(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、アラミド繊維を含まない防火服用生地について鋭意検討した結果、驚くことに、天然セルロース繊維とアンチモン化合物を含有するアクリル系繊維(以下において、アンチモン含有アクリル系繊維とも記す。)を含む布帛をリン系化合物で難燃化処理するとともに、布帛の全体重量に対するアクリル系繊維、アンチモン及びリンの含有量、並びに布帛の目付を特定の範囲にすることで、アラミド繊維を含まなくても、布帛が高い防炎性を有しつつ耐久性にも優れることを見出し、本発明に至った。本発明の難燃性布帛は、アラミド繊維を含まなくてもよいので、安価な製品を提供することができる。
【0014】
本発明において、難燃性布帛の防炎性は、ASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長(以下において、単に炭化長とも記す。)によって評価することができる。炭化長の値が小さいほど防炎性に優れることになる。
【0015】
本発明において、難燃性布帛の耐久性は、ASTM D1424ペンジュラム法に基づいた引裂き強度試験によって測定した引裂き強度(以下において、単に引裂き強度とも記す。)によって評価することができる。引裂き強度の値が高いほど耐久性に優れることになる。
【0016】
上記アクリル系繊維は、35〜85重量%のアクリロニトリルと、15〜65重量%の他の成分とを共重合したアクリロニトリル系共重合体で構成されることが好ましい。他の成分としては、例えば、ハロゲン含有ビニル及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体などを用いることができる。上記アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリルの含有量は35〜65重量%であることがより好ましい。上記アクリロニトリル系共重合体におけるハロゲン含有ビニル及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体の含有量は35〜65重量%であることがより好ましい。上記アクリロニトリル系共重合体は、さらにスルホン酸基を含有する単量体を含んでもよい。上記アクリロニトリル系共重合体におけるスルホン酸基を含有する単量体の含有量は0〜3重量%であることが好ましい。
【0017】
上記アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリルの含有量が35〜85重量%であれば、アクリル系繊維の繊維物性が良好になり、ひいてはそれを含む難燃性布帛の物性も良好になる。
【0018】
上記アクリロニトリル系共重合体中のハロゲン含有ビニル及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体の含有量が15〜65重量%であれば、アクリル系繊維の防炎性が良好になり、ひいてはそれを含む難燃性布帛の防炎性も良好になる。
【0019】
上記ハロゲン含有ビニル及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどが挙げられる。これらのハロゲン含有ビニル及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、メタクリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びそれらの塩などが挙げられる。上記において、塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらのスルホン酸基を含有する単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルホン酸基を含有する単量体は必要に応じて使用されるが、上記アクリロニトリル系共重合体中のスルホン酸基を含有する単量体の含有量が3重量%以下であれば紡糸工程の生産安定性に優れる。
【0021】
上記アクリル系繊維はアンチモン化合物を含有する。上記アクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量は、繊維全体重量に対して1.6〜33重量%であることが好ましく、より好ましくは3.8〜21重量%である。上記アクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量が上記範囲内であれば、紡糸工程の生産安定性に優れるとともに防炎性が良好になる。
【0022】
上記アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン酸の塩類、オキシ塩化アンチモンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。紡糸工程の生産安定性の面から、上記アンチモン化合物は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンからなる群から選ばれる1以上の化合物であることが好ましい。
【0023】
上記アンチモン化合物を含有するアクリル系繊維としては、例えば、カネカ社製の「プロテックス」(登録商標)MタイプやCタイプなどの市販のものを用いることができる。
【0024】
上記難燃性布帛におけるアンチモン含有アクリル系繊維の含有量は、布帛全体重量に対して14〜54重量%であり、好ましくは18〜45重量%であり、より好ましくは22〜35重量%である。上記難燃性布帛におけるアンチモン含有アクリル系繊維の含有量が14重量%未満であると、難燃性布帛のASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長が長く、防炎性が低下する。また、上記難燃性布帛におけるアンチモン含有アクリル系繊維の含有量が54重量%を超えても、ASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長が長く、防炎性が低下する。上記難燃性布帛は、1種又は2種以上のアンチモン含有アクリル系繊維を含んでもよく、異なるアンチモン含有量のアクリル系繊維を2種以上含んでもよい。本発明では、セルロース系繊維とアンチモン含有アクリル系繊維を含む難燃性布帛において、アクリル系繊維の含有量が少なすぎても、多すぎても、防炎性が悪くなることを見出し、アクリル系繊維の含有量を布帛全体重量に対して14〜54重量%の範囲にすることで、防炎性に優れた難燃性布帛を提供している。
【0025】
上記難燃性布帛におけるアンチモンの含有量は、難燃性布帛全体重量に対して1.7重量%以上であり、好ましくは3.0〜18重量%であり、より好ましくは3.0〜12重量%である。上記難燃性布帛におけるアンチモンの含有量が1.7重量%未満であると、難燃性布帛のASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長が長く、難燃性布帛の防炎性が悪い。また、上記難燃性布帛におけるアンチモンの含有量が布帛全体重量に対して18重量%以下であると、布帛作成の際の加工性が向上する。
【0026】
上記セルロース系繊維は、天然セルロース繊維であればよく、特に限定されない。例えば、綿(コットン)、カボック、亜麻(リネン)、苧麻(ラミー)、黄麻(ジュート)などを用いることができ、これらの天然セルロース繊維は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記難燃性布帛において、上記天然セルロース繊維は、リン系化合物を含有する。上記リン系化合物は、例えば、後述するように、上記天然セルロース繊維と上記アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛をリン系化合物で難燃化処理することで、上記天然セルロース繊維にリン系化合物を含有させることができる。
【0028】
上記難燃性布帛において、天然セルロース繊維は難燃性布帛に強度を付与し、難燃性布帛の耐久性を向上させる。特に、上記難燃性布帛においては、天然セルロース繊維、アンチモン含有アクリル系繊維及びリン(リン系化合物)の相乗効果により、ASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長が短く、防炎性が高い。再生セルロース繊維の場合繊維自体の強度が低く、アンチモン含有アクリル系繊維及びリン(リン系化合物)と併用しても、ASTM D6413−08に基づいた防炎性試験のように燃焼試験後の試料を引裂いて炭化長を決定する方法で炭化長を測定した場合、炭化長が長く、防炎性が悪い。
【0029】
上記難燃性布帛におけるリン系化合物を含有する天然セルロース繊維の含有量は、難燃性布帛全体重量に対して46〜86重量%であることが好ましく、より好ましくは55〜82重量%であり、さらに好ましくは65〜78重量%である。上記難燃性布帛における天然セルロース繊維の含有量が上記範囲内であると、難燃性布帛の防炎性及び耐久性を向上させるとともに、難燃性布帛に優れた風合いや吸湿性を与えることができる。
【0030】
上記難燃性布帛は、難燃性布帛全体重量に対して、リンを0.3〜1.5重量%含み、好ましくは0.3〜1.1重量%含み、より好ましくは0.4〜1.0重量%含み、さらに好ましくは0.5〜0.9重量%含む。上記難燃性布帛におけるリンの含有量が0.3重量%未満であると、難燃性布帛のASTM D6413−08に基づいた防炎性試験により測定した炭化長が長く、防炎性が低下する。また、上記難燃性布帛におけるリンの含有量が1.5重量%を超えると、難燃性布帛のASTM D1424ペンジュラム法に基づいた引裂き強度試験によって測定した引裂き強度が低く、耐久性が悪くなる。また、上記難燃性布帛におけるリンの含有量が多すぎると、引き裂き強度が低くなることになり、それゆえ、炭化長が長くなり、防炎性も低下する。
【0031】
上記難燃性布帛において、リンは、天然セルロース繊維が含有するリン系化合物に由来するものである。洗濯によって防炎性が低下せず洗濯耐久性に優れるという観点から、リン系化合物は、上記天然セルロース繊維のセルロース分子に結合している又は上記天然セルロース繊維中で不溶性ポリマーを形成していることが好ましい。
【0032】
上記難燃性布帛は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、上記リン系化合物を含有する天然セルロース繊維とアンチモン含有アクリル系繊維に加えて、必要に応じて他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、例えば、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維などが挙げられる。上記難燃性布帛において、他の繊維は、難燃性布帛の全体重量に対して、0〜20重量%含むことができる。
【0033】
強度の観点から、上記アクリル系繊維の繊度は、好ましくは1〜20dtexであり、より好ましくは1.5〜15dtexであり、天然セルロース繊維の繊度は、好ましくは0.5〜20dtexであり、より好ましくは1〜3dtexである。また、強度の観点から、上記アクリル系繊維の繊維長は、好ましくは38〜127mmであり、より好ましくは38〜76mmであり、天然セルロース繊維の繊維長は、好ましくは15〜38mmであり、より好ましくは20〜38mmである。
【0034】
上記難燃性布帛は、目付が160g/m
2以上であり、好ましくは200g/m
2以上であり、より好ましくは230g/m
2以上である。上記難燃性布帛の目付が160g/m
2未満であると、難燃性布帛のASTM D1424ペンジュラム法に基づいた引裂き強度試験によって測定した引裂き強度が低く、耐久性が悪い。また、風合いに優れるという観点から、上記難燃性布帛は、目付が300g/m
2未満であることが好ましく、より好ましくは280g/m
2以下である。
【0035】
上記難燃性布帛において、アクリル系繊維(アンチモン化合物を含有する)又は天然セルロース繊維(リン系化合物を含有する)の含有量は、後述するとおり、JIS L 1030の溶解法に従って測定することができる。
【0036】
上記難燃性布帛において、アンチモン又はリンの含有量は、後述するとおり、蛍光X線分析方法で測定することができる。
【0037】
以下、本発明の難燃性布帛の製造方法について説明する。本発明の難燃性布帛は、天然セルロース繊維と、アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛をリン系化合物で難燃化処理して製造することが好ましい。
【0038】
上記天然セルロース繊維と、アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛は、公知の紡績方法で製造した紡績糸を用い、公知の製布方法で製造することができる。布帛の形態としては、織物、編物などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、織物は交織させてもよく、編物は交編させてもよい。
【0039】
上記織物の組織については、特に限定されず、平織、綾織、朱子織などの三原組織でもよく、ドビーやジャガーなどの特殊織機を用いた柄織物でもよい。また、上記編物の組織も、特に限定されず、丸編、横編(天竺編物など)、経編のいずれでもよい。引裂き強度が高く、耐久性に優れるという観点から、布帛は、織物であることが好ましく、綾織の織物であることがより好ましい。
【0040】
上記天然セルロース繊維と、上記アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛において、布帛の目付、天然セルロース繊維の含有量、アンチモン含有アクリル系繊維の含有量などは、目的とする難燃性布帛の目付、アンチモン含有アクリル系繊維の含有量、アンチモンの含有量、リンの含有量などにより適宜調整すればよい。
【0041】
上記リン系化合物を用いた難燃化処理により、リン系化合物は、布帛を構成する天然セルロース繊維の表面及び/又は繊維の内部に存在することになる。リン系化合物の溶出や洗濯耐久性の観点から、上記リン系化合物は、上記天然セルロース繊維のセルロース分子と結合している、もしくはセルロース繊維中で不溶性ポリマーを形成していることが好ましい。
【0042】
上記リン系化合物は、上記天然セルロース繊維のセルロース分子に結合しやすいもの、もしくはセルロース繊維中で不溶性ポリマーを形成しやすいものであることが好ましい。上記リン系化合物としては、N−メチロールホスホネート化合物又はテトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩を用いることが好ましい。N−メチロールホスホネート化合物は、セルロース分子と反応してセルロース分子に結合しやすい。N−メチロールホスホネート化合物としては、例えば、N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドなどを含むN−メチロールジメチルホスホノカルボン酸アミドなどを用いることができる。テトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩は、セルロース系繊維中で不溶性ポリマーを形成しやすい。テトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩としては、例えば、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド(THPC)、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルフェート(THPS)などのテトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩を用いることができる。
【0043】
上記リン系化合物による難燃化処理は、特に限定されないが、例えば、上記リン系化合物を上記天然セルロース繊維のセルロース分子と結合させるという観点から、ピロバテックス加工法で行うことが好ましい。ピロバテックス加工法は、例えば、ハンツマン社のピロバテックスCPの技術資料などに記載されているような公知の一般的な手順で行えばよい。また、上記リン系化合物による難燃化処理は、特に限定されないが、例えば、リン系化合物がセルロース繊維中で不溶性ポリマーを形成しやすい観点から、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウム塩などのテトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩を用いたアンモニアキュアリング法(以下において、THP−アンモニアキュア法とも記す。)で行うことが好ましい。THP−アンモニアキュア法は、例えば特公昭59−39549公報などに記載されているような公知の一般的な手順で行えばよい。
【0044】
ピロバテックス加工法の場合は、ピロバテックス加工用のリン系化合物として、例えば、N−メチロールホスホネート化合物を用いることができる。N−メチロールホスホネート化合物としては、N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドなどを含むN−メチロールジメチルホスホノカルボン酸アミドなどを用いることができる。N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドとして、具体的には、ハンツマン製の商品名「ピロバテックスCP NEW」などの市販のものを用いることができる。N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドなどのピロバテックス加工法用のリン系化合物を含む難燃化処理液(ピロバテックス加工薬剤)で、上記天然セルロース繊維と、上記アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛を含浸して、該布帛に上記難燃化処理液を十分浸透させた後、所定の絞り率で絞り、前乾燥し、熱処理してリン系化合物を天然セルロース繊維のセルロース分子に結合させる。上記難燃化処理液(加工薬剤)において、N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミド、N−メチロールジメチルホスホノカルボン酸アミドなどのN−メチロールホスホネート化合物の濃度は、特に限定されないが、好ましくは50〜600g/Lであり、より好ましくは50〜400g/Lであり、100〜400g/Lであることがさらに好ましい。上記において、前乾燥は、特に限定されないが、100〜120℃の温度で行うことが好ましく、105〜115℃の温度で行うことがより好ましい。前乾燥の時間は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1〜10分間行い、より好ましくは3〜5分間行う。上記において、熱処理は、特に限定されないが、150〜170℃の温度で行うことが好ましく、150〜160℃の温度で行うことがより好ましい。熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1〜10分間行い、より好ましくは3〜7分間行う。
【0045】
ピロバテックス加工法の場合、上記難燃化処理液は、布帛へのリン系化合物の浸透性を高める観点から、さらに、浸透剤を含むことが好ましい。上記浸透剤としては、特に限定されないが、例えばハンツマン社製の商品名「インバジンPBN」などを用いることができる。また、上記難燃化処理液は、セルロース系繊維の水酸基のエステル化反応を促進する触媒を含んでもよい。上記触媒としては、特に限定されないが、例えば、リン酸などを用いることができる。上記難燃化処理液は、布帛の防しわ性を高めるために、さらに、架橋剤を含むことが好ましい。上記架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、メラミン系樹脂、尿素系樹脂などを用いることができる。上記メラミン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメトキシメチロール型メラミンなどを用いることができる。ヘキサメトキシメチロール型メラミンとして、具体的には、DIC製の商品名「ベッカミンJ−101」などを用いることができる。
【0046】
THP−アンモニアキュア法の場合は、例えば、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロリド、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルフェートなどのテトラキスヒドロキシアルキルホスホニウム塩を加熱縮合して得られる水溶性含窒素ホスホニウムオリゴマーを含む難燃化処理液(加工薬剤)を用い、上記天然セルロース繊維と、上記アンチモン含有アクリル系繊維を含む布帛を含浸して、該布帛に上記難燃化処理液を十分浸透させた後、アンモニアガスと反応させて、天然セルロース繊維中に不溶性ポリマーを形成する。
【0047】
また、難燃性布帛の柔軟性、触感を向上させるために、ピロバテックス加工法及びTHP−アンモニアキュア法のいずれの場合でも、上記難燃化処理液は、柔軟剤を含んでもよい。上記柔軟剤としては、シリコン系柔軟剤などを用いることができる。
【0048】
上記難燃化処理液におけるリン系化合物の濃度、上記難燃化処理液を浸透させた後の絞り率、難燃化処理時の熱処理温度などを調整することにより、得られる難燃性布帛におけるリンの含有量を調整することができる。
【0049】
本発明の難燃性布帛は、防炎性に優れており、ASTM D6413−08に基づいた防炎性試験による炭化長が4インチ以下であることが好ましい。炭化長が4インチ以下であれば、NFPA2112垂直試験の基準を満たすことになる。
【0050】
また、本発明の難燃性布帛は、耐久性に優れており、ASTM D1424ペンジュラム法に基づいた引裂き強度試験によって測定した引裂き強度が1.4kgfを超えることが好ましく、1.5kgf以上であることがより好ましい。引裂き強度が1.5kgf以上であれば、「防護服規格としてのISO11612」の引裂き強度基準を満たすことになる。
【0051】
本発明の防火服は、上記の難燃性布帛を用い、公知の縫製方法により製造することができる。上記難燃性布帛が優れた防炎性と耐久性を有するため、本発明の防火服も、防炎性と耐久性に優れる。上記難燃性布帛は、単層防火服の生地として用いることができるし、多層防火服の生地として用いることもできる。多層防火服の場合、全ての層に上記難燃性布帛を用いてもよく、一部の層に上記難燃性布帛を用いてもよい。多層防火服の一部の層に上記難燃性布帛を用いる場合、外側の層に上記難燃性布帛を用いることが好ましい。また、上記防火服は、洗濯を繰り返しても、その防炎性が維持される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
下記実施例及び比較例で用いた繊維を示す。
<繊維>
アクリル系繊維として、アクリロニトリル50重量%と塩化ビニリデン49重量%及びスチレンスルホン酸ナトリウム1重量%からなるアクリル系共重合体で構成され、下記に示す含有量のアンチモン化合物を含有するアクリル系繊維を用いた。
アクリル系繊維A:繊維全体重量に対して三酸化アンチモン21重量%を含有するアクリル系繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:38mm)
アクリル系繊維B:繊維全体重量に対して三酸化アンチモン3.8重量%を含有するアクリル系繊維(繊度:1.9dtex、繊維長:38mm)
アクリル系繊維C:繊維全体重量に対して三酸化アンチモン9.1重量%を含有するアクリル系繊維(繊度:1.7dtex、繊維長:38mm)
アクリル系繊維D:繊維全体重量に対して五酸化アンチモン4.8重量%を含有するアクリル系繊維(繊度:1.7dtex、繊維長38mm)
アクリル系繊維E:繊維全体重量に対して五酸化アンチモン7.0重量%を含有するアクリル系繊維(繊度:1.7dtex、繊維長38mm)
天然セルロース繊維として、市販の綿(中繊維綿)を用いた。
難燃性レーヨン繊維(FRレーヨン)として、レンチングFR(繊度:1.7dtex、繊維長40mm)を用いた。
【0054】
(実施例1)
<布帛の製造>
下記表1に示した原綿構成で天然セルロース繊維とアンチモン含有アクリル系繊維を混合し、リング紡績により紡績した。得られた紡績糸は、英式綿番手20番の混紡糸であった。該紡績糸を用いて、通常の製織方法により、下記表1に示した目付の綾織の織物(加工生地)を製造した。
<難燃化処理>
得られた加工生地について、リン系化合物を用い、ピロバテックス加工により難燃化処理を行った。まず、リン系化合物(商品名「ピロバテックスCP NEW」、ハンツマン製、N−メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミド)400g/L、架橋剤(商品名「ベッカミンJ−101」、DIC製、ヘキサメトキシメチロール型メラミン)60g/L、柔軟剤(商品名「ウルトラテックス FSA NEW」、ハンツマン社製、シリコン系柔軟剤)30g/L、85%リン酸20.7g/L、浸透剤(商品名「インバジンPBN」、ハンツマン社製)5ml/Lを含む難燃化処理液(加工薬剤)を調製した。布帛に難燃化処理液を十分浸透させた後、絞り率が80±2%となるように脱水機で難燃化処理液を絞った後、110℃で5分間前乾燥し、150℃で5分間熱処理した。その後、布帛を炭酸ナトリウム水溶液と水で洗浄し、過酸化水素水で中和を行い、水洗、脱水の後、タンブラー乾燥機を用いて60℃で30分間乾燥を行い、難燃性布帛を得た。
【0055】
(実施例2〜9、比較例1〜11)
<布帛の製造>
下記表1に示した原綿構成で天然セルロース繊維とアンチモン含有アクリル系繊維を混合し、リング紡績により紡績した。得られた紡績糸は、英式綿番手20番の混紡糸であった。該紡績糸を用いて、通常の製織方法により、下記表1に示した目付の綾織の織物(加工生地)を製造した。
<難燃化処理>
加工生地を難燃化処理する加工薬剤(難燃化処理液)処方を下記表1に示したとおりにした以外は、実施例1の場合と同様にして難燃化処理を行い、難燃性布帛を得た。
【0056】
下記表1には、実施例1〜9、比較例1〜11の難燃性布帛における固形分の付着量も併せて示した。固形分の付着量は、難燃化処理に用いた加工生地の重量と、難燃化処理後の難燃性布帛の重量をそれぞれ測定し、下記式に基づいて算出した。
固形分の付着量(重量%)=[(難燃性布帛の重量―加工生地の重量)/加工生地の重量]×100
【0057】
(比較例12)
アクリル系繊維A30重量部と、FRレーヨン(レンチングFR)70重量部からなる英式綿番手20番の紡績糸(混紡糸)を用いて、通常の製織方法により、目付240g/m
2の綾織の織物(難燃性布帛)を製造した。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例10〜17、比較例13〜14)
<布帛の製造>
下記表2に示した原綿構成で天然セルロース繊維とアンチモン含有アクリル系繊維を混合し、リング紡績により紡績した。得られた紡績糸は、英式綿番手20番の混紡糸であった。該紡績糸を用いて、通常の製造方法により、下記表2に示した目付の天竺編物(加工生地)を製造した。
<難燃化処理>
加工生地を難燃化処理する加工薬剤(難燃化処理液)処方を下記表2に示したとおりにした以外は、実施例1の場合と同様にして難燃化処理を行い、難燃性布帛を得た。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1〜17、比較例1〜14で得られた難燃性布帛の目付、アクリル系繊維(アンチモン含有アクリル系繊維)の含有量、セルロース系繊維(リン系化合物を含有する天然セルロース繊維)含有量、アンチモン(Sb)の含有量、リンの含有量を下記のとおり測定し、その結果を下記表3及び表4に示した。また、実施例1〜9、比較例1〜12で得られた難燃性布帛の防炎性、引裂き強度、風合いを下記のとおりに測定評価し、その結果を下記表3に示した。また、実施例10〜17、比較例13〜14で得られた難燃性布帛の防炎性を下記のとおりに測定評価し、その結果を下記表4に示した。
【0062】
<目付>
生地を10cm×10cmの枠に沿って切断し、重量を測定し、目付を算出した。
【0063】
<アクリル系繊維の含有量>
JIS L 1030の溶解法に従って難燃性布帛におけるアクリル系繊維の含有量を測定した。約1.0gの試料(難燃性布帛)を精秤し、試料重量の100倍量の50℃のジメチルホルムアミドで20分間かきまぜ、アクリル系繊維(アンチモン化合物を含有する)を溶解した。得られた混合物を吸引濾過後、漏斗上の残分を試料重量の100倍量の50℃のジメチルホルムアミドと試料重量の100倍量の50℃の温水で順次洗浄し、乾燥した。乾燥後の残分の重量を測定し、下記の式で難燃性布帛におけるアクリル系繊維の含有量を算出した。
難燃性布帛におけるアクリル系繊維の含有量(重量%)=[(試料の重量−乾燥後の残分の重量)/試料の重量]×100
【0064】
<セルロース系繊維の含有量>
JIS L 1030の溶解法に従って難燃性布帛におけるセルロース系繊維の含有量を測定する。約1.0gの試料(難燃性布帛)を精秤し、試料重量の100倍量の25℃の70%硫酸とともに共栓付三角フラスコ内で少なくとも10分間振とうしてセルロース系繊維(リン系化合物を含有する)を溶解した。得られた混合物を吸引濾過後、漏斗上の残分を試料重量の100倍量の25℃の70%硫酸と試料重量の100倍量の25℃の水で順次洗浄し、洗浄後の残分を試料重量の約50倍量の希アンモニア水(約1%)で中和し、再びこれを吸引濾過後、漏斗上の残分を水で洗浄して乾燥した。乾燥後の残分の重量を測定し、下記式によりセルロース系繊維の含有量を測定した。
難燃性布帛におけるセルロース系繊維の含有量(重量%)=[(試料の重量−乾燥後の残分の重量)/試料の重量]×100
【0065】
<アンチモンの含有量>
難燃性布帛におけるアンチモンの含有量は蛍光X線装置(SIIナノテクノロジー社製「SEA2210A」)による蛍光X線分析方法で測定した。予め、アンチモン含有量が既知の標準試料を用いて、アンチモンの蛍光X線強度を測定し、検量線を作成した。次に、試料(難燃性布帛)におけるアンチモンの蛍光X線強度を測定し、検量線と照らし合わせることで試料(難燃性布帛)におけるアンチモンの含有量を算出した。
【0066】
<リンの含有量>
難燃性布帛におけるリンの含有量は蛍光X線装置(SIIナノテクノロジー社製「SEA2210A」)による蛍光X線分析方法で測定した。予め、リン含有量が既知の標準試料を用いて、リンの蛍光X線強度を測定し、検量線を作成した。次に、試料(難燃性布帛)におけるリンの蛍光X線強度を測定し、検量線と照らし合わせることで試料(難燃性布帛)におけるリンの含有量を算出した。
【0067】
<防炎性>
ASTM(米国材料試験協会)D6413−08に基づいた防炎性試験に従い、難燃性布帛の炭化部分の長さ(炭化長)を求めた。併せて、ASTM(米国材料試験協会)D6413−08に基づいた防炎性試験に従い、難燃性布帛の接炎後の残炎秒数及び残じん秒数も求めた。
【0068】
<引裂き強度>
ASTM D1424ペンジュラム法に基づいた引裂き強度試験に従い、難燃性布帛の引裂き強度を測定した。
【0069】
<風合い>
難燃性布帛の風合いについて、以下に示す3段階の基準に沿って官能評価した。
A:布帛が柔らかく、しわになりにくい
B:布帛がやや柔らかく、ややごわつき感があり、しわになりやすい
C:布帛が硬く、ごわつき感があり、しわになりやすい
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
上記表3の結果から分かるように、リン系化合物を含有する天然セルロース繊維とアンチモン化合物を含有するアクリル系繊維を含み、難燃性布帛の全体重量に対して、アンチモン化合物を含有するアクリル系繊維を14〜54重量%、アンチモンを1.7重量%以上、リンを0.3〜1.5重量%含み、目付が160g/m
2以上である実施例1〜9の難燃性布帛は、炭化長が4インチ以下であり、引裂き強度が1.5kgf以上であり、防炎性及び耐久性に優れていた。上記表4の結果から分かるように、実施例10〜17の難燃性布帛も、炭化長が4インチ以下であり、防炎性に優れていた。また、難燃性布帛の目付が300g/m
2未満であると、風合いが向上し、280g/m
2以下であると風合いが良好になる。
【0073】
一方、リンの含有量が0.3重量%未満である比較例6、比較例7、比較例10及び比較例13の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、防炎性が悪かった。リンの含有量が1.5重量%を超える比較例11の難燃性布帛は、引裂き強度が1.4kgf以下であり、耐久性が悪かった。また、比較例11の難燃性布帛は、リンの含有量が多すぎることにより、引裂き強度が低くなりすぎ、それゆえ、炭化長も4インチを超えており、防炎性も悪かった。アンチモンの含有量が1.7質量%未満である比較例5、比較例14の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、防炎性が悪かった。アンチモン化合物を含有するアクリル系繊維の含有量が54重量%を超えている比較例3及び比較例9の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、防炎性が悪かった。アンチモン化合物を含有するアクリル系繊維の含有量が14重量%未満である比較例2の難燃性布帛も、炭化長が4インチを超えており、防炎性が悪かった。目付が160g/m
2未満である比較例8の難燃性布帛は、引裂き強度が1.4kgf以下であり、耐久性が悪かった。アンチモン化合物を含有するアクリル系繊維の含有量が54重量%を超えており、目付が160g/m
2未満である比較例4の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、引裂き強度が1.4kgf以下であり、防炎性及び耐久性のいずれも悪かった。アクリル系繊維を含まない比較例1の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、引裂き強度が1.4kgf以下であり、防炎性及び耐久性のいずれも悪かった。天然セルロース繊維を含まず、FRレーヨンを含む比較例12の難燃性布帛は、炭化長が4インチを超えており、防炎性が悪かった。
【0074】
図1には、実施例及び比較例の難燃性布帛におけるアクリル系繊維の含有量、リン含有量及び炭化長をグラフで示した。
図1において、Iは比較例1、IIは比較例2、IIIは比較例10、IVは実施例16、Vは比較例5、VIは実施例6、VIIは実施例8、VIIIは比較例8、IXは実施例4、Xは実施例2、XIは実施例5、XIIは比較例6、XIIIは実施例1、XIVは実施例3、XVは比較例9、XVIは比較例4、XVIIは比較例12に対応する。また、
図1において、バブル(円)は炭化長を示しているものであり、円の大きさが小さいほど炭化長が短いことを意味する。具体的にはバブル(円)の大きさは、炭化長の値から3を引いた値に比例する。
図1において、●(黒丸)は、炭化長が4インチ以下に該当する。
図1から分かるように、難燃性布帛において、アクリル系繊維の含有量が少なすぎると、炭化長が4インチを超えてしまい、防炎性が悪かった。また、驚くことに、難燃性布帛において、アクリル系繊維の含有量が多すぎても、炭化長が4インチを超えてしまい、防炎性が悪かった。具体的には、難燃性布帛におけるリンの含有量が0.3〜1.5重量%であり、アンチモンの含有量が1.7重量%以上の場合、アクリル系繊維の含有量が14〜54重量%の範囲の場合のみ、炭化長が4インチ以下であり、防炎性が高かった。