(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
推定対象の装置である対象装置を制御するための制御入力値及び前記対象装置に設けられたセンサによって計測されたセンサ計測値に基づいて、センサによる計測が不可能な前記対象装置の状態量の推定値である状態推定値を出力する性能推定装置であって、
前記対象装置の非線形シミュレーションモデルを用いて、前記制御入力値に基づいて、前記状態推定値の推定誤差を調整する前の推定値である事前推定値、及び前記センサ計測値の推定値であるセンサ推定値を算出する推定部と、
前記推定部によって算出された前記センサ推定値と前記センサ計測値との誤差を算出する誤差算出部と、
前記誤差算出部によって算出された前記誤差とロバストフィルタゲインとに基づいて、前記推定部に前記事前推定値を調整させるための調整値を生成する調整部と、
を備え、
前記推定部は、前記調整部によって生成された前記調整値に基づいて、前記事前推定値を調整して前記状態推定値を算出し、算出した前記状態推定値を出力する、性能推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る性能推定装置を含む性能推定システムの概略構成を示す図である。
図1に示される性能推定システム1は、推定対象の装置である対象装置に設けられる複数のセンサによって計測されたセンサ計測値に基づいて、対象装置の状態を推定するシステムである。以下、対象装置の一例として、ガスタービンエンジンを用いて説明する。なお、時間変化する変数のある時刻kにおける値を表す場合に、当該変数を表す符号に(k)を付して説明を行う場合があるが、特定の時刻に限られず、任意の時刻において成り立つ。また、性能推定システム1の単位時間を「1」としており、括弧内の値が大きいほど時間が経過していることを示している。また、図及び数式において、各変数を表す符号にΔが付されている場合があるが、これは後述のロバストフィルタゲインKを算出した作動点における変数の値からの変化量を意味する。以下において、値及び変化量のいずれでも説明が成り立つ場合には、値を用いて説明を行うこととする。
【0015】
性能推定システム1は、ガスタービンエンジン10と、性能推定装置20と、を備えている。ガスタービンエンジン10は、例えば、車両、船舶、及び航空機等のエンジンとして用いられる。
【0016】
図2は、ガスタービンエンジン10の各要素を模式的に示す図である。
図2に示されるように、ガスタービンエンジン10は、ファン(FAN)11と、低圧圧縮機(LPC)12と、高圧圧縮機(HPC)13と、燃焼器(COMB)14と、高圧タービン(HPT)15と、低圧タービン(LPT)16と、ロータ17と、ロータ18と、を備えている。
【0017】
ファン11は、ガスタービンエンジン10の外部から空気を吸い込んで、吸い込んだ空気の一部を低圧圧縮機12に供給する。低圧圧縮機12は、ファン11から供給された空気を圧縮して圧縮空気を生成し、圧縮空気を高圧圧縮機13に供給する。高圧圧縮機13は、低圧圧縮機12から供給された圧縮空気をさらに圧縮して圧力をさらに高くして高圧空気を生成し、高圧空気を燃焼器14に供給する。燃焼器14は、高圧圧縮機13から供給された高圧空気に燃料を混ぜ合わせて燃焼する。燃焼器14は、燃焼して得られた高温高圧の燃焼ガスを高圧タービン15に供給する。
【0018】
高圧タービン15は、燃焼器14から供給された高温高圧の燃焼ガスによって回転し、ロータ18を回転させる。低圧タービン16は、高圧タービン15を通過した燃焼ガスによって回転し、ロータ17を回転させる。ロータ17は、ファン11、低圧圧縮機12及び低圧タービン16を一体的に回転可能に接続している。ロータ18は、高圧圧縮機13及び高圧タービン15を一体的に回転可能に接続している。
【0019】
図1に戻って、ガスタービンエンジン10には、複数のセンサ(不図示)が設けられている。ガスタービンエンジン10は、エンジン制御器(不図示)によって制御される。ガスタービンエンジン10は、ある時刻kにおいて、エンジン制御器から出力される制御入力値u(k)を入力し、ガスタービンエンジン10に設けられているセンサによって検知されるセンサ計測値y(k)を出力する。制御入力値u(k)は、ガスタービンエンジン10を制御するための値であり、エンジン動作条件に基づいて出力される。ガスタービンエンジン10が航空機に設けられる場合、エンジン動作条件は、高度、機速及び温度日等である。制御入力値u(k)は、燃料流量及び抽気バルブの開度等を含む。センサ計測値y(k)は、r次元であり、ガスタービンエンジン10のロータ17,18の回転数、各部における温度及び圧力を含む。
【0020】
性能推定装置20は、ガスタービンエンジン10の非線形モデル及び固定のロバストフィルタゲインKを用いたロバストフィルタによって、ガスタービンエンジン10の状態量x(k)を推定する。ロバストフィルタは、例えばH∞フィルタである。非線形モデルは、ガスタービンエンジン10ごとに予め定められた非線形のシミュレーションモデルであり、非線形関数f及び非線形関数gを用いて、後述の式(1)〜式(3)で表される。非線形関数fは、対象装置(ガスタービンエンジン10)ごとに予め定められており、内部状態量x
e(k−1)、性能パラメータ値q(k−1)及び制御入力値u(k)の関数である。非線形関数gは、対象装置ごとに予め定められており、内部状態量x
e(k)及び性能パラメータ値q(k)の関数である。内部状態量x
eは、センサ計測が不可能な状態量を含むガスタービンエンジン10内部の状態の量である。内部状態量x
eは、n
e次元のベクトルであり、各要素の回転数、各要素の内部エネルギー、各要素の空気流量、各要素のエンタルピー等を含む。性能パラメータ値qは、センサ計測が不可能なエンジン性能パラメータの値である。性能パラメータ値qは、p次元のベクトルであり、ファンの流量、ファンの効率変化、各圧縮機の流量、各圧縮機の効率変化等を含む。
【0021】
具体的には、性能推定装置20は、制御入力値u(k)及びセンサ計測値y(k)に基づいて、ガスタービンエンジン10の状態推定値x
h(k)を出力する。状態推定値x
h(k)は、ガスタービンエンジン10の状態量x(k)の推定値である。状態量x(k)は、ガスタービンエンジン10の状態量のうち、センサによる計測が不可能な状態量を含む状態量であり、後述するように、内部状態量x
e(k)と性能パラメータ値q(k)とを合わせたn(n=n
e+p)次元のベクトルである。状態推定値x
h(k)は、内部状態量x
e(k)の推定値と性能パラメータ値q(k)の推定値とを合わせたn(n=n
e+p)次元のベクトルである。
【0022】
図3は、性能推定装置20のハードウェア構成図である。
図3に示されるように、性能推定装置20は、物理的には、1又は複数のプロセッサ201、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶装置202、ハードディスク装置等の補助記憶装置203、キーボード等の入力装置204、ディスプレイ等の出力装置205、並びに、データ送受信デバイスである通信装置206等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成され得る。性能推定装置20の
図1に示される各機能は、プロセッサ201、記憶装置202等のハードウェアに1又は複数の所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、1又は複数のプロセッサ201の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、記憶装置202及び補助記憶装置203におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0023】
図1に戻って、性能推定装置20の詳細について説明する。性能推定装置20は、誤差算出部21と、調整部22と、推定部30と、を備えている。
【0024】
誤差算出部21は、ガスタービンエンジン10から出力されたセンサ計測値y(k)と推定部30によって算出されたセンサ推定値y
h(k)との誤差e(k)を算出する。この例では、誤差算出部21は、センサ計測値y(k)からセンサ推定値y
h(k)を減算し、その減算結果を誤差e(k)として調整部22に出力する。なお、センサ推定値y
h(k)は、センサ計測値y(k)の推定値である。
【0025】
調整部22は、誤差算出部21によって算出された誤差e(k)とロバストフィルタゲインKとに基づいて、誤差e(k)が小さくなるように、推定部30に事前推定値x
h−(k)を調整させるための調整値を生成する。事前推定値x
h−(k)は、状態推定値x
h(k)の推定誤差を調整する前の推定値である。具体的には、調整部22は、誤差算出部21から出力された誤差e(k)とロバストフィルタゲインKとを乗算し、その乗算結果Ke(k)を調整値として推定部30に出力する。ロバストフィルタゲインKは、推定誤差を予め定められた範囲に収めるように算出された固定値のゲインである。ロバストフィルタゲインKは、オフラインで算出され、調整部22に予め記憶されている。
【0026】
ここで、ロバストフィルタゲインKの算出方法について説明する。まず、ガスタービンエンジン10の非線形モデルが準備される。この非線形モデルは、対象装置ごとに予め定められており、ガスタービンエンジン10の非線形モデルは、以下の式(1)〜式(3)によって表される。具体的に説明すると、内部状態量x
e(k)は、式(1)に示されるように、非線形関数f及びシステム雑音v
xe(k)の和として表される。システム雑音v
xe(k)は、n
e次元のベクトルである。性能パラメータ値q(k)は、式(2)に示されるように、性能パラメータ値q(k−1)及び性能パラメータ変化量v
q(k)の和として表される。性能パラメータ変化量v
q(k)は、p次元のベクトルである。センサ計測値y(k)は、式(3)に示されるように、非線形関数g及び観測雑音w(k)の和として表される。観測雑音wは、r次元のベクトルである。
【数1】
【0027】
続いて、ガスタービンエンジン10の非線形モデルが線形化される。この線形化は、ある作動点を基準として行われる。この作動点としては、例えば、地上静止状態における最大出力時が用いられる。この作動点において線形化された非線形モデルは、作動点における状態量xからの変化量Δx(k)、作動点におけるセンサ計測値yからの変化量Δy(k)、作動点における制御入力値uからの変化量Δu(k)、雑音v(k)、観測雑音w(k)を用いて、例えば式(4)及び式(5)によって表される。行列A,B,Cは、対象装置及び作動点の組み合わせによって、予め定められている。
【数2】
【0028】
なお、式(6)に示されるように、状態量xは、内部状態量x
eと性能パラメータ値qとを合わせたn(n=n
e+p)次元のベクトルである。雑音vは、システム雑音v
xeと性能パラメータ変化量v
qとを合わせたn(n=n
e+p)次元のベクトルである。また、雑音vは、式(8)が成立する有限の雑音である。観測雑音wは、式(9)が成立する有限の雑音である。
【数3】
【数4】
【0029】
式(6)及び式(7)を用いて式(1)及び式(2)を変形し、式(1)’が得られる。また、式(6)を用いて式(3)を変形し、式(3)’が得られる。
【数5】
【0030】
ロバストフィルタでは、ガスタービンエンジン10の状態量x(k)と推定部30において推定された状態推定値x
h(k)との推定誤差は、一定範囲内に収まる必要がある。このため、推定誤差の指標γを用いて、式(10)が成り立つ必要がある。指標γは、所望の推定精度が得られ、かつ、式(10)の解が得られる程度の値に設定される。
【数6】
【0031】
なお、x
b(0)は、状態量xの初期分布の平均値である。行列Qは雑音vに対する重み行列であり、式(11)を満たす。行列Rは観測雑音wに対する重み行列であり、式(12)を満たす。
【数7】
【0032】
ここで、式(13)に示される評価関数Jを用いて、式(10)の解法を検討する。
【数8】
【0033】
行列Q及び行列Rは正の値を取るから、Q>0、R>0のもとで、式(10)を満たす状態推定値の変化量Δx
hを求める問題は、状態推定値の変化量Δx
hを固定し、任意の状態量xの初期値の変化量Δx(0)、雑音v及び観測雑音wに対して、評価関数J<0が成立することと等価であり、式(14)として表される。
【数9】
【0034】
さらに、式(10)は、状態量xの初期値の変化量Δx(0)、雑音v及び観測雑音wを固定し、評価関数Jを最小化する状態推定値の変化量Δx
hを求めることと等価であり、式(15)として表される。
【数10】
【0035】
式(15)を満たすために評価関数Jが極値をもつためには、dJ=0となることが必要であることから、推定誤差の共分散P及び単位行列Iを用いて、以下のリカッチ方程式(16)が導出される。
【数11】
【0036】
式(16)に基づいて、推定誤差の共分散Pを求めるために、具体的には以下の方程式(17)〜(19)が用いられる。
【数12】
【0037】
方程式(17)〜(19)を解くことによって、式(20)に示されるように、ロバストフィルタゲインKが求められる。
【数13】
【0038】
推定部30は、ガスタービンエンジン10の非線形モデルを用いて、制御入力値u(k)に基づいて、事前推定値x
h−(k)及びセンサ推定値y
h(k)を算出する。推定部30は、調整部22によって生成された調整値に基づいて、事前推定値x
h−(k)を調整して状態推定値x
h(k)を算出し、算出した状態推定値x
h(k)を出力する。推定部30は、算出したセンサ推定値y
h(k)を誤差算出部21に出力し、算出した状態推定値x
h(k)を外部に出力する。推定部30は、時間更新部31と、推定値更新部32と、推定値更新部33と、遅延部34と、を備えている。
【0039】
時間更新部31は、制御入力値u(k)と、遅延部34から出力された状態推定値x
h(k−1)と、に基づいて、事前推定値x
h−(k)を算出する。具体的には、時間更新部31は、式(1)で用いられた非線形関数fを用い、式(21)によって事前推定値x
h−(k)を算出する。時間更新部31は、算出した事前推定値x
h−(k)を推定値更新部32及び推定値更新部33に出力する。
【数14】
【0040】
推定値更新部32は、時間更新部31から出力された事前推定値x
h−(k)に基づいて、センサ推定値y
h(k)を算出する。具体的には、推定値更新部32は、式(3)で用いられた非線形関数gを用い、式(22)によってセンサ推定値y
h(k)を算出する。推定値更新部32は、算出したセンサ推定値y
h(k)を誤差算出部21に出力する。
【数15】
【0041】
推定値更新部33は、時間更新部31から出力された事前推定値x
h−(k)と、調整部22から出力された調整値とに基づいて、状態推定値x
h(k)を算出する。具体的には、推定値更新部33は加算器であり、式(23)に示されるように、事前推定値x
h−(k)と調整値とを加算し、その加算結果を状態推定値x
h(k)として算出する。推定値更新部33は、算出した状態推定値x
h(k)を遅延部34及び外部に出力する。
【数16】
【0042】
遅延部34は、推定値更新部33から出力された状態推定値x
h(k)を単位時間だけ遅延させ、次の時刻における推定に対し、状態推定値x
h(k−1)として時間更新部31に出力する。
【0043】
次に、
図4を参照して、性能推定装置20が行う性能推定方法の一連の処理を説明する。
図4は、性能推定装置20が行う性能推定方法の一連の処理を示すフローチャートである。
図4に示される処理は、単位時間ごとに繰り返し行われる。ここでは、ある時刻kにおける処理を説明する。
【0044】
まず、エンジン制御器が、エンジン動作条件に基づいて、制御入力値u(k)をガスタービンエンジン10及び性能推定装置20に出力する。そして、性能推定装置20の時間更新部31は、制御入力値u(k)を受信する(ステップS01)。また、ガスタービンエンジン10は、エンジン制御器から出力された制御入力値u(k)を入力し、ガスタービンエンジン10に設けられているセンサによって計測されたセンサ計測値y(k)を出力する。そして、性能推定装置20の誤差算出部21は、センサ計測値y(k)を受信する(ステップS02)。
【0045】
続いて、時間更新部31は、ガスタービンエンジン10の非線形モデルを用いて、制御入力値u(k)に基づいて、事前推定値x
h−(k)を算出する(ステップS03)。具体的には、時間更新部31は、制御入力値u(k)と、遅延部34から出力された状態推定値x
h(k−1)と、を用いて、式(21)によって事前推定値x
h−(k)を算出する。そして、時間更新部31は、算出した事前推定値x
h−(k)を推定値更新部32及び推定値更新部33に出力する。
【0046】
続いて、推定値更新部32は、ガスタービンエンジン10の非線形モデルを用いて、センサ推定値を算出する(ステップS04)。具体的には、推定値更新部32は、時間更新部31から出力された事前推定値x
h−(k)を用いて、式(22)によってセンサ推定値y
h(k)を算出する。そして、推定値更新部32は、算出したセンサ推定値y
h(k)を誤差算出部21に出力する。
【0047】
続いて、誤差算出部21は、センサ計測値y(k)とセンサ推定値y
h(k)との誤差e(k)を算出する(ステップS05)。具体的には、誤差算出部21は、センサ計測値y(k)からセンサ推定値y
h(k)を減算し、その減算結果を誤差e(k)として調整部22に出力する。
【0048】
続いて、調整部22は、誤差算出部21によって算出された誤差e(k)とロバストフィルタゲインKとに基づいて、事前推定値x
h−(k)を調整するための調整値を生成する(ステップS06)。具体的には、調整部22は、誤差e(k)とロバストフィルタゲインKとを乗算し、その乗算結果Ke(k)を調整値として推定部30に出力する。
【0049】
続いて、推定値更新部33は、調整値に基づいて、事前推定値x
h−(k)を調整して状態推定値x
h(k)を算出する(ステップS07)。具体的には、推定値更新部33は、式(23)に示されるように、事前推定値x
h−(k)と調整値とを加算し、その加算結果を状態推定値x
h(k)として算出する。そして、推定値更新部33は、算出した状態推定値x
h(k)を外部及び遅延部34に出力する(ステップS08)。以上のようにして、時刻kにおける性能推定方法の一連の処理が終了する。
【0050】
このように、性能推定装置20は、ガスタービンエンジン10の非線形モデル及び固定のロバストフィルタゲインKを用いたロバストフィルタによって、実機(ガスタービンエンジン10)の状態量x(k)(内部状態量x
e(k)及び性能パラメータ値q(k))を推定する。そして、性能推定装置20は、センサ計測値y(k)と、推定部30から出力されるセンサ推定値y
h(k)との誤差e(k)が小さくなるように、誤差e(k)にロバストフィルタゲインKを乗算し、事前推定値x
h−(k)の調整を繰り返し行うことで、ガスタービンエンジン10の状態量x(k)を推定、つまり、状態推定値x
h(k)を算出する。
【0051】
次に、比較例の性能推定装置120を含む性能推定システム100と比較しながら性能推定装置20の作用効果を説明する。
図5は、比較例の性能推定装置120を含む性能推定システム100の概略構成を示す図である。
図5に示されるように、性能推定システム100は、性能推定システム1と比較して、性能推定装置20に代えて、性能推定装置120を備える点で相違している。
【0052】
性能推定装置120は、性能推定装置20と比較して、ロバストフィルタゲインK(k)が固定でない点、ガスタービンエンジン10の非線形モデルではなく線形モデルを用いる点で主に相違している。つまり、性能推定装置120は、ガスタービンエンジン10の線形モデル及びロバストフィルタゲインK(k)を用いて、ガスタービンエンジン10の状態推定値x
h(k)を推定する装置であり、誤差算出部121と、調整部122と、推定部130と、を備えている。
【0053】
線形モデルは、行列A,B,Cを用いて、後述の式(24)及び式(25)で表される。行列A,B,Cは、対象装置(ガスタービンエンジン10)ごとに、各作動点に対して予め定められている。この行列A,B,Cは、式(4)及び式(5)の行列A,B,Cと同じである。
【0054】
性能推定装置120が行う性能推定方法の一連の処理を説明する。まず、エンジン制御器が、エンジン動作条件に基づいて、制御入力値u(k)をガスタービンエンジン10及び性能推定装置120に出力する。そして、性能推定装置120の時間更新部131は、制御入力値u(k)を受信する。また、ガスタービンエンジン10は、エンジン制御器から出力された制御入力値u(k)を入力し、ガスタービンエンジン10に設けられているセンサによって計測されたセンサ計測値y(k)を出力する。そして、性能推定装置120の誤差算出部121は、センサ計測値y(k)を受信する。
【0055】
続いて、時間更新部131は、ガスタービンエンジン10の線形モデルを用いて、制御入力値u(k)に基づいて、事前推定値x
h−(k)を算出する。具体的には、時間更新部131は、演算部131aと、演算部131bと、加算器131cと、を備えている。まず、演算部131aは、行列Aと遅延部134から出力された状態推定値x
h(k−1)との乗算を行い、乗算結果を加算器131cに出力する。また、演算部131bは、行列Bと制御入力値u(k)との乗算を行い、乗算結果を加算器131cに出力する。そして、加算器131cは、演算部131aの乗算結果と演算部131bの乗算結果とを加算し、加算結果を事前推定値x
h−(k)として算出する。つまり、時間更新部131は、式(24)に示される演算を行って、事前推定値x
h−(k)を算出している。そして、時間更新部131は、算出した事前推定値x
h−(k)を推定値更新部132及び推定値更新部133に出力する。
【数17】
【0056】
続いて、推定値更新部132は、ガスタービンエンジン10の線形モデルを用いて、センサ推定値を算出する。具体的には、推定値更新部132は、式(25)に示されるように、行列Cと時間更新部131から出力された事前推定値x
h−(k)との乗算を行い、乗算結果をセンサ推定値y
h(k)として算出する。そして、推定値更新部132は、算出したセンサ推定値y
h(k)を誤差算出部121に出力する。
【数18】
【0057】
続いて、誤差算出部121は、誤差算出部21と同様に、センサ計測値y(k)とセンサ推定値y
h(k)との誤差e(k)を算出する。具体的には、誤差算出部121は、センサ計測値y(k)からセンサ推定値y
h(k)を減算し、その減算結果を誤差e(k)として調整部122に出力する。
【0058】
続いて、調整部122は、誤差算出部121によって算出された誤差e(k)とロバストフィルタゲインK(k)とに基づいて、事前推定値x
h−(k)を調整するための調整値を生成する。具体的には、調整部122は、まず、式(26)に示されるように、単位行列I、行列C、観測雑音wに対する重み行列R、推定誤差の指標γ、及び推定誤差の共分散P(k−1)を用いて行列Ψ(k)を算出する。そして、調整部122は、式(27)に示されるように、行列A、推定誤差の共分散P(k−1)、算出した行列Ψ(k)、及び雑音vに対する重み行列Qを用いて推定誤差の共分散P(k)を算出する。さらに、調整部122は、式(28)に示されるように、算出した推定誤差の共分散P(k)、行列C、及び重み行列Rを用いてロバストフィルタゲインK(k)を算出する。そして、調整部122は、誤差算出部121から出力された誤差e(k)とロバストフィルタゲインK(k)とを乗算し、その乗算結果K(k)e(k)を調整値として推定部130に出力する。
【数19】
【数20】
【数21】
【0059】
続いて、推定値更新部133は、推定値更新部33と同様に、時間更新部131から出力された事前推定値x
h−(k)と、調整部122から出力された調整値とに基づいて、状態推定値x
h(k)を算出する。具体的には、推定値更新部133は加算器であり、式(29)に示されるように、事前推定値x
h−(k)と調整値とを加算し、その加算結果を状態推定値x
h(k)として算出する。そして、推定値更新部133は、算出した状態推定値x
h(k)を遅延部134及び外部に出力する。以上のようにして、性能推定装置120が行う時刻kにおける性能推定方法の一連の処理が終了する。
【数22】
【0060】
このように、性能推定装置120は、ガスタービンエンジン10の線形モデルを用いているので、非線形なガスタービンエンジン10では推定精度が低下する。また、性能推定装置120では、作動点に応じた線形モデルを準備する必要があり、さらにロバストフィルタゲインK(k)を単位時間ごとに毎回更新する必要があるので、演算負荷が高い。
【0061】
一方、性能推定装置20では、ガスタービンエンジン10の非線形モデルを用いて、事前推定値x
h−(k)、及びセンサ推定値y
h(k)が算出され、センサ推定値y
h(k)及びセンサ計測値y(k)の誤差e(k)とロバストフィルタゲインKとに基づいて生成された調整値に基づいて、事前推定値x
h−(k)が調整され状態推定値x
h(k)が算出される。このように、性能推定装置20では、ガスタービンエンジン10の非線形モデルが用いられることにより、線形モデルが用いられるよりも推定精度が向上する。また、ロバストフィルタゲインKは、推定誤差を予め定められた範囲に収めるように算出された固定値である。このため、ロバストフィルタゲインKの更新が不要となる。これにより、演算負荷を低減することが可能となる。
【0062】
また、ロバストフィルタでは、カルマンフィルタと比較して、シミュレーションモデルとガスタービンエンジン10との誤差、及び、ガスタービンエンジン10の作動点が変化すること等の外乱要素によるガスタービンエンジン10の状態の変化によらず、状態推定値x
h(k)を算出することができ、性能推定の安定性を向上することが可能となる。つまり、フィルタ設計点以外の作動点での性能推定の安定性が向上する。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、対象装置の一例としてガスタービンエンジンを用いているがこれに限られない。対象装置は、制御入力値u(k)に対して非線形な動作を行う装置であって、制御入力値u(k)を入力とし、センサ計測値y(k)及び状態量x(k)を出力とする非線形シミュレーションモデルで表現し得る装置であればよい。
【0064】
また、上記実施形態では、調整部22は、固定値のロバストフィルタゲインKを用いているが、調整部22は、単位時間ごとにロバストフィルタゲインK(k)を算出してもよい。この場合、調整部22は、各時刻において、式(4)及び式(5)に示されるように、その作動点で非線形モデルを線形化し、式(16)に基づいて(具体的には式(17)〜式(19)を用いて)、推定誤差の共分散Pを算出する。そして、調整部22は、式(20)を用いてロバストフィルタゲインK(k)を算出する。