(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係るポンプ装置100について説明する。
【0020】
図1はポンプ装置100の油圧回路図である。ポンプ装置100は、タンク4に接続された吸込流路81から作動流体としての作動油を吸い込み、作動油を加圧して吐出流路82に吐出するポンプ1と、両端部に作用する差圧に応じて動作してポンプ1から吐出された作動流体の一部を吸込側である吸込流路81に還流させる第一弁体としてのスプール21を有する流量制御弁2と、を備える。
【0021】
ポンプ1は、固定容量型のベーンポンプである。ポンプ1は、図示しないエンジンなどの駆動装置によって回転駆動されるロータ11と、ロータ11に対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーン12と、ロータ11を収容すると共にロータ11の回転に伴って内周のカム面13aにベーン12の先端部が摺接するカムリング13と、を備える。
【0022】
ロータ11には、外周面に開口部を有するスリット14が所定間隔をおいて放射状に形成され、ベーン12はスリット14に摺動自在に挿入される。
【0023】
スリット14の基端側には、ポンプ1の吐出圧が導かれる背圧室15が画成される。隣り合う背圧室15は、ロータ11に形成された円弧状の溝16によって連通し、この溝16にはポンプ吐出圧が常時導かれている。ベーン12は、背圧室15の圧力及びロータ11の回転による遠心力によってスリット14から抜け出る方向に押圧され、先端部がカムリング13の内周のカム面13aに当接する。これにより、カムリング13の内部には、ロータ11の外周面、カムリングのカム面13a、及び隣り合う一対のベーン12によって複数のポンプ室17が画成される。
【0024】
カムリング13は、内周のカム面13aが略楕円形状をした環状の部材であり、ロータ11の回転に伴ってポンプ室17の容積を拡張する吸込領域13b、13dと、ポンプ室17の容積を収縮する吐出領域13c、13eと、を有する。
【0025】
各ポンプ室17は、ロータ11が1回転する過程で、カムリング13の吸込領域13bにて吸込流路81から吸込ポート(図示せず)を通じて作動油を吸込み、その吸込んだ作動油をカムリング13の吐出領域13cにて吐出ポート18を通じて吐出流路82へ吐出し、その後、カムリング13の吸込領域13dにて吸込流路81から吸込ポート(図示せず)を通じて作動油を吸込み、その吸込んだ作動油をカムリング13の吐出領域13eにて吐出ポート18を通じて吐出流路82へ吐出する。このように、各ポンプ室17は、ロータ11の回転に伴って拡縮し、ロータ11が1回転する過程で作動油の吸込吐出を2回行う。ポンプ1のポンプ回転数Nは、駆動装置の回転数とともに変化する。ポンプ回転数Nが上昇すると、ポンプ1の吐出流量は回転数に比例して増加する。
【0026】
なお、ポンプ1は、回転型形式の固定容量型であれば、ギヤポンプなどのような形式のものであってもよい。
【0027】
流量制御弁2は、バルブ収容穴25に摺動自在に挿入されたスプール21と、スプール21の一方の端部に臨んで設けられた第一流体圧室23と、スプール21の他方の端部に臨んで設けられた第二流体圧室24と、第二流体圧室24内に圧縮状態で収装されスプール21を閉弁方向に付勢する付勢部材としてのリターンスプリング22と、を備える。
【0028】
スプール21は、バルブ収容穴25の内周面に沿って摺動する第一ランド部21a及び第二ランド部21bを備える。
【0029】
第一流体圧室23には、スプール21が第一流体圧室23の容積を収縮する方向に移動した場合にバルブ収容穴25の底部に当接してスプール21の所定以上の移動を規制する第一ストッパ部21cが第一ランド部21aに結合して配置される。
【0030】
第一流体圧室23には吐出流路82から分岐する第一連通路83が接続され、第二流体圧室24には吐出流路82から分岐する第二連通路84が接続される。また、流量制御弁2には、第一ランド部21aによって第一流体圧室23と連通または遮断されるドレン通路85が接続される。
【0031】
スプール21は、両端部に画成された第一流体圧室23及び第二流体圧室24に導かれる作動油の圧力による荷重と、リターンスプリング22の付勢力とがバランスした位置で止まる。
【0032】
スプール21に作用する第二流体圧室24の圧力P2による荷重とリターンスプリング22の付勢力との合計荷重が、スプール21に作用する第一流体圧室23の圧力P1による荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング22が伸長し、スプール21は第一ストッパ部21cがバルブ収容穴25の底部に当接した状態となる。
【0033】
この状態では、スプール21の第一ランド部21aが、第一流体圧室23とドレン通路85との接続を遮断する。これにより、ポンプ1から吐出される作動油は全量が流体圧機器50に供給される。
【0034】
これに対して、スプール21に作用する第一流体圧室23の圧力P1による荷重が、スプール21に作用する第二流体圧室24の圧力P2による荷重とリターンスプリング22の付勢力との合計荷重よりも大きい場合には、スプール21はリターンスプリング22の付勢力に抗して移動する。
【0035】
この状態では、スプール21の第一ランド部21aが、第一流体圧室23とドレン通路85とを連通させる。これにより、ポンプ1から吐出される作動油の一部は、第一流体圧室23及びドレン通路85を通じて吸込流路81に還流する。
【0036】
このように、流量制御弁2はスプール21の両端部に作用する差圧に応じて作動する。したがって、スプール21の両端部に作用する差圧を制御することによって、流量制御弁2を通じて吸込流路81に還流する作動油の流量を制御することができ、ポンプ1から流体圧機器50へ供給される作動油の流量を所望の流量に制御することができる。
【0037】
ポンプ装置100は、流量制御弁2のスプール21の両端部に作用する第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdを目標差圧Ptに調整する差圧調整装置3と、吐出流路82と第二流体圧室24とを連通する第二連通路84に設けられたオリフィス40と、をさらに備える。
【0038】
差圧調整装置3は、第二弁体としてのスプール31と、スプール31の一方の端部に臨んで設けられ、かつ第二流体圧室24に連通する調圧室34と、スプール31の他方の端部に臨んで設けられ、吐出流路82の圧力が導かれるパイロット室35と、調圧室34に圧縮状態で収装されスプール31を開弁方向に付勢する付勢部材としてのばね33と、スプール31を閉弁方向に付勢し、閉弁方向に付勢する付勢力を変更可能とされる比例ソレノイド32と、を備える。比例ソレノイド32の付勢力は、印加される印加電流Iに応じて変化可能とされる。
【0039】
調圧室34は、第二パイロット通路86を通じて第二連通路84のオリフィス40の下流側に連通する。これにより、調圧室34は、第二パイロット通路86及び第二連通路84を通じて第二流体圧室24に連通する。したがって、調圧室34の圧力P4は、第二流体圧室24の圧力P2に等しくなる。また、パイロット室35は、吐出流路82から分岐する第一パイロット通路88を通じて吐出流路82に連通する。パイロット室35と第一流体圧室23は、互いに吐出流路82に連通しているので、パイロット室35の圧力P3は、第一流体圧室23の圧力P1に等しくなる。
【0040】
差圧調整装置3には、オリフィス40の下流側において第二連通路84から分岐し、タンク4に連通するリリーフ通路87が接続される。
【0041】
スプール31は、バルブ収容穴36の内周面に沿って摺動する第三ランド部31a及び第四ランド部31bを備える。スプール31の第三ランド部31aによってリリーフ通路87とタンク4とが連通またはその接続が遮断される。
【0042】
スプール31は、調圧室34及びパイロット室35に導かれる作動油の圧力による荷重と、比例ソレノイド32及びばね33の付勢力とがバランスした位置で止まる。パイロット室35の圧力P3による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との合計荷重が、調圧室34の圧力P4による荷重とばね33の付勢力との合計荷重よりも大きい場合には、第三ランド部31aによってリリーフ通路87とタンク4との接続が遮断される。これに対して、パイロット室35の圧力による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との合計荷重が、調圧室34の圧力による荷重とばね33の付勢力との合計荷重よりも小さい場合には、第三ランド部31aによってリリーフ通路87とタンク4とが連通される。
【0043】
コントローラ60は、比例ソレノイド32に印加される印加電流Iを制御する。また、コントローラ60には、ポンプ回転数検出器70が検出したポンプ1のポンプ回転数Nが入力される。
【0044】
コントローラ60には、ポンプ装置100のある目標流量でのポンプ回転数Nと目標差圧Ptとの関係を表すマップ(
図2)及び目標差圧Ptと比例ソレノイド印加電流Iとの関係を表すマップ(
図3)が予め記憶されている。なお、目標流量とは、流体圧機器50が必要とする予め定められた流量の値であり、
図2では、ポンプ回転数Nmのときにポンプ1が吐出する流量に相当する。また、目標差圧Ptとは、流量制御弁2のスプール21の両端部に作用する第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdの目標値である。コントローラ60は、差圧Pdが目標差圧Ptになるように比例ソレノイド32を制御する。
【0045】
ポンプ装置100は、吐出流路82から吸込流路81へ還流させる流量を流量制御弁2によって制御することで、ポンプ1から吐出流路82を通じて流体圧機器50へ供給される作動油の流量が目標流量になるように制御する。具体的には、コントローラ60は、
図2及び
図3のマップを参照して、差圧調整装置3の動作を制御することによって第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdが目標差圧Ptとなるように調整することで流量制御弁2のスプール21の開度を調整し、ポンプ1から流体圧機器50に供給される作動油の流量が目標流量になるように制御する。
【0046】
図2に示すマップについて説明する。ポンプ1は、ポンプ回転数Nが上昇すると吐出流量が回転数に比例して増加する。コントローラ60は、
図2を参照して、回転数Nm以下の場合には、ポンプ1の吐出流量は目標流量に達していないため、吐出流路82から吸込流路81へ作動油を還流させないように目標差圧Ptを0になるように制御する。また、ポンプ1の回転数が目標流量に相当する回転数Nmを超える場合には、ポンプ1の吐出流量は目標流量を超えるので余剰流量が発生する。さらに、回転数Nmを超える場合において、ポンプ回転数Nが増減すると余剰流量も増減する。そのため、ポンプ1から流体圧機器50への供給流量を一定にするためには、ポンプ回転数Nの増減に伴って流量制御弁2のスプール21の開度を調整して流量制御弁2からの還流流量を調整する必要がある。そのため、コントローラ60は、ポンプ回転数Nに応じて目標差圧Ptを調整する。なお、流量制御弁2のスプール21はリターンスプリング22によって閉弁方向に付勢されているので、スプール21の両端部に作用する差圧Pdがリターンスプリング22の付勢力による荷重に相当する差圧Pm以上にならなければ、スプール21は開弁されない。
【0047】
次に、
図3に示すマップについて説明する。目標差圧Ptと差圧調整装置3の比例ソレノイド32の印加電流Iとは負の比例関係にある。具体的には、目標差圧Ptを大きくするためには、比例ソレノイド32の印加電流Iを低下させる。比例ソレノイド32の印加電流Iを低下させると、差圧調整装置3のスプール31の閉弁方向の付勢力が小さくなる。これにより、パイロット室35の圧力P3と調圧室34の圧力P4との差圧Peが大きくなるので、第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdも大きくなる。これに対して、目標差圧Ptを小さくするためには、比例ソレノイド32の印加電流Iを上昇させる。比例ソレノイド32の印加電流Iを上昇させると、差圧調整装置3のスプール31の閉弁方向の付勢力が大きくなる。これにより、調圧室34の圧力P3とパイロット室35の圧力P4との差圧Peが小さくなるので、第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdも小さくなる。
【0048】
次に、ポンプ装置100の動作について説明する。
【0049】
ポンプ1は図示しないエンジンなどの駆動装置の動力によって回転駆動されることで、吸込流路81を通じてタンク4から作動油を吸込み、作動油を加圧して吐出流路82に吐出する。吐出流路82に吐出された作動油は、流体圧機器50に供給される。
【0050】
ポンプ1のポンプ回転数Nは、駆動装置の回転数とともに変化する。ポンプ回転数Nが上昇すると、ポンプ1の吐出流量は回転数に比例して増加する。
【0051】
ポンプ1が駆動すると、第一流体圧室23には、吐出流路82から第一連通路83を通じて作動油が供給され、パイロット室35には、吐出流路82から第一パイロット通路88を通じて作動油が供給される。これにより、第一流体圧室23及びパイロット室35には、等しい圧力が作用する。また、第二流体圧室24には、吐出流路82から第二連通路84を通じて作動油が供給され、調圧室34には、吐出流路82から第二連通路84及び第二パイロット通路86を通じて作動油が供給される。これにより、第二流体圧室24及び調圧室34には、等しい圧力が作用する。
【0052】
したがって、流量制御弁2のスプール21の両端部に作用する第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdと、差圧調整装置3のスプール31の両端部に作用するパイロット室35の圧力P3と調圧室34の圧力P4との差圧Peと、は等しくなる。
【0053】
また、ポンプ1が駆動すると、コントローラ60には、ポンプ回転数検出器70からポンプ回転数Nが入力される。コントローラ60は、
図2のマップを参照して入力されたポンプ回転数Nに対応する目標差圧Ptを選択する。
【0054】
例えば、ポンプ回転数Nが回転数Nm以下の場合には、ポンプ1の吐出流量は流体圧機器50が必要とする目標流量に達しない。そのため、コントローラ60は、
図2のマップのように、ポンプ1が吐出する流量が流量制御弁2を通じて還流しないように目標差圧Ptを0に設定する。次いで、コントローラ60は、
図3のマップを参照して目標差圧Ptが0になる比例ソレノイド32の印加電流Iaを選択する。このようにして、コントローラ60は、差圧調整装置3の比例ソレノイド32に印加電流Iaを印加することで、目標差圧Ptを0に設定する。
【0055】
目標差圧Ptが0に設定されると、差圧調整装置3の比例ソレノイド32に印加電流Iaが印加されることで、スプール31に作用する比例ソレノイド32の閉弁方向の付勢力は最大となる。これにより、パイロット室35の圧力P3による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との閉弁方向への合計荷重は、調圧室34の圧力P4による荷重とばね33の付勢力との開弁方向への合計荷重よりも大きくなる。したがって、差圧調整装置3のスプール31は閉弁し、リリーフ通路87とタンク4との接続が遮断される。これにより、調圧室34には、吐出流路82から第二連通路84及び第二パイロット通路86を通じて作動油が供給され、調圧室34の圧力P4はパイロット室35の圧力P3と等しくなる。これと同時に、第二流体圧室24には、吐出流路82から第二連通路84を通じて作動油が供給され、第二流体圧室24の圧力P2は第一流体圧室23の圧力P1と等しくなる。したがって、流量制御弁2の両端部に作用する差圧Pdは0になる。つまり、流量制御弁2のスプール21に作用する第一流体圧室23の圧力P1による開弁方向の付勢力と第二流体圧室24の圧力P2による閉弁方向の付勢力とは打ち消される。このとき、流量制御弁2のスプール21はリターンスプリング22の付勢力によって閉弁方向に付勢されるので、流量制御弁2は閉弁する。このようにして、ポンプ1が吐出する作動油は流量制御弁2からは還流されず、ポンプ1が吐出する作動油の全量が流体圧機器50に供給される。
【0056】
ポンプ回転数Nが上昇し、例えば、回転数Nmを超えた回転数Nbになると、ポンプ1の吐出流量は、流体圧機器50が必要とする目標流量を超えるので余剰流量が発生する。そのため、コントローラ60は、
図2のマップを参照して、目標差圧Ptとして回転数Nbに対応した差圧Pbを選択する。
【0057】
コントローラ60は、差圧Pdを0から差圧Pbに上昇させるために、
図3のマップを参照して、差圧0に対応する比例ソレノイド32の印加電流Iaから差圧Pbに対応する印加電流Ibに印加電流Iを減少させる。これにより、スプール31に作用する比例ソレノイド32の付勢力が低下するので、調圧室34の圧力による荷重とばね33の付勢力との開弁方向への合計荷重が、パイロット室35の圧力による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との閉弁方向への合計荷重よりも大きくなる。したがって、差圧調整装置3のスプール31は開弁し、リリーフ通路87とタンク4とが連通する。スプール31が開弁すると、調圧室34の作動油は、第二パイロット通路86、第二連通路84、及びリリーフ通路87を通じてタンク4に戻される。これにより、調圧室34の圧力P4は低下するので、パイロット室35の圧力P3と調圧室34の圧力P4との差圧Peは大きくなり、設定された目標差圧Pbになる。差圧Peが設定された目標差圧Pbになると、調圧室34の圧力による荷重とばね33の付勢力との合計荷重と、パイロット室35の圧力による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との合計荷重と、が等しくなるので、差圧調整装置3のスプール31の開度はその状態に維持される。
【0058】
上述のように差圧Pdと差圧Peは等しいので、差圧Peが0から差圧Pbに上昇すると、差圧Pdも0から差圧Pbに上昇する。したがって、流量制御弁2のスプール21はリターンスプリング22の付勢力に抗して開弁して、吐出流路82の作動油(余剰流量)が第一流体圧室23及びドレン通路85を通じて吸込流路81へと還流する。これにより、ポンプ1の回転数が回転数Nbに増加したことにより吐出流量が増加しても、流量制御弁2が開弁して吐出流路82の作動油(余剰流量)が第一流体圧室23及びドレン通路85を通じて吸込流路81へと還流するので、ポンプ1から流体圧機器50へ供給される作動油の流量は一定(目標流量)に維持される。
【0059】
ポンプ回転数Nが、回転数Nbからさらに大きな回転数Ncになると、ポンプ1から吐出流路82へ吐出される吐出流量がさらに増加する。このとき、コントローラ60は、
図2及び
図3に示すように、目標差圧Ptを差圧Pbから回転数Ncに対応する差圧Pcへと上昇させるために、印加電流Iを印加電流Ibから印加電流Icへ低下させる。これにより、差圧Peが差圧Pbから差圧Pcへと上昇し、差圧調整装置3のスプール31の開度が大きくなる。これと同時に、差圧Pdも差圧Pbから差圧Pcへと上昇するので、流量制御弁2のスプール21の開度は大きくなり還流流量が増加する。したがって、ポンプ1の回転数が回転数Ncに増加したことにより吐出流量が増加しても、吐出流路82から吸込流路81へと還流する還流流量も増加するので、ポンプ1から流体圧機器50へ供給される作動油の流量は一定(目標流量)に維持される。
【0060】
これに対して、ポンプ回転数が所定の回転数Nmを超えた範囲で、例えば、ポンプ回転数Nが回転数Ncから回転数Nbへと小さくなると、ポンプ1から吐出流路82へ吐出される吐出流量が減少し、余剰流量も減少する。このとき、コントローラ60は、
図2及び
図3のマップを参照して、目標差圧Ptを回転数Ncに対応する差圧Pcから回転数Nbに対応する差圧Pbに低下させるために、差圧調整装置3の比例ソレノイド32の印加電流Iを印加電流Icから印加電流Ibへと上昇させる。これにより、差圧調整装置3のスプール31に作用する比例ソレノイド32の付勢力が上昇するので、パイロット室35の圧力による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との閉弁方向への合計荷重が、調圧室34の圧力P4による荷重とばね33の付勢力との開弁方向への合計荷重よりも大きくなる。したがって、差圧調整装置3のスプール31は閉弁方向に移動し、スプール31の開度は小さくなる。これにより、リリーフ通路87からタンク4へと戻される流量が減少するので、吐出流路82からオリフィス40を通じて供給される作動油によって調圧室34の圧力P3が上昇する。調圧室34の圧力P3が上昇すると、パイロット室35の圧力P3と調圧室34の圧力P4との差圧Peは小さくなり、設定された目標差圧Pbになる。差圧Peが設定された目標差圧Pbになると、調圧室34の圧力による荷重とばね33の付勢力との合計荷重と、パイロット室35の圧力による荷重と比例ソレノイド32の付勢力との合計荷重と、が等しくなるので、スプール31の開度がその状態に維持される。
【0061】
上述のように差圧Pdと差圧Peは等しいので、差圧Peが差圧Pcから差圧Pbに低下すると、差圧Pdも差圧Pcから差圧Pbに低下する。したがって、流量制御弁2のスプール21は閉弁方向の付勢力が大きくなるので、開度が小さくなり還流流量が減少する。このようにして、ポンプ1の回転数が回転数Nbに減少したことにより吐出流量が減少しても、吐出流路82から吸込流路81へと還流する還流流量も減少するので、ポンプ1から流体圧機器50へ供給される作動油の流量は一定(目標流量)に維持される。
【0062】
以上のように、ポンプ装置100では、調圧室34の圧力P4とパイロット室35の圧力P3との差圧Peが目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4を調整することで、第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Peを目標差圧Ptに調整し、流量制御弁2からの還流流量を制御する。これにより、ポンプ1のポンプ回転数Nが変化して吐出流量が変化しても、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定に保つことができる。
【0063】
流量を一定(目標流量)に制御しているときに、例えば、流体圧機器50の動作によって吐出流路82の圧力が上昇すると、第一連通路83を通じて第一流体圧室23の圧力P1も上昇する。これにより、流量制御弁2のスプール21を開弁する方向に付勢する付勢力が大きくなり、スプール21が開弁方向に移動しようとする。
【0064】
ポンプ装置100では、吐出流路82の圧力が上昇すると、パイロット室35の圧力も上昇するので、差圧調整装置3のスプール31を閉弁方向に付勢する付勢力が大きくなる。したがって、スプール31が閉弁方向に移動してスプール31の開度が小さくなるので、リリーフ通路87からタンク4へ戻される流量が減少する。これにより、吐出流路82からオリフィス40を通じて供給される作動油によって、調圧室34の圧力P4及び第二流体圧室24の圧力P2は上昇する。
【0065】
このように、ポンプ装置100では、吐出流路82の圧力が上昇して第一流体圧室23の圧力P1が上昇しても、それにともなって、差圧調整装置3によって設定された目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4及び第二流体圧室24の圧力P2が調整され、差圧Pdが目標差圧Ptに維持されるので、スプール21の開度は変化しない。よって、流量制御弁2から還流される還流流量はほとんど変化しないため、圧力が変化しても流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に維持することができる。
【0066】
これに対して、流体圧機器50の動作によって吐出流路82の圧力が低下すると、第一連通路83を通じて第一流体圧室23の圧力P1も低下する。これにより、流量制御弁2のスプール21を開弁する方向に付勢する付勢力が小さくなり、スプール21が閉弁方向に移動しようとする。
【0067】
ポンプ装置100では、吐出流路82の圧力が低下すると、パイロット室35の圧力も低下するので、スプール31を閉弁方向に付勢する付勢力が小さくなる。したがって、スプール31の開度が大きくなって、リリーフ通路87からタンク4へ戻される流量が増加する。これにより、第二流体圧室24及び調圧室34の圧力は低下する。
【0068】
このように、ポンプ装置100では、吐出流路82の圧力が低下して第一流体圧室23の圧力P1が低下しても、それにともなって、差圧調整装置3によって設定された目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4及び第二流体圧室24の圧力P2が調整され、差圧Pdが目標差圧Ptに維持されるので、スプール21の開度は変化しない。よって、流量制御弁2から還流される還流流量はほとんど変化しないため、圧力が変化しても流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に維持することができる。
【0069】
以上の第1実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0070】
従来は、ポンプと流体圧機器を接続する吐出流路に絞りを設け、その上下側の圧力差に基づいて流量制御弁を制御していたが、本実施形態では、調圧室34の圧力P4とパイロット室35の圧力P3との差圧Peが目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4を差圧調整装置3によって調整することで、流量制御弁2の第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdが目標差圧Ptに調整される。これにより、吐出流路82に絞りを設けなくても、ポンプ1から流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定に制御できる。また、吐出流路82に絞りを設けていないため圧力損失が生じないので、ポンプ1を駆動するためのトルクを低減することができる。さらに、流量制御弁2は、第一流体圧室23の圧力P1と第二流体圧室24の圧力P2との差圧Pdで制御されるため、流体圧機器50の動作によって吐出流路82の圧力が変化しても、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定に保つことができる。
【0071】
また、本実施形態では、差圧調整装置3によって、変動範囲の狭い調圧室34の圧力P4とパイロット室35の圧力P3との差圧Peを制御するので、比例ソレノイド32の付勢力の制御範囲を大きなものとする必要がない。したがって、比例ソレノイド32に印加される電流範囲に対して付勢力の制御範囲が小さいので、制御性を向上することができる。また、比例ソレノイド32を小型化することができる。
【0072】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るポンプ装置200について説明する。以下では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態のポンプ装置と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
以下に、
図4を参照して具体的に説明する。
【0074】
流体圧機器50が要求する圧力の変化が大きいと、吐出流路82の圧力の変化も大きくなり、第一流体圧室23とタンク4との差圧の変化が大きくなる。第一流体圧室23とタンク4との差圧の変化が大きいと、流量制御弁2のスプール21が同じ開度であっても還流流量が変化することが考えられる。また、第一流体圧室23とタンク4との差圧が大きくなるにつれて流体の流速は速くなる。スプール21の形状によっては、流速が速くなるとスプール21に作用する静圧と動圧の差に起因して閉弁方向に流体力が作用し、還流流量が小さくなることが考えられる。
【0075】
ポンプ装置200では、
図4に示すように、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に制御する精度を向上させるために、流体圧機器50の圧力に基づいて、ポンプ回転数Nと目標差圧Ptとの特性を変化させる。
【0076】
ポンプ装置200では、コントローラ60に流体圧機器50が要求する圧力の信号が入力される。コントローラ60は、流体圧機器50が要求する圧力の信号が入力されると、予め記憶された
図4のマップの中から、流体圧機器50が要求する圧力に応じたポンプ回転数Nと目標差圧Ptとの関係の特性を選択する。
【0077】
例えば、中圧特性Bでポンプ回転数Ncで制御されているときに、流体圧機器50が要求する圧力が高くなると、コントローラ60は、
図4における高圧特性Aを選択する。つまり、目標差圧Ptの設定圧力は、中圧特性Bの差圧Pcから高圧特性Aの差圧Pfに変更される。これにより、流量制御弁2のスプール21に作用する差圧Pdは小さくなる。流体圧機器50が要求する圧力が高くなると吐出流路82の圧力が上昇し、第一流体圧室23の圧力P1とタンク4との差圧が上昇する。それに合わせて差圧Pdを小さくしてスプール21の開度を小さくし、還流流量が変化しないように調整される。よって、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に保つことができる。
【0078】
また、中圧特性Bでポンプ回転数Ncで制御されているときに、流体圧機器50が要求する圧力が低くなると、コントローラ60は、
図4における低圧特性Cを選択する。つまり目標差圧Ptは、中圧特性Bの圧力Pcから低圧特性Cの圧力Pgに変更される。これにより、流量制御弁2のスプール21に作用する差圧Pdは大きくなる。流体圧機器50が要求する圧力が低くなると吐出流路82の圧力が低下し、第一流体圧室23の圧力P1とタンク4との差圧が低下する。それに合わせて差圧Pdを大きくしてスプール21の開度を大きくし、還流流量が変化しないように調整される。よって、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に保つことができる。
【0079】
このようにして、流体圧機器50が要求する圧力が変化しても、コントローラ60が、圧力に応じてポンプ回転数Nと目標差圧Ptとの関係の特性を選択し、その特性に基づいて差圧Pd及び差圧Peを目標差圧Ptになるように制御するので、流体圧機器50へ供給される作動油の流量を一定(目標流量)に保つことができる。
【0080】
なお、
図4では、高圧特性A、中圧特性B、及び低圧特性Cのように段階的なものを示しているが、実際には、高圧特性Aと低圧特性Cとの間で連続的に特性を変化させるものである。もちろん、特性を段階的に変化させるものであってもよい。なお、
図4に示す中圧特性Bとは、高圧特性Aと低圧特性Cの間にある概念的なものを例示しているに過ぎない。
【0081】
以上の第2実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0082】
ポンプ装置200では、コントローラ60に流体圧機器50が要求する圧力の信号が入力され、この圧力の信号に応じて目標差圧Ptが調整される。つまり、目標差圧Ptは流体圧機器50が要求する圧力に応じて調整されるので、流体圧機器50へ供給される作動油の流量をより一層一定に保つことができる。
【0083】
上記第2実施形態では、コントローラ60に流体圧機器50が要求する圧力の信号が入力されるように構成されている。これに代えて、吐出流路82に圧力検出器を設け、この圧力検出器の信号をコントローラ60に入力するようにしてもよい。コントローラ60は、圧力検出器から信号が入力されると、
図4のマップを参照して、圧力検出器が検出した吐出流路82の圧力に応じたポンプ回転数Nと目標差圧Ptとの関係の特性を適宜選択する。これにより、コントローラ60に流体圧機器50が要求する圧力の信号が入力される場合と同様にポンプ装置200を制御することができる。
【0084】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0085】
本実施形態では、ポンプ装置100は、両端部に作用する差圧Pdに応じて動作してポンプ1から吐出された作動流体の一部を吸込流路81に還流させるスプール21を有する流量制御弁2と、スプール21の両端部に作用する差圧Pdを目標差圧Ptに調整する差圧調整装置3と、を備え、差圧調整装置3が、スプール31の一方の端部に臨んで設けられ、かつ第二流体圧室24に連通する調圧室34と、スプール31の他方の端部に臨んで設けられ、吐出流路82の圧力が導かれるパイロット室35と、を有し、調圧室34の圧力P4とパイロット室35の圧力P3との差圧Peが目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4が調整されることを特徴とする。
【0086】
この構成によれば、調圧室34の圧力P4とパイロット室35の圧力P3との差圧Peが目標差圧Ptになるように調圧室34の圧力P4が調整されることによって、流量制御弁2のスプール21の両端部に作用する差圧Pdが目標差圧Ptに調整される。これにより、ポンプ1から吐出された作動流体は、目標差圧Ptに応じて流量制御弁2を通じて吸込流路81に還流されるため、吐出流路82に絞りを設けることなく流量制御ができる。このように、吐出流路82には絞りが設けられないため、ポンプ1を駆動するためのトルクを低減することができる。
【0087】
また、本実施形態では、ポンプ装置100は、吐出流路82と第二流体圧室24とを連通する第二連通路84に設けられたオリフィス40をさらに備えることを特徴する。
【0088】
この構成によれば、第二連通路84にオリフィス40を設けることで、差圧調整装置3を通じて排出される作動油の流量が少なくても第二流体圧室24の圧力P2を調圧できる。したがって、差圧調整装置3を小型化できる。
【0089】
また、本実施形態では、差圧調整装置3は、調圧室34に圧縮状態で収装され、スプール31を開弁方向に付勢するばね33と、閉弁方向に付勢する付勢力が変更可能とされる比例ソレノイド32をさらに備えることを特徴とする。
【0090】
この構成によれば、比例ソレノイド32を使用しているので、流量制御弁2のスプール21の両端部に作用する差圧Pdを精度良く調整することができる。
【0091】
また、本実施形態では、目標差圧Ptは、ポンプ1のポンプ回転数Nに応じて調整されることを特徴とする。
【0092】
この構成によれば、ポンプ1の回転数Nが変化して吐出する流量が変化しても、ポンプ1の回転数Nに応じて目標差圧Ptが調整されるため、流体圧機器50に供給される作動流体の流量を目標流量に精度よく制御することができる。
【0093】
また、本実施形態では、目標差圧Ptは、流体圧機器50が要求する圧力に応じて調整されることを特徴とする。
【0094】
この構成によれば、流体圧機器50が要求する圧力が変化しても、その圧力に応じて目標差圧Ptが調整されるため、流体圧機器50に供給される作動流体の流量を目標流量に精度よく制御することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0096】
上記実施形態では、ポンプ1のポンプ回転数Nによって目標差圧Ptを変化させている。これに代えて、ポンプ1が吐出する流量を検出する流量計を設け、検出された流量に応じて目標差圧Ptを変化させてもよい。
【0097】
また、コントローラ60に、
図2または
図4に示す目標流量のマップを異なる目標流量ごとに複数記憶し、流体圧機器50からの指示に応じて目標流量に対応するマップを適宜選択するように構成してもよい。なお、目標流量を変更したマップを作成するには、グラフの折れ点となる回転数Nmの位置を目標流量となるポンプ回転数の位置に変更すればよい。