(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484313
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】溶融金属めっき浴用ロール及び溶融金属めっき浴用ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/067 20160101AFI20190304BHJP
C23C 2/00 20060101ALI20190304BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
C23C4/067
C23C2/00
F16C13/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-183340(P2017-183340)
(22)【出願日】2017年9月25日
(62)【分割の表示】特願2015-507984(P2015-507984)の分割
【原出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2018-3163(P2018-3163A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-71326(P2013-71326)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄住金ハード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲橘▼
(72)【発明者】
【氏名】野口 正広
(72)【発明者】
【氏名】重光 辰洋
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−353046(JP,A)
【文献】
特開2011−127171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴用ロールのロール表面にサーメット溶射粉末を溶射する溶融金属めっき浴用ロールの製造方法であって、
前記サーメット溶射粉末は、Wを含む第1の硼化物と、Crを含む第2の硼化物と、W、Cr及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする溶融金属めっき浴用ロールの製造方法。
【請求項2】
溶融金属めっき浴用ロールのロール表面にサーメット溶射粉末を溶射する溶融金属めっき浴用ロールの製造方法であって、
前記サーメット溶射粉末は、Wを含む第1の硼化物と、Coを含む第2の硼化物と、W、Cr及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする溶融金属めっき浴用ロールの製造方法。
【請求項3】
溶融金属めっき浴用ロールのロール表面にサーメット溶射粉末を溶射する溶融金属めっき浴用ロールの製造方法であって、
前記サーメット溶射粉末は、Wを含む第1の硼化物と、Tiを含む第2の硼化物と、W、Ti及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする溶融金属めっき浴用ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、溶融金属めっき浴用ロール及びロール表面に溶射されるサーメット溶射粉末等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面にメッキ皮膜を形成する方法として、亜鉛、アルミニウム、亜鉛・アルミニウム合金などの溶融金属が収容されたポット内に鋼板を浸漬させる方法が知られている。このポットには、鋼板を連続メッキするための溶融金属浴中ロール(例えば、シンクロール)が設置されており、この溶融金属浴中ロールは溶融金属により溶解・腐食される恐れがある。そのため、腐食対策として、ロール表面を保護用溶射皮膜で覆う方法が知られている。
【0003】
溶融金属浴中ロールの溶射皮膜形成方法として、特許文献1は、重量%で5〜15%のCoを含み、残部がタングステン炭化物、チタン炭化物、ニオブ炭化物、モリブデン炭化物の1種または2種以上、ならびにタングステン硼化物、モリブデン硼化物、チタン硼化物の1種または2種以上および不可避的不純物からなる溶射層をロール表面に有する溶融金属用浸漬部材を開示する。
【0004】
特許文献2は、重量比にてB:2.5〜4.0%、Co:15.0〜30.0%、Cr:5.0〜10.0%、Mo:3.0〜6.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成された複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末を開示する。
【0005】
特許文献3は、質量比にて、Mo:30.0%以上、B:5.0〜12.0%、Co:10.0〜40.0%、Cr:16.0〜25.0%、および不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2553937号明細書
【特許文献2】特許第3134768号明細書
【特許文献3】特許第4359442号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、バインダーであるCo単体金属が溶射皮膜中に存在するため、Zn−Al等の溶融金属中に浸漬させた際に、Coが溶融金属に溶出しやすく、溶射皮膜の溶損や剥離が発生し、メッキ浴用溶射皮膜としての性能を発揮できなくなることがある。また、1回使用後の浴中溶射ロールを連続再使用するために、硫酸、リン酸などの酸性液体を用いて、溶射皮膜に付着したメッキ金属を化学的に除去することがある。その際に、溶射皮膜中に残るCo単体金属が酸に溶解する等して、溶射皮膜が腐食して、浴中溶射ロールが再使用できなくなる。
【0008】
溶射皮膜の密着力、粒子間結合力を低下させずに溶射皮膜中のCo単体を減らす方法として、溶射フレームの熱エネルギーを用いて溶射材料の一部を互いに反応させることで、Co
3W
3C等の複炭化物、複硼化物(つまり、セラミックス)を生成する方法が考えられる。しかしながら、複炭化物は、脆いCo
3W
3C(η相)を含むため、溶射皮膜の靱性が低下し、クラックが生じる。そして、Zn−Al等の溶融金属はこのクラックを浸入経路として、基材界面に浸入して、溶射皮膜を剥離に至らしめる。
【0009】
また、特許文献2では、バインダーがCo、Cr、Moからなる単体金属であるため、溶射皮膜中に少量のCo、Cr、Mo単体金属が残る。これらの残存したCr、Moは、高温環境下で、酸化され易いため、長期的には溶射皮膜の劣化を招きやすい。また、上述したように、Coなどの単体金属は、耐溶融金属腐食性が低いため、溶射皮膜が剥離に至る可能性が高い。
【0010】
また、特許文献3は、Moを主とした成分系であるため、緻密な溶射皮膜を形成することが難しい。また、高温環境で長時間使用される場合に、溶射皮膜の靱性が低下し、溶射皮膜が割れやすくなる。したがって、特許文献3の溶射用粉末によって溶射されたロールを溶融亜鉛に浸漬した際に、溶射皮膜中に亜鉛が早期に浸透して、剥離に至る可能性が高い。
【0011】
また、浴中ロールの溶射皮膜に求められる性質として、耐割れ性、つまり、靭性が求められる。例えば、シンクロールには、鋼板の蛇行及びスリップ、ロール表面へのドロスの付着などを防止するために、グルーブが形成されており、このグルーブの底に素材と溶射皮膜の熱膨張差により発生する応力集中が起こりやすく、グルーブの底に溶射皮膜において割れが生じやすいことが知られている。さらに、浴中ロールは、メンテナンス時に、高温溶融金属から引き上げられるため、加熱及び冷却の繰り返しに強いこと、つまり、耐熱衝撃性を備えている必要がある。
【0012】
そこで、本願発明は、耐摩耗性、靭性、耐溶融金属性、耐熱衝撃性に優れた緻密な溶射皮膜を生成することが可能なサーメット溶射粉末及び溶融金属浴中ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討し、下記の知見を得るに至った。
【0014】
本願発明は、溶融金属めっき浴用ロールのロール表面に溶射されるサーメット溶射粉末であって、Wを含む第1の硼化物と、Crを含む第2の硼化物と、W、Cr及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
第1の硼化物に含まれるWと、第2の硼化物に含まれる遷移金属(Cr)とが含まれたバインダー合金粒子を用いることにより、溶射の際に硼化物粒子とバインダー合金粒子との濡れ性が向上して、緻密な溶射皮膜になりやすく、且つ、溶射皮膜に含まれる複硼化物の生成を促進することができる。
【0016】
本願発明は、溶融金属めっき浴中用ロールのロール表面に溶射されるサーメット溶射粉末であって、Wを含む第1の硼化物と、Coを含む第2の硼化物と、W、Cr及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする。
【0017】
第1の硼化物に含まれるWと、第2の硼化物に含まれる遷移金属(Co)とが含まれたバインダー合金粒子を用いることにより、溶射の際に硼化物粒子とバインダー合金粒子との濡れ性が向上して、緻密な溶射皮膜になりやすく、且つ、溶射皮膜に含まれる複硼化物の生成を促進することができる。
【0018】
本願発明は、溶融金属めっき浴用ロールのロール表面に溶射されるサーメット溶射粉末であって、Wを含む第1の硼化物と、Tiを含む第2の硼化物と、W、Ti及びCoを少なくとも含むバインダー合金粒子と、不可避的不純物とからなり、当該サーメット溶射粉末100質量%に対して、Bが4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wが50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする。
【0019】
第1の硼化物に含まれるWと、第2の硼化物に含まれる遷移金属(Ti)とが含まれたバインダー合金粒子を用いることにより、溶射の際に硼化物粒子とバインダー合金粒子との濡れ性が向上して、緻密な溶射皮膜になりやすく、且つ、溶射皮膜に含まれる複硼化物の生成を促進することができる。
【0020】
ここで、上述の構成において、第1及び第2の硼化物に含まれるBが8.5質量%を超えると、溶射皮膜の靭性及び耐熱衝撃性が低下する。第1及び第2の硼化物に含まれるBが4.5質量%未満になると、複硼化物の生成量が少なくなり、溶射皮膜の気孔が多くなる。また、硼化物、複硼化物が少なくなるため、硬さが低く、溶射皮膜の耐摩耗性の低下を招く。したがって、第1及び第2の硼化物に含まれるBは、4.5質量%以上8.5質量%以下に制限される。
【0021】
Wが50質量%未満になると、ロール表面に向かう溶射粒子の運動エネルギーが小さいため、緻密な溶射皮膜を生成することができない。Wが85質量%を超えると、単位質量あたりの溶射皮膜を形成するのに必要な熱エネルギーが上昇するため、溶射皮膜の気孔が上昇して、成膜歩留が大幅に低下する。したがって、サーメット溶射粉末100質量%に対して、Wは50質量%〜85質量%に制限される。
【0022】
上述のサーメット溶射粉末は、浴中ロールのロール表面に溶射することができる。浴中ロールは、高温溶融亜鉛メッキ浴(約450℃)、溶融アルミニウムメッキ浴(700〜800℃)内に設置される。浴中ロールには、シンクロール、サポートロールが含まれる。浴中ロールを回転動作させて鋼板を高温溶融亜鉛メッキ浴等の中を通過させることで、鋼板の表面に均一な亜鉛メッキ、アルミニウムメッキを施すことができる。溶射方法には、高速ガスフレーム溶射法、プラズマ溶射法など公知の方法を用いることができる。また、上述のサーメット溶射粉末は、溶融金属めっき浴中部品の表面に溶射することができる。浴中部品には、例えば、浴中ロールの軸受け、軸スリーブが含まれる。
【0023】
上述のサーメット溶射粉末を溶射することにより、CoWB、CoW
2B
2及びWBの総和量が50質量%から質量92%、CoCrW合金粒子を25質量%以下含む溶射皮膜をロール表面に備えた溶融金属めっき浴用ロールを提供することができる。この場合、Bは4.5質量%以上8.5質量%以下であり、Wは50質量%以上85質量%以下である。
【発明の効果】
【0024】
本願発明によれば、耐摩耗性、靭性、耐溶融金属性、耐酸洗性及び耐熱衝撃性に優れた緻密な溶射皮膜を備えた溶融金属めっき浴用ロールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
実施例を示して、本発明についてより具体的に説明する。複数の実施例及び比較例の個々について、耐摩耗性、靭性、耐溶融金属性、耐酸洗性、耐熱衝撃性及び気孔率を評価した。表1は、実施例1〜8の耐摩耗性、靭性、耐酸洗性、耐熱衝撃性及び気孔率を評価した試験データであり、各実施例の硼化物及びバインダー合金粒子の組成を併記している。表2は、比較例1〜10について耐摩耗性、靭性、耐酸洗性、耐熱衝撃性及び気孔率を評価した試験データであり、各比較例の硼化物及びバインダー合金粒子の組成を併記している。表3は、実施例1〜8及び比較例1〜10の耐溶融金属性を評価した試験データである。表4は、実施例1〜8及び比較例1〜10の溶射皮膜の化学組成及び主な結晶相を示している。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0026】
溶射法として、灯油と高圧酸素の燃焼フレームを熱源とした高速ガスフレーム溶射法を用いた。耐摩耗性は、スガ摩耗試験機によりJISH8503 に準拠して評価した。荷重29.4N、試験紙SiC#320で2000往復摺動させた時のでテストピースの重量変化により、耐摩耗性を評価した。溶射皮膜の「耐摩耗性は100DS/mg以下の場合に、×と評価し、100〜200DS/mgの場合に△と評価し、300DS/mg以上の場合に、○と評価した。
【0027】
靭性は、溶射皮膜が生成されたテストピースを厚み方向に切断し、鏡面研磨を行い、マイクロビッカース硬さ試験機により、溶射皮膜の断面に9.8N荷重を付与して圧痕を形成し、圧痕の周囲における割れの有無を評価した。割れが認められなかった場合には、靭性が良好として○で評価した。割れが僅かに認められた場合には、靭性がやや不十分として△で評価した。割れがはっきりと認められた場合には、靭性が不良として×で評価した。
【0028】
耐溶融金属性は、下記の実験により評価した。サーメット溶射粉末をテストピース表面に溶射し、この溶射されたテストピースを450℃の亜鉛メッキ浴に所定時間浸漬させた後引き上げ、テストピースを冷却後、溶射皮膜表面に付着した亜鉛を剥すことが可能かどうかを確認した。浸漬時間は、200時間、300時間、400時間、500時間とし、この順序でそれぞれのテストピースについて試験を実施した。亜鉛メッキ浴から引上げたテストピースの表面に付着した亜鉛を剥した後に、溶射皮膜の剥離或いは溶損が認められた場合には、その時点で試験を中止した。剥離或いは溶損が認められなかった場合には、耐溶融金属性が良好として○で評価し、継続して浸漬試験を行った。試験中に溶射皮膜表面に付着した亜鉛が固着し、外力で除去できない場合には、亜鉛が溶射皮膜と反応したと考え、耐溶融金属性がやや不十分として△で評価した。溶射皮膜の剥離が認められた場合には、耐溶融金属性が不良として×で評価した。なお、溶射皮膜に亜鉛が固着する現象は、剥離に進む前の段階で起こる現象であると考えられている。
【0029】
耐熱衝撃性は、平板に成膜した溶射皮膜テストピースに対して、加熱処理及び25℃水冷処理を20回繰り返し、剥離の程度を調べることで評価した。加熱時間は30分、加熱温度は500℃に設定した。水冷時間は、10分に設定した。剥離が認められなかった場合には、耐熱衝撃性が良好として○で評価した。剥離が僅かに認められた場合には、耐熱衝撃性がやや不十分として△で評価した。剥離がはっきりと認められた場合には、耐熱衝撃性が不良として×で評価した。
【0030】
耐酸洗性は、下記の実験により評価した。サーメット溶射粉末をテストピース表面に溶射し、素材部及び側面の未溶射部をシリコン樹脂により防食コーティングした。その後、このテストピースを硫酸に浸漬することで、溶射皮膜を硫酸にさらした。硫酸水溶液に7日間浸漬した後引き上げ、テストピースの溶射皮膜を観察し、溶射皮膜の浮き或いは剥離の有無により耐酸洗性を評価した。酸性水溶液の温度は40℃に設定し、濃度は10体積%に設定した。剥離が認められないテストピースは切断研磨し、光学顕微鏡により断面調査を行った。溶射皮膜の耐酸洗性は、硫酸浸漬後剥離した場合に×で評価し、断面調査による溶射皮膜の組織変化が発生した場合に△で評価、剥離もなく断面組織の変化もない場合に○と評価した。
【0031】
気孔率は、画像解析法により測定した。溶射皮膜を切断研磨した後に、走査型電子顕微鏡により、400倍の断面組織写真5枚を撮影した。撮影した断面組織の気孔部の面積と断面組織の総面積との割合を求めることで、気孔率を算出した。気孔率が1.5%未満の場合には、溶射皮膜の緻密性が高いとして○で評価した。気孔率が3%超の場合には、溶射皮膜の緻密性が低いとして×で評価した。
【0032】
比較例1、2は、溶射皮膜中に靱性が低い結晶相であるCo
3W
3C(η相)、W
2C、つまり、複炭化物や炭化物の脱炭現象が起こり、溶射皮膜に割れが発生した。そのため、靭性の評価は×であった。また、これらのタングステン炭化物を含む溶射皮膜は、高温になると酸化されやすい。そのため、耐熱衝撃性の評価は×であった。
【0033】
比較例3は、Co単体金属が溶射皮膜の中に残留するため、硫酸などの酸溶液に溶出しやすい。そのため、耐酸洗性の評価は×であった。比較例4は、溶射皮膜にCo及びCr単体金属が残留するため、高温で急激に酸化される。そのため、耐熱衝撃性の評価は×であった。比較例5は、溶射皮膜の気孔率が高いため、溶射皮膜の硬さが低く、溶射皮膜の耐摩耗性及び靭性が悪かった。
【0034】
比較例6、7は450℃以上の温度で24時間以上に熱処理されると、溶射中に生成した複硼化物(MoCoB)が分解する。そのため、溶射皮膜が脆くなり、溶射皮膜の靱性が低下し、溶射皮膜の靭性及び耐熱衝撃性が悪かった。また、溶射皮膜中に、少量のCo,Crの単体金属が存在するため、耐酸洗性の評価が×、若しくは△になった。
【0035】
表2及び表4を参照して、比較例8のBの含有率は、上限値である8.5質量%よりも大きい9.40質量%であった。溶射皮膜に過量の硼化物或いは複硼化物があるため、溶射皮膜の靭性が低くなった。そのため、耐熱衝撃性の評価も×になった。また、Wの含有率は、下限値である50質量%よりも低い47.7質量%であったので、溶射粒子の運度エネルギーが低く、溶射皮膜中の気孔が多くなった。そのため、気孔率の評価が×になった。比較例9は、Bの含有率が下限値である5質量%よりも低い4.40質量%であった。そのため、硬さが低く、耐摩耗性の評価が×になった。比較例10のWの含有率は、上限値である85質量%よりも大きい86.4質量%であった。そのため、十分な溶射熱エネルギーが与えられず、溶射皮膜の気孔が多くなった。そのため、気孔率の評価は×であった。
【0036】
実施例1〜8は、金属バインダーが硬質粒子の硼化物と同種の金属を含有する合金粒子であるため、金属バインダーと硼化物との濡れ性がよくなり、気孔率の低い緻密な溶射皮膜となった。また、4.5質量%≦B≦8.5質量%、50質量%≦W≦85質量%を満足させることにより、耐摩耗性、靭性、耐溶融金属性、耐熱衝撃性、気孔率の全ての評価が○になった。さらに、耐溶融金属性試験において、全ての実施例で500時間浸漬させても、剥離が認められなかった。すなわち、金属バインダー中のCo、Crなどが第1の硼化物、第2の硼化物と反応することにより、溶射皮膜中に積極的に複硼化物を生成することができる。また、第1の硼化物、第2の硼化物と反応しなかった金属バインダーが溶射皮膜中に合金のまま残るため、耐溶融金属腐食性、耐熱衝撃性及び耐酸洗性が高まる。