(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仮設免震装置が、前記下部構造体と前記上部構造体との間に前記ジャッキと直列に配置され、前記既設の免震装置又は前記新たな免震装置と同じ水平剛性及び減衰性を有するように調整された制振機能付きゴム支承を含むことを特徴とする請求項1に記載の免震装置の交換方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載の発明では、ジャッキにより持ち上げられている部分が水平方向に移動可能であることにより免震状態は維持されるが、ジャッキにより持ち上げられている間、当該部分の免震性能は変化してしまう。つまり、免震装置は、水平剛性(元の位置に復元させる能力)と制振性(減衰性能或いは減衰力)という2つの特性を有しており、これら2つの性能をステンレス板のような滑動部材に発揮させることはできない。従って、建物全体としての免震性能は設定値或いは期待値と異なることとなり、危険な状態であることに変わりはない。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑み、免震性能を変化させることなく安全に免震装置を交換できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明は、下部構造体(1L)と上部構造体(1U)との間に介装された免震装置(10)の交換方法であって、前記下部構造体(1L)と前記上部構造体(1U)との間における交換すべき既設の免震装置(10A)の周辺に、当該既設の免震装置(10A)又は設置すべき新たな免震装置(10B)と同じ水平剛性を有するように調整された仮設免震装置(15)及びジャッキ(16)を配置するステップと、前記ジャッキ(16)を伸長させて前記上部構造体(1U)を前記ジャッキ(16)に支持させるステップと、前記上部構造体(1U)が前記ジャッキ(16)により支持された状態で前記既設の免震装置(10A)を取り外した後、前記新たな免震装置(10B)を設置するステップと、前記仮設免震装置(15)及び前記ジャッキを取り外し、前記上部構造体(1U)を前記新たな免震装置(10B)に支持させるステップとを備える構成とする。
【0008】
ここで、「同じ水平剛性を有するように調整された」とは、水平剛性を示す値が同一の値になっていることを意味するものではなく、調整されることによって水平剛性を示す値が同程度の値(例えば、±5%や±10%、±20%等)になっていることを意味する。
【0009】
この構成によれば、交換すべき免震装置と同じ水平剛性に調整された仮設免震装置及びジャッキを用いて上部構造体を持ち上げるため、免震装置の交換作業中にも交換する免震装置と同じ水平剛性(免震性能)を確保することができる。従って、安全に免震装置を交換できる。
【0010】
また、上記の発明において、前記仮設免震装置(15)が、前記下部構造体(1L)と前記上部構造体(1U)との間に前記ジャッキ(16)と直列に配置され、前記既設の免震装置(10A)又は前記新たな免震装置(10B)と同じ水平剛性及び減衰性を有するように調整された制振機能付きゴム支承(17)を含む構成とするとよい。
【0011】
この構成によれば、水平剛性及び減衰性の調整が比較的容易なゴム支承を用いることで、仮設免震装置の免震性能及び制振性能を容易に交換すべき免震装置と同じように調整できる。また、ゴム支承とジャッキとが下部構造体と上部構造体との間に直列に配置されるため、仮設免震装置の設置スペースが小さく済む。そのため、仮設免震装置を設置するために別途工事を行う必要がなく、多くの免震建物に適用できる。
【0012】
また、上記の発明において、前記下部構造体(1L)が建物(1)の基礎部(2)であり、前記上部構造体(1U)が柱(6)及び梁(7)を有する建物(1)の階層部(3)であり、前記仮設免震装置(15)が、前記基礎部(2)及び前記梁(7)の少なくとも一方と前記ジャッキ(16)との間に介装され、前記梁の延在方向と直交する方向のみに摺動可能な転がり支承(19)を更に含む構成とするとよい。
【0013】
この構成によれば、下部構造体及び上部構造体のゴム支承が設けられた部分に捩れが生じることを防止できる。つまり、地震時にゴム支承が変形すると、ゴム支承が元の形に戻ろうとする力(復元力)が下部構造体の上面及び上部構造体の下面に作用する。これに対して本構成では、下部構造体と上部構造体との相対変位のうち、梁の延在方向と直交する方向の成分は転がり支承によって吸収されるため、ゴム支承の復元力は梁延在方向のみに発生し、上部構造体の梁が捩れることはない。一方、転がり支承が設けられたことにより、下部構造体と上部構造体とが梁直角方向に相対変位した場合、上部構造体の荷重は下部構造体における上部構造体の梁直下に加わることになる。下部構造体が階層部である場合には、この梁幅方向にオフセットした荷重によって下部構造体の梁に捩れが生じ得る。これに対して本構成では、下部構造体が基礎部であるため、地震時の相対変位によって基礎梁における梁幅方向にオフセットした位置に上部構造体の荷重が加わっても基礎梁が捩れること、或いは捩れが問題になることはない。
【0014】
また、上記の発明において、前記仮設免震装置(15)が、前記既設の免震装置(10A)又は前記新たな免震装置(10B)と同じ水平剛性に調整され、前記下部構造体(1L)と前記上部構造体(1U)との間に前記ジャッキ(16)と直列に配置されるゴム支承(17)と、前記ゴム支承(17)と協働して前記既設の免震装置(10A)又は前記新たな免震装置(10B)と同じ減衰性を有するように調整された制振装置(22)とを含む構成とするとよい。
【0015】
この構成によれば、ゴム支承によって水平剛性を調整し、制振装置によって減衰性(減衰力)を調整することができる。そのため、仮設免震装置の免震性能(水平剛性及び減衰性)を容易に交換すべき免震装置の免震性能と同一に調整できる。
【0016】
また、上記の発明において、前記仮設免震装置(15)が、前記下部構造体(1L)及び前記上部構造体(1U)の少なくとも一方と前記ジャッキ(16)との間に介装される滑り支承(23)又は転がり支承(24)と、平面視で前記ジャッキ(16)と異なる位置に配置され、前記滑り支承(23)又は前記転がり支承(24)と協働して前記既設の免震装置(10A)又は前記新たな免震装置(10B)と同じ水平剛性及び減衰性を有するように調整されたゴム支承(17)とを含む構成とするとよい。
【0017】
この構成によれば、滑り支承又は転がり支承とゴム支承との組み合わせにより仮設免震装置の水平剛性及び減衰性を調整することができる。そのため、仮設免震装置の免震性能(水平剛性及び減衰性)を容易に交換すべき免震装置の免震性能と同一に調整できる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、免震性能を変化させることなく安全に免震装置を交換できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
≪第1実施形態≫
まず、
図1を参照して第1実施形態に係る免震装置10(10A、10B)の交換方法について説明する。ここでは、免震装置10が鉄筋コンクリート造の建物(建築物)に適用された例、即ち免震建物1における交換方法について説明する。免震装置10が適用される構造物は、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物であってもよく、土木構造物や他の構造物であってもよい。また、ここでは、免震装置10が免震建物1の基礎2の上に設置され、言い換えれば基礎2と階層部をなす躯体3との間に介装され、免震装置10に対して下方にある免震建物1の下部構造体1Lが基礎2であり、免震装置10に対して上方にある免震建物1の上部構造体1Uが躯体3である例について説明する。免震装置10は、基礎2と躯体3との間だけではなく、躯体3の内部、即ち躯体3の下部(下階層部)と上部(上階層部)との間に介装されていてもよい。以下では、交換すべき(取り外すべき)既設の免震装置10を既設免震装置10Aと称し、設置するべき新たな免震装置10を新設免震装置10Bと称して区別する。両者を区別しない場合には、単に免震装置10と称する。
【0022】
図1(A)に示されるように、基礎2は、フーチング4及び基礎梁5等を有している。フーチング4の下方、即ち地盤G中に図示しない杭が設けられ、フーチング4が杭頭に接合していてもよい。また、基礎梁5は全面に一様の厚さを有する基礎版(マットスラブ)であってもよい。躯体3は、柱6と、柱6に架け渡される梁7等を有している。柱6の下端部は、免震装置10により支持される被支持部6Aとなっており、上方の柱本体部6Bよりも大きな断面とされている。柱6の被支持部6Aにも梁7が接合され、この梁7によって最下階の床スラブが支持される。既設免震装置10Aは、フーチング4と被支持部6Aとの間に介装されている。より詳しくは、フーチング4の上面に既設免震装置10Aを載置するための台座8が構築され、台座8の上に既設免震装置10Aが配置される。既設免震装置10Aは、台座8の上面に固定されると共に柱6(被支持部6A)の下面に固定されている。
【0023】
図示はしないが、免震建物1は柱6と柱6を支持するフーチング4との複数の組を有しており、それぞれの組に対して既設免震装置10Aが設けられる。免震装置10は、薄い鋼板とゴムとを交互に積層してなる積層ゴム型であり、積層ゴム部11と、積層ゴム部11の上下端に一体に設けられた上フランジ12及び下フランジ13を備えている。免震装置10は、躯体3の鉛直荷重を基礎2に伝達しつつ、地震時に躯体3と基礎2との水平方向の移動を許容することで躯体3の揺れを抑制する。また、免震装置10は、積層ゴム部11に高減衰積層ゴムが用いられることにより、或いは積層ゴム部11の内部に鉛等からなるダンパーが設けられることにより、積層ゴム部11が減衰性を発揮する(減衰力を発生させる)制振機能付きとして構成される場合は、振動エネルギーを吸収して躯体3の揺れを早期に収束させる。
【0024】
免震装置10の交換手順は以下の通りである。即ち、
図1(A)に示されるように、基礎2と躯体3との間に介装されている撤去すべき既設免震装置10Aの代わりに設置すべき新設免震装置10Bを用意する。新設免震装置10Bは、既設免震装置10Aが有する免震性能(既設免震装置10Aが劣化等している場合には、当初有していた免震性能。以下同様。)と同等の免震性能を有するものであってよい。或いは、新設免震装置10Bは既設免震装置10Aよりも高い免震性能を有してもよい。近年、構造設計において求められる外力(地震動)は過去に比べて増大する傾向にあるが、新設免震装置10Bの免震性能が高くされることにより、現在の構造設計で求められる外力にも耐え得る免震性能を確保することができる。
【0025】
また、
図1(B)に示されるように、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bの免震性能(水平剛性及び減衰力)と同じ免震性能に調整された仮設免震装置15と、仮設免震装置15と組で使用され、既設免震装置10Aが支持する柱6の荷重を受け換えるためのジャッキ16とを用意する。仮設免震装置15とジャッキ16との組は、複数組とすることが好ましく、柱6の被支持部6Aに接合する梁7の本数と同じ数とすることがより好ましい。例えば、柱6が免震建物1の内部に配置される中柱である場合には、仮設免震装置15とジャッキ16との組は4組にするとよく、柱6が免震建物1の隅部に配置される隅柱である場合には、仮設免震装置15とジャッキ16との組は2組にするとよい。
【0026】
既設免震装置10Aの周囲に配置される複数の仮設免震装置15は、免震装置10の積層ゴム部11と同様に、薄い鋼板とゴムとを交互に積層してなるゴム支承17により構成されており、それらの免震性能(水平剛性及び減衰力)の合算値が既設免震装置10Aの免震性能(水平剛性及び減衰力)と同じ値になるように調整されている。ここで、「同じ値になるように調整されている」とは、完全に同一の値になっていることを意味するものではなく、調整されることによって同程度の値(例えば、±5%や±10%、±20%等)になっていることを意味する。
【0027】
用意したゴム支承17及びジャッキ16は、上下方向に重なる状態で互いに固定され、交換すべき既設免震装置10Aの周囲に配置される。即ち、ゴム支承17及びジャッキ16は基礎2と躯体3との間に直列に配置される。図示例では、ゴム支承17が下に位置し、ジャッキ16が上に位置する配置で、ゴム支承17及びジャッキ16が基礎梁5と梁7との間に配置されている。或いは、ゴム支承17及びジャッキ16は、フーチング4と柱6(被支持部6A)との間や、フーチング4と梁7との間に配置されてもよい。
【0028】
少なくともジャッキ16を最も縮めた状態においてジャッキ16とゴム支承17とを合わせた高さが基礎梁5と梁7との隙間(上下方向の間隔)よりも小さくなるように、ジャッキ16には上下寸法が比較的小さいフラットジャッキが用いられている。基礎梁5と梁7との隙間が大きい場合には、必要に応じて鋼材や高強度コンクリート等からなる高さ調整部材18を基礎梁5と梁7との間に設け、高さ調整部材18を上下の部材の少なくとも一方に固定する。図示例では、基礎梁5に固定される高さ調整部材18にゴム支承17が載置され、梁7に固定される高さ調整部材18にジャッキ16が当接する配置となっている。
【0029】
その後、ジャッキ16を伸長させる。具体的には、高さ調整部材18を介して基礎梁5に固定されたジャッキ16を伸長させて、高さ調整部材18を介してゴム支承17と梁7とを連続させ(隙間を埋め)、ゴム支承17を梁7に固定した後に更にジャッキ16を伸長させる。これにより、
図1(A)に矢印で示されるように既設免震装置10Aに加わっている柱6の荷重が、
図1(B)に矢印で示されるようにジャッキ16に受け換えられる。
【0030】
次に、
図1(C)に示されるように、ジャッキ16及びゴム支承17が柱6の荷重を支持すると同時に、既設免震装置10Aの基礎2への固定及び躯体3への固定を解除し、既設免震装置10Aを取り外す。既設免震装置10Aの基礎2又は躯体3への固定が解除されると、地震発生時にも既設免震装置10Aの免震機能は発揮されなくなり、代わりにゴム支承17が免震機能を発揮することになる。
【0031】
ゴム支承17が免震機能を発揮し得る状態を維持したまま、
図1(D)に示されるように、用意しておいた新設免震装置10Bを既設免震装置10Aが設置されていた位置に設置する。具体的には、新設免震装置10Bを基礎2と躯体3との間、即ちフーチング4上の台座8の上に配置し、新設免震装置10Bを台座8に固定すると共に新設免震装置10Bと柱6の被支持部6Aとの隙間がなくなるまでジャッキ16を短縮させ、新設免震装置10Bを被支持部6Aに当接させた状態で被支持部6Aに固定する。
【0032】
新設免震装置10Bがフーチング4及び柱6に固定された後、速やかに
図1(E)に示されるようにジャッキ16を更に短縮させる。これにより、ジャッキ16が支持していた柱6の荷重が新設免震装置10Bに受け換えられる。
【0033】
最後に、ジャッキ16が柱6の荷重を支持していない状態で、
図1(F)に示されるように、ゴム支承17、ジャッキ16及び高さ調整部材18を撤去することで、交換すべき既設免震装置10Aの新設免震装置10Bへの交換作業が終了する。なお、梁7から基礎2間に配置される仮設免震装置15を構成するゴム支承17、ジャッキ16及び高さ調整部材18のいずれかの固定箇所を解除すると、仮設免震装置15の免震機能は発揮されなくなり、新設免震装置10Bのみが免震機能を発揮することになる。
【0034】
このように、既設免震装置10Aの周辺に、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bと同じ免震性能を有するように調整された仮設免震装置15及びジャッキ16を配置し、ジャッキ16を伸長させて躯体3を仮設免震装置15及びジャッキ16に支持させた状態で既設免震装置10Aを新設免震装置10Bに交換することにより、免震装置10の交換作業中にも交換する免震装置10と同じ免震性能を確保することができる。従って、免震建物1の安全を確保した状態で免震装置10を交換することができる。
【0035】
また、本実施形態では、仮設免震装置15が、基礎2と躯体3との間にジャッキ16と直列に配置され、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bと同じ免震性能及び減衰性を有するように調整された制振機能付きのゴム支承17を含むことにより、仮設免震装置15の水平剛性及び減衰性を、比較的容易に交換すべき免震装置10と同じように調整できる。また、仮設免震装置15とジャッキ16とが基礎2と躯体3との間に直列に配置されるため、仮設免震装置15の設置スペースが小さく済む。そのため、仮設免震装置15を設置するために別途工事を行う必要がなく、多くの免震建物1に適用できる。
【0036】
≪第2実施形態≫
次に、
図2〜
図6を参照して第2実施形態に係る免震装置10の交換方法について説明する。なお、第1実施形態と形態又は機能が同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。以下の実施形態においても同様とする。
【0037】
図2は、
図1中の(C)に対応しており、ジャッキ16及び仮設免震装置15が柱6の荷重を支持し、既設免震装置10Aが取り外された状態を示している。
図2に示されるように、本実施形態では、仮設免震装置15が、基礎2とジャッキ16との間に介装された制振機能付きのゴム支承17に加え、ゴム支承17の下方に配置された、即ち基礎2とジャッキ16との間に介装された転がり支承19を有している。
【0038】
図3に併せて示されるように、転がり支承19は、互いに平行に延在する基礎梁5及び梁7の延在方向と直交する方向(
図3中の矢印方向)に設けられたリニアレール20と、転がり軸受を備えてリニアレール20に摺動自在に係合するリニアブロック21とを有している。つまり、転がり支承19は梁7の延在方向と直交する方向のみに摺動(リニアレール20とリニアブロック21との相対変位が)可能となっている。
【0039】
リニアレール20は基礎梁5上に配置されて基礎梁5に固定されている。リニアブロック21の上面には、ゴム支承17の下端フランジが固定されている。
図4に併せて示されるように、ゴム支承17の上端フランジは、ジャッキ16(
図2)を介して梁7に固定されている。従って、
図5に示されるように、ゴム支承17及び転がり支承19が設置される部分の基礎梁5と梁7とがそれらの延在方向と直交する方向に相対変位した場合の相対変位は、転がり支承19の摺動によって許容される。一方、
図6に示されるように、ゴム支承17及び転がり支承19が設置される部分の基礎梁5と梁7とがそれらの延在方向に相対変位した場合の相対変位は、ゴム支承17の変形により許容される。
【0040】
例えば、地震時に基礎2が躯体3に対して
図5に示されるように梁7の延在方向と直交する方向に動いた場合には、転がり支承19が摺動するだけでゴム支承17は変形せず、基礎2が躯体3に対して
図6に示されるように梁7の延在方向に動いた場合には、ゴム支承17が変形するだけで転がり支承19は摺動しない。梁7の延在方向及びこれに直交する方向の複合的な方向への動きが発生すると、転がり支承19が摺動すると共にゴム支承17が変形する。
【0041】
仮設免震装置15がこのように構成されていても、第1実施形態と同様に免震建物1の安全を確保した状態で免震装置10を交換することができる。また、仮設免震装置15が、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bと同じ免震性能及び減衰性を有するように調整された制振機能付きのゴム支承17を含むことによって第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
ところで、ゴム支承17が変形した場合、元の形に戻ろうとするゴム支承17の復元力が基礎梁5の上面及び梁7の下面に作用する。この復元力は、作用線が梁7の重心からオフセットしているためにモーメントになり得、梁7に捩れが生じ得る。本実施形態では、
図5に示されるように、基礎2と躯体3との相対変位のうち、梁7の延在方向と直交する方向の成分は転がり支承19によって吸収されるため、ゴム支承17が梁7の延在方向と直交する方向に変形するとことはない。そのため、ゴム支承17の復元力は、
図6に示される梁7の延在方向のみに発生し、梁7が捩れることはない。
【0043】
一方、転がり支承19が設けられたことにより、
図5に示される基礎2に対して梁7の延在方向と直交する方向に相対変位した躯体3の荷重は、基礎2における梁7の直下に加わることになる。下部構造体1Lの下端部が免震建物1の下階層部である場合には、このオフセットした荷重によって下階層部の梁7に捩れが生じ得る。これに対して本実施形態では、下部構造体1Lが基礎2であるため、地震時における基礎2と躯体3との相対変位によって基礎梁5における重心から梁幅方向にオフセットした位置に躯体3の荷重が加わっても基礎梁5が捩れること、或いは捩れが問題になることはない。
【0044】
≪第3実施形態≫
次に、
図7を参照して第3実施形態に係る免震装置10の交換方法について説明する。
【0045】
本実施形態では、仮設免震装置15が、基礎梁5と梁7との間に上下方向に重なるように直列配置されたゴム支承17及びジャッキ16を備えることに加え、基礎梁5と梁7とを連結するように設けられた制振装置22とを有している。ゴム支承17は、薄い鋼板とゴムとを交互に積層してなる積層ゴム型であり、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bの水平剛性と同じ水平剛性に調整されている。一方、本実施形態のゴム支承17は減衰性を発揮しない(即ち、天然ゴム系積層ゴムが用いられる)、或いは減衰性を発揮するが減衰力が不足する(即ち、高減衰積層ゴムが用いられる、或いは内部に鉛等からなるダンパーが設けられる)構成とされている。ゴム支承17の代わりに或いは不足分について、制振装置22が減衰性を発揮する。
【0046】
制振装置22は、図示されるように鉛等からなるダンパー(図中右側の制振装置22)により構成されてもよく、U型に加工した鋼棒を利用したダンパー(図中左側の制振装置22)により構成されてもよい。また、ケース内に封入した粘性流体のせん断抵抗を利用したダンパーを用いてもよい。そして制振装置22は、ゴム支承17と協働して、既設免震装置10A又は新設免震装置10Bの減衰力と同じ減衰力を発揮するように調整されている。ここで、「ゴム支承17と協働して」とは、ゴム支承17の減衰力との合算値を基準とすることを意味し、ゴム支承17が減衰性を発揮しない場合に単独の減衰力を基準とすることを含む。
【0047】
仮設免震装置15がこのように構成されていても、第1実施形態と同様に免震建物1の安全を確保した状態で免震装置10を交換することができる。また、仮設免震装置15が、ゴム支承17とは別に制振装置22を備えることにより、ゴム支承17によって水平剛性を調整し、制振装置22によって減衰力を調整することができるため、仮設免震装置15の免震性能(水平剛性及び減衰性)を容易に交換すべき免震装置10の免震性能と同一に調整することができる。
【0048】
≪第4実施形態≫
最後に、
図8を参照して第4実施形態に係る免震装置10の交換方法について説明する。
【0049】
本実施形態では、仮設免震装置15が、基礎梁5と梁7との間に上下方向に重なるように直列配置されたジャッキ16と滑り支承23との組み合わせ、又はジャッキ16と転がり支承24との組み合わせとを備えている。滑り支承23及び転がり支承24は、対応するジャッキ16に対して下方に配置されても上方に配置されてもよい。図示例では、右側の仮設免震装置15では、滑り支承23がジャッキ16の下方(ジャッキ16と基礎梁5との間)に配置され、左側の仮設免震装置15では、転がり支承24がジャッキ16の上方(ジャッキ16と梁7との間)に配置されている。
【0050】
また、仮設免震装置15は、平面視でジャッキ16と異なる位置において、基礎梁5と梁7との間に上下方向に重なるように直列配置された2つのゴム支承17、17を更に備えている。直列配置されたゴム支承17、17は、対応する滑り支承23又は転がり支承24と協働して、第1実施形態と同様に、それらの免震性能(水平剛性及び減衰力)の合算値が既設免震装置10A又は新設免震装置10Bの免震性能と同じ値になるように調整されている。
【0051】
仮設免震装置15がこのように構成されていても、第1実施形態と同様に免震建物1の安全を確保した状態で免震装置10を交換することができる。また、仮設免震装置15が、基礎2及び躯体3の少なくとも一方とジャッキ16との間に介装される滑り支承23又は転がり支承24と、既設免震装置10Aの免震性能(水平剛性及び減衰力)と同じ値になるように調整されたゴム支承17とを備えることにより、滑り支承23又は転がり支承24とゴム支承17との組み合わせにより仮設免震装置15の水平剛性及び減衰性を調整することができる。そのため、仮設免震装置15の免震性能(水平剛性及び減衰性)を容易に交換すべき免震装置10の免震性能と同一に調整できる。
【0052】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。加えて、上記実施形態に示した構成要素は、適宜組み合わせてもよい。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。