特許第6483252号(P6483252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ チャイナ ナショナル リサーチ インスティテュート オブ フード アンド ファーメンテーション インダストリーズの特許一覧

特許6483252低アレルギー誘発性で魚臭さの低下した魚タンパク質オリゴペプチド、その工業的調製方法、およびその用途
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483252
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】低アレルギー誘発性で魚臭さの低下した魚タンパク質オリゴペプチド、その工業的調製方法、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/18 20160101AFI20190304BHJP
【FI】
   A23L33/18
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-516108(P2017-516108)
(86)(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公表番号】特表2017-528148(P2017-528148A)
(43)【公表日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】CN2015092932
(87)【国際公開番号】WO2016173222
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2017年3月23日
(31)【優先権主張番号】201510218914.X
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】313005248
【氏名又は名称】チャイナ ナショナル リサーチ インスティテュート オブ フード アンド ファーメンテーション インダストリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ、 ムウイー
(72)【発明者】
【氏名】グウ、 ルイズオン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、 ジュイン
(72)【発明者】
【氏名】マー、 タオ
(72)【発明者】
【氏名】パン、 シンチャン
(72)【発明者】
【氏名】ドーン、 ジョー
(72)【発明者】
【氏名】マー、 ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ、 ヤーグアン
(72)【発明者】
【氏名】マー、 ヨンチン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、 ジェンタオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、 リアン
(72)【発明者】
【氏名】ルウ、 ルウ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、 ウェンイン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ、 イン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、 ハイシン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、 ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ、 ケルウ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー、 グオミン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、 ミン
【審査官】 吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1943365(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103202383(CN,A)
【文献】 特開2007−055919(JP,A)
【文献】 特開2005−343851(JP,A)
【文献】 特開2008−206470(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101836687(CN,A)
【文献】 特開2009−022206(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103621765(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1792235(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 31/00−33/29
A23L 5/00−5/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを調製するための工業的方法であって、以下の順序で:
1)新鮮な魚肉および/または魚廃棄物を洗浄し、粉砕し、水を加えて、混合物を得る工程;
2)混合物に熱変性を施して、変性タンパク質溶液を得る工程;
3)変性タンパク質溶液を遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物に水を加えてすりつぶし、スラリーを得る工程;
4)スラリーのpHを6〜9に調整し、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼを順次添加して酵素分解を行い、そして酵素の不活化後、酵素加水分解物を得る工程;
5)酵素加水分解物を遠心分離し、遠心分離した上清を膜濾過して、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを得る工程;
を含み、
ここで、工程3)は、変性タンパク質溶液を遠心分離する前に、変性タンパク質溶液を洗浄する工程をさらに含み、変性タンパク質溶液を洗浄する工程は:
変性タンパク質溶液を予め遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物と水の質量対体積比が1:(1〜5)となるように水を添加して洗浄する工程
を含み、
工程4)において、中性プロテアーゼの量が10〜100U/g、パパインの量が10〜100U/g、アルカリプロテアーゼの量が10〜100U/gであり;そして、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの量比が1:(1〜3):(1〜3)である、
方法。
【請求項2】
工程1)における魚肉および/または魚廃棄物と水との質量対容積比が1:(1〜5)であり、工程3)における沈殿物と水との質量対体積比が1:(1〜5)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱変性が、混合物を75〜95℃に加熱し、この温度を維持し、10〜60分間、連続的に撹拌する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素分解が30℃〜60℃で行われ、酵素分解の時間が2〜6時間に調節される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
膜濾過のために孔径が1〜100nmの濾過膜が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
魚タンパク質オリゴペプチドが請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって調製され、魚タンパク質オリゴペプチドにおけるパルブアルブミンの質量含有量が≦200mg/kgである、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド。
【請求項7】
5000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有量が>85%であり、1000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有率が>60%である、請求項に記載のアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド。
【請求項8】
食品または医薬品における、請求項またはに記載のアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚タンパク質オリゴペプチドに関し、特に、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドならびにその工業的調製方法および応用に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉が濃縮された魚タンパク質は、非常に高い栄養価を有している。魚タンパク質は、血中の脂質およびコレステロールの含有量を低減する助けとなる人体に必要な栄養素を大量に含んでいるが、特に、神経系の成長にとって不可欠な栄養素で脳の発達を促進するDHAを大量に含んでいる。したがって、ますます多くの人々が魚製品を処理して食べることを選択している。しかし、魚製品の魚臭さ自体が、加工食品の味に大きな影響を及ぼし、また、魚肉中のタンパク質の分子量も、大き過ぎて人体により吸収されない。先行技術のいくつかの加工技術における共通のアプローチは、極端なpHおよび温度条件下において大きな分子量を有するタンパク質を加水分解することであるが、これは、タンパク質の特性に悪影響を与えることになる。
【0003】
さらに重要なことに、魚タンパク質は、IgE抗体によって95%を上回る人々にアレルギーの発症を引き起こしうることが証明されるパルブアルブミンのような多数のアレルゲンを含むため、魚アレルギーは最も一般的な食物アレルギーの一つであると考えられている。加熱および化学処理は、アレルゲン性を排除するための一般的な方法であるが、タンパク質を変性させる加熱が魚タンパク質中のすべてのアレルゲンを除去する可能性は低く、化学試薬によりトリプシンインヒビターの活性を主に低下させる化学処理は、化学的残留物などの食品安全性の問題を必然的に引き起こす。
【0004】
特許公報CN102008004A号は、魚皮タンパク質の濃縮された魚タンパク質粉末の調製方法を開示している。この方法は主に中性プロテアーゼおよびブロメラインを採用して、魚皮材料の2段階酵素分解を行う。酵素分解は、最終産物の平均分子量を6000Da未満に低下させることができるが、この方法は、最終産物中のアレルゲンを処理して検出することができず、よって、アレルゲン活性を低下させることができるか否かを決定することができず、そしてさらには、複雑な作業工程を有している。
【0005】
Li Yang et al.は、2940U/gのパパインを用いて、40℃、8.00のpH値で4時間、ニシキテグリ魚肉タンパク質をリン酸緩衝液中で加水分解し、ニシキテグリ魚肉タンパク質の最終産物の抗原性を58.33%低下させるという、魚タンパク質オリゴペプチドの調製方法を提案している。しかしながら、この方法もパルブアルブミンのアレルゲン性についての試験を行うことができず、その上、三次元タンパク質構造中または疎水性領域中に元々隠されていた線状エピトープの曝露により、酵素分解産物が新たなアレルゲン性を獲得する可能性が高いという懸念ももたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開公報第CN102008004A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除することができず、生成された産物の味が悪く、タンパク質の分子量が大きすぎて吸収することができないといった従来技術の技術的欠点を克服するために、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド、ならびにその調製方法およびその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により提供されるアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの工業的調製方法は以下の工程を含む:
【0009】
1)新鮮な魚肉および/または魚廃棄物を洗浄し、粉砕し、そして水を加えて混合物を得る工程;
【0010】
2)変性タンパク質溶液を得るために混合物に熱変性を施す工程;
【0011】
3)変性タンパク質溶液を遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物に水を加え、すりつぶしてスラリーを得る工程;
【0012】
4)スラリーのpHを6〜9に調整し、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼを順次添加して酵素分解を行い、そして酵素の不活化後、酵素加水分解物を得る工程;ならびに
【0013】
5)酵素加水分解物を遠心分離し、遠心分離した上清に対して膜濾過を行い、アレルゲン性が低く、魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを得る工程;
【0014】
ここで、工程3)は、変性タンパク質溶液を遠心分離する前に、変性タンパク質溶液を洗浄する工程をさらに含み、この変性タンパク質溶液を洗浄する工程は、
変性タンパク質溶液を遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物と水の質量対体積比が1:(1〜5)となるように水を添加して沈殿物を洗浄する工程
を含む。
【0015】
本発明において用いられる魚の種類に制限はなく、魚は深海魚または淡水魚であってもよい;そして、魚廃棄物とは、魚肉を取り除いた後の残留物、例えば魚皮や魚鱗を指す。洗浄後、後に行う熱変性効果をさらに改善するために、洗浄した魚肉および/または魚廃棄物を15〜20メッシュに粉砕してもよい。
【0016】
さらに、工程1)においては、魚肉および/または魚廃棄物と水との質量対体積比は1:(1〜5)であり、すなわち、混合物を調製するために1kgの魚および/または魚廃棄物が1〜5Lの水と混合される。混合物の調製の際、水が少なすぎると、混合物は流動性が悪くなり、酵素分解効率の低下につながる;水が多すぎると、反応体積が大きくなり過ぎて、後続の処理(濃縮等)に影響を与え、それに応じてコストが上昇する。ここで、水は純水、蒸留水、脱イオン水などでありうる。脱イオン水が本発明において使用される。加えて、工程3)における沈殿物と水の質量対体積比は1:(1〜5)である。
【0017】
さらに、熱変性は、混合物を75〜95℃に加熱し、この温度を維持し、10〜60分間、連続的に撹拌する工程を含む。熱変性は、魚タンパク質の空間的構造を損壊して、それにより魚タンパク質のアレルゲン性を低下させることができ、一方、混合物の流動性の問題および溶液が粘性であるという問題を解決して、よって後続の酵素分解の進行を促進することができる。
【0018】
さらに、変性タンパク質溶液を遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物に水を加え、沈殿物をすりつぶしてスラリーを得る。遠心分離の際、回転速度は2000〜8000回転/分に調節され、時間は10〜60分に調節される;遠心分離後に形成される沈殿物は体積の大きな固体であることから、その後の酵素分解をより完全に進行させるために、沈殿物にさらに水を加え、破砕して叩解した後にスラリーを得てもよい。沈殿物と水の質量対体積比は1:1〜5に調節され、沈殿物が約20〜30メッシュになるまで破砕および叩解が行われる。
【0019】
加えて、魚臭さの除去を改善し、色素や脂肪等の不純物を低減してタンパク質の含有量を高めるために、工程3)は遠心分離に先立ち、変性タンパク質溶液を水で洗浄する工程をさらに含む。具体的には、変性タンパク質溶液の洗浄は、変性タンパク質溶液を遠心分離して沈殿物を取得し、沈殿物に水を加えて洗浄する工程であって、沈殿物と水の質量対体積比を1:(1〜5)とし、遠心分離の際の回転速度を2000〜8000回転/分に調節し、時間を10〜60分に調節する工程を含む。この洗浄工程を2〜3回繰り返してもよい。
【0020】
本発明者は、魚の栄養素を失うことなく、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除し、かつ魚製品自体の魚臭さを除去し、また、酵素法による酵素分解産物中における苦味物質の生成を抑制する方法について相当な量の研究を行った。大部分のプロテアーゼは、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除することができず、かつ/または酵素分解産物中の苦味物質の生成を抑制することができないことが判明した。例えば、魚タンパク質を処理するために中性プロテアーゼが使用される場合、魚タンパク質のアレルゲン性がある程度排除されうるが、魚タンパク質のアレルゲン性除去効果は決して満足できるものではない;魚タンパク質を処理するためにトリプシンが用いられる場合、魚タンパク質のアレルゲン除去効果は明らかでなく、検出されるアレルゲン性パルブアルブミンの含有量がいくらか増加しさえする。本発明者は研究中、驚くべきことに、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼを酵素分解中に一緒に使用した場合にのみ、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除すると共に、酵素分解産物中の苦味物質の生成を抑制できることを見出した。
【0021】
特に、本発明の酵素分解の際、中性プロテアーゼの量は10〜100U/g、パパインの量は10〜100U/g、アルカリプロテアーゼの量は10〜100U/gである。さらに、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの量比は1:(1〜3):(1〜3)である。加えて、酵素分解に先立ち、質量濃度10〜20%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6〜9に調整してもよく、30℃〜60℃で酵素分解を行い、酵素分解の時間は2〜6時間に調節される。酵素分解の時間が短すぎると(<1h)、タンパク質の分解の助けとならず、時間が長すぎると(>3h)、苦味や渋味のある物質が生成されうる。中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの組み合わせは、アレルゲン性を排除すると共に酵素分解産物の苦味および渋味を調節し、それによって、膨大な数の消費者により魚タンパク質がさらに受け入れられ、消費されることを可能とするための、魚タンパク質の完全な分解にとって好適である。前述の酵素分解は、魚タンパク質の主要なアレルゲン、すなわちパルブアルブミンを99%以上減少させることができ、そして一方で、魚タンパク質を適度に加水分解して低分子量のペプチド(例えば、分子量1000Da未満のペプチド)を形成することができるが、これは人体による魚タンパク質の吸収を促進する助けとなる。
【0022】
本発明では、酵素の量は魚肉および/または魚廃棄物の重量に基づき、すなわち、1gの魚肉および/または魚廃棄物を使用する場合、10〜100Uの中性プロテアーゼを使用する。また、酵素の不活化は110〜120℃で行い、酵素不活化の時間は8〜12秒に調節する。
【0023】
さらに、工程5)の酵素加水分解物の遠心分離においては、回転速度を2000〜8000回転/分に調節することができ、遠心分離は、円筒型遠心分離機などの従来的な装置によって行うことができる。加えて、孔径1〜100nmの濾過膜を用いて膜濾過を行ってもよく、細孔径はさらに1〜50nm(限外濾過など)であってもよい;膜濾過の際、その絶対圧は0.2〜0.4MPa、温度は30〜80℃に調節されうる。遠心分離した酵素加水分解物の上清の膜濾過は、分子量の大きな成分をさらに捕捉して、酵素加水分解物中の高分子アレルゲン性タンパク質成分を除去することができる。
【0024】
本発明においては、膜濾過後に得られる濾液を脱色し、濃縮してもよい。具体的には、脱色は従来的な脱色剤、例えば、活性炭粉末を用いて行うことができ、脱色剤と濾液の質量比は(5〜10):100とし、脱色の温度は70〜90℃、例えば80℃とし、脱色の時間は20〜40分とすることができ、脱色を攪拌下で行ってもよい。脱色後、脱色剤は、例えば板枠式圧濾機を用いて、常法により除去することができる。さらに、脱色剤の濾液除去は、蒸発によって濃縮されてもよく、例えば、二重効用流下膜式蒸発器を用いて濃縮を行ってもよい。蒸発による濃縮の際、蒸気圧は0.1±0.02MPaに、蒸発温度は40〜80℃に調節されうる。濃縮後、濃縮液の体積は元の体積の1/3〜1/2に減少しうる。さらに、濃縮後に滅菌および乾燥を行って、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド粉末を調製してもよい。乾燥は例えば、噴霧乾燥であってもよい。
【0025】
また、本発明は、上記調製方法のいずれかに従って調製されたアレルゲン性が低く、魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドも提供する。アレルゲン性が低く、魚臭さがわずかである魚タンパク質オリゴペプチドにおいて、パルブアルブミンの質量含有量は≦200mg/kgである。そして、アレルゲン性が低く、魚臭さがわずかである魚タンパク質オリゴペプチドにおいては、パルブアルブミンの質量含量が魚タンパク質に基づき99%以上減らされることができる。
【0026】
さらに、アレルゲン性が低く、魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドにおいては、5000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有量は>85%であり、1000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有率は>60%である。もっとさらには、アレルゲン性が低く、魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドにおいては、5000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有量は>95%であり、1000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有率は>85%である。
【0027】
本発明はさらに、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの食品または医薬品における用途を提供し、ここで、食品は限定されるものではないが、幼児用食品、スポーツ用機能性食品および健康食品を含み、幼児用食品は幼児用粉ミルク、幼児用米粉などを含みうる。
【0028】
本発明の方法では、魚肉中の魚タンパク質の予備変性とそれに次ぐ3種の特異的なプロテアーゼを用いた酵素分解が、様々なアレルゲンのアレルゲン性を排除するだけでなく、酵素分解産物が新たなアレルゲン性を生じることも防ぎ、魚タンパク質中のパルブアルブミンの含有量は99%以上減少する;加えて、この方法は、魚製品の魚臭さを効果的に除去し、魚肉材料を物理的技術によりオリゴペプチドへと処理し、分子量1000Da未満のペプチドのオリゴペプチド中の質量含有率が90%以上に達することにより、人体による吸収と利用が保証される。さらに、この方法はシンプルな工程を有し、コストを節約し、よって大規模生産に適しており、かつ、この方法で調製されたアレルゲン性の低い魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドは幅広い用途を有している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の目的、技術的解決策および利点をより明確にするために、本発明の技術的解決策が本発明の実施例と共に明確かつ完全に説明されるが、当然、記載されている実施例は、本発明の実施例の全てではなく、一部に過ぎない。本発明の実施例に基づき、創造的努力なしに当業者によって得られる他の全ての実施例は、本発明の保護範囲に入るものとする。
【0030】
本発明において用いられたプロテアーゼは全て、Novozymes Biotechnology Co. Ltd.から購入した。
【実施例】
【0031】
実施例1
1.混合物の調製
市販のコイの鱗を落とし、骨を抜き、内臓を取り、洗浄した後、18メッシュに粉砕して5kgの魚肉ミンチを得た。15Lの脱イオン水を魚肉ミンチに加え、混合物を得た。
【0032】
2.熱変性
混合物を80℃に加熱し、この温度を保ちながら40分間連続的に撹拌し、変性タンパク質溶液を得た。
【0033】
3.スラリーの調製
変性タンパク質溶液を5000回転/分の回転速度で30分間遠心分離し、遠心分離後、上清液を捨て、4.9kgの下層固体を得た。
【0034】
4.9kgの下層固体に15Lの脱イオン水を加え、得られた混合物を撹拌しながら均一に混合し、4000回転/分の回転速度で30分間遠心分離して、下層固体を得た。得られた下層固体に対して、上記工程を2回繰り返した。最終的に4.85kgの沈殿物が得られた。
【0035】
脱イオン水15Lを4.85kgの沈殿物に加え、粉砕し、沈殿物を25メッシュに叩解してスラリーを得た。
【0036】
4.酵素分解
スラリーを20重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7に調整し、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼをスラリーに加えたが、ここで、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの量は全て、魚肉1gあたり約50Uであった。酵素分解を約50℃の温度で約2時間行い、それから温度を110℃に上げ、酵素不活化を10秒間行って、酵素加水分解物を得た。
【0037】
5.遠心分離および膜濾過
酵素加水分解物を6000回転/分の回転速度で遠心分離し、後の使用のために遠心上清を回収した。
【0038】
遠心分離した上清を限外濾過するために、孔径約50nmの限外濾過膜を使用し、限外濾過の際の絶対圧を約0.3MPa、温度を約50℃に調節して、限外濾過液を得た。
【0039】
6.脱色、濃縮および滅菌
10:100の活性炭粉末と限外濾過物の質量比で、活性炭粉末を限外濾過液に添加した。それから、約80℃で約30分間、撹拌下で脱色を行い、脱色後、活性炭粉末を板枠式圧濾機によって除去して、脱色溶液を得た;
【0040】
蒸気圧を約0.1MPaに調節し、蒸発温度を約60℃に調節して、脱色した溶液を蒸発させて元の体積の1/2に濃縮した。濃縮液に対して滅菌および噴霧乾燥を行い、それによりアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを調製した。
【0041】
7.特性検出と味の評価
未処理の魚肉の混合物を対照として用いて、Bio-check社のFish-Check ELISA Kitにより、上で調製したアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド中の種々のアレルゲンを検出した。結果を表1に示した。
【0042】
上記のようにして調製したアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの各成分の分子量分布を、海産魚オリゴペプチド粉末についての国家基準(GB/T 22729−2008)に記載の方法を用いて検出した。結果を表2に示した。
【0043】
上記のようにして調製したアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚オリゴペプチドを水に溶解させて、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを10重量%含有する溶液を得た;アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド溶液の苦味と魚臭さを評価するために、20名(半数は男性、半数は女性)の評価チームが設置された。
【0044】
苦味は以下のようにして評価した:アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチド溶液1mLを取り、苦味がちょうど識別可能となるまで勾配希釈を行い、希釈倍数を苦味値として取ることによって20人の平均苦味値を計算する。結果を表3に示した。
【0045】
魚臭さは以下によって評価した:20人の平均的な魚臭さ値を、0−魚臭さがない;1−微々たる魚臭さ;2−わずかな魚臭さ;3−魚臭さがある;4−中程度の魚臭さ;5−比較的強い魚臭さ;6−強い魚臭さ;7−非常に強い魚臭さ、として計算する。結果を表3に示した。
【0046】
実施例2
1.混合物の調製
市販のサケの魚皮廃棄物を回収し、洗浄した後、20メッシュに粉砕して5kgの魚肉ミンチを得た。10Lの脱イオン水を魚肉ミンチに加え、混合物を得た。
【0047】
2.熱変性
混合物を75℃に加熱し、この温度を保ちながら60分間連続的に撹拌し、変性タンパク質溶液を得た。
【0048】
3.スラリーの調製
変性タンパク質溶液を3500回転/分の回転速度で45分間遠心分離し、遠心分離後、上清液を捨て、4.7kgの下層固体を得た。
【0049】
10Lの脱イオン水を4.7kgの下層固体に加えた。得られた混合物を撹拌しながら均一に混合し、4000回転/分の回転速度で20分間遠心分離して、下層固体を得た。得られた下層固体に対して、上記工程を2回繰り返した。最終的に4.5kgの沈殿物が得られた。
【0050】
脱イオン水15Lを4.5kgの沈殿物に加え、粉砕し、沈殿物を30メッシュに叩解してスラリーを得た。
【0051】
4.酵素分解
スラリーを15重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.5に調整し、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼをスラリーに加えたが、ここで、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの量は全て、魚廃棄物1gあたり約70Uであった。酵素分解を約30℃の温度で約5時間行い、それから温度を110℃に上げ、酵素不活化を10秒間行って、酵素加水分解物を得た。
【0052】
5.遠心分離および膜濾過
酵素加水分解物を8000回転/分の回転速度で遠心分離し、後の使用のために遠心上清を回収した。
【0053】
遠心分離した上清を限外濾過するために、孔径約20nmの限外濾過膜を使用し、限外濾過の際の絶対圧を約0.4MPa、温度を約80℃に調節して、限外濾過液を得た。
【0054】
6.脱色、濃縮および滅菌
5:100の活性炭粉末と限外濾過物の質量比で、活性炭粉末を限外濾過液に添加した。それから、約80℃で約30分間、撹拌下で脱色を行い、脱色後、活性炭粉末を板枠式圧濾機によって除去して、脱色溶液を得た;
【0055】
蒸気圧を約0.1MPaに調節し、蒸発温度を約80℃に調節して、脱色した溶液を蒸発させて元の体積の1/3に濃縮した。濃縮液に対して滅菌および噴霧乾燥を行い、それによりアレルゲン性が低く、魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを調製した。アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの特性検出結果、分子量分布および味評価結果をそれぞれ表1から表3に示した。
【0056】
実施例3
1.混合物の調製
市販のコイの鱗を落とし、骨を抜いて、魚肉と内蔵を得た。洗浄後、魚肉および内臓を20メッシュに粉砕して、5kgの魚肉および内臓を得た。20Lの脱イオン水を魚肉および内蔵に加えて、混合物を得た。
【0057】
2.熱変性
混合物を90℃に加熱し、この温度を保ちながら20分間連続的に撹拌し、変性タンパク質溶液を得た。
【0058】
3.スラリーの調製
変性タンパク質溶液を4500回転/分の回転速度で35分間遠心分離し、遠心分離後、上清液を捨て、4.6kgの下層固体を得た。
【0059】
20Lの脱イオン水を4.6kgの下層固体に加えた。得られた混合物を撹拌しながら均一に混合し、4000回転/分の回転速度で25分間遠心分離して、下層固体を得た。得られた下層固体に対して、上記工程を2回繰り返した。最終的に4.4kgの沈殿物が得られた。
【0060】
脱イオン水20Lを4.4kgの沈殿物に加え、粉砕し、沈殿物を30メッシュに叩解してスラリーを得た。
【0061】
4.酵素分解
スラリーを10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調整し、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼをスラリーに加えたが、ここで、中性プロテアーゼ、パパインおよびアルカリプロテアーゼの量は全て、魚肉および魚廃棄物1gあたり約20Uであった。酵素分解を約50℃の温度で約3.5時間行い、それから温度を110℃に上げ、酵素不活化を10秒間行って、酵素加水分解物を得た。
【0062】
5.遠心分離および膜濾過
酵素加水分解物を7500回転/分の回転速度で遠心分離し、後の使用のために遠心上清を回収した。
【0063】
遠心分離した上清を限外濾過するために、孔径約50nmの限外濾過膜を使用し、限外濾過の際に絶対圧を約0.2MPa、温度を約30℃に調節して、限外濾過液を得た。
【0064】
6.脱色、濃縮および滅菌
8:100の活性炭粉末と限外濾過物の質量比で、活性炭粉末を限外濾過液に添加した。それから、約80℃で約30分間、撹拌下で脱色を行い、脱色後、活性炭粉末を板枠式圧濾機によって除去して、脱色溶液を得た;
【0065】
蒸気圧を約0.1MPaに調節し、蒸発温度を約60℃に調節して、脱色した溶液を蒸発させて元の体積の1/3に濃縮した。濃縮液に対して滅菌および噴霧乾燥を行い、それによりアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを調製した。アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドの特性検出結果、分子量分布および味評価結果をそれぞれ表1から表3に示した。
【0066】
比較例1
実施例1で調製したスラリーのpHを約7に調整した。中性プロテアーゼを魚肉1gあたり約150Uの量でスラリーに加えて、約40℃の温度で約2時間、酵素分解を行った。酵素加水分解物を実施例1の方法(膜濾過と脱色は無し)に従って遠心分離し、濃縮して滅菌し、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを得た。特性検出の結果を表1および表3に示した。
【0067】
比較例2
実施例1で調製したスラリーのpHを約8に調整した。トリプシンを魚肉1gあたり約200Uの量でスラリーに加えて、約40℃の温度で約2時間、酵素分解を行った。酵素加水分解物を実施例1の方法(膜濾過と脱色は無し)に従って遠心分離し、濃縮して滅菌し、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを得た。特性検出の結果を表1および表3に示した。
【0068】
比較例3
実施例1で調製したスラリーのpHを約7に調整した。55℃において、魚材料の重量に基づき0.2%の中性プロテアーゼをスラリーに加えて、0.5時間、酵素分解を行った;温度を45℃に下げ、魚材料の重量に基づき0.1%のブロメラインを加えて、0.5時間、酵素分解を行った。酵素加水分解物を実施例1の方法に従って遠心分離し、濃縮、脱色、滅菌し、アレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドを得た。特性検出の結果を表1および表3に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から、以下のように結論されうる:
【0071】
1.本発明により調製されたアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドでは、主要なアレルゲン性タンパク質であるパルブアルブミンの質量含有率が99%以上低減されることができ、これは顕著な効果である。これは、本発明の方法が、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除することができ、良好なアレルゲン除去効果を有することを示唆した。
【0072】
2.魚タンパク質を処理するための中性プロテアーゼおよびブロメラインの使用は、魚タンパク質のアレルゲン性をある程度まで除去することができたが、満足できるアレルゲン性除去効果は得られなかった。魚タンパク質を処理するためのトリプシンの使用には、明らかなアレルゲン性除去効果はなかった;逆に、アレルゲン性パルブアルブミンがわずかに増加した含量を有することが検出された。
【0073】
これは以下を示した:魚タンパク質を処理するために使用する場合、任意のプロテアーゼまたはその組み合わせでは、魚タンパク質のアレルゲン性を低減または排除できず、特定の組成を有するプロテアーゼを使用し、それと同時に特定のプロセス(例えば、酵素分解のpH環境、温度など)を使用することによってのみ、魚タンパク質のアレルゲン性を完全に排除することができた。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から、以下のように結論されうる:
【0076】
本発明によって調製されるアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドにおいては、5000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有量は>85%であり、1000Da未満の分子量を有するペプチドの質量含有率は>60%である。したがって、本発明のアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドは、人体によく吸収されることができ、このように高いタンパク質含量を有する。
【0077】
【表3】
【0078】
表3の結果から、以下のように結論されうる:
【0079】
本発明により調製されるアレルゲン性が低く魚臭さのわずかな魚タンパク質オリゴペプチドは、苦味と魚臭さが少なく、味が優れており、本発明の方法が、酵素分解産物における苦味物質の生成を効果的に抑制でき、魚タンパク質中の魚臭さを有する物質を有意に除去できることを示した;魚タンパク質を処理するためにプロテアーゼを使用するだけでは、魚タンパク質からの苦味成分の放出を効果的に防ぎ、魚臭さを有する物質を除去することができず、特定の組成を有するプロテアーゼと特定のプロセス(例えば、予めの変成や膜濾過)の組み合わせの使用のみが、魚臭さと苦味を完全に除去し、魚製品の味を保証することができる。
【0080】
最後に、上記の実施形態は、本発明の技術的解決法を限定するものではなく、単に説明することを意図したものであることが表明される;そして、本発明は、上記の実施形態に関連して説明されているが、当業者は、上記の実施形態において記載された技術的解決法をなお改変してもよいし、または、技術的特徴の一部もしくは全てを等価なものに置換してもよいことを理解すべきである;そして、これらの改変または置換は、本発明の各実施例における技術的解決法の範囲から、対応する技術的解決法の本質を逸脱させるものではない。