特許第6484088号(P6484088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484088
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/36 20060101AFI20190304BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   F16F9/36
   B62K25/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-75531(P2015-75531)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2016-194355(P2016-194355A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】富宇賀 健
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−190492(JP,A)
【文献】 実開昭56−072945(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
B62K 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のアウターチューブと、前記アウターチューブ内に軸方向移動自在に挿入される環状のインナーチューブとを有するフォーク本体と、
前記フォーク本体内に設けられて、内部に作動液が充填される液室が形成されるシリンダと、前記シリンダ内を軸方向移動自在に移動するピストンロッドと、前記ピストンロッドに装着され前記シリンダ内を伸側室と圧側室に区画するピストンと、前記シリンダ端に装着されて前記ピストンロッドを案内するとともに、前記シリンダ外方を前記液室と連通させる注液口を設けたロッドガイドとを有するダンパカートリッジと、
前記フォーク本体内に設けられ、前記フォーク本体と前記ロッドガイドとの間に介装されるメインスプリングと、
前記ロッドガイドに積層されるとともに前記メインスプリングで押圧されて前記注液口を閉塞する栓部材を備えた
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記栓部材が、前記メインスプリングのスプリングシートを兼ねる
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記シリンダが、前記フォーク本体の前記インナーチューブ側に固定され、前記栓部材は、前記インナーチューブ内に配置される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記栓部材は、環状であって、前記栓部材の外径と前記インナーチューブの内径の差は、前記栓部材の内径と前記ピストンロッドの外径の差より小さい
ことを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、鞍乗車両の前輪側に取り付けられる走行中の振動を吸収するフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗車両の前輪と車体との間に装されるフロントフォークにあっては、減衰力を発揮して、車体の振動を抑制するものがある。このようなフロントフォークは、環状のアウターチューブと、アウターチューブ内に軸方向移動自在に挿入される環状のインナーチューブとを備えたフォーク本体と、前記フォーク本体に収容されフォーク本体の伸縮時にともに伸縮して減衰力を発揮するダンパカートリッジを備えて構成される。ダンパカートリッジは、内部に作動液が充填される液室が形成されるシリンダと、このシリンダ端に装着され、液室の一方側を塞ぐ環状のロッドガイドと、このロッドガイドを貫通しシリンダに出入りするピストンロッドと、このピストンロッドに保持されて液室を伸側室と圧側室に区画するピストンと、このピストンに形成されて伸側室と圧側室を連通するピストン通路と、このピストン通路を通過する作動液に抵抗を与える減衰弁を備えて構成される。そして、前記フロントフォークは、ピストンロッドがシリンダに出入りする伸縮時に、ピストンで加圧された一方の室の作動液がピストン通路を通過して他方の室に移動する際の減衰弁の抵抗に起因する減衰力を発生するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2には、シリンダの内周面に摺接して液室の反ロッドガイド側を塞ぐフリーピストンと、このフリーピストンを液室側に附勢する附勢手段を備える液室加圧式のフロントフォークが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−167785
【特許文献2】特開2010−185571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなフロントフォークを組み立てる際、液室に作動液を封入してからダンパカートリッジをフォーク本体に組み付けると、部品数や組み立て工数が増えるので、ダンパカートリッジをフォーク本体に組み付けてから液室に作動液を注入する方が好ましい。しかしながら、特許文献1に開示のようなシリンダが車輪側に連結される正立型のフロントフォークでは、シリンダの車体側開口がロッドガイドで塞がれた状態となっているので、車体側からシリンダ内に作動液を注入し難い。
【0006】
また、特許文献2に開示のようなフロントフォークでは、フリーピストンによって、反ロッド側が塞がれている上、ロッドガイドの内周にピストンロッドの外周面に摺接するシール部材が設けられている。そのため、このようなフロントフォークを正立型にすると、シリンダ内が密封され、車体側からの作動液注入がさらに困難になるとともに、車輪側からも作動液を注入し難くなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、正立型に設定された場合であっても、フォーク本体にシリンダを組み付けた後にシリンダ内へ作動液を容易に注入できるフロントフォークの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、フォーク本体内に組み付けられたダンパカートリッジの端部を閉塞するロッドガイドにダンパカートリッジ外方と内方を連通させる注液口を備え、前記ロッドガイドに積層され、前記注液口を閉塞する栓部材を備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、前記フォーク本体内に前記フォーク本体と前記ロッドガイドとの間に介装されるメインスプリングを設け、前記メインスプリングが前記栓部材を押圧する。
【0010】
前記構成によると、メインスプリングが、フォーク本体を伸長方向に附勢して、車体を弾性支持するとともに、栓部材が外れてしまうのを防止できる。
【0011】
また、前記栓部材が、前記メインスプリングのスプリングシートを兼ねるようにしてもよい。
【0012】
前記構成によると、メインスプリングと栓部材の間にスプリングシートを余計に設ける必要がないため、部品点数を少なくできる。
【0013】
また、前記シリンダが、前記フォーク本体の前記インナーチューブ側に固定され、前記栓部材は、前記インナーチューブ内に配置されるようにしてもよい。
【0014】
前記構成によると、フロントフォークの伸縮時には、シリンダとインナーチューブが相対移動しないため、シリンダに装着されたロッドガイドに積層された栓部材が、インナーチューブに干渉してもインナーチューブを傷つける恐れがない。
【0015】
前記インナーチューブ内に配置される前記栓部材は、環状であって、前記栓部材の外径と前記インナーチューブの内径の差は、前記栓部材の内径と前記ピストンロッドの外径の差より小さく設定されてもよい。
【0016】
前記構成によると、栓部材がインナーチューブ側に位置決めされるため、径方向に移動してもピストンロッドに干渉せず、ピストンロッドを傷つける恐れがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフロントフォークによれば、正立型に設定された場合であっても、フォーク本体にシリンダを組み付けた後にシリンダ内へ作動液を容易に注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態に係るフロントフォークを部分的に切り欠いて示した正面図である。
図2図1の主要部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図示した本実施の形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るフロントフォークは、環状のアウターチューブ1と、アウターチューブ1内に軸方向移動自在に挿入される環状のインナーチューブ2とを有するフォーク本体3と、フォーク本体3内に、設けたダンパカートリッジDと、ダンパカートリッジDにおけるロッドガイド7に設けた注液口7aを閉塞する栓部材8を備えて構成されている。
【0021】
フロントフォークは、主に鞍乗車両の前輪側に取り付けられて、前輪を保持している。ちなみに、フロントフォークを鞍乗車両の前輪側に取り付ける方法については図示しないが、二本のフロントフォークを前輪の左右それぞれに配置して、上端側部を車体側ブラケットで連結して車体に装着する。そして、各フロントフォークのインナーチューブ2の下端部に設けた車輪側ブラケット20を前輪の車軸にそれぞれ連結させて、フロントフォークを鞍乗車両の前輪側に取り付ける。
【0022】
以下、フロントフォークの各部について詳細に説明する。フォーク本体3は、図1に示すように、アウターチューブ1とこのアウターチューブ1に出入りするインナーチューブ2を備えて伸縮可能なテレスコピック型に形成されている。このフォーク本体3内には、ダンパカートリッジDが収容されており、フォーク本体3とダンパカートリッジDの間には、フォーク本体3を伸長方向へ附勢するメインスプリングS2が介装されている。
【0023】
また、フォーク本体3とダンパカートリッジDとの間には、液溜Pが形成されている。この液溜Pには、作動液が貯留されるとともに、この作動液の液面を介して上側に気体が収容されている。
【0024】
また、インナーチューブ2には、連通孔2aが形成されているので、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間に形成される筒状隙間Tと液溜Pとの間を作動液が自由に移動できるようになっている。
【0025】
フォーク本体3の上側開口は、アウターチューブ1の上端部内周に螺合するキャップ部材13で塞がれている。また、フォーク本体3の下側開口は、インナーチューブ2の下端部外周に螺合する車輪側ブラケット20で塞がれている。さらに、アウターチューブ1の下端内周にはインナーチューブ2の外周面に摺接する環状のダストシールC1とオイルシールC2が装着されており、フォーク本体3内が密封状態に維持されている。本実施の形態においては、アウターチューブ1が車体側に連結されるとともにインナーチューブ2が車輪側に連結されてフロントフォークが倒立型に設定される。なお、アウターチューブ1が車輪側に連結されるとともにインナーチューブ2が車体側に連結されてフロントフォークが正立型に設定されてもよい。
【0026】
フォーク本体3とダンパカートリッジDの間に介装されるメインスプリングS2は、フォーク本体3を伸長方向に附勢して、車体を弾性支持している。本実施の形態において、メインスプリングS2は、ロッドガイド7に積層される環状の栓部材8をスプリングシートとして、栓部材8で下端が支持されるとともに、筒状のばね受け14で上端が支持されている。
【0027】
また、アウターチューブ1とインナーチューブ2の間には、アウターチューブ1とインナーチューブ2の軸方向の移動を案内するブッシュB1,B2が設けられている。また、筒状隙間Tには、作動液が収容されるとともに、インナーチューブ2に形成される連通孔2aから作動液が供給されるので、両ブッシュB1,B2の摺動面を作動液で潤滑できる。
【0028】
ダンパカートリッジDは、図1、2に示すように、内部に液室Lが形成されるシリンダ4と、このシリンダ4の上端に装着される環状のロッドガイド7と、このロッドガイド7を貫通しシリンダ4に出入りするピストンロッド5と、このピストンロッド5の先端部に保持されて、シリンダ4の内周面に摺接しながら、シリンダ4内を軸方向に移動可能なピストン6と、シリンダ4の反ピストンロッド側の軸心部に起立するベースロッド10と、このベースロッド10の先端部に保持されて、液室Lを作動室VとリザーバRに区画するベース部材11と、環状に形成されてベースロッド10の外周に軸方向移動自在に装着されるとともに、シリンダ4の内周面に摺接するフリーピストン12と、シリンダ4の下端を閉塞する有底筒状のボトム部材21と、フリーピストン12とボトム部材21との間に介装されてフリーピストン12を図1中上側に附勢する附勢ばねS1を備えている。
【0029】
ロッドガイド7は環状であって、内周に挿通されるピストンロッド5の軸方向の移動を案内する。また、ピストンロッド5の図中下方は、ロッドガイド7の内周に設けたブッシュB3で軸方向に移動自在に支持されている。さらに、ロッドガイド7には、図2に示すように、シリンダ4内の液室LをダンパカートリッジD外へ連通する注液口7aが設けられている。そのため、フォーク本体3にダンパカートリッジDを収容した後であっても、ダンパカートリッジD外から、注液口7aを通じて、液室Lに作動液を充填できる。
【0030】
本実施の形態に係る注液口7aは、ロッドガイド7の上端から開口してシリンダ4の軸方向に沿って下端へ通じて、前記したように液室LをダンパカートリッジD外へ通じさせている。なお、注液口7aは、軸線に対して斜め、あるいは途中で曲がっていてもよいが、ロッドガイド7への注液口7aの孔開加工がし難いので、軸方向に沿って開口する方が好ましい。
【0031】
また、本実施の形態に係る注液口7aは、途中で曲がっていないので、作動液を注入する際に作動液と入れ替わりに抜ける液室L内の気体を注液口7a内に残さずに注液できる。注液後、前記注液口7aは、ロッドガイド7に積層される環状の栓部材8によって閉塞されて、液室Lは、密閉される。
【0032】
ピストンロッド5は、図1に示すように、キャップ部材13に吊下げられた状態に保持されて、キャップ部材13、アウターチューブ1及び車体側ブラケットを介して車体側に連結されている。ピストンロッド5は、ブッシュB3で支持される筒状のロッド本体5aと、ピストン6を保持する筒状のピストン保持部5bとを備える。
【0033】
ピストン保持部5bに保持されるピストン6は、環状に形成されており、図1、2に示すように、液室Lの図中上側の作動室Vを伸側室V1と圧側室V2に区画するとともに、ナット60でピストン保持部5bの外周に固定されている。さらに、ピストン6には、伸側室V1と圧側室V2とを連通する伸側のピストン通路6aと圧側のピストン通路(伸側のピストン通路6aのみを図示し、圧側のピストン通路を図示せず)が形成されている。また、ピストン6の図2中下端には、伸側のピストン通路6aの出口を開閉する伸側減衰弁61が設けられている。伸側減衰弁61は、伸側のピストン通路6aを伸側室V1から圧側室V2に移動する作動液の流れのみを許容してその反対方向の流れを阻止する。さらに、ピストン6の図2中上端には、図示しない圧側のピストン通路の出口を開閉する圧側逆止弁62が設けられている。圧側逆止弁62は、圧側室V2から伸側室V1に移動する作動液の流れのみを許容してその反対方向の流れを阻止する。
【0034】
また、図2に示すように、ピストン保持部5bとロッドガイド7の間に規制ばねS3が介装されており、規制ばねS3により、フロントフォークの最収縮時にピストン保持部5bの上端がロッドガイド7に勢いよく衝突してしまうのを規制している。
【0035】
なお、図示しないが、ピストン保持部5bには、伸側のピストン通路6aと圧側のピストン通路を迂回して伸側室V1と圧側室V2とを連通するバイパス路(図示せず)が形成されている。このバイパス路内には、例えばニードル弁などの減衰弁が収容されており、この減衰弁が流路面積を調整して、減衰力を調整できる。
【0036】
図1に示すように、シリンダ4の下部分には、内径が他の部分の内径と比較して大径に形成される大内径部4aが形成されるとともに、この大内径部4aの肉厚を貫通する連通孔4bが形成されている。また、シリンダ4の下端には、有底筒状のボトム部材21が、シリンダ4の大内径部4a外周に螺合されて装着されている。このボトム部材21の中部分には、外径が他の部分の外径と比較して小径に形成された小外径部21aが形成されており、ボトム部材21は、小外径部21aと他の部分とで、外周に段差部21bが設けられている。
【0037】
図1に示すように、ベースロッド10の下端にはフランジ部材22が設けられており、フランジ部材22がボトム部材21とシリンダ4によって、挟み込まれてベースロッド10は、シリンダ4内で固定される。
【0038】
また、ベース部材11は、ベースロッド10の先端部にナット30で固定されるとともに、液室Lを作動室VとリザーバRに区画している。このベース部材11には、作動室VとリザーバRとを連通する伸側のベース通路11aと圧側のベース通路(伸側のベース通路11aのみを図示し、圧側のベース通路を図示せず)が形成されている。また、ベース部材11の図1中上端には、伸側のベース通路11aの出口を開閉する伸側逆止弁31が設けられている。伸側逆止弁31は、伸側のベース通路11aをリザーバRから作動室Vに移動する作動液の流れのみを許容してその反対方向の流れを阻止する。さらに、ベース部材11の図1中下端には図示しない圧側のベース通路の出口を開閉する圧側減衰弁32が設けられている。圧側減衰弁32は、作動室VからリザーバRに移動する作動液の流れのみを許容してその反対方向の流れを阻止する。
【0039】
そして、環状に形成されてベースロッド10の外周面とシリンダ4の内周面に摺接しシリンダ4内を軸方向に移動可能なフリーピストン12は、リザーバRを補償室R1と背面室R2に区画している。
【0040】
また、フリーピストン12を図1中上側に附勢する附勢ばねS1は、背面室R2に収容されるとともに、ボトム部材21とフリーピストン12との間に圧縮されながら介装されている。そして、附勢ばねS1は、フリーピストン12を介して作動室Vと補償室R1を加圧し、本実施の形態に係るフロントフォークの減衰力発生の応答性を良好にしている。
【0041】
さらに、液室L内の作動液が熱膨張等して、液室L内の圧力が過剰になってしまった場合に、フリーピストン12が図1中下方へ後退し、シリンダ4の大内径部4aに達すると、シリンダ4との間に隙間が生じ、連通孔4bを通して圧力を液溜Pに逃がせるようになっている。
【0042】
以下、本実施の形態に係るダンパカートリッジDの伸長時と圧縮時に減衰力が発揮される仕組みについて、簡単に説明する。ダンパカートリッジDのピストンロッド5がシリンダ4から退出するフロントフォークの伸長時には、ピストン6で加圧された伸側室V1の作動液が伸側のピストン通路6aとバイパス通路(符示せず)を通過して圧側室V2に移動する。さらに、シリンダ4から退出したピストンロッド体積分の作動液が伸側のベース通路11aを通過して補償室R1から圧側室V2に移動する。そのため、本実施の形態に係るフロントフォークは、伸側減衰弁61及びバイパス路に設けられた減衰弁の抵抗に起因する伸側減衰力を発揮する。
【0043】
反対に、ダンパカートリッジDのピストンロッド5がシリンダ4に進入するフロントフォークの圧縮時には、ピストン6で加圧された圧側室V2の作動液が図示しない圧側のピストン通路とバイパス路(符示せず)を通過して伸側室V1に移動する。さらに、シリンダ4に進入したピストンロッド体積分の作動液が図示しない圧側のベース通路を通過して圧側室V2から補償室R1に移動する。そのため、フロントフォークは、バイパス路(符示せず)に設けられた減衰弁及び圧側減衰弁32の抵抗に起因する圧側減衰力を発揮する。
【0044】
これらの部品を備えるダンパカートリッジDは予め組み立てられてからフォーク本体3に収容される。そのため、フロントフォークの組み立てを簡易にし、部品の取り付け漏れを防止できる。
【0045】
ダンパカートリッジDの収容方法を具体的に説明すると、車輪側ブラケット20は、車軸に連結される連結部20aと、この連結部20aから起立する筒状部20bとを備えている。ダンパカートリッジDのボトム部材21は、筒状部20bの内周に形成される段差面20cに位置決めされる。そして、筒状部20bの内周に螺合するインナーチューブ2と段差面20cとでボトム部材21の段差部21bが挟まれて、ボトム部材21は、車輪側ブラケット20に固定される。
【0046】
以下、本実施の形態のフロントフォークの組み立て時における作動液の注入方法について説明する。フォーク本体3にダンパカートリッジDが収容され、キャップ部材13及びメインスプリングS2を未装着の状態で、フォーク本体3の車体側開口から作動液を注ぐ。液溜PとダンパカートリッジD内の液室Lとを区画しているロッドガイド7には、シリンダ4の内外を連通する注液口7aが設けられているため、注液口7aから、液室L内に作動液が充填される。
【0047】
充填後、環状の栓部材8をロッドガイド7に積層し、その上から栓部材8をスプリングシートにして、メインスプリングS2をキャップ部材13とともに装着する。栓部材8の内径は、ピストンロッド5の外径より大きく設定されている。栓部材8の外径はインナーチューブ2の内径よりも小径に設定されている。また、栓部材8の内径とピストンロッド5の外径の間には隙間があるため、栓部材8は径方向に移動できる。ただし、栓部材8の内周端と注液口7aの開口端との距離が、栓部材8の外径とインナーチューブ2の内径との差よりも小さく設定されているため、栓部材8が径方向へ移動してもインナーチューブ2の内周により径方向への移動量が規制されて、必ず注液口7aを閉塞できる。
【0048】
さらに、栓部材8の外径とインナーチューブ2の内径との差は、栓部材8の内径とピストンロッド5の外径との差よりも小さくなっている。よって、本実施の形態に係る栓部材8は、図2に示すように、内径がピストンロッド5の外径よりも大きく設定されており、インナーチューブ2側で位置決めされるため、径方向に移動してもピストンロッド5に干渉せず、ピストンロッド5を傷つける恐れがない。
【0049】
そして、メインスプリングS2が、栓部材8を押圧するため、栓部材8はロッドガイド7に強く押し付けられて密着して、注液口7aを密閉する。
【0050】
このように、栓部材8が、ロッドガイド7の注液口7aを閉塞するため、フロントフォークの作動中に注液口7aを通じて、シリンダ4内からの作動液の漏れを防止できる。
【0051】
さらに、本実施の形態に係る栓部材8は、メインスプリングS2のスプリングシートの役割も兼ねているため、別途スプリングシートを設ける必要がなく、部品点数を減らし、組立ての手間を省略できる。
【0052】
また、本発明は、メインスプリングS2で押圧して栓部材8を固定しているため、栓部材8を固定するためだけに使用される部材が不要である。
【0053】
また、本発明は、作動液を注入後に、フロントフォーク内に別途固定用工具を入れる必要がないため、固定用工具を出し入れする際に、固定用工具に作動液が付着して作動液が外部に持ち出されないので、注液作業後にフロントフォーク内の液量が狂わない。
【0054】
さらに、この構成によると、フロントフォーク内の作動液を入れ替える際などに、メインスプリングS2を取り外すだけで、栓部材8も簡単に取り外しできる。
【0055】
なお、注液口7aの開口面積が大きい方が作動液の注入が容易となるが、伸側室V1の圧力の作用で栓部材8をロッドガイド7から離間させる力は大きくなる。ダンパカートリッジDの伸側室V1の圧力が実用上最大となる場合に、栓部材8が受ける力がメインスプリングS2のばね力を上回らないように注液口7aの開口面積を決定すればよい。
【0056】
また、メインスプリングS2で栓部材8のロッドガイド7からの離間の阻止が難しい場合には、注液口7aの途中に絞りを設けて、栓部材8にかかる圧力を小さくして前記離間を阻止してもよい。または、作動液の注入後に、オリフィスが設けられたプラグを注液口7aに装着して、栓部材8にかかる圧力を小さくするようにしてもよい。このようにすれば、メインスプリングS2のばね力を調整しなくても、栓部材8をロッドガイド7にしっかりと固定できる。
【0057】
なお、本実施の形態においては、栓部材8は、メインスプリングS2によって、ロッドガイド7に固定されているが、取付方法はこれに限定されない。例えば、メインスプリングS2に代えて、エアばねを使用した場合には、別途固定具を設けて栓部材8を固定したり、栓部材8の下面に環状の突起を設けて、ロッドガイド7の注口7aに突起を嵌めこみ、栓部材8をロッドガイド7に固定してもよい。あるいは、栓部材をボルトとして、注液口7aに螺子締結して注液口7aを塞いでもよい。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱なく改造、変形及び変更ができるのは当然である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・アウターチューブ、2・・・インナーチューブ、3・・・フォーク本体、4・・・シリンダ、5・・・ピストンロッド、6・・・ピストン、7・・・ロッドガイド、7a・・・注液口、8・・・栓部材、D・・・ダンパカートリッジ、L・・・液室、V1・・・伸側室、V2・・・圧側室、S2・・・メインスプリング
図1
図2