特許第6483804号(P6483804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6483804新規なHDMX阻害剤およびガン治療のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483804
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】新規なHDMX阻害剤およびガン治療のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 219/10 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   C07D219/10
【請求項の数】14
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-503776(P2017-503776)
(86)(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公表番号】特表2017-516842(P2017-516842A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】US2015023462
(87)【国際公開番号】WO2015153535
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】61/972,514
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516294942
【氏名又は名称】ミレクス ファーマシューティカルズ, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】MIRX PHARMACEUTICALS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ウォールド,デーヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】アガルワール,ムケシュ
(72)【発明者】
【氏名】シア,ジチン
(72)【発明者】
【氏名】カラン,グータム
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04472582(US,A)
【文献】 米国特許第05939428(US,A)
【文献】 FIGGITT,D. et al.,In vitro study of anticancer acridines as potential antitrypanosomal and antimalarial agents,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,1992年,Vol.36, No.8,p.1644-1647
【文献】 DENNY,W.A. et al.,Potential antitumor agents. 36. Quantitative relationships between experimental antitumor activity, toxicity, and structure for the general class of 9-anilinoacridine antitumor agents,Journal of Medicinal Chemistry,1982年,Vol.25, No.3,p.276-315
【文献】 GAO,H. et al.,Quantitative structure-activity relationships (QSAR) for 9-anilinoacridines: a comparative analysis,Chemico-Biological Interactions,1998年,Vol.116, No.3,p.157-180
【文献】 KLOPMAN,G. et al.,Computer-automated structure evaluation of antileukemic 9-anilinoacridines,Molecular Pharmacology,1987年,Vol.31, No.4,p.457-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で表わされるもの、又はその塩からなる化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物および薬理学的に許容し得るキャリアを有してなる薬剤。
【請求項3】
細胞に対し投与し、p53に対するHDMX活性と拮抗させ該細胞にアポトーシスを導入するために用いられる請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記細胞が被験者内のものである請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
更に、細胞内のHDMX活性増大について選択することを意図して用いられる請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
更に、減少したp53活性について細胞を選択することを意図して用いられる請求項3に記載の化合物。
【請求項7】
更に、増大したHDM2活性について選択することを意図して用いられる請求項5に記載の化合物。
【請求項8】
更に、nutlin‐3を細胞に投与することを意図して用いられる請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
更に、増大したHDMX活性およびHDM2活性についての細胞を選択すること、および前記化合物との組合せでnutlin‐3を投与することを意図して用いられる請求項3に記載の化合物。
【請求項10】
ガン細胞に投与し、ガンを治療することを意図して用いられる請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
前記ガン細胞が被験者内のものである請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記被験者がヒトである請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記化合物が吸入、注射又は経口投与により投与されるものである請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
ガン細胞が、減少したp53活性について選択されるものである請求項10に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は2014年3月31日出願の米国仮出願No.61/972,514に基づく優先権を主張するものであり、その全体がここに組み込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明はINVA3Z-2-1(CTX1)に由来する小分子化合物の合成に関するものであり、このCTX1は、異常なp53、HDMXおよびHDM2活性が関与するガンに対し低い毒性を有しながら強力な拮抗活性を示すものである。
【背景技術】
【0003】
ガン治療法の多くは、比較的非特異的様式で急速に分裂するガン細胞を殺し、それがしばしばDNA損傷を介してなされ、それがかなりの毒性又は他の合併症に引き起こすものとなっている。近時、特定の蛋白質‐蛋白質又は蛋白質‐RNA相互作用を標的とする薬剤が、より魅力的なものとなっている。なぜならば、それらの薬剤は効能および毒性に関して幾つかの優位性を提供するからである。正常な細胞生理学において、p53は腫瘍抑制蛋白質として機能し、細胞周期の進行およびアポトーシスを制御するのに中心的役割を果たしている。この重要な役割のため、p53は魅力的なガン治療標的として考えられている。なぜならば、その腫瘍抑制活性を刺激することにより、腫瘍細胞の成長を潜在的に根絶することができるからである。本発明は化学物質の新規な種類を提供するものであり、これらはHDMXと呼ばれる蛋白質を標的にするものである。HDMXはガン細胞の生存において主たる役割を果たしている。正常な細胞状態において、p53はHDMX蛋白質およびHDM2蛋白質の双方によりマイナスに調節されている。HDM2のNutlin-3誘導阻害がp53を誘起することにより、DNA損傷とは独立して、細胞の死を生じさせることが実証されている。Nutlin-3の変異体について現在、臨床試験が行われている。しかし、これらの類似体の使用は制限されるものである。なぜならば、それらはHDM2よりも、より大きいガン細胞のサブセット(subset;部分集合体)においてp53を抑制するHDMXに影響を及ぼさないからである。HDM2の構造的ホモログ(同族体)であるHDMXは、本発明の化合物により成功理に標的とすることができ、細胞周期停止を誘起させ、後にアポトーシス細胞死に至らしめることができる。本発明において、それらの化合物の構造および合成が提供されると共に、アクリジンスカフォールド(acridine scaffold)に基づくp53−HDMX相互作用を崩壊させる活性の分析が提供される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Albert; Linnell J. Chem. Soc. 1936, p88-93
【非特許文献2】Moehrle, Sientia pharmaceutica, 1997, vol.65, #1-2 p.11-20
【非特許文献3】Moore;Michael J. B. J. Med. Chem. 2006, 49, p582-599
【非特許文献4】Remington's Pharmaceutical Sciences (1980) 16th edition, Osol, A. Ed.
【非特許文献5】Patton. JT., et al., Cancer research 66, 3169-3176 (2006)
【非特許文献6】Hu. B., et. al., The Journal of biological chemistry 281, 33030-33035 (2006)
【非特許文献7】Gurova. KV., et. al., Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America 102, 17448-17453(2005)
【非特許文献8】Ringshausen. L., et. al., Cancer cell 10, 501-514 (2006)
【非特許文献9】Graves. B., et. al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, 11788-11793(2012)
【非特許文献10】Bista. M., et. al., PloS one 7, e37518 (2012)
【非特許文献11】Reed, D., et. al., The Journal of biological chemistry 285, 10786-10796 (2010)
【非特許文献12】Chene. P., et. al., Nat Rev Cancer. 3(2): 102-9 (2003)
【非特許文献13】Midgley. CA., et. al., Oncogene, 1997; 15(10): 1179-89 (1997)
【発明の開示】
【0005】
本願発明は、下記構造式(I)および(II)に表わされる化合物の組成物を提供するものであり、これら化合物は、DNA非損傷経路を以って種々のガン細胞株に対し強力な抗癌特性を実証するものである。細胞に対しこれら化合物を投与することから編集されたデータは、これら構造式(I)および(II)の化合物がHDMX阻害剤として作用し、HDMX、HDM2およびp53と関連する如何なるタイプのガンの治療において有益であることを実証している。特に、化合物INVA3Z-2-1(CTX1)およびINVA3Z-50-2(CTX50)は、HDMX蛋白質に向けて強力な結合親和性を示し、それ故、ガン細胞を最終分化へと至らしめるものである。
本発明の化合物は下記構造式(I)および(II)のものからなる:
ここで、XおよびXはそれぞれシアノ、ヨード、ハロゲン、ニトロ、アミド、フェニル、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアリール又はアルコキシから選択される基;aおよびbはそれぞれ0ないし4の整数;Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、スルホニル、スルフェート、インドール、イサチン、キノリン、インダゾール、アミノベンゾチアゾール、フェニルモルフォリン、フェニルピロール、アミノフェニルアミン、プロピルスルホニルフェニルアミンアジド、ブロモプロピルスルホニルフェニルアミン、エタノール、クロロエチルフェニルアミン、ジクロロエチルフェニルアミン、エタノールフェニルアミン、ビオチンフェニルアミン、メチルスルホニルフェニルアミン、アミノフェノール、アミノ安息香酸、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン、シアノフェニルアミン、メトキシルフェニルアミン、アミノピリジン、ピリジン n-オキシド、ヒドロキシフェニルアセトアミド、フェニルアミド、クロロフェニルアセトアミド、ヘテロアリールから選択される基;R'はシアノ、ハロゲン、カルボン酸、アミン、アジド、テトラゾール、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、スルフィン酸塩、ピリジル‐オキサジアゾール‐チオールおよびその塩から選択される基である。
【0006】
特に、本発明の化合物は下記の群から選択される構造式を有するものである:




【0007】
或る実施例においては、その構造は下記のもの又はその塩である:
【0008】
他の実施例においては、その構造は下記のもの又はその塩である:
【0009】
本発明は更に、上記化合物および薬理学的に許容し得るキャリアを有してなる薬剤化合物を提供する。
【0010】
本発明は更に、上記化合物を細胞に対し投与することからなる細胞にアポトーシスを導入する方法を提供するものであり、ここで、上記化合物はp53に対するHDMX活性と拮抗するものである。この場合の細胞は被験者内のものであってもよい。この方法は、細胞内での増大したHDMX活性および/又はHDM2活性について選択すること、および減少したp53活性について選択することからなる。或る場合において、HDM2活性も上昇した場合に、上記化合物をnutlin-3と共に投与してもよい。
【0011】
本願発明は、上記化合物をガン細胞に投与することを含むガン細胞の治療方法を提供するものである。このガン細胞は被験者内、例えばヒトのものであってもよい。上記化合物は吸入、注射又は経口投与により投与されるものであってもよい。ガン細胞は、減少したp53活性について、及び/又は増加したHDMX活性について選択されるものであってもよい。上記化合物はnutlin-3又は他の化学療法剤との組合せで投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はCTX1が、DNA損傷とは独立してp53を急速に誘発していることを示している。MCF7細胞はCTX1(3μM)又はドキソルビシン(Dox)(1μM)で図示した時間(時間)に亘って処置し、ウエスタン(western)分析をDNA損傷のマーカーについておこなった(p-p53(Ser15)およびp-H2AX)。
図2図2はCTX1がHDMXに対し特異的に標的とし、直接結合することを示している。その内(A)ではCTX1が、HDM2又はshp53ではなく、HDMXにより形質変換された細胞を優先的に殺していることを示している。ここで、示された構築物を過剰発現するIMR90細胞はCTX1の増大する用量(1,2.5および5μM)で処理され、トリパンブルー染色により72時間目での細胞死を評価した。(B−C)はHDMX過剰発現が白血病細胞におけるCTX1媒介死滅を阻害しないことを示している。ここで、(B)はOCl細胞におけるHDMX過剰発現およびOCl/HDMX細胞における HDMX過剰発現を実証するウエスタン分析を示している。(C)はHDMX過剰発現がOCl細胞のCTX1による死滅を阻害しないことを示している。この示された細胞はCTX1又はNutlin-3の増大する用量を以って処理された。LD50はトリパンブルーを使用して72時間目での細胞死を測定することにより計算されたものである。
図3図3はCTX1がHDMXに対し特異的に標的とし、直接結合することを示している。その内(A)ではCTX1が、HDMXと結合し、p53とはより少ない程度で結合することを示している。組換えp53、HDMX及び/又はビオチン-CTX1はin vitro(生体外)で培養し、ストレプトアビジンビーズを蛋白質錯体を引き降ろすのに使用した。(B)はビオチンおよび無関係のGSTタグ付け蛋白質、例えばFXRがHDMXと結合しないことを示している。(C)では、分光分析によりCTX1およびHDMXが直接、相互作用することが示唆されている。CTX1およびHDMXは単独で、精製なしで双方の薬剤のスペクトルパターンを表わしている。CTX1+HDMXサンプルおよびCTX1ポストカラム残留サンプルは、未結合CTX1を除去するためサイズ排除クロマトグラフィーをおこなった。(D−E)では、共免疫沈降により、CTX1が組換えHDMX/p53の相互作用を崩壊させるが、HDM2/p53ではそうでないことを示している。図示の薬剤は対照として使用された。CTX1は細胞におけるHDMX/p53の相互作用を崩壊させる。免疫沈降は、示した薬剤又はDMSO対照を用いて処理したOCl細胞からの溶解物を用いて示したようにして行われた。
図4図4はCTX1がHDMXと特異的に相互に作用することを示している。その内(A)ではELISAにより、CTX1が組換えHDMX/p53の相互作用を崩壊させるが、HDM2/p53ではそうでないことを示している。(B)は、分光分析では9-AAおよびHDMXの相互作用を支持するものがないことを示している。分光分析は9-AAを用いて行われた。(C)では、表面プラズモン共鳴試験により、HDMXがCTX1と直接相互作用することが示唆されている。CTX1の用量曲線を、固定化された組換えHDMXに対するSPRによる結合についてテストした。(D)では、CTX1又はCTX50又はNutlin-3の存在下又は不存在下でのp53およびHDMXの共免疫沈降、それに続くそれぞれの抗体のWB/ブロット分析により、各反応混合物中に蛋白質の存在が見出されている。CTX1およびCTX50のみが、対照DMSOとの比較において、p53-HDMX蛋白質相互作用を崩壊させ、HDM2阻害剤Nutlinがネガティブな対照であることが理解される。下方のパネルは、上方のものと同様であるが、免疫沈降をビオチン共役CTX1を用いて行ったものである。HDMX蛋白質バンドの存在はHDMXおよびCTX1の直接的結合を示すものである。
図5図5は、CTX1が野生型p53を発現する細胞の成長を優先的に阻害していることを示している。ここに示した細胞はCTX1で処理し、細胞周期分析は24時間目にPl染色を用いて行い、あるいは増殖を72時間目でMTTアッセイを用いて評価した。
図6図6は、CTX1がp53を発現するガンの成長を優先的に阻害していることを示している。(A-B)はCTX1が野生型p53を発現する細胞の成長を優先的に阻害していることを示している。HCT116 p53+/+又はp53-null細胞をCTX1(2μM)で処理し、細胞周期分析は24時間目にPl染色を用いておこなった。
図7図7は、CTX1が単独でガン細胞を殺し、その成長を抑制すること、ガン細胞内でのNutlin-3との組合せでも同様であることを示している。ここで、(A)は、野生型p53を発現する肺ガン細胞の成長を優先的に阻害していることを示している。A549細胞はCTX1(3μM)で処理し、細胞周期分析は24時間目にPl染色を用いておこなった。(B)は、CTX1とNutlin-3との組合せが有意なアポトーシスにつながることを示している。ここに示した細胞株はCTX1(3μM)、Nutlin-3(5μM)又はその組合せで72時間に亘って処理し、細胞死はアネキシン(Annexin)-V染色により評価した。CTX1は種々のガン細胞の成長を阻害する。ここに示した細胞は、ここに示した容量のCTX1を用いて処理し、その増殖は72時間目でMTTアッセイを用いて評価した。
図8図8は、CTX1のin vivo(生体内)での有意な抗癌活性を実証するものである。NSGマウスを尾静脈を介して一次ヒトAML細胞を注射し(媒体100μL中5x106細胞)、そのマウスをCTX1(30mg/kg ip)又はNutlin-3(200mg/kg po)で治療し、その生存率を評価した。
【発明の詳細な説明】
【0013】
本発明は下記構造式(I)および(II)のものからなる化合物、その塩および誘導体を提供するものである:

ここで、XおよびXはそれぞれシアノ、ヨード、ハロゲン、ニトロ、アミド、フェニル、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアリール又はアルコキシから選択される基;aおよびbはそれぞれ0ないし4の整数;Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、スルホニル、スルフェート、インドール、イサチン、キノリン、インダゾール、アミノベンゾチアゾール、フェニルモルフォリン、フェニルピロール、アミノフェニルアミン、プロピルスルホニルフェニルアミンアジド、ブロモプロピルスルホニルフェニルアミン、エタノール、クロロエチルフェニルアミン、ジクロロエチルフェニルアミン、エタノールフェニルアミン、ビオチンフェニルアミン、メチルスルホニルフェニルアミン、アミノフェノール、アミノ安息香酸、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン、シアノフェニルアミン、メトキシルフェニルアミン、アミノピリジン、ピリジン n-オキシド、ヒドロキシフェニルアセトアミド、フェニルアミド、クロロフェニルアセトアミド、ヘテロアリールから選択される基;R'はシアノ、ハロゲン、カルボン酸、アミン、アジド、テトラゾール、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、スルフィン酸塩、ピリジル‐オキサジアゾール‐チオールから選択される基である。
【0014】
例示すると、以下の代表例の化合物が本発明により合成することができる。






【0015】
本発明の化合物は一般に、下記化合物A(Albert, J. Chem. Soc. 1936, p88-93参照)を以下のように1,4-フェニレンジアミンおよび炭酸カリウムとDMF中で混合することにより製造することができる(方法A)。


その他、下記化合物B(Moehrle, Sientia pharmaceutica, 1997, vol.65, #1-2 p.11-20参照)を以下のようにベンゼンボロン酸およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリドおよび炭酸カリウムと水と共にTHF中で混合することにより製造することができる(方法B)。

【0016】
ここに記載した全てのアクリジン化合物は、0.5M HCl MeOHでの処理によりHCl塩の形で製造することができる。アクリジンフェニルアミドは、ジアミノベンゼンの代わりにアミノフェニルアミドを使用する方法Aに従うことにより製造することができる。ビオチン共役体(INVA3Z-31-1, INVA3Z-48-2など)は親アクリジン化合物からDMF中でのDCCカップリングによりDMAPおよびHOBtを触媒として製造することができる。クロロアクリジンN-オキシド誘導体は、DCM中で過酢酸を添加することにより製造することができる。アミノフェニルアクリジンN-オキシド誘導体は、方法AにおいてクロロアクリジンN-オキシドを利用することにより製造することができる。アミン、ヒドラジン、ヒドロキシアミンアクリジン誘導体は、方法Aに従うことにより製造することができる。アジドアクリジン誘導体はさらに、KOHなしで方法Aに従うことにより製造することができる。置換クロロアクリジン誘導体は、Albert(J. Chem. Soc. 1936, p88-93)により記載された反応を採用することにより製造することができる。アクリドンは、Moore(J. B. J. Med. Chem. 2006, 49, p582-599)により記載された反応を採用することにより製造することができる。
【0017】
本発明の化合物は、種々の異なるガン細胞株に投与されたとき、様々な程度でp53活性を誘発させるものである。2つの代表的化合物、CTX1およびCTX50は、本発明の化合物による細胞死の引き金についての活動機構ならびに蛋白質‐薬剤相互作用の部位および抗腫瘍活性を決定するため深く検討されてきた。
【0018】
本発明の化合物は、細胞内にp53活性を誘発させる能力を実証させるものである。下記実施例で詳述するように、この作用機構は、従来のDNA損傷の誘発に依存することがない。本発明の化合物を用いた場合の細胞の分析では、p53の誘発が観測されるような用量において、前記化合物が測定可能なDNA損傷を誘発させることがないことが実証された(図1A−B参照)。
【0019】
本発明の化合物は、HDMXとp53との間の相互作用に影響を及ぼしp53活性を誘発させるものである。HDMXを標的にするため、細胞のアポトーシスを誘起させるp53活性を利用することを可能にする。この機構は特に有益である。なぜならば、Nutlin-3のようなHDM2阻害剤は、HDMXを過剰発現するガン細胞に対し効能を示さないからである。実施例で記載したように、本発明の化合物は、p53がHDMX又はHDM2の過剰発現により抑制される細胞内、並びにp53発現が破壊された細胞内で検討された。本発明の化合物は、HDMX発現細胞 (ベクター又はHDMXでトランスフェクトされた) 内で有意なp53依存の細胞死を誘起させるが、HDM2の過剰発現によりp53が不活性化されている細胞の場合、又はp53がp53標的shRNAを使用して崩壊されている細胞では誘起されず(図2A)、従って、HDMXを標的とするこの化合物の特異性を実証するものとなっている。これらのデータは、HDMXが過剰発現されている他の細胞モデルにおいても確認され、反対の作用も、Nutlin-3が独立して使用されたときにも観察された(図2Bおよび2C参照)。
【0020】
本発明の化合物は、ビオチン共役、観察されたスペクトルシフト並びに種々の免疫沈降反応から明示されているように、HDMXと直接結合する(図3参照)。この相互作用は、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて更に実証された。この場合、HDMXは本発明の化合物に対し強力な結合を示したが、Nutlin-3に対してはそうではなかった(図4C参照)。p53とHDMXとの相互作用を直接損なう能力は、次に細胞内でのp53蛋白質の安定をもたらすものとなる。更に、実施例で記載したように、本発明の化合物は、HDM2に対してではなく、HDMXに対する結合特異性が実証されている(細胞培養試験における種々の処理の組合せで示されているように)。
【0021】
本発明の化合物は従って、ガン細胞の成長および生存に影響を及ぼすものである。実施例で実証されているように、本発明の化合物を不規則なp53活性と関連するガン細胞と接触させることにより、野生型p53発現細胞に対し優先的に、その成長抑制および死滅がもたらされた。更に、他のp53標的分子、例えばHDM2阻害Nutlin-3と組合せたとき、相乗的又は付加的死滅作用が観察された。
【0022】
本発明の化合物は細胞の成長を阻止し、アポトーシスを誘発することにより、その活性を働かすことができる。この細胞は、in vitro又はex vivo又はin vivoでのものであってもよい。ここに記載したように、本発明の化合物をin vivoでガン細胞に投与することにより、又はin vivoで異常なp53活性を有する被験者に投与することによりガン細胞の成長が減少し、ガン細胞の死滅/アポトーシスが増大する。ヒトの疾患に密接に模倣させた侵攻性の高いAMLモデルシステム(治療しにくい再発性AMLを伴った患者から得た一次ヒトAMLサンプルを使用したもの)において、本発明の化合物は単一の薬剤としてでも、このモデルシステムにおける生存率を有意に向上させることが実証された(図8)。この利用したモデルシステムにおいて特に重要なことは、このような患者集団においては、有効な現存の治療法がないということである。
【0023】
本発明は更に、細胞を治療する方法を提供するものであり、それはここに記載した化合物を細胞に投与することからなる。この細胞は、in vitro又はin vivo 又はex vivoのものであってもよい。この細胞は、被験者、例えば動物の内部であってもよい。被験者はヒトであってもよい。この細胞は、不規則なp53活性又はHDMX活性を有するか否かについて予め決定してもよい。この細胞は、異常なp53活性又はHDMX活性に基づいて選択してもよい。この細胞は、HDMX又はp53の増大した発現に基づいて選択してもよい。
【0024】
本発明の化合物は、伝統的な投与経路を介して細胞に投与することができる。in vitroでの細胞については、この化合物は、細胞と接触している周囲の媒体に対し投与することができる。被験者内の細胞については、この化合物は、注射、経口投与、吸引又は座薬として投与することができる。
【0025】
本発明の化合物は、効果的な用量で細胞に対し投与することができる。ここに記載したように、本発明の化合物の効能は、HDMXに対する観測し得る結合、p53活性の変化および細胞の生存/死滅/アポトーシスにおける変化に基づいて容易に判定することができる。本発明の化合物は、薬理学的に許容し得る稀釈剤、担体(carriers)、賦形剤、安定剤と任意に混合してもよく(Remington's Pharmaceutical Sciences (1980) 16th edition, Osol, A. Ed.)、更に、凍結乾燥調剤、粉体又は水性溶液の形であってもよい。
【0026】
本発明の化合物は、更なる治療薬と共に投与することができる。ここに記載したように、Nutlin-3と一緒での投与は、すぐれたガン細胞の死/アポトーシスに至らしめた。当業者であれば、更なる化学治療薬も治療計画に含めることができることを理解されるであろう(www.cancer.gov/cancertopics/treatment/drugsでリストされているものなど)。更に、当業者であれば、本発明の化合物は、現存する治療法、特にp53活性又は減少した細胞アポトーシスとの関連のものに追加することができることが理解されるであろう。

実施例

化合物の製造:

方法A:
【0027】
化合物A(Ref. Albert; Linnell J. Chem. Soc. 1936, p88,93)(30mg, 0.1mmol)、1,4-フェニレンジアミン(11mg, 0.1mmol)および炭酸カリウム(28mg, 0.2mmol)の混合物(DMF(2mL)溶液中)を50℃で1時間攪拌した。ついで、この混合物中に、EtOAc(15mL)および水(15mL)を添加し、反応を抑制し、水層を除去し、有機質層を再び水で洗浄した(10x2mL)。EtOAc溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン)に供し、INVA3Z-42-1(20mg, 収率53%)を得た。


方法B:
【0028】
化合物B(Ref. Moehrle; Von Der Lieck-Waldheim Scientia pharmaceutica. 1997, vol.65, #1-2, p.11-20)(34mg, 0.1mmol)、ベンゼンボロン酸(24mg, 0.2mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II) ジクロリド(7mg, 0.01mmol)および炭酸カリウム(28mg, 0.2mmol)および水(100μl)の混合物[THF(5mL)溶液中]を120℃で30分間還流させた。ついで、この反応混合物を室温まで冷却し、EtOAc(30mL)で稀釈させた。この混合物を水で洗浄し(20x3mL);有機質溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルカラム(EtOAc:ヘキサン:MeOH)に供し、INVA3Z-52-3(15mg, 収率37%) およびINVA3Z-52-2(8mg, 収率22%)を得た。

【0029】
特定の化合物の更なる合成のため、全てのアクリジンを0.5M HCl MeOHで処理することにより、これら全てをHCl塩の形で製造することができる。アクリジンフェニルアミドは、ジアミノベンゼンの代わりにアミノフェニルアミドを使用して上記方法Aで製造することができる。ビオチン共役物(INVA3Z-31-1、INVA3Z-48-2)を親アクリジン化合物からDMF中でのDCCカップリングによりDMAPおよびHOBtを触媒として製造した。クロロアクリジンN-オキシドを、DCM中で過酢酸を添加することにより製造した。アミノフェニルアクリジンN-オキシドを、方法AにおいてクロロアクリジンN-オキシドから製造した。アミン、ヒドラジン、ヒドロキシアミンアクリジン誘導体を、方法Aに従うことにより製造した。アジドアクリジンもまた、KOHなしで方法Aに従うことにより製造した。置換クロロアクリジンを参照文献(Albert; Linnell J. Chem. Soc. 1936, p88-93)に記載された方法と同様にして製造した。アクリドンを参照文献(Moore;Michael J. B. J. Med. Chem. 2006, 49, p582-599)に記載の方法に従って製造した。
【0030】
これらの工程に基づいて、以下の化合物を合成した。







化合物の活性:

CTX1およびCTX50は、迅速にDNA損傷非依存的様式でp53を誘発させる:
【0031】
CTX1およびCTX50が更なる分析のため代表的化合物として選択された。これらの2つの選択された化合物は、抗がん剤に向けて発展し得る強力な分子を実証する幾つかの知見を示すものであった。例えば、CTX1はDNA損傷とは独立してp53を誘発することができる。ドキソルビシン(周知のDNA損傷薬剤)とは異なり、CTX1は、p53の誘発のために必要な用量においては、DNA損傷の一般的マーカー(α‐H2AX又はp53(ser-15)のリン酸化反応)により測定した場合の、測定可能なDNA損傷を誘起させることはない(図1A−B)。従って、CTX1媒介のp53誘発は、遺伝毒性ストレスには依存しないことが見出された。CTX1はp53を迅速に誘発させ、p53蛋白質を安定させるその直接的役割を支持するものであり、これはDNA損傷又は転写機序による誘起とは相反するものである。

CTX1およびCTX50は、HDMXを標的とする特異性を示す:
【0032】
歴史的に、HDM2を標的とすることが、野生型p53が存在する幾つかのタイプのガンについての抗がん剤の開発の焦点となっていた。HDM2を標的とする背景の根拠は、もしもHDM2がp53 から除去ないし排除できれば、p53の野生型活性はアポトーシスを誘起させるのに利用することができるであろうということである。p53の再活性化を許容する特性で取上げられる腫瘍には、不活性化された上流制御因子を伴う腫瘍、例えばp14ARF又はHDM2又はHDMXのようなネガティブな制御因子の過剰発現を伴う腫瘍が含まれる。HDM2とp53との間の相互作用を崩壊させ野生型p53の活性を促進させることを狙った種々のアプローチとしては、HDM2に向けられた抗体の使用、阻害性ペプチドの使用およびHDM2発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドあるいは低分子干渉RNAsの使用が含まれる(Patton. JT., et al., Cancer research 66, 3169-3176 (2006), Hu. B., et. al., The Journal of biological chemistry 281, 33030-33035 (2006))。恐らく、最も有望なアプローチは、p53-HDM2相互作用を崩壊させることができる低分子化合物、例えばNutlin-3を使用する可能性である(Gurova. KV., et. al., Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America 102, 17448-17453(2005))。Nutlin化合物は、p53α‐へリックス内の重要なアミノ酸に似ていて、通常、p53が居留するHDM2の疎水性ポケット内で結合し、低いμM範囲でp53特異的抗腫瘍特性を示す(Ringshausen. L., et. al., Cancer cell 10, 501-514 (2006))。Nutlin-3を囲む研究において、Nutlin-3がB-細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL)、多発性骨髄腫およびAMLに対し有効であることが証明され、白血病治療における拮抗薬のための役割についての議論を促すものとなっている(Graves. B., et. al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, 11788-11793(2012); Bista. M., et. al., PloS one 7, e37518 (2012), Reed, D., et. al., The Journal of biological chemistry 285, 10786-10796 (2010))。現在、抗がん剤としてのNutlin-3の経口製剤を評価するための幾つかの進行中の臨床試験がある。Nutlin-3のようなHDM2阻害剤は、HDMXを過剰発現するガン細胞に対し効能を示さないので、HDMXを標的とする低分子の開発が重要となっている。この目的に向けての我々の薬剤発見の努力によりHDMX阻害剤を識別することができた。CTX1が、HDMX、HDM2又はその双方によるp53の抑制を克服するのに特異的であるか否かを判定するため、我々はHDMX又はHDM2の過剰発現によりp53が抑制された線維芽細胞モデルシステムを利用した。更に、HDMX阻害が、p53誘発を介して部分的に細胞死につながるから、我々は更にp53発現が崩壊された細胞も使用した。これと同じ細胞モデルシステムが、HDM2に対するHDM2阻害剤、Nutlin-3の特異性を明確にするために先に示されている(Chene. P., et. al., Nat Rev Cancer. 3(2): 102-9 (2003); Midgley. CA., et. al., Oncogene, 1997; 15(10): 1179-89 (1997))。CTX1は、HDMX発現細胞(ベクター又はHDMX)において有意なp53依存性細胞死を誘起させたが、HDM2過剰発現によりp53が不活性化された細胞、又はp53がp53標的shRNAを使用して崩壊された細胞では誘起されなかった(図2A)。この研究は、CTX1が、類似体HDM2以上に、HDMXを標的とする特異性を有することを示すと共に、HDMX媒介p53抑制を克服するCTX1の能力を支持するものである。細胞死のHDMX媒介抑制を克服するCTX1の能力を更に確認するため、我々は白血病細胞モデルシステムを採用した。線維芽細胞モデルと一致して、HDMXを過剰発現するOCl-AML3(OCl)細胞が、HDM2阻害剤、Nutlin-3とは対照的に、親細胞としてCTX1媒介細胞死に対し同様の感度を示すことが見出され、これは高いHDMXレベルの存在において減少した活性を実証するものである(図2B-C)。

CTX1およびCTX50が、HDMXと直接相互作用することができ、p53-HDMX結合を調節する:
【0033】
CTX1がどのようにp53誘発を導くかについて探るため、CTX1がHDMX及び/又はp53と直接相互作用することができるか否かについて評価した。直接的結合をテストするため、CTX1のビオチン共役バージョンを合成した(図3A-B)。CTX1-ビオチン化合物は細胞死滅について親化合物と同様の活性を示した。CTX1は免疫沈降によりGST-HDMXと直接的に相互作用することができるが、GST-FXRのような関係のない蛋白質とは相互作用しないことが見出された(図3B)。ビオチン単独のものは、HDMXと結合しないことが確認され、CTX1-ビオチン共役体のCTX1成分が、この相互作用において原因していることが実証された。
【0034】
ビオチンタグ付きCTX1を使用する免疫沈降を介してのCTX1とHDMXとの結合をテストすることに加えて、HDMXと、非タッグ付きCTX1との相互作用が2つの生物物理学的アプローチを用いて確認された。第1のものは、HDMXではなく、CTX1が分光光度計で検知できる特定の吸収パターンを表わすという事実を利用したものである。HDMXとのCTX1の共インキュベーション(並びにサイズ排除クロマトグラフィーによる遊離CTX1の除去)の後においては、HDMXが今や吸収パターンを表わすだけでなく、遊離CTX1との比較において吸収パターンのはっきりしたスペクトルシフトも存在するものとなる(図3Cおよび図4B)。このスペクトルシフトはHDMX/CTX1相互作用を強く示唆するものである。更に、対照としてCTX1のみに対しなされたサイズ排除クロマトグラフィーは、HDMX/CTX1サンプルで見られる吸収が、残留非結合CTX1によるものでないことを実証している。同様の結果が、CTX1をOCl細胞で培養し、ついでELISA又は免疫沈降実験を行ったときに観察された(図3Dおよび図4A)。
【0035】
興味深いことに、CTX1はアクリジン含有分子であり、9-アミノアクリジン(9-AA)のような他のアクリジン含有化合物は、DNA中にインターカレート(intercalate)する能力に多分関係するDNA損傷非依存的様式で迅速にp53を誘起させることが先に示されている(Graves. B., et. al., Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, 11788-11793(2012))。興味深いことに、HDMXに対する9-AAの結合は、同じスペクトルの研究を用いても観察されず、作用の異なる機序の存在が示唆される(図3E)。
【0036】
別の生物物理学的アプローチによりHDMXとCTX1との結合が確認された。表面プラズモン共鳴(SPR)を用いたとき、HDMXのCTX1(Kd 450nM)に対する強い結合が実証されたが、Nutlin-3(Kd 5.1μM)に対してはそうではなかった(図4C参照)。再び、9-AAは、SPRを用いたとき、12.5μMまでの用量において、HDMXに対する何らの結合をも示さなかった。
【0037】
CTX1とHDMXとの相互作用を観察することに加えて、p53とHDMXとの相互作用を直接阻害するCTX1の能力(p53蛋白質の観察し得る安定化をもたらし得るもの)を評価した。ELISAアッセイを利用し、CTX1がHDMX/p53蛋白質を崩壊させるが、HDM2/p53相互作用を崩壊させないことが見出された(図4A)。対照的に、HDM2阻害剤、Nutlin-3は、p53とHDM2との間の相互作用を崩壊させるが、p53とHDMXとの相互作用を崩壊させない。これらの結果は、HDMX/p53結合を阻害するCTX1の能力が特異的であり、単にそのアクリジン部分に起因するものでないことを示唆している。同様の結果が、幾つかの同じような実験においてCTX50を使用したときに得られた;その一部の結果が図4Dに示されている。

CTX1およびその類似体がガン細胞成長を阻害する:
【0038】
ガン細胞成長および生存に対するCTX1の作用について探るため、野生型p53ガン細胞株(HCT116, A549, MCF7, LNCaP, OCl-AML3(OCl)およびMOLM-3を含む(図5))のパネルの成長及び/又は死滅を生じさせるCTX1の能力をテストした。種々の類似体が、野生型p53発現細胞に対し、優先的に成長阻害および死滅を生じさせることが見出され、Nutlin-3と組み合わせたとき、相乗効果的又は付加的死滅を生じさせることが見出された。
以下の表において、特定の細胞株OClに向けての細胞死滅活性が提供されている(表1)。

表1:代表的な類似体のIC50値;これらIC50値はOCl細胞株に基づいて判定されている。
[表1]


p53ポジティブガン細胞に対する特異的CTX1およびCTX50(CTX1 and CTX50 specifically p53 positive cancer cells):
【0039】
対をなすp53発現およびp53欠乏ガン細胞株(HCT116およびA549)の細胞周期分析も、CTX1がp53依存経路を部分的に介して成長阻害を媒介することを実証している。例えば、HCT116 p53-野生型細胞内におけるCTX1での処理の24時間後において、Sフェーズの20%ないし4%の減少が認められ、他方、HCT116 p53-null細胞ではSフェーズの25%ないし15%の減少が示された(図6A-B)。細胞死滅のメカニズムを更に特徴づけるため、Annexin-V染色を行い、HCT116 p53-野生型細胞およびp53-null細胞におけるアポトーシスを評価した。再び、CTX1とNutlin-3との組合せがp53-野生型細胞のアポトーシスの相乗的誘発をもたらしたが、p53-null細胞ではそうでなかった(図7A-B)。

CTX1は高いin vivo抗腫瘍活性を表わす:
【0040】
p53を誘発させ、ガン細胞を遺伝毒性に依存しない様式で死滅させる化合物の幾つかの例の1つをCTX1が表わすものであるから、その臨床的可能性を探り始めるため、マウス有効性の研究を行った。この研究のため、侵攻性の高いAMLモデルシステムを使用した。なぜならば、これが、野生型p53状態が極めて一般的な殆んどの悪性腫瘍とは異なる病気であり、新しい治療法が緊急に必要とされているからである。CTX1(30mg/kg i.p.)、Nutlin-3(200mg/kg p.o.)又はこれらの組合せの能力、つまり、免疫不全のマウスにおける一次ヒトAML細胞の成長に衝撃を与える能力について評価を行った。このモデルシステムはヒトの病気に密接に似せたものである。なぜならば、一次患者サンプルを利用することができ、白血病細胞がマウス内に循環し、骨髄で増殖するからである。一次ヒトAMLサンプル(難治性で再発AMLを有する患者から由来するもの)を利用することにより、CTX1は単一薬剤としても、このモデルシステムにおいてマウスの生存率を有意に高めるものであることを見出した(図8)。注目すべきは、この患者集団において有効な治療法が現存しないため、このモデルシステムは臨床的に重要であるということである。ベヒクルマウス(vehicle mice)の全てが細胞への注射の後、60日までに病気に屈したが、CTX1単独又はNutlin-3との組合せで処置したマウスは、その生存時間が有意に増加した。更に注目すべきは、標準のAML治療用シタラビン(cytarabine)は、このモデルシステムにおいて効能を示していないことである。
【0041】
種々の具体例についての上記説明は、発明の概念を説明するものである。これら記載は、徹底的なものを意図したものでなく、又、開示した発明を正確な形に制限することを意図したものではない。上述の教示に照らして様々な改良又は変形も可能である。上述の具体例は最良の適用を提供するために選ばれたものであり、それにより、当業者が本発明を様々な具体例において利用することを可能にし、特定の考えられる用途に適するよう種々改良することを可能にするものである。そのような改良および変形は本発明の範囲に包含されるものである。ここに引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、それぞれがその全体を参照として組み込まれるものと考えられるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8