特許第6483443号(P6483443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6483443エチレンービニルエステル系共重合体ケン化物を用いた成形材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483443
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】エチレンービニルエステル系共重合体ケン化物を用いた成形材料
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/12 20060101AFI20190304BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20190304BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   B29B9/12
   C08L29/04 S
   C08J3/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-1673(P2015-1673)
(22)【出願日】2015年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-155194(P2015-155194A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-3881(P2014-3881)
(32)【優先日】2014年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 眞太郎
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−264972(JP,A)
【文献】 特開2001−096529(JP,A)
【文献】 特開2012−021168(JP,A)
【文献】 特開2008−189941(JP,A)
【文献】 特開2011−012284(JP,A)
【文献】 特表2009−513385(JP,A)
【文献】 特開2006−241607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット群からなる成形材料であって、
前記ペレット群は、任意の断面が略円形ないし楕円形の、角のない第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット、及び円柱状の第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを含み、
且つ前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット(A1)と前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット(A2)の混合重量比(A1/A2)は、99/1〜20/80である成形材料であって、
前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットは、長径3.0〜6.0mm、短径2.5〜6.0mmの略円ないし楕円の断面を有し、
前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットは底面の円の直径が1.5〜4.0mmで高さ1.5〜4.0mmであり、
前記ペレット群を、足径(a)8mmのロートから直径(D)9.5cmの円形容器に流下させて得られる略円錐状のペレット群の安息角が37°未満である成形材料。
【請求項2】
前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの断面の最大長径(m)と最大短径(n)の比(m/n)は1〜2であり、
前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットにおける底面の直径(x)と長さ(y)の比(x/y)は0.5〜2.0である請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記ペレット群を、足径(a)8mmのロートから直径(D)9.5cmの円形容器に流下させて得られる略円錐状のペレット群の安息角が30〜36°である請求項1に記載の成形材料。
【請求項4】
前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットのエチレン含有率は20〜60モル%であり、前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットのエチレン含有率は20〜60モル%である請求項1又は2に記載の成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンービニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称する)ペレット群からなる成形材料に関し、さらに詳しくは、溶融押出成形する際のフィード性に優れるEVOH樹脂ペレット群からなる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、高分子側鎖に存在する水酸基同士の水素結合のため、結晶性が高く、さらに非晶部分においても分子間力が高い。このような構造に基づき、EVOH樹脂を用いたフィルムは優れたガスバリア性を示す。
【0003】
EVOH樹脂は、その優れたガスバリア性のために、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等のフィルムやシート、或いはボトル等の容器等に成形して用いられる。かかる成形材料として用いられるEVOH樹脂は、一般に、長さが1〜10mm程度のペレットとして流通している。
【0004】
EVOH樹脂ペレットは、一般に、ストランドカット方式という方法で製造される。ストランドカット方式は、例えば、特開平3−61507号公報(特許文献1)で開示されているように、EVOH樹脂(又はその組成物)を適当な溶媒に溶解してなる溶液を、直径1〜5mm程度の孔が開設された金板から凝固液中に押出し、あるいは加熱溶融した樹脂をダイに押出し、冷却固化させて得られた棒状ストランドを、カッターを用いて一定の大きさにカットすることによって、EVOH樹脂ペレットを製造する方法である。
【0005】
また、ストランドカット方式の製造上の問題点(大量の樹脂を短時間に寸法精度よくカッティングすることが困難)を解決する方法として、例えば、特開2001−96530号公報(特許文献2)で開示されているような、含水かつ溶融状態のEVOH樹脂を押出機からの吐出直後にカットすること(ホットカット方式)が提案されている。かかるホットカット方式には、2軸押出機の吐出口から吐出された含水溶融状態のEVOH樹脂を押出した直後に回転刃の回転によってカッティングする空中カット方式のカッティング;EVOH樹脂を押出機から冷却水を満たしたカッター箱内に吐出し、吐出直後に水中でカッティングする水中カット方式がある。
【0006】
以上のようにして製造されるEVOH樹脂ペレットは、製造条件により、形状、性状が種々のものが存在し、またペレットの形状のばらつきもある。
EVOH樹脂ペレットを溶融成形に供した場合、成形品の形状、厚み等の精度が、EVOH樹脂ペレットの形状、性状の影響を受けることから、EVOH樹脂成形品の寸法精度の向上のためには、EVOH樹脂ペレットの性状、形状も重要である。
【0007】
EVOH樹脂ペレットの性状が、溶融押出し成形の際のトルク変動、吐出量の変動、成形品としてのフィルムの厚み変動に影響を及ぼすことに着目してなされた発明として、特開2000−264972号公報(特許文献3)では、ペレット群を落下させ、円錐状に堆積させて得られるペレット群の山の水平面と山の高さで表される安息角が30〜45°の範囲とすることを提案している。
【0008】
特許文献3の実施例では、ストランドカット方式で製造した円筒状のEVOH樹脂ペレットの安息角と、溶融成形に供した場合のトルク変動、吐出量変動、膜厚変化との関係が開示されている。
具体的には、エチレン単位の含有量が35モル%(実施例1,4)、42モル%(実施例2,5)、30モル%(実施例3)のEVOH樹脂の溶液を円筒形ノズルよりストランド状に押出し、凝固浴槽で60〜120秒間接触させた後、得られたストランドをカットし、乾燥して得られた円筒状ペレットで、安息角が33〜38°のペレット群を用いた成形材料は、トルク変動、吐出量変動、膜厚変化が小さかったのに対して、凝固浴槽での接触時間を10分間としたエチレン単位含有量35モル%で安息角46°の円筒状ペレット(比較例1)、滑剤の付着量を1200ppmとした、エチレン単位の含有量が35モル%で安息角28°のEVOH樹脂ペレット(比較例2)はトルク変動、吐出量変動、膜厚変動が大きかったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−61507号公報
【特許文献2】特開2001−96530号公報
【特許文献3】特開2000−264972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の製造方法では、大量の樹脂を効率よく、且つ寸法精度良くカッティングすることができ、寸法の均一性が高いペレットを効率よく製造できることが開示されているが、製造されたペレッを成形材料として溶融成形に供した場合の評価は一切されていない。
【0011】
一方、特許文献3では、成形材料としてのEVOH樹脂ペレットを、溶融成形に供した場合のトルク変動、吐出量変動、さらに得られるフィルムの膜厚変動について測定評価している。しかし、近年、ペレットを溶融押出機に投入すると、溶融可塑化部での溶融樹脂の流動にあたり、スクリュが振動したり、樹脂の押出し時のトルク変動等により音が発生するといったことが問題とされるようになり、かかる問題は特許文献3においても測定評価されていない。
溶融押出機の溶融可塑化部において異音が発生する状態は、スクリュに負担がかかっていることから、ひどい場合にはスクリュの摩耗、溶融樹脂中への摩耗粉の混入を引き起こすおそれがある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶融成形材料として、フィード性に優れるEVOH樹脂ペレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、EVOH樹脂ペレットの製造方法、形状に着目して、溶融押出機内でのフィード性の関係について種々検討し、本発明に到達した。
すなわち本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を用いた成形材料は、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット群からなる成形材料であって、
前記ペレット群は、任意の断面が略円形ないし楕円形の、角のない第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット、及び円柱状の第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを含み、且つ前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット(A1)と前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット(A2)の混合重量比(A1/A2)は、99/1〜20/80である。
【0014】
前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットは、長径3.0〜6.0mm、短径2.5〜6.0mmの略円ないし楕円の断面を有し、前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットは底面の円の直径が1.5〜4.0mmで高さ1.5〜4.0mmであることが好ましい。
また、前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの断面の最大長径(m)と最大短径(n)の比(m/n)は1〜2であり、前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットにおける底面の直径(x)と長さ(y)の比(x/y)は0.5〜2.0であることが好ましい。
【0015】
前記ペレット群を、足径(a)8mmのロートから直径(D)9.5cmの円形容器に流下させて得られる略円錐状のペレット群の安息角が37°未満、より好ましくは30〜36°であることが好ましい。
また、前記第1のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットのエチレン含有率は20〜60モル%であり、前記第2のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットのエチレン含有率は20〜60モル%であることが好ましい。
【0016】
本明細書において、安息角とは、図1に示すように、EVOH樹脂ペレットを上方から平面上に落下させることにより形成されるペレット群の円錐状の山の母線と水平面との成す角αをいう。
具体的には、図2に示すように、水平に置かれたガラス容器(内寸:直径(D)9.5cm、高さ2cm)に該容器1の上面から10cmの高さより足径(a)8mmのガラスロート2を介してEVOH樹脂ペレット3を容器1から溢れるまで自由落下させて、できた円錐状のEVOH樹脂ペレット群10の容器上面の水平面を底辺とする山の高さ(H)を測定し、下記(1)式に示す逆正接関数として算出される
安息角(゜)=tan-1(H/4.75)
【0017】
なお、本明細書におけるエチレン単位の含有量は、例えば、ISO14663に準じて計測される値である。
また、本明細書におけるビニルエステル成分のケン化度は、例えば、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に準じて計測される値である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の成形材料は、フィード性に優れる。したがって、溶融押出成形機にかかる負担が少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】安息角を説明するための図である。
図2】安息角の測定方法を説明するための図である。
図3】実施例で作製したEVOH樹脂ペレット(A1)群の外観を撮像した写真である。
図4】実施例で作製したペレットA1の長軸を含む断面の写真である。
図5】実施例で作製したペレットA1を長軸と直交するように切断した断面の写真である。
図6】実施例で作製した円柱状のEVOH樹脂ペレット(A2)群の外観を撮像した写真である。
図7】実施例で作製した円柱状ペレットA2の高さ方向に沿って切断した断面の写真である。
図8】実施例で作製した円柱状ペレットA2を底面と平行に切断した断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0021】
本発明の成形材料は、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH樹脂)ペレット群からなり、前記ペレット群は、断面が略円形ないし楕円形である第1のEVOH樹脂ペレット及び円柱状の第2のEVOH樹脂ペレットを含んでいることを特徴とする。
【0022】
はじめに、ペレット群の構成材料であるEVOH樹脂について説明する。
<EVOH樹脂>
本発明の成形材料として用いられるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH樹脂)とは、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られるエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物で、非水溶性の熱可塑性樹脂である。
通常、上記ビニルエステル系モノマーは、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合、バルク重合のいずれであってもよく、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
共重合体中にエチレンを導入する方法としては通常のエチレン加圧重合を行えばよい。エチレン単位の含有量はエチレンの圧力によって制御することが可能であり、通常は25〜80kg/cm2の範囲から、目的とするエチレン含有量に応じて選択される。
【0023】
得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。かかるケン化は、上記で得られた共重合体がアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
以上のようにして合成されるEVOH樹脂は、エチレン単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0024】
EVOH樹脂ペレットの材料として用いるEVOH樹脂には、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。前記コモノマーは、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のα−オレフィン、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ブテン−1、2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α−オレフィン誘導体、不飽和カルボン酸又はその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物、不飽和スルホン酸又はその塩、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、スチレン等のコモノマーである。
【0025】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を、EVOH樹脂として用いてもよい。
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形などの二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0026】
成形材料に用いるEVOH樹脂ペレット群を構成するEVOH樹脂のエチレン単位の含有量(エチレン単位含有率)は、20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、より好ましくは29〜48モル%である。エチレン単位含有率が低すぎると、得られる成形品、特に延伸フィルムの高湿時のガスバリア性や外観性が低下する傾向にあり、逆に高すぎると延伸フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0027】
成形材料に用いるEVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは93〜99.99モル%、特に好ましくは98〜99.99モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には延伸フィルムのガスバリア性や耐湿性等が低下する傾向にあり好ましくない。
【0028】
成形材料に用いるEVOH樹脂ペレット群を構成するEVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常1〜100g/10分であり、好ましくは2〜50g/10分、特に好ましくは3〜30g/10分である。MFRが大きすぎると、成形品の機械強度が悪化する傾向があり、小さすぎると、成形時の押出加工性が悪化する傾向がある。
【0029】
以上のようなEVOH樹脂を合成するための共重合の条件としては、特に限定しないが、通常、以下のような条件が好ましく用いられる。
かかる共重合に用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0030】
共重合に当たって使用する重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α’ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2− エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられる。
重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して10〜2000ppmが好ましく、特には50〜1000ppmが好ましい。
【0031】
上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることが好ましい。ペレットの着色を抑制することができる。該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられ、また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0032】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、回分式及び連続式いずれの場合でも、ビニルエステル系モノマー100重量部に対して0.0001〜0.1重量部、さらには0.0005〜0.05重量部、特には0.001〜0.03重量部が好ましく、かかる使用量が少なすぎると共存の効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎるとビニルエステル系モノマーの重合を阻害する結果となって好ましくない。かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等)やビニルエステル系モノマーを含む脂肪族エステル(酢酸メチル、酢酸エチル等)や水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0033】
共重合反応は、使用する溶媒や圧力により一概にはいえないが、通常は溶媒の沸点以下で行われ、通常は40〜80℃が好ましく、好ましくは55〜80℃で行う。かかる温度が低すぎると重合に長時間を要し、重合時間を短縮しようとすると触媒量が多量に必要となり、逆に高すぎると重合制御が困難となり好ましくない。
【0034】
重合時間は、回分式の場合、4〜10時間(更には6〜9時間)が好ましい。該重合時間が短すぎると重合温度を高くしたり、触媒量を多く設定しなければならず、逆に重合時間が長すぎると生産性の面から好ましくない。連続式の場合、重合缶内での平均滞留時間は2〜8時間(更には2〜6時間)が好ましく、該滞留時間が短すぎると重合温度を高くしたり、触媒量を多く設定しなければならず、逆に重合時間が長すぎると生産性の面で問題があり好ましくない。
【0035】
重合率(ビニルエステル系モノマー)は生産性の面から重合制御が可能な範囲でできるだけ高く設定され、好ましくは20〜90%である。該重合率が低すぎると、生産性や未重合の酢酸ビニルモノマーが多量に存在する等の問題があり、逆に高すぎると、重合制御が困難となり好ましくない。
【0036】
所定時間の重合後、所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応ビニルエステルを追い出す。
エチレンを蒸発除去したエチレン−ビニルエステル共重合体から未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリング(Raschig ring)を充填した塔の上部から前記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込みながら、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応ビニルエステルを除去した前記共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0037】
未反応ビニルエステルを除去した前記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、前記共重合体中のビニルエステル成分をケン化する。
かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0038】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー等のモノマーの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。かかるケン化方法に関しては目標とするケン化度等に応じて、バッチ鹸化、ベルト上の連続ケン化、塔式の連続ケン化の何れも可能で、ケン化時にアルカリ触媒量を低減できることやケン化反応が高効率で進み易い等の理由により、好ましくは、一定加圧下での塔式ケン化が用いられる。
また、ケン化時の圧力は目的とするEVOH樹脂のエチレン単位含有率により一概に言えないが、2〜7kg/cm2の範囲から選択され、ケン化温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃であり、ケン化時間は0.5〜3時間から選択される。なお、反応後のEVOH樹脂は必要に応じて中和することが好ましい。
【0039】
ペレット原料となるEVOH樹脂として、上記のようにして合成されたEVOH樹脂に、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などを添加配合した、EVOH樹脂組成物を用いてもよい。
【0040】
<ペレットの製造>
本発明の成形材料は、上記のようなEVOH樹脂で構成されるペレット群で、(1)断面が略円形ないし楕円形の第1のEVOH樹脂ペレット(A1)と、(2)円柱状のEVOH樹脂ペレット(A2)の混合物を含む。
【0041】
(1)第1のEVOH樹脂ペレット(ペレットA1)
第1のEVOH樹脂ペレットは、断面が略円形ないし楕円形であるペレットである。前記断面は、ペレットの特に限定しない断面であり、任意の切断断面が略円形ないし楕円形であること、いわゆる角がなく、全体が丸みを帯びた形状であることを意味する。このようなペレットは、通常、溶融押出ししてEVOH樹脂を溶融状態で切断することにより得られる。EVOH樹脂を溶融押出しし、冷却固化するまでの間にカッターで切断すると、切断により生じた端縁部分が冷却固化する間に垂れ、また表面張力により球状になろうと作用することから、角のない、全体が曲面で構成されたペレットが得られる。具体的には、溶融押出し時の形状(通常、四角柱、円柱)にもよるが、真球状の他、断面が略円ないし略楕円の球状、円盤状、ラクビボール状といった形状を有している。
【0042】
ペレットA1の形状、サイズは特に限定しないが、最大断面積が得られる断面の最大長径(m)が、通常3〜6mm、好ましくは3.5〜5.5mm、特に好ましくは4.3〜5.2mmであり、且つ最大短径(n)が、通常2.5〜6mm、好ましくは3〜5.5mm、特に好ましくは3.5〜5.2mmである。ペレットサイズが大きくなりすぎると、フィード性が低下し、ペレットサイズが小さくなりすぎると、粉体となり、取扱い性が低下する。
【0043】
また、得られる断面の最大長径(m)と最大短径(n)の比(m/n)は、通常1〜2、好ましくは1〜1.8、特に好ましくは1〜1.5である。当該比(長径/短径)が大きすぎる場合は、ペレット形状が針状に近づくため、溶融押出成形する際のフィード性が悪くなる傾向がある。なお、かかる長径(m)と短径(n)の比(m/n)=1である場合は、真球であることを意味している。
【0044】
ペレットA1の製造のために溶融押出機に投入するEVOH樹脂原料としては、(1−1)上記EVOH樹脂の合成方法において、ケン化により得られたEVOH樹脂の溶液又はスラリーをそのまま、あるいは当該溶液またはスラリーの含水率を適宜調整した後のEVOH樹脂含水組成物、又は(1−2)ストランドカット方式で得られたEVOH樹脂のペレット(乾燥EVOH樹脂ペレット)を溶融し、かかる溶融状態のEVOH樹脂を用いることができる。
【0045】
(1−1)EVOH樹脂含水組成物を原料として用いる場合
溶融押出機に投入する原料としてEVOH樹脂含水組成物を用いる場合、EVOH樹脂100重量部に対し、アルコールを0〜10重量部、水を10〜500重量部含有するEVOH樹脂含水組成物であることが好ましい。
【0046】
アルコール含有量が多いEVOH樹脂含水組成物を用いた場合、後工程でアルコールが揮散することを防止できず、作業環境あるいは周辺環境の保全が困難となる。また、アルコール除去のために、ペレット洗浄水の温度を上げた場合、ペレットが相互に膠着しやすくなり、逆に低温での洗浄は洗浄時間が長くなって生産効率の低下の原因となる。
一方、水の含有量が多いEVOH樹脂含水組成物を用いた場合、溶融状態で切断する際に、切断後のペレットが相互に融着したり、ペレット形状が不均質になる傾向があり、逆に水の含有量が少ない場合には、EVOH樹脂含水組成物の流動性が不足し、ペレットの生産性が低下する傾向にある。
【0047】
ペレット製造用EVOH樹脂含水組成物の含水率を調整する方法としては特に限定しないが、含水率を上げるためには、樹脂に水をスプレーする方法、樹脂を水中に浸漬させる方法、樹脂を水蒸気と接触させる方法などを採用できる。含水率を低下させるためには、適宜乾燥すればよく、たとえば流動式熱風乾燥機あるいは静置式熱風乾燥機を用いて乾燥することができる。乾燥斑を低減するという観点から流動式熱風乾燥機を使用することが好ましい。さらに、熱劣化を抑制する観点から、乾燥温度を120℃以下とすることが好ましい。
【0048】
ケン化後のEVOH樹脂溶液は、通常アルコールを多量に含む溶液として得られるが、ケン化後のEVOH樹脂溶液を水蒸気と接触させることにより、アルコールの含有量の少ないEVOH含水組成物を容器から導出し、ペレット製造用原料として用いることができる。
【0049】
EVOH樹脂含水組成物をペレット原料として溶融押出機に投入する場合、押出機内でのEVOH樹脂含水組成物の温度は、70〜170℃が好ましく、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上で170℃以下である。EVOH樹脂含水組成物の温度が70℃未満の場合は、EVOH樹脂が完全に溶融しない恐れがあり、170℃を超える場合は、EVOHが熱劣化を受けやすくなる恐れがある。なお、本明細書において、樹脂組成物の温度とは、押出機シリンダーに設置した温度センサーにより押出機先端部吐出口付近で検出した温度をいう。
【0050】
使用する押出機は特に限定しないが、ペレットの取扱い容易性の観点から、ノズルの口径(直径)は、通常1〜10mmであり、好ましくは2〜5mmである。
カッター刃の枚数は、通常2〜24枚であり、好ましくは3〜16枚である。
カッター刃は、通常、押出機のダイスの吐出口に接するように取り付けられることが好ましく、よって、ダイス−カッター間距離は0mmであるが、0.01〜0.2mm程度の距離があってもよい。
カッター刃の回転数は、通常500〜2000rpmであり、好ましくは1000〜1500rpmである。
なお、ペレットの形状は、上記のノズルの口径、カッター刃の枚数、カッター刃の回転数等を適宜調節することにより、調整することができる。
【0051】
ダイスから押出しされた溶融状態のEVOH樹脂含水組成物は、冷却固化する前にカットされる(ホットカット方式)。ホットカット方式は、大気中でカット(空中ホットカット方式)、冷却水で満たされたカッター設置容器内に押出され、冷却水中でカット(水中カット方式)のいずれでもよい。水中カット方式は、例えば、アンダーウォーターペレタイジング装置を用いて行うことができる。
【0052】
水中カット方式における冷却水の温度は、溶融状態で押し出されたEVOH樹脂が瞬時に固化(凝固)しない程度の温度であり、カット前に冷却水と接触する場合には、冷却水の温度は30〜90℃とすることが好ましく、より好ましくは40〜80℃である。
冷却水は、水に限定しない。水/アルコール混合液;ベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の有機エステル類なども用いることができる。これらのうち、取扱い性が容易という点から、水、又は水/アルコール混合溶液が用いられる。水/アルコール混合溶液において、水/アルコール(重量比)は通常90/10〜99/1である。なお、上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いることができ、工業上、メタノールが好ましく用いられる。
【0053】
(1−2)乾燥EVOH樹脂ペレットを原料として用いる場合
EVOH樹脂ペレット(A1)の原料として、乾燥EVOH樹脂ペレットを用いる場合、乾燥EVOH樹脂ペレットを押出混練機に投入し、溶融押出しする。
原料として用いる乾燥EVOH樹脂ペレットのサイズ、形状は特に限定しない。
押出混練機内におけるEVOH樹脂の温度は、EVOH樹脂含水組成物の場合よりも高温に設定する必要がある。具体的には、通常150〜300℃であり、好ましくは200〜285℃であり、特に好ましくは240〜270℃である。設定温度が150℃未満の場合は、EVOH樹脂ペレットが完全に溶融しない傾向にある。逆に、EVOH樹脂温度が300℃を超える場合、EVOH樹脂が熱劣化を受けやすくなる傾向がある。樹脂温度は、押出機シリンダーに設置した温度センサーにより押出機先端部吐出口付近で検出した温度をいう。
【0054】
使用する押出機は特に限定しないが、ペレットの取扱いの容易性の観点から、ノズルの口径(直径)は、通常1.0〜5.0mmであり、好ましくは2.0〜3.5mmφである。
カッター刃は、通常、押出機のダイスの吐出口に接するように取り付けられることが好ましく、よって、ダイス−カッター間距離は0mmであるが、0.01〜0.2mm程度の距離があってもよい。
カッター刃の枚数は、通常2〜24枚であり、好ましくは3〜16枚である。
カッター刃の回転数は、通常1000〜2000rpmであり、好ましくは1250〜1750rpmである。
なお、ペレットの形状は、上記のノズルの口径、カッター刃の枚数、カッター刃の回転数等を適宜調節することにより、調整することができる。
【0055】
溶融押出しされたEVOH樹脂は、冷却固化する前にカットされる(ホットカット方式)。ホットカットの方式については、EVOH樹脂含水組成物を原料として用いた場合と同様に、空中ホットカット方式、水中ホットカット方式のいずれを採用してもよく、水中カット方式における冷却水の温度も、同様に、通常30〜90℃であり、好ましくは40〜80℃である。冷却水も水に限らず、EVOH樹脂含水組成物を原料として用いる場合に列挙したような溶液を冷却水として用いてもよい。
【0056】
(2)円柱状のEVOH樹脂ペレット(ペレットA2)
第2のEVOH樹脂ペレット(ペレットA2)は、円柱状のEVOH樹脂ペレットで、いわゆる円又は楕円の底面と側面との接縁部分が角となっているペレットをいい、冷却固化した棒状のEVOH樹脂ストランドを所定長さごとにカットした結果できるカット端が角となったペレットをいう。
円柱状の底面は、ストランドの断面形状に該当し、ストランドの形状に応じて、断面が円形の他、楕円形の場合も含まれる。
【0057】
ペレットA2における底面および上面の直径(x)は、通常1.5〜4.0mm、好ましくは1.8〜3.7mm、さらに好ましくは2.0〜3.5mmであり、ストランドのカット間隔に該当する円柱ペレットの長さ(y)は、通常1.5〜4.0mm、好ましくは1.8〜3.7mm、さらに好ましくは2.0〜3.5mmである。かかる底面の直径や長さが小さすぎる場合や大きすぎる場合は、溶融押出成形する際のフィード性が悪くなる傾向がある。
【0058】
円柱状のEVOH樹脂ペレット(ペレットA2)における底面および上面の直径(x)と長さ(y)の比(x/y)としては、通常0.5〜2.0、好ましくは0.7〜1.5、さらに好ましくは0.9〜1.2である。かかる底面および上面の直径と長さの比が小さすぎる場合や大きすぎる場合は、溶融押出成形する際のフィード性が悪くなる傾向がある。
【0059】
このような円柱状のペレットは、通常、EVOH樹脂溶液をノズルを通して凝固液中に押し出して析出させて得られるストランド状物を切断することでペレット状にしてから、水洗浄を行い、さらに必要に応じて添加物の水溶液と接触させた後に、乾燥処理することにより得られる。
【0060】
円柱状ペレットの原料として用いるEVOH樹脂溶液は、EVOH樹脂を適当な溶媒に溶解して溶液としたものであればよい。
原料となるEVOH樹脂溶液は、i)EVOH樹脂の粉体やペレット等を溶剤や溶剤/水の混合溶媒中で所定の濃度となるように溶解したり、ii)EVOH樹脂の製造に際して得られるケン化処理後のEVOH樹脂溶液に、溶剤、水またはこれらの混合溶媒を添加して、樹脂濃度、溶液粘度を調整したり、iii)EVOH製造に際して析出または析出・水洗後のEVOH樹脂の含水状態ペレットを、溶剤または溶剤/水の混合溶媒中で所定の濃度と液組成になるように溶解したりすることにより調製することができる。これらのうち、ii)の方法が生産上好適に採用され得る。
【0061】
EVOH樹脂を溶解する溶媒としては、EVOH樹脂を溶解可能な溶媒に溶解すればよく、その溶媒や方法等については限定されないが、該溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、フェノール、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶剤やこれらの溶剤を含有する水溶液(混合溶媒)を挙げることができる。
【0062】
EVOH樹脂溶液として、EVOH樹脂水溶液を用いる場合、水/溶剤の混合重量比が80/20〜5/95の範囲であることが好ましく、またEVOH樹脂溶液中に含有されるEVOH樹脂の濃度としては、通常、10〜60重量%であり、好ましくは15〜50重量%である。該濃度が低すぎると、凝固液中での凝固が困難となり、逆に高すぎると、得られるペレットの空隙率が低下し、成形時の熱安定性に悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0063】
EVOH樹脂溶液は任意の形状を有するノズルにより、凝固液中にストランド状に押出される。ノズルの形状としては、特に限定されないが、円筒形状が好ましく、その長さは1〜100cmが好ましく、更には3〜30cmで、内径は0.1〜10cmが好ましく、更には0.2〜5.0cmである。
上記ノズルとなる孔が複数開設されたダイを用いてもよい。かかる場合、孔数に応じて、数本〜数百本のストランドが押し出される。
【0064】
EVOH樹脂溶液の凝固液への押出時の温度としては、通常、10〜100℃であり、好ましくは20〜60℃である。かかるEVOH樹脂溶液の押出時の温度が低すぎると、押出機内で析出固化する傾向があり、逆に高すぎると、凝固性が低下する傾向がある。
【0065】
凝固液としては、EVOH樹脂が溶解しない液体を用いる必要がある、具体的には、水又は水/アルコール混合溶媒、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジプロピルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の有機酸エステル等を用いることができる。取り扱い性の観点から、水又は水/アルコール混合溶媒(通常、水/アルコールの重量比は5/95〜99/1)が好ましく用いられる。該アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いることができ、工業上好ましくはメタノールが用いられる。
【0066】
EVOH樹脂溶液を凝固液と接触させる際の凝固液の温度としては、−10〜40℃が好ましく、更には0〜20℃である。凝固液は、ストランドを得るための冷却固化させる役目も有しているので、凝固時間の短縮の観点から、低温とすることが好ましい。
凝固液中のEVOH樹脂の滞留時間としては、通常10〜400秒であり、好ましくは30〜200秒、特に好ましくは50〜150秒である。かかる滞留時間が短すぎると、凝固性が低下する傾向があり、逆に長すぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0067】
凝固液中に押出されたストランド状のEVOH樹脂溶液は、さらに冷却液により冷却固化させた後、所定間隔ごとに固定刃又は回転刃等のストランドカッター等を用いてカットされる。これにより、カット長さに対応した高さを有する円柱状ペレットが得られる。
【0068】
(3)後処理
以上のようにして得られたペレット(断面が略円形ないし楕円形のペレット、円柱状ペレット)は、さらに水洗することが好ましい。使用する原料にもよるが、ケン化時に使用した触媒残渣であるアルカリ金属塩を含んでいるおそれがある場合には、最終的に得られる成形品の着色などを防止する観点から、水洗することは好ましい。
【0069】
水洗は、10〜60℃の水槽中で実施される。例えば、EVOH樹脂ペレット100重量部に対して200〜1000重量部(好ましくは300〜600重量部)の水で、20〜50℃(好ましくは25〜35℃)で、0.5〜5時間、1〜5回(好ましくは1回)実施することが好ましい。このような水洗により、EVOH樹脂中の炭素数が5以下のアルコール、酢酸、酢酸ナトリウム含有量が調整され、また、オリゴマーや不純物も除去することができる。
【0070】
水洗により、EVOH樹脂ペレット100重量部に対して、通常、炭素数が5以下のアルコールを0.0001〜1重量部、酢酸を0.01〜1重量部、酢酸ナトリウムを0.01〜1重量部に調整するのが好ましい。
【0071】
水洗後、必要に応じて、EVOH樹脂ペレットを、添加物の水溶液と接触させる。
添加物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の熱安定剤が挙げられる。
これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
かかる添加物の水溶液と接触させることにより、EVOH樹脂ペレット中に添加物を含有させ、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させることができる。
添加物の水溶液と接触させる方法としては、3%以下(好ましくは0.3〜1.5%)の添加物の水溶液を、EVOH樹脂ペレット100重量部に対して200〜1000重量部(好ましくは300〜600重量部)使用して、10〜80℃(好ましくは20〜60℃、特に好ましくは30〜40℃)で、0.5〜5時間、1〜3回(好ましくは1回)実施される。
【0072】
添加物の水溶液と接触させる操作により、EVOH樹脂ペレット100重量部に対して、通常、酢酸を0.001〜1重量部、ホウ素化合物を、ホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で0.001〜1重量部、酢酸塩やリン酸塩(リン酸水素塩を含む)を、金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で0.0005〜0.1重量部に調整することが好ましい。
【0073】
以上のようにして、各成分の濃度を調整したEVOH樹脂ペレットを乾燥する。乾燥後のEVOH樹脂ペレットの含水率は、通常1重量%以下、特には0.5重量%以下とされる。
乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、遠心脱水機を用いる方法、空送中に水を切る方法、静置乾燥法、流動乾燥法等が挙げられ、幾つかの乾燥方法を組み合わせた多段階の乾燥工程を行ってもよい。
【0074】
このようにして得られたEVOH樹脂ペレットに、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0075】
<成形材料の調製>
本発明の成形材料は、上記のようにして製造されるEVOH樹脂ペレット(A1)とEVOH樹脂ペレット(A2)の混合物である。
ペレットA1、ペレットA2を構成するEVOH樹脂の組成(エチレン単位含有率、ケン化度、添加剤の種類、含有量など)は同じであっても異なっていてもよい。
【0076】
ペレットA1とペレットA2の配合比率(A1/A2)(重量比)としては、通常99/1〜20/80であり、好ましくは97/3〜55/45、特に好ましくは95/5〜80/20である。
ペレットA1の比率が小さすぎる場合には、溶融押出成形する際のフィード性が低下する傾向があり、逆に大きすぎる場合には、円柱状ペレットの混合効果が得られにくく、溶融押出成形する際のフィード性が低下する傾向がある。
【0077】
ペレットA1とペレットA2を混合する方法としては、例えば、機械的混合法、具体的には、バンバリーミキサー等の混合装置を利用してもよいし、手動で攪拌、振とうなどを行うことにより混合してもよい。
【0078】
本発明の成形材料は、上記EVOH樹脂ペレットA1とEVOH樹脂ペレットA2との混合物の他、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、さらにEVOH樹脂の組成(エチレン単位含有率、ケン化度、添加剤の種類、含有量など)、ペレットの形状、サイズが異なるEVOH樹脂ペレット(第3のEVOH樹脂ペレット)を含有してもよい。この場合、第3のEVOH樹脂ペレットは、溶融状態でカットされた、いわゆる角のないペレットであっても円柱状ペレットであってもよい。本発明の成形材料を構成するEVOH樹脂ペレット群において、第3のEVOH樹脂ペレットを含有する場合であっても、ペレットA1とペレットA2との組み合わせであって、ペレットA1とペレットA2の混合重量比率(A1/A2)が、99/1〜20/80、好ましくは97/3〜55/45、より好ましくは95/5〜80/20であることが好ましい。
【0079】
本発明の成形材料は、以上のようにして得られるペレット群で、安息角が37°未満であることが好ましく、より好ましくは30〜36°、特に好ましくは32〜36°である。
安息角とは、図1に示すように、EVOH樹脂ペレット群をロートなどを用いて上方から平面上に落下させることにより形成される円錐状のペレット群10の、円錐の母線と水平面との成す角αをいう。
具体的には、図2に示すように、水平に置かれたガラス容器(内寸:直径(D)9.5cm、高さ2cm)に該容器1の上面から10cmの高さより足径(a)8mmのガラスロート2を介してEVOH樹脂ペレット3を容器1から溢れるまで自由落下させる。EVOH樹脂ペレットが堆積してできた略円錐状のEVOH樹脂ペレット群10について、容器1の内側の底面から頂点までの距離(円錐の高さ:H)を測定し、下記式に示す逆正接関数として算出される。
安息角(゜)=tan-1(H/4.75)
【0080】
安息角が小さいほど、ペレットが堆積しにくいこと、すなわちペレットが滑りやすいことを意味し、ひいてはフィード性に優れると考えられる。本発明の成形材料は、理由は明らかではないが、異なる形状、サイズのペレット群であることから、緻密に堆積することが困難となり、換言すると、ペレットが堆積されずに流動しやすくなったと推測する。
【0081】
以上のようなペレット群からなる本発明の成形材料は、フィード性に優れる。この点、溶融状態でカットすることにより得られる、断面が略円形ないし楕円形の、所謂角のないペレットを用いた場合であっても、当該角のないEVOH樹脂ペレットのみからなる場合にはフィード性を満足することができない。さらに、角のないペレットと円柱状ペレットを組み合わせたペレット混合物であっても、円柱状ペレットの配合比率が高くなりすぎると、フィード性が低下する。
【0082】
<成形材料の用途>
以上のような構成を有する本発明の成形材料は、フィード性に優れるので、EVOH樹脂成形品を製造するための溶融成形材料として好ましく用いられる。特にフィルム、シート、繊維などの溶融押出し成形用材料として好適に用いることができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。
【0083】
使用する成形機の条件、種類は特に限定しないが、異なる種類のペレットが溶融混練押出しの間に、均一に混ざる必要がある。かかる観点から、溶融可塑化部は、スクリュ式、プランジャ式のいずれを用いることもできるが、好ましくはスクリュ式である。押し出し機は縦型、横型のいずれでもよく、シングルスクリュタイプ、ツインスクリュタイプのいずでもよい。また、スクリュのL/D(スクリュ長さ/スクリュ径)、圧縮比(C)も特に限定しないが、通常L/Dは20〜35、好ましくは25〜30、通常Cは1.5〜8、好ましくは2〜5の範囲内から選択される。
溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から一般に選択される。
【0084】
成形によりフィルム、シートは、そのまま各種用途に用いることもできるが、通常はさらに強度を上げたり他の機能を付与したりするために他の基材と積層して積層体として用いられる。本発明の成形材料を用いて得られたEVOH樹脂フィルム、シート又はその積層体は、優れたガスバリア性に基づいて、食品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料などの包装材料として用いられる。また、EVOH樹脂フィルム、シート又はその積層体は、さらにカップやボトルなどに二次成形してもよい。
【0085】
積層体に用いられる他の基材としては熱可塑性樹脂が有用である。熱可塑性樹脂としては例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン類、これらポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン類、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類等が挙げられるが、積層体の物性(特に強度)等の実用性の点から、ポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましく、特にはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
他の基材としては、熱可塑性樹脂以外に任意の基材(紙、金属箔、一軸又は二軸延伸プラスチックフィルム又はシート、織布、不織布、金属綿状、木質等)を用いてもよい。



【0086】
これら基材樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲において、従来知られているような酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいても良い。
【0087】
本発明の樹脂組成物を他の基材と積層するときの積層方法は公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に該樹脂を溶融押出ラミネートする方法、該樹脂と他の基材とを共押出する方法、該樹脂(層)と他の基材(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材上に該樹脂の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。
これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。本発明の成形材料を用いる場合であっても、他の熱可塑性樹脂との押出し成形に適用することができる。本発明の成形材料はフィルム成形性に優れているので、すなわち溶融押出しされるフィルム幅の変動等が抑制されているので、他の熱可塑性樹脂との溶融共押出しに適用した多層構造体の製造に好適に利用することができる。
【0088】
積層体の形状としては特に限定されず、フィルム、シート、テープ、ボトル、パイプ、フィラメント、異型断面押出物等が例示される。前記積層体の層構成は、EVOH樹脂の層をx(x1、x2、・・・)、他の基材、例えば熱可塑性樹脂層をy(y1、y2、・・・)とするとき、フィルム、シート、ボトル状であれば、x/yの二層構造のみならず、y/x/y、x/y/x、x1/x2/y、x/y1/y2、y2/y1/x/y1/y2等任意の組み合わせが可能である。フィラメント状ではx、yがバイメタル型、芯(x)−鞘(y)型、芯(y)−鞘(x)型、或いは偏心芯鞘型等任意の組み合わせが可能である。
【0089】
積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
該積層体は、そのまま各種形状のものに使用してもよいが、更に該積層体の物性を改善するためには延伸処理を施すことも好ましく、かかる延伸については、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、できるだけ高倍率の延伸を行ったほうが物性的に良好で、延伸時にピンホールやクラック、延伸ムラ、デラミ等の生じない延伸フィルムや延伸シート等が得られる。
【0090】
延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等の他、深絞成形、真空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は80〜170℃、好ましくは100〜160℃程度の範囲から選ばれる。
【0091】
延伸処理後、熱固定を行うことが好ましい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、上記延伸フィルムを、緊張状態を保ちながら80〜170℃、好ましくは100〜160℃で2〜600秒間程度熱処理を行う。
【0092】
積層フィルムを生肉、加工肉、チーズ等の熱収縮包装用途に用いる場合、延伸後の熱固定は行わないフィルムを用いて、生肉、加工肉、チーズ等を該包装した後、50〜130℃、好ましくは70〜120℃で2〜300秒程度の熱処理を行うことにより、該フィルムを熱収縮させて密着包装する。
【0093】
以上のようにして得られたフィルム、シート或いは容器等は食品、医薬品、工業薬品、農薬等各種の包装材料として有用である。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0095】
〔成形材料No.1〜11の製造〕
(1)断面が略円形ないし楕円形のEVOH樹脂ペレット(ペレットA1)
含水率0.1%の円柱状のEVOH樹脂ペレット(エチレン単位含有率:29モル%、ケン化度:99.6モル%、MFR:4.0g/10分(210℃、荷重2,160g))を原料として、二軸押出機に投入し、以下の条件で溶融混練し、該溶融状態のEVOH樹脂溶液を吐出口から冷却水中に押出す際に、吐出口に取り付けられたカッター(16枚刃)にてカッティングした(水中カット方式)。乾燥により、断面楕円の最大長径4.6mm、最大短径3.5mmのラグビーボール状のEVOH樹脂ペレットを得た。当該ペレット群の外観を撮像した写真、ラグビーボール状のペレットA1の長軸を含む面で切断した断面の写真、長軸と直交するように切断したペレットA1の断面の写真を、図3,4,5に各順に示す。
図4及び図5で示されるような断面を有するラグビーボール状のペレットA1は、図3に示すように、いかなる傾きで存在していても角がないことがわかる。
【0096】
・スクリュー内径:70mm
・L/D:39
・スクリュー回転数:300rpm
・ダイス部温度:260℃
・シリンダ温度(最も高い部分):260℃
・ノズル口径:3.2mmφ
・吐出量:350kg/h
・カッター刃の回転数:1500rpm
・冷却水温度:60℃
【0097】
(2)円柱状のEVOH樹脂ペレット(ペレットA2)
EVOH樹脂(エチレン単位含有率:29モル%、ケン化度:99.6モル%、MFR:3.4g/10分(210℃、荷重2160g))の水/メタノール混合溶液(水/メタノール=40/60(重量比)、EVOH樹脂濃度45%)を、5℃に維持された凝固浴(水/メタノール=95/5混合重量比)に、内径0.4cm、長さ6.0cmの円筒形のノズルよりストランド状に押出し、凝固浴にて100秒間滞留させることにより凝固させた後、カッターを用いてカッティングした(ストランドカッティング方式)。その後、乾燥し、底面および上面の直径2.5mm、高さ2.6mmの円柱状のEVOH樹脂ペレットを得た。当該ペレット群の外観を撮像した写真、円柱状ペレットの高さ方向に沿って切断したペレット断面の写真、底面と平行に切断したペレット断面の写真を、図6,7,8に各順に示す。
【0098】
(3)成形材料(ペレットの混合)
上記で製造したペレットA1及びペレットA2を、表1に示す重量比率で配合し、ビニール袋に投入して、大気中、15℃で袋を激しく振とうすることにより混合して、成形材料No.1〜9を製造した。成形材料No.10,11については、それぞれペレットA1、ペレットA2を単独で成形材料として用いた。
各成形材料の安息角を下記方法で測定し、フィード性を評価した。
【0099】
〔安息角の測定〕
図2に示すように、水平に置かれたガラス容器(内寸:直径(D)9.5cm、高さ2cm)に該容器1の上面から10cmの高さより足径(a)8mmのガラスロート2を介してEVOH樹脂ペレット3を容器1から溢れるまで自由落下させる。EVOH樹脂ペレットが堆積してできた略円錐状のEVOH樹脂ペレット群10について、容器1の内側の底面から頂点までの距離(円錐の高さ:H)を測定し、下記式に示す逆正接関数として算出した。測定は3回行い、その平均値を安息角(α)とした。
安息角(゜)=tan-1(H/4.75)
【0100】
〔EVOH樹脂フィルムの製造及びフィード性の評価〕
上記で製造した各成形材料No.1〜11を用いて、下記条件で製膜し、厚み50μmのEVOH樹脂フィルムを得た。
(製膜条件)
・スクリュー内径 19mm
・L/D 25
・スクリュー圧縮比 2
・Tダイ コートハンガータイプ
・ダイ巾 150mm
・押出温度(℃) C1/C2/C3/C4/C5(アダプタ)/C6(ダイ)=200/23
0/230/230/230/230
【0101】
EVOH樹脂フィルムの製膜時に押出機より発生する異音を、押出機から50cm程度離れた位置に立って耳で確認し、フィード性を評価した。
○:異音がほとんど聞こえない
△:異音が聞こえる
×:激しい異音が聞こえる
異音が小さいほど、フィード性が良好であることを意味している。
【0102】
【表1】
【0103】
表1から、ラグビーボール状のEVOH樹脂ペレットのみからなる成形材料(No.10)、円柱状EVOH樹脂ペレットのみからなる成形材料(No.11)は、安息角が高くなる傾向にあり、フィード性が劣っていた。
ラグビーボール状のEVOH樹脂ペレット(ペレットA1)と円柱状EVOH樹脂ペレット(ペレットA2)との混合物からなる成形材料であっても、ペレットA2が多くなりすぎると、安息角が低減せず、フィード性の改善は認められなかった(No.7−9)。
【0104】
ペレットA1とペレットA2の混合物であり、混合重量比率(A1/A2)が25/75以上となる場合に、安息角が36°以下となり、フィード性を満足することができた(No.1〜6)。
特に、ペレットA1とペレットA2の混合物であって、ペレットA1がペレット群の50重量%超を占める場合には、安息角は35°以下となり、優れたフィード性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の成形材料は、溶融押出成形する際のフィード性に優れることから、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0106】
3 ペレット
10 ペレット群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8