(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483278
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】磁性材料を含む成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20190304BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20190304BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20190304BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/153 133
H01F1/22
H01F41/02 C
H01F27/255
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-551807(P2017-551807)
(86)(22)【出願日】2016年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2016082423
(87)【国際公開番号】WO2017086145
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-224350(P2015-224350)
(32)【優先日】2015年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 三津雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健二
(72)【発明者】
【氏名】陰山 淳
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宗光
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−535075(JP,A)
【文献】
特開平04−006201(JP,A)
【文献】
特開2015−157999(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/129803(WO,A1)
【文献】
特開2012−136770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/153
H01F 1/22
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロアモルファス組織を有する磁性材料を含む原料部材を成形し、前記成形した原料部材を熱処理して前記へテロアモルファス組織をナノ結晶組織に変化させた成形体の製造方法であって、
前記原料部材が含む前記磁性材料は粉末状であり、前記原料部材は、前記粉末状の磁性材料を含む原材料の加圧成形体であり、
前記熱処理において、前記成形した原料部材を前記原料部材との反応性が低く熱伝導率が20W・m/K以上の放熱性セラミックス粉末内に埋設し、
埋設している前記成形体を前記放熱性セラミックス粉末から取り出すことにより、前記放熱性セラミックス粉末から前記成形体を分離することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性材料は粉体であり、
前記放熱性セラミックス粉末は、前記磁性材料よりも粒径が大きいことを特徴とする請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性材料は、体積基準の粒度分布において小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径D50が、50μm未満であり、前記放熱性セラミックス粉末は、前記粒径D50が、50μm以上500μm以下である、請求項2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記放熱性セラミックス粉末は、アルミナ粉末、炭化ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は、100℃/分以上の昇温プロセスを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料を含む成形体の製造方法およびかかる製造方法により製造される成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、らせん状軟磁性ナノ結晶ストリップから低周波用途向け磁心を製造するための方法が記載されている。この方法は、前記ストリップが下記合金組成を有し、
Fe
RestCo
aCu
bNb
cSi
dB
eC
f
式中、a、b、c、d、eおよびfは原子百分率で表され、0≦a≦1;0.7≦b≦1.4;2.5≦c≦3.5;14.5≦d≦16.5;5.5≦e≦8および0≦f≦1であり、コバルトを全体的または部分的にニッケルに置き換えることができ、前記ストリップには、金属酸化物溶液および/または金属を有するアセチル−アセトン−キレート錯体によるコーティングが備えられ、前記コーティングにより、後に続く前記ストリップのナノ結晶化のための熱処理中に、封止金属酸化物コーティングが形成され、前記ストリップの前記ナノ結晶化のための熱処理において、飽和磁歪λ
sが|λ
s|<2ppmに設定される、方法である。
【0003】
特許文献1の磁心の製造方法において、熱処理は、連続アニーリングプロセスにおいて積層していない磁心に無磁場で行われてもよく(特許文献1請求項16)、この連続アニーリングプロセスにおいて、積層していない磁心が、熱伝導率が優れているキャリア上に設置されてもよい(特許文献1請求項17)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−532910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱処理において生じるヘテロアモルファスのナノ結晶化は発熱反応である。このため、熱処理における加熱条件を適切に制御しないと、ナノ結晶化よりも高い温度域で発生するナノ結晶化以外の反応(化合物の生成反応など)が進行して磁性材料を含む成形体の磁気特性が劣化したり、ナノ結晶化させた成形体からの発熱が制御不能(熱暴走)になって成形体が焼損したりする不具合が生じる場合がある。
【0006】
この点に関し、特許文献1に記載される方法では、積層していない成形体をキャリア上に配置して、熱処理の際に成形体に生じた結晶化熱を効果的に消散させている。しかしながら、このようなキャリア上に処理対象を載置する構成では、載置面と接触した部分からの発熱は抑えることができるが、載置面と接触していない部分からの発熱を抑えることは難しい。特に、凹部などが有ると、そこにキャリアを密着させることは難しく、そこからの発熱を押えることは困難である。
【0007】
本発明は、ナノ結晶化のための熱処理における不具合を抑制するにあたり成形体の形状の影響を受けにくくすることが可能な、磁性材料を含む成形体の製造方法、およびかかる製造方法により製造される成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らが検討した結果、熱処理を受ける部材(原料部材)を熱伝導性に優れる粉末(放熱性粉末)に埋設した状態で熱処理を行うことにより、熱処理の際に、発熱に起因する不具合が生じる可能性を低減させうるとの知見を得た。
【0009】
ただし、このように放熱性粉末中に原料部材を埋設した状態で熱処理を行うと、放熱性粉末と原料部材との接触面積が増加するため、放熱性粉末と原料部材との反応が熱処理中に生じやすくなる。放熱性粉末と原料部材とが反応すると、放熱性粉末と原料部材との反応生成物が成形体に生成したり、放熱性粉末が成形体に強固に付着したりして、成形体の外観不良、破壊、磁気特性の低下などをもたらすおそれがある。それゆえ、熱処理の際に放熱性粉末と原料部材との反応を抑制することが重要である。
【0010】
かかる観点でさらに検討した結果、ヘテロアモルファス組成の磁性材料を含む成形体を得る場合には、放熱性粉末を磁性材料に対する反応性が低いセラミックス材料とすることにより、熱処理における放熱性粉末と原料部材との反応が生じにくくなって、良好な品質の成形体を安定的に得ることが可能であるとの新たな知見を得た。
【0011】
以上の知見に基づき提供される本発明は、一態様において、ヘテロアモルファス組織を有する磁性材料を含む原料部材を成形し、前記成形した原料部材を熱処理して前記へテロアモルファス組織をナノ結晶組織に変化させた成形体の製造方法であって、前記熱処理において、前記成形した原料部材を前記原料部材との反応性が低く熱伝導率が20W・m/K以上の放熱性セラミックス粉末内に埋設することを特徴とする成形体の製造方法である。
【0012】
前記磁性材料は粉体であり、前記放熱性セラミックス粉末は、前記磁性材料よりも粒径が大きくてもよい。
【0013】
前記磁性材料は、体積基準の粒度分布において小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径D50が、50μm未満であり、前記放熱性セラミックス粉末は、前記粒径D50が、50μm以上500μm以下であってもよい。
【0014】
前記放熱性セラミックス粉末は、アルミナ粉末、炭化ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および窒化アルミニウム粉末からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0015】
前記原料部材が含む前記磁性材料は粉末状であり、前記原料部材は、前記粉末状の磁性材料を含む原材料の加圧成形体であってもよい。
【0016】
前記熱処理工程は、100℃/分以上の昇温プロセスを備えていてもよい。
【0017】
本発明は、他の一態様において、上記の本発明の一態様に係る製造方法により製造される成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ナノ結晶化のための熱処理における不具合を抑制するにあたり成形体の形状の影響を受けにくくすることが可能な成形体の製造方法、およびその製造方法によって製造される成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された原料部材の一例を概念的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された原料部材の一例を備えるインダクタンス素子の全体構成を一部透視して示す斜視図である。
【
図3】
図2に示される原料部材を形成するために用いられる成形部材の一つを示す斜視図である。
【
図4】
図2に示される原料部材を形成するために用いられる成形部材の他の一つを示す斜視図である。
【
図5】実施例1の製造方法の熱処理工程において原料部材が受けた温度プロファイルを示す図である。
【
図6】実施例1の製造方法により製造された成形体のX線回折スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】比較例1の製造方法の熱処理工程において原料部材が受けた温度プロファイルを示す図である。
【
図8】比較例1の製造方法により製造された成形体のX線回折スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法は、次に説明する埋設工程および熱処理工程を備える。
【0022】
埋設工程では、発熱を伴うナノ結晶化によって発生するヘテロアモルファス組織を有する磁性材料を含む原料部材を、磁性材料との反応性が低く熱伝導率が20W・m/K以上の放熱性セラミックス粉末内に埋設する。
【0023】
本明細書において「ヘテロアモルファス組織」とは、アモルファス組織中にナノ結晶化の際に結晶核となるごく微細な結晶が分散した構造を意味する。
【0024】
原料部材が含む磁性材料は軟磁性体であって、その組成はヘテロアモルファス組成を有していればよく、詳細な組成は限定されない。
【0025】
原料部材の形状は限定されない。特許文献1に記載される発明では、キャリアに熱を消散させることが効率的に行われるように、熱処理を受ける部材は、積層されていないストリップである。これに対して、原料部材の形状は、そのまま成形体として適用しうるような3次元的な形状を優位していてもよい。例えば、
図1に示される原料部材1のように、トロイダルコアとしてそのまま適用しうるリング形状であってもよい。あるいは、
図2に示されるインダクタンス素子100のように、成形体を与える原料部材30の内部にコイル体10が収容された形状を有していてもよい。このような形状の原料部材30は、
図3および
図4に示されるように、2つの成形部材31,32から構成され、コイル体10を収容した状態でこれらの成形部材31,32を加圧成形することにより製造することができる。なお、加圧成形されることにより、コイル体10の両端部は折り曲げ加工されて端子板20,25となり、これらの端子板20,25を覆うように塗布型電極40,45が設けられて、インダクタンス素子100が得られる。
【0026】
原料部材の構成も限定されない。一例において、原料部材が含む磁性材料は粉末状であり、原料部材は、粉末状の磁性材料(磁性粉末)を含む原材料を成形することによって得られる。成形方法は任意であり、加圧成形が一例として挙げられる。この場合において、磁性粉末を含む原材料は、樹脂系材料などからなるバインダー成分を含有していてもよい。磁性材料が粉末状である場合において、磁性粉末の大きさは限定されない。組成の均一性を確保する観点や形状加工性を確保する観点などから、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径D50(メジアン径D50)は25μm以上53μm以下であることが好ましいことがある。
【0027】
上記のとおり、埋設工程では、磁性材料を含む原料部材との反応性が低く熱伝導率が20W・m/K以上の放熱性セラミックス粉末内に原料部材を埋設する。本明細書において、「磁性材料を含む原料部材との反応性が低い」とは、窒素などの不活性雰囲気中で300℃〜600℃の範囲で加熱されたときに、放熱性セラミックス粉末が原料部材に含有される成分と反応しにくく、放熱性セラミックス粉末が原料部材に強固に付着するといった不具合が生じにくいことを意味する。
【0028】
放熱性セラミックス粉末の種類は、磁性材料を含む原料部材との反応性が低いことおよび上記の熱伝導率に関する特性を有している限り、限定されない。放熱性セラミックス粉末の具体例として、アルミナ粉末、炭化ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および窒化アルミニウム粉末が挙げられる。放熱性セラミックス粉末は、1種類の材料から構成されていてもよいし、複数種類の材料から構成されていてもよい。反応性および熱伝導率の観点から、放熱性セラミックス粉末は、上記の粉末からなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことが好ましく、上記の粉末からなる群から選ばれる1種または2種以上からなることが好ましい。
【0029】
放熱性セラミックス粉末は、メジアン径D50が50μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0030】
放熱性セラミックス粉末のメジアン径D50が50μm以上であることにより、原料部材の内部に放熱性セラミックス粉末が入り込んでしまうことが生じにくい。原料部材が磁性粉末を含む原材料の加圧成形体である場合には、磁性材料など原材料を構成する材料の形状に応じて原料部材の表面に凹凸が形成される。放熱性セラミックス粉末の粒径が過度に小さいと、放熱性セラミックス粉末が表面の凹部に入り込んでしまい、成形体から放熱性セラミックス粉末を適切に分離することが困難となってしまうこともある。
【0031】
こうした成形体に残留する放熱性セラミックス粉末に起因する不具合が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、放熱性セラミックス粉末のメジアン径D50は、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。
【0032】
一方、放熱性セラミックス粉末のメジアン径D50が500μm以下であることにより、放熱性セラミックス粉末同士の接触および放熱性セラミックス粉末と原料部材との接触を十分に確保することができ、後述する熱処理工程において磁性材料から放出される熱を効率的に消散させることができる。磁性材料から放出される熱を効率的に消散させることをより安定的に実現させる観点から、放熱性セラミックス粉末のメジアン径D50は、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましい。
【0033】
このように、埋設工程において、放熱性セラミックス粉末に原料部材を埋設することにより、原料部材の形状にかかわらず、次に説明する熱処理工程において磁性材料から放出される熱を効率的に消散させることができる。原料部材が磁性粉末を含む場合には、成形体から放熱性セラミックス粉末を分離することを容易にする観点から、放熱性セラミックス粉末の粒径(メジアン径D50)は、磁性粉末の粒径(メジアン径D50)よりも大きいことが好ましい。具体的には、磁性材料のメジアン径D50が50μm未満である場合には、放熱性セラミックス粉末のメジアン径D50は50μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0034】
熱処理工程では、放熱性セラミックス粉末内に埋設された状態にある原料部材を熱処理して、原料部材が有する磁性材料の組織をヘテロアモルファス組織からナノ結晶組織にする。通常、ヘテロアモルファス組織の磁性材料を含む部材を加熱してナノ結晶組織にする場合には、組織の変化に伴い発生する熱により部材の温度管理が不能になる熱暴走が生じないように、加熱‐冷却からなる熱処理を複数回行うなどの対応が施される。このため、熱処理工程に要する時間が長くなる傾向がある。ところが、本発明の一実施形態に係る製造方法では、上記のとおり、埋設工程において原料部材を放熱性セラミックス粉末内に埋設された状態とするため、上記のような複数回の熱処理を行う必要がない。また、熱処理における加熱では、100℃/分以上の昇温プロセスとしても、熱暴走が生じる可能性を低減させることが可能である。昇温プロセスは、150℃/分以上としてもよく、200℃/分以上としてもよい。
【0035】
熱処理工程直後は、成形体は放熱性セラミックス粉末内に埋設された状態にあるため、埋設している成形体を放熱性セラミックス粉末から取り出すことにより、放熱性セラミックス粉末から成形体を分離することができる。放熱性セラミックス粉末と成形体との分離をより確実にするために、アルコールなどの液体を用いて成形体を洗浄したり、その際に超音波衝撃を加えたりしてもよい。放熱性セラミックス粉末が非磁性材料からなる場合には、放熱性セラミックス粉末と成形体とを分離させるにあたり、磁力を用いることにより、両者の分離を容易にすることが可能である。
【0036】
上記の埋設工程および熱処理工程を備える製造方法により製造された成形体は、その一例において、100℃/分を超える昇温プロセスで加熱されながら、熱暴走による過度の加熱が行われていないため、磁気特性に優れる。また、上記のような特異的な熱履歴を受けていることから、被熱処理成形体の表面の色が均一で殆ど色斑が発生しないという特徴を有する。これは、上記の埋設工程および熱処理工程で、熱伝導性が十分に高いため、被熱処理成形体内の温度ばらつきが小さくなって、成形体内の組成ムラやナノ結晶構造の分布のばらつき等、成形体の屈折率並びに特性をばらつかせる原因が少なった結果、色斑が発生しにくくなったものと推測される。
【0037】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。例えば、前述の埋設工程と熱処理工程とは、時間的に重複していてもよい。具体的には、熱処理工程における熱処理が開始されてから、埋設工程として放熱性セラミックス粉末が原料部材に接するように供給されてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
Fe基合金組成物を溶製し、ガスアトマイズ法によりメジアン径D50が45μmの磁性粉末を得た。磁性粉末は、粒子径75μm以上の粒子を分級して取り除く処理を加えておくと、後の熱処理によって理想に近いナノ結晶組織が生成されるため、より好ましい。
【0040】
得られた磁性粉末を、シリコーン系樹脂を含むバインダー成分と希釈媒体としての水中で撹拌して混合し、得られたスラリーを乾燥して混合粉末体を得た。この混合粉末体を金型のキャビティ内に配置して、加圧成形を行って、外径:10mm、内径:8mm、厚さ10mmのトロイダルコアの形状を有する原料部材を得た。
【0041】
メジアン径D50が100μmのアルミナ粉末からなる放熱性セラミックス粉末を用意し、アルミナボート内に載置した原料部材が埋設されるように、アルミナボート内に放熱性セラミックス粉末を供給した。
【0042】
こうして放熱性セラミックス粉末内に埋設された状態にある原料部材が載置されたアルミナボートを、アルミナ炉心管内に設置して、炉心管外に配置された熱源を用いて、窒素雰囲気下で原料部材の加熱を行った。昇温速度は200℃/分〜250℃/分として、加熱終了時の温度を400℃に設定した。その後、20℃/分程度の冷却速度で200℃程度まで冷却した。
【0043】
図5は、上記の熱処理における成形体(原料部材)の温度プロファイルを示す図である。
図5に示されるように、昇温プロセスが終了すると速やかに成形体の温度は冷却に転じ、予定通り20℃/分程度の冷却が行われていることが確認された。すなわち、実施例1では成形体の熱暴走は観測されなかった。
【0044】
熱処理工程を経て得られた成形体について、X線回折スペクトルの測定を行った(X線源:Cu)。その結果を
図6に示す。
図6に示されるように、α−Feに由来するピーク(
図6では丸を付した矢印で示した。)のみが測定され、熱処理工程において適切にナノ結晶化が進行したことが確認された。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様にして、トロイダルコアの形状を有する原料部材を製造した。
【0046】
アルミナボート内に放熱性セラミックスを供給しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、内部に原料部材が載置されたアルミナボートをアルミナ炉心管内に設置した。炉心管外に配置された熱源を用いて、窒素雰囲気下で原料部材の加熱を行った。昇温速度は200℃/分〜250℃/分として、加熱終了時の温度を400℃に設定した。
【0047】
図7は、上記の熱処理における成形体(原料部材)の温度プロファイルを示す図である。
図7に示されるように、昇温プロセスが終了しても成形体の温度は安定的に低下せず、逆に、きわめて急激に温度が上昇して600℃に至る熱暴走が生じた。このため、冷却速度を適切に制御することも困難となった。このように、比較例1では成形体の熱暴走が観測された。
【0048】
熱処理工程を経て得られた成形体について、X線回折スペクトルの測定を行った(X線源:Cu)。その結果を
図8に示す。
図8に示されるように、α−Feに由来するピーク(
図8では「○」を付した矢印で示した。)に加え、Fe−B、Fe−Pなどの化合物に由来すると帰属されるピーク(
図8では「△」を付した矢印で示した。)も測定され、熱処理工程において適切にナノ結晶化を進行させることができなかったことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法により製造された成形体を用いた電気・電子部品は、パワーインダクタ、ハイブリッド自動車等の昇圧回路、発電、変電設備に用いられるリアクトル、トランスやチョークコイル、モータなどに好適に使用されうる。
【符号の説明】
【0050】
1…リング形状の原料部材
100…インダクタンス素子
10…コイル体
20,25…端子板
30…原料部材
40,45…塗布型電極
31…成形部材
HP1…中空部
32…成形部材
HP2…中空部