(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484533
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】微小炭酸ストロンチウム粒子
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20190304BHJP
【FI】
C01F11/18 M
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-181507(P2015-181507)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-57100(P2017-57100A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】若林 恭子
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】
▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第104860344(CN,A)
【文献】
特開2014−080356(JP,A)
【文献】
特開昭62−212315(JP,A)
【文献】
特開昭63−035416(JP,A)
【文献】
特開2009−120476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均円形度が0.85以上、平均粒子径が0.5μm〜20μmであり、中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜27%、中空率が10〜90%である微小炭酸ストロンチウム粒子。
【請求項2】
かさ密度が0.01〜1.7g/cm3、みかけ密度が0.3〜3.3g/cm3、圧縮強度が0.3〜150MPa、BET比表面積が0.08〜35m2/gである請求項1記載の微小炭酸ストロンチウム粒子。
【請求項3】
有機酸ストロンチウム塩溶液を噴霧熱分解処理することを特徴とする請求項1又は2記載の微小炭酸ストロンチウム粒子の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小炭酸ストロンチウム粒子及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ストロンチウムは、ブラウン管用ガラス、液晶用ガラス、フェライト磁石、誘電セラミックス材料、サーミスタの原料として使用されている。そして、電子機器の小型化に伴って、前記用途に用いる炭酸ストロンチウムには、微小で、組成が均一な粒子が求められている。
【0003】
炭酸ストロンチウムは、基本的に水酸化ストロンチウム等のストロンチウム源と炭酸ガス等の炭酸源とを反応させて炭酸ストロンチウムとする方法によって製造される(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−173487号公報
【特許文献2】国際公開第2011/052680号
【特許文献3】特開2012−153536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法で得られる炭酸ストロンチウム粒子は、平均短軸径が100nm以下、かつ平均長軸径が400nm以下と柱状であったり(特許文献1)、アスペクト比が2以上(特許文献2、3)のものであり、真球状のもの、ましてや中空構造を有する真球状のものは報告されていなかった。かように、従来知られている炭酸ストロンチウム粒子は真球状や中空状のものはなく、前記種々の用途において、特にフィルム状、シート状の形状にする場合、充填性、軽量化の点で十分満足すべきものではなかった。
【0006】
従って、本発明の課題は、微細でかつ真球状又は中空真球状の炭酸ストロンチウム及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、真球状又は中空真球状の炭酸ストロンチウム粒子を得るべく種々検討した結果、有機酸ストロンチウム溶液を噴霧熱分解処理すれば、粒径が小さく、かつ真球状又は中空真球状の炭酸ストロンチウム粒子が効率良く得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕平均円形度が0.85以上、平均粒子径が0.5μm〜20μmである微小炭酸ストロンチウム粒子。
〔2〕中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜27%、中空率が10〜90%である〔1〕記載の微小炭酸ストロンチウム粒子。
〔3〕かさ密度が0.01〜1.7g/cm
3、みかけ密度が0.3〜3.3g/cm
3、圧縮強度が0.3〜150MPa、BET比表面積が0.08〜35m
2/gである〔1〕又は〔2〕記載の微小炭酸ストロンチウム粒子。
〔4〕有機酸ストロンチウム塩溶液を噴霧熱分解処理することを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の微小炭酸ストロンチウム粒子の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭酸ストロンチウム粒子は、平均円形度が0.85以上と真球状であるため、フィルム状やシート状の形状への充填性が良好である。また、中空粒子の場合には、高い充填性と充填物の軽量化を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の微小炭酸ストロンチウムは、平均円形度が0.85以上、平均粒子径が0.5μm〜20μmであることを特徴とする。
【0013】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子の形状は、ほぼ球状であり、平均円形度が0.85以上である。好ましい平均円形度は0.90以上である。このような形状は、噴霧熱分解法により製造することにより達成される。
【0014】
ここで、円形度は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長および面積は、それぞれPM=2πr、B=πr
2であるから、B=π×(PM/2π)
2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)
2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。
【0015】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子の平均粒子径は、0.5〜20μmであり、好ましくは0.5〜18μmであり、より好ましくは1〜15μmである。平均粒子径が0.5μm未満の中空粒子は、超音波照射等の特殊な装置の使用を必要とし、20μmを超える場合は一部が不完全な真球となることがあり、好ましくない。なお、平均粒子径の調整は、噴霧に使用する流体ノズルの直径の調節によって行うことができる。ここで粒子径は、電子顕微鏡の解析によって測定でき、その平均は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えばマイクロトラック(日機装株式会社製)などによって計算できる。
【0016】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子の粒子径分布(粒度分布)は、せまい程好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±5.0μmにあるのが好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.5μmにあるのがより好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.0μmにあるのがさらに好ましい。
【0017】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子は、前記の円形度と平均粒子径を有すれば、その粒子は中実体でもよいが、軽量化、断熱性、遮熱性等を付与する点から、中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜27%であるのが好ましい。また中空率が10〜90%であるのが好ましい。中空室を有する中空粒子であることは、SEM像及びTEM像から確認できる。
殻の厚みは、強度、軽量化及び熱伝導率等の点から平均粒子径の1.6〜27%が好ましく、1.6〜25%がより好ましく、1.6〜20%がさらに好ましい。また、中空率は、10〜90%が好ましく、15〜90%がより好ましく、20〜90%がさらに好ましい。殻の厚みはSEM像及びTEM像から測定できる。50個の粒子について殻の厚みを測定し、その平均値をもって殻の厚みとした。中空率は、以下の様に算出する。粒子および粒子内の空隙を真球と仮定する。粒子径を(A)、SEM像及びTEM像から求めた殻の厚みを(B)とすると、その粒子の空隙の半径はA/2−Bとして表される。試料粒子と同一の体積を持つ真円の体積は、V
1=4/3×π×(A/2)
3である。また空隙の体積はV
2=4/3×π×(A/2−B)
3となり、この粒子の中空率は、中空率=V
2/V
1×100として計算できる。
【0018】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子のかさ密度は、0.01〜1.7g/cm
3であるのが好ましく、0.02〜1.5g/cm
3であるのがより好ましく、0.03〜1.2g/cm
3であるのがさらに好ましい。かさ密度は、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)などの粉体力学特性測定装置により測定できる。
【0019】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子のみかけ密度は、0.3〜3.3g/cm
3であるのが好ましく、0.3〜3.2g/cm
3であるのがより好ましく、0.3〜3.0g/cm
3であるのがさらに好ましい。みかけ密度は、JIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」、アキュピック(株式会社島津製作所製)の乾式自動密度計などにより測定できる。
【0020】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子は、圧縮強度が0.3〜150MPaであるのが好ましく、1〜150MPaであるのがより好ましく、1〜100MPaであるのがさらに好ましい。圧縮強度は、MCT−510(株式会社島津製作所製)微小圧縮試験機などにより測定することができる。
【0021】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子のBET比表面積は、0.08〜35m
2/gであるのが好ましく、0.08〜16m
2/gがより好ましく、0.1〜10m
2/gがさらに好ましい。BET比表面積は、JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」、フローソープII 2300(株式会社島津製作所製)BET比表面積測定計などにより測定できる。
【0022】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子は、有機酸ストロンチウム塩溶液を噴霧熱分解処理することにより製造することができる。具体的には、スプレーノズルで有機酸ストロンチウム塩溶液を噴霧して熱分解する噴霧熱分解法により製造することができる。
【0023】
原料として用いられる有機酸ストロンチウム塩としては、酢酸ストロンチウム、プロピオン酸ストロンチウム等の有機カルボン酸ストロンチウム塩が挙げられる。ここで有機酸としては、有機カルボン酸、特に脂肪酸が好ましく、C
1−C
36脂肪酸がより好ましい。有機酸ストロンチウム塩溶液としては、有機酸ストロンチウム塩水溶液が好ましい。
【0024】
有機酸ストロンチウム塩溶液における有機酸ストロンチウム塩濃度は、0.01〜2モルが好ましく、0.01〜1モルがより好ましい。
【0025】
有機酸ストロンチウム塩溶液は、スプレーノズル、特に2流体ノズルで噴霧するのが、粒子径の調整、生産性の点で好ましい。ここで2流体ノズルの方式には、空気と有機酸ストロンチウム塩溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と有機酸ストロンチウム塩溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。
【0026】
噴霧されたミストは、100〜600℃の乾燥ゾーン、次いで600〜1400℃の熱分解ゾーンを通過させることにより、熱分解され、炭酸ストロンチウム粒子となる。乾燥ゾーンの温度は、中空性を保つための点から200〜600℃が好ましい。この乾燥ゾーンによりミストの外側が乾燥されて、有機酸ストロンチウムの膜を形成し、それを起点に内部液が乾燥されるため、粒子が中空形状に形成される。
熱分解ゾーンの温度は、有機酸ストロンチウムを炭酸ストロンチウムに熱分解し、かつ炭酸ストロンチウムを酸化ストロンチウムにさせない点から600〜1300℃が好ましく、800〜1200℃がより好ましい。この熱分解ゾーンでは、高温で一気に熱分解反応を進めることで、乾燥ゾーンにて形成された中空構造を強固にすることにより、中空室を区画する殻の厚さが薄い炭酸ストロンチウム中空粒子が得られる。
【0027】
得られた炭酸ストロンチウム中空粒子は、冷却後、フィルターを通過させることにより、粒子径の調整をすることができる。
【0028】
本発明の微小炭酸ストロンチウム粒子は、真球状又は中空真球状であるから、フィルムやシートへの充填性が良好であり、軽量化も達成できる。また中空真球状の場合には、熱伝導率が低いことから断熱性、遮熱性等の特性も付与できる。
【実施例】
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
実施例1
蒸留水1リットルに酢酸ストロンチウム0.1モルを溶解した、酢酸ストロンチウム水溶液を噴霧熱分解装置の溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、乾燥ゾーン(約400℃)、次いで熱分解ゾーン(約1000℃)を通過させた。バグフィルターを用いて炭酸ストロンチウム中空粒子を回収した。
【0031】
乾燥ゾーン400℃と熱分解ゾーン1000℃の温度条件で得られた炭酸ストロンチウム粒子の特性を表1に示す。また、粒子のSEM像を
図1に、TEM像を
図2に、XRDを
図3に示す。
【0032】
実施例2及び3
実施例1で調製した0.1mol/Lの酢酸ストロンチウム水溶液を二流体ノズルで噴霧し、温度を変えた乾燥ゾーン、熱分解ゾーンを通過させ、バグフィルターを用いて炭酸ストロンチウムを回収した。実施例2は、乾燥ゾーン600℃、熱分解ゾーン1000℃、また実施例3は、乾燥ゾーン200℃、熱分解ゾーン1150℃とした。
【0033】
実施例4
蒸留水1リットルに酢酸ストロンチウム1モルを溶解した、酢酸ストロンチウム水溶液を噴霧熱分解装置の溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、乾燥ゾーン(約300℃)、次いで熱分解ゾーン(約700℃)を通過させた。バグフィルターを用いて炭酸ストロンチウム中空粒子を回収した。
【0034】
実施例5
蒸留水1リットルに酢酸ストロンチウム0.05モルを溶解した、酢酸ストロンチウム水溶液を噴霧熱分解装置の溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、乾燥ゾーン(約600℃)、次いで熱分解ゾーン(約1200℃)を通過させた。バグフィルターを用いて炭酸ストロンチウム中空粒子を回収した。
得られた炭酸ストロンチウム中空粒子の特性を表1に示す。
【0035】
【表1】