pH12の範囲で用いられる「ユニバーサル」pH緩衝液である。一般的に、NaOHを使用してpHをより高い値に調節する。ユニバーザル緩衝液は、強度を減少させる(pKを増加させる)酸の混合物からなり、pHの変化は添加したアルカリの量におよそ比例する。それは、0.04M HBO、0.04M HPOおよび0.04M CHCOOHの混合物からなり、NaOHで所望のpHに滴定される。ブリトンおよびロビンソンは、pH2.5からpH9.2(またpH12への緩衝液)まで添加されるアルカリに対応して本質的に線形なpH応答を与える第二の製剤を更に提案した。この混合物は、0.2M NaOHで滴定された0.0286Mクエン酸、0.0286M KHPO、0.0286M HBO、0.0286M ベロナールおよび0.0286M HClからなる。
【0083】
一つの実施形態において、クエン酸をpH2のあたりで製剤に使用し、またトリス塩酸をpH8あたりで製剤に使用した。
【0084】
本発明の文脈において、製剤は、医薬および/または治療用のおよび/または化粧品の製剤でよい。実際に、医薬および/または治療用製剤は更に化粧品製剤およびいわゆる医薬と化粧品の間の中間領域、すなわち薬用化粧品に属する製剤を含むように企図される。
【0085】
個体(例えば動物またはヒト)への投与のために、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、好ましくは、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体、および場合により1つまたはそれ以上の好適な医薬担体を含む医薬製剤に製剤化される。
【0086】
投与される本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を含む製剤は、投与のために好適な任意の経路、例えば患者への導管、注射器、スプレーまたはドレインデバイスを用いて全身投与により適応してよい。
【0087】
更に、製剤は、例えば血液、リンパ球、腹水、もしくは髄液への注入による、または吸入による全身投与として、手術に関連する投与に適合させてもよい。全身適用用に、本発明の製剤は、従来、本発明に従う非毒性の医薬的に許容される担体および賦形剤を含むことができ、小球体およびリポソームなどを含むことができる。
【0088】
本発明に従う製剤の投与は、例えば、限定されないが、経口、非経口、静脈内の、頬の、耳の、直腸の、膣の、腹腔内の、局所(真皮)、もしくは鼻の経路のような任意の他の従来型の投与経路によってまたは、例えば、歯根もしくは歯根管のような体腔への投与により更に行うことができる。
【0089】
他の適用はもちろん、例えば、義歯、プロテーゼ、インプラントへの適用、および体腔、例えば口腔、鼻の、および膣腔への適用に更に関連してよい。粘膜は、口腔、頬、鼻、耳、直腸および膣粘膜から選択してよい。更に適用は、創傷または他の軟組織損傷の直接的に上にまたは上に向けることができる。
【0090】
更に、歯科/歯科学領域内の適用は、非常に重要である。関連する例は、歯周(歯科)ポケット、歯肉もしくは歯肉創傷または口腔内に位置する創傷または口腔外科に関する適用である。
【0091】
本発明に従って用いられる製剤は、限定されないが、例えば、流体、半固体または固体製剤であり、例えば、限定されないが、例えば、無菌生理食塩水、リンガー溶液、グルコース溶液、リン酸緩衝生理食塩水、血液、血漿、水などに溶解した輸液液体、粉末、マイクロカプセル、生体吸収性パッチ、飲薬、シート、包帯、膏薬、インプラント、ピル、スプレー、石鹸、坐薬、膣剤、練歯磨き、ローション、洗口液、シャンプー、微粒子、ナノ粒子、スプレー、エーロゾル、吸入器、溶液、分散剤、湿潤剤、懸濁液、エマルジョン、ペースト、軟膏、親水性軟膏、クリーム、ゲル、ハイドロゲル(例えば、ポリエチレングリコール)、包帯材、デバイス、鋳型、スマートゲル、グラフト、溶液、エマルジョン、懸濁液、粉末、フィルム、発泡体、パッド、スポンジ(例えば、コラーゲンスポンジ)、経皮送達システム、顆粒、粒状体、カプセル、アガロースまたはキトサンビーズ、錠剤、マイクロカプセル、凍結乾燥粉末、顆粒、粒状体またはペレット、およびそれらの混合物の形態であってよい。
【0092】
好適な沈殿防止剤は、例えば、天然ゴム、例えば、アラビアガム、キサンタンガム、またはタラカントガム;セルロース例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース(例えば、Avicel(登録商標)RC591、メチルセルロース);アルギネートおよびキトサン、例えば限定されないが、アルギン酸ナトリウムなどである。
【0093】
本発明に従って用いられる液体製剤は、例えば、限定されないが、医療用インプラントもしくはデバイス、または骨置換材料の表面上に適用される溶液、分散液、懸濁液でよい。いったん適用されると、製剤は、凝固でき、例えば乾燥により固体または少なくとも高い粘性の製剤となり、保存中またはインプラントもしくはデバイスが使用されている場合に溶解しない。
【0094】
そのような製剤は、好ましくは、殺菌条件で適用されおよび/または適用後、照射もしくはエチレンオキサイドガスへの曝露により殺菌される。製剤が液体製剤の形態の場合、製剤は、医療用インプラントもしくはデバイス、または骨置換材料が体に導入される少し前に更に適用してもよい。エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を含む製剤を医療用インプラントもしくはデバイス、または骨置換材料に適用する代替案として、上記製剤を、医療用インプラントもしくはデバイスまたは骨置換材料、例えば先述の通りかなりの割合の上皮細胞を含む組織に接触する組織表面に適用してよい。更に、上記製剤を、医療用インプラントもしくはデバイス、または骨置換材料の両方に、およびそれらに接触する組織上に適用してよい。
【0095】
本発明に従う製剤は、本明細書にすでに開示されているものに加えて更に従来型の医薬実務例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」および「Encyclopedia of Pharmaceutical Technology」、Swarbrick,J.&J.C.Boylan編、Marcel Dekker,Inc.、New York、1988.に従って製剤化してよい。
【0096】
好適な医薬担体は、上記製剤が投与される個体に実質的に無害の物質である。そのような賦形剤は、通常国営保健医療機構により与えられる条件を満たす。公式な薬局方、例えば、英国薬局方、アメリカ合衆国薬局方およびヨーロッパ薬局方が、好適な医薬担体に対して基準を設定する。
【0097】
好適な医薬担体は、溶媒、緩衝剤、防腐剤、湿潤剤、キレーティング剤、酸化防止剤、安定剤、乳化剤、沈殿防止剤、ゲル形成剤、軟膏基材、浸透促進剤、香料、粉末および皮膚保護剤を含んでもよい。しかし、本発明はそれらに限定されないことを強調すべきである。
【0098】
本発明において、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を含む製剤を、ポリマーマトリックスに取り込むことができ、ポリマーマトリックスの崩壊により、酵素作用により、および/または拡散により放出される。上記ポリマーマトリックスは、細胞の内殖に好適なまたは細胞−閉塞性のいずれかである。従って本発明において、特に製剤内の低い全濃度でエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質の医薬および/または化粧品製剤が構成され、ここで上記エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質の空間的なおよび/または選択的な放出制御により、大割合のエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質が、適切な細胞活性の時に放出されることが可能となる。
【0099】
従って、本発明の一つの局面は、本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質を投与する医薬および/または治療用製剤に関し、細胞の成長、内殖および/もしくは移動に好適なまたは細胞−閉塞性のいずれかのポリマーマトリックスならびにフラクションおよび/またはポリペプチド断片を含み、ここで、上記マトリックスは、強力な求核剤と共役不飽和結合との間、または共役不飽和基との間の求核付加反応により形成される。
【0100】
練歯磨きまたは洗口液製剤または、歯または歯根に適用される他の製剤において、本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、わずかに酸のpHのビヒクル中溶解した状態で存在するかまたは中性pHのビヒクル中分散液として存在するかいずれかでよい。本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、歯の表面に保護層を形成し、それによりカリエスを生じさせるバクテリアの付着を防ぐことが予期される。そのようなデンタルケア調製液において、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質は、1つまたはそれ以上のカリエス予防効果のある他の成分、特にフッ素または別の微量元素、例えばバナジウムまたはモリブデンと共に製剤化することができる。中性のpHにおいて、微量元素は、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質と結合し(例えばイオン結合により)または埋め込まれると信じられており、エナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体(EMD)タンパク質が例えばカリエスを生じさせるバクテリアによる酸生成物のために約5.5またはそれ以下のpHで溶解する場合、そのカリエス予防効果を発揮するために微量元素を放出する。
【0101】
本発明に従って用いられる医薬製剤において、本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体は、一般的に約0.01%〜約99.9%w/wの範囲の濃度で存在する。適用される製剤量は、通常約0.005mg/mm〜約5mg/mm例えば、約0.01mg/mm〜約3mg/mmに対応する歯髄の面積cmあたりの全タンパク質の量となる。
【0102】
本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体が、液体製剤の形態で投与されるこれらの場合、製剤中の本発明に従うエナメルマトリックスタンパク質および/またはエナメルマトリックス誘導体の濃度は、約0.01〜約50mg/ml、例えば約0.1〜約35mg/ml、例えば30mg/mlに対応する範囲である。いくつかの場合、より高い濃度が望ましく、また例えば少なくとも約100mg/mlの濃度も更に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1-1】20〜30℃の温度の間およびそれより高い温度でpH2でのBR緩衝液中EMDの紫外−可視吸収。アルギニンの存在下(図1(b))。pH5で得られた結果は、図1(c)および1(d)に示される。
図1-2】図1−1の続き。
図2-1】pH2および25℃でのEMD(A)およびEMD/アルギニン(B)の二次微分FT−IRスペクトル、90℃での熱処理前(立体曲線)および後(ハッチド曲線(hatched curves))。pH2および20℃での3D−DLSスペクトルEMD(C)およびEMD/アルギニン(D)、70℃での熱処理前(青)および後(赤)。
図2-2】図2−1の続き。
図2-3】図2−2の続き。
図3】pH2および20℃でのEMDおよびEMD/アルギニンの透過型電子顕微鏡写真、90℃での熱処理前(A〜C)および後(B〜D)。
図4-1】pH5および25℃下EMD(A)およびEMD/アルギニン(B)の二次微分FT−IRスペクトル、90℃での熱処理前(立体曲線)および後(ハッチド曲線)。pH5および20℃での3D−DLSスペクトルEMD(C)およびEMD/アルギニン(D)、70℃での熱処理前(青)および後(赤)。
図4-2】図4−1の続き。
図4-3】図4−2の続き。
図5】20℃でおよびpH5でのEMDおよびEMD/アルギニンの透過型電子顕微鏡写真、90℃での熱処理前(A〜C)および後(B〜D)。
図6-1】pH10および25℃でのEMD(A)およびEMD/アルギニン(B)の二次微分FT−IRスペクトル、90℃での熱処理前(立体曲線)および後(ハッチド曲線)。pH10および20℃でのEMD(C)およびEMD/アルギニン(D)の3D−DLSスペクトル、70℃での熱処理前(青)および後(赤)。
図6-2】図6−1の続き。
図6-3】図6−2の続き。
図7】pH10および20℃でのEMDおよびEMD/アルギニンの透過型電子顕微鏡写真、90℃での熱処理前(A〜C)および後(B〜D)。
図8】BR−緩衝液中(A)EMDおよび(B)PGA/EMDにおけるストップトフロー測定由来のT(t)(pH2またはpH5)、アルギニン存在下または非存在下、水酸化ナトリウムを混合してそのpHを7へ上げた。
図9】表1.式(1)を図8のデータに適応させるために用いられるパラメタの概要。
図10】検体のpHを7すなわちEMD等電点(pH6.8)近くに上げた後、時間tの関数として、透過率、Tのストップトフロー測定により反映されるようなEMD水溶液およびStraumann Emdogain(商標)(EMD/PGA)ゲル由来の過渡な(transient)沈殿速度論を示す。
図11】4本の注射器、Berger ballミキサー(BB)および高濃度ミキサー(HDS)(29)を備えるBioLogic SFM−400ストップトフロー分光光度計を含むストップトフロー測定用の実験配置。
【実施例】
【0104】
実験項
本発明の実験例は、低pHでの使用および/または凝集抑制剤としてのアルギニンの使用を通して、安定性を改良し、従って、低pHでの保存の間Emdogain(商標)ゲルの再生能を伸ばすための努力を記載する。低pHおよび/またはアルギニンの有無によらずEMD検体を、フーリエ変換赤外分光分析、紫外可視吸収分光法、3次元動的光散乱法および透過電子顕微法により分析した。これらの結果は、アルギニンが、低pHでの熱循環の間EMDのネイティブ構造を安定化するだけでなく、高pHでリフォールディングも更に誘導してよいことを示した。更に、ストップトフロー分光光度法は、アルギニンの存在がpHの段階状増加に続いて、水溶液またはゲル錯体由来のEMDの沈殿に影響しないことを示した。
【0105】
実験1
材料および方法
EMD
10mg/ml酢酸水溶液中29mg/mlの濃度で2012EMD溶液(Biora/Straumann)を−8℃で操作された凍結乾燥機を用いて凍結乾燥した。EMD溶液100〜150gを2つの250ml三角フラスコに入れ、これらを液体窒素に浸し、48時間凍結乾燥した。凍結乾燥した材料を回収し、またスパチュラ、乳鉢および乳棒で静かに撹拌して均質化した。次いで、室温(RT)下、ブリトン−ロビンソン緩衝液(0.1Mの純粋なHBO、HPO、CHCOOH)中、および2、2.5および10に調節されたpHで、29mg/mlのEMD濃度で、EMDを再溶解した。EMDの添加前に500mMの濃度のアルギニンを緩衝液に添加した。アルギニンを含むまたは含まない検体を、安定化させるために、特性評価の前に4℃で終夜保存した。
【0106】
PGA
FMC BioPolymerに由来のPGAをSterigenics、サンディエゴにより20eV電子加速器(100gポーチあたり30kGy)を用いて殺菌した。それは、Biora AB(ストローマンAG、バーゼル)により提供され、また使用前に冷蔵庫中4℃で保存した。
タンパク質−担体(EMD/PGA)親水コロイド複合体をEMD水溶液のPGA粉末への添加により調製した(EMD/PGA1:2)。この混合物を、ポリマーが室温で完全に溶解し、次いで安定化のため4℃で終夜保存されるまで、磁石撹拌子で撹拌した。すべての検体を二重に脱イオン化されたmilli−Q水を用いて調製した。
【0107】
伝送モードのフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)
伝送モードの赤外分光分析を使用して熱処理(17)後EMDの二次構造における変化を観察した。様々なpHで調製されたEMD溶液のアリコート200μlを25℃で1時間インキュベートした。次いで、温度を90℃に2℃/分で上昇させまたこの温度で更に1時間アリコートをインキュベートした。次いで、それらを25℃へ2℃/分で冷却しまたこの温度で12時間インキュベートしてそれらの安定性を改良した。熱処理の前後に、それぞれの検体の10μlドロップを研磨したCaFIR窓に置きまたそれを乾燥させることによりIR吸光測定を実施した。捕捉の後、二次微分解析および標準化を用いてアミドI領域にスペクトルの詳細構造を決定した。
【0108】
紫外−可視吸収分光法
EMD水溶液を1mmクオーツキュベットに置きまたV−670バリアン社製分光計で280nmの固定波長で分析した。この値は、タンパク質の疎水性中心に存在するアミノ酸、トリプトファンの吸収に対応する。EMDの溶解性を反映する吸収強度、すなわち、溶媒へのトリプトファンの曝露を20〜80℃の間の温度で測定した(Schmid、2001)。
【0109】
動的光散乱法
高度にモジュール化した3次元相互相関動的光散乱法(DLS)技術は、EMD凝集寸法を研究するために用いられた。He−Neレーザーを発散する632.8nm波長の偏光光線を備えるLS装置を用いて測定を行った。検体を10mm直径のガラス管に置き、また20〜70℃の間で10℃ずつの段階の温度で測定を行った。サンプルセルを所望の温度の+/−0.1℃以内にプログラム制御されたサーモスタットを用いて維持した。分散強度の変動をそれぞれ600秒の3ランを平均化することにより90°の固定角で集めた。分散強度の時間相関関数(TCF)をCONTIN法の使用により分析した(Block、I.D.&Scheffold,F.Modulated 3Dcross−correlation light scattering:Improving turbid sample characterization.Review of Scientific Instruments、2010;81:123107−7.)。
【0110】
透過電子顕微法(TEM)
アルギニン有および無のEMDの形態学を、様々な緩衝液中および様々なpHで80kV Tecnai Spirit BioTWIN透過電子顕微鏡(TEM)を用いて明視野モードで研究した。選択した検体を90℃で熱処理し、25℃で冷却し、12時間インキュベートした。TEM分析用の検体を、論文に記載のように二滴のシーケンシャル方法によりネガティブ染色を用いて調製した。(http://web.path.ox.ac.uk/〜bioimaging/bitm/instructions_and_information/EM/neg_stain.pdf)。
【0111】
ストップトフロー分光光度法
EMD水溶液およびEMD/PGA由来の放出速度論、およびそれらのアルギニン−安定化された対照物を、290nmの波長の光を発するMOS−250分光計ユニットに結合したバイオロジックSFM400/Sデバイスで迅速速度論ストップトフロー(SF)分光光度法により研究した。アルギニン有および無の、1mg/mlEMD検体をブリトン−ロビンソン緩衝液中pH2および5で調製した。次いで、初期pH2の検体に250mM水酸化ナトリウム(NaOH)を添加しおよび50mMNaOHを初期pH5の検体に添加することによりpHを7(すなわち生理的なpH)に上げた。6ml/sの全流量および約351μlの全フローセル容積をすっかり用いた。これらの条件の下で、透過率の検出のためのFC−15フローセルの使用は、10msの不感時間を意味した。緩衝液付き検体およびNaOH溶液を高性能注射器中に保存し、また高密度ミキサーを経由して観測フローセルに(1.5mm光路長)等価な容量で注入した(1:1)。検体透過率を約15秒の時間を通して測定し4回の測定を繰り返すことにより変化した再現性を測定した。方法および実験準備を図11に図式的に示した(Barth,I.Grillo,and M.Gradzielski.Dynamics of formation of vesicles studied by highly time−resolved stopped−flow experiments.Tenside Surf.Det.、2010、47:300〜306頁)。
【0112】
結果と考察
アルギニンを含むまたは含まない、様々なpHでのEMD溶液の構造分析
EMDは、4℃で最も溶解性が高いことは当業界で周知である。従って、EMDは、4℃で溶解し、また次いでそれぞれT=80、70および100℃での熱処理の前後において25℃(室温)で分析し、強温ストレス後でさえ室温周辺でその安定性を研究した。
【0113】
EMDの立体配座および凝集挙動
図1(a)に示されるように、pH2でのBR緩衝液中EMDの紫外可視吸収は、温度が20から30℃に上がったとき、増加し、EMDタンパク質がアンフォールドする傾向を示し、それらの内部残基を緩衝液に曝露した。この傾向は、高温で逆転したが、吸収は、その初期レベルから徐々に減少し、およそ40℃からEMDが沈殿をし始めることを意味した。2つの主な差をアルギニン存在下観察した(図1(b)):20℃におけるベースライン強度は、増加し、アルギニン非存在下の場合よりも、低温で、より広範囲の凝集を示し、また高温における吸収の減少は、ほとんど示さなく、減少した沈殿速度を示唆した。pH5で得られた結果を図1(c)および1(d)に示した。この挙動は、定性的にpH2で観察されたものと似ているが、吸収は、この場合30℃で飽和に達し、アルギニンの存在下でさえpH5で、可溶化するEMDの増加する傾向を反映するが、アルギニンは再び高温での沈殿速度を低下させると推測された。
【0114】
図2Aは、アミドI領域に対応する波数範囲におけるpH2でのブリトン−ロビンソン緩衝液中のEMDの二次微分FT−IRスペクトルを示す。25℃で、調製されたままのEMD検体のスペクトルは1652および1660cm−1でのピークを示し、これは、α−へリックスに帰属された。天然のβ−シートのピークは、更に1620、1633および1643cm−1で見え、同様に分子間β−シートのピークは、1698cm−1であった(Lambright DG、Balasubramanian S、Boxer
SG.Protein relaxation dynamics in human
myoglobin.Chemical Physics、1991.158:249〜260頁)。熱処理および12時間25℃でのインキュベーションの後、1660cm−1でのピーク強度は、減少し、1652cm−1でのピークは、1654cm−1でのピークと置き換わり、これは、乱れた立体配座と以前から関係しており(Barth A、Zscherp C.What vibrations tell us about proteins.Quarterly Reviews of Biophysics、2002;35(4):369〜430頁)、α−へリックスの著しい立体配座変化を示唆する。一方、1633cm−1での天然β−シートのピークは、上記熱処理により大いには影響を受けず、残りのピークは、修正された強度および位置を示した。従って、1620cm−1でのピークは、1617cm−1でのより強いピークと置き換わり、1698cm−1での分子間β−シートのピークは、約1697cm−1へシフトし、また追加のピークは1688cm−1に現れた。これは、1620〜1615cm−1の範囲および高い波数での強いピークである限り、アミドI領域の制限が、分子間接触の顕示を示すことは重要である(Barth A、Zscherp C.What vibrations tell us about proteins.Quarterly Reviews of Biophysics、2002;35(4):369〜430頁)。1668、1675および1682cm−1での更なる3つのピークは、β−ターンに帰属され、これは、タンパク質構造の緊密さの指標でありまた凝集部位に関連してよいと考えられており、なぜならそれらがタンパク質の外部表面でも現れるからである。熱処理の後、1682cm−1での主なβ−ターンピークは、約1680cm−1にシフトし、再び凝集を示す可能性がある(Barth A、Zscherp C.What vibrations tell us about proteins.Quarterly Reviews of Biophysics、2002;35(4):369〜430頁)。熱処理は、更に結果として1668cm−1でのβ−ターンピークの強度のわずかな増加および1675cm−1でのピーク強度のより実質的な減少となった。
【0115】
pH2でのアルギニンの添加は、熱処理の前におよそ1660cm−1で中央ピークのα−へリックスピークの強度の減少を導き、また更に熱処理後の小さい減少を導き、一方で、1652cm−1でのピークは、熱処理の前後ともに存在し(図2B)、α−へリックスと関係した立体配座は安定なままであることを示した。更に、約1620cm−1でのβ−シートのピークは、熱処理後不変のままであり、これは、曝露された表面の限定的な立体配座変化が生じていたことを示唆する。熱処理の前および後でのスペクトル中の最も強いピークは、約1681cm−1でのβ−ターンピークであった。このピークの位置は、アルギニン非存在下での熱処理後に観察されるものと同一であり、そのような場合、1682cm−1から1681cm−1へのそのオリジナル値由来のシフトは、凝集に起因した。これは、1681cm−1でのβ−ターンピークの高い強度により、タンパク質−タンパク質相互作用が、タンパク質構造の緊密さを促進することが予測されるアルギニンの存在により阻害されないことを示唆する。まとめると、これらの結果は、アルギニンが、熱処理に関してpH2でEMD構造を安定化させることを意味する。しかし、アルギニンが熱誘導アンフォールディングおよび/または変性を阻害するのかどうか、またはそれが、高温での変性に続く25℃でのリフォールディングをただ支持するのかは明らかでない。
これを更に研究するために、従って、3D−DLSおよび紫外−可視吸収実験をin situで行った。
【0116】
アルギニン非存在下、pH2でブリトン−ロビンソン緩衝液中のEMD粒径分布は、DLSで決定されるように、熱処理前に約8および80nmで2つの主なピークを示した(図2C)。70℃までの熱処理および20℃への冷却の後、粒径分布は、より高い値で生じるピークを有するはるかなブロードになった。従って、FT−IRの結果と一致し、立体配座の変化は、この場合、図3A〜BでTEM顕微鏡写真によっても反映されるように優位に立った。約70nmまたはそれ以下の直径のナノフィラメントおよびナノ球体、その天然の状態の一般的なアメロゲニンは、(Fanga PA、Conwayb JF、Margolisc HC、Simmerd JP、Beniasha E.Hierarchical self−assembly of amelogenin and the regulation of biomineralization at the nanoscale.Pnas2011;108(34):14097〜14102頁)、図3Aで目に見えるが、図3Bで示されるように、これらは熱処理後部分的に沈殿した。pH2でのアルギニンの存在は、EMDに緊密さを、FT−IRの結果にも一致した図2Dにより示唆されるように与える。FT−IRは、アルギニンの存在下EMDの変性は生じないことを示すので、熱誘導アンフォールディングは、pH2で存在しなかったことを結論づける。従って、EMDのナノ球体構造は、実質的に完全なままであり続けた(図3C〜D)。
【0117】
更に、330nmでのピークに関連した熱誘導された立体配座変化が依然存在した一方、それらは、ほとんど印を付けなかった。実際に、検体の初期状態は、低波長での吸収カーブの形態により反映されるように、続く冷却および20℃でのインキュベーションの後大いに回収され、おそらくEMDの成分タンパク質の疎水性領域に結合することによりアルギニンが構造上の再編成を制限する証拠を更にもたらした。
【0118】
pH5で調製されたままのEMDのFT−IRスペクトル(図2A)は、1652cm−1で特に強いα−へリックスのピークを示し、一方1660cm−1でのα−へリックスのピークの強度は、pH2で観察されたものと同様であった(図2A)。より低い波数において、天然のβ−シートのピーク特性は、1633、1623および1615cm−1で観察され、この後者のピークは、pH2で存在しない(図2A)。β−ターンピークは、更に1668および1682cm−1で存在するが、およそ1675cm−1でのピークは、163cm−1での主なピークと融合されpH2でよりもはるかに弱く、少ない緊密さの構造を示唆する。最後に、分子間β−シートバンドに対応するおよそ1688cm−1および1695cm−1でのスペクトルの高い波数領域でのピークの低い強度は、相対的に弱い分子間接触を示した。熱処理は、これらのピークの強度にいくつかの変化となるが、それぞれ1643cm−1および1695cm−1での天然のおよび分子間β−シートピークを除いて、二次構造への主な定性的な修飾とならず、より低い波数へとシフトした。従って、EMDの分子組織が、pHを上げることで著しく修正される一方で、熱処理後更なる主な変化を受けなかった。
【0119】
pH5でのEMDへのアルギニンの添加の主な結果は、高い波数領域、すなわちβ−ターンおよび分子間βシートバンドに対応する立体配座での変化であった(図4B)。熱処理の前に、アルギニン非存在下およそ1675cm−1で観察されるβ−ターンピークが、1668cm−1で中心の主なピークと併合し、また1695cm−1で分子間β−シートピークは強度において増加した。アルギニンの存在下、両方のβ−ターン成分が、区別できた。本発明をこの特定の仮説に限定することを望まないが、この効果は、アルギニンおよび溶媒との相互作用からタンパク質を排除する緩衝液中のイオンとの間の複合体の形成に起因してよい。更に、アルギニンは、EMDの外部結合部位とも相互作用してよい。熱処理は、1668cm−1および1675cm−1での2つのピークの再発により、また強度が減少した高い波数での分子間β−シートピークにより反映されるように、結果としてβ−ターンの改変となる。しかし、アルギニンの存在下、熱処理が分子間相互作用に関係するピークに影響する一方で、天然のα−へリックス(1652および1660cm−1)は、アルギニンの非存在下よりもより安定に現れ、対応するピークは、強度における著しい変化を示した。
【0120】
図4CにおけるDLSの結果は、pH5で約80nmとなる、調製されたままのEMDの粒径分布の最大値を示した。熱処理は、ピークの拡大および500nmへのシフトによりおよびTEM画像により更に示されるように、増加した凝集を導く。(図5A〜B)。ナノフィラメントおよび単離されたナノ球体が、最初に存在するが(図5A)、熱処理後、広範囲の凝集が観察された(図5B)。FT−IRが、ほとんどアンフォールディングを示さないとすれば、調製されたままのEMDでの寸法が再びアメロゲニンの典型的なものと一致するナノ球体は、(Fanga PA、Conwayb JF、Margolisc HC、Simmerd JP、Beniasha E.Hierarchical self−assembly of amelogenin and the regulation of biomineralization at the nanoscale.Pnas2011;108(34):14097〜14102頁)、熱処理の間、凝集すると想定された。図4Dに見られるように、アルギニンはこの凝集を限定した。実際、アルギニン存在下熱処理の後、約100nmでの主なDLSピークは、80nm以下にシフトし、また強度において、わずかに減少し、また追加のピークが約6nmで生じた。従って、pH2で観察されるように、熱処理は、結果としてより大きい凝集物の沈殿となってよい。これは、図5C〜DにおけるTEM画像により反映され、検体に存在する初期ナノフィラメントが、熱処理中および/または熱処理後に凝集および沈殿してナノ球体だけが画像化されたことを示唆した。
【0121】
pH10において、タンパク質の立体配座は、FTIRスペクトルにより支持されるように、より低いpHで見られる天然の立体配座に関して強く改変され(図6A)、これは、相対的に例えばランダムコイル構造の高い割合を示した。更に、高いpHとイオン電荷の組み合わせが、アルギニン非存在下での熱処理の間、二次構造を安定化した。アルギニンの存在下、他方で、熱処理の前後で得られるスペクトルは、もはや重なりあってなく、ランダムコイルの割合は減少し、またβ−ターン構造に対応するピークは、再び区別できた(図6B)。
【0122】
DLSの結果(図6C〜D)が追加の洞察をほとんど与えなかった一方で、図7のTEM顕微鏡写真は、EMDの形態がより低いpHで観察されるものと非常に異なるということを確認し、広範囲のアモルファスゲル様凝集物により特徴づけられた。
【0123】
EMD溶液およびEMD/PGAゲルからの放出速度論:アルギニンの役割
図8は、検体のpHを7、すなわちEMD等電点(pH6.8)近くに上げた後、時間tの関数として、透過率、Tのストップトフロー測定により反映されるように、EMD水溶液およびEMD/PGAからの過渡放出速度論を示した。
これらの結果はまた、初期pHの2への低下またはアルギニンの添加が天然EMD立体配座の安定化させることを示した。これは、EMDおよびEMD/PGAゲル両方に対して明らかであり、それぞれのデータセットを重ねる限りにおいて、pH5でアルギニンなしで調製される検体を除いて類似の放出動力学を示し、(図8A〜B)、これは、与えられたtでの著しくより大きい濁り(すなわちより低いT)を示し、また従って、大きい沈殿物を形成するためのより大きな傾向を示した。PGAとの複合体化は、EMDの内在的応答を修正しないという結果となった。それにもかかわらず、おそらくPGAマトリックスによるEMDの物理的制限のためにTは、最も長いtで、EMDよりも、EMD/PGAゲルで数10%大きく、図8Aおよび図8Bの比較は、PGAがEMDの沈殿を制限することを示唆した。これは、ただ可能ならばPGAが少なくとも部分的に溶媒媒体により溶解される、完全なEMDの沈殿を意味する。PGAの効果は、二次指数減衰関数
【数1】
を使用してT(t)に対するデータを適合させることにより更に示すことができる。
【0124】
式1は、タンパク質の沈殿物の形成における2つの段階、振幅Aを伴う高速過程および減衰定数Τ、および振幅Aを伴うスロー重力依存過程(slow gravity dependent process)および減衰定数Τを記載する。表1が示すように、スロー過程における減衰定数は、EMDよりEMD/PGAで著しく大きい。
これらの結果は、アルギニンの添加が、外科的な手順におけるその用途に対する代表的な条件の下で、沈殿における不利な影響を持たないことを示し、またPGAの存在下pH5で凝集に関するEMDにおけるアルギニン分子を安定化する効果を確認する。更に、PGAは、そのような安定化効果はなく、EMD/PGAゲル由来のよりゆっくりで効果的な放出速度は、PGAヒドロゲルネットワーク中のEMDの物理的取り込みに起因し、沈殿の後者の段階において、大規模凝集を遅らせる。
【0125】
EMD溶液およびEMD/PGAゲル由来の沈殿速度論:アルギニンの役割
図10は、検体のpHを7へすなわちEMD等電点(pH6.8)近くに上げた後、時間tの関数として透過率Tのストップトフロー測定により反映されるように、EMD水溶液およびStraumann Emdogain(商標)(EMD/PGA)ゲル由来の過渡的沈殿速度論を示す。これらの結果は初期pHの2への低下またはアルギニンの添加が、結果としてEMD立体配座の安定化となることを再び示した。これは、重ね合されたそれぞれのデータセットである限りEMDおよびEMD/PGAゲル両方に対して明らかであり、pH5、アルギニン非存在下で調製された検体を除いて類似の放出動力学を示し(図10(a)〜(b)および表1)、これは、与えられたtでの著しくより大きい濁り(すなわちより低いT)、また従って大きい沈殿物を形成するより大きな傾向を示した。PGAとの複合体形成は、損傷した歯周組織へのその適用の代表的な条件の下EMDの内在的応答を修正しなかったという結果となる。
【0126】
結論
様々な分析的技術を使用して、EMD水溶液へのアルギニンの添加が酸性pHでのEMDの変性を制限することが示され、また、添加が高いpHで大規模なアンフォールディングを逆転させることができるという証拠も存在する。pHにおけるEMDの等電点近くであるpH7への段階状の増加に続くEMDの放出速度論の研究は、更にアルギニンが水溶液またはPGAゲル担体からの沈殿速度における不利な影響を有しないことも示した。実際に、初期pH5を有しアルギニンを伴う系の応答はアルギニンの有無両方でpH2での応答と同様であり、更にEMDにおけるアルギニンの安定化効果を反映する。従って、これらの結果は、歯科治療のための製品への使用がすでに有効と確認されているアルギニン(Sakamoto R、Nishikori S、Shiraki K.High temperature increases the refolding yield of reduced lysozyme:implication for the productive process for folding.Biotechonl.Prog2004;20:1128〜1133頁.15.Petrou I、 Heu R、 Stranick M、Lavander S、Zaidel L、Cummins Dら。A breakthrough therapy for dentin hypersensitivity:how dental products containing8%arginine and calcium carbonate work to deliver effective relief of sensitive teeth.The journal of Clinical Dentistry2009;20(1):23〜31頁)が、適用部位でEMDの放出を損なうことなく、再生治療において用いられるEMD/PGAベースゲルの保存寿命を著しく改良する可能性を有することを示す。
【0127】
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図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8
図9
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図11