特許第6483709号(P6483709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483709
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】金属防食被覆を備える鋼部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/26 20060101AFI20190304BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20190304BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20190304BHJP
   B21B 1/02 20060101ALI20190304BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20190304BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20190304BHJP
   C22C 38/50 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
   C25D5/26 C
   C21D9/00 A
   C21D1/18 C
   B21B1/02 D
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/04
   !C22C38/50
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-541851(P2016-541851)
(86)(22)【出願日】2014年7月15日
(65)【公表番号】特表2017-500451(P2017-500451A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2014065127
(87)【国際公開番号】WO2015036150
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2017年7月7日
(31)【優先権主張番号】13184275.9
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ケイヤー,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ズィコラ,ザシャ
(72)【発明者】
【氏名】バニク,ヤンコ
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−211276(JP,A)
【文献】 特開平04−006257(JP,A)
【文献】 特開平03−287350(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/081043(WO,A1)
【文献】 特開2010−121209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
C23C 2/00−2/40
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食から保護する金属被覆を備える鋼部品を製造する方法であって、
a)熱間成形工程で焼き入れすることによって硬化可能な鋼材料であって、150〜1100MPaの降伏点及び300〜1200MPaの引張強度を有する鋼材料から形成された平鋼製品を提供するステップと、
b)亜鉛と避けられない不純物とを含有する防食被覆によって前記平鋼製品を電解被覆するステップであって、電解堆積した防食被覆が5μm未満の平均層厚さを有するように前記被覆が実行される、ステップと、
c)前記被覆された平鋼製品から形成されたブランクを少なくとも800℃のブランク温度まで加熱するステップと、
d)成形型内で前記ブランクから前記鋼部品を成形するステップと、
e)強化された又は硬化されたミクロ構造の成形に適した状態に前記鋼部品がある温度から、前記強化された又は硬化されたミクロ構造の成形に十分な冷却速度で、冷却することによって前記鋼部品を硬化させるステップと、を含み、
前記ブランクの加熱は、5vol%〜25vol%の酸素を含むオーブン雰囲気で実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
腐食から保護する金属被覆を備える鋼部品を製造する方法であって、
a)熱間成形工程で焼き入れすることによって硬化可能な鋼材料であって、150〜1100MPaの降伏点及び300〜1200MPaの引張強度を有する鋼材料から形成された平鋼製品を提供するステップと、
b)亜鉛と避けられない不純物とを含有する防食被覆によって前記平鋼製品を電解被覆するステップであって、電解堆積した防食被覆が5μm未満の平均層厚さを有するように前記被覆が実行される、ステップと、
c)前記平鋼製品から形成されたブランクから成形型内で前記鋼部品を成形するステップと、
d)少なくとも800℃の部品温度まで前記鋼部品を加熱するステップと、
e)強化された又は硬化されたミクロ構造の成形に適した状態に前記鋼部品がある温度から、前記強化された又は硬化されたミクロ構造の成形に十分な冷却速度で、冷却することによって前記鋼部品を硬化させるステップと、を含み、
前記鋼部品の加熱は、5vol%〜25vol%の酸素を含むオーブン雰囲気で実行されることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記鋼部品の成形(ステップc)は予備成形として実行されること、かつ、前記鋼部品は前記加熱(ステップd)の後に完成状態に成形されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記防食被覆が平鋼製品の側面ごとに異なる層厚さで適用されるように前記電解被覆が実行されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記防食被覆が前記平鋼製品の一側面のみに適用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ブランクの又は前記鋼部品の加熱は、乾燥気体を含むオーブン雰囲気で実行されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブランクの又は前記鋼部品の加熱は、前記ブランクの又は前記鋼部品の部分的に異なる加熱処理である、若しくは、前記ブランクの又は前記鋼部品の部分的に異なる加熱処理を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ブランクの又は前記鋼部品の前記部分的な加熱処理は、誘導又はレーザ補助加熱によって生じることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
提供される前記平鋼製品は再結晶コールドストリップであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス硬化性鋼、好ましくはマンガン鋼から構成される平鋼製品であって、成形前に亜鉛被覆が設けられた平鋼製品の成形によって、腐食からの保護を提供する金属被覆を備える鋼部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書での「平鋼製品」への参照は、鋼ストリップ、鋼シート又はブランク、及び、それらから得られるもの等に対してなされる。
【0003】
軽量と、最大強度と、近年の車体構造の製造で必要とされる保護効果との組み合わせを提案するために、高強度鋼から熱間プレス成形によって形成される部品が、現在では、衝突の際に極めて大きな負荷を受け得る車体構造の分野で使用されている。
【0004】
熱間成形とも言われる熱間プレス硬化の場合、冷延又は熱延鋼ストリップから区切られた鋼ブランクが、それぞれの鋼のオーステナイト化温度よりも通常は高い加工温度まで加熱され、また、加熱された状態で成形プレスの型内に配置される。その後に実行される成形中に、それから成形されるシートブランク又は部品が、冷却型との接触の結果、急速冷却される。ここでの冷却速度は、部品内に硬化されたミクロ構造を製造するように設定される。
【0005】
熱間プレス硬化に適した鋼の典型的な一例は、呼称「22MnB5」として知られており、及び、2004年のドイツの鋼規格集「Stahlschlussel」において材料番号1.5528で見出される。
【0006】
熱間プレス硬化に特に適した公知のマンガン−ホウ素鋼の利点は、マンガンを含有している鋼が一般的に湿食への抵抗力がないとともに不動態化しにくいという欠点によって、実際のところ打ち消されている。局所的に限定されるもののそれでもなお極めて強い腐食のこの傾向は、高い塩素イオン濃度にほとんど暴露されない高合金鋼の場合の傾向に比べて高く、特に車体構造において、高合金鋼シートの材料群に属する鋼を用いることを困難にする。さらに、マンガンを含有する鋼は、表面腐食の傾向を有しており、それによって、同様に、それらの有用性のスペクトルを制限する。
【0007】
従来技術において、温度調整された状態にある時のマンガン含有鋼による水素の取り込みの低下、又は、腐食攻撃から鋼を保護する金属被覆を有するこうした鋼の提供、を目的とした様々な提案がある。本明細書では、能動的な防食システムと受動的な防食システムとの間で区別がなされる。
【0008】
能動的な防食システムは、亜鉛含有防食被覆の連続的な適用によって慣習的に製造される。一方で、受動的な防食システムは通常、腐食攻撃に対する良好なバリア効果を提供するアルミニウム系被覆を適用することによって製造される。
【0009】
公知の金属、亜鉛含有防食被覆によれば、マイナス面及びプラス面がある。
【0010】
通常85wt%〜98wt%の領域に高亜鉛画分を有する亜鉛系防食被覆であって、被覆のための鋼ストリップへの溶融工程に適用される亜鉛系防食被覆を有する鋼シートは、相対的に長い能動的な腐食保護を提供する。しかしながら、溶融亜鉛被覆の不十分な態様は、このように被覆された鋼ブランクの処理におけるある制約を含む。その理由は、ブランク温度が高過ぎると亜鉛成分が減少すること、及び/若しくは、ブランク又は鋼部品の腐食抵抗が、亜鉛被覆鋼ブランク又は亜鉛被覆鋼から形成された部品の過剰に続く加熱時に低下することである。さらに、多くの場合、アルミニウムなどの、酸素に対して親和性を有する要素である亜鉛溶融物の他の成分が、例えば、亜鉛系防食被覆の表面上で硬い酸化物の形成を引き起こす。この酸化物層は、亜鉛の蒸発からの保護を実際に提供する一方で、わずかに限られた溶接性を有している。従って、概して、鋼部品は、形成された酸化物(通常、アルミニウム酸化物)を除去するためにブラスト加工される。さらに、この種の亜鉛系被覆は、その低い溶融温度のために、亀裂の傾向を有し、及び、この理由のため、コスト集中型である間接的な熱間成形工程のみが、被覆された平鋼製品の処理に適宜用いられ得る。
【0011】
亜鉛被覆が熱処理によって亜鉛−鉄合金層に変換された「合金化溶融亜鉛めっき」鋼シートは、能動的な腐食保護の獲得を目的とした直接的な熱間成形工程のために特に発展してきた。しかしながら、通常、この種の亜鉛−鉄被覆は、亜鉛溶融物からの他の成分又は不純物を多かれ少なかれ含有している。この被覆の欠点の1つは、同様に制限された動作窓である。過剰に高い温度は、亜鉛成分の燃焼を引き起こし、及び/又は、過剰に続く加熱が再び腐食抵抗を低下させる。さらに、多くの場合、アルミニウムなどの酸素に対して親和性を有する要素である亜鉛溶融物の他の成分が、例えば、防食被覆の表面上で硬い酸化物の形成を引き起こす。従って、通常、部品は、結果として生じる酸化物(通常、アルミニウム酸化物)を除去するためにブラスト加工される。同様に亜鉛によって亀裂が生じるリスクがある。さらに、加熱時に酸素親和性を有する要素によって形成された硬い酸化物によって、摩擦係数の多少の増大があり得る。
【0012】
一方で、アルミニウム−シリコン被覆は、比較的幅広の処理窓を提供する。この防食被覆は、溶融被覆工程で平鋼製品に適用される。鋼基材とその被覆との間に硬い金属間相が形成される。この硬い金属間相に基づいて、被覆が部分的な剥離を起こし、並びに、望ましくない酸化及び/又はエッジ部の脱炭が剥離部位で生じるので、AlSi被覆鋼シートの冷間成形は制約を有するだけの可能性がある。普通は、従って、AlSi被覆プレス硬化性鋼シートは直接的な熱間成形工程にのみ用いられる。従って、この被覆を用いることが不可能なある製造プロセスがある。さらに、AlSi被覆は、急速加熱工程が、望ましくない溶融をもたらすので、このような工程について非常に限定された適合性を有する。従来の加熱(通常はオーブン加熱)後、成形工程中に、場合によっては成形特性に悪影響を与える高い摩擦係数がある。
【0013】
溶融プロセスに適用される金属防食被覆は、概して、その後の急速加熱工程の場合に、特にレーザ照射又は赤外線技術による加熱の場合に欠点を有する。その理由は、この場合、液相の形成、及び、結果的に妨げられた吸収がたびたび観察され得ることである。従って、その結果、均一な加熱及び一貫した層の特性のいずれも通常は得ることができない。
【0014】
これに基づき、本発明の目的は、実際に実行が簡単な方法であって、腐食からの保護を提供する付着性の良好な金属被覆を備える鋼部品の製造かつ相対的に複雑度の低い製造を可能にする方法を特定することであった。本発明の特定の目的は、平鋼製品を腐食から適切に保護することができる方法であって、広い領域の処理の変形例を許容する方法を特定することである。ここで重視する点は、長く続く腐食保護ではなく、処理特性の高い順応性にある。
【0015】
本発明の第1変形例に係る方法に関して、鋼部品の製造において行なわれる請求項1で特定された方法ステップによってこの目的が達成される。
【0016】
上述の目的を同様に達成する本発明の方法の代替的な変形例が請求項2で特定される。
【0017】
本発明の方法の第1変形例は、「直接的な熱間成形」(直接的なプレス硬化)による鋼部品の成形に関連する一方で、第2の方法の変形例は、本発明に係る被覆された鋼ブランクが、最初に冷間成形され、その後、オーステナイト化温度まで加熱され、及びその後、急速冷却によって強化された又は硬化されたミクロ構造状態に変換されるように、「間接的な方法」(間接的なプレス硬化)での鋼部品の成形に関連する。
【0018】
本発明の方法の変形例の好都合な改良点は、請求項1又は2に従属する請求項で特定され、かつ、以下で明らかにされる。
【0019】
腐食からの保護を提供する金属被覆を備える鋼部品を製造する本発明の方法では、最初に、熱間成形工程で焼き入れすることによって硬化可能な鋼材料であって、かつ、150〜1100MPaの降伏点及び300〜1200MPaの引張強度を有する鋼材料から形成された平鋼製品、すなわち、鋼ストリップ又は鋼シートが提供される。
【0020】
この鋼材料は、通常、従来の組成における高強度のマンガン−ホウ素鋼であってもよい。従って、鉄及び避けられない不純物以外に、本発明に従って処理された鋼は、(wt%で)0.2〜0.5%のC、0.5〜3.0%のMn、0.002〜0.004%のB、及びさらに、任意選択的に、以下の量、すなわち、0.1〜0.3%のSi、0.1〜0.5%のCr、0.02〜0.05%のAl、0.025〜0.04%のTiの1以上の「Si、Cr、Al、Ti」群の要素を含んでもよい。
【0021】
用いられた平鋼製品は再結晶化コールドストリップであることが好ましく、それは、この種の鋼ストリップが、電解被覆ユニットで、比較的に安価で被覆可能であることを明らかにしている。
【0022】
電解被覆を通じて、非常に均一で薄く、かつ、高純度の亜鉛層が、獲得及び提供される平鋼製品に適宜に適用される。本明細書における電解被覆は、亜鉛層が、5μm未満の、好ましくは1〜4μmの範囲の、より好ましくは2〜4μmの範囲の平均層厚さを有するように実行される。層厚さの不均一性が比較的大きな層厚さでのみより一層発生するので、層厚さにおける特に高い均一性(すなわち、基材の幅又は長さにわたる厚さの非常に小さい変動)は特に小さな層厚さから生じる。そうでなければ、局所欠陥、すなわち、平鋼製品の表面上の被覆されないエリアがある場合があるので、1μm未満の平均層厚さを確立すべきではない。
【0023】
亜鉛層の非常に小さな厚さを考慮すると、鉄(Fe)が、基材の近くから層の全体の厚さにわたって亜鉛層内に拡散することができ、かつ、亜鉛に完全に反応するので、流動性の低い亜鉛がその後の熱間成形で形成される。従って、亜鉛層はZn−Fe合金に実質的に完全に変質させられる。
【0024】
電解堆積した薄い亜鉛層は、特に、スケーリングから鋼基材を保護することに役立ち、及びまた、熱間成形中の改善された「潤滑性」(小さい摩擦のため)のためにも役立つ。亜鉛層上に酸化亜鉛が形成され、酸化亜鉛は、非常に脆くかつ潤滑特性に乏しい酸化アルミニウムとは異なり、実質的に改善された潤滑性をもたらす。従って、トライボロジーシステムでは、摩擦の係数が減少し、及び従って、成形特性が改善される。
【0025】
本発明の方法に関連して、亜鉛層の電解堆積は、連続的なストリップ被覆工程として実行されることが好ましい。
【0026】
薄い亜鉛層は、既に熱間成形された鋼シートの輸送中、又は、既に熱処理されたコイルの輸送中、赤錆の形成を低減する又はさらに防止することに役立つ。
【0027】
本発明の方法の1つの好都合な改良点では、電解被覆が、亜鉛被覆が平鋼製品の側面ごとに様々な層厚さで適用されるように実行される。その結果、亜鉛被覆は必要条件に沿うようになり得る。
【0028】
本発明の方法の別の好都合な改良点では、亜鉛被覆は平鋼製品の1側面にのみ適用される。この変形例もまた、必要条件に沿うようになる亜鉛被覆を同様に構成し得る。
【0029】
本発明の方法のさらなる好都合な改良点では、ブランク又は鋼部品の加熱が、5vol%〜25vol%の酸素、好ましくは15vol%〜22vol%の酸素を含むオーブン雰囲気で実行される。本発明の方法のさらなる改良点に従って、ブランク又は鋼部品の加熱が、乾燥気体、好ましくは乾燥空気を含むオーブン雰囲気で実行される場合、水素の取り込みを低減させるためにさらなる最適化が生じる。このようにして、オーブン雰囲気は人工的に低露点にされる。
【0030】
本発明の方法のさらなる好都合な改良点では、ブランク又は鋼部品の加熱が、ブランク又は鋼部品の部分的に異なる熱処理である、若しくは、ブランク又は鋼部品の部分的に異なる熱処理を備える。ブランク又は鋼部品のこの部分的な熱処理は、誘導加熱又はレーザ加熱によって行われることが好ましい。このようにして、例えば、製造される鋼部品上に様々な強度特性を有する領域を生成することが可能である。
【0031】
本発明は、図形及び実施例を用いて以下にさらに開示される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】アニール処理後の電解的に亜鉛めっきされた平らなマンガン−ホウ素鋼製品のサンプルの研磨されたセクションを示す。
図2】本発明に従って被覆されたアニールされていない平らなマンガン−ホウ素鋼製品のさらなるサンプルの研磨されたセクションを示し、電解的に適用された亜鉛層は1μmの平均層厚さを有する。
図3】本発明に従って被覆されたアニールされていない平らなマンガン−ホウ素鋼製品のさらなるサンプルの研磨されたセクションを示し、電解的に適用された亜鉛層は3μmの平均層厚さを有する。
図4】本発明に従って被覆されたアニールされていない平らなマンガン−ホウ素鋼製品のさらなるサンプルの研磨されたセクションを示し、電解的に適用された亜鉛層は5μmの平均層厚さを有する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、アニール処理後の電解亜鉛めっきされたマンガン−ホウ素平鋼製品の区画を例として示す。熱処理の結果として、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)は、ベース材料(マンガン−ホウ素鋼)上に堆積した亜鉛層内に拡散し、拡散の結果として、亜鉛層は、亜鉛−鉄層と、その層上の極薄の亜鉛−マンガン酸化物層と、に変質させられた。マンガンを有しないベース材料の場合、亜鉛−鉄層上に単に酸化亜鉛層が形成される。酸化亜鉛層又は亜鉛−マンガン酸化物層は、例えば本発明に従って被覆される平鋼製品から成形された鋼部品の被覆性を改善するために、ブラスト加工工程によって除去されることが好ましい。
【0034】
図2図4は、本発明に従って被覆されたマンガン−ホウ素鋼シートの3つの例を垂直面で図示している。各鋼シートには、電解的に適用されて1μm、3μm又は5μmの平均層厚さを有する薄い亜鉛被覆が設けられた。図示した例は、アニールされていない状態で電解亜鉛めっきされたマンガン−ホウ素鋼シートを示している。
【0035】
顕微鏡写真として図示されたサンプルは、1μmの平均亜鉛層厚さで局所欠陥が被覆内に生じる一方で(図2参照)、3μmの平均層厚さでは一貫して(coherent)均一な亜鉛被覆がすでに達成された(図3参照)ことを表している。5μmの平均層厚さでも同様に、亜鉛被覆の層厚さ分布は均一である(図4参照)。
【0036】
本発明に係る、亜鉛被覆の小さな平均層厚さを得るために、電解被覆の動作パラメータが適宜設定される。電解被覆の「動作パラメータ」は、例えば、被覆される基材上の流れの性質、電解物の流量、被覆される特定の鋼基材に関連する電解物の流れの方向、電流密度、温度、電解物のpH、電解セル内での被覆される基材の存在時間又は期間、を含む。本発明によれば、これらのパラメータは、亜鉛被覆が本発明に従って指定された層厚さで確立されるように、互いに組み合わせられるべきである。この目的のため、説明した変数は、利用可能な特定の工場技術に応じて以下のようにそれぞれ変更可能である。
−被覆される基材上の流れの性質:層流又は乱流;被覆の成果は、被覆対象の平鋼製品上の電解物の層流及び乱流の両方の場合に良好である。しかしながら、実際に利用可能な多くの被覆ユニットでは、実際の電解物と鋼基材との間のより集中的な交換のために乱流が好ましい。
−電解物の流量:0.1〜6m/s。
−被覆される特定の鋼基材に関する電解物の流れの方向:鋼基材が垂直及び水平の両方に整列したセルで被覆され得る。
−電流密度:10〜140A/dm
−電解物の温度:30〜70℃。
−電解物のpH:1〜3.5。
−電解セル内の通過時間/存在時間:1〜15分。
そして、鋼ブランクは、被覆される平鋼製品から発明の方法によって成形される。このブランクは、特定の鋼ストリップ又は鋼シートから従来の方法で区切られ得る。しかしながら、被覆段階の平鋼製品に関しても考えられるのは、部品へのその後の成形に求められる形状をすでに有していること、すなわち、ブランクに対応していることである。極薄で実質的な純亜鉛被覆が適宜発明の方法で提供された鋼ブランクは、本発明の方法の第1変形例に従って800℃以上のブランク温度まで続けて加熱され、及び、その段階において、加熱されたブランクから鋼部品が成形される。逆に言えば、第2の方法の変形例に従って、鋼部品は、最初にブランクから少なくとも予め成形され、及び、その後にのみ、少なくとも800℃の部品温度まで加熱が実行される。ブランク又は部品温度へのそれぞれの加熱中、予め適用された薄い亜鉛層内でZn−Fe合金への変質が起きる。
【0037】
本発明の方法の第1変形例によれば、本発明に従って少なくとも800℃の温度まで加熱されたブランクが鋼部品に成形される。これは、例えば、加熱直後に、用いられるそれぞれの成形型にブランクを搬送することによって行われ得る。成形型へのルート上では、加熱後のこのような熱間成形の場合にそうであるように、ブランクの冷却が一般的に不可避であり、及び、成形型内への進入時のブランクの温度は、オーブンからの出口でのブランク温度よりも通常は低い。成形型では、鋼ブランクは従来の方法で鋼部品に成形される。
【0038】
成形が、硬化された又は強化されたミクロ構造の形成に十分な高い温度で実行される場合、それぞれの温度から始まった、結果として生じた鋼部品は、強化された又は硬化されたミクロ構造がその鋼基材になるために十分な冷却速度で冷却され得る。このプロセスは、特に、熱間成形型自体内で特に経済的に実行され得る。
【0039】
従って、発明の方法で被覆された平鋼製品の、鋼基材の亀裂及び磨耗に対する非感受性のため、本発明の方法は、加熱造形されて冷却される鋼部品を包含するとともに、先行の加熱からブランク温度までの熱を利用する、型に一回での単一ステージの熱間プレス成形に特に適している。
【0040】
第2の方法の変形例の場合、ブランクが最初に成形され、及びその後、鋼部品が、熱処理を挟むことなくこのブランクから成形される。この場合の鋼部品の成形は通常、1以上の冷間成形工程が実行される冷間成形プロセスにおいて生じる。本明細書での冷間造形の程度は、結果として生じる鋼部品が実質的に完全に仕上げられた状態まで成形される程度であり得る。しかしながら、第1造形が予備成形として実行されること、及び、鋼部品が加熱後の成形型内で仕上げられた状態に成形されることがまた考慮され得る。仕上げられた状態へのこの成形は、適切な成形型内で形状硬化として硬化が実行される場合、硬化プロセスに組み合わせられ得る。その場合、鋼部品が、その仕上げられた最終形状を形作る型内に配置され、及び、所望の硬化された又は強化されたミクロ構造が展開するように十分に迅速に冷却される。このようにして、形状硬化は、鋼部品の一部における特に良好な形状保持を可能にする。形状硬化中の形状の変化は通常わずかである。
【0041】
本発明の方法の2つの変形例のいずれが採用されるかに関わらず、硬化された又は強化されたミクロ構造が展開するために必要な造形又は冷却のいずれも、従来技術と異なる特別な方法で実行される必要がない。代わりに、この目的のために公知の方法及び利用可能な装置が採用され得る。成形用の平鋼製品上に極薄で相対的に均一で実質的に純亜鉛層を発明の方法で製造するため、熱間造形又は高温での成形の場合に、亜鉛被覆の軟化のリスク、及び従って、被覆材料に接触することになる型の表面への当該被覆材料の付着の場合のリスクはない。
【0042】
電解被覆に対して最適な成果を保証するため、電解被覆の前の平鋼製品は従来の方法で前処理を受けることができ、鋼基材の表面は、その後に防食被覆によって実行される被覆のために最適に準備された表面条件を有するように処理される。この目的のために、以下にリストした1以上の前処理ステップが行われ得る。
−脱脂槽内での平鋼製品のアルカリ脱脂。通常、脱脂槽は、5〜150g/l、より具体的には10〜20g/lの界面活性洗浄剤を収容する。本明細書での脱脂槽の温度は20〜85℃であり、65〜75℃の槽温度で特に良好な活動が確立される。これは、特に、脱脂が電解的に行われる場合であり、並びに、サンプルが陽極及び陰極の両極性を与えられる少なくとも1つのサイクルが行われる場合に特に良好な洗浄効果が得られる場合である。この場合、アルカリ洗浄において、電解的な浸漬脱脂があるのみならず、アルカリ媒体によるスプレー/ブラシ洗浄が電解洗浄の前に実行されることが好都合であることを証明し得る。
−平鋼製品のすすぎ、このすすぎは、白く泡立つ水又は完全な脱塩水によって実行される。
−平鋼製品の酸洗い。酸洗いにおいて、平製品は、平鋼製品自体の表面を攻撃することなく平製品から酸化物層を洗い流す酸浴槽を通過させられる。酸洗いの制御されたステップを通じて、酸化物の除去は、結果として生じる表面が電解ストリップ亜鉛めっきのために好適に設定されるように誘導される。酸洗いが行われた後、平鋼製品から酸洗いに用いられた酸の残留物を除去するため、平鋼製品のさらなるすすぎが有用であり得る。
−平鋼製品のすすぎが実行される場合、平鋼製品は、平鋼製品の表面から頑固な小片も同様に除去するために、すすぎ中、機械的にブラシ洗浄され得る。
−前処理された平鋼製品上に依然として存在する液体は、製品が電解槽に進入する前に絞りロールによって通常は除去される。
【0043】
電解被覆に対して特に良好な成果を導く前処理の実際の例は以下の変形例を含む。
【0044】
実施例:
グレード22MnB5(1.5528)のアニールされたコールドストリップは、アルカリ性スプレー脱脂と電解脱脂とを受ける。脱脂槽は、25%以上の水酸化ナトリウムと、1〜5%の脂肪アルコールエーテルと、5〜10%のエトキシル化、プロポキシル化及びメチル化C12〜18アルコールと、を有する市販の洗浄剤を約15g/lの濃度で含む。槽温度は約65℃である。スプレー脱脂における存在時間は約4〜6秒である。この後にブラシ洗浄が続く。さらに、ストリップは、約3秒の存在時間で、陽極と陰極との両極性でかつ電流密度15A/dmで電解的に脱脂される。この後には、室温の完全な脱塩水での、展開されたブラシによって複数ステージのすすぎが続く。すすぎにおける存在時間は約2〜4秒である。その後、塩酸洗いが約10〜12秒の存在時間で行われる(20g/l;温度35〜38℃)。約7〜9秒続いた完全な脱塩水でのすすぎ後、金属シートは、圧延装置を通過し、及びその後、水平に整列した電解セル内に送られる。このセルでは、鋼ストリップ又はシートは本発明に従って被覆される。この処理について設定された動作パラメータは以下のとおりであった。
−電解物のZn含有量:80〜150g/l;
−電解物のNa2SO4含有量:23〜28g/l;
−電解物のpH:1.4〜1.6;
−電解物の温度:60〜70℃;
−電流密度:10〜40A/dm
−電解物の流量:0.1〜6m/s;
−電解セル内の通過/処理時間:2〜8分。
【0045】
電解被覆ラインから出た平鋼製品には、室温の水又は完全な脱塩水での複数ステージ式すすぎがなされ得る。その後、平鋼製品は乾燥セクションを通過する。
【0046】
実施例2:
グレード22MnB5(1.5528)の(酸洗いされた)ホットストリップは、アルカリ性スプレー脱脂と電解脱脂とを受ける。脱脂槽は、20g/lの濃度で、1〜5%C12〜C18脂肪アルコールポリエチレングリコールブチルエーテルと、0.5〜2%の水酸化カリウムと、を備える洗浄剤を収容する。槽温度は約75℃である。水平スプレーすすぎでの存在時間は約10〜12秒である。この後には二重ブラシ洗浄が続く。さらに、ストリップは、約8〜10秒の存在時間に、陽極と陰極との両極性でかつ約10A/dmの電流密度で電解的に脱脂される。この後には、室温の完全な脱塩水で、展開されたブラシによってマルチステージのすすぎが続く。すすぎにおける存在時間は約2〜4秒である。その後、塩酸洗いが、約26〜28秒の存在時間で行われる(100g/l;室温)。ブラシ及び真水でのスプレーすすぎの後、金属シートは、圧延装置を通過して、及びその後、水平に整列した電解セル内に移動し、水平に整列した電解セルでは、亜鉛被覆の堆積が本発明に従って行われる。この処理について設定された動作パラメータは以下のとおりであった。
−電解物のZn含有量:100〜130g/l;
−電解物のNa2SO4含有量:23〜27g/l;
−電解物のpH:1.4〜1.6;
−電解物の温度:60〜75℃;
−電流密度:20〜40A/dm
−電解物の電流量:0.1〜6m/s;
−電解物セルの通過/処理時間:2〜6分。
【0047】
電解被覆後、現時点において発明の方法で被覆された平鋼製品は、40℃の水及び完全な脱塩水による2つのステージのすすぎを受ける。その後、平鋼製品は、75℃の循環空気温度を有する空気循環ファンによる乾燥セクションを通過する。
【0048】
上述の実施例に関連して、ブランク又は部品温度が、本来の公知の方法で、920℃未満、より具体的には830〜905℃に達する場合、最適な加工結果が生じる。これは特に、加熱されたブランク(「直接的」プロセス)又は加熱された鋼部品(「間接的」プロセス)が、ある温度損失の容認を前提として、各場合に続けて用いられる成形型内に挿入されるように、ブランク又は部品温度までの加熱後の熱間成形として鋼部品の成形が実行される場合である。各場合の最終的な熱間成形は、ブランク又は部品温度が850〜880℃である時に特定の動作信頼性で実行され得る。
【0049】
本来の公知の方法では、ブランク又は部品温度までの加熱は、通過移動式オーブンの通過で行われ得る。本明細書での通常のアニール時間は3〜15分の範囲内である。しかしながら、代替的に、誘導的又は伝導的に動作する加熱装置によって加熱を実行することも可能である。これは、指定された特定の温度までの特に急速で正確な加熱を可能にする。
【0050】
加熱中、オーブン雰囲気の酸素含有量は、15%〜25%の間、好ましくは19%〜21%の間にあるべきである。本発明に従って被覆された鋼基材による水素の取り込みを低減させるためのさらなる最適化が、乾燥気体、好ましくは乾燥空気の導入によって行われ得る。その結果、オーブン雰囲気は人工的に低い露点にされる。
【0051】
従って、本発明は以下の利点を提供する。
・本発明に係るアプローチの場合に、酸素に対する親和性を有する要素、例えば、特にアルミニウムなどの不要な被覆成分を除外することができる。
・純亜鉛層の適用。
・溶融被覆で形成する種類の境界層(金属間層)の大部分が阻止される。
・加熱中のベース材料のスケーリングの阻止。
・溶融被覆の場合よりも均一な層厚さを得ることができる。
・極薄の亜鉛層厚さが適用されることができ、それによって、熱間成形中の亜鉛の液状化、及び従って、亀裂の傾向を低減する。
・簡単な方法で、1側面のみの被覆、及び、材料の各側面上で異なる層厚さを有する両側面の被覆を実現可能である。
・(防食効果のないものから能動的な腐食制御までの)条件に従って所望の防食効果を設定する可能性。
・より良好な成形性を有する直接的な熱間成形の場合に摩擦係数の減少が生じる。
・亜鉛層厚さが小さいことによって、急速な加熱方法、特に、部分加熱処理及び/又は部分プレス硬化を用いることができる。
・非常に短い拡散経路が、亜鉛層内への鉄の部分的な拡散を可能にする。
・冷間成形性は、部分的に間接的な熱間成形工程又は完全に間接的な熱間成形工程に良好である。
・溶接継ぎ目エリアで亜鉛被覆が除去される必要がないことによる、AlSi被覆に比べて、状況に応じて溶接されたブランクの高い適合性。
・被覆された平鋼製品の加熱中、不活性ガス雰囲気を必要としない。酸化物の形成は容認可能である。
・事前のブラスト加工による又は事前のブラスト加工を要しない高い被覆性。
・部品の発送のための防食オイルの可能な節約。
図1
図2
図3
図4