(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伝達部は、前記切欠部の奥側端部の傾斜により前記切欠部の切欠きが浅い端部側へ前記突起部を押圧する押圧手段を有することを特徴とする請求項1に記載のヒンジ装置。
前記摩擦部は、前記ベース部によって前記軸線まわりの回転が拘束された静止板、及び前記軸体とともに回転し、前記静止板との間で摩擦を生じる摩擦板を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のヒンジ装置。
【背景技術】
【0002】
従来より、上下に開閉する蓋や扉には、一定の抵抗トルクを発生するヒンジ装置が用いられている。ヒンジ装置は、ヒンジ軸まわりに抵抗トルクを生じる機構を設けることによって、開閉途中で手を離した際に蓋体が自重で落下することを防止する。蓋体を開くためには、蓋体の重量及びヒンジ軸まわりの抵抗トルクに抗する力を蓋体に作用させる必要がある。蓋体の重量が大きくなるに従って、蓋体を開くために作用させる力も大きくなる。
【0003】
蓋体を開き易くするために、一方向の回転時には抵抗トルクが発生せず、逆方向の回転時には抵抗トルクが発生するヒンジ装置が開発されている。このヒンジ装置は、ワンウェイトルクヒンジ装置と呼ばれている。ワンウェイトルクヒンジ装置を用いることにより、蓋体の重量に抗する力で蓋体を開くことができ、蓋体を閉める際には、抵抗トルクがヒンジ軸まわりに作用し、蓋体の自重落下を防止することができる。
【0004】
特許文献1に記載のヒンジ装置は、一対の取付リーフ部、中央リーフ部、互いに平行な2つのヒンジ軸、ワンウェイ輪、及び制動筒体を備える。一方の取付リーフ部は可動体に、他方の取付リーフ部は固定体に取り付けられる。中央リーフ部は、平行な2つの貫通孔を有し、各貫通孔に制動筒体を収納し、制動筒体にヒンジ軸が圧入されている。各取付リーフ部は、貫通孔を有し、貫通孔にワンウェイ輪を収納している。一方のヒンジ軸の端部は、中央リーフ部から突出し、一方の取付リーフ部に収納されたワンウェイ輪に挿入されている。同様に、他方のヒンジ軸の端部は、中央リーフ部から突出し、他方の取付リーフ部に収納されたワンウェイ輪に挿入されている。
【0005】
ワンウェイ輪は、ヒンジ軸の外周面に接する複数の小ローラ、各小ローラを保持するための円筒状の保持器、及び、各小ローラを収容するための複数の凹部を内周面に形成した外輪を備える。外輪に形成した各凹部は、円周方向の一端部の深さが他端部よりも深いくさび状をなす。小ローラは、保持器に組み込まれた押圧ばねによって、凹部の浅い側へ押圧されている。小ローラが凹部の深い側へ移動する方向にヒンジ軸が回転すると、外輪、小ローラ及びヒンジ軸は噛み込むことなく、ヒンジ軸は外輪に対して回転フリーになる。逆に、小ローラが凹部の浅い側へ移動する方向にヒンジ軸が回転すると、外輪、小ローラ及びヒンジ軸が噛み込んで、ヒンジ軸が外輪に対してロックする。
【0006】
可動体を上方へ開く動作によって、可動体に取り付けられた取付リーフ部が一方向に回転すると、ヒンジ軸は外輪に対して回転フリーになるため、可動体の重量に抗する力で、可動体を上方へ開くことができる。一方、可動体を下方へ閉める動作によって、可動体に取り付けられた取付リーフ部が逆方向に回転すると、ヒンジ軸は外輪に対してロックし、中央リーフ部に収納した制動筒体とヒンジ軸との間に生じる抵抗トルクによって、可動体の自重落下を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のヒンジ装置では、ヒンジ軸の外周面に、小ローラ及び外輪を含むワンウェイ輪を配置し、更に該ワンウェイ輪を収納する貫通孔を取付リーフ部に設けるため、ヒンジ軸の径方向におけるヒンジ装置の外形寸法が大きくなってしまうという問題点があった。また、ワンウェイ輪は、複数の小ローラ、外輪、保持器及び押圧ばねを有しており、部品点数が多く、コストが高くなるという問題点があった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一方向への回転時に抵抗トルクを遮断し、他方向への回転時に抵抗トルクをヒンジ軸に伝達し、ヒンジ軸の径方向の寸法を小さくすることができるヒンジ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るヒンジ装置は、ヒンジ軸を回転可能に支持するベース部と、前記ヒンジ軸の軸線まわりの抵抗トルクを発生するトルク発生部と、前記ヒンジ軸が一側へ回転する場合に前記抵抗トルクを遮断し、他側へ回転する場合に前記ヒンジ軸に伝達する伝達部とを備えたヒンジ装置において、前記伝達部は、前記ヒンジ軸とともに回転し、端部に切欠部を設けた筒体、及び前記ヒンジ軸に挿入されており、前記切欠部の奥側端部に接触する突起部を設けた環体を有し、前記トルク発生部は、前記ヒンジ軸に回転可能に支持されており、一端部が前記切欠部に対向し、該一端部で前記環体に接触する軸体、及び該軸体の回転に伴って摩擦を生じ、前記抵抗トルクを発生する摩擦部を有し、前記切欠部の奥側端部が周方向に対して傾斜して
おり、前記環体は、前記一側への回転時に、前記突起部が前記切欠部の深い側に移動し、前記一端部に対して滑って前記抵抗トルクを遮断し、前記他側への回転時に、前記突起部が前記切欠部の浅い側に移動し、前記一端部と前記奥側端部との間に噛み込んでロック状態となって前記抵抗トルクを伝達することを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、ヒンジ軸がベース部によって回転可能に支持されている。トルク発生部は、ヒンジ軸の軸線まわりの抵抗トルクを発生する。伝達部は、前記ヒンジ軸が一側へ回転する場合に前記抵抗トルクを遮断し、他側へ回転する場合に前記ヒンジ軸に伝達する。伝達部は、ヒンジ軸とともに回転する筒体を有し、該筒体の端部には切欠部が設けられている。伝達部は、ヒンジ軸に挿入された環体を有し、該環体には、切欠部の奥側端部に接触する突起部が設けられている。トルク発生部は、ヒンジ軸に回転可能に支持された軸体を有し、該軸体の一端部が切欠部に対向し、該一端部で環体に接触する。トルク発生部は、軸体の回転に伴って摩擦を生じ、抵抗トルクを発生する摩擦部を有する。切欠部は、奥側端部が周方向に対して傾斜しているので、くさび状に形成されている。環体
は、前記一側への回転時に、突起部が切欠部の
深い側に移動し、前記一端部に対して滑って抵抗トルクの伝達
を遮断
する。環体
は、前記他側への回転時に、突起部が切欠部の
浅い側に移動し、前記一端部と前記奥側端部との間に噛み込んでロック状態となって抵抗トルク
を伝達
する。伝達部における切欠部、環体の突起部、及び切欠部に対向する軸体の一端部がヒンジ軸の軸線方向に配置されており、ヒンジ装置は、ヒンジ軸の径方向の寸法を小さくすることができる。
【0012】
本発明に係るヒンジ装置は、前記伝達部が、前記切欠部の奥側端部の傾斜により前記切欠部の切欠きが浅い端部側へ前記突起部を押圧する押圧手段を有することを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、伝達部が押圧手段を有する。押圧手段は、奥側端部の傾斜により切欠部の切欠きが浅い端部側へ突起部を押圧するので、ヒンジ軸の回転時のガタを抑えることができる。
【0014】
本発明に係るヒンジ装置は、前記環体が、軸方向に突出する凸部を有し、前記押圧手段は、前記凸部に接触し、前記軸方向に対して傾斜した当接面を設けた押圧部材、及び該押圧部材を押圧する圧縮コイルばねを有することを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、環体が軸方向に突出する凸部を有する。押圧手段は、押圧部材、及び該押圧部材を押圧する圧縮コイルばねを有する。押圧部材は、環体に設けた凸部に接触し、軸方向に対して傾斜した当接面を有する。押圧部材の当接面が凸部を周方向に押圧し、環体に設けた突起部は、筒体に設けた切欠部の切欠きが浅い端部側へ押圧される。
【0016】
本発明に係るヒンジ装置は、前記突起部が円柱状をなし、前記軸体の一端部は、前記突起部の周側面に接触することを特徴とする。
【0017】
本発明にあっては、突起部が円柱状をなし、軸体の一端部は、突起部の周側面に接触するので、突起部が切欠部の奥側端部と軸体の一端部に噛み込む際に発生する応力を突起部に作用させることができる。
【0018】
本発明に係るヒンジ装置は、前記摩擦部が、前記ベース部によって前記軸線まわりの回転が拘束された静止板、及び前記軸体とともに回転し、前記静止板との間で摩擦を生じる摩擦板を有することを特徴とする。
【0019】
本発明にあっては、摩擦部が静止板、及び摩擦板を有する。静止板はベース部によって軸線まわりの回転が拘束されており、摩擦板は軸体とともに回転し、静止板との間で摩擦を生じるので、摩擦による抵抗トルクを発生させることができる。
【0020】
本発明に係るヒンジ装置は、前記軸体の一端部に放射状の凹凸が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明にあっては、軸体の一端部に放射状の凹凸が設けられているので、環体が切欠部の奥側端部と軸体の一端部に噛み込み易くなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ヒンジ軸がベース部によって回転可能に支持されている。トルク発生部は、ヒンジ軸の軸線まわりの抵抗トルクを発生する。伝達部は、前記ヒンジ軸が一側へ回転する場合に前記抵抗トルクを遮断し、他側へ回転する場合に前記ヒンジ軸に伝達する。伝達部は、ヒンジ軸とともに回転する筒体を有し、該筒体の端部には切欠部が設けられている。伝達部は、ヒンジ軸に挿入された環体を有し、該環体には、切欠部の奥側端部に接触する突起部が設けられている。トルク発生部は、ヒンジ軸に回転可能に支持された軸体を有し、該軸体の一端部が切欠部に対向し、該一端部で環体に接触する。トルク発生部は、軸体の回転に伴って摩擦を生じ、抵抗トルクを発生する摩擦部を有する。切欠部は、奥側端部が周方向に対して傾斜している。
環体は、前記一側への回転時に、突起部が切欠部の
深い側に移動し、前記一端部に対して滑って抵抗トルクの伝達
を遮断
する。環体
は、前記他側への回転時に、突起部が切欠部の
浅い側に移動し、前記一端部と前記奥側端部との間に噛み込んでロック状態となり抵抗トルク
を伝達
する。伝達部における切欠部、環体の突起部、及び切欠部に対向する軸体の一端部がヒンジ軸の軸線方向に配置されており、ヒンジ装置は、ヒンジ軸の径方向の寸法を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るヒンジ装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係るヒンジ装置1を用いた電子機器100の外観を示す斜視図である。電子機器100は、例えばノート型のパーソナルコンピュータであり、携帯情報端末、電子手帳、電子辞書、携帯型ゲーム機、携帯電話機などの他の折り畳み式の機器であっても良い。ヒンジ装置1は、折り畳み式の電子機器に限らず、開閉する蓋体を有する複写機などのOA機器、医療機器、FA機器等に用いることができ、更には一部又は全体が回転して上下に開閉するテーブル、蓋、扉等に用いることもできる。
【0026】
電子機器100は、カバー部110、本体部120、及びヒンジ装置1を備える。カバー部110は、液晶ディスプレイ111、及び液晶ディスプレイ111を装着するカバー部筐体113を有する。液晶ディスプレイ111は、情報処理されたデータ、文字、画像などを表示面112に表示する液晶パネル、表示面112に接触することにより入力操作が行えるタッチパネル等(図示略)を有する。カバー部筐体113は矩形状をなし、液晶ディスプレイ111の周縁部及び表示面112と反対側の面を覆う。
【0027】
本体部120は、キーボード121、タッチパッド122、及び本体部筐体123を有する。キーボード121及びタッチパッド122は、操作部分が露出するように本体部筐体123に装着されている。本体部筐体123は矩形状をなし、内部にCPU、磁気ディスク、メモリ等(図示略)を収容する。ヒンジ装置1は、カバー部筐体113及び本体部筐体123の対応する一辺の両端部にそれぞれ1つずつ取り付けられている。例えば、カバー部110は、本体部120に対して0°から180°まで開閉動作が可能である。
【0028】
図1は、カバー部110の開き角度が約60°となっている状態を示している。一般的に、ユーザはカバー部110を開く方向(
図1に示すA方向)へ回転し、開き角度を約135°程度に設定した状態で、液晶ディスプレイ111の表示面112を視認し、キーボード121及びタッチパッド122を用いて入力操作を行う。
【0029】
後述するように、ヒンジ装置1は、一方向即ちA方向への回転時には内部発生する抵抗トルクを遮断する。ユーザは、カバー部110をA方向へ回転させる場合、カバー部110の自重に抗する力でカバー部110を回転させることができる。一方、ヒンジ装置1は、A方向と逆方向であるB方向への回転時には、内部発生する抵抗トルクをヒンジ軸に伝達する。ユーザは、カバー部110をB方向へ回転させる場合、ヒンジ軸に伝達された抵抗トルクに抗する力を作用させることでカバー部110を回転させることができる。ユーザがカバー部110をB方向へ回転させている途中で動作を止めると、抵抗トルクによってカバー部110は、その回転位置で静止する。
【0030】
図2は本発明の実施の形態1に係るヒンジ装置1の外観を示す斜視図、
図3はヒンジ装置1の分解斜視図である。ヒンジ装置1は、ベース部10、ブラケット13、ヒンジ軸20、伝達部40、及びトルク発生部50等を備える。ベース部10は、ブラケット11及び支持部材12を有する。ブラケット11は、平板状の取付部11a、取付部11aの一辺から垂直に立ち上げた軸支持部11bを有する。軸支持部11bは、先端部分にヒンジ軸20を挿通する軸孔11cを有する。支持部材12は棒状をなし、一端部を軸支持部11bに設けた取付孔に挿入してブラケット11に固定し、ヒンジ軸20に平行に配置されている。取付部11aは本体部120に螺子止めするための取付孔を有する。ブラケット13は矩形板状をなし、長手方向の一端部に取付孔13aを有し、取付孔13aにヒンジ軸20を挿通し、ヒンジ軸20に固定される。ブラケット13は、長手方向の中途部及び他端部にカバー部110へ螺子止めするための取付孔を有する。
【0031】
ヒンジ軸20は、大径部21の両側に軸体22及び軸体23を有する。大径部21、軸体22及び軸体23は同軸をなす。ヒンジ軸20は、軸体22をブラケット11の軸孔11cに挿入して軸線まわりに回転可能となるようベース部10に支持されている。2つの摩擦用ワッシャ31は、ブラケット11の軸支持部11bの両面を挟むように軸体22に挿入されており、摩擦及び摩耗を低減する。大径部21は、外径が軸孔11cの直径よりも大きく、一側端面が摩擦用ワッシャ31を介して軸支持部11bの板面に当接し、ヒンジ軸20の軸線方向の位置がベース部10に対して決まる。
【0032】
ブラケット13は、取付孔13aに軸体22を挿入し、軸体22の先端部にワッシャ32及びナット33を取り付けることによって、ヒンジ軸20に固定される。軸体22の周面には一部を切除した平坦面が形成してあり、該平坦面がブラケット13の取付孔13aの内周面に設けた平坦面に接触することによって、ブラケット13はヒンジ軸20と一体的に回転する。
【0033】
軸体23は、大径部21側の基端部から中途部に亘って伝達部40の各部品が挿入されており、中途部から先端部に亘ってトルク発生部50が挿入されている。
【0034】
伝達部40は、筒体41、環体42、圧縮コイルばね43、押圧部材44等を有する。筒体41は、一端部の円周上の対向位置に2つの切欠部41aを有し、他端部は、ヒンジ軸20の大径部21に嵌合する。大径部21の周面には一部を切除した平坦面が形成してあり、該平坦面が筒体41の他端部の内周面に設けた平坦面に接触することによって、筒体41はヒンジ軸20と一体的に回転する。
【0035】
図4はヒンジ装置1の伝達部40を拡大した正面図である。
図4に示すように、筒体41の一端部に設けた切欠部41aは、筒体41の周方向Cの一方の端部における切欠きの深さが、他方の端部より深いくさび状をなし、奥側端部が周方向Cに対して角度θ傾斜している。切欠部41aの奥側端部の傾斜角度θは、5°から30°程度が好適である。筒体41の軸方向の中途部には軸方向に対して長手方向が傾斜する規制溝41bが設けられている。
【0036】
環体42は、外周面の対向位置に2つの円柱状の突起部42aを有し、ヒンジ軸20の軸体23に挿入される。環体42の外周面の径は、筒体41の一端部の内径よりやや小さく、環体42は筒体41に収容される。環体42の突起部42aは、筒体41の切欠部41aに嵌まり、突起部42aの周側部が、切欠部41aの奥側端部に接触する。環体42の突起部42aの周側部は、環体42の環状部分におけるトルク発生部50側の端面42cよりも軸方向に突出しており、後述するトルク発生部50の接触面に当接する。環体42は、大径部21側の端面における円周上の対向位置に、軸方向に突出する2つの凸部42bを有する。筒体41の内部には、圧縮コイルばね43及び押圧部材44が収容されている。
【0037】
圧縮コイルばね43は、ヒンジ軸20の軸体23の基端部に挿入されており、一端部が大径部21の端面に当接している。押圧部材44は円筒状であり、内径は圧縮コイルばね43の外径より大きく、圧縮コイルばね43を内部に収容するように、軸体23の基端部に挿入されている。圧縮コイルばね43は、ヒンジ装置1に組み込まれた状態で、軸方向に押し込まれて圧縮された状態になる。押圧部材44は、軸体23の基端部側と逆側の端部に環状の底部44aを有し、底部44aの内底面に圧縮コイルばね43の他端部が当接している。尚、圧縮コイルばね43及び押圧部材44は、本発明の押圧手段に相当する。
【0038】
図5は筒体41及び押圧部材44の一部を破断した伝達部40の正面図である。
図5に示すように、底部44aの外縁部の対向位置には、環体42に設けた凸部42bが嵌まる2つの切欠部44bが形成されている。切欠部44bは、軸方向に対し略45°傾斜した当接面を有し、該当接面に凸部42bが接触する。押圧部材44は、軸方向の周側部に突起部44cを有する。突起部44cは、筒体41に設けた規制溝41bに嵌合している。
【0039】
トルク発生部50は、軸体51、静止板52、摩擦用ワッシャ53、皿ばね54等を有する。軸体51は管状であり、内径がヒンジ軸20の軸体23の外径よりもやや大きく、軸体23の軸線方向の中途部から先端部に亘って挿入されている。軸体51は、伝達部40側の端部に環状の鍔部51aを有する。鍔部51aの伝達部40側の端面51bは、筒体41の切欠部41aに対向しており、環体42の突起部42aの周側部に接触する接触面となっている。端面51bは、平坦面、又はサンドブラスト等の粗面加工を施した面とする。軸体51は、外周面に一部を切除した平坦面を有する。
【0040】
静止板52は、長円板状をなし、一端部に貫通孔52a、他端部に取付孔52bを有する。静止板52は、貫通孔52aの直径が軸体51の外径よりやや大きく、貫通孔52aに軸体51を挿通する。静止板52は、取付孔52bにベース部10の支持部材12を挿通することにより、回転が規制され、ベース部10に対して静止した状態となっている。
【0041】
摩擦用ワッシャ53は、内周面に平坦面が形成さており、該平坦面が軸体51の外周面に設けた平坦面に接触することによって回転が拘束され、軸体51と一体的に回転する。静止板52及び摩擦用ワッシャ53は、交互に2つ重ねて、軸体51に挿入されている。複数の皿ばね54は、押さえ用のワッシャ55とともに軸体51に挿入され、ナット56を軸体51の先端部に取り付けることによって軸方向の予圧を発生する。尚、摩擦用ワッシャ53は本発明の摩擦板に相当し、摩擦用ワッシャ53及び静止板52は本発明の摩擦部に相当する。
【0042】
トルク発生部50は、軸体51をヒンジ軸20の軸体23に挿入し、ナット56から突出した軸体23の先端部にワッシャ34を嵌め、軸体23の先端部を鍔状に変形加工することで、ヒンジ軸20に組み込まれる。静止板52は、ベース部10に対して静止した状態であるので、摩擦用ワッシャ53が軸体51とともに回転すると、皿ばね54が発生する予圧によって摩擦用ワッシャ53と静止板52との間で摩擦が生じ、抵抗トルクRが発生する。尚、抵抗トルクRは、軸体51が回転する際に発生する。
【0043】
次にヒンジ装置1の動作について説明する。
図5に示すように、圧縮コイルばね43の復元力が押圧部材44に作用し、切欠部44bの傾斜した当接面が環体42の凸部42bを押圧する。筒体41の規制溝41bに押圧部材44の突起部44cが嵌合しているので、押圧部材44は、切欠部44bに設けた当接面が環体42の凸部42bを押圧する方向に押し出され、ガタが生じにくい。環体42は、ヒンジ軸20の軸線方向に伝達部40側へ押圧されるとともに、軸線まわりのトルクを受ける。環体42の突起部42aは、筒体41の切欠部41a内に位置しており、切欠部41a内の深さが浅い一端部側へ押圧されて移動した状態となっている。
【0044】
図6は抵抗トルクを遮断した状態でのヒンジ装置1の伝達部40の外観を示す正面図、
図7は抵抗トルクを伝達した状態でのヒンジ装置1の伝達部40の外観を示す正面図である。電子機器100のカバー部110を開く動作によってA方向(
図1参照)へ回転させると、
図6に示すように、ブラケット13、ヒンジ軸20及び筒体41は、カバー部110とともにA方向へ回転する。尚、
図1及び
図6に示すA方向は、ヒンジ軸20まわりの同じ回転方向を表している。上述のように伝達部40の環体42は、押圧部材44から伝達部40側への押圧力を受けており、接触する突起部42aの周側部と軸体51の端面51bとの間で摩擦が生じ、摩擦トルクF1が働く。
【0045】
筒体41がA方向に回転する際、環体42は摩擦トルクF1によって回転方向の位置を維持し、突起部42aは、筒体41の切欠部41a内を深さの深い他端部側へ見かけ上移動する。突起部42aが切欠部41aの他端部に当接すると、カバー部110のA方向への回転に応じて、筒体41とともに環体42もA方向へ回転する。カバー部110の回転には、カバー部110の自重に加え、摩擦トルクF1、さらにはブラケット11の軸支持部11bとヒンジ軸20との間に生じる摩擦トルクF2が働くが、摩擦トルクF1及びF2を十分に小さいトルク値とすることで、カバー部110の重量に応じた手動トルクで、カバー部110を開くことができる。
【0046】
電子機器100のカバー部110を閉める動作によってB方向(
図1参照)へ回転させると、
図7に示すように、ブラケット13、ヒンジ軸20及び筒体41は、カバー部110とともにB方向へ回転する。尚、
図1及び
図7に示すB方向は、ヒンジ軸20まわりの同じ回転方向を表している。上述のように伝達部40の環体42は、押圧部材44から軸線まわりのトルクを受けており、突起部42aは筒体41の切欠部41a内を深さの浅い一端部側へ見かけ上移動する。突起部42aは、切欠部41aの傾斜する奥側端部と軸体51の端面51bとに挟まれて噛み込み、突起部42aと端面51bとの間で生じる摩擦力が急速に増大し、環体42と軸体51とがロック状態となる。
【0047】
環体42と軸体51とがロック状態になると、トルク発生部50の可動部分、即ち軸体51及び摩擦用ワッシャ53等がB方向へ回転し、静止板52と摩擦用ワッシャ53との間で抵抗トルクRが発生する。抵抗トルクRは、カバー部110の自重で生じるトルクよりも大きい値に設定しておくことによって、カバー部110の自重落下を防止することができる。皿ばね54の構成及びナット56の締め込み量によってトルク発生部50内に生じる予圧を調整し、抵抗トルクRを設定する。
【0048】
以上のとおり、本実施形態によれば、ヒンジ軸20がベース部10の軸支持部11bによって回転可能に支持されている。トルク発生部50は、ヒンジ軸20の軸線まわりの抵抗トルクRを発生する。伝達部40は、ヒンジ軸20がA方向へ回転する場合に抵抗トルクRを遮断し、B方向へ回転する場合にヒンジ軸20に伝達する。伝達部40は、ヒンジ軸20とともに回転する筒体41を有し、筒体41の端部には切欠部41aが設けられている。伝達部40は、ヒンジ軸20に挿入された環体42を有し、環体42には、切欠部41aの奥側端部に接触する突起部42aが設けられている。トルク発生部50は、ヒンジ軸20に回転可能に支持された軸体51を有し、軸体51の一端部に鍔部51aを有し、端面51bが切欠部41aに対向し、端面51bで環体42の突起部42aの周側部に接触する。トルク発生部50は、軸体51の回転に伴って摩擦を生じ、抵抗トルクRを発生する摩擦用ワッシャ53及び静止板52を有する。
【0049】
切欠部41aは、奥側端部が周方向に対して傾斜しているので、くさび状に形成されている。環体42に設けた突起部42aが切欠部41aの切欠きが深い端部へ相対的に移動するA方向に、筒体41がヒンジ軸20とともに回転すると、ヒンジ軸20への抵抗トルクの伝達は遮断される。環体42に設けた突起部42aが切欠部41aの切欠きが浅い端部へ相対的に移動するB方向に、筒体41がヒンジ軸20とともに回転すると、突起部42aが切欠部41aの奥側端部と軸体51の端面51bに噛み込んで、軸体51がヒンジ軸20とともに回転し、ヒンジ軸20へ抵抗トルクが伝達される。伝達部50における切欠部41a、環体42の突起部42a、及び切欠部41aに対向する軸体51の端面51bがヒンジ軸20の軸線方向に配置されており、ヒンジ装置1は、ヒンジ軸20の径方向の寸法を小さくすることができる。
【0050】
また本実施形態によれば、伝達部40は圧縮コイルばね43及び押圧部材44を有する。押圧部材44は、筒体41の切欠部41aにおける奥側端部の傾斜により切欠部41aの切欠きが浅い端部側へ環体42の突起部42aを押圧するので、ヒンジ軸20の回転時のガタを抑えることができる。
【0051】
また本実施形態によれば、環体42が軸方向に突出する凸部42bを有する。押圧部材44は、底部44aの外縁部に切欠部44bが形成されている。切欠部44bは、環体42に設けた凸部42bに接触し、軸方向に対して傾斜した当接面を有する。押圧部材44の切欠部44bに設けた当接面が凸部42bを周方向に押圧し、環体42に設けた突起部42aは、筒体41に設けた切欠部41aの切欠きが浅い端部側へ押圧される。
【0052】
また本実施形態によれば、環体42に設けた突起部42aが円柱状をなし、軸体51の端面51bは、突起部42aの周側面に接触するので、突起部42bが切欠部41aの奥側端部と軸体51の端面51bに噛み込む際に発生する応力を突起部42bに作用させることができる。
【0053】
また本実施形態によれば、トルク発生部50は、摩擦用ワッシャ53及び静止板52を有する。静止板52はベース部10に固定された支持部材12によって軸線まわりの回転が拘束されており、摩擦用ワッシャ53は軸体51とともに回転し、静止板52との間で摩擦を生じるので、摩擦による抵抗トルクRを発生させることができる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態1では、環体42に円柱状の突起部42aを設け、突起部42aの側面が、切欠部41aの奥側端部及びトルク発生部50の端面51bに当接する構成とした。実施の形態2では、環体42の環状部分の端面42cがトルク発生部50の端面51bに当接する構成とする。
図8は実施の形態2に係るヒンジ装置1の環体42の外観を示す斜視図である。尚、実施の形態2における環体42以外のヒンジ装置1の構成及び動作は、実施の形態1におけるヒンジ装置1の構成及び動作と同等であり、記載の簡潔化のため、説明を省略する。
【0055】
環体42は、外周面の対向位置に円柱状の突起部42aを有し、ヒンジ軸20の軸体23に挿入される。環体42の突起部42aは、筒体41の切欠部41aに嵌まり、突起部42aの側面が、切欠部41aの奥側端部に接触する。環体42のトルク発生部50側の端面42cは、突起部42aの周側部よりも軸方向に突出しており、トルク発生部50の軸体51の端面51bに当接する。
【0056】
カバー部110をA方向(
図1参照)に回転する際、環体42の端面42cと軸体51の端面51bとの間に働く摩擦トルクF1によって環体42の回転方向の位置が維持され、突起部42aは、筒体41の切欠部41a内を深さの深い他端部側へ見かけ上移動する。突起部42aが切欠部41aの他端部に当接すると、カバー部110のA方向への回転に応じて、筒体41とともに環体42もA方向へ回転する。カバー部110の回転には、カバー部110の自重に加え、摩擦トルクF1、さらにはブラケット11の軸支持部11bとヒンジ軸20との間に生じる摩擦トルクF2が働くが、摩擦トルクF1及びF2を十分に小さいトルク値とすることで、カバー部110の重量に応じた手動トルクで、カバー部110を開くことができる。
【0057】
カバー部110を閉める動作によってB方向(
図1参照)へ回転させると、押圧部材44からの押圧力によって、突起部42aは筒体41の切欠部41a内を深さの浅い一端部側へ見かけ上移動する。環体42は、突起部42aが切欠部41aの傾斜する奥側端部に当接し、端面42cが軸体51の端面51bに当接し、筒体41と軸体51とに挟まれて噛み込む。環体42が筒体41と軸体51に噛み込むと、端面42cと端面51bとの間で生じる摩擦力が急速に増大し、環体42と軸体51とがロック状態となる。
【0058】
環体42と軸体51とがロック状態になると、トルク発生部50の可動部分、即ち軸体51及び摩擦用ワッシャ53等がB方向へ回転し、静止板52と摩擦用ワッシャ53との間で抵抗トルクRが発生する。抵抗トルクRは、カバー部110の自重で生じるトルクよりも大きい値に設定しておくによって、カバー部110の自重落下を防止することができる。
【0059】
(実施の形態3)
実施の形態1及び2では、伝達部40の押圧部材44を圧縮コイルばね43によって押圧する構成としたが、実施の形態3では、ねじりコイルばねによって押圧する構成とする。
図9は実施の形態3に係るヒンジ装置1の伝達部40の正面図である。
図9では、筒体41及び押圧部材44の一部を破断して伝達部40を示す。尚、実施の形態3における押圧部材44及びねじりコイルばね45以外のヒンジ装置1の構成及び動作は、実施の形態1及び2におけるヒンジ装置1の構成及び動作と同等であり、記載の簡潔化のため、説明を省略する。
【0060】
ねじりコイルばね45は、ヒンジ軸20の大径部21と押圧部材44との間に配置されており、一方の端部が突起部44cに、他方の端部が大径部21又は筒体41に掛けられている。押圧部材44は、ねじりコイルばね45の復元力によってトルクを受け、切欠部44bに設けた当接面で環体42の凸部42bを押圧する。環体42は、押圧部材44からの押圧力により軸線まわりのトルクを受けるとともに軸方向に押圧され、接触する突起部42aの周側部と軸体51の端面51bとの間で摩擦が生じ、摩擦トルクF1が働く。
【0061】
カバー部110をA方向(
図1参照)に回転する際、環体42は摩擦トルクF1によって回転方向の位置を維持し、突起部42aは、筒体41の切欠部41a内を深さの深い他端部側へ見かけ上移動する。突起部42aが切欠部41aの他端部に当接すると、カバー部110のA方向への回転に応じて、筒体41とともに環体42もA方向へ回転する。カバー部110の回転には、カバー部110の自重に加え、摩擦トルクF1、さらにはブラケット11の軸支持部11bとヒンジ軸20との間に生じる摩擦トルクF2が働くが、摩擦トルクF1及びF2を十分に小さいトルク値とすることで、カバー部110の重量に応じた手動トルクで、カバー部110を開くことができる。
【0062】
カバー部110を閉める動作によってB方向(
図1参照)へ回転させると、押圧部材44からの押圧力によって、突起部42aは筒体41の切欠部41a内を深さの浅い一端部側へ見かけ上移動する。突起部42aは、切欠部41aの傾斜する奥側端部と軸体51の端面51bとに挟まれて噛み込み、突起部42aと端面51bとの間で生じる摩擦力が急速に増大し、環体42と軸体51とがロック状態となる。
【0063】
環体42と軸体51とがロック状態になると、トルク発生部50の可動部分、即ち軸体51及び摩擦用ワッシャ53等がB方向へ回転し、静止板52と摩擦用ワッシャ53との間で抵抗トルクRが発生する。抵抗トルクRは、カバー部110の自重で生じるトルクよりも大きい値に設定しておくによって、カバー部110の自重落下を防止することができる。
【0064】
尚、押圧部材44を設けずに、ねじりコイルばね45の一方の端部を環体42の凸部42bに掛けるようにしてもよく、この場合、部品点数を削減することができるとともに、伝達部40の軸方向の寸法を小さくすることができる。
【0065】
(実施の形態4)
実施の形態1から3では、軸体51の端面51bは、平坦面、又は粗面加工を施した面とする例を示したが、実施の形態4では、端面51bに放射状の凹凸を設ける。
図10は実施の形態4に係るヒンジ装置1の軸体51の外観を示す斜視図である。尚、実施の形態4における軸体51以外のヒンジ装置1の構成及び動作は、実施の形態1から3におけるヒンジ装置1の構成及び動作と同等であり、記載の簡潔化のため、説明を省略する。
【0066】
軸体51の端面51bには、中心部から外周部に向けて放射状の凹凸が形成されている。また、半径方向の中途部から外周部に向けて、凸部分を切除した三角形状の面を設けることで、凹凸の深さが浅くなるようにしている。
【0067】
環体42は、筒体41をB方向(
図1及び
図7参照)方向に回転する際に、筒体41の切欠部41aと軸体51の端面51bに噛み込む。軸体51の端面51bに放射状の凹凸を設けることで、突起部42a、又は環状部分の端面42cが端面51bに噛み込み易くなる。
【0068】
(変形例)
上述の実施形態では、押圧部材44に切欠部44bを設け、環体42に凸部42bを設けているが、押圧部材44に凸部を設け、環体42に切欠部を設けるようにしてもよい。
【0069】
また、上述の実施形態では、トルク発生部50は、皿ばね54が発生する予圧によって摩擦用ワッシャ53と静止板52との間で摩擦が生じ、抵抗トルクRが発生する構成としているが、静止板52に固定した制動筒体に軸体51を圧入し、該制動筒体の内周面と軸体51の外周面との間の摩擦によって一定の抵抗トルクが発生する構成等としてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態では、ヒンジ装置1はブラケット13を用いてカバー部110に取り付けられているが、ヒンジ軸20の軸体22の端部をカバー部110側に設けた取付孔に挿入するようにして組み立てる構成としてもよい。カバー部110側の取付孔の内周面に平坦面を設け、軸体22に設けた平坦面と接触させことによって、カバー部110とヒンジ軸20とを一体的に回転させることができる。
【0071】
尚、本発明は、上述の実施形態に限ることなく、特許請求の範囲に記載された発明の技術範囲及びそれと均等な範囲に及ぶものとする。