【文献】
TERENT'EV et al.,A new method for the synthesis of bishydroperoxides based on a reaction of ketals with hydrogen peroxide catalyzed by boron trifluoride complexes,Tetrahedron Letters,2003年,44(39),pp.7359-7363
【文献】
ZMITEK et al.,The Effect of Iodine on the Peroxidation of Carbonyl Compounds,Journal of Organic Chemistry,2007年,72(17),pp.6534-6540
【文献】
ZMITEK et al.,Iodine as a Catalyst for Efficient Conversion of Ketones to gem-Dihydroperoxides by Aqueous Hydrogen Peroxide,Organic Letters,2006年,8(12),pp.2491-2494
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物およびその生理学的に許容される塩から選択される1つ以上を有効成分として含む、酸化ストレス性疾患の予防および/または治療剤。
前記酸化ストレス性疾患が、神経変性疾患、血管障害、心疾患、炎症性疾患、眼疾患、および皮膚疾患からなる群から選択される、請求項7に記載の予防および/または治療剤。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0010】
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0011】
(gem−ジヒドロペルオキシド化合物)
本発明の第一の側面では、下記式(1)で表わされる新規化合物またはその生理学的に許容される塩(以下、下記式(1)で表わされる化合物またはその生理学的に許容される塩を、単に「本発明に係る化合物」とも称する。)が提供される。
【0013】
ただし、上記式(1)において、R
1は置換または無置換の、直鎖、分岐鎖または脂環式構造の炭素数1〜4の飽和炭化水素基であり;R
2は置換または無置換の、直鎖、分岐鎖または脂環式構造を含む炭素数7〜13の飽和炭化水素基であり;R
1とR
2との炭素数の合計が11〜14である。
【0014】
上記の炭素数1〜4の飽和炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、2−メチルシクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基が挙げられる。
【0015】
上記の炭素数7〜13の飽和炭化水素基としては、具体的には、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基のようなアルキル基のほか、アルキル置換または非置換の単環(例えば、シクロアルキル基)、多環(例えば、ビシクロヘキシル基)または縮合環(デカヒドロナフチル基)のような脂環式構造を含むものが挙げられる。アルキル置換された脂環式構造を含む飽和炭化水素基としては、例えば、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。
【0016】
上記式(1)で表わされる化合物は、単一の炭素原子に2つのジヒドロペルオキシ基を有するgem−ジヒドロペルオキシド化合物の一種である。gem−ジヒドロペルオキシド化合物は、トリオキサン、テトラオキサンおよびエンドペルオキシドなどの合成中間体、ラジカル重合開始剤、ならびにエポキシ化やスルホキシ化のための酸化剤等として利用されている。
【0017】
上記式(1)において、抗酸化活性および抗がん活性の観点から、R
1は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましい。
【0018】
上記式(1)において、抗がん活性の観点から、R
2の炭素数は8〜13であることが好ましく、より好ましくは9〜11である。また、R
2は、上記いずれかの炭素数である直鎖、または分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。
【0019】
R
1やR
2の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素数2〜3のアシル基、炭素数1〜3のアルコキシ基等が挙げられる。
【0020】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0021】
アシル基としては、アセチル基、およびプロピオニル基が挙げられる。
【0022】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、およびプロポキシ基が挙げられる。
【0023】
R
1とR
2との炭素数の合計は11〜14であればよいが、抗がん活性の観点から、好ましくは11〜13であり、より好ましくは11〜12である。
【0024】
抗酸化活性および抗がん活性の観点から、本発明の好ましい一実施形態は、上記式(1)において、R
1が炭素数1〜2のアルキル基であり;R
2が置換または無置換の、直鎖、分岐鎖または脂環式構造を含む炭素数9〜11の飽和炭化水素基であり、R
1とR
2との炭素数の合計が11〜12である。
【0025】
抗酸化活性および抗がん活性の観点から、本発明のより好ましい別の実施形態は、上記式(1)において、R
1が炭素数1〜2のアルキル基であり;R
2が置換または無置換の、炭素数9〜11のアルキル基であり、R
1とR
2との炭素数の合計が11〜12である。
【0026】
本発明に係る化合物の具体例を以下に例示するが、本発明がこれらに制限されるものではない。なお、下記において、「AC」の直前の数字は化合物に含まれる炭素数を、「O」の直前の数字は2つのヒドロペルオキシド基が接続する炭素の位置を示す。
【0030】
本明細書において「生理学的に許容される塩」とは、哺乳動物、特にヒトに投与される際に過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題や合併症などの望ましくない反応を引き起こさない塩であり、例えば、適切なカチオン(ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウムなど)の塩である。上記式(1)のヒドロペルオキシド基における水素原子が脱離したペルオキシドアニオンと、上記カチオンとがイオン対を形成し得る。
【0031】
式(1)で表わされる化合物は、gem−ジヒドロペルオキシド化合物の合成方法として従来公知の手法を用いて得ることができる。例えば、N.Tada et al.,Adv.Synth.Catal.,(2010)352,2383−2386、 N.Tada et al.,Chem.Commun.,(2010)46,1772−1774、または非特許文献1等に記載された手法が用いられうる。より具体的には、ケトンを原料とし、過酸化水素等を用いて原料ケトンのカルボニル基を2つのヒドロペルオキシド基に酸化すればよい。
【0032】
原料として用いられるケトンは、目的とするgem−ジヒドロペルオキシド化合物の構造(例えば、炭素数およびジヒドロペルオキシドの位置)に合わせて選択すればよい。ケトンにおけるカルボニル基が連結した炭素が、式(1)の化合物においてヒドロペルオキシド基が連結した炭素になるので、目的とするR
1やR
2の長さに合わせて、用いるカルボニル基の位置が適切なケトンを原料として適宜選択する。例えば、原料として3−ドデカノンを用いれば、R
1の炭素数が2、R
2の炭素数が9である、式(1)で表わされる化合物(上記化合物2)を得ることができる。
【0033】
原料として用いるケトンとしては、炭素数12〜15であるものが用いられる。原料として用いるケトンとしては、好ましくは、炭素数12〜13の直鎖または分岐鎖のものが好ましく用いられる。ケトン基の置換基は、本発明に係る化合物において上記したものが例示できる。
【0034】
より具体的には、原料ケトンとしては、例えば、2−ドデカノン、3−ドデカノン、4−ドデカノン、5−ドデカノン、2−トリデカノン、3−トリデカノン、4−トリデカノン、5−トリデカノン、2−テトラデカノン、3−テトラデカノン、4−テトラデカノン、5−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、3−ペンタデカノン、4−ペンタデカノン、5−ペンタデカノン、2−メチル−3−ウンデカノン、5‐エチル‐3‐デカノン、2‐メチル‐5‐エチル‐3‐デカノン、1−(1−メチルシクロヘキシル)エチルエチルケトン等が挙げられる。
【0035】
上記の原料ケトンを溶媒中で酸化反応させ、gem−ジヒドロペルオキシド化合物を合成する。用いる溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、tert−ブタノール、アセトン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタンのような極性溶媒や、ヘキサン、塩化メチレン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、トルエンのような非極性溶媒を用いることができる。これらの溶媒を1種単独でまたは2種以上を混合して用いることもできる。
【0036】
溶媒に加える原料ケトンの量は特に制限されないが、例えば、0.001〜10モル/Lであるが、好ましくは0.01〜1モル/Lである。
【0037】
溶媒に溶解させた原料ケトンに、1〜10モル当量の過酸化水素等を加えて原料ケトンのカルボニル基をジヒドロペルオキシドに酸化する。このとき、必要に応じて、ヨウ素等の触媒を添加してもよい。触媒の添加量は特に制限されず、例えば、原料ケトン1モルに対して0.0001〜0.5モルである。
【0038】
溶媒に溶解させた原料ケトンの酸化反応は、例えばN.Tada et al.,Adv.Synth.Catal.,(2010)352,2383−2386や、非特許文献1等に記載されるように、酸素等の酸化性ガス雰囲気において光酸化により行ってもよい。より具体的には、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を光源とし、紫外線や可視光を原料ケトン溶液に照射して酸化反応を行う。この場合、必要に応じて、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、ピレン化合物、レドックス化合物、アゾ化合物、またはジアゾ化合物等の光増感剤を適宜添加してもよい。
【0039】
酸化反応の温度は任意に設定すればよいが、例えば10〜50℃であり、好ましくは20〜40℃である。反応時間も特に制限されず、例えば0.1〜50時間であり、好ましくは5〜30時間である。
【0040】
酸化反応によって得られた本発明に係る化合物は、従来公知の方法によって分離精製してもよい。分離精製方法としては、これらに限定されるものではないが、例えばろ過、抽出(例えば、エーテル抽出)、分配、晶析、クロマトグラフィー(例えば、中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー)等の手段を1つまたは2つ以上組み合わせて行うことができる。
【0041】
得られた化合物の構造は、NMR、質量分析、分光測定などの当業者に公知の手段によって解析することができる。より具体的には、実施例に記載の手段により解析することができる。
【0042】
(抗酸化剤)
生体内における活性酸素やフリーラジカルの発生は、炎症性疾患等の疾病の発症に関連していると考えられており、医薬品や化粧品の分野において抗酸化活性を有する成分の開発が進められている。本発明者らは、本発明に係る化合物が、高い抗酸化活性を有することを見出した。従って、本発明の第二の側面では、式(1)で表わされる化合物またはその生理学的に許容される塩から選択される1つ以上を有効成分として含む、抗酸化剤が提供される。
【0043】
ヒドロペルオキシド基を有する化合物は、一般的には酸化活性を有する。本発明に係るgem−ジヒドロペルオキシド化合物もヒドロペルオキシド基を有するが、驚くべきことに、高い抗酸化活性を有する。
【0044】
本発明に係る化合物は、スーパーオキシドアニオンやヒドロキシルラジカル等の活性酸素種を、特に有効に消去し得る。
【0045】
酸素を利用してエネルギーを得る生体では、活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)や過酸化脂質等のフリーラジカルが継続的に産生される。ROSやフリーラジカルは反応性が高く、タンパク質、脂質、DNA等の機能分子を修飾して、細胞機能障害を惹起する。細胞はROSやフリーラジカルに対する防御機構を備えているが、過剰のROSが蓄積すると酸化ストレスが生じ、神経変性疾患等の酸化ストレスが関連する疾患の発症や症状が進展すると考えられている。本発明の第二の側面に係る抗酸化剤は、活性酸素消去剤および/またはフリーラジカル消去剤として、生体内における活性酸素種やフリーラジカルを有効に消去し得る。従って、本発明の第二の側面に係る抗酸化剤により、酸化ストレスが関与する神経変性疾患、血管障害、心疾患、炎症性疾患、眼疾患および/または皮膚疾患を予防および/または治療することができ、特に炎症性疾患に好適に用いられ得る。
【0046】
本発明の一実施形態では、本発明に係る化合物およびその生理学的に許容される塩から選択される1つ以上を有効成分として含む、酸化ストレス性疾患の予防および/または治療剤が提供される。一実施形態では、酸化ストレス性疾患が、神経変性疾患、血管障害、心疾患、炎症性疾患、眼疾患、および皮膚疾患からなる群から選択される。なお、本明細書では、「酸化ストレス性疾患の予防および/または治療剤」を「抗酸化ストレス剤」とも称する。
【0047】
神経変性疾患としてはアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病、プリオン病などが例示される。また、血管障害としては、脳卒中、脳梗塞、一過性脳虚血発作、血管炎などが例示される。心疾患としては、狭心症、心筋梗塞などが例示される。炎症性疾患としては、潰瘍性大腸炎、クローン病、喘息、急性呼吸窮迫症候群、劇症肝炎、過敏性肺疾患、関節リウマチ、アレルギー性鼻炎、I型糖尿病、およびシェーグレン症候群などが例示される。眼疾患としては、網膜症、白内障、緑内障、加齢黄斑変性などが例示される。また、皮膚疾患としては、日光皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、および蕁麻疹などが例示される。
【0048】
医薬品として本発明に係る抗酸化剤または抗酸化ストレス剤が投与される場合、投与が行われる対象である被験体としては、ヒトおよび非ヒト動物である。非ヒト動物としては脊椎動物が挙げられ、例えばヒト以外の霊長類(特に高等霊長類)、イヌ、げっ歯類(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ネコおよびウサギのような哺乳動物、ならびに鳥類、両生類、爬虫類などのような非哺乳類が挙げられる。一実施形態では、被験体はヒトである。別の実施形態においては、被験体は、非ヒト動物または疾患モデルとして適した動物である。
【0049】
本明細書において「有効成分として含む」とは、所望の活性(抗酸化活性、酸化ストレス性疾患の予防活性または治療活性、抗がん活性等)を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)で含むことを意味する。従って、本発明に係る抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、本発明に係る化合物のみを含有してもよいが、所望の活性を損なわない限りにおいて、製薬上許容されうる担体や、他の添加剤などとともに組成物を構成してもよい。また、本発明に係る抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、賦形剤などの添加剤と混合して非経口投与、経口投与または外部投与に適した形で使用することができる。例えば、本発明に係る抗酸化剤または抗酸化ストレス剤の好ましい一実施形態によれば、上述した本発明に係る化合物と、製薬上許容されうる担体とを含有する、皮膚外用剤組成物が提供される。当該皮膚外用剤組成物は、医薬品である場合には、皮膚組織における酸化ストレスが関連する疾患または病態の予防および/または治療に用いられうる。また、当該皮膚外用剤組成物は、化粧品である場合には、皮膚組織における酸化ストレスが関連する疾患または病態の予防および/または改善に用いられうる。
【0050】
本発明に係る抗酸化剤または抗酸化ストレス剤を医薬として用いる場合、その投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異がある。例えば、対象となる者の体重等の条件によって用量は容易に変動しうるため、投与量は当業者によって適宜選択されうるが、一般には、乾燥重量として0.001〜1000mg/日/kg体重の範囲であることが望ましい。
【0051】
医薬品や化粧品に使用する場合、有効量の本発明に係る化合物が、1つまたは複数の製薬上許容されうる担体(添加剤)および/または希釈剤とともに製剤化されうる。以下で詳細に説明するように、本発明に係る抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、固体または液体での投与のために製剤化することができる。経口投与剤としては、例えば、水薬(水溶液もしくは非水溶液または懸濁液)、錠剤、巨丸剤、粉末薬、顆粒剤、およびペースト等が例示される。非経口投与剤としては、例えば、皮下、腹腔内、筋内もしくは静脈内注射剤、または膣内もしくは直腸内へ投与するための剤形へと製剤化されうる。皮膚外用剤とする場合、その形態は特に限定されず、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチなどの医薬品形態;化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤、ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、洗顔剤、ボディソープ、ハンドクリーム、シャンプー、リンス、整髪料等のスキンケア用品またはメイクアップ用品の化粧品形態が例示される。なかでも、化粧品形態の場合、広範囲の部位に適用できる点で、化粧水、化粧用ゲル、化粧用乳液、化粧用クリーム、美容液が好ましく、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリームがより好ましい。
【0052】
「製薬上許容されうる担体」とは、体の一器官または一部から体の別の器官または一部へ本発明に係る組成物を運搬または輸送することに関与する、液体または固体の製薬上許容されうる充填剤、希釈剤、補形薬、溶剤、カプセル化材料、賦形剤、またはこれらの組成物を意味する。製薬上許容されうる担体としては、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロースのような糖;トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのようなセルロースおよびその誘導体;トラガカント;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐薬ワックスのような補形薬;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油のような油脂;プロピレングリコールのようなグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールのようなポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩液;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液等が例示できる。
【0053】
本発明に係る抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、製薬上許容されうる他の抗酸化剤(酸化防止剤)と共に組成物中に存在しても良い。製薬上許容されうる他の酸化防止剤の例には、例えば以下のものがある:アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性酸化防止剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等のような油溶性酸化防止剤;ならびにクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤も必要に応じて含有させることができる。
【0054】
その他、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムのような湿潤剤、乳化剤、潤滑剤、着色剤、放出剤、被覆剤、甘味料、香料、保存料および酸化防止剤もまた組成物中に存在してもよい。
【0055】
非経口投与に好適な形態に製剤化された本発明に係る抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、本発明に係る化合物とともに、1つまたは複数の製薬上許容されうる溶媒、分散剤、乳化剤、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、等張化剤、および/または懸濁剤を含みうる。非経口投与用とする場合には、本発明に係る化合物を精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理食塩水、リンガー溶液(リンゲル液)、ロック溶液等の生理的塩類溶液、エタノール、グリセリンおよび界面活性剤等と適当に組み合わせた、水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョンとして製剤化され得る。例えば、注射用水溶液として製剤化され、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内等に投与される。この際、製剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHであることが好ましい。また、ローション剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤、散剤、粉剤(粉状)、用事調製用の固形製剤、または貼付剤などの外用剤として、標的部位およびその周辺部位に経皮的に投与してもよい。さらに、坐薬用基剤を用いた坐薬として投与されることも可能である。上述したうち、好ましい製剤や投与形態等は、担当の医師によって選択され得る。ローション剤、クリーム剤または軟膏などの半固形製剤は、本発明に係る化合物を、油脂、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤および懸濁剤などからなる群から選択される一種以上と適宜混和することにより得られる。
【0056】
抗酸化剤および抗酸化ストレス剤は、保存料、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助薬や、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の種々の抗菌剤および抗真菌剤を含んでもよい。糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含めることもできる。さらに、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用物質を用いることにより、吸収持続性のある製剤になり得る。
【0057】
本発明の一実施形態では、上記式(1)で表わされる新規化合物またはその生理学的に許容される塩を使用した、酸化ストレス性疾患の予防および/または治療方法が提供される。
【0058】
本発明の別の実施形態では、酸化性ストレス疾患の予防および/または治療薬の製造における、上記式(1)で表わされる新規化合物またはその生理学的に許容される塩の使用が提供される。
【0059】
これらの実施形態において、酸化ストレス性疾患は、酸化ストレスが関与する疾患として上記した神経変性疾患、血管障害、心疾患、炎症性疾患、眼疾患および皮膚疾患等が例示でき、炎症性疾患に特に好適に用いられる。
【0060】
(抗がん剤)
厚生労働省の「人口動態統計」における日本人の主要死因別年齢調整死亡率において、昭和56年から現在に至るまで悪性新生物(がん)が第一位となっており、がんによる死亡率は近年まで低下傾向を示さず、横ばいか、微増を示している。このため、がんの治療および症状の軽減に適した治療方法を開発するために多くの研究が行われている。化学治療の分野においては、抗生物質、代謝拮抗物質、アルキル化剤、ホルモン剤などががん細胞に有効な抗がん剤として見いだされている。しかしながら、これらの抗がん剤は、がん細胞を攻撃するだけでなく正常細胞にも作用することから、嘔吐、悪心、食欲不振、脱毛などの副作用を引き起こす問題が発生しており、これらの副作用が少ない新規な治療薬の開発が望まれている。本発明者らは、本発明に係る化合物が高い抗がん活性を有し、さらに、正常細胞に対する細胞毒性がきわめて低いという利点を備えていることを見出した。従って、本発明の第三の側面では、式(1)で表わされる化合物またはその生理学的に許容される塩から選択される1つ以上を有効成分として含む、抗がん剤が提供される。
【0061】
本発明に係る化合物が抗がん活性を示すメカニズムは、以下のように考えられる。すなわち、本発明に係る化合物によって細胞周期の停止やアポトーシスが誘導され、抗がん活性が発揮されるものと推測される。一方、細胞膜が健全な正常細胞では本発明に係る化合物の取り込みが低く、癌化していない正常細胞においては細胞毒性を誘発しにくいものと考えられる。なお、上記内容は推定であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0062】
本発明に係る抗がん剤は、がんの治療、予防、低減、および/または処置のため、医薬として被験体に投与される。ここで、本発明に係る抗がん剤が使用されるがんは、がん細胞の増殖が抑制される限り特に制限されるものではないが、例えば大腸がん、胃がん、食道がん、乳がん、白血病、肺がん、前立腺がん、肝臓がん、胆道がん、脾臓がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、膵臓がん、脳腫瘍、造血器腫瘍、悪性黒色腫などが挙げられる。本発明に係る抗がん剤は、白血病に特に有効に用いられ得る。
【0063】
本発明に係る抗がん剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異がある。例えば、対象となる者の体重等の条件によって用量は容易に変動しうるため、投与量は当業者によって適宜選択されうるが、例えば、乾燥重量として0.001〜1000mg/日/kg体重の範囲であることが望ましい。
【0064】
抗酸化剤および抗酸化ストレス剤についての剤形、処方および製剤化、ならびに被験体等に関する上述の記載は、本発明に係る抗がん剤にも適宜改変して適用される。
【0065】
本発明に係る抗がん剤は、必要に応じて、他の抗がん剤と組み合わせて用いられてもよい。他の抗がん剤としては、例えば、フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、カペシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、エノシタビン、ゲムシタビン、アザシチジン、デシタビン、フロクスウリジン、エチニルシチジン、6−メルカプトプリン、フルダラビン、ペントスタチン、ネララビン、6−チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、ノラトレキセド、プララトレキサート、トリメトレキサート、イダトレキサート、ヒドロキシカルバミド、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ミリプラチン、ロバプラチン、スピロプラチン、テトラプラチン、オルマプラチン、イプロプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、メルファラン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、グルフォスファミド、マフォスファミド、エストラムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、プロカルバジン、ダカルバジン、テモゾロミド、チオテパ、ヘキサメチルメラミン、トラベクテジン、アパジコン、アルトレタミン、ベンダムスチン、ミトラクトール、アントラサイクリン系抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、アムルビシン、ゾルビシン、バルルビシン、リポソーマルドキソルビシン、ピクサントロン、およびミトキサントロン)、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、アクチノマイシンD、ジノスタチンスチマラマー、トポテカン、イリノテカン、エキサテカン、ノギテカン、エトポシド、テニポシド、ゾブゾキサン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ビンフルニン、モノメチルアウリスタチンE、エポチロンB、エリブリン、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、アミノグルテチミド、ホルメスタン、ボロゾール、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、ゲストノロン、メピチオスタン、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、フィナステリド、クロルマジノン、エストラムスチン、ジエチルスチルベストロール、エチニルエストラジオール、ホスフェストロール、リン酸ポリエストラジオール、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ミトタン、ゴセレリン、リュープロレリン、ブセレリン、トリプトレリン、ベバシズマブ、アフリベルセプト、MV833、セツキシマブ、ペガプタニブ、パゾパニブ、CBO−P11、スニチニブ、ソラフェニブ、ラニビズマブ、バタラニブ、アキシチニブ、ザクティマ、NX1838、アンジオザイム、セマキサニブ、レスタウルチニブ、TSU−68、ZD4190、テムシロリムス、アンジオスタチン、エンドスタチン、TNP−470、CP−547632、CPE−7055、KRN633、AEE788、IMC−1211B、PTC−299、E7820、レンバチニブ、マリマスタット、ネオバスタット、プリノマスタット、メタスタット、BMS−275291、MMI270、S−3304、ビタキシン、オロチン酸カルボキシアミドトリアゾール、サリドマイド、ゲニステイン、インターフェロンα、およびインターロイキン12等が挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態では、上記式(1)で表わされる新規化合物またはその生理学的に許容される塩を使用した、がんの予防および/または治療方法が提供される。本実施形態に係る方法は、外科的治療や放射線療法等、公知の他の治療方法と適宜組み合わせて行われ得る。
【0067】
本発明の別の実施形形態では、抗がん剤の製造における、上記式(1)で表わされる新規化合物またはその生理学的に許容される塩の使用が提供される。
【0068】
(化粧品)
本発明の第四の側面では、式(1)で表わされる化合物またはその生理学的に許容される塩から選択される1つ以上を含む、化粧品が提供される。本発明に係る化合物は抗酸化性に優れるため化粧品の酸化劣化を有効に防止し、また、酸化ダメージや老化から皮膚を保護し得る。
【0069】
この際、化粧品(化粧用組成物)の形態としては、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤、ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、洗顔剤、ボディソープ、ハンドクリーム、シャンプー、リンス、整髪料等のスキンケア用品またはメイクアップ用品などが挙げられるが、特にこれらに限定はされない。本発明に係る化合物を含有するこのような化粧品(化粧料組成物)は、当業者に公知の手法を用いて製造されうる。
【0070】
本発明に係る化合物を含有する化粧品(化粧料組成物)は、皮膚への塗布に適した生理学的に許容される担体、例えば上述の抗酸化剤に関して説明される担体を含む。本発明に係る化合物が適切な濃度で塗布され、均一を保つため、公知の希釈剤、分散剤、溶媒などを担体として利用することもできる。担体は、固体、半固体、または液体であり得る。
【0071】
本発明に係る化合物を含有する化粧品は、動物脂もしくは植物脂等の油脂、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはそれらの混合物のような賦形剤を含んでもよい。
【0072】
これらの化粧品(化粧料組成物)における本発明に係る化合物の配合量は、化粧品の種類や状態等により一律に規定しがたいが、化粧品の全重量に対して、0.01〜80質量%、より好ましくは0.1〜20質量%である。
【実施例】
【0073】
本発明の効果を、以下の実施例を例示してより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0074】
<1.gem−ジヒドロペルオキシド化合物の製造>
(製造例1)
以下の方法により、式(1)で表わされる化合物の一種である化合物2(12AC−3O)を得た。化合物2(12AC−3O)の製造方法を、以下に模式的に表す。なお、上記の「12AC−3O」において、数値「12」は化合物に含まれる炭素数を、数値「3」は2つのヒドロペルオキシド基が接続する炭素の位置を示し、下記表1〜3における化合物名称も同様である。ヒドロペルオキシド基が接続する炭素の位置は、原料ケトンのカルボニル基が存在する位置である。
【0075】
【化5】
【0076】
具体的には、アセトニトリル(3mL)中に3−ドデカノン(110.6mg,0.6mmol)、およびヨウ素(7.6mg,0.03mmol)を溶解させた。35重量%過酸化水素水溶液(206.3μL,2.4mmol)を反応液に加え、アルゴン雰囲気下において25℃で15時間反応させた。その後、エーテルを用いて抽出し、減圧乾燥して得られた粗生成物を中圧カラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、ヘキサン:EtOAc=1:0 → 2:1(v:v)のリニアグラジエント)にて分離精製した。これにより、化合物2(12AC−3O)(72.7mg,収率52%)を得た。
【0077】
(製造例2〜17)
製造例1における原料ケトンを表1〜3に記載のものに変更した以外は製造例1と同様にして、表1〜3に記載のgem−ジヒドロペルオキシド化合物を得た。なお、表1〜3において、「R
1」および「R
2」の数値は、式(1)における「R
1」および「R
2」のそれぞれの炭素数である。
【0078】
(構造解析)
上記のように調製した各gem−ジヒドロペルオキシド化合物について、NMR(機器名:AL400 spectrometer、ECA500 spectrometer測定機器:JEOL社製)により構造解析を行った。なお、下表において融点(mp)は、微量融点測定装置MP−S3((株)アナテック・ヤナコ社製)により求めた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
<2.抗酸化活性測定(ESR)>
上記gem−ジヒドロペルオキシド化合物をK562細胞(5×10
5細胞/ml)に対して10μMで4時間または8時間処理した。その後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離により細胞を回収した。100μLの5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド(DMPO)により回収した細胞を完全に溶解した。JES−FA200 X−band spectrometer(日本電子株式会社製)を用いて、調製した溶解液の抗酸化活性を測定した。なお、スピントラップ剤としてDMPOを用いている。
【0083】
gem−ジヒドロペルオキシド化合物の溶剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)、化合物2(12AC−3O)、および比較化合物4(11AC−3O)についてのESRスペクトルを
図1に示す。
【0084】
本発明に係る化合物を用いた場合、DMSOや比較例と異なり、ESRスペクトルにおいてピークが消失した。従って、本発明に係る化合物は高い抗酸化活性を有することが分かる。
【0085】
<3.抗がん活性と細胞毒性>
3−1.K562細胞の培養
ヒト白血病細胞株K562細胞(ATCCより購入)を、10%(v/v)の熱不活性化ウシ胎仔血清(シグマ社製)を加えたRPMI1640培地(和光純薬社製)を用いて、5%二酸化炭素、37℃条件下で培養した。なお、ヒト正常リンパ球については、Ficoll−Paque(Invitrogen社製)を用いて比重遠心法によりリンパ球を単離して、試験に用いた。
【0086】
3−2.生細胞数のカウント
上記のように調製した細胞を、0.8〜1.0×10
5細胞/ウェルとなるようにマルチウェルプレートに播種した。播種から3日後、細胞増殖を誘導するため、75μMのコンカナバリンA(Con−A)により72時間細胞を刺激した後、培地を交換した。その後、DMSOに溶解させたgem−ジヒドロペルオキシド化合物を、終濃度が10μMとなるように培地に添加した。
【0087】
gem−ジヒドロペルオキシド化合物を含む培地中で細胞を24時間培養した後、生細胞の数をカウントした。生細胞数はトリパンブルー色素排除試験により算定した。DMSOで処理した群の生細胞数を100%とし、DMSO処理群に対する他の試験群における生細胞の割合を算出した(n=6)。結果を
図2に示す。
【0088】
図2に示す通り、本発明に係る化合物で処理した群は、がん細胞の生細胞の割合が少ないことが分かる。上記式(1)において、R
1が炭素数1〜2のアルキル基であり;R
2が炭素数9〜11の飽和炭化水素基であり、R
1とR
2との炭素数の合計が11〜12である化合物については、特に高い抗がん活性を有することが分かる。化合物13では細胞の生存が認められなかった。
【0089】
さらに、10μMの化合物2(12AC−3O)で上述のように処理したK562細胞の生細胞数を経時的に評価した。処理前を100%として生細胞数を算出した結果を、
図3に示す。
【0090】
図3に示す通り、本発明に係る化合物により処理した後、急速に生細胞の割合が減少していることが分かる。
【0091】
上記のように10μMの化合物2(12AC−3O)で48時間処理した後、電子顕微鏡(製品名H−7650、日立ハイテクノロジーズ社製)にて細胞を観察した。その結果を
図4に示す。
【0092】
図4に示す通り、本発明に係る化合物で処理した細胞は、核が断片化している(
図4中の矢印)ことが分かる。
【0093】
3−3.アポトーシスの評価
gem−ジヒドロペルオキシド化合物の抗がん活性のメカニズムを解析するため、がん細胞に対するアポトーシス誘導の有無を形態的に評価した。すなわち、上記のように10μMの化合物2(12AC−3O)で4時間または8時間処理したK562細胞を、製造業者のプロトコルに従ってHoechst33342にて染色し(37℃、60分間、5μg/ml Hoechst33342、株式会社同仁化学研究所製)、リン酸緩衝生理食塩液(PBS,タカラバイオ株式会社製)で洗浄した。PBSにて細胞を再懸濁し、スライドガラスへ懸濁液を滴下し、顕微鏡(オリンパス社製)を用いた蛍光顕微鏡法により検査した。結果を
図5に示す。
【0094】
DMSOで処理した群では核の断片化や凝縮は観察されなかったが、化合物2(12AC−3O)で処理した群では核の断片化や凝縮(
図5中の白矢印)が観察された。
【0095】
さらに、アポトーシスを起こしている細胞の数をカウントし、細胞数全体に対するアポトーシスを起こしている細胞の割合を算出した結果を
図6に示す。
【0096】
以上より、本発明に係る化合物により、がん細胞のアポトーシスが処理後短時間で誘導されていることが示された。
【0097】
3−4.アポトーシス関連タンパクの解析
10μMの化合物2(12AC−3O)で2時間、4時間、8時間、12時間、または24時間処理した細胞を用いて、ウェスタンブロットによりアポトーシス関連タンパク質の解析を行った。
【0098】
(ウェスタンブロット)
氷冷した溶解バッファー(10mMトリス−HCl(pH7.4)、1%(w/v)NP−40、0.1%(w/v)デオキシコール酸、0.1%(w/v)SDS、150mM NaCl、1mM EDTA、および1%(w/v)プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ−アルドリッチ社))中で細胞をホモジナイズし、氷上で20分間静置した。ホモジネートを13,000rpmで20分間(4℃)遠心分離した後、上清を全細胞タンパク質試料として採取した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。
【0099】
試料(10μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS−T)で調製)中で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するPBS−Tで適度に希釈した抗PARP抗体(Cell Signaling社製)、または抗カスパーゼ8抗体(Cell Signaling社製)と共に、4℃で膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄し、二次抗体(HRP−結合ヤギ抗ウサギ抗体、またはHRP−結合ウマ抗マウスIgG抗体、以上セルシグナリングテクノロジー社)と共に室温(25℃)でさらにインキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗β−アクチン抗体(シグマ−アルドリッチ社)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、β−アクチンを内部標準として用いた。ウェスタンブロットの結果を
図7に示す。
【0100】
図7に示す通り、本発明に係るgem−ジヒドロペルオキシド化合物により、カスパーゼ8が活性化され、PARP(ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ)の切断が進行していることが分かった。従って、タンパク質レベルの試験においても、アポトーシスの進行が確認された。
【0101】
3−5.正常細胞に対する細胞毒性
ヒト正常リンパ球をK562細胞の場合と同様の条件で培養し、コンカナバリンAで刺激した後、5μMまたは10μMの化合物2(12AC−3O)で8時間処理した。その後、上述のようにDMSO処理群に対する化合物2(12AC−3O)処理群の生細胞の割合を算出した。結果を
図8に示す。
【0102】
正常細胞においては、DMSO処理群に対して、化合物2(12AC−3O)処理群の生細胞割合は同程度であった。以上より、本発明に係る化合物は、正常細胞に対する細胞毒性が低いことが分かる。