特許第6483263号(P6483263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 椿産業株式会社の特許一覧

特許6483263鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤
<>
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000002
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000003
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000004
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000005
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000006
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000007
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000008
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000009
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000010
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000011
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000012
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000013
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000014
  • 特許6483263-鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483263
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/142 20160101AFI20190304BHJP
   A23K 20/174 20160101ALI20190304BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20190304BHJP
【FI】
   A23K20/142
   A23K20/174
   A23K50/75
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-529855(P2017-529855)
(86)(22)【出願日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2017019539
(87)【国際公開番号】WO2017204297
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2017年6月6日
【審判番号】不服2018-4120(P2018-4120/J1)
【審判請求日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-105486(P2016-105486)
(32)【優先日】2016年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501070573
【氏名又は名称】椿産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 和雄
【合議体】
【審判長】 小野 忠悦
【審判官】 住田 秀弘
【審判官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−513766(JP,A)
【文献】 特表2016−505593(JP,A)
【文献】 C.BUNCHASAK、他4名、“The Effect of Supplementing Cystine on the Growth Performance and Liver Lipid and Phospholipid Contents of Broiler Chicks”、日本家禽学会誌、1998年1月25日、35巻1号、p.60−66
【文献】 大作 勝、“メチルシランチオールにおける分子構造と安定配座のAb Initio SCF MO 研究”、日本化学会誌、1986年11月10日、11号、p.1371−1376
【文献】 竹内 俊郎、“合成タウリンで魚も元気!”、日本水産学会誌、2010年、76巻2号、p.298−303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セチルシステインを有効成分とし、前記有効成分が体重1kg当たり1日0.5mg〜5mgとなるように経口摂取にて給与させるための鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤。
【請求項2】
前記給与を、2週齢から、少なくとも7週齢までに亘って行うための請求項に記載の鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飼料を給与して牛、豚、羊、馬、鶏等の動物を飼育する畜産場においては、飼料要求率、残存率、産卵鶏の産卵数を高めることが収益性を改善する一つの鍵となる。飼料要求率とは、飼育する動物の体重を一定量増加させるために必要な飼料の重量であり、値が小さいほど収益性が高くなる。なお、産卵鶏に関しては、給餌量に対する卵の総生産重量の比で飼料要求率が表される。
【0003】
鶏は、畜産場で飼育される各種動物の中で、経費全体に占める飼料代の割合が最も高く、産卵鶏では経費全体の約60%を飼料代が占め、ブロイラーでは経費全体の約70%を飼料が占める。従って、鶏の飼育に関しては、飼料要求率を高めることが収益性を改善する上で特に重要になる。
【0004】
従来、畜産場においては、飼育する動物の発育を促進するため、或いは、飼育する動物の健康を保つため、様々な添加剤を飼料に添加しており、L−システイン、N−アセチルシステインを含む添加剤も従来提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
L−システインは、体内のSH酵素にSH基を供給し、体内に取り込まれた三大栄養素(糖、タンパク、脂質)の代謝を促進してエネルギーに変換すると共に、体内の解毒反応及び皮膚代謝を活発にして生体機能の維持を助ける。一方、N−アセチルシステインは、体内のグルタチオン量を増やして活性酸素を中和し、生体の老化防止を助ける。また、N−アセチルシステインは、鉛、カドミウム、水銀のような重金属の体外への排出を助けると共に、気管支炎や喘息などの呼吸器疾患の予防を助ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/035477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の動物飼料添加剤は、飼育する動物の飼料要求率を高めるものではないので、畜産場の収益性を直接的かつ大幅に改善することは難しい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、畜産場の収益性を直接的かつ大幅に改善可能な鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤はアセチルシステインを有効成分とし、前記有効成分が体重1kg当たり1日0.5mg〜5mgとなるように調整され経口摂取にて給与させるものである。また、前記投与を、2週齢から、少なくとも7週齢までに亘って行うためのものである。
【0012】
ここで、本発明に至った経緯について説明する。
【0013】
世界の人口は現時点で70億人を超え、2050年には90億人に達すると予想されている。食糧では、特に発展途上国での食肉の消費量が増えており、世界的に見て飼料効率の良い鶏肉の生産が伸びている。これには、健康志向や宗教も関係しているとみられる。食肉需要の増加に伴って飼料作物の生産も伸びているが、食肉需要の伸びが上回っており、このまま食肉の需要が増えれば、飼料の奪い合いが起こる虞もあるといわれている。
【0014】
国内に目を向けると、平成16年、79年ぶりに国内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザの感染が確認された。以来、養鶏業界は、経営そのものを揺るがす脅威にさらされており、経営者や関係者の心理的な負担は計り知れない。更に、防疫対策のコストは増すばかりであり、この状況は今後も続くものと考えざるを得ない。加えて、経費の約60%〜70%を占める飼料価格に経営は大きく左右される。経営の困難に対応するためには、平時から収益を増やして経営の安定・向上を図っておくことが必要であり、そのために第一に考えられるのが生産性(飼料要求率に対する育成率の割合)の向上であり、これを高めることは必須の課題である。
【0015】
一方、欧米を中心として、家畜の飼育について「アニマルウェルフェア」という考え方が導入されてきており、日本では「快適性に配慮した家畜の飼養管理」と定義されている。EU、イギリス、スイスでは、法令が定められており、カナダ、オーストラリアでは、政府と業界団体とが一体となってガイドラインを策定しており、日本でも農林水産省が「飼養管理の指針」を公表している。
【0016】
アニマルウェルフェアというと、飼育環境の改善が必要になることから、コストがかかることばかり考えられがちであるが、指針には、「アニマルウェルフェアへの対応において、最も重視されるべきは、施設の構造や設備の状況ではなく、日々の家畜の観察や記録、家畜の丁寧な取扱い、良質な飼料や水の給与等の適正な飼養管理により、家畜が健康であることであり、そのことを関係者が十分に理解して、その推進を図っていく必要がある。」とされており、生産性の向上に結び付くとも指摘されている。
【0017】
アニマルウェルフェアは、イギリスから始まった考え方であり、動物が健康に生きるための飼育・管理方法の提唱である。アニマルウェルフェアの考え方で最も問題が大きいのは、産卵鶏のケージ飼育であり、アニマルウェルフェアについて既に具体的な行動を起こしている諸外国がある中で、日本は後れをとっているといえる。ヨーロッパが最も進んでいるが、アメリカでも約80%の鶏卵生産者がガイドラインに参加しているとされている。更に、2009年調査でアメリカの産卵鶏の95%がケージ飼育であるが、2011年に全米鶏卵生産者組合と全米人道協会が、「今後アメリカにおいて従来型のケージ養鶏を禁止する」という歴史的合意に至っている。
【0018】
日本の養鶏業は、アメリカを手本として発展してきた経緯があり、アメリカ養鶏業の動きに影響を受けることが予想され、アニマルウェルフェアへの対応は避けて通れないと考えられる。アニマルウェルフェアの目的は、動物の健康であるわけで、2009年調査で98.7%がケージ飼育である日本には、日本の実情に沿った独自のアニマルウェルフェアがあっても良いはずである。
【0019】
更に、飼料要求率の改善、成長促進を目的に抗生物質を給与することは、薬剤耐性菌の出現が危惧されることから、抗生物質を与えないで飼育することが世界的な流れになっており、抗生物質の代替となる飼料添加物が求められている。抗生物質の代替となるためには、免疫力を高める作用が必須となる。
【0026】
アセチルシステインは、システインの誘導体(母体の性質を大きく変えない程度の改変がなされた化合物)で、システインをアセチル化させた強力な抗酸化力を有するアミノ酸である。1960年に特許となり、1965年には現在も販売されている去痰剤「ムコフィリン」の製造販売が承認されている。その後、半世紀を超えて解毒剤など多くの用途で使用されている。アセチルシステインは、世界保健機関(WHO)の必須医薬品の一つであり、基本的な保険システムに欠かせない最も重要な医薬品の一つである。日本国内でも解毒剤や去痰剤、輸液等で利用されており、現在もインフルエンザや慢性気管支炎、難聴、腰痛、精神障害等の様々な用途が研究されている。
【0027】
特に、アメリカの健康食品市場ではメジャーな抗酸化素材であり、安全性が確認された実績のある素材として確立しており、犬・猫用健康補助食品も販売されている。これらはアンチエージングサプリメントとも呼ばれ、日本国内でも輸入販売されている。しかし、日本においては、「専ら医薬品として使用されている成分本質(原材料)リスト」に掲載されており、医薬原料のみで製造・販売が認められており、食品や食品添加物としての製造は認められていない。日本国内の動物用としては、点眼薬で認可されて販売されている。
【0028】
アセチルシステインの副作用については、妊娠中に摂取しても安全とみられており、ほとんどの人に安全であるが、まれに吐き気、下痢、便秘を起こす可能性があるとされている。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤によれば、飼育する鶏の健康状態を向上させて生産性向上のための飼料要求率を改善できつつ死亡・淘汰率を改善して、生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1試験で産卵鶏に給与した第1飼料の配合を示す表図である。
図2】第1試験で産卵鶏に給与した第2飼料の配合を示す表図である。
図3】第1試験の試験データを示す表図である。
図4】第1試験の前に行われた予備試験の試験データを示す表図である。
図5】第1試験の試験データと県試験場で行われた比較試験の試験データとを比較して示す表図である。
図6】第1試験の試験データと県試験場で行われた比較試験の試験データとを比較して示す棒グラフである。
図7】第1試験の試験データと、第1試験の前に行われた予備試験の試験データと、県試験場で行われた比較試験の試験データとを比較して示す表図である。
図8】第2試験で産卵鶏に給与した基礎飼料の配合を示す表図である。
図9】第2試験の試験開始時における供試鶏の平均体重と試験終了時における供試鶏の平均体重とを示す表図である。
図10】第2試験により得られた飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率の各データ(科学飼料協会データ)と、養鶏場において第2試験と同一条件で行った試験により得られた飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率の各データ(養鶏場の通常管理データ)と、を示す表図である。
図11】第2試験の集計データを示す表図である。
図12】第3試験でブロイラーに給与した基礎飼料の配合を示す表図である。
図13】第3試験に供試したブロイラーの日齢に応じたアセチルシステインの基礎飼料中への添加濃度を示す表図である。
図14】第3試験により得られた平均体重、増体重、飼料摂取量及び飼料要求率の各データを示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係る鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤とその給与方法について説明する。
【0032】
<飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤>
実施形態に係る鶏の健康状態の向上による生産性向上のための飼料要求率改善用および死亡・淘汰率改善用剤、すなわち飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、システイン及びシステイン誘導体から選択される少なくとも1種の有効成分を水に溶解してなる。システインは、アミノ酸の一種で、2−アミノ−3−スルファニルプロピオン酸のことであり、チオセリンとも言う。システイン誘導体としては、L−システイン、D−システイン、N−アセチル−L−システイン(NAC)、S−メチル−L−システイン(SMC)、リンゴ酸システイン、N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステインエチルエステル、N−アセチルβ,β−ジメチルシステインエーテルエステル(N−アセチルペニシラミンエチルエステル)、N−アセチルβ,β−システイン(N−アセチルペニシラミン)、グルタチオンエチルエステル、N−アセチルグルタチオンエチルエステル、N−アセチルグルタチオン、N−アセチルa−グルタミルエチルエステルシステイニルグリシルエチルエステル(N−アセチル(β−エチルエステル)グルタチオンエチルエステル)、N−アセチルa−グルタミルエチルエステルシステイニルグリシン(N−アセチル(β−エチルエステル)グルタチオン)、γ−グルタミルシステインエチルエステル、N−アセチルグルタチオンアミド、N−アセチルβ,β−ジメチルシステインアミド、N−アセチルβ−メチルシステインアミド、N−アセチルシステイングリシンアミドを挙げることができる。有効成分を溶解する水は、動物に健康被害を与えないものであれば良く、純水及び水道水は勿論のこと、井戸水、川水、湖水、雨水等を利用することもできる。
【0033】
システイン及びシステイン誘導体から選択される少なくとも1種の有効成分としては、アセチルシステインが特に好適に用いられる。アセチルシステインは、強い抗酸化作用を持ち、生体の老化防止を助けると共に、鉛、カドミウム、水銀のような重金属の体外への排出を助け、また、気管支炎やぜんそくなどの呼吸器疾患の予防を助けるからである。アセチルシステインは、白色の結晶又は結晶性の粉末であり、水によく溶ける。
【0034】
なお、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤には、動物用医薬品、システイン及びシステイン誘導体以外のアミノ酸類並びにビタミン類から選択される少なくとも一種の物質を添加しても良い。動物用医薬品、アミノ酸類及びビタミン類は、動物の健康の回復、維持、増進に有効であり、動物の飼料要求率の改善を更に見込めるからである。
【0035】
また、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、有効成分であるシステイン及びシステイン誘導体を、体重1Kg当たり1日1mg程度動物に給与することにより、十分な効果を発揮する。
【0036】
<飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与方法>
実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、飲料水として動物に給与することもできるし、飼料中に散布して動物に給与することもできる。飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を飲料水として動物に給与すると、畜産場にて飼育されている多数の動物に均一濃度の飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を均一に給与できるので、畜産場全体として飼料要求率、残存率、産卵鶏の産卵数を改善できる。また、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、有効成分の水溶液であるので、飼料中へのスプレー散布が可能で、飼料中の有効成分の濃度を均一化しやすい。よって、畜産場にて飼育されている多数の動物に均一濃度の飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を均一に給与しやすく、畜産場全体として飼料要求率、残存率、産卵鶏の産卵数を改善できる。
【0037】
実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、体重1Kg当たり1日1mg程度動物に給与することにより、飼料要求率を改善できる。飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与は、必ずしも毎日行う必要はなく、1日平均で体重1Kg当たり1日1mg程度となれば良い。即ち、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を毎日動物に給与する場合には、毎日体重1Kg当たり1mg程度の飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を動物に給与し、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を3〜5日に1回の割合で動物に給与する場合には、1回の給与毎に体重1Kg当たり1mg×日数に相当する飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を動物に給与する。飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与頻度を3〜5日に1回の割合にすると、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与に要する労力を低減できるので、畜産場全体の生産性を改善できる。また、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、飲料水中に添加することもできるし、飼料中に添加することもできるが、飼料中に添加した方が畜産場の生産性を改善する上で有利である。
【0038】
実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与量は、動物のヒートストレスを考慮して決定する。即ち、ヒートストレスの高い時期には飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与量を増やし、ヒートストレスの低い時期には飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与量を減らす。これにより、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を無駄にすることなく、年間を通じて高い飼料要求率、残存率、産卵鶏の産卵数を維持できる。
【0039】
<飼料>
実施形態に係る飼料は、有効成分であるシステイン及びシステイン誘導体を動物の基礎飼料に添加してなる。基礎飼料に対する有効成分の添加方法については、有効成分の水溶液である飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を基礎飼料にスプレー等で散布するという方法をとることもできるし、粉末状の有効成分をそのまま基礎飼料に散布して混合するという方法をとることもできる。
【0040】
基礎飼料に対する有効成分の添加量は、体重1Kg当たり1日1mgとなるように調整する。また、有効成分が添加された飼料の給与頻度については、毎日であっても、3〜5日に1回であっても良い。3〜5日に1回の割合で有効成分が添加された飼料を給与する場合には、体重1Kg当たり1日1mgとなるように、基礎飼料に対する有効成分の添加量を増加する。
【0041】
<アセチルシステインの給与試験>
出願人は、産卵鶏及び食肉鶏について、アセチルシステインを給与した場合と給与しない場合における産卵数の差や体重増加率の差を確認する第1〜第3の試験を行った。以下に、その試験方法と試験結果とを示す。
【0042】
(第1試験)
第1試験は、アセチルシステインの水溶液を飲料水として産卵鶏に給与することにより行った。
【0043】
〈試験対象動物〉
データを取りやすいことから、産卵鶏の成鶏を試験対象動物に選定した。なお、試験開始時点では、産卵のピークは過ぎていた。
【0044】
〈鶏種〉
鶏種は、ジュリアとジュリアライトの二種とした。
ジュリアは、国内で最も多く飼育されている鶏種で、L卵を多く産卵する。一方、ジュリアライトは、ジュリアの改良種で、M卵を多く産卵する。
試験の正確さを期するためには、試験区と対照区とで同一鶏種に対する試験を実施することが望ましいが、設備上の関係から、異なる鶏種による試験となった。
品種開発元のデータでは、ジュリアとジュリアライトとの間に飼料要求率及び斃死・淘汰数に差はない。また、各県の試験場で行われた試験結果では、対照区のジュリアが試験区のジュリアライトに勝っているデータが多い。このため、本試験では、飼料要求率が小さい(収益性が高い)とみられるジュリアを対照区とし、飼料要求率が大きい(収益性が低い)とみられるジュリアライトを試験区とした。
【0045】
〈羽数〉
試験区のジュリアライト及び対照区のジュリアとも、羽数は33412羽とした。
【0046】
〈試験実施場所〉
現実に即した試験とするため、実際に養鶏を行っている有限会社高井養鶏の赤城山農場に試験区及び対照区を設置した。
鶏舎は、個体差や健康状態の差が表れにくいウインドウレスの鶏舎とした。
鶏舎内のケージは、幅が380mm、奥行きが500mm、高さが380mmであり、天井部の両端に給水用のニップルを配置した。
【0047】
〈試験実施期間〉
試験対象鶏にヒートストレスを与えないため、平成27年10月21日から平成28年4月3日までの166日間について試験を行った。なお、鶏は鶏舎内の気温が27℃を超えると、ヒートストレスにより飼料要求量(飼料摂取量)が低下する。
【0048】
〈飼料〉
平成27年10月21日から平成28年2月13日までは、図1に示すくみあい配合飼料「成鶏用赤城高原17アップ」を給与し、平成28年2月23日から平成28年4月3日までは、図2に示すくみあい配合飼料「成鶏用赤城高原16アップ」を給与した。
【0049】
〈飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤及びその給与方法〉
試験区のジュリアライトに対し、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤として、アセチルシステインの水溶液を、ケージの天井部両端に設置されたニップルを通し、飲料水として給与した。
飲料水中のアセチルシステインの濃度は、体重1Kg当たり1日1mgのアセチルシステインが産卵鶏に給与されるように調製した。具体的には、体重が約2Kgのジュリアライト33412羽に対して、アセチルシステインの濃度が10%の原液を1日に3.3L使用した。
飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与頻度は、5日に1回とした。
なお、対照区のジュリアに対しては、ニップルを通じて飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を含まない水を給与した。
【0050】
〈第1試験の試験結果〉
図3に、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与日毎の試験区及び対照区における試験対象鶏の斃死・淘汰数(単位は羽)、産卵個数(単位は個)、飼料要求量(単位はg)、産卵率(単位は%)及び卵重(単位はg)を示す。また、図3の下欄には、試験期間中における試験対象鶏の死数差と、産卵個数差と、飼料要求量、産卵率及び卵重の平均値を示す。更に、図3の最下欄には、対照区の値に対する試験区の値を百分率で示す。
【0051】
加えて、図3には、参考として、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与日に対応する飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与回数及び試験対象鶏日齢(週齢)と、飼料要求率改善剤の給与日における鶏舎内の最高温度及び最低温度を示す。
【0052】
試験対象鶏の斃死・淘汰数は、数値が小さいほど良い。産卵個数は、数値が大きいほど良い。飼料要求量(飼料摂取量)は、数値が小さいほうが良いが、産卵率及び卵重とのバランスが必要になる。産卵率は、数値が大きいほど良い。卵重及び平均卵重は、数値が大きいほど良い。試験対象である産卵鶏の飼料要求率は、上述したように、飼料要求量に対する卵の総生産重量の比で算出される。飼料要求量は、飼料摂取量と羽数と残存率の積で算出され、卵の総生産重量は、羽数と産卵率と平均卵重の積で算出される。
【0053】
試験対象である産卵鶏の飼料要求率は、上述したように、給餌量と卵の総生産重量の比で表される。給餌量は、飼料摂取量(飼料要求量)と羽数と残存率の積で求められ、総生産重量は、羽数と産卵率と平均個卵重の積で求められる。図3のデータから、試験期間中における産卵鶏の飼料要求率を求めたところ、対照区では飼料要求率が1.99であったのに対して、試験区では飼料要求率が1.92になった。従って、対照区における飼料要求率に対する試験区における飼料要求率の比は96.48%であり、3.52%の減少となった。
【0054】
図3のデータから明らかなように、対照区の産卵個数に対する試験区の産卵個数は1.67%の増加、対照区の平均産卵率に対する試験区の平均産卵率は1.13%の増加、対照区の平均卵重に対する試験区の平均卵重は2.16%の減少になっている。この実験結果から見て、産卵鶏に実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を給与しても卵の生産性に負の影響を与えていないことが明らかであり、産卵鶏に実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を給与することにより、飼料要求率が有意に向上したと言える。
【0055】
また、図3のデータから明らかなように、対照区の斃死・淘汰数に対する試験区の斃死・淘汰数は20%という大幅な減少になっている。しかも、対照区及び試験区における飼料要求率及び斃死・淘汰数の差は、ともに日齢の経過に合わせて大きくなる傾向になっており、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を給与したことによる効果が累積していると言える。更に、産卵率では試験区が対照区を上回っており、斃死・淘汰数では試験区が対照区を下回っているので、対照区の産卵個数に対する試験区の産卵個数は1.67%の増加になっている。
【0056】
統計学的に有意差の基準には、5%水準(P<0.05)、1%水準(P<0.01)及び0.1%水準(P<0.001)がある。サンプル数による誤差が大きくなる確率が高い場合には5%水準、サンプル数による誤差が小さくなる確率が高い場合には1%水準、サンプル数による誤差が極めて小さくなる確率が高い場合には0.1%水準がそれぞれ適用される。
【0057】
上記したように、試験区における飼料要求率は、対照区に対して3.52%の改善であり、統計学的な有意差の5%水準に届いていないが、1%水準は十分に満たしている。本試験のサンプル数は33412羽で、試料数が多く、飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の給与回数も27回と多く、試験期間も166日間と長いので、1%水準に照らして、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を産卵鶏に給与すると、飼料要求率が3.52%有意に改善されると言える。
【0058】
産卵鶏の場合は、一畜産場における飼育数が数万羽から百万羽以上と多く、全国の飼育数は約1億7千万羽に達するので、本試験結果は、畜産場の収益性の向上に大きく寄与するものである。一例を挙げるならば、試験を実施した有限会社高井養鶏では、年間3万6千トンの飼料を消費しているので、飼料要求量が図3に示すように4.67%削減されると、飼料代が1トン当たり5万円である場合、年間8千4百万円の経費節減となる。
【0059】
また、飼料要求量が減少すると、排泄物を減少できるので、排泄物の処理費用を減少でき、かつ畜産公害等の環境問題の改善にもつながる。更には、飼料要求量が減少すると、これに伴って温室効果ガスであるメタン及び亜酸化窒素の排出を抑制できるので、地球温暖化の防止にも貢献できる。加えて、飼料要求量が減少すると、飼料作物の消費減少になり、経済面だけでなく食糧問題の解決にも寄与できる。
【0060】
なお、産卵鶏の飼料摂取量が減少すると、破卵率が高くなる傾向が生じる。そこで、試験区及び対照区で採卵された卵の卵殻表面のざらつきを試験担当者が目視で確認し、破卵率に差を生じるか否かを推定した。卵殻表面がざらついている場合には、卵殻が薄く、破卵しやすいことが知られているからである。目視での確認の結果、試験区で採卵された卵の表面は対照区で採卵された卵に比べて卵殻表面のきめが細かく、ざらつきが少ないことから、卵殻がしっかりしていることが見て取れ、破卵率は低いことが推察された。従って、飼料摂取量の減少による卵殻への影響はないと言える。
【0061】
卵殻の主成分は炭酸カルシウムであり、硬く破卵しにくい卵殻を作るために飼料にはカルシウムが添加される(図1図2参照)。試験区及び対照区の排泄物を水で洗浄して固形物を見たところ、対照区にはカルシウムが見られたが、試験区にはカルシウムは見られなかった。これは、飼料に添加されているカルシウムが試験区では産卵鶏に良く吸収されていることを示している。従って、このことからも、試験区では少ない飼料要求量で硬い卵殻が作られ、破卵率が低くなることが推察される。
【0062】
実施形態に係る飼料要求率改善剤の効果を確認する試験を開始する直前には、20日間にわたって予備試験を行った。予備試験の試験条件は、試験区の試験対象鶏に対して飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を与えなかったことを除いて、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験と同一条件とした。予備試験の試験結果を図4に示す。
【0063】
図4に示すように、予備試験においては、対照区における飼料要求率に対する試験区における飼料要求率が1.59%の増加となった。上記したように、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験においては、対照区における飼料要求率に対する試験区における飼料要求率が3.52%の減少となっている。従って、図4に示した予備試験の試験データを考慮した場合、試験区における飼料要求率は、対照区に比べて5.11%の向上となる。
【0064】
また、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験の評価には、過去において行われたジュリアとジュリアライトの比較試験データを考慮した。過去の比較試験データとしては、平成27年に徳島県試験場で行われた比較試験の試験データ、平成27年に群馬県試験場で行われた比較試験の試験データ、平成20年に神奈川県試験場で行われた比較試験の試験データ及び平成21年に神奈川県試験場で行われた比較試験の試験データを用いた。なお、各県の試験場で行われた比較試験の羽数は、100羽である。
【0065】
図5に、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験の試験データと、各県の試験場で行われた比較試験の試験データと、を比較して示す。また、図6に、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験の試験データと、各県の試験場で行われた比較試験の試験データと、を棒グラフで示す。更に、図7には、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験の試験データと、予備試験の試験データと、各県の試験場で行われた比較試験の試験データと、を比較して示す。
【0066】
図5図6図7において、アセチルシステインと記載されているのは、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験の試験データ記載欄であり、試験開始前20日間と記載されているのは、予備試験の試験データ記載欄である。また、徳島県、神奈川県20年、神奈川県21年、群馬県と記載されているのは、それぞれ平成27年に徳島県試験場で行われた試験の試験データ記載欄、平成20年に神奈川県試験場で行われた試験の試験データ記載欄、平成21年に神奈川県試験場で行われた試験の試験データ記載欄、平成27年に群馬県試験場で行われた試験の試験データ記載欄である。
【0067】
図5図7に記載の各試験データから明らかなように、飼料要求率について見ると、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験においては、対照区に対する試験区の比率が96.50%であることが確認されている。これに対して、予備試験及び各県の試験場で行われた比較試験においては、対照区に対する試験区の比率が101.03%〜103.01%であり、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を給与すると、給与しない場合に比べて4.53%〜6.51%も飼料要求率が低下することが判る。
【0068】
(第2試験)
第2試験は、粉末状のアセチルシステインが添加された飼料を産卵鶏に給与することにより行った。
【0069】
〈鶏種及び羽数〉
一般社団法人日本科学飼料協会の科学飼料研究センターで飼育中のジュリアライト(区分け時281日齢)の中から、予備飼育開始前4週間の産卵率が82%以上の個体を120羽選抜して供試した。
【0070】
〈試験区の設定〉
アセチルシステインが添加されていない基礎飼料を給与する対照区、基礎飼料に0.0014%のアセチルシステインが添加された飼料を給与する第1試験区(標準区)、基礎飼料に0.0072%のアセチルシステインが添加された飼料を給与する第2試験区(5倍区)の3区を設定した。
供試鶏を産卵率の分布がほぼ均等となるように1群を10羽とした2群に区分し、各区に4群ずつを割り付け、基礎飼料を14日間給与して試験環境に馴致させた後、各飼料を4週間給与した。
基礎飼料としては、図8に示すものを用いた。
【0071】
〈アセチルシステインの摂取量〉
第2試験においても、1日1羽当たりの標準的なアセチルシステインの摂取量は、供試鶏の体重1Kg当たり1mgを予定している。本試験では、予備飼育開始時体重及び予備飼育開始後1週間の飼料摂取量から、供試鶏の体重を1580g、1日1羽当たりの飼料摂取量を114gとして、以下の式により基礎飼料へのアセチルシステインの添加量を設定した。
標準区:基礎飼料へのアセチルシステイン添加量(%)=体重(1580g)×アセチルシステイン摂取量(1mg/体重Kg)/飼料摂取量(114g/日/羽)×100
5倍区:基礎飼料へのアセチルシステイン添加量(%)=体重(1580g)×アセチルシステイン摂取量(5mg/体重Kg)/飼料摂取量(114g/日/羽)×100
【0072】
〈飼育管理〉
供試鶏は、開放型鶏舎内に設置したひな壇式の産卵鶏用単飼ケージで個体管理した。なお、ケージは、群毎に連続した10ケージを用い、各区間には1ケージずつ空室を設けた。飼料及び飲料水は、不断給与した。光線管理は、明期14時間、暗期10時間とした。
【0073】
〈結果の解析〉
体重の変動、平均卵重、日産卵量、飼料摂取量及び飼料効率について、給与飼料を要因とした一元配置法により分散分析し、各区間の優位性について検討した。また、産卵率については角変換を行った後、同様に各区間の差の優位性について検討した。なお、淘汰鶏については、試験開始時に遡って平均値から除外した後、産卵成績等を取りまとめた。また、試験期間中の産卵率について棄却検定を行い、異常値と判定された個体についても試験開始時に遡って平均値から除外した。
【0074】
〈試験実施場所〉
一般社団法人日本科学飼料協会の科学飼料研究センター(千葉県成田市吉倉821)
【0075】
〈試験期間〉
平成28年9月21日から同年11月2日までの42日間について試験を行った。平成28年9月21日から同年10月5日までの14日間は予備試験期間であり、平成28年10月6日から同年11月2日までの28日間は本試験期間である。
【0076】
〈第2試験の試験結果〉
図9に、試験開始時における供試鶏の平均体重と、試験終了時における供試鶏の平均体重とを示す。図9のデータから明らかなように、試験開始時の体重は対照区に対して標準区で3.1%、5倍区で2.2%少なかったが、試験終了時には標準区で0.5%上回り、5倍区では対照区とほぼ同一となっていて、鶏種の指標体重に近づいていた。このことは、試験区(標準区及び5倍区)の鶏の健康状態が向上したことを示唆している。このことから、試験区の予備試験から本試験期間の飼料摂取量が多く推移したのは、開始時の体重が対照区に比べて少なかったことが原因と考えられる。
【0077】
図10に、第2試験により得られた飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率の各データ(科学飼料協会データ)を示す。また、図10中には、養鶏場において第2試験と同一の給与条件で行った試験により得られた飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率の各データ(養鶏場の通常管理データ)を示す。図11には、第2試験の集計データを示す。
【0078】
図10及び図11のデータから明らかなように、飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率のそれぞれについて、科学飼料協会データは養鶏場の通常管理データを上回っている。これは、科学飼料研究センターにおける飼育環境が養鶏場における飼育環境よりも良い条件であったためと思われる。
【0079】
また、対照区と試験区(標準区及び5倍区)とを比較すると、飼料摂取量、産卵率、卵重及び飼料要求率のそれぞれについて、対照区に比べて試験区の方が有意に改善されている。特に、産卵率は、42週齢から46週齢の28日間は、鶏種の指標では91〜92%程度に低下する時期である。これにもかかわらず、科学飼料協会データでは、産卵率が標準区で99.2%、5倍区で98.6%と、指標を大きく上回る成績であった。また、飼料要求率については、給与した飼料にシステインの前駆体であるDL−メチオニン0.2%を含んでいるにも拘らず、対照区に対して4.43%上回る結果を得た。
【0080】
鶏1羽に対する1日の給与量を約1.6mgとした場合、1年間の給与で600mg程度となる。一般的な人用サプリメントはアセチルシステイン含有量が1粒当たり600mgで、1日に2〜3粒を服用する。つまり、健康食品として人が摂取する1粒分の量を鶏では1年分に分けて給与して効果を得たことになり、非常に少ない給与量で健康状態を向上させて飼料要求率の改善効果を実現した。アセチルシステインは、アンチエージングサプリメントと呼ばれており、老化の遅延はもちろんであるがヒートストレスなどストレスが多くかかる条件下でより大きな効果が得られると予想される。また、老化の進行が遅れることでアニマルウェルフェアで問題となっている強制換羽・換羽誘導の必要がなくなる可能性もあると予想されるが、これらは養鶏場の飼育環境で実施しないと正確な結果は得られないと考えられるため、飼料添加物としての使用が認可されてから試験を行いたい。実際に、日齢の経過した前記養鶏場の試験では5%を超える飼料要求率の改善がみられている。更に、死亡・淘汰数の減少、卵殻質の向上が確認されている。これらは、鶏の健康状態が向上した結果の現象と推測される。
【0081】
(第3試験)
第3試験は、粉末状のアセチルシステインが添加された飼料を食肉鶏(ブロイラー)に給与することにより行った。
【0082】
〈鶏種及び羽数〉
ブロイラー専用種初生雛(株式会社日本チャンキーのブロイラー)を300羽(雄、雌各150羽)供試する。なお、供試雛は、350羽(雄、雌各175羽)程度導入し、健康状態に異常がなく、体重の近似した個体を選抜して試験に用いた。
【0083】
〈試験区の設定〉
日本飼養標準・家禽(2011年版)における養分要求量をほぼ充足し、アセチルシステインが無添加の基礎飼料を給与する対照区と、アセチルシステインの1日当たりの摂取量が供試鶏の体重1Kg当たり1mgとなるようにアセチルシステインを基礎飼料中に添加した飼料を給与する試験区の計2区を設定した。
図12に基礎飼料の配合を示す。図12に示すように本例の基礎飼料には、肥育前期用0.25%、肥育後期用0.18%のDL−メチオニンが添加されている。この基礎飼料は、指標よりも栄養価が低くなるように調整されている。
また、図13に供試鶏の日齢に応じたアセチルシステインの基礎飼料中への添加濃度を示す。なお、アセチルシステインの基礎飼料中への添加濃度は、チャンキーブロイラー成績目標(2014)を基に決定した。
供試雛を体重の分布がほぼ均等となるように、1群を50羽(雄、雌各25羽)とした6群に区分し、対照区及び試験区に3群ずつ割り付けて、49日齢まで飼育した。
【0084】
〈飼育管理〉
供試雛は、伝熱給温、強制換気(排気)式の無窓鶏舎内で群れごとに飼育した。
ワクチネーションは、孵化時にマレック及び鶏痘生ワクチンを接種した雛を導入し、4日齢及び15日齢にNB生ワクチンを、21日齢に鶏痘生ワクチンを追加接種した。
飼料及び飲料水は、不断給与とした。
【0085】
〈第3試験の試験結果〉
図14に、第3試験により得られた平均体重、増体重、飼料摂取量及び飼料要求率の各データを示す。
図14のデータから明らかなように、飼料要求率は、対照区に対して試験区が100.55%であり、飼料効率では、対照区に対して100.93%であった。前期3週間の飼料効率は対照区に対して99.32%と試験区が低かったが、後期4週〜7週では対照区に対して101.54%であった。斃死・淘汰の数は、対照区3羽、試験区1羽で、育成率では対照区98%、試験区99.3%と試験区が高かった。
【0086】
前期3週間の成績は、試験区の方が対照区を下回っている。これは、前期3週間におけるアセチルシステインの給与量が不適当であったためと推定される。特に、第1週の成績に負の影響が現われており、第3週までその影響が残ったと見られる。後期4週間は、試験区の方が対照区の成績よりも明らかに高くなっており、アセチルシステインの給与量は適当であったと考えられる。このことより、前期3週間におけるアセチルシステインの給与量を適正化すれば、後期4週間における対照区の成績をより向上できるものと考えられる。
【0087】
斃死・淘汰については、対照区で第6週に3羽(脚弱淘汰2羽、腹水症斃死1羽)、試験区で第6週に1羽(突然死症候群)という結果であった。
【0088】
なお、食肉鶏に対する飼料添加物として認可されているグリシンの1%給与試験で、7日齢で負の影響が出て、7週齢飼育でも無給与よりも体重が少なかったが、2週齢から7週齢の間の給与では良好な成績を得たという研究報告がある(2009.3農林水産技術会議事務局)。この原因として、免疫系が7日齢でほぼ成熟することが挙げられている。しかしながら、アセチルシステインを給与した場合には、7日齢では負の影響が出ているが7週齢では良好な成績であった。このデータから、アセチルシステインの給与量を適正化すれば、7日齢から7週齢まで食肉鶏の体重を増加できるものと推測される。なお、アセチルシステインについても、グリシンと同様に、食肉雛の免疫系の成熟を待って2週齢から給与することが適当であると思われる。
【0089】
以上の通り、食肉鶏に対する試験の結果、アセチルシステインを給与した試験区では、飼料摂取量が多く、体重の増加も多かったうえに、死亡・淘汰の数が少なかったことから、健康状態が良好であったと推測される。
【0090】
日本ではシステイン及びシステインの関連物質(メチオニン、シスチン、タウリン)は医薬品だけに留まらず他の用途でも使用が認められている。更に、グルタチオンも医薬品以外でも使用が認められている。しかしながら、システインの関連物質であるアセチルシステインは平成27年まではサプリメントでも使用が認められていたが、平成28年からは医薬品としてのみの認可となっている。
【0091】
アセチルシステインの関連物質であるメチオニンは、1979年、タウリンは2009年に日本で飼料添加物に指定されている。シスチン(システイン分子が2個結合したもの)はEUで硫黄の補給を目的に飼料添加物に指定されており、日本では豚の環境負荷低減型配合飼料への添加がメチオニンとの併記で認可されている。但し、鶏には使用は認められていない。
【0092】
動物の体内ではメチオニンからシステインが作られ、システインからシスチン、タウリンが作られる。栄養学的な利点はシステインとシスチンは同一とされている。システインの関連物質が飼料添加物として利用されているのに対して、システインが利用されていないのは、保存安定性が悪く、光や酸素によって容易に酸化され、目的とする効果が得られないことが大きな理由と考えられる。
【0093】
この問題を解決したのがアセチルシステインで、システインの安定形である誘導体である。また、動物にとって重要な内因性抗酸化物質グルタチオンの前駆物質であり、体内のグルタチオン濃度を高める。アセチルシステインは吸収されて各臓器で抗酸化作用を発揮するほか、肝臓で脱アセチル化されてシステインとなり、代謝経路に組み込まれて、生合成によりグルタチオンに転換される。直接はシステインがグルタチオンの材料であるが、経口摂取ではシステインは体内に入るとすぐに酸化されてしまい、グルタチオンの材料になりにくいことから、経口摂取ではアセチルシステインが有効であるとされている。グルタチオンもアセチルシステインと同様に「専ら医薬品として使用されている成分本質(原材料)リスト」に掲載されており、肥料としても使用が認められている。過剰なシステインはタウリンに代謝されて排出される。
【0094】
メチオニンからシステインが作られるのであれば、システインを給与する必要はないと考えることもできるが、実際はそうはならない。メチオニンの飼料添加物としての用途は「飼料の栄養成分その他の有効成分の補給」であり、配合飼料中のアミノ酸バランスを整えるために添加されることから、給与には適正量がある。更に、システインに変わるためには、一度身体に有害なホモシステインになり、その後システインに転換する経路をたどる必要がある。この間にエネルギーや養分を消費する。
【0095】
つまり、システインを摂取したほうが安全で効率が良い。ただし、システインは前記の通り不安定であるために経口摂取の場合、今回の目的では役に立たない。現に、上記試験ではメチオニン(DL-メチオニン)が添加された飼料を給与しており、その飼料にアセチルシステインを添加して生産性(飼料要求率・育成率)改善の結果を得ている。
【0096】
次に、シスチンはEUで硫黄成分の補給を目的にすべての動物種に飼料添加が認められている。これはメチオニンと同様の目的ということになる。日本では環境負荷低減型配合飼料の公定規格で、豚に対する使用が認められている。また、タウリンも飼料添加の目的は、メチオニン、シスチンと同様である。
【0097】
しかしながら、アセチルシステインの飼料添加物としての用途は、飼料安全法施行規則の「飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進」になる。つまり、メチオニン、シスチン、タウリンとは添加する目的が異なる。このことは添加量の違いに顕著に表れている。標準的な産卵鶏用基礎飼料にはメチオニンが0.2%程度添加されているが、アセチルシステインの標準添加量は0.0014%であり、メチオニンの添加量に対しては0.7%(143分の1)である。
【0098】
食肉鶏用基礎飼料には、肥育前期用0.25%、肥育後期用0.18%のメチオニンが添加されている。平均値で0.215%、アセチルシステインの平均添加量は0.00097%であり、メチオニンの添加量に対しては0.45%(222分の1)である。
【0099】
更に、飼料添加物ではないが、体内で重要な抗酸化物質であるグルタチオンを経口摂取したらよいのではないかとも考えることができるが、グルタチオンを経口摂取しても消化過程で分解されてしまうため、前駆物質のアセチルシステインを摂取するのが有効とされている。
【0100】
以上のとおり、アセチルシステインは家禽(産卵鶏、食肉鶏)の生産性(飼料要求率・育成率)の改善に関して良好な成績が得られており、コスト低減、収益の増加が見込まれる。更に、鶏の健康に寄与し、人畜に対する安全性も確認されていることから、アセチルシステインを産卵鶏及び食肉鶏を含む家禽類の飼料添加物として給与することは合理的であり、成長促進抗生物質の代替品となりえることが確認された。
【0101】
アセチルシステインは日々消費されてしまうため、継続して給与することが必要である。アセチルシステインの効果は、上記のほか産卵鶏では卵質の向上、食肉鶏では肉質の向上が期待される。消費者は安全・安心な食料を求めており、畜産動物の健康に寄与するアセチルシステインは安全・安心な食料の生産に資する資材である。
【0102】
なお、第1〜第3の試験では、被験物質としてアセチルシステインを用いたが、アセチルシステインだけでなく、システイン及びシステイン誘導体から選択される少なくとも1種であれば、同様の効果を発揮できるものと推定される。これらの物質は、いずれも動物の体内における作用が共通しているからである。
【0103】
アセチルシステインは、体内で吸収された後、肝臓で脱アセチル化されてシステインとなり、以下、システインと同様の経路で代謝される。システインの前駆物質であるメチオニンとシステインの酸化型であるシスチンの有効性が全動物種で確認されていることから、アセチルシステインも全動物種に有効であると推定される。体内でシスチンが作用されるときは、還元されてシステインとなる。
【0104】
また、第1試験及び第2試験では産卵鶏を試験対象動物に選定し、第3試験ではブロイラーを試験対象動物に選定したが、ウズラや七面鳥等の他の家禽類、牛、豚、羊等の大型の動物に対しても、飼料要求率を改善する効果があるものと推定される。その理由は、畜産動物に使用される動物用医薬品や飼料添加物、ビタミン類などを見ると、牛、豚、家禽類で共通するものが多くあるからである。また、動物の体内における消化吸収のメカニズムや、利用できる栄養素の種類及び形態等については、鶏種毎あるいは畜種毎に異なるとしても、体内に吸収された栄養素が利用されて筋肉量や骨量が増加していくことは共通であるからである。即ち、筋肉はタンパク質、骨はカルシウムやリンで構成されていることは、鶏種や畜種に関係なく共通であるので、どの部位の筋肉が増加しやすいであるとか、どこに脂肪が蓄積しやすいとかについては異なっていても、栄養素が体内に蓄積されるという根本において相違はないからである。
【0105】
また、第1〜第3の試験では、アセチルシステインを体重1Kg当たり一日1mg鶏に給与したが、図3の試験データから明らかなように、飼料要求率に関して十分に高い効果が得られたことから、アセチルシステインの給与量を体重1Kg当たり一日0.5mg程度まで下げても、飼料要求率の改善に効果があるものと推定される。
【0106】
また、第1試験は、試験対象動物である産卵鶏にヒートストレスを与えない期間において行ったが、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤を給与すれば、鶏舎内の気温が27℃を超え、産卵鶏にヒートストレスを与える期間においても飼料要求率を改善できるものと推定される。
【0107】
その理由は、以下に記載の通りである。即ち、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤の効果を確認する試験は、産卵鶏にヒートストレスを与えない期間の試験ではあるが、図3に示すように、対照区における斃死・淘汰数に対して試験区における斃死・淘汰数が20%も減少していることから見て、実施形態に係る飼料要求率改善剤、残存率改善剤、産卵鶏の産卵数改善剤は、産卵鶏のストレス耐性を高めていることが明らかである。畜産業界では、抗酸化物質であるアスタキサンチンが動物のヒートストレス耐性を高めるものとして注目されているが、システイン及びシステイン誘導体も抗酸化物質であることから、アスタキサンチンと同様に、動物のヒートストレス耐性を高める可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14