特許第6483775号(P6483775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483775
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】座標測定機の可動部の位置決定
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/00 20060101AFI20190304BHJP
   G01B 5/008 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   G01B21/00 E
   G01B5/008
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-189592(P2017-189592)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-66731(P2018-66731A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2017年11月2日
(31)【優先権主張番号】10 2016 220 097.6
(32)【優先日】2016年10月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504267828
【氏名又は名称】カール・ツアイス・インダストリーエレ・メステクニク・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】ウド グルーバー
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター グルップ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ バーンハート
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0249772(US,A1)
【文献】 特開2015−184943(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0222373(US,A1)
【文献】 特開平03−250308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
G01B 5/00− 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標測定機(211)の測定センサ(205)が可動部(208)の動きによって移動される、前記座標測定機(211)の前記可動部(208)の位置を決定するための方法であって、
− 前記座標測定機(211)の駆動コントローラ又は駆動調整器によって生成される所期の値を前記座標測定機(211)の計算モデル(MOD)に与えるステップであって、前記駆動コントローラ又は駆動調整器は前記可動部を動かすために又は前記可動部(208)及び前記座標測定機(211)の少なくとも1つの更なる可動部(202、203、207)を動かすために前記座標測定機(211)の少なくとも1つの駆動機構を作動させ、それによって前記測定センサ(205)を移動させ、前記所期の値は前記少なくとも1つの駆動機構の所期の状態を予め決定する、与えるステップと、
− 前記座標測定機(211)の位置測定システムによって前記可動部(208)の位置の値を測定するステップと、
− 前記測定される位置の値と前記計算モデル(MOD)の位置推定との間の位置偏差を形成するステップであって、前記位置推定は前記可動部(208)上の又は前記可動部(208)内の所定位置について前記計算モデル(MOD)によって生成される、形成するステップと、
− 前記可動部(208)における又は前記可動部(208)内の位置である加速度測定位置に配置される加速度センサによって加速度値を測定するステップであって、前記加速度測定位置は前記可動部(208)の全ての又は殆どのあり得る移動位置において前記位置測定システムの位置測定場所から或る距離を置かれ、前記可動部(208)の全ての又は殆どのあり得る移動位置において前記位置測定システムが前記可動部(208)の前記位置の値を測定する前記位置測定システムの前記位置測定場所よりも前記所定位置の近くにある、測定するステップと、
− 前記測定加速度値と前記計算モデル(MOD)の加速度推定との間の加速度偏差を形成するステップと
を含み、
前記位置偏差及び前記加速度偏差がその都度重み付けを伴って前記計算モデル(MOD)の組合せ装置(34、45)に与えられ、前記計算モデル(MOD)はそれらを考慮に入れて最新の位置推定及び最新の加速度推定を出力し、前記可動部(208)の前記位置は前記最新の位置推定によって決定される、
方法。
【請求項2】
前記組合せ装置(34)に、前記所期の値、前記位置偏差及び前記加速度偏差がその都度重み付けを伴って与えられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組合せ装置(45)に、状態ベクトルと、重み付けされた前記位置偏差及び前記加速度偏差と、が与えられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定センサ(205)を使用して測定される加工物(217)の座標が、前記最新の位置推定から並びに前記測定センサ(205)の測定値及び/又は信号から確認される、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記最新の位置推定及び/又は少なくとも1つの更なる状態変数の値である前記計算モデル(MOD)の推定が前記座標測定機(211)の前記駆動コントローラ又は駆動調整器に与えられ、前記少なくとも1つの駆動機構を作動させるための制御信号を生成するとき前記駆動コントローラ又は駆動調整器によって使用される、請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
記計算モデル(MOD)の計算に対して、より高く設定された重み付けの場合は影響がより大きくなり、より低く設定された重み付けの場合は影響がより小さくなり、前記重み付けは、前記座標測定機(211)の前記状態を表す状態変数と、前記駆動コントローラ又は駆動調整器によって生成される前記所期の値とを動作期間中の時間にわたってそれぞれ考慮に入れる品質基準に基づいて確認される、請求項1乃至の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
− 可動部と、
− 前記可動部(208)を直接又は座標測定機(211)の少なくとも1つの更なる可動部(202、203、207)によって間接的に駆動するための、従って加工物の座標を測定するための測定センサ(205)の動きを駆動するための少なくとも1つの駆動機構と、
− 前記少なくとも1つの駆動機構を作動させるための駆動コントローラ又は駆動調整器と、
− 前記可動部(208)の位置の値を測定するための位置測定システムと
を含む座標測定機(211)であって、
前記座標測定機(211)の動作を計算的にモデリングするための計算モデル(MOD)を有する計算装置を更に含み、
− 前記駆動コントローラ又は前記駆動調整器によって生成される所期の値を前記計算モデル(MOD)に与えることであって、前記所期の値は前記少なくとも1つの駆動機構の所期の状態をそれぞれ予め決定する、与えること、
− 前記測定される位置の値と前記計算モデル(MOD)の位置推定との間の位置偏差を形成することであって、前記位置推定は前記可動部(208)上の又は前記可動部(208)内の所定位置について前記計算モデル(MOD)によって生成される、形成すること、
− 前記可動部(208)における又は前記可動部(208)内の位置である加速度測定位置に配置される加速度センサによって加速度値を測定することであって、前記加速度測定位置は前記可動部(208)の全ての又は殆どのあり得る移動位置において前記位置測定システムの位置測定場所から或る距離を置かれ、前記可動部(208)の全ての又は殆どのあり得る移動位置において前記位置測定システムが前記可動部(208)の前記位置の値を測定する前記位置測定システムの前記位置測定場所よりも前記所定位置の近くにある、測定すること、
− 前記測定加速度値と前記計算モデル(MOD)の加速度推定との間の加速度偏差を形成すること
を行うように構成され、
前記座標測定機(211)の前記動作中に前記位置偏差及び前記加速度偏差がその都度重み付けを伴って前記計算モデル(MOD)の組合せ装置(34、45)に与えられ、前記計算モデル(MOD)はそれらを考慮に入れて最新の位置推定及び最新の加速度推定を出力し、前記可動部(208)の前記位置は前記最新の位置推定によって決定される、
座標測定機(211)。
【請求項8】
前記組合せ装置(34)に、前記所期の値、前記位置偏差及び前記加速度偏差がその都度重み付けを伴って与えられる、
請求項7に記載の座標測定機(211)。
【請求項9】
前記組合せ装置(45)に、状態ベクトルと、重み付けされた前記位置偏差及び前記加速度偏差と、が与えられる、
請求項7に記載の座標測定機(211)。
【請求項10】
前記座標測定機(211)が、前記最新の位置推定から並びに前記測定センサ(205)の測定値及び/又は信号から前記測定センサ(205)を使用して測定される加工物の座標を確認するように構成される、請求項7乃至9の何れか1項に記載の座標測定機。
【請求項11】
動作中、前記座標測定機が、前記最新の位置推定及び/又は少なくとも1つの更なる状態変数の値である前記計算モデル(MOD)の推定を前記座標測定機(211)の前記駆動コントローラ又は駆動調整器に与えるように構成され、前記駆動コントローラ又は駆動調整器は、前記少なくとも1つの駆動機構を作動させるための制御信号を生成するとき前記最新の位置推定を使用するように構成される、請求項7乃至10の何れか1項に記載の座標測定機。
【請求項12】
記計算モデル(MOD)の計算に対して、より高く設定された重み付けの場合は影響がより大きくなり、より低く設定された重み付けの場合は影響がより小さくなる、請求項7乃至11の何れか一項に記載の座標測定機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標測定機の可動部の位置を決定するための方法及び座標測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
座標測定機(以下CMMと略記する)の機械的構成及び運動学的構成は異なり得る。例として、このことはポータル設計、多関節アーム設計、平行の運動学的設計、又は水平アーム設計を有するCMMに関係し得る。全ての場合においてCMMは可動部を有し、その可動部上には測定センサが直接又は間接的に固定され又は結合される。従って、とりわけ検査対象物の座標を決定するためにセンサの助力を受けて検査対象物が測定される位置及び/又はアラインメントに前述の測定センサを導くために、可動部を動かすことによって測定センサも移動される。或いは又は加えて、測定センサは移動中に検査対象物を例えば走査式に感知することができる。可動部の動きはCMMの少なくとも1つの駆動機構によって駆動される。
【0003】
一例として、センサはCMMの可動部(例えば中空軸やアーム)上に装着される測定ヘッドである。測定ヘッド上にはプローブ(例えばプローブピン)を装着することができ、CMMはそのプローブを使用して加工物の表面を接触式に調べる。従って、測定しようとする加工物を接触式に調べるためのプローブもセンサ又はセンサの一部の一例である。測定ヘッドはセンサシステムを有し、とりわけかかるセンサシステムはそれを評価することで座標を突き止めることを可能にする測定信号を生成する。
【0004】
但し、他の測定センサも座標測定技術において出現する。一例として、センサは単に座標の測定を開始し得る。これは例えば、測定しようとする加工物と接触するときスイッチング信号を生成するスイッチング測定ヘッドの場合に当てはまり、かかるスイッチング信号は例えばCMMの可動部において位置測定システムのスケールを読み取ることによって座標の測定を開始する。原則的に、センサは接触によって測定を行う(加工物を接触式に調べる)センサと、接触による測定を行わないセンサとに分類することができる。例として、座標測定用の光学センサ(例えばカメラ)や容量センサは、接触感知の原理に基づかないセンサである。更に、特に同時に検出される加工物の領域の種類や大きさによってセンサを分類することができる。具体的には、センサは加工物の面上の或いは内部の点又は領域の座標しか測定できない場合があり、又は加工物の体積の座標を測定する場合がある。
【0005】
具体的には、測定センサは座標測定機の可動部又は可動部の少なくとも1つに確実に接続することができ、その位置は座標測定機の動作中にCMMの位置測定システムによって測定される。確実な接続は、再び取り外せる接続も意味すると理解すべきであり、前述の接続は例えば交換インタフェースによって確立され又は交換インタフェースで構成される。確実な接続の代わりに又はそれに加えて、測定センサと座標測定機の可動部の少なくとも1つとの間に可動式の接続があっても良く、又は前述の可動式の接続が確立され得る。一例として、測定センサは1つの回転軸を有する又は複数の回転軸を有する回転ジョイントによって可動部の1つに接続され得る。一例としてこの可動部は、ポータル設計若しくはガントリ設計を有する座標測定機の中空軸又は水平アーム設計を有する座標測定機の水平アームであり得る。可動式の接続の場合は少なくとも1つの交換インタフェースを使用することもできる。それぞれの交換インタフェースは、測定センサ及び/又は回転ジョイントの結合及び結合解除を可能にする。
【0006】
具体的には、可動部は伸長部、例えばアームとすることができ、伸長部の長さは伸長部の幅及び奥行の倍数(例えば少なくとも5倍や少なくとも10倍)である。幅及び奥行は、長手方向に垂直な互いに直交する2方向に測定され得る。
【0007】
とりわけCMMの少なくとも1つの駆動機構によって励起される機械的振動が、少なくとも1つの可動部及びその可動部に直接又は間接的に接続され又は結合される測定センサを有する上記の種類のCMM内で生じ得る。かかる振動は、センサが間接的に又は直接接続され又は結合される可動部においても生じる。CMMの位置測定システムが可動部の現在位置を測定しても、位置測定システムはほぼ全ての移動位置において測定センサに接続され又は結合される可動部領域の位置を測定しない。ほぼ全ての移動位置において、位置測定システムが可動部の位置を測定する点は、測定センサが結合され又は接続される領域からかなりの距離又は更に離れた距離にある。従って位置測定システムは、振動による領域の位置の意図的でない変化を直接測定することができない。
【0008】
他方で、測定センサの位置を決定し、従って測定センサの助力を受けて測定される検査対象物の座標を決定するためにも、測定センサが結合され又は固定される領域の位置が必要である。座標は測定センサの座標系の中だけでなく、とりわけ検査対象物又は座標測定機の定置台の座標系の中でも決定されるべきである。
【0009】
一例として、ポータル設計(即ちブリッジ設計)を有する座標測定機の場合、振動は測定ヘッドが結合される中空軸の下端において全ブリッジ又は全ポータルが変位し得る方向(規則としてY方向と示す)に生じ得る。水平アーム設計を有する座標測定機の事例では、とりわけ測定センサが取り付けられる非常に長い水平アームの場合、土台に対して変位し得るスタンドと一緒に水平アームが移動し得る方向(規則としてX方向と示す)に著しい振動が生じる可能性がある。
【0010】
例えば中空軸の下端又は水平アームの端部に加速度センサを設けることができ、前述の加速度センサは、測定センサが結合され又は接続される領域内の振動による加速度を測定する。時間に応じた加速度センサの測定値は2回時間積分することができ、それにより位置決めに応じて位置が得られる。しかし、これは2回積分するための初期値が知られており、加速度センサ更には2回時間積分することが結果を偽り伝える著しい誤差を引き起こさないことを前提とする。何れにせよ機械的振動の影響も考慮すべき場合、永続的に動作させるためにCMM上に正当な費用で組み立てることができる加速度センサは、座標測定機の典型的な動作時間にわたる位置について十分正確な決定結果を与えないことを本発明者らによる試行が明らかにしている。代わりに、時が経つにつれて決定結果の位相及び振幅が振動の実際の位相及び振幅から次第にずれていくことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0178362 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、座標測定機の可動部の位置を決定するための方法、及び機械的振動が可動部上で生じても可動部の位置を決定することを助ける座標測定機を規定することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、座標測定機の位置測定システムによって可動部の位置測定値が測定される。本明細書では可動部の位置は、可動部自体にある位置測定システム、又は測定しようとする位置若しくは位置成分(例えばY方向の位置成分)に関して可動部と同じように移動される別の可動部にある位置測定システムによって測定され得る。一例として、可動部の(例えばブリッジ設計を有するCMMの中空軸の)Y位置はブリッジの支柱の少なくとも1つにおいて測定することができ、それにより中空軸のY位置も再現する。しかし、それらの位置測定値は、ブリッジの支柱の位置からの中空軸の位置の中空軸の振動による如何なる偏差も含まない。
【0014】
更に、可動部の加速度値が測定される。その結果、可動部の機械的振動が測定学式に捕捉される。ブリッジ設計を有するCMMの例では、加速度センサが例えば中空軸の下端に位置する。水平アームの測定機の場合、加速度センサは、例えば測定センサも結合され又は測定センサが接続される水平アームの端部に位置する。
【0015】
更に、座標測定機の計算モデル(例えばCMMのコントローラ内のコンピュータによって実装される)が使用され、座標測定機の駆動コントローラ又は駆動調整器からの所期の値が計算モデルに与えられる。例として、少なくとも1つの駆動モータの所期の回転速度、所期の速度、又は所期の電流の値が計算モデルに与えられる。所期の値は、少なくとも1つの駆動モータを動作させるための所期の値であり、少なくとも1つの駆動モータにより、可動部の動きが少なくとも1つの更なる可動部によって間接的に駆動され又は直接駆動される。1つの位置成分しか測定されない場合、成分の方向に関係する所期の値、例えば可動部の動きをその方向にもたらす駆動モータの所期の電流や所期の回転速度だけを計算モデルに与えることができる。駆動コントローラ又は駆動調整器は、やはり計算モデルに与えられる所期の値によって動作させられる。これは、所期の値が駆動コントローラ又は駆動調整器の更なる部分に与えられる(例えば位置調整器の出力信号としての所期の回転速度が回転速度調整器に与えられ、又は回転速度調整器の出力信号としての所期の電流値が電流調整器に与えられる)こと、及び/又は少なくとも1つの駆動モータがそれぞれ有効な所期の値に従って作動されることを意味し得る。一例として、所期の電流に対応する電流が設定される。ここでは、任意の制御されたシステム又は調整されたシステムと同じように実際の電流値と所期の電流値との偏差があり得る。
【0016】
計算モデルは位置及び加速度の推定値を出力するように構成される。加速度とは、加速度センサの測定位置における加速度である。位置推定とは、可動部における又は可動部内の所定位置に関する推定である。位置測定システムによって可動部の位置が測定される場所は位置推定のための所定位置から常にずれ、又は(移動位置に応じた可動部自体における測定の場合は)通常ずれる。ここでは、位置推定のための所定位置から或る距離を置いた位置測定システムの位置測定場所も可動部の位置に関する値を与え、前述の値が位置推定のための所定位置に関係し又は変換できると仮定する。従って、位置測定値の時定数の偏差がなく、位置推定又は前述の偏差が訂正される。従って全体的に、位置測定値及び位置推定が同じであり又は互いに変換可能である。但しそれでもなお、位置測定場所では同じように起こらない機械的振動により所定位置において差異が生じる。本発明にとって重要なのは、両方の位置の値の時間平均が数回の振動周期の期間にわたって同じであること、又は振動を被らない所定位置における位置の値と位置測定値とのように時間平均が互いからずれることである。
【0017】
測定される位置の値及び計算モデルの位置推定から形成される位置偏差も、測定加速度値と計算モデルによって推定される加速度値との間に存在する加速度偏差のように計算モデルに与えられる。計算モデルは位置偏差及び加速度偏差を考慮し、適切に更新された位置推定及び更新された加速度推定を出力する。
【0018】
この説明で測定値、推定、及び偏差に関して複数形を使用する場合、そのことは測定値が繰り返し測定され、推定が計算モデルによって繰り返し生成され出力され、少なくとも1つの測定値と少なくとも1つの推定との間の偏差が繰り返し形成されることを意味する。具体的には、現在位置の測定値と現在位置の推定との間の位置偏差をCMMの動作の現時点においてその都度形成することができ、前述の位置偏差を計算モデルにフィードバックすることができる。同じことが加速度値にも当てはまる。但し、現時点における複数の測定値及び/又は複数の推定を考慮に入れて複数の偏差又は1つの偏差を確認することも除外されない。
【0019】
とりわけ計算モデルを用いたCMMの動作は、連続した作業サイクル内で計算モデルの演算を繰り返し実行する場合に行われ得る。
【0020】
計算モデルを使用する上記の手続きは、計算モデルの演算を繰り返し実行することに関して、計算モデルに入力変数を繰り返し与えることに関して、並びに計算モデルの出力変数の繰り返しの出力及び処理に関して原理的に制御工学から知られている。従って、とりわけ所謂オブザーバ及び所謂カルマンフィルタに関する制御工学の基礎についてはここでは繰り返さない。原則の問題として、それらは座標測定学分野の当業者にも知られている。一例として(特許文献1)は、オブザーバ又はカルマンフィルタを使用して座標測定機のセンサ素子の振動の機械的影響を補償することについて記載しているが、(特許文献1)でのセンサ素子は、センサ素子によって加えられるべき測定力をもたらすためのアクチュエータと組み合わせられ、アクチュエータは機械的振動を抑え又は補償するために作動させられる。位置測定場所と位置推定のための所定位置との間の距離はそこでは考慮されず、計算モデルに対する加速度偏差及び位置偏差のフィードバックもない。
【0021】
これらの偏差のフィードバックは、可動部の振動を考慮に入れる最新の推定を計算モデルが出力することを可能にする。加速度偏差のフィードバックだけでなく位置偏差のフィードバックもあるので、一方で実際の振動間の位相差及び振幅差、他方で加速度センサの加速度測定値を考慮に入れることができる。位置測定場所と位置推定のための所定位置とが概して互いに隔てられていても、位置測定システムは位置推定のための所定位置において測定を行わないので、位置偏差によって計算モデルに与えられる情報をこの趣旨で使用することができる。他方で加速度偏差は、数回の振動周期にわたる振動プロファイルを再現する計算モデル向けの情報を含む。従って機械的振動の場合に、所定位置における可動部の位置を計算モデルによって推定することもできる。
【0022】
具体的には以下の内容を提案する。座標測定機の測定センサが可動部の動きによって移動される、座標測定機の可動部の位置を決定するための方法であって、
− 座標測定機の駆動コントローラ又は駆動調整器によって生成される所期の値(即ち少なくとも1つの被制御変数の値)を座標測定機の計算モデルに与えるステップであって、駆動コントローラ又は駆動調整器は可動部を動かすために又は可動部及び座標測定機の少なくとも1つの更なる可動部を動かすために座標測定機の少なくとも1つの駆動機構を作動させ、それによって測定センサを移動させ、所期の値は少なくとも1つの駆動機構の所期の状態を予め決定する、与えるステップと、
− 座標測定機の位置測定システムによって可動部の位置の値を測定するステップと、
− 測定される位置の値と計算モデルの位置推定との間の位置偏差を形成するステップであって、位置推定は可動部上の又は可動部内の所定位置について計算モデルによって生成される、形成するステップと、
− 可動部における又は可動部内の位置である加速度測定位置に配置される加速度センサによって加速度値を測定するステップであって、加速度測定位置は可動部の全ての又は殆どのあり得る移動位置において位置測定システムの位置測定場所から或る距離を置かれ、可動部の全ての又は殆どのあり得る移動位置において位置測定システムが可動部の位置の値を測定する位置測定システムの位置測定場所よりも所定位置の近くにある、測定するステップと、
− 測定加速度値と計算モデルの加速度推定との間の加速度偏差を形成するステップと
を含み、
位置偏差及び加速度偏差が計算モデルに与えられ、計算モデルはそれらを考慮に入れて最新の位置推定及び最新の加速度推定を出力し、可動部の位置は最新の位置推定によって決定される、
方法。
【0023】
更に以下の内容も提案する。
− 可動部と、
− 可動部を直接又は座標測定機の少なくとも1つの更なる可動部によって間接的に駆動するための、従って加工物の座標を測定するための測定センサの動きを駆動するための少なくとも1つの駆動機構と、
− 少なくとも1つの駆動機構を作動させるための駆動コントローラ又は駆動調整器と、
− 可動部の位置の値を測定するための位置測定システムと
を含む座標測定機であって、
座標測定機の動作を計算的にモデリングするための計算モデルを有する計算装置を更に含み、
− 駆動コントローラ又は駆動調整器によって生成される所期の値を計算モデルに与えることであって、所期の値は少なくとも1つの駆動機構の所期の状態をそれぞれ予め決定する、与えること、
− 測定される位置の値と計算モデルの位置推定との間の位置偏差を形成することであって、位置推定は可動部上の又は可動部内の所定位置について計算モデルによって生成される、形成すること、
− 可動部における又は可動部内の位置である加速度測定位置に配置される加速度センサによって加速度値を測定することであって、加速度測定位置は可動部の全ての又は殆どのあり得る移動位置において位置測定システムの位置測定場所から或る距離を置かれ、可動部の全ての又は殆どのあり得る移動位置において位置測定システムが可動部の位置の値を測定する位置測定システムの位置測定場所よりも所定位置の近くにある、測定すること、
− 測定加速度値と計算モデルの加速度推定との間の加速度偏差を形成すること
を行うように構成され、
− 座標測定機の動作中に位置偏差及び加速度偏差が計算モデルに与えられ、計算モデルはそれらを考慮に入れて最新の位置推定及び最新の加速度推定を出力し、可動部の位置は最新の位置推定によって決定される、
座標測定機。
【0024】
とりわけ、絶対的な増分位置値及び/又は位置マークを有するスケールが位置測定システムの一部であり得る。例として、スケールは可動部上に形成され且つ/又は可動部に接続され得る。位置測定システムの少なくとも1つの位置センサを、可動部がそれに対して移動するCMMの一部に配置することができる。この可動部は、CMMの測定センサが接続され又は測定センサが結合される可動部であり得る。但し、このスケールを有する可動部は、測定センサが結合され又は測定センサが接続される可動部と一緒に移動するCMMの別の可動部とすることもできる。
【0025】
計算モデルが位置推定を生成する所定位置は、とりわけ測定センサが接続され又は測定センサが結合される可動部の一端における位置であり得る。とりわけその所定位置は、測定センサが配置される可動部の端部に関係し得る。可動部は伸長部とすることができ、端部は長手方向の伸長部の先端にあり得る。或いは又は加えて、所定位置は加速度センサが配置される位置であり得る。つまり、加速度測定位置と計算モデルの位置推定のための所定位置とが同じである。
【0026】
本方法及び座標測定機の実施形態及び構成を以下に記載する。
【0027】
或る構成によれば、測定センサを使用して測定される加工物の座標が最新の位置推定から、並びに測定センサの測定値及び/又は信号から確認される。一例として、スイッチング型の測定センサの場合、座標を決定するためにかかる測定センサの信号が使用される。座標測定機は、方法の構成に従って構成され得る。とりわけ座標を確認するとき、位置推定を位置の値として直ちに使用することができる。
【0028】
或いは又は加えて、少なくとも1つの更なる状態変数(例えば可動部の速度値)の最新の位置推定及び/又は最新の推定が座標測定機の駆動コントローラ又は駆動調整器に与えられ、少なくとも1つの駆動機構を作動させるための制御信号を生成するとき駆動コントローラ又は駆動調整器によって使用されても良い。座標測定機及び駆動コントローラ又は駆動調整器はしかるべく構成され得る。このようにして、可動部の振動を制御信号及び少なくとも1つの駆動機構の対応する動作によって抑え又は補償することができる。
【0029】
或る構成では、駆動コントローラ又は駆動調整器の所期の値、位置偏差及び/又は加速度偏差がその都度重み付けを伴って計算モデルに与えられ、そのため計算モデルの計算に対して、より高く設定された重み付けの場合は影響がより大きくなり、より低く設定された重み付けの場合は影響がより小さくなる。重み付けは、座標測定機の状態を表す状態変数と、駆動コントローラ又は駆動調整器によって生成される所期の値とを動作期間中の時間にわたってそれぞれ考慮に入れる品質基準に基づいて確認される。座標測定機は、所期の値、位置偏差、及び/又は加速度偏差を調節可能な重み付けを伴って計算モデルに与えるように構成され得る。従って座標測定機は、それにより重み付けを設定することができる適切な入力インタフェースを有する。品質基準の適用結果が例えばCMM自体によって確認され、そこから生じる重み付けが計算モデルに自動で採用される場合、調節は自動で行われ得る。
【0030】
重み付けを設定することによって計算モデルを改善すること、とりわけ品質基準に基づいて計算モデルを最適化することができる。一例として、異なる座標測定機は可動部の機械的振動に関して異なる挙動を有する。例えば可動部に異なる測定センサが結合される場合、同じ座標測定機が異なる挙動を有することもある。計算モデルを改善することは、とりわけ所定位置における機械的振動に関して、所定位置における位置の時間的プロファイルの推定を改善することをもたらし得る。
【0031】
具体的には、それにより所期の値、位置偏差、及び/又は加速度偏差の影響が設定されるそれぞれの重み付けは、複数の重み付け成分で構成され得る。重み付け成分のそれぞれは、座標測定機の状態を表す複数の状態変数のうちの1つに対する影響を設定し得る。
【0032】
具体的には、品質基準はスカラ変数のスケールに基づいて評価可能な結果を与えることができ、とりわけ結果がスケール上でより高くにあるのかより低くにあるのかを確認することができる。とりわけ品質基準内で考慮される重み付けは、品質基準の結果がスケール上で極小をもたらすまで、又は代替的実施形態では極大をもたらすまで変えることができる。この最小化又は最大化により、最適化された計算モデルをもたらす関連する重み付けが確認される。
【0033】
次に本発明の例示的実施形態を添付図面に関して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に関連して用途を見出すことができる座標測定機の一種の一例としてポータル設計を有する座標測定機を示す。
図2】例えば図1に示す座標測定機に関係し得るシステムを概略的に示し、例えば近似伝達関数形式の計算モデルがシステムから確認される。
図3】オブザーバに基づく計算モデルの一例示的実施形態を概略的に示す。
図4】カルマンフィルタに基づく計算モデルの一例示的実施形態を概略的に示す。
図5】機械的振動を抑え又は補償するための駆動調整用のフィードバックを有する計算モデルの一例示的実施形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に示すポータル設計を有する座標測定機(CMM)211は測定台201を含み、その上に支柱202、203がデカルト座標系のY方向に移動可能な方法で配置される。横ばり204と共に、支柱202、203はCMM211のポータルを形成する。横ばり204はその両端において支柱202及び203にそれぞれ接続される。駆動機構としての電気モータ(不図示)が、支柱202、203の直線運動及び支柱202、203によって運ばれるパーツの直線運動をY方向に延びる移動軸に沿って引き起こす。ここでは例えば1つの電気モータが2つの支柱202、203のそれぞれに関連する。横ばり204は、デカルト座標系のX方向に横ばり204に沿って例えば空気軸受によって移動可能な横送り台207と組み合わせられる。スケールの目盛206に基づいて横ばり204に対する横送り台207の現在位置を明らかにすることができる。X方向の移動軸に沿った横送り台207の動きは、駆動機構としての少なくとも1つの更なる電気モータ(不図示)によって駆動される。垂直方向に移動可能な中空軸208が横送り台207に装着され、横送り台207の下端において測定ヘッド205に取付装置210によって接続される。角度がついた単一軸の回転ジョイント215が、交換インタフェース209によって測定ヘッド205に結合される。回転ジョイント215を使用し、プローブピン111がプローブ球121に接続される。更なる電気モータ(不図示)によって駆動され、回転ジョイント215がZ軸に平行に延びるデカルト座標系の回転軸を中心に回転されても良く、それによりプローブピンが例えば測定台201上に立つ検査対象物217の方向に整列する。
【0036】
更に図1は、概略的に示す接続230によって測定ヘッドから測定信号を受信する評価装置220を示す。CMM211の概略的に示すコントローラ222が駆動機構(例えば上記の電気モータ)を作動させる。具体的には、コントローラ222は、駆動機構を制御することによってプローブピン111を所望の位置に移動させ、プローブピン111を所望の測定方向に整列させることができる。
【0037】
コントローラ222は、計算装置221に更に結合され又は計算装置221を含み、計算装置221内では、CMM211の計算モデルの計算がCMM211の動作中に繰り返し実行される。計算モデルは、所定位置、とりわけ中空軸208の底部における可動部の位置の位置推定を繰り返し生成し、位置推定は所定位置における機械的振動も考慮に入れる。
【0038】
とりわけ所定位置に又は所定位置の近くに少なくとも1つの加速度センサが(例えば測定ヘッド205の一部として又は取付装置210に組み込まれて)配置される。一例として、加速度センサは、図1では狭まった円筒部分として描かれている取付装置210の上部に組み込むことができる。具体的には、少なくとも1つの加速度センサはY方向の加速度を厳密に言えば繰り返し、とりわけ各作業サイクル内で測定し、後で計算装置221に転送される加速度測定値を出力する。これを使用し、特に支柱202、203の駆動機構、横送り台207の駆動機構、及び/又は中空軸208の駆動機構によって励起される機械的振動による加速度を考慮に入れることができる。但し、少なくとも1つの加速度センサが測定位置における加速度の異なる成分又は測定位置における加速度の複数の成分を測定することも可能である。
【0039】
計算装置221の動作にとって、従ってCMM211の計算モデルにおいて、加速度測定値及び位置測定システムの位置測定値が同じ成分(例えばY方向に関する成分)について測定され与えられることが好ましい。(例えばY方向及びX方向に関する)複数の成分の場合、対応する偏差が推定を行うために使用されモデルに与えられることにより、同じ成分に関する測定値が加速度及び位置の両方について計算モデル内で再び考慮される。
【0040】
図1の横ばり204の下端において垂直方向に延びる複数本の短い線によって位置測定システムのスケールを表す。更なるスケールが、とりわけ中空軸208に沿う垂直方向(Z方向)に、及び測定台201の長手方向の縁に沿う水平方向(Y方向)に延び得る。CMM211の一部の上にそれぞれ配置され、それに対してスケールが移動する割り当てられた位置測定センサを使用し、位置測定システムは中空軸208の位置をとりわけY方向、X方向、及びZ方向に測定する。計算モデルの演算にこれらの測定値のどれを使用するのかは、計算モデルによって位置を決定するとき、これらの方向のどれに対して機械的振動を確認することを意図するのかに関係する問題によって決まる。計算モデルは、位置測定システムによって直接得られる位置測定値を、この(これらの)成分又は方向に関する自らの位置推定で置換する。
【0041】
具体的には、位置推定は、測定ヘッド205の測定値からCMM211の座標系内で測定しようとする加工物217の座標を確認するために使用される。一例として、この目的を達成するために中空軸208の下部にある所定位置の位置推定が使用される。
【0042】
或いは又は加えて、駆動コントローラを動作させるために、位置推定及び/又は少なくとも1つの更なる状態変数(例えば速度値、加速度値、及び/又は非物理的状態変数の値)の推定を使用することができる。一例として、位置推定及び/又は他の推定がとりわけ駆動コントローラ又は駆動調整器の各作業サイクル内で繰り返し考慮され、CMM211の駆動機構を作動させるための制御信号がそこから生成される。従って、それらの制御信号を使用して所定位置における機械的振動を抑え又は補償することができる。
【0043】
次に、システムSYS、例えば図1に示す座標測定機211について例えば近似伝達関数形式のモデルをどのように確認できるのかを図2に関して説明する。
【0044】
システムSYSの少なくとも1つの駆動機構を作動させる別個に図示する調整器REGが、調整器REGの別の部分に与えられ又はシステムSYSの少なくとも1つの駆動機構に直接与えられる制御信号を出力する。それらの出力信号は、システムSYSにとっての入力信号INPである。それを受けてシステムSYSが出力信号OPTを出力する。本発明に関して、入力信号INPは駆動コントローラ又は駆動調整器の所期の値であり、計算モデルに与えられる。出力信号OPTは、少なくとも位置測定値及び/又は加速度測定値である。
【0045】
システムSYSを識別する方法ステップIDTでは、入力信号INP及び出力信号OPTを処理してシステムSYSのモデルMODを形成する。任意選択的に、入力信号INP及び出力信号OPTに加えて追加の情報、例えばシステムSYSの物理的特性に関する情報をモデルMODに使用することができる。
【0046】
位置推定によって座標測定機の可動部の位置を決定するために使用される計算モデルは、とりわけ図2のモデルMODであり得る。但し本発明は図2のモデルに限定されない。異なる種類のモデルがあっても良い。
【0047】
計算モデルは、例えば図2の計算モデルMODの場合のようにとりわけモデルを規定するために入力信号INP及び出力信号OPTが使用される場合、自らの計算内でシステムの状態変数を使用することができる。状態変数は、所定位置における可動部の位置、とりわけ少なくとも1つの加速度センサの測定位置における可動部の対応する速度や可動部の対応する加速度等の物理的な状態変数であり得る。但し、或いは又は加えて、それらの状態変数は規定された物理的意味を有さない純粋に数学的な状態変数でも良い。具体的には、状態変数の全体を状態ベクトルによって表すことができ、その成分は個々の状態変数である。かかる状態ベクトルは、状態ベクトルと演算行列との乗算によって表わされ得るやり方で計算モデルによって処理され得る。
【0048】
従って、一般的な言葉で表現すると、計算モデルは純粋に数学的なモデルとすることができ、又は少なくとも部分的な物理的意味を有する数学的モデルとすることができる。計算モデルは、機械的振動に関するシステムの挙動が、例えばシステムによるばね−質量相互作用を表す近似微分方程式によって表わされる純粋に物理的なモデルとすることもできる。この場合、計算モデルの実装される形式は微分方程式の解又は近似解を含む。
【0049】
CMMの計算的モデリングにCMMの質量、機械的振動を抑えるためのCMMの減衰特性、及びCMMの剛性特性を使用する有限要素モデル(FEM)は、座標測定機の物理的モデリングの別の形式である。かかるFEMについては座標測定学の分野で既に説明されており、ここではこれ以上詳しく説明しない。計算モデル内に実装されるFEMは、機械的振動をもたらす作用加振力を考慮に入れてシステム挙動を表す行列及び/又はベクトルを例えばコンピュータプログラムとして出力し得る。このようにして、本発明の目的に適した状態空間モデルを生成することができる。
【0050】
計算モデルによって位置を推定するための所定位置におけるCMMの振動挙動は、CMMの運動状態に依存し得る。一例として、最大に伸長された水平アームの場合の振動挙動は、水平アームが短く伸長される場合と異なり得る。ポータル設計を有するCMMの場合、振動挙動は3つの直線軸X、Y、及びZのそれぞれに関する移動位置にも概して依存する。具体的には、横ばり(図1の参照番号204)に沿って移動可能なスライド(図1の参照番号207)のX方向の位置は、中空軸(図1の参照番号208)の下端における振動挙動にとって重要である。同じことが、振動挙動にとってやはり重要である中空軸のZ位置にも当てはまる。
【0051】
計算モデルは、CMMの少なくとも1つの直線軸及び/又は回転軸に関する振動挙動の位置依存性もモデル内で考慮に入れることができる。但し如何なる場合にも、計算モデルへの位置偏差及び加速度偏差のフィードバックにより、計算モデルは位置変化に対してロバストである。異なる振動挙動、例えば異なる振動数や異なる振動振幅が加速度センサの測定信号によって捕捉され、その結果、モデルは前述の異なる振動挙動を加速度偏差の形で利用できる。
【0052】
或いは又は加えて、可動部の位置に対するシステムの振動挙動の依存性を、可動部の位置に応じた様々な値を有するモデルのパラメータによって考慮に入れることもできる。更に、可動部の様々な位置のための専用モデルをそれぞれ確認し、その位置に対してそれぞれ定められるモデルをCMMの動作中に使用することが代替的に又は追加で可能である。モデルの数を現実的な最大数に制限するために、可動部の位置に関する空間区域を定めることができ、空間区域のそれぞれについて割り当てられた計算モデルが使用される。とりわけ所定位置が空間区域の中にある場合に関連するモデルが使用される。
【0053】
所期の値(図2の例の入力信号INP)は、アナログ変数の値又はデジタル値とすることができる。一例として、これは駆動コントローラ又は駆動調整器がアナログ値を生成して出力するかデジタル値を生成して出力するかによって決まる。デジタルの所期の値の場合、デジタル計算モデルのためにアナログ値をデジタル値に変換することが省かれる。
【0054】
更なる説明は計算モデルの例示的実施形態を何度か使い、その計算モデルでは上記のように複数の状態変数がそれぞれのシステム状態を表す。所定位置における位置の推定及び特に加速度センサの測定位置における加速度を生成して出力するために、状態変数が所謂状態空間モデル内でとりわけ状態ベクトルの成分として処理される。
【0055】
より詳細に更に説明するように、計算モデルはオブザーバ又はカルマンフィルタの原理に基づいて実装することができる。計算モデルの計算操作は、とりわけCMMのコントローラ、特にリアルタイムコントローラのシステムクロックを用いて繰り返し実行される。具体的には、1組の入力値(所期の値、加速度偏差値、及び位置偏差値)が受信され、位置推定及び加速度推定が各作業サイクル内で出力される。位置偏差及び加速度偏差の値がそこで与えられる計算モデルの作業サイクル内の位置は、オブザーバとしての又はカルマンフィルタとしての実施形態に依存する。
【0056】
既に述べたように、推定位置及び位置測定システムによって測定される位置の時間平均は機械的振動の数回の振動周期にわたって互いにずれず、又は定数の分だけずれるに過ぎない。計算モデルにフィードバックされる位置偏差の重み付けを設定することによってこの挙動が保証されること、及び該当する限りにおいて時間の点で一定である偏差だけが残ることが好ましく、前述の偏差は機械が振動していない状態の所定位置と位置測定場所との間の距離に由来する。更に、計算モデルにフィードバックされる加速度偏差値の重み付けは、計算モデルによって確認される所定位置の推定位置の時間的プロファイルが、数回(例えば3回や5回)の振動周期にわたる加速度測定値から生じる振動プロファイルに従うやり方で設定されることが好ましいが、加速度センサの位相測定誤差により、加速度測定値の時間プロファイルと推定加速度値との間には位相オフセットが生じる場合がある。
【0057】
オブザーバに基づく計算モデルの一例示的実施形態について図3に関してまず以下で説明する。図2にあるように、このシステムはSYSで示す長方形の枠によって図3でも概略的に示されている。駆動コントローラ又は駆動調整器の所期の値DACが、システムSYS及び計算モデルMODの両方に与えられる。値の供給及び処理が、とりわけCMMのシステム作業サイクル内で実施される。システムの出力変数は、CMMの位置測定システムの位置測定値の形で生成される可動部の位置sと、加速度測定値の形で存在する加速度センサの測定位置における加速度aとである。推定、つまり加速度推定
【数1】

及び位置推定
【数2】

が計算モデルMODによって出力される。現在測定されているそれぞれの位置の値sとそれぞれの現在の位置推定
【数3】

との間の偏差が第1の確認装置31によって確認され、その結果生じる偏差Δsが計算モデルMODにフィードバックされる。第2の確認装置32が、現在の加速度測定値aと現在の加速度推定
【数4】

との間の偏差をそれぞれ確認し、対応する加速度偏差値Δaを計算モデルMODにフィードバックする。
【0058】
ここでは、位置偏差Δsが重み付け演算子H(例えばスカラ、ベクトル、又は行列)と乗算される。ベクトル又は行列の場合、この第1の重み付け演算子Hの成分は何れの場合にも、システムSYSの状態を表す状態ベクトル又は状態空間の状態変数に関する重み付け成分である。とりわけ、重み付け成分は時間的に一定の、即ち経時変化しない重み付け成分であり得る。状態変数は物理的な状態変数及び数学的な状態変数の両方であり得る。一例として、計算モデルMODは、所定位置における位置の物理的な状態変数、加速度センサの測定位置における加速度、及び任意選択的に例えば時間に対して位置を微分することによって且つ/又は時間に対して加速度を積分することによって確認可能な所定位置における速度も使用する。第1の重み付け演算子Hに関するような同じことが第2の重み付け演算子Hにも当てはまり、第2の重み付け演算子Hによって加速度偏差Δaが重み付けされ、それによって、例えば異なる重み付け成分によって様々な状態変数に関する重み付けを行うことが可能である。第1の重み付け演算子H及び第2の重み付け演算子Hの重み付け成分はゼロ値を有することができ、即ち個々の状態変数に関してそれぞれの偏差の影響が与えられない。
【0059】
任意選択的にこの例示的実施形態では、システムSYSの挙動をより良く表せるようにするために、物理的な状態変数に加えて、例えば3つ、4つ、又は5つの純粋に数学的な状態変数を追加することができる。
【0060】
こうして重み付けされる偏差Δs及びΔaは、組合せ装置34によって計算モデルMODに与えられる。更に、この例示的実施形態では重み付け演算子B(例えばスカラ、ベクトル、又は行列)との乗算によって重み付けされる、駆動コントローラ又は駆動調整器の所期の値DACが組合せ装置34に与えられる。とりわけ重み付け演算子Bは、状態空間モデルの制御ベクトルに対応する。任意選択的に、重み付け演算子Hのように重み付け演算子Bは、モデルの様々な状態変数に対するそれぞれに現在有効な所期の値の影響を設定する非常に多数の重み付け成分を有し得る。重み付け演算子Bがスカラの場合、モデルのこの時点において様々な状態変数に対する影響は引き起こされない。
【0061】
参照番号33は遅延部材(retardation member)を示す。かかる遅延部材は、制御を表すために制御工学から知られており、データのクロック処理に対応する挙動を記号で表す。図3の場合、このことは所期の値DAC、位置偏差Δs、及び加速度偏差Δaから生成される計算モデルMODの入力値が次の作業サイクル内でのみ重要であることを意味する。かかる入力値は、図3の下部の行列Aによって表わすモデルの実際の計算操作、及び組合せ装置34に同様に与えられる各作業サイクル内のモデルの計算操作の結果から得られる。従ってこれらの実際の計算操作は、先行する作業サイクルからモデルに与えられる値を使用する。更に、行列C(或いはベクトル)を用いた演算によって表わすように、組み合せ後の計算結果が各作業サイクル内で1作業サイクルの遅延を伴って組合せ装置34によって出力される。既に述べたように、位置推定
【数5】

及び加速度推定
【数6】

が出力される。
【0062】
ベクトル、スカラ、又は行列H及びHを定めるフィードバック係数のパラメータは、とりわけ多数(例えば合計5個から30個)のパラメータであり得るので、品質基準を使用してパラメータ値を事前に、即ち座標測定機の動作前に確認するのが好ましい。具体的には、この目的で座標測定機の検査動作を行うことができる。等式
【数7】

において、Jは品質基準の範囲内の計算結果を示し、Jは事前に決定できる固定値(多くの例示的実施形態においてゼロであるように選択することができる)を示し、xはベクトルの成分としての状態変数の値から形成され、状態空間モデルの行列、ベクトル、又はスカラA及びCによって決定可能な状態ベクトルを示し、x’は行列乗算によって状態ベクトルからスカラ変数を形成するための対応する転置状態ベクトルを示し、Qはそれにより測定値又は対照的にモデルに信頼が置かれる程度を調節できるようにする行列を示し、その結果測定値の影響がそれに従って低下するダイナミクスを設定することができ、uはそれぞれの所期の値DACから形成され、求められている行列、求められているベクトル、又は求められているスカラHのパラメータ(例えば行列の場合はベクトルH及びHによって形成される2列で構成される)をとりわけ係数として更に含むベクトル
u=−Hx
を示し、u’は、測定値に対する影響がそれにより低下する速度を設定することを可能にする、行列Rとの乗算によってスカラ変数を得るための対応する転置ベクトルを示す。一例として、計算モデルを実装し且つ/又はパラメータを計算するためにプログラムMatlabを使用することができる。
【0063】
この説明の更なる部分において、カルマンフィルタに基づく別の計算モデルを説明するために図4を使用する。カルマンフィルタ又は図4によるモデルのパラメータを設定するために、上記の等式によって表わしたのと同様の品質基準を使用することができる。しかし、この場合の行列Rはオブザーバに基づくモデルの場合から外れた意味を有する。カルマンフィルタの場合、行列Rの値を使用して、測定値がそれにより雑音を被る、即ち例えばアナログセンサ(加速度センサ及び位置測定システムのセンサ)によってもたらされる不規則変動又は準不規則変動を有する程度を設定する。
【0064】
上記の等式内の表現Minは、行列、ベクトル、又はスカラH内に含まれるパラメータを変えることによって品質基準の計算結果
【数8】

が最小化されることを表す。極小又は或る極小が見つかると、1組の対応するパラメータ値を計算モデル内で採用し、座標測定機の動作中に使用する。
【0065】
図4図3に対応する説明図を示すが、図4では計算モデルMODがカルマンフィルタに基づく。測定変数及び推定変数に関して、更に所期の値に鑑みて同じ記号が使用されている。確認装置31、32も図3の事例にあるのと同じ機能を有し、図3にあるのと同じ参照番号によって示されている。しかし、図4の遅延部材33の入力における組合せ装置は、モデルの実際の計算(ここでも行列Aによって表わす)結果と演算子Bによって重み付けされている所期の値DACとを組み合わせるだけなので参照番号44によって示す。
【0066】
図3とは対照的に、更なる組合せ装置45がなおあり、前述の組合せ装置は、作業サイクルの終わりの状態ベクトル
【数9】

を重み付けされた位置偏差Δs及び重み付けされた加速度偏差Δaと組み合わせる。第2の組合せ装置45の出力変数として修正済みの状態ベクトル
【数10】

が生じる。カルマンフィルタの原理により、重み付けは時間の点で一定ではない演算子、例えば図4の位置偏差Δsの重み付けに関して記号K(k)によって示すベクトル、及び加速度の重み付けΔaに関して記号K(k)によって示すベクトルによって行われる。この場合も重み付けは、割り当てられた状態変数に対するそれぞれの偏差の影響を設定する重み付け成分を有するベクトルに関係し得る。従って図4に示すように、重み付けされた偏差が作業サイクルの始めに与えられ、その結果生じる修正済みの状態ベクトル
【数11】

が作業サイクル内のモデルの計算を実行するために使用される。この修正済みの状態ベクトルは、演算子A(例えば行列)の入力において得ることができる。
【0067】
例えば現在のサイクル内の状態変数の修正又は訂正をもたらす以下の等式を使用し、計算モデルMODのパラメータの計算を行う。原則的に、カルマンフィルタはフィードバックされる偏差に対して、図3によるオブザーバよりも素早く反応する:
【数12】

式中、Pは、1組の等式のうちの最初の行の右辺に示されており、推定の不確実性を再現する共分散行列に対応するそれぞれの作業サイクルn内の演算結果を示し、Aはシステム行列と見なすことができる図4の行列Aを示し、
【数13】

は先行する作業サイクルからの共分散行列又は最初の作業サイクル内の所定の行列を示し(前述の所定の行列は状態変数の初期値を定め、それらの値は未知の初期値の場合はゼロ値にそれぞれ設定することができる)、Qはオブザーバの品質基準と類似するやり方で計算モデルのダイナミクスを定める行列を示し、A’は転置されたシステム行列Aを示し、Kは、カルマンゲインと見なす1組の等式のうちの2番目の等式の右辺上での演算結果を示し、Cは、状態ベクトル
【数14】

に適用されると位置及び加速度の推定をもたらす図4のモデル行列を示し、C’は転置されたモデル行列Cを示し、Rは測定値の雑音を表す行列を示し、
【数15】

は現在のサイクル内の最新の共分散行列を示し、Eは恒等行列、即ちその主対角線に沿って1の値をそれぞれ有し、その残りの値がゼロである行列を示し、
【数16】

は先行する作業サイクルからの状態ベクトルを示し、前述の状態変数の初期値が最初の作業サイクルについてこのために設定され、Bは図4に示す演算子を示し、uは駆動コントローラ又は駆動調整器の現在の所期の値DACによって形成され、例えばスカラであり得るベクトルを示し、又は例えば前述のベクトルの1つの成分だけがゼロに等しくなく、
【数17】

は上記の1組の等式のうちの5番目の等式内の演算結果を示し、
【数18】

は上記の1組の等式のうちの6番目及び最後の等式の右辺上での演算結果を示し、
messは、測定位置sに関する測定値及び測定加速度aによってその成分が形成されるベクトルを示す。式中、行列Kは、そこから演算子K(k)及び演算子K(k)の両方が形成され、又は前述の両方の演算子が前述の行列で構成される行列である。一例として、これらの2つの演算子は、更に多くの行及び列から成るより大きい行列Kに構成される行列である。
【0068】
カルマンフィルタにおける位置偏差値及び加速度偏差値の記載した種類のサイクル依存型のフィードバックの結果、オブザーバよりも素早く反応する計算モデルが得られ、結果として前述の計算モデルはCMMの可動部の振動挙動の位置依存性に関してよりロバストでもある。カルマンフィルタに基づくモデルを使用し、計算モデルを作成するとき不正確さをより良く補償することもでき、即ち計算モデルが不正確であるにもかかわらずシステムの挙動がより良くモデリングされる。
【0069】
少なくとも1つの加速度センサは、例えば圧電センサの測定原理に基づくセンサであり得る。センサの水晶に力が作用すると、正荷電粒子及び負荷電粒子の対応する荷電分離がもたらされ、前述の分離は例えば電圧として測定することができる。しかし、水晶又は水晶が複数ある場合は複数の水晶は等加速度の場合に定電圧を有さず、それは時が経つにつれて荷電分離がますます戻るからである。但し、他の加速度センサも誤差を被る加速度測定値をもたらす。位置偏差及び加速度偏差の両方をフィードバックすることは、測定誤差にもかかわらず振動挙動の適切な計算的モデリングをもたらす手段である。
【0070】
一例として、容量的に測定するMEMS(微小電気機械システム)センサを加速度センサとして使用することができる。かかるセンサの測定値を処理することは誤差を被り、その理由はとりわけ外的影響によって干渉が生じ、前述の干渉が測定信号の変化又は測定信号を伝送する間の誤差を招くからである。それでもなお、容量的に測定するMEMSセンサが本発明では好ましい。
【0071】
CMMの駆動機構によって引き起こされる可動部の機械的振動に加え、異なる原因による振動もある可能性があり、前述の振動はCMMの土台(例えば花こう岩)にも関係する。土台も振動する場合、その振動は可動部上の加速度センサの測定結果に直接的な影響を有し得る。この場合、CMMの土台上に少なくとも1つの追加の加速度センサを配置することを提案する。この場合、可動部の測定位置における少なくとも1つの加速度センサの測定信号を使用する代わりに、可動部上の少なくとも1つの加速度センサの測定信号と、土台上の少なくとも1つの加速度センサの測定信号との差を使用することができる。その結果、土台の機械的振動の影響がなくされる。
【0072】
次に、計算モデルによって推定される、CMMの駆動機構に関する可動部の所定位置における位置を考慮に入れるための一例示的実施形態について図5に基づいて説明する。具体的には、この実施形態は駆動機構によって引き起こされる振動を抑えるために使用され得る。但し、とりわけカルマンフィルタの場合、機械的振動の包括的な補償を得ることさえでき、即ち計算モデルによって推定される位置が複数の駆動機構又は少なくとも1つの駆動機構を作動させるために考慮されない場合に比べ、推定位置を考慮に入れて生成される駆動コントローラ又は駆動調整器の制御信号は、駆動機構によって励起される可動部の機械的振動の開始時に既に振動振幅を著しく減らすことをもたらす。
【0073】
図5は、図3の場合と同様の説明図を含み、即ち計算モデルがオブザーバに基づく。或いは、カルマンフィルタに基づく計算モデルを使用することもできる。更に、図5の説明図は、位置偏差及び加速度偏差から計算モデルMOD用の適切に重み付けされた影響変数をもたらす演算子Hに関して図3の説明図との関連で単純化されている。図5ではこれらの演算子を記号Hによって一体化して示す。図5では、図3の2つの確認装置31、32も単一の確認装置51によって一体化して示す。但し、これらの確認装置の機能及び演算子Hの機能は図3の場合と異ならない。
【0074】
更に図5では、システムSYSの出力における測定位置s及び加速度aを時間tに依存するベクトルy(t)として示す。ベクトルyの現在値及び計算モデルMODによって生成される現在の推定状態ベクトル
【数19】

の両方が組合せ装置55に与えられ、組合せ装置55には時間依存性の基準変数w(t)も与えられる。ここでは、位置の物理的な状態変数
【数20】

及び加速度の物理的な状態変数
【数21】

に加えて、計算モデルMODによって出力される状態ベクトルが更なる状態変数、例えば純粋に数学的な状態変数や更なる物理的な状態変数、及び/又は所定位置における可動部の速度も含み得る。組合せ装置55は上記の供給値から、演算子K(例えばベクトル)が適用される調整誤差e(t)を出力変数として生成する。演算子Kによって重み付けを行うことができる。所期の値の変数u(t)がそこから生じ、前述の所期の値の変数は、ことによると図3及び図4にあるのと同じ所期の値の変数である。表示DACを更に使うことによってそれを示す。上記の場合のように、所期の値は、ここでは例えばCMMの少なくとも1つの駆動機構の所期の回転速度、所期の速度、所期の電流又は制御電圧に関係し得る。
【0075】
或いは、測定ベクトルy(t)又は対応するスカラ(後者はフィードバック測定変数が1つだけの場合)及び推定状態ベクトル
【数22】

をフィードバックすることは、状態変数ごとに、2つのフィードバックベクトル又はスカラのうちの1つだけが0に等しくない値を含むやり方で実行することができる。その結果、2つのフィードバックベクトル又はスカラのうちのどちらがこの状態変数について駆動調整に影響を与えるのかに関する明確な定義がある。但し、計算モデルMODによって考慮される全ての状態変数について値が組合せ装置55にフィードバックされる必要はない。どの1組のフィードバック状態変数が最も優れた振動の減衰又は補償を実現するのかは、検査動作又はシミュレーション内で、とりわけ組合せ装置55にフィードバックされる1組の状態変数を変えることによって確認することができる。
【0076】
とりわけ組合せ装置55の機能によって実現できることは、測定ベクトルy(t)及び推定状態ベクトル
【数23】
の両方がフィードバックされるにもかかわらず、フィードバックされる定義済みの各状態変数(例えば加速度及び位置)が調整誤差e(t)内の単一の状態変数としてのみ含まれることである。ここでは、ベクトル又はスカラw(t)は定義済みのフィードバック状態変数の数の次元しか有さない。状態変数に対応する成分内のゼロで基準変数w(t)を埋めることによって実現され得ることは、とりわけ組合せ装置55が基準変数w(t)とフィードバックベクトルとの差を正確には各状態変数について成分ごとに形成する場合、対応する状態変数の負値が調整誤差e(t)の対応する要素に直接割り当てられること、即ちベクトルw(t)の対応する成分がゼロ値を有する差が形成されることである。ここでは、基準変数w(t)のベクトルの成分が永続的にゼロ値を有することも可能である。
【0077】
モデルのパラメータは、モデル形成の上記のそれぞれの方法によって定められる。演算子Kの値は、オブザーバの場合の上記のやり方と類似したやり方で事前に確認することができる。ここでは、任意選択的に2つのステップで続行することができる。最初に、オブザーバ又はカルマンフィルタを上記のように設計することができ、対応するパラメータHを確認することができる。次いで、品質基準の新たな適用によって演算子Kのパラメータを第2のステップ内で確認することができる。品質基準の場合のように、その適用については図3及び図4に関して説明しており、行列R及びQの複数の要素更には要素の大部分が0の値で占められることも可能である。かかる形態は品質基準の適用を単純化する。一例として品質基準の様々な適用において、ゼロ値で異なるように占められる行列を使用し、最良の結果をもたらす行列Q及びRの占有を確認することができる。図5内の演算子について適切なパラメータ値に素早く且つ確実に到達するための更なる選択肢は、既に述べたフィードバックの範囲内の少なくとも1つの状態変数を考慮しないこと、即ちその1つ又は複数の状態変数を組合せ装置55にフィードバックしないことにある。
【符号の説明】
【0078】
31 確認装置
32 確認装置
33 遅延部材
34 組合せ装置
45 組合せ装置
51 確認装置
55 組合せ装置
111 プローブピン
121 プローブ球
201 測定台
202 支柱
203 支柱
204 横ばり
205 測定ヘッド
206 スケールの目盛
207 横送り台
208 中空軸
209 交換インタフェース
210 取付装置
211 座標測定機
215 回転ジョイント
217 加工物
220 評価装置
221 計算装置
222 コントローラ
230 接続
図1
図2
図3
図4
図5