特許第6483310号(P6483310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6483310
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】ロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 63/00 20060101AFI20190304BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20190304BHJP
   F16D 41/08 20060101ALN20190304BHJP
   F16D 41/10 20060101ALN20190304BHJP
   F16H 1/32 20060101ALN20190304BHJP
   F16H 1/36 20060101ALN20190304BHJP
   F16H 1/46 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
   F16D63/00 R
   F16D43/02
   !F16D41/08 A
   !F16D41/10
   !F16H1/32
   !F16H1/36
   !F16H1/46
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-102922(P2018-102922)
(22)【出願日】2018年5月30日
【審査請求日】2018年12月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−161036(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/110840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00 − 41/36
F16D 43/02 − 43/26
F16D 63/00
F16H 1/32
F16H 1/36
F16H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転不能の固定部材と、共通の回転軸の回りに回転可能な入力回転部材及び出力回転部材とを備え、前記入力回転部材からの正・逆方向の回転は前記出力回転部材に伝達するとともに、前記出力回転部材からの前記入力回転部材への回転の伝達は、前記出力回転部材を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力回転部材と前記出力回転部材との間には遊星歯車機構が設置され、
前記遊星歯車機構は、前記共通の回転軸の回りに回転可能なキャリアと、前記キャリアのキャリア軸に回転可能に軸支され、同一の歯数に設定された第一の遊星歯車と第二の遊星歯車とを備え、前記第二の遊星歯車には、これと同軸に伝達外歯歯車が固着されており、
前記第一の遊星歯車が、前記入力回転部材に設けられた入力歯車及び前記固定部材に設けられた固定歯車と噛み合って遊星歯車列を構成するとともに、前記第二の遊星歯車が前記入力歯車と噛み合い、前記伝達外歯歯車が前記出力回転部材に設けられた出力歯車と噛み合うことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記第一の遊星歯車と前記第二の遊星歯車とは軸方向に離隔している、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記入力歯車が、前記入力回転部材に固着され、前記第一の遊星歯車にその外側から噛み合うリング歯車であり、前記出力歯車が、前記伝達外歯歯車にその内側から噛み合う太陽歯車である請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記固定部材が、前記遊星歯車機構を収容する内部空間の形成されたハウジングである請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項5】
前記入力回転部材及び前記出力回転部材が、前記固定部材に軸支された歯車である請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項6】
前記遊星歯車機構には、前記入力回転部材及び前記出力回転部材とは独立して前記共通の回転軸の回りに回転可能なアイドル外歯歯車が設置され、前記アイドル外歯歯車は、前記第二の遊星歯車又は前記伝達外歯歯車にその内側から噛み合う請求項1乃至5のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転部材と出力回転部材との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力回転部材(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力回転部材(従動側)からの動力伝達は、出力回転部材を回転不能として遮断するロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、入力軸(入力回転部材)及び出力軸(出力回転部材)を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置の双方向クラッチでは、モーターにより入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロックされた状態となって物品の落下を防止する。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチを利用する昇降装置の概要と、双方向クラッチの構造の一例とを図9図10により説明する。図9は、ベルト及びプーリによって物品を上下する昇降装置と、その駆動装置に備えられる双方向クラッチのA−A断面構造を表すものであり、図10(a)は、出力軸が入力軸と連動して物品を昇降する状態のA−A断面を、(b)は、出力軸がロックされて物品の落下を阻止する状態のA−A断面を示す。
図9の昇降装置は、上下に配置したプーリP1、P2の間にベルトBを掛け渡し、ベルトBに移送する物品Wを固着した装置であって、上方のプーリP1には、これを回転駆動する正・逆回転可能なモーターMが、双方向クラッチDCを介して連結されている。双方向クラッチDCは、モーターMに連なる入力軸IS、プーリP1に連なる出力軸OS及び固定のハウジングHGを有している。
【0004】
A−A断面図に示されるように、双方向クラッチDCのハウジングHG内では、入力軸ISが複数の扇形部に分割され、扇形部の内側に出力軸OSが嵌め込まれる。出力軸OSには、入力軸ISの隣接する扇形部の間に入り込む突起部が設けてあり、この突起部の先端に形成したV字状凹所とハウジングHGとの間には、ローラRが介在されている。
【0005】
図10(a)に示すように、モーターMにより入力軸ISが回転するときは、入力軸ISの扇形部の側面と出力軸OSの突起部の側面とが当接し、出力軸OSは、入力軸ISに押される形で同一方向に同一速度で回転する。入力軸ISが逆方向に回転するときも同様であって、図9の昇降装置において、モーターMを正・逆回転すると、ベルトBに固着した物品Wを上昇又は下降させることができる。
これに対し、出力軸OSが回転したときは、(b)に示されるように、ローラRがV字状凹所の斜面に押し上げられて外方に移動し、ハウジングHGと出力軸OSの突起部との間に挟み込まれる。これにより、出力軸OSがロックされてその位置で停止し、入力軸ISに回転が伝達されることはない。つまり、図9の昇降装置では、モーターMによる駆動を停止しても、物品Wが自重により落下するのを自動的に阻止することができる。このようなロックタイプの双方向クラッチは、本出願人の創案に係る特許第4850653号公報に開示されている。
【0006】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置に適用することができる。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、電磁クラッチにより制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力軸側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4850653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、図9のロックタイプ双方向クラッチは、コンパクトであって確実に動力伝達を制御可能な機械部品であるけれども、用途によっては未だ改良すべき余地が残されている。本発明は、双方向クラッチの以下に述べるような課題を解決するものである。
【0009】
図9の構造の双方向クラッチでは、その機能を達成するには、入力軸ISの扇形部と出力軸OSの突起部との間などに間隙を設ける必要があり、作動中に衝撃音が発生する。また、双方向クラッチを図9の昇降装置に適用した場合、モーターMを正転させて物品Wを上昇するときは問題ないが、モーターMを逆転させ物品Wを下降するときに、物品Wの重力に起因して出力軸OSの速度が細かな変動を繰り返し、振動や異音を生じることがある。これは、次の理由による。
物品Wを下降させるためモーターMを逆回転させた場合に、物品Wに作用する重力により、出力軸OSが入力軸ISよりも速く回転(オーバーラン)することがあり、オーバーランが起こると、図10(b)の状態となってローラRとハウジングHGとが噛み合い、出力軸OSがロックする。このロック状態は、入力軸ISの回転でローラRが押されたときに解除されるが、噛み込みと解除の繰り返しは、出力軸OSの速度に細かな変動を与えることとなる。なお、ロック状態の解除には、ローラに働く摩擦力に打ち勝つトルク(モーメント)を付与する必要があるが、この点は、停止状態にある物品Wを上昇させるときも同じであって、モーターMには、物品Wを上昇させる負荷トルクに加えて噛み込み解除のためのトルクも要求される。
【0010】
さらに、図9のロックタイプの双方向クラッチでは、出力軸OSの回転数は常に入力軸ISの回転数と等しいとともに、出力軸OSの回転方向も入力軸ISの回転方向と等しい。双方向クラッチ自体では、回転方向や回転速度を変更する変速作動が不可能であり、そのため、入出力軸間でトルクを増減することもできず、出力軸OSに作用する負荷トルクが大きいときは、それに見合うトルクを発生する大型のモーターを駆動源として用意する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み、本発明は、噛み込み用ローラを用いることなく、遊星歯車機構を組み合わせてロックタイプ双方向クラッチを構成し、作動に伴う異音等の発生を防止するとともに、出力軸を停止させるときはロック状態を確実に保持するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「回転不能の固定部材と、共通の回転軸の回りに回転可能な入力回転部材及び出力回転部材とを備え、前記入力回転部材からの正・逆方向の回転は前記出力回転部材に伝達するとともに、前記出力回転部材からの前記入力回転部材への回転の伝達は、前記出力回転部材を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力回転部材と前記出力回転部材との間には遊星歯車機構が設置され、
前記遊星歯車機構は、前記共通の回転軸の回りに回転可能なキャリアと、前記キャリアのキャリア軸に回転可能に軸支され、同一の歯数に設定された第一の遊星歯車と第二の遊星歯車とを備え、前記第二の遊星歯車には、これと同軸に伝達外歯歯車が固着されており、
前記第一の遊星歯車が、前記入力回転部材に設けられた入力歯車及び前記固定部材に設けられた固定歯車と噛み合って遊星歯車列を構成するとともに、前記第二の遊星歯車が前記入力歯車と噛み合い、前記伝達外歯歯車が前記出力回転部材に設けられた出力歯車と噛み合う」
ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチとなっている。
【0012】
前記第一の遊星歯車と前記第二の遊星歯車とは軸方向に離隔しているのが好ましい。
前記入力歯車が、前記入力回転部材に固着され、前記第一の遊星歯車にその外側から噛み合うリング歯車であり、前記出力歯車が、前記伝達外歯歯車にその内側から噛み合う太陽歯車であってもよい。
前記固定部材が、前記遊星歯車機構を収容する内部空間の形成されたハウジングであってもよい。
前記入力回転部材及び前記出力回転部材が、前記固定部材に軸支された歯車でああってもよい。
前記遊星歯車機構には、前記入力回転部材及び前記出力回転部材とは独立して前記共通の回転軸の回りに回転可能なアイドル外歯歯車が設置され、前記アイドル外歯歯車は、前記第二の遊星歯車又は前記伝達外歯歯車にその内側から噛み合うのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、入力回転部材と出力回転部材との間には遊星歯車機構が設置される。この遊星歯車機構は、共通の回転軸の回りに回転可能なキャリアと、キャリアのキャリア軸に回転可能に軸支される第一の遊星歯車と第二の遊星歯車とを備え、第一の遊星歯車の歯数と第二の遊星歯車の歯数とは同一に設定される。第二の遊星歯車には、これと同軸に伝達外歯歯車が固着される。そして、第一の遊星歯車が、入力回転部材に設けられた入力歯車及び固定部材に設けられた固定歯車と噛み合って遊星歯車列を構成するとともに、第二の遊星歯車が入力歯車と噛み合い、伝達外歯歯車が出力回転部材に設けられた出力歯車と噛み合う。
【0014】
入力回転部材が回転すると、これと一体の入力歯車が回転し、入力歯車及び固定歯車と噛み合う第一の遊星歯車は自転しながら公転する。このとき更に、入力歯車は第二の遊星歯車とも噛み合っているため、第二の遊星歯車も第一の遊星歯車と同様に自転しながら公転する。さらに、第二の遊星歯車には伝達外歯歯車が固着されているため、伝達外歯歯車も第一の遊星歯車及び第二の遊星歯車と同様に自転しながら公転する。このように伝達外歯歯車が作動することで、これと噛み合う出力歯車は回転する。かくして入力回転部材の回転は出力回転部材に伝達される。
【0015】
これに対し、出力回転部材から入力回転部材へ回転を伝達しようとすると、出力歯車から伝達外歯歯車を経由して入力回転部材へ動力が伝達されることとなる。しかし、詳しくは後述するが、このとき共通のキャリア軸に回転可能に軸支された第一の遊星歯車と、第二の遊星歯車とが相互に反対方向に公転しようとして突っ張ってしまってロックされた状態となり、出力回転部材は回転不能となる。
【0016】
このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、遊星歯車機構を利用して、入力回転部材から出力回転部材へ回転動力を伝達するとともに、反対向きへの伝達は遮断する。出力回転部材からの回転伝達の遮断は、遊星歯車機構をロック状態とすることにより摩擦力を利用しないで行われるから、出力回転部材の停止の保持が摩擦力により制限されることはない。さらに、遊星歯車機構のロック状態は、出力回転部材側から駆動しようとすると直ちに生じるので、図9の双方向クラッチとは異なり、作動中に衝撃音が発生することはない。また、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力回転部材の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第1実施例を示す図である。
図2図1の双方向クラッチにおけるハウジングの単品分解図である。
図3図1の双方向クラッチにおける入出力関係の単品分解図である。
図4図1の双方向クラッチにおいて、キャリアに軸支される部品の単品分解図。
図5図1の双方向クラッチにおいて、入力回転部材を反時計方向に回転させた時の作動を説明する図である。
図6図1の双方向クラッチにおいて、出力回転部材を時計方向に回転させた時の作動を説明する図である。
図7】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施例を示す図である。
図8】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第3実施例を示す図である。
図9】従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図である。
図10図9のロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明のロックタイプ双方向クラッチについて説明する。まず、本発明の双方向クラッチの第1実施例の全体的な構造を図1に示し、その単品部品図を図2乃至図4に示す。図5及び図6は、図1の実施例の双方向クラッチの作動を示すものである。
【0019】
図1の中央の縦断面図に示すように、第1実施例の双方向クラッチは、中央に置かれた固定のハウジング2(固定部材)の両側に入力回転部材4及び出力回転部材6をそれぞれ配した構造であり、図示は省略するが、入力回転部材4はモーター等の駆動側に接続され、出力回転部材6は昇降装置等の従動側に接続される。ハウジング2の開口端部には、その一部をなす蓋体8が圧入されてシ−ルドされており、蓋体8は、これを貫通する入力回転部材4の軸受けを兼ねている。
【0020】
入力回転部材4と出力回転部材6との間には遊星歯車機構Mが設置されている。遊星歯車機構Mは、共通の回転軸oの回りに回転可能なキャリアCと、このキャリアCによって回転可能に軸支される第一の遊星歯車P1と第二の遊星歯車P2とを備えている。第二の遊星歯車P2には、これと同軸に伝達外歯歯車DOが固着されている。第一の遊星歯車P1は、入力回転部材4と一体の入力歯車IG及びハウジング2に設けられた固定歯車FGと噛み合って遊星歯車列を構成するとともに、第二の遊星歯車P2は入力歯車IGと噛み合い、伝達外歯歯車DOは出力回転部材6に設けられた出力歯車OGと噛み合っている。本実施例においては、遊星歯車機構Mはハウジング2の内側に形成された内部空間に収容されており、出力歯車OG及び固定歯車FGは太陽歯車、入力歯車IGはリング歯車である。図1等においては、わかりやすくするために、ハウジング2には比較的色の濃いグレーを、蓋体8には比較的色の薄いグレーを、キャリアCには紙面の右上から左下に向かうハッチングを、キャリアCと一体のキャリア補助(これについては後に言及する)には紙面の左上から右下に向かうハッチングを夫々付して示している。
【0021】
続いて、図1と共に図2乃至図4を参照して、第1実施例のロックタイプ双方向クラッチを構成する各構成部品について説明する。
図1と共に図2を参照して説明すると、ハウジング2は、略正方形の端板部10と、この端板部10の外周縁から軸方向片側に延びる周壁部12とからなるカップ状部品である。端板部10の中央には、入力回転部材4を軸受する円形の貫通開口が形成され、この開口を囲んで周壁部12の内側に向かって軸方向に延びる筒壁14も形成されており、筒壁14の外周面には太陽歯車である固定歯車FGが形成されている。
【0022】
図1と共に図3を参照して説明すると、入力回転部材4は、略円形の端板部16と、この端板部16の外周縁から軸方向片側に延びる周壁部18とからなるカップ状部品である。端板部16の中央には、モーター等の駆動源が接続される接続穴20が形成され、この接続穴20を囲んで軸方向他側に向かって延びる外側円筒壁22も形成されている。端板部16の中央には更に、周壁部18の内側、つまり軸方向片側に向かって突出した内側円筒壁24も形成されている。内側円筒壁24の内側には、出力回転部材6の軸方向端部が嵌り込む円形の支持穴26が形成されている。本実施例においては、入力回転部材4にリング歯車である入力歯車IGが固着され、入力歯車IGは第一の遊星歯車P1にその外側から噛み合う。入力回転部材4及び入力歯車IGは、各々に形成された係合溝30と係合突起32との共動により固着される。係合溝30は周壁部18の内径を局部的に増大させることによって形成され、周壁部18の開口端から端板部16に向かって軸方向に直線状に延在している。係合突起32は入力歯車IGの外径を局部的に増大させることによって形成され、軸方向に延在している。係合溝30及び係合突起32は夫々周方向に等角度間隔をおいて3個ずつ形成されている。
【0023】
引き続き図1と共に図3を参照して説明すると、出力回転部材6は、全体的に軸状部材である。図3の中央縦断面図における左側端部には、昇降装置等の従動部材が接続される接続部34が形成されている。接続部34の断面は、円形の一部切り欠いた形状である。同中央縦断面図の右側端部には、入力回転部材4の支持穴26に嵌り込む断面円形の支持部36が形成されており、支持部36の軸方向内側には太陽歯車である出力歯車OGが形成されている。出力歯車OGは伝達外歯歯車DOにその内側から噛み合う。
【0024】
図1と共に図4を参照して説明すると、キャリアCは、円環形状のフランジ部38と、このフランジ部38から軸方向に延びるキャリア軸40とを具備し、別部材であるキャリア補助42と組み合わされてこれと一体で作動する。キャリア軸40は周方向に等角度間隔をおいて3個配設されており、夫々のキャリア軸40には、第一の部位40a、第二の部位40b及び第三の部位40cが設けられている。第一の部位40a、第二の部位40b及び第三の部位40cは夫々、この順に基端から先端に向かって配置されると共に外径が順次小さくなるように設定されている。キャリア補助42は円環形状の板状部材であって、これには、夫々のキャリア軸40の先端部、つまり第三の部位40cを軸受する受け孔44が形成されている。
【0025】
キャリア軸40においては、第一の部位40aの基端部に伝達外歯歯車DOが、第一の部位40aの先端部に第二の遊星歯車P2が、第二の部位40bに第一の遊星歯車P1が、第三の部位40cにキャリア補助42が夫々配置される。図1等の中央縦断面図に明確に示されるとおり、第一の遊星歯車P1と第二の遊星歯車P2とは軸方向に離隔している。
【0026】
続いて、図5及び図6を参照して、図1の実施例の双方向クラッチの作動について説明する。
図5の中央縦断面図において矢印で示すとおり、入力回転部材2が、例えば駆動源のモーターにより回転軸oの周りを反時計方向(軸方向の右方から見て)に回転したときは、まず、断面図C−Cにおいて矢印で示すとおり、入力回転部材2と一体の入力歯車IG(リング歯車)が反時計方向に回転する。そうすると、第一の遊星歯車P1は、固定歯車FG(太陽歯車)の存在に起因して、同図において矢印で示すとおり、反時計方向に自転しながら公転つまり遊星運動し、キャリアCは反時計方向に回転する。このとき、第二の遊星歯車P2も入力歯車IG(リング歯車)と噛み合い、且つ第一の遊星歯車P1の歯数と第二の遊星歯車P2の歯数とが同一に設定されていることから、第二の遊星歯車P2は第一の遊星歯車P1と同様の作動、つまり、断面図B−Bにおいて矢印で示すとおり、反時計方向に遊星運動をする。これにより、断面図A−Aにおいて矢印で示すとおり、第二の遊星歯車P2と一体の伝達外歯歯車DOも反時計方向に遊星運動をすることとなり、これと噛み合う出力歯車OGは時計方向に自転し、出力回転部材6が回転する。従って、入力回転部材2からの回転は出力回転部材6に伝達される。
【0027】
これに対して、図6の中央縦断面図に示すとおり、出力回転部材6を回転軸oの回りに時計方向(軸方向の右方から見て)に回転させようとすると、まず、断面図A−Aにおいて破線の矢印で示すとおり、出力回転部材6と一体の出力歯車OGが時計方向に、これと噛み合う外側伝達歯車DOが反時計方向に、夫々自転しようとする。伝達外歯歯車DOは第二の遊星歯車P2と一体であることから、断面図B−Bにおいて破線の矢印で示すとおり、第二の遊星歯車P2及び入力歯車IG(リング歯車)は反時計方向に自転しようとすると共に、第二の遊星歯車P2は入力歯車IG(リング歯車)に対して時計方向に公転しようとし、キャリアCには時計方向にT1の回転トルクが生じることとなる。一方、入力歯車IG(リング歯車)が反時計方向に自転しようとすると、断面図C−Cにおいて矢印で示すとおり、第一の遊星歯車P1は固定歯車FG(太陽歯車)の存在に起因して、反時計方向に遊星運動をしようとして、キャリアCには反時計方向にT2の回転トルクが生じる。このとき、本発明の双方向クラッチにおいては、第一の遊星歯車P1の歯数は第二の遊星歯車P2の歯数と同一に設定されていると共に、共通の入力歯車IGと噛み合っていることから、上記回転トルクT1とT2の大きさは同じで、その向きが相互に反対となるため、キャリアCは停止する。これにより、第一の遊星歯車P1及び第二の遊星歯車P2の回転はロックされ、第二の遊星歯車P2と一体の伝達外歯歯車DO、及びこれと噛み合う出力歯車OGもロックされる。従って、出力回転部材6から入力回転部材4への回転の伝達は、出力回転部材6の回転が回転不能となって遮断される。図示の実施例においては、第一の遊星歯車P1と第二の遊星歯車P2とは軸方向に離隔しているため、第一の遊星歯車P1が第二の遊星歯車P2と摩擦により一体となって連れ回りすることが確実に回避されるため、上記ロックがより一層確実に生じることとなる。
【0028】
図7には、本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施例を示す。以下においては、第1実施例と同じ構成については番号に「´」を付して説明する。
第2実施例では、基本的な構造及び作動は第1実施例のロックタイプ双方向クラッチと変わるものではないが、入力回転部材4´及び出力回転部材6´を、固定部材2´に軸支された歯車として、入力歯車IG´を入力回転部材4´と同一部品で構成したものである。本実施例においては、入力回転部材4´及び出力回転部材6´の外周面に形成された外歯歯車を介して動力の伝達が行われる。本実施例においては更に、第二の遊星歯車P2´と噛み合うアイドル外歯歯車I´も設けられている。アイドル外歯歯車I´は、入力回転部材4´及び出力回転部材6´とは独立して共通の回転軸o´の周りで回転可能な外歯歯車であって、本実施例においては第二の遊星歯車P2´にその内側から噛み合い、第二の遊星歯車P2´の回転を安定なものにしている。
【0029】
図8には、本発明のロックタイプ双方向クラッチの第3実施例を示す。以下においては、第1実施例と同じ構成については番号に「´´」を付して説明する。
第3実施例も、基本的な構造及び作動は第1実施例のロックタイプ双方向クラッチと変わるものではないが、本実施例においては、入力歯車IG´´を太陽歯車、出力歯車OG´´及び固定歯車FG´´をリング歯車となっている。本実施例においては、伝達外歯歯車DO´´と噛み合うアイドル外歯歯車I´´が設けられており、伝達外歯歯車DO´´の回転を安定なものにしている。
【0030】
以上詳述したように、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、共通のキャリア軸によって相互に回転可能に軸支される2つの遊星歯車が共に入力歯車と噛み合い、2つの遊星歯車のうちの一方が固定歯車と噛み合い、他方に伝達外歯歯車を固着すると共にこの伝達外歯歯車が出力歯車と噛み合うようにしたものである。したがって、本発明の双方向クラッチでは、作動に伴う異音等の発生を防止、入出力軸間での変速等が可能となる。上記の実施例において、各遊星歯車と支持軸との間に転がりベアリングを介在させて摩擦損失を低減するなど、上記実施例に対し各種の変形が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0031】
2:固定部材(ハウジング)
4:入力回転部材
6:出力回転部材
M:遊星歯車機構
IG:入力歯車
OG:出力歯車
P1:第一の遊星歯車
P2:第二の遊星歯車
DO:伝達外歯歯車
C:キャリア
【要約】
【課題】噛み込み用ローラを用いることなく、遊星歯車機構を組み合わせてロックタイプ双方向クラッチを構成し、作動に伴う異音等の発生を防止するとともに、出力軸を停止させるときはロック状態を確実に保持するようにすること。
【解決手段】共通のキャリア軸40によって相互に回転可能に軸支される2つの遊星歯車P1、P2が共に入力歯車IGと噛み合い、2つの遊星歯車のうちの一方P1が固定歯車FGと噛み合い、他方P2に伝達外歯歯車DOを固着すると共にこの伝達外歯歯車DOが出力歯車OGと噛み合うようにする。
【選択図】図1
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
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図10