(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483350
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 37/28 20060101AFI20190304BHJP
D06F 39/08 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
D06F37/28
D06F39/08 301B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-88357(P2014-88357)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-205088(P2015-205088A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062225
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 輝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 崇之
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓之
(72)【発明者】
【氏名】米田 昌令
【審査官】
山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−202638(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/091362(WO,A1)
【文献】
特開2013−085850(JP,A)
【文献】
独国特許発明第102005055777(DE,B3)
【文献】
特開2014−045932(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101824722(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0295037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 37/28
D06F 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に弾性支持された水受け槽と、
前記水受け槽内に傾斜若しくは水平な回転軸に軸支された回転ドラムと、
前記回転ドラムの開口を開閉するためのガラス封止体を有するドアユニットと、
前記水受け槽の開口フランジの表面に設けられ、前記水受け槽と前記ドアユニットのガラス封止体との間の水密性を保つドアパッキンと、
前記水受け槽の開口フランジの裏面に固定され、前記ドアユニットのガラス封止体とドアパッキンが密接する入隅部に向けて洗浄水を放射するシャワーノズルと、を備え、
前記シャワーノズルは、水路構成体と案内板とから構成され、
前記水路構成体は、一端部が給水側に接続され他端部が前記案内板に開放し、かつ、前記ドアパッキン側から前記ドアパッキンと反対側に向けて傾斜して伸びる導水路を有し、
前記案内板は、洗浄水が前記導水路から導かれる案内溝が基端から吐出口に向けて拡開する下り勾配に形成される、
ことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記案内溝は、基端から吐水口に向けて縦幅が徐々に大きくなるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアユニットを洗浄するシャワーノズルを備えた洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭あるいはコインランドリーなどに設置される洗濯機は、洗濯物の出し入れのためのドアユニットを配設するようにしている。そしてこのドアユニットは内部の洗濯物の状態が視認できるようにするためにガラス素材を成形したものが多く採用されている。
【0003】
このようなドアユニットを配設した洗濯機において、回転ドラム内への注水が一カ所に集中することなく、回転ドラムの手前から奥まで、まんべんなく注水できるようにしたシャワーノズルを備えた洗濯機を本願出願人が提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5320113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された技術は、異なる角度で形成された案内面を備える案内板を備えるものである。この案内面から噴出した洗浄水はガラス部材の肩部に当たって扇状に広がり拡散されて回転ドラム内に噴射される。これにより回転ドラムの手前から奥まで、まんべんなく注水でき排水性能、すすぎ性能などを向上することができる。このように上記特許文献1に開示されたシャワーノズルの採用は、回転ドラム内への注水により洗濯機能の向上を意図するものであるが、洗濯槽内の洗浄を目指すものではない。
【0006】
ところで、洗濯機においては洗濯槽内の衛生管理が大きな課題となっている。このような課題に対応するために、例えば、回転ドラムの背面に発生する黒カビを除去する専用の洗剤の使用が提案されている。一方、洗濯槽内では洗剤による石鹸カスの発生も問題の一つとなっている。これは、洗剤の溶解性が低下すると未溶解の石鹸粒が残存し、あるいは水道水に含まれているカルシウムやマグネシウムなどの金属イオンと石鹸成分が化学的に結合して不活性で洗浄作用のない金属石鹸と呼ばれる石鹸カスとなる。
【0007】
このような石鹸粒、石鹸カスの発生は、軟水であるか硬水であるかの水質、あるいは季節により異なる水温で発生の程度は異なるものの、すすぎ、脱水を繰り返して洗濯物への付着を低減することができる。しかしながら、洗濯槽内のすすぎ水の届かない狭隘な入隅部にはその滞留が進み、衛生上の問題の発生要因となるとともに美観を低下することになる。特にドアユニットのガラス封止体の取付部は、水密性を保つためのドアパッキンと密接して狭隘であるためにすすぎ水が届くことなく、石鹸粒、石鹸カスの滞留が促進される部分となる。
【0008】
このようにドアユニットのガラス封止体の特に頂部はすすぎ水が届かず、しかも洗濯物が接触して表面が拭われるようなことがないことから、石鹸粒、石鹸カスの滞留の程度が大きくなって汚損層が形成され、洗濯槽内部の透視の妨げとなる。このような状態になると清潔感が低下し、洗濯運転毎に清掃をするという煩雑な作業を強いられることになる。しかしながら、一般家庭ではともかく、コインランドリーのように不特定の利用者に清掃作業を期待することはできず、衛生状態が低下する問題があった。
【0009】
本発明はこのような従来の問題を解決するためになされたもので、ドアユニットの内面に滞留する石鹸粒、石鹸カスのような汚損要素を洗濯運転毎にシャワー洗浄により除去するようにしたものである。これによりドアユニットの清潔感、美観を維持することができるとともに、ドアユニットからの洗濯槽内の透視機能が低下しない洗濯機となるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
本体に弾性支持された水受け槽と、
前記水受け槽内に傾斜若しくは水平な回転軸に軸支された回転ドラムと、
前記回転ドラムの開口を開閉するためのガラス封止体を有するドアユニットと、
前記水受け槽の開口フランジ
の表面に設けられ、前記水受け槽と前記ドアユニットのガラス封止体との間の水密性を保つドアパッキンと、
前記水受け槽の開口フランジの裏面に固定され、前記ドアユニットのガラス封止体とドアパッキンが密接する入隅部に向けて洗浄水を放射するシャワーノズルと、を備え、
前記シャワーノズルは、水路構成体と案内板とから構成され、
前記水路構成体は、一端部が給水側に接続され他端部が前記案内板に開放し、かつ、前記ドアパッキン側から前記ドアパッキンと反対側に向けて傾斜して伸びる導水路を有し、
前記案内板は、
洗浄水が前記導水路から導かれる案内溝が基端から吐出口に向けて拡開する下り勾配に形成される、
ことを特徴とする洗濯機である。
【0011】
本発明は、
前記案内溝は、基端から吐水口に向けて縦幅が徐々に大きくなるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、洗浄水を膜状に放射するシャワーノズルを備え、ドアユニットとドアパッキンが密接する入隅部に向けて洗浄水を放射するようにしたので、ドアユニットのガラス封止体に滞留する石鹸粒、石鹸カスのような汚損要素を洗濯運転毎にシャワー洗浄により除去することができる。これによりドアユニットの清潔感、美観を維持することができるとともに、ドアユニットの外部からの透視機能が低下しないようにすることができる。
【0016】
そして、噴射された洗浄水はドアユニットのガラス封止体の頂部を強力に洗浄した後、ガラス封止体の全面を洗浄しつつ底部へ流下する。この洗浄水は水受け槽へ流下するので、石鹸粒、石鹸カスを含む洗浄水で洗濯槽内が汚されることがない。
また、シャワーノズルを水受け槽の開口フランジの裏面に固定し、洗浄水を膜状、且つ、斜めに放射させるようにしたので、洗濯槽が洗濯物や洗濯水の重量で沈みあるいは角度が変化した場合であっても、ドアユニット全体の洗浄が可能である。
【0017】
さらに、本発明によれば、案内板により、基端から吐出口に向けて拡開する下り勾配の案内溝が形成されると共に、吐出口に向けて縦幅が徐々に大きくなるよう形成されるので、洗浄水を膜状で放射することができる。このように洗浄水の膜状の放射は、1本の水柱による局所的な噴射とは異なり、地域あるいは設備環境で水圧に大きな変化がある場合でも、ドアユニット全体の洗浄が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を実施する洗濯機の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明を実施する洗濯機の内部構造の概要を示す説明図である。
【
図3】本発明を実施した洗濯機の要部の構成を示す断面図である。
【
図5】本発明のシャワーノズルの構成を説明する斜視図である。
【
図6】本発明のシャワーノズルの構成を説明する斜視図である。
【
図7】本発明のシャワーノズルの構成を説明する断面図である。
【
図8】本発明のシャワーノズルの構成を説明する断面斜視図である。
【
図9】本発明を実施した洗濯機の運転工程を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の対象とする傾斜ドラム型の洗濯機1の外観を示す図であり、その内部構造の概要を
図2に示す。
図1に示すように洗濯機1の本体2の前面には洗濯物を出し入れするための円形のドアユニット3が配設され、その上部に運転メニューの選択などためのコントロールパネル4を有する。
【0023】
洗濯機1の内部には
図2に示すように、洗濯槽5を傾斜状態で配置している。この洗濯槽5は、本体2に弾性部材8により複数箇所を弾性支持された水受け槽6、およびこの水受け槽6の内部で回転する回転ドラム7からなる。この回転ドラム7には複数の通孔7aを形成しており、水受け槽6の背面に配設したドラムモーター9により回転され、洗濯物の洗濯撹拌および遠心脱水が可能となるようにしている。
【0024】
洗濯槽5の下方には、ポンプ10に連なる排水ホース11が引き回され、この排水ホース11を架台12の係止部12aに固定し、先端を洗濯槽5に接続している。また、洗濯槽5の上部には水栓13から導かれた水道水の供給を制御する給水バルブ14を配置している。この給水バルブ14には、前記水道水が洗濯槽5内で洗濯水となるように供給する給水ホース15と、後述するシャワー用の洗浄水となるように供給する給水ホース16とを接続している。
【0025】
前記ドアユニット3は
図3に示すように、ガラス封止体30を主体にして構成している。このガラス封止体30は、筒部30a、段部30b、肩部30c、底部30dの各部位が連続して一体に成形したものである。前記筒部30aの開放端の全周は、ヒンジにより本体2に固定した枠体31に固定している。
【0026】
したがって、ドアユニット3による本体2の開口の開閉が可能となる。これにより、ドアユニット3を閉じると、筒部30aが水受け槽6の開口フランジ6aに取り付けたドアパッキン17に密接して水密性が保たれ、底部30dが回転ドラム7のフランジ7b内に臨むことになる。なお、ガラス封止体30の前面開口部には透明保護板32を配設しており、ガラス封止体30の保護と塵埃などの侵入を防ぐようにしている。
【0027】
つぎに、本発明のシャワーノズル20の構成ついて以下に説明する。シャワーノズル20は
図3、
図4に示すように、水受け槽6の開口フランジ6aの裏面に取り付けるようにしたものである。
図5、
図6は、シャワーノズル20の組立状態を示すもので、水路構成体21のネジ受けボス21a に案内板22をネジ25により止着して
図7および
図8に示すように一体化している。
【0028】
前記水路構成体21には洗浄水の導水路21aを形成しており、この導水路21aの開口部21a−1と水受け槽6に形成した通孔6bとの間にパッキン23を介装する。更に前記に給水ホース16の端部を接続して洗浄水の供給が可能となるようにしている。なお、前記水路構成体21と案内板22は同時に一体成形するようにしてもよい。
【0029】
前記案内板22にはその先端に向けて拡開する下り勾配の案内溝22aを形成しており、この案内板22を水路構成体21に固定したとき、この水路構成体21の導水路21aの開口端が前記案内溝22aの奥部中央に位置するように構成している。また、水路構成体21の下端には前記案内溝22aの開放端と等長のリブ21bを形成しており、このリブ21bと案内溝22aとの開放端により吐出口24を形成する。
【0030】
したがって、
図7、
図8の矢印で示すように、導水路21aから圧送された洗浄水は案内溝22aで拡散して扇状に広がった膜状のシャワーSWとなり、
図3に示すようにガラス封止体30の筒部30aに向けて放射することになる。放射されたシャワーSWはガラス封止体30に付着した石鹸粒、石鹸カスなどを強力に洗い落とす。そして、ガラス封止体30の頂部から流下した洗浄水がガラス封止体30の全体を洗浄して水受け槽6に回収される。
【0031】
以上のようにして洗浄水が扇状に広がった膜状となって斜め下方に放射するので、回転ドラム7に洗濯物を投入し、その重量により水受け槽6が降下した場合においても、シャワーSWの放射範囲は大きく変わることがない。したがって、水受け槽6がどのような位置にあってもシャワーSWはガラス封止体30の筒部30a、段部30bに向けて確実に放射されることになる。
【0032】
また、このようにシャワーSWが放射されることから、洗浄範囲がガラス封止体30の形状で異なる場合においても何ら設計変更をせずに洗浄機能を得ることができる。
【0033】
つぎに、
図9に示すフローチャートに基づいて本発明の洗濯機1の運転工程の一例を以下に説明する。
【0034】
洗濯機1の利用者のコントロールパネル4の操作により運転スタートが指示されると、シャワーノズル20からシャワーSWがガラス封止体30に向けて噴射し、初期シャワー洗浄工程が開始する(ステップS1)。これにより前回運転時の石鹸粒、石鹸カスなどが残存している場合は、この初期洗浄により洗い落とされる。
【0035】
このようにして初期洗浄が完了すると、洗濯槽5に投入されている洗濯物の洗い工程に移行する(ステップS2)。この洗い工程では給水バルブ14が制御され、水栓13から洗濯水となる水道水を給水ホース15を経て洗濯槽5内に供給する。所定量の洗濯水が洗濯槽5内に貯留されると、ドラムモーター9が駆動を開始し、回転ドラム7が右回転および左回転へ交互に反転して洗濯撹拌が行われる。
【0036】
このようにして所定時間の洗濯撹拌が終了すると、脱水工程が開始される(ステップS3)。この脱水工程では回転ドラム7をドラムモーター9により一方向に高速回転し、洗濯槽5内の洗濯物に含まれている洗濯水を遠心脱水して排出する。この脱水工程が終了すると、回転ドラム7の回転が停止し、給水バルブ14が制御されて水栓13から水道水が洗濯槽5内に供給されすすぎ洗い工程を開始する(ステップS4)。
【0037】
前記すすぎ洗い工程により、すすぎ洗いが完了すると、ポンプ10が駆動して排水ホース11から洗濯槽5内の残り水が排水される。このようにして排水が完了すると、シャワーノズル20からシャワーSWをガラス封止体30に向けて放射して仕上げシャワー洗浄工程を開始し(ステップS5)、ガラス封止体30の洗浄を完了する。そして再びドラムモーター9の駆動を開始し、回転ドラム7の一方向への高速回転により再び脱水工程が開始され(ステップS6)、洗濯槽5内の洗濯物の遠心脱水を行い、一連の工程を終了する。
【0038】
このように本発明の洗濯機1によれば、ドアユニット3のガラス封止体30に集中した洗浄が可能となるので、洗濯運転毎に石鹸粒、石鹸カスを確実に除去することができ、特別な清掃作業を必要とすることなく、ドアユニット3の清潔感、美観を維持することができ、ドアユニットからの洗濯槽5内の透視機能が低下することのない洗濯機とすることができる。また、洗浄水の放射が膜状であることにより、ガラス封止体に対するシャワーノズルの相対位置が変化してもドアユニット全体の洗浄が可能となることから、設計変更することなく大きさの異なる洗濯機への対応が可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・・・・洗濯機
2・・・・・・本体
20・・・・・シャワーノズル
3・・・・・・ドアユニット
30・・・・・ガラス封止体
4・・・・・・コントロールパネル
5・・・・・・洗濯槽
6・・・・・・水受け槽
7・・・・・・回転ドラム
8・・・・・・弾性部材
9・・・・・・ドラムモーター
10・・・・・循環ポンプ
11・・・・・ホース
12・・・・・架台
13・・・・・水栓
14・・・・・給水バルブ
15・・・・・給水ホース
16・・・・・給水ホース
17・・・・・ドアパッキン