(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)ヒトIgM定常ドメイン、(b)ヒトIgG1定常ドメイン、(c)ヒトIgG2定常ドメイン、(d)ヒトIgG3定常ドメイン、(e)ヒトIgG4定常ドメイン、および(f)ヒトIgA1/2定常ドメインからなる群より選択される重鎖免疫グロブリン定常ドメインを含む、請求項1記載の抗体またはその抗原結合断片。
(a)ヒトIgκ定常ドメインおよび(b)ヒトIgλ定常ドメインからなる群より選択される軽鎖免疫グロブリン定常ドメインを含む、請求項1記載の抗体またはその抗原結合断片。
対象におけるデングウイルス感染を軽減または予防するのに有効な、請求項1〜7のいずれか一項記載の抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】抗体のスクリーニング、発現、および特性評価のプロセスのフローチャート。国立大学病院(NUH)に入院したデング感染者からCD22+ B細胞を分離した。これらのB細胞は、不死化の効率を高めるために添加されたポリクローナルB細胞活性化剤(2.5μg/mlのCpG配列、IL2およびIL4)の存在下で、EBVを用いて不死化した。B細胞を、バフィーコートから得られた1×10
5個の同種照射PBMCを含む96ウェルの丸底ウェル内に、30個/ウェルで播種した。2週間後、これらのクローンからの上清を結合/中和活性についてELISA、PRNTおよびCPEによりスクリーニングした。陽性B細胞株のmRNAを抽出し、その抗体の重鎖および軽鎖配列をインハウス(in-house)pCMVベクターにクローニングして、高濃度の組換え抗体を産生するFreestyle(登録商標)293F細胞にトランスフェクトした。所望の特異性をもつ組換え抗体を同定して、さらに特性評価した。
【
図2】CPEおよびPRNTによる不死化B細胞株由来の上清のデング中和活性についてのスクリーニング。(A) BHK-21細胞は、EBV不死化B細胞株由来の上清の存在下に、DVでチャレンジした。(このアプローチを用いて患者につき2000の細胞株がスクリーニングされた)。細胞変性効果は、残りのインタクトな細胞を、酢酸を用いるクリスタルバイオレット溶出で染色して、595nmで吸光度を測定することによって評価した。アッセイエンドポイントを50%細胞変性効果として定義して、ウイルス濃度を最適化した。試験上清は当初1/4の希釈でスクリーニングした。クローンの上位10%はPRNTで再試験した。(B)デングに対する中和ヒト抗体を分泌するヒトBリンパ球細胞株の作製。80%集密度のBHK細胞をデングウイルスに3日間感染させた。ウイルスプラークは、生存細胞に結合するクリスタルバイオレット色素(Sigma-Aldrich社、シンガポール)を用いて可視化した。B細胞クローン(回復期のデング1感染個体に由来する)由来の上清を中和活性について試験した。BHK細胞に添加する前に、デング1(50pfu)を細胞培養上清(希釈1/4)と1時間インキュベートした。細胞株14c10は、プラーク数を大幅に減少させる抗体を分泌することが見出された。
【
図3】B細胞株14C10によって発現された抗体テンプレートおよび関連するCDRアミノ酸配列。(A) 14c10から同定されたテンプレートを用いて組換えヒトIgG1抗体を作製するための、制限酵素部位およびクローニング重鎖および軽鎖インサートを示すプラスミドマップ。(B) 14c10の同定およびクローン化された、CDR領域(それぞれCDR1、CDR2およびCDR3)を含むすべての重鎖
(出現順にそれぞれSEQ ID NO: 13〜24)および軽鎖配列
(出現順にそれぞれSEQ ID NO: 1〜12)、ならびに異なる組換え抗体を作製するための重鎖および軽鎖の組み合わせの12の順列。
【
図4】抗体テンプレート14c10.8はデング血清型1に対する結合活性をもつ組換え抗体をコードする。(A) 293Fで発現させて、その上清から精製された、B細胞株14c10由来のすべての組換え発現抗体を試験するために採用されたサンドイッチELISA。テンプレート番号8は明らかに、デングウイルス血清型1について陽性シグナルを与える。(B) 14c10.8重鎖
(それぞれSEQ ID NO: 25および17)および軽鎖
(それぞれSEQ ID NO: 26および27)の完全ヌクレオチドおよびアミノ酸配列(CDR領域が強調されている)。
【
図5-1】PRNTおよびELISAによる組換え14c10.8抗体の血清型特異性。(A)生存する全デングウイルス血清型1に対する組換えIgG1 14c10抗体の特異性を示すサンドイッチELISA。デング血清型2、3または4に対する観察可能な結合活性はない。(B) Westpac 74デングウイルス血清型1に対する組換え14c10.8抗体の特異性を示すPRNTデータ。有意な中和活性はデング血清型2、3または4について検出されなかった。
【
図5-2】PRNTおよびELISAによる組換え14c10.8抗体の血清型特異性。(C)デングウイルス血清型1に対する14c10.8の血清型特異性を示すPRNTの生データ。
【
図6】14c10.8は、インビトロでのデング感染に対して同型抗体依存性増強(ADE)を示すが、異型抗体依存性増強を示さない。連続希釈した14c10.8抗体を等量のウイルス(1 MOI)と共に37℃で1時間インキュベートし、次にヒト骨髄単核細胞株K562(ADEアッセイで通常利用される細胞株)に移して37℃で4日間インキュベートした。その後上清を感染K562細胞から採取し、結果として生じるウイルス力価をPRNTで評価した。ADEは、抗体が添加されていないときの対照(青色の点線)に比較して、増加したウイルス力価として定義される。データは、デングウイルス血清型1におけるADEの存在を示すが、血清型2、3および4では示さない。この観察は、14c10.8が、増強濃度ではなく中和濃度で与えられるという条件で、デング1感染者に与えても安全な抗体である、ことを示唆している。
【
図7】異なるヒトIgGサブクラスへの14c10.8の変換はその同型増強活性に影響を与える。本発明者らは、概説した構築物を用いて、14c10をヒトIgG1からヒトIgG3およびヒトIgG4に変換した。これらを293F細胞で組換え抗体として発現させ、次にさらなる試験のためにプロテインAセファロースカラムで精製した。本発明者らは、
図6で説明したように、K562細胞株を用いて同型増強を試験した。IgG3は最大の増強活性を示すのに対して、IgG1は中間であり、そしてIgG4は最低レベルの増強活性を有する。
【
図8】14c10.8はデングウイルスのEタンパク質に特異的である。(i)細胞をDVに2日間感染させた。すると細胞が溶解し、ウイルスの混合物にS
32メチオニンを添加してその放射性化合物を取り込ませた。その混合物に抗体を添加し、続いてプロテインA-アガロースビーズを添加して4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、タンパク質を非還元ローディングバッファーで溶出し、15%SDS-ポリアクリルアミドゲルで泳動し、その後銀染色を製造プロトコル(SilverQuest染色キット、Invitrogen社)に従って行った。56KdのバンドはデングウイルスのEタンパク質に相当する。(ii)精製した全デングウイルス(変性および非変性)を非変性ゲルにロードし、膜に移行させて14C10抗体でブロットした。結果は、14C10がデングEタンパク質上の線形エピトープに弱く結合することを示した。
【
図9-1】さまざまなデング血清型1遺伝子型に対する組換え14c10抗体の中和活性。漸増濃度の抗体を50プラーク形成単位(p.f.u.)のさまざまな遺伝子型のデングウイルス血清型1(ウイルスの遺伝子型名はカッコ内に提供される)に添加し、37℃で1時間インキュベートした。100μlの混合物を24ウェルプレート内のBHK-21細胞の単層に添加し、37℃で1時間インキュベートした。上清を除去し、2%FBSを加えたRPMI中の2%(w/v)カルボキシメチルセルロース1mlを感染細胞の上に重層した。37℃でさらに4日間インキュベートした後、ウェルを25%(v/v)ホルムアルデヒドに溶解した0.5%(w/v)クリスタルバイオレットで染色して、プラークを可視化した。
図9は、出現順にそれぞれSEQ ID NO: 28〜32を開示する。
【
図9-2】さまざまなデング血清型1遺伝子型に対する組換え14c10抗体の中和活性。漸増濃度の抗体を50プラーク形成単位(p.f.u.)のさまざまな遺伝子型のデングウイルス血清型1(ウイルスの遺伝子型名はカッコ内に提供される)に添加し、37℃で1時間インキュベートした。100μlの混合物を24ウェルプレート内のBHK-21細胞の単層に添加し、37℃で1時間インキュベートした。上清を除去し、2%FBSを加えたRPMI中の2%(w/v)カルボキシメチルセルロース1mlを感染細胞の上に重層した。37℃でさらに4日間インキュベートした後、ウェルを25%(v/v)ホルムアルデヒドに溶解した0.5%(w/v)クリスタルバイオレットで染色して、プラークを可視化した。
図9は、出現順にそれぞれSEQ ID NO: 28〜32を開示する。
【
図10】14c10はインビボで予防と治療の両活性を示す:(A) 14c10.8の予防活性は、デング血清型1に感染させる24時間前に、種々の濃度の抗体をAG129(n=6)マウスに注射することによって観察した。250μg/マウスの抗体の1回治療用量を、デングウイルス感染の24時間後に単一のコホート(n=6)に与えた。結果として生じるウイルス血症は、感染4日後にPRNTで感染マウスの血清において定量した。(B) 14c10.8は1〜5μg/マウスの濃度で予防活性を示す。抗体のより低い濃度では、感染増強の証拠がいくつかある。
【
図11】HM14c10はDENV1に特異的なヒト抗体である。(A) HM14c10はDENV1に特異的な中和活性を示し、50%および90%PRNT値がそれぞれ0.328μg/mlおよび1.313μg/mlである。(B) HM14c10は中和濃度以下でDENV1に対して同型ADEを誘導するが、DENV2、DENV3またはDENV4に対しては異型ADEを誘導しない。HM4G2は4つすべての血清型に対してADE活性を誘導する。(C)(a) HM14c10のFab断片またはIgG1 Fc領域の変異(N297Q)は、同型ADEを大幅に低減させた。(b)ヒトIgG(HM14c10)の異なるサブクラスは、異なったレベルの同型ADEを媒介する。(D) HM14c10は、HM4G2に比べて、多数のDENV1遺伝子型を高度に中和する。遺伝子型はウイルス名称の横のカッコ内に示される。エラーバーは3通りのサンプルの標準偏差を表し、すべての実験を少なくとも3回実施した。
【
図12】HM14c10はウイルスの四次構造依存性エピトープに結合する。(A)ウイルス表面(青緑色)上の180のEタンパク質に結合する120のFab(青色)を示すFab 14c10:DENV1複合体のcryoEMマップ。黒の三角形は非対称単位を表す。(B) Eタンパク質エピトープ(紫色の球)へのFab HM14c10(I)の連結密度の図。Eタンパク質のE-DI、E-DIIおよびE-DIIIはそれぞれ赤、黄および青に着色される。(C)2つの非対称単位内のEタンパク質Cα鎖上のFab分子の密度。Fab HM14c10(I)およびHM14c10(II)は、1つの非対称単位内の2つの独立した分子である。(D)非対称単位内の3つのEタンパク質(灰色に網掛け)上のFab HM14c10(I)(紫色の球)およびHM14c10(II)(青緑色の球)のエピトープ。
【
図13】HM14c10はBHK細胞へのDENV1付着をブロックし、かつインビボで強力な防御活性を示す。(A)(a)アイソタイプ対照mAb、(b)HM4G2、および(c)HM14c10 mAbの存在下でのBHK宿主細胞のDENV1感染を示すタイムラプス共焦点顕微鏡法。左側のパネル:DENV1およびMabは、それぞれAlexafluor-647(赤色)およびAlexafluor-488(緑色)で標識した。右側のパネルは、細胞境界(白の点線)および細胞内のDENV1の分布を示す。(B)生存感染イベントのクローズアップ。DENV1は、アイソタイプ対照では18分から、そしてHM4G2では28分からBHK細胞の内部に観察される。HM14c10:DENV1複合体はBHK細胞に付着することができない。(C)ウイルス内在化の指標として1時間にわたって定量化された120のランダムに選択された細胞の内部赤色蛍光強度。3つのグループの比較のために1-way ANOVA(一元配置分散分析)を利用した。**p<0.0001。(D)予防および治療剤としての使用についてHM14c10を試験する;DENV1に感染したAG129マウスに抗体を感染後0日目と2日目にそれぞれ投与する。HM14c10は、ウイルスを(a)皮下注射しようと、(b)腹腔内注射しようと、防御応答を示した。血中ウイルスのレベルをプラークアッセイによってそれぞれ感染後3日目または4日目にアッセイする。両モデルでn=5であり、サンプルセットの比較のためにt検定を採用した。**p<0.0001、*p<0.05(PBS対照と比較)。
【
図14】デングウイルスに対する中和活性を有する完全ヒト抗体の同定および組換え発現。(A)(a)2000のEBV-B細胞株をDENV1感染者から生成させ、上清をDENV2、3または4ではなくDENV1への結合活性についてELISAでスクリーニングした。7つの陽性EBV-BCL細胞株を同定した。(b)中和活性について試験するためにプラーク減少中和試験(PRNT)を実施した。データは最高希釈率でのPRNT100(すなわち、完全な中和)として表され、3回の実験の平均値である。(B)(a) HEK293細胞内でEBV-BCL由来の抗体重鎖および軽鎖テンプレートを発現させるために利用したpTT5ベクターの概略図。(b) 12の組換えヒトIgG1 mAbをEBV-BCL 14c10細胞株からクローン化して発現させ、ELISAによりDENV1への結合活性について試験した。ヒト化マウスモノクローナル4G2抗体(HM4G2)を陽性対照として使用した。組換え抗体テンプレート番号8(HM14c10と呼ばれる)はDENV1に対して結合活性を示した。(C)(a) DENV1、2、3および4に対するHM14c10のPRNT活性。(b) HM14c10をELISAによりDENV1、2、3および4への結合活性について試験した。これらのデータは、3回の実験の平均および3通りのサンプルセットの平均からの標準偏差に等しいエラーバーを表す。
【
図15】HM14c10は複数のDENV1臨床分離株に対して結合活性を示す。数種のDENV1分離株に対するHM14c10の結合活性は、確立されたELISAプロトコルを用いて、さまざまな濃度でヒト化マウスモノクローナル抗体HM4G2と比較された。すべてのDENV1分離株を1×10
6pfu/mlで用いて、捕捉試薬としてHB112を用いて4℃で一晩コーティングした。HM14c10またはHM4G2抗体を5μg/mlで加え、結合活性の検出のために抗ヒトIgG HRPコンジュゲートを利用した。
【
図16】デング1ウイルスと複合体化されたFab HM14c10のcryoEMマップへのDENV1 Eタンパク質の融合後結晶構造のフィット。(A)フィットしたデング1 Eタンパク質の上面図。cryoEMマップは、Eタンパク質密度の明確な輪郭が観察できるように、5.5σの高い等高線レベルで表示される。この等高線レベルでは、Fab密度が消失し、このことは、すべての利用可能なEタンパク質エピトープがウイルス表面上でFab分子によって占有されるわけではない、ことを示している。ウイルス表面の電子密度は、DENV1 Eタンパク質の融合後構造の結晶構造にフィットさせることによって解釈された(18)。DENV1融合後Eタンパク質の結晶構造は、剛体としてcryoEMマップにうまくフィットしないので、Eタンパク質の3つのドメインを別々にフィットさせねばならなかった。Eタンパク質のドメインI、IIおよびIIIはそれぞれ赤、黄および青に着色される。2つの非対称単位からのEタンパク質がここに示され、さらに1つの非対称単位が三角形で示される。(B) DENV1の表面上のフィットしたEタンパク質の側面図。Fab分子の密度、Eタンパク質のエクトドメインおよび膜貫通(Tm)へリックスを観察することができる。2つの隣接するEタンパク質上の位置Asn159のグリカンに対応する密度が矢印でマークされ、そして脂質二重層の外側および内側リーフレットの位置が示される。cryoEMマップは2.5σ等高線レベルで示される。
【
図17】Fab HM14c10とEタンパク質の結合界面の立体図。Fab HM14c10(II)の密度はウイルス表面上のEタンパク質への明確な連結を示す。接触残基は球で示される。cryoEM密度は2.5σ等高線レベルで示される。
【
図18】HM14c10(緑色)と基準ヒトモノクローナル抗体(PDBコード2GHW)(青色)とのホモロジーモデルの可変領域の重ね合わせ。図は抗体可変領域の(A)側面図および(B)上面図を示している。
【
図19】HM14c10:DENV1 cryoEM密度マップへのHM14c10可変領域のホモロジーモデルのフィッティング。(A)抗体可変領域の各鎖(aおよびb)に対応する密度はcryoEMマップから円で囲まれている。フィットしたEタンパク質の接触残基は青緑色の球で示される。E-DI、E-DIIおよびE-DIIIはそれぞれ赤、黄および青に着色される。(B)ホモロジーモデルの軽鎖および重鎖をFab cryoEM密度の可変領域に別々にフィットさせた。
a Fab位置の指定については、
図12を参照のこと。
b Fab密度の指定については、(A)を参照のこと。
c HM14c10:DENV1 cryoEMマップ(3σの等高線レベルに設定)へのホモロジーモデルのフィットは、Chimera(35)のフィットインマップ(fit-in-map)機能を用いて最適化した。(C)フィットしたHM14c10可変領域のホモロジーモデル(緑色)であり、CDRを赤紫色で示す。図示されたフィットは、Fab密度aに軽鎖、そしてFab密度bに重鎖を有する。
【
図20】デング血清型1(遺伝子型PVP159)のHM14c10エピトープ、ならびに該エピトープと、(A)他のDENV1遺伝子型
(出現順にそれぞれSEQ ID NO: 33〜38)との、(B)デング血清型および西ナイルウイルス(WNV)
(出現順にそれぞれSEQ ID NO: 34および39〜42)との比較。非対称単位内のFab HM14c10(I)およびFab HM14c10(II)により認識されるエピトープ間で共通のアミノ酸残基は緑に着色される。Fab HM14c10(I)またはFab HM14c10(II)により独自に認識される残基は、それぞれ紫および青緑に着色される。Fab HM14c10により認識されるエピトープのアミノ酸配列は、DENV1遺伝子型内で保存されているが、デング血清型または西ナイルウイルスにわたっては保存されていない。このことは、Fab HM14c10がほとんどのデング1遺伝子型に結合するが、他のデング血清型または(a)位置X1およびIIもしくは(b)位置X2およびIの抗体フットプリントが遮られているフラビウイルスとは交差反応しない、という観察と一致している。
【
図21】標識DENV1の感染力およびインビボ効力。(A)生存DENVの標識付けは以前に記載されたとおりに行った(22)。標識ウイルスの感染力および生存力は、BHK細胞での滴定を介してプラークアッセイにより試験した。(B) HM14c10のインビボ有効性は、DENV1ウイルスの異なる株/濃度および異なるウイルス送達方法を用いる2つのインビボモデルで試験した。これらのモデルの両方の概略図が示される。(a)モデル1では、1×10
6pfuのEHID1株を皮下(S.C.)注射し、4日後血清ウイルス量をプラークアッセイにより測定した。予防薬はDENV1感染の24時間前に与えられ、治療用途では感染後+2日目に与えられる。(b)2番目のより攻撃的なDENV1感染モデルも採用された。マウスに1.25×10
7pfuのDENV1のWestpac株を腹腔内注射した。ウイルス感染と予防および治療処置は、モデル1と同じ時点に腹腔内(I.P.)注射で施した。このモデルでは、血漿ウイルス血症が感染後+3日目にピークに達し、ここで、投与された抗体の血清ウイルス血症に対する効果を測定する。両グループの対照は、等量の滅菌生理食塩水を与えられた。
【
図22】西ナイルウイルス抗体CR4354およびデング1特異的HM14c10によって結合されたエピトープの比較。(A) HM CR4354およびHM14c10の、それぞれWNV(左)(25)およびDENV(右)のEタンパク質へのフィット。cryoEM密度は2.8σ(CR4354:WNV)または2.5σ(HM14c10:DENV1)の等高線レベルで表示される。(B)球で示される抗体CR4354またはHM14c10を有するWNV(左)およびDENV1(右)の非対称単位。非対称単位内の2つの独立した結合部位のエピトープは紫と青緑に着色される。非対称単位内の3つのEタンパク質は灰色に網掛けされる。非対称単位は黒の三角形として示される。(C) CR4354(WNV上)とHM14c10(DENV上)の間の2つの独立したエピトープ(a
(それぞれSEQ ID NO: 33および42)およびb
(それぞれSEQ ID NO: 33および42))の残基の比較。2つの独立したエピトープの残基は(B)のように着色される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
本発明は、全体として、脊椎動物対象におけるデングウイルス感染を予防または治療するための組成物および方法に関する。特に、本発明者らは、国立大学病院(NUH)の感染症部門に入院したデング感染者からCD22+ B細胞を単離した。こうしたB細胞はインビトロでEBVを用いてポリクローナル細胞株として不死化した。ポリクローナルB細胞活性化剤(CpG配列)を、ヒトB細胞増殖因子のインターロイキン2およびインターロイキン4(それぞれ1000U/ml)と共に、B細胞不死化の効率を高めるために添加した。ヒトB細胞株は96ウェルの丸底ウェル内で作製した。2週間後、これらのクローンからの上清は、デングウイルスに対する結合/中和活性を分析するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、プラーク減少中和試験(PRNT)および細胞変性効果アッセイ(CPE)でスクリーニングした。陽性抗体を産生するB細胞株は、抗体重鎖および軽鎖の遺伝子増幅のためのmRNA源として使用した。抗体の重鎖および軽鎖配列はインハウスpCMVベクターにクローニングして、高濃度の組換え抗体を産生するFreestyle(登録商標)293F細胞にトランスフェクトした。この方法を用いて、本発明者らは、極めてデング血清型1に特異的でありかつ種々のデング血清型1遺伝子型に対して広範な特異性を有する組換え抗体をクローニングして発現させた。この抗体はフラビウイルス属の他のウイルスに結合することがなく、そのため、他のフラビウイルスへのマクロファージの感染増強を、デング血清型1に予想されるものを超えて、示すことはほとんどないか、まったくない。インビボでの実験は、デング感染のマウスモデルにおいて顕著な予防および治療効果を示した。したがって、この抗体は、利用可能な最も優れた、現存するデング1感染のための候補治療薬に相当する。
【0035】
定義
本発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物学的システムに限定されるものではなく、当然、これらはさまざまに変化しうる、ことを理解すべきである。また、本明細書中で用いる用語は、特定の局面のみを説明する目的のためであり、限定することを意図したものではない、ことも理解すべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲で用いるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数形の照応を含むものである。
【0036】
量、持続時間などの測定可能な値に言及するときに本明細書中で用いる「約」という用語は、開示された方法を実施するのに適するような、特定された値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、より一層好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0037】
特に定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解している意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似のまたは同等の方法および材料はどれも、本発明の試験の実施に際して使用することができるが、好ましい材料および方法が本明細書に記載される。
【0038】
「脊椎動物」、「哺乳動物」、「対象」、「哺乳動物対象」または「患者」は、交換可能に用いられ、哺乳動物、例えばヒト患者および非ヒト霊長類、ならびに実験動物、例えばウサギ、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ヤギおよび他の動物を指す。動物には、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えばマウス、ヒツジ、イヌ、ウシ、鳥類、アヒル、ガチョウ、ブタ、ニワトリ、両生類、および爬虫類が含まれる。
【0039】
「治療する」または「治療」は、一般的に、(i)感染もしくは再感染の防止、例えば予防、または(ii)関心対象の疾患の症状の軽減もしくは除去、例えば治療、のいずれかを指す。本発明の組成物を用いて対象を治療することは、デングウイルス、特に血清型1、からの感染のリスクを防止するまたは減少させることができる。治療は、予防的(疾患の発症を防止するもしくは遅らせること、またはその臨床的もしくは亜臨床的症状の発現を防止すること)、または疾患の発現後の症状の治療的抑制もしくは緩和であり得る。
【0040】
「防止する」または「防止」は、本発明の組成物を用いる予防的投与を指す。
【0041】
「治療に有効な量」または「感染を軽減もしくは除去するのに有効な量」または「有効量」は、デングウイルス感染を防止するか、そのような感染に伴う症状の少なくとも1つを緩和する(例えば、和らげる、軽減する、抑制する)のに十分である、抗体組成物の量を指す。組成物を投与することの利益が不利益を上回る限り、組成物の投与がデング感染の症状を取り除く必要はない。同様に、デング感染に関して用語「治療する」は、本明細書中で用いるとき、対象が必然的に感染を治癒されること、またはそのすべての臨床兆候が取り除かれることを意味するものではなく、単に対象の症状のいくらかの緩和または改善が組成物の投与によって達成されることを意味するにすぎない。
【0042】
「受動免疫」は、一般的に、ある個体からの予め生成された抗体の形での能動液性免疫を別の個体に移入することを意味する。したがって、受動免疫は抗体の移入によって達成され得る短期的免疫化の形態であり、こうした抗体はいくつかの可能な形態で投与され、例えば、ヒトもしくは動物の血漿または血清として、静脈内(IVIG)または筋肉内(IG)使用のためのプールされた動物もしくはヒト免疫グロブリンとして、免疫された対象由来のまたは疾患から回復しているドナー由来の高力価の動物もしくはヒトIVIGまたはIGとして、およびモノクローナル抗体として投与することができる。受動移入は疾患発症の防止のために予防的に使用されるだけでなく、いくつかのタイプの急性感染の治療にも使用され得る。一般的に、受動免疫化に由来する免疫は、ほんの短い期間だけ持続して、即時的防御を提供するが、その身体は記憶を発達させることはなく、したがって、患者はあとで同じ病原体に感染するリスクがある。
【0043】
抗体
本明細書中で用いる「抗体」という用語は、任意の免疫グロブリンつまりインタクトな分子、ならびに特定のエピトープに結合するその断片を指す。このような抗体には、限定するものではないが、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、一本鎖、全抗体のFab、Fab'、F(ab)'断片および/またはF(v)部分、ならびにこれらの変異体が含まれる。IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMを含めて、すべてのアイソタイプがこの用語に包含される。
【0044】
本明細書中で用いる用語「抗体断片」とは、特に、親抗体の抗原結合機能を保持する抗体の完全配列の不完全な部分または分離された部分を指す。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体;ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0045】
インタクトな「抗体」は、ジスルフィド結合で相互に接続された少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはV
Hと略す)と重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は3つのドメインCH
1、CH
2およびCH
3から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはV
Lと略す)と軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインC
Lから構成される。V
HおよびV
L領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が組み込まれている、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに分割することができる。各V
HおよびV
Lは、アミノ末端からカルボキシル末端へ次の順序で配置された、3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の各種細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含めて、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。抗体という用語には、結合する能力を保持するインタクト抗体の抗原結合部分が含まれる。該結合部分の例としては、以下が挙げられる:(i) V
L、V
H、C
LおよびCH1ドメインからなる1価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された2つのFab断片を含む2価断片であるF(ab')
2断片;(iii) VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのV
LおよびV
HドメインからなるFv断片;(v) VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., Nature, 341:544-546 (1989));および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)。
【0046】
本明細書中で用いる用語「一本鎖抗体」または「一本鎖Fv(scFv)」とは、Fv断片の2つのドメインV
LおよびV
Hの抗体融合分子を指す。Fv断片の2つのドメインV
LおよびV
Hは別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を用いて、1本のタンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーによって連結することが可能であり、そこではV
LおよびV
H領域が対合して1価の分子を形成する(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al., Science, 242:423-426 (1988); およびHuston et al., Proc Natl Acad Sci USA, 85:5879-5883 (1988)を参照されたい)。このような一本鎖抗体は用語「抗体」断片への言及によって包含され、組換え技術またはインタクト抗体の酵素的もしくは化学的切断によって調製することができる。
【0047】
本明細書中で用いる用語「ヒト配列抗体」には、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域(存在する場合)を有する抗体が含まれる。本発明のヒト配列抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発により、またはインビボでの体細胞変異により導入された変異)を含むことができる。このような抗体は、例えば、PCT出願公開番号WO 01/14424およびWO 00/37504に記載されるように、非ヒトトランスジェニック動物において生成することができる。しかしながら、用語「ヒト配列抗体」は、本明細書中で用いるとき、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされている抗体(例えば、ヒト化抗体)を含むことを意図していない。
【0048】
また、組換え免疫グロブリンを生産することも可能である。Cabillyの米国特許第4,816,567号(すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる);およびQueen et al., Proc Natl Acad Sci USA, 86:10029-10033 (1989)を参照されたい。
【0049】
本明細書中で用いる用語「モノクローナル抗体」とは、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。したがって、用語「ヒトモノクローナル抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域(存在する場合)を有する、単一の結合特異性を示す抗体を指す。一局面において、ヒトモノクローナル抗体はハイブリドーマによって産生され、該ハイブリドーマは、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖トランスジーンおよび軽鎖トランスジーンを含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物(例えば、トランスジェニックマウス)から得られたB細胞を含む。
【0050】
本明細書中で用いる用語「抗原」とは、抗体の生成を促し、かつ免疫応答を引き起こすことができる物質を指す。それは本開示では用語「免疫原」と交換可能に用いることができる。厳密な意味では、免疫原は免疫系から応答を引き出す物質であるのに対し、抗原は特異的抗体に結合する物質として定義される。抗原またはその断片は、特定の抗体に接触する分子(すなわち、エピトープ)であり得る。タンパク質またはタンパク質の断片が宿主動物を免疫するために用いられる場合、該タンパク質の多数の領域は、抗原(該タンパク質上の所定の領域または三次元構造)に特異的に結合する抗体の生成を誘導する(すなわち、免疫応答を引き出す)ことができる。
【0051】
本明細書中で用いる用語「ヒト化抗体」とは、該抗体がヒト抗体によく類似し、かつその元の結合能をまだ保持するように、非抗原結合領域および/または抗原結合領域のアミノ酸配列が変更されている少なくとも1つの抗体分子を指す。
【0052】
さらに、適切な抗原特異性のマウス抗体分子からの遺伝子を、適切な生物学的活性のヒト抗体分子からの遺伝子と一緒にスプライシングすることによる、「キメラ抗体」(Morrison, et al., Proc Natl Acad Sci, 81:6851-6855 (1984);その全体が参照により本明細書に組み入れられる)の作製のために開発された技術を使用することができる。例えば、オートインデューサーに特異的なマウス抗体分子からの遺伝子は、適切な生物学的活性のヒト抗体分子からの遺伝子と一緒にスプライシングすることができる。キメラ抗体は、マウスmAb由来の可変領域とヒト免疫グロブリンの定常領域をもつような、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。
【0053】
さらに、ヒト化抗体を作製するための技術が開発されている(例えば、米国特許第5,585,089号および米国特許第5,225,539号を参照されたい;それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる)。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、3つの超可変領域によって中断された「フレームワーク」領域から成る。簡単に述べると、ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1つ以上のCDRおよびヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子である。
【0054】
あるいはまた、一本鎖抗体の作製について記載された技術は、本開示の免疫原性コンジュゲートに対する一本鎖抗体を作製するために適合させることができる。一本鎖抗体は、Fv領域の重鎖断片と軽鎖断片をアミノ酸架橋で連結して、一本鎖ポリペプチドを生じさせることによって形成される。抗体分子のFabおよびF(ab')2部分は、周知の方法によって、実質的にインタクトな抗体分子に対する、それぞれパパインおよびペプシンのタンパク質分解反応によって調製することができる。例えば、米国特許第4,342,566号を参照されたい。Fab'抗体分子部分もよく知られており、F(ab')2部分の2つの重鎖部分を連結しているジスルフィド結合をメルカプトエタノールなどで還元し、続いて得られたタンパク質メルカプタンをヨードアセトアミドなどの試薬でアルキル化することによって、F(ab')2部分から作製される。
【0055】
抗体アッセイ
抗体の特異性および親和性を確認するために、そしてその抗体が他のタンパク質と交差反応するかどうかを判定するために、関心対象の抗体をアッセイするための多くのスクリーニングアッセイが当技術分野で知られている。
【0056】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、抗原とそれに対応する抗体との相互作用を指す。その相互作用は、結合分子(すなわち、抗原またはエピトープ)によって認識されるタンパク質の特定の構造の存在に依存する。結合が特異的であるためには、それは、関心対象のエピトープの抗体への結合を含むべきであり、そしてバックグラウンド抗原の結合を含むべきでない。
【0057】
ひとたび抗体が産生されると、それらは、それらが関心対象の抗原に特異的であることを確認するために、そしてそれらが他の抗原との交差反応性を示すかどうかを判定するために、アッセイされる。そのようなアッセイを実施する1つの方法は、米国特許出願公開第2004/0126829号に記載されるような血清スクリーンアッセイである;その内容は参照により本明細書に明示的に組み入れられる。しかし、品質管理についてアッセイする他の方法は当業者の技能の範囲内であり、したがって、本開示の範囲内でもある。
【0058】
本開示の抗体、またはその抗原結合断片、変異体もしくは誘導体はまた、抗原に対するそれらの結合親和性の観点から記載するまたは特定することができる。抗原に対する抗体の親和性は、任意の適切な方法を用いて実験的に測定することができる(例えば、Berzofsky et al., "Antibody-Antigen Interactions," Fundamental Immunology, Paul, W. E.編, Raven Press: New York, N.Y. (1984); Kuby, Janis Immunology, W. H. Freeman and Company: New York, N.Y. (1992); および本明細書に記載の方法を参照されたい)。測定された特定の抗体-抗原相互作用の親和性は、異なる条件(例えば、塩濃度、pH)下で測定する場合にはばらつきがある。それゆえ、親和性および他の抗原結合パラメータ(例えば、K
D、K
a、K
d)の測定は、抗体および抗原の標準液と標準バッファーを用いて行うことが好ましい。
【0059】
親和性結合定数(K
aff)は次式を用いて決定することができる:
式中、
【0060】
[mAb]はフリーの抗原部位の濃度であり、そして[mAg]は2つの異なる抗原濃度(すなわち、[mAg]
tおよび[mAg']
t)で測定されたフリーのモノクローナル結合部位の濃度である(Beatty et al., J Imm Meth, 100:173-179 (1987))。
【0061】
抗体に関する用語「高親和性」とは、少なくとも約1×10
7リットル/モル、または少なくとも約1×10
8リットル/モル、または少なくとも約1×10
9リットル/モル、または少なくとも約1×10
10リットル/モル、または少なくとも約1×10
11リットル/モル、または少なくとも約1×10
12リットル/モル、または少なくとも約1×10
13リットル/モル、または少なくとも約1×10
14リットル/モルまたはそれ以上の平衡結合定数(K
aff)を指す。「高親和性」結合は、抗体アイソタイプごとに異なる可能性がある。平衡解離定数K
Dは、抗体親和性を記述するためにも用いられる用語であり、K
affの逆である。
【0062】
平衡解離定数K
Dは、抗体親和性を記述するためにも用いられる用語であり、K
affの逆である。K
Dが用いられる場合、抗体に関する用語「高親和性」とは、約1×10
-7モル/リットル未満、または約1×10
-8モル/リットル未満、または約1×10
-9モル/リットル未満、または約1×10
-10モル/リットル未満、または約1×10
-11モル/リットル未満、または約1×10
-12モル/リットル未満、または約1×10
-13モル/リットル未満、または約1×10
-14モル/リットル未満もしくはそれよりも低い平衡解離定数(K
D)を指す。
【0063】
本開示に係る抗体の生成は、生理学的ヒト免疫応答の過程で生成される抗体の特性、すなわちヒト免疫系によってのみ選択され得る抗体特異性、を備えた抗体を提供する。本ケースでは、これはヒト病原体デングウイルス血清型1に対する応答を含む。いくつかの態様では、本開示の抗体は、デングウイルスによる感染への応答の過程で生成されるものの特性を保有する。こうした抗体は適切な製剤化により予防薬または治療薬として使用することができる。
【0064】
特定の病原体に関して、「中和抗体」、「広域中和抗体」または「中和モノクローナル抗体」とは、これらのすべてが本明細書では交換可能に用いられるが、宿主内で感染を開始および/または持続させる該病原体の能力を中和することができる抗体のことである。いくつかの態様では、本開示に従って生成されるモノクローナル抗体は、その抗体が10
-9Mまたはそれ以下(例えば、10
-10M、10
-11M、10
-12Mまたはそれ以下)の濃度で中和することができる場合に、中和活性を有する。
【0065】
本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)、またはサブクラスのものであってよい。いくつかの態様では、抗体は抗原結合性の抗体断片(例えば、ヒト)であり、限定するものではないが、Fab、Fab'およびF(ab')
2、Fd、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、ならびにV
LまたはV
Hドメインのいずれかを含む断片が挙げられる。一本鎖抗体などの抗原結合性の抗体断片は、可変領域(1つまたは複数)を、単独でまたは下記の全体もしくは一部と組み合わせて、含むことができる:ヒンジ領域、CH1、CH2、およびCH3ドメイン。また、可変領域(1つまたは複数)とヒンジ領域、CH1、CH2、およびCH3ドメインとの任意の組み合わせを含む抗原結合断片も本開示に包含される。
【0066】
B細胞の単離
本明細書中で用いる用語「B細胞」、「Bメモリー細胞」、「Bリンパ球」、「Bメモリーリンパ球」、「メモリー細胞」、「メモリーB細胞」、およびこれらの異形は交換可能に使用され、液性免疫応答のB細胞を指す。当技術分野で理解されるように、B細胞は、(T細胞によって支配される細胞性免疫応答とは対照的に)液性免疫応答の役割を果たすリンパ球である。B細胞の少なくとも1つの機能は、抗原に対する抗体を産生し、抗原提示細胞(APC)の役割を果たし、最終的に、抗原相互作用による活性化後にメモリーB細胞へと発達することである。B細胞は適応免疫系の一構成要素である。
【0067】
用語「一次B細胞」は、いくつかの態様では、生体(例えば、ヒト)から直接採取されたB細胞を指すことができる。いくつかの態様では、一次B細胞は、初代細胞培養で培養することができる。一次B細胞は、当業者に知られた任意の方法で対象から由来する、取得する、または採取することができる。いくつかの態様では、一次B細胞は、関心対象の抗原に感染したまたは該抗原を保有する対象から得られる。
【0068】
本開示の方法は、感染体、例えばデングウイルス、に暴露された患者などのドナーから選択されたヒトB細胞により発現されるモノクローナル抗体を同定するために適用され得る。それゆえ、ドナーは、ナイーブである、ワクチン接種されている、1つまたは複数の疾患または感染症に罹っている、特定の治療的処置にすでにさらされているおよび/または耐性である、特定の臨床指標または臨床状態を提示している、病原体に誤ってさらされている、などであってよい。
【0069】
ドナーの血清は、抗原に対する血清反応陽性の初期判定のためにそのまま使用することができる。というのは、(この抗原への最後の暴露から数年経過後でさえ)適応免疫応答の特異性および長期維持は、ドナーを選択するのに十分である定性的測定を可能にするからである。採用するスクリーニングアッセイの性質および感度は、最適なドナーを同定する上で重要であり、好ましくは、ドナー血清のスクリーニングに用いられるアッセイは、不死化された抗体分泌B細胞からの上清をスクリーニングするために用いられかつ所望の機能活性(すなわち、中和活性)をもつ抗体を検出するために設計されたアッセイと同一であるべきである。
【0070】
細胞がそこから精製される組織または器官の選択は、十分な量での適切な細胞の入手可能性によって決定され得る。細胞は、新鮮なもしくは凍結されたサンプルから、および/または十分な出発材料を提供するためにプールされた多くの個体由来のサンプルから取得することができる。
【0071】
予備スクリーニングは、抗体分泌細胞を含むサンプル(例えば、全末梢血液または血清)を用いて、候補ドナーのパネルに対して行うことができる。特に、単核細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)を単離するための標準的な分離技術、例えば勾配遠心分離を用いて、血液またはリンパ組織から単離することができる。この分離工程の後および/または前に、血清(または血漿)、細胞培養上清、または細胞(異なる患者から、異なる組織から、および/または異なる時点で取得されたもの)のサンプルは、抗体および抗体分泌細胞の存在を検出するための標準技術(例えば、ELISA、BIACORE、ウェスタンブロット、FACS、SERPA、抗原アレイ、細胞培養系でのウイルス感染の中和、またはELISPOTアッセイ)を用いて、予備スクリーニングすることができる。
【0072】
当技術分野における例としては、例えば、ワクチン接種されたドナーの免疫応答を特徴づけるためのELISPOTの使用(Crotty S et al., 2004)、新たに感染した患者のための診断ツールとしての抗原マイクロアレイの使用(Mezzasoma L et al., 2002)、および抗原特異的免疫応答を測定するための他の技術(Kern F et al., 2005)が挙げられる。
【0073】
治療標的に対する抗体応答のこの予備定性解析は、所望の精製抗原(例えば、特定の組換えウイルスタンパク質)、関連抗原の混合物(例えば、部分精製ウイルス調製物から得られるもの)、またはバイオアッセイ(例えば、ウイルス感染の中和)に向けられた、より高い抗体価を発現するB細胞を有するドナーの同定を可能にすべきである。
【0074】
いったん1または複数のドナーが選択されたら、B細胞の供給源は脾臓、血液、リンパ節、骨髄、腫瘍浸潤リンパ球、慢性感染/炎症部位からのリンパ球とすることができる。しかし、通常、ドナーから取得し、保存し、そして一定期間にわたって抗原に対する血清学的応答をモニタリングするには、末梢血のほうが容易である。
【0075】
例えば、5〜50mlの末梢血から出発して、約1,000万〜1億個のPBMC(末梢血単核細胞)を精製することができ、この細胞数は、本明細書に記載の方法を用いて不死化した後で、抗体分泌細胞の十分に大きな集団をスクリーニングすることを可能にするだろう。
【0076】
生物学的サンプルからPBMCを単離した後で、抗体分泌細胞の特異的選択は、当技術分野で公知の方法を用いて、その表面上の細胞表面マーカーと適宜に他のタンパク質の発現、ならびに細胞の増殖活性、代謝状態および/または形態学的状態に基づいて、行うことができる。
【0077】
特に、ヒトサンプルから抗体分泌細胞を精製するためのさまざまな技術は、正または負の選択のためのさまざまな手段および条件を利用する。これらの細胞は、抗体を発現して分泌する細胞(例えば、ヒトB細胞)に特異的な細胞表面マーカーを発現するものを物理的に分離することによって、効率的に選択することができる。具体的なプロトコルは当技術分野で見いだすことができる(例えば、Callard R and Kotowicz K "Human B-cell responses to cytokines" Cytokine Cell Biology: A practical Approach. Balkwill F.(編) Oxford University Press, 2000, pg. 17-31を参照されたい)。
【0078】
選択は、これらの細胞表面タンパク質のいずれかに特異的に結合する抗体を用いて行うことができ、該抗体は、固相支持体(例えば、マイクロビーズまたはプラスチックプレート)に連結したり、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて検出できる蛍光色素で標識したりすることができる。例えば、ヒトB細胞は、CD19、CD27および/またはCD22を結合している支持体(例えば、マイクロビーズ)に対するそれらの親和性に基づいて、あるいはEBV不死化前の特定のアイソタイプに特異的な抗体に対する結合親和性の欠如のために、選択されている(Li H et al., 1995, Bemasconi N et al., 2003; Traggiai E et al., 2004)。
【0079】
本明細書中に示されるように、CD22は、抗原認識およびB細胞活性化に関連するシグナル伝達経路を制御しているB細胞制限膜貫通タンパク質であって(Nitschke L, 2005)、初期B細胞選択のために使用することができる。CD22陽性集団には異なるアイソタイプおよび特異性を有する抗体を発現する細胞が含まれるので、他の細胞表面マーカーもまた、該細胞を選択するために使用され得る。
【0080】
代替的にまたは付加的に、抗体分泌細胞の特異的濃縮は、CD22ベースの選択に加えて、CD27ベースの選択を利用することによって得ることができる。CD27は、体細胞変異した可変領域遺伝子を有するヒトB細胞のマーカーであることが知られている(Borst J et al., 2005)。CD5、CD24、CD25、CD86、CD38、CD45、CD70、またはCD69などの追加のマーカーは、所望の細胞集団の枯渇または濃縮のために使用することができる。こうして、抗原(例えば、ウイルス、細菌、寄生虫)への暴露のドナーの病歴、抗体価に応じて、全B細胞、CD22濃縮B細胞、またはCD27陽性B細胞などのさらなる濃縮B細胞亜集団を使用することができる。
【0081】
B細胞のEBV形質転換
特定のアイソタイプを有する抗体を発現する細胞の、選択されて刺激された集団は、ウイルス不死化剤を用いて不死化することが可能である。さまざまな不死化剤が、不死化された抗体分泌細胞を得るために、抗体分泌細胞に対して使用され得る。
【0082】
ウイルス不死化剤の中で、好ましくは、抗体分泌細胞に感染してそれらを不死化するウイルスが本発明の実施において用いられる。一般的に用いられるウイルスは、ヘルペスウイルスのγクラスに分類されるリンパ球指向性ウイルスである。このウイルス科のメンバーは種特異的にリンパ球に感染し、そしてリンパ増殖性疾患およびいくつかの悪性腫瘍の発症に関連している(Nicholas J, 2000; Rickinson A, 2001)。
【0083】
EBV(エプスタイン・バーウイルス、別名をヘルペスウイルス4ともいう)、およびHHV-8(ヒトヘルペスウイルス8、別名をカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、KSHVともいう)は、ヒトリンパ球に感染して不死化する。MHV-68(マウスヘルペスウイルス68)、HVS(ヘルペスウイルス-サイミリ)、RRV(アカゲザルラジノウイルス)、LCV(霊長類リンホクリプトウイルス)、EHV-2(ウマヘルペスウイルス2)、HVA(ヘルペスウイルス-アテレス)、およびAHV-1(オオカモシカヘルペスウイルス1)は、その他の発癌性のリンパ球指向性ヘルペスウイルスであり、それらの間には共通の遺伝的特徴が保存されていて、さまざまな哺乳動物宿主細胞内で同様の病原作用を示す。これらのウイルスは本発明を実施する際に用いることができる。
【0084】
インタクトなウイルスの使用に加えて、特定のウイルスタンパク質を含有する組換えDNA構築物は、B細胞を不死化するために使用されて成功を収めている(Damania B 2004; Kilger E et al., 1998)。ウイルス遺伝子を含有するベクターは、場合によっては、ウイルス様粒子の形成のためにトランスですべての必要な因子を提供するレトロウイルスシステムまたはパッケージング細胞株を利用して、細胞に形質導入することができ、本発明の方法でも使用することができる。
【0085】
EBV媒介性不死化は、EBVによって発現されるタンパク質に起因するB細胞の不死化を含む複雑なプロセスであり、EBVと宿主細胞タンパク質間の相互作用によって調節されている(Sugimoto M et al., 2004; Bishop G E, and Busch L K, 2002)。必要に応じて、不死化プロセスは、特定のEBVタンパク質および転写産物、例えばEBNA2、EBNA1、LMP2、LMP1またはEBERs、の発現を測定することによって、追跡することができる(Thorley-Lawson D A, 2001)。これらのタンパク質は、PCR、免疫蛍光、ウェスタンブロット、または感染細胞におけるEBV DNAおよびタンパク質の検出を可能にする他の方法によって、検出することができる(Schlee M et al., 2004; Park C H et al., 2004; Humme S et al., 2003; Konishi K et al., 2001; Haan K et al., 2001)。
【0086】
形質転換B細胞のスクリーニングおよび単離
いくつかの態様において、形質転換されたおよび/または活性化されたB細胞は、所望の抗原特異性を有するものについてスクリーニングすることができ、その後、個々のB細胞クローンを陽性細胞から生産することができる。スクリーニング段階は、ELISA、組織もしくは細胞(トランスフェクト細胞を含む)の染色、中和アッセイ、および/または所望の抗原特異性を同定するための当技術分野で知られた多くの他の方法のいずれかによって、実施することができる。アッセイは単純な抗原認識に基づいて選択するか、または所望の機能(例えば、単に抗原結合抗体ではなく中和抗体)にさらに基づいて選択することができる。
【0087】
いくつかの態様において、陽性細胞の混合物から個々のクローンを分離するためのクローニング段階は、限界希釈法、マイクロマニピュレーション、セルソーティングによる単一細胞沈着を用いて、および/または当技術分野で知られた任意の他の方法により、行うことができる。いくつかの態様では、クローニングは限界希釈法を用いて行われる。いくつかの態様では、クローン化B細胞は、活性化剤媒介性の増殖シグナルに対する宿主の先天的応答の阻害と結び付いたEBV形質転換を用いて不死化されたB細胞に由来する。
【0088】
いくつかの態様において、本開示は、所望の抗原特異性を有する抗体を産生する不死化B細胞の作製を提供する。このようなB細胞はさまざまな方法で使用することができ、例えば、モノクローナル抗体の供給源として、関心対象のモノクローナル抗体をコードする核酸(DNAまたはmRNA)の供給源として、細胞療法のための対象への送達のために、治療薬または薬剤として使用される。
【0089】
いくつかの態様において、培養中の活性化B細胞からの上清は、当技術分野で知られた公知方法を用いて、関心対象の抗体についてスクリーニングすることができる。スクリーニングは、関心対象の抗原に結合することができる1つまたは複数のモノクローナル抗体を同定するために行われる。このようなスクリーニングは培養上清および/または精製抗体に対して実施することができる。あるいは、スクリーニングは活性化および/または不死化B細胞からの培養上清および/または精製抗体を用いて行うことができる。さらに、交差反応性の抗体が関心対象である場合には、2つまたはそれよりも多い異なる抗原と交差反応するモノクローナル抗体の能力が検討される。さらに、いくつかの態様では、特定の機能特性(例えば、中和活性)をもつ抗体をスクリーニングすることが望ましい。
【0090】
本開示によって生成されたモノクローナル抗体の結合特異性は、例えば、イムノアッセイで、例えば免疫沈降または他のインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などによって、測定することができる。
【0091】
採用することができるスクリーニング方法の代表的な一般的クラスとしては、限定するものではないが、(a)抗体捕捉アッセイ;(b)抗原捕捉アッセイ;および(c)機能スクリーニングが挙げられる。
【0092】
抗体捕捉アッセイでは、抗原を固相に結合させ、該抗原に試験されるモノクローナル抗体を結合させることができる。未結合の抗体を洗浄により除去した後で、結合した抗体が、例えば該抗体を特異的に認識する標識抗体などの二次試薬によって、検出される。
【0093】
抗原捕捉アッセイの場合には、抗原を直接標識することができる。一態様では、試験されるモノクローナル抗体を固相に結合させ、次いで、任意に標識された抗原と反応させることができる。あるいは、試験されるモノクローナル抗体を固相に結合させる前に、抗体-抗原複合体を免疫沈降によって形成させてもよい。抗体-抗原複合体を固相に結合させたら、未結合の抗原を洗浄によって除去し、結合した抗原を検出することによって陽性を同定することができる。
【0094】
さまざまな機能スクリーニングは、所望の活性を有するモノクローナル抗体を同定するために存在する。本開示において、そのような1つのスクリーニングは、実施例に記載されるように、中和アッセイである。
【0095】
組換え発現
本開示の方法はまた、選択されたB細胞クローンからの抗体のための核酸の取得および/または配列決定、ならびに関心対象の抗体を発現することができる宿主細胞を作製するための該核酸の利用を提供する。
【0096】
いくつかの態様において、所望の抗体をコードするヌクレオチド配列は、配列決定した後、293細胞またはCHO細胞などの異種発現系で使用することができる。いくつかの態様では、抗体は、関心対象の抗体をコードするB細胞クローンから1つまたは複数の核酸(例えば、重鎖および/または軽鎖遺伝子)を取得し、宿主細胞内での関心対象の抗体の発現を可能にするために該核酸を宿主細胞内に挿入することによって、組換えにより発現させることができる。
【0097】
組換えDNA法を用いる抗体の生産は、例えば米国特許第4,816,567号に記載されている。抗体の組換え生産では、それをコードする核酸が単離されて、さらなるクローニング(DNAの増幅)のために、または発現のために、複製可能なベクターに挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手法を用いて(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離され、配列決定される。一般的に使用できるベクターは、限定するものではないが、次の1つまたは複数を含む:シグナル配列、複製起点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、および転写終結配列。このような発現系の構成要素の例は、例えば米国特許第5,739,277号に、記載されている。本明細書においてベクター中のDNAのクローニングまたは発現に適する宿主細胞は、原核生物、酵母、または高等真核生物の細胞である(例えば、米国特許第5,739,277号参照)。
【0098】
薬学的組成物
本明細書に開示される主題は、本開示に従って産生される抗体を含む薬学的組成物を提供する。いくつかの態様では、形質転換されたおよび/または活性化されたB細胞を含む薬学的組成物が提供される。いくつかの態様では、薬学的組成物は本明細書に開示される方法を用いて産生された1つまたは複数のモノクローナル抗体を含むことができる。いくつかの態様では、本明細書に開示される主題のモノクローナル抗体と形質転換および/または活性化B細胞の両方を薬学的組成物中に含めることができる。いくつかの態様では、本開示に従って産生されたモノクローナル抗体のパネルを薬学的組成物中に含めることができる。いくつかの態様では、本開示に従って産生されたモノクローナル抗体および/またはB細胞は、1つまたは複数の追加の薬剤、例えば抗ウイルス薬または鎮痛薬、と一緒に含めることができる。
【0099】
いくつかの態様において、薬学的組成物はまた、薬学的に許容される担体または抗体の投与のためのアジュバントを含むことができる。いくつかの態様では、担体はヒトに使用するために薬学的に許容可能である。担体またはアジュバントそれ自体は、組成物を受け取る個体に有害な抗体の産生を誘導してはならず、かつ毒性であってはならない。適切な担体は大きな、ゆっくり代謝される巨大分子、例えば、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、および不活性ウイルス粒子であり得る。
【0100】
薬学的に許容される塩を使用することができ、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩および硫酸塩などの鉱酸塩、または酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩および安息香酸塩などの有機酸塩が使用され得る。
【0101】
治療用組成物中の薬学的に許容される担体はさらに、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体を含有することができる。さらに、湿潤剤、乳化剤またはpH緩衝物質などの補助物質もこのような組成物中に存在させることができる。こうした担体は、患者による摂取のために薬学的組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤および懸濁液剤として製剤化することを可能にする。
【0102】
本明細書に開示される主題の組成物はさらに、組成物の調製および投与を容易にするための担体を含むことができる。適切な送達ビヒクルまたは担体はどれも使用することができ、限定するものではないが、以下が挙げられる:マイクロカプセル、例えばミクロスフェアまたはナノスフェア(Manome et al. (1994) Cancer Res 54:5408-5413; Saltzman & Fung (1997) Adv Drug Deliv Rev 26:209-230)、グリコサミノグリカン(米国特許第6,106,866号)、脂肪酸(米国特許第5,994,392号)、脂肪乳剤(米国特許第5,651,991号)、脂質または脂質誘導体(米国特許第5,786,387号)、コラーゲン(米国特許第5,922,356号)、多糖またはその誘導体(米国特許第5,688,931号)、ナノ懸濁液(米国特許第5,858,410号)、高分子ミセルまたはコンジュゲート(Goldman et al. (1997) Cancer Res 57:1447-1451および米国特許第4,551,482号、第5,714,166号、第5,510,103号、第5,490,840号、および第5,855,900号)、およびポリソーム(米国特許第5,922,545号)。
【0103】
抗体配列は、当技術分野で公知の方法を用いて、活性物質または担体に連結することができ、こうした方法として、限定するものではないが、以下が挙げられる:カルボジイミドコンジュゲーション、エステル化、過ヨウ素酸ナトリウム酸化とその後の還元的アルキル化、およびグルタルアルデヒド架橋(Goldman et al. (1997) Cancer Res. 57:1447-1451; Cheng (1996) Hum. Gene Ther. 7:275-282; Neri et al. (1997) Nat. Biotechnol. 15:1271-1275; Nabel (1997) Vectors for Gene Therapy. Current Protocols in Human Genetics, John Wiley & Sons, New York; Park et al. (1997) Adv. Pharmacol. 40:399-435; Pasqualini et al. (1997) Nat. Biotechnol. 15:542-546; Bauminger & Wilchek (1980) Meth. Enzymol. 70:151-159; 米国特許第6,071,890号; および欧州特許第0 439 095号)。
【0104】
本発明の治療用組成物は、いくつかの態様では、薬学的に許容される担体を含有する薬学的組成物を含む。適切な製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、殺菌性抗生物質、および意図されたレシピエントの体液と製剤を等張にする溶質を含むことができる水性および非水性無菌注射液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含むことができる水性および非水性無菌懸濁液が挙げられる。製剤は単位用量または複数回用量の容器、例えば密封アンプルおよびバイアルで提供することができ、そして使用直前に無菌液状担体(例えば注射用蒸留水)の添加のみを必要とする凍結または凍結乾燥状態で保存することができる。いくつかの代表的な成分は、ある態様では0.1〜10mg/mlの範囲内の、ある態様では約2.0mg/mlのSDS;および/または、ある態様では10〜100mg/mlの範囲内の、ある態様では約30mg/mlのマンニトールまたは別の糖;および/またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。問題の製剤のタイプを考慮して、当技術分野で慣用の他のどのような作用剤も使用することができる。いくつかの態様では、担体は薬学的に許容可能である。いくつかの態様では、担体はヒトに使用するために薬学的に許容可能である。
【0105】
本開示の薬学的組成物は5.5〜8.5のpH、好ましくは6〜8、さらに好ましくは約7のpHであり得る。pHは緩衝剤の使用によって維持することができる。本組成物は滅菌および/または発熱物質不含とすることができる。本組成物はヒトに対して等張であり得る。本明細書に開示される主題の薬学的組成物は、密閉容器に入れて供給することができる。
【0106】
薬学的組成物は、本明細書に記載される1つまたは複数の抗体の有効量を含むことができる。いくつかの態様では、薬学的組成物は、目的の疾患もしくは症状を治療する、改善するまたは予防するのに十分であるか、検出可能な治療効果を示すのに十分である量を含むことができる。治療効果には、身体症状の軽減も含まれる。ある対象のための正確な有効量は、対象のサイズおよび健康状態、症状の性質および程度、投与のために選択された治療薬または治療薬の組み合わせに依存するだろう。所与の状況のための有効量は、当業者によって実施されるルーチン実験により決定される。
【0107】
治療レジメン:薬物動態
本発明の薬学的組成物は、投与方法に応じて、さまざまな単位剤形で投与することができる。典型的な抗体の薬学的組成物の投与量は当業者によく知られている。そのような投与量は一般的に勧告されるものであり、そして特定の治療状況または患者の耐容性に応じて調整される。それを達成するのに十分な抗体の量は「治療有効用量」として規定される。投与計画およびその使用に有効な量、すなわち「投薬レジメン」は、疾患または症状の病期、疾患または症状の重症度、患者の一般的な健康状態、患者の身体状況、年齢、活性薬剤の製剤処方および濃度などを含めて、さまざまな要因に左右されるだろう。患者に対する投薬レジメンを計算する際には、投与方法もまた考慮される。投薬レジメンはまた、薬物動態、すなわち、薬学的組成物の吸収率、生物学的利用能、代謝、クリアランスなどを考慮に入れる必要がある。例えば、最新のRemington's; Egleton, Peptides 18: 1431-1439, 1997; Langer, Science 249: 1527-1533, 1990を参照されたい。
【0108】
本発明の目的のために、抗体を含む組成物の治療有効量は、約0.05〜1500μgのタンパク質、好ましくは約10〜1000μgのタンパク質、さらに好ましくは約30〜500μg、最も好ましくは約40〜300pg、またはこれらの値の間の任意の整数値を含有する。例えば、本発明の抗体は対象に約0.1μg〜約200mg、例えば約0.1μg〜約5μg、約5μg〜約10μg、約10μg〜約25μg、約25μg〜約50μg、約50μg〜約100μg、約100μg〜約500μg、約500μg〜約1mg、約1mg〜約2mgの用量で投与することができ、任意の追加免疫が例えば1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月および/または1年後に与えられる。当然のことながら、ある患者に対する特定の用量レベルは、使用される特定の抗体の活性、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時期、投与経路、排泄速度、複合薬、および治療を受ける特定の疾患の重症度を含めて、さまざまな要因に依存する。
【0109】
投与経路としては、限定するものではないが、経口、局所、皮下、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、経皮、および真皮下が挙げられる。投与経路に応じて、1回の投与量あたりの容量は、好ましくは約0.001〜10ml、さらに好ましくは約0.01〜5ml、最も好ましくは約0.1〜3mlである。組成物は単回投与療法で投与されるか、または対象の年齢、体重および症状、使用される特定の抗体製剤、ならびに投与経路に適した計画に基づいて、適切な期間にわたり、複数回投与療法で投与される。
【0110】
キット
本発明は、例えば、上述した治療用途のために使用することができる、本開示に従って産生された抗体を含むキットを提供する。その製品はラベルの付いた容器を含む。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、および試験管が挙げられる。容器はガラスまたはプラスチックなどの各種材料から形成することができる。容器は、上述したような治療用途に有効である活性薬剤を含む組成物を保持する。組成物中の活性薬剤は抗体を含むことができる。容器上のラベルは、その組成物が特定の治療または非治療用途に使用されることを示し、また上述したような、インビボまたはインビトロでの使用の指示を示すことができる。
【0111】
本発明を実施するための特定の局面の以下の実施例は、説明のみを目的として提供され、いかなる場合にも本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0112】
方法および材料
倫理上の声明
インフォームド・コンセントを得て、すべての手順を国立大学治験審査委員会から承認されたプロトコルの下で行った(NUS-IRB番号は06-196である)。
【0113】
細胞およびウイルス
C6/36細胞およびBHK-21細胞は、以前に記載されたように培養した(28)。EHIおよびPVP 159株を除くすべてのデング株は、シンガポールのノバルティス熱帯病研究所(NITD)から得た。EHI株はシンガポールの環境衛生研究所(EHI)から入手し、PVP 159 (DENV1/SG/07K3640DK1/2008)はEDEN患者コホートから入手した(29)。
【0114】
B細胞のクローニング
B細胞の単離および不死化は、以前に記載されたように実施した(10)。15日間の培養後、上清をELISAおよびPRNTでDENV特異的抗体についてスクリーニングした。
【0115】
ELISA結合アッセイ
96ウェル平底プレート(Maxisorpプレート、Nunc社)にマウス4G2抗体を5μg/mlで一晩コーティングした。プレートをPBS/Tween-20 0.01%で3回洗浄した。異なるDENV株をウェルあたり50μl中1×10
5pfuで添加し、さらに2時間インキュベートした。プレートをPBS/Tween-20 0.01%で3回洗浄した。HM14C10をプレートに加えて、さらに1時間インキュベートした。プレートをPBS/Tween-20 0.01%で3回洗浄した。抗ヒトIgG結合HRP(Pierce社、シンガポール)を添加して1時間インキュベートした。TMB基質(GE healthcare社、シンガポール)を添加し、0.1M硫酸を用いて反応を停止させた。
【0116】
組換えHM14c10の生産
RNA抽出キット(Qiagen社)を用いて、B細胞からRNAを抽出した。組換え抗体のクローニングおよび発現は、以前に記載されたとおりに行った(30)。
【0117】
抗体依存性増強アッセイ
デングウイルス(5×10
2pfu/ml)を培地、個々のモノクローナル抗体(HM4G2、HM14c10またはHM14c10 N297Q)またはHM14c10モノクローナル抗体のサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)と一緒にプレインキュベートし、次に10
5個のK562細胞に添加した。1時間後、細胞をPBSで十分に洗浄して、未結合のウイルスとモノクローナル抗体を除去した。さらに48時間後、上清を回収して、ウイルス力価をBHK-21細胞でのプラークアッセイにより測定した。
【0118】
インビボでのマウス実験
AG129マウスはIFN-α/βおよび-γ受容体が欠損している(31)。マウスは動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の勧告に従って取り扱った(IACUCプロトコル番号:018/11)。HM14c10対PBS処理対照の予防的および治療的適用を詳述した略図を
図21に提供する。マウスを犠牲にして、確立されたプラークアッセイによりウイルス血症を定量した(32)。
【0119】
タイムラプス共焦点生細胞イメージング
すべてのタイムラプス(time lapse)生細胞顕微鏡法は、Plan-Apochromat 100X 1.4開口数(N.A.)レンズを用いて倒立A1Rsi共焦点顕微鏡(ニコン、日本)で行った。生細胞イメージングは、チャンバーホルダー(ニコン、日本)に取り付けた25mmガラス製カバースリップ(Marienfeld GmbH、ドイツ)上で成育させた未固定の生存BHK細胞を用いて行った。実験の1日前に細胞を4×10
4個/ウェルの密度で播種し、10%FCSを添加したRPMI 1640中で培養した。Alexa Fluor-488標識抗体とAlexa Fluor-647標識DEN1ウイルスの同時検出のために、488nmラインのアルゴンイオンレーザーと633nmのヘリウムネオンレーザーの光をHFT UV/488/633ビームスプリッターに向けて、Alexa Fluor-488検出用の505-530バンドパスフィルターとAlexa Fluor-647検出用の650ロングパスフィルターを組み合わせたNFT 545ビームスプリッターを用いて蛍光を検出した。画像は30秒間隔で1フレーム毎秒(fps)にて30〜60分間撮影した。すべての生細胞イメージング実験は、5%CO
2顕微鏡用ケージインキュベーターシステム(OkoLab社、イタリア)内37℃でインキュベートした細胞を用いて行った。画像は、ニコン画像統合ソフトウェア(NIS)エレメンツCソフトウェア(64ビット、バージョン3、SP7/build 547)[ニコン、日本]で解析し、処理した。
【0120】
細胞内蛍光の定量
DENV1のエンドサイトーシスに対する抗体の効果は、生存細胞内の蛍光の相対レベルを測定することによって評価した。個別の抗体で処理した後、少なくとも100個の細胞の画像を、3つの独立した実験からA1Rsi共焦点顕微鏡を用いてランダムに取得した。その後、細胞の細胞内領域を、NIS Elementsソフトウェア(ニコン、日本)の「関心領域」[region of interest: ROI]機能を用いて個別に手動で画定し、そして各細胞内のAlexa Fluor-488の相対蛍光レベルを該ソフトウェアのROI統計機能を用いて測定した。平均値、標準偏差およびスチューデントのt検定は、Microsoft Excelを用いて各細胞集団について計算した。未処理のDEN1感染細胞集団からの蛍光を100%に正規化して、抗体で処理した感染細胞との比較に使用した。
【0121】
低温電子顕微鏡法(CryoEM)
デングウイルス(PVP 159株)を以前に記載されたとおりに調製した(3)。ウイルスをFab HM14c10と1:1のモル比で混合し、37℃で30分、次に4℃で2時間インキュベートした。その後、複合体を、連続したカーボンの薄層でコーティングされたレーシーカーボングリッド上で液体エタンにて急速凍結した。ウイルス粒子は300kV FEI Titan Kriosを用いて以下の条件で撮影した:電子線量16e
-/Å
2、倍率47,000、デフォーカス範囲1μm〜3μm。画像は1ピクセルあたり1.9Åのピクセルサイズをもたらす4K×4K Gatan CCDカメラにより記録した。合計5,566個の粒子がボックス化され、EMAN(33)プログラムスイートで、それぞれプログラムboxerおよびctfitを用いることにより、コントラスト伝達関数パラメータを測定した。粒子の配向は、マルチパス・シミュレーテッドアニーリング(multi-path simulated annealing: MPSA)プロトコル(34)を用いて測定した。西ナイルウイルスを初期モデルとして使用した(26)。EMANでプログラムmake3dを用いることによって三次元マップを作成した。最終的なマップの分解能は、0.5のフーリエシェル(fourier shell)係数カットオフで測定して、7Åの分解能であることが分かった。DENV1融合後Eタンパク質の結晶構造(18)は、剛体としてcryoEM密度マップにうまくフィットせず、したがってEタンパク質のドメイン類を分割してから個別にフィットさせた。cryoEMマップ(4σ等高線レベルで設定)への分子のフィットはその後、Chimera(35)の「フィットインマップ」(fit-in-map)機能を用いて最適化した。HM14c10可変領域のホモロジーモデルを作成するために、最高の配列一致を有する構造が選択され(PDBコード2GHW)、そしてホモロジーモデルがModeller(19)を用いて作成された。ホモロジーモデルの重鎖および軽鎖は、Fabの2つの可能な配向でcryoEMマップ(3σ等高線レベルで設定)に別々にフィットさせた(
図19)。
【0122】
実施例1:回復期DENV1感染者からの強く中和するDENV1特異的抗体14c10の単離
DENV1に対する血清型特異的な結合および中和活性を有する抗体を分泌するBリンパ球細胞株の一群を同定し、サブクローニングし、そして増殖させた。これらの細胞株のうちの1つ、BCL-14c10は、他のものより著しく強い結合および中和活性を有するIgGを産生した(
図14A)。この細胞株は、組換えヒトIgG1のPCR増幅および発現のための免疫グロブリン遺伝子テンプレートの供給源として使用した(
図14B(a))。1つの組換えヒト抗体(HM)14c10は、親BCL-14c10と同等のDENV1への結合活性をもっていた(
図14B(b))。HM14c10は、DENV1に結合して中和したが、DENV2、3または4には結合せず(
図14C)、インビトロにおいて0.328μg/mlのPRNT
50で強い中和活性を示した(
図11A)。
【0123】
DHFおよびDSSの発症と関連があるADE活性は、中和濃度以下の抗体とDENVがFc受容体保有細胞に結合する複合体を形成するときに発生することが提案されている。これは、ウイルスの取り込みならびに炎症性サイトカインおよびケモカインの分泌の増加につながる(11)。本発明者らは、FcγRを発現する骨髄単核細胞株K562を使用する確立されたインビトロアッセイを用いて、HM14c10のADE活性をヒト化抗フラビウイルスモノクローナル抗体HM4G2と比較した(12)。HM4G2は、血清型交差結合活性を有して、DENV1〜4上のE-DIIの保存された融合ループを標的とする(13)。本発明者らは、HM14c10が中和濃度以下でDENV1感染の若干の同型増強を示すが、それが結合しないDENV2、3または4には増強活性を示さない、ことを観察した。対照的に、HM4G2は中和濃度以下で4つすべての血清型の増強を媒介する(
図11B)。HM14c10の観察された同型ADE活性へのK562 FcγRの寄与を検証するために、本発明者らは、該抗体をFab断片として発現させるか、または297位のアスパラギン残基(N)からグルタミン(Q)への置換を介してヒトIgG1上のグリコシル化部位を取り除くことによってFcγR結合を低下させた(14)。HM14c10 FabとN297Q変異体はどちらも、全IgG1対照に比して、それらの同型ADE活性の低下を示した(
図11C(a))。本発明者らは次に、ADE活性に対するIgGサブクラスの影響を比較し、そしてK562上のFcγRIIAについて報告された結合活性との部分相関を観察した(15)。ADE活性は次のようにランク付けすることができる:IgG3が最高で、IgG4が最低であって、IgG3>IgG1>IgG2>IgG4(
図11C(b))。したがって、この中和抗DENV抗体のADE活性は、FcγR結合に依存しているようだが、これらの実験ではウイルス中和に対する高親和性FcγR1および補体成分の影響が取り上げられていないことに留意すべきである(16)。
【0124】
DENVのさらなる複雑さは、単一の血清型内の複数の遺伝子型の存在である。DENV1遺伝子型はそれらのアミノ酸組成において最大3%異なっており、そしてマウス抗DENV抗体の以前の報告は、防御活性が遺伝子型間で変化し得ることを示唆した(17)。本発明者らは、2つの異なるDENV1遺伝子型(IおよびIV)に相当するいくつかのDENV1臨床分離株に対するHM14c10の結合活性をHM4G2と比較した。HM14c10とHM4G2の両方は試験した遺伝子型に対して結合活性を示したが、HM4G2はすべてのケースでより良好な結合特性を示した(
図15)。対照的に、HM14c10は、試験した分離株/遺伝子型のすべてに対して、HM4G2と比べて優れた中和活性を示した(
図11D)。
【0125】
実施例2:HM14c10は四次構造依存性エピトープに結合する
所与の抗体とDENV間の相互作用の正確な性質は、中和を説明するための鍵を握っているに違いない。それを究明するために、Fab HM14c10:DENV1複合体の低温電子顕微鏡(cryoEM)構造を7Åの分解能で解いた(
図12A)。完全占有では、120コピーのFab HM14c10がウイルス表面上のEタンパク質の利用可能な180コピーのすべてに結合する。Eタンパク質上のHM14c10のフットプリントを同定するために、DENV1 Eタンパク質の結晶構造(18)をcryoEM密度マップにフィットさせた(
図16および表1)。7Å分解能のcryoEMマップは、HM14c10 FabとEタンパク質の間の明確な密度接続を示して、相互作用界面でのEタンパク質残基の同定を可能にした(
図12Bおよび
図17)。HM14c10によって認識されるエピトープはウイルスの四次構造に依存する。HM14c10の2つのFabはウイルス非対称単位内の3つのEタンパク質に結合する(
図12CおよびD)。各抗体は、2つの隣接するEタンパク質にまたがって、E-DIII上のエピトープの半分と、隣接Eタンパク質のE-DIおよびE-DI-E-DIIヒンジ上のあとの半分に結合する。
【0126】
Eタンパク質とFabの相互作用を理解するために、HM14c10の可変領域のホモロジーモデルを、基準ヒト抗体構造(PDBコード2GHW)に基づいてModeller(19)を用いて作成した(
図18)。次にホモロジーモデルの軽鎖および重鎖の可変領域をcryoEM密度にフィットさせた。両鎖の構造は類似しているが、密度へのより良好な相関を与える際立ったフィットが存在する(
図19AおよびB)。Fab-Eタンパク質界面の解析は、重鎖および軽鎖のすべての相補性決定領域(CDR)がこの相互作用に係っていることを示唆する(
図S6C)。
【0127】
(表1)HM14c10:DENV1 cryoEM密度へのDENV1 Eタンパク質ドメインのフィッティング
a Eタンパク質の位置の指定については
図12を参照のこと。
b デング1 Eタンパク質ドメインは最初に成熟デング2ウイルスのcryoEM構造のEタンパク質位置に重ね合わせた(27)。
c デング1 Eタンパク質ドメインのHM14c10:DENV1 cryoEMマップ(4σ等高線レベルで設定)へのフィットは、Chimera(35)の「フィットインマップ」機能を用いて最適化した。
【0128】
非対称単位内の2つのHM14c10 Fabの結合フットプリントは同一でなく(
図12D)、12個のアミノ酸は両界面に共通しているが、4個はユニークである(表2)。異なるDENV1分離株間のエピトープ残基の配列比較は、ほとんどの残基が保存されていることを示して(
図20A)、観察されたHM14c10の中和活性と一致する。対照的に、これらの残基は他のDENV血清型または西ナイルウイルス(WNV)では保存されていない(
図20B)。
【0129】
(表2)DENV1 Eタンパク質上のFab HM14c10エピトープ
* Fab HM14c10(I)およびHM14c10(II)によって結合された両エピトープにおいて共通する残基は太字で示される。
【0130】
実施例3:タイムラプス共焦点顕微鏡法はHM14c10の中和メカニズムを明らかにする
抗体は、エンドソーム膜へのウイルスの付着もしくは融合の阻害、またはウイルスによって誘起される表面糖タンパク質のコンフォメーション変化のブロックを介してなど、多様なメカニズムによってウイルス感染を中和することができる(20, 21)。DENV1のHM14c10中和のメカニズムを理解するために、タイムラプス共焦点顕微鏡法を用いて、蛍光タグ付けした生存DENVによる細胞の感染を追跡した(22)(
図13および21A)。BHK細胞をDENV1およびアイソタイプ対照Mab(非DENV結合性)と一緒にインキュベートしたとき、ウイルスは、複数の、主に核周囲の、細胞内コンパートメント内で合体した(
図14A(a))。中和濃度のHM4G2は細胞外空間でのウイルス凝集体の形成を誘導したが、これらもまた、うまく内在化され、HM4G2がウイルスの付着/内在化を阻害しないことが確認された(
図13A(b))。対照的に、HM14c10はより小さい凝集体の形成を誘導したが、効率的にウイルスの付着をブロックし、小さいウイルス粒子のほとんどは1時間後に細胞外空間に残存していた(
図13A(c))。HM4G2は、アイソタイプ対照に比べて、細胞内ウイルスの蓄積を遅らせた(
図13B、上段および中段のパネル)。HM14c10:DENV1複合体は細胞に入ることができなかったが、その表面から外れた状態で見ることができた(
図13B、下段のパネル)。3つすべての条件下で内在化された蛍光DENV1の程度が定量化された(
図13C)。これらのデータから、HM14c10によるDENV1の阻害の主な様式は、宿主細胞へのウイルス付着の妨害によるものであることが示唆される。
【0131】
実施例4:HM14c10はインビボで高い予防および治療活性を示す
DENVは、免疫応答性げっ歯類の天然の病原体ではないが、タイプI/II IFNの受容体が欠損しているAG129マウスにおいて用量依存性のウイルス血症を誘発することが可能である。本発明者らは、これらのマウスに未変性DENV1を皮下(モデルI、
図21B(a))または腹腔内(モデルII、
図21B(b))に注射してから、それぞれ3〜4日後にウイルス血症を定量化した(20)。異なる遺伝子型(EHI-D1遺伝子型I対Westpac遺伝子型IV)を表す2つのDENV1臨床分離株を利用して、HM14c10のインビボ有効性を判定した。両方のモデルにおいて、HM14c10は、DENV1感染の24時間前にマウスに与えたとき、または感染の48時間後に与えたとき、疾患を防いだ(
図13D)。ウイルス血症の顕著な減少が観察されたHM14c10の最低濃度はマウスあたり0.6μg(または160pM)であり、これは報告された他の抗DENV治療製剤のいずれによっても達成されていないインビボ効力に相当する。
【0132】
考察
DENV感染で生じる体液性応答に関する最近のレポート(23, 24)では、主にDENV血清型交差反応性であって弱い中和活性を有する抗体が支配的であることを示唆している。ヒト血清レパートリーでは稀であるが、E-DIII抗体はDENV感染を防ぐことが提案されており(23, 24)、これはDENVへのマウス抗体応答に関する研究と一致している(7)。特性評価されたヒト抗体は、基本的にはウイルスEタンパク質のDIおよびDIIに特異的であった。特性評価された抗体の少数は、ウイルス全体に結合するものの、組換えEタンパク質には結合しないことが観察され、これは四次構造依存性エピトープに対する特異性を示唆している(23)。この研究において、本発明者らは、DENV血清型1に対する強力な中和抗体を単離して、徹底的に特性評価した。この抗体はインビトロ系とインビボ系の両方において高度に中和する。それは、DENV1のみに結合するので、他のDENV血清型による骨髄単核細胞の感染増強を引き起こすことがない。
【0133】
DENV1と複合体化されたFab HM14c10の7Å分解能のcryoEM構造は、FabとEタンパク質との結合の詳細を明らかにした。このレベルの詳細は、抗体-フラビウイルス複合体の以前のcryoEM構造では観察されていない。HM14c10のフットプリントはE-DIIIおよび隣接Eタンパク質からのE-DI:E-DIIにわたって広がっている(
図12D)。WNVに特異的なヒト抗体CR4354に関するレポートもまた、免疫のターゲットとしてこの領域を暗示している(25)。Fab CR4354と複合体化されたWNVのcryoEM構造は、より低い分解能(14Å分解能)で解かれるが(
図22A)、Fab CR4354結晶構造のフィッティングは疑似原子分解能構造をもたらす。これは相互作用残基の同定を可能にした。WNVのCR4354エピトープとDENV1のHM14c10エピトープの比較(
図22B)は、CR4354がフットプリントの大きな割合をE-DIII上に有するのに対して、HM14c10は相互作用残基のほとんどがE-DI上にあることを示した。これらのエピトープの配列比較は、CR4354エピトープの20%ほどがHM14c10エピトープとオーバーラップするにすぎず、そしてオーバーラップする残基は主に非保存的であることを示した(
図22C)。
【0134】
CR4354とHM14c10のエピトープは同一ではないが、これらの抗体の結合は近隣のEタンパク質を一緒に保持し、それによってウイルス構造をロックし、かつ増殖性感染、すなわち宿主受容体へのウイルス付着および宿主細胞のエンドサイトーシス経路内での融合、に不可欠なコンフォメーション変化を妨げるはずである。タイムラプスライブイメージング共焦点顕微鏡法は、HM14c10が宿主細胞へのDENVの付着を阻害することを示す。これに対して、CR4354はWNV融合を優先的に阻害することが示されたが、このことは、抗体によるこの領域のターゲッティングは結果的に複数の阻害メカニズムにつながることを示唆している。
【0135】
DENVの表面タンパク質は、「ブリージング」(breathing)と呼ばれる生理的条件で、一定の変化を受けることが示唆されている(21)。ブリージングは、細胞へのウイルスの付着を容易にする上で役割を果たしている可能性がある。HM14c10は表面Eタンパク質同士を架橋するので、それはその後、表面タンパク質がブリージングを受けるのを妨げることによって、付着を阻害することができる。あるいは、E-DIIIは宿主細胞への付着にとって重要であることが示されており、したがって、E-DIIIへのHM14c10の結合はこのプロセスを立体的に妨害することができる。HMAb CR4354は、HM14c10と同様の領域に結合するが、WNV付着を阻害しない。これは、脳炎を引き起こすWNVと熱性疾患を引き起こすDENVが同一の受容体結合決定基を共有しないことを意味している。
【0136】
HMAb CR4354は、エンドソーム膜へのウイルスの融合を低pHで妨げることが示された(25)。HM14c10もまた近隣のEタンパク質にまたがって結合するので、HM14c10が融合時に二量体Eの三量体構造への再配列を阻害する可能性は排除できない。受容体結合と融合の両方を阻害する潜在能力は、HM14c10の並外れたインビボ有効性を説明することができる。
【0137】
ほとんどのフラビウイルスEタンパク質は、WNV(26)およびDENV(27)のcryoEM構造間の高度の類似性に基づくと、同様の四次構造をもっている。したがって、すべてのフラビウイルス表面Eタンパク質は、その感染サイクルの間に同様の構造再配列を受ける可能性がある。そのため、他のフラビウイルスにおいてHM14c10またはCR4354と同様の領域をターゲットとする抗体は防御的であり得る。HM14c10およびCR4354抗体は、この結合活性により特性評価されたたった2つの抗体であり、かつ両方ともヒト源に由来するので、このタイプのエピトープはおそらく全身性のフラビウイルス免疫のための決定基であることが示される。このことは今後のワクチンの設計と評価に重要な意味を持っている。
【0138】
最後に、HM14c10はほとんどの臨床DENV1分離株に対する強い中和プロファイルおよび優れたインビボ有効性を備えていることを考えると、この抗体はDENV1感染者を治療するための良好な治療薬候補を表している。
【0139】
参考文献
【0140】
本発明の特定の局面を説明し例示してきたが、そのような局面は、単に本発明の例示と見なされるべきであって、添付の特許請求の範囲に従って解釈される本発明を限定するものと見なされるべきでない。
【0141】
本明細書中で引用したすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願がすべての目的のために参考として援用されるために具体的にかつ個別に示されているように、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0142】
前述の本発明は、理解を明確にするために、図面および実施例を用いてある程度詳しく説明してきたが、特定の変更および修飾が添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなくなされ得ることが、本発明の教示に照らして、当業者には容易に明らかであろう。