(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記吸収体に前記透液性表面シートを積層した状態で、前記透液性表面シートの表面側からエンボスを施すことにより、肌側に長手方向に沿って凹溝が形成された吸収性物品において、
前記透液性表面シートは、吸収性物品の長手方向に長い平面形状からなる多数の開孔を備えた不織布によって構成され、前記エンボスによって透液性表面シートが引き伸ばされ前記凹溝の両側面及び底面に対応する領域に設けられた前記開孔が吸収性物品の幅方向に拡孔されていることを特徴とする吸収性物品。
前記透液性表面シートは、相対的に目付が高い凸部と相対的に目付が低い凹部とがそれぞれ、吸収性物品の長手方向に延びるとともに、吸収性物品の幅方向に交互に繰り返し形成され、且つ前記凹部に前記開孔が設けられている請求項1記載の吸収性物品。
前記吸収体は、前記透液性表面シート側の面に、吸収性物品の長手方向に沿うとともに尿排出部位を含む長手方向範囲に亘って、圧搾によることなく凹溝状又はスリット状の吸収体凹部を備え、
前記凹溝は、前記吸収体に前記透液性表面シートを積層した状態で、前記透液性表面シートの表面側から前記吸収体凹部の底面に対し前記吸収体凹部に沿って前記エンボスを施すことにより形成されている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2記載の吸収性物品では、前記凹溝は、吸収体の表面側に透液性表面シートを積層した状態で、前記透液性表面シートの表面側からのエンボスにより、透液性表面シート及び吸収体を一体的に圧搾するか、予め凹部又はスリットが設けられた吸収体に対し透液性表面シートを圧搾することにより形成されている。したがって、エンボスにより凹溝の深さ分だけ表面シートが引き伸ばされるため、厳密には、凹溝部分の繊維間距離αと凹溝以外の繊維間距離βとがα>βの関係となっている。そのため、少なからず、凹溝内に一時貯留された尿は、繊維間距離が拡大された表面シートを透過しやすく、吸収体に移行しやすくなると考えられる。
【0008】
しかしながら、前記表面シートとして無孔の不織布を使用した場合には、前記凹溝を形成するためのエンボスを施した際に引き伸ばされる繊維間距離は極僅かであり、液透過性向上の効果は極めて低い。このため、凹溝内に一時貯留された尿が吸収体に吸収されずに表面に溢れ出て表面に残り、べた付き感を生じる場合があった。
【0009】
一方で、凹溝を形成するためのエンボスを施すと表面シートが引き伸ばされるため、この引き伸ばされた部分の表面シートの強度が低下して、装着中に破れやすくなるという問題が生じていた。
【0010】
また、凹溝を形成するためのエンボスを施す際に表面シートが引っ張られると、この表面シートによって凹溝周辺の吸収体が押し潰されるため、凹溝から吸収体への尿の移行がスムーズに行われず、尿の透過性が低下するなどの問題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、肌側に長手方向に沿って凹溝が形成された吸収性物品において、前記凹溝内で表面シートの尿の透過性を向上するとともに、装着中の表面シートの破れを防止した吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記吸収体に前記透液性表面シートを積層した状態で、前記透液性表面シートの表面側からエンボスを施すことにより、肌側に長手方向に沿って凹溝が形成された吸収性物品において、
前記透液性表面シートは、吸収性物品の長手方向に長い平面形状からなる多数の開孔を備えた不織布によって構成さ
れ、前記
エンボスによって透液性表面シートが引き伸ばされ前記凹溝の
両側面及び底面に対応する領域に設けられた前記開孔
が吸収性物品の幅方向に拡孔されていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明では、前記吸収体に透液性表面シートを積層した状態で、この透液性表面シートの表面側からエンボスを施すことにより、肌側に長手方向に沿って凹溝を形成している。このとき、透液性表面シートとして、吸収性物品の長手方向に長い平面形状からなる多数の開孔を備えた不織布を用いているため、前記
エンボスによって透液性表面シートが引き伸ばされ前記凹溝の
両側面及び底面に対応する領域に設けられた開孔が、吸収性物品の幅方向に拡孔されるようになる。このため、凹溝に一時貯留された尿が、拡孔された前記開孔を通じて透液性表面シートを透過しやすく、吸収体に素早く移行できるようになる。したがって、凹溝内の尿が表面に溢れ出るのが抑えられ、尿を表面に残さず、さらさら感が続くようになる。
【0014】
また、凹溝を形成するためのエンボスを施すことにより、透液性表面シートが過度に引っ張られて透液性表面シートの強度が低下し、透液性表面シートが破れるのが防止できるとともに、引っ張られた透液性表面シートによって吸収体が押し潰されるのが回避できるので、吸収体の吸収性能が低下するのが防止できる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記透液性表面シートは、相対的に目付が高い凸部と相対的に目付が低い凹部とがそれぞれ、吸収性物品の長手方向に延びるとともに、吸収性物品の幅方向に交互に繰り返し形成され、且つ前記凹部に前記開孔が設けられている請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、前記透液性表面シートとして、相対的に目付が高い凸部と、この凸部より相対的に目付が低い凹部とがそれぞれ、吸収性物品の長手方向に延びるとともに、吸収性物品の幅方向に交互に繰り返し形成され、且つ前記凹部に前記開孔が設けられたものを用いているため、前記凹溝を形成するためのエンボスを施す際、相対的に低目付の前記凹部に引張応力が集中しやすく、凹部が幅方向に引き伸ばされるため、前記開孔がより大きく拡孔する傾向にある。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記吸収体は、前記透液性表面シート側の面に、吸収性物品の長手方向に沿うとともに尿排出部位を含む長手方向範囲に亘って、圧搾によることなく凹溝状又はスリット状の吸収体凹部を備え、
前記凹溝は、前記吸収体に前記透液性表面シートを積層した状態で、前記透液性表面シートの表面側から前記吸収体凹部の底面に対し前記吸収体凹部に沿って前記エンボスを施すことにより形成されている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、前記吸収体の透液性表面シート側の面であって、前記凹溝の形成予定位置に、圧搾によることなく凹溝状又はスリット状の吸収体凹部を備え、前記吸収体凹部の底面に対し吸収体凹部に沿って前記エンボスを施すことにより凹溝を形成しているため、吸収体を一体的に圧搾することによって凹溝を形成した場合に比べ、凹溝の周囲の吸収体の密度が極度に高くなるのが防止でき、凹溝に一時貯留された尿が吸収体に移行しやすくなる。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記エンボスは、前記吸収体凹部の溝幅より小さなエンボス幅で付与されている請求項3記載の吸収性物品が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、前記凹溝を形成する際のエンボスを、吸収体凹部の溝幅より小さなエンボス幅で付与しているため、凹溝内において、透液性表面シートと吸収体の側面との間に所定の空間(バッファーゾーン)ができて、前記開孔が抵抗なく拡孔するようになり、尿の吸収効率が向上できる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、凹溝内において透液性表面シートの尿の透過性が向上できるとともに、装着中の表面シートの破れが防止できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
〔失禁パッド1の基本構成〕
本発明に係る失禁パッド1は、
図1〜
図3に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる不透液性裏面シート2と、尿などを速やかに透過させる透液性表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された綿状パルプまたは合成パルプなどからなる吸収体4と、前記吸収体4の形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体を囲繞するクレープ紙や不織布等からなる被包シート5と、前記吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも尿排出部位Hを含むように長手方向に所定の区間内において肌側に突出して設けられた左右一対の立体ギャザーBS、BSを形成するサイド不織布7、7とから主に構成され、かつ前記吸収体4の周囲においては、その長手方向端縁部では前記不透液性裏面シート2と透液性表面シート3との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している前記不透液性裏面シート2と前記サイド不織布7とがホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合されている。なお、必要に応じて、前記透液性表面シート3と吸収体4との間に、親水性のセカンドシートを配置することができる。
【0025】
以下、さらに前記失禁パッド1の構造について詳述すると、
前記不透液性裏面シート2は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他に防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した上で不織布シート(この場合には、防水フィルムと不織布とで不透液性裏面シートを構成する。)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが好適に用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。
【0026】
前記透液性表面シート3は、所定形状の開孔を有する不織布が好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高で圧縮復元性が高い点で優れている。この透液性表面シート3については、後段で更に詳しく説明する。
【0027】
前記吸収体4は、たとえば綿状パルプ等の吸収性繊維と高吸水性ポリマー8とにより構成され、図示例では平面形状がパッド長手方向に長い縦長の略小判形とされている。前記高吸水性ポリマー8は例えば粒状粉とされ、吸収体4を構成するパルプ中に分散混入されている。
【0028】
前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。本失禁パッド1では、吸収体4を被包シート5で囲繞するため、結果的に透液性表面シート3と吸収体4との間に被包シート5が介在することになり、吸収性に優れる前記被包シート5によって尿を速やかに拡散させるとともに、これら尿等の逆戻りを防止するようになる。前記パルプの目付は、100g/m
2〜600g/m
2、好ましくは200g/m
2〜500g/m
2とするのがよい。
【0029】
前記高吸水性ポリマー8としては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。前記吸水性能を有する高吸水性ポリマーは製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸収倍率(吸水力)と吸収速度の調整が可能である。
【0030】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイドバイサイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、尿に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0031】
前記被包シート5は、ティシュー等の紙材あるいは不織布等の透液性のシートを用いることができる。特に、資材の破壊(破れ)が生じにくい不織布を用いるのが好ましい。このような不織布としては、薄さと強度のバランスに優れたスパンボンド法やSMS法により加工された不織布、熱可塑性エラストマー樹脂などからなる弾性繊維をスパンボンド法、メルトブロー法など紡糸工程に直結してウェブを形成する方法により加工された不織布、ラテックス、ウレタン、オレフィン系の繊維など伸縮性を有する素材を主成分とする不織布が好適である。なお、被包シート5は、少なくとも吸収体4の肌当接面側(表面側)の面が撥水性でなければシートの親水度は特に問わない。
【0032】
本失禁パッド1の表面側両側部にはそれぞれ長手方向に沿って、かつ失禁パッド1の全長に亘ってサイド不織布7,7が設けられ、このサイド不織布7,7の外側部分が側方に延在されるとともに、前記不透液性裏面シート2が側方に延在され、これら側方に延在されたサイド不織布7部分と不透液性裏面シート2部分とをホットメルト接着剤等により接合して側部フラップが形成されている。
【0033】
前記サイド不織布7としては、重要視する機能の点から撥水処理不織布または親水処理不織布を使用することができる。たとえば、尿等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの機能を重視するならば、シリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングしたSSMSやSMS、SMMSなどの撥水処理不織布を用いるのが望ましく、尿の吸収性を重視するならば、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた親水処理不織布を用いるのが望ましい。かかるサイド不織布7としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができる。
【0034】
前記サイド不織布7、7は、適宜に折り畳まれて、前記吸収体4の略側縁近傍位置を起立基端として肌側に起立する左右一対の内側立体ギャザー10、10と、相対的に前記内側立体ギャザー10より外側に位置するとともに、前記吸収体4よりも側方に延出する不透液性裏面シート2及びサイド不織布7によって形成された肌側に起立する左右一対の外側立体ギャザー11、11とからなる2重ギャザー構造の立体ギャザーBSを構成している。なお、前記立体ギャザーBSは、内側立体ギャザー10または外側立体ギャザー11のいずれかのみからなる1重ギャザー構造であっても良いし、サイド不織布7を配設するだけで肌側に起立した立体ギャザー状に形成されなくてもよい。
【0035】
前記内側立体ギャザー10および外側立体ギャザー11の構造についてさらに詳しく説明すると、前記サイド不織布7は、
図2に示されるように、幅方向両側端をそれぞれパッド裏面側に折り返して幅方向内側及び幅方向外側にそれぞれ二重シート部分7a、7bを形成するとともに、前記幅方向内側の二重シート部分7a内部に両端または長手方向の適宜の位置が固定された1本または複数本の、図示例では1本の糸状弾性伸縮部材12が配設されるとともに、前記幅方向外側の二重シート部分7b内部に両端または長手方向の適宜の位置が固定された1本または複数本の、図示例では2本の糸状弾性伸縮部材13、13が配設され、前記幅方向内側の二重シート部分7aの基端部が吸収体4の側部に配設される透液性表面シート3の上面にホットメルト接着剤等により接着されるとともに、幅方向外側の二重シート部分7bの基端部が前記吸収体4よりも側方に延出する不透液性裏面シート2の側端部にホットメルト接着剤等により接着されることにより、前記幅方向内側の二重シート部分7aによって肌側に起立する内側立体ギャザー10が形成されるとともに、前記幅方向外側の二重シート部分7bによって肌側に起立する外側立体ギャザー11が形成されている。なお、前記サイド不織布7は、パッド長手方向の両端部では、
図3に示されるように、前記糸状弾性伸縮部材12、13が配設されないとともに、前記幅方向内側の二重シート部分7aがホットメルト接着剤等によって吸収体4側に接合されている。
【0036】
〔凹溝22及び透液性表面シート3について〕
本失禁パッド1では、肌側に長手方向に沿って尿流入用の凹溝22が形成されている。前記凹溝22は、透液性表面シート3の表面に排出された尿を受け止めて、尿を一時貯留するとともに、前後方向への尿の拡散を誘導し、且つ吸収体4への尿の吸収速度を速め、横漏れを防止するためのものである。
【0037】
前記凹溝22は、透液性表面シート3の表面側から透液性表面シート3から吸収体4にかけての構成部材を一体的に圧搾することにより形成したものでもよいが、
図5に示されるように、予め前記吸収体4に吸収体凹部20を形成しておき、この吸収体凹部20に沿って透液性表面シート3の表面側(肌面側)から吸収体4より上層の構成部材をエンボス凸部24によって圧搾するエンボス部21を設けることにより形成したものの方が、脚圧による凹溝22の変形が防止できるなどの理由から望ましい。
【0038】
前記吸収体4には、前記エンボス部21の形成予定部分に、予め、圧搾によることなく凹溝状又はスリット状に、図示例では凹溝状に形成された吸収体凹部20が形成されている。この吸収体凹部20は、圧搾によることなく、例えば
図4に示されるように、(A)積繊、又は(B)吸収体凹部20の底部の厚みで形成された下層吸収体4aと、前記吸収体凹部20に対応する部分が開口した上層吸収体4bとの積層構造などによって形成されている。
【0039】
前記吸収体凹部20は、
図1に示されるように、吸収体4に対して、尿排出部位Hに対応するパッド幅方向の中央部であって長手方向の中間部に、1条のみ形成するのが好ましいが、失禁パッド1の幅方向に離間して複数条で形成したり、パッド長手方向に離間する不連続線状に形成するなど、種々の形態で形成することができる(
図9〜
図11参照)。なお、複数の吸収体凹部20を設ける場合は、それぞれの吸収体凹部20に対して前記エンボス部21を設けるのが好ましい。
【0040】
前記吸収体凹部20の平面寸法は、パッド長手方向の長さが100〜320mm、溝幅(底面の溝幅)が5〜45mmとするのがよい。前記吸収体凹部20の深さは、吸収体4の厚みの50%以上、具体的には2〜8mm程度とするのがよい。この数値範囲は、本形態例で例示した失禁パッドのみならず、使い捨ておむつに凹溝構造を採用した場合も考慮して設定されている。使い捨ておむつの場合には失禁パッドより比較的大きな寸法で形成される。
【0041】
前記吸収体凹部20の底部(不透液性裏面シート2側の部分、非肌側の部分)に介在する吸収体4部分は、パルプの目付が0g/m
2〜210g/m
2、好ましくは70g/m
2〜190g/m
2とするのがよい。この吸収体部分にも吸水性ポリマー8が所定の目付で分散混入されている。
【0042】
次に、本失禁パッド1で使用する前記透液性表面シート3について更に詳しく説明する。前記透液性表面シート3は、
図6(A)に示されるように、パッド長手方向に長い平面形状からなる多数の開孔23、23…を備えた不織布によって構成されている。前記開孔23は、透液性表面シート3の一方側面から他方側面まで貫通して、不織布繊維が存在しない部分である。平面形状としては、図示例の楕円形とするのが好ましく、この他に長円形、長方形、菱形、多角形など、パッド長手方向に長く形成したものであればどのような形状のものでもよい。
【0043】
前記透液性表面シート3に多数の開孔23、23…を施すには、穿孔により形成したり、流体を噴きあてることにより形成したり、加熱したピンを突き刺すことにより形成したりするなど、公知の手段を採用することができる。また、特開2008-18537号公報に記載された多孔シートの製造装置を用いて開孔処理を行うこととしてもよい。
【0044】
前記多数の開孔23、23…を有する透液性表面シート3としては、例えば、特開2011-135979号公報、特開2008-25083号公報、特開2009-185408号公報、特開2010-84317号公報、特開2014-68954号公報などに開示されたものを使用できる。
【0045】
前記開孔23、23…は、透液性表面シート3の全面に亘って、パッド幅方向及び長手方向にそれぞれ所定の間隔で多数配置されている。前記開孔23…の配置は、
図6(A)に示されるように、パッド幅方向及び長手方向に対し、直線上に配置した格子状としてもよいし、一列置きにパッド幅方向への配置をずらした千鳥状としてもよい。
【0046】
前記開孔23の大きさは、前記エンボス部21による引き伸ばし力がかからない自然状態で、長手寸法(パッド長手方向の寸法)が0.1mm〜6.0mm、好ましくは0.5mm〜3.0mmとするのがよい。前記開孔23は、透液性表面シート3の全面に亘ってほぼ一定の大きさで形成してもよいし、前記凹溝22の形成領域だけ異なる大きさとしてもよい。異なる大きさで形成する場合は、凹溝22の形成領域に配置される開孔23の大きさを、他の領域に配置される開孔23の大きさより大きな寸法とするのがよい。
【0047】
前記開孔23は、失禁パッド1の長手方向の寸法Lと幅方向の寸法Wとの比が、L:W=1.1:1〜10:1、好ましくは1.5:1〜5:1、より好ましくは2:1〜3:1とするのがよい。L:Wが1.1:1より小さいと、エンボス部21によるパッド幅方向への引張力がかかったときに、開孔23がパッド幅方向に細長く変形してしまい尿移行の向上が図れない。一方、L:Wが10:1より大きいと、エンボス部21による引張力がかからない部分において、開孔23からのめくれなどの問題が生じるおそれがある。
【0048】
また、隣り合う開孔23、23同士の中心間距離は、0.5mm〜30mm、好ましくは1.0mm〜15mmとするのがよい。前記開孔23…は、透液性表面シート3の全面に亘ってほぼ一定の間隔で配置してもよいし、前記凹溝22の形成領域だけ異なる間隔で配置してもよい。凹溝22の形成領域だけ異なる間隔で配置する場合、凹溝22における尿の移行を向上させるとともに、透液性表面シート3を変形させやすくするため、他の領域より間隔を小さくするのが好ましい。
【0049】
前記透液性表面シート3は、
図5に示されるように、透液性表面シート3の表面側(肌面側)からのエンボスにより前記凹溝22を形成した状態で、
図6(B)に示されるように、少なくとも凹溝22の形成領域に設けられた開孔23、23…が、パッド幅方向に拡孔されている。すなわち、吸収体凹部20が形成された吸収体4の表面側に透液性表面シート3を積層した状態で、透液性表面シート3の表面側から吸収体凹部20の底面にエンボス凸部24によりエンボス部21を施すと、吸収体凹部20の断面形状の分だけ透液性表面シート3が引き伸ばされ、このときの引張力が前記開孔23、23…に集中して開孔23…をパッド幅方向に拡孔させるようになる。
【0050】
この開孔23、23…が拡孔する範囲は、主に凹溝22の両側面及び底面に対応する領域であるが、凹溝22の両側面より若干外側の範囲にまで及ぶ場合がある。
【0051】
前記凹溝22を形成することにより拡孔した開孔23の大きさは、パッド幅方向の寸法が1.3倍〜4.2倍、好ましくは1.5倍〜3.0倍程度となるようにする。開孔23のパッド幅方向への拡孔倍率は、開孔23の平面形状やパッド幅方向の配置ピッチなどによって調整できる。
【0052】
このように、本失禁パッド1では、透液性表面シート3の表面側からエンボス部21を施すことによって凹溝22を形成した状態で、少なくとも凹溝22の形成領域に設けられた開孔23、23…がパッド幅方向に拡孔するため、
図7に示されるように、拡孔した開孔23、23…を通って凹溝22に一時貯留された尿が吸収体4に移行しやすくなる。このように、凹溝内の尿が透液性表面シート3を透過して吸収体4に素早く移行されるので、凹溝内の尿が表面に溢れ出るのが抑えられ、尿が表面に残らず、表面のさらさら感が続くようになる。また、前記開孔23、23…が変形することにより、エンボス圧搾時の透液性表面シート3にかかる引張力が吸収されるため、過度に透液性表面シート3が引っ張られることがなくなり、凹溝22周辺の吸収体4が圧縮されたりすることがなく、吸収体の尿吸収性及び装着性が維持できるようになる。
【0053】
前記透液性表面シート3は、全面に亘ってほぼ一定の厚みで形成したものを用いてもよいし、
図8に示されるように、相対的に目付が高い凸部3aと、この凸部3aより相対的に目付が低い凹部3bとがそれぞれ、パッド長手方向に延びるとともに、パッド幅方向に交互に繰り返し形成されたものを用いてもよい。前記凸部3aと凹部3bとからなる透液性表面シート3の場合、少なくとも前記凹部3bのみに開孔23、23…を設けるのが好ましい。前記開孔23を目付が低い凹部3bに設けることにより、エンボス圧搾時に透液性表面シート3が引き伸ばされたとき、抵抗力の小さな凹部3bに応力が集中するするため、この凹部3bに設けられた開孔23、23…がより大きく拡孔できるようになる。なお、前記凸部3aに開孔を設けても構わない。前記凸部3aと凹部3bとはほぼ同等の密度とするのが好ましいが、異なる密度で形成してもよい。
【0054】
前記凸部3aと凹部3bとを備えるとともに多数の開孔を備えた透液性表面シート3としては、例えば、特開2008-25083号公報、特開2009-185408号公報、特開2010-84317号公報、特開2014-68954号公報などに開示されたものを使用できる。また、例えば、開2004-466号公報、特開2003-250836号公報などに開示された前記凸部3aと凹部3bとを備えた透液性表面シート3に、多数の開孔23、23…を施したものを使用してもよい。
【0055】
前記凸部3aの高さ(厚み)は、凹部3bの高さ(厚み)より0.1mm〜15mm程度高くするのが好ましい。また、凹部3bの幅(パッド幅方向の幅)は、前記開孔23の幅より大きく形成されている。
【0056】
前記凹溝22は、種々の形態で配置することができる。前記凹溝22は、
図1に示されるように、尿排出部位Hに対応するパッド幅方向の中央部であって長手方向の中間部に、1条のみ形成するのが好ましいが、
図9(A)、(B)に示されるように、パッド幅方向に離間して複数条形成してもよいし、同
図9(C)に示されるように、パッド長手方向に離間して不連続線状に形成してもよい。複数条形成した場合には、多くの尿が一気にドッと出たときでも尿の拡散効果をより確実に高めることができるようになる。また、不連続線状に形成した場合には、凹溝22が幅方向両側から脚圧などの外力を受けたときの潰れがより確実に防止できる。パッド幅方向に離間して複数条形成する場合、同
図9(A)に示す偶数条でもよいし、同
図9(B)に示す奇数条でもよい。
【0057】
また、前記凹溝22の平面形状は、
図1に示されるように、パッド長手方向に沿って等幅で形成してもよいし、
図10に示されるように、異なる溝幅で形成してもよい。
図10(A)では、凹溝22のパッド長手方向の前側端部に、溝幅を拡大した拡幅部22aを設けている。前記拡幅部22aを設けることにより、尿の一時貯留空間が拡大でき、特に切迫性失禁などのように大量の尿が一度にドッと出た場合でも確実に凹溝22で尿を受け止めることが可能となる。前記拡幅部22aは、同
図10(B)に示すようにパッド後側の端部に設けてもよいし、同
図10(C)に示すように前後端部にそれぞれ設けてもよい。
【0058】
前記凹溝22は、
図11に示されるように、1又は複数の枝分かれ部22b、22cを設けてもよい。前記枝分かれ部22b、22cを設けることにより、凹溝22に一時貯留された尿が凹溝22に沿って吸収体4の広い範囲に拡散するようになり、吸収体4のより広い範囲で尿を吸収できるようになる。
図11(A)〜(C)に示される例では、前記枝分かれ部22bとして、パッド長手方向の前側、後側又は前側及び後側のそれぞれに、凹溝22の両側縁から外側に延びるとともに、パッド長手方向の端部側に傾斜する複数、図示例では左右それぞれ3本ずつ設けられている。また、
図11(D)〜(F)に示される例では、前記枝分かれ部22cとして、パッド長手方向の前端、後端又は前端及び後端のそれぞれに、凹溝22が放射状に複数に、図示例では5本に枝分かれしたものが設けられている。
【0059】
なお、予め吸収体4の凹溝22の形成予定部分に前記吸収体凹部20を設ける場合、上記凹溝22の形状に沿って吸収体凹部20を設けるようにする。
【0060】
上記形態例では、前記吸収体凹部20は、
図2に示されるように、有底の凹溝状に形成していたが、
図12に示されるように、表面側から裏面側にかけて貫通したスリット状に形成してもよい。前記吸収体凹部20をスリット状とした場合、前記エンボス部21は、
図12に示されるように、吸収体凹部20の底面に配置される吸収体凹部20を貫通した不透液性裏面シート2に対して施すようにする。前記吸収体凹部20をスリット状に形成し凹溝22の底部に吸収体4が介在しない場合であっても、凹溝22の底面に介在する透液性表面シート3を通じても尿が吸収体4に吸収保持されるとともに、この凹溝底面の透液性表面シート3に吸収された尿が凹溝22に沿って拡散するため、吸収性能の低下は極僅かに抑えられる。特に、前記透液性表面シート3を上記の凹凸形状によって形成し、凹溝22の底部においても凹凸形状が維持されるようにした場合、尿の吸収性や拡散性の低下はほとんど生じない。
【0061】
前記凹溝22を形成する際に透液性表面シート3の表面側から施すエンボス部21のエンボス幅Aは、吸収体凹部20の溝幅Bとほぼ同等としてもよいし、
図13に示されるように、吸収体凹部20の溝幅Bより小さなエンボス幅Aで付与してもよい(A<B)。すなわち、透液性表面シート3の表面側からエンボスを施した状態で、
図13に示されるように、吸収体凹部20の両側面と、この吸収体凹部20内に介在する透液性表面シート3との間にそれぞれ、空間(バッファーゾーンZ)が形成されるようにしている。このバッファーゾーンZは、
図14(A)に示されるように、凹溝22内に流入した尿が透液性表面シート3を透過して吸収体凹部20の側面と透液性表面シート3との間に一時貯留される空間として利用可能であり、このバッファーゾーンZに一時貯留された尿は、吸収体凹部20に沿って前後方向に拡散するとともに、吸収体凹部20の側面を通じて吸収体4内に吸収保持されるようになる。このため、一気に大量の排尿があった場合でも、尿が前記バッファーゾーンZに一時貯留されることにより素早く吸収できるようになる。
【0062】
また、前記吸収体凹部20が圧搾によることなく形成されているため、
図14(B)に示されるように、前記吸収体凹部20内に尿が浸透して吸収体凹部20周辺のポリマー8やパルプが吸水することにより膨張した場合に、圧搾によって底部にパルプやポリマーの高密度領域が形成されたものに比べて、底部の盛り上がりが極めて小さく抑えられるようになる。また、この吸収体凹部20に対して、透液性表面シート3の表面側から吸収体凹部20の底面に対しエンボス部21が施されているため、吸収体凹部20の両側面が内側に膨出しても、吸収体凹部20内に介在した透液性表面シート3の張力によって膨張しようとする吸収体凹部20の両側面をしっかりと押さえ込むように作用するので、両側面の膨張も小さく抑えられるようになる。従って、吸液時に膨張したポリマー8やパルプによって吸収体凹部20が塞がれて尿の吸収性が低下するのが防止できるようになる。
【0063】
更に、本失禁パッド1では、凹溝22を形成するエンボス部21の圧搾によって凹溝22の形成領域に設けられた開孔23…をパッド幅方向に拡孔するようにしているため、エンボス圧搾時に透液性表面シート3が吸収体凹部20の側面に接していると開孔23…の拡孔が妨げられる場合がある。これに対して、上述の通り凹溝22のエンボス幅Aを吸収体凹部20の溝幅Bより小さくし、吸収体凹部20の側面と透液性表面シート3との間に前記バッファーゾーンZを設けることにより、透液性表面シート3が吸収体凹部20の側面から離間して、エンボス圧搾時に開孔23…の自由な拡孔が行われるようになる。
【0064】
前記エンボス幅Aと前記吸収体凹部20の溝幅Bとの比A/Bは、0.5以上1未満、好ましくは0.5以上0.8未満とするのがよい。これにより、吸収体凹部20の側面と透液性表面シート3との間に浸透した尿が一時貯留されるとともに、高吸水性ポリマー8やパルプが吸水して膨潤した際に緩衝領域となるバッファーゾーンZ、Zが、適度に形成されるようになる。
【0065】
〔他の形態例〕
上記形態例では、失禁パッド1を例に挙げ説明したが、本発明に係る凹溝構造は、
図15に示されるように、綿状パルプまたは合成パルプなどからなり、たとえば砂時計形状(または長方形状等)のある程度の剛性を有する吸収体4と、該吸収体4の肌面側(使用面側)を覆うように配設された尿などを速やかに透過させる透液性表面シート3と、前記吸収体4の非肌面側(非使用面側)に配設され、少なくとも吸収体4の全面積を覆うように配設されたポリエチレンシートなどからなる不透液性の防漏シート2と、この防漏シート2の外面側(非肌面側)に設けられた不織布からなるとともに、おむつ外形を画成する外面バックシート2aと、前記吸収体4の形状保持および拡散性向上のために、前記吸収体4を囲繞するクレープ紙や不織布等からなる被包シート5と、前記吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも尿排出部位を含むように長手方向に所定の区間内において肌側に突出して設けられた左右一対の立体ギャザーBS、BSを形成するサイド不織布7、7と、おむつ後側(背側)両側部に設けられた機械接合式のファスニングテープF、Fとから主に構成された使い捨ておむつ1Aにも同様に採用できる。また、
図15ではテープ式の使い捨ておむつを示したが、パンツ式の使い捨ておむつにも同様に採用できる。また、
図15では、上記形態例のうち代表的な凹溝構造について図示したが、上記形態例で説明した全ての変形例を同様にして採用できる。