特許第6483448号(P6483448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6483448固体酸化物形燃料電池の空気極材料の製造方法、空気極材料、これを用いた空気極及び燃料電池。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483448
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の空気極材料の製造方法、空気極材料、これを用いた空気極及び燃料電池。
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20190304BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190304BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20190304BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20190304BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   H01M4/88 T
   H01M4/86 T
   H01M8/12 101
   C04B35/50
   C01G51/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-10220(P2015-10220)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-29636(P2016-29636A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2017年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-147543(P2014-147543)
(32)【優先日】2014年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】三室 伸
(72)【発明者】
【氏名】上條 元久
(72)【発明者】
【氏名】松下 伸広
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−138256(JP,A)
【文献】 特表2014−516461(JP,A)
【文献】 特開2006−111875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
C01G 51/00
C04B 35/50
H01M 4/86
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の空気極材料の製造方法であって、
空気極材料の原料液を用いる工程、上記原料液を乾燥し空気極材料の前駆体粉末を得る乾燥工程、及び、該前駆体粉末を焼成する焼成工程を有するものであり、
上記原料液は、空気極材料の構成元素、キレート剤及びアニオン性界面活性剤を含むものであり、上記構成元素の難溶性粒子が生成しかつ該粒子表面の負電荷が0を超えるpHを有し、
上記空気極材料の原料液を用いる工程は、空気極材料の構成元素及びキレート剤を含む溶液にアニオン性界面活性剤を添加する工程、該アニオン性界面活性剤を含む液のpHを調整する工程を有することを特徴とする空気極材料の製造方法。
【請求項2】
上記pHは3以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気極材料の製造方法。
【請求項3】
上記乾燥工程は、60℃以上200℃以下で乾燥するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気極材料の製造方法。
【請求項4】
上記焼成工程は、500℃以上で焼成するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の空気極材料の製造方法。
【請求項5】
上記アニオン性界面活性剤は、オレイン酸またはオレイン酸塩であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つの項に記載の空気極材料の製造方法。
【請求項6】
上記構成元素は、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩又はアルコキシドから選択される1種又は2種以上の水に可溶な構成元素源から得ることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つの項に記載の空気極材料の製造方法。
【請求項7】
上記キレート剤は、クエン酸、グリシン又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)から選択される1種又は2種以上の有機キレートであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1つの項に記載の空気極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の製造技術に係り、特に高出力高密度化が可能な、電極反応場を拡大する空気極材料を製造できる空気極材料の製造方法、該製造方法で作製された空気極材料、該空気極材料を用いた燃料電池セル、スタック及び燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)など、酸素イオン伝導性を備えた固体酸化物から成る電解質を用い、その一方にガス透過性を備えた多孔質燃料極、他方側に多孔質空気極を配置した構造を備え、一般的に600℃を超える高温で作動する燃料電池である。
【0003】
このような固体酸化物形燃料電池の電池性能を向上させるためには、電極反応を活性化させること、すなわち、反応ガスと接触し反応する反応場の面積を大きくすることが求められ、そのためには比表面積の大きい多孔質電極が望ましい。
特に、空気極における電極反応は、空気極から電解質への酸素イオンの伝達によって行われ、電極反応は電解質との界面近傍で最も生じやすい。
したがって、電池性能の向上のためには、電解質の近傍部における空気極の反応ガス(空気に代表される酸化性ガス)との反応面積の拡大、すなわち空気極の比表面積を大きくすることが重要となる。
【0004】
特許文献1には、原料元素であるLa、Sr、Co、及びFeの水溶性の硝酸塩を所定の割合で水に溶解し、これにNH4OHを添加して、不溶性塩を共沈させ、得られた沈殿を乾燥、焼成させることで、微細粒子径で粒径分布のバラツキが小さいLSCF粉末が得られる旨が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、La、Sr、Co、及びFeを含む原料化合物を、液中で有機酸と反応させ、錯化合物として完全に溶解せしめ、これを噴霧し微小液滴状態で乾燥することにより、ミクロのレベルで均一組成の微粒子が得られる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−32132号公報
【特許文献2】特開2012−138256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法にあっては、共沈する条件及び速度は構成元素間で異なるため共沈させた不溶塩の組成が不均一化し易く、また生じた不溶塩の粒子同士が凝集して粗大粒子を形成し易く、結果として焼成後の空気極粉末の組成の偏りや、粒子が肥大化してしまい比表面積の拡大が十分でない。
また、特許文献2に記載の方法にあっては、噴霧した直後は液状であるため、微小液滴が合一し粗大粒子が生じて比表面積の低下を招くことがある。
したがって、本発明は、高出力高密度化が可能な、比表面積が大きい空気極材料を作製できる製造方法、比表面積が大きい空気極材料、これを用いた空気極及び燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、空気極材料構成元素のイオンをアニオン性界面活性剤で分散することで、共沈が穏やかに行われて均一な難溶性粒子が生成し、さらにアニオン性界面活性剤が原料液中で難溶性粒子表面を被覆することで、混合の際は側鎖の電離によって生成した難溶性粒子を帯電させることで静電的反発によって難溶性粒子の凝集が防止され、さらに焼成中にはスペーサ乃至障壁膜となって上記難溶性粒子の凝集を防止することによって上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の空気極材料の製造方法は、空気極材料の原料液を用いる工程、上記原料液を乾燥し空気極材料の前駆体粉末を得る乾燥工程、及び、該前駆体粉末を焼成する焼成工程を有する。
そして、上記原料液は、空気極材料の構成元素、キレート剤及びアニオン性界面活性剤を含むものであり、上記構成元素の難溶性粒子が生成しかつ該粒子表面の負電荷が0を超えるpHを有し、
上記空気極材料の原料液を用いる工程は、空気極材料の構成元素及びキレート剤を含む溶液にアニオン性界面活性剤を添加する工程、該アニオン性界面活性剤を含む液のpHを調整する工程を有することを特徴とする
【0010】
また、本発明の上記空気極材料においては、上記空気極材料の製造方法で作製されたものであることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の固体酸化物形燃料電池の空気極は、上記空気極材料を用いたものであることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、本発明の固体酸化物形燃料電池は、上記空気極を用いたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気極材料構成元素のイオンをアニオン性界面活性剤で分散し、アニオン性界面活性剤及び難溶性粒子の電荷を適切に利用することとしたため、高出力高密度化が可能な、比表面積が大きい空気極材料を作製できる製造方法、比表面積が大きい空気極材料、これを用いた空気極及び燃料電池を提供することができる。
即ち、空気極材料構成元素の錯体をアニオン性界面活性剤で分散させて、穏やかに共沈させ、かつ凝集を防止したことにより、均一かつ微細な粒径の空気極前駆体粉末が得られるものである。さらに、該空気極前駆体粉末は組成の偏りが少なく、2種以上の組成物が混合した混相となり難いものであり、さらなる高出力高密度化が可能な比表面積が大きな空気極材料、これを用いた空気極及び燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】原料液のpHと表面電位(ζ電位)との関係の一例を示すグラフである。
図2】実施原料液と比較原料液のpHと表面電位(ζ電位)の関係を示すグラフである。
図3】実施原料液と比較原料液の粒度分布を示すグラフである。
図4】実施例1と実施例2で得られた空気極材料のXRDを示すチャートである。
図5】実施例2〜6で得られた空気極材料のXRDを示すチャートである。
図6】比較例1と比較例2で得られた空気極材料のXRDを示すチャートである。
図7】実施例3〜6で得られた空気極材料のTEM写真である。
図8】実施例7,8比較例4で得られた空気極のSEM写真である。
図9】実施例7,8比較例4で得られた空気極の導電性と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の固体酸化物形燃料電池の空気極材料の製造方法について、さらに詳細、且つ具体的に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限りモル%を表すものとする。
【0016】
本発明の固体酸化物形燃料電池の空気極材料の製造方法は、空気極材料の原料液を用いる工程、該原料液を乾燥し空気極材料の前駆体粉末を得る工程、及び、該前駆体粉末を焼成する工程を有する。
なお、上記の原料液を用いる工程については、通常は該原料液を作製して用いる工程となる。
【0017】
(空気極材料の原料液の作製)
本発明における空気極材料の原料液は、空気極材料の構成元素、キレート剤及びアニオン性界面活性剤を含む。
【0018】
上記空気極材料の構成元素としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する材料、化合物又は物質を形成し得る元素であればよく、例えば、(La,Sr)MnO、(SrSm)CoOを構成する各元素である、ランタン(La),ストロンチウム(Sr),コバルト(Co),鉄(Fe),マンガン(Mn)、サマリウム(Sm)等を挙げることができる。
本発明の空気極材料の製造方法は、上記いずれにも適用可能であるが、特に、LSCF、即ち、次式の組成を有する空気極材料に好適に用いられる。
【0019】
(La1−xSr)(Co1−yFe)O
(式中xは0≦x≦1,yは0≦y≦1を満足する)
【0020】
上記構成元素は、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、アルコキシドから選択される水に可溶な構成要素源から得ることができ、1つの構成元素につき、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、アルコキシドから選ばれた任意の2種類以上の化合物を構成元素源として使用してもよい。
構成元素源としては、例えば、硝酸ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、ランタンアルコキシド等、各構成元素の化合物を挙げることができる。
【0021】
上記キレート剤は、構成元素のキレート錯体を形成し、空気極材料の構成元素を原料液中で安定化することができればよく、従来公知の有機キレート剤を使用することができる。
上記有機キレート剤としては、例えば、クエン酸、グリシン、マレイン酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、乳酸等の有機酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を挙げることができ、これらは、1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
上記アニオン性界面活性剤は、キレート剤により安定化された空気極材料の構成元素のキレート錯体を高度に分散させ、穏やかに共沈させると共に、側鎖の電離によって生成した難溶性粒子を帯電させ、さらにスペーサ乃至は障壁膜となって上記難溶性粒子の凝集を防止する。
加えて、乾燥工程及び焼成工程においては、難溶性粒子同士間又は空気極前駆体粒子同士間のスペーサ乃至は障壁膜となって、これらの合一を防止する。
【0023】
上記アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸及びその塩、スルホン基やカボキシル基等の陰イオン性の官能基を有するアニオン性界面活性剤を使用することができる。
例えば、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸等とその塩を挙げることができ、特にオレイン酸又はオレイン酸塩であることが好ましい。
【0024】
空気極材料の原料液の作製方法について説明する。
空気極材料の構成元素源を含む原料粉末を所望の組成比となるように秤量・混合し、蒸留水に溶解・混合させた後、上記水溶液中にキレート剤に加え溶解・混合させる。
上記キレート剤の使用量は、空気極材料の構成元素とキレート錯体を形成するよう上記原料液中の構成元素を空気極材料へ換算した量に対して等モル以上であることが好ましい。
【0025】
次に、空気極材料の構成元素及びキレート剤を含む水溶液にアニオン性界面活性剤を加える。上記界面活性剤の添加量は、構成元素のキレート錯体及び添加する界面活性剤の種類等にもよるが、構成元素のキレート錯体を高度に分散させ、後述するpHの調整工程での共沈を穏やかにすると共に、生成した難溶性粒子の凝集を防止できればよく、上記原料中の構成元素を空気極材料へ換算した量に対して等モル以上であることが好ましい。
【0026】
そして、上記アニオン性界面活性剤を含む液のpHを調整し共沈させることで、原料液中に含まれる各構成元素の塩が均一に混合された構成元素の難溶性粒子を生成させる。
このとき、本発明においては、生成した難溶性粒子表面の負電荷が0を超えるpHに調整する。難溶性粒子表面の負電荷が大きくなることで、静電的反発によって難溶性粒子が溶液中で高分散し凝集が抑制されるため、より均一な混合が可能となり、難溶性粒子の組成が均一化すると共に微粒子化される。
【0027】
一般に、原料液中の各構成元素は、それぞれ共沈する条件及び速度が異なるため、沈殿しやすい元素から沈殿し、特定元素の難溶性粒子同士が凝集して、得られる空気極前駆体の組成に偏りが生じ、焼成時に混相となり易い。
しかし、本発明においては、アニオン性界面活性剤によって高度に分散され、穏やかに共沈するため、上記共沈する条件及び速度の差による影響が小さくなり、均一な組成の難溶性粒子が得られ、さらにアニオン性界面活性剤によって表面電荷の反発が大きくなり、難溶性粒子同士の凝集が防止されて微粒子化される。
【0028】
難溶性粒子表面の負電荷が0を超えるpHは、空気極材料の原料液を構成する材料により異なるため、表面電荷(ゼータ電位)を測定し調整する必要がある。
pHの調整は、酸性又は塩基性のpH調整剤を添加することにより行うことができ、上記pH調整剤としては、例えば、HNO、NHを用いることができる。
なお、ゼータ電位の測定は、従来公知の方法で測定することが可能であり、例えば、電場中の粒子の泳動速度を動的光散乱法等により測定することができる。
【0029】
ここで、原料液中の難溶性粒子の分散性と表面電荷(ゼータ電位)との関係を、図1を用いて説明する。
図1の(I)に示す表面電荷が0となるpHの領域であると、静電的反発力が弱く低分散状態となるため、速やかに共沈し、組成偏りが起き易く、さらに難溶性粒子が凝集して粗大粒子となり易い。
図1の(II)に示す領域では、難溶性粒子を被覆したアニオン性界面活性剤の側鎖の電離が進行し難溶性粒子の表面電荷が0を超えて、静電的反発による分散が高まり、共沈が穏やかになって組成偏りが防止され、また難溶性粒子の凝集が防止される。
さらに、界面活性の電離が促進される図1の(III)に示すpHの領域では、さらにアニオン性界面活性剤の側鎖の電離の進行とともに急激に静電的反発力が増大して、さらに共沈が穏やかになり、難溶性粒子の均一性が向上すると共に、微粒子化が促進される。
【0030】
例えば、LSCFをアニオン性界面活性剤で分散する場合は、後述する実施例で用いた原料液の測定結果である図2に示すように、pH3で表面電荷≠0となり、静電的反発による分散が始まるため、原料液のpHは3以上であることが好ましい。
さらに、pH7以上であると、アニオン性界面活性剤による電離が促進され、組成及び粒径が均一でかつ小粒径の難溶性粒子が得られる。
【0031】
(乾燥工程)
本発明においては、上記空気極材料の原料液を乾燥することで空気極材料の前駆体粉末が得られる。本発明においては、難溶性粒子がアニオン性界面活性剤で被覆されているため、該界面活性剤がスペーサ乃至障壁膜となって乾燥による難溶性粒子同士の合一がなく、前駆体粒子の粗大粒子化が防止される。上記乾燥は、60℃以上200℃以下で好ましくは1時間以上かけて、撹拌しながらゆっくり穏やかに乾燥することが好ましい。上記温度で1時間以上かけてゆっくり乾燥することで、分散状態が急変せず、難溶性粒子の組成の偏りや凝集が防止される。
【0032】
(焼成工程)
上記前駆体粉末を焼成することで空気極材料が得られる。前駆体粉末の焼成温度としては、500℃以上であることが好ましい。500℃以上であれば、原料の前駆体が反応し空気極の組成となる。有機残さを除去する必要がある際には、より高温で焼成をおこなってもよい。しかし焼成温度が高すぎると空気極材料の結晶子径(結晶とみなせる最少の大きさの1粒子径)が大きくなることがあるため、好ましくは800℃程度で焼成することが好ましい。
本発明においては、組成偏りのない前駆体が得られ、焼成時に混相を形成し難いため、高温で焼成し、分解・化学変化させて、単一の組成物からなる単相の空気極材料にする必要がない。したがって、空気極材料とする焼成を例えば500℃以上650℃以下の低温でも行うことが可能であり、例えば、結晶子径が10nmから20nm程度の微細かつ単相の空気極材料を得ることが可能である。
このような微細な空気極材料によれば、空気極とする際の焼結性が向上し、比表面積が大きく、かつ導電性に優れる空気極を得ることができる。
【0033】
上記前駆体粉末の焼成時間は、2〜6時間が好ましく、2〜4時間がより好ましい。6時間を超えても、生成物に変化はないが、空気極材料の粒子の肥大化を招いたり生産性が低下したりするので6時間以下にすることが好ましい。
前駆体粉末を焼成する焼成炉としては、特に限定されず、熱源として、電気式を挙げることができる。
【0034】
本発明の空気極材料は、スクリーン印刷、テープキャスト、キャリアガスを用いて微粒子を高速で基板に吹き付けることによって成膜を行うAD法等により、燃料極と共に電解質膜を挟持する空気極を形成し、燃料電池を構成することができ、該燃料電池は複数枚積層したスタック及び固体酸化物形燃料電池システムに用いられる。
【0035】
本発明の空気極材料を用いた空気極及び燃料電池は、比表面積が大きく、かつ導電性に優れるものであり高出力高密度化が可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(原料液の作製)
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83を形成するように、和光純薬工業株式会社製のLa源(硝酸ランタン(III)六水和物(La(NO・6HO)、 126―03112)、Sr源(硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、37348―00)、Co源(硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO・6HO)、034―12831)、Fe源(硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HO)、097―02812)をモル比でLa:Sr:Co:Fe=3:2:1:4の量でそれぞれ秤量し、ホットプレート上60℃に加熱した純水に添加、マグネチックスターラーで混合し溶解させて水溶液を作製した。
【0037】
次いで上記水溶液中へ、キレート剤として和光純薬工業株式会社製(クエン酸一水和物(C・HO)、0738―00)を添加してマグネチックスターラーで撹拌、溶解させた。なおその際、キレート剤の添加量は、上記水溶液中のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83 への換算量に対して等モル量とした。
【0038】
次いで、キレート剤を添加した上記溶液に、アニオン性界面活性剤として和光純薬工業株式会社製(オレイン酸ナトリウム(C1733COONa、194―02635)を添加してマグネチックスターラーで撹拌、溶解させて空気極材料の[実施原料液]を作製した。なおその際、アニオン性界面活性剤の添加量は、上記溶液中のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83 への換算量に対して等モル量とした。
【0039】
また、アニオン性界面活性剤を加えない他は空気極材料の原料液と同様にして、空気極材料の[比較原料液]を作製した。
【0040】
空気極材料の[実施原料液]及び[比較原料液]のpHを、HNO又はNHを用いて2〜12に調整し、温度条件25℃でゼータ電位を測定し、表面電位が0を超えているか否かを確認した。
測定結果を図2に示す。
図2の結果から、pHが3以上であれば、表面電荷が0を超え、pH7以上で界面活性剤の電離が促進され、高分散状態となっていること、及び、界面活性剤の添加による静電的反発が大きくなり凝集が防止されることがわかる。
【0041】
また、pH9に調整した[実施原料液]と[比較原料液]の粒度分布を測定した。測定結果を図3に示す。
界面活性剤を加えた[実施原料液]は、粒子径が小さくかつシャープな粒度分布を示しているのに対し、[比較原料液]では粒子径が大きくかつ粒子径のピークが複数あることから凝集が生じており、原料液に界面活性剤を加えた効果が確認された。
【0042】
(空気極前駆体の作製)
<空気極前駆体1>
pH3に調整した空気極材料の[実施原料液]をホットプレート上、マグネチックスターラーで撹拌しながら、60℃から80℃に徐々に加熱し2時間程度乾燥することで、[空気極前駆体1]を得た。
【0043】
<空気極前駆体2>
pH9に調整する以外は、[空気極前駆体1]と同様にして[空気極前駆体2]を得た。
【0044】
<空気極前駆体3>
空気極材料の[実施原料液]を[比較原料液]に変える他は[空気極前駆体2]と同様にして[空気極前駆体3]を得た。
【0045】
[実施例1]
[空気極前駆体1]を大気中において、乳鉢、乳棒を用いて粉砕した後に、アルミナ製のるつぼに移し、電気炉で大気中において、130℃で1時間、200℃で1時間、900℃で2時間(昇温レート2℃/分)の条件で焼成することで、[空気極材料1]を得た。
【0046】
[実施例2]
[空気極前駆体1]を[空気極前駆体2]に変える他は実施例1と同様にして[空気極材料2]を得た。
【0047】
得られた[空気極材料1]、[空気極材料2]の粉末を乳鉢で粉砕し、2θ/θ法,Cu Kα,40kV/40mA,サンプル間隔2θ=0.02°の条件でX線回折(XRD)により結晶構造を測定した。
測定結果を図4に示す。
図4より、pHが3で、表面電荷が0付近の分散性が低いものは混相が生じているのに対し、pHが7で静電的反発が十分得られるものは単一の組成物からなる単相となっていることがわかる。
【0048】
[実施例3]
焼成温度を800℃に変える他は、実施例2と同様にして[空気極材料3]を得た。
【0049】
[実施例4]
焼成温度を700℃に変える他は、実施例2と同様にして[空気極材料4]を得た。
【0050】
[実施例5]
焼成温度を600℃に変える他は、実施例2と同様にして[空気極材料5]を得た。
【0051】
[実施例6]
焼成温度を500℃に変える他は、実施例2と同様にして[空気極材料6]を得た。
【0052】
[比較例1]
空気極前駆体1を空気極前駆体3に変える他は、実施例6と同様にして、[空気極材料7]を得た。
【0053】
[比較例2]
焼成温度を800℃に変える他は、比較例1と同様にして[空気極材料8]を得た。
【0054】
[比較例3]
焼成温度を900℃に変える他は、比較例1と同様にして[空気極材料9]を得た。
【0055】
得られた[空気極材料3〜7、9]の粉末を乳鉢で粉砕し、[空気極材料1,2]と同様にして結晶構造を測定した。
[空気極材料2〜6]の測定結果を図5に、[空気極材料7、9]の測定結果を図6に示す。
図5より、本発明の製造方法によれば、500℃の低温で焼成しても不純物相がなく、単相の空気極材料が得られているのに対し、比較例では混相となっていることがわかる。
【0056】
[空気極材料2,3]、[空気極材料5〜9]について、XRDの結果より、以下のシェラーの式を用いて結晶子径を算出し、また、[空気極材料3、6、7、8]についてBET比表面積を測定した結果を表1に示す。
さらに、[空気極材料3〜6(実施例3〜6)]のTEM写真を図7に示す。
【0057】
結晶子径の計算式 シェラーの式D=Kλ/βcosθ
β:積分幅、K:1.33
【0058】
BET比表面積の測定条件
試料重量:0.2g、(脱気処理300℃6h)
吸着質N
吸着温度77K
平衡時間300h
【0059】
【表1】
<MG SRC="表1.bmp">
【0060】
表1及び図7より、低温で焼成することで、結晶子径が小さく、比表面積が大きい空気極材料が得られることが確認された。
【0061】
[実施例7]
[空気極材料3]を以下の条件でペレット状に成型・焼結して[空気極3]を作製した。
[ペレット作製条件]
粉末量:0.22g
成型圧:200MPa
ペレット寸法:直径10mm 厚さ1mm
上記の条件で成型したペレット900℃で4時間焼結させた。
【0062】
[実施例8]
[空気極材料3]を[空気極材料6]に替える他は実施例7と同様にして[空気極6]を作製した。
【0063】
[比較例4]
[空気極材料3]を[空気極材料8]に替える他は実施例7と同様にして[空気極8]を作製した。
【0064】
[評価]
上記空気極3、6,8それぞれの焼結性及び導電率を評価した。
【0065】
<焼結性評価>
空気極のペレットの重量を電子天秤で測定し、ノギスで寸法を測定して、空気極ペレットの密度を測定した。
測定密度と理論密度との比(測定密度/理論密度)から焼結性(相対密度)を評価した。
なお、理論密度は、XRDの結果からリートベルト解析することで求めた。評価結果を表2に示す。また、[空気極3、6、8]のSEM写真を図8に示す。
【0066】
【表2】
<MG SRC="表2.bmp">
【0067】
[空気極8]は、圧粉状態のままで粒成長・粒間焼結が進んでおらず、焼結性が劣ることがわかる。また、空気極材料の粒径が不均一のためか焼結の進行が不均一で全体的に構造が不均一であることがわかる。
これに対し、本発明の[空気極3]は[空気極材料8]と同じ温度で焼成した[空気極材料3]を用いたものであるが、粒成長・粒間焼結が進んでいる。また、構造も全体的に均一である。
このように、本発明の微粒子化された空気極材料によれば、構造が均一かつ焼結性が優れる空気極が得られることがわかる。
さらに、[空気極材料3]よりも低温で焼成された[空気極材料6]を用いた[空気極6]は、[空気極3]よりもさらに粒成長・粒間焼結が進行していることがわかる。
【0068】
<導電率評価>
空気極ペレットの両面に白金金網(100メッシュ、線径0.08mm)を配置し、白金導線を片面に二本ずつ両面に設置し直流四端子法で導電率を測定した。
評価は電気炉を用いて試料温度500℃〜800℃(熱電対にて試料上部約2cmで計測)、±200、300、400mAの一定電流を印加の下、電圧を計測。
導電率は、オームの法則により計測電圧―印加電流曲線の傾き(抵抗値)を算出し、抵抗値と試料寸法とから、次式により算出した。
【0069】
導電率=(1/抵抗値)×(ペレット厚/ペレット断面積)
各空気極ペレットの導電率―温度依存性(アレニウスプロット)を図9に示す。
図9より本発明の空気極は導電性が優れるものであり、低温で焼成した空気極材料を用いることでさらに空気極の導電性が向上することがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9