(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483186
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】海流発電システム、および該システムでの使用に適した係留索
(51)【国際特許分類】
B63B 35/00 20060101AFI20190304BHJP
B63B 21/66 20060101ALI20190304BHJP
F03B 13/10 20060101ALI20190304BHJP
F03B 13/26 20060101ALI20190304BHJP
C01B 32/168 20170101ALN20190304BHJP
【FI】
B63B35/00 T
B63B21/66
F03B13/10
F03B13/26
!C01B32/168
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-92285(P2017-92285)
(22)【出願日】2017年5月8日
(65)【公開番号】特開2018-188016(P2018-188016A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】513035070
【氏名又は名称】安田 伊佐男
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 伊佐男
【審査官】
中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−158137(JP,A)
【文献】
特開2000−081095(JP,A)
【文献】
特開2014−151886(JP,A)
【文献】
特開2014−198497(JP,A)
【文献】
特開平09−021658(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0283369(US,A1)
【文献】
特表2009−525427(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103373458(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
B63B 21/66
F03B 13/10
F03B 13/26
C01B 32/168
D07B 1/20
F16G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に設置されたアンカーと、
海流を受けて回転するタービンを有する発電機と、
前記アンカーと前記発電機との間に接続された係留索と、
を備え、
前記係留索は、内層と、前記内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、前記内層に配置された導電ケーブルとを含む係留索ユニットを含むとともに、前記内層の残余の部分に空気が充填されたことにより1.02〜1.04の比重を有し、
前記発電機による発電電力は、前記導電ケーブルを介して前記アンカー側に送られる
ことを特徴とする海流発電システム。
【請求項2】
前記係留索は、複数の前記係留索ユニットと、前記係留索ユニットを連結するカーボンナノファイバー構造体からなる連結部とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の海流発電システム。
【請求項3】
前記アンカー側に配置された前記係留索ユニットの比重が、前記発電機側に配置された前記係留索ユニットの比重よりも大きい
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の海流発電システム。
【請求項4】
前記導電ケーブルは、前記発電電力のための第1ケーブルと、前記発電機に対する制御信号のための第2ケーブルとを含む
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の海流発電システム。
【請求項5】
内層と、前記内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、前記内層に配置された導電ケーブルとを含み、かつ前記内層の残余の部分に空気を充填した場合の比重が1.02〜1.04である複数の係留索ユニットと、
前記係留索ユニットを連結するカーボンナノファイバー構造体からなる連結部と、
を備えたことを特徴とする係留索。
【請求項6】
内層と、
前記内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、
前記内層に配置された導電ケーブルと、
を備え、
前記内層の残余の部分に空気を充填した場合の比重が1.02〜1.04である
ことを特徴とする係留索ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海流を利用して発電を行う海流発電システム、および該システムでの使用に適した係留索に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無尽蔵に存在する自然エネルギーを利用した、環境に優しい発電の研究が積極的に進められている。そのひとつに、海流によってタービンを回転させ、これにより発電を行う海流発電がある。
【0003】
海流発電のための従来の海流発電システムとしては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。この海流発電システムは、発電機を含む浮体と、海底に設置されたアンカーと、浮体をアンカーに係留する係留索とを備えている。この海流発電システムにおいて、浮体は、該浮体に加わる海流の作用力Fwと、該浮体に生じる浮力Fbと、係留索の張力Fwfとがバランスした位置(深度)をとる。例えば、浮体は、海流の作用力Fwが弱い場合には比較的浅い深度まで上昇し、海流の作用力Fwが強い場合には比較的深い深度まで下降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/039290号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、世界有数の強い海流である黒潮が流れる紀伊半島沖の水深は、2000m以上である。また、黒潮は、水深200mまでの比較的浅い深度において流速が最も大きい。したがって、上記従来の海流発電システムを用いて黒潮による効率的な発電を行う場合は、浮体が水深200mまでの比較的浅い位置をとるように、水深以上(例えば、水深の1.5倍である3000m)の長さを有する係留索で浮体を係留するとともに、係留索の自重による大きな張力Fwfに対抗し得る大きな浮力Fbを浮体に生じさせなければならない。しかしながら、このような浮体の設計は非常に困難であった。また、自重により係留索が大きく撓むと、浮体の姿勢が不安定になるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、係留索の自重の影響を受けにくい海流発電システム、および該システムでの使用に適した係留索を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る海流発電システムは、海底に設置されたアンカーと、海流を受けて回転するタービンを有する発電機と、アンカーと発電機との間に接続された係留索とを備え、係留索は、内層と、内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、内層に配置された導電ケーブルとを含む係留索ユニットを含むとともに、内層の残余の部分に空気が充填されたことにより1.02〜1.04の比重を有し、発電機による発電電力は、導電ケーブルを介してアンカー側に送られる。
【0008】
上記海流発電システムの係留索は、複数の係留索ユニットと、係留索ユニットを連結するカーボンナノファイバー構造体からなる連結部とを含んでいることが好ましい。
【0009】
また、上記海流発電システムは、アンカー側に配置された係留索ユニットの比重が発電機側に配置された係留索ユニットの比重よりも大きいことが好ましい。
【0010】
上記海流発電システムの導電ケーブルは、発電電力のための第1ケーブルと発電機に対する制御信号のための第2ケーブルとを含んでいてもよいし、発電電力のためのケーブルのみを含んでいてもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る係留索は、内層と、内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、内層に配置された導電ケーブルとを含み、かつ内層の残余の部分に空気を充填した場合の比重が1.02〜1.04である複数の係留索ユニットと、係留索ユニットを連結するカーボンナノファイバー構造体からなる連結部とを備えている。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る係留索ユニットは、内層と、内層を覆うカーボンナノチューブ構造体からなる外層と、内層に配置された導電ケーブルとを備え、内層の残余の部分に空気を充填した場合の比重が1.02〜1.04である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、係留索の自重の影響を受けにくい海流発電システム、および該システムでの使用に適した係留索を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る海流発電システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る海流発電システムおよび係留索の実施例について説明する。
【0016】
図1に、本発明の実施例に係る海流発電システム1を示す。海流発電システム1は、海底100に設置されたアンカー2と、海流を受けて回転するタービンを有する発電機3(浮体)と、発電機3をアンカー2に係留する係留索10とを備えている。また、沿岸部101には、指令センター102が設置されている。
【0017】
指令センター102は、海底ケーブル103および係留索10を介して発電機3に接続されるとともに、送電ケーブル104を介して電力系統に接続されている。発電機3が発電した電力は、係留索10を介してアンカー2に送られた後、海底ケーブル103を介して指令センター102に送られる。また、発電機3は、海底ケーブル103および係留索10を介して指令センター102からの制御信号を受信することができる。
【0018】
海流発電システム1は、複数のアンカー2と、アンカー2のそれぞれに各1つ接続された係留索10と、複数の係留索10のそれぞれに各1つ接続された発電機3とを備えていてもよい。また、海流発電システム1は、1つのアンカー2と、アンカー2に扇状に接続された複数の係留索10と、複数の係留索10のそれぞれに各1つ接続された発電機3とを備えていてもよい。
【0019】
図2に示すように、係留索10は、複数の係留索ユニット11(11a,11b,11c・・・)と、これらを連結する連結部12(12a,12b・・・)とを含んでいる。係留索ユニット11の長さは、一例として10mであるが、これには限定されない。
【0020】
係留索ユニット11は、
図3に示すように、内層14と、内層14を覆う外層13と、内層14に配置された第1ケーブル15および第2ケーブル16とを含む。係留索ユニット11は、内層14の残余の部分(すなわち、第1ケーブル15および第2ケーブル16以外の部分)に空気が充填されたことにより、全体として1.02〜1.04の比重を有している。比重は、係留索ユニット11を構成する各部の材料および/または寸法を変えることにより、上記の範囲内に調整されている。
【0021】
外層13は、堅牢性に優れたカーボンナノチューブ構造体からなる。カーボンナノチューブ構造体は、例えば、複数のカーボンナノチューブをフィルム状またはメッシュ状に形成したものであってもよいし、これらを複数枚積層したものであってもよい。
【0022】
第1ケーブル15は、発電機3が発電した電力をアンカー2側に送るための導電ケーブルである。第1ケーブル15は、送電時の損失を抑えるために、電気抵抗が小さい金属材料(例えば、銅)で構成されていることが好ましい。第1ケーブル15は、絶縁性を有する不図示の被覆を有していてもよい。
【0023】
第2ケーブル16は、発電機3が指令センター102からの制御信号を受信するための導電ケーブルである。本実施例に係る海流発電システム1は、発電状態等に関するデータが発電機3から指令センター102に送信されるよう構成されていてもよい。この場合は、内層14に不図示の第3ケーブルを追加的に配置してもよいし、第2ケーブル16のみを用いて指令センター102からの制御信号と発電機3からのデータとを時分割で送受信してもよい。なお、第2ケーブル16も、絶縁性を有する不図示の被覆を有していてもよい。
【0024】
連結部12は、可撓性を有するカーボンナノファイバー構造体からなる。本実施例における係留索10は、可撓性を有する連結部12を含んでいるので、海流を受けたときに適度に撓むことができる。
【0025】
図4に示すように、連結部12aは、隣り合う係留索ユニット11a,11bの端部に跨って配置されている。本実施例では、連結部12aおよび係留索ユニット11a,11bの端部が、一方に設けられた雄ネジ部と他方に設けられた雌ネジ部との係合により固定されているが、この固定手段は単なる一例に過ぎない。
【0026】
前述した通り、係留索ユニット11は、全体として1.02〜1.04の比重を有している。したがって、複数の係留索ユニット11(11a,11b,11c・・・)を連結してなる係留索10も、全体として1.02〜1.04の比重を有している。
【0027】
海域および水温によって多少異なるが、海水の比重は約1.02である。したがって、係留索10の比重を上記の範囲内に調整することにより、自重により係留索10が大きく撓んだり、自重に起因する係留索10の大きな張力Fwfにより発電機3が下方に引っ張られ、発電機3の深度を比較的浅い深度に維持することが困難になったりすることを防ぐことができる。すなわち、本実施例によれば、係留索10の自重の影響を受けにくい海流発電システム1を実現することができる。
【0028】
以上、本発明に係る海流発電システムおよび係留索(係留索ユニット)の実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。
【0029】
例えば、アンカー2側に配置される係留索ユニット11は、発電機3側に配置される係留索ユニット11よりも比重が大きくてもよい。海水の比重は、深度が大きくなるにつれて大きくなる。したがって、上記の構成によれば、係留索10の自重の影響をさらに受けにくい海流発電システムを実現することができる。なお、比重は、係留索ユニット11毎に変えられてもよいし、連続した複数の係留索ユニット11からなるグループ毎に変えられてもよい。
【0030】
また、係留索10は、単一の係留索ユニット11で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 海流発電システム
2 アンカー
3 発電機
10 係留索
11 係留索ユニット
12 転結部
13 外層
14 内層
15 第1ケーブル(導電ケーブル)
16 第2ケーブル(導電ケーブル)
100 海底
101 沿岸部
102 指令センター
103 海底ケーブル
105 送電ケーブル