特許第6483386号(P6483386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483386
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】電極、および電気化学キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/38 20130101AFI20190304BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   H01G11/38
   H01M4/62 Z
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-195839(P2014-195839)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-66755(P2016-66755A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山縣 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−008367(JP,B1)
【文献】 特開2001−167755(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/114834(WO,A1)
【文献】 特表2006−527461(JP,A)
【文献】 特開昭56−064425(JP,A)
【文献】 特表2008−525976(JP,A)
【文献】 Miran Gaberscek et al.,Improved Carbon Anode for Lithium Batteries Pretreatment of Carbon Particles in a Polyelectrolyte Solution,Electrochemical and Solid-State Letters,米国,Electrochemical Society,2000年,Vol.3, issue 4,171-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00−11/86
H01M 4/00−4/62
10/05−10/0587
10/36−10/39
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、導電助剤、および、ゼラチンであるバインダからなる合材と、集電体とからなる電気化学キャパシタ用電極であって、
前記合材におけるゼラチンの含有率が2〜10質量%であり、
前記集電体は、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、または、表面をカーボン、ニッケル、チタン、もしくは銀で処理したアルミニウムであることを特徴とする、電気化学キャパシタ用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学キャパシタ用電極を備えている、電気化学キャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダ、電極および電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、電気自動車に搭載される蓄電デバイス(例えば、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等)が開発されている。特に電気化学キャパシタについては、自動車での運動エネルギーの回生、建物または工場での瞬停補填装置、自然エネルギー利用でのレベリング、二次電池の負荷軽減等に使用可能であり、充放電によって電極が劣化し難く、充放電サイクルに優れるため、各種の電源に用いられている。
【0003】
電気化学キャパシタを構成する電極は、電気エネルギーの蓄電に直接係わる活物質、活物質間の導通パスを担う導電助剤、バインダ、および集電体から構成されている。電気化学キャパシタの特性は電極に大きく依存し、それぞれの材料自体の特性と材料との組合せに大きく影響を受ける。
【0004】
特にバインダは、活物質、導電助剤およびバインダを含む合材から得られた電極内にて存在比率が少ないこと、電気化学キャパシタに供給される電解液との親和性に優れること、および、電極の電気抵抗を最小限にできること等が要求される。また、バインダには、高電圧作動に耐える電気化学的安定性も重要である。
【0005】
このバインダは、大きく水系または非水系に分類される。水系バインダとしては、スチレン−ブタジエンラバー(SBR)水分散液(特許文献1等)、カルボキシメチルセルロース(CMC)(特許文献2〜4等)、またはこれらのバインダの併用についても従来技術として提案されている(特許文献3、5、6等)。これらの水系バインダは、活物質および導電助剤の分散性および密着性が比較的高いため、合材における含有量が少なくて済むという利点がある。
【0006】
非水系バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(特許文献7、8等)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液(特許文献9〜11等)が挙げられ、特に高圧作動型のデバイスには有利に働く点で利点がある。
【0007】
一方、リチウムイオン二次電池用電極用の水系バインダとして、多糖類系天然高分子であるアルギン酸ナトリウムを用いることが開示されており、バインダとして適用可能であること、および、このバインダを用いたリチウムイオン二次電池用電極のサイクル耐久性が高いことが記載されている(非特許文献1)。
【0008】
また、アルギン酸塩を用いたバインダについては、電気化学キャパシタおよびリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイス用電極等に適用可能であることが、本発明者らによって見出されている(特許文献12および13、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3101775号明細書(2000年10月23日発行)
【特許文献2】特許第3968771号明細書(2007年8月29日発行)
【特許文献3】特許第4329169号明細書(2009年9月9日発行)
【特許文献4】特許第4244041号明細書(2009年3月25日発行)
【特許文献5】特許第3449679号明細書(2003年9月22日発行)
【特許文献6】特許第3958781号明細書(2007年8月15日発行)
【特許文献7】特許第3356021号明細書(2002年12月9日発行)
【特許文献8】特開平7−326357号公報(1995年12月12日公開)
【特許文献9】特許第3619711号明細書(2005年2月16日発行)
【特許文献10】特許第3619870号明細書(2005年2月16日発行)
【特許文献11】特許第3668579号明細書(2005年7月6日発行)
【特許文献12】特開2013−161832号公報(2013年8月19日公開)
【特許文献13】特開2013−197055号公報(2013年9月30日公開)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I. Kovalenko et al., Science, Vol. 75, pp. 75-79 (2011)
【非特許文献2】M. Yamagata et al.,RSC Advances,Vol. 3, pp. 1037-1040 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のバインダは以下の問題点を有している。
【0012】
まず、水系バインダであるSBRを用いた合材では、活物質および導電助剤が不均一化し、均一性に欠けるため、蓄電デバイスの性能再現性が低い傾向にある。また、CMCは、活物質および導電助剤に対する接着力が乏しいため、電極、特に電気化学キャパシタ用電極におけるCMCの含有量を10重量%以上に増加させる必要があるが、その結果、活物質の含有率が低下してしまう。
【0013】
これらの欠点を解消するため、実用上、SBRとCMCとを併用することが必要になるが、SBRは主鎖に二重結合を有するため、SBRを含む正極に使用した場合、デバイスの充放電に伴い酸化による劣化が生じる。さらに、電気化学キャパシタに一般的に利用される多孔性材料に対して、高い強度を維持することは難しく、例えば、SBRおよびCMCは、電解液と接触すると膨張する。これにより集電体から活物質が剥離し、脱落するため、SBRおよびCMCを併用した蓄電デバイスでは、サイクル耐久性および出力特性が低下するという問題等が起こりやすい。さらに、合材電極作製工程においてスラリー管理が難しいなどの課題もある。
【0014】
次に、非水系バインダであるPTFE、PVdF等のフッ素系ポリマーは、活物質に対する親和性が低いため、活物質によっては、それらの分散性に乏しく、均一性の高い合材電極の製造が難しい場合もある。バインダの含有比を増加させることによって接着力不足を補填し、電極の強度を確保することが可能であるが、この場合、電極の電気抵抗が増加する結果となり、特に比表面積の大きい活性炭では、その活性点が失われる。また、活物質の含有率が低下し、蓄電デバイスの容量が低下する。
【0015】
非特許文献1および2、特許文献12および13に開示されているアルギン酸塩を含むバインダは、上述した問題点を概ね解決するものの、工業的製造プロセスに適用する際の電極強度が不足している。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、電気化学デバイスの電極へ適用することができ、工業的製造プロセスに適用可能な強度を有するバインダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、多糖類系の天然高分子であるゼラチンが電気化学キャパシタ材料として機能し得ることを見出すとともに、ゼラチンを含むバインダを電気化学キャパシタの電極へ適用することにより、工業的製造プロセスに必要とされる電極強度を実現し得、かつデバイスの高出力を実現し得ることを見出した。
【0018】
すなわち、本発明に係るバインダは、電気化学キャパシタ用電極の材料である活物質および導電助剤を連結させるバインダであって、ゼラチンを含んでいることを特徴としている。
【0019】
安価なタンパク質系天然高分子であるゼラチンをバインダに利用することによって、従来製品よりも均一な電極を容易にかつ低コストで作製することができる。
【0020】
さらに、活物質(例えば炭素材料)および集電体(例えば金属箔)に対するゼラチンの高い親和性により、電極の電気抵抗を、従来の水系バインダを用いた場合と同程度に低減することができる。しかも、ゼラチンをバインダに利用することによって合材電極の強度が増加させることができるので、多糖類系バインダの最大の問題点であった工業的製造プロセスに必要とされる強度を確保することができる。さらに、3.0V以上の高電圧作動にも耐え得るデバイスを構築することが可能になる。
【0021】
すなわち、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極は、上記バインダを含んでいることを特徴としており、本発明に係る電気化学キャパシタは、上記電極を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るバインダは、天然高分子を利用しているため、コストの削減が見込めるとともに環境負荷が少ない。本発明に係るバインダは、同じく天然高分子であるアルギン酸を用いたバインダよりも格段に強度が優れており、本発明に係るバインダを用いて作製された電極は、剥離試験で剥がれないほど強度が強い。しかも、本発明に係るバインダを用いることにより、電気抵抗が軽減された合材電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例における充放電曲線を示すグラフである。
図2】(a)は実施例における充放電曲線を示すグラフであり、(b)は比較例における充放電曲線を示すグラフである。
図3】実施例および比較例における充放電効率を示すグラフである。
図4】実施例および比較例における耐電圧特性を示すグラフである。
図5】実施例および比較例における出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0025】
[1.バインダ]
本発明は、電気化学キャパシタ用電極に好適に利用されるバインダを提供する。
【0026】
本明細書中において使用される場合、「バインダ」は、電気化学キャパシタ用電極の材料である活物質および導電助剤を連結させるものである。バインダは、電極において活物質と導電助剤とを覆うように存在し、活物質に対して導電助剤を固定するものである。なお、本明細書中において、電気二重層キャパシタを実施例として、電気化学キャパシタを説明している。
【0027】
本発明に係るバインダは、ゼラチンを含んでいることを特徴としている。本発明に係るバインダはゼラチンを含んでいればよいが、バインダにおけるゼラチンの含有率は、50質量%以上、100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上、100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上、100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0028】
本発明に係るバインダに含まれるゼラチンの原料は特に制限されず、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、魚類等の皮、骨、腱等から得られたものを用いることができる。本発明に用いられるゼラチンの種類は特に制限されず、例えば、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン等であってもよく、ゼラチンの加水分解物、ゼラチン酵素分解物、その他アミノ基、カルボキシル基を修飾したゼラチン(フタル化ゼラチン、アセチル化ゼラチン)、ハイドロゲル等が使用されてもよい。
【0029】
本発明に係るバインダにおけるゼラチンの含有率が100質量%未満である場合、本発明に係るバインダは1種以上の高分子を含んでもよく、アルギン酸塩、キトサン、グルタミン酸、ヒヤルロン酸、デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの多糖類系天然高分子あるいはそれらの誘導体、低糖類をさらに含んでいてもよい。アルギン酸塩を用いたバインダについては、本発明者らによって電気化学キャパシタ等に適用可能であることが報告されている(特許文献12、13、非特許文献2)。アルギン酸塩などの天然高分子を用いることにより、高電圧および高電位にて良好な充放電特性を示すバインダを提供することができる。本発明に係るバインダはまた、フィブロイン、グルテン、コラーゲン、グリシニン他のタンパク質系天然高分子またはそれらの誘導体を含んでもよく、さらに、天然ゴム、人工天然ゴムまたはそれらの誘導体等を含んでもよい。
【0030】
本発明に係るバインダはまた、ポリエチレングリコール (PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレン、ポリアクリル酸(PAA)またはこれらの塩、フッ素樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはこれらの共重合体、人工ゴム;スチレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、スチレン―ブタジエンゴム (SBR)、スチレン−アクリロニトリル共重合体など、2種以上から構成されるポリマーを含んでいてもよく、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂などが併用されてもよい。
【0031】
本発明に係るバインダの強度は、天然高分子であるアルギン酸を用いたバインダの強度よりも格段に優れており、具体的には、本発明に係るバインダを用いて作製された電極は、剥離試験で剥がれないほど強度が強い(データは示さず)。一般に、バインダの強度を上げると、作製した電極の電気抵抗が高くなる傾向があるが、本発明に係るバインダを用いることにより、電気抵抗が軽減された合材電極を得ることができる。このような、強度に優れかつ電気抵抗が低減された電極を得ることができるということはまた、当業者が予測し得ない格別顕著な効果といえる。
【0032】
また、本発明に係るバインダは、天然高分子を利用しているため、コストの削減が見込めるとともに環境負荷が少ない。しかも、天然高分子を利用した材料であるにもかかわらず、本発明に係るバインダは、3.0V以上の高電圧にて作動可能であり、水系バインダを用いた場合に匹敵する出力特性を有するキャパシタを作製することができる。つまり、本発明に係るバインダは、優れた電気化学キャパシタの材料である。
【0033】
さらに、本発明に係るバインダは、活物質(特に炭素系の活物質)および導電助剤との親和性が高いため、均一性に優れた合材電極を作製することができる。また本発明に係るバインダは、十分な接着力を有しているため、電極の作製が容易である。
【0034】
[2.電気化学キャパシタ用電極]
本発明はまた、電気化学キャパシタに好適に利用される電気化学キャパシタ用電極を提供する。
【0035】
電気化学キャパシタ用電極は、一般に、活物質、導電助剤およびバインダを含む合材を乾燥することにより得られる。
【0036】
本発明に係る電気化学キャパシタ用電極は、本発明に係るバインダが用いられていればよく、本発明に係るバインダとともに好適に用いられる活物質および導電助剤を以下に説明する。
【0037】
本発明に係る電気化学キャパシタ用電極には、活物質として公知のものを使用することができ、活性炭、黒鉛粉末などを用いることができる。また、活物質同士および活物質と集電材とを電気的に連結する導電助剤は、キャパシタの性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されない。本発明において、活物質は単独で使用されても2種類以上が併用されてもよい。また、活物質の量は、その用途等により異なり、特に限定されないが、合材の総質量に対して、80質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。特に、活物質として炭素材料を90質量%以上、100質量%以下含む電極は、汎用性が高く、作製が容易であるため、本発明に好ましく用いられる。
【0038】
また、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極には、導電助剤として公知のものを使用することができ、好ましくは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が使用されてもよい。これらは単独で用いられても、2種類以上の混合物として用いられてもよい。
導電助剤の量もまた特に限定されないが、合材の総質量に対して、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上、10質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
上記合材は、活物質、導電助剤およびバインダを混合することによって得られ、バインダとしてのゼラチンは水溶液の状態で混合されてもよい。また、粘度調整のために、合材は水などが添加されてもよい。ゼラチンは炭素系の活物質および導電助剤との親和性が高く、非常に均一な合材が得られる点が特徴であり、意匠的にも優れた電極が得られる。
【0040】
本発明において、合材中の活物質層における活物質、導電助剤およびバインダの含有率(質量%)は、特に限定されるものではないが、例えば、活物質:導電助剤:バインダ=80〜97:4〜10:2〜15とすることができる。なお、活物質、導電助剤およびバインダの含有率の合計は100である。すなわち、合材から得られた電気化学キャパシタ用電極におけるバインダの配合率は、1質量%以上、15質量%以下であることが好ましい。また、より好ましくは、2質量%以上、10質量%以下である。2質量%以上であれば、活物質、導電助剤およびバインダが均一に混合された合材を作製することが容易となり、10質量%以下であれば、バインダの配合率の増加に伴う活物質の配合率の低下を防ぐことができる。
【0041】
本発明に係る電気化学キャパシタ用電極は、上記活物質、導電助剤、及びバインダ等からなる合材を塗工液として集電体に塗布した後に乾燥することにより製造することができる。
【0042】
電極用集電体として、構成された電気化学キャパシタにおいて悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用することができ、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられる。接着性、導電性、耐酸化性等の向上の目的で、アルミニウム等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した電極用集電体が用いられてもよい。
【0043】
これらの電極用集電体の表面を酸化処理することも可能である。また、電極用集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体であってもよい。厚みは特に限定されないが、1μm以上、100μm以下のものが通常用いられる。
【0044】
本発明に係る電気化学キャパシタ用電極を得る手順の一例を説明すると、電極用の塗工液は電極用集電体にそれぞれ所望の厚さにて塗布される。塗布法として、集電体に塗工液を塗布し、ドクターブレードによって余分な塗工液を除去する方式、集電体に塗工液を塗布し、ローラによって塗工液を圧延する方式等の公知の塗布法が挙げられる。
【0045】
塗工液を乾燥する温度は特に限定されず、通常、70℃以上、100℃以下であるが、塗工液中の各材料の配合率によって適宜変更されればよい。また、得られた電極の厚さは、電気化学キャパシタの用途によって適宜変更されればよい。
【0046】
上述したように、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極は、本発明に係るバインダを用いていることにより、剥離試験で剥がれないほど強度が強く、スクラッチ試験においても、従来の水系バインダを用いた電極を超える強度を有する。また、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極は、本発明に係るバインダを用いていることにより、均一性に優れており、電気抵抗が低減されており、3.0V以上の高電圧にて作動可能である。
【0047】
[3.電気化学キャパシタ]
本発明はまた、優れた特性を有する電気化学キャパシタを提供する。
【0048】
電気化学キャパシタは、正極(電極)および負極(電極)を備え、正極と負極との間には、電解液が供給されている。電気化学キャパシタには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが配置されている。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0049】
本発明に係る電気化学キャパシタは、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極が用いられていればよく、本発明に係る電気化学キャパシタ用電極とともに好適に用いられる電解液およびセパレータを以下に説明する。
【0050】
本発明に係る電気化学キャパシタに用いられる電解液としては公知のものが利用可能であり特に限定されないが、好ましくは、非水系電解液が用いられる。
【0051】
非水系電解液は、従来公知の電気化学キャパシタに用いられる非水系電解液であればよく、イオン液体を用いることもできる。ここでいう「イオン液体」とは、室温でも液体で存在する塩を意味する。このイオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0052】
上記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0053】
また、上記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。上記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。また、上記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。上記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。上記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0054】
また、上記カチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、または;CFCO、CFSO、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TFSI)]、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミド (FSI)]、(CFSOなどのフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。
【0055】
上記イオン液体としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、(1)蓄電デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなりつつ該電気的特性の低下が抑制されるという点および(2)入手し易く電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制されるという点では、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミド (FSI)]またはテトラフルオロボレート(BF)アニオンを含むイオン液体が好ましい。
【0056】
また、大気中での取り扱いが容易という点では、含フッ素系アニオンを含むイオン液体が好ましく、FSIまたはBFを含むイオン液体がより好ましい。
【0057】
また、上記非水系電解液としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。
【0058】
具体的には、上記非水系電解液としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン又はテトラフルオロボレートと、カチオンとしてのイミダゾリウムとの塩が好ましく、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド、又は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートが好ましい。また、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートも好ましい非水系電解液として挙げられる。
【0059】
非水系電解液は、「イオン液体」に限らず、電気化学キャパシタの非水系電解液に用いられる、有機系電解液であってもよい。このような有機系電解質はイオンキャリアとなる電解質塩を含み、それを溶解させる有機溶媒から構成される。
【0060】
上記電解質塩として、上記イオン液体、四級オニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いることができる。
【0061】
代表的な四級オニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩やテトラアルキルホスホニウム塩等を挙げることができる。
【0062】
代表的なアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。
【0063】
上記電解質塩のアニオンとして、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、または;CFCO、CFSO、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(CFSO等のフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。
【0064】
また、上記有機溶媒として、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系化合物等を用いることができる。
【0065】
代表的な有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、モノグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、4−メチル−2−ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2−ジクロロエタン、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、メチルフォルメイト、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルおよびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0066】
これらの中でも、低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れる点で、プロピレンカーボネートが好ましい。上記非水系電解質は、単独又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0067】
本発明に係る電気化学キャパシタに用いられるセパレータとしては公知のものが利用可能であり特に限定されないが、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレン製フィルムの微多孔膜;多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム;ポリエステル繊維、アラミド繊維またはガラス繊維等からなる不織布が挙げられ、より好ましくは、それらの表面に、シリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたセパレータが挙げられる。
【0068】
上記セパレータは空隙率が70%以上のものが好ましく、80%以上、95%以下であるものがより好ましい。
【0069】
ここで、空隙率はセパレータの見掛け密度と構成材料の固形分の真密度から、次式により算出した値である。
空隙率(%)=100−(セパレータの見掛け密度/材料固形分の真密度)×100
上記セパレータとしては、平均繊維径が1μm以下のガラス繊維を80重量%以上と、フィブリル化有機繊維を含む有機成分を20重量%未満とを含有し、ガラス繊維同士がフィブリル化有機繊維の絡み付きによって結合され、空隙率85%以上とされた湿式抄造シートが特に好適に用いられる。
【0070】
フィブリル化有機繊維は、繊維を離解する装置、例えばダブルディスクリファイナーを用いることによって、叩解等による剪断力の作用を受け、単繊維が繊維軸方向に非常に細かく解裂して形成された多数のフィブリルを有する繊維であって、少なくとも50重量%以上が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであることが好ましく、100重量%が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであればより好ましい。
【0071】
フィブリル化有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等を使用できる。
【0072】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0073】
〔電極の作製〕
以下の材料を用いて、電気化学キャパシタ用電極を作製した。
【0074】
活物質:ヤシ殻由来活性炭(株式会社クラレ)
導電助剤:アセチレンブラック(電気化学工業株式会社)
バインダ:ゼラチン粉末(ブタ由来、宏栄化成)
電解液:1.96mol dm−3のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEMABF)をプロピレンカーボネート(PC)に溶解させたもの
集電体:エッチドアルミニウム箔。
【0075】
70℃の温水にゼラチン粉末を加え、約10質量%のゼラチン水溶液を調製した。活物質および導電助剤を乳鉢に入れて約10分間混合し、活物質、導電助剤およびゼラチン水溶液を乾燥後の組成比(電極における含有比)が88:8:4となるようにゼラチン水溶液を混合し、スラリーの合材を作製した。この合材に純水を加えスラリー粘度を調整した後、ドクターブレード法によって合材をアルミ集電体に塗布した。塗布した合材を、ホットプレート上にて80℃で10分間加熱した後に、80℃の温度雰囲気下、10−1Paの減圧下で数時間乾燥させ、目的の合材電極(AC−Glt)を得た。ゼラチンバインダの含有比が4質量%および5質量%の電極をそれぞれAC−Glt(1)およびAC−Glt(2)とした。
【0076】
従来技術として典型的なスチレンブタジエンゴムおよびカルボキシメチルセルロースをバインダとして含む活性炭合材電極(AC−CMC+SBR)を作製した。
【0077】
〔電極の強度試験〕
マイクロスクラッチ装置(CSEM Instruments、AEセンサー付自動スクラッチ試験機)を用いて、合材電極の強度を調べた。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
バインダ含有比が同じであるAC−Glt(2)とAC−CMC+SBRとを比較すると、AC−Glt(2)はAC−CMC+SBRよりも強度が向上していることがわかった。また、AC−Glt(2)よりもバインダ含有比が低いAC−Glt(1)であっても、AC−CMC+SBRと同等の強度を発揮することがわかった。
【0080】
〔電気化学キャパシタの作製〕
直径12mmのディスク状に打ち抜いた電極を用いて、以下の評価用セルを構築した。
【0081】
実施例:AC−Glt(1)を正極および負極に利用し、電極間にセパレータを配置して電解液を注入した電気化学キャパシタである二電極式セル
比較例:AC−CMC+SBRを正極および負極に利用し、電極間にセパレータを配置して電解液を注入した電気化学キャパシタである二電極式セル
この二電極式セルに対して、充放電特性、耐電圧特性、出力特性を調べ、結果を図1図5に示した。
【0082】
〔電気化学キャパシタの充放電特性評価〕
実施例の評価用セルについて、30.0A g−1の電流密度での充放電を行い、その時に観測される電気化学キャパシタのセル電圧の推移を調べた。充電・放電電流を5.0〜100mA/cm、作動電圧範囲を0〜2.5Vとした際の充放電曲線を図1に示す。典型的な電気化学キャパシタの充放電特性が示されたことから、本発明に係るバインダが、電気化学キャパシタ材料として機能していることがわかった。
【0083】
〔電気化学キャパシタの耐電圧特性評価〕
2.5V、3.0V、3.5V、3.7V、3.8Vの5種類のセル上限電圧にて、電気化学キャパシタに5A g−1の電流にて充放電を行い、その時に観測される電気化学キャパシタのセル電圧の推移を調べた。
【0084】
評価1:実施例および比較例について、充電・放電電流を5.0mA/cm、作動上限電圧を2.0V〜3.3Vとした際の充放電曲線を図2に示す。実施例の評価用セルは、3.3Vの上限電圧であっても安定した充放電曲線を示し、十分な耐電圧特性を有している。しかし、比較例の評価用セルでは、作動上限電圧が3.0Vであっても充放電曲線に歪みが生じており、副反応が生じている。
【0085】
評価2:実施例および比較例について、充電・放電電流を5.0mA/cm、作動上限電圧を2.0V〜3.3Vとした際の各作動上限電圧に対する充放電効率を図3に示す。実施例では全ての作動上限電圧において96%以上の充放電効率を維持しており、耐電圧特性に優れることがわかった。一方、比較例では、作動上限電圧が2.7Vおよびそれよりも高い電圧の場合に急激に充放電効率が低下していた。
【0086】
評価3:実施例および比較例について、充電・放電電流2.5mA/cm、作動電圧2.5Vにて充放電を10サイクル行い、引き続いて3.0Vまたは3.2Vの作動電圧を12時間保持し、その後に充電・放電電流2.5mA/cm、作動上限電圧を2.5Vにて充放電を10サイクル行った際の、充放電容量を図4に示す。なお、評価前の放電容量を100%とし、その割合を示した。実施例では、いずれの電圧を保持した場合であっても、放電容量は初期値と同等(ほぼ100%)である。一方、比較例では電圧を保持した後に放電容量が減少していた、このことは、電圧保持時に劣化反応が起こったことを示している。
【0087】
〔電気化学キャパシタの出力特性評価〕
実施例および比較例の評価用セルについて、1.0〜90.0A g−1の電流密度で放電した際の放電容量を測定した。実施例および比較例について、作動上限電圧を2.5V、充電・放電電流値を0.5〜25A g−1の範囲で変化させた際の、放電容量の推移を図5に示す。実施例は比較例とほぼ同等の特性を示すことがわかった。
【0088】
〔結果〕
このように、出力特性試験で実施例が比較例と同等の充放電特性を示していること、合材電極の強度試験から実用上の製造プロセスに必要な強度を兼ね備えていること、安価なバインダ材料であること、そしてCMC+SBRのような複雑な製造プロセスを必要としないことから、ゼラチンは電気化学キャパシタ用電極のバインダとして非常に有効であるといえる。
【0089】
さらに、本明細書中において、電気二重層キャパシタとして電気化学キャパシタを説明したが、本発明は、電気二重層キャパシタに限らず、リチウムイオン電池や色素増感型太陽電池などへの適用可能性があるため、波及効果も高い。加えて、ゼラチンは、これまでにカメラ用フィルム材として使用されてきたが、近年のデジタルカメラの普及によってその存在意義を失いつつあるため、本発明は、ゼラチンの新たな適用分野を提供する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、電気化学キャパシタの材料となるバインダに関するものであり、コンデンサ業界だけでなく、電気化学キャパシタの搭載先として考えられている電気自動車や、家電製品、自然エネルギー蓄電システムなどに、高性能かつ安全性の高い蓄電デバイスを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5