(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水酸基を有するポリエーテルスルホン、エポキシ基を有する化合物、及びエポキシ基と反応可能な化合物とが結合したポリエーテルスルホン系繊維の集合体であり、前記繊維集合体を温度25℃のジメチルアセトアミド溶液中に30分間浸漬した後における質量減少率が30%以下であることを特徴とする、ポリエーテルスルホン系繊維集合体。
水酸基を有するポリエーテルスルホン、エポキシ基を有する化合物、及びエポキシ基と反応可能な化合物とを含む紡糸液を紡糸し、集積した後、熱処理を実施することを特徴とする、請求項1記載のポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体は、水酸基を有するポリエーテルスルホン(以下、単に「PESU」と表記することがある)、エポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と表記することがある)、及びエポキシ基と反応可能な化合物(以下、「エポキシ反応化合物」と表記することがある)とが結合したポリエーテルスルホン系繊維(以下、「PESU繊維」と表記することがある)の集合体であり、前記PESU繊維はPESUがエポキシ化合物と結合しており、しかもエポキシ化合物はエポキシ反応化合物と結合していることによって、ネットワーク状に結合した状態にあることができるため、耐溶剤性に優れていると考えている。
【0011】
このPESUは次の一般式(1)で表される構造単位を有する高分子である。
【0012】
【化1】
[式中、R
11及びR
12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基、フェニル基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示し、p及びqは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。R
11又はR
12が複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【0013】
なお、PESUは上記一般式(1)で表される構造単位に加えて、次の一般式(2)〜(5)で表される構造単位を1種類又は2種類以上有していても良い。
【0014】
【化2】
[式中、R
21、R
22、R
23及びR
24は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、フェニル基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、メチル基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]
【0015】
【化3】
[式中、R
31及びR
32は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、フェニル基、水酸基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示す。R
31又はR
32が複数存在する場合、複数のR
31又はR
32はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、Xは、単結合、−S−で表される基、−O−で表される基、カルボニル基、炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基又は炭素数5〜20の2価の脂環式炭化水素基を示す。さらに、r及びsはそれぞれ独立に、0〜4の整数である。]
【0016】
【化4】
[式中、rは0〜4の整数であり、また、R
41は、ハロゲン原子、水酸基、スルホン酸基、チオール基、アミノ基、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基を示す。R
41が複数存在する場合は、複数のR
41はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0017】
【化5】
[式中、Ar
51は、2価の縮合多環式炭化水素基を示し、この2価の縮合多環式炭化水素基に含まれる芳香環には、炭素数1〜10のアルキル基が置換していてもよい。但し、Ar
51は、式(5)で表される構造単位が上記一般式(1)で表される構造単位と同じとならないように選択される。]
【0018】
なお、PESUが一般式(1)で表される構造単位に加えて、一般式(2)〜(5)で表される構造単位を1種類又は2種類以上有する場合、ランダム共重合体、交互共重合体、又はブロック共重合体であることができる。
【0019】
本発明のPESUは上述のような構造単位を有し、水酸基を有するため、エポキシ化合物のエポキシ基と反応して結合することができる。なお、水酸基はどこに位置していても良いが、耐溶剤性に優れているように、末端に有しているのが好ましい。
【0020】
なお、水酸基の量はエポキシ化合物と結合して耐溶剤性に優れているように、100重合繰り返し単位あたり0.1以上であるのが好ましく、0.3以上であるのがより好ましく、0.6以上であるのが更に好ましい。一方で、水酸基の量が多過ぎると分子量が小さくなり、機械的強度の低下や、紡糸が困難になる傾向があるため、100重合繰り返し単位あたり3以下であるのが好ましく、2以下であるのがより好ましく、1.4以下であるのが更に好ましい。
【0021】
なお、PESUは1種類である必要はなく、構造単位の組合せの異なるPESU、水酸基量の異なるPESU、及び/又は分子量の異なるPESU等の2種以上の異なるPESUが結合していても良い。
【0022】
このような水酸基を有するPESU、特に末端に水酸基を有するPESUは公知の方法によって得ることができる。例えば、ハイドロキノン、ビスフェノール等の両末端にヒドロキシル基を有する化合物と、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホンとを適当な溶媒中で加熱し、重縮合させる方法によって製造することができる。
【0023】
本発明のエポキシ化合物はエポキシ基を有しているため、前記PESUの水酸基と反応して結合することができる。このエポキシ化合物として、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルエーテル化合物;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルエステル化合物;不飽和基を複数有する脂肪族化合物もしくは脂環式化合物を酢酸と過酢酸とでエポキシ化したエポキシ化合物;脂肪族、脂環式もしくは芳香族グリシジルアミン化合物を例示することができる。
【0024】
より具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリ−1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エリスリットポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、ジグリシジルアニリン、テトラグリシジル4,4′−ジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、高級油脂のポリエポキシ化合物を挙げることができる。なお、エポキシ化合物は単独で、又は2種以上のエポキシ化合物が結合していても良い。
【0025】
本発明のPESU繊維は更にエポキシ反応化合物がエポキシ化合物と反応して結合することができる。このエポキシ反応化合物はエポキシ化合物のエポキシ基と反応可能であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族アミン;アミンアダクト(ポリアミンエポキシ樹脂アダクト)、ポリアミン−エチレンオキシド(ED)アダクト、ポリアミン−プロピレンオキシド(PO)アダクト、シアノエチル化ポリアミン、ケチミン(ケトイミン)等の変性アミン;無水フタル酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)(TME)、グリセリントリス(アンヒドロトリメリテート)(TMG)等の芳香族酸無水物;無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の環状脂肪族酸無水物;主としてダイマー酸とポリアミンの縮合により生成した、分子中に反応性の第一及び第二アミノ基を有するポリアミノアミド;フェノール、アルキルフェノール類(クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノールなど)、多価フェノール(レゾルシン、カテコールなど)、ハロゲン化フェノール、フェニルフェノール、アミノフェノールなどのフェノール類;フェノール樹脂、アミノ樹脂等の合成樹脂初期縮合物;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類;を挙げることができる。これらの中でもフェノールは反応性が高く、また、紡糸液を調製する際に、PESU溶液と混合してもゲル化しないため好適である。なお、エポキシ反応化合物は単独で、又は2種以上のエポキシ反応化合物が結合していても良い。
【0026】
本発明のPESU繊維は上述のようなPESU、エポキシ化合物及びエポキシ反応化合物が結合し、架橋構造が形成されていることによって、PESU繊維は耐溶剤性に優れていると考えている。
【0027】
なお、PESU繊維が耐溶剤性に優れるように、また、PESU繊維を紡糸できるように、PESUの固形分質量100部に対して、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物の固形分総質量で10〜50部混合して結合させたものであるのが好ましく、15〜40部混合して結合させたものであるのがより好ましく、15〜35部混合して結合させたものであるが更に好ましく、15〜30部混合して結合させたものであるのが更に好ましく、20〜30部混合して結合させたものであるのが更に好ましい。
【0028】
また、PESU繊維が耐溶剤性に優れるように、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物とが効果的に結合しているのが好ましいため、エポキシ化合物1モル当量とエポキシ反応化合物0.5〜2モル当量とが結合しているのが好ましく、エポキシ化合物1モル当量とエポキシ反応化合物0.6〜1.7モル当量とが結合しているのがより好ましく、エポキシ化合物1モル当量とエポキシ反応化合物0.7〜1.4モル当量とが結合しているのが更に好ましい。
【0029】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体を構成するPESU繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、1nm〜10,000nmであることができる。なお、PESU繊維の表面積を広くして、PESU繊維の繊維表面を有効に利用できるように、2,000nm以下であるのが好ましく、1,000nm以下であるのがより好ましく、800nm以下であるのが更に好ましく、600nm以下であるのが更に好ましい。一方、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、強度的に優れ、取り扱い性に優れているように、20nm以上であるのがより好ましい。本発明における「繊維径」は、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の平面における電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の直径を意味し、「平均繊維径」は50箇所の繊維径の算術平均値をいう。
【0030】
また、PESU繊維の繊維長は特に限定するものではないが、1mm以上であるのが好ましく、5mm以上であるのがより好ましく、10mm以上であるのが更に好ましく、最も好ましくは実質的に連続繊維である。なお、「実質的に連続繊維」とは、5,000倍の電子顕微鏡写真を撮影した場合に、その端部を確認できないことを意味する。
【0031】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体は上述のようなPESU繊維が集合したものであるが、その集合状態は特に限定するものではない。例えば、織物、編物のように、規則的に集合した状態にあっても良いし、不織布のように、不規則に集合した状態にあっても良い。特に、不織布状態にあると、空隙率が高く、各種用途に適用しやすいため好適である。例えば、本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体を膜の支持体として用いた場合、高分子電解質、ゲル電解質等の膜構成材料を多くすることができ、好適である。
【0032】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体は上述のようなPESU繊維集合体からなるが、PESU繊維集合体を温度25℃のジメチルアセトアミド溶液中に30分間浸漬した後における質量減少率が30%以下と、耐溶剤性に優れているため、各種用途に適用できる、汎用性に優れるものである。本発明において、ジメチルアセトアミド溶液に浸漬しているのは、ジメチルアセトアミドがポリエーテルスルホンの一般的な溶剤であるためである。このように、PESUの溶剤に浸漬しても質量減少率が30%以下であるということは、優れた耐溶剤性である。この質量減少率が小さければ小さい程、耐溶剤性に優れていることを意味するため、この質量減少率は25%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが更に好ましく、10%以下であるのが更に好ましい。
【0033】
本発明の質量減少率は具体的に、次の操作により得られる値を意味する。
(1)ポリエーテルスルホン系繊維集合体から、5cm角の試験片を採取し、その質量(Mb)を測定する。
(2)前記試験片を温度25℃のジメチルアセトアミド溶液中に浸漬する。
(3)ジメチルアセトアミド溶液を温度25℃に30分間維持する。
(4)30分後、試験片を取り出し、常温の純水で洗浄する。その後、別の常温の純水にて洗浄する。この洗浄作業を合計3回以上行う。
(5)純水洗浄後、温度80℃に設定したオーブン中で1時間以上乾燥させた後に、試験片の質量(Ma)を測定する。
(6)次の式に基づいて、質量減少率(Mr、単位:%)を算出する。
Mr=[(Mb−Ma)/Mb)]×100
【0034】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体の目付(JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値)は特に限定するものではないが、0.1〜200g/m
2であることが好ましく、0.1〜100g/m
2であることがより好ましく、0.5〜20g/m
2 であることが更に好ましく、1〜10g/m
2であることが更に好ましい。また、ポリエーテルスルホン系繊維集合体の厚さは、5N荷重時の外側マイクロメーターを用いて測定した値(μm)で、0.5μm〜1.5mmであることが好ましく、0.5μm〜1mmであることがより好ましく、2μm〜100μmであることが更に好ましく、5μm〜50μmであることが更に好ましい。
【0035】
このような本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体は耐溶剤性に優れているため、耐溶剤性を必要とする用途に適用することができる。例えば、膜支持体(例えば、固体高分子電解質膜、ゲル電解質膜など)、フィルタ用濾過材、電気化学素子用セパレータ(例えば、アルカリ一次電池用セパレータ、アルカリ二次電池用セパレータ、リチウムイオン二次電池用セパレータ、電気二重層キャパシタ用セパレータ、電解コンデンサ用セパレータなど)などの、各種用途に適用できる。
【0036】
本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0037】
まず、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を用意する。前述の通り、PESUとして、末端に水酸基を有するPESU、特には100重合繰り返し単位あたり、末端に0.1〜3の水酸基を有するPESUが好ましく、0.3〜2の水酸基末端を有するPESUがより好ましく、0.6〜1.4の水酸基を有するPESUが更に好ましい。また、エポキシ反応化合物としてフェノールを用意するのが好ましい。
【0038】
また、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物のいずれも溶解させることのできる溶媒を用意する。この溶媒は特に限定するものではないが、例えば、1.1.2−トリクロロエタン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、キシレンなどの有機溶媒を単独で、混合して使用することができる。
【0039】
次いで、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を混合し、いずれも溶解した紡糸液を調製する。なお、これら原料の混合方法は特に限定するものではない。例えば、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を同じ溶媒に溶解させて紡糸液を調製することができるし、前記1種又は2種を溶解させた溶媒を別々に調製した後、任意の割合で混ぜ合わせて、紡糸液を調製することもできる。
【0040】
なお、紡糸液を調製する場合、前述の通り、PESUの固形分質量100部に対して、エポキシ化合物とエポキシ反応化合物の固形分総質量が10〜50部となるように混合するのが好ましく、15〜40部となるように混合するのがより好ましく、15〜35部となるように混合するのが更に好ましく、15〜30部となるように混合するのが更に好ましく、20〜30部となるように混合するのが更に好ましい。
【0041】
また、エポキシ化合物1モル当量に対して、エポキシ反応化合物0.5〜2モル当量となるように混合するのが好ましく、0.6〜1.7モル当量となるように混合するのがより好ましく、0.7〜1.4モル当量となるように混合するのが更に好ましい。
【0042】
なお、静電紡糸法により紡糸する場合、紡糸液の導電性が不十分であると、紡糸性に劣り、繊維化するのが困難な場合があるため、このような場合には、紡糸液に塩を適量添加して、導電性を調節することもできる。
【0043】
次いで、前記紡糸液を紡糸して繊維を形成し、この繊維を集積して、前駆ポリエーテルスルホン系繊維集合体を形成することができる。この紡糸方法として、従来公知の紡糸方法を採用することができる。例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、或いは特開2011−32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などによって紡糸し、紡糸した繊維を直接、ドラムやネット上に集積して、前駆ポリエーテルスルホン系繊維集合体を形成することができる。これらの中でも静電紡糸法によれば、平均繊維径が細く(平均繊維径が2,000nm以下)、繊維径が揃っており、しかも連続した繊維を紡糸できるため好適である。
【0044】
次いで、熱処理を実施し、PESU、エポキシ化合物、及びエポキシ反応化合物を反応させ、結合させることによって、本発明のポリエーテルスルホン系繊維集合体を製造することができる。なお、本発明においては、エポキシ化合物のPESU及びエポキシ反応化合物との反応がスムーズに進行し、また、紡糸液を構成する溶媒によって溶解してしまうことがないように、紡糸液を構成する溶媒が揮発する温度以上で加熱、つまり、紡糸液を構成する溶媒の沸点以上で加熱(以下、「第1加熱」と表記することがある)した後、200℃〜400℃(より好ましくは、210℃〜350℃)で再度加熱(以下、「第2加熱」と表記することがある)して、エポキシ化合物とPESU及びエポキシ反応化合物と反応させるのが好ましい。なお、好ましい第1加熱温度は、(溶媒の沸点よりも5℃高い温度)〜(溶媒の沸点よりも30℃高い温度)であり、より好ましい第1加熱温度は、(溶媒の沸点よりも10℃高い温度)〜(溶媒の沸点よりも20℃高い温度)である。この「沸点」はJIS K5601−2−3により得られる値をいう。なお、上記温度はポリエーテルスルホン系繊維集合体表面における温度であり、熱源の温度が上記温度範囲を外れていても良い。
【0045】
また、第1加熱の時間は充分に溶媒が揮発する時間であれば良く、特に限定するものではないが、1〜60分であるのが好ましく、3〜50分であるのがより好ましく、5〜40分であるのが更に好ましい。一方、第2加熱の時間は充分に結合が進行する時間であれば良く、特に限定するものではないが、1分以上であるのが好ましく、3分以上であるのがより好ましく、5分以上であるのが更に好ましい。他方で、あまり長時間加熱しても結合が進行しないため、1時間以内であるのが好ましく、45分以内であるのがより好ましい。
【0046】
なお、必要であれば、ポリエーテルスルホン系繊維集合体が各種用途に適合するように、各種後処理を実施することができる。例えば、カレンダー処理などを実施することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜3、比較例1〜6)
<PESUの用意>
下記(6)の構造単位を有する、末端に水酸基を有するPESU−A[住友化学株式会社製、スミカエクセル(登録商標)、品番:PES5003、水酸基量:100重合繰り返し単位あたり0.6〜1.4の量で水酸基を末端に有する]と、(6)の構造単位を有する、水酸基を有しないPESU−B[住友化学株式会社製、スミカエクセル(登録商標)、品番:PES5200]とを用意した。
【0049】
【化6】
【0050】
<エポキシ化合物の用意>
エポキシ化合物としてノボラック型エポキシ樹脂を用意した。
【0051】
<エポキシ反応化合物の用意>
エポキシ反応化合物として、フェノールを用意した。
【0052】
<紡糸液の調製>
ジメチルアセトアミド(沸点:165℃)を溶媒とし、PESU、エポキシ化合物及びエポキシ反応化合物を表1に示す組合せで混合し、溶解させた紡糸液を調製した。
【0053】
【表1】
#1:A・・PESU−A
B・・PESU−B
#2:(エポキシ化合物)対(フェノール)のモル当量比
−・・混合せず
1:0・・エポキシ化合物のみ混合
0:1・・フェノールのみ混合
#3:PESUの固形分質量100部に対するエポキシ化合物とフェノールの固形分総質量
−・・混合せず
【0054】
<ポリエーテルスルホン系繊維集合体の製造>
実施例1〜3又は比較例1〜6の紡糸液を用い、下記の静電紡糸条件により紡糸した前駆PESU連続繊維を、ドラム上に集積させて前駆PESU連続繊維集合シートを形成した後、表2で示す条件で第1熱処理及び第2熱処理を実施して、PESU、エポキシ化合物及びフェノールを結合し、表2で示すような平均繊維径及びジメチルアセトアミド溶液に対する質量減少率を有する、PESU連続繊維からなる不織布状シートを製造した。
【0055】
<静電紡糸条件>
・電極:金属ノズル(内径:0.33mm)とステンレスメッシュ
・ノズルからの吐出量:1g/時間
・ノズル先端とドラムとの距離:10cm
・紡糸空間内の温湿度:25℃/30%RH
【0056】
【表2】
#1:未処理
#2:第1熱処理により溶解したため未測定
#3:第1熱処理によりフィルム化したため未測定
【0057】
実施例1と比較例1、3、4との比較から、PESU、エポキシ化合物及びエポキシ反応化合物とが結合していることによって、耐溶剤性に優れていることがわかった。
【0058】
また、実施例1と比較例5との比較から、水酸基を有するPESUが結合していることによって、耐溶剤性に優れていることがわかった。
【0059】
更に、実施例3と比較例6との比較から、第1熱処理を実施した後に、200℃〜400℃で第2熱処理を実施することによって、耐溶剤性に優れるPESU繊維集合体を製造できることがわかった。
【0060】
更に、実施例1と比較例2との比較から、PESUの固形分質量100部に対するエポキシ化合物とフェノールの固形分総質量が40部未満であると、耐溶剤性に優れるPESU繊維集合体を製造できることがわかった。
【0061】
更に、実施例1と実施例2との比較から、第2熱処理温度が高い方が、耐溶剤性により優れるPESU繊維集合体を製造できることがわかった。
【0062】
更に、実施例1と実施例3との比較から、PESUの固形分質量100部に対するエポキシ化合物とフェノールの固形分総質量が20部を超える量であると、耐溶剤性により優れるPESU繊維集合体を製造できることがわかった。