特許第6484210号(P6484210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6484210スキップファイアエンジン制御における点火比管理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484210
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】スキップファイアエンジン制御における点火比管理
(51)【国際特許分類】
   F02D 17/02 20060101AFI20190304BHJP
   F02P 9/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   F02D17/02 N
   F02P9/00 304H
【請求項の数】25
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-214816(P2016-214816)
(22)【出願日】2016年11月2日
(62)【分割の表示】特願2014-535996(P2014-535996)の分割
【原出願日】2012年10月17日
(65)【公開番号】特開2017-72139(P2017-72139A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2016年11月28日
(31)【優先権主張番号】61/548,187
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/640,646
(32)【優先日】2012年4月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511001747
【氏名又は名称】トゥラ テクノロジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TULA TECHNOLOGY,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ピルジャベリ,モハメド アール.
(72)【発明者】
【氏名】トリパシ,アドヤ エス.
(72)【発明者】
【氏名】セルラノ,ルイス ジェイ.
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/006311(WO,A1)
【文献】 特開2009−144627(JP,A)
【文献】 米国特許第7140355(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/02
F02P 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々のシリンダが少なくとも1つの関連吸気バルブ及び少なくとも1つの関連排気バルブを有する複数のシリンダを有するエンジンであって、スキップファイア方法でのエンジンの動作の指示に適するエンジンコントローラにおいて、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するように構成された点火比判断ユニットであって、一組の使用可能な点火比からその点火比を選択するように構成された点火比判断ユニットと;
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するように構成された点火コントローラであって、異なる点火比間の円滑な移行を支援するアキュムレータを具える点火コントローラと;
を含み、
前記一組の使用可能な点火比のうち1の点火比以外の全ての点火比が、15未満の整数の分母を有する比であり、
各スキップ動作サイクル用に、前記エンジンコントローラが、前記スキップ動作サイクル中に前記関連吸気バルブ及び排気バルブを開けないように構成されており、これによって、前記スキップ動作サイクル中に関連する前記シリンダを介して空気をポンピングすることを防ぐことを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項2】
スキップファイア方法でのエンジンの動作の指示に適するエンジンコントローラにおいて、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するように構成された点火比判断ユニットであって、一組の使用可能な点火比からその点火比を選択するように構成された点火比判断ユニットと;
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するように構成された点火コントローラと;
を含み、
前記点火比判断ユニットが、点火機会毎ベースで前記動作点火比の計算値を更新するように構成され、前記点火コントローラが、点火機会毎ベースで点火決定を行うように構成されており、
記エンジンコントローラが、更に、前記エンジンのスキップファイア動作中に、少なくとも1つの選択したエンジン制御パラメータを調整させて、前記エンジンが前記動作点火比で前記所望の出力を出力するように構成されていることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンコントローラにおいて、前記点火コントローラが、異なる点火比間の円滑な移行を支援するアキュムレータを具えることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジンコントローラにおいて、前記点火比判断ユニットが、点火機会毎ベースで前記動作点火比の計算値を更新するように構成されていることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のスキップファイアエンジンコントローラにおいて、前記点火コントローラが、一次元シグマデルタ変換器を具える、または一次元シグマデルタ変換器とほぼ同等に機能することを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のスキップファイアエンジンコントローラにおいて、前記点火比の決定において前記点火比判断ユニットによってヒステリシスが適用されて、動作点火比間の急速な前後のゆらぎが生じる可能性を低減させることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項7】
請求項6に記載のスキップファイアエンジンコントローラにおいて、前記ヒステリシスが、トルク要求と、前記動作点火比の判断に用いた検知エンジン速度の少なくとも一方に適用されることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項8】
スキップファイア方法でのエンジンの動作の指示に適するエンジンコントローラにおいて、前記エンジンコントローラが、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するように構成された点火比判断ユニットであって、一組の使用可能な動作点火比からその動作点火比を選択するように構成された点火比判断ユニットと;
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するように構成された点火コントローラであって、異なる動作点火比間の円滑な移行を支援するアキュムレータを具える点火コントローラと;
を含み、
前記一組の使用可能な動作点火比のうち1の動作点火比以外の全ての動作点火比が、15未満の整数の分母を有する比であり、
記エンジンコントローラが、更に、前記エンジンのスキップファイア動作中に、少なくとも1つの選択したエンジン制御パラメータを調整させて、前記エンジンが前記動作点火比で前記所望の出力を出力するように構成されていることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載のスキップファイアエンジンコントローラにおいて、前記点火比判断ユニットが、前記選択された動作点火比としての使用に適した点火比を識別する多次元ルックアップテーブルを具え、前記ルックアップテーブルの第1の指標が、要求出力と要求点火比の1つであり、前記ルックアップテーブルの第2の指標が、エンジン速度であることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項10】
請求項9に記載されたスキップファイアエンジンコントローラにおいて、前記ルックアップテーブルの追加の指標が、トランスミッションギヤであることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のスキップファイアエンジンコントローラにおいて、
前記点火比判断ユニットから前記動作点火比を受け取り、前記点火コントローラに指令点火比を出力する移行ユニットを具え、当該移行ユニットが、複数の点火機会に亘って前記動作点火比における変化を分散するように構成されており、これによって、移行中に、前記点火コントローラへの入力が、所定の組の点火比の何れとも異なる値を有し得ることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項12】
一組の使用可能な点火比から選択した動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するように構成された点火コントローラを用いて、エンジンのスキップファイア動作中の点火比間の移行を管理する方法において、
一組の使用可能な点火比から選択した第1の動作点火比で前記エンジンがスキップファイア方法で動作する間に、前記第1の動作点火比と異なる一組の使用可能な点火比から選択した所望の第2の動作点火比を決定するステップと;
前記第1の動作点火比から前記第2の動作点火比へと変化するように前記点火コントローラを指示するステップであって、アキュムレータの値が、前記第2の動作点火比が入力される位相に作用するステップと;
点火機会毎ベースで前記動作点火比の計算値を更新するステップと;
点火機会毎ベースで点火決定を行うステップと;
を具えており、
前記アキュムレータの値が、前記点火コントローラにより要求されたが未指示の点火の一部を追跡するように構成されていることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記点火コントローラに提供された指令点火比がフィルタリングされて、指令を受けた変更が複数の点火機会に亘って分散され、これによって、移行中に、前記点火コントローラへの入力が、一組の所定の点火比の何れとも異なる値を有し得ることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法において、前記一組の使用可能な点火比のうち1の点火比以外の全ての点火比が15未満の整数の分母を有する比であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12乃至14の何れか1項に記載の方法において、スキップした動作サイクルの各々について、関連吸気バルブ及び排気バルブが開かないようにして、前記スキップした動作サイクル中に関連するシリンダを介して空気がポンピングされないようにすることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12乃至15の何れか1項に記載の方法において、一次元シグマデルタ変換を用いて、前記点火決定を行うことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項12乃至16の何れか1項に記載の方法において、前記点火比の判断が部分的に少なくとも1つのトルク要求と検知したエンジン速度に基づいており、少なくとも1つのトルク要求と検知したエンジン速度に、ヒステリシスを用いて動作点火比間の急速な前後のゆらぎが生じる可能性を低減させることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項12乃至17の何れか1項に記載の方法において、前記点火比を、前記選択された点火比としての使用に適した点火比を識別する多次元ルックアップテーブルを用いて判断し、前記ルックアップテーブルの第1の指標が、要求出力と要求点火比のうちの一方、前記ルックアップテーブルの第2の指標が、エンジン速度であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記ルックアップテーブルの追加の指標が、トランスミッションギヤであることを特徴とする方法。
【請求項20】
動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するように構成された点火コントローラを用いて、エンジンのスキップファイア動作中の点火比間の移行を管理する方法であって、前記点火コントローラが、前記点火コントローラにより要求されたが未指示の点火の一部を追跡することによって、異なる指令点火比間の移行の管理を支援するように構成されている方法において、
第1の動作点火比で前記エンジンがスキップファイア方法で動作する間に、前記第1の動作点火比と異なる所望の第2の動作点火比を決定するステップと;
前記第1の動作点火比から前記第2の動作点火比へと変化するように前記点火コントローラを指示するステップと;
を具え、
前記第1の動作点火比から前記第2の動作点火比へと変化させる指令が、複数の点火機会に亘って分散されており、
組の使用可能な点火比のうち1の点火比以外の全ての点火比が、15未満の整数の分母を有する比であり、
前記エンジンが複数のシリンダを有しており、各々のシリンダが少なくとも1つの関連吸気バルブ及び少なくとも1つの関連排気バルブを有しており、各スキップ動作サイクル用に、関連吸気バルブ及び排気バルブが開かないことで、前記スキップ動作サイクル中に関連する前記シリンダを介して空気をポンピングすることを防ぐことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、前記点火コントローラに提供された指令点火比をフィルタリングして、指令を受けた変更が複数の点火機会に亘って分散し、これによって、移行中に、前記点火コントローラへの入力が、一組の所定の点火比の何れとも異なる値を有し得ることを特徴とする方法。
【請求項22】
複数の作業チャンバを有するエンジンの動作をスキップファイア方法で指示するのに適したエンジンコントローラにおいて、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するように構成された点火比判断ユニットであって、当該点火比判断ユニットが一組の使用可能な点火比からその点火比を選択するように構成された点火比判断ユニットと;
(i)前記可変排気量モードにおける動作中に、前記作業チャンバの第1の固定サブセットが各エンジンサイクルで常に点火され、前記作業チャンバの他の全てが各エンジンサイクルで常にスキップされる可変排気量モードで時に点火を指示して、(ii)前記スキップファイアモードにおける動作中には、選択されたシリンダが時々スキップされかつ時々点火されるスキップファイアモードで時に点火を指示するように構成された点火コントローラと;
を具え、
前記点火コントローラが、異なる点火比間の円滑な移行を支援するアキュムレータを具えており、
前記アキュムレータの値が、前記点火コントローラにより要求されたが未指示の点火の一部を追跡するように構成されていることを特徴とするエンジンコントローラ。
【請求項23】
スキップファイア方法でのエンジンの動作方法であって、前記エンジンが複数のシリンダを有し、各々のシリンダが少なくとも1つの関連吸気バルブ及び少なくとも1つの関連排気バルブを有しており、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するステップであって、前記動作点火比が一組の使用可能な点火比から選択される、ステップと、
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するステップであって、アキュムレータが異なる点火比間の円滑な移行を支援するステップと、
を具えており、
前記一組の使用可能な点火比のうち1の点火比以外の全ての点火比が、15未満の整数の分母を有する比であり、
各スキップ動作サイクル用に、エンジンコントローラが、前記スキップ動作サイクル中に前記関連吸気バルブ及び排気バルブを開けないように構成されており、これによって、前記スキップ動作サイクル中に関連する前記シリンダを介して空気をポンピングすることを防ぐことを特徴とする方法。
【請求項24】
スキップファイア方法でのエンジンの動作方法であって、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するステップであって、前記動作点火比が一組の使用可能な点火比から選択される、ステップと、
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するステップと、
点火機会毎ベースで前記動作点火比の計算値を更新するステップと、
点火機会毎ベースで点火決定を行うステップと、
を具えており、
スキップした動作サイクルの各々について、関連吸気バルブ及び排気バルブが開かないようにして、前記スキップした動作サイクル中に関連するシリンダを介して空気がポンピングされないようにすることを特徴とする方法。
【請求項25】
スキップファイア方法でのエンジンの動作方法であって、
所望のエンジン出力を送出する動作点火比及び関連するエンジン設定を判断するステップであって、前記動作点火比が一組の使用可能な点火比から選択される、ステップと、
前記選択された動作点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示するステップであって、アキュムレータが異なる点火比間の円滑な移行を支援するステップと、
前記エンジンのスキップファイア動作中に、少なくとも1つの選択したエンジン制御パラメータを調整して、前記エンジンが前記動作点火比で前記所望の出力を出力するステップと、
を具えており、
前記一組の使用可能な点火比のうち1の点火比以外の全ての点火比が、15未満の整数の分母を有する比であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年10月17日出願の米国仮特許出願第61/548,187号明細書と2012年4月30日出願の米国仮特許出願第61/640,646号明細書からの優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は一般的には内燃機関のスキップファイア制御(skip fire control)に関する。より具体的には、スキップファイアエンジン制御におけるNVH問題を緩和するのを支援するために点火比管理(firing fraction management)を利用する。
【背景技術】
【0003】
今日稼働中のほとんどの車両(および他の多くの装置)は内燃(IC: internal combustion)機関により動力を供給される。内燃機関は通常、燃焼が起きる複数のシリンダまたは他の作業室を有する。通常走行条件下で、内燃機関により生成されるトルクは運転手の動作要求を満足するために広範囲にわたって変化する必要がある。何年にもわたって、内燃機関トルクを制御する多くの方法が提案され利用されてきた。いくつかのこのような手法はエンジンの実効排気量を変えることを企図している。いくつかのシリンダの点火を時々スキップすることによりエンジンの実効排気量を変えるエンジン制御手法はしばしば、「スキップファイア」エンジン制御と呼ばれる。一般的に、スキップファイアエンジン制御は、多くのアプリケーションにおける燃料節約の著しい改善の可能性を含む多くの潜在的利点を提供するものと理解される。スキップファイアエンジン制御の概念は長年存在しており、その利点は理解されているが、スキップファイアエンジン制御は未だ、大きな商業的成功を達成していない。
【0004】
動作中のエンジンは大きな雑音と振動(これらはしばしば、この分野では雑音、振動、荒さ(NVH:noise,vibration,harshness)と総称される)の源になりやすいことが十分に理解される。一般的に、スキップファイアエンジン制御に伴う既成概念は、エンジンのスキップファイア動作がエンジンを従来の動作より著しく荒く動作させるということである。自動車用途などの多くのアプリケーションにおいて、スキップファイアエンジン制御により提示される最重要課題は防振である。実際、NVH問題に十分に対処する能力の無さは、スキップファイアタイプのエンジン制御の広範囲の採用を妨げてきた主要な障害の1つであると考えられる。
【0005】
譲受人の米国特許第7,954,474号明細書、第7,886,715号明細書、第7,849,835号明細書、第7,577,511号明細書、第8,099,224号明細書、第8,131,445明細書、第8,131,447明細書、譲受人の米国特許出願第13/004,839号明細書、第13/004,844号明細書、およびその他は、スキップファイア動作モードにおいて多種多様な内燃機関を動作させることを実用的にする様々なエンジンコントローラについて記載している。これらの特許と特許出願のそれぞれを参照により本明細書に援用する。記載されたコントローラはうまく働くが、スキップファイア制御下で動作するエンジンにおけるNVH問題を緩和するためにこれらおよび他のスキップファイアエンジンコントローラの性能をさらに改善するための努力が継続されている。本出願は、様々なアプリケーションにおいて性能を改善することができる追加のスキップファイア制御特徴と強化について説明する。
【発明の概要】
【0006】
記載の様々な実施形態では、スキップファイア制御は所望のエンジン出力を送出するために利用される。コントローラは、要求出力を送出するのに好適なスキップファイア点火比および(必要に応じて)関連エンジン設定を判断する。
【0007】
一態様では、点火比は、より多くの点火比が低いエンジン速度より高いエンジン速度で使用可能であるようにエンジン速度の関数として変化する一組の使用可能な点火比から選択される。このとき、コントローラは、選択された点火比を送出するスキップファイア方法で点火を指示する。
【0008】
別の態様では、選択されたエンジン運転条件(最適運転条件またはそうでない運転条件であり得る)下で所望のエンジン出力を送出するのに好適な要求点火比(requested firing fraction)が当初判断される。適切ならば、より好ましい動作点火比(operational firing fraction)である調整点火比(adjusted firing fraction)がその後判断される。調整(動作/指令(operational/commanded))点火比は要求点火比にほぼ近いが要求点火比とは異なる。このとき、実際の点火は、指令された調整点火比を実質的に送出するスキップファイア方法で指示される。エンジンが所望の出力を調整点火比で出力するように少なくとも1つのエンジン制御パラメータが適切に調整される。
【0009】
このような調整点火比の使用は、要求点火比が、望ましくない周波数成分を含む点火シーケンスの生成を引き起こすおよび/または望ましくない振動または音響を誘起しやすい場合に特に役に立つ。このような場合、より望ましい動作点火比を利用することができ、所望のエンジン出力の送出を保証するために他のエンジン制御パラメータ(吸気圧力、弁タイミング、スパークタイミングなど)を利用し得る。いくつかの実施形態では、調整点火比判断部が、要求点火比に対し規定周波数範囲の振動を低減する動作点火比を判断するように構成される。
【0010】
さらに別の態様では、複数の点火機会にわたって指令点火比変化を分散させるためにフィルタ処理が使用され得る。これは、スキップファイアコントローラにより要求されたが未だ指示されていない点火の部分を追跡し、異なる指令点火比間の遷移を管理するのを支援するためにこのような情報を使用するスキップファイアコントローラにおいて特に有用である。
【0011】
別の態様およびいくつかの実施形態ではスキップファイアコントローラはさらに、スキップファイア制御の一部として1つまたは複数の選択されたエンジンパラメータ(例えば、吸気圧力、弁タイミング、スパークタイミング、スロットル位置など)を調整するように構成される。しばしば、このような調整の応答は、指令点火比で行うことができる変更より遅い。このようなアプリケーションでは、変更されたエンジン制御パラメータの変化に対する応答に対応するように指令点火比の変化に対する応答を引き起こすためにフィルタリングが構成され得る。
【0012】
様々な実施形態では、エンジンに、現在指令された点火比で所望の出力を生成させる方法で、1つまたは複数の選択されたパワートレイン制御パラメータを調整させるように、パワートレインパラメータ調整ブロックが構成され得る。別の態様では、調整されたパワートレイン制御パラメータの応答とほぼ一致する応答を有するフィルタが設けられる。フィルタは、指令点火比の変化を、調整されたパワートレイン制御パラメータの変化に対応させるように構成される。
【0013】
別の態様では、スキップファイアコントローラは、現在のエンジン速度で毎秒少なくとも指定の回数繰り返す反復点火サイクル長を有する基本点火比を選択するように構成される。このような構成は望ましくない振動の発生を低減する際に役立つ可能性がある。
【0014】
前述の態様のいずれかによるスキップファイアエンジンコントローラは、異なる指令点火比間の遷移を管理するのを支援するように、指令されたが未だ指示されていない点火の部分を追跡するように構成されることが好ましい。上記コントローラはまた、指令点火比を送出し、指令点火比の変化を通して、点火を分散させるように構成されることが好ましい。いくつかの実装形態では、このような機能は、一次シグマデルタ変換器またはその機能的均等物を利用して提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、選択された点火比間の前後の急速なゆらぎの確率を低減するのを支援するためにヒステリシスが点火比の判断の際に適用され得る。ヒステリシスは、要求トルク、エンジン速度、および/または他の好適な入力に適用され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、指令点火比に関連する周期性パターンを壊すのを容易にするために、追加の点火が時折指示され得る。追加的にまたは代わりに、反復点火サイクルに関連する周期性パターンを壊すのを容易にするために指令点火比にディザが加えられ得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、動作点火比を判断するために多元参照テーブルが使用され得る。選択された実装形態では、参照テーブルに対する第1の指標は要求出力と要求点火比のいずれか1つであり、参照テーブルの第2の指標はエンジン速度である。様々な実施形態では、参照テーブルの追加または代替指標はトランスミッションギヤである。
【0018】
上述の様々な態様と特徴は、別々にまたは任意の組み合わせで実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明とその利点は、以下の添付図面と併せて取り込まれた以下の記載を参照することにより最も良く理解され得る。
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態によるスキップファイアベースエンジン点火コントロールユニットを例示するブロック図である。
図2図2は、調整点火比計算器として使用するのに好適な周期性パターン生成器を例示するブロック図である。
図3図3は、図2による周期性パターン生成器を使用した、選択されたエンジン速度での、送出点火比(delivered firing fraction)と要求点火比とを比較する例示的グラフである。
図4図4は、選択された遷移管理およびパターン破壊特徴を取り入れた別の代替スキップファイアベースエンジン点火コントロールユニットを示すブロック図である。
図5図5は、小範囲の点火比にわたってエンジンを動作させる間に観測された振動(縦加速度で測定された)を示すグラフである。
図6図6は、点火コントロールユニットの別の実施形態による、送出点火比と要求点火とを比較するグラフである。
図7図7は、特定の実装形態における、送出点火比と要求点火比とを比較する拡大部分を示す。
図8図8は、最大可能周期性点火機会の関数としての潜在的に使用可能な点火比の数のグラフである。
図9図9は、エンジン速度の関数としての潜在的に使用可能な点火比の数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面において、同じ構造要素を示すために同じ参照符号が時に使用される。添付図面内の描写は図解的であり原寸に比例していないということも理解すべきである。
【0022】
スキップファイアエンジンコントローラは、望ましくない振動の発生に敏感であると一般的には理解される。小さな一組の固定されたスキップファイア点火パターンが使用される場合、使用可能な点火パターンは、定常状態使用中の振動を最小化するように選択されることができる。したがって、多くのスキップファイアエンジンコントローラは、非常に小さな一組の所定の点火パターンだけの使用を許容するように構成される。このような設計はうまく行くようにさせることができるが、使用可能なスキップファイア点火パターンを非常に小さな一組の所定のシーケンスに制約することは、スキップファイア制御を使用することにより可能となる燃料効率を制限する傾向がある。このような設計はまた、点火比間の遷移中にエンジン荒さを経験する傾向がある。最近になって、本出願の譲受人は、点火が運転手の要求を満足するように動的に判断される連続可変排気量モードにおいてエンジンの動作を容易にする様々なスキップファイアエンジンコントローラを提案した。このような点火コントローラ(その一部は援用される特許および特許出願に記載されている)は比較的小さな一組の固定点火パターンを使用することに制約されない。むしろ、記載の実装形態のいくつかでは、エンジンの実効排気量は、送出されるスキップファイア点火比を運転手の要求を満足する方法で変更することにより、運転手の要求を追跡するようにいつでも変更することができる。このようなコントローラはうまく働くが、スキップファイアコントローラ設計の雑音、振動、および荒さ(NVH)特性をなお一層改善するための努力が続いている。
【0023】
本明細書に記載のスキップファイア点火制御手法は、制御されたエンジンの動作中に望ましくない点火シーケンスが生成される可能性を低減する一方で点火シーケンスの動的判断の柔軟性を得ようとしている。記載の実施形態のいくつかでは、これは部分的には、望ましくないNVH特性を有する点火比の使用を回避または最小化することにより達成される。特定の1つの例では、低周波数振動(例えば、0.2〜8Hzの範囲内)は車両乗員に対して特に不快感を与えるということが観測されており、したがっていくつかの実施形態では、この周波数範囲の振動を発生する可能性が最も高い点火シーケンスの使用を最小化するための努力がなされる。同時に、エンジンは、所望の出力を一貫して送出し、かつうまく遷移を処理するように制御されることが好ましい。いくつかの他の実施形態では、より良好なNVH特性を有する点火比の使用を促進する機構が設けられる。
【0024】
問題の本質は恐らく、点火コントローラに入力される信号を指定点火比の要求として処理し、特定の点火のタイミングを判断するために一次シグマデルタ変換器を利用するスキップファイアコントローラの文脈の中で、最も容易に視覚化され得る。一次シグマデルタ変換器が使用されると、概念的には、任意のデジタル的に実現された入力信号レベル対し(例えば、任意の特定の要求点火比に対し)、本質的に固定された反復点火パターンが点火コントローラにより生成される(一つには入力信号の量子化による)。このような実施形態では、(点火シーケンスの位相はアキュムレータ内の初期値に基づきいくぶん相殺され得るが)安定した入力が指定の点火パターンの生成を効果的に引き起こし得る。当業者により十分理解されるように、エンジンはいくつかの点火パターンが生成される場合には全くスムーズに動作するが、他の点火パターンは望ましくない振動を生成する可能性がより高い。本発明者らは、略0.2〜8Hzの範囲の周波数成分を有する点火シーケンスが最も望ましくない振動を生成する傾向があるということと、スキップファイア点火コントロールユニットがその範囲の基本周波数成分を最小化する点火シーケンス/パターンをだけを生成することに制約されれば著しくスムーズな乗り心地が車両乗員により感じられることとを観測した。
【0025】
次に図1を参照して、本発明の一実施形態によるエンジンコントローラについて説明する。このエンジンコントローラは、指定周波数範囲の基本周波数成分を含む点火シーケンスの生成を削除する(または、少なくとも大幅に低減する)ように構成される点火コントロールユニット120(スキップファイアコントローラ)を含む。例示目的のために、0.2〜8Hzの周波数範囲が問題の周波数範囲として扱われる。しかし、本明細書に記載の概念はより一般的には、点火コントローラ設計者が自身にとっていずれの周波数範囲(または複数の周波数範囲)が問題であってもそれを抑制するようにコントローラを容易にカスタム化することができるように、任意の問題周波数範囲の周波数成分を削除する/最小化するために使用することができるということを理解すべきである。
【0026】
スキップファイア点火コントロールユニット120は所望のエンジン出力を示す入力信号110を受信する。スキップファイア点火コントロールユニット120は、エンジン150にスキップファイアエンジン制御を利用することにより所望の出力を供給させるように共働する一連の点火指令(駆動パルス信号113)を生成するように構成される。点火コントロールユニット120は、要求点火比計算器122、調整点火比計算器124、パワートレインパラメータ調整モジュール133、駆動パルス生成器130を含む。
【0027】
図1において、入力信号110はトルク計算器80により供給されるものとして示されるが、入力信号は任意の他の好適な源から発することができるということを理解すべきである。トルク計算器80は、多くの入力に基づき常に所望エンジントルクを判断するように構成される。トルク計算器は所望または要求トルク110を点火比計算器90へ出力する。様々な実施形態では、所望トルクは、常に所望エンジントルクに影響を与えるまたはそれを指示する多くの入力に基づき得る。自動車用途では、トルク計算器への主要な入力の1つは通常、加速ペダルの位置を示す加速ペダル位置(APP:accelerator pedal position)信号83である。他の主要な入力は、クルーズコントローラ(CCS命令84)、トランスミッションコントローラ(AT命令85)、トラクションコントロールユニット(TCU命令86)など他の機能ブロックから発生し得る。トルク計算に影響を与え得るエンジン速度などの多くの要因も存在する。このような要因がトルク計算において利用されると、エンジン速度(RPM信号87)などの適切な入力もまた、必要に応じトルク計算器により供給または取得される。多くの状況ではトルク計算器80の機能はECUにより与えられ得るということを理解されたい。他の実施形態では、信号110は、加速ペダル位置センサ、クルーズコントローラなどを含む任意のまたは様々な他の源から受信または導出され得る。
【0028】
要求点火比計算器122は、(例えば、必要条件ではないが燃料効率に対して最適化される動作パラメータを利用することにより)選択されたエンジン運転条件下で所望の出力を送出するのに適切であろうスキップファイア点火比を判断するように構成される。点火比は、所望の出力を送出するために必要とされるであろう選択動作条件下の点火の百分比を示す。1つの好ましい実施形態では、点火比は、すべてのシリンダが最適動作点で点火されれば生成されるであろうトルクと比較した、運転手要求エンジントルクを送出するために必要とされるであろう最適化点火の百分比に基づき判断される。しかし、場合によっては、適切な点火比を判断する際に様々なレベルの基準点火が使用され得る。
【0029】
要求点火比計算器122は多種多様な形態を取り得る。一例として、いくつかの実施形態では、要求点火比計算器122は入力信号110を適切にスケーリングできるだけとなり得る。しかし、多くのアプリケーションでは、入力信号110を要求トルクとしてまたはある他の方法で処理することが望ましい。点火比は、要求トルクに対しほぼ直線関係ではなく、むしろエンジン速度、トランスミッションギヤ、他のエンジン/動力伝達/車両動作パラメータなどの様々な変数に依存し得るということを理解すべきである。したがって、様々な実施形態では、要求点火比計算器122は、所望の点火比を判断する際に、現在の車両動作条件(例えば、エンジン速度、吸気圧力、ギアなど)、環境条件、および/または他の要因を考慮し得る。適切な点火比がどのように判断されるかにかかわらず、要求点火比計算器122は、基準動作条件下で所望の出力を供給するのに好適であろう点火比を示す要求点火比信号123を出力する。要求点火比信号123は調整点火比計算器124へ渡される。
【0030】
上述したように、いくつかのタイプのスキップファイアエンジンコントローラの特徴は、望ましくないエンジンおよび/または車両振動を導入する可能性がある点火シーケンスの使用を時々指示し得ることである。調整点火比計算器124は通常、(a)望ましいNVH特性を有することが分かっている、要求点火比近くの点火比を選択するようにか、(b)望ましくない振動および/または音響雑音を発生する可能性が最も高い点火比の使用を抑制または妨げるようにかのいずれかで構成される。調整点火比計算器124は、以下にさらに詳細に説明される多種多様な形態を取り得る。調整点火比計算器124の出力は、エンジンが出力すると予想される実効点火比を示す指令動作点火比信号125である。指令点火比125は駆動パルス生成器130へ直接または間接的に供給され得る。駆動パルス生成器130は、指令点火比信号125により定められた点火の百分比をエンジンに送出させるようにする一連の点火指令(例えば、駆動パルス信号113)を発行するように構成される。
【0031】
駆動パルス生成器130もまた、多種多様な形態を取り得る。例えば、1つの記載実施形態では、駆動パルス生成器130は一次シグマデルタ変換器の形態を取る。当然、他の実施形態では、高次シグマデルタコントローラ、他の予測適応コントローラ、参照テーブルベース変換器、または指令点火比信号125により要求される点火比を送出するように構成される任意の他の好適な変換器またはコントローラを含む多くの他の駆動パルス生成器を使用することができるであろう。一例として、譲受人の他の特許出願に記載された駆動パルス生成器のうちの多くがこの点火制御アーキテクチャに同様に使用され得る。駆動パルス生成器130により出力される駆動パルス信号113は、実際の点火を取り仕切るエンジンコントロールユニット(ECU)または燃焼コントローラ140へ渡され得る。
【0032】
指令点火比信号125は要求点火比計算器122により判断された可能な点火機会の異なる百分率の点火を指令し得るので、エンジンの出力は適切な調整がなされなければ必ずしも運転手の要求と一致しなくなるということを理解すべきである。したがって、点火コントロールユニット120は、実際のエンジン出力が要求エンジン出力とほぼ等しくなるように各点火の出力を調整するために、選択されたパワートレインパラメータを調整するようにされるパワートレインパラメータ調整モジュール133を含み得る。一例として、要求点火比123が基準点火条件において48%であり指令点火比125が50%であれば、エンジンパラメータは各点火のトルク出力が基準点火の約96%となるように調整され得る。このようにして、点火コントロールユニット120は、送出されるエンジン出力が入力信号110により要求されたエンジン出力とほぼ等しくなることを保証する。
【0033】
各点火により供給されるトルクを変更するようにエンジンパラメータを調整することができる様々な方法がある。有効な1つの手法は、各点火されたシリンダへ送出されるマス空気量(MAC:mass air charge)を調整して、エンジンコントロールユニット(ECU)140が指令MACに対し適切な燃料量(fuel charge)を供給できるようにすることである。これは、スロットル位置を調整しこれにより吸気圧力(MAP:intake manifold pressure)を変更することにより最も容易に達成される。しかし、MACは他の技術を使用する(例えば、弁タイミングを変更する)ことにより変更することができ、同様に各点火により供給されるトルクを変更するために使用され得る燃料量、スパークアドバンスタイミングなどを含む多くの他のエンジンパラメータが存在するということを理解すべきである。制御されたエンジンが空気燃料比の広範な変動を許容すれば(例えば、ほとんどのディーゼルエンジンにおいて許容されるように)、燃料量を調整することだけによりシリンダトルク出力を変更することが可能である。したがって、シリンダ点火1回当たりの出力は、指令点火比における実際のエンジン出力が要求エンジン出力とほぼ同じであることを保証するために望ましい任意の方法で調整することができる。
【0034】
いくつかの動作モードでは、シリンダはスキップファイア機会中に非活性化される。すなわち、スキップ動作サイクル中にシリンダに燃料を供給しないことに加え、弁は、ポンピング損失を低減するために閉じたままにされる。対応シリンダが点火される能動的点火機会中、シリンダは、最適燃料効率に対応する運転域など、それらの最適運転域の近くでまたはその最適運転域における条件(例えば、弁、スパークタイミング、燃料噴射レベル)下で動作されることが好ましい。燃料効率を最適化することは多くの実装形態における主目的の1つであると考えられるが、トルクの増加または排出物の削減もまた任意特定アプリケーションにおいて最適運転域を判断する際の要因となり得るということを理解すべきである。したがって、基準または「最適」点火の特性は、コントローラ設計者により適切であると判断される任意の方法で選択され得る。
【0035】
図1に示す実施形態では、多くの部品は、独立した機能ブロックとして線図的に示される。独立部品は実際の実装形態において機能ブロック毎に使用され得るが、様々なブロックの機能は任意の数の組み合わせで容易に一体化され得るということを理解すべきである。一例として、要求点火比計算器122、調整点火比計算器124、パワートレインパラメータ調整モジュール133はすべて、単一点火比判断部224(図4で標記された)に容易に一体化することができる、または様々な組み合わせの機能ブロックを取り込む部品として実現され得る。あるいは、調整点火比計算器とパワートレイン調整モジュールの機能は制振ユニットに一体化され得る。様々な機能ブロックの機能は、アルゴリズム的に、アナログまたはデジタル論理で、参照テーブルを使用することにより、または任意の他の好適な方法で達成され得る。説明した部品のうちの任意の部品もまた、所望により、エンジンコントロールユニット140の論理内に組み込むことができる。
【0036】
1つの具体例では、図1に示す実施形態では、要求点火比計算器122と調整点火比計算器124は現在の加速ペダル位置と他の動作条件とに基づき望ましくかつ適切である点火比を示す信号を生成するように共働するということを理解すべきである。2つの別個の部品としてのこれら機能の説明は点火比計算器の全体機能を説明するのを助け、これらの2つの部品の組み合わせが、適切な点火比を選択するようにうまく働くが、多くの他の技術を介し同じまたは同様な機能を容易に達成することができるということを理解すべきである。例えば、いくつかの実施形態では、トルク要求を所望の点火比に直接変換することができる。トルク要求は、(例えば、トルク計算器として効果的に働くECUまたは他の部品による)所望トルク計算の結果であり得、加速ペダル位置から直接または間接的に導出され得る、または任意の他の好適な源により提供され得る。
【0037】
他の実施形態では、要求点火比を計算または判断する別の工程無しに所望の点火比を選択するために多元参照テーブルが使用され得る。一例として、1つの特定の実施形態では、参照テーブルは、(a)加速ペダル位置、(b)エンジン速度(例えば、RPM)、(c)トランスミッションギヤに基づき得る。当然、マニホールド絶対圧力(MAP:manifold absolute pressure)、エンジン冷却液温度、カム設定(すなわち、弁の開口および閉鎖時間)、スパークタイミングなどを含む様々な他の指標を他の特定の実装形態において同様に使用することができる。参照テーブルを使用することの1つの利点は、モデリングにより、エンジン設計者が任意の特定動作条件に使用される点火比をカスタム化して予め指定できるようにすることである。このような選択は、振動緩和、音響特性、燃料節約、他の競合および可能性として相反する要因の所望のトレードオフを組み込むようにカスタム化することができる。このようなテーブルはまた、適切なマス空気量(MAC)および/または選択された点火比と共に使用する他の適切なエンジン設定を識別し、所望のエンジン出力を供給しこれによりパワートレインパラメータ調整モジュール133の機能を同様に取り込むように構成され得る。
【0038】
説明した部品の任意およびすべてのものは、それらの判断/計算を極めて高速にリフレッシュするように構成され得る。いくつかの好ましい実施形態では、これらの判断/計算は点火機会毎(動作サイクル毎ともいう)ベースでリフレッシュされるが、これは必要条件ではない。様々な部品の点火機会毎動作による点火機会の利点は、コントローラを入力変化および/または条件変化に非常に敏感にすることである(特に、全パターンの点火が完了した後または他の設定遅延後だけに応答することができるコントローラと比べると)。点火機会毎動作による点火機会は非常に効果的であるが、様々な部品(および特に点火コントローラ130の前の部品)は許容可能な制御を依然として実現しながらさらに緩やかにリフレッシュされることができる(例えば、クランクシャフトの回転毎にリフレッシュすることなどにより)ということを理解すべきである。
【0039】
多くの好ましい実施形態では、点火コントローラ130(または等価な機能)は、点火機会毎ベースで離散的点火/無点火判断をする。これは、燃焼事象が発生するのと同時に判断が必ずなされることを意味しない。シリンダを適切に通気しシリンダに適切に燃料供給するためにあるリードタイムが必要とされ得るからである。したがって、点火判断は通常は同時になされるが、必ずしも点火事象と同期しない。すなわち、点火判断は、点火機会動作サイクルの直前にまたは点火機会動作サイクルとほぼ同期してなされてもよいし、または実際の点火機会の1または複数の動作サイクル前になされてもよい。さらに、多くの実装形態は作業室点火機会毎に点火判断を独立にし得るが、他の実装形態では、複数(例えば、2つ以上)の判断が同時になされることが望ましいこともある。
【0040】
いくつかの好ましい実施形態では、点火コントロールユニット120は、エンジン速度とシリンダ位相(例えば、シリンダ1の上死点(TDC:top dead center)またはある他の基準)に同期した信号で動作し得る。TDC同期信号は点火コントロールユニットのクロックとして機能し得る。クロックは、各シリンダ点火機会に対応する立ち上りデジタル信号を有するように構成され得る。例えば、6シリンダ・4ストロークエンジンでは、クロックはエンジン1回転当たり3つの立ち上がりデジタル信号を有し得る。これは必要条件ではないが、連続クロックパルスの立ち上がりデジタル信号はその圧縮ストロークの終わりに各シリンダのTDC(上死点)位置とほぼ一致するように位相を合わせられ得る。こうして、クロックとエンジンとの位相関係が便宜上選択され得るが、異なる位相関係も使用し得る。
【0041】
周期性パターン生成器
次に図2を参照して、本明細書では周期性パターン生成器(CPG:cyclic pattern generator)124(a)と呼ばれることもある調整点火比計算器124の1つの特定実施形態についてさらに詳細に説明する。概念的に、周期性パターン生成器124(a)は、その結果の点火シーケンスが最大の人間感度の周波数範囲の点火周波数成分を削除または最小化することを保証しようとする一方で要求点火比近くの動作点火比を判断するように構成される。車両乗員に対する振動の影響にかかわる多くの研究なされてきた。例えば、ISO2631は、車両乗員に対する振動の影響に関する指針を提供する。一般的に、0.2〜8Hzの周波数における振動は乗客快適性観点から最悪のタイプの振動であると考えられる(当然、最適境界に関しては多くの競合する理論が存在するが)。したがって、いくつかの実施形態では、この範囲(または、車両/エンジン設計者にとって最大懸念であるどの範囲でも)の振動数を最小化する制御モードでエンジンを動作させることが望ましい。
【0042】
最初に説明した実施形態では、これは部分的には、指定閾値を越える周波数で反復する点火「パターン」または「シーケンス」が使用されることを保証することにより達成される。したがって、周期性パターン生成器124(a)は、要求点火比計算器により判断される点火比内に存在し得る低周波数成分を低減するためのフィルタとして効果的に働く。実際の反復閾値は任意特定アプリケーションの必要性に従って変わり得るが、通常、6〜12Hz程度の最小反復閾値が多くのアプリケーションでうまく行くと考えられる。例示目的のために、以下の例は、多くのアプリケーションにおいて適切であることが分かった8Hzの最小反復閾値を利用する。しかし、使用される実際の閾値レベルはアプリケーション間で変わり得、いくつかのアプリケーションでは閾値が実際には動作条件(例えば、エンジン速度など)に基づき幾分変わり得るということを理解すべきである。
【0043】
この例に戻ると、毎秒8回以上反復する周期性点火パターンが選択されれば、本発明者らは、点火パターン自体が8Hz未満の基本周波数成分を有しないまたは極僅かの基本周波数成分を有することになるとかなり自信を持つことができる。換言すれば、点火パターンが周期的でありかつ周期性パターンの繰返し数が毎秒8以上であれば、エンジンは8Hz未満の最小振動で動作する。このような実施形態では、図2に示す調整点火比計算器124(a)は、駆動パルス生成器130に、毎秒少なくとも8回(すなわち反復閾値でまたは反復閾値を越えて)反復する点火命令の反復パターンを出力させるように構成される。
【0044】
この概念をよりうまく説明するために、8Hzの所望の反復閾値を有する2400RPMで動作する4ストローク6気筒エンジンを考察する。このようなエンジンは、毎分7200点火機会すなわち毎秒120点火機会を有することがある。したがって、15点火機会(すなわち、8Hzで除された毎秒120点火機会)以下の反復点火シーケンス(本明細書では、周期性点火シーケンスと呼ぶ)が利用される限り、周期性点火パターン自体は8Hz未満の周波数成分を有しないと仮定することができる。
【0045】
この手法を実施する1つの方法は、所望の閾値(例えば、8Hz)未満の周波数成分の導入の危険を冒すことなく、反復シーケンスに利用され得る点火機会の最大数を計算することである。この値は、本明細書では最大可能周期性点火機会(MPCFO:maximum possible cyclic firing opportunity)と呼ばれ、毎秒点火機会を所望の最小振動数で除することにより計算することができる。MPCFOもまた参照テーブル(LUT:lookup table)を利用して判断され得る。この例では、MPCFO=120/8=15。MPCFOのいかなる小数値も、不要な周波数範囲の周波数成分を避けるために切り捨てることができる。MPCFOは、点火機会周波数と最小所望振動数の比を反映するので、1サイクル当たりの点火機会を反映する無次元数であるということに留意されたい。
【0046】
MPCFOを15に取ると、所望周波数以上の周波数での点火シーケンスの反復を保証する様々な可能な動作点火比は、分母に15以下を有するすべて可能な分数を考慮することにより判断することができる。これらの可能な動作点火比は、15/15,14/15,13/15,12/15,11/15,...,3/15,2/15,1/15,14/14,13/14,12/14,....,3/14,2/14,1/14など、13から1までの分母値に対するこのようなパターンの反復を含む。様々な可能な動作点火比の精査は、15のMPCFOに対して73の一意的可能動作点火比が存在することを示す(すなわち、多くの分数、例えば6/15、4/10、2/5は反復性であるので重複値を削除する)。この一組の可能な点火比は、15のMPCFOに関連する一組の使用可能な動作点火比として、調整点火比計算器124(a)により処理され得る。MPCFOはエンジン速度の関数として変化すること、異なるMPCFOは使用可能な動作点火比の異なる組を有するであろうこととを理解すべきである。この点についてさらに示すと、図8は、MPCFOの関数として潜在的に使用可能な点火比の数の例示するグラフである。
【0047】
点火シーケンスが最小反復閾値を越えるレートで反復することを保証する一組の使用可能動作点火比は容易に、エンジンの動作中に動的に判断することができる。この判断は、アルゴリズム的に計算される、参照テーブルまたは他の好適なデータ構造の使用により、または任意の他の好適な機構により見出すことができる。これは、部分的にはMPCFOは極めて容易に計算され各一意的MPCFOは固定された一組の許容可能点火比を有することになるので、極めて容易に実施されるということを理解すべきである。
【0048】
通常、MPCFO計算手法を使用することにより識別される一組の使用可能な点火比は、一組の候補点火比と考えられ得る。以下にさらに詳細に論述されるように、いくつかの選択された特定の点火比は車両共鳴を励起するまたは不快な雑音を引き起こすので、これらをさらに排除することも望ましいこともある。排除される点火比は、トランスミッションギヤ比などのパワートレインパラメータに応じて変わり得る。
【0049】
周期性パターン生成器124(a)は通常、所与のエンジン速度において使用可能な動作点火比のうち最も適切なものを選択するように構成される。多く(実に大部分)の時間では、指令点火比125は要求点火比123とは異なることになる(比較的近いとしても)ことは明らかである。図3は、要求点火比と、MPCFOが15である状況において代表的調整点火比計算器124により生成され得るような送出点火比とを比較する例示的グラフである。図3から分かるように、有限数の離散的点火比だけの使用は、階段状送出点火比の挙動を生じる。
【0050】
上に指摘したように、要求点火比123は、規定点火条件(例えば、最適点火)下で所望のエンジン出力を送出するのに適切であろう点火の百分比に基づき判断される。指令点火比125が要求点火比123と異なる場合、エンジン150の実際の出力は、シリンダが要求点火比の判断に際し企図されたのと全く同じ条件下で点火されれば、所望の出力に一致しないだろう。したがって、パワートレインパラメータ調整モジュール133(調整点火比計算器124(a)の一部として任意選択的に実装され得る)もまた、調整点火比を使用する際の実際のエンジン出力が所望のエンジン出力と一致するように、エンジンの動作パラメータのいくつかを適切に調整するように構成される。パワートレインパラメータ調整モジュール133は別個の部品として示されるが、この機能は、ECUまたは他の適切な部品に容易に取り込むことができ(しばしばそのようになる)ということを理解すべきである。当業者により理解されるように、多くのパラメータは、調整点火比を利用する実際のエンジン出力が所望のエンジン出力に一致することを保証するために、各点火により送出されるトルクを適切に調整するために容易に変更されることができる。例示として、スロットル位置、スパークアドバンス/タイミング、吸気および排気弁タイミング、燃料量などのパラメータは、所望の点火1回当たりのトルク出力を供給するために容易に調整されることができる。
【0051】
図3から分かるように、0と1近くのものを除くすべての要求点火比レベルに対し、周期性パターン生成器124(a)により出力される離散的点火比レベル出力は要求レベルに比較的近い。他の場所で述べたように、要求点火比が1に近い場合、スキップファイア動作モードとは対照的に通常動作モードでエンジンを動かすことが好ましいこともある。要求点火比が0に近くなる場合(例えば、エンジンがアイドリング場合)、通常(非スキップファイア)動作モードでエンジンを動作させること、またはより高い点火比が必要とされるように各点火の出力を低下することが望ましいこともある。制御の見地からは、これは、(a)要求点火比計算器123において利用される基準点火出力を単に低下することにより、および(b)それに応じてエンジンパラメータを調整することにより容易に達成される。
【0052】
以下にさらに詳細に論述されるように、周期性パターン生成器124(a)(または他の調整点火比計算器)は任意選択的に、RPMヒステリシスモジュールと点火比ヒステリシスモジュールを含み得る。これらのモジュールは、エンジン速度または要求トルクの僅かな変化によるCPGレベルの不要なゆらぎを最小化する役目を果たす。ヒステリシス閾値はエンジン速度と要求トルクの関数として変わり得る。また、ヒステリシス閾値は、トルクの増加または低下が要求されるかどうかに応じて非対称であり得る。ヒステリシスレベルはまた、トランスミッションギヤ比などのパワートレインパラメータ、またはブレーキがかけられているかどうかなどの他の車両パラメータの関数として変わり得る。
【0053】
雑音
上述の周期性パターン生成手法は、エンジン振動を低減することに非常に有効である。しかし、適切に対処されなければ、反復パターンを使用することにはいくつかの潜在的欠点がある。第1に、以下にさらに詳細に説明されるように、パターン自体の反復性により、共鳴またはビート周波数が励起され、唸る音または撥弦音を生じる可能性がある。第2に、いくつかの反復パターンにより、シリンダが長期間の間スキップされ、エンジンの熱的、機械的、および/また制御問題を引き起こす可能性がある。V8エンジンでは、分数N/8と表すことができるすべてのスキップファイア点火比はこの潜在的問題を有する。例えば、1/2の点火比は一組の4シリンダを一貫して点火し他の4シリンダを決して点火しない可能性がある(これは、点火されている特定のシリンダに基づき望ましいことも望ましくないこともあり得る)。同様に、1/8の点火比は1つのシリンダを一貫して点火するが他の7つのシリンダを決して点火しなくてもよい。他の分数もまたこの特性を呈示し得る。当然、他のサイズのエンジンは同様な懸念を有する。
【0054】
音響ビート問題の性質をより良く理解するためには、多くのタイプのエンジンにおいて非常にスムーズに動作する傾向がある1/3の指令点火比を考える。この構成では、点火比は2つおきのシリンダを点火することにより実施することができる。2つおきのシリンダを点火することにより1500RPMで動作する4ストロークV8エンジンは33×1/3Hzの基本周波数を生じる。このような高い点火周波数では、振動は運転手によりほとんど検知されない。残念ながら、その結果のパターンの規則性が音響問題を引き起こす可能性がある。具体的には、実際のシリンダ点火のシーケンスは24の点火機会毎に繰り返す。したがって、個々のシリンダ点火が若干異なる音響特性を有すれば、(これは排気系設計などなどの要因により珍しくない)、4.2Hz音響ビートが結果として生じる可能性がある。このようなビートは、2つおきのシリンダを点火することにより1500RPMで33×1/3Hzの基本周波数を生じるので、発生する可能性があり、全く同じシリンダ点火パターンが8気筒エンジンにおける24の点火機会毎に繰り返す。1500RPMでは、毎秒100点火機会は、毎秒4.2回(すなわち100÷24≒4.2)の全く同じシリンダシーケンスの反復を生じる。したがって、約4.2Hzのビート周波数を発生する可能性がある。このようなビートは、車両乗員により時に認識可能であり、感知可能な場合には音響的に迷惑になる可能性がある。一方、ビート周波数は十分に低いので観察者がそれを認識するまでいくらかの時間がかかる。したがって、車両が数秒の間同じ点火比で連続的に駆動される場合、そうでなければ顕著でない音響共鳴が顕著になる可能性がある。当然、同様に励起される可能性のある多くの他の共鳴ビートが存在する。
【0055】
実際、いくつかのエンジンでは、許容周期性点火パターン/点火比のいくつかが望ましくない音響を発生するということが観測された。実際、1/3〜1/2などの最もスムーズな点火比のいくつかは望ましくない音響に敏感であることがある。いくつかの状況では、望ましくない音響は上述の共鳴ビート周波数のタイプに関連し、排気路の特性および/または定常周波数に関係するように見える。他の状況(例えば、1/2が使用される場合)では、雑音は、シリンダ列または群に切り替えるまたはシリンダ列または群間で切り替えることに関連し得る。任意び特定エンジンと任意の特定車両(それらの関連排気系などを備えた)については、望ましくない音響雑音を発生する点火比/エンジン速度組み合わせを容易に識別することができる。このような識別は、実験的または解析的にのいずれかで達成することができる。
【0056】
音響雑音問題は多くの異なる方法で対処することができる。例えば、望ましくない音響雑音の発生に敏感な点火比は、経験的に、比較的容易に識別することができ、調整点火比計算器は、特定の動作条件下のこのような分数の使用を排除するように設計することができる。このような構成の1つでは、音響雑音を発生する可能性が高いと考えられる点火比の代わりに、次に高いまたは次に近い点火比を使用し得る。他の実施形態では、指令点火比は、以下にさらに詳細に説明ように、計算された点火比から僅かな量だけオフセットされ得る。音響雑音問題は最初に周期性パターン生成器124(a)の文脈の中で論述されたが、基本的音響問題はいかなる点火比判断部の設計にも適用可能であるということを理解すべきである。
【0057】
音響雑音問題は必ずしも厳密に点火比の関数であるとは限らないということが観測された。むしろ、エンジン速度、ギアなどを含む他の変数がエンジン運転の音響に影響を及ぼし得る。したがって、調整点火比判断部はこのような望ましくない音響雑音を発生するいかなる点火比/エンジン速度/ギア組み合わせの使用も回避するように構成され得る。適切な調整点火比125を判断するために参照テーブルを利用するいくつかの実施形態では、望ましくない音響特性を有するいかなる点火比も、使用可能な一組の点火比から簡単に削除することができる。指令点火比125をリアルタイムに計算するいくつかの実施形態では(例えば、アルゴリズム的にまたは論理を使用することにより)、提案点火比を当初に計算することができ、その後、禁止された点火比ではないことを保証するためにこの提案点火比を照合することができる。提案点火比が禁止されているということが判明すれば、禁止された点火比の代わりに近傍の点火比(例えば、次に高い点火比)を選択し得る。このような照合は任意の好適な技術を使用することにより行うことができる。一例として、指標としてエンジン速度を使用する参照テーブルが、任意のエンジン速度に対して禁止された潜在的点火比を識別するために利用でき得る。
【0058】
別の手法は、音響雑音を適切に緩和する要因を禁止点火比に単に加えることであろう。例えば、1/3などの提案点火比が望ましくない音響特性を有するということが分かっていれば、異なる点火比(例えば、17/50または7/20)をその代わりに使用でき得る。これらの分数は1/3とほぼ同じ点火周波数を有するので、出力トルクを要求トルクとほぼ一致させるために点火トルク当たりの小さな減少だけが必要とされる。再び、実際のオフセットは特定のエンジン運転条件に基づき事前設定または計算され得る。
【0059】
潜在的音響懸念に対処するのに役立つ可能性のある別の機構は点火コントローラにより生成される反復パターンを時々壊すことである。これもまた、いくつかのシリンダだけが点火されている/点火されていない状況において熱的および機械的問題が発生するのを防止するために望ましいこともある。周期性パターンを壊すための1つの手法は、コントローラに余分な点火を時折加えさせることである。これは多くの方法で達成することができる。図4に示す実施形態では、点火コントローラ230に入力される値を時々少しだけ増加するようにプログラムすることができる余分の点火挿入器272を設ける。これは、要求点火比を増加するという影響を有し、いくつかの余分の点火を引き起こすことになる。例えば、挿入器が長期間、指令点火比を1%だけ増加すれば、点火コントローラは100点火機会毎に余分の点火を提供することになる。余分な点火の周波数と一般的タイミングは、任意特定設計の要件を満足するように変更することができるが、通常、全体のエンジン出力に著しく影響を与えないように余分な点火の数を極めて低く保つことが望ましい。一例として、指令点火比信号125により指示される点火の百分比0.5%〜5%程度の増加は通常、音響雑音を著しく低減するのに十分なパターンを壊すのに十分である。例示実施形態では、挿入器は、点火コントローラ230の上流側に位置する。しかし、同じ機能を達成するために様々な位置の点火コントロールユニット論理内に余分な点火を導入することができるということが明らかである。
【0060】
挿入器272もまた、特定の点火比(例えば、音響的または他の懸念を有することが分かっている点火比)に関連してだけ追加の点火を挿入する(例えば、点火比を増加する)ようにプログラムされることができる。逆に、挿入器は、特定の点火比に関連して追加の点火を挿入しないように構成することができる。1つの特定の実装形態では、挿入器は、余分の点火挿入の周波数を識別するために使用される2元参照テーブル(任意の特定動作状態に対して零、正、または負であり得る)を含み得る。2元参照テーブルの指標の1つは要求トルクまたは指令点火比であり、他の指標はエンジン速度である。当然、より高次元または低次元の参照テーブル、および他の指標(例えば、ギヤ)および/または様々なアルゴリズム的および他の手法を使用するテーブルも同様に、挿入の周波数を判断するために使用することができるであろう。いくつかの実装形態では、挿入のタイミングを無作為化することも同様に望ましいこともある。さらに他の実装形態では、挿入の大きさを時間とともに変更することが望ましいこともある(例えば、定常状態入力に対し、最初の短い期間、1%だけ増加し、続いて2%挿入、次に無挿入が続く)。こうして、任意特定アプリケーションの要件を満足するために挿入の性質を広範囲にわたって変更することができる。
【0061】
パターンを壊すための別の手法はCPG指令信号にディザを導入することである。ディザは、主信号または2次信号に重畳される信号のようなランダム雑音と考えられ得る。必要に応じ、ディザは、追加の点火に加えてまたはその代わりに、挿入器272により導入することができる。他の実装形態では、ディザ(または挿入器272の他の機能の任意のもの)は点火コントローラ230の内部に導入され得る。
【0062】
音響問題を緩和するためのさらに他の手法については、図6図7に関して以下に論述される。さらに、ある音響問題は、点火比と点火シーケンスの制御に加えて車両機械設計を通して対処され得るということを理解すべきである。点火シーケンス制御アルゴリズムにおける複雑さと車両機械設計とのトレードオフが存在し得、費用効率の高い技術的解決策が当業者により判断され得る。
【0063】
スムーズな動作
従来のスキップファイアコントローラ(通常、小さな一組の実効点火比を利用する)において、より顕著なエンジン荒さのいくつかは異なる点火パターン間の遷移に関連する傾向があるということが観測された。図1に関する上述のスキップファイアコントローラの1つの特徴は、シグマデルタべ−ス点火コントローラ(駆動パルス生成器)130が指令点火比の変化の最中ですら点火指令を本質的に分散させるということである。この点火命令の分散はいくつかの望ましい効果があるということを理解すべきである。最初に、点火はかなり一様に分散される傾向があるので、分散は任意の点火比においてエンジンの動作をスムーズにする傾向がある。追加的に、シグマデルタ変換器のアキュムレータ機能は以前に要求されたが送出されなかった点火の部分を効果的に追跡するので、分散は異なる点火比間のスムーズな遷移を支援し、したがって、点火比間の遷移は、このような追跡無しに観測されるほど破壊的とならない傾向がある。別の言い方をすれば、シグマデルタ変換器は、要求された(例えば、指令点火比信号125により要求された)が未だ指示され(例えば、駆動パルス信号113の形式で指示され)ていない点火の部分を効果的に追跡する。この最近の点火の追跡または「記憶」は、点火シーケンス内の任意の時点の点火比間の遷移を容易にするので極めて有利である。すなわち、異なる点火比が指令される前に、パターンがサイクルを完了する必要はない。
【0064】
さらに、説明した実装形態のいくつかは、エンジン速度(RPM)べ−スクロックの使用を企図する。RPMべ−スクロックを使用する1つの潜在的複雑性は、あらゆるシリンダ点火がエンジンRPMの顕著な変化を引き起こす傾向があるということである。制御の見地から、これは実質的に、コントローラに悪影響を与える可能性があるクロックのジッタとなる。また、RPMクロックを使用するコントローラにおける点火のより一様な分散の別の利点は、分散がクロックジッタの悪影響を低減する傾向があるということである。
【0065】
シグマデルタベース点火コントローラ(および他の同様なタイプの変換器)は、エンジン動作をスムーズにするために大きな貢献をするが、エンジン動作をさらにスムーズにするために使用することができる多くの他の制御特徴が存在する。再び図4を参照すると、制御されるエンジン/車両のスムーズさと運転しやすさとをさらに改善するために、説明したスキップファイアコントローラの任意のものに加えられ得るまたはそれと共に使用され得るいくつかの追加部品と制御方法論について説明する。図4の実施形態では、点火コントロールユニット220は、点火比判断部224、一対の低域通過フィルタ270、274、点火コントローラ230(および任意選択的に挿入器272)を含む。この実施形態では、パワートレインパラメータ調整モジュール133はまた、所望のマス空気量(MAC)、および/または実際のエンジン出力が要求エンジン出力と一致するということを保証するのを支援することが望ましい他のエンジン設定を判断する責任を負う。点火コントローラ230は、指令点火比を送出するシグマデルタ変換器または任意の他の変換器の形態を取り得る。
【0066】
定常状態動作中、ほとんどの運転手は、運転しながら足を加速ペダル上に完全に静止して維持することができないということが観測された。すなわち、ほとんどの運転手の足は、ペダルをしっかりと保持しようとしているときですら運転中に上下に少し振動する傾向がある。これは、1つには生理学的な考察により、また1つには固有道路振動によるものと考えられる。その原因にかかわらず、このような振動は、振動が通常は点火比計算器を2つの異なる点火比間で切り替えさせるであろう閾値をたまたま越えれば、隣り合う点火比の前後での比較的頻繁な切り替えを引き起こす可能性がある要求トルクの僅かな変動に変わる。このような点火比間の前後の頻繁な切り替えは、一般的には望ましくなく、通常、エンジン出力を実際に変化させる運転手の意図を反映しない。加速ペダル信号110のこのような僅かな変動の影響を緩和するために様々な機構を使用することができる。一例として、いくつかの実施形態では、このような僅かな入力信号振動をフィルタで除去するために前置フィルタ261が設けられる。前置フィルタは、運転手にとって意図せぬと考えられる入力信号110のいくつかの僅かな振動変動を実効的に削除するために使用することができる。他の実施形態では、前置フィルタ261に加えてまたはその代わりに、点火比判断部224は、指令点火比の判断の際の加速ペダル入力信号110の僅かな振動変動にヒステリシスを付与する、またはそうでなければそれを無視するように構成され得る。これは、要求/指令点火比においていかなる変更もなされる前に入力信号110に設定量を変化させることを要求するヒステリシス定数の使用により容易に達成することができる。当然、このようなヒステリシス定数の値は任意の特定アプリケーションの要件を満足するために広範囲にわたって変更され得る。同様に、定数よりむしろ、ヒステリシス閾値は、トルク要求の百分率変化の形式を取るまたは他の好適な閾値関数を使用し得る。
【0067】
さらに他のアプリケーションでは、トルクヒステリシスは、要求トルクの判断の一部として、トルク計算器、ECU、または他の部品により付与され得る。使用される実際のトルクヒステリシス閾値および/または付与されるヒステリシスの性質は、所望の設計目標を満足するために広範囲にわたって変わり得る。
【0068】
閾値より大きな入力信号変動に応答して要求/指令点火比を変更するためだけに関連点火比判断部122、224などを制約することは、点火コントロールユニット120、220などが運転手の要求に追随する実際のエンジン出力を送出しないということを意味しない、ということを理解することが重要である。むしろ、入力信号のいかなる小さな変動も、同じ点火比を使用しながらエンジン設定(例えば、マス空気量)を変更することにより、より伝統的な方法で適切に対処され得る。
【0069】
本明細書に記載の点火比計算器のいくつかのうちの1つの特に注目すべき特性は、使用可能な点火比の数がエンジンの動作速度に基づき可変であるまたは可変であり得るということである。すなわち、より高いエンジン速度において使用できる点火比の数は、より低いエンジン速度において使用できる点火比の数より大きい(場合によっては著しく大きい)こともある。この特性は、エンジン速度と無関係な比較的小さな固定された一組の点火比を通常やむを得ず使用する従来のスキップファイアコントローラと極めて異なる。一例として、上述の周期性パターン生成器124(a)のアルゴリズム的実施は、可能な動作点火比状態の数と値とをエンジンの動作中に動的に計算するように構成される。したがって、一組の可能な動作点火比は、MPCFOの整数値が変化するときは常に変化することになる。当然、他の(例えば、テーブルベース)実装形態では、より多くの点火比が使用可能になる閾値は様々な方法で変わり得る。
【0070】
それにもかかわらず、指令点火比は部分的にはエンジン速度の関数として変わり得るので、エンジン速度の小さな変化が指令点火比の変化を引き起こす可能性がある状況が存在し得る。点火比間の遷移は望ましくない振動および/または音響雑音の1つの潜在的源である傾向があることと、隣り合う点火比間の前後の急速なゆらぎは特に望ましくない傾向があるということとが観測された。このようなゆらぎの周波数を低減するのを支援するために、点火比判断部124、124(a)、224などは、エンジン速度の比較的小さな変動が点火比の変化を引き起こさないように、動的RPMベースヒステリシスを与えるように構成され得る。
【0071】
問題の性質をより良く説明するために、指令点火比を判断するために周期性パターン生成器(CPG:cyclic pattern generator)124(a)を利用する点火コントロールユニット120、220について考察する。あらゆるシリンダ点火はそれぞれエンジン速度(RPM)の少なからぬ変化を引き起こし得るということを理解すべきである。したがって、エンジンがCPGレベル間の閾値近くの速度で動作していれば、特定のシリンダの連続的点火と非点火が、コントローラをCPGレベル間、したがって指令点火比間の前後で揺らがせる可能性があり、これらは望ましくないだろう(ある範囲の入力または要求点火比は、共通の指令点火比、すなわち共通のCPGレベルにマッピングされるということに留意されたい)。したがって、このような実装形態では、周期性パターン生成器124(a)が当初のCPGレベルを異なるCPGレベルへ実際に変更する前の最小ステップ値よりエンジン速度の変化が大きい、ということを保証することが望ましい。任意の特定コントローラ設計において適用されるRPMヒステリシスの量は特定の車両制御方式の要件を満足するように変更され得る。しかし、一例として、説明した周期性パターン生成器124(a)の実装形態に適切な式は、次式である。
RPMヒステリシス=(高域通過遮断周波数×120/シリンダ#)
ここで、高域通過遮断周波数は点火命令の反復パターンが毎秒繰り返すと予想される最小回数を示す反復閾値であり(例えば、上記例では8Hz)、シリンダ#はエンジンが有するシリンダの数である。上述したように、いくつかの実装形態では、エンジン速度、ギアまたは他の要因の関数として高域通過遮断周波数を変えることが望ましいこともある。このような実装形態では、RPMヒステリシスの印加レベルもまた、このような要因の関数として変わり得る。
【0072】
他のアプリケーションでは、所定のRPMヒステリシス閾値(すなわち指定値(例えば、200RPM)より大きなエンジン速度変化を必要とする)またはエンジン速度の百分率に基づくRPMヒステリシス(例えば、エンジン速度の指定百分率(例えば、定格エンジン速度の5%)より大きなエンジン速度変化を必要とする)を使用することが望ましいこともある。当然、このような閾値に使用される実際の値は、任意特定アプリケーションの要件を満足するために広範囲にわたって変更されることができる。
【0073】
別の特定実施形態では、エンジン速度の最近のゆらぎにおいて観測された最低回転速度値(例えば、RPM)を保持するためにラッチを設け得る。このとき、ラッチされたエンジン速度は、RPMヒステリシスを越えるエンジン速度の変化が観測された場合だけ増加される。次に、このラッチされたエンジン速度は、計算または参照の一部としてエンジン速度を必要とする様々な計算において使用され得る。このような計算の例としては、MPCFOの計算においてまたは様々な参照テーブルなどの指標として使用されるエンジン速度が挙げられ得る。いくつかの計算においてこの最小ラッチエンジン速度値を使用する利点のいくつかは、(a)トルク要求の低下(例えば、運転手が加速ペダルを離すときの)に対する高速応答を保証するのを支援すること、(b)高域通過遮断周波数が要求値を下回らないことを保証することである。
【0074】
過渡応答
説明した点火比管理ベーススキップファイアコントローラにより、通常、指令点火比に変更がなされるときは常に要求マス空気量(MAC)に階段状変化が生じるであろう。しかし、多くの状況では、スロットルの応答時間と、要求されたMACの変更を与えるために吸気マニホールドを通して空気流量を増加または低下することに伴う固有遅延は、要求されたMACに階段状変化があれば、次のいくつかの点火機会中に実際に使用可能な空気の量(すなわち実際のMAC)は要求されたMACと多少異なり得る。したがって、このような状況では、次の指令点火(または次のいくつかの指令点火)に実際に使用可能なMACは要求されたMACと多少異なる可能性がある。通常、このような誤差を予測および修正することが可能である。
【0075】
図4に示す実施形態では、点火比計算器224の出力は、点火コントローラ230へ送出される前に、一対のフィルタ270、274を通して渡される。フィルタ270と274(低域通過フィルタであり得る)は、点火比の変化がより長い期間にわたって分散させられるように指令点火比のいかなる階段状変化の影響も緩和する。この「分散」または遅延は、異なる指令点火比間の遷移をスムーズにするのを支援することができ、エンジンパラメータを変更する際の機械的遅延を補償するのを支援するために使用することもできる。
【0076】
特に、フィルタ270は、エンジン挙動に対するより良好な応答を提供するために、異なる指令点火比(例えば、異なるCPGレベル)間の急峻な遷移をスムーズにするので、ぎくしゃくした過渡応答を回避する。この応答の過渡的性質は低周波数振動を発生することを回避するので、CPGレベル間の遷移中に非CPGレベルで動作することは通常、許容可能である。
【0077】
上述のように、点火比判断部224が指令点火比の変更を指示すると、これもまた、通常、パワートレイン調整モジュール133にエンジン設定(例えば、吸気圧力/マス空気量を制御するために使用され得るスロットル位置)内の対応する変更を指示させることになる。フィルタ270の応答時間が、指示されたエンジン設定の変更を実施するための応答時間と異なる程度まで、要求エンジン出力と送出されたエンジン出力との不一致がある可能性がある。実に、実際には、このような変更の実施に伴う機械的応答時間は点火コントロールユニットのクロック速度よりはるかに遅い。例えば、指令された吸気圧力の変更は、関連機械的時間遅延を有するスロットル位置を変更することを伴い得るので、スロットルの実際の動きと所望の吸気圧力の達成との間にさらなる時間遅延が存在する。最終結果は、単一点火機会の時間枠内でいくつかのエンジン設定の指令変更を実施することはしばしば可能ではないということである。説明するまでもなく、これらの遅延は要求エンジン出力と送出エンジン出力間の差となるであろう。例示実施形態では、フィルタ274はこのような相違を低減するのを支援するために設けられる。より具体的には、フィルタ274はスケーリングされるので、その出力はエンジン挙動と同様な速度で変化し、例えば、吸気マニホールド充填/無充填動力学にほぼ合致し得る。
【0078】
図4に示す実施形態では、点火比判断部224の出力225(a)はフィルタ270を通り、信号225(b)を生じる。挿入器272が使用されれば、その出力は加算器226によりこの段階で加えられ、信号225(c)を生じる。当然、挿入器が使用されなければ(または、挿入が適用されなければ)、信号225(b)と225(c)は同じになるだろう。この信号225(c)は、適切なパワートレイン設定を判断する際にパワートレインパラメータ調整モジュール133により見られ使用される指令点火比であることが好ましい。これにより、エンジン設定が、フィルタ270と(存在すれば)挿入器272との影響を考慮して、指令点火比に対して所望のエンジン出力を送出するように適切に計算される。しかし、信号225(c)は、指令点火比225(d)として点火コントローラ230に実際に送出される前に、フィルタ274を通される。上述のように、フィルタ274は、エンジン設定を変更する際の固有過渡応答遅延を考慮するのを支援するように構成される。したがって、フィルタ274は、点火コントローラ230の実際に要求した点火比がこのような固有遅延を考慮するということを保証するのを支援する。
【0079】
フィルタ270により与えられる点火比間の指令遷移を完了する際の遅延は、ほとんどの状況ではエンジン全体の応答にとって重要とはならないということが明らかである。しかし、例えば要求点火比に大きな変更がある場合のように、このような遅延が望ましくないこともあるということはままある。このような状況に対処するために、フィルタは、点火比の大きな変更が指示される場合に点火比判断部224の出力225(a)を点火コントローラ230へ直接渡されるバイパスモードを取り込むことができる。このようなバイパスフィルタの設計は、フィルタ設計技術において十分に理解されている。例えば、フィルタ内部設定はフィルタの出力を所定値にさせるために再初期化され得る。
【0080】
低域通過フィルタ270と274の両方を実現するために様々な低域通過フィルタ設計を利用し得る。フィルタの構造は任意の特定アプリケーションの要件を満足するように変更され得る。あるいは、点火コントロールユニット220内に信号を送るためにMAPの時間進展を積極的に監視するセンサを配置することができる。この情報と正確なMAPモデルを所与として、フィルタ274はこの情報に基づき調整され得る。いくつかの特定の実施形態では、低域通過IIR(無限インパルス応答)フィルタがフィルタ270と274として使用され、これらは特にうまく動作することが分かった。指令点火比信号225と点火コントローラ230のように、このようなIIRフィルタは各点火機会によりクロック制御されることが好ましい。本出願に使用される好適な特定の一次IIRフィルタ設計の構造について次に説明する。特定のフィルタ設計が説明されたが、FIR(有限インパルス応答)フィルタを含む多種多様の他の低域通過フィルタを同様に利用することができるということを理解すべきである。
【0081】
フィルタ設計技術に精通する者により理解されるように、サンプリング時間Tを有する離散的一次IIRフィルタの式は、
Yn=CT×Xn+(1−CT)Y(n−1)
【0082】
しかし、説明した実施形態では、クロックは可変でありエンジン速度に結び付けられる。したがって、クランクシャフト角度に基づき一次IIRフィルタを一定サンプル時間から可変サンプル時間一次フィルタに変換するために、係数は次のように再計算されなければならない。
CF=(CT/T)×(60/RPM)/(シリンダ#/2)
CF=(2×CT/T)×(60/RPM)/(シリンダ#)
CF=K×(60/RPM)/(シリンダ#)
【0083】
ここでCTとCFはフィルタの係数であり、それぞれ時間ベース「T」フィルタと角度または点火比ベース「F」フィルタである。
【0084】
したがって、上記時間ベースIIRフィルタと同じ特性を有する一次IIRフィルタの式は次のようになるであろう。
YF=CF×XF+(1−CF)Y(F−1)
【0085】
特定の一次IIRフィルタが説明されたが、高次IIRフィルタと他の適切なフィルタを含む他のフィルタを、説明した離散的一次IIRフィルタの代わりに容易に使用し得るということを理解すべきである。
【0086】
点火比のワーピング(warping)
上述の手法では、良好な振動(またはNVH)特性を有する一組の動作点火比が識別され、点火比判断部224は、エンジンの動作中これらの点火比を使用することを強調する。一組の動作点火比は、解析的、実験的に、または他の好適な手法を使用することにより、得ることができる。スキップファイアコントローラを、このような点火比を使用することに制限することで、エンジン振動を著しく低減することができる。この手法を見る1つの方法は、ある範囲の要求トルクが、結果的に図3に示すような要求トルクと指令点火比との間の階段状のマッピングとなる単一点火比にマッピングされる、ということを観測することである。別の言い方をすれば、この手法では、指令点火比はある範囲のトルク要求にわたって一定のままである(図3では、ある範囲の要求点火比として反映される)。
【0087】
図2に関して説明した実施形態では、スキップファイアモードで動作するエンジンにより発生される振動の量を低減すると分かっているいくつかの点火比値を識別するための1つの特定方法が開示された。本明細書の都合上、これらの点をCPG点と呼ぶことがある。このような点は、解析的に、実験的に、または混成技術を使用することにより判断され得る。実際には、観測振動は、CPG点の極近くであるが全くは同じでない点火比の使用により、劇的にスパイクを生じなくなる。むしろ、その関係は決して線形ではないが、振動特性は任意のCPG点からさらに遠い点火比に関してはより悪くなる傾向がある。この特性は、例えば1/3CPG点の近傍の点火比で測定された縦加速度(特に大きな振動の特徴)を示す図5においてグラフを使って見ることができる。この特徴は、図6図7に関連して説明する別の調整点火比計算器124(b)において利用される。
【0088】
この実施形態では、調整点火比計算器124は図3の手法の階段状にいくぶん似た方法で指令点火比へ要求点火比(または要求トルク)をマッピングするように構成されるが、図6図7の両方から分かるように、階段の奥行部375が僅かな傾斜(すなわち、水平でない)を有し一方「階段」の上昇部377ははるかに急な傾斜を有するように設計される点で異なる。概念的に、このように要求トルク(または要求点火比)を指令点火比125へマッピングする点火比計算器はいくつかの興味ある特性を有する。
【0089】
階段の奥行部に僅かな傾斜を加えることにより、要求トルクの範囲に関連する指令点火比125は標的CPG点の近くに留まるように歪められるが一定でない。このようにして、振動は、CPG点近くの値もまた良好な振動特性を有する傾向があるので、低減される。同時に、特に要求トルク/点火比が例え少しだけであっても絶えず変動すれば、音響共鳴が励起される可能性ははるかに低い。上に指摘したように、研究は、現実には定常状態走行条件においても加速ペダルから出力される信号がいくぶん振動する傾向があるということを発見した。入力信号のこの固有特性は、音響共鳴を低減するのを支援するために利用することができる。
【0090】
階段の上昇部は、CPG段階間の遷移を表すものと概念的に考えることができる。推論により、これらの遷移領域は通常、余り望ましくない振動特性を有する領域を反映する。この領域内のマッピングの傾斜が比較的急であれば、CPG段階間の遷移は比較的急になり、このことは、確率的には、要求トルクがこれらの遷移領域内となる時間が比較的低いことを意味する。点火コントローラ130、230がこれらの遷移領域において点火比を出力するように指示される時間を最小化することにより、望ましくない振動を発生する尤度は本質的に低減され、良好なNVH特性を得ることができる。
【0091】
この手のマッピングを生成するために使用できる多くのアルゴリズムが存在する。1つの簡単な手法は区分線形(piecewise−linear)マッピングである。このようなマッピングは、(1)一組の望ましい動作点(例えば、CPG点)と、(2)動作点周囲のマッピングの傾斜を定めるパラメータと、(3)動作点間の中間点におけるマッピングの傾斜を定めるパラメータとにより容易に特徴付けられる。一組の動作点は任意の好適な手法を使用することにより(例えば、アルゴリズム的に、実験的になど)識別され得る。前述のCPG点はこの目的のために特にうまく働くので以下の説明では動作点としてCPG点を使用するということに留意されたい。しかし、CPG点の使用は確かに、必要条件ではないということを理解すべきである。CPG点周りのマッピングの傾斜(S)は階段の奥行部375の傾斜に対応する。この傾斜(S)は1未満であり、好ましくは1よりはるかに小さい。一例として、1/3以下の傾斜、より好適には0.1以下の傾斜がうまく働く。CPG点間の中間点におけるマッピングの傾斜(S)は階段の上昇部377の傾斜に対応する。この傾斜(S)は1より大きくなる(好適には1より著しく大きく、例えば3以上、より好適には10以上)。例示実施形態では、階段の上昇部はうまく働くCPG点間の中間点に中心がある。但し、再びこれは厳密な必要条件ではない。
【0092】
この一組の制約条件により、入力点火比から出力点火比へのマッピングが完全に決定される。上記パラメータを所与として、いつでも、出力点火比は以下のアルゴリズムを使用して計算され得る。
【0093】
工程1:入力点火比未満の最大CPG点(CPGlo)と入力点火比を越える最小CPG点(CPGhi)を見つける。
【0094】
工程2:CPGloとCPGhiの中間点(MP)を計算する。
【0095】
工程3:傾斜Sを有するCPGloを通る直線と傾斜Sを有するMPを通る直線の交点を決定する。これは下部折れ点(BPlo)である。
【0096】
工程4:傾斜Sを有するCPGhiを通る直線と傾斜Sを有するMPを通る直線の交点を決定する。これは上部折れ点(BPhi)である。
【0097】
工程5:要求点火比がどの線分内にあるか判断する。3つの線分は、a)CPGloとBPlo間と、b)BPloとBPhi間と、c)BPhiとCPGhi間とに存在する。
【0098】
工程6:出力点火比を計算するために対応直線(一次方程式として表される)を使用する。
【0099】
線分をオンザフライで計算する実装形態では、工程1〜5は、点火比が1つの線分から別の線分まで移動する場合または入力パラメータ(例えば、一組の使用可能なCPG点)の1つが変化する場合だけ計算される必要がある。したがって、最後の工程だけが点火機会毎に計算される必要があるであろう。当然、最初の5工程の結果も、計算をさらに簡単にするために参照テーブルの形式で容易に実現することができる。CPG点間の線分の形状はこのような手法を使用して容易にカスタム化することができることと、線分は隣り合うCPG点間の中間点の他に1つまたは複数の中間点を使用することにより容易に規定することができるということとを理解すべきである。
【0100】
この説明された点火比のワーピングは簡潔であり、計算するのが容易である。ワーピングは、単一点火比が長期間使用されるときに発生する可能性が高い音響共鳴増強の確率を低減する利点を有する。出力点火比マップに対する入力点火比の性質により、エンジンを低振動領域において優先的に動作させる。これらの2つの目的のトレードオフ(すなわち、「振動的に良い点に重点をおく好み」対「音響共鳴を回避する願望」)は小さな組のパラメータを使用することにより行うことができる。
【0101】
説明した区分線形マッピングはうまく働くが、多種多様の他のマッピングをその代わりに容易に使用し得るということを理解すべきである。例えば、傾斜と値をCPGと中間点において一致させる三次多項式を利用する技術が容易に使用され、うまく働く傾向がある可能性がある。さらに、例示実施形態では、CPG点間の遷移マッピングを規定するために単純な関数が利用された。しかし、これは必要条件ではない。別の実施形態では、隣り合うCPG点ペア間で遷移をマッピングするために異なる関数を利用することができる、および/または異なる傾斜が異なる個々の線分に使用され得る。例えば、1/2CPG点の周りの傾斜は零である可能性があり、一方、隣り合う線分は正の傾斜を有し得る。これは点火比が2分の1(または伝統的な可変排気量動作状態と同一の広がりを持つ他の点火比)に近いときにエンジンが従来の可変排気量エンジンにより類似した方法で動作できるようにするために望ましいこともある。あるいは、1/2CPG点を通る傾斜は非常に大きいかまたは無限である可能性があり、そのCPGレベルでのその動作を実効的に排除する。
【0102】
他の特徴
説明した点火比管理技術は、好適なエンジン動作パラメータ(マス空気量などの)を変更することにより点火比の変化を補償する一方でより低い振動特性を有する点火比の使用を促進するためにエンジン動作特性の知識を活用する。その結果のコントローラは通常、実現するのが比較的容易であり、従来のスキップファイアエンジン制御と比較するとNVH問題を著しく低減することができる。本発明のいくつかの実施形態だけが詳細に説明されたが、本発明は本発明の精神または範囲から逸脱することなく他の多くの形式で実施され得るということを理解すべきである。
【0103】
特に、フィルタ270と274、挿入器272、前置フィルタ261、点火比計算器(または他の部品)内の計算で利用される様々な入力信号に対するヒステリシスの使用、エンジン速度またはクランク角度に基づくクロックの使用などの多くの特徴が特定の実施形態の文脈の中で説明された。これらの特徴についてはいくつかの実施形態の文脈の中で特に論述されたが、これらの概念は実際はさらに一般的であることと、このような部品およびそれらの関連機能は、有利には記載および/または請求したスキップファイア点火コントロールユニットの任意のものに組み込まれ得ることとを理解すべきである。
【0104】
ほとんどのスキップファイアコントローラにより企図されるかなり小さな組(または従来の可変排気量エンジンにおいて許容される変位の極めて限られた選択)とは対照的にかなり広範囲の点火比をコントローラに利用できるようにすることで、このような従来の設計において可能であるより良好な燃料効率の達成を容易にする。能動的点火比管理および様々な記載された技術は、NVH懸念を緩和するのを支援する。同時に、要求トルクは、所望のエンジン出力を送出するためにスロットル設定(吸気圧力したがってMACを制御するのを支援する)などの適切なエンジン設定を適切に調整することにより送出される。その結果の組み合わせは、様々な経済的スキップファイアエンジンコントローラの設計を容易にする。
【0105】
多くの実装形態では、使用可能な点火比の数がエンジン速度の関数として変わり得るということを上に述べた。固定された遮断は無いが、1000RPM以上のエンジン速度で動作する8気筒エンジンに使用可能な点火比状態の数が少なくとも23の使用可能点火比を有することと、1500RPMより速いエンジン速度で動作する同じエンジンが上記使用可能点火比状態の数の2倍を越える数を有することは一般的である。一例として、図8は、図2の実施形態においてMPCFOを増加させた潜在的に使用可能な点火比の数の増加をグラフを使って示す。固定された遮断周波数に関しては、MPCFOはエンジン速度と共に線形に増加する。図9に、固定された8Hz遮断周波数を有する8シリンダ4ストロークエンジンの潜在的に使用可能な点火比の増加をプロットする。図から分かるように、使用可能点火比の数はエンジン速度と共に極めて線形に増加し、これにより点火比間のより良好な燃料効率およびよりスムーズな遷移を容易にする。
【0106】
説明した実施形態のいくつかは、調整点火比を判断するためのアルゴリズムまたは論理ベースの手法について論述した。説明した機能の任意のものは容易に、アルゴリズム的に、参照テーブルを利用して、離散的論理で、プログラマブルロジックで、または任意の他の好適な方法で、達成できるということを理解すべきである。
【0107】
スキップファイア管理について説明したが、実際の実施形態では、スキップファイア制御は他のタイプのエンジン制御を排除するために使用される必要はないということを理解すべきである。例えば、エンジンの出力が点火比とは対照的にスロットル位置により主として変調される従来のモード(すべてのシリンダを点火する)においてエンジンを動作させることが望ましい動作条件がしばしば存在する。追加的にまたは代わりに、指令点火比が、標準的可変排気量モードで使用可能であろう動作状態と同一の広がりを持つ場合(すなわち、固定された一組のシリンダだけが常に点火される場合)、このような点火比で従来の可変排気量エンジン運転を模擬するために予め指定された組のシリンダだけを動作させることが望ましいこともある。
【0108】
本発明は、主として自動車の使用に好適な4ストロークピストンエンジンの点火を制御するという文脈で説明された。しかし、説明した連続可変排気量手法は多種多様の内燃機関における使用に非常に適するということを理解すべきである。これらは、自動車、トラック、船、航空機、オートバイ、スクーターなどを含むほぼ任意のタイプの車両用エンジンと、発電機、芝刈り機、リーフブロワ、模型などの非車両アプリケーション用エンジンと、および内燃機関を利用するほぼ任意の他のアプリケーション用エンジンを含む。説明した様々な手法は、多種多様な様々な熱力学的サイクル下で動作するほぼ任意のタイプの2ストロークピストンエンジン、ディーゼルエンジン、オットーサイクルエンジン、複合サイクルエンジン、ミラーサイクルエンジン、アトキンズサイクルエンジン、ワンケルエンジンおよび他のタイプのロータリエンジン、複合サイクルエンジン(デュアルオットーおよびディーゼルエンジンなど)、ハイブリッドエンジン、ラジアルエンジンなどを含むエンジン、と共に働く。説明した手法は現在知られたまたは将来開発される熱力学的サイクルを利用して動作するかどうかにかかわらず新たに開発された内燃機関とうまく働くとも考えられる。
【0109】
援用された特許および特許出願内の例のいくつかは、点火された作業室がほぼ最適条件(熱力学的または他の点で)下で点火される最適スキップファイア手法を企図する。例えば、シリンダ点火毎に作業室に導入されるマス空気量は、エンジンの現在の動作状態(例えば、エンジン速度、環境条件など)で最も高い熱力学的効率を実質的に提供するマス空気量に設定され得る。説明した制御手法は、このタイプの最適スキップファイアエンジン運転と併せて使用されると非常にうまく行く。しかし、これは決して必要条件ではない。むしろ、説明した制御手法は、作業室が点火される条件にかかわらず非常にうまく行く。
【0110】
参照特許および特許出願のいくつかにおいて説明したように、説明した点火コントロールユニットは、別個の点火制御コプロセッサとしてまたは任意の他の好適な方法でエンジンコントロールユニット内に実装され得る。多くのアプリケーションでは、従来の(すなわちすべてのシリンダ点火)エンジン運転に対する追加の動作モードとしてスキップファイア制御を設けることが望ましいだろう。これは、条件がスキップファイア動作に適切でないときにエンジンが従来のモードで運転されることを許容する。例えば、従来の動作は、エンジン始動、遅いエンジン速度などのいくつかのエンジン状態において好ましいこともある。
【0111】
実施形態のいくつかでは、シリンダのすべてが点火比を管理する際に使用できるものと想定されている。しかし、これは必要条件ではない。特定のアプリケーションの必要に応じ、点火コントロールユニットは必要な排気量がある指定閾値未満であるときにいくつかの指定シリンダを常にスキップするように容易に設計されることができる。さらに他の実装形態では、説明した動作サイクルスキップ手法のいずれもそのシリンダのいくつかが遮断されたモードで動作する一方で伝統的可変排気量エンジンに適用することができ得る。
【0112】
説明したスキップファイア制御は、様々な他の燃料節約および/または性能強化技術(希薄燃焼技術、燃料噴射プロファイリング技術、ターボチャージ、スーパーチャージャなどを含む)と共に容易に使用することができる。上述の点火コントローラ実施形態のほとんどはシグマデルタ変換を利用する。シグマデルタ変換器は本出願で用いるのに非常に好適であると考えられるが、変換器は多種多様の変調方式を採用し得るということを理解すべきである。例えば、指令点火比を送出するためにパルス幅変調、パルス波高変調、CDMA指向変調、または他の変調方式を使用し得る。説明した実施形態のいくつかは一次変換器を利用する。しかし、他の実施形態では、高次変換器を使用し得る。
【0113】
大抵の従来の可変排気量ピストンエンジンは、使用されていないシリンダを介し空気をポンピングするという負の効果を最小化しようとして弁を全動作サイクルにわたって閉じたままにすることにより、使用されていないシリンダを非活性化するように構成される。説明した実施形態は、非活性化する能力を有するエンジンまたはスキップされたシリンダを同様な方法で遮断する能力を有するエンジンにおいてうまく働く。この手法はうまく働くが、ピストンはシリンダ内で依然として往復運動する。シリンダ内のピストンの往復運動は摩擦損失を導入し、実際には、シリンダ内の圧縮ガスの一部は通常、ピストンリングを通り越して流出し、これによりいくらかのポンピング損失も導入する。ピストン往復運動による摩擦損失はピストンエンジンでは比較的高く、したがって、スキップ動作サイクル中にピストンを非係合にすることにより全体の燃料効率のさらなる著しい改良を理論的に得ることができる。何年にもわたって、ピストンを往復運動から非係合にすることにより可変排気量エンジン内の摩擦損失を低減しようしたいくつかのエンジン設計があった。本発明者らは、商業的成功を達成したいかなるこのような設計も知らない。しかし、このようなエンジンのための限られた市場が量産エンジンのそれらの発展を妨げたことは疑わしい。説明したスキップファイアおよび可変排気量制御手法を取り込むエンジンに潜在的に使用可能な、ピストン非係合(piston disengagement)に伴う燃料効率利得は極めて大きいので、ピストン非係合型エンジンの開発を商業的に実現可能にするのに十分であろう。
【0114】
上記を考慮すると、本実施例は例示的であって限定的ではないと考えるべきであり、本発明は本明細書に記載された詳細に限定されず、添付された請求項の範囲内で修正され得るということが明らかである。
図1
図2
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図9