【文献】
JETTEN M. et al,A one-pot N-protection of L-arginine,TETRAHEDRON LETTERS,1991年,32(42),pp.6025-8,(第6026頁全体、特に、21-28行目)
【文献】
ZERVAS L. et al,Studies on Arginine peptides. I. Intermediates in the synthesis of N-terminal and C-terminal arginin,J. ORG. CHEM.,1957年,22(11),pp.1515-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明にかかる方法を詳細に述べる。なお以下では、アルギニン又はアルギニン誘導体(1)、及びトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン(2)を参照しながら本発明を詳述するが、これらの化合物には互変異性体が存在する。本明細書では互変異性体の一の例をとってそれぞれ式(1)、式(2)として説明するが、前記式(1)、(2)には、これで表される以外の下記の互変異性体も含まれるものとする。
【化6】
【化7】
【0013】
<カルボベンゾキシ化>
【化8】
本発明においては、式(1)のアルギニン又はアルギニン誘導体或いはそれらの塩(以下、これらをまとめてアルギニン原料(1)という)に水/有機溶媒の二層系で、カルボベンゾキシクロリド及び塩基を添加することにより、工業規模での生産に耐えうる反応液の優れた流動性を維持したまま、カルボベンゾキシ化を行う。生成するトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンは、カルボン酸の塩になっており、この塩を、例えば、酸性条件下にて有機溶媒に抽出することにより、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの塩フリー体を製造できる。また、上記カルボベンゾキシ化の際に、界面活性剤を存在させる事が好ましく、この事により、ジ−カルボベンゾキシ−アルギニンをトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンに効率よく変換することが可能となり、収率が大幅に向上する。
【0014】
上記式(1)中、A
1及びA
2はそれぞれN保護基(アミノ基保護基)又は水素原子を表す。アミノ基保護基としては、通常、ベンジルオキシカルボニル基以外の公知のアミノ保護基から選ばれ、例えば、ホルミル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、フタロイル基等のアシル型保護基;カルボベンゾキシ基、t−ブトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシカルボニル基等のウレタン型(カルバメート型)保護基;ベンジル基、p−メトキシベンジル基、トリフェニルメチル基等の置換アルキル基等、さらには、p−トルエンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
なおA
1及びA
2としては、水素原子が好ましい。A
1及びA
2がN保護基の場合、それを脱保護してから、カルボベンゾキシ化することが好ましい。
【0015】
上記式中R
1は水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜6のアルキル基、または置換基を有していても良い炭素数7〜15のアラルキル基を表し、好ましくは水素原子である。
前記アルキル基には、例えば、メチル基、エチル基などが含まれ、前記アラルキル基には、例えば、ベンジル基、フェネチル基などが含まれる。
【0016】
上記アルギニン原料(1)は、ラセミ体でも良いし、旋光性を示す光学活性体でも良い。
【0017】
上記アルギニン原料(1)は、酸との塩でも良い。酸としては、例えば、鉱酸、スルホン酸、又はカルボン酸が挙げられる。鉱酸としては、特に限定されないが、例えば、塩化水素や臭化水素などのハロゲン化水素を含む酸(塩酸、臭化水素酸など)、硫酸、燐酸等が挙げられる。スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、1−フェニルエタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸の非光学活性カルボン酸、酒石酸等の光学活性カルボン酸等が挙げられる。好ましい酸は、鉱酸であり、より好ましくは塩酸、または硫酸である。
【0018】
好ましいアルギニン原料(1)は、A
1及びA
2が水素原子である、アルギニン又はアルギニン塩であり、より好ましくはアルギニン又はアルギニン塩酸塩である。
【0019】
上記反応に用いる有機溶媒としては、反応中に水と二層系を形成する溶媒であって、反応液の流動性を維持することができるものであれば特に限定されず、溶質を含まない状態で水と層分離する溶媒の他、溶質を含まない状態であれば水と全割合で自由に混合し得る溶媒も含まれる。好ましい溶媒は、生成するトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンが析出して系外に放出されるものが好ましく、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tertブチル等の酢酸エステル類;tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。なかでも、tert−ブチルメチルエーテル、ジクロロメタン、トルエンが好ましい。言うまでもなく、これら有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0020】
上記反応溶媒に用いる有機溶媒の使用量としては、特に限定されないが、アルギニン原料(1)1重量部に対して、例えば、32重量部以下、好ましくは16重量部以下、より好ましくは8重量部以下である。下限は、特に限定されないが、例えば、1重量部以上、好ましくは2重量部以上、より好ましくは4重量部以上である。
【0021】
また上記反応に用いる水の使用量としては、有機溶媒1重量部に対して、例えば、1重量部以上、好ましくは2重量部以上、より好ましくは3重量部以上である。上限は特に限定されないが、例えば、10重量部以下、好ましくは8重量部以下、より好ましくは6重量部以下である。なお水の量を設定する場合、水の由来は問われず、水として加えられたものの他、塩基を溶解するために用いられる水などの様に、反応中に存在する全ての水を指す。また塩基を逐次添加する場合など、反応の進行に従って水量が変化する時には、反応開始時(カルボベンゾキシクロリド添加時)と反応終了時の両方で、上記水量を満足することが好ましい。
【0022】
上記反応における温度は、反応溶媒が固化しない温度以上であれば特に限定されないが、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。下限は、−50℃以上、好ましくは−30℃以上、より好ましくは−10℃以上である。
【0023】
上記カルボベンゾキシクロリドの使用量としては、特に限定されないが、上限は、アルギニン原料(1)1モルに対して、32モル以下、好ましくは16モル以下、より好ましくは8モル以下である。下限は、特に限定されないが、例えば、上記式中、A
1及びA
2がいずれも水素原子である場合、アルギニン1モルに対して3モル以上、好ましくは4モル以上、より好ましくは4.3モル以上である。
【0024】
上記塩基としては、特に限定されず、有機塩基、無機塩基のいずれでもよい。好ましくは無機塩基であり、例えばアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属含有化合物が挙げられる。具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなどが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、更に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0025】
上記塩基の使用量としては、特に限定されないが、アルギニン又はアルギニン誘導体に対して36倍モル以下、好ましくは20倍モル以下、より好ましくは12倍モル以下である。またアルギニン又はアルギニン誘導体の塩を原料とする場合には、塩基を用いて当該塩を中和する必要があるため、塩基の使用量は前述した範囲よりも1モル多く添加するとよい。下限は、特に限定されないが、例えば、上記式中、A
1、A
2及びR
1がいずれも水素原子である場合、アルギニンのカルボン酸を中和するための必要量(1倍モル)及びトリ−カルボベンゾキシ化で生成する塩酸を中和するための必要量(3倍モル)を考慮して、アルギニン原料(1)(好ましくはアルギニン又はアルギニン誘導体)に対して4倍モルである。
【0026】
上記塩基は、必要に応じて、水溶液として添加しても良い。水溶液中の塩基濃度としては、特に限定されないが、80wt%以下、好ましくは60wt%以下、より好ましくは40wt%以下である。下限は、特に限定されないが、生産性の観点から、反応液量が極端に増量しない程度が好ましく、1wt%、好ましくは3wt%、より好ましくは5wt%である。
【0027】
本発明において、上記カルボベンゾキシクロリド及び塩基の添加方法としては、特に限定されず、アルギニン原料(1)と、所定量の塩基を仕込んだ後、カルボベンゾキシクロリドを添加しても良いが、カルボベンゾキシクロリドの分解抑制及び不純物の副生抑制を目的とし、pHを制御しながら塩基とカルボベンゾキシクロリドを同時に添加しても良い。pHの範囲は、例えば、8〜14程度、好ましくは9〜13程度、より好ましくは10〜12程度である。
【0028】
特に好ましい添加手順では、まず初めにアルギニン原料(1)、塩基の一部、有機溶媒と水とを含む原料混合液を調製した後、そこに塩基の残り全部とカルボベンゾキシクロリドの全部を添加する添加工程を実施する。原料混合液での塩基の量は、アルギニン原料(1)1モルに対して、例えば、0.5モル以上、好ましくは1.0モル以上、より好ましくは1.5モル以上であり、例えば、4モル以下、好ましくは3モル以下、より好ましくは2.5モル以下である。
【0029】
添加工程では、塩基とカルボベンゾキシクロリドとは、逐次添加してもよく、連続的に添加してもよい。また交互に添加してもよく、同時に添加してもよい。好ましくは塩基とカルボベンゾキシクロリドとを、同時に連続的に添加する。
【0030】
またこの添加工程は、2つ以上の段階に分けて実施してもよい。例えば、アルギニン原料(1)にベンジルオキシカルボニル基(Cbz)が2つ結合するまでの第1添加工程と、さらに1つのベンジルオキシカルボニル基(Cbz)を結合される第2添加工程に分けて添加工程を実施してもよく、前記第1添加工程及び第2添加工程は、それぞれ、複数に分けて実施してもよい。
【0031】
第1添加工程での塩基の添加量は、アルギニン原料(1)1モルに対して、例えば、2モル以上、好ましくは3モル以上、より好ましくは4モル以上であり、例えば、15モル以下、好ましくは12モル以下、より好ましくは8モル以下であり、更に好ましくは6モル以下であり、より更に好ましくは5モル以下である。また第1添加工程でのカルボベンゾキシクロリドの添加量は、アルギニン原料(1)1モルに対して、例えば、2.5モル以上、好ましくは3.0モル以上、より好ましくは3.5モル以上であり、例えば、10モル以下、好ましくは8.0モル以下、より好ましくは6.0モル以下であり、更に好ましくは5.0モル以下である。
【0032】
第1添加工程終了時のジ−カルボベンゾキシ−アルギニン(以下、二置換体という)の割合は、モノ−カルボベンゾキシ−アルギニン(以下、一置換体という)、二置換体、及びトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン(以下、三置換体という)の合計100%に対して、例えば、25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは42%以上であり、例えば、70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。
【0033】
第2添加工程での塩基の添加量は、アルギニン原料(1)1モルに対して、例えば、2.0モル以上、好ましくは2.5モル以上、より好ましくは2.8モル以上であり、例えば、7.0モル以下、好ましくは6.0モル以下、より好ましくは5.0モル以下、更に好ましくは4.0モル以下である。また第1添加工程でのカルボベンゾキシクロリドの添加量は、アルギニン原料(1)1モルに対して、例えば、1.0モル以上、好ましくは1.5モル以上、より好ましくは1.8モル以上であり、例えば、4.0モル以下、好ましくは3.5モル以下、より好ましくは3.0モル以下である。
【0034】
第2添加工程は、塩基及びカルボベンゾキシクロリドそれぞれの添加量は第1添加工程のそれぞれより少なくする一方で、添加時間は第1添加工程より長くすることが好ましい。第2添加工程の添加時間は、第1添加工程の添加時間を1としたとき、例えば、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上であり、例えば、10以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。
【0035】
第2添加工程終了時の三置換体の割合は、一置換体、二置換体、及び三置換体の合計100%に対して、例えば、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上であり、例えば、98%以下、好ましくは97%以下、より好ましくは96%以下である。また第2添加工程終了時の一置換体の割合は、一置換体、二置換体、及び三置換体の合計100%に対して、例えば、5%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは2%以下である。二置換体の割合は、例えば、10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。
【0036】
本発明において、トリ−カルボベンゾキシ化反応の収率向上のため必要に応じて、界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、特に限定されないが、ヘキサン酸ナトリウム、ヘプタン酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム等のカルボン酸型(特に炭素数6〜30程度の脂肪酸型)の界面活性剤、及び1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム、1−オクタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型(特に炭素数6〜30程度の直鎖脂肪族スルホン酸型)の界面活性剤、及びラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の硫酸エステル型(特に炭素数6〜30程度直鎖脂肪族炭化水素基を有する硫酸エステル型)の界面活性剤、及びラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のリン酸エステル型(特に炭素数6〜30程度直鎖脂肪族炭化水素基を有するリン酸エステル型)の界面活性剤、及び塩化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩型の界面活性剤、及びモノメチルアミン塩酸塩、トリメチルアミン塩酸塩等のアルキルアミン塩型の界面活性剤、及び塩化ブチルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム等のピリジン環を有する物質、及びラウリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の非イオン系の界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、オレイルジメチルアミンN−オキシド等の両性界面活性剤等を挙げることができる。好ましい界面活性剤は、炭素数6〜30程度の長鎖(直鎖)脂肪族炭化水素基を有する界面活性剤であり、より好ましくはスルホン酸型界面活性剤である。
【0037】
界面活性剤の使用のタイミングは、反応が終了する前であれば特に限定されないが、好ましくは反応開始時に(すなわちアリリギニン原料(1)とカルボンベンゾクロリドと塩基の三成分の共存開始時に)反応液に存在していること、特に好ましくは上記原料混合液に含ませておくことが推奨される。
【0038】
界面活性化剤の使用量としては、特に限定されないが、アルギニン原料(1)に対して、0.01倍モル以上、好ましくは0.05倍モル以上、より好ましくは0.1倍モル以上である。使用量の上限に制限はないが、2倍モル、好ましくは1倍モル、より好ましくは0.4倍モルである。
【0039】
以上によって製造されるトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンは、水/有機溶媒系で製造されている為、塊にならず、攪拌性に優れており、また反応選択性乃至反応収率の面でも優れている。トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの反応収率は、例えば、20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは45%以上である。上限は100%であるのが望ましいが、80%であっても優れていると言える。
【0040】
得られたトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンは、必要に応じて単離してもよく、溶液又はスラリー状態を保ったまま、適当に処理乃至精製してもよい。通常、反応終了時点では、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンは、塩基(特に無機塩基)と塩を形成しており、この塩は濾過性に劣る。そのため、溶液又はスラリー状態を保ったまま、処理乃至精製することが好ましい。以下では、溶液又はスラリー状態を保ったまま処理乃至精製する場合について説明する。
【0041】
トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの塩基(特に無機塩基)との塩を含む反応液は、例えば、酸で処理した後、有機溶媒で抽出することで、無機不純物や水溶性不純物を除去でき、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの純度を向上できる。この反応終了後の抽出は、反応時に用いた有機溶媒と水のみで実施してもよく、反応終了後に水又は有機溶媒を適宜加えてもよい。加える有機溶媒としては、反応に用いる溶媒と同じであっても良いし異なっても良く、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tertブチル等の酢酸エステル類;tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。なかでも、tert−ブチルメチルエーテル、ジクロロメタン、トルエンが好ましい。言うまでもなく、これら有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0042】
抽出時の酸性化に用いる酸としては、例えば、鉱酸、スルホン酸、又はカルボン酸が挙げられる。鉱酸としては、特に限定されないが、例えば、塩化水素や臭化水素などのハロゲン化水素、硫酸、燐酸等が挙げられる。スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、1−フェニルエタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸の非光学活性カルボン酸、酒石酸等の光学活性カルボン酸等が挙げられる。これらの酸のうち、好ましくは塩化水素、臭化水素、硫酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、なかでも塩化水素、臭化水素、硫酸が好ましく、特に好ましくは、塩化水素、硫酸である。
【0043】
上記酸の使用量としては、目的物であるトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンを有機層に抽出可能なpHに調整できれば特に限定されず、例えば、1.5以下である。
抽出温度は、特に限定されないが、反応溶媒が固化しない温度以上で実施する事ができる。上限は、100℃、好ましくは80℃、より好ましくは50℃である。下限は、特に限定されないが、−50℃、好ましくは−30℃、より好ましくは−10℃である。
【0044】
<トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩の製造>
【化9】
本発明はまた、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液にアミンを加えて固体化し、得られた固体を濾過することによりトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩を製造することを特徴とする。トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液にアミンを加えて固体化すると、得られる固体の濾過性が著しく良好になり、精製効率を高めることができる。用いるトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンは、前記の方法にて取得したものでも良いし、別途合成したものでも良い。またトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液は、アルギニンをトリカルボベンゾキシ化した反応液のpHを調製してトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液にした液でもよく、そこから抽出を行った抽出液でもよく、別途調製した溶液でもよい。
【0045】
上記トリ−カルボキシ−アルギニン溶液は、通常、有機溶媒の溶液である。この有機溶媒としては、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tertブチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;アセトニトリル等のニトリル類などが挙げられる。好ましくはtert−ブチルメチルエーテル、ジクロロメタン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフランが挙げられる。言うまでもなく、これら有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。また、前記方法にて取得したトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの抽出液を用いても良い。
【0046】
上記有機溶媒の量としては、特に限定されないが、上限は、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンに対して、120倍重量、好ましくは60倍重量、より好ましくは30倍重量である。下限は、特に限定されないが、反応液の流動性が確保できる使用量で実施する事ができ、2倍重量、好ましくは5倍重量、より好ましくは10倍重量である。
【0047】
上記一般式におけるR
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していても良い炭素数1〜6のアルキル基、または置換基を有していても良い炭素数7〜15のアラルキル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基とは、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tertブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等を挙げる事ができるが、好ましくは、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。置換基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基等を挙げることができる。置換基を有していても良い炭素数7〜15のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、m,m−ジフルオロベンジル基、フェニルエチル基、ナフチル基等が挙げられる。
R
2、R
3及びR
4の組み合わせとして好ましくは、NR
2R
3R
4が2級アミンになる組み合わせであり、より好ましくはいずれか一つが水素であり、残り二つがシクロヘキシル基等のシクロアルキル基である。
【0048】
上記アミンの使用量としては、特に限定されないが、収率を確保するためには、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンのカルボン酸がアミン塩を形成する必要があり、このトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン1モルに対して、0.25モル以上、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上である。使用量の上限に制限はないが、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン1モルに対して8モル以下、好ましくは4モル以下、より好ましくは2モル以下である。
【0049】
固体化の温度は、反応溶媒が固化しない温度以上で実施する事ができる。上限は、特に限定されないが100℃、好ましくは70℃、より好ましくは50℃である。下限は、特に限定されないが、−50℃、好ましくは−30℃、より好ましくは−10℃である。
【0050】
上記固体化の後は、必要に応じて熟成をしてもよい。固体化及び熟成は、攪拌下に行われるが、単位容積あたりの攪拌強度は特に限定されず、例えば、0.05kW/m
3以上、好ましくは0.1kW/m
3以上、より好ましくは0.2kW/m
3以上である。
【0051】
<トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの製造>
【化10】
本発明はまた、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩を有機溶媒又は水/有機溶媒の二層系で、酸を用いて有機溶媒に抽出することによりトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンを製造することを特徴とする。尚、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩には、好ましくは前記「トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩の製造」で得られた固体が含まれ、この固体を酸で有機溶媒又は水/有機溶媒の二層系に溶解した後、有機溶媒に抽出すればよい。また前記のトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩の製造方法及び本トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの製造方法を繰り返し実施することにより、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンを精製することが可能となり、より高純度のトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンを取得することができる。
【0052】
抽出に用いる有機溶媒としては、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tertブチル等の酢酸エステル類;tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、クロロベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。より好ましくはtert−ブチルメチルエーテル、ジクロロメタン、トルエン、酢酸エチルが挙げられる。言うまでもなく、これら有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0053】
上記抽出に用いる水の使用量としては、特に限定されないが、抽出時に添加する酸とアミンとの塩が溶解する量であれば良い。
上記抽出に用いる有機溶媒の使用量としては、上限は、特に限定されないが、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩に対して、例えば、40倍重量であり、好ましくは20倍重量、より好ましくは10倍重量である。下限は、特に限定されないが、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンアミン塩に対して、例えば、1倍重量であり、好ましくは3倍重量、より好ましくは5倍重量である。
【0054】
上記抽出時の酸性化に用いる酸としては、例えば、鉱酸、スルホン酸、又はカルボン酸が挙げられる。鉱酸としては、特に限定されないが、例えば、塩化水素や臭化水素などのハロゲン化水素の水溶液(塩酸、臭化水素酸など)、硫酸、燐酸等が挙げられる。スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、1−フェニルエタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸の非光学活性カルボン酸、酒石酸等の光学活性カルボン酸等が挙げられる。これらの酸のうち、好ましくは塩化水素、臭化水素、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、なかでも塩化水素、臭化水素、硫酸が好ましく、特に好ましくは、塩化水素、硫酸である。
【0055】
酸を添加する際の温度及び抽出する際の温度は、特に限定されないが、反応溶媒が固化しない温度以上で実施する事ができる。上限は、特に限定されないが、100℃、好ましくは70℃、より好ましくは50℃である。下限は、特に限定されないが、−50℃、好ましくは−30℃、より好ましくは−10℃である。
【0056】
得られるトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの高速液体クロマトグラフィーによる純度は、例えば、80面積%以上、好ましくは85面積%以上、より好ましくは90面積%以上であり、例えば、99.9面積%にすることも可能である。
【0057】
本願は、2014年3月28日に出願された日本国特許出願第2014−68838号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年3月28日に出願された日本国特許出願第2014−68838号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものでないことは言うまでもない。
本実施例において、各化合物の収率および生成比は、高速液体クロマトグラフィーを用いて分析した。また純度(area%)は、溶媒ピーク及びシステム由来の波形の乱れに起因するピーク形状(以下、ブランクという)を差し引いた後の全ピーク面積に対する対象物ピークの面積をいう。
本実施例において、各化合物の収率、生成比は高速液体クロマトグラフィーを用いて以下に記載の条件で分析した。
〔高速液体クロマトグラフィー分析条件〕
カラム:Zorbax Eclipse Plus C18, 50x4.6mm;1.8μm
移動相A:0.1重量%リン酸水溶液、移動相B:アセトニトリル
流速:1.0mL/min
〔グラジエント条件〕
0.00分 移動相A:移動相B=90:10
15.00分 移動相A:移動相B=10:90
25.00分 移動相A:移動相B=10:90
25.01分 移動相A:移動相B=90:10
30.00分 STOP
カラム温度:40度
検出波長:210nm
【0059】
(比較例1)
トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンナトリウム塩の製造方法
D−アルギニン(300mg、1.72mmol)に1N NaOH水溶液(1.72mL、1.72mmol、1.0eq)を加えて溶解後、内温0℃に冷却した。2N NaOH水溶液(0.86mL、1.72mmol、1.0eq)及びカルボベンゾキシクロリド(293mg、1.72mmol、1.0eq)を5回ずつ交互に0.5hrかけて添加すると、2回目添加終了時点で固体が析出して塊状となり、全量添加終了時点で撹拌不可能となった。反応液を桐山ロートで濾過したところ、濾過性が非常に悪かった(21mm桐山ロートを用いて1hr程度)。湿固体を真空乾燥することによりトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンナトリウム塩の乾燥固体(149mg、0.258mmol、15.0%yield)を取得した。
【0060】
(比較例2)
トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンナトリウム塩の製造方法
L−アルギニン(20.00g、114.8mmol)に水(50.00g)、30%KOH水溶液(21.47g、114.8mmol、1.0eq)を加えて溶解後、内温0℃に冷却した。30%KOH水溶液(21.47g、114.8mmol、1.0eq)及びカルボベンゾキシクロリド(19.58g、114.8mmol、1.0eq)を5回ずつ交互に4.5hrかけて添加すると、2回目添加終了時点で固体が析出して塊状となり、全量添加終了時点で比較例1と同様に撹拌不可能となった。
【0061】
(実施例1)
トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン(2)の製造方法
D−アルギニン塩酸塩(10g、47.47mmol)、1−オクタンスルホン酸ナトリウム(3.10g、14.3mmol、0.30eq)、H
2O(10.00g)を混合後、内温0℃に冷却した。10%KOH水溶液(53.27g、94.94mmol、2.0eq)とtert−ブチルメチルエーテル(50.00g)を加えた。カルボベンゾキシクロリド(32.40g、189.9mmol、4.0eq)及び10%KOH水溶液(159.81g、284.8mmol、6.0eq)を5hrかけて同時に添加(第1添加)した(この時点でトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン100area%に対するモノ−カルボベンゾキシ−アルギニンは10.9area%、ジ−カルボベンゾキシ−アルギニンは96.7area%)。
続いて、内温15℃に温調した後、カルボベンゾキシクロリド(21.87g、128.2mmol、2.7eq)及び10%KOH水溶液(98.55g、175.6mmol、3.7eq)をpH11〜12に維持しながら15hrかけて同時に添加(第2添加)した(この時点でモノ−カルボベンゾキシ−アルギニンは1.3area%、ジ−カルボベンゾキシ−アルギニンは4.3area%)。反応液の流動性は終始良好であり、問題なく撹拌できた。反応終了後、35%塩酸(22.06g、211.8mmol、4.5eq)を加えてpH1.1に調整し、分液した。有機層をH
2O(30g)で二回洗浄し、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの有機層(144.46g、純分16.0g、27.7mmol、58.4%yield、31.3area%)を取得した。
【0062】
(実施例2)
実施例1で取得したトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの有機層(139.42g、純分15.46g、26.81mmol、31.3area%)にtert−ブチルメチルエーテル(81.00g)を加えた後、ジシクロヘキシルアミン(7.29g、40.2mmol、1.5eq)を2hrで添加すると、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンジシクロヘキシルアミン塩が析出した。固体の濾過性は非常によく(60mm桐山ロートを用いて5min程度)、tert−ブチルメチルエーテル(70.00g)で洗浄することによりトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンジシクロヘキシルアミン塩の湿固体(18.72g、91.0area%)を取得した。
取得したトリ−カルボベンゾキシ−アルギニンジシクロヘキシルアミン塩の湿固体(17.73g、91.0area%)に水(106.38g)、酢酸エチル(159.57g)を加え、内温0℃に冷却した。97%H
2SO
4(1.3g、12.9mmol)を添加してpH1.7に調整した。水層を除去した後、水(106.00g)で有機層を洗浄し、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニンの有機層(163.89g、純分12.40g、21.51mmol、84.7%yield、90.5area%)を取得した。
【0063】
(実施例3〜12)
実施例1と同様にして、表1に示す条件で、アルギニンのカルボベンゾキシ化を実施した。なお、反応溶媒における有機溶媒/水比も実施例1と同じである(但し、ここでいう水は添加した水のみを指し、KOH水溶液から入ってくる水は含まない)。反応収率を表1に示す。
【0064】
(実施例13〜20)
実施例14〜17は表2に示す条件で、実施例2と同様にしてトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン反応有機層から高純度のトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液を取得した。実施例13、18〜20は表2に示す条件で、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液の精製を繰り返してさらに高純度のトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液を取得した。
【0065】
(実施例21)
実施例14で取得したトリ−カルボベンゾキシ−アルギニン溶液をジャケット温度40℃、10mmHgで1hr濃縮した後、ジャケット温度40℃、12hr真空乾燥することにより、トリ−カルボベンゾキシ−アルギニン(89.1wt%、92.7area%)を取得した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】