【文献】
Nobuki Mutsukura, et al.,“Highly c-axis oriented AlN layers grown on c-plane sapphire substrates by radio-frequency sputter epitaxy at 1080℃”,Thin Solid Films,2012年 1月26日,Vol.520,No.13,p.4237-4241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程において、前記主面から300nmの厚さまでエピタキシャル成長させた前記AlN層の表面における前記AlN結晶の平均粒径が300nm以下になる成長条件で、前記AlN層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1または2に記載のテンプレートの製造方法。
前記工程において、前記主面から20nmの厚さまでエピタキシャル成長させた前記AlN層の表面粗さのRMS値が5nm以下になる成長条件で、前記AlN層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のテンプレートの製造方法。
前記工程において、前記主面から300nmの厚さまでエピタキシャル成長させた前記AlN層の表面粗さのRMS値が10nm以下になる成長条件で、前記AlN層をエピタキシャル成長させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のテンプレートの製造方法。
【背景技術】
【0002】
AlGaN系の窒化物半導体を活性層に用いた窒化物半導体紫外線発光素子のテンプレートとして、サファイア基板の主面にAlN層をエピタキシャル成長させたテンプレートが用いられることが多い。
【0003】
複数の半導体層を順番にエピタキシャル成長させることで作製される半導体発光素子では、下地の半導体層の結晶性が、その上の半導体層の結晶性に大きな影響を与えることになる。そのため、テンプレートの表面の結晶性は、半導体発光素子の全体の結晶性に影響を与えることになるため、特に重要である。そして、テンプレートの表面の結晶性が良好であるほど、半導体発光素子が備える各半導体層(特に、活性層)の結晶性も良好になり、発光を生じる電子及び正孔の再結合が結晶欠陥によって阻害され難くなるため、発光効率等の特性が良好になる。
【0004】
しかし、サファイア基板の主面にAlN層をエピタキシャル成長させて作製されるテンプレートは、サファイアとAlNの格子不整合や、Al原子がマイグレーションし難い等の理由から、良好な結晶性のAlN層を得ることが困難であるという問題がある。
【0005】
この問題に関して、AlN層の成長時における原料ガスの供給タイミングを工夫することで、AlN層の結晶性を改善したテンプレートの製造方法が、特許文献1、2及び非特許文献1で提案されている。ここで、特許文献1、2及び非特許文献1で提案されているテンプレートの製造方法について、図面を参照して説明する。
図14は、従来のテンプレートの製造方法を示した模式図であり、特許文献1及び2の発明者の1人であって非特許文献1の著者の1人でもある平山秀樹氏の特集記事(RIKEN NEWS June 2011の2〜5頁)に記載されている
図3の一部である。
【0006】
特許文献1、2及び非特許文献1で提案されているテンプレートの製造方法は、最初にサファイア基板の主面上にいくつかのAlN結晶核を形成した後に(
図14の第1段階)、Alの原料ガスを連続的に供給しながらNの原料ガス(アンモニア)をパルス的に供給することで、AlN結晶核の間の隙間を埋め込むAlN層を成長させる(
図14の第2段階)。このような方法で成長させたAlN層は、単にサファイア基板の主面上で膜状に成長させたAlN層と比較して、貫通転位が少なくなる。そして、その後は、AlN層の膜厚を増大させて、表面を平坦化する(
図14の第3段階)。なお、特許文献1及び非特許文献1で提案されているテンプレートの製造方法では、AlN層の膜厚を増大させている途中において、
図14の第2段階と同様の方法で原料ガスを供給することによって、AlN結晶の横方向成長を促進させる(
図14の第4段階)。これにより、AlN層の成長に伴い上方に伝播しようとする貫通転位が横方向に曲げられることで、AlN層の最終表面における結晶性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を説明するにあたり、サファイア基板を含むテンプレートと、当該テンプレート上に積層された複数のAlGaN系半導体層を有する素子構造部とを備えて通電によりピーク発光波長が365nm以下の光(紫外線)を出射する発光ダイオードである窒化物半導体紫外線発光素子と、その製造方法とを例示する。なお、素子構造部に含まれるAlGaN系半導体層のそれぞれを構成する材料であるAlGaN系半導体とは、AlGaN、AlNまたはGaN、あるいは、これらに微量の不純物(例えば、SiやMg、Inなど)が含まれた半導体であり、以下では必要に応じてAl及びGaに対して添字を用いることでAl及びGaの相対的な組成比を表している(例えば、Al
XGa
1−XN)。
【0025】
ただし、本発明は、主としてテンプレートに関するものであるため、テンプレート上の素子構造部の構造はどのようなものであってもよく、以下の<窒化物半導体紫外線発光素子>に例示する構造に限定されるものではない。
【0026】
<窒化物半導体紫外線発光素子>
最初に、本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の構造の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の構造の一例を模式的に示した要部断面図である。
図2は、
図1に示す窒化物半導体紫外線発光素子を
図1の上側から見た場合の構造の一例を模式的に示した平面図である。なお、
図1では、図示の都合上、基板、AlGaN系半導体層及び電極の厚さ(図中の上下方向の長さ)を模式的に示しているため、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。また、以下の説明において、p型及びn型の両方を記載していないAlGaN系半導体はアンドープであるが、アンドープであっても不可避的に混入する程度の微量の不純物は含まれ得る。
【0027】
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子1は、サファイア基板11を含むテンプレート10と、複数のAlGaN系半導体層21〜24及び電極25,26を含む素子構造部20とを備える。この窒化物半導体紫外線発光素子1は、実装用の基台に対して素子構造部20側(
図1における図中上側)を向けて実装される(フリップチップ実装される)ものであり、光の取出方向はテンプレート10側(
図1における図中下側)である。
【0028】
テンプレート10は、(0001)面または(0001)面に対して所定の角度(オフ角)だけ傾斜した面を主面とするサファイア基板11と、サファイア基板11の主面に直接形成されたAlN層12とを備える。AlN層12は、サファイア基板11の主面からエピタキシャル成長したAlN結晶で構成され、このAlN結晶はサファイア基板11の主面に対してエピタキシャルな結晶方位関係を有している。具体的に例えば、サファイア基板11のC軸方向(<0001>方向)とAlN結晶のC軸方向が揃うように、AlN結晶が成長する。なお、AlN層12を構成するAlN結晶が、微量のGaやその他の不純物を含んでいてもよい。また、AlN層12の上面に、Al
αGa
1−αN(1>α>0)系半導体で構成された層がさらに形成されていてもよい。
【0029】
素子構造部20は、テンプレート10側から順に、n型クラッド層21、活性層22、電子ブロック層23及びp型コンタクト層24を順にエピタキシャル成長させて積層した構造を備えている。
【0030】
n型クラッド層21は、n型のAl
XGa
1−XN(1≧X>0)系半導体で構成される。活性層22は、Al
Y1Ga
1−Y1N系半導体(X>Y1≧0)で構成された井戸層と、Al
Y2Ga
1−Y2N(X≧Y2>Y1)で構成された障壁層とのそれぞれを、1層以上交互に積層した単一または多重量子井戸構造である。電子ブロック層23は、p型のAl
ZGa
1−ZN(1≧Z≧Y2)系半導体で構成される。p型コンタクト層24は、p型のAl
QGa
1−QN(Z>Q≧0)系半導体で構成される。
【0031】
さらに、素子構造部20は、例えばNi/Auで構成されてp型コンタクト層24の上面に形成されるp電極25と、例えばTi/Al/Ti/Auで構成されてn型クラッド層21が露出している一部の領域においてn型クラッド層21の上面に形成されるn電極26とを備えている。このp電極25から正孔が供給されるとともにn電極26から電子が供給されるように通電すると、供給された正孔及び電子のそれぞれが活性層22に到達して再結合することで発光する。
【0032】
次に、
図1に例示した窒化物半導体紫外線発光装置1の製造方法の一例について説明する。
【0033】
まず、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法や分子線エピタキシ(MBE)法等の周知のエピタキシャル成長法により、テンプレート10に含まれるAlN層1
2及び素子構造部20に含まれるAlGaN系半導体層21〜24を、サファイア基板11上に順番にエピタキシャル成長させて積層する。このとき、n型の層にはドナー不純物として例えばSiをドープし、p型の層にはアクセプタ不純物として例えばMgをドープする。
【0034】
次に、反応性イオンエッチング等の周知のエッチング法により、上記のように積層した半導体層の一部の領域を選択的にエッチングして、当該領域のn型クラッド層21を露出させる。そして、電子ビーム蒸着法などの周知の成膜法により、エッチングされていない領域内のp型コンタクト層24上にp電極25を形成するとともに、エッチングされた領域内のn型クラッド層21上にn電極26を形成する。なお、p電極25及びn電極26の一方または両方の形成後に、RTA(瞬間熱アニール)などの周知の熱処理方法により熱処理を行ってもよい。
【0035】
<テンプレート>
次に、上述したテンプレート10について説明する。なお、本発明の実施形態に係るテンプレート10は、サファイア基板11の主面に対して形成されるAlN層12に特徴があり、サファイア基板11は、AlN層12がエピタキシャル成長可能(特にC軸方向に成長可能)なものであれば、任意のものを使用することが可能である。
【0036】
本発明の実施形態に係るテンプレート10は、サファイア基板11の主面に形成されるAlN結晶の粒径をできるだけ小さくする点で、特許文献1、2及び非特許文献1で提案されているテンプレートと大きく相違する。AlN結晶の粒径は、例えば、サファイア基板11のオフ角や成長温度(基板温度)、原料の供給量や供給比(V/III比)、キャリアガスの供給量などの様々な成長条件に応じて決まるものであり、使用する成膜装置に応じて異なり得る。なお、特許文献1、2及び非特許文献1で提案されているテンプレートのように、サファイア基板上にAlN結晶核を形成し、そのAlN結晶核の間を埋めるようにAlN層を成長させようとする場合は、AlN層の成長時に特殊な成長方法(アンモニアのパルス供給)が必要であるが、本発明の実施形態に係るテンプレート10のように個々のAlN結晶の粒径をできるだけ小さくしようとする場合は、特殊な成長方法は特に必要なく、使用する成膜装置に応じた適切な成長条件を実験等により適宜探索して採用すればよい。ただし、特にMOVPE法によってAlN層を成長させる場合、サファイア基板11の主面に対してAlN結晶を好適にエピタキシャル成長させる観点から、成長温度を1150℃以上1300℃以下にすると好ましく、1200℃より高く1300℃未満にするとさらに好ましい。
【0037】
図3〜5は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおいて、20nmの厚さまで成長させたAlN層の表面のAFM(Atomic Force Microscope)像である。
図3は、オフ角が0.2°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像である。
図4は、オフ角が0.5°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像である。
図5は、オフ角が1.0°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像である。
【0038】
図6〜9は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおいて、20nmの厚さまで成長させたAlN層の表面のAFM像から測定されたAlN結晶の粒径を示した表である。
図6は、オフ角が0.2°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像から測定されたAlN結晶の粒径を示した表である。
図7は、オフ角が0.5°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像から測定されたAlN結晶の粒径を示した表である。
図8は、オフ角が1.0°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ20nmのAlN層のAFM像から測定されたAlN結晶の粒径を示した表である。
図9は、
図6〜8に示したAlN結晶の粒径の測定結果と、AFM装置によって測定されたAlN結晶の粒径及びAlN層の表面粗さのRMS(Root Mean Square)値とを併せて示した表である。
【0039】
図6〜
図8に示す測定結果は、500nm×500nmの大きさであるAFM像の測定領域を、100nm×100nmの25個の小領域に分割し、それぞれの小領域内に含まれるAlN結晶の粒径を1個ずつ測定した結果である。なお、小領域の境界上に位置するAlN結晶については、その半分以上の部分が含まれる小領域に振り分け、測定領域の境界上に位置するAlN結晶については、粒径を測定することができないため無視した。また、AFM像中のAlN結晶は、概ね円形または楕円形である(厳密には六角形に近い形状であると考えられ、いくつかの粒では辺(ファセット)が見えているが、AFM装置の性能の限界等もあって円形や楕円形のように見えている)ため、長軸の長さと短軸の長さの平均値を粒径とした。また、
図6〜8に示すように、サファイア基板11のオフ角が0.2°、0.5°及び1.0°である3種類の試料(ウエハ)のそれぞれについて、ウエハ上の異なる測定領域1〜3のそれぞれのAFM像からAlN結晶の粒径を測定した。
【0040】
図9において、「個別測定値」の平均粒径及び標準偏差とは、
図6〜8に示すようにAFM像におけるAlN結晶を1個ずつ測定した場合の値である。一方、「装置測定値」の平均粒径、標準偏差及び表面粗さのRMS値は、AFM装置(プローブステーション:NanoNaviIIs、走査型プローブ顕微鏡ユニット:NanoCute、ソフトウェア:NanoNaviStation ver5.6B)によって測定された値である。このAFM装置は、測定領域内における各測定点の高さのうち所定の閾値高さ(例えば、平均値やメディアンなどの中間的な値)以上となる閉じた1つの領域を1つの粒子とみなして粒子数及び粒子総面積のそれぞれを検出し、粒子総面積を粒子数で除算した平均粒子面積となる円の直径を平均粒径として算出する。さらに、このAFM装置は、粒子面積の標準偏差を算出する。この粒子面積の標準偏差を円の直径の標準偏差に換算した値が、
図9における「装置測定値」の粒径の標準偏差である。また、表面粗さのRMS値は、下記式(1)によって算出されるRqの値である。なお、下記式(1)において、Z(i)は測定領域内における各測定点の高さ、nは測定領域内における測定点の数、Zeは測定領域内における各測定点の高さの平均値である。
【0042】
図3〜5及び
図6〜8に示すように、サファイア基板1のオフ角が0.2°、0.5°及び1.0°のいずれの試料においても、およそ20nm以上100nm以下の粒径のAlN結晶が密に詰まった状態になっている。また、
図9に示すように、AFM像におけるAlN結晶を1個ずつ測定して得られるAlN結晶の平均粒径と、AFM装置によって測定されるAlN結晶の平均粒径とは同程度の大きさになっており、いずれの方法で測定されたAlN結晶の平均粒径も適切な値であると言える。
【0043】
図10及び
図11は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおいて、300nmの厚さまで成長させたAlN層のAFM像と、AFM装置によって測定された粒径及び表面粗さのRMS値とを示した図である。
図10は、オフ角が0.2°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ300nmのAlN層のAFM像と、AFM装置によって測定されたAlN結晶の粒径及びAlN層の表面粗さのRMS値を示した表である。
図11は、オフ角が1.0°のサファイア基板の主面に成長させた厚さ300nmのAlN層のAFM像と、AFM装置によって測定されたAlN結晶の粒径及びAlN層の表面粗さのRMS値を示した表である。
【0044】
ここで、本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層と、特許文献1及び非特許文献1に記載されている従来のテンプレートにおけるAlN層との比較結果について、図面を参照して説明する。
図12は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層と、特許文献1及び非特許文献1に記載されている従来のテンプレートにおけるAlN層とを比較して示した図である。なお、
図12(a)は、特許文献1及び非特許文献1に記載されている従来のテンプレートにおけるAlN層のAFM像である。
図12(b)は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層のAFM像(
図3のAFM像を複数並べた図と、
図10のAFM像の一部)と、特許文献1及び非特許文献1に記載されている従来のテンプレートにおけるAlN層のAFM像(
図12(a)のAFM像の一部)とを同じ大きさ(2μm×2μm)で比較して示した図である。
【0045】
図12(a)に示す特許文献1及び非特許文献1に記載されている従来のテンプレートにおけるAlN層のAFM像は、サファイア基板の主面に形成されるAlN核形成層(サファイア基板の主面に最初に形成される厚さ300nmのAlN層における初期段階の層)のAFM像であり、本願の実施形態に係るテンプレートの
図3〜5の状態(厚さ20nm)に相当するものである。
図12(a)に示すAFM像において、いくつかのAlN結晶は合体して数μm程度まで巨大化しており合体前の粒径の測定は困難であるが、合体していないと見られる比較的小さいAlN結晶であっても、平均粒径は1000nm程度もある。
【0046】
図12(b)に示すAFM像の比較結果から明らかなように、本発明の実施形態に係るテンプレートのAlN層におけるAlN結晶の平均粒径は、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートのAlN層におけるAlN結晶の平均粒径よりも著しく小さくなっている。
【0047】
具体的に、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートでは、AlN層の成長開始段階におけるAlN結晶の平均粒径は1000nm程度である。さらに、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートでは、AlN層の厚さが300nmになると、複数存在していたAlN結晶が完全に合体して膜状になり、個々の結晶としては観察できない状態になる。これに対して、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、AlN層の成長開始段階(厚さ20nm)におけるAlN結晶の平均粒径は50nm程度しかない。さらに、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、AlN層の厚さが300nmになっても、個々の結晶として十分に観察可能であり、その平均粒径は200nm程度しかない。
【0048】
また、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートでは、AlN層の成長開始段階における表面粗さのRMS値は21.4nmであり、AlN層の厚さが300nmになった段階における表面粗さのRMS値は21.4nmと8.2nmの間の値であると推測される(特許文献1の
図4B参照)。一方、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、AlN層の成長開始段階(厚さ20nm)における表面粗さのRMS値が3nm程度、AlN層の厚さが300nmになった段階における表面粗さのRMS値が5nm程度である。したがって、本発明の実施形態に係るテンプレートのAlN層における表面粗さのRMS値は、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートのAlN層における表面粗さのRMS値よりも著しく小さい。
【0049】
特に、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートでは、AlN層の成長開始段階において比較的大きいAlN結晶核が乱立し、当該AlN結晶核の間を埋め込むように膜状のAlN層が形成されるため、AlN層の表面粗さのRMS値が比較的大きくなる。そして、その後は、個々のAlN結晶核が膜状のAlN層に埋め尽くされるため、AlN層の成長(厚さの増大)に伴いAlN層の表面粗さのRMS値は単純に減少していく。一方、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、微細な初期のAlN結晶を大量かつ高密度に成長させるため、AlN層の成長開始段階における表面粗さのRMS値が比較的小さくなる。そして、その後で個々のAlN結晶が合体したり粗大化したりするため、この段階(上述のAlN層の厚さが300nmになった段階)におけるAlN層の表面粗さのRMS値が、成長開始段階におけるAlN層の表面粗さのRMS値と同程度かそれ以上になる。
【0050】
このように、特許文献1、2及び非特許文献1に記載のテンプレートと、本発明の実施形態に係るテンプレートとでは、AlN層の成長開始段階におけるAlN結晶の成長態様が根本的に異なっており、その違いは、AlN結晶の平均粒径やAlN層の表面粗さのRMS値に表われている。なお、本発明の実施形態に係るテンプレートであっても、AlN層をさらに成長させる(厚さを300nmよりもさらに大きくする。例えば、1μm以上、好ましくは2μm以上。)と、個々のAlN結晶が次第に合体していき、最終的には膜状のAlN層が得られる。
【0051】
次に、本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層の結晶性について、図面を参照して説明する。
図13は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層の(0002)面に対するXRC(X-ray Rocking Curve)法による測定結果を示した表である。なお、
図13(a)はωスキャンの測定結果、
図13(b)は2θ−ωスキャンの測定結果を示した表であり、それぞれの表に記載の数値は、(0002)面に対応するピークの半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)の平均値である。また、
図13(a)に示すωスキャンの測定においては、試料のC軸(サファイア基板及びAlN層のC軸)をX線正反射軸に合わせる軸立てを行うと、サファイア基板によるX線の正反射が測定されてしまいAlN層の半値全幅の測定が困難になったため、敢えてこのような軸立てを行わずに測定を行った。
【0052】
図13(a)及び
図13(b)に示すように、ωスキャン及び2θ−ωスキャンの両方の測定結果において、AlN層の厚さが20nmである場合の(0002)面の半値全幅が、1000arcsec程度になっている。また、
図13(b)に示すように、2θ−ωスキャンの測定結果において、AlN層の厚さが300nmである場合の(0002)面の半値全幅が、100arcsec程度になっている。
【0053】
通常、AlN結晶の粒径を特に制限することなくサファイア基板の(0001)面上に数μm程度成長させたAlN層における(0002)面の半値全幅は、およそ2000arcsec程度である。これに対して、非特許文献1では、AlN層の成長開始段階において少数のAlN結晶核を形成するとともに当該AlN結晶核を埋め込む膜状のAlN層を成長させ、さらに、AlN層の成長途中にも横方向成長を促進することによって、4.8μmの厚さまで成長させたAlN層における(0002)面の半値全幅が、200arcsec程度まで改善したと報告されている。
【0054】
これらの従来技術と比較して、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、AlN層の成長開始段階(厚さ20nm)における(0002)面の半値全幅が、1000arcsec程度と既に小さく、300nmの厚さまで成長させたAlN層における(0002)面の半値全幅は100arcsec程度とさらに小さくなっている。即ち、本発明の実施形態に係るテンプレートは、AlN層をわずか300nm程度成長させただけで、特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートにおいてAlN層を4.8μmの厚さまで成長させなければ達成し得なかった結晶性と同等かそれ以上の結晶性を実現することができる。そして、本発明の実施形態に係るテンプレートにおいて、AlN層をさらに厚く成長させることで、さらなる結晶性の改善が見込まれる。
【0055】
以上のように、サファイア基板の主面にエピタキシャル成長させるAlN結晶の平均粒径を、特許文献1及び非特許文献1(さらに、これらと同様の方法でAlN層が形成される特許文献2)に記載のテンプレートのAlN層におけるAlN結晶の平均粒径よりもよりも十分に小さくすることで、サファイア基板の主面にエピタキシャル成長させるAlN層の結晶性を劇的に改善することができる。
【0056】
なお、
図6〜12に示した本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN結晶の平均粒径や粒径のばらつきの範囲及び偏り、本発明の実施形態に係るテンプレートと特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートとのそれぞれにおけるAlN結晶の粒径の乖離などを考慮すると、AlN層の成長開始段階(厚さ20nm)におけるAlN結晶の平均粒径を100nm以下にすることで上記の効果が得られると考えられる。特に、
図6〜8において、AlN結晶の粒径の最大値の平均値が大きくても75nm程度であることから、AlN結晶の平均粒径を75nm以下にすると好ましく、平均粒径を70nm以下にするとさらに好ましい。また、この平均粒径を20nm以上にすると好ましく、特に、
図6〜8において、AlN結晶の粒径の最小値の平均値が28nm程度はあることから、AlN結晶の平均粒径を28nm以上にするとさらに好ましい。同様に、厚さが300nmであるAlN層におけるAlN結晶の平均粒径を300nm以下にすることで上記の効果が得られると考えられ、この平均粒径を250nm以下にするとさらに好ましい。また、この平均粒径を150nm以上にすると、好ましい。
【0057】
また、
図9〜12に示した本発明の実施形態に係るテンプレートにおけるAlN層の表面粗さのRMS値や、本発明の実施形態に係るテンプレートと特許文献1及び非特許文献1に記載のテンプレートとのそれぞれにおけるAlN層の表面粗さのRMS値の乖離などを考慮すると、AlN層の成長開始段階(厚さ20nm)におけるAlN層の表面粗さのRMS値を5nm以下にすることで上記の効果が得られると考えられ、このRMS値を4nm以下にするとさらに好ましい。また、このRMS値を2nm以上にすると、好ましい。同様に、厚さが300nmであるAlN層の表面粗さのRMS値を10nm以下にすることで上記の効果が得られると考えられ、このRMS値を6nm以下にするとさらに好ましい。また、このRMS値を4nm以上にすると、好ましい。
【0058】
なお、ウルツ鉱型構造であるAlNは、C軸方向に非対称な結晶構造(C軸を上下方向に見立てた場合、上下非対称な結晶構造)であり、+C軸方向([0001]方向)と−C軸方向([000−1]方向)が等価ではなく、+C面((0001)面:Al極性面)と−C面((000−1)面:N極性面)も等価ではない。そして、サファイア基板の(0001)面上にAlN結晶をエピタキシャル成長させた場合、+C軸方向に成長するAlN結晶と、−C軸方向に成長するAlN結晶とが混在し得る。
【0059】
これについて、AlN層を構成するAlN結晶を、基板の上方に向かって+C軸配向させる(AlN結晶の主たる成長方向を+C軸方向にして、AlN層の表面の全面または大部分(例えば80%以上、好ましくは90%以上)を+C面にする)と、AlN層の結晶性をさらに改善させることができるため、好ましい。
【0060】
AlN結晶を+C軸配向させる方法の一例として、例えば、Applied Physics Express 4 (2011) 092102で採用されている方法が挙げられる。また例えば、MOVPE法でサファイア基板上にAlN層をエピタキシャル成長させる場合、Alの原料ガス(例えば、TMA:TriMethylAluminium)を、Nの原料ガス(例えば、アンモニア)と同時かそれよりも早く供給を開始することで、サファイア基板の主面が過度に窒化されることを抑制して、AlN層を+C軸配向させるという方法が挙げられる。なお、上述の実施形態に係るテンプレートは、後者の方法を採用してAlN層を成長させたものであり、サファイア基板の主面から20nmの厚さまで成長させたAlN層の表面の少なくとも50%が+C面になっており、300nmの厚さまで成長させたAlN層の表面の少なくとも80%以上が+C面になっている(+C軸配向している)。
【0061】
また、上述の実施形態では、サファイア基板のオフ角が0.2°、0.5°及び
1.0°のテンプレートについて説明したが、上述した実施形態と同程度のAlN結晶が得られる限りにおいて、サファイア基板のオフ角は任意である。ただし、オフ角を0.2°以上にすると、上述した実施形態と同程度のAlN結晶が得られ易くなるため、好ましい。
【0062】
<特許文献1、2及び非特許文献1におけるAlN結晶核と、本発明の実施形態におけるAlN層を構成する微細なAlN結晶との違い>
ここでは、特許文献1、2及び非特許文献1においてAlN層の成長前に形成されるAlN結晶核と、本発明の実施形態においてAlN層を構成する微細なAlN結晶との違いについて説明する。
【0063】
まず、
図14を参照して説明したように、特許文献1、2及び非特許文献1では、サファイア基板の主面上にAlN結晶核を形成した後(
図14の第1段階)、AlN結晶核の間を埋めるようにAlN層を形成する(
図14の第2段階)。このとき、AlN結晶核は、
図14の第1段階に示されているように、サファイア基板の主面上に点在するのみであるから、この段階ではサファイア基板の主面を十分に被覆する『層』になっていない。
【0064】
例えば、特許文献2の明細書の段落[0060]には、「直径が20〜50nm、高さが20〜40nmのAlN結晶核が200個/μm
2程度の密度で形成されている」と記載されている。ここで、200個のAlN結晶核の全部が欠けることなく1μm
2の領域内に収まっており、かつ、全てのAlN結晶核が直径50nmの平面視円形状であるという、AlN結晶核の被覆率が最大限になる現実的にあり得ない状態を想定しても、AlN結晶核が占める面積の合計は0.4μm
2未満に過ぎず、被覆率は40%未満に過ぎない。したがって、特許文献1、2及び非特許文献1においてAlN結晶核のみが形成されている状態では、明らかに『層』は形成されていない。
【0065】
特許文献1、2及び非特許文献1では、
図14の第2段階に示すように、AlN結晶核の間を埋める膜状のAlN結晶が形成された時点で、サファイア基板の主面を十分に被覆する『層』が形成される。そして、
図14の第2段階に至れば、
図12に示したようにAlN結晶核と融合した平均粒径が極めて大きい膜状のAlN結晶が形成されるため、AlN層を構成するAlN結晶の平均粒径は1000nm程度と極めて大きくなる。
【0066】
また、特許文献2の明細書の段落[0071]には、「AlN結晶核2a同士が結合されて単結晶基板1の上記一表面側のAlN層がある程度まで平坦化されていることが確認された。ここにおいて、露出しているAlN結晶核2aの密度は100個/μm
2程度まで減少し、AlN結晶核2aの直径も50〜100nm程度まで大きくなっていた。」と記載されている。これは、
図14の第2段階において、膜状のAlN結晶の厚みが増大して一部のAlN結晶核が膜状のAlN結晶に埋め尽くされ、残りのAlN結晶核の頂部が露出している状態であることを意味している。そして、この状態では、
図12に示したようにAlN結晶核と融合した平均粒径が大きい膜状のAlN結晶が存在しているため、AlN層を構成するAlN結晶の平均粒径は1000nm程度と極めて大きくなる。
【0067】
以上に対して、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、
図3〜5に示したAFM像から明らかなように、AlN層を構成する微細なAlN結晶が形成された状態で、既にサファイア基板の主面を十分に被覆する『層』が形成されている。このことについて、以下、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0068】
図15は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおける、厚さ300nmのAlN層の測定領域内高低差を示した表である。
図16は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおける、厚さ20nmのAlN層の測定領域内高低差及び累積度数90%の高さを示した表である。ここで、測定領域内高低差とは、上述したAFM装置による測定において、測定領域内における最も高い山の高さと、当該測定領域内における最も低い谷の高さとの差である。また、累積度数90%の高さとは、測定領域内の高さを高い方から順に計数していった場合において、累計が90%になった時点の高さである。なお、
図15において、厚さ300nmのAlN層の測定領域内高低差は、
図10及び11のそれぞれの表に記載している2つの測定領域から得られた値である。また、
図16において、厚さ20nmのAlN層の測定領域内高低差及び累
積度数90%の高さは、
図6〜8のそれぞれの表に記載している3つの測定領域の中の2つの測定領域から得られた値である。
【0069】
図17は、本発明の実施形態に係るテンプレートにおける、厚さ20nmのAlN層の高さプロファイルと高さヒストグラムの一例を示した図であって、
図16に示した表の1段目の測定領域の詳細を示した図である。なお、
図17(a)はAFM像、
図17(b)は
図17(a)に示すAFM像中の線Lに沿った高さプロファイル、
図17(c)は
図17(a)に示すAFM像の測定領域の高さヒストグラムである。なお、
図17(a)に示したAFM像の測定領域は、
図3に示したAFM像の測定領域と同じである。また、
図17(c)において、薄い線F1は度数分布を表しており、濃い線F2は累積度数分布を表している。
【0070】
図15に示すように、厚さ300nmのAlN層の測定領域内高低差は、40nm程度であり、AlN層の厚さよりも十分に小さい。この場合、測定領域内の最も深い谷にも、十分な厚さのAlN結晶が存在すると言える。したがって、厚さ300nmのAlN層では、サファイア基板の主面の全面がAlN結晶で覆われており、AlN結晶によるサファイア基板の主面の被覆率は100%であると言える。
【0071】
一方、
図16に示すように、厚さ20nmのAlN層の測定領域内高低差は20nm程度であり、AlN層の厚さと同程度である。そのため、測定領域内の最も深い谷にAlN結晶が存在しない可能性がある。しかし、
図16に示すように、厚さ20nmのAlN層の累積度数90%の高さは5nm程度もある。ここで、0より大きいオフ角を有するサファイア基板の主面におけるステップの高さが0.22nmであり、主面の平均粗さRaが0.1nm以下であることを考慮すれば、仮に測定領域内の最も深い谷にAlN結晶が存在していなかったとしても、1nm以上の高さがある部分にはAlN結晶が存在している可能性が高く、2nm以上の高さがある部分にはAlN結晶が存在している可能性が極めて高いと言える。したがって、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、厚さ20nmのAlN層を形成した時点におけるAlN結晶によるサファイア基板の主面の被覆率が90%以上であり、サファイア基板の主面を十分に被覆する『層』になっていると言える。
【0072】
実際に、
図17に示す例において、
図17(b)の高さプロファイルでは、谷底が平坦になっていない。また、
図17(c)に示す高さヒストグラムでは、累積度数90%の高さが5.30nmもあり、高さが1nm(さらには2nm)までの累積度数は100%に極めて近い値になっている。また、この傾向は、
図17に示した測定領域(
図16に示した表の1段目の測定領域)だけでなく、
図16に示した表の他の測定領域(
図16に示した表の2〜6段目の測定領域)にも妥当する。したがって、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、仮に測定領域内の最も深い谷にAlN結晶が存在していなかったとしても、AlN結晶がサファイア基板の主面を十分に被覆していると言える。
【0073】
そして、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、上述の通りAlN結晶がサファイア基板の主面を十分に被覆する『層』になっており、
図3〜5に示したAFM像や
図17(b)に示した高さプロファイルから明らかなように、この時点で隣接するAlN結晶が既に衝突している。そのため、本発明の実施形態に係るテンプレートでは、
図3〜5に示した状態(AlN層を厚さ20nmだけ成長させた状態)からAlN結晶が成長しても、サファイア基板の主面から厚さ20nmにおけるAlN結晶の平均粒径はそれほど変動しない。したがって、本発明の実施形態に係るテンプレートにおいて、サファイア基板の主面から厚さ20nmにおけるAlN結晶の平均粒径は、100nm以下(さらには75nm以下)になる。
テンプレートは、(0001)面または(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した面を主面とするサファイア基板と、サファイア基板の主面に直接形成される当該主面に対してエピタキシャルな結晶方位関係を有するAlN結晶で構成されたAlN層と、を備える。当該テンプレートにおいて、AlN層の主面から20nmの厚さにおけるAlN結晶の平均粒径は、100nm以下である。