(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記湾曲部の管軸線上の仮想の平面と前記複数の折れ部との交点を規定した場合に、前記平面上において、隣り合う前記交点同士を結んだ直線は多角形の一部になるように前記パイプを形成することを特徴とする請求項9または10記載のパイプ製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、曲げの内側に積極的に凹凸を形成したパイプであっても、凹凸によって見栄えが悪くなってしまうことは否めず、更に、流体が通過するパイプの管内面側にも、ひだ状の凹凸が形成されてしまい、流れの淀みや抵抗が生じ易くなって腐食の一因にもなる可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、見栄えを良好に維持すると共に、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減するパイプ、このパイプを製造する際に使用する金型、及びこのパイプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、曲げ加工された湾曲部を有する金属製のパイプであって、湾曲部の曲率中心側である内側の周面には、複数の非曲げ面と、複数の非曲げ面を屈曲して接続する複数の折れ部とが設けられていることを特徴とする。
【0009】
曲げ加工された湾曲部を有する一般的なパイプの場合、曲率中心側である内側が圧縮されてしわが生じ易い。しかしながら、上記のパイプでは、複数の折れ部でしわを吸収するように屈曲させているので、見栄えを損なうしわは生じ難い。更に、折れ部で屈曲させることで折れ部同士の間には、ひだ状の凹凸の無い非曲げ面が形成される。その結果、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できる。
【0010】
また、非曲げ面での肉厚は、折れ部での肉厚よりも厚いと好適である。湾曲部の曲率中心側である内側において生じる肉厚の余剰分を非曲げ面での肉厚で吸収することになるため、ひだ状の凹凸の発生を、より確実に防止することができる。
【0011】
また、管軸線上の仮想の平面と複数の折れ部との交点を規定した場合に、平面上において、隣り合う交点同士を結んだ直線は多角形の一部とすることができる。
【0012】
さらに、複数の折れ部は、管軸線に沿った方向の両端に設けられた一対の副折れ部と、一対の副折れ部の間に設けられた複数の主折れ部と、からなり、平面と主折れ部との交点を基準交点として特定した場合に、隣り合う基準交点同士を結んだ直線は、基準交点が頂点となり、曲率中心が中心となる正多角形の一部となると好適である。正多角形の一部になることで、等間隔で折れ部が形成されることになり、仕上がり時の見栄えの点で良好になり、意匠性が向上する。
【0013】
更に、この正多角形の角数は6以上であると、折れ部同士の間隔が狭くならず、より確実にひだ状の凹凸やしわの発生を抑制できて好適である。
【0014】
また、上記のパイプは、湾曲部に連続的に接続する直線部を更に備え、上記の正多角形の角数は、直線部の外径を(d)、湾曲部の曲率半径を(r)、直線部の肉厚を(t)とした場合に以下の式(1)によって導出された値(x)以下の自然数であると、折れ部の形成が、より確実なものとなって好適である。
【0015】
【数1】
【0016】
また、本発明は、曲げ加工用の金型に沿って未加工パイプを湾曲させることによって湾曲部が形成された金属製のパイプであって、金型に設けられた複数の円弧状の頂部で未加工パイプを屈曲させながら湾曲させることにより、湾曲部の曲率中心側である内側の周面に、頂部に対応した複数の折れ部と、複数の折れ部によって屈曲して接続された複数の非曲げ面とが形成されたことを特徴とする。
【0017】
上記のパイプでは、複数の折れ部でしわを吸収するように屈曲させているので、見栄えを損なうしわは生じ難い。更に、折れ部で屈曲させることで折れ部同士の間には、ひだ状の凹凸の無い非曲げ面が形成される。その結果、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できる。
【0018】
また、本発明は、未加工パイプに曲げ加工を施して湾曲部を有する金属製のパイプを形成する際に使用する金型であって、未加工パイプの曲げを案内する型溝を備え、型溝は、曲げ加工に際して未加工パイプに当接して複数の折れ部を形成する円弧上の複数の頂部を備えることを特徴とする。
【0019】
この金型を使用することで、折れ部以外の箇所に見栄えを損なうしわが無く、また、ひだ状の凹凸の無い湾曲部を有するパイプを製造し易くなり、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できる。また、この金型を使用すると、ワイパーを使用しなくても、しわの無いパイプを形成し易くなり、その結果、曲率半径の小さな湾曲部を有するパイプを製造し易くなる。
【0020】
更に、この金型の型溝は、複数の頂部間で未加工パイプに当接して非曲げ面を形成する非曲げ面受け部を備えると好適である。非曲げ面受け部を備えることで、しわの無い非曲げ面を、より確実に形成することができる。
【0021】
また、本発明は、曲げ加工用の金型に沿って未加工パイプを湾曲させることによって湾曲部が形成された金属製のパイプを製造するパイプ製造方法であって、金型に設けられた複数の円弧状の頂部で未加工パイプを屈曲させながら湾曲させることにより、湾曲部の曲率中心側である内側の周面に、頂部に対応した複数の折れ部と、複数の折れ部によって屈曲して接続された複数の非曲げ面とを形成することを特徴とする。
【0022】
このパイプ製造方法によれば、実質的に形成を意図した折れ部でしわを吸収でき、更に、ひだ状の凹凸の無い湾曲部を形成できるので、見栄えが良く、且つ流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できるパイプを製造できる。また、このパイプ製造方法では、ワイパーを使用しなくても、しわの無いパイプを形成し易くなり、その結果、曲率半径の小さな湾曲部を有するパイプを製造し易くなる。
【0023】
また、このパイプ製造方法において、非曲げ面での肉厚を、折れ部での肉厚よりも厚くなるようにパイプを形成すると、ひだ状の凹凸の発生を、より確実に防止することができて好適である。
【0024】
また、このパイプ製造方法において、管軸線上の仮想の平面と複数の折れ部との交点を規定した場合に、平面上において、隣り合う交点同士を結んだ直線は多角形の一部になるようにパイプを形成することができる。
【0025】
更に、このパイプ製造方法において、上記仮想の平面上で屈曲して連続する複数の直線のうち、両端となる二本の直線を除いて一の直線を基準直線として特定し、更に基準直線の両端である交点を一対の基準交点として特定した場合に、上記の多角形は、曲率中心と一対の基準交点とを通る二本の基準直線によって形成される挟角が中心角となる正多角形となるようにパイプを形成すると好適である。正多角形の一部になることで、等間隔で折れ部が形成されることになり、意匠性が向上したパイプを製造できる。
【0026】
更に、このパイプ製造方法において、正多角形の角数は6以上になるようにパイプを形成すると、折れ部同士の間隔が狭くならず、より確実にひだ状の凹凸やしわの発生の少ないパイプを製造できる。
【0027】
更に、このパイプ製造方法において、正多角形の角数が6以上であり、更に、未加工パイプの外径を(d)、湾曲部の曲率半径を(r)、未加工パイプの肉厚を(t)とした場合に以下の式(1)によって導出された値(x)以下の自然数であるようにパイプを形成すると、折れ部の形成が、より確実なものとなって好適である。
【0028】
【数2】
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、見栄えを良好に維持すると共に、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できるパイプを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施形態について説明する。本実施形態に係るパイプ(
図6、及び
図7参照)1は金属製であり、ストレート状のパイプ(以下、「未加工パイプ」という)100に曲げ加工を施すことによって湾曲部2が形成されている。以下、湾曲部2を有するU字状のパイプ1のパイプ製造方法を、先に説明する。
【0032】
図1、
図2、
図3、及び
図4に示されるように、湾曲部2を有するパイプ1は、例えば曲げ加工装置30を使用して製造される。曲げ加工装置30は、湾曲部2となる形状を未加工パイプ100に付与する金型部(金型)40と、曲げ加工の曲率中心を通る回転軸線Arを支点にして未加工パイプ100に曲げ応力を付与するする曲げ部50と、を有する。
【0033】
金型部40は、湾曲部2の外周面のうち、主として曲率中心Px側である内側の外周面(周面)2aを形成するロール型41と、湾曲させるために外側の周面2bから押圧するプレッシャー型44とを備えている。ロール型41は、上下で分割可能であり、下側は分割ロール下型42Aであり、上側は分割ロール上型43である。分割ロール下型42Aはベース板45に固定されており、分割ロール下型42Aに対して分割ロール上型43が重ね合わせられている。更に、分割ロール上型43の縁に当接する押え板46が設けられており、押え板46は、ベース板45との間でロール型41を挟持すべくボルト締結されている。また、プレッシャー型44は、板状の部材であり、未加工パイプ100の半割り分が収まる断面半円状の縦溝44aが形成されている。
【0034】
曲げ部50は、曲げ加工の曲率中心Pxを通る回転軸線Arを有するピン部51と、ピン部51を介してロール型41に回転自在に連結される曲げアーム52と、未加工パイプ100内に差し込まれ、曲げ加工時に管内面の潰れを防止する芯金53と、プレッシャー型44を保持しながら曲げアーム52に連動して回転移動するプレッシャー型保持部54と、を備えている。
【0035】
ピン部51はロール型41、及びベース板45を貫通し、プレッシャー型保持部54まで到達するように取り付けられる。曲げアーム52は、一方の端部がピン部51の頭部に回転自在に嵌め込まれ、ピン部51を支点にして揺動可能に装着される。芯金53は、先端部53aが未加工パイプ100に差し込まれ、基端部53bが曲げアーム52の下面に固定される。プレッシャー型保持部54はプレッシャー型44を支える台座部54bと、台座部54bに立設され、未加工パイプ100に当接した状態のままプレッシャー型44をロール型41との間で保持する板状のホールド部54aとを備えている。ホールド部54aは曲げアーム52の下面に固定されており、台座部54bは、曲げアーム52に連動した移動が可能になるように、ピン部51を介してベース板45に回転自在に連結されている。
【0036】
図1に示されるように、曲げ加工を施す際には、曲げ加工装置30の各部材は、分解された状態にあり、分割ロール下型42Aと分割ロール上型43との間に収まるように、未加工パイプ100をセットし、更に、ピン部51を介して曲げアーム52がロール型41に対して回転自在となるように取り付ける。また、芯金53の先端部53aを未加工パイプ100に挿入し、芯金53の基端部53bを曲げアーム52の下面に固定する。また、プレッシャー型44を未加工パイプ100の周面2bに接するように装着し、更に、プレッシャー型44を保持するプレッシャー型保持部54を曲げアーム52の下面に固定する。以上で、曲げ加工の準備工程が終了する(
図2参照)。
【0037】
次に、
図3に示されるように、曲げアーム52を回転軸線Ar回りに回転させ、未加工パイプ100を湾曲させる。その結果、U字状の湾曲部2を有するパイプ1が形成される。ここで回転軸線Arは、湾曲部2の実質的な曲率中心Px(
図6、及び
図7参照)となる。本実施形態では、未加工パイプ100の外径(d)は12mm、肉厚(t)は1mm、材質は鉄を想定しており、また、湾曲部2の管軸線から曲率中心Pxまでの距離、つまり曲率半径(r)は12mm、曲げ角度は180°を想定している。但し、使用する未加工パイプ100の材質としては他の金属材料を使用することも可能であり、外径(d)、曲率半径(r)、及び曲げ角度も適宜に変更可能である。
【0038】
なお、本実施形態では、湾曲部2の始端側と終端側とにそれぞれ直線部5を残すようにしており、曲げ角度が180°であるということは、湾曲部2に連続的に接続する一対の直線部5が略平行になることを意味する。ここで、湾曲部2の形成を完了した状態(
図3(b)参照)において、湾曲部2には弾性ひずみが残り、僅かに復元作用が働く。したがって、終端側の直線部5は、始端側の直線部5に対して平行となる位置を超えて僅かに内側に入り込む程度にまで湾曲させ、曲げ応力を解放すると結果的に僅かに復元して始端側の直線部5に略平行となるように調整されている。
【0039】
次に、ロール型41の詳細について説明する。本実施形態に係るロール型41は、曲げ角度として180°を想定し、更に端末に拡管加工を施すことを想定しているので、パイプ1をロール型41から取り外す必要から二分割されている。しかしながら、端末に拡管加工を施さない場合、曲げ角度が180°以下であれば理論上はロール型41から引き抜くように取り外すことが可能である。つまり、ロール型41は、分割可能であることが必須では無く、曲げ角度等に応じて適宜に採用できるが、本実施形態では、分割可能な態様を例に説明する。
【0040】
ロール型41の分割ロール下型42Aと分割ロール上型43とには同心となる軸孔H(
図5参照)がそれぞれに形成されており、この軸孔Hにピン部51が挿入されて取り付けられている。また、分割ロール下型42Aと分割ロール上型43とには、協働して湾曲部2の内側の周面2aを形成すべく、未加工パイプ100の曲げを案内する略U字状の型溝60が形成されている。型溝60の外側、つまり湾曲部2の周面2aに干渉しない側は開放されている。分割ロール下型42A側の下型溝60aと、分割ロール上型43側の上型溝とは基本的に対称形状をなすため、下型溝60aを中心に説明し、分割ロール上型43の上型溝については詳細な説明を省略する。
【0041】
下型溝60aは略U字状に湾曲している。また、下型溝60aを断面視した場合、未加工パイプ100の横断面となる円形を四分割した程度の円弧状の凹曲面形状となる。以下の説明では、U字状の下型溝60aの形状に倣うU字状の曲線方向を下型溝60aの長手方向として説明する。
【0042】
下型溝60aには、曲げ加工の始点、及び終点、つまり下型溝60aの長手方向の両端に副尖形部63aが尖形に突き出すように形成されている。また、一対の副尖形部63aの間には、等間隔で複数の主尖形部61aが突出形成されている。副尖形部63a及び主尖形部61aは円弧状であり、副尖形部63aを含む各平面、主尖形部61aを含む各平面は、それぞれ下型溝60aの長手方向に直交する。なお、本実施形態では、副尖形部63aと主尖形部61aとの間隔は、主尖形部61a同士の間隔よりも広くなっているが、主尖形部61a同士の間隔と同じであっても良い。
【0043】
上型溝も同様であり、下型溝60aの副尖形部63aに連続するように円弧上の副尖形部が形成されており、主尖形部61aに連続するように円弧上の主尖形部が形成されている。
【0044】
下型溝60aの主尖形部61aと上型溝の主尖形部とが連続することで円弧上に連続する主頂部(頂部)61が形成される。また、下型溝60aの副尖形部63aと上型溝の副尖形部とが連続することで円弧上に連続する副頂部(頂部)63が形成される。未加工パイプ100に曲げ加工を施す際、主頂部61、及び副頂部63が未加工パイプ100の周面2aに当接して未加工パイプ100の周面2aを屈曲させる。その結果、未加工パイプ100の曲率中心Px側の内側の周面2aには線状の複数の折れ部3A、3B(
図6、及び
図7参照)が形成される。
【0045】
また、下型溝60aは、複数の主尖形部61a同士の間に設けられた主凹曲面62aを有する。主凹曲面62aは、基本的に、ストレート状のパイプの周面に倣うような形状である。上型溝にも、下型溝60aの主凹曲面62aに連続するように凹曲面が形成されている。そして、下型溝60aの主凹曲面62aと上型溝の主凹曲面とが連続することで、複数の主頂部61間で未加工パイプ100に当接して主非曲げ面4A(
図6、及び
図7参照)を形成する主受け面(非曲げ面受け部)62となる。また、副尖形部63aと主尖形部61aとの間にも副凹曲面64aが形成されており、この副凹曲面64aも、基本的には、ストレート状のパイプの周面に倣うような形状である。そして、上型溝にも、副凹曲面64aに連続するように副凹曲面が形成されており、下型溝60aの副凹曲面64aと上型溝の副凹曲面とが連続することで、副頂部63と主頂部61との間で未加工パイプ100に当接して副非曲げ面4Bを形成する副受け面(非曲げ面受け部)64となる。
【0046】
以上を整理すると、本実施形態に係るパイプ製造方法では、曲げ加工用の金型部40に沿って未加工パイプ100を湾曲させることによって湾曲部2が形成された金属製のパイプ1が形成される。更にこのパイプ1は、金型部40に設けられた複数の円弧状の主頂部61、及び副頂部63で未加工パイプ100を屈曲させながら湾曲させることにより、湾曲部2の曲率中心Px側である内側の周面2aに、主頂部61、及び副頂部63に対応した複数の折れ部3A、3Bと、複数の折れ部3A、3Bによって屈曲して接続された複数の主非曲げ面4A、及び副非曲げ面4Bと、が形成されることになる。
【0047】
パイプ1について更に詳しく説明する。パイプ1はU字状の湾曲部2を有し、湾曲部2の曲率中心Px側である内側の周面2aには、複数の折れ部3A,3Bが設けられている。ここで、複数の折れ部3A,3Bのうち、湾曲部2の始点及び終点、つまり管軸線Taに沿った方向の両端に設けられた一対の折れ部は副折れ部3Bであり、一対の副折れ部3Bの間に設けられた複数の折れ部は主折れ部3Aである。
【0048】
また、周面2aには、主折れ部3A及び副折れ部3Bで屈曲して接続する主非曲げ面4A、及び副非曲げ面4Bが形成されている。より詳細には、湾曲部2の始点及び終点に設けられた副折れ部3Bと主折れ部3Aとの間には副非曲げ面4Bが設けられ、主折れ部3A同士の間には複数の主非曲げ面4Aが設けられている。本実施形態において、主非曲げ面4A及び副非曲げ面4Bは、それぞれ非曲げ面の一例である。
【0049】
ここで、まず、湾曲部2の管軸線Ta上の仮想の平面(以下、「基準平面」という)W、基準平面Wと主折れ部3Aとの交点Pa、及び基準平面Wと副折れ部3Bとの交点Pbを特定する(
図7、及び
図8参照)。次に、交点Pbと交点Paとを結ぶ仮想的な直線Sbと、隣り合う交点Pa同士を結ぶ仮想的な直線Saを特定すると、基準平面W上には屈曲して連続する複数の直線Sa、Sbが形成される。ここで複数の直線Saの長さは略均一に揃っており、一方で、直線Sbは直線Saよりも長くなっているが、連続する直線Sa、Sbは少なくとも多角形の一部になっている。
【0050】
次に、基準平面Wと主折れ部3Aとの交点(基準交点)Pa、及び直線Saに着目すると、屈曲して連続する複数の直線Saは、交点Paを頂点とし、曲率中心Pxを中心とする正多角形Rpの一部になっている。具体的には、隣り合う一対の交点Paと曲率中心Pxとを結ぶ二本の直線を仮定した場合、この二本の直線は曲率中心Pxで交差する。そして、この二本の直線の挟角αは、正多角形Rpの中心角となる。本実施形態の場合、挟角αは30°なので正多角形Rpの角数は12、つまり正12角形となる。複数の直線Saが正多角形Rpの一部になることは、等間隔で主折れ部3Aが形成されていることを意味し、従って、仕上がり時の見栄えの点で良好になり、意匠性が向上する。
【0051】
なお、本実施形態では、交点Pbと交点Paとを結ぶ仮想的な直線Sbは、隣り合う交点Pa同士を結ぶ仮想的な直線Saよりも長くなっており、更に、直線Sbの一部は、正多角形Rpの一部に重なている。また、曲率中心Rpから交点Pbまでの距離は、曲率中心Rpから交点Paまでの距離よりも大きく、従って、曲率中心Rpから交点Pbまでの距離を半径として円を描いた場合には、正多角形Rpの各頂点を通る円に対して同心円で、且つ半径の大きな大径の円になる。
【0052】
正多角形Rpの中心になる曲率中心Pxとは、例えば、上記の製造方法において、曲げ加工の際に回転移動する曲げ部50の回転軸線Arを意味している。一方で、多少の誤差はあるものの、製造後のパイプ1から推定することもでき、例えば、基準平面W上で、少なくとも3以上の交点Paを通る円を仮定した場合に、その円の中心は曲率中心Pxであり、曲率中心Pxから管軸線Taまでの距離が曲率半径(r)である。
【0053】
なお、本実施形態では、正多角形Rpの角数は12になっているが、この角数は12角形に限定されず、6以上、つまり6角形以上とすることで、主折れ部3A同士の間隔が狭くならず、より確実に、ひだ状の凹凸やしわの発生を抑制できて好適である。また、本実施形態では、交点Paの数は5個、つまり、直線Saが4本である態様を例示するが、例えば、直線Saが一本の場合であっても、直線Saの両端である一対の交点Paと曲率中心Pxとの距離が実質的に同じであれば正多角形の一部であると言える。
【0054】
また、この正多角形Rpの角数は、例えば、6以上で、且つ、以下の式(1)によって導出された値(x)以下の自然数であると、主折れ部3Aの形成が、より確実なものとなって好適である。ここで、式(1)において、湾曲部2に連続する直線部5の外径を(d)、湾曲部2の曲率半径を(r)、直線部5の肉厚を(t)としている。
【0056】
なお、上記の式(1)では、直線部5の外径を(d)として説明しているが、未加工パイプ100に曲げ加工を施す上記の製造方法を念頭に置いた場合には、直線部5の外径(d)はストレート状の未加工パイプ100の外径(d)と共通する。
【0057】
また、主非曲げ面4Aの上辺4aは、隣り合う主折れ部3Aの上端同士を、湾曲部2の周面2aにおいて結ぶ仮想的な直線であり、主非曲げ面4Aの下辺4bは、隣り合う主折れ部3Aの下端同士を結ぶ仮想的な直線である。そして、主非曲げ面4Aの上辺4aから下辺4bまでの範囲(非曲げ面範囲)を、主折れ部3Aの上端及び下端と曲率中心Pxとの関係から規定できる。まず、主非曲げ面4Aの上辺4aの代表値である主折れ部3Aの上端と曲率中心Pxとを通る直線を仮定し、一方で、主非曲げ面4Aの下辺4bの代表値である主折れ部3Aの下端と曲率中心Pxとを通る直線を仮定する。この両直線は曲率中心Pxで交差することになり、その交角θ(
図6参照)は90°以下になる。つまり、上記の非曲げ面範囲は、曲率中心Pxから見て交角θ(
図6参照)が90°以下の範囲を意味する。
【0058】
また、主折れ部3Aが形成される部位は、曲げ加工において屈曲する部位であるので実質的に肉厚Laは薄くなり、逆に主折れ部3A以外の部位である主非曲げ面4Aでは肉が盛られ、実質的に主折れ部3Aでの肉厚Laよりも肉厚Lbが厚くなる。このことは、湾曲部2の内側の周面2aで生じる余剰肉厚分を主非曲げ面4A側で吸収していることを意味し、その結果、主非曲げ面4A上にしわが出現するのを効果的に抑止することを意味する。なお、主非曲げ面4Aでの肉厚Lbが主折れ部3Aでの肉厚Laよりも実質的に厚くなるという意味について補足すると、少なくとも、隣り合う二つの主折れ部3A同士の間の中央部分における主非曲げ面4Aでの肉厚Lbが主折れ部3Aでの肉厚Laよりも厚くなることを意味する。また、副折れ部3Bが形成される部位も同様であり、副非曲げ面4Bでの肉厚は、副折れ部3Bでの肉厚よりも実質的に厚くなっている。
【0059】
ここで、主非曲げ面4A及び副非曲げ面4Bについて補足すると、主非曲げ面4Aとは、主非曲げ面4Aと基準平面Wの交線を特定した場合に、この交線が、隣り合う交点Pa同士を結んだ直線Sa上、または直線Saに対して管軸線Ta側とは反対側に膨らんだ線になることを意味し、この直線Saよりも管軸線Ta側に凹んだ曲線にはならないことを意味する。また、副非曲げ面4Bとは、副非曲げ面4Bと基準平面Wの交線を特定した場合に、この交線が、交点Paと交点Pbとを結んだ直線Sb上、または直線Sbに対して管軸線Ta側とは反対側に膨らんだ線になることを意味し、この直線Sbよりも管軸線Ta側に凹んだ曲線にはならないことを意味する。
【0060】
次に、本実施形態に係るパイプ1の作用、効果を整理して説明する。本実施形態に係る金属製のパイプ1は、曲げ加工された湾曲部2を有し、湾曲部2の曲率中心Px側である内側の周面2aには、主非曲げ面4A、及び副非曲げ面4Bと、主非曲げ面4A及び副非曲げ面4Bを屈曲して接続する主折れ部3A、及び副折れ部3Bとが設けられている。
【0061】
ここで、例えば、曲げ加工された一般的なパイプの場合、曲率中心側である内側が圧縮されてしわが生じ易い。しかしながら、本実施形態に係るパイプ1では、複数の主折れ部3A、及び副折れ部3Bでしわを吸収するように屈曲させているので、見栄えを損なうしわは生じ難い。更に、主折れ部3A、及び副折れ部3Bで屈曲させることで主折れ部3A同士の間、及び副折れ部3Bと主折れ部3Aとの間には、ひだ状の凹凸の無い主非曲げ面4A、及び副非曲げ面4Bが形成される。その結果、流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できる。
【0062】
また、本実施形態に係るパイプ1では、主非曲げ面4Aでの肉厚Lbは、主折れ部3Aでの肉厚Laよりも厚い。これは、湾曲部2の曲率中心Px側である内側において生じる肉厚の余剰分を主非曲げ面4Aでの肉厚Lbで吸収している結果であり、ひだ状の凹凸の発生を、より確実に防止することができる。同様に副非曲げ面4Bでの肉厚は、副折れ部3Bでの肉厚よりも厚いので、副非曲げ面4Bでのひだ状の凹凸の発生を、より確実に防止することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るパイプ1では、基準平面W上において、交点Pa同士を結んだ直線Saは、交点Paが頂点となり、曲率中心Pxが中心となる正多角形Rpの一部になっているので、等間隔で主折れ部3Aが形成されることになり、仕上がり時の見栄えの点で良好になり、意匠性が向上する。
【0064】
更に、この正多角形Rpの角数は6以上であると、主折れ部3A同士の間隔が狭くならず、より確実にひだ状の凹凸やしわの発生を抑制できて好適である。
【0065】
また、このパイプ1は以下の製造方法によって製造されている。つまり、本実施形態では、金型部40に設けられた複数の円弧状の主頂部61、及び副頂部63で未加工パイプ100を屈曲させながら湾曲させ、その結果、湾曲部2の曲率中心Px側である内側の周面2aに、主頂部61に対応した複数の主折れ部3A、及び副頂部63に対応した複数の副折れ部3Bと、複数の主折れ部3A、及び副折れ部3Bによって屈曲して接続された複数の主非曲げ面4A、及び副非曲げ面4Bとを形成している。
【0066】
この製造方法によれば、実質的に形成を意図した主折れ部3Aや副折れ部3Bでしわを吸収でき、更に、ひだ状の凹凸の無い湾曲部2を形成できるので、見栄えが良く、且つ流体が通過する管内面側での流れの淀みや抵抗を低減できるパイプ1を製造できる。また、この製造方法では、ワイパーを使用しなくても、しわの無いパイプ1を形成し易くなり、その結果、曲率半径の小さな湾曲部2を有するパイプ1を製造し易くなる。
【0067】
次に、
図9を参照し、ロール型41の分割ロール下型の変形例について説明する。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同様の要素や構造については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0068】
第1の変形例に係る分割ロール下型42B(
図9(a)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正6角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。この分割ロール下型42Bの下型溝60aには、2本の主頂部61、及び2本の副頂部63と、2箇所の副受け面64と、1箇所の主受け面62が設けられており、分割ロール下型42Bを用いることで、2本の主折れ部3A、及び2本の副折れ部3Bと、1箇所の主非曲げ面4A、及び2か所の副非曲げ面4Bとを有する湾曲部2を備えた金属製のパイプ1が製造される。なお、分割ロール下型42Bによって製造されたパイプ1の場合、曲率半径(r)は上述の分割ロール下型42Aによって製造されたパイプ1と同じになる。
【0069】
第2の変形例に係る分割ロール下型42C(
図9(b)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正8角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。また、第3の変形例に係る分割ロール下型42D(
図9(c)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正10角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。また、第4の変形例に係る分割ロール下型42E(
図9(d)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正14角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。また、第5の変形例に係る分割ロール下型42F(
図9(e)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正16角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。以上、第2〜第5の変形例に係る分割ロール下型42B〜42Fによって製造されたパイプ1の場合、曲率半径(r)は上述の分割ロール下型42Aによって製造されたパイプ1と同じになる。
【0070】
また、第6の変形例に係る分割ロール下型42G(
図9(f)参照))は、湾曲部2における主折れ部3Aの配置が正12角形の一部になるパイプ1を製造する際に使用される。第6の変形例に係る分割ロール下型42Gによって製造されたパイプ1の場合、曲率半径は、上述の分割ロール下型42Aによって製造されたパイプ1の曲率半径の2倍となる。
【0071】
以上、本発明について各実施形態を例に説明したが、本発明は上記の実施形態のみに限定されず、例えば、複数の折れ部同士の間隔が均等でなくてもよく、また、主折れ部と基準平面の交点が正多角形上に配置されていない形態であっても良い。また、上記の実施形態では、湾曲部の両端に接続部が連続する態様を説明したが、直線部が無い態様や湾曲部の一方に端部にのみ直線部が設けられた態様であっても良い。