(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483671
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】ボディを層状に造形するためのシステムおよび当該システム用バット
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20190304BHJP
B29C 64/245 20170101ALI20190304BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20190304BHJP
【FI】
B29C64/124
B29C64/245
B33Y30/00
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-520191(P2016-520191)
(86)(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公表番号】特表2016-524556(P2016-524556A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】AT2014050131
(87)【国際公開番号】WO2014201486
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年5月15日
(31)【優先権主張番号】A50391/2013
(32)【優先日】2013年6月17日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515351080
【氏名又は名称】ウェイ・トゥ・プロダクション ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】WAY TO PRODUCTION GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クラウス シュタードルマン
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−348135(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/026087(WO,A1)
【文献】
特開2007−098951(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0270746(US,A1)
【文献】
特開2009−137048(JP,A)
【文献】
特開2008−137392(JP,A)
【文献】
特開平05−278121(JP,A)
【文献】
特表2009−543716(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/144580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化可能な物質(4)からボディ(2)を層状に造形するためのシステム(1)であって、
当該システム(1)は、
液状またはペースト状の前記物質(4)を収容する弾性材料製のバット(5)と、
バット底部に載置されている前記物質(4)の層(3i)を領域的・選択的に硬化させる光源(10)と、
前記バット底部(6)の上方に配置されており、かつ、当該バット底部に対して下降させるかまた上昇させることが可能であり、かつ、硬化した前記物質層(3i)を付着させかつ上昇させる造形プラットホーム(11)とを有する、システム(1)において、
前記バット(5)に引張力(F1,F3)または押圧力(F2)を作用させるように構成された緊締装置(9)と、当該緊締装置(9)および前記造形プラットホーム(11)を相応に制御する制御装置(13)とを有し、
前記緊締装置(9)は、前記バット(5)を相反する方向に引き伸ばすまたは相反する方向に押しつぶすために、ほぼ相反する方向の引張力(F1,F3)または押圧力(F2)を前記バット(5)に作用させるように構成されている、
ことを特徴とする、光硬化可能な物質からボディ(2)を層状に造形するためのシステム(1)。
【請求項2】
前記バット(5)の少なくとも前記底部(6)が、少なくとも部分的に透光性である、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記バット(5)は、弾性材料から一体型に作製されている、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記緊締装置(9)は、パルス状の引張力(F1,F3)または押圧力(F2)を前記バット(5)に作用させるように構成されている、
請求項1から3までのいずれ1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記緊締装置(9)は、前記バット(5)の側方の舌片(7’)に取り外し可能に接続できかつ相対運動する2つの緊締ジョー(16)を有する、
請求項1から4までのいずれ1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記舌片(7’)は貫通部(19,20)を有しており、
当該貫通部(19,20)を通して、前記緊締ジョー(16)の通しピン(18)または保持軸をガイド可能である、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記舌片(7’)に補強リング、保持はとめ、クリップまたは鉤が、前記緊締装置(9)の把持のために埋め込まれている、
請求項5または6に記載のシステム。
【請求項8】
前記バット底部(6)を撫でるため、前記バット底部(6)の下側において当該バット底部(6)に当接しかつ一平面内に可動に支持された滑走エレメント(25,27)を有する、
請求項1から7までのいずれ1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記滑走エレメント(25)は、前記バット底部(6)の下面を転がるローラである、
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記バット底部(6)は、2重底部である、
請求項1から7までのいずれ1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記2重底部(6)の2つの底部(22,23)の間に、上側の底部(22)の下面を移動する滑走エレメント(27)が、当該底部(22)を撫でるために配置されている、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記2重底部(6)の2つの底部(23,23)の間に、硬質プレート(29)が配置されており、
当該硬質プレート(29)は、前記バット(5)が弾性変形する際に前記底部(22,23)に対して滑走することが可能である、
請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載のシステムに使用されるバットにおいて、
前記バット(5)は、弾性材料から作製されており、
前記バット(5)は、緊締装置(9)の把持に対し、当該バット(5)に引張力(F1,F3)または押圧力(F2)を作用するように構成されている、
ことを特徴とするバット。
【請求項14】
前記バット(5)の少なくとも前記底部(6)は、少なくとも部分的に透光性である、
請求項13に記載のバット。
【請求項15】
前記バット(5)は、光硬化可能な物質(4)によって満たされており、
当該バットの上面は、取り去り可能なカバーシート(21)によって封されている、
請求項13または14に記載のバット。
【請求項16】
前記バット(5)は、透明な弾性材料から一体型に作製されている、
請求項13から15までのいずれか1項に記載のバット。
【請求項17】
前記バット(5)には、前記緊締装置(9)の把持のため、側方の舌片(7’)が設けられている、
請求項13から16までのいずれか1項に記載のバット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化可能な物質からボディを層状に造形するためのシステムに関しており、このシステムは、液状またはペースト状の物質を収容する弾性材料製のバットと、バット底部に載置されている上記物質の層を領域的・選択的に硬化させる光源と、上記バット底部の上方に配置されかつこのバット底部に対して下降させるかまた上昇させることの可能でありかつ硬化した物質層を付着させかつ上昇させる造形プラットホームとを有する。本発明はさらに、このような装置に使用するためのバットに関する。
【0002】
冒頭に述べた形態のシステムは、米国特許出願公開第2013/0001834号明細書から公知である。
【0003】
マスキングされたまた集束された光を用いて層毎に照射される液体、感光性合成樹脂またはフォトポリマのような硬化可能な物質から3次元ボディを造形することは、ラピッドプロトタイピング、光固化、3Dプリントまたはステレオ(リソ)グラフィなどのような実にさまざまな名称で公知である。今日の生産用の製造機械では、個々の層を露光するため、ピクセル制御可能なDLPチップ、MEMSチップ、またはマイクロミラーチップまたは制御可能なレーザが使用され、これらは、透光性の底部プレート上に静止している物質層をただ1つのステップにおいて露光して、この層の選択可能なピクセル領域を硬化させることができる。ここでこの硬化した層は、底部プレートの上方に保持された造形プラットホームに付着し、引き続いてこの造形プレートと共に上昇し、これによって新たな液状の物質を底部プレート上に流し加えることができ、この物質がつぎの露光ステップにおいて硬化される等々である。上記のボディは、これによって個々の層から連続して造形され、その一方で上記の造形プラットホームは連続して上方に上昇させられる。
【0004】
この際の大きな問題は、それぞれ硬化された層を破壊することなく底部プレートから引き離すないしは取り外して、つぎの液体層が流し加えられるようにすることである。刊行物には、硬化した層の取り外しを容易にする数多くの解決手段がすでに提案されている。これらの解決手段のうちの1つは、透明かつフレキシブルの分離シートを固定せずに底部プレート上に配置することであり、ここでこの分離シートは、プラットホームを上昇させる際に伸び、周辺部からはじまって連続的に、最後に硬化した層から剥がれる。これはこの分離シートがその弾性に起因して底部プレート上で再度元の位置に弾力で戻るまで続けられる(独国特許出願公開第10119817号明細書、特開平6−246838号公報)。別の解決手段は、中間に弾性の分離シートを有する、強制的な制御で旋回ないし傾斜可能な底部プレート(国際公開第2013/026087号、国際公開第01/05575号)、または、バット内で硬化した層を剥がすために下側に傾けられる弾性バット(冒頭で挙げた米国特許出願公開第2013/0001834号明細書を参照されたい)を使用している。これらの公知の解決手段はすべて、底部プレート、分離シートないしはバットからの、硬化した層の引き剥がし力が大きいという欠点を有し、これによって造形処理の頑強さが低下してしまうという欠点を有する。このため網目構造を実現するのは困難である。これにより、多くの場合、造形すべきボディにおいて付加的な保護構造が必要である。この保護構造は、最終加工処理において再度コストをかけて除去しなければならず、また材料消費が不要に増大してしまう。
【0005】
本発明が目標とするのは、冒頭に述べたタイプのシステムおよび装置を提供することであり、このシステムおよび装置は、公知の解決手段よりも簡単でありかつ障害を起こしにくいのと同時に、硬化した層を破壊することなく取り出すことができる。
【0006】
この目標は、本発明の第1の様相において冒頭に述べたタイプのシステムによって達成され、ここでこのシステムは、バットに引張力または押圧力を作用するように構成された緊締装置と、この緊締装置および造形プラットホームを対応して制御する制御装置とによって特徴付けられる。
【0007】
本発明によるシステムは、成形品取り外し過程用の弾性分離シートを有する硬質の底部の代わりに、まったく新しいアプローチを使用しており、詳しくは、弾性材料から作製されており、ひいては全体として変形可能であるバットを使用している。これにより、造形プラットホームおよびこの造形プラットホームに付着しかつ硬化した物質層を持ち上げる際に、バット全体はそのバット底部と共に変形することができ、これによってバット底部からの物質層の引き剥がし過程が促進されて容易になる。硬化した物質層を完全に引き剥がした後、バットはその弾性によってそれ自体で再びその出発状態に戻る。これにより、底部プレートの複雑な駆動器と、大量に消耗される専用の弾性分離シートとが不要になる。本発明による解決手段の引き離し力が小さいことにより、形成されるボディの表面品質を一層良好にし、細部分解能を一層高くし、また壁の厚さを一層薄くすることができ、部品の、完全に硬化していない領域さえもそれ自体でバットから離れる。このことは、連結部領域の頑強さが露光パラメタによって制御される部品の取付領域に特に利用することができ、これによってこの部品において「頑強さ」の勾配を具現化することができる。
【0008】
本発明による緊締装置により、弾性バットが引き剥がし力によって変形する、バット底面からの硬化した層の引き剥がしないしは取り外し過程が、この弾性バットに加わる付加的な変形力によって能動に促進されて一層容易になる。この弾性バットにより、種々異なる動作形態が可能になる。すなわち、第1には、この緊締装置により、バットを相反する方向に引き伸ばすことができ、これによってバット底部が引っ張られると同時に薄くなり、これによって横方向および下方向に向けた付加的な引き剥がし力が、硬化した層に加えられる。しかしながら第2には、バットを相反する方向に押しつぶすことも可能であり、これによってバット底部が湾曲し、しかも付加的な取り外し力を形成して下方に湾曲するかまたは有利には、硬化した層に対してバット底部の凸形状を生じさせて上方に湾曲し、この層の周辺部からはじまる引き剥がしを促進する。緊締装置による引張力および/または押圧力の印加は、パルス状に行うことも可能であり、これによってバットは、例えば振動させられる。
【0009】
本発明の特に有利な実施形態は、このバットが、弾性材料、有利にはシリコーンから一体型に作製されることが特徴である。これによってバットは、コスト的に有利な大量生産品として、特にモジュール式に交換可能な使い捨て製品として作製することができる。このことについては後でさらに詳しく説明する。バットの、特にバット底部の内側面には、光硬化可能な物質に対する専用の封または保護層はまったく必要ない。なぜならばバットは、1つまたは少数のボディを造形するためだけのものであるため、このような短い寿命に対して、バット底部の表面に上記の物質が寄生的に注入拡散し得ることは無視できるからである。
【0010】
有利な実施形態において緊締装置は、ほぼ相反する方向の引張力または押圧力をバットに作用させるように構成されている。
【0011】
この緊締装置は、相反する方向の引張力または押圧力をバットに作用させることが可能な、この技術分野において公知の任意のタイプで構成することできる。例えば、シザー構造もしくは鉗子構造、スピンドル駆動器として、または偏心カムの形態で構成することができ、これらは、側方からバットを押圧するかまたはバットを引っ張る等々である。
【0012】
緊締装置は有利には、バットの側方の舌片に取り外し可能に接続できかつ相対運動する2つの緊締ジョーを有するため、バットはモジュール式に迅速に交換可能である。これらの緊締ジョーは、例えば専用のスピンドル駆器によって運動させることかできる。または一方の緊締ジョーだけを駆動させて他方の緊締ジョーを固定にする。
【0013】
有利な第1の変形実施形態において、舌片は垂直方向の貫通部を有しており、これらの貫通部は、緊締ジョーの通しピンに通すことができる。これにより、一方では、緊締装置においてバットを良好に保持でき、他方では、緊締ジョーの引張力または押圧力をバットの幅にわたって分散される複数の箇所に分配することができ、これによってバット底面における折り目の形成が回避される。このためには択一的に、各舌片が水平方向の貫通部を有しており、この貫通部を通して緊締ジョーの保持軸をガイド可能である。
【0014】
緊締装置の把持のため、例えばバットの射出成形時に上記の舌片に補強リング、保持はとめ、クリップまたは類似のものを埋め込むことも可能である。ここでこれは一般的には、緊締ジョーの相補的な結合エレメントに結合可能である結合エレメント、例えば、はとめに差し込むことのできる鉤およびその逆である。
【0015】
本発明の別の有利な特徴によれば、上記のシステムには滑走エレメントも含まれており、この滑走エレメントは、バット底部を撫でるため、バット底部の下側においてこのバット底部に当接しかつ一平面内に可動に支持されている。このような滑走エレメントは特に、造形過程のつぎのようなフェーズにおいて役に立つ。すなわち、最後に硬化した層を取り外した後、造形プラットホームを再び下降させて、バット底部をつぎに硬化される層の層厚を差し引いてバット底部に近づけるためのフェーズに訳に立つ。このフェーズでは、硬化した積層体と共に下降する造形プレートを緩慢にしかかわすことのできない粘度の高い、すなわちペースト状の物質の場合、バット底部は弾性的に下側に膨らみ得る。この膨らみは、上記の滑走エレメントによって(有利には制御装置によって制御して)除去ないしは平坦化することができ、これによってつぎの露光過程に対し、バット底部と、造形プラットホームないしは最後に硬化した物質層との間に正しい層厚で平坦な液状の物質層を形成する。
【0016】
上記の滑走エレメントは、例えば、定規またはスキージとしてよく、バット底部の下面を撫でて移動する。この滑走エレメントは有利にはバット底部の下面を転がるローラであり、これによって摩擦が回避され上記の底部がいたわられる。
【0017】
本発明の別の変形形態では、バット底部を2重底部として実施することも可能である。これにより、引っ張るまたは押圧する際にバットに対称に力を加えることが促進され、また2重底部の2つの底部間に、上側の底部の下面を移動する滑走エレメントが、この底部を撫でるために配置されるようにすることも可能である。
【0018】
さらにこの2重底部には、その2つの底部の間に、硬質プレートを配置することも可能であり、この硬質プレートは、バットが、ひいては2つの底部が弾性変形した際には、底部に対して滑走することが可能である。これにより、弾性の底部、硬質プレート、弾性の底部からなるサンドイッチ構造が得られる。この硬質プレートは、例えば全面をバットの弾性材料によって包囲することもできる。このような、固定されていない滑走する埋め込みは、例えば、プレートのノンスティックコーティングによって得ることができる。
【0019】
第2の様相では、本発明により、上で示したタイプのシステムにモジュール式に交換可能に使用されるバットが得られ、このバットは、弾性材料から作製されており、このバットは、緊締装置の把持に対し、このバットに引張力または圧力を作用するように構成されている。このバットは有利には、緊締装置の把持に対し、側方の舌片を備えている。上記のシステムではこのバットを舌片に容易に一時的に固定することができる。有利にはバットの少なくとも底部は少なくとも部分的に透光性である。
【0020】
本発明のバットは、光硬化可能な物質によって満たすことができ、その上面は、取り去り可能なカバープレートによって封をすることができる。これによってバットは、使い捨て製品を構成し、この製品は、プリンタカートリッジ式に上記のシステムに使用することができ、これによってバットに含まれる光硬化可能な物質のスタックが消費されてしまうまで1つまたは複数のボディが形成される。
【0021】
上記のバットは、有利には弾性材料から、特に有利にはシリコーンから作製されており、このことは、使い捨て部品としてコスト的に有利な大量生産に好適である。
【0022】
本発明を以下、添付した図面に示した複数の実施例に基づいて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】
図1のシステムのバットおよび緊締装置の拡大斜視図である。
【
図3】
図1のシステムに使用可能なバットの別の2つの実施形態をそれぞれ示す斜視図である。
【
図4】
図1のシステムの一実施形態の動作の仕方をボディの作製の種々異なるステージI〜V)において示す概略部分断面図である。
【
図5】
図1に示したシステムの別の実施形態の動作の仕方を
図4と同様の仕方で示す図である。
【
図6】
図1に示したシステムの別の実施形態の動作の仕方を
図4と同様の仕方で示す別の図である。
【
図7】
図1に示したシステムの別の実施形態の動作の仕方を
図4と同様の仕方で示すさらに別の図である。
【
図8】
図1に示したシステムの別の実施形態の動作の仕方を
図4と同様の仕方で示すさらに別の図である。
【0024】
図1には、一般的には3
iで指示される個々の層3
1,3
2,…からなる3次元ボディ2を造形するためのラピッドプロトタイピング用のシステム1が示されており、上記の個々の層はそれぞれ(層毎に)、バット5内の液状物質4から硬化される。
【0025】
液状物質4は、光の照射を用いて、例えばUV光によって硬化可能(光固化可能)である。ここで「光」という用語は一般に、物質4の上記のような化学作用を及ぼし得る、例えば赤外光その他の任意タイプの電磁ビームのことである。ここで「液状」という用語は、任意の粘度の固練りのことである。
【0026】
上記のことを目的としてバット5は、上記の光照射に対して透過性を有する材料から作製され、しかも少なくともそのバット底部6の領域においてこの材料から作製され、この領域の上にボディ2が造形される。有利にはバット底部6全体が透光性であり、場合にはよってこれを取り巻きかつバット底部6から上方に突き出ているバット縁部7も透光性である。これは特にバット5を一体型に作製する場合である。
【0027】
バット5は、ほぼ対蹠的な対向する、支持構造体8の少なくとも2つの側方端部に支持されており、有利に緊締装置9上に支持されている。簡単な実施形態では、緊締装置9を省略することができる。バット5は、弾性材料から、例えば、透明な弾性プラスチック、ゴムまたはシリコーンから作製され、オプションの緊締装置9を用いて付加的にほぼ相反する方向の引張力または押圧力をバット5に作用させることができる。このことについては後でさらに詳しく説明する。
【0028】
バット5の下には、都度最も下にある硬化すべき物質層3
iを露光するための光源10がある。バット5ないしはバット底部6の上には、造形プラットホーム11が設けられており、この造形プラットホームは、支持構造体8に取り付けられた駆動器12により、バット底部6に対して上昇可能または下降可能である。造形プラットホーム11は、(必ずではないが)実質的に平坦な下面を有しており、この下面は、ボディ造形のはじめには液状物質4に浸されており、バット底部6の上面に対してわずかな間隔を有している。この間隔は実質的に、都度硬化すべき層3
iの層厚に等しく、例えば数100μmを有する。造形プラットホーム11を下降させることによって物質4は押し退けられ、この物質4は、この間隔ないしは中間空間を、その層厚を有する薄膜として充填する。
【0029】
引き続いて光源10が起動され、硬化すべき物質層3
iの硬化させたい領域的・選択的に露光する。光源10は、このために任意の形態をとることができ、例えば、層3
i毎に個別に前置されたマスクまたは露光フィルムを有するフラット光源、レーザダイオードもしくは発光ダイオード用のMEMSスキャナまたはレーザスキャナ型の偏向可能な「書き込み」光ビームのような、点状に移動する光源、または、ピクセル毎に制御可能なフラット光源、例えばDLPチップ、MEMSチップもしくはマイクロミラーチップとすることができ、これは、例えばビデオビーマに使用され、例えば1920×1080ピクセルの解像度でただ1つの露光ステップにおいて画像を物質層3
iに投影することができ、これによってこの物質層は、この層において所望されるボディ2の形状に対応して領域的・選択的に硬化される。レーザベースの光源の場合、例えば、座標空間(X/Y面)におけるレーザスポットをベクトルベースで、例えば、レーザユニット全体を移動することにより、または、光学素子によってレーザビームを偏向することにより、ピンポイントに移動させることができる。
【0030】
理論的には光源10をバット底部6の上方に設けることもでき、この場合には、バット底部6が少なくとも部分的に透光性である必要は必ずしもない。
【0031】
1つの層3
i,ここでは第1層3
1の硬化に成功した後、造形プラットホーム11を上昇させる。硬化した層3
1は造形プラットホーム11に付着するか、または都度別の層3
iがそれぞれ前の層3
i-1に付着し、可能な限りに破壊されることなくバット底部6から剥がれるようにする。硬化した層3
iを可能な限りに破壊することなくバット底部6から引き剥がすかまたは取り出せるようにするための構成上の手段については、後でさらに詳しく説明する。
【0032】
実践的には造形プラットホーム11は、つぎに硬化すべき物質層3
i+1の層厚よりも大きく、例えば層厚の数倍で上昇され、これにより、多くの場合に高い粘度を有する液状物質4が、付着した物質層積層体3
1〜3
iを有しかつ上昇される造形プラットホーム11と、バット底部6との間の中間空間に可能な限りに邪魔されずに流し加えられるようにする。引き続いて、最も下の硬化した物質層3
iがバット底部6に対して正しい間隔で配置されるまで、付着した物質層積層体3
1〜3
iを有する造形プラットホーム11を再度、下降させる。この再下降により、物質4が押し退けられ、つぎの露光過程用に隙間のない液体フィルムが形成される。したがってシステム1は、造形プラットホーム11の往復運動でサイクリックに動作し、各サイクルには、下降、露光および上昇(取り外し)のステップが含まれている。システム1の制御は、電子装置13によって行われ、この電子装置は、造形プラットホーム11の駆動器12と、光源10と、オプションの緊締装置9とを相応に駆動制御する。
【0033】
図2には、緊締装置9の考えられ得る実施が詳細に示されている。緊締装置9には、支持構造体8に取り付けられた2つのスピンドル駆動器14が含まれており、これらはそれぞれねじ付きスピンドル15を介して緊締ジョー16を駆動する。緊締ジョー16は、リニアガイド部17上で直線的に互いに相対運動でガイドされる。オプションでは一方の緊締ジョー16だけが可動で、他方が固定とすることも可能であり、これによって1つのスピンドル駆動器14が省略される。しかしながら、硬化した層3
iを取り出す際に可能な限りにこれをいたわるため、2つの緊締ジョー16を対称的に動かすのが有利である。スピンドル駆動器によるのとは別の仕方で、例えば、偏心駆動器またはシザー駆動器などにより、緊締ジョー16を互いに相対的に運動させることができるのは明らかである。
【0034】
各緊締ジョー16は少なくとも1つの、有利には複数の、バット5の幅Bにわたって分散された通しピン18を有しており、これらの通しピンには、垂直方向の貫通部19によって、バット5の1つずつの舌片7’を通すことができる。これにより、上方から緊締装置9に容易にバット5を載せることができる。
【0035】
バット5をその舌片7’と共に別の仕方で緊締装置9に取り付けられること、例えば、保持クリップまたは相補的なフックまたは緊締ジョー16および/または舌片7’の係止突起を用いて取り付けられることは明らかである。このために舌片7’に複数の連結エレメントを(少なくとも部分的に)、例えばバット5を射出成形する際に埋め込むことができ、これらは、このための相補的な連結エレメントにより、取り外し可能に連結することができる。この相補的な連結エレメントは、緊締ジョー16に形成するかまたはそれに取り付けることができる。例えば、舌片7’に埋め込まれるこれらの連結エレメントは、補強リング、保持はとめ、クリップ、フックその他とすることができ、これらは、ピン、フック、クリップのようなそれらの相補的なエレメントと接続することができる。
【0036】
緊締装置9によってバット5に押圧力だけが作用されるようにしたい場合、この緊締装置は、バット5を単純に相反する方向に押しつぶすことができ、この場合には舌片7’を省略することができる。緊締装置9によってバット5を2つよりも多くの対向する側面において把持することも可能であり、例えばその幅Bの方向に行うことも可能である。これにより、バット5をバット底部6の平面における4つのすべての側面から押しつぶすかまたは伸ばすことができ、また交互に、すなわちその幅方向Bに押しつぶしてその長手方向Lに伸ばすかまたはその逆にすることも可能である。
【0037】
図3aおよび
図3bには弾性バット5の2つの択一的な実施形態が示されており、ここでは垂直方向の貫通部19の代わりに、各舌片7’に垂直方向の貫通部20が設けられており、この貫通部を通して、緊締ジョー16の水平方向の保持軸を通してガイドすることができる。この保持軸は、例えば(図示しない)ワイヤ弓状体とすることができ、これはバット5と共に供給され、緊締ジョー16の(図示しない)対応するフックに引っ掛けることができる。
【0038】
図3aに示したように、バット5には所定量の液状の光硬化可能な物質4をあらかじめ満たしておくことができ、またその上側、すなわちその縁部7の上側には、取り去り可能なカバーシート21、例えば把持舌片を有するアルミニウムシートでシーリングすることができる。これにより、物質4およびカバーシート21を備えたバット5を、例えば使い捨て部分としてプリパッケージして供給することができ、これはモジュール式に交換可能にシステム1に使用可能である。
【0039】
図3bには、上側の底部22および下側の底部23からなる2重底部6を備えたバット5の実施形態が示されており、これらの底部間には平坦な中間空間24が残存している。この実施形態は、一方では舌片7’に対する引張力および押圧力をより良好に対称化することを目的としており、他方では中間空間24は、別のエレメントのために使用することができる。このことについては後で
図7および
図8を参照してさらに詳しく説明する。
【0040】
図4〜
図8にはそれぞれ、システム1の種々異なる実施形態における弾性バット5の動作の仕方、および、層3に対する造形サイクルの種々異なるフェーズにおける弾性バット5の動作の仕方が示されており、しかもつぎのようになる。すなわち、
フェーズI) 開始位置、
フェーズII) 造形プラットホームの下降、
フェーズIII) 露光、
フェーズIV) 造形プラットホームの上昇および硬化した層の取り外し、
フェーズV) 終了位置=開始位置。
【0041】
図4aおよび
図4bには、システム1の第1実施形態が示されており、ここでは相反する方向の押圧力ないし引張力をバット5にオプションで作用させるため、緊締装置9が使用される。
【0042】
開始位置(フェーズI)から出発すると、造形プラットホーム11を物質層積層体3
1〜3
iと共に液状物質4(フェーズII)浸す際、バット底面6は、物質4の粘度に起因して、一時的にわずかに下方に膨らむ。その後、バット底面6は、フェーズIIIにおける露光過程に対し、バット5の材料の弾性によって自分で戻るか、またはこの戻りが、緊締装置9によってバット5に加えられる付加的な相反する方向の引張力F
1によって促進される。引張力F
1は、フェーズIIにおける膨らみを最小化するため、場合によってフェーズIおよび/またはフェーズIIにおいてすでにバット5に加えることができる。
【0043】
フェーズIIIでは、上で説明したように新たな層3
i+1が、光源10を起動することによって硬化される。
【0044】
フェーズIVにおいて、付着した物質層積層体3
1〜3
iと共に造形プラットホーム11を上昇させる際には、バット5の材料の弾力性に起因してバット底面6が上方に伸び、その一方で新たに硬化した層3
i+1は、複数の側部から徐々にバット底面6から引き離されるか引き剥がされる。これにより、造形プラットホーム11を上昇させるために必要な力が低減され、この新たな物質層3
i+1をいたわりかつこれを破壊することのない取り外しが可能になる。バット5全体の弾性に起因して、フェーズIVではバット5の縁部7を共に変形し、これによってバット底部6の変形を助けるかないしは少なくともこれを妨害しない。
【0045】
フェーズIVでは、付加的な相反する方向の押圧力F
2をバット5に作用させて、上方へのバット底部6の膨らみを促進させることができるため、次第に程度を増して凸になるその形状により、層3
iの剥がれ過程が促進される。択一的には(図示していないが)このような相反する方向の押圧力F
2によってバット底部6を下方に膨らませて、取り外し力を増強することも考えられる。
【0046】
有利には電子装置13により、造形プラットホーム11を上昇させるモータ12の制御と、押圧力F
2を作用させる緊締装置9の制御とを同期化して、層3
i+1の上記の剥がれ作用を助けてこれを促進する程度のバット底部6の膨らみがまさに得られるようにする。
【0047】
択一的にはフェーズIVにおいて、相反する方向の押圧力F
2の代わりに相反する方向の引張力F
3をバット5に作用させることができ、これによって層3
iからのバット底部6の引き剥がしを促進させる。
図5には、開始時にすでに比較的強い相反する方向の引張力F
3を作用させる、フェーズIVを有するこのような実施形態の発展形態が示されている。バット底部6に加わる引張力F
3に起因して、このバット底部6は伸びてその厚さが小さくなる。このことも同様に、層3
i+1の複数の側部からはじまって進行するバット底部6の引き離しないしは引き剥がしを促進する。このような引張力作用も造形プラットホーム11の上昇運動と同期化させることができ、これによって最大限の効果が得られる。システム1の簡略化した別の変形形態では、緊締装置9をそもそも省略することができる。すなわち、いかなる付加的な引張力または押圧力F
1,F
2,F
3もバット5に加えず、したがってバット5は、フェーズIIにおける液浸し力およびフェーズIVにおける引き剥がし力だけによって一時的に弾性的に変形するのである。
【0048】
バット5に加わる引張力および押圧力F
1,F
2,F
3は、バットの対蹠的な対向する側において正確に逆平行に加える必要はなく、所望される場合には互いにずらしておよび/または互いにわずかに斜めに設定することも可能である。
【0049】
別のオプションは、引張力および押圧力F
1,F
2,F
3をそれぞれパルス状に、特に上記のフェーズIIおよびIVのそれぞれにおいて、例えば限定された期間に、および/または、繰り返して交番にバット5に加えることである。このようにして、バット5は緊締装置9によって例えば振動されうる。全般的に緊締装置9はバット5を、いつでも任意の時点でまたはプロセスの部分ステップにおいて、時間的に変化する空間的な応力状態へ至らしめることができ、有利には時間的に変化する均一な応力状態に至らしめることができる。
【0050】
図6には、フェーズIIIにおける露光過程に対してバット底部6の平坦構造を得るため、フェーズIIにおいて下方に膨らむバット底面6を戻すための付加的な手段が示されている。システム1のこの実施形態では、バット底部6の下側においてその下面に当接して、平坦化エレメント25が実質的に水平面内に可動に配置されている。この平坦化エレメント25は、例えば定規またはスキージであり、この定規またはスキージは、バット底部6の幅B全体にわたって延在しており、バット底部6の長さL全体にわたり、矢印Pの方向に往復運動することができる。平坦化エレメント25は有利には回転可能なローラであり、このローラは、バット底部6の下面において転がることができる。平坦化エレメント25は、例えば、緊締装置9のリニアガイド17においてガイドすることができ、また有利には、制御電子回路13によって制御される(図示しない)駆動器によって駆動される。
【0051】
フェーズIIにおいて、または、フェーズIIIの前に平坦化エレメント25は(少なくとも)1回、バット底部6の下面を移動して、これを撫でて露光フェーズIIIのために平坦な位置にする。ここではバット底部6が、最後に硬化される物質層3
iに対して所定の間隔を有するようにされる。
【0052】
図7aおよび7bは、平坦化エレメント27の特別な実施形態が示されており、この平坦化エレメントは、(リニアガイド部17における支持の代わりにまたはこれと付加的に)透明な滑走プレート28に支持されており、この滑走プレートはバット底部6の下を移動する。平坦化エレメント27は択一的に、
図3bに示した2重底部6の上側の底部22と下側の底部23との間の中間空間においてガイドすることも可能である。
【0053】
図8aおよび
図8bには、バット5の2重底部6の別の適用例が示されている。中間空間24には硬質プレート29があり、この硬質プレートは、2重底部6の底部22,23に対して滑走することができ、また(バット5の少なくとも伸びた状態において)プレート29の縁部と、中間空間24の側壁との間に側方のあそび30を有する。プレート29は、例えば、バット5を射出成形で作製する際にバット5の材料と共に埋め込むことができる。プレート29のノンスティックコーティングまたは滑走コーティングにより、プレート29と、底部22,23との固定の結合が阻止されるため、プレート29は、バット5を伸ばすか押しつぶした際に2重底部6内を滑走することができる。
【0054】
プレート29は、フェーズIIにおける底部6の下方への膨らみを阻止し、かつ、フェーズIVにおける上側の底部22の弾性的な引き剥がしならびに開始位置Iまたは終了位置Vへのその戻しを損なわない。
【0055】
本発明は、ここで示した実施形態に限定されるのではなく、この明細書に続く特許請求の範囲に属する上記の特徴的構成のあらゆる変化形態、修正および組み合わせを含むものである。