特許第6483194号(P6483194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483194
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20190304BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20190304BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20190304BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K5/51
   C08K3/013
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-112863(P2017-112863)
(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公開番号】特開2018-203932(P2018-203932A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2018年9月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501183161
【氏名又は名称】ウィンテックポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏将
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−148627(JP,A)
【文献】 特開2003−020348(JP,A)
【文献】 特開2002−348387(JP,A)
【文献】 特開平09−304937(JP,A)
【文献】 特開2003−026824(JP,A)
【文献】 特開平09−012743(JP,A)
【文献】 特開2000−313755(JP,A)
【文献】 特開2005−238735(JP,A)
【文献】 特開2006−219626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08K 3/00−3/40
C08K 5/49−5/5399
C08G 63/183
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との合計100質量部に対し、(C)リン系安定剤0.01質量部以上0.5質量部以下、及び(D)無機充填剤80質量部以上150質量部以下を含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との質量比((A)/(B))が、5/5〜7/3の範囲であり、
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂が、ジカルボン酸成分に由来する全繰り返し単位中、0.5mol%以上3.0mol%以下を、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体に由来する繰り返し単位で変性したものであり、かつ、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークが190℃以下である、
他部材と締結される成形品用のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、
JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークが187℃以下である、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との合計100質量部に対し、(C)リン系安定剤0.01質量部以上0.5質量部以下、及び(D)無機充填剤80質量部以上150質量部以下を含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との質量比((A)/(B))が、5/5〜7/3の範囲であり、
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂が、ジカルボン酸成分に由来する全繰り返し単位中、0.5mol%以上3.0mol%以下を、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体に由来する繰り返し単位で変性したものであり、かつ、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークが190℃以下である、
他部材と締結される成形品用のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、
JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピーク温度から3サイクル目の結晶化温度のピーク温度を引いた差(ΔTc)が19℃未満である、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
【請求項3】
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸で変性したものである、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂に由来する融点のピークが230℃以上260℃以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
他部材との締結が、圧入、セルフタップ、ネジ留め、カシメから選ばれる一種以上によるものである、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
他部材がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品の2倍以上の剛性を有するものである、請求項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
外観面に露出される成形品用である、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
自動車用外装部品及び/又は内装部品用である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関し、より詳細には、他部材と締結される樹脂成形品の製造に適したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性等の諸特性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車用部品、電気・電子部品等の種々の用途に広く利用されている。これらの用途には、樹脂成形品が他の部品と組み付けて用いられるものがあり、そのような用途では組立工程簡略化や軽量化の観点から、複数部材の一体化による部品点数削減の要求が出てきているため、他部材との接合性に優れる樹脂材料が求められている。また、部品点数削減の結果、樹脂成形品で構成された機構部品が意匠面に露出する状態で用いられる場合もあるため、成形品の外観性に優れる樹脂材料に対する要求も高まっている。
【0003】
ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(PBT樹脂組成物)を用いた成形品(以下、単に「樹脂成形品」とも記載する。)を他部材と接合する場合、他部材がPBT樹脂と相溶性のある樹脂で形成された成形品ならば、超音波溶着やレーザー溶着等の熱溶着や、二重成形などのように、成形品同士を融着させる方法を採用することもできる。しかし、他部材がPBT樹脂と相溶性が低い樹脂で形成された成形品や、金属や無機固体のようにそもそも樹脂成形品と融着できない材料で形成されたもので、かつ成形品に用いられるPBT樹脂組成物よりも高剛性の樹脂や材料で形成されたものである場合、それらを接合する方法としては、例えばインサート成形のように、樹脂成形品を射出成形で製造すると同時に他部材を内部に包み込む方法がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、(A)PBT樹脂と、(B)カルボジイミド化合物と、(C)繊維状充填剤と、(D)ポリカーボネート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂より選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂を含むPBT樹脂組成物を用いたインサート成形品が記載されている。しかしインサート成形においては、金型内に他部材をあらかじめ挿入しておく必要があるため、他部材の配置によっては適用が困難となったり、金型設計に制約が生じたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/150833号A1パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、成形後の樹脂成形品に対し、別途用意した他部材を、圧入、セルフタップ、ネジ留め、カシメなどの方法による締結や、スナップフィットなどの保持機構、接着などの二次加工により接合する方法も用いられる。これらのうち、スナップフィットのような保持機構を用いる場合、そのような保持機構を形状的に追加する必要があるため、周辺部品との干渉等によっては適用できない場合があり、接着についても、材質の組合せによっては接着が困難な場合もあることに加え、接着剤の塗布及び硬化等の工程が必要となるため、工数面や生産性面で不利となる可能性がある。
【0007】
上述の点から、PBT樹脂組成物を用いた成形品を、PBT樹脂との相溶性が低い又は無く、かつ高剛性の材料を用いた他部材と接合するための簡便かつ確実な方法として、圧入等の締結も行われている。ただし、圧入等の締結手法では、樹脂成形品に他部材と嵌合させる工程が必要であり、その際に樹脂成形品に生じる歪により、割れが発生する場合がある。従ってPBT樹脂組成物として、樹脂成形品を他部品と締結する際の割れを抑制できる組成が求められる。このような締結時の割れに対しては、引張伸びや曲げ歪のようないわゆる靱性だけでなく、他部材と嵌合されたときの成形品の変形を抑え込めるような剛性も必要であり、また、他部材を嵌合させるための凹部や穴部等を有する樹脂成形品を射出成形で製造する際には、成形品の凹部に対応する金型の凸部を回り込む形で樹脂が充填されることになるため、その樹脂の合流部(ウェルド)の密着性も重要となり、それらの複合的な要因が影響することから、締結による割れを樹脂材料面で対策することは困難であり、最終的な部品として要求される強度や耐熱性等から材料を選定した上で、締結時の割れに関しては、従来、成形品の肉厚を増すなど設計面での対策に留まっていた。
【0008】
また、外観性の観点では、成形品表面に金型面がしっかりと転写される必要があるため、金型内での樹脂組成物の固化を遅くする必要がある。このため、PBT樹脂をポリエチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂等の低結晶性のポリエステル樹脂とアロイ化することも行われている。しかし、このような樹脂組成物では、PBT樹脂とアロイ樹脂との間でエステル交換反応が発生し易く、エステル交換反応が進み過ぎると融点や結晶化温度が変化して物性や成形性が悪化するという問題がある。一般的に樹脂成形品の外観性を確保するには、射出成形時の樹脂温度や金型温度を高く設定する傾向にあるが、このような成形条件は、エステル交換反応抑制の点で不利である。一方で、エステル交換反応を抑制するために成形温度を下げると、金型転写性が低下して外観性が損なわれる傾向にある。そのため、低結晶性のポリエステル樹脂とアロイ化したPBT樹脂組成物を用いて、外観性に優れる成形品を得るには、成形条件を厳しく管理する必要があり、生産性に問題があった。
【0009】
上述のとおり、優れた外観性を得るためにPBT樹脂を低結晶性のポリエステルとアロイ化したPBT樹脂組成物を、良外観を得られるように高温で射出成形する際において、エステル交換による物性や成形性の低下を抑制しつつ、かつ他部材と締結する際の割れも抑制された成形品を製造することができるPBT樹脂組成物を製造するのは非常に困難であるという問題点がある。
【0010】
従って本発明は、外観性と成形性に優れ、かつ他部材と締結して用いられる際の割れが抑制された成形品の製造に適したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔1〕本発明の一態様は、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との合計100質量部に対し、(C)リン系安定剤0.01質量部以上0.5質量部以下、及び(D)無機充填剤80質量部以上150質量部以下を含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂との質量比((A)/(B))が、5/5〜7/3の範囲であり、
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂が、ジカルボン酸成分に由来する全繰り返し単位中、0.5mol%以上3.0mol%以下を、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体に由来する繰り返し単位で変性したものであり、かつ、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークが190℃以下である、
他部材と締結される成形品用のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔2〕本発明の別の一態様は、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸で変性したものである、上記〔1〕に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔3〕本発明の別の一態様は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂に由来する融点のピークが230℃以上260℃以下である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔4〕本発明の更なる一態様は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークが185℃以下である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔5〕本発明の更なる一態様は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピーク温度から3サイクル目の結晶化温度のピーク温度を引いた差(ΔTc)が19℃未満である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔6〕本発明の更なる一態様は、他部材との締結が、圧入、セルフタップ、ネジ留め、カシメから選ばれる一種以上によるものである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔7〕本発明の更なる一態様は、他部材がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品の2倍以上の剛性を有するものである、上記〔6〕に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔8〕本発明の更なる一態様は、外観面に露出される成形品用である、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
〔9〕本発明の更なる一態様は、自動車用外装部品及び/又は内装部品用である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外観性と成形性に優れ、かつ他部材と締結して用いられる際の割れが抑制された成形品の製造に適したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】外観性及び成形性の評価に用いた射出成形品(自動車アウタードアハンドルエスカッション)の形状を示す模式図である。
図2】二次加工性の評価に用いた試験片の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本発明者らは、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、特定のジカルボン酸成分により変性した(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(C)リン系安定剤及び(D)無機充填剤を特定量添加することで、外観性と成形性に優れ、かつ他部材と締結する際の割れが抑制された成形品の製造に適した樹脂組成物が得られることを見出した。
【0016】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
以下、本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各成分の詳細を例を挙げて説明する。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であればよく、ブチレンテレフタレート単位を75モル%以上95モル%以下含有する共重合体が好ましい。
【0018】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.65dL/g以上0.9dL/g以下である。かかる範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4−16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5−10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8−12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6−12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2−6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0024】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の5〜80質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましく、15〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)
PBT樹脂とPET樹脂をアロイ化することにより、成形品の外観性(表面光沢、表面粗度)や低反り性を向上させることができる。
一方で、アロイ材としてPBT樹脂と同じくポリエステル系樹脂であるPET樹脂を用いた場合、溶融時にPBT樹脂とPET樹脂との間のエステル交換反応が進行し易い。このエステル交換反応が進行し過ぎると、融点や結晶化温度が変化するために、物性が低下したり、離型性などの成形性が悪化したりする等の問題が起こる場合がある。しかし、本発明者らの検討によれば、後述する特定のPET樹脂を適用した場合、成形性を損なわず、かつ、外観に優れるPBT樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0027】
本発明の一実施形態において用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、
1)テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)、
2)エチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)、及び、
3)テレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)であるコモノマー成分(変性成分)
を、公知の方法に従って重縮合して得られるポリエチレンテレフタレート樹脂である。
【0028】
テレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)としては、(A)成分で例示したものと同様に、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸、又はこれらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を挙げることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。ある実施形態においては、イソフタル酸を変性成分として用いることが好ましい。
本発明の一実施形態において、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂中、変性成分としてのテレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体に由来する繰り返し単位の量(変性率)は、ジカルボン酸成分由来の全繰り返し単位に対して、0.5mol%以上3.0mol%以下であり、好ましくは0.8モル%以上2.5モル%以下であり、1.0モル%以上2.0モル%以下がより好ましく、1.2モル%以上1.8モル%以下が特に好ましい。
【0029】
なお、コモノマー成分として、エチレングリコール以外の他のグリコール又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いても良い。エチレングリコール以外の他のグリコール又はそのエステル形成性誘導体としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態において用いるPET樹脂の製造に使用される変性成分は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ヒドロキシカルボン酸成分、ラクトン成分等を含んでいてもよい。
【0031】
変性成分に含まれるヒドロキシカルボン酸成分としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;又はこれらのヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。これらのヒドロキシカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
変性成分に含まれるラクトン成分としては、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトンが挙げられる。これらのラクトン成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の外観性の観点から、本発明の一実施形態で用いられるPET樹脂の結晶化温度は190℃以下であり、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。PET樹脂の結晶化温度の下限値は特に限定されないが、耐熱性の観点からは120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましい。PET樹脂の結晶化温度は、JIS K7121に従い、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定できる。本発明の一実施形態においてPET樹脂の結晶化温度は、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークの温度を指す。
【0034】
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における、(A)PBT樹脂と(B)PET樹脂の比率は、(A)PBT樹脂と、(B)PET樹脂との合計を100質量%とした場合において、(A)PBT樹脂が50質量%以上70質量%以下かつ(B)PET樹脂が30質量%以上50質量%以下であることが好ましく、(A)PBT樹脂が55質量%以上65質量%以下かつ(B)PET樹脂が35質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。(A)PBT樹脂と、(B)PET樹脂との合計を100質量%とした場合において、(A)PBT樹脂が50質量%以下であると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性が低下する可能性がある。(A)PBT樹脂と、(B)PET樹脂との合計を100質量%とした場合において、(A)PBT樹脂が70質量%よりも多量であると、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品の外観性が好ましくない可能性がある。
【0035】
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における、(B)PET樹脂の使用量は、(A)PBT樹脂100質量部に対して、好ましくは40質量部以上かつ100質量部以下であり、より好ましくは55質量部以上かつ70質量部未満である。(B)PET樹脂の使用量が(A)PBT樹脂100質量部に対して、40質量部未満であると、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品の外観性が好ましくない可能性がある。(B)PET樹脂の使用量が(A)PBT樹脂100質量部に対して、100質量部以上であると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形性が低下する可能性がある。
【0036】
また、本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、(B)PET樹脂以外に、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT樹脂)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(PCT樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)等の他の非晶性樹脂を含んでもよい。これらの非晶性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ただし、非晶性樹脂がポリエステル系樹脂である場合、(A)PBT樹脂や(B)PET樹脂とのエステル交換により、成形性や機械的物性に影響を与える可能性があるため、ポリエステル系の非晶性樹脂を含有する場合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(C)リン系安定剤
本発明の一実施形態で用いられる(C)リン系安定剤は、(A)PBT樹脂と(B)PET樹脂とのエステル交換を抑制するために添加するものであり、有機リン系安定剤(例えば、有機ホスフェート、有機ホスファイト、有機ホスホネート、有機ホスホナイト等)、及び無機リン系安定剤(アルカリ金属又はアルカリ土類金属リン酸塩等)から選択された少なくとも1種が挙げられる。リン系安定剤は、液状又は固体状のいずれであってもよい。
【0039】
有機ホスフェートとしては、リン酸のモノ乃至トリアルキルエステル(例えば、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート等のモノ乃至ジC6−24アルキルエステル等)、リン酸のモノ乃至トリアリールエステル(モノ又はジフェニルホスフェート等のモノ又はジC6−10アリールエステル等)等が挙げられる。
【0040】
有機ホスファイトとしては、例えば、ビス(2,4−ジ−t−4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0041】
有機ホスホネートとしては、ジステアリルホスホネート等のモノ又はジアルキルホスホネート(C6−24アルキルホスホネート等);ジフェニルホスホネート、ジ(ノニルフェニル)ホスホネート等のアリール基に置換基を有していてもよいアリールホスホネート(C6−10アリールホスホネート等);ジベンジルホスホネート等のモノ又はジアラルキルホスホネート((C6−10アリール−C1−6アルキル)ホスホネート等)等が挙げられる。
【0042】
有機ホスホナイトとしては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイト等が挙げられる。
【0043】
アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸塩又は対応するリン酸水素塩(例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム[(リン酸一ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、リン酸二ナトリウム(リン酸水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム)等)]等のアルカリ金属塩を例示することができる。アルカリ土類金属リン酸塩としては、リン酸カルシウム[第一リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウム、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物等)、第二リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物等)等]、リン酸マグネシウム(リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等)等のアルカリ土類金属塩が例示できる。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、無水物又は含水物のいずれであってもよい。
【0044】
これらのリン系安定剤のうち、外観性の観点では有機リン系安定剤を用いることが好ましい。
【0045】
ある実施形態において、(C)リン系安定剤の含有量は、(A)PBT樹脂と(B)PET樹脂の含有量の合計100質量部に対して0.01〜0.5質量部であることが好ましい。より好ましくは0.05〜0.3質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.2質量部である。リン系安定剤の含有量が上記範囲内であれば、(A)PBT樹脂と(B)PET樹脂の過度なエステル交換反応を抑制することができるため好ましい。
【0046】
(D)無機充填材
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、上記の(A)PBT樹脂、(B)PET樹脂、及び(C)リン系安定剤に加えて、(D)無機充填材を含有する。
【0047】
外観面に露出して用いられる、自動車用の内装部品や外装部品などの用途においては、外部からの荷重や衝撃に耐えられるよう、高い機械的強度を付与する必要があるが、無機充填材を添加することにより、成形品の機械的特性を改善することができる。
【0048】
ただし、無機充填剤を添加すると、一般的に樹脂組成物の流動性が低下し金型の転写性が不利になること、および成形品表面に存在する無機充填剤により成形品の表面粗度が悪化することといった理由から、成形品の外観性を損なう可能性がある。また、成形品に他部材を締結するための機構、例えば圧入用の凹部(穴部)を有する圧入部品用の成形品を射出成形で形成する際は、上述した流動性の低下、および射出成形時のフローフロントにおける無機充填剤の配向により、凹部(穴部)のウェルド密着性が低下し、さらに無機充填剤の添加により樹脂組成物の靱性が低下する傾向にあることから、他部材との締結時に割れが発生しやすくなる可能性がある。一方で、他部材との締結時の割れを抑制するには、樹脂成形品自体の機械的強度(剛性)を高くする観点での対策も必要となる。そこで、強度を確保しつつ、外観性、締結時の割れ抑制を考慮し、無機充填剤を添加する必要がある。
【0049】
無機充填材としては、例えば、ガラス繊維を好ましく用いることができる。ガラス繊維の繊維径、繊維長、形状、チョップドストランドやロービング等のガラスカットの方法等は特に限定されない。例えば、繊維長0.5〜10.0mm、好ましくは2.0〜6.0mm、繊維径1.0〜30.0μm、好ましくは9.0〜14.0μmのものが例示される。形状としては、円筒断面、繭形断面、長円断面等が例示される。また、ガラスの種類も限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0050】
また、ガラス繊維と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理されたガラス繊維を好ましく用いることができ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1質量%以上であるガラス繊維がより好ましく用いられる。
【0051】
また、上述のガラス繊維に替えて、またガラス繊維と組み合わせて、ガラス繊維以外の無機充填材を用いることもできる。ガラス繊維以外の無機充填剤としては、ガラス繊維以外の繊維状充填剤、粉粒状充填剤、板状充填剤等を挙げることができる。
【0052】
ガラス繊維以外の繊維状充填剤としては、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等を例示することができる。また、粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等を例示することができる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等を例示することができる。
【0053】
ある実施形態において、(D)無機充填材を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、(A)PBT樹脂と(B)PET樹脂の含有量の合計100質量部に対して、80〜150質量部であることが好ましく、85〜140質量部であることがより好ましく、さらに好ましくは90〜130質量部である。無機充填材の含有量が上述の範囲であれば、強度、外観性、他部材との締結時の割れ抑制の観点で好ましい。
【0054】
[その他の成分]
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、必要により、上述の(A)〜(D)以外のその他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、離型剤、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目における(B)PET樹脂に由来する融点のピークが、230℃以上260度以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましく、245℃以上250℃以下であることがさらに好ましい。
【0056】
また、本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークの温度が187℃以下であることが好ましく、186℃以下であることがより好ましく、185℃以下であることがさらに好ましい。結晶化温度の下限値は特に限定されないが、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましく、180℃以上であることが特に好ましい。
【0057】
さらに、本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピーク温度から3サイクル目の結晶化温度のピーク温度を引いた差(ΔTc)が19℃未満であることが好ましく、18℃以下であることがより好ましく、17℃以下であることがさらに好ましい。また、同様の条件で測定される(A)PBT樹脂に由来する融点について、1サイクル目のピーク温度から3サイクル目のピーク温度を引いた差(ΔTm)が20℃未満であることが好ましく、19℃以下であることがより好ましく、18℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の形態は、粉粒体混合物であってもよいし、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)であってもよい。本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0059】
[成形品]
本発明の一実施形態によれば、外観性、成形性に優れ、他部品との締結時の割れが抑制された成形品の製造に適したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
よって、上記樹脂組成物を含む成形品と締結される他部材は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成型品よりも高い剛性を有する材料で形成されたものとすることができる。ここでいう剛性は、他部材を形成する材料が金属であればJIS Z2280、セラミックであればJIS Z1602により測定されるヤング率で表すことができる。他部材を形成する材料が樹脂組成物の場合は、ISO178により測定される曲げ弾性率をヤング率の値として用いる。上記樹脂組成物を含む成形品と他部材との締結においては、成形品と他部材は嵌合部で接触して押圧される。このとき双方の剛性が同程度であれば、それぞれの部材が同程度ずつ変形するが、双方の剛性に差があれば、より剛性の低い方が大きく変形する。特に、他部材を形成する材料の剛性が、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の剛性の2倍以上である場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品は、剛性が高い他部材によって大きく変形させられ、より大きな歪が生じることになる。したがって、他部材との締結時の割れが抑制された成形品の製造に適した本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、他部材を形成する材料の剛性が高い場合(例えばポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の曲げ弾性率の3倍もしくは5倍以上)に、それと締結する成形品の材料として、より有用である。他部材を形成する具体的な高剛性材料としては、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス鋼、銅、チタン等の金属や、アルミナ、ジルコニア等のセラミック等を挙げることができる。樹脂組成物を含む成形品と他部材との締結は、圧入、セルフタップ、ネジ留め、カシメ(冷間カシメ、熱カシメ、超音波カシメ)から選ばれる一種以上によるものとすることができる。なお、他部材(締結の対象となる部材)の形状や大きさは特に限定されない。
【0060】
このような樹脂組成物は、自動車用内装部品及び/又は外装部品、例えばドアミラーステー、インナー/アウタードアハンドル、ベンチレーターフィン等の、外観面に露出する成形品用途に好適に用いることができる。こうした成形品の製造方法は、特に限定されず、例えば従来公知の射出成形、圧縮成形等によって形成することができる。
【実施例】
【0061】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
使用した成分の詳細は以下のとおりである。ここで、ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度(Tc1PET)は、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークから求めた値である。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
・PBT樹脂(ウィンテックポリマー株式会社製、IV=0.7dL/g)
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂
・PET樹脂1(イソフタル酸1.5mol%変性、IV=0.7dL/g、Tc1PET=165℃)
・PET樹脂2(イソフタル酸1.5mol%変性、IV=0.7dL/g、Tc1PET=193℃)
・PET樹脂3(ホモポリエチレンテレフタレート、IV=0.7dL/g、Tc1PET=191℃)
・PET樹脂4(イソフタル酸12.6mol%変性、IV=0.7dL/g、結晶化のピークは検出されず)
(C)リン系安定剤
・ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブPEP36)
(D)無機充填材
・ガラス繊維(日本電気硝子株式会社製、ECS03T−187)
なお実施例、比較例の各樹脂組成物には、上記に加え、離型剤としてのペンタエリスリトールテトラステアレートと、着色剤としてのカーボンブラックを、それぞれ表1に示す量で添加した。
【0063】
(実施例1、比較例1〜5)
表1に示す成分を表1に示す組成(質量部)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパから供給して260℃で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0064】
<PBT樹脂組成物におけるPET樹脂に由来する融点(TmComp.:PET)>
実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を用いて、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返し、1サイクル目における、PET樹脂に由来する融点のピークから求めた。結果を表1に示す。
【0065】
<PBT樹脂組成物の結晶化温度(Tc1Comp.)>
実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を用いて、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返し、1サイクル目における結晶化温度のピークから求めた。結果を表1に示す。
【0066】
<PBT樹脂組成物の結晶化温度安定性(ΔTcComp.
実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を用いて、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、40℃から昇温速度10℃/minで280℃まで昇温後、降温速度−10℃/minにて40℃まで降温する操作を3回繰り返した、1サイクル目の結晶化温度のピーク温度から3サイクル目の結晶化温度のピーク温度を引いた差により求めた。結果を表1に示す。
【0067】
<外観性>
上記により得た実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥させた後、住友重機械工業(株)製SG−150U SYCAP−MIVにより、シリンダー温度265℃、金型温度95℃、射出速度35mm/s、保圧力80MPaの条件で、図1に示す自動車アウタードアハンドルエスカッションモデル金型1(外観面に(株)棚澤八光社のシボ規格TH−113のシボ加工を施したもの)を射出成形し、成形開始から約10ショット後の成形が安定した段階での成形品について、目視によりシボの転写状態を観察した。シボ面全体において良好な転写状態が確認されたものを○(良)、シボの転写ムラが見られたものを×(不良)として評価した。結果を表1に示す。
【0068】
<成形性>
上記により得た実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥させた後、住友重機械工業(株)製SG−150U SYCAP−MIVにより、シリンダー温度265℃、金型温度95℃、射出速度35mm/s、保圧力80MPa、冷却時間10秒の条件で、図1に示す自動車アウタードアハンドルエスカッションモデル金型(外観面に(株)棚澤八光社のシボ規格TH−113のシボ加工を施したもの)を射出成形し、成形開始から約10ショット後の成形が安定した段階での成形品について、目視により離型時の突出しピン跡を観察した。突出しピン跡の顕著な発生が確認されなかったものを○(良)、突出しピン跡が顕著に発生していたものを×(不良)として評価した。結果を表1に示す。
【0069】
<二次加工性>
他部材との締結時の割れの指標として、上記により得た実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥させた後、ファナック(株)製 ROBOSHOT α−50Cにより、シリンダー温度260℃、金型温度:80℃、射出速度:20mm/s、保圧力75MPaの条件で、図2(a)に示すような、30mm×30mm×3mmの板状の台座2の中央部に、高さ8mm×肉厚1.6mmの円筒状(外径5.2mmφ、内径1.6mmφ)のボス3を有する試験片10(台座部の一辺に3mm×1mmのサイドゲート)を成形し、(株)オリエンテック製テンシロンUTA−50kNを用いて、図2(b)のように、先端部に15°のテーパーを有する円錐状のピン4(ヤング率約190GPaのSUS304製)を円筒状ボス3内に1mm/minの速度で挿入し、ボス3に割れが発生したときの荷重を測定した。破壊荷重が300N以上の場合を○(良)、300N未満の場合を×(不良)として評価した。結果を表1に示す。
【0070】
<剛性>
剛性の指標として、上記により得た実施例、比較例の各PBT樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥させた後、ファナック(株)製 ROBOSHOT S2000i100Bにより、シリンダー温度260℃、金型温度:80℃、射出速度:17mm/s、保圧力60MPaの条件で曲げ試験片を成形し、ISO178に準拠して曲げ弾性率を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
※1.変性PET由来のピークとPBT由来のピークがほぼ同位置のため、PET由来のピークとして確認できず。
※2.PET樹脂とPBT樹脂のエステル交換により、PET由来のピークは確認できず。
図1
図2