特許第6483527号(P6483527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483527
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】養鶏方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/75 20160101AFI20190304BHJP
   A23K 10/00 20160101ALI20190304BHJP
   A23L 15/00 20160101ALI20190304BHJP
【FI】
   A23K50/75
   A23K10/00
   A23L15/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-105509(P2015-105509)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-214191(P2016-214191A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501398488
【氏名又は名称】有限会社マシン・メンテナンス・サービス
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 祥光
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
【審査官】 後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−222530(JP,A)
【文献】 特開平10−323159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/00−50/10;50/20−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初卵を生んだ後の採卵用の鶏に、脱気処理を行った水を2ヶ月以上に亘って与えつつ養鶏を行うことにより、前記鶏が産卵する鶏卵のコレステロールの含有量が通常卵に比べて7%以上抑えられた前記鶏卵を前記鶏から産卵させることを特徴とする養鶏方法。
【請求項2】
前記脱気処理を行った水は、脱気後の溶存気体濃度が0.5ppm〜2.5ppmとされていることを特徴とする請求項1に記載の養鶏方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵を産卵する鶏の養鶏方法、特にコレステロールの含有量が抑えられた卵を産卵させることができる養鶏方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、人間の生体膜を構成する有機化合物の一つであり、人間が正常な細胞機能を発揮し続けるために必要なものである。このコレステロールは、一部は人間の皮膚や肝臓などで生合成され、残りは食品から吸収される。
例えば、コレステロールが含まれた食品には、鶏、牛、豚などの肉の他、レバーなどの内臓、イクラや筋子のような魚卵などが挙げられるが、特にコレステロールが多い食品として鶏卵(卵黄)がよく知られている。
【0003】
ところで、食品から摂取されるコレステロールの量が適量を超えると、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患リスクが上昇すると言われている。そのため、梗塞性の疾患を患う者やその虞がある者にとっては、鶏卵は摂取量に注意が必要な食品となっており、気軽に嗜好できる食品ではなかった。
このような鶏卵に含まれる成分を、養鶏方法の面から改善した技術として、特許文献1に示すようなものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、養鶏時に鶏に与える鶏用飲用水に中性電解水を用いることで、鶏卵中に含まれるビタミンなどの成分の濃度を増加できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−155861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1は、ビタミンなどの成分の濃度が増加した鶏卵を得るものであり、鶏卵中のコレステロールの濃度を下げられるものではなく、梗塞性の疾患を患う者やその虞がある者にとって鶏卵を気軽に嗜好できるようにするものとはなっていない。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、鶏からコレステロールの含有量が抑えられた鶏卵を産卵させることができ、梗塞性の疾患を患う者やその虞がある者が気兼ねなく利用可能な鶏卵を生産することができる養鶏方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の養鶏方法は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の養鶏方法は、採卵用の鶏に、脱気処理を行った水を与えつつ養鶏を行うことにより、前記鶏の生育を促進すると共にコレステロールの含有量が抑えられた鶏卵を前記鶏から産卵させることを特徴とする。
なお、好ましくは、前記脱気処理を行った水は、脱気後の溶存酸素濃度が0.5ppm〜2.5ppmとされているとよい。
【0008】
なお、好ましくは、前記脱気処理を行った水は、脱気後の溶存酸素濃度が0.5ppm〜2.5ppmとされているとよい。
なお、好ましくは、前記脱気処理を行った水を与えて養鶏を行った期間が1ヶ月以上とされているとよい。
なお、好ましくは、前記鶏卵は、脱気処理を行っていない水を用いて養鶏した鶏が産卵した通常卵に比して、コレステロールの含有量が7%以上低減されているとよい。
また、本発明に係る養鶏方法の最も好ましい形態は初卵を生んだ後の採卵用の鶏に、脱気処理を行った水を2ヶ月以上に亘って与えつつ養鶏を行うことにより、前記鶏が産卵する鶏卵のコレステロールの含有量が通常卵に比べて7%以上抑えられた前記鶏卵を前記鶏から産卵させるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の養鶏方法によれば、鶏からコレステロールの含有量が抑えられた鶏卵を産卵させることができ、梗塞性の疾患を患う者やその虞がある者が気兼ねなく利用可能な鶏卵を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の養鶏方法を実施可能とする養鶏システムを示した図である。
図2】本実施形態の養鶏システムに用いられる脱気装置を示した図である。
図3】本実施形態の養鶏方法で1ヶ月養鶏した鶏の鶏卵と、水道水で1ヶ月養鶏した鶏の鶏卵とについて、卵黄中のコレステロール濃度を養鶏の群ごとに比較した図である。
図4】本実施形態の養鶏方法で2ヶ月養鶏した鶏の鶏卵と、水道水で2ヶ月養鶏した鶏の鶏卵とについて、卵黄中のコレステロール濃度を養鶏の群ごとに比較した図である。
図5】本実施形態の養鶏方法で3ヶ月養鶏した鶏の鶏卵及び市販の鶏卵について、卵黄中のコレステロール濃度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の養鶏方法の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
本発明の養鶏方法は、採卵用の鶏に、脱気水を与えつつ養鶏を行うというものであり、それにより鶏からコレステロールの含有量が抑えられた鶏卵(以降、低コレステロール卵という)を産卵させるものとなっている。
この採卵用の鶏には、白色レグホンのような白玉鶏として一般的な種類のものから、ロードアイランドレッド、白色プリマスロック、アローカナのような種類のもの、さらには比内地鶏、名古屋コーチン、烏骨鶏のような卵肉兼用種のものを用いることができる。また、採卵用の鶏には、既に卵を産んでいる鶏の他、まだ初卵を産んでいない鶏も含めることができる。
【0012】
この脱気水は、水道水などに含まれる溶存気体を取り除いたものである。例えば、溶存気体には酸素の他、地球上の大気に含まれる窒素やアルゴンなどのガスが含まれる。また,水道水においては消毒の目的で加えられた残留塩素を除くことができる。そして、脱気水は、本実施形態では図2に示すような脱気装置2を用いて脱気を行い、脱気後の溶存気体濃度が低減されたものが用いられている。具体的には、脱気水は、溶存酸素濃度が0.5ppm〜2.5ppmとされており、水道水に溶け込んでいた気体の少なくとも70%以上、好ましくは75%以上が脱気されている。つまり、脱気を行わない水道水の溶存酸素濃度は一般的には7ppm以上、発明者によっても8.4ppm程度の溶存酸素濃度が確認されている。このような水道水を脱気することで、脱気装置2による脱気を行うことで溶存酸素濃度は0.5ppm〜2.5ppmまで低減される。例えば、出願人が実際の脱気装置2を用いて溶存酸素濃度を計測した場合、水道水の9.6ppmに対して、脱気水の溶存酸素濃度は0.53ppmとなっており、脱気による溶存酸素の低減効果が確認されている。
【0013】
また、脱気装置2による脱気を行うと、副次的な効果として水道水中に含まれる遊離型残留塩素が除去される。そこで、この遊離型残留塩素についても、水道水と脱気水の双方に対して濃度測定を行った。具体的には、第16改正の日本薬局方「さらし粉」の定量法を参考にし、適宜条件を変更し容量分析法により行っている。つまり、試料20mlに希塩酸10mL及びヨウ化カリウム2gを加え、さらに指示薬としてデンプン試液3mLを加えたものを、0.002mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準液(F=1.027)を用いて滴定して、水道水及び脱気水中の遊離型残留塩素の濃度を測定した。この測定を第1測定とした場合に、時間を変えて第2測定も行った。
【0014】
第2測定は、試料50mlに希塩酸10mL及びヨウ化カリウム2gを加え、さらに指示薬としてデンプン試液5mLを加えたものを、0.002mol/Lのチオ硫酸ナトリウム標準液(F=1.027)を用いて滴定して、水道水及び脱気水中の遊離型残留塩素の濃度を測定した。
上述した第1測定では、水道水に残留塩素が4.0(mg/L Cl2)が検出されたのに対して、脱気水では残留塩素が2.0(mg/L Cl2)と大幅に低くくなっており、脱気を行うことで水道水中の溶存塩素の濃度が大きく低減されることがわかる。
【0015】
また、第1測定とは計測を行う時間(時刻)が異なる第2測定では、水道水に残留塩素が1.2(mg/L Cl2)が検出されたのに対して、脱気水では残留塩素が検出限界以下まで大幅に低くくなっており、第1測定と同様に脱気を行うことで水道水中の溶存塩素の濃度が大きく低減されることがわかる。
この脱気水を鶏に与える方法としては、脱気装置2で脱気された脱気水を一時的に脱気水タンク3に貯留しておき、脱気水タンク3から鶏飼育ケージ4に送り、給水ニップル13を介して鶏に与えるのが好ましい。この給水ニップル13は、後述するように脱気水が再び大気に触れることを防止可能となっており、脱気水を鶏に与える方法として好適に用いることができる。
【0016】
なお、養鶏システム1が小規模であるなどの理由から脱気装置2が導入できない場合は、予め脱気された脱気水を柔軟な合成樹脂製のパウチなどに入れておき、パウチの口に給水ニップル13などを取り付けておけば、パウチから鶏に脱気水を直接与えることも可能である。
上述した脱気水を鶏に与える期間は、少なくとも1ヶ月以上、好ましくは2ヶ月以上とされるのが良い。これらの期間に亘って、脱気水を与えられた鶏は、活性酸素の影響をあまり受けずに健全に生育し、健全に生育した鶏からコレステロールの含有量が明らかに抑えられた低コレステロール卵が得られる。なお、脱気水を鶏に与える期間としては、上述した1ヶ月を目安として示しているが、1ヶ月を下回る期間、例えば数日〜1ヶ月であっても、低コレステロール卵を得ることはできる。
【0017】
低コレステロール卵は、鶏卵に含まれるコレステロールの含有量が低減されたものである。具体的には、低コレステロール卵に含まれるコレステロールの含有量は、水道水を用いて養鶏した通常の鶏が産卵した通常卵の81〜89%となっており、コレステロールの含有量が通常卵に比べて7%以上、好ましくは8%〜30%、さらに好ましくは12%〜18%まで低減したものとなっている。
【0018】
上述した養鶏方法を用いた場合の作用効果を、実験データを用いて、更に詳しく以降に説明する。
まず、上述したような脱気装置2で脱気を行った脱気水を、鶏飼育ケージ4内に収容された5000羽〜8000羽を1群とするの鶏に与えつつ養鶏を行った。実験を行った鶏の群は全部で5群であり、それぞれの群に属する鶏に関しては養鶏の開始日や養鶏場所、さらには養鶏対象の鶏の種類を変化させて養鶏を行った。
【0019】
養鶏に用いた鶏群のうち、第1群については、養鶏開始後1ヶ月目、2ヶ月目及び3ヶ月目に、鶏卵の黄卵に含まれるコレステロール濃度を卵1個ごとにコレステロールオキシダーゼ・DAOS法に基づく比色法を用いて分析した。また、第2群については、養鶏開始後1ヶ月目及び2ヶ月目に同じ比色法を用いてコレステロール濃度を分析した。さらに、第3群及び第4群については、養鶏開始後1ヶ月目のコレステロール濃度のみを比色法で分析した。さらにまた、第5群については、第1群〜第4群とは異なる養鶏場で、異なる種類の鶏(卵肉兼用種の地鶏)を3ヶ月間に亘り養鶏し、養鶏された卵に対してコレステロール濃度を分析している。
【0020】
なお、上述した各群の鶏に対して、それぞれの群の養鶏開始日と同日から水道水を与えて養鶏を開始した鶏も用意した。これらの鶏が産卵した鶏卵についても、比較のために鶏卵の黄卵に含まれるコレステロール濃度を分析した。
第1群〜第4群のそれぞれに対して、養鶏開始後1ヶ月目の鶏卵に含まれるコレステロール濃度を、脱気水を用いて養鶏を行ったものと、水道水を用いて養鶏を行ったものとの間で比較した。1ヶ月目の鶏卵で比較した結果を、図3に示す。
【0021】
また、第1群及び第2群のそれぞれに対して、養鶏開始後2ヶ月目の鶏卵に含まれるコレステロール濃度を、さらに第1群に対しては、養鶏開始後3ヶ月目の鶏卵に含まれるコレステロール濃度についても、脱気水を用いて養鶏を行ったものと、水道水を用いて養鶏を行ったものとの間で比較した。2ヶ月目の鶏卵で比較した結果を図4(a)、図4(b)に、また3ヶ月目の鶏卵で比較した結果を図4(c)に示す。
【0022】
さらに、市販の鶏卵との間で比較した結果を図5(a)に、また上述した第5群におけるコレステロール濃度の結果を図5(b)示した。
なお、黄卵中のコレステロール濃度の計測に用いた「コレステロールオキシダーゼ・DAOS法に基づく比色法」とは、黄卵中に含まれるコレステロールエステル類にコレステロールエステラーゼを作用させてコレステロールを遊離し、遊離したコレステロールにコレス
テロールオキシダーゼを作用させて過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素にペルオキシダーゼ(POD)を作用させることで青色の色素を生成させるものとなっている。このようにして得られた青色の色素の強さを、吸光光度計(BIO-RAD社製)を用いて吸光度として計測する。なお、コレステロール濃度が既知の試料を用いて検量線を予め作成しておけば、黄卵中のコレステロール濃度を高精度に計測することができる。
【0023】
図3を見ると、養鶏開始後1ヶ月目で、脱気水を用いて養鶏した鶏の鶏卵を示す「Degassed water」の方が、水道水を用いて養鶏した鶏の鶏卵を示す「Normal water」の結果よりも、コレステロール濃度が低くなっていることがわかる。
例えば、第1群の鶏卵の場合であれば、「Degassed water」に属する5つの計測値の中央値(median)を求めると1204mg/mLとなり、「Normal water」に属する5つの計測値の中央値(median)を求めると1377mg/mLとなって、両者の間には12.6%程度の差があることがわかる。このようなコレステロール濃度の差は、第2群〜第4群の全てに対して存在しており、第2群で16.4%、第3群で17.8%、第4群で8.9%となっている。
【0024】
さらに、「Degassed water」の計測値と、「Normal water」の計測値との差が有意差であるかどうかを判断するために、有意差5%でマン・ホイットニーのU検定を行うと、いずれの群の鶏卵でもP値は5%未満となる。このことから、統計的に見ても「Degassed water」のコレステロール濃度は「Normal water」のコレステロール濃度より小さいと判断することができる。
【0025】
また、図4(a)及び図4(b)を見ると、養鶏開始後2ヶ月目でも、脱気水を用いて養鶏した鶏の鶏卵を示す「Degassed water」の方が、水道水を用いて養鶏した鶏の鶏卵を示す「Normal water」の結果よりも、コレステロール濃度が低くなっていることがわかる。
例えば、第1群の鶏を2ヶ月に亘って養鶏して得られた鶏卵の場合であれば、5000羽〜8000羽の鶏が産卵した鶏卵から無作為に選ばれた10個の計測値の中央値で比較しても「Normal water」の1199mg/mLに対して「Degassed water」は996.0mg/mLとなり、両者の間には16.9%程度の差があることがわかる。このようなコレステロール濃度の差は、第2群の鶏を2ヶ月に亘って養鶏して得られた鶏卵に対しても存在しており、第2群でのコレステロール濃度の差は13.4%となっている。
【0026】
さらに、有意差5%でマン・ホイットニーのU検定を行った場合には、P値はいずれの群の鶏卵でも5%未満となり、統計的に見ても「Degassed water」のコレステロール濃度は「Normal water」のコレステロール濃度より小さいと判断することができる。
さらに、図4(c)を見ると、養鶏開始後1ヶ月目及び養鶏開始後2ヶ月目と同様な結果が養鶏開始後3ヶ月目の鶏卵に対して得られている。つまり、第1群の鶏を2ヶ月に亘って養鶏して得られた鶏卵から無作為に選ばれた10個の鶏卵に対して、計測値の中央値で比較すると、「Normal water」の1150mg/mLに対して「Degassed water」は1014mg/mLとなり、両者の間には11.8%程度の差があることがわかる。
【0027】
また、図5(a)に示すように、脱気水を用いて3ヶ月目まで養鶏した鶏の鶏卵と、市販の鶏卵とを比較した場合にも、計測値の中央値で比較すると、「Normal water」の1213mg/mLに対して「Degassed water」は1014mg/mLとなり、両者の間には16.4%程度の差があることがわかる。さらに、図5(b)に示すように、第1群から第4群とは異なる場所にある養鶏場にて、異なる種類の鶏が産卵した鶏卵で比較した場合にも、計測値の中央値で比較すると、両者の間には25.5%程度の差がある。
【0028】
さらに、有意差5%でマン・ホイットニーのU検定を行った場合には、P値はいずれの群の鶏卵でも5%未満となり、統計的に見ても「Degassed water」のコレステロール濃度は「Normal water」のコレステロール濃度より小さいと判断することができる。
以上のことから、水道水を用いて養鶏した通常の鶏が産卵した通常卵に比べて、本発明の養鶏方法を用いて養鶏した鶏から得られる低コレステロール卵では、コレステロールの含有量が通常卵に比べて7%以上、好ましくは8%〜30%、さらに好ましくは12%〜18%まで低減させることができると判断される。特に、一般に市販されている鶏卵に比べて、本発明の養鶏方法を用いて養鶏した鶏から得られる低コレステロール卵では、コレ
ステロールの含有量が通常卵に比べて16%程度まで低減させることができると判断される。また、脱気水を与えて養鶏を行う期間としては、最低でも数日〜1ヶ月以上、好ましくは2ヶ月以上、さらに好ましくは3ヶ月以上とするのが良いと考えられる。つまり、本発明の養鶏方法によれば、鶏からコレステロールの含有量が抑えられた低コレステロール卵を産卵させることができ、梗塞性の疾患を患う者やその虞がある者が気兼ねなく利用可能な鶏卵を生産することができる。
【0029】
なお、上述した本発明の養鶏方法を実際に行う際には、次のような養鶏システム1を利用することができる。以降では、本発明の養鶏方法を実施するための養鶏システム1を、具体的な装置を例示して説明する。
図1は、本実施形態の養鶏方法が行われる養鶏システム1を模式的に示したものである。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の養鶏システム1は、水道水(上水)に含まれる溶存気体を除去する脱気装置2と、脱気装置2で脱気された脱気水を貯留する脱気水タンク3と、脱気水タンク3に貯留された脱気水を複数の鶏飼育ケージ4に流通させる脱気水配管5と、を備えている。
次に、養鶏システム1を構成する脱気装置2、脱気水タンク3、脱気水配管5、及び鶏飼育ケージ4について簡単に説明する。
【0031】
図2に示すように、脱気装置2は、水道水に含まれる溶存気体、特に溶存酸素を取り除くものであり、中空糸膜モジュール6へ水を通し、この中空糸膜モジュール6内の中空糸まわりを真空ポンプ7で引いて負圧化させ、もって脱気させる構成とされている。具体的には、脱気装置2は、収納ケース8の内側に、液体中の気体を分離通過させる中空糸を多数本有する中空糸膜モジュール6と、中空糸膜モジュール6内の通水状況を検出する水流センサ9と、中空糸膜モジュール6に接続され水流センサ9による通水検出動作に基づいて起動し止水検出動作に基づいて停止する乾式の真空ポンプ7と、を備えている。また、脱気装置2には、中空糸膜モジュール6と真空ポンプ7との接続通路途中に設けられたドレン部10と、ドレン部10に連結された排水弁11と、中空糸膜モジュール6の給水部から乾式真空ポンプ7までの接続間で流路順方向から側部突出状に設けられて乾式真空ポンプ7の起動時に暫時解放しその後自動閉鎖する開閉弁12と、が設けられている。
【0032】
つまり、脱気装置2は、溶存気体が含まれた水道水を、中空糸膜モジュール6内に収容された複数本の中空糸内に導き、乾式真空ポンプ7を用いて中空糸の周囲を負圧化することで、水道水に含まれる溶存気体を取り除く構成となっている。このようにして溶存気体が取り除かれた水道水は、脱気水として脱気水配管5を通って脱気水タンク3に送られる。
【0033】
脱気水タンク3は、脱気装置2で脱気された脱気水を貯留する容器であり、容器外から容器の内部に大気が入らないように気密性のある容器とされている。また、脱気水配管5は、脱気水タンク3の脱気水を鶏飼育ケージ4に通水するものであり、脱気水タンク3と同様に配管内に大気が侵入しないように気密性のある構造とされている。この脱気水配管5の先端には、大気に触れさせることなく脱気水を鶏に与える給水ニップル13が設けられている。
【0034】
給水ニップル13は、分岐した先端には脱気水配管5を通じて流れてきた脱気水を、大気に触れさせることなく鶏に与えるものである。給水ニップル13は、下方に向かって突出するように垂下したニップル先端を鶏が突くことで給水を行う構造となっており、脱気水を大気に直接触れさせることなく鶏に給水することが可能となっている。そのため、脱気水が再び大気に触れて大気中の酸素などが脱気水に溶け込むことを予防できる。
【0035】
鶏飼育ケージ4は、上下左右前後の6面を金属製の格子で覆われた容器(バタリーケージ)であり、養鶏する鶏1羽ごとに用意されている。この鶏飼育ケージ4は、水平方向に複数並ぶと共に上下方向に複数段に亘って設けられており、それぞれの内部に鶏を収容して数千羽の鶏の養鶏を行うことが可能となっている。
上述した養鶏システム1を用いれば、脱気装置2で脱気されると共に残留塩素を除去された脱気水を大気に接触させることなく効率的に鶏飼育ケージ4の鶏に届けることができ
、脱気水を安定して与えつつ養鶏を行うことができる。
【0036】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0037】
1 養鶏システム
2 脱気装置
3 脱気水タンク
4 鶏飼育ケージ
5 脱気水配管
6 中空糸膜モジュール
7 真空ポンプ
8 収納ケース
9 水流センサ
10 ドレン部
11 排水弁
12 開閉弁
13 給水ニップル
図1
図2
図3
図4
図5