(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グリコールウリル化合物は、その骨格(グリコールウリル環)中に4つの尿素系窒素を有し、且つ対称性の高い構造を具備する複素環化合物であるが、この尿素系窒素の反応性を利用して、種々の官能基が導入されたグリコールウリル化合物が合成されている。そして、このようなグリコールウリル化合物の多くは、樹脂の添加剤(架橋剤、改質剤)としての検討または利用が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、テトラキスメトキシメチルグリコールウリルと、ポリエステル樹脂を含有する粉末塗料組成物が提案されている。
特許文献2には、合成樹脂あるいは合成ゴム等の架橋剤、または難燃剤等の中間体としての利用が期待されるテトラアリルグリコールウリル化合物が提案されている。
特許文献3には、テトラキス(カルボキシアルキル)グリコール化合物を含有するエポキシ樹脂組成物が提案されている。
特許文献4には、グリシジルグリコールウリル化合物を含有するエポキシ樹脂組成物が提案されている。
特許文献5には、光硬化性樹脂の架橋剤としての利用が期待されるテトラキス((メタ)アクリロイルオキシアルキル)グリコールウリルが提案されている。
特許文献6には、メルカプトアルキルグリコールウリル化合物を含有するエポキシ樹脂組成物が提案されている。
特許文献7には、分子中にグリコールウリル環を含むオルガノシランが提案され、更に、分子中にグリコールウリル環を含み、必要に応じて、分子中にヒドロシリル基を有するオルガノシロキサンが提案されている。
特許文献8には、分子中に1〜3つのアリル基を有するアリルグリコールウリル化合物が提案されている。
【0004】
一方、グリコールウリル化合物と同様に、構造中に尿素結合(-(R)N-C(=O)-N(R)-)を含むイソシアヌレート化合物が知られているが、特許文献9には、トリス(N−2−アミノメチル)イソシアヌレート、トリス(N−2−アミノエチル)イソシアヌレート、トリス(N−2−アミノプロピル)イソシアヌレート等のトリス(N−2−アミノアルキル)イソシアヌレートが開示されている。
また、グリコールウリル環中の尿素系窒素に、アルキレン鎖を介してアミノ基を結合させる手法に関連して、特許文献10には、イソシアヌレート環中の尿素系窒素にアルキレン鎖を介して結合したシアノ基を、水素還元してアミノ基に変換する例が開示されている(反応スキーム(A)参照)。
特許文献11には、ビスシアノエチルイソシアヌレートがビスアミノプロピルイソシアヌレートの合成原料として有用である点が開示されている。
【0005】
【化1】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の1,3,4,6−テトラキス(アミノアルキル)グリコールウリル化合物(以下、単に本発明のグリコールウリル化合物と云うことがある)は、前記の化学式(I)で示されるとおり、グリコールウリル環中の4つの尿素系窒素に、アルキレン鎖を介してアミノ基が結合した構造を具備する。
【0016】
このグルコールウリル化合物の例としては、
1,3,4,6−テトラキス(2−アミノエチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−アミノブチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(5−アミノペンチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−アミノエチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−アミノブチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(5−アミノペンチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−アミノエチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−アミノブチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(5−アミノペンチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−アミノエチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−アミノブチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(5−アミノペンチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−アミノエチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−アミノブチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(5−アミノペンチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル等を挙げることができる。
【0017】
本発明のグリコールウリル化合物は、その前駆体となる1,3,4,6−テトラキス(シアノアルキル)グリコールウリル化合物を還元、即ち、このグリコールウリル化合物が有するシアノ基をアミノ基に還元(変換)することにより合成することができる(反応スキーム(B)参照)。
なお、前駆体の1,3,4,6−テトラキス(シアノアルキル)グリコールウリル化合物は、前述の特許文献3に記載の方法に準じて合成することができる。
この還元反応においては、還元剤として水素を使用することが好ましく、還元反応を促進する為に触媒(イ)を使用することが好ましい。また、還元反応を円滑に進める為に、反応溶媒(ロ)を使用することが好ましい。
【0018】
【化4】
(式中、R
1、R
2およびnは、前記と同様である。)
【0019】
前記の1,3,4,6−テトラキス(シアノアルキル)グリコールウリル化合物としては、例えば、
1,3,4,6−テトラキス(シアノメチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−シアノプロピル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−シアノブチル)グリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(シアノメチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−シアノプロピル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−シアノブチル)−3a−メチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(シアノメチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−シアノプロピル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−シアノブチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(シアノメチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−シアノプロピル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−シアノブチル)−3a−フェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(シアノメチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(3−シアノプロピル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、
1,3,4,6−テトラキス(4−シアノブチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル等を挙げることができる。
【0020】
前記の触媒(イ)としては、例えば、
ラネーニッケル、ラネーコバルト、ラネー銅等のラネー触媒や、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの触媒金属を炭素等の担体に担持した担持触媒が挙げられる。
【0021】
前記の反応溶媒(ロ)としては、例えば、
水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の溶剤が挙げられ、その適宜量を使用することができる。
なお、これらから選択される2種以上を組み合わせて、使用してもよい。
【0022】
この還元反応において、還元剤として水素を使用する場合には、反応系(反応容器)内に水素が存在すればよいが、反応系内における水素圧を、0.1〜20MPaの範囲に設定することが好ましい。
また、この還元反応の反応温度は、0〜150℃の範囲に設定されることが好ましく、同反応時間は、前記の反応温度に応じて適宜設定されるが、1〜48時間の範囲に設定されることが好ましい。
【0023】
この反応の終了後、得られた反応混合物から、例えば、溶媒抽出法等の手段によって、目的物である本発明のグリコールウリル化合物を取り出すことができる。
更に、必要により、水等による洗浄や、活性炭処理、シリカゲルクロマトグラフィー等の手段を利用して精製することができる。
【0024】
本発明のグリコールウリル化合物は、活性水素を有するアミノ基(-NH
2)を4つ有し、所謂ポリアミン類(化合物)に分類される物質である。
アミン類をエポキシ化合物に接触させると、エポキシ化合物は重付加型の反応によって重合が進行し、硬化物(重合物)を生成するところから、アミン類はエポキシ樹脂用硬化剤の一成分として広く使用されている。中でもポリアミン類には、一般的なアミン類とは異なって、特徴的な硬化作用が期待される。
本発明のグリコールウリル化合物は、分子中において、アミノ基が立体的に特定の距離間隔で位置(分布)し、且つ、対称性の高い構造を具備しているので、従来知られたポリアミン型のエポキシ樹脂用硬化剤に匹敵して、或いは更に優れて、特徴的な硬化作用を発揮することが期待される。
【0025】
本発明のグリコールウリル化合物を成分とするエポキシ樹脂用硬化剤は、必要により、公知のエポキシ樹脂用の硬化剤や、同硬化促進剤と併用されて、エポキシ化合物(エポキシ樹脂と称されることがある)に配合されて、エポキシ樹脂組成物が調製(製造)される。
【0026】
前記のエポキシ化合物としては、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、酸化型等のエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型としては、Bis−A型エポキシ化合物、Bis−F型エポキシ化合物、High−Br型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、アルコール型エポキシ化合物、脂肪族型エポキシ化合物(例えば、1,4−ブタンジグリシジルエーテル)が挙げられる。
グリシジルエステル型としては、ヒドロフタル酸型エポキシ化合物、ダイマー酸型エポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルアミン型としては、芳香族アミン型エポキシ化合物、アミノフェノール型エポキシ化合物が挙げられる。
酸化型としては、脂環型エポキシ化合物が挙げられる。
【0027】
前記の公知のエポキシ樹脂用の硬化剤としては、脂肪族ポリアミン類、脂環式ポリアミン類、芳香族ポリアミン類や特殊ポリアミン類を挙げることができる。
脂肪族ポリアミン類としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
脂環式ポリアミン類としては、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
芳香族ポリアミン類としては、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
特殊ポリアミン類としては、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン混合物、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,5,10−テトラスピロ[5.5]ウンデカン、N−アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0028】
前記の公知のエポキシ樹脂用の硬化促進剤としては、脂肪酸類、安息香酸類、アルコール類、フェノール類、メルカプト類等を挙げることができる。
なお、「エポキシ樹脂技術協会編,総説エポキシ樹脂,第1巻,基礎編I,2003年」に記載されたエポキシ樹脂用の硬化剤および同硬化促進剤は、引用により、本明細書の開示に含む。
【0029】
前記のエポキシ樹脂組成物は、必要により、
顔料(チタン白、シアニンブルー、ウォッチングレッド、ベンガラ、カーボンブラック、アニリンブラック、マンガンブルー、鉄黒、ウルトラマリンブルー、ハンザレッド、クロームイエロー、クロームグリーン等)、
無機充填剤(炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、マイカ、硫酸バリウム、リトポン、石コウ、ステアリン酸亜鉛、パーライト、石英、石英ガラス、溶融シリカ、球状シリカ等のシリカ粉等、球状アルミナ、破砕アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の酸化物類、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物類、炭化ケイ素等の炭化物類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物類、銅、銀、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属類や合金類、ダイヤモンド、カーボン等の炭素系材料等)、
熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂(高密度、中密度、低密度の各種ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等の単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール樹脂(フェノール化合物)、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリルゴムやウレタンゴムなどの各種エラストマー樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系グラフト共重合体やアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系グラフト共重合体などのグラフト共重合体等)、
補強剤(ガラス繊維、炭素繊維等)、
垂れ止め剤(水添ヒマシ油、微粒子無水硅酸等)、
艶消し剤(微粉シリカ、パラフィンワックス等)、
研削剤(ステアリン酸亜鉛等)、
内部離型剤(ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸カルシウムの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等)、
界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、粘度調整用希釈剤(有機溶剤)、カップリング剤、香料、難燃化剤などの添加剤(改質剤)を含有してもよい。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物は、土木建築用接着剤、半導体用封止剤、プリント回路基板や高圧電力用モールド機器用等の絶縁材、缶用や自動車用等の塗料等に好適である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において使用した主原料は、以下のとおりである。
【0032】
[主原料]
・1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル:前述の特許文献3に記載された方法に準拠して合成した。
・ラネー触媒:スポンジコバルト(展開コバルト)、川研ファインケミカル社製、品名「ODHT−60」
・エポキシ化合物:1,4−ブタンジグリシジルエーテル、和光純薬工業社製
・エポキシ樹脂用硬化剤:ヘキサメチレンジアミン、和光純薬工業社製
【0033】
〔実施例1〕
<1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)グリコールウリルの合成>
容量1000mlのオートクレーブに、1,3,4,6−テトラキス(2−シアノエチル)グリコールウリル17.72g(50.0mmol)、ラネー触媒0.59g(10.0mmol)、2−プロパノール200.00gを仕込み、オートクレーブの内部(反応曹内)を水素置換した。
次いで、100℃にて5時間撹拌し、得られた反応混合物から不溶解分をろ別し、続いて濃縮することにより、生成物として、17.84gの黄色液体を得た(収率:96.3%)。
【0034】
この黄色液体の
1H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・
1H-NMR (d
6-DMSO) δ: 5.31(s, 2H), 3.44(ddd, 4H), 3.11(ddd, 4H), 2.49(t, 8H), 1.56(m, 8H), 1.52(s, 8H).
また、この黄色液体のIRスペクトルデータは、
図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた黄色液体は、化学式(I-1)で示される表題のグリコールウリル化合物であるものと同定した。
【0035】
【化5】
【0036】
[実施例2]
実施例1において合成した1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)グリコールウリル1.85g(5.0mmol)と、1,4−ブタンジグリシジルエーテル4.05g(20.0mmol)を混合した。
得られた混合物(液状物)を25℃にて静置し、目視および触感により混合物の硬化の様子を観察したところ、混合物が硬化するまでに要した時間は5分であった。
【0037】
[比較例1]
1,3,4,6−テトラキス(3−アミノプロピル)グリコールウリルの代わりに、ヘキサメチレンジアミン1.16g(10.0mmol)を使用した以外は、実施例2と同様にして混合物(液状物)を調製し、得られた混合物の硬化の様子を観察したところ、混合物が硬化するまでに要した時間は30分であった。