(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低温側電極が、前記熱電変換素子に接合される低温側コア電極と、一端側が前記超電導応用機器に接続され他端側がプラグ・ソケット構造により前記低温側コア電極に接続される低温側キャップ電極と、を有し、
前記常温側電極が、前記熱電変換素子に接合される常温側コア電極と、一端側が前記外部機器に接続され他端側がプラグ・ソケット構造により前記常温側コア電極に接続される常温側キャップ電極と、を有し、
前記低温側コア電極と前記低温側キャップ電極との間、及び前記常温側コア電極と前記常温側キャップ電極との間に介在する多点接触式の接触子と、
前記低温側キャップ電極と前記常温側キャップ電極とを連結する固定部材と、を備え、
前記素子ユニットは、前記熱電変換素子、前記低温側コア電極、及び前記常温側コア電極を含んで構成され、軸方向端部側に隙間がある状態で前記低温側キャップ電極と前記常温側キャップ電極とに挟持され、軸方向に移動可能な状態で維持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電流リード。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導ケーブルや超電導マグネット等、超電導を利用した超電導応用機器の分野では、実用化に向けてさかんに研究、開発が行われている。一般に、超電導応用機器は低温部(低温容器)に設置され、常温部に設置された外部機器(例えば電源)と、電流リードを介して接続される。超電導応用機器の運転は、極低温環境下で行われるため、低温部の断熱性が極めて重要となる。低温部の断熱性が悪く、低温部への熱侵入が大きいと、超電導応用機器の冷却効率が低下して超電導状態を維持するための冷却コストが増大することとなり、場合によっては超電導応用機器を運転できなくなってしまう。この低温部への熱侵入の経路としては、低温容器を伝熱する経路、又は電流リードを伝熱する経路が考えられる。
【0003】
低温容器を介した熱侵入を防止するための手法としては、液体窒素等の冷媒及び超電導応用機器を収容する冷媒槽と、冷媒槽の外側に設けられる真空槽とを有する二重構造の低温容器が知られている。この低温容器によれば、真空断熱により低温部への熱侵入が低減される。
【0004】
電流リードを介した熱侵入を防止するための手法としては、酸化物超電導体を用いた超電導電流リードが提案されている。酸化物超電導体は、金属導体に比較して電気抵抗が小さく、かつ熱伝導率が小さいため(銅の数10分の1)、超電導電流リードにおけるジュール熱の発生はなく、低温部への伝熱量も極めて小さい。したがって、超電導電流リードによれば、低温部への熱侵入が低減される。しかし、超電導電流リードを採用する場合、電流リードの超電導状態を維持できる様に冷却設備を設けなければならず、冷却コストが増大してしまうという課題がある。
【0005】
そこで、電流リードを介した熱侵入を防止するための他の手法として、熱電変換素子(以下「ペルチェ素子」と称する)を利用した熱電冷却型電流リードが提案されている(例えば特許文献1〜3)。熱電冷却型電流リードにおいては、低温部の超電導応用機器に接続される低温側電極と、常温部の外部機器に接続される常温側電極とが、ペルチェ素子を介して接続される。具体的には、低温側電極とペルチェ素子の一端面が半田により接合され、同様に、ペルチェ素子の他端面と常温側電極が半田により接合される。以下において、低温側電極と常温側電極を区別しない場合は、単に電極と称することとする。
【0006】
ペルチェ素子は、通電したときに一端側から吸熱し、他端側から放熱する機能を有する。ペルチェ素子は、例えばBiTe(ビスマス−テルル)系の化合物半導体で構成される。ペルチェ素子がp型半導体で構成される場合は、電流の流入側で吸熱が生じ、流出側で発熱が生じる。逆に、ペルチェ素子がn型半導体で構成される場合は、電流の流入側で発熱が生じ、流出側で吸熱が生じる。したがって、熱電冷却型電流リードにおける通電方向に応じて、p型半導体又はn型半導体で構成されるペルチェ素子を用いることで、通電時に低温部から常温部に向けて熱を移動させることができるので、低温部への熱侵入が低減される。
【0007】
上述したように、ペルチェ素子と電極とは半田付けにより接合されるので、接合強度が低く破損しやすい。そのため、電流リードの設置時などに、意図しない外力が接合部に直接加わらないように、接合部の周囲には補強筒が配置される。この場合、ペルチェ素子及び電極を含む素子ユニット(例えば電極)が補強筒に固定されるため、使用時に熱応力が生じてペルチェ効果が低下したり、ペルチェ素子が破損したりする虞がある。そのため、可撓性を有するフレキシブル導体を利用して、熱応力がフレキシブル導体によって吸収され、ペルチェ素子に加わらないようになっている(例えば特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る電流リード10を用いた超電導磁石装置1を示す図である。
図1に示すように、超電導磁石装置1は、低温部に設置される超電導コイル11と、常温部に設置される電源12と、電源12と超電導コイル11を電気的に接続する電流リード10を備える。2つの電流リード10を区別する場合は、電流リード10A、10Bと称する。
【0015】
超電導コイル11は、例えば、端末容器14内に設置された真空断熱構造を有する低温容器13内に収容され、液体ヘリウムによって冷却される。電源12は、超電導コイル11を励磁するのに必要な電流を、電流リード10を介して供給する。
【0016】
電流リード10は、ペルチェ効果を利用した熱電冷却型の電流リードである。電流リード10は、ペルチェ素子101、低温側電極102、及び常温側電極103を備える。低温側電極102、常温側電極103は、電気抵抗の面からCu含有量が90重量%以上であることが好ましく、例えば純度99.99%以上の無酸素銅で構成される。
【0017】
ペルチェ素子101の一方の面に低温側電極102が接合され、他方の面に常温側電極103が接合される。低温側電極102は超電導コイル11に接続され、常温側電極103は電源12に接続される。電流リード10と超電導コイル11、及び電流リード10と電源12は、例えば銅リード15、16によって接続される。
【0018】
ペルチェ素子101には、室温以下の低温において、性能指数Z(=α
2/(κρ)、α:ゼーベック係数、κ:熱伝導率、ρ:比抵抗)の値が最大となるように組成が調整された半導体を使用することが好ましい。ペルチェ素子101は、例えばBiTe系、BiTeSb系、又はBiSb系の化合物半導体で構成される。
【0019】
特に、熱電変換効率の面から、Te含有量が5〜50重量%であるBiTe系半導体又はBiTeSb系半導体が好適である。BiTe系半導体又はBiTeSb系半導体を適用した場合、常温から200K付近までの温度範囲で良好な冷却能力が得られる。また、BiSb系半導体を適用した場合、200K付近から液体窒素温度(77K)付近までの温度範囲で良好な冷却能力が得られる。
【0020】
電源12の正極側に接続される電流リード10Aのペルチェ素子101にはn型半導体が適用され、負極側に接続される電流リード10Bのペルチェ素子101にはp型半導体が適用される。例えば、BiTe系半導体の導電型は、SbI
3を添加することによりn型に制御され、PbI
3を添加することによりp型に制御される。また、構成元素の量を化学量論比からわずかにずらすことによって、BiTe系半導体の導電型を制御することもできる。
【0021】
電流リード10A、10Bにおいては、ペルチェ素子101の低温側で吸熱が生じ、常温側で発熱が生じる。すなわち、ペルチェ素子101において、通電時に低温側から常温側に向けて熱が移動するので、低温部への熱侵入が低減され、超電導コイル11を効率よく冷却することができる。
【0022】
端末容器14は、例えば有底円筒形状を有し、上部の開口に電流リード固定用フランジユニット20(以下「フランジユニット20」と称する)が取り付けられる。端末容器14は密閉され、超伝導磁石装置1の使用時(通電時)には、真空に排気される。
【0023】
フランジユニット20は、固定フランジ201及び輻射熱防止板202(常温側バッフル板202A及び低温側バッフル板202B)を有する。固定フランジ201には、輻射熱防止板202を固定するためのシャフト203(常温側バッフル板用シャフト203A及び低温側バッフル板用シャフト203B)が垂設される。低温側バッフル板用シャフト203Bは、常温側バッフル板202Aの貫通穴(図示略)に挿通される。低温側バッフル板用シャフト203Bの外径は、常温側バッフル板202Aの貫通穴の内径よりも小さく、互いに接触しない、すなわち直接熱伝導が行われないようになっている。
【0024】
常温側バッフル板用シャフト203A及び低温側バッフル板用シャフト203Bは、例えば同一円周上に等間隔で複数本設けられる。常温側バッフル板用シャフト203Aの一端が固定フランジ201に固定され、他端には常温側バッフル板202Aが固定される。低温側バッフル板用シャフト203Bの一端が固定フランジ201に固定され、他端には低温側バッフル板202Bが固定される。
【0025】
固定フランジ201は、電流リード10の取り付け位置に貫通穴(図示略)を有する。この貫通穴に電流リード10が挿通され、常温側電極103が外部に露出した状態で固定フランジ201に固定される。同様に、常温側バッフル板202A及び低温側バッフル板202Bは、電流リード10の取り付け位置に、電流リード10の外径よりも大径の貫通穴(図示略)を有する。固定フランジ201に電流リード10が取り付けられる際、電流リード10は常温側バッフル板202A及び低温側バッフル板202Bの貫通穴に挿通される。
【0026】
ペルチェ素子101と低温側電極102との接合部J1(以下「低温側接合部J1」と称する)及びペルチェ素子101と常温側電極103との接合部J2(以下「常温側接合部J2」と称する)を含む接合部Jは、端末容器14内に収容される。電流リード10とフランジユニット20を合わせて「電流リード付きフランジユニット」と称する。
【0027】
常温側バッフル板202Aは、低温側接合部J1よりも低温側に位置する。低温側バッフル板203は、低温側バッフル板202よりも低温側に位置する。電流リード10に通電したとき、低温側接合部J1及び常温側接合部J2においてジュール熱が生じるが、このジュール熱の低温側への輻射は常温側バッフル板202A及び低温側バッフル板202Bにより遮断される。そして、常温側バッフル板用シャフト203A及び低温側バッフル板用シャフト203Bを通じて、固定フランジ201に伝達され、放熱される。
【0028】
固定フランジ201、常温側バッフル板202A、低温側バッフル板202B、常温側バッフル板用シャフト203A、及び低温側バッフル板用シャフト203Bは、例えばガラス繊維をプラスチックに混入して強度を向上させたガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)で形成される。GFRP製のものを用いることにより、輻射熱の流入を効果的に遮断することができる。
【0029】
図2は、実施の形態に係る電流リード10の詳細な構成を示す図である。
図3は、ペルチェ素子101と低温側電極102及び常温側電極103との接合部Jを示す図である。
図3Aは接合部Jの側面図であり、
図3Bは
図3AにおけるA矢視断面図である。
図4は、補強筒104を示す図である。
図4Aは補強筒104の側面図であり、
図4Bは
図4AにおけるB矢視断面図である。
図5は、低温側電極102を示す図である。
図5Aは低温側電極102の側面図(フレキシブル導体接続前)であり、
図5Bは
図5AにおけるC矢視平面図である。
図5Cはフレキシブル導体106を接続した後のかしめ部102cを示す平面図である。
【0030】
図2に示すように、電流リード10は、ペルチェ素子101、低温側電極102、常温側電極103、及び補強筒104を備える。電流リード10の構成要素であるペルチェ素子101、低温側電極102、及び常温側電極103が配列される方向(
図2において上下方向)を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」と称する。
【0031】
また、電流リード10は、低温側電極102のさらに低温側(軸方向下側)に、低温側補助電極105を備える。低温側電極102と低温側補助電極105は可撓性を有するフレキシブル導体106によって接続される。電流リード10において、補強筒104が固定される部分、すなわちペルチェ素子101、低温側電極102、常温側電極103、低温側補助電極105、及びフレキシブル導体106を含む部分を「素子ユニット」と称する。
【0032】
ペルチェ素子101は、例えば複数の円柱形状又は角柱形状を有し、低温側電極102及び常温側電極103によって挟持された状態で固定される。ペルチェ素子101は、1つであってもよいし、複数であってもよい。ここでは、低温側電極102と常温側電極103との間に14個のペルチェ素子101が配置されているものとする(
図3参照)。
【0033】
低温側電極102は、
図5に示すように、略円柱形状のペルチェ固定部102a、ペルチェ固定部102aよりも大径のフランジ部102b、及びかしめ部102cを有する。ペルチェ固定部102aの端面にペルチェ素子101の一方の面が接合される。フランジ部102bは軸方向に貫通する貫通孔102gを有し、この貫通孔102gに電極固定ボルト108が挿通される。
【0034】
かしめ部102cは、軸方向に形成された導体挿入口102fを有する。かしめ部102cは、導体挿入口102fにフレキシブル導体106の一端が挿入された状態で平面加圧される。かしめ部102cが塑性変形することにより、低温側電極102とフレキシブル導体106とがかしめにより接続される。適切に平面加圧を行うためには、かしめ部102cのかしめ治具と当接する面(
図5Bにおけるかしめ部102cの左右の面)は平坦であることが好ましい。
【0035】
かしめ部102cの径方向断面(
図5B参照)において、導体挿入口102fは略矩形状を有し、かしめ方向(
図5の左右方向)に片寄って配置される。フランジ部102bとかしめ部102cの境界部分において、導体挿入口102fに対応する部分には、切欠溝102eが形成される。かしめ部102cの一部(導体挿入口102fが形成されている部分)は、かしめ方向と直交する方向に膨出する(
図5C参照)。導体挿入口102fをかしめ方向に片寄って配置することにより、フランジ部102bとかしめ部102cの連結部分の長さを確保することができるので、切欠溝102eを形成しても、強度が著しく低下することはない。
【0036】
図5Cに示す状態において、フレキシブル導体106の占積率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。これにより、接続抵抗が低く抑えられ、ジュール熱の発生を抑制できるので、電流リード10を介した熱侵入を低減することができる。また、所定の接続強度が確保されるので、耐久性にも優れる。占積率とは、かしめ部102cの断面積におけるフレキシブル導体106が占める割合である。占積率は、例えば導体挿入口102fの形状、大きさ、及びかしめ時の加圧力により調整することができる。
【0037】
また、低温側電極102は、ペルチェ固定部102aの端面の周縁部に沿って、軸方向に突出する突出枠部102dを有する(
図3参照)。すなわち、ペルチェ素子101が配置される部分は、凹部となっている。なお、突出枠部102dは、ペルチェ素子101が配置される部分を取り囲むように形成されていればよく、ペルチェ固定部102aの端面の周縁部に沿って形成されていなくてもよい。
【0038】
突出枠部102dの幅Wは、素子接合面の外径Dの3%よりも小さいと、突出枠部102dの強度が低く、加工性も悪くなる。一方、突出枠部102dの幅Wが素子接合面の外径Dの5%よりも大きいと、通電容量を考慮して電極径(素子接合面の外径D)を最適化した場合にペルチェ素子101の配置領域を確保できなくなる。したがって、突出枠部102dの幅Wは、低温側電極102の素子接合面の外径Dの3〜5%であることが好ましい。
【0039】
突出枠部102dの高さHは、高すぎると、強度低下に繋がり、加工性も悪くなる。また引っ掛かりやすくなるために取扱性も低下する。したがって、突出枠部102dの高さHは、極端に高くする必要はなく、溶融半田が乗り越えて流出しない程度であればよい。
【0040】
常温側電極103は、略円柱形状のペルチェ固定部103a、ペルチェ固定部103aよりも大径のフランジ部103b、及び胴部103cを有する。ペルチェ固定部103aの端面にペルチェ素子101の他方の面が接合される。フランジ部103bは軸方向に貫通する貫通孔(図示略)を有し、この貫通孔に電極固定ボルト109が挿通される。また、フランジ部103bは、径方向に形成されるボルト固定穴(図示略)を有し、このボルト固定穴に補強筒固定ボルト113が螺合される。胴部103cは、フランジユニット20の固定フランジ201の貫通穴に挿通され、この状態でシール金具114が取り付けられる。フランジ固定ナット115が胴部103cの雄ねじ部(図示略)に螺合され、シール金具114を介して固定フランジ201に締め付けられることにより、電流リード10は固定フランジ201に固定される。
【0041】
また、常温側電極103は、低温側電極102と同様に、ペルチェ固定部103aの端面の周縁部に沿って、軸方向に突出する突出枠部103dを有する(
図3参照)。すなわち、ペルチェ素子101が配置される部分は、凹部となっている。なお、突出枠部103dは、ペルチェ素子101が配置される部分を取り囲むように形成されていればよく、ペルチェ固定部103aの端面の周縁部に沿って形成されていなくてもよい。
【0042】
ペルチェ素子101と低温側電極102、及びペルチェ素子101と常温側電極103は、例えば半田付けにより接合される。この場合に用いられる半田としては、Sn含有量が90〜99重量%であるSn−Ag−Cu(いわゆる鉛フリー半田)が耐熱性の面から好適である。半田付けにより所定の接合強度を確保するため、ペルチェ素子101は、両端面(低温側電極102及び常温側電極103との接合面)に、Niめっき層を有することが好ましい。また、低温側電極102、常温側電極103は、ペルチェ素子101との接合面に、Agめっき層を有することが好ましい。
【0043】
低温側電極102及び常温側電極103によってペルチェ素子を挟持した状態で、低温側電極102の貫通孔102gに電極固定ボルト108が挿通され、連結スペーサー107に螺合される。また、常温側電極103の貫通孔(図示略)に電極固定ボルト109が挿通され、連結スペーサー107に螺合される。このとき、低温側電極102とペルチェ素子101との間及び常温側電極103とペルチェ素子101との間には、所定厚さの半田が配置される。
【0044】
電極固定ボルト109と常温側電極103のフランジ部103bとの間には、圧縮ばね110及び圧縮ばね押さえ金具111が介在する。これにより、電極固定ボルト109を締め付けたときに、圧縮ばね押さえ金具111とフランジ部103bとの間で圧縮ばね109が圧縮され、付勢力が生じる。この付勢力により、接合部Jに適切な圧力が付与される。すなわち、圧縮ばね110及び圧縮ばね押さえ金具111により圧力調整機構が構成され、固定ボルト109の連結スペーサー107への締め込み量を調整することにより、接合部Jに加わる圧力を適宜に調整することができる。
【0045】
低温側電極102と常温側電極103との間にペルチェ素子101が挟持された状態で半田接合が行われる。具体的には、ペルチェ素子101と低温側電極102との接合は、突出枠部102dが上方を向くように配置し、低温側電極102に通電して半田の溶融温度(約250℃)まで加熱することにより行われる。同様に、ペルチェ素子101と常温側電極103との接合は、突出枠部103dが上方を向くように配置し、常温側電極103に通電して半田の溶融温度(約250℃)まで加熱することにより行われる。
【0046】
溶融に伴い半田は接合面から押し出されるが、突出枠部102dで堰止められるので、接合面(半田層)に凹凸やボイド(微小な空隙)等の欠陥は生じない。したがって、これらの欠陥に起因して、熱伝導性が低下したり、電気抵抗が増大したりするのを防止できる。
【0047】
低温側補助電極105は、低温側電極102と軸方向にほぼ対称な構造を有する。すなわち、低温側補助電極105は、リード固定部105a、リード固定部105aよりも大径のフランジ部105b、及びかしめ部105cを有する。リード固定部105aに銅リード15が接続される。フランジ部105bは、径方向に形成されるボルト固定穴を有し、このボルト固定穴に補強筒固定ボルト112が螺合される。かしめ部105cは、軸方向に形成された導体挿入口(図示略)を有する。この導体挿入口にフレキシブル導体106の他端が挿入された状態で平面加圧される。かしめ部105cが塑性変形することにより、低温側補助電極105とフレキシブル導体106とがかしめにより接続される。かしめ部105cの構造は、低温側電極102のかしめ部102cと同様であるので説明を省略する。
【0048】
フレキシブル導体106は、例えば平編み銅線で構成される。フレキシブル導体104は、電流リード10に生じる曲げや歪み、特にペルチェ素子101、低温側電極102、常温側電極103の接合部Jに生じる曲げや歪みを吸収する。
【0049】
補強筒104は、電流リード10の設置時などに意図しない外力が働いたときに、この外力を直接受ける補強部材であり、少なくともペルチェ素子101と、低温側電極102及び常温側電極103aとの接合部Jの周囲を取り囲むように配置される。補強筒104は、補強筒固定ボルト112、113により、低温側補助電極105及び常温側電極103に固定される。
【0050】
補強筒104には、GFRP製のものが好適である。GFRP製の補強筒104を用いることにより、外部からの熱の流入を遮断することができるので、補強筒104で覆われた内部の素子ユニットの温度上昇、及びこれに伴う機器の損傷、劣化を防止することができる。
【0051】
補強筒104は、周面の一部に切欠窓104aを有する。切欠窓104aの数、形状、大きさ、及び位置は特に制限されない。補強筒104に切欠窓104aを設けることにより、補強筒104を用いない場合と同様に、効率よく真空排気を行うことができる。
【0052】
切欠窓104aは、外部から接合部Jの全部を観察できるように、形状、大きさ、及び位置が設定されるのが好ましい。外部から接合部Jを観察する観点から、切欠窓104aは、機械的な強度が確保される範囲で、大きい方が好ましい。切欠窓104aの寸法は、補強筒104の材料と厚みを考慮して適宜に設定される。
【0053】
ここでは、切欠窓104aは、例えば軸方向の長さが接合部Jの軸方向の長さ以上である矩形窓である。また、切欠窓104aは、周方向に沿って等間隔で設けられる。この場合、形成間隔(
図4Bの角度φに相当)は中心角で90°未満であることが好ましい。これにより、外部から接合部Jの全部を容易に観察することができる。
【0054】
このように、電流リード10は、超電導コイル11(超電導応用機器)に接続される低温側電極102と、電源12(外部機器)に接続される常温側電極103と、一方の面に低温側電極102が接合され、他方の面に常温側電極103が接合されるペルチェ素子101(熱電変換素子)と、ペルチェ素子101、低温側電極102、及び常温側電極103を含む素子ユニットに固定され、ペルチェ素子101と低温側電極102との低温側接合部、及びペルチェ素子101と常温側電極103との常温側接合部を含む接合部Jの周囲を取り囲む補強筒104と、を備える。補強筒104は、周面の一部に、切欠窓104aを有する。
【0055】
電流リード10によれば、補強筒104を設けることに伴い作業効率が低下するのを防止できるとともに、接合部Jの外観観察を容易に行うことができる。したがって、電流リード10は、安定した特性を有する信頼性の高いものとなる。
【0056】
[実施例1]
実施例1では、
図2に示す電流リード10において、補強筒104の周面に、接合部Jから低温側補助電極105のかしめ部105cにわたって切欠窓104aを形成した。切欠窓104aの軸方向の長さは25mm、幅は中心角で60°、形成間隔は中心角で30°とした。
【0057】
[実施例2]
実施例2では、
図2に示す電流リード10において、補強筒104の周面に、接合部Jに対応する位置に切欠部104aを形成した。切欠部104aの軸方向の長さは8mm、幅及び形成間隔は実施例1と同様とした。
【0058】
[比較例]
比較例では、
図2に示す電流リード10において、切欠窓104aのない補強筒104を採用した。
【0059】
実施例1、実施例2、及び比較例の電流リード10を、それぞれ固定フランジ201に37本固定した電流リード付きフランジユニットを端末容器14(真空容器)に取り付け、真空ポンプで排気した。目標とする真空度を1.0×10
−2Paとした。同様の実験を3回繰り返し、真空排気時間を評価した。また、37本の電流リード10のうち、10本の接合部Jの外観観察を行い、所要時間を計測した。評価結果を表1に示す。
【0061】
表1に示すように、実施例1、2では、補強筒104に切欠窓104aを設けているので、比較例よりも排気時間を大幅に短縮することができた。
【0062】
比較例は、補強筒104を固定するための補強筒固定ボルト112、113を取り外す作業や、補強筒104を慎重に抜き取る作業、接合部Jを観察した後に再度補強筒104を取り付ける作業が必要となるため、外観観察に10分程度の時間がかかった。また、比較例では、10本の電流リード10のうち2本の電気抵抗が10%以上増大した。外観観察作業により接合部Jに応力が加わったためと考えられる。
【0063】
これに対して、実施例1、2では、補強筒104を解体することなく接合部Jを視認できるため、1分以内と極めて容易に外観観察を行うことができた。また、実施例1、2では、外観観察後に電流リード10の性能低下は見られなかった。実施例1は実施例2よりも切欠窓104aが大きいため、より簡単に外観観察を行うことができた。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0065】
低温側電極102及び常温側電極103の構造、並びに素子ユニットを補強筒104に固定する構造は、実施の形態で説明したものに限定されず、例えば特許文献3に記載の構造を適用することもできる。すなわち、低温側電極102を、熱電変換素子101に接合される低温側コア電極と、一端側が超電導応用機器に接続され他端側がプラグ・ソケット構造により低温側コア電極に接続される低温側キャップ電極と、を有する構成とし、常温側電極103を、熱電変換素子101に接合される常温側コア電極と、一端側が前記外部機器に接続され他端側がプラグ・ソケット構造により常温側コア電極に接続される常温側キャップ電極と、を有する構成としてもよい。この場合、低温側コア電極と低温側キャップ電極との間、及び常温側コア電極と常温側キャップ電極との間に多点接触式の接触子を介在し、固定部材により低温側キャップ電極と常温側キャップ電極とを連結する。素子ユニットは、熱電変換素子、低温側コア電極、及び常温側コア電極を含んで構成され、軸方向端部側に隙間がある状態で低温側キャップ電極と常温側キャップ電極とに挟持され、軸方向に移動可能な状態で維持される。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。