(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記廃水が、石炭火力発電所やコークス工場で実施されている排煙脱硫法を実施する排煙脱硫装置から排出されたものである請求項1〜6のいずれか1項に記載のフッ素含有廃水の処理方法。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所やコークス工場で実施されている排煙脱硫法としては、湿式石灰−石膏法が主流であるが、この方法では、多量に生成する石膏の処分が必要となることから少規模設備向きでないといった問題がある。このような問題に対し、石灰に代えて水酸化マグネシウムを使用して排ガスを処理する方法が実施されている。この方法は、排ガス中の硫黄分を石膏のような固形物としてではなく、硫黄分を水への溶解度が大きい硫酸マグネシウムとして捕捉するものであり、生成される硫酸マグネシウムは、溶解して廃水と共に放流することが可能である。
【0003】
その一方で、上記に挙げたような排煙脱硫装置からの廃水中にはフッ素イオンが含まれているため、放流するにあたっては、その処理が問題となる。廃水中のフッ素イオンを除去する方法としては、pH中性域の廃水中にカルシウムイオンを添加して、フッ素イオンをフッ化カルシウムとして沈殿除去する方法が一般的である(特許文献1等参照)。
【0004】
しかし、この方法では、上記した水酸化マグネシウムを使用する排煙脱硫装置からの廃水のように、廃水中にマグネシウムイオンや硫酸イオンが存在していると、カルシウム法でのフッ素イオン除去率が極端に悪くなるという問題があった。これは、このような廃水の場合、pH中性域では、多量のマグネシウムイオンとフッ素イオンが錯体として溶解し、このことが原因してフッ化カルシウムが生成しなくなるためと考えられる。
【0005】
この問題に対し、カルシウムイオンを添加後に、廃水のpHを8.0〜10.0に調整して、沈殿固液分離することにより、フッ素イオンの除去率を高めることが提案されており(特許文献2、3参照)、実施もされている。この方法では、カルシウムイオンを添加した際に、フッ化カルシウムの沈殿とならずに、マグネシウムイオンとフッ素イオンが錯体として溶解していたものが、pHを高めることでマグネシウムイオンが水酸化マグネシウムとして析出して沈殿し、この沈殿にフッ素イオンが取り込まれて沈殿し、さらに、存在しているカルシウムイオンとフリーになったフッ素イオンとが反応してフッ化カルシウムとして沈殿することで、極端に悪くなった廃水中からのフッ素イオン除去率を向上させることができたものと考えられる。本発明者らは、このことは、言い換えれば、アルカリ域では、フッ素イオンは、併存するマグネシウムイオンとの関係において、「フッ素とマグネシウムの錯体」になるよりも、「析出した水酸化マグネシウムにフッ素イオンが取り込まれた沈殿物」で存在する方が安定な状態になることを示しており、フッ素の除去処理を考える上で、注目すべき点であると認識した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来の方法を用いることで廃水中からのフッ素イオン除去率を向上させることができるものの、従来の方法では、スラッジの発生量が増加するという実用上の問題があり、本発明者らは、この点を改善することで、より良好で経済的な処理を行うことが必要であると認識するに至った。すなわち、従来の方法では、カルシウムイオンを添加することで生じたフッ化カルシウムの沈殿に加えて、カルシウムイオンを添加後、pHを高めることで、マグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして析出させているため、スラッジの発生量が増加し、スラッジの処理コストの増大を招いている。さらに、なによりも、上記した従来の方法では、確かにフッ素イオン除去率を向上させることができるが、最終的なスラッジ中のフッ素含有率は、数%程度であることに鑑み、最終的なスラッジ中のフッ素含有率をより向上させることができる技術開発が重要であり、その開発は急務であるとの認識をもつに至った。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記した課題がある、例えば、水酸化マグネシウムを用いて排ガスを処理する方式の排煙脱硫装置からの廃水のように、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンとを含む廃水から、フッ素イオンを除去処理する場合に、最終的なスラッジの発生量を低減させることができ、さらには、より高い処理効率を実現できる簡便なフッ素含有廃水の処理方法を提供することにある。また、本発明の別の課題は、最終的なスラッジの発生量の低減に加え、最終的なスラッジの含水率を低下させ、その脱水処理を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンを含有する廃水中のフッ素イオンを除去処理するフッ素含有廃水の処理方法であって、前記廃水にアルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整することで、廃水中のフッ素イオンが取り込まれた沈殿物を生成させる沈殿物の生成工程と、該工程で生成した沈殿物を固液分離する沈殿物の固液分離工程とを有し、該沈殿物の固液分離工程で、前記沈殿物由来のフッ素分を含む懸濁スラッジを分離し、さらに、分離した懸濁スラッジに酸を添加して、該スラッジのpHが、3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整することでスラッジ濃度を低下させ、且つ、該スラッジ中のフッ素含有率を、前記懸濁スラッジ中のフッ素含有率に対して相対的に高め、その後、最終的なスラッジの固液分離工程を設けることを特徴とするフッ素含有廃水の処理方法を提供する。
【0010】
本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記懸濁スラッジ中のフッ素イオン濃度が50mg/L以上であること;前記懸濁スラッジ中のフッ素イオン濃度が200mg/L以上であること;前記廃水中のマグネシウムイオン濃度が2000mg/L以上で、且つ、前記硫酸イオン濃度が5000mg/L以上であること;さらに、前記最終的なスラッジの固液分離工程で、最終的なスラッジと分離した上澄液を、前記沈殿物の生成工程を行うために戻し、前記廃水とともに再度の処理を行うこと;前記沈殿物の固液分離工程で前記懸濁スラッジと分離された上澄液に、アルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整することで、上澄液中のフッ素イオンが取り込まれた沈殿物を生成させるための2段目の沈殿物の生成工程と、該2段目の沈殿物の生成工程で生成した沈殿物を固液分離して懸濁スラッジを分離する2段目の沈殿物の固液分離工程とを、さらに有すること;前記廃水が、石炭火力発電所やコークス工場で実施されている排煙脱硫法を実施する排煙脱硫装置から排出されたものであること;が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、水酸化マグネシウムを用いて排ガスを処理する方式の排煙脱硫装置からの廃水のように、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンとを含む廃水から、フッ素イオンを除去処理する場合に、特殊な薬剤を使用することなく簡便な方法で、従来の方法に比べて、より高い処理効率を実現でき、しかも、最終的なスラッジの発生量を格段に低減させることができるフッ素含有廃水の処理方法の提供が可能になる。さらに、本発明の処理方法における最終的なスラッジは、その主成分がフッ化マグネシウムになるため、廃棄の対象から、再利用可能な資源への期待も大きく、資源の有効利用の観点でも極めて有用なフッ素含有廃水の処理方法の提供が可能になる。
【0012】
また、本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、前記した実際の処理に用いられている従来の処理方法に適用することで、上記した処理効率の向上と最終的なスラッジ量の低減という効果に加えて、下記に述べるように、固液分離した最終的なスラッジの脱水性を向上させることができるという効果も得られ、この場合は、分離された最終的なスラッジの含水率が減少するので、最終的なスラッジの処理がより容易になるという、実用上の大きな効果が得られる。先に述べたように、水酸化マグネシウムを使用する排煙脱硫装置からの廃水のような廃水中にマグネシウムイオンや硫酸イオンが存在している廃水の処理では、カルシウム法で処理した場合のフッ素イオン除去率が極端に悪くなることに対して、カルシウムイオンを添加後、廃水のpHを8.0〜10.0に調整して、沈殿固液分離することにより、フッ素イオンの除去率を高めることが行われている。本発明の方法では、廃水にアルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整することで、廃水中のフッ素イオンが取り込まれた沈殿物をより積極的に生成させるが、この際に使用するアルカリ剤は特に限定されず、汎用のアルカリ剤、例えば、カルシウム塩(例えば、消石灰)や苛性ソーダや苛性カリ等の汎用のアルカリ剤を適宜に用いることができる。本発明者らの検討によれば、アルカリ剤としてカルシウム塩(例えば、消石灰)を用い、本発明方法を適用した場合には、驚くべきことに、最終的なスラッジの量の低減と、最終的なスラッジ中のフッ素含有率の向上効果が認められるのに加えて、最終的なスラッジの脱水性が向上することがわかった。すなわち、固液分離された最終的なスラッジの含水率が減少するため、脱水ケーキ量が少なくなり、脱水時のろ過性が向上する結果、脱水機のコンパクト化や、脱水機の稼働時間を短くすることができるなどの、従来の方法に対して実用上の様々な効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、例えば、排煙脱硫装置からの廃水のような、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンを含有する廃水を処理する場合に、カルシウムイオンを添加後に、廃水のpHを8.0〜10.0に調整して、沈殿固液分離することによってフッ素イオンの除去率を高めた従来方法において、フッ素イオンの除去率のさらなる向上と、スラッジの発生量の低減が望まれるとの認識の下、これらの課題を一挙に解決する方法について鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。すなわち、先に詳述したように、上記した従来の方法では、フッ素イオンの除去率が十分であるとは言い難く、また、スラッジの発生量が増加し、スラッジの処理コストの増大を招いているという実用上の課題もあり、その解決が望まれる。また、別の課題として、従来方法によって発生するスラッジは、脱水性に劣り、大型の脱水機を必要としたり、脱水に長時間を要するという二次処理についての課題もあった。
【0015】
本発明者らは、上記した従来技術の課題について、特に、下記の点を解決することが優先であると認識の下、鋭意検討した結果、本発明に至った。従来の処理方法では、フッ化カルシウムで沈殿除去する際におけるフッ素イオンの除去率の悪化を、pHを8.0〜10.0に高めることでマグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして析出させて、処理効率を向上させている。このため、スラッジの量が多くなるが、まず、この点を改善することができれば、大量のスラッジ処理にかかる費用の低減が可能になり、実用上極めて有用であるとの認識を持った。
【0016】
本発明者らは、上記した認識の下、「フッ素とマグネシウムの錯体」になるよりも、「析出した水酸化マグネシウムにフッ素イオンが取り込まれた沈殿物」で存在する方が安定な状態である点に注目し、従来法で行うとされているpHの範囲内の中でも高めに設定し、pHを9.0〜10.0とすることで、マグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして十分に析出させ、析出した水酸化マグネシウムにフッ素イオンが取り込まれたフッ化マグネシウムや水酸化フッ化マグネシウム等を含むフッ素化合物を含有した沈殿物をより積極的に生成させて、効率よく沈殿物中に廃水中のフッ素イオンが取り込まれるようにする一方で、この沈殿物を固液分離し、分離した懸濁スラッジに対して極めて簡便な処理を施すことで、最終的なスラッジ量を低減させると同時に、残ったスラッジ中にフッ素分を高濃度で残存させ、これによって効率よくフッ素分の除去処理をすることができる巧みな手段を見出して本発明を達成した。
【0017】
すなわち、本発明者らは、上記したpHを9.0〜10.0とすることで析出した水酸化マグネシウムと、これにフッ素イオンが取り込まれた沈殿物を、沈殿槽等を用いて固液分離し、沈殿槽から排出され分離した懸濁スラッジに酸を添加し、pHを3.0〜8.5となるように調整するといった極めて簡便な手段によって、最終的なスラッジの量の低減と、減量したスラッジ中に、従来技術では達成できていなかったレベルでフッ素分を濃縮できることを見出した。具体的には、固液分離されて沈殿槽から排出された懸濁スラッジのpHを、3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整することで、スラッジを構成する主成分である析出した水酸化マグネシウム等が溶解する結果、格段にスラッジ量を減少させることができることがわかった。その一方、水酸化マグネシウムを主成分とするスラッジ中に取り込まれていたフッ素分は、フッ化マグネシウム(MgF
2)として析出し、上記で減少したスラッジ中に高濃度で残存することになるので、最終処分が必要になる最終的なスラッジ量を低減しつつ、廃水中のフッ素イオンの除去処理を効率よく行うことができるようになる。
【0018】
上記で、懸濁スラッジのpHを調整した際に、懸濁スラッジ中のフッ素イオン濃度がフッ化マグネシウムの溶解度(参考:76mg/L、化学便覧基礎編II日本化学会編)よりも高ければ、溶解度以上のフッ素はフッ化マグネシウムとして沈殿し、溶解度以下のフッ素は水中に存在することになる。ただし、上記溶解度は水に対する溶解度であるのに対し、本検討に用いた廃水は、マグネシウムイオンおよび硫酸イオンを高濃度に含むため、上記溶解度とは異なることになる。そこで、この点について検討実験を行ったところ、懸濁スラッジのpH3.0〜8.5の範囲では、上記した水に対する溶解度よりも高い、200〜600mg/Lの範囲内でフッ素分が液中に溶解する一方、それ以外はフッ化マグネシウムとして析出することを確認した。これらのことから、本発明の顕著な効果は、懸濁スラッジのpH3.0〜8.5の範囲に調整することで、懸濁スラッジの主成分である水酸化マグネシウムとともに200〜600mg/Lの範囲内でフッ素分が液中に溶解し、これによってスラッジ量を減少でき、その一方で、減量されたスラッジ中にフッ素分がフッ化マグネシウムとして析出し、これによってフッ素分を高濃度で残存させることが可能になった結果、得られたものと考えられる。
【0019】
以下、より具体的に、本発明のフッ素含有廃水の処理方法における処理手順を説明する。
図1aに、本発明のフッ素含有廃水の処理方法の一例を示す概略フロー図を示した。
図1aに示したように、まず、本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、廃水のpHを9.0〜10.0に高めることでマグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして析出させ、析出した水酸化マグネシウムにフッ素イオンが取り込まれた沈殿物をより積極的に生成させ、これを固液分離して懸濁スラッジを得る。本発明者らの検討によれば、この場合、上記で沈殿物を固液分離して得た懸濁スラッジを構成する鉱物相は、水酸化マグネシウムを主成分とし、さらに、この懸濁スラッジ中におけるフッ素含有率は、質量基準で2〜10%程度である。本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、
図1aに示したように、次に、水酸化マグネシウムを主成分とするこの懸濁スラッジに酸を加えて、スラッジのpH3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整する。
【0020】
本発明では、このような極めて簡便な操作を行うことで、下記の巧みな作用・効果を得ている。上記した性状の懸濁スラッジのpH3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整すると、懸濁スラッジの主成分である水酸化マグネシウムが溶解し、その結果、最終的なスラッジの量が減量する。一方、懸濁スラッジ中に含まれるフッ素分の大半は、フッ化マグネシウム(MgF
2)や水酸化フッ化マグネシウム(MgFOH)であるが、先に述べたように、本発明で対象とする廃水の処理系におけるpH3.0〜8.5におけるフッ化マグネシウムのフッ素の溶解度は、200〜600mg/Lであるので、pH3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値に調整した場合、このpH値に該当する溶解度の分だけ水酸化フッ化マグネシウムからフッ素分が溶解するが、その他の大部分のフッ素分は、フッ化マグネシウムとして析出する。この結果、分離した懸濁スラッジに酸を加えてpHを、3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整した後、固液分離して得られる最終的なスラッジ中には、フッ化マグネシウムが高濃度で残存することとなる。
【0021】
上記したように、本発明のフッ素含有廃水の処理方法によれば、廃水のpHを9.0〜10.0に高めて生成した沈殿物を固液分離するための沈殿槽から排出した懸濁スラッジに酸を添加し、そのpHを3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整し、その後に固液分離するという、特別の設備や薬剤を要することなく、極めて簡便な操作で、再度、分離されたスラッジ(本発明では「最終的なスラッジ」と呼んでいる)の量は大幅に減少し、しかも、減少した分、最終的なスラッジ中には、フッ素分が高濃度に含有したものになる。上記したように、本発明の方法では、沈殿物を固液分離した上澄水中には、溶解した水酸化マグネシウムとともに、調整したpH値に該当する溶解度で溶解した水酸化フッ化マグネシウムに由来するフッ素が、200〜600mg/Lの範囲内の濃度で含まれることになる。このため、本発明の方法では、
図1に示したように、分離した上澄水を、処理する廃水(原水)中に返送して処理系に戻し、再度、処理する構成とすることが好ましい。このことは、分離した上澄水を返送する
図1に点線で示したような実施態様とした場合は、返送した分、処理する原水のフッ素濃度が上昇することを意味するので、この点を考慮する必要がある。しかし、逆に言えば、本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、実施態様を、固液分離した上澄水を返送する構成としたとしても、pHを3.0〜8.5の範囲内で調整したpH値におけるフッ化マグネシウムのフッ素の溶解度を超えてフッ素分が原水に返送されることはなく、また、返送される上澄水中のフッ素分は容易に予測できるので、この点を考慮するだけで、廃水中からフッ素分を効率的に除去することを安定して行えることになる。
【0022】
また、本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、上記したように、沈殿物を固液分離した懸濁スラッジ中から、pH3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整し、このpH値に該当するフッ化マグネシウムのフッ素の溶解度で、例えば、マグネシウムイオンおよび硫酸イオンを高濃度に含む系では、調整したpH値に対応して200〜600mg/Lの範囲内で、或いは、これらの成分を高濃度に含まない系では50mg/L以上で、懸濁スラッジ中のフッ素が溶解することを前提とした技術であるため、下記の点に留意して処理システムを設計することが必要となる。すなわち、廃水のpHを9.0〜10.0に高めることで生成させた沈殿物から固液分離して懸濁スラッジを得、これに酸を加えて懸濁スラッジのpHが3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整した場合、例えば、マグネシウムイオンおよび硫酸イオンを高濃度に含む系では、pH3.0〜8.5におけるフッ化マグネシウムのフッ素の溶解度は200〜600mg/Lであるので、特に、処理を開始する場合におけるpHの調整値の選択は、廃水(原水)中のフッ素濃度を勘案して、少なくとも、沈殿物を固液分離した懸濁スラッジ中のフッ素濃度が、調整したpH値に対応した溶解度以上のフッ素濃度となるように構成することが好ましい。これらのことは、酸を加えてpH3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整する際に、処理する廃水(原水)中のフッ素濃度とマグネシウムイオン濃度を考慮して、状況に応じて適宜に上記範囲内でpH調整をすることで、処理開始の初期段階から継続して、効率的なフッ素含有廃水の処理が可能になることを意味している。
【0023】
図1bに、本発明のフッ素含有廃水の処理方法の別の一例を示す概略フロー図を示した。この場合は、上記した沈殿物の生成工程と、該沈殿物の生成工程で生成した沈殿物を固液分離して懸濁スラッジを分離するための固液分離工程とをそれぞれ2回行って2段で処理する。各段で沈殿物を固液分離して得た懸濁スラッジに対するその後の処理は、
図1bに示したように、一緒に行えばよいが、勿論、それぞれを別々に行ってもよい。上記したように2段で処理する場合、
図1bに示したように、1段目の、沈殿物の生成工程と、該沈殿物の生成工程で生成した沈殿物から懸濁スラッジを分離する固液分離工程で得られた上澄水は、2段目或いは1段目の沈殿物の生成工程へと導入するように構成することが好ましい。例えば、処理対象の廃水中のフッ素濃度が高い場合など、1段での処理では、処理水(上澄水)のフッ素濃度が、そのまま、或いは、別の排水で希釈しても放流できる排出基準を満足できない場合や、このようなことが懸念される廃水に対しては、より確実なフッ素の除去処理を目的として、2段で処理することが好ましい。しかし、1段で処理するか2段で処理するかは、処理現場の状況に即して決定すればよく、後述する実施例で示したように、1段の処理でも、本発明のフッ素含有廃水の処理方法によれば、十分なフッ素含有廃水の処理を行うことができる。
【0024】
上記したように、本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンとを含む性状の廃水中のフッ素イオンを除去する際に、特殊な設備や複雑な工程を要することなく、「pHの調整」と「固液分離」とを少なくともそれぞれ2回行う、という極めて簡便な手段を巧みに利用することで、発生する最終的なスラッジの量を大幅に減量することを達成すると同時に、減量した最終的なスラッジ中にフッ素分を、条件によっては、従来技術では達成できていなかった高濃度の状態まで残存させることを実現させている。さらに、最終的なスラッジ中に高濃度に残存するフッ素分は、析出したフッ化マグネシウムを主成分とするものであるので、フッ化マグネシウムとして分離でき、分離したフッ化マグネシウムは、工業原料としての再利用が期待できるものであるので、本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、最終的なスラッジを大幅に減量できることに加え、資源の有効利用の点からも工業上極めて有用である。より具体的には、本発明のフッ素含有廃水の処理方法によれば、最終的なスラッジ中のフッ素含有率は、従来技術では数%(2から高くても10%)であったのに対し、20%以上、さらには約40〜50%にまで高めることができ、さらに、スラッジ発生量は、従来方法に比べると2/3〜1/10、好ましくは1/4〜1/10、さらには1/6〜1/10程度にでき、格段に少なくなる。
【0025】
次に、本発明のフッ素含有廃水の処理方法で使用する薬剤等について説明する。本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、まず、廃水にアルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整する。本発明でいうpHは、常温(25℃)換算の値であり、例えば、廃水の温度が高温の場合には、実際の測定値は9.0よりも低い値になることがある。pHを9.0〜10.0に調整する場合に使用するアルカリ剤としては特に限定されず、汎用のアルカリ剤を用いることができる。例えば、カルシウム塩や苛性ソーダや苛性カリ等の汎用のアルカリ剤を適宜に使用すればよい。後述するように、アルカリ剤として、苛性ソーダ等の苛性アルカリを用いた場合は、カルシウム塩を使用した場合に比べて、極めて高いスラッジの発生の低減が実現でき、最終的なスラッジ中のフッ素含有率を格段に高めることができる。一方、先に述べたように、カルシウム塩を用いた場合は、これらの効果においては、苛性アルカリを用いた場合に比べて劣るが、最終的なスラッジの脱水性を高めることができるという別の効果が発現し、別の実用上の効果が得られる。
【0026】
上記したように、本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、廃水にアルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整してフッ素分を含む沈殿物をより積極的に生成し、その後に固液分離し、水酸化マグネシウムを主成分とするこの懸濁スラッジに酸を加えて、pH3.0〜8.5の範囲内のpH値に調整するが、その際に使用する酸も特に限定されず、汎用の酸を用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、有機酸、アルミニウム塩、鉄塩等を適宜に用いることができる。また、後述するが、本発明者らの詳細な検討によれば、この際、より好ましくは、pH値を4.0〜8.0、さらには4.0〜7.0とすれば、最終的なスラッジの濃度(量)の低減と、当該最終的なスラッジ中に残存するフッ素量をより高めることができる。本発明者らの詳細な検討によれば、この際にpHを3.0よりも酸性側にすると、水酸化マグネシウムは勿論のこと、フッ素分が、フッ化水素酸として高い濃度で溶解してしまい、本発明の効果を得ることができない。一方、pHを8.5よりもアルカリ側にすると、フッ素分が殆ど溶解しなくなるが、この場合は、水酸化マグネシウムの溶解も進まず、最終的なスラッジの量を減量させることができないので、この場合も本発明の目的を達成することができなくなる。
【0027】
また、後述するが、本発明者らの詳細な検討によれば、沈殿物を固液分離し、分離した懸濁スラッジに酸を加えてpH3.0〜8.5の範囲内にpH調整する際の酸の種類としては、塩酸よりも硫酸を用いる方が好ましい。すなわち、同じpHに調整して比較した結果、硫酸を用いてpH調整した場合は、塩酸を用いてpH調整した場合よりも、硫酸を用いてpH調整した場合の方が、最終的なスラッジの濃度の低減と、最終的なスラッジ中に残存するフッ素量をより高めることができる。特に、硫酸を用い、懸濁スラッジに酸を加えてpH値を4.0〜7.5、より好ましくはpHを4.0〜6.5程度に調整することで、より顕著な効果を安定して得ることができる。この点については後述する。また、本発明のフッ素含有廃水の処理方法では、分離した懸濁スラッジに酸を加えてpH3.0〜8.5の範囲内でpH調整した後、その後に最終的なスラッジの固液分離工程を設けるが、pH調整した後、撹拌して水酸化マグネシウムを十分に溶解することが好ましい。撹拌時間は、懸濁スラッジや使用する酸の性状にもよるが、極めて短時間で十分であるが、現実的にはショートパスの可能性を鑑みると、一般的な撹拌時間である5分間以上が好ましい。
【0028】
本発明のフッ素含有廃水の処理方法は、特に、フッ素イオンの他に、マグネシウムイオン又はマグネシウムイオンと硫酸イオンを含有する廃水に適用した場合に、その顕著な効果が得られる。このような廃水としては、石炭火力発電所やコークス工場で実施されている排煙脱硫法を実施する排煙脱硫装置から排出されたものが該当する。石炭火力発電所やコークス工場からの排煙脱硫後の廃水は、大量に排出されるため、本発明によって達成される、フッ素含有廃水の処理によって発生する脱水処理等が必要になる最終的なスラッジの減量化、さらには、この最終的なスラッジ中へ、従来技術では達成できなかった高濃度でフッ素分を含有させることは、実用上、極めて大きな効果をもたらす。また、アルカリ剤として安価なカルシウム塩を使用した場合は、スラッジの減量化、最終的なスラッジ中に含有されるフッ素分の高濃度化の効果は、他のアルカリ剤を使用した場合よりも劣るものの、最終的なスラッジの脱水性が向上する、という別の効果が得られる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。下記のようにして調製した人工廃水を用い、廃水のpHを高めることで、廃水中のマグネシウムイオンを水酸化マグネシウムとして析出させる工程を有するフッ素含有廃水の処理方法についての検討を行った。
【0030】
(人工廃水の調製)
処理対象として、水酸化マグネシウムを用いて排ガス中の硫黄を除去処理する方式の排煙脱硫装置からのフッ素含有廃水を想定し、フッ素濃度が150mg/L、硫酸マグネシウムが40000mg/L、pHが8.2である人工廃水を用意した。
【0031】
<アルカリ剤に苛性ソーダを使用した場合の実施例および比較例>
(懸濁スラッジの生成方法と懸濁スラッジの性状)
フッ素含有廃水の処理方法についての検討に先立ち、下記の手順で、析出した水酸化マグネシウムとフッ素分とを含む懸濁スラッジを得た。具体的には、先のようにして用意した人工廃水にアルカリ剤を添加してpHを9.0〜10.0に調整し、析出した水酸化マグネシウムに廃水中のフッ素イオンが取り込まれた沈殿物を生成させ、これを固液分離して、析出した水酸化マグネシウムとフッ素分とを含む懸濁スラッジを得た。さらに具体的には、前記した人工廃水に苛性ソーダ(NaOH)を添加して、廃水のpHを9.7に上昇させて、沈殿物を生成させた。この沈殿物を、沈殿槽を用い固液分離し、上澄水と、懸濁スラッジとに分離し、それぞれについて分析を行って、これらの性状を調べた。その結果、本発明の沈殿物を固液分離する沈殿物の固液分離工程で分離した上澄水中のフッ素イオン濃度は6mg/Lであった。また、分離した懸濁スラッジのスラッジ濃度は40000mg/Lであった。さらに、分離した懸濁スラッジ中の全フッ素濃度は1440mg/Lであり、そのpHは9.7であった。なお、フッ素についての河川への排出基準は、フッ素イオン濃度で8mg/Lである。
【0032】
(実施例1〜9及び比較例1〜3)
上記で固液分離して得た懸濁スラッジをそれぞれに用い、各懸濁スラッジに、表1に示した酸を適宜に添加し、懸濁スラッジのpHを2.0〜8.5の範囲で、表1に示したpH値にそれぞれ調整した。そして、10分間撹拌し、その後に、ろ過することで固液分離を行い、分離して得た最終的なスラッジのスラッジ濃度(量)と、この最終的なスラッジ中におけるフッ素含有量(質量%で表示)と、懸濁スラッジと分離したろ液(上澄水)中のフッ素イオン濃度をそれぞれ調べて、表1中にまとめて示した。また、表1中に、比較例1として、酸によるpH調整を行わず、ろ過よって固液分離することで得られたままの状態の懸濁スラッジの性状と、分離して得たろ液(上澄水)の性状を示した。さらに、懸濁スラッジを得た際の上澄水を「処理水」と呼び、該処理水のフッ素濃度を表1中に示したが、当然のことながら、いずれも、比較例1の場合と同様に6mg/Lである。
【0033】
【0034】
表1に示したように、懸濁スラッジに酸を添加し、そのpHが3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整する工程を設けたことで、下記の顕著な効果が得られることが確認された。まず、懸濁スラッジに酸を添加してpH調整をしない比較例1に比べて、酸を添加してpHが3.0〜8.5の範囲内のいずれかのpH値になるように調整することで、スラッジ中のフッ素含有率を高め、且つ、スラッジ濃度を低減できることがわかった。また、より好ましくは、分離した懸濁スラッジのpHを8.0以下、さらには4.0〜7.0程度に調整することで、最終的なスラッジ濃度をより低減でき、pH調整をしない比較例1の場合と比べて、1/10程度まで減量できることが確認された。また、低減した最終的なスラッジ中のフッ素含有率は、該スラッジに対して質量基準で、7.8〜45%と高濃度になり、より好ましくは、分離した懸濁スラッジのpHを4.0〜8.0以下、さらには4.0〜7.0程度に調整することで、20%以上、さらには30%以上と、より高濃度にできることを確認した。なお、最終的なスラッジを分離後、上澄水を、
図1aに示したようにして原水とともに処理した後の処理水のフッ素濃度を測定したところ、いずれも8mg/L以下であり、河川への放流基準を満たしていた。
【0035】
追加の検討として、フッ素濃度が200mg/L、硫酸マグネシウムが60000mg/L、pHが8.2である人工廃水を使用して上記と同様の処理を行ったところ、廃水にアルカリ剤の苛性ソーダを加え沈殿物の固液分離を行うことで得た処理水のフッ素濃度が、放流基準の8mg/Lよりも高い、30mg/Lとなった。そこで、
図1bに示したようにして、この1段目の処理水(上澄水)に苛性ソーダを加え、沈殿物の固液分離を行い、これらの処理を2段で行ったところ、2段目の処理水(上澄水)のフッ素濃度は8mg/L以下に低下した。また、
図1bに示したように、上記2段目の処理にて発生する懸濁スラッジも、1段目で発生する懸濁スラッジと混合して同様の(酸を加える)操作を加えればよく、このようにすることで、表1の実施例で示した、最終的なスラッジの減量効果と、このスラッジ中のフッ素含有率を高める効果が得られた。勿論、上記2段目の処理にて発生する懸濁スラッジを、1段目の処理にて発生する懸濁スラッジとは別に、酸を加えてpHを調整して別に処理することでも、最終的なスラッジの減量効果と、このスラッジ中のフッ素含有率を高める効果を得ることができる。
【0036】
<アルカリ剤に消石灰を使用した場合の実施例および比較例>
(懸濁スラッジの生成方法と懸濁スラッジの性状)
アルカリ剤として苛性ソーダ(NaOH)に替えて消石灰を用いたこと以外は、先に述べたと同様の手順で、析出した水酸化マグネシウムとフッ素分とを含む懸濁スラッジを得た。具体的には、前記した人工廃水に消石灰(Ca(OH)
2)を添加して、廃水のpHを9.7に上昇させて、沈殿物を生成させた。この沈殿物を、沈殿槽を用いて固液分離し、上澄水と懸濁スラッジとに分離し、それぞれについて分析を行い、その性状を調べた。その結果、分離した上澄水中のフッ素イオン濃度は7mg/Lであった。また、分離した懸濁スラッジのスラッジ濃度は50000mg/Lであり、先のアルカリ剤に苛性ソーダを用いた場合に比べて、より多量のスラッジが生成することを確認した。さらに、懸濁スラッジ中の全フッ素濃度は1430mg/Lであり、pHは9.7であった。
【0037】
(実施例10〜15及び比較例4、5)
上記で得た分離した懸濁スラッジをそれぞれに用い、各懸濁スラッジに、硫酸を適宜に添加し、懸濁スラッジのpHを2.0〜8.5の範囲で、表2に示したpH値に調整した。そして、10分間撹拌し、その後に固液分離を行い、分離して得たスラッジのスラッジ濃度(量)と、このスラッジ中におけるフッ素含有量(質量%で表示)と、分離したろ液(上澄水)中のフッ素イオン濃度をそれぞれ調べて、表2中にまとめて示した。さらに、分離して得た最終的なスラッジに対して脱水試験を実施し、得られた脱水ケーキの含水率を測定した。なお、脱水試験は、圧力0.4MPaにて、通気量15cm
3/cm
2/secのろ布を用いた条件で加圧脱水した場合の脱水ケーキの含水率を測定した。また、表2中に、比較例4として、酸によるpH調整を行わずに固液分離することで得られたままの状態の懸濁スラッジの性状を示したが、これを最終的なスラッジとして分離して得たそのろ液(上澄水)の性状と、上記でと同様にして行った脱水試験により得られた脱水ケーキの含水率を示した。その結果、比較例4の脱水ケーキの含水率は74%であったのに対して、実施例の脱水ケーキの含水率は60%以下、条件によっては50%であり、脱水性の向上が明らかに認められた。
【0038】