特許第6484306号(P6484306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484306
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】内燃機関失火検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
   F02D45/00 368Z
   F02D45/00 362J
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-164020(P2017-164020)
(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-39412(P2019-39412A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2018年9月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153349
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 茂
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】森田 優樹
【審査官】 田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−170262(JP,A)
【文献】 特開2005−54630(JP,A)
【文献】 特開2002−130009(JP,A)
【文献】 特開2000−240500(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/086765(WO,A1)
【文献】 特開2015−86839(JP,A)
【文献】 特開2012−197721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ストロークの内燃機関の失火を検出する内燃機関失火検出装置において、
所定のクランク角度毎に前記内燃機関の回転速度に応じた回転速度パラメータを算出し、前記回転速度パラメータの基準値を算出し、前記基準値と前記回転速度パラメータとの偏差を算出すると共に、前記偏差の積算値を算出する算出部と、
前記積算値に基づいて失火判定を行う判定部と、
を備え、
前記内燃機関は、
複数の気筒を備え、互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われ、
前記算出部は、
前記内燃機関が所定の回転数以上の場合の前記積算値の積算区間を、失火判定を行なう気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時までの長さよりも短くして設定し、前記内燃機関が前記所定の回転数未満の場合の前記積算区間を、前記所定の回転数以上の場合の前記積算区間よりも短くして設定する、
こと特徴とする内燃機関失火検出装置。
【請求項2】
記算出部は、
前記積算区間を各気筒別に個別の長さに設定する、
ことを特徴とする請求項記載の内燃機関失火検出装置。
【請求項3】
記算出部は、
前記内燃機関が前記所定の回転数未満の場合の前記積算区間を、前記内燃機関の膨張行程の開始時から終了時までの長さに設定し、前記内燃機関が前記所定の回転数以上の場合の前記積算区間を、前記内燃機関の膨張行程の開始時から次に点火する気筒の点火時の直前までの長さに設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項記載の内燃機関失火検出装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記回転速度パラメータを示す電気信号に含まれる高周波成分を除去するフィルタを備え、前記フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す前記回転速度パラメータの前記基準値を算出すると共に、前記基準値と、前記フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す前記回転速度パラメータと、の前記偏差を算出する、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の内燃機関失火検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば2気筒や3気筒の4ストロークの内燃機関の失火を検出する内燃機関失火検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば2気筒や3気筒の4ストロークのエンジンにおいては、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程の4つの行程を繰り返すことで出力が生み出されている。エンジンの制御装置は、これらエンジンの各行程を判別することで、燃料の噴射や点火などのタイミングを制御している。この際、エンジンの運転状態に応じて、点火タイミングで点火しないエンジン失火を生じる場合がある。かかるエンジン失火を生じた場合には、ドライバビリティの悪化又は排気性能の悪化等を招く。このため、従来、エンジン失火を検出することにより、この検出結果に基づいて運転者に報知して整備工場への持ち込みを促したり、エンジンの運転状態を制御して、ドライバビリティ又は排気性能の悪化を低減させたりすることが行われている。
【0003】
かかる状況下で、特許文献1は、複数の気筒を備える内燃機関の失火検出装置に関し、内燃機関の回転速度に応じた回転速度パラメータを用いて相対速度パラメータを算出し、相対速度パラメータの積算値に基づいて内燃機関の失火の有無を検出する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−198368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の装置構成では、各気筒の相対速度パラメータの積算値の積算区間を、クランク角度720を気筒数で除算して求めた長さにしているために、二輪車等に搭載される単気筒のエンジンにおける積算区間はクランク軸が720度回転する間の区間となり、又、二輪車等に搭載される2気筒や3気筒のエンジンにおける積算区間はクランク軸が360度又は240度回転する間の区間となって、比較的長い区間となるため、慣性力又は摩擦等の影響を受け、積算値のバラツキが大きくなる可能性があり、この場合には失火を誤検出するリスクが高まる。
【0006】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、4ストロークの内燃機関の失火を、適切な積算区間で積算した積算値を用いて検出することにより、内燃機関の失火を誤検出するリスクを低減することができる内燃機関失火検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するべく、本発明は、第1の局面において、4ストロークの内燃機関の失火を検出する内燃機関失火検出装置において、所定のクランク角度毎に前記内燃機関の回転速度に応じた回転速度パラメータを算出し、前記回転速度パラメータの基準値を算出し、前記基準値と前記回転速度パラメータとの偏差を算出すると共に、前記偏差の積算値を算出する算出部と、前記積算値に基づいて失火判定を行う判定部と、を備え、前記内燃機関は、複数の気筒を備え、互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われ、前記算出部は、前記内燃機関が所定の回転数以上の場合の前記積算値の積算区間を、失火判定を行なう気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時までの長さよりも短くして設定し、前記内燃機関が前記所定の回転数未満の場合の前記積算区間を、前記所定の回転数以上の場合の前記積算区間よりも短くして設定する内燃機関失火検出装置である。
【0009】
本発明は、第1の局面に加えて、前記算出部は、前記積算区間を各気筒別に個別の長さに設定することを第の局面とする。
【0010】
本発明は、第1又は第2の局面に加えて、前記算出部は、前記内燃機関が前記所定の回転数未満の場合の前記積算区間を、前記内燃機関の膨張行程の開始時から終了時までの長さに設定し、前記内燃機関が前記所定の回転数以上の場合の前記積算区間を、前記内燃機関の膨張行程の開始時から次に点火する気筒の点火時の直前までの長さに設定することを第の局面とする。
【0011】
本発明は、第1から第のいずれかの局面に加えて、前記算出部は、前記回転速度パラメータを示す電気信号に含まれる高周波成分を除去するフィルタを備え、前記フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す前記回転速度パラメータの前記基準値を算出すると共に、前記基準値と、前記フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す前記回転速度パラメータと、の前記偏差を算出することを第の局面とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の局面にかかる内燃機関失火検出装置においては、4ストロークの内燃機関の失火を検出する内燃機関失火検出装置において、所定のクランク角度毎に内燃機関の回転速度に応じた回転速度パラメータを算出し、回転速度パラメータの基準値を算出し、基準値と回転速度パラメータとの偏差を算出すると共に、偏差の積算値を算出する算出部と、積算値に基づいて失火判定を行う判定部と、を備え、内燃機関は、複数の気筒を備え、互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われ、算出部は、内燃機関が所定の回転数以上の場合の積算値の積算区間を、失火判定を行なう気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時までの長さよりも短くして設定し、内燃機関が所定の回転数未満の場合の積算区間を、所定の回転数以上の場合の積算区間よりも短くして設定するものであるため、4ストロークの内燃機関の失火を、適切な積算区間で積算した積算値を用いて検出することにより、内燃機関の失火を誤検出するリスクを低減することができる。
【0013】
また、本発明の第の局面にかかる内燃機関失火検出装置によれば、燃焼に依らない他の気筒の行程、慣性力又は摩擦等の影響による回転速度パラメータのバラツキを抑制することができ、エンジンの低回転時と高回転時との両方において確実に失火を検出することができる。
【0014】
また、本発明の第の局面にかかる内燃機関失火検出装置によれば、算出部は、積算区間を各気筒別に個別の長さに設定するものであるため、2気筒以上を備える内燃機関の各気筒の燃焼状況が異なる場合であっても、内燃機関の失火を正確に検出することができる。
【0015】
また、本発明の第の局面にかかる内燃機関失火検出装置によれば、算出部は、内燃機関が所定の回転数未満の場合の積算区間を、内燃機関の膨張行程の開始時から終了時までの長さに設定し、内燃機関が所定の回転数以上の場合の積算区間を、内燃機関の膨張行程の開始時から次に点火する気筒の点火時の直前までの長さに設定するものであるため、エンジンの低回転時には排気行程以降を除外した積算区間を設定して燃焼に依らない摩擦等の影響で回転速度パラメータにバラツキを生じることを抑制し、エンジンの高回転時には膨張行程以降の次に点火する気筒の点火時の直前までの積算区間を設定して燃焼に依らない慣性力等の影響で回転速度パラメータにバラツキを生じることを抑制することにより、通常点火時と失火時とにおける偏差のS/N比を大きくすることができる。
【0016】
また、本発明の第の局面にかかる内燃機関失火検出装置によれば、算出部は、回転速度パラメータを示す電気信号に含まれる高周波成分を除去するフィルタを備え、フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す回転速度パラメータの基準値を算出すると共に、基準値と、フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す回転速度パラメータと、の偏差を算出するものであるため、回転速度パラメータを示す電気信号に含まれるノイズを除去することができ、精度よく積算値を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態における内燃機関失火検出装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態における判定パラメータ算出処理の流れを示すフロー図である。
図3図3は、本発明の実施形態における判定パラメータ算出処理で判定パラメータを算出する際の気筒毎の各行程及びクランク角速度の具体的な推移を示す図である。
図4図4は、本発明の実施形態における失火判定処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における内燃機関失火検出装置につき、詳細に説明する。
【0019】
まず、図1を参照して、本実施形態における内燃機関失火検出装置の構成につき、詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態における内燃機関失火検出装置の構成を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関失火検出装置1は、ECU(Electronic Control Unit)等の電子制御装置によって構成され、いずれも図示を省略する複数の気筒を備えると共にそれぞれの気筒の膨張行程終了後に他の気筒の点火が行われる(互いの気筒の膨張行程が重ならない)4ストロークの内燃機関としてのエンジン、駆動輪、メインクラッチ及び変速機を備える典型的には自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載されている。かかるエンジンは、典型的には2又は3気筒を備え、気筒間の点火間隔が同一の等間隔燃焼又は気筒間の点火間隔が異なる不等間隔燃焼を行うエンジンである。図示しないスロットルバルブ及び吸気圧力センサ21は、それぞれの気筒の上流側にそれぞれ1つずつ備えられている。
【0022】
内燃機関失火検出装置1は、クランク角速度算出部2、判定閾値検索部3、判定パラメータ算出部4、及び失火判定部5を備えている。
【0023】
クランク角速度算出部2は、クランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度(図示を省略するクランク軸の回転角度)に応じた電気信号に基づいて、所定のクランク角度毎に回転速度パラメータとしてのクランク軸の角速度(以下、「クランク角速度」と記載する)を算出する。クランク角速度算出部2は、このように算出したクランク角速度を示す電気信号を判定パラメータ算出部4に出力する。
【0024】
判定閾値検索部3は、クランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度に応じた電気信号、及び気筒毎に設けられた吸気圧力センサ21から入力される図示しないスロットルバルブとエンジンとの間の吸気圧力に応じた電気信号に基づいて、エンジン回転数及び吸気圧力から求まるエンジンの負荷状態に応じた判定閾値を気筒毎に算出することで、各気筒別に判定閾値を異ならせて設定する。具体的には、判定閾値検索部3は、エンジンの負荷状態が高いほど判定閾値を大きくする。例えば、判定閾値検索部3は、判定閾値と、エンジン回転数と、吸気圧力と、の関係を気筒毎に予め規定した図示しないROMに記憶されたテーブルデータを読み出して、読み出したテーブルデータにクランク角度から算出されるエンジン回転数及び吸気圧力を気筒毎に当てはめることにより判定閾値を算出する。判定閾値検索部3は、このように算出した判定閾値を示す電気信号を失火判定部5に出力する。なお、エンジンの負荷状態は、上記のエンジン回転数と吸気圧力とにより求める場合に限らず、エンジン回転数とスロットルバルブの開度とから求めてもよい。
【0025】
判定パラメータ算出部4は、クランク角速度算出部2から入力されるクランク角速度を示す電気信号に含まれる高周波成分を除去する図示しないフィルタを備えている。かかるフィルタは、典型的には移動平均フィルタ等のデジタルフィルタである。
【0026】
判定パラメータ算出部4は、後述する判定パラメータ算出処理を実行して失火を判定するための判定パラメータを算出する。
【0027】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、気筒毎に設けられた吸気圧力センサ21から入力されるスロットルバルブとエンジンとの間の吸気圧力に応じた電気信号、及びクランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度に応じた電気信号に基づいて、各気筒の圧縮行程終了時(以下、「圧縮TDCステージ」と記載する)を検出する。判定パラメータ算出部4は、クランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度に応じた電気信号に基づいて、各気筒の積算区間終了時(以下、「積算終了ステージ」と記載する)を検出する。
【0028】
判定パラメータ算出部4は、フィルタにより高周波成分を除去した電気信号の示すクランク角速度のうちの圧縮TDCステージのクランク角速度を、基準値としての基準角速度として保持する。
【0029】
判定パラメータ算出部4は、圧縮TDCステージの検出時から積算区間終了ステージの検出時までに、フィルタにより高周波成分を除去した電気信号の示すクランク角速度から、保持した基準角速度を減じて、クランク角速度と基準角速度との偏差としての相対クランク角速度を算出し、算出した相対クランク角速度を積算区間毎に積算して判定パラメータとしての積算値を求める。かかる積算区間は、クランクセンサ22から入力される電気信号の示すエンジンのクランク角度より求めるエンジン回転数に応じて設定されている。判定パラメータ算出部4は、このように算出した積算値を示す電気信号を失火判定部5に出力する。
【0030】
失火判定部5は、後述する失火判定処理を実行して失火を判定する。具体的には、失火判定部5は、判定パラメータ算出部4から入力される電気信号の示す相対クランク角速度の積算値と、判定閾値検索部3から入力される電気信号の示す判定閾値と、を比較して、積算値が判定閾値以下の場合に失火の発生と判定する。失火判定部5は、失火の発生と判定した場合に、表示装置24に表示して報知する。
【0031】
以上のような構成を有する内燃機関失火検出装置1は、以下に示す判定パラメータ算出処理及び失火判定処理を実行する。以下、更に図2から図4をも参照して、各処理について、詳細に説明する。
【0032】
<判定パラメータ算出処理>
上記構成を有する内燃機関失火検出装置1では、失火を判定するための判定パラメータを算出する判定パラメータ算出処理を実行する。以下、図2及び図3を参照して、本実施形態における判定パラメータ算出処理の具体的な流れについて詳しく説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施形態における判定パラメータ算出処理の流れを示すフロー図である。図3は、本発明の実施形態における判定パラメータ算出処理で判定パラメータを算出する際の気筒毎の各行程及びクランク角速度の具体的な推移を示す図である。
【0034】
図2及び図3では、#1気筒及び#2気筒の2気筒を備える不等間隔燃焼を行う4ストロークのエンジンについて、判定パラメータ算出処理を実行する場合を例に説明する。この際、失火判定を行う気筒が#1気筒である場合には次に点火する気筒は#2気筒であり、失火判定を行う気筒が#2気筒である場合には次に点火する気筒は#1気筒である。また、図3は、一例として#2気筒で失火を生じた際のクランク角速度の推移を示している。なお、本実施形態において、図2及び図3では2気筒を備えるエンジンにおいて判定パラメータ算出処理を実行する場合を示したが、単気筒のエンジン又は3気筒以上の気筒を備えるエンジンにおいて判定パラメータ算出処理を実行してもよい。
【0035】
本実施形態におけるエンジンは、それぞれの気筒の膨張行程終了後に他の気筒の点火が行われ(互いの気筒の膨張行程が重ならず)、図3に示すように、#1気筒及び#2気筒のそれぞれにおいて、膨張行程、排気行程、吸気行程及び圧縮行程の4サイクルを繰り返す。具体的には、図3に示すように、クランク軸が0度から180度まで回転する間の区間は#1気筒の膨張行程となり、クランク軸が180度から360度まで回転する間の区間は#1気筒の排気行程となり、クランク軸が360度から540度まで回転する間の区間は#1気筒の吸気行程となり、クランク軸が540度から720度まで回転する間の区間は#1気筒の圧縮行程となる。また、クランク軸が#1気筒の膨張行程の終了後のX1度からX2度まで回転する間の区間は、#2気筒の膨張行程となる。
【0036】
この際、図3に示すように、#2気筒の点火時であるクランク角度X1からクランク軸が回転するにつれて、失火を生じていない正常な状態でのクランク角速度(以下、「正常時クランク角速度」と記載する)L1と、失火を生じた状態でのクランク角速度(以下、「失火時クランク角速度」と記載する)L2と、の差が徐々に大きくなる。正常時クランク角速度L1は、クランク軸がクランク角度X2まで回転した#2気筒の膨張行程の終了時の膨張行程終了ステージにおいてピークとなる。失火時クランク角速度L2は、クランク軸がクランク角度X1から回転するにつれて徐々に低下する。これより、#2気筒の膨張行程終了ステージにおいて、正常時クランク角速度L1と失火時クランク角速度L2との差が最も大きくなる。
【0037】
一方、クランク軸がクランク角度X2から、次に点火する#1気筒の点火時であるクランク角度720まで回転する間には、クランク軸がクランク角度X1からクランク角度X2まで回転する間に比べて、慣性力、摩擦又は#1気筒の行程の影響を受けること等により正常時クランク角速度L1のバラツキが大きくなる。なお、#1気筒についても、#2気筒と同様の傾向を示す。
【0038】
本実施形態では、クランク角速度の上記の特性を考慮して相対クランク角速度の積算区間を設定する。
【0039】
図2に示すフロー図は、鞍乗型車両等の車両が起動されて内燃機関失火検出装置1が稼働したタイミングで開始となり、判定パラメータ算出処理はステップS1の処理に進む。かかる判定パラメータ算出処理は、車両が起動されて内燃機失火検出装置1が稼働している間、繰り返し実行される。
【0040】
ここで、判定パラメータ算出部4は、ステップS1の処理を開始する前に、圧縮TDCステージのクランク角速度を基準角速度Lとして保持する。
【0041】
ステップS1の処理では、判定パラメータ算出部4が、#1気筒のスロットルバルブとエンジンとの間の吸気圧力を検出するための吸気圧力センサ21から入力される電気信号、及びクランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度に応じた電気信号に基づいて、#1気筒の圧縮TDCステージか否かを判定する。判定の結果、#1気筒の圧縮TDCステージではない場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS2の処理に進める。一方、#1気筒の圧縮TDCステージである場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS14の処理に進める。
【0042】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、#1気筒に設けられた吸気圧力センサ21から入力される電気信号の示す吸気圧力が負圧である場合において、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度が360度に達する前に上死点に達したことを検出した場合に、#1気筒の圧縮TDCステージであると判定し、それ以外であれば#1気筒の圧縮TDCステージではないと判定する。
【0043】
ステップS2の処理では、判定パラメータ算出部4が、#2気筒のスロットルバルブとエンジンとの間の吸気圧力を検出するための吸気圧力センサ21から入力される電気信号、及びクランクセンサ22から入力されるエンジンのクランク角度に応じた電気信号に基づいて、#2気筒の圧縮TDCステージか否かを判定する。判定の結果、#2気筒の圧縮TDCステージではない場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS3の処理に進める。一方、#2気筒の圧縮TDCステージである場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS14の処理に進める。
【0044】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、#2気筒に設けられた吸気圧力センサ21から入力される電気信号の示す吸気圧力が負圧である場合において、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度が360度に達する前に上死点に達したことを検出した場合に、#2気筒の圧縮TDCステージであると判定し、それ以外であれば#2気筒の圧縮TDCステージではないと判定する。
【0045】
ステップS3の処理では、判定パラメータ算出部4が、クランク角速度算出部2から入力されたクランク角速度を示す電気信号に含まれている高周波成分をフィルタにより除去し、高周波成分を除去した電気信号の示す今回判定用角速度としてのクランク角速度から、基準角速度Lを減じて相対クランク角速度(相対クランク角速度=今回判定用角速度−基準角速度L)を算出すると共に、前回までに積算した相対クランク角速度の積算値である判定パラメータ前回値に対して、今回算出した相対クランク角速度を加算して積算することにより判定パラメータとしての積算値(判定パラメータ=判定パラメータ前回値+相対クランク角速度)を算出する。
【0046】
ここで、クランク角速度算出部2から出力されるクランク角速度を示す電気信号には、各種振動又は演算のバラツキ等によるランダムなノイズが含まれる。クランク角速度算出部2から出力される電気信号に含まれる高周波成分をフィルタで除去することにより、このようなノイズを除去することができる。また、図3に示すように、失火を生じていない場合の相対クランク角速度は、正常時クランク角速度L1が基準角速度Lよりも大きくなるために正の値になる。一方、失火を生じた場合の相対クランク角速度は、失火時クランク角速度L2が基準角速度Lよりも小さくなるために負の値になる。
【0047】
これにより、ステップS3の処理は完了し、判定パラメータ算出処理はステップS4の処理に進む。
【0048】
ステップS4の処理では、判定パラメータ算出部4が、エンジンの回転数が#1気筒高回転判断値以上か否かを判定する。判定の結果、エンジンの回転数が#1気筒高回転判断値以上の場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS5の処理に進める。一方、エンジンの回転数が#1気筒高回転判断値未満の場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS6の処理に進める。高回転判断値としては、例えば最大トルク時の回転数8000rpmが予め設定されている。
【0049】
ステップS5の処理では、判定パラメータ算出部4が、#1気筒の積算終了時(以下、「#1気筒用積算終了ステージ」と記載する)として高回転用ステージを設定する。かかる高回転用ステージは、#1気筒の次に点火する#2気筒の点火時の直前である。図3の場合には、高回転用ステージは、クランク角度Xの直前である。これにより、ステップS5の処理は完了し、判定パラメータ算出処理はステップS7の処理に進む。
【0050】
ステップS6の処理では、判定パラメータ算出部4が、#1気筒用積算終了ステージとして低・中回転用ステージを設定する。かかる低・中回転用ステージは、#1気筒の膨張行程の終了時である。図3の場合には、低・中回転用ステージは、#1気筒の膨張行程の終了時であるクランク角度180である。これにより、ステップS6の処理は完了し、判定パラメータ算出処理はステップS7の処理に進む。
【0051】
ステップS7の処理では、判定パラメータ算出部4が、エンジンの回転数が#2気筒高回転判断値以上か否かを判定する。判定の結果、エンジンの回転数が#2気筒高回転判断値以上の場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS8の処理に進める。一方、エンジンの回転数が#2気筒高回転判断値未満の場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS9の処理に進める。
【0052】
ステップS8の処理では、判定パラメータ算出部4が、#2気筒の積算終了時(以下、「#2気筒用積算終了ステージ」と記載する)として#2気筒の次に点火する#1気筒の点火時の直前である高回転用ステージを設定する。図3の場合には、高回転用ステージは、クランク角度720の直前である。これにより、ステップS8の処理は完了し、判定パラメータ算出処理はステップS10の処理に進む。
【0053】
ステップS9の処理では、判定パラメータ算出部4が、#2気筒用積算終了ステージとして#2気筒の膨張行程の終了時である低・中回転用ステージを設定する。図3の場合には、低・中回転用ステージは、#2気筒の膨張行程の終了時であるクランク角度X2である。これにより、ステップS9の処理は完了し、判定パラメータ算出処理はステップS10の処理に進む。
【0054】
ステップS10の処理では、判定パラメータ算出部4が、#1気筒積算終了ステージか否かを判定する。判定の結果、#1気筒積算終了ステージの場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS11の処理に進める。一方、#1気筒積算終了ステージではない場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS12の処理に進める。
【0055】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、ステップS5で高回転用ステージを設定した場合には、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度がX1度に到達したことを検知した場合に#1気筒積算終了ステージであると判定し、それ以外は#1気筒積算終了ステージではないと判定する。また、判定パラメータ算出部4は、ステップS6で低・中回転用ステージを設定した場合には、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度が180度に到達したことを検知した場合に#1気筒積算終了ステージであると判定し、それ以外は#1気筒積算終了ステージではないと判定する。
【0056】
ステップS11の処理では、判定パラメータ算出部4が、#1気筒の判定パラメータとしての積算値を失火判定部5に出力する。
【0057】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、ステップS5で高回転用ステージを設定した場合に、#1気筒の点火時であるクランク角度0の#1気筒の圧縮TDCステージ(#1気筒の膨張行程開始時)から、クランク角度X1の#1気筒積算終了ステージまでの積算区間で積算した相対クランク角速度の積算値を失火判定部5に出力する。また、判定パラメータ算出部4は、ステップS6で低・中回転用ステージを設定した場合に、#1気筒の点火時であるクランク角度0の#1気筒の圧縮TDCステージ(#1気筒の膨張行程開始時)から、クランク角度180の#1気筒積算終了ステージまでの積算区間で積算した相対クランク角速度の積算値を失火判定部5に出力する。
【0058】
これにより、ステップS11の処理は完了し、判定パラメータ算出処理は終了する。
【0059】
ステップS12の処理では、判定パラメータ算出部4が、#2気筒積算終了ステージか否かを判定する。判定の結果、#2気筒積算終了ステージの場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理をステップS13の処理に進める。一方、#2気筒積算終了ステージではない場合には、判定パラメータ算出部4は、判定パラメータ算出処理を終了する。
【0060】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、ステップS8で高回転用ステージを設定した場合には、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度が720度に到達したことを検知した場合に#2気筒積算終了ステージであると判定し、それ以外は#2気筒積算終了ステージではないと判定する。また、判定パラメータ算出部4は、ステップS9で低・中回転用ステージを設定した場合には、クランクセンサ22から入力される電気信号より、クランク角度がX2度に到達したことを検知した場合に#2気筒積算終了ステージであると判定し、それ以外は#2気筒積算終了ステージではないと判定する。
【0061】
ステップS13の処理では、判定パラメータ算出部4が、#2気筒の判定パラメータとしての積算値を失火判定部5に出力する。
【0062】
具体的には、判定パラメータ算出部4は、ステップS8で高回転用ステージを設定した場合に、#2気筒の点火時であるクランク角度X1の#2気筒の圧縮TDCステージ(#2気筒の膨張行程開始時)からクランク角度720までの積算区間で積算した相対クランク角速度の積算値を失火判定部5に出力する。また、判定パラメータ算出部4は、ステップS9で低・中回転用ステージを設定した場合に、#2気筒の点火時であるクランク角度X1の#2気筒の圧縮TDCステージ(#2気筒の膨張行程開始時)からクランク角度X2までの積算区間で積算した相対クランク角速度の積算値を失火判定部5に出力する。
【0063】
これにより、ステップS13の処理は完了し、判定パラメータ算出処理は終了する。
【0064】
ステップS14の処理では、判定パラメータ算出部4が、判定パラメータとしての積算値をリセットして「0」にする。これにより、ステップS14の処理は完了し、判定パラメータ算出処理は終了する。
【0065】
このように、各気筒の各々が他の気筒の影響を異なる形で受ける不等間隔燃焼を行うエンジンの高回転時において、#1気筒と#2気筒とで積算区間を個別の長さに設定することにより、相対クランク角速度の積算値を求める際に他の気筒の行程の影響を抑制することができ、積算値のバラツキを低減することができる。
【0066】
なお、高回転時において、失火判定を行う気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時の直前までの積算区間を設定する場合に限らず、失火判定を行う気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時までの長さよりも短ければ、任意の積算区間を設定することができる。また、低速回転時において、失火判定を行う気筒の圧縮TDCステージから膨張行程の終了時までの積算区間を設定する場合に限らず、高回転時において設定される積算区間よりも短い任意の積算区間を設定することができる。
【0067】
<失火判定処理>
上記構成を有する内燃機関失火検出装置1では、内燃機関の失火を判定する失火判定処理を実行する。以下、図4を参照して、本実施形態における失火判定処理の具体的な流れについて詳しく説明する。
【0068】
図4は、本発明の実施形態における失火判定処理の流れを示すフロー図である。
【0069】
図4では、#1気筒及び#2気筒の2気筒を備えるエンジンについて、失火判定処理を実行する場合を例に説明する。なお、本実施形態において、図4では2気筒を備えるエンジンにおいて失火判定処理を実行する場合を示すが、単気筒のエンジン又は3気筒以上の気筒を備えるエンジンにおいて失火判定処理を実行してもよい。
【0070】
図4に示すフロー図は、鞍乗型車両等の車両が起動されて内燃機関失火検出装置1が稼働したタイミングで開始となり、失火判定処理はステップS21の処理に進む。かかる失火判定処理は、車両が起動されて内燃機失火検出装置1が稼働している間、繰り返し実行される。
【0071】
ステップS21の処理では、失火判定部5が、#1気筒の膨張行程終了ステージであるか否かを判定する。具体的には、失火判定部5は、#1気筒の判定パラメータとしての積算値が判定パラメータ算出部4から入力したか否かにより判定する。判定の結果、#1気筒の膨張行程終了ステージである場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS22の処理に進める。一方、#1気筒の膨張行程終了ステージではない場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS24の処理に進める。
【0072】
ステップS22の処理では、失火判定部5が、判定パラメータ算出部4から入力された電気信号の示す#1気筒の判定パラメータとしての積算値が判定閾値検索部3から入力された電気信号の示す#1気筒の判定閾値以下であるか否かを判定する。この際、#1気筒の判定閾値は、エンジンの負荷状態が高いほど大きな値が設定される。これにより、エンジンの負荷状態が高い場合には正常燃焼時に比べてエンジンによる生成トルクが相対的に大きくなり、エンジンによる生成トルクと相関関係にある判定パラメータとしての積算値も大きくなるため、エンジンの負荷状態が高いほど#1気筒の判定閾値を大きく設定することにより、精度良く失火を検出することができる。
【0073】
判定の結果、#1気筒の判定パラメータとしての積算値が#1気筒の判定閾値以下である場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS23の処理に進める。一方、#1気筒の判定パラメータとしての積算値が#1気筒の判定閾値より大きい場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS27の処理に進める。
【0074】
ステップS23の処理では、失火判定部5が、#1気筒の失火発生と判断する。これにより、ステップS23の処理は完了し、失火判定処理はステップS27の処理に進む。
【0075】
ステップS24の処理では、失火判定部5が、#2気筒の膨張行程終了ステージであるか否かを判定する。具体的には、失火判定部5は、#2気筒の判定パラメータとしての積算値が判定パラメータ算出部4から入力したか否かにより判定する。判定の結果、#2気筒の膨張行程終了ステージである場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS25の処理に進める。一方、#2気筒の膨張行程終了ステージではない場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS27の処理に進める。
【0076】
ステップS25の処理では、失火判定部5が、判定パラメータ算出部4から入力された電気信号の示す#2気筒の判定パラメータとしての積算値が判定閾値検索部3から入力された電気信号の示す#2気筒の判定閾値以下であるか否かを判定する。この際、#2気筒の判定閾値は、エンジンの負荷状態が高いほど大きな値が設定される。これにより、エンジンの負荷状態が高い場合には正常燃焼時に比べてエンジンによる生成トルクが相対的に大きくなり、エンジンによる生成トルクと相関関係にある判定パラメータとしての積算値も大きくなるため、エンジンの負荷状態が高いほど#2気筒の判定閾値を大きく設定することにより、精度良く失火を検出することができる。
【0077】
判定の結果、#2気筒の判定パラメータとしての積算値が#2気筒の判定閾値以下である場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS26の処理に進める。一方、#2気筒の判定パラメータとしての積算値が#2気筒の判定閾値より大きい場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS27の処理に進める。このように、#1気筒の積算値と比較する判定閾値と#2気筒の積算値と比較する判定閾値とを異ならせることにより、燃焼状況の異なる各気筒の失火を誤検出することを防ぐことができる。
【0078】
ステップS26の処理では、失火判定部5が、#2気筒の失火発生と判断する。これにより、ステップS26の処理は完了し、失火判定処理はステップS27の処理に進む。
【0079】
ステップS27の処理では、失火判定部5が、図示しないカウンタのカウント値をインクリメント又はデクリメントするカウント処理を行う。これにより、ステップS27の処理は完了し、失火判定処理はステップS28の処理に進む。
【0080】
ステップS28の処理では、失火判定部5が、カウント値に基づいて故障報知必要か否かを判定する。判定の結果、故障報知必要な場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS29の処理に進める。具体的には、失火判定部5は、カウント値が所定値に到達した場合に、故障報知必要と判定する。一方、故障報知不要な場合には、失火判定部5は、失火判定処理をステップS30の処理に進める。具体的には、失火判定部5は、カウント値が所定値に到達しない場合に、故障報知不要と判定する。
【0081】
ステップS29の処理では、失火判定部5が、表示装置24をONにして失火の発生を報知する。これにより、ステップS29の処理は完了し、失火判定処理は終了する。
【0082】
ステップS30の処理では、失火判定部5が、表示装置24をOFFのままにして失火の発生を報知しない。これにより、ステップS30の処理は完了し、失火判定処理は終了する。
【0083】
以上の本実施形態における内燃機関失火検出装置では、内燃機関の回転速度に応じた回転速度パラメータの基準値と、回転速度パラメータと、の偏差の積算値の積算区間を、内燃機関の回転数に応じて設定するものであるため、4ストロークの内燃機関の失火を、適切な積算区間で積算した積算値を用いて検出することにより、内燃機関の失火を誤検出するリスクを低減することができる。
【0084】
また、本実施形態における内燃機関失火検出装置では、複数の気筒を備えると共に互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われる内燃機関において、内燃機関が所定の回転数以上の場合の積算区間を、失火判定を行なう気筒の点火時から次に点火する気筒の点火時までの長さよりも短くして設定し、内燃機関が所定の回転数未満の場合の積算区間を、所定の回転数以上の場合の積算区間よりも短くして設定するものであるため、燃焼に依らない他の気筒の行程、慣性力又は摩擦等の影響による回転速度パラメータのバラツキを抑制することができ、エンジンの低回転時と高回転時との両方において確実に失火を検出することができる。
【0085】
また、本実施形態における内燃機関失火検出装置では、複数の気筒を備えると共に互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われる内燃機関において、積算区間を各気筒別に個別の長さに設定するものであるため、2気筒以上を備える内燃機関の各気筒の燃焼状況が異なる場合であっても、内燃機関の失火を正確に検出することができる。
【0086】
また、本実施形態における内燃機関失火検出装置では、複数の気筒を備えると共に互いの気筒の膨張行程が重ならないように各気筒の点火が行われる内燃機関において、内燃機関が所定の回転数未満の場合の積算区間を、内燃機関の膨張行程の開始時から終了時までの長さに設定し、内燃機関が所定の回転数以上の場合の積算区間を、内燃機関の膨張行程の開始時から次に点火する気筒の点火時の直前までの長さに設定するものであるため、エンジンの低回転時には排気行程以降を除外した積算区間を設定して燃焼に依らない摩擦等の影響で回転速度パラメータにバラツキを生じることを抑制し、エンジンの高回転時には膨張行程以降の次に点火する気筒の点火時の直前までの積算区間を設定して燃焼に依らない慣性力等の影響で回転速度パラメータにバラツキを生じることを抑制することにより、通常点火時と失火時とにおける偏差のS/N比を大きくすることができる。
【0087】
また、本実施形態における内燃機関失火検出装置では、回転速度パラメータを示す電気信号に含まれる高周波成分をフィルタにより除去して回転速度パラメータの基準値を算出すると共に、基準値と、フィルタにより高周波成分を除去された電気信号の示す回転速度パラメータと、の偏差を算出するものであるため、回転速度パラメータを示す電気信号に含まれるノイズを除去することができ、精度よく積算値を算出することができる。
【0088】
本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【0089】
具体的には、上記実施形態において、エンジンの負荷状態に応じた判定閾値を設定したが、エンジンの負荷状態に関わらず固定値としての判定閾値を予め設定しておいてもよい。
【0090】
また、上記実施形態において、失火を検出した際に表示装置に表示して報知したが、音声、音又は光により失火を報知してもよいし、失火を報知することに加えて又は代えて、失火を検出した際にエンジンの運転状態を変更する制御を行うようにしてもよい。
【0091】
また、上記実施形態において、判定閾値と比較する積算値を算出する際に、クランク角速度を用いたが、これに限らずクランク角速度と相関のある任意のパラメータを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、本発明においては、4ストロークの内燃機関の失火を、適切な積算区間で積算した積算値を用いて検出することにより、内燃機関の失火を誤検出するリスクを低減することができる内燃機関失火検出装置を提供することができ、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の車両の内燃機関失火検出装置に広範に適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0093】
1…ECU
2…クランク角速度算出部
3…判定閾値検索部
4…判定パラメータ算出部
5…失火判定部
21…吸気圧力センサ
22…クランクセンサ
24…表示装置
図1
図2
図3
図4