(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483217
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】海洋クロノメータを不動にし、かつ/または巻き上げる装置
(51)【国際特許分類】
G04B 37/14 20060101AFI20190304BHJP
G04B 37/00 20060101ALI20190304BHJP
G04B 3/02 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
G04B37/14 Z
G04B37/00 Z
G04B3/02
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-204997(P2017-204997)
(22)【出願日】2017年10月24日
(65)【公開番号】特開2018-72338(P2018-72338A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2017年10月24日
(31)【優先権主張番号】16196926.6
(32)【優先日】2016年11月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・マセ
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第2425602(US,A)
【文献】
英国特許出願公開第2054274(GB,A)
【文献】
スイス国特許発明第2960(CH,A5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 3/00 − 02
G04B 5/20
G04B 37/00
G04B 37/04 − 05
G04B 37/14
G04B 41/00
G01C 17/00 − 38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジンバルサスペンション(12)を用いて支持体(30)に傾斜可能に取り付けられた時計(10)を備える海洋クロノメータであって、前記支持体は受け台(20)も備え、前記受け台は、前記時計が前記ジンバルサスペンション上で自由に動く休止位置と、前記時計が前記受け台に載っている保持位置との間を並進運動することを特徴とする、海洋クロノメータ。
【請求項2】
前記受け台は、前記支持体に実質的に垂直な方向に並進運動する、請求項1に記載の海洋クロノメータ。
【請求項3】
前記受け台(20)は磁気手段(22)を備え、該磁気手段は、前記受け台が前記保持位置にあるときに、前記時計(10)の対応する磁気手段(14)と協働して、前記時計を前記受け台の中で不動にすることができる、請求項1または請求項2に記載の海洋クロノメータ。
【請求項4】
前記受け台は、前記休止位置と前記保持位置との間の中間位置も有し、前記中間位置では、前記受け台の磁気手段は、前記時計の対応する磁気手段と協働して前記時計を前記受け台内で方向付けるように適応している、請求項3に記載の海洋クロノメータ。
【請求項5】
磁気絶縁手段(50、51)も備え、該磁気絶縁手段は、
前記受け台が前記休止位置にあり、前記絶縁手段が前記受け台の前記磁気手段と前記時計の前記磁気手段との間に磁気遮蔽面を形成する、絶縁位置と、
前記受け台が前記保持位置にあるときに前記磁気絶縁手段が作動しない、後退位置と
の間で可動式である、請求項3または請求項4に記載の海洋クロノメータ。
【請求項6】
前記磁気絶縁手段は、前記受け台によって駆動させられる、請求項5に記載の海洋クロノメータ。
【請求項7】
前記受け台は、複数の磁気装置(22)を含む環状回転固定子(21)を備え、前記磁気装置は、前記固定子の内周に沿って分布して前記受け台の前記磁気手段を形成する、請求項3から請求項6のいずれかに記載の海洋クロノメータ。
【請求項8】
前記固定子は、前記受け台が前記保持位置にあるときに、巻き上げピニオン(40)と噛み合うように適応した歯車である、請求項7に記載の海洋クロノメータ。
【請求項9】
前記時計は、香箱によって駆動される機械式時計機構を備え、香箱巻き上げ機構は、香箱巻き上げ列と噛み合っている巻き上げ回転子(13)を含み,前記巻き上げ回転子(13)は、前記回転子の外周に沿って分布した複数の磁気装置(14)を備えて、前記受け台が前記保持位置または前記中間位置にあるときに前記受け台の前記磁気手段と協働するように適応した前記時計の前記磁気手段を形成する、請求項8に記載の海洋クロノメータ。
【請求項10】
前記支持体は、
前記受け台を摺動可能に取り付ける少なくとも1つの保持軸(31)と、
前記受け台を前記保持位置と前記休止位置との間で前記保持軸に沿って摺動させるためのハサミ型持ち上げ機構(32)と
を備える、請求項1から請求項9のいずれかに記載の海洋クロノメータ。
【請求項11】
ジンバルサスペンションを用いて支持体に傾斜可能に取り付けられた時計(10)を備える海洋クロノメータであって、前記時計は、香箱に駆動され香箱巻き上げ列と噛み合っている巻き上げ回転子(13)を備える機械式ムーブメントを備えることと、前記支持体は巻き上げ手段を備え、該巻き上げ手段は、
前記時計の前記巻き上げ回転子(13)が前記巻き上げ手段に磁気連結する巻き上げ位置と、
前記時計の前記巻き上げ回転子(13)が前記巻き上げ手段に対して自由に回転する休止位置と
の間で可動式であることと
を特徴とする、海洋クロノメータ。
【請求項12】
前記巻き上げ手段は、前記固定子の内周に沿って分布した複数の磁気装置を含む環状固定子を備え、前記固定子は、前記巻き上げ位置と前記休止位置との間で可動式であり、前記固定子は、前記固定子が前記巻き上げ位置にあるときに、巻き上げピニオン(40)と噛み合うように適応した歯車である、請求項11に記載の海洋クロノメータ。
【請求項13】
前記巻き上げピニオン(40)は、ケースの外側に配置され、前記時計から独立している、請求項12に記載の海洋クロノメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶上で時間を維持するように設計された時計、一般には大型時計を備える海洋クロノメータに関する。
【背景技術】
【0002】
公知の方法では、そのような時計はジンバルサスペンションを用いて支持体に固定され、それによって時計が支持体に対してどの方向にも傾斜できるようにする。そのため、ジンバルサスペンションは、時計、さらに詳細には時計の文字盤が、船舶の動きにかかわらず水平位置を保持するのを確実にする。しかしながら、ジンバルサスペンションは壊れやすく、特にジンバルサスペンションが保持している時計の重量に起因する動きおよび衝撃に対する耐性は十分ではない。
【0003】
また、海洋クロノメータは、困難な気象条件で使用可能でなければならず、特に防水性でなければならない。公知の方法では、時計には防水ケースが備わっている。しかしながら、ケース内部の時計機構と時計ケースの外部に位置する巻き取り機構との間にある機械的接触領域の防水性は、一般にシーリングガスケットで達成されているものの、あらゆる使用条件で常に保証されるわけではなく、例えば時間が設定されているときは、シーリングガスケットの効果は低くなることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述した公知の海洋クロノメータの欠点の少なくとも1つがない新規な海洋クロノメータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのために、本発明は、ジンバルサスペンションを用いて支持体に傾斜可能に取り付けられた時計を備える海洋クロノメータであって、支持体は受け台も備え、受け台は、時計がジンバルサスペンション上で自由に動く休止位置と、時計が受け台に載っている保持位置との間を並進運動することを特徴とする、海洋クロノメータを提供する。換言すれば、休止位置では、受け台は時計の重量を支え、それによってジンバルサスペンションを解放する。
【0006】
1つの実施形態によれば、受け台は磁気手段を備え、磁気手段は、受け台が保持位置にあるときに、時計の対応する磁気手段と協働して、時計を受け台の中で不動にすることができる。
【0007】
受け台は、休止位置と保持位置との間で中間位置を取ってもよく、この中間位置では、受け台の磁気手段は、時計の対応する磁気手段と協働するように適応して、最初にジンバル上で受け台に対して自由に回転している時計を方向付けてから受け台の中で不動にする。
【0008】
1つの実施形態によれば、本発明によるクロノメータの支持体は、
受け台を摺動可能に取り付ける対象である少なくとも1つの保持軸と、
受け台を保持位置と休止位置との間で保持軸に沿って摺動させるためのハサミ型持ち上げ機構と
を備えていてもよい。
【0009】
持ち上げ機構は、例えばレバーを介して手動で作動する。
【0010】
支持体は、磁気絶縁手段も含んでいてよく、磁気絶縁手段は、
受け台が休止位置にあり、絶縁手段が受け台の磁気手段と時計の磁気手段との間に磁気遮蔽面を形成する、絶縁位置と、
受け台が保持位置にあるときに磁気絶縁手段が作動しない、後退位置と
の間で可動式である。
【0011】
磁気絶縁手段を受け台の休止位置で使用することで、載置状態の受け台と時計との間の距離をそれほど大きくする必要なく、受け台が休止位置にあるときの連結をゼロまたは事実上ゼロにするのに十分強固な磁気装置を使用することが可能になる。これによってクロノメータの外寸法を制限することが可能になる。
【0012】
1つの実施形態によれば、時計は、時計ムーブメントの香箱を巻き上げる機構を備えていてもよく、この機構は、詳細には説明しない従来の機械式時計ムーブメントの巻き上げ列と噛み合っている巻き上げ回転子を備えている。回転子は、回転子の外周に沿って分布した複数の磁気装置を備えて、受け台が保持位置または中間位置にあるときに受け台の磁気手段と協働するように適応した時計の磁気手段を形成する。受け台は、複数の磁気装置を含む環状固定子を備えていてもよく、磁気装置は、固定子の内周に沿って分布して受け台の磁気手段を形成する。固定子は、受け台が保持位置にあるときに、時計の外側に配置され時計から独立している巻き上げピニオンと噛み合うように適応した歯車であってもよい。そのため、保持位置では、受け台は、時計を不動にして支持するとともに時計機構を巻き上げるために使用されてよい。
【0013】
本発明は、ジンバルサスペンションを用いて支持体に傾斜可能に取り付けられた時計を備える海洋クロノメータであって、クロノメータは、時計が、時計ムーブメントの香箱巻き上げ列と噛み合っている巻き上げ回転子を備える機械式時計ムーブメントを備えることと、支持体が巻き上げ手段を備え、巻き上げ手段は、
時計の回転子が巻き上げ手段に磁気連結する巻き上げ位置と、
時計の回転子が巻き上げ手段に対して自由に回転する休止位置と
の間で可動式であることと
を特徴とする、海洋クロノメータにも関する。
【0014】
時計の香箱を巻き上げるために磁気連結を使用することで、時計ケースに巻真を通す通路を設ける必要性を避け、それによって完全に防水性の時計ケースを達成することが可能になる。
【0015】
さらに、ケースを回転させる必要なしに巻き上げを有利に達成できるため、巻き上げ動作中に時間を読み取ることが依然として可能になる。
【0016】
1つの実施形態によれば、巻き上げ手段は、固定子の内周に沿って分布した複数の磁気装置を含む環状固定子を備え、固定子は、巻き上げ位置と休止位置との間で可動式であり、固定子は、固定子が巻き上げ位置にあるときに、時計の外側に配置され時計から独立している巻き上げピニオンと噛み合うように適応した歯車である。
【0017】
本発明によるクロノメータの例示的な実施形態についての以下の説明に照らして、本発明はよりよく理解され、本発明のその他の特徴および利点は明らかになるであろう。これらの例は、非限定的な例示として挙げたものである。説明文は添付の図面を参照して読むものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1a】支持構造体から外したクロノメータケースの斜視図である。
【
図3】本発明によるクロノメータの磁気駆動機構の部分図である。
【
図4a】本発明によるクロノメータの基本要素の図である。
【
図4b】本発明によるクロノメータの基本要素の図である。
【
図5a】本発明によるクロノメータの別の要素の図である。
【
図5b】本発明によるクロノメータの別の要素の図である。
【
図5c】本発明によるクロノメータの動作を示す部分詳細図である。
【
図5d】本発明によるクロノメータの動作を示す部分詳細図である。
【
図5e】本発明によるクロノメータの動作を示す部分詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述したように、本発明は、ジンバルサスペンションを用いて支持体30に傾斜可能に取り付けられた時計10を備える海洋クロノメータに関する。図示した例では、時計10は、球体の一部の形態であるケース11を備え、このケースの内部には時計の時計ムーブメントMが収容され、このムーブメントの駆動手段は香箱Bで形成される。ケース11は、ガラスカバーによって従来の防水性を保つ方法で閉じられ、ガラスカバーの下には、
図1aに見られるように、文字盤C、針A、および時計ムーブメントが配置されている。時計10のジンバルサスペンションは、それ自体が公知のもので、単純にサスペンションリング12で表示されている。リング12と支持体30との間の機械的な接続は、図を明瞭にする目的で図示していない。
【0020】
本発明によるクロノメータは、支持体が受け台20も備え、受け台が、時計がジンバルサスペンション上で自由に動く休止位置(
図1)と、時計が受け台に載っている保持位置(
図2a、
図3)との間を並進運動することを特徴とする。また、図示した例では、受け台は、休止位置と保持位置との間の中間位置も有し、中間位置では、受け台の磁気手段は、時計の対応する磁気手段と協働して時計を受け台内で方向付けるように適応している。受け台は、この場合、支持体に実質的に垂直な方向に並進運動する。
【0021】
受け台の可動性を確実にするために、支持体は、図示した例では、
受け台の両側に位置している2つの保持軸31であって、この両軸に受け台が孔のあいた固定突起部31aを介して摺動可能に取り付けられ、孔の直径が保持軸31の直径に合っている、2つの保持軸と、
受け台を保持軸に沿って保持位置と休止位置との間で摺動させるハサミ型持ち上げ機構32(
図5)であって、このように、レバー33を介して使用者によって手動で動きを設定される、ハサミ型持ち上げ機構と
を備えている。
【0022】
さらに詳細には、図示した例では、持ち上げ機構は、レバー33およびハサミ構成に関わる2対の接続ロッド34、35(特に
図1、
図2a、
図2cを参照)を備え、接続ロッドの各対は、後述するように保持軸31に連結されている。1対の接続ロッドは、以下のように形成された2つの接続ロッド34、35を備えている。1つの接続ロッド34は、支持体30に対するピボットリンクによって関節連結した足部を備え、接続ロッド34の自由端は、受け台の固定突起部31aに機械的に関節連結されている。また、接続ロッド34は弾性ストリップ34bを備え、これによって固定子突起部31aをクランプでき、ケースが的確にロックされるようにすることにも注意されたい。1つの接続ロッド35は、支持体30に対するピボットリンクによって関節連結した足部を備え、接続ロッド35の自由端は、接続ロッド35の長手軸に沿って広がっている長円形開口36を有する。2つの接続ロッド34、35は、ピボット接続によって互いにつながり、ピボット接続部は、接続ロッド34の2つの端部の間、および接続ロッド35の足部と長円形開口36との間を通るピン35aを有してハサミの作用を達成する。2つの接続ロッド35の自由端は、一方の接続ロッド35が動くと、機械的にもう一方の接続ロッド35が同じ動きをするように互いにしっかりと接続されている。レバー33は、実質的にL字型または「1」の形状をした2つの側を有する。レバーの大きい側の自由端はハンドル37を形成する。レバーの小さい側38の自由端は、接続ロッド35の長円形開口36の中に摺動可能に取り付けられる。長円形開口にある2つのノッチ36a、36bは、レバーの小さい側の自由端を所定位置で不動にできる。最後に、レバー33の小さい側と大きい側との間の交差部は、ピボットリンクによって支持体30に関節連結される。休止時、接続ロッド34、35の対は閉じたハサミを形成し、レバーの小さい側38の自由端は、ハサミ軸35aの側にある長円形開口の中に位置している。レバーハンドル37を引く/回転させると、長円形開口36の中にあるレバーの小さい側38の自由端が接続ロッド35の自由端に向かって移動し、この移動によって今度はハサミ軸35aが上がり、接続ロッド34の自由端および受け台の固定突起部31aが保持軸31に沿って間接的に上がる。そのため、レバー33を引く/回転させると、受け台20が保持軸に沿って並進運動する。
【0023】
受け台20は磁気手段22を備え、この磁気手段は、時計の対応する磁気手段14と協働して、受け台が保持位置にあるときに時計を受け台の中で不動にすることができる。図示した例では、受け台は環状であり、その磁気手段は、受け台の内周に沿って分布している。
【0024】
本発明によるクロノメータの1つの実施形態(図示せず)によれば、時計の磁気手段14は、時計ケース11の周囲に沿って、好ましくはシールされたケースの中で、時計のガラスカバーの平面に実質的に平行な平面に分布している複数の磁気装置を備えている。受け台の磁気手段と時計の磁気手段との間の磁気連結により、時計が受け台に載っているときに時計の重量の平衡を保つように時計を受け台に対して方向付けることができる。
【0025】
図示した実施形態によれば、支持体30の受け台20は、時計を不動にすることに加えて、機械式時計ムーブメントの香箱を巻き上げることができる。そのために、時計10は、巻き上げ回転子13を含む機構を備え、磁気手段14は、回転子の外周に沿って分布した複数の磁気装置を備えて、受け台が保持位置または中間位置にあるときに受け台の磁気手段と協働するように適応した時計の磁気手段を形成する。時計ケースの中では、回転子13は歯車13aと結合し、歯車は、公知の方法で香箱巻き上げ列の通常の要素に連結している。
【0026】
受け台20は環状固定子21を備え、環状固定子は、ここでは歯車(
図3)の形態で、支持体に対して回転するように取り付けられる。受け台の固定子は、固定子の内周に沿って分布した複数の磁気装置22を備えて受け台の磁気手段を形成する。受け台は、固定子(歯車)の外周を保護するためのケーシング23も備えている。
【0027】
最後に、支持体は、受け台が保持位置にあるときに固定子21と噛み合うように適応した巻き上げピニオン40によって完全となり、巻き上げピニオン40と固定子21との機械的接続が可能になるように、ケーシングには開口24が設けられる。ケースの外部に設けられ時計から独立している巻き上げピニオン40は、キー41、指回し式円形板、ハンドルなどを用いて手動で回転駆動でき、場合によっては電動補助装置で補足されてもよい。巻き上げピニオンと受け台とは共に巻き上げ手段を形成し、巻き上げ手段は、
巻き上げ手段、特に固定子21に時計回転子13が磁気によって連結し、その際に時計ケースも受け台で不動になる、(受け台の保持位置に相当する)巻き上げ位置と、
時計回転子が巻き上げ手段に対して自由に回転する(受け台の休止位置に相当する)休止位置と
の間で可動式である。
【0028】
「磁気装置」とは、本明細書を通して、永久または非永久の磁石、または磁気によって磁石に連結できる磁気部分という意味である。例えば、受け台の磁気装置22を作製するために磁石を使用でき、時計の磁気装置14を作製するために磁気部分を使用する、またはこの逆も同様であり、あるいは受け台の磁気装置および時計の磁気装置を作製するために磁石を選択する。磁気装置の選択、その寸法、磁力、数、ならびに受け台の周囲への配置および時計の周囲への配置は、時計を受け台で不動にし、かつ/または巻き上げ回転子13を回転させるのに必要な磁力に応じて決定する。
【0029】
図示した実施形態による受け台は、以下の方法で使用される。休止位置では(
図5b、
図5c)、受け台は支持体に載っていて時計から離れている。受け台の磁気手段22および時計の磁気手段14は互いに離れているため、両者の間には磁気連結がない。そのため、時計はジンバルサスペンション上で自由に動く。
【0030】
使用者がレバー33のハンドル37を引くと、受け台は機構32によって(ノッチ36aに相当する)中間位置まで持ち上げられる。受け台20は、時計ケース11に近くなるが接触せず、受け台の磁気手段22は時計の磁気手段14に磁気連結される(
図5d)。このように、時計はジンバルサスペンションに可動式に取り付けられるため、固定子の磁気装置22は、受け台の固定子の軸と時計の回転子の軸とが同列になるまで時計の磁気装置14を引きつける。この位置になると、時計は、磁気連結によって受け台の上で静止状態かつ(重量の観点での)平衡状態に保持される。
【0031】
使用者がレバー33をもう少し下げると、受け台は機構32によって保持位置(ノッチ36b)まで持ち上げられる。受け台は時計ケース11と接触状態になるため、ストリップ34bが固定子をケース11に押しつけるのを補助して時計の重量が受け台にかかる。そのとき、受け台の磁気装置22と時計の磁気手段14との間の磁気連結は最大である。時計は受け台上で不動になるため、ジンバルサスペンションは時計の重量から解放される。この位置でも、巻き上げピニオン40は受け台の固定子21と噛み合う。そのため、キー41が回転すると巻き上げピニオンが回転させられ、巻き上げピニオンが今度は固定子21を回転させる。次に、固定子は、磁気連結によって回転子13を回転させ、この磁気連結が時計の香箱を巻き上げる。
【0032】
本発明によるクロノメータは、磁気絶縁手段50によって有利に完全となり、磁気絶縁手段は、
受け台が休止位置にあり、絶縁手段が受け台の磁気手段と時計の磁気手段との間に磁気遮蔽面を形成する、絶縁位置と、
受け台が保持位置にあるときに磁気絶縁手段が作動しない、後退位置と
の間で可動式である。
【0033】
図示した例では、磁気絶縁手段は、磁気遮蔽材料で作製された複数のブレード51で形成されている。ブレードは、受け台の内側で実質的に円上に並んで取り付けられている。ブレードはそれぞれが、
ブレードが受け台の磁気装置22を覆うように展開され、それによって固定子と回転子との間の残りの磁気連結がいずれも中立になる、受け台20の休止位置に相当する絶縁位置と、
ブレードが受け台から離れるように動き、回転子の磁気装置と固定子の磁気装置との間に磁気遮蔽面を形成しなくなる、受け台の保持位置に相当する後退位置と
の間で、支持体に実質的に平行な回動軸に対して回動するように取り付けられる。
【0034】
実際にここでは、ブレードは、受け台のケーシング23に載っており、受け台20が並進運動したときに回転させられる。受け台20が動いている間、ブレードをハウジング23に対して保持するために各ブレードに釣合い重り52を設けてもよい。
【0035】
直前に記載した例では、機構は、固定子を上げ下げする動きを達成するハサミ型のものだが、変形例ではその他の種類の持ち上げ機構を検討してもよいことは明らかであり、例として、単純な膝レバー機構もしくは接続ロッドが2つある機構、または膝レバープレス機構、もしくは例えば伸縮式のスクリュージャッキがあるものまたはないものであるジャックシステムなどがある。このような機構は、特に、Decoopman発行の「Des Mecanismes Elementaires」と題する著作、ISBN97823650027の第144頁および第145頁に記載されており、本文献を参照により本願に組み入れる。
【符号の説明】
【0036】
10 時計
11 ケース
12 サスペンション
13 回転子
14 磁気装置
20 受け台
21 固定子
22 磁気装置
23 ケーシング
24 開口
30 支持体
31 保持軸
31 固定突起部
31 持ち上げ機構
33 レバー
34、35 ハサミを形成する接続ロッドの対
35a 2つの接続ロッド35の間の機械リンク
36 長円形開口
36a、36b 長円形開口内のノッチ
37 レバー33のハンドル
38 レバーの小さい側
39 2つの接続ロッド34、35の接続ピン
40 巻き上げピニオン
41 キー
50 磁気絶縁手段
51 ブレード
52 釣合い重り