【氏名又は名称】トロン− トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク−ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON− Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg−Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【文献】
Clinical and Vaccine Immunology,2011年,Vol.18, No.1,p.23-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突然変異に基づくネオエピトープを含むポリペプチドが、30までの突然変異に基づくネオエピトープを含む、請求項1または2に記載の使用のための癌ワクチンの組み合せ物。
前記エピトープが、ワクチン配列を形成するように、天然に存在するタンパク質でも前記エピトープに隣接するアミノ酸配列に隣接し、前記ワクチン配列が30アミノ酸長である、請求項3または4に記載の使用のための癌ワクチンの組み合せ物。
前記ネオエピトープ、エピトープおよび/またはワクチン配列が、頭−尾方向に並んでいるおよび/またはリンカーによって分離されている、請求項3から5のいずれか一項に記載の使用のための癌ワクチンの組み合せ物。
前記第一免疫応答を誘導するためのワクチンおよび/または前記第二免疫応答を誘導するためのワクチンが、RNAワクチンである、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための癌ワクチンの組み合せ物。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書で述べる特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0066】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法および任意の数で組み合わせて付加的な実施形態を創製し得ることが理解されるべきである。様々に説明される実施例および好ましい実施形態は、本発明を明確に説明される実施形態だけに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に説明される実施形態を、多くの開示されるおよび/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を裏付け、包含することが理解されるべきである。さらに、本願で述べるすべての要素の任意の順序および組合せが、文脈によって特に指示されない限り、本願の説明によって開示されるとみなされるべきである。例えば、1つの好ましい実施形態においてRNAが120ヌクレオチドから成るポリ(A)尾部を含み、別の好ましい実施形態では前記RNA分子が5'キャップ類似体を含む場合、好ましい実施形態では、前記RNAは、120ヌクレオチドから成るポリ(A)尾部および5'キャップ類似体を含む。
【0067】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)",H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH−4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0068】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当該分野の文献中で説明される生化学、細胞生物学、免疫学および組換えDNA技術の従来の方法を用いる(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2
nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)。
【0069】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含を意味し、いかなる他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の排除も意味しないが、一部の実施形態では、そのような他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題が、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含に存することが理解される。本発明の説明に関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むと解釈されるべきである。本明細書中の数値の範囲の列挙は、単に範囲内に属する各々別々の数値を個別に言及することの簡略化した方法としての役割を果たすことが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各々個別の数値は、本明細書で個別に列挙されるがごとくに本明細書に組み込まれる。
【0070】
本明細書で述べるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図し、本発明の範囲または特許請求の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であると指示するものとして解釈されるべきではない。
【0071】
いくつかの資料が本明細書の本文全体にわたって引用される。上記または下記で、本明細書において引用される資料の各々は(すべての特許、特許出願、学術出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明を理由にそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0072】
本明細書で述べるワクチンは、好ましくは組換えワクチンである。
【0073】
本発明に関連して「組換え」という用語は、「遺伝子操作を通して作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明に関連して組換えポリペプチドなどの「組換え実体」は、天然に存在せず、好ましくは天然では組み合わされないアミノ酸配列または核酸配列などの実体の組合せの結果である。例えば、本発明に関連して組換えポリペプチドは、ネオエピトープまたは、例えばペプチド結合もしくは適切なリンカーによって一緒に融合された異なるタンパク質もしくは同じタンパク質の異なる部分に由来するワクチン配列などの、いくつかのアミノ酸配列を含み得る。
【0074】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、ある物体が自然界で見出すことができるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、天然源から単離することができ、実験室内で人の手によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。
【0075】
本発明によれば、「ワクチン」という用語は、投与時に、病原体または癌細胞などの異常細胞を認識し、攻撃する免疫応答、特に細胞性免疫応答を誘導する医薬調製物(医薬組成物)または生成物に関する。ワクチンは、疾患の予防または治療のために使用し得る。「個別化癌ワクチン」という用語は特定の癌患者に関し、癌ワクチンが個々の癌患者の必要性または特有の状況に適合されていることを意味する。
【0076】
「免疫応答」という用語は、抗原に対する統合された身体応答を指し、好ましくは細胞性免疫応答または細胞性ならびに体液性免疫応答を指す。免疫応答は、保護的/防止的/予防的および/または治療的であり得る。
【0077】
「免疫応答を誘導する」とは、誘導前は特定の抗原に対する免疫応答が存在しなかったことを意味し得るが、誘導前に特定の抗原に対する一定レベルの免疫応答が存在し、誘導後に前記免疫応答が増強されることも意味し得る。したがって、「免疫応答を誘導する」はまた、「免疫応答を増強する」ことも包含する。好ましくは、被験体において免疫応答を誘導した後、前記被験体は癌疾患などの疾患を発症することから保護される、または免疫応答を誘導することによって疾患状態が改善される。例えば、腫瘍発現抗原に対する免疫応答を、癌疾患を有する患者または癌疾患を発症する危険性がある被験体において誘導し得る。この場合免疫応答を誘導することは、被験体の疾患状態が改善されること、被験体が転移を発症しないこと、または癌疾患を発症する危険性がある被験体が癌疾患を発症しないことを意味し得る。
【0078】
本発明によれば、「腫瘍抗原に対する免疫応答」という用語は、腫瘍抗原または腫瘍抗原を提示する細胞に対する細胞性応答などの免疫応答に関し、腫瘍抗原を発現して提示する癌細胞などの細胞に対する免疫応答を含む。
【0079】
「細胞性免疫応答」、「細胞性応答」、「抗原に対する細胞性応答」または同様の用語は、MHCクラスIまたはクラスIIによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を含むことが意図されている。細胞性応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4
+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLとも称される)は、癌細胞などの異常細胞を死滅させ、さらなる異常細胞の産生を防止する。好ましい実施形態では、本発明は、1つ以上の腫瘍発現抗原を発現し、好ましくはそのような腫瘍発現抗原をクラスI MHCと共に提示する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を含む。
【0080】
本発明による「抗原」は、免疫応答を誘発する任意の物質を包含する。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質、好ましくはペプチドまたはタンパク質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を包含する。好ましくは、本発明に関連して抗原は、場合によりプロセシング後に、好ましくは抗原(抗原を発現する細胞を含む)に特異的な免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、免疫反応の候補物である任意の適切な抗原を使用してよく、ここで免疫反応は、好ましくは細胞性免疫反応である。本発明の実施形態に関連して、抗原は、好ましくは細胞によって、好ましくは異常細胞、特に癌細胞を含む抗原提示細胞によって、MHC分子に関連して提示され、これは抗原に対する免疫反応をもたらす。抗原は、好ましくは天然に存在する抗原に対応するまたは天然に存在する抗原に由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原には腫瘍抗原が含まれる。
【0081】
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち細胞質、細胞表面または細胞核に由来し得る腫瘍細胞中で発現されるタンパク質またはペプチドなどの腫瘍細胞の一部、特に主として腫瘍細胞の細胞内にまたは表面抗原として存在するものである。例えば、腫瘍抗原には、癌胎児性抗原、α1−フェトプロテイン、イソフェリチンおよび胎児性スルホグリコプロテイン、α2−H−鉄タンパク質およびγ−フェトプロテインが含まれる。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは、腫瘍または癌においてならびに腫瘍細胞または癌細胞において発現され、場合により型および/または発現レベルに関して腫瘍または癌に特有のならびに腫瘍細胞または癌細胞に特有の任意の抗原を含む。1つの実施形態では、「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下では、限られた数の組織および/もしくは器官中でまたは特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍抗原は、正常条件下では、胃組織中、好ましくは胃粘膜中、生殖器官中、例えば精巣中、栄養膜組織中、例えば胎盤中、または生殖系列細胞中で特異的に発現され得、1つ以上の腫瘍または癌組織中で発現または異常発現される。これに関連して、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明に関連して腫瘍抗原には、例えば分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の発生段階で特定の細胞型中で特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣中および時として胎盤中で特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原の異常発現は癌細胞を同定する。本発明に関連して、被験体、例えば癌疾患に罹患している患者において癌細胞によって発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記被験体における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明に関連して腫瘍抗原は、正常条件下では必須ではない組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合に被験体の死をもたらさない組織もしくは器官中で、または免疫系によってアクセスされないもしくはほとんどアクセスされない身体の器官もしくは構造体中で特異的に発現される。
【0082】
本発明によれば、「腫瘍抗原」、「腫瘍発現抗原」、「癌抗原」および「癌発現抗原」という用語は等価であり、本明細書中で互換的に使用される。
【0083】
「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘導するための抗原の相対的有効性に関する。
【0084】
本発明による「抗原ペプチド」は、好ましくは、抗原に対する、または抗原の発現を特徴とする、好ましくは異常細胞、特に癌細胞などの抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激することができる抗原の一部分またはフラグメントに関する。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することができる。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドであるか、またはMHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされ得る。好ましくは、抗原ペプチドは、抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗原の前記フラグメントはMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドである。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、そのようなフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、そのようなフラグメント、すなわち抗原由来のMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされる。
【0085】
ペプチドが直接、すなわちプロセシングされずに、特に切断されずに提示される場合、そのペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。
【0086】
ペプチドが、付加的な配列を含むより大きな実体、例えばワクチン配列またはポリペプチドの一部であり、プロセシング後に、特に切断後に提示される場合、プロセシングによって生成されるペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示されるペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来し、すなわちその配列は抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。したがって、本発明による抗原ペプチドまたはワクチン配列は、1つの実施形態では、抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長の配列を含み、抗原ペプチドまたはワクチン配列のプロセシング後に、提示されるペプチドを形成する。本発明によれば、プロセシングによって生成されるそのようなペプチドは、同定された配列変化を含む。
【0087】
本発明によれば、抗原ペプチドまたはエピトープは、2つ以上の抗原ペプチドまたはエピトープを含むワクチン配列および/またはポリペプチドなどのより大きな実体の一部としてワクチン中に存在し得る。提示される抗原ペプチドまたはエピトープは、適切なプロセシング後に生成される。
【0088】
クラスI MHCによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、クラスI MHCによって提示されるペプチドのTCR認識のためまたはMHCへのペプチド結合のために必須ではない1つ以上の残基において異なっていてもよい。そのような実質的に対応するペプチドは、抗原応答性CTLを刺激することもでき、免疫学的に等価とみなされ得る。TCR認識には影響を及ぼさないが、MHCへの結合の安定性を改善する残基において提示ペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善することができ、本明細書では「最適化ペプチド」と称され得る。これらの残基のいずれが、MHCまたはTCRのいずれかへの結合に影響を及ぼす可能性がより高いと考えられるかについての既存の知識を利用して、実質的に対応するペプチドの設計への合理的なアプローチを使用し得る。生じる機能性のペプチドは抗原ペプチドとして企図される。
【0089】
抗原ペプチドは、MHCによって提示された場合、T細胞受容体によって認識可能であるべきである。好ましくは、抗原ペプチドは、T細胞受容体によって認識された場合、適切な共刺激シグナルの存在下で、抗原ペプチドを特異的に認識するT細胞受容体を担持するT細胞のクローン増殖を誘導することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、特にMHC分子に関連して提示された場合、それらが由来する抗原、または抗原の発現を特徴とする、好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激することができる。好ましくは、抗原ペプチドはクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性CTLを刺激することができる。そのような細胞は、好ましくは標的細胞である。
【0090】
「抗原プロセシング」または「プロセシング」は、ポリペプチドまたは抗原などのペプチドまたはタンパク質の、前記ペプチドまたはタンパク質のフラグメントであるプロセシング産物への分解(例えばポリペプチドのペプチドへの分解)、および細胞、好ましくは抗原提示細胞による特異的T細胞への提示のための、MHC分子とこれらのフラグメントの1つ以上との会合(例えば結合による)を指す。
【0091】
「抗原提示細胞」(APC)は、その細胞表面にMHC分子と会合したタンパク質抗原のペプチドフラグメントを提示する細胞である。一部のAPCは抗原特異的T細胞を活性化し得る。
【0092】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、食作用または受容体媒介性エンドサイトーシスのいずれかによって抗原をインターナライズし、その後MHCクラスII分子に結合した抗原のフラグメントをその膜上に提示することにおいて非常に効率的である。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原−MHCクラスII分子複合体を認識し、これと相互作用する。次に、さらなる共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生成され、T細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現はプロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特徴である。
【0093】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主な種類は、最も広範囲の抗原提示を有し、おそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マイクロファージ、B細胞、および特定の活性化上皮細胞である。
【0094】
樹状細胞(DC)は、末梢組織中で捕獲された抗原を、MHCクラスIIおよびクラスIの両方の抗原提示経路によってT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞が免疫応答の強力な誘導物質であり、これらの細胞の活性化が抗腫瘍免疫の誘導のために必須の段階であることは周知である。
【0095】
樹状細胞は、「未成熟」細胞および「成熟」細胞として好都合に分類され、2つの十分に特性付けられた表現型を区別する簡単な方法として使用することができる。しかし、この命名法は分化のすべての可能な中間段階を除外すると解釈されるべきでない。
【0096】
未成熟樹状細胞は、抗原の取込みおよびプロセシングのための高い能力を有する抗原提示細胞として特性付けられ、前記能力はFcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する。成熟表現型は、典型的にはこれらのマーカーのより低い発現を特徴とするが、MHCクラスIおよびクラスII、接着分子(例えばCD54およびCD11)ならびに共刺激分子(例えばCD40、CD80、CD86および4−1BB)などのT細胞活性化の責任を担う細胞表面分子の高発現によっても特徴付けられる。
【0097】
樹状細胞の成熟は、そのような抗原提示樹状細胞がT細胞のプライミングをもたらす樹状細胞活性化の状態と称されるが、未成熟樹状細胞による提示は寛容を生じさせる。樹状細胞の成熟は、主として、先天的受容体によって検出される微生物特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、内毒素等)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL−1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面上のCD40の連結、およびストレス性細胞死を受けた細胞から放出される物質によって引き起こされる。樹状細胞は、骨髄細胞を、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および腫瘍壊死因子αなどのサイトカインと共にインビトロで培養することによって誘導することができる。
【0098】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的に発現しない;これらは、IFNγなどの特定のサイトカインによる非プロフェッショナル抗原提示細胞の刺激後にのみ発現される。
【0099】
「抗原提示細胞」は、ペプチドまたは提示されるべきペプチドを含むポリペプチドをコードする核酸、好ましくはRNA、例えば抗原をコードする核酸を細胞に形質導入することによってMHCクラスI提示ペプチドを負荷することができる。
【0100】
一部の実施形態では、樹状細胞または他の抗原提示細胞を標的とする遺伝子送達ビヒクルを含有する医薬組成物を患者に投与して、インビボで起こるトランスフェクションを生じさせ得る。樹状細胞のインビボトランスフェクションは、例えば、国際公開第97/24447号に記載されているものまたはMahvi et al.,Immunology and cell Biology 75:456−460,1997によって記述されている遺伝子銃アプローチなどの当分野で公知の任意の方法を用いて一般に実施し得る。
【0101】
本発明によれば、「抗原提示細胞」という用語は標的細胞も包含する。
【0102】
「標的細胞」は、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞を意味するものとする。標的細胞には、抗原または抗原エピトープ、すなわち抗原に由来するペプチドフラグメントを提示する細胞が含まれ、癌細胞などの任意の望ましくない細胞が含まれる。好ましい実施形態では、標的細胞は、本明細書で述べる抗原を発現し、好ましくは前記抗原をクラスI MHCと共に提示する細胞である。
【0103】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち、特にMHC分子に関連して提示された場合、免疫系によって認識される、例えばT細胞によって認識される分子中の一部または分子のフラグメントを指す。腫瘍抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続的または不連続的な一部分を含み、好ましくは5〜100、好ましくは5〜50、より好ましくは8〜30、最も好ましくは10〜25アミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。本発明に関連してエピトープは、T細胞エピトープであることが特に好ましい。
【0104】
本発明によれば、エピトープは、細胞の表面上のMHC分子などのMHC分子に結合することができ、したがって「MHC結合ペプチド」または「抗原ペプチド」であり得る。「MHC結合ペプチド」という用語は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には8〜10アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドが有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には10〜25アミノ酸長であり、特に13〜18アミノ酸長であるが、より長いおよびより短いペプチドが有効であり得る。
【0105】
「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」および「MHC結合ペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用され、好ましくは、抗原に対するまたは抗原を発現するもしくは含む、好ましくは提示する細胞に対する免疫応答を誘発することができる、抗原の不完全な形態に関する。好ましくは、この用語は抗原の免疫原性部分に関する。好ましくは、これは、特にMHC分子に関連して提示された場合、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)抗原の一部分である。好ましいそのような免疫原性部分は、MHCクラスIまたはクラスII分子に結合する。本明細書で使用される場合、免疫原性部分は、当分野で公知の任意のアッセイを用いてそのような結合が検出可能である場合、MHCクラスIまたはクラスII分子に「結合する」といわれる。
【0106】
本明細書で使用される場合、「ネオエピトープ」という用語は、正常な非癌性細胞または生殖系列細胞などの参照物中には存在しないが癌細胞中で認められるエピトープを指す。これには、特に、正常な非癌性細胞または生殖系列細胞中で対応するエピトープが認められるが、癌細胞中の1つ以上の突然変異のために、エピトープの配列がネオエピトープを生じるように変化している状況が含まれる。
【0107】
「一部分」(portion)という用語は画分を指す。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その「一部分」という用語は、前記構造の連続的または不連続的な画分を表し得る。好ましくは、アミノ酸配列の一部分は、前記アミノ酸配列のアミノ酸の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに一層好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、一部分が不連続的な画分である場合、前記不連続的な画分は構造の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個またはそれ以上の部分から構成され、各々の部分は構造の連続的な要素である。例えば、アミノ酸配列の不連続的な画分は、前記アミノ酸配列の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個またはそれ以上、好ましくは4個以下の部分から構成され得、ここで各々の部分は、好ましくはアミノ酸配列の少なくとも5個の連続的なアミノ酸、少なくとも10個の連続的なアミノ酸、好ましくは少なくとも20個の連続的なアミノ酸、好ましくは少なくとも30個の連続的なアミノ酸を含む。
【0108】
「一部」(part)および「フラグメント」という用語は、本明細書では互換的に使用され、連続的な要素を指す。例えばアミノ酸配列またはタンパク質などの構造の一部とは、前記構造の連続的な要素を指す。構造の一部分、一部またはフラグメントは、好ましくは前記構造の1つ以上の機能的特性を含む。例えばエピトープ、ペプチドまたはタンパク質の一部分、一部またはフラグメントは、好ましくはそれが由来するエピトープ、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。本発明に関連して、アミノ酸配列などの構造の「一部」は、構造全体またはアミノ酸配列全体の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を好ましくは含み、好ましくはこれらから成る。
【0109】
本発明に関連して「免疫反応性細胞」という用語は、免疫反応の間にエフェクター機能を及ぼす細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは抗原または抗原もしくは抗原に由来する抗原ペプチドの提示を特徴とする細胞に結合することができ、免疫応答を媒介することができる。例えばそのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、抗体を分泌し、癌性細胞を認識し、および場合によりそのような細胞を排除する。例えば、免疫反応性細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージおよび樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明に関連して、「免疫反応性細胞」はT細胞、好ましくはCD4
+および/またはCD8
+T細胞である。
【0110】
好ましくは、「免疫反応性細胞」は、抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを、特に抗原提示細胞または癌細胞などの異常細胞の表面上などにMHC分子に関連して提示された場合、ある程度の特異性で認識する。好ましくは、前記認識は、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が応答性または反応性になることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子に関連して抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4
+T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8
+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解による排除を含み得る。本発明によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流、細胞分裂、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方調節、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポーターを使用しても決定し得る。抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性または反応性であるCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞である場合、そのような応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0111】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0112】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属し、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるその細胞表面上の特殊な受容体の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球型から識別され得る。胸腺はT細胞の成熟の責任を担う主要な器官である。各々が異なる機能を有する、T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されている。
【0113】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも特に、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的過程において他の白血球を助ける。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するため、CD4+T細胞としても公知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原と共に提示された場合に活性化する。ひとたび活性化すると、これらは速やかに分裂し、能動免疫応答を調節するまたは助けるサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0114】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するので、CD8+T細胞としても公知である。これらの細胞は、身体のほぼあらゆる細胞の表面上に存在する、MHCクラスIと会合した抗原に結合することによってその標的を認識する。
【0115】
T細胞の大部分は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から産生され、α−TCR鎖およびβ−TCR鎖と呼ばれる2つの別々のペプチド鎖から成る。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。しかし、γδT細胞では、TCRは1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成される。このT細胞の群はαβT細胞よりもはるかにまれである(全T細胞の2%)。
【0116】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、T細胞受容体が別の細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示された短いペプチドに結合することによって与えられる。これは、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞だけが活性化されることを確実にする。パートナー細胞は、通常はプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答の場合は通常樹状細胞であるが、B細胞およびマクロファージは重要なAPCであり得る。MHCクラスI分子によってCD8+T細胞に提示されるペプチドは、典型的には8〜10アミノ酸長である;MHCクラスII分子の結合溝の末端は開いているので、MHCクラスII分子によってCD4+T細胞に提示されるペプチドは、典型的にはより長い。
【0117】
本発明によれば、T細胞受容体は、標準的なアッセイにおいてあらかじめ定められた標的に有意の親和性を有し、前記あらかじめ定められた標的に結合する場合、前記あらかじめ定められた標的に結合することができる。「親和性」または「結合親和性」は、しばしば平衡解離定数(K
D)によって測定される。T細胞受容体は、標準的なアッセイにおいて標的に有意の親和性を有さず、前記標的に有意に結合しない場合、前記標的に(実質的に)結合することができない。
【0118】
T細胞受容体は、好ましくはあらかじめ定められた標的に特異的に結合することができる。T細胞受容体は、あらかじめ定められた標的に結合することができるが、他の標的には(実質的に)結合することができない、すなわち標準的なアッセイにおいて他の標的に有意の親和性を有さず、他の標的に有意に結合しない場合、前記あらかじめ定められた標的に特異的である。
【0119】
細胞傷害性Tリンパ球は、抗原または抗原ペプチドをインビボで抗原提示細胞に組み込むことによってインビボで生成し得る。抗原または抗原ペプチドは、タンパク質として、DNAとして(例えばベクター内で)またはRNAとして存在し得る。抗原は、MHC分子のペプチドパートナーを生成するようにプロセシングされ得るが、そのフラグメントはさらなるプロセシングを必要とせずに提示され得る。特にこれらがMHC分子に結合することができる場合、後者が当てはまる。一般に、皮内注射による患者への投与が可能である。しかし、注射は、リンパ節内への結節内注射によっても実施し得る(Maloy et al.(2001),Proc Natl Acad Sci USA 98:3299−303)。生じる細胞は関心対象の複合体を提示し、自己細胞傷害性Tリンパ球によって認識され、前記自己細胞傷害性Tリンパ球はその後増殖する。
【0120】
CD4+またはCD8+T細胞の特異的活性化は様々な方法で検出し得る。特異的T細胞活性化を検出する方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(例えばリンホカイン)の産生、または細胞溶解活性の発生を検出することが含まれる。CD4+T細胞に関しては、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+T細胞に関しては、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、細胞溶解活性の発生の検出である。
【0121】
「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、すべての脊椎動物中に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応においてリンパ球と抗原提示細胞または異常細胞との間のシグナル伝達のために重要であり、ここでMHCタンパク質または分子はペプチドと結合し、T細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は細胞の表面上に発現され、自己抗原(細胞自体からのペプチドフラグメント)および非自己抗原(例えば侵入微生物のフラグメント)の両方をT細胞に表示する。
【0122】
MHC領域は、クラスI、クラスIIおよびクラスIIIの3つのサブグループに分けられる。MHCクラスIタンパク質はα鎖およびβ2ミクログロブリン(15番染色体によってコードされるMHCの一部ではない)を含む。これらは抗原フラグメントを細胞傷害性T細胞に提示する。大部分の免疫系細胞、特に抗原提示細胞上で、MHCクラスIIタンパク質はα鎖およびβ鎖を含み、抗原フラグメントをTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分およびサイトカインをコードする一部の成分などの他の免疫成分をコードする。
【0123】
ヒトにおいて、細胞表面上の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域中の遺伝子はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。しかし、MHCという略語は、しばしばHLA遺伝子産物を指すために用いられる。HLA遺伝子には、9つのいわゆる古典的MHC遺伝子:HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−DPA1、HLA−DPB1、HLA−DQA1、HLA−DQB1、HLA−DRAおよびHLA−DRB1が含まれる。
【0124】
本発明のすべての態様の1つの好ましい実施形態では、MHC分子はHLA分子である。
【0125】
「抗原の提示を特徴とする細胞」または「抗原を提示する細胞」または同様の表現により、MHC分子、特にMHCクラスI分子に関連して、その細胞が発現する抗原または前記抗原に由来するフラグメントを、例えば抗原のプロセシングによって提示する異常細胞、例えば癌細胞、または抗原提示細胞などの細胞が意味される。同様に、「抗原の提示を特徴とする疾患」という用語は、特にクラスI MHCによる、抗原の提示を特徴とする細胞を含む疾患を表す。細胞による抗原の提示は、抗原をコードするRNAなどの核酸で細胞をトランスフェクトすることによって実施し得る。
【0126】
「提示される抗原のフラグメント」または同様の表現により、フラグメントが、例えば抗原提示細胞に直接加えられた場合、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによって提示され得ることが意味される。1つの実施形態では、フラグメントは、抗原を発現する細胞によって天然に提示されるフラグメントである。
【0127】
「免疫学的に等価」という用語は、免疫学的に等価の分子、例えば免疫学的に等価のアミノ酸配列が、例えば体液性および/もしくは細胞性免疫応答の誘導などの免疫学的作用の種類、誘導される免疫反応の強さおよび/もしくは持続期間、または誘導される免疫反応の特異性に関して、同じもしくは基本的に同じ免疫学的特性を示すおよび/または同じもしくは基本的に同じ免疫学的作用を及ぼすことを意味する。本発明に関連して、「免疫学的に等価」という用語は、好ましくは免疫のために用いられるペプチドの免疫学的作用または特性に関して使用される。例えば、アミノ酸配列が被験体の免疫系に暴露されたとき参照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応を誘導する場合、前記アミノ酸配列は参照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。
【0128】
本発明に関連して「免疫エフェクター機能」という用語は、例えば腫瘍細胞の死滅、または腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍増殖の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす、免疫系の成分によって媒介される任意の機能を包含する。好ましくは、本発明に関連して免疫エフェクター機能は、T細胞媒介性エフェクター機能である。そのような機能には、ヘルパーT細胞(CD4
+T細胞)の場合は、T細胞受容体によるMHCクラスII分子に関連した抗原または抗原に由来する抗原ペプチドの認識、サイトカインの放出ならびに/またはCD8
+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化が含まれ、CTLの場合は、T細胞受容体によるMHCクラスI分子に関連した抗原または抗原に由来する抗原ペプチドの認識、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解による排除、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインの産生ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれる。
【0129】
「ゲノム」という用語は、生物または細胞の染色体中の遺伝情報の総量に関する。「エクソーム」という用語はゲノムのコード領域を指す。「トランスクリプトーム」という用語は、すべてのRNA分子のセットに関する。
【0130】
「核酸」は、本発明によれば、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写RNA(IVT RNA)または合成RNAである。核酸には、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え産生された分子および化学合成分子が含まれる。本発明によれば、核酸は一本鎖または二本鎖の直鎖状または共有結合閉環状分子として存在し得る。核酸は、本発明によれば、単離することができる。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された、(ii)クローニングによって組換え産生された、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動による分離によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。核酸は、細胞への導入、すなわち細胞のトランスフェクションのために、特にDNA鋳型からインビトロ転写によって調製することができるRNAの形態で使用することができる。前記RNAは、適用の前に配列の安定化、キャッピングおよびポリアデニル化によってさらに修飾することができる。
【0131】
「遺伝物質」という用語は、DNAもしくはRNAのいずれかの単離された核酸、二重らせんの一部、染色体の一部、または生物もしくは細胞のゲノム全体、特にそのエクソームもしくはトランスクリプトームを指す。
【0132】
「突然変異」という用語は、参照と比較した核酸配列の変化または相違(ヌクレオチドの置換、付加または欠失)を指す。「体細胞突然変異」は、生殖細胞(精子および卵子)を除く身体のいずれの細胞においても起こり得、それゆえ子には伝わらない。これらの変化は(常にではないが)、癌または他の疾患を引き起こし得る。好ましくは、突然変異は非同義突然変異である。「非同義突然変異」という用語は、翻訳産物中にアミノ酸置換などのアミノ酸変化を生じさせる突然変異、好ましくはヌクレオチド置換を指す。
【0133】
本発明によれば、「突然変異」という用語は、点突然変異、インデル(Indel)、融合、クロモスリプシスおよびRNA編集を包含する。
【0134】
本発明によれば、「インデル」(Indel)という用語は、共局在する挿入と欠失およびヌクレオチドの正味の増加または減少をもたらす突然変異と定義される、特殊な突然変異クラスを表す。ゲノムのコード領域では、インデルの長さが3の倍数でない限り、これはフレームシフト突然変異を生じさせる。インデルは点突然変異と対比させることができる;インデルが配列からヌクレオチドを挿入および欠失させる場合、点突然変異はヌクレオチドの1個を置き換える置換の1つの形態である。
【0135】
融合は、それまでは別々の2つの遺伝子から形成されたハイブリッド遺伝子を生成することができる。これは、転座、中間部欠失または染色体逆位の結果として起こり得る。しばしば、融合遺伝子は癌遺伝子である。発癌性融合遺伝子は、2つの融合パートナーから新しいまたは異なる機能を有する遺伝子産物をもたらし得る。あるいは、癌原遺伝子が強力なプロモーターに融合し、それにより強力なプロモーターが引き起こす上流の融合パートナーの上方調節によって発癌機能が作動し始める。発癌性融合転写物は、トランススプライシングまたはリードスルー事象によっても引き起こされ得る。
【0136】
本発明によれば、「クロモスリプシス」という用語は、単一の破壊事象によってゲノムの特定領域が崩壊し、その後一緒に縫合される遺伝的現象を指す。
【0137】
本発明によれば、「RNA編集」または「RNAエディティング」という用語は、RNA分子中の情報内容が塩基組成の化学的変化を通して改変される分子過程を指す。RNAエディティングには、シチジン(C)からウリジン(U)へおよびアデノシン(A)からイノシン(I)への脱アミノ化、ならびに非鋳型ヌクレオチド付加および挿入などのヌクレオシド修飾が含まれる。mRNAにおけるRNAエディティングは、コードされるタンパク質のアミノ酸配列を、ゲノムDNA配列によって予測されるものと異なるように有効に改変する。
【0138】
「癌突然変異シグネチャー」という用語は、非癌性参照細胞と比較した場合に癌細胞中に存在する突然変異のセットを指す。
【0139】
本発明によれば、「参照」は、腫瘍標本から本発明の方法で得られた結果を関連付け、比較するために使用し得る。典型的には、「参照」は、患者または1つ以上の異なる個体、好ましくは健常個体、特に同じ種の個体から得られた、1つ以上の正常標本、特に癌疾患による影響を受けていない標本に基づいて入手し得る。「参照」は、十分に多数の正常標本を試験することによって経験的に決定することができる。
【0140】
任意の適切なシークエンシング法を本発明に従って使用することができ、次世代シークエンシング(NGS)技術が好ましい。第三世代シークエンシング法は、方法のシークエンシング工程を迅速化するために将来はNGS技術にとって代わる可能性がある。明確化のために、本発明に関連して「次世代シークエンシング」または「NGS」という用語は、サンガー法として公知の「従来の」シークエンシング法に対して、ゲノム全体を小片に分割することにより核酸鋳型をゲノム全体に沿って並行してランダムに読み取る、すべての新規ハイスループットシークエンシング技術を意味する。そのようなNGS技術(超並列シークエンシング技術としても公知である)は、全ゲノム、エクソーム、トランスクリプトーム(ゲノムのすべての転写配列)またはメチローム(ゲノムのすべてのメチル化配列)の核酸配列情報を非常に短期間、例えば、1〜2週間以内、好ましくは1〜7日間以内、または最も好ましくは24時間未満内に送達することができ、原理上は、単一細胞シークエンシングアプローチを可能にする。市販されているかまたは文献中で言及されている複数のNGSプラットフォーム、例えばZhang et al.2011:The impact of next−generation sequencing on genomics.J.Genet Genomics 38(3),95−109;またはVoelkerding et al.2009:Next generation sequencing:From basic research to diagnostics.Clinical chemistry 55,641−658に詳述されているものを本発明に関連して使用することができる。そのようなNGS技術/プラットフォームの非限定的な例は以下のとおりである:
1)例えば、Ronaghi et al.1998:A sequencing method based on real−time pyrophosphate.Science 281(5375),363−365に最初に記載された、Roche関連会社である454 Life Sciences(Branford,Connecticut)のGS−FLX 454 Genome Sequencer(登録商標)において実行されるピロシークエンス法として公知の「合成によるシークエンシング」技術。この技術は、一本鎖DNA結合ビーズが、激しくボルテックスすることにより、エマルジョンPCR増幅のために油に取り囲まれたPCR反応物を含有する水性ミセル中に被包される、エマルジョンPCRを用いる。ピロシークエンシング工程中、ポリメラーゼがDNA鎖を合成するにつれて、ヌクレオチド組込みの間にリン酸分子から放出される光が記録される。
2)可逆的色素−ターミネータに基づく、例えばIllumina/Solexa Genome Analyzer(登録商標)およびIllumina HiSeq 2000 Genome Analyzer(登録商標)において実行される、Solexa(現在はIllumina Inc.,San Diego,Californiaの一部)によって開発された「合成によるシークエンシング」アプローチ。この技術では、4つすべてのヌクレオチドを、DNAポリメラーゼと共にフローセルチャネル中のオリゴプライミングしたクラスターフラグメントに同時に添加する。架橋増幅は、シークエンシングのために4つすべての蛍光標識ヌクレオチドを有するクラスター鎖を伸長させる。
3)例えばApplied Biosystems(現在はLife Technologies Corporation,Carlsbad.California)のSOLid(登録商標)プラットフォームにおいて実行される、「ライゲーションによるシークエンシング」アプローチ。この技術では、固定された長さのすべての可能なオリゴヌクレオチドのプールを配列決定された位置に従って標識する。オリゴヌクレオチドをアニーリングし、連結する;配列をマッチさせるためのDNAリガーゼによる選択的なライゲーションは、その位置のヌクレオチドの情報を与えるシグナルをもたらす。シークエンシングの前に、DNAをエマルジョンPCRによって増幅する。各々同じDNA分子のコピーだけを含有する、生じたビーズをスライドガラス上に載せる。2番目の例として、Dover Systems(Salem,New Hampshire)のPolonator(登録商標)G.007プラットフォームも、ランダムに配置したビーズに基づくエマルジョンPCRを使用して並列シークエンシングのためにDNAフラグメントを増幅することによる、「ライゲーションによるシークエンシング」アプローチを用いる。
4)例えばPacific Biosciences(Menlo Park,California)のPacBio RSシステムまたはHelicos Biosciences(Cambridge,Massachusetts)のHeliScope(登録商標)プラットフォームにおいて実行されるような、単一分子シークエンシング技術。この技術の明らかな特徴は、単一分子リアルタイム(SMRT)DNAシークエンシングと定義される、単一DNAまたはRNA分子を増幅せずに配列決定するその能力である。例えばHeliScopeは、各々のヌクレオチドが合成されると共にそれを直接検出する高感度蛍光検出システムを用いる。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく同様のアプローチがVisigen Biotechnology(Houston,Texas)から開発されている。他の蛍光に基づく単一分子技術は、U.S.Genomics(GeneEngine(登録商標))およびGenovoxx(AnyGene(登録商標))からのものである。
5)例えば複製中の一本鎖上のポリメラーゼ分子の動きを観測するためにチップ上に配置された様々なナノ構造を用いる、単一分子シークエンシングのためのナノ技術。ナノ技術に基づくアプローチの非限定的な例は、Oxford Nanopore Technologies(Oxford,UK)のGridON(登録商標)プラットフォーム、Nabsys(Providence,Rhode Island)によって開発されたハイブリダイゼーション支援ナノポアシークエンシング(HANS(登録商標))プラットフォーム、およびコンビナトリアルプローブアンカーライゲーション(cPAL(登録商標))と呼ばれるDNAナノボール(DNB)技術を用いた、特許保護されているリガーゼに基づくDNAシークエンシングプラットフォームである。
6)単一分子シークエンシングのための電子顕微鏡検査に基づく技術、例えばLightSpeed Genomics(Sunnyvale,California)およびHalcyon Molecular(Redwood City,California)によって開発されたもの。
7)DNAの重合の間に放出される水素イオンの検出に基づくイオン半導体シークエンシング。例えばIon Torrent Systems(San Francisco,California)は、この生化学的工程を超並列的に実施するために微細機械加工したウェルの高密度アレイを使用する。各々のウェルは異なるDNA鋳型を保持する。ウェルの下にはイオン感受性層があり、その下には特許保護されているイオンセンサーがある。
【0141】
好ましくは、DNAおよびRNA調製物はNGSのための出発物質としての役割を果たす。そのような核酸は、生物学的物質などの試料から、例えば新鮮、急速冷凍もしくはホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織(FFPE)から、または新たに単離された細胞から、または患者の末梢血中に存在するCTCから容易に入手することができる。正常な非突然変異ゲノムDNAまたはRNAは正常な体組織から抽出することができるが、生殖系列細胞が本発明に関連して好ましい。生殖系列DNAまたはRNAは、非血液学的悪性腫瘍を有する患者における末梢血単核細胞(PBMC)から抽出される。FFPE組織または新鮮単離された単一細胞から抽出された核酸は高度に断片化されているが、これらはNGS適用に適する。
【0142】
エクソームシークエンシングのためのいくつかの標的NGS法が文献に記載されており(総説については、例えばTeer and Mullikin 2010:Human Mol Genet 19(2),R145−51参照)、それらのすべてが本発明と共に使用することができる。これらの方法の多くは(例えばゲノム捕捉、ゲノム分配、ゲノム濃縮等として記述されている)ハイブリダイゼーション技術を使用し、アレイに基づく(例えばHodges et al.2007:Nat.Genet.39,1522−1527)および液体に基づく(例えばChoi et al.2009:Proc.Natl.Acad.Sci USA 106,19096−19101)ハイブリダイゼーションアプローチを含む。また、DNA試料の調製およびその後のエクソーム捕獲のための市販のキットも入手可能である;例えばIllumina Inc.(San Diego,California)は、TruSeq(登録商標)DNA Sample Preparation Kit)およびTruSeq(登録商標)Exome Enrichment Kitを提供している。
【0143】
例えば腫瘍試料の配列を生殖系列試料の配列などの参照試料の配列と比較する場合、癌特異的体細胞突然変異または配列相違を検出する際に偽陽性所見の数を低減するために、これらの試料種の一方または両方のレプリケート中の配列を決定することが好ましい。したがって、生殖系列試料の配列などの参照試料の配列を2回または3回またはそれ以上決定することが好ましい。あるいはまたは加えて、腫瘍試料の配列を2回または3回またはそれ以上決定する。また、生殖系列試料の配列などの参照試料の配列および/または腫瘍試料の配列を、ゲノムDNA中の配列を少なくとも1回決定し、前記参照試料および/または前記腫瘍試料のRNA中の配列を少なくとも1回決定することによって2回以上決定することも可能であり得る。例えば、生殖系列試料などの参照試料のレプリケート間の変異を決定することにより、統計的量としての体細胞突然変異の予想される偽陽性率(FDR)を推定することができる。1つの試料の技術的反復は同一の結果を生じるはずであり、この「対同一物比較」(same vs.same comparison)において検出されるいずれの突然変異も偽陽性である。特に、参照試料と比較して腫瘍試料における体細胞突然変異検出についての偽発見率を決定するため、参照試料の技術的反復を、偽陽性の数を推定するための参照として用いることができる。さらに、様々なクオリティ関連測定基準(例えばカバレッジまたはSNPクオリティ)を、機械学習アプローチを用いて単一クオリティスコアに組み合わせ得る。所与の体性変異に関して、上回るクオリティスコアを有するすべての他の変異を計数することができ、これはデータセット中のすべての変異の順位付けを可能にする。
【0144】
本発明によれば、ハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定法を適用することができる。
【0145】
ハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定の1つの実施形態では、Fluidigmプラットフォームを使用し得る。そのようなアプローチは以下の工程を含み得る:
1.所与の患者から腫瘍組織/細胞および健常組織を採取する。
2.遺伝物質を癌性および健常細胞から抽出し、次に標準的な次世代シークエンシング(NGS)プロトコルを用いてそのエクソーム(DNA)を配列決定する。NGSのカバレッジは、少なくとも5%の頻度を有するヘテロ接合体対立遺伝子を検出できる範囲である。トランスクリプトーム(RNA)も癌細胞から抽出し、cDNAに変換して、配列決定し、いずれの遺伝子が癌細胞によって発現されるかを決定する。
3.発現された非同義一塩基変異(SNV)を本明細書で述べるように同定する。健常組織中のSNPである部位をフィルタリング除去する。
4.(3)からのN=96の突然変異を種々の頻度にわたって選択する。蛍光検出に基づくSNP遺伝子型決定アッセイをこれらの突然変異について設計し、合成する(そのようなアッセイの例には、Life TechnologiesによるTaqManに基づくSNPアッセイまたはFluidigmによるSNPtypeアッセイが含まれる)。アッセイは、所与のSNVを含むアンプリコンを増幅するための特異的標的増幅(STA)プライマーを含む(これはTaqManおよびSNPtypeアッセイにおいて標準的である)。
5.個々の細胞をレーザーマイクロダイセクション(LMD)または単細胞懸濁液への分離のいずれかによって腫瘍および健常組織から単離し、次いで以前に記述されているように(Dalerba P.et al.(2011)Nature Biotechnology 29:1120−1127)選別する。細胞を事前選択せずに(すなわち偏りなく)選択することができるか、あるいは癌性細胞を濃縮することができる。濃縮方法には、特異的染色、細胞の大きさによる選別、LMD中の組織学的検査等が含まれる。
6.個々の細胞を、マスターミックスとSTAプライマーを含むPCR管中で単離し、SNVを含むアンプリコンを増幅する。あるいは単一細胞のゲノムを、以前に記述されているように(Frumkin D.et al.(2008)Cancer Research 68:5924)全ゲノム増幅(WGA)によって増幅する。95℃の加熱工程または専用の溶解緩衝液のいずれかによって細胞溶解を達成する。
7.STA増幅した試料を希釈し、Fluidigm遺伝子型決定アレイに負荷する。
8.健常組織からの試料を陽性コントロールとして使用し、ホモ接合体対立遺伝子クラスター(突然変異なし)を決定する。NGSデータはホモ接合体突然変異が極めてまれであることを示すので、典型的には2つのクラスター:XXおよびXYだけが予測され、X=健常である。
9.実行し得るアレイの数は制限されず、実際には約1000個までの単一細胞を検定することが可能である(約10個のアレイ)。384プレートで実施した場合、試料調製を数日間に短縮することができる。
10.次に各々の細胞についてのSNVを決定する。
【0146】
ハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定の別の実施形態では、NGSプラットフォームを使用し得る。そのようなアプローチは以下の工程を含み得る:
1.上記の工程1から6は、N(検定されるSNVの数)が96よりはるかに大きくてもよいことを除き、同一である。WGAの場合は、その後に数サイクルのSTAを実施する。STAプライマーは、各プライマー上に2つの万能タグ配列を含む。
2.STA後、バーコードプライマーをアンプリコンへとPCR増幅する。バーコードプライマーは、固有のバーコード配列と上記万能タグ配列を含む。したがって各々の細胞は固有のバーコードを含む。
3.すべての細胞からのアンプリコンを混合し、NGSによって配列決定する。多重化できる細胞数への実際的な制限は、調製できるプレートの数である。試料を384プレートで調製することができるので、実際的な制限は約5000個の細胞である。
4.配列データに基づき、個々の細胞のSNV(または他の構造的異常)を検出する。
【0147】
抗原の優先順位を決定するために、単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統発生的再構築(「系統発生的抗原優先順位付け」)を本発明に従って使用し得る。発現、突然変異の種類(非同義対他の突然変異)、MHC結合特性などの基準に基づく抗原の優先順位付け以外に、腫瘍内および腫瘍間の不均一性ならびに生検のバイアスに対処するように設計された優先順位付けのさらなる次元を、例えば以下で述べるように使用することができる。
【0148】
1.最も豊富な抗原の同定
ハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定法に関連して上述した単一細胞アッセイに基づき、各々のSNVの頻度を正確に推定することができ、存在する最も豊富なSNVを、癌の個別化ワクチン(IVAC)を提供するために選択することができる。
【0149】
2.根付き木解析に基づく一次基底抗原の同定
腫瘍からのNGSデータは、ホモ接合体突然変異(両方の対立遺伝子でヒット)がまれな事象であることを示唆する。それゆえ、ハプロタイピングの必要はなく、腫瘍体細胞突然変異の系統樹を単一細胞SNVデータセットから作成することができる。生殖系列配列を使用して系統樹を根付かせる。祖先配列を再現するためのアルゴリズムを使用して、系統樹の根に近い節の配列を再現する。これらの配列は、原発性腫瘍中に存在すると予測される最初期の突然変異(本明細書では一次基底突然変異/抗原と定義される)を含む。2つの突然変異がゲノム上の同じ位置の同じ対立遺伝子で起こる確率は低いため、祖先配列における突然変異は腫瘍中で固定されていると予測される。
【0150】
一次基底抗原を優先順位付けることは、生検中の最も頻度の高い突然変異を優先順位付けることと等価ではない(ただし、一次基底突然変異は生検中の最も頻度が高いものの1つであると予想される)。その理由は以下のとおりである:例えば2つのSNVが生検に由来するすべての細胞中に存在する(したがって同じ頻度、すなわち100%を有する)と思われるが、一方の突然変異は基底であり、他方はそうではない場合、基底突然変異がIVACのために選択されるべきである。これは、基底突然変異は腫瘍のすべての領域中に存在する可能性が高いが、後者の突然変異は、生検が採取された領域に偶然固定されたより最近の突然変異であり得るためである。加えて、基底抗原は、原発性腫瘍に由来する転移性腫瘍中に存在する可能性が高い。それゆえIVACのために基底抗原を優先することにより、IVACが腫瘍の一部だけでなく腫瘍全体を根絶することができる可能性を大きく高め得る。
【0151】
二次性腫瘍が存在し、これらも採取された場合、すべての腫瘍の進化樹を推定することができる。これは系統樹の頑健性を改善することができ、すべての腫瘍の基底となる突然変異の検出を可能にする。
【0152】
3.腫瘍に最大限にまたがる抗原の同定
すべての腫瘍部位を最大限にカバーする抗原を得るための別のアプローチは、腫瘍からいくつかの生検を採取することである。1つの戦略は、NGS分析によってすべての生検中に存在すると同定された抗原を選択することである。基底突然変異を同定する確率を改善するために、すべての生検からの単一細胞突然変異に基づく系統発生分析を実施することができる。
【0153】
転移の場合は、すべての腫瘍からの生検を得ることができ、すべての腫瘍に共通する、NGSによって同定された突然変異を選択することができる。
【0154】
4.転移を阻害する抗原を優先順位付けるためのCTCの使用
転移性腫瘍は単一細胞に由来すると考えられている。それゆえ所与の患者の種々の腫瘍から抽出した個々の細胞を遺伝子型決定することと併せて患者の血中循環腫瘍細胞(CTC)を遺伝子型決定することにより、癌の進化の歴史を再構築することができる。原発性腫瘍に由来するCTCのクレードを通してもとの腫瘍から進化する転移性腫瘍を観測することが期待される。
【0155】
以下(CTCを同定し、計数して、遺伝子プローブするためのバイアスのない方法)では、CTCのバイアスのない単離およびゲノム解析のための、上述したハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定法の拡張を述べる。上述した分析を用いて、次にプライマー腫瘍、CTCおよび転移から生じる二次性腫瘍(存在する場合)の系統樹を再構築することができる。この系統樹に基づき、CTCが最初に原発性腫瘍から切り離された時点またはその直後に起こった突然変異(パッセンジャーまたはドライバー)を同定することができる。原発性腫瘍から生じるCTCのゲノムは、二次性腫瘍ゲノムよりも原発性腫瘍ゲノムに進化的により類似することが予想される。さらに、原発性腫瘍から生じるCTCのゲノムは、二次性腫瘍中に固定されている、または将来二次性腫瘍が形成された場合に固定される可能性が高い、固有の突然変異を含むことが予想される。これらの固有の突然変異を、転移を標的とする(または予防する)IVACのために優先することができる。
【0156】
CTC突然変異と一次基底突然変異を優先順位付けることの利点は、CTCに由来する抗原が、転移を特異的に標的とするためにT細胞を動員することができ、それゆえ原発性腫瘍を標的とするT細胞とは独立した武器となる(異なる抗原を使用する)ことである。加えて、二次性腫瘍がほとんど(または全く)存在しない場合、腫瘍回避の確率は所与の抗原を担持する癌細胞の数に対応するはずであるので、CTC由来抗原からの免疫回避の可能性はより低いと予想される。
【0157】
5.同じ細胞上に共起する抗原の同定(「カクテル」IVAC)
腫瘍は、免疫系および治療法の選択圧に起因する突然変異を抑制するように進化すると考えられている。同じ細胞上に共起し、腫瘍中でも高頻度である複数の抗原を標的とする癌ワクチンは、腫瘍回避機構を無効にするより大きな可能性を有し、それゆえ再発の可能性を低減する。そのような「カクテルワクチン」は、HIV陽性患者のための抗レトロウイルス併用療法に類似する。共起する突然変異は、系統発生分析によってまたはすべての細胞のSNVアラインメントを検査することによって同定できる。
【0158】
さらに、本発明によれば、CTCを同定し、計数して、遺伝子プローブするためのバイアスのない方法を使用することができる。そのようなアプローチは以下の工程を含み得る:
1.腫瘍の生検を入手し、体細胞突然変異の地図を決定する。
2.選択肢1:これまでに確立された優先順位付けスキームに基づくさらなる検討のためにN≧96の突然変異を選択する。
選択肢2:単一細胞アッセイ(上述したハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定法参照)、次いで系統発生分析を実施し、多様性を最大化するためにN≧96の一次基底突然変異および場合により最近の突然変異を選択する。前者の突然変異はCTCを同定するために(以下参照)、および後者は系統発生分析を行うために有用である(「同じ細胞上に共起する抗原の同定(「カクテル」IVAC)」の章参照)。
3.癌患者から全血を得る。
4.赤血球を溶解する。
5.CD45
+細胞を枯渇させる(例えば選別、抗CD45抗体に結合した磁気ビーズ等による)ことによって白血球を除去し、CTCを濃縮する。
6.DNAアーゼ消化によって遊離DNAを除去する。遊離DNAの起源は、血液中に存在するDNAまたは死細胞からのDNAであり得る。
7.残りの細胞をPCR管に選別し、STAを実施して(選択した突然変異に基づく)、Fluidigm(上述したハイスループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定法)でスクリーニングする。CTCは、一般に複数のSNVについて陽性であるはずである。
8.次に、スクリーニングしたSNVのパネルに基づき、癌性と同定された細胞(=CTC)を系統発生的にさらに分析することができる(「同じ細胞上に共起する抗原の同定(「カクテル」IVAC)」の章参照)。
【0159】
また、この方法を、単離されたCTCについてのこれまでに確立された方法と組み合わせることも可能である。例えば、EpCAM+細胞、またはサイトケラチンについて陽性の細胞を選別することができる(Rao CG.et al.(2005)International journal of oncology 27:49;Allard WJ.et al.(2004)Clinical Cancer Research 10:6897−6904)。次に、これらの推定上のCTCをFluidigm/NGSで検証/プロファイリングし、その突然変異を導き出すことができる。
【0160】
この方法を用いてCTCを計数することができる。この方法は、癌細胞によって発現され得るまたは発現されないと考えられる1つの特定のマーカーに頼るではなく、患者に固有の癌体細胞突然変異の突然変異プロフィールに基づくので、これはCTCを検出し、数えるためのバイアスのない方法である。
【0161】
本発明によれば、ドライバー突然変異を濃縮するための単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統発生的再構築を含むアプローチ(「系統発生的フィルタリング」)を使用し得る。
【0162】
このアプローチの1つの実施形態では、ドライバー突然変異を回復するための汎腫瘍系統発生分析を実施する。
【0163】
例えば、n=1の腫瘍からのドライバー突然変異を検出し得る。
【0164】
上記「根付き木解析に基づく一次基底抗原の同定」の章では、祖先配列を回復するおよび/または樹の根に近い配列を有する細胞を同定するための方法を述べている。定義によりこれらは樹の根に近い配列であるので、これらの配列中の突然変異の数は癌のバルク試料中の突然変異の数より有意に少ないと予想される。それゆえ、樹の根に近い配列を選択することにより、多くのパッセンジャー突然変異が「系統発生的にフィルタリング」除去されると予想される。この手順はドライバー突然変異を大きく濃縮する可能性を有する。ドライバー突然変異は、その後患者の治療を同定/選択するのに使用することができるかまたは新規治療法のための糸口として用いることができる。
【0165】
別の例では、所与の種類のn>1の腫瘍からのドライバー突然変異を検出し得る。
【0166】
特定の種類の多くの腫瘍から一次基底突然変異を再構築することにより、ドライバー突然変異を検出する可能性を大きく高めることができる。樹の根に近い基底配列は多くのパッセンジャー突然変異をフィルタリング除去するので、ドライバー突然変異を検出する際のシグナル対ノイズ比は大きく上昇すると予想される。そのためこの方法は、(1)より頻度の低いドライバー突然変異、(2)より少ない試料からの高頻度のドライバー突然変異を検出する可能性を有する。
【0167】
ドライバー突然変異を濃縮するための単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統発生的再構築を含むアプローチ(「系統発生的フィルタリング」)の別の実施形態では、ドライバー突然変異を引き起こす転移を回復するための系統発生分析を実施する。
【0168】
上記「転移を阻害する抗原を優先順位付けるためのCTCの使用」の章では、CTC関連突然変異を検出する方法を述べている。この方法は、転移をもたらすドライバー突然変異を濃縮するためにも使用することができる。例えば、プライマー腫瘍、二次性腫瘍およびCTCの組み合わせた系統発生をマッピングすることにより、原発性腫瘍に由来するCTCは原発性と二次性腫瘍のクレードの間を連結するはずである。そのような系統発生分析は、プライマー腫瘍と二次性腫瘍との間のこの移行部における固有の突然変異を正確に特定するのを助けることができる。これらの突然変異の1つの画分がドライバー突然変異であり得る。さらに、同じ癌の異なる事例(すなわちn>1の腫瘍)からの固有のCTC突然変異を比較することにより、転移を引き起こす固有のドライバー突然変異をさらに濃縮することができる。
【0169】
本発明によれば、原発性腫瘍対二次性腫瘍を同定するための系統発生分析を使用し得る。
【0170】
転移の場合、すべての腫瘍を採取した場合は、根付き木を使用して腫瘍が出現した時間的順序、すなわちいずれの腫瘍が原発性腫瘍(樹の根に最も近い節)であり、いずれの腫瘍が最新のものであるかを予測することができる。これは、いずれの腫瘍が原発性であるかを決定することが困難な場合に有用であり得る。
【0171】
本発明に関連して、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基から成る分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β−D−リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、基本的に純粋なRNA、合成RNA、ならびに1個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変化によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAなどの組換え作製されたRNAを含む。そのような変化には、例えばRNAの1または両末端へのまたは内部での、例えばRNAの1個以上のヌクレオチドにおける非ヌクレオチド物質の付加が含まれ得る。RNA分子中のヌクレオチドには、天然には存在しないヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの、非標準ヌクレオチドも含まれ得る。これらの変化したRNAは、類似体または天然に存在するRNAの類似体と称され得る。
【0172】
本発明によれば、「RNA」という用語は、「mRNA」を包含し、好ましくは「mRNA」に関する。「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって作製され、ペプチドまたはタンパク質をコードする「転写産物」に関する。典型的には、mRNAは、5'−UTR、タンパク質コード領域および3'−UTRを含む。mRNAは、細胞中およびインビトロで限られた半減期しか有さない。本発明に関連して、mRNAはDNA鋳型からインビトロ転写によって作製され得る。インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0173】
本発明によれば、RNAの安定性および翻訳効率は必要に応じて改変し得る。例えば、RNAの安定化作用を有するおよび/または翻訳効率を高める1つ以上の修飾によってRNAを安定化し、その翻訳効率を高め得る。そのような修飾は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP2006/009448号に記載されている。本発明に従って使用されるRNAの発現を増大させるために、コード領域内、すなわち発現されるペプチドまたはタンパク質をコードする配列内で、好ましくは発現されるペプチドまたはタンパク質の配列を変化させずに、GC含量を増大させてmRNAの安定性を高め、コドン最適化を実施し、したがって細胞中での翻訳を増強するようにRNAを修飾し得る。
【0174】
本発明で使用されるRNAに関連して「修飾」という用語は、前記RNA中に天然では存在しないRNAの任意の修飾を包含する。
【0175】
本発明の1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNAは、キャップされていない5'−三リン酸を有さない。そのようなキャップされていない5'−三リン酸の除去は、RNAをホスファターゼで処理することによって達成できる。
【0176】
本発明によるRNAは、その安定性を高めるおよび/または細胞傷害性を低下させるために修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。例えば、1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNA中で、シチジンを5−メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。あるいはまたは加えて、1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNA中で、ウリジンをプソイドウリジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。
【0177】
1つの実施形態では、「修飾」という用語は、RNAに5'−キャップまたは5'−キャップ類似体を提供することに関する。「5'−キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に認められるキャップ構造を指し、一般に独特の5'−5'三リン酸結合によってmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドから成る。1つの実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。「従来の5'−キャップ」という用語は、天然に存在するRNAの5'−キャップ、好ましくは7−メチルグアノシンキャップ(m
7G)を指す。本発明に関連して、「5'−キャップ」という用語には、RNAキャップ構造に類似し、好ましくはインビボおよび/または細胞中で、RNAに結合した場合RNAを安定化するおよび/またはRNAの翻訳を増強する能力を有するように修飾されている5'−キャップ類似体が含まれる。
【0178】
好ましくは、RNAの5'末端は、以下の一般式:
【化1】
[式中、R
1およびR
2は、独立してヒドロキシまたはメトキシであり、ならびにW
−、X
−およびY
−は、独立して酸素、硫黄、セレンまたはBH
3である]
を有するキャップ構造を含む。好ましい実施形態では、R
1およびR
2はヒドロキシであり、ならびにW
−、X
−およびY
−は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R
1およびR
2の一方、好ましくはR
1はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、ならびにW
−、X
−およびY
−は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R
1およびR
2はヒドロキシであり、ならびにW
−、X
−およびY
−の1つ、好ましくはX
−は硫黄、セレンまたはBH
3、好ましくは硫黄であり、その他は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R
1およびR
2の一方、好ましくはR
2はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、ならびにW
−、X
−およびY
−の1つ、好ましくはX
−は硫黄、セレンまたはBH
3、好ましくは硫黄であり、その他は酸素である。
【0179】
上記式中、右側のヌクレオチドは、その3'基を介してRNA鎖に結合されている。
【0180】
W
−、X
−およびY
−の少なくとも1つが硫黄である、すなわちホスホロチオエート部分を有するキャップ構造は、種々のジアステレオ異性体の形態で存在し、それらのすべてが本明細書に包含される。さらに、本発明は、上記式のすべての互変異性体および立体異性体を包含する。
【0181】
例えば、R
1がメトキシであり、R
2がヒドロキシであり、X
−が硫黄であり、ならびにW
−およびY
−が酸素である上記構造を有するキャップ構造は、2つのジアステレオ異性体形態(RpおよびSp)で存在する。これらは逆相HPLCによって分離することができ、逆相HPLCカラムからの溶出順序に従ってD1およびD2と命名される。本発明によれば、m
27,2'−OGpp
SpGのD1異性体が特に好ましい。
【0182】
RNAに5'−キャップまたは5'−キャップ類似体を提供することは、前記5'−キャップまたは5'−キャップ類似体の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成でき、前記5'−キャップを作製されたRNA鎖に同時転写によって組み込むか、またはRNAを、例えばインビトロ転写によって作製し、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて5'−キャップを転写後にRNAに結合し得る。
【0183】
RNAはさらなる修飾を含み得る。例えば、本発明で使用されるRNAのさらなる修飾は、天然に存在するポリ(A)尾部の伸長もしくは末端切断、または前記RNAのコード領域に関連しない非翻訳領域(UTR)の導入などの5'UTRもしくは3'UTRの変化、例えばグロビン遺伝子、例えばα2グロビン、α1グロビン、βグロビン、好ましくはβグロビン、より好ましくはヒトβグロビンに由来する3'UTRの1コピー以上、好ましくは2コピーと既存の3'UTRの交換もしくは前記グロビン遺伝子由来の3'UTRの1コピー以上、好ましくは2コピーの挿入であり得る。
【0184】
マスクされていないポリA配列を有するRNAは、マスクされたポリA配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。「ポリ(A)尾部」または「ポリA配列」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスクされていないポリA配列」は、RNA分子の3'末端のポリA配列がポリA配列のAで終了し、ポリA配列の3'末端側、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらに、約120塩基対の長いポリA配列は、RNAの最適な転写産物安定性および翻訳効率をもたらす。
【0185】
それゆえ、本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現を増大させるために、好ましくは10〜500、より好ましくは30〜300、さらに一層好ましくは65〜200、特に100〜150個のアデノシン残基の長さを有するポリA配列と共に存在するようにRNAを修飾し得る。特に好ましい実施形態では、ポリA配列は約120個のアデノシン残基の長さを有する。本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現をさらに増大させるために、ポリA配列を脱マスク化することができる。
【0186】
加えて、RNA分子の3'非翻訳領域(UTR)内への3'非翻訳領域の組込みは、翻訳効率の上昇をもたらすことができる。2つ以上のそのような3'非翻訳領域を組み込むことによって相乗効果を達成し得る。3'非翻訳領域は、それらが導入されるRNAに対して自己または異種であってよい。1つの特定の実施形態では、3'非翻訳領域はヒトβグロビン遺伝子に由来する。
【0187】
上述した修飾、すなわちポリA配列の組込み、ポリA配列の脱マスク化および1つ以上の3'非翻訳領域の組込みの組合せは、RNAの安定性および翻訳効率の上昇に相乗的影響を及ぼす。
【0188】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量または数の半分を除去するのに必要な期間に関する。本発明に関連して、RNAの半減期は前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を及ぼし得る。長い半減期を有するRNAは長期間発現されると予想することができる。
【0189】
言うまでもなく、本発明によれば、RNAの安定性および/または翻訳効率を低下させることが望ましい場合、RNAの安定性および/または翻訳効率を上昇させる上述した要素の機能を妨げるようにRNAを修飾することが可能である。
【0190】
「発現」という用語は、本発明によればその最も一般的な意味で使用され、例えば転写および/または翻訳による、RNAおよび/またはペプチドもしくはポリペプチドの産生を含む。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、特にペプチドまたはポリペプチドの産生に関する。また、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であり得る。
【0191】
本発明によれば、発現という用語には、「異所発現」または「異常発現」も含まれる。「異所発現」または「異常発現」は、本発明によれば、参照、例えば特定のタンパク質、例えば腫瘍抗原の異所または異常発現に関連する疾患を有していない被験体の状態と比較して、発現が変化している、好ましくは増大していることを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%またはそれ以上の増大を指す。1つの実施形態では、発現は罹患組織においてのみ認められ、健常組織中での発現は抑制されている。
【0192】
「特異的に発現される」という用語は、タンパク質が、基本的に特定の組織または器官中でのみ発現されることを意味する。例えば、胃粘膜中で特異的に発現される腫瘍抗原は、前記タンパク質が主として胃粘膜中で発現され、他の組織では発現されないまたは他の組織または器官型では有意の程度に発現されないことを意味する。したがって、胃粘膜の細胞中で排他的に発現され、精巣などの他の組織では有意に低い程度に発現されるタンパク質は、胃粘膜の細胞中で特異的に発現される。一部の実施形態では、腫瘍抗原はまた、正常条件下では2以上の組織型または器官、例えば2または3の組織型または器官中で、しかし好ましくは3以下の異なる組織または器官型中で特異的に発現され得る。この場合、腫瘍抗原はこれらの器官中で特異的に発現される。例えば、腫瘍抗原が、正常条件下では、好ましくは肺と胃においてほぼ同程度に発現される場合、前記腫瘍抗原は肺および胃中で特異的に発現される。
【0193】
本発明に関連して、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはタンパク質へと翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、ここで「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロ合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターを転写産物の作製に適用する。これらのクローニングベクターは一般に転写ベクターと称され、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。本発明によれば、本発明で使用されるRNAは、好ましくはインビトロ転写RNA(IVT RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって入手し得る。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼについての任意のプロモーターであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、本発明によるインビトロ転写はT7またはSP6プロモーターによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって入手し得る。cDNAはRNAの逆転写によって入手し得る。
【0194】
本発明による「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNAの鎖が、ペプチドまたはポリペプチドを作製するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指令する、細胞のリボソーム中の過程に関する。
【0195】
本発明によれば、核酸と機能的に連結し得る発現制御配列または調節配列は、核酸に関して同種または異種であってよい。コード配列および調節配列は、コード配列の転写または翻訳が調節配列の制御下または影響下にあるように一緒に共有結合されている場合、「機能的に」一緒に連結されている。コード配列と調節配列の機能的連結により、コード配列が機能性タンパク質に翻訳される場合、調節配列の誘導は、コード配列の読み枠シフトを引き起こすことなくまたはコード配列が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳されることを不可能にすることなく、コード配列の転写をもたらす。
【0196】
「発現制御配列」または「調節配列」という用語は、本発明によれば、核酸の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する、プロモーター、リボソーム結合配列および他の制御要素を含む。本発明の特定の実施形態では、調節配列を制御することができる。調節配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、一般に転写または翻訳の開始に関与する5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含む。特に、5'非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列が含まれるプロモーター領域を含む。調節配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列も含み得る。
【0197】
好ましくは、本発明によれば、細胞中で発現されるべきRNAを前記細胞に導入する。本発明による方法の1つの実施形態では、細胞に導入されるべきRNAは、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られる。
【0198】
本発明によれば、「発現することができるRNA」および「コードするRNA」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、特定のペプチドまたはポリペプチドに関して、RNAが、適切な環境中、好ましくは細胞内に存在する場合、発現されて前記ペプチドまたはポリペプチドを産生できることを意味する。好ましくは、本発明によるRNAは、細胞の翻訳機構と相互作用して、RNAが発現することができるペプチドまたはポリペプチドを提供することができる。
【0199】
「移入する」、「導入する」または「トランスフェクトする」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、核酸、特に外因性または異種核酸、特にRNAの細胞への導入に関する。本発明によれば、細胞は、器官、組織および/または生物の一部を形成し得る。本発明によれば、核酸の投与は、裸の核酸としてまたは投与試薬と組み合わせて達成される。好ましくは、核酸の投与は裸の核酸の形態である。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与される。本発明はまた、長期間の持続的発現を可能にするための細胞への核酸の反復導入も想定する。
【0200】
RNAが、例えばRNAと複合体を形成するかまたはRNAが封入もしくは被包された小胞を形成することによって結合し、裸のRNAと比較してRNAの増大した安定性をもたらすことができる任意の担体を用いて細胞をトランスフェクトすることができる。本発明による有用な担体には、例えば脂質含有担体、例えばカチオン性脂質、リポソーム、特にカチオン性リポソーム、ミセル、およびナノ粒子が含まれる。カチオン性脂質は、負に荷電した核酸と複合体を形成し得る。任意のカチオン性脂質を本発明に従って使用し得る。
【0201】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドをコードするRNAの、細胞、特にインビボで存在する細胞への導入は、細胞中での前記ペプチドまたはポリペプチドの発現をもたらす。特定の実施形態では、特定の細胞への核酸の標的化が好ましい。そのような実施形態では、細胞への核酸の投与に適用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は標的化分子を示す。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上の受容体のリガンドなどの分子を核酸担体中に組み込み得るかまたは核酸担体に結合し得る。核酸をリポソームによって投与する場合は、標的化および/または取り込みを可能にするために、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、インターナライズされるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質等を包含する。
【0202】
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって共有結合で連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、および好ましくは8、10、20、30、40または50個、特に100個までのアミノ酸を含む物質を指す。「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、好ましくは100個を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では互換的に使用される。
【0203】
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質に関する「配列変化」という用語は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体およびアミノ酸置換変異体、好ましくはアミノ酸置換変異体に関する。本発明によるこれらの配列変化はすべて、潜在的に新しいエピトープを生成し得る。
【0204】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列における1個または2個以上のアミノ酸の挿入を含む。
【0205】
アミノ酸付加変異体は、1個以上のアミノ酸、例えば1、2、3、4または5個以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。
【0206】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、4または5個以上のアミノ酸の除去を特徴とする。
【0207】
アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。
【0208】
「由来する」という用語は、本発明によれば、特定の実体、特に特定の配列が、それが由来する対象物、特に生物または分子中に存在することを意味する。アミノ酸配列、特に特定の配列領域の場合、「由来する」は特に、関連アミノ酸配列が、その配列がその中に存在するアミノ酸配列から誘導されることを意味する。
【0209】
「細胞」または「宿主細胞」という用語は、好ましくは無傷の細胞、すなわち酵素、細胞小器官または遺伝物質などのその正常な細胞内成分が放出されていない無傷の膜を有する細胞である。無傷の細胞は、好ましくは生存可能な細胞、すなわちその正常な代謝機能を遂行することができる生細胞である。好ましくは、前記用語は、本発明によれば、外因性核酸で形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞に関する。「細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌(E.coli))または真核細胞(例えば樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、HEK293細胞、HELA細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を包含する。外因性核酸は、細胞の内部で(i)それ自体で自由に分散して、(ii)組換えベクターに組み込まれて、または(iii)宿主細胞ゲノムまたはミトコンドリアDNAに組み入れられて認められ得る。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギおよび霊長動物由来の細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は多くの組織型に由来してよく、初代細胞および細胞株を包含する。特定の例には、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚性幹細胞が含まれる。さらなる実施形態では、細胞は抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0210】
核酸分子を含む細胞は、好ましくは前記核酸によってコードされるペプチドまたはポリペプチドを発現する。
【0211】
「クローン増殖」という用語は、特定の実体が増加する過程を指す。本発明に関連して、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖して、前記抗原を認識する特定のリンパ球が増幅される免疫応答に関連して使用される。好ましくは、クローン増殖はリンパ球の分化をもたらす。
【0212】
「低減する」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力に関する。「阻害する」または同様の語句は、完全なまたは基本的に完全な阻害、すなわちゼロまたは基本的にゼロへの低減を包含する。
【0213】
「増大させる」、「増強する」、「促進する」または「延長する」などの用語は、好ましくは、およそ少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、特に少なくとも300%の増大、増強、促進または延長に関する。これらの用語はまた、ゼロまたは測定不能もしくは検出不能のレベルからゼロを上回るレベルまたは測定可能もしくは検出可能なレベルへの増大、増強、促進または延長にも関し得る。
【0214】
本明細書で述べる作用物質、組成物および方法は、疾患、例えば抗原を発現し、抗原ペプチドを提示する異常細胞の存在を特徴とする疾患を有する被験体を治療するために使用することができる。特に好ましい疾患は癌疾患である。本明細書で述べる作用物質、組成物および方法はまた、本明細書で述べる疾患を防止するための免疫またはワクチン接種にも使用し得る。
【0215】
本発明によれば、「疾患」という用語は、癌疾患、特に本明細書で述べる癌疾患の形態を含む、任意の病的状態を指す。
【0216】
「正常」という用語は、健常被験体または組織における健常状態または状況、すなわち非病的状態を指し、ここで「健常」は、好ましくは非癌性を意味する。
【0217】
「抗原を発現する細胞を含む疾患」は、本発明によれば、異常組織または器官の細胞において抗原の発現が検出されることを意味する。異常組織または器官の細胞における発現は、健常組織または器官における状態と比較して増大し得る。増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれ以上の増大を指す。1つの実施形態では、発現は罹患組織においてのみ認められ、健常組織中での発現は抑制されている。本発明によれば、抗原を発現する細胞を含むまたは抗原を発現する細胞に関連する疾患には、癌疾患が含まれる。
【0218】
癌(医学用語:悪性新生物)は、一群の細胞が制御されない成長(正常限界を超えた分裂)、浸潤(隣接する組織への侵入およびその破壊)ならびに時として転移(リンパまたは血液を介した身体の他の場所への拡大)を示す疾患のクラスである。癌のこれら3つの悪性特性により、自己限定性で、浸潤しないまたは転移しない良性腫瘍とは区別される。大部分の癌は腫瘍を形成するが、白血病のような一部の癌は腫瘍を形成しない。
【0219】
悪性腫瘍は、基本的に癌と同義である。悪性疾患、悪性新生物および悪性腫瘍は、基本的に癌と同義である。
【0220】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍疾患」という用語は、好ましくは腫脹または病巣を形成する細胞(新生細胞、腫瘍形成性細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造機構および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は、良性、前悪性または悪性のいずれかであり得る、明確な組織塊を形成する。
【0221】
良性腫瘍は、癌の悪性特性の3つすべてを欠く腫瘍である。したがって、定義により、良性腫瘍は、無制限の、攻撃的な方法で成長することはなく、周囲の組織に浸潤せず、非隣接組織に拡大(転移)しない。
【0222】
新生物は、新形成の結果としての異常な組織塊である。新形成(ギリシャ語で新たな成長の意)は細胞の異常増殖である。細胞の成長は、その周りの正常組織の成長を上回り、それらの組織と協調しない。成長は、刺激の停止後も同じ過剰な方法で持続する。これは通常、しこりまたは腫瘍を引き起こす。新生物は良性、前悪性または悪性であり得る。
【0223】
本発明による「腫瘍の成長」または「腫瘍成長」は、腫瘍がその大きさを増大する傾向および/または腫瘍細胞が増殖する傾向に関する。
【0224】
本発明の目的上、「癌」および「癌疾患」という用語は、「腫瘍」および「腫瘍疾患」という用語と互換的に使用される。
【0225】
癌は、腫瘍に類似する細胞の種類によって、それゆえその腫瘍の起源であると推定される組織によって分類される。これらは、それぞれ組織学および場所である。
【0226】
本発明による「癌」という用語は、白血病、セミノーマ、メラノーマ、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝癌、結腸癌、胃癌、腸癌、頭頸部癌、胃腸の癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵癌、耳、鼻および咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌ならびにそれらの転移を含む。その例は、肺癌腫、乳癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫または上記で述べた癌型または腫瘍の転移である。本発明による「癌」という用語は、癌転移および癌の再発も含む。
【0227】
肺癌の主な種類は小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。非小細胞肺癌には3つの主要なサブタイプ:扁平上皮肺癌扁平上皮肺癌、腺癌および大細胞肺癌がある。腺癌は肺癌の約10%を占める。この癌は通常肺の末梢部で認められ、これに対し小細胞肺癌および扁平上皮肺癌は、どちらもより中心部に位置する傾向がある。
【0228】
皮膚癌は、皮膚上の悪性増殖物である。最も一般的な皮膚癌は、基底細胞癌、扁平上皮癌およびメラノーマである。悪性メラノーマは重篤な種類の皮膚癌である。悪性メラノーマは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の制御されない増殖に起因する。
【0229】
本発明によれば、「癌腫」は上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、一般的な形態の乳癌、前立腺癌、肺癌および結腸癌を含む、最も一般的な癌である。
【0230】
「細気管支癌腫」は、終末細気管支の上皮に由来すると考えられる肺の癌腫であり、終末細気管支では、新生物組織が肺胞壁に沿って伸び、肺胞内で小塊として成長する。ムチンが細胞の一部および肺胞内の物質中で明らかにされることがあり、これには剥離細胞も含まれる。
【0231】
「腺癌」は、腺組織から発生する癌である。この組織は、上皮組織として知られるより大きな組織カテゴリーの一部でもある。上皮組織には、皮膚、腺ならびに体腔および身体の器官の内側を覆う様々な他の組織が含まれる。上皮は、発生学的には外胚葉、内胚葉および中胚葉に由来する。腺癌として分類されるために、細胞は、それらが分泌特性を有する限り、必ずしも腺の一部である必要はない。この形態の癌腫は、ヒトを含む一部の高等哺乳動物において発生し得る。十分に分化した腺癌は、それらが由来する腺組織に類似する傾向があるが、十分に分化していないものはその傾向がない場合もある。生検からの細胞を染色することにより、病理学者は腫瘍が腺癌であるかまたは何らかの他の型の癌であるかを決定する。腺癌は、体内の腺の遍在性のゆえに身体の多くの組織で生じ得る。各々の腺が同じ物質を分泌しているとは限らないが、細胞への外分泌機能が存在する限り、腺とみなされ、それゆえその悪性形態は腺癌と命名される。悪性腺癌は他の組織を浸潤し、転移するのに十分な時間があればしばしば転移する。卵巣腺癌は最も一般的な型の卵巣癌である。これには漿液性および粘液性腺癌、明細胞腺癌および類内膜腺癌が含まれる。
【0232】
腎細胞癌または腎細胞腺癌としても知られる腎細胞癌腫は、血液をろ過し、老廃物を除去する腎臓内の非常に小さな管である、近位尿細管の内層で発生する腎癌である。腎細胞癌腫は、成人における群を抜いて最も一般的な型の腎癌であり、すべての尿生殖器腫瘍のうちで最も致死的である。腎細胞癌腫の異なるサブタイプは、明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌である。明細胞腎細胞癌は最も一般的な形態の腎細胞癌腫である。顕微鏡下で見た場合、明細胞腎細胞癌を構成する細胞は非常に色が薄いかまたは透明に見える。乳頭状腎細胞癌は2番目に多いサブタイプである。これらの癌は、腫瘍の、大部分ではないにせよ一部では、小指様の突起(乳頭と呼ばれる)を形成する。
【0233】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性疾患である。
【0234】
芽球性腫瘍または芽細胞腫は、未熟組織または胚組織に類似する腫瘍(通常は悪性)で
ある。これらの腫瘍の多くは、小児において最も一般的である。
【0235】
「転移」とは、そのもとの部位から身体の別の部分への癌細胞の拡大を意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および脈管に侵入するための内皮基底膜の貫入、ならびに次に、血液によって運ばれた後の、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍、すなわち二次性腫瘍または転移性腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば原発性腫瘍の除去後でも起こり、これは、腫瘍細胞または腫瘍成分が残存し、転移能を発現し得るからである。1つの実施形態では、本発明による「転移」という用語は「遠隔転移」に関し、これは原発性腫瘍および所属リンパ節系から遠く離れた転移に関する。
【0236】
二次性または転移性腫瘍の細胞はもとの腫瘍における細胞に類似する。これは、例えば卵巣癌が肝臓に転移した場合、二次性腫瘍は異常な肝細胞ではなく異常な卵巣細胞で構成されることを意味する。その場合、肝臓における腫瘍は、肝癌ではなく転移性卵巣癌と呼ばれる。
【0237】
卵巣癌では、転移は以下のようにして起こり得る:直接接触または拡大によって。転移は、卵巣の近くまたは周囲に位置する隣接組織または器官、例えばファローピウス管、子宮、膀胱、直腸等に浸潤することができる;卵巣癌が広がる最も一般的な方法である、腹腔内への播種または脱落によって。癌細胞は卵巣塊の表面を突き破り、肝臓、胃、結腸または横隔膜などの腹部内の他の構造体へと「落下する」;卵巣塊から離脱し、リンパ管に侵入して、次に身体の他の領域または肺もしくは肝臓などの遠隔器官へと移動することによって;卵巣塊から離脱し、血液系に侵入して、身体の他の領域または遠隔器官へと移動することによって。
【0238】
本発明によれば、転移性卵巣癌には、ファローピウス管の癌、腹部の器官における癌、例えば腸の癌、子宮の癌、膀胱の癌、直腸の癌、肝臓の癌、胃の癌、結腸の癌、横隔膜の癌、肺の癌、腹部または骨盤(腹膜)の内層における癌、および脳の癌が含まれる。同様に、転移性肺癌は、肺から体内の遠隔部位および/またはいくつかの部位に広がった癌を指し、これには肝臓の癌、副腎の癌、骨の癌、および脳の癌が含まれる。
【0239】
「血中循環腫瘍細胞」または「CTC」という用語は、原発性腫瘍または腫瘍転移から分離しており、血流中を循環する細胞に関する。CTCは、異なる組織におけるさらなる腫瘍(転移)のその後の成長の種を構成し得る。血中循環腫瘍細胞は、転移性疾患を有する患者において全血1mL当たりほぼ1〜10個程度のCTCという頻度で認められる。CTCを単離するための検査方法が開発されている。CTCを単離するためのいくつかの検査方法が当分野で記述されており、例えば上皮細胞が、正常な血球中には存在しない細胞接着タンパク質EpCAMを一般的に発現するという事実を利用する技術がある。免疫磁気ビーズに基づく捕獲法は、磁性粒子と結合したEpCAMに対する抗体で血液標本を処理し、次いで磁場で標識細胞を分離することを含む。次に単離された細胞を、まれなCTCを混入白血球から区別するために、もう1つの上皮マーカーであるサイトケラチンならびに共通の白血球マーカーCD45に対する抗体で染色する。この堅固で半自動化されたアプローチは、約1個のCTC/mLの平均収率および0.1%の純度でCTCを同定する(Allard et al.,2004:Clin Cancer Res 10,6897−6904)。CTCを単離するための2番目の方法は、マイクロフルイディクスに基づくCTC捕獲装置を使用し、これは、EpCAMに対する抗体で被覆することによって機能性にした80,000個のマイクロポストを包埋したチャンバーを通して全血を流すことを含む。次にCTCをサイトケラチンまたは組織特異的マーカー、例えば前立腺癌におけるPSAまたは乳癌におけるHER2に対する二次抗体で染色し、三次元座標に沿った複数の平面でのマイクロポストの自動走査によって視覚化する。CTCチップは、患者において50細胞/mlの平均収率および1〜80%の範囲の純度でサイトケラチン陽性血中循環腫瘍細胞を同定することができる(Nagrath et al.,2007:Nature 450,1235−1239)。CTCを単離するための別の可能性は、Veridex,LLC(Raritan,NJ)からのCellSearch(登録商標)Circulating Tumor Cell(CTC) Testを使用することであり、これは血液チューブ中でCTCを捕獲し、同定し、計数する。CellSearch(登録商標)システムは、全血中のCTCの計数のための米国食品医薬品局(FDA)によって承認された方法であり、免疫磁気標識と自動デジタル顕微鏡法の組合せに基づく。その他にも文献中で記述されているCTCを単離するための方法があり、そのすべてが本発明と共に使用することができる。
【0240】
再発または回帰は、人が過去に罹患した状態に再び罹患する場合に起こる。例えば、患者が腫瘍疾患に罹患したことがあり、前記疾患の治療を受けて成功したが、前記疾患を再び発症した場合、前記新たに発症した疾患は再発または回帰とみなされ得る。しかし、本発明によれば、腫瘍疾患の再発または回帰は、もとの腫瘍疾患の部位でも起こり得るが、必ずしもそうとは限らない。したがって、例えば、患者が卵巣腫瘍に罹患し、治療を受けて成功したことがある場合、再発または回帰は、卵巣腫瘍の発生であり得るかまたは卵巣とは異なる部位における腫瘍の発生であり得る。腫瘍の再発または回帰は、腫瘍がもとの腫瘍の部位とは異なる部位で起こる状況ならびにもとの腫瘍の部位で起こる状況も含む。好ましくは、患者が治療を受けたことがあるもとの腫瘍は原発性腫瘍であり、もとの腫瘍の部位とは異なる部位における腫瘍は二次性または転移性腫瘍である。
【0241】
「治療する」とは、被験体において腫瘍の大きさもしくは腫瘍の数を低減することを含む、疾患を予防するもしくは排除するため;被験体において疾患を停止させるもしくは疾患の進行を遅らせるため;被験体において新たな疾患の発症を阻害するもしくは遅らせるため;現在疾患を有しているもしくは以前に疾患を有していたことがある被験体において症状および/もしくは再発の頻度もしくは重症度を低下させるため;ならびに/または被験体の生存期間を延長させる、すなわち増大させるために、本明細書で述べる化合物または組成物を被験体に投与することを意味する。特に、「疾患の治療」という用語は、疾患またはその症状を治癒する、期間を短縮する、改善する、予防する、進行もしくは悪化を緩徐化するもしくは阻害する、または発症を予防するもしくは遅延させることを含む。
【0242】
「危険性がある」とは、一般集団と比較して、疾患、特に癌を発症する可能性が通常より高いと同定される被験体、すなわち患者を意味する。加えて、疾患、特に癌を有していたことがあるまたは現在有している被験体は、そのような被験体は引き続き疾患を発症する可能性があるので、疾患を発症する危険性が高い被験体である。現在癌を有しているまたは癌を有していたことがある被験体は、癌転移の危険性も高い。
【0243】
「免疫療法」という用語は、特異的免疫反応の活性化を含む治療に関する。本発明に関連して、「防御する」、「予防する」、「予防的」、「防止的」または「防御的」などの用語は、被験体における疾患の発症および/または伝播の予防または治療またはその両方、特に被験体が疾患を発症する可能性を最小限に抑えることまたは疾患の発症を遅延させることに関する。例えば、上述したように、腫瘍の危険性がある人は、腫瘍を予防するための治療法の候補である。
【0244】
免疫療法の予防的投与、例えば本明細書で述べる組成物の予防的投与は、好ましくは疾患の発症から受容者を保護する。免疫療法の治療的投与、例えば本明細書で述べる組成物の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害をもたらし得る。これは、好ましくは疾患の排除をもたらす、疾患の進行/成長の減速、特に疾患の進行の停止を含む。
【0245】
免疫療法は、本明細書で提供される作用物質が患者から異常細胞を除去するように機能する、様々な技術のいずれかを用いて実施し得る。そのような除去は、抗原または抗原を発現する細胞に特異的な患者における免疫応答を増強するまたは誘導することの結果として起こり得る。
【0246】
特定の態様内で、免疫療法は能動免疫療法であり得、この場合の治療は、免疫応答調節物質(本明細書で提供されるポリペプチドおよび核酸など)の投与による、異常細胞に対して反応する内因性宿主免疫系のインビボ刺激に基づく。
【0247】
本明細書で提供される作用物質および組成物は、単独でまたは従来の治療レジメン、例えば手術、放射線、化学療法および/もしくは骨髄移植(自家、同系、同種異系もしくは無関係)と組み合わせて使用し得る。
【0248】
「免疫」または「ワクチン接種」という用語は、治療的または予防的理由から免疫応答を誘導することを目的として被験体を治療する過程を表す。
【0249】
「インビボ」という用語は、被験体における状況に関する。
【0250】
「被験体」、「個体」、「生物」または「患者」という用語は互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物に関する。例えば、本発明に関連して哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、家畜、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ等、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット等、ならびに動物園の動物などの捕らわれている動物である。本明細書で使用される「動物」という用語はヒトも包含する。「被験体」という用語は、患者、すなわち動物、好ましくは疾患を有するヒト、好ましくは本明細書で述べる疾患を有するヒトも包含し得る。
【0251】
「自家」という用語は、同じ被験体に由来するものを表すために使用される。例えば「自家移植」は、同じ被験体に由来する組織または器官の移植を指す。そのような手順は、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を乗り越えるので、好都合である。
【0252】
「異種」という用語は、複数の異なる要素から成るものを表すために使用される。一例として、ある個体の骨髄の異なる個体への移入は異種移植を構成する。異種遺伝子は、その被験体以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0253】
免疫またはワクチン接種のための組成物の一部として、好ましくは本明細書で述べる1つ以上の作用物質を、免疫応答を誘導するためまたは免疫応答を増大させるために1つ以上のアジュバントと共に投与する。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長するまたは増強するまたは促進する化合物に関する。本発明の組成物は、好ましくはアジュバントの添加なしでその作用を及ぼす。それでもやはり、本出願の組成物は任意の公知のアジュバントを含有し得る。アジュバントには、油性エマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌生成物(百日咳菌毒素など)、リポソームおよび免疫刺激性複合体などの不均一な群の化合物が含まれる。アジュバントの例は、モノホスホリル脂質A(MPL SmithKline Beecham)、サポニン、例えばQS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開第96/33739号)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1(So et al.,1997,Mol.Cells 7:178−186)、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Krieg et al.,1995,Nature 374:546−549)、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールなどの生分解性油から調製される様々な油中水型エマルジョンである。
【0254】
患者の免疫応答を刺激する他の物質も投与し得る。例えばサイトカインを、それらのリンパ球への調節特性のゆえに、ワクチン接種において使用することが可能である。そのようなサイトカインには、ワクチンの防御作用を増大することが示された(Science 268:1432−1434,1995参照)インターロイキン12(IL−12)、GM−CSFおよびIL−18が含まれる。
【0255】
免疫応答を増強し、それゆえワクチン接種において使用し得る多くの化合物がある。前記化合物には、B7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)などのタンパク質または核酸の形態で提供される共刺激分子が含まれる。
【0256】
本発明によれば、「腫瘍標本」は、血中循環腫瘍細胞(CTC)などの腫瘍細胞もしくは癌細胞を含有する身体試料、特に体液を含む組織試料、および/または細胞試料などの試料である。本発明によれば、「非腫瘍形成性標本」は、血中循環腫瘍細胞(CTC)などの腫瘍細胞もしくは癌細胞を含有しない身体試料、特に体液を含む組織試料、および/または細胞試料などの試料である。そのような身体試料は従来の方法で、例えばパンチ生検を含む組織生検によって、および血液、気管支吸引液、痰、尿、糞便または他の体液を採取することによって入手し得る。本発明によれば、「試料」という用語は、生物学的試料の分画または単離物、例えば核酸または細胞単離物などの加工された試料も包含する。
【0257】
本明細書で述べる治療活性物質、ワクチンおよび組成物は、注射または注入を含む、任意の従来の経路によって投与し得る。投与は、例えば経口的、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下的または経皮的に実施し得る。1つの実施形態では、投与は、リンパ節への注射などによって節内に実施する。他の形態の投与は、本明細書で述べる核酸による樹状細胞などの抗原提示細胞のインビトロトランスフェクション、それに続く抗原提示細胞の投与を想定する。
【0258】
本明細書で述べる作用物質は有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたはさらなる投与と併せて、所望の反応または所望の作用を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の進行の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅らせる、特に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。
【0259】
本明細書で述べる作用物質の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理的状態、大きさおよび体重を含む患者の個別パラメータ、治療の期間、併用療法の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書で述べる作用物質の投与される用量はそのような様々なパラメータに依存し得る。初期用量で患者における反応が不十分である場合、より高用量(または異なる、より限局された投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0260】
本明細書で述べる医薬組成物は、好ましくは滅菌であり、所望の反応または所望の作用を生じさせるために有効量の治療活性物質を含有する。
【0261】
本明細書で述べる医薬組成物は、一般に医薬的に適合性の量でおよび医薬的に適合性の調製物中で投与される。「医薬的に適合性」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない非毒性物質を指す。この種の調製物は通常、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、アジュバントなどの補足的な免疫増強物質、例えばCpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM−CSFおよび/またはRNA、ならびに、適切な場合は、他の治療活性化合物を含有し得る。薬剤中で使用される場合、塩は医薬的に適合性であるべきである。しかし、医薬的に適合性でない塩は、医薬的に適合性の塩を調製するために使用されることがあり、本発明に包含される。この種の薬理学的および医薬的に適合性の塩には、非限定的に、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等から調製されるものが含まれる。医薬的に適合性の塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩としても調製され得る。
【0262】
本明細書で述べる医薬組成物は、医薬的に適合性の担体を含有し得る。「担体」という用語は、適用を容易にするために活性成分が組み合わされる、天然または合成の有機または無機成分を指す。本発明によれば、「医薬的に適合性の担体」という用語は、患者への投与に適する、1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または被包物質を含む。本明細書で述べる医薬組成物の成分は、通常、所望の医薬的効果を実質的に損なう相互作用が起こらないものである。
【0263】
本明細書で述べる医薬組成物は、適切な緩衝物質、例えば塩の状態の酢酸、塩の状態のクエン酸、塩の状態のホウ酸および塩の状態のリン酸を含有し得る。
【0264】
医薬組成物は、適切な場合は、適切な防腐剤、例えば塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールも含有し得る。
【0265】
医薬組成物は、通常、単位投与形態で提供され、それ自体公知の方法で製造し得る。本明細書で述べる医薬組成物は、例えばカプセル、錠剤、ロゼンジ、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシルまたは乳剤の形態であり得る。
【0266】
非経口投与に適する組成物は、通常、好ましくは受容者の血液と等張である、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および溶媒の例は、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌固定油を溶液または懸濁液媒質として使用する。
【0267】
本発明を以下の図面および実施例によって詳細に説明するが、これらは説明のためにのみ使用されるものであり、限定を意図しない。説明および実施例により、同様に本発明に包含されるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能である。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 患者において癌を予防するまたは処置するための方法であって、
(i)前記患者において1つ以上の腫瘍抗原に対する第一免疫応答を誘導する工程、および
(ii)前記患者において1つ以上の腫瘍抗原に対する第二免疫応答を誘導する工程であって、前記第二免疫応答が、前記患者の癌細胞中に存在する癌特異的体細胞突然変異に特異的である、工程、
を含む方法。
2. 前記第一および/または第二免疫応答が細胞性応答である、1.に記載の方法。
3. 前記第一免疫応答がCD8+T細胞応答を含む、1.または2.に記載の方法。
4. 前記第二免疫応答がCD4+T細胞応答を含む、1.から3.のいずれかに記載の方法。
5. 前記第一免疫応答が、前記患者の癌細胞中に存在する癌特異的体細胞突然変異に特異的ではない、1.から4.のいずれかに記載の方法。
6. 前記第一免疫応答が製造前ワクチン生成物のセットから選択される1つ以上のワクチン生成物を投与することによって誘導され、各々の製造前ワクチン生成物が腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導し、前記セットが好ましくは異なる腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導するワクチン生成物を含む、1.から5.のいずれかに記載の方法。
7. 投与される前記ワクチン生成物が、処置される癌において一般的である腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導する、6.に記載の方法。
8. 前記セットが、種々の癌において一般的である腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導するワクチン生成物を含む、6.または7.に記載の方法。
9. 前記患者が前記1つ以上の腫瘍抗原について陽性である、1.から8.のいずれかに記載の方法。
10. 前記癌特異的体細胞突然変異が、前記患者の癌細胞のエクソーム中に存在するおよび/または非同義突然変異である、1.から9.のいずれかに記載の方法。
11. 前記第二免疫応答が、突然変異に基づくネオエピトープを含むポリペプチドまたは前記ポリペプチドをコードする核酸を含有するワクチンを投与することによって誘導され、前記ポリペプチドが好ましくは30までの突然変異に基づくネオエピトープを含む、1.から10.のいずれかに記載の方法。
12. 前記ポリペプチドが、癌細胞によって発現される癌特異的体細胞突然変異を含まないエピトープをさらに含む、11.に記載の方法。
13. 前記エピトープが、ワクチン配列を形成するようにそれらの天然配列状況に存在し、前記ワクチン配列が好ましくは約30アミノ酸長である、11.または12.に記載の方法。
14. 前記ネオエピトープ、エピトープおよび/またはワクチン配列が、頭−尾方向に並んでいるおよび/またはリンカーによって分離されている、11.から13.のいずれかに記載の方法。
15. 前記第一および/または第二免疫応答が、RNAワクチンを投与することによって誘導される、1.から14.のいずれかに記載の方法。
16. 前記腫瘍抗原が腫瘍関連抗原である、1.から15.のいずれかに記載の方法。
【実施例】
【0268】
本明細書で使用される技術および方法は、本明細書において説明されるかまたはそれ自体公知のようにおよび、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2
nd Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載されているように実施される。キットおよび試薬の使用を含むすべての方法は、特に指示されない限り製造者の情報に従って実施される。
【0269】
(実施例1)
突然変異の検出および優先順位付け
我々は、最初に、バイアスのない方法で体細胞突然変異を同定するための腫瘍試料および正常試料の配列プロファイリングを明らかにする。我々はこれをバルク腫瘍試料に関して明らかにするだけでなく、初めて、個々の血中循環腫瘍細胞から突然変異を同定する能力も実証する。次に、突然変異の予測される免疫原性に基づきポリネオエピトープワクチンに含めるための突然変異を優先順位付け、同定された突然変異が実際に免疫原性であることを実証する。
【0270】
突然変異の検出
CTCを使用する論理的根拠:癌患者の末梢血からの血中循環腫瘍細胞(CTC)の検出は、腫瘍の臨床経過についての広く認められている独立した予後マーカーである(Pantel et al,Trends Mol Med 2010;16(9):398−406)。長年にわたって、CTCの臨床的重要性は腫瘍学における熱心な学術および臨床研究の主題となってきた。転移性乳癌、前立腺癌および結腸直腸癌を有する患者の血液中のCTCの検出は予後と関連性があり、従来の画像化技術および他の予後腫瘍バイオマーカーに付加的な情報を提供することが示されている。治療薬による処置(全身的または標的化)の前、初期段階中および処置後に患者から採取した連続的な血液試料は、処置の応答/失敗に関する情報を提供する。薬剤耐性CTCの分子分析は、個々の患者における耐性機構(例えば特定のシグナル伝達経路における突然変異または標的発現の喪失)へのさらなる洞察を提供し得る。CTCのプロファイリングおよび遺伝的特性付けからのさらなる可能性は、新しい標的療法の開発のための新規癌標的の同定である。この新しい診断戦略は「液体腫瘍生検」と称される。このプロファイリングは迅速で繰り返し行うことができ、患者の血液しか必要とせず、手術は不要であるので、腫瘍の状態の「リアルタイム」表示を提供する。
【0271】
腫瘍細胞からの突然変異:我々は、B16メラノーマ細胞、タンパク質コード領域を抽出するためのエクソーム捕獲、我々のHiSeq 2000を用いた次世代シークエンシング、次いで我々の「iCAM」ソフトウェアパイプラインを用いたバイオインフォマティクス解析を使用して突然変異を同定する我々の能力を明らかにする(
図1)。我々は2448の非同義突然変異を同定し、確認のために50を選択した。50の体細胞突然変異全部を確認することができた。
【0272】
以下は、B16メラノーマ細胞中の発見された体細胞突然変異のタンパク質影響の一例である:
【化2】
【0273】
個々の血中循環腫瘍細胞(CTC)からの突然変異:次に、我々は、1個のCTCからのRNAのNGSプロファイリングから、腫瘍特異的体細胞突然変異を同定することができた。標識したB16メラノーマ細胞をマウスの尾部に静脈内注射し、マウスを犠死させて、心臓から血液を採取し、細胞を選別して標識血中循環B16細胞(CTC)を回収し、RNAを抽出して、SMARTに基づくcDNA合成および非特異的増幅を実施し、次いでNGS RNA−Seqアッセイおよびサブ配列データ解析(下記)を行った。
【0274】
我々は8個の個別CTCをプロファイリングし、体細胞突然変異を同定した。さらに、8個の細胞中8個で、以前に同定された体細胞突然変異を同定した。複数の場合に、データは個別細胞レベルで不均一性を示した。例えば、2番染色体上の位置144078227(アセンブリmm9)で、遺伝子Snx15において、2個の細胞は参照ヌクレオチド(C)を示し、2個の細胞は突然変異ヌクレオチド(T)を示した。
【0275】
これは、我々が、「リアルタイム」iVAC(個別化ワクチン)への基本的な道筋である、個々のCTCをプロファイリングして体細胞突然変異を同定することができることを実証し、「リアルタイム」iVACでは、患者を繰り返しプロファイリングし、その結果は、より早い時点の患者の状態ではなく現在の患者の状態を反映する。さらにこれは、我々が、腫瘍細胞のサブセット中に存在する不均一な体細胞突然変異を同定することができ、主要な突然変異とまれな突然変異の同定などのために、突然変異頻度の評価を可能にすることを明らかにする。
【0276】
(方法)
試料:プロファイリング実験のために、試料は、C57BL/6マウスからの5〜10mmの尾部試料(「Black6」)およびもともとはBlack6マウスに由来する、高度に攻撃的なB16F10マウスメラノーマ細胞(「B16」)を含んだ。
【0277】
蛍光標識したB16メラノーマ細胞を使用して血中循環腫瘍細胞(CTC)を作製した。B16細胞をPBS中に再懸濁し、等容量の新鮮調製したCFSE溶液(PBS中5μM)を細胞に添加した。試料をボルテックスによって穏やかに混合し、次いで室温で10分間インキュベートした。標識化反応を停止させるために、20%FSCを含有する等量のPBSを試料に添加し、ボルテックスによって穏やかに混合した。室温で20分間のインキュベーション後、PBSを使用して細胞を2回洗浄した。最後に、細胞をPBSに再懸濁し、マウスに静脈内(i.v.)注射した。3分後、マウスを犠死させ、血液を採取した。
【0278】
血液試料からの赤血球を、血液100μlにつき新鮮調製したPharmLyse Solution(Beckton Dickinson)1.5mlを添加することによって溶解した。1回の洗浄工程後、7−AADを試料に添加し、室温で5分間インキュベートした。インキュベーションに続いて2回の洗浄を実施し、試料をPBS 500μl中に再懸濁した。
【0279】
CFSE標識した血中循環B16細胞をAria Iセルソーター(BD)で選別した。単一細胞を、RLT緩衝液(Quiagen)50μl/ウェルで調製した96ウェルのv底プレート上で選別した。選別を終了した後、核酸抽出および試料調製を開始するまでプレートを−80℃で保存した。
【0280】
核酸抽出および試料調製:B16細胞からの核酸(DNAおよびRNA)ならびにBlack6尾部組織(DNA)を、Qiagen DNeasy Blood and Tissueキット(DNA)およびQiagen RNeasy Microキット(RNA)を用いて抽出した。
【0281】
個々の選別したCTCについて、RNAを抽出し、SMARTに基づくcDNA合成および非特異的増幅を実施した。選別したCTC細胞からのRNAを、供給者の指示に従ってRNeasy Micro Kit(Qiagen,Hilden,Germany)で抽出した。改変BD SMARTプロトコルをcDNA合成のために使用した:Mint Reverse Transcriptase(Evrogen,Moscow,Russia)を、第一鎖合成反応のプライミングのための長いオリゴ(dT)−T−プライマーならびに逆転写酵素のターミナルトランスフェラーゼ活性による伸長した鋳型の生成および鋳型スイッチを可能にするためにオリゴ(リボG)配列を導入するTS−short(Eurogentec S.A.,Seraing,Belgium)と組み合わせた[Chenchik,A.,Y. et al.1998.Generation and use of high quality cDNA from small amounts of total RNA by SMART PCR.In Gene Cloning and Analysis by RT−PCR.P.L.J.Siebert,ed.BioTechniques Books,MA,Natick.305−319]。製造者の指示に従って合成した第一鎖cDNAを、dNTP 200μMの存在下でPfuUltra Hotstart High−Fidelity DNA Polymerase 5U(Stratagene,La Jolla,CA)およびTS−PCRプライマー0.48μMを用いて35サイクルの増幅に供した(サイクリング条件:95℃で2分、94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分、72℃で6分の最終伸長)。アクチンおよびGAPDHを観測する特異的プライマーでCTC遺伝子の増幅の成功を制御した。
【0282】
次世代シークエンシング、DNAシークエンシング:この場合はすべてのマウスタンパク質コード領域を捕獲するように設計された、Agilent Sure−Select solutionに基づく捕獲アッセイ[Gnirke A et al:Solution hybrid selection with ultra−long oligonucleotides for massively parallel targeted sequencing.Nat Biotechnol 2009,27:182−189]を用いてDNAリシークエンシングのためのエクソーム捕獲を実施した。
【0283】
簡単に述べると、精製ゲノムDNA 3μgを、Covaris S2超音波装置を用いて150〜200bpに断片化した。gDNAフラグメントを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端gDNAフラグメントを、クレノウフラグメントを使用して3'アデニル化した(3'−5'エキソマイナス)。単一の3'TオーバーハングIlluminaペアエンドアダプタを、T4 DNAリガーゼを使用してアダプタ対ゲノムDNAインサートの10:1モル比でgDNAフラグメントに連結した。アダプタ連結gDNAフラグメントを捕獲前に濃縮し、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0ならびにHerculase IIポリメラーゼ(Agilent)を使用して4回のPCRサイクルを用いてフローセル特異的配列を付加した。
【0284】
アダプタ連結し、PCR濃縮したgDNAフラグメント500ngをAgilentのSureSelectビオチン化マウス全エクソームRNAライブラリベイトに65℃で24時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを用いて取り出した。gDNA/RNAベイト複合体を洗浄し、SureSelect溶出緩衝液中での溶出の間にRNAベイトを切断して、捕獲したアダプタ連結・PCR濃縮gDNAフラグメントを残した。gDNAフラグメントを、捕獲後にHerculase II DNAポリメラーゼ(Agilent)およびSureSelect GA PCRプライマーを10サイクル使用してPCR増幅した。
【0285】
すべての清浄化は1.8倍容量のAMPure XP磁気ビーズ(Agencourt)を使用して行った。すべてのクオリティ管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを用いて実施し、フラグメントサイズはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを用いて決定した。
【0286】
エクソーム濃縮したgDNAライブラリを、7pMを使用してTruseq SRクラスターキットv2.5を用いてcBotでクラスター化し、50bpを、Truseq SBSキット−HS 50bpを使用してIllumina HiSeq2000で配列決定した。
【0287】
次世代シークエンシング、RNAシークエンシング(RNA−Seq):バーコード化されたmRNA−seq cDNAライブラリを、Illumina mRNA−seqプロトコルの修正版を用いて全RNA 5μgから調製した。Seramag Oligo(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用してmRNAを単離した。単離したmRNAを、二価カチオンと熱を用いて断片化し、160〜220bpの範囲のフラグメントを生じさせた。断片化したmRNAを、ランダムプライマーとSuperScriptII(Invitrogen)を用いてcDNAに変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第二鎖を合成した。cDNAを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端cDNAフラグメントを、クレノウフラグメントを使用して3'アデニル化した(3'−5'エキソマイナス)。単一の3'TオーバーハングIlluminaマルチプレックス特異的アダプタを、T4 DNAリガーゼを使用してアダプタ対cDNAインサートの10:1モル比で連結した。
【0288】
cDNAライブラリを精製し、E−Gel 2% SizeSelectゲル(Invitrogen)を用いて200〜220bpでサイズ選択した。濃縮、Illumina6塩基インデックス配列およびフローセル特異的配列の付加を、Phusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用してPCRによって実施した。すべての清浄化は1.8倍容量のAgencourtAMPure XP磁気ビーズを使用して行った。すべてのクオリティ管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを用いて実施し、フラグメントサイズはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを用いて決定した。
【0289】
バーコード化されたRNA−Seqライブラリを、7pMを使用してTruseq SRクラスターキットv2.5を用いてcBotでクラスター化し、Truseq SBSキット−HS 50bpを使用してIllumina HiSeq2000で50bpを配列決定した。
【0290】
CTC:CTCのRNA−Seqプロファイリングのために、このプロトコルの修正版を使用し、この場合SMART増幅したcDNA 500〜700ngを用いて、ペアエンドアダプタを連結し、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0を使用してPCR濃縮を行った。
【0291】
NGSデータ解析、遺伝子発現:発現値を決定するために、Illumina HiSeq 2000から出力されたRNA試料からの配列リードをIllumina標準プロトコルに従って前処理した。これは、低クオリティリードのフィルタリングおよびデマルチプレックス化を含む。RNA−Seqトランスクリプトーム解析のために、bowtie(バージョン0.12.5)[Langmead B.et al.Ultrafast and memory−efficient alignment of short DNA sequences to the human genome.Genome Biol 10:R25]を用いて、ゲノムアラインメントには「−v2−best」パラメータおよび転写産物アラインメントについてはデフォルトパラメータを使用して、配列リードを参照ゲノム配列に整列させた[Mouse Genome Sequencing Consortium.Initial sequencing and comparative analysis of the mouse genome.Nature,420,520−562(2002)]。アラインメント座標をRefSeq転写産物のエクソン座標と比較し[Pruitt KD.et al.NCBI Reference Sequence(RefSeq):a curated non−redundant sequence database of genomes,transcripts and proteins.Nucleic Acids Res.2005 Jan 1;33(Database issue):D501−4]、各転写産物についてオーバーラップアラインメントのカウントを記録した。ゲノム配列に整列可能でない配列リードは、RefSeq転写産物のすべての可能なエクソン−エクソン接合部配列のデータベースに整列させた。スプライス接合部に整列されるリードのカウントを、前の段階で得られたそれぞれの転写産物カウントと合計し、各転写産物についてRPKM(百万個のマッピングされたリード当たりのエクソンモデルのキロベースごとにマッピングされるリードの数(number of reads which map per kilobase of exon model per million mapped reads))[Mortazavi,A.et al.(2008).Mapping and quantifying mammalian transcriptomes by rna−seq.Nat Methods,5(7):621−628])に正規化した。遺伝子発現値およびエクソン発現値の両方を、それぞれ各遺伝子またはエクソンにオーバーラップするリードの正規化された数に基づいて計算した。
【0292】
突然変異の発見、バルク腫瘍:Illumina HiSeq 2000からの50ヌクレオチドのシングルエンドリードを、bwa(バージョン0.5.8c)[Li H.and Durbin R.(2009)Fast and accurate short read alignment with Burrows−Wheeler Transform.Bioinformatics,25:1754−60]を用いて、デフォルトオプションを使用して参照マウスゲノムアセンブリmm9に整列させた。曖昧なリード−ゲノムの複数箇所にマッピングされるリードを除去し、残りのアラインメントを選別して、インデックス化し、バイナリ圧縮フォーマット(BAM)に変換して、シェルスクリプトを用いてリードクオリティスコアをIllumina標準phred+64から標準サンガークオリティスコアに変換した。
【0293】
各シークエンシングレーンについて、samtools(バージョン0.1.8)[Li H.Improving SNP discovery by base alignment quality.Bioinformatics.2011 Apr 15;27(8):1157−8.Epub 2011 Feb 13]、GATK(バージョン1.0.4418)[McKenna A.et al.The Genome Analysis Toolkit:a MapReduce framework for analyzing next−generation DNA sequencing data.Genome Res.2010 Sep;20(9):1297−303.Epub 2010 Jul 19]、およびSomaticSniper(http://genome.wustl.edu/software/somaticsniper)を含む3つのソフトウェアプログラムを用いて突然変異を同定した。samtoolsについては、1回目のフィルタリング、最大カバレッジ200を含む、作成者が推奨するオプションおよびフィルタリング基準を使用した。samtoolsの2回目のフィルタリングについては、インデル最低限クオリティスコアは50であり、点突然変異最低限クオリティは30であった。GATK突然変異コーリングについては、我々は、GATKユーザーマニュアル(http://www.broadinstitute.org/gsa/wiki/index.php/The_Genome_Analysis_Toolkit)に提示されている作成者が設計した最良実施ガイドラインに従った。バリアントスコアの再キャリブレーション段階を省き、ハードフィルタリングオプションに置き換えた。SomaticSniper突然変異コーリングに関しては、デフォルトオプションを使用し、30以上の「体細胞スコア」を有する予測突然変異だけをさらに検討した。
【0294】
突然変異の発見、CTC:バルク腫瘍iCAM工程のとおりに、Illumina HiSeq 2000からの50ヌクレオチドのシングルエンドリードを、bwa(バージョン0.5.8c[5])を用いて、デフォルトオプションを使用して参照マウスゲノムアセンブリmm9に整列させた。CTC NGSリードがRNA−Seqアッセイから誘導されたので、リードを、bowtie(上記)を用いて、エクソン−エクソン接合部を含むトランスクリプトーム配列に対しても整列させた。すべてのアラインメントを使用して、リードからのヌクレオチド配列を参照ゲノムおよびバルク腫瘍由来のB16突然変異の両方と比較した。同定された突然変異を、perlスクリプトを使用して、ならびにsamtoolsソフトウェアプログラムおよび結果を画像化するためにIGV(Integrated Genome Viewer)を使用して手作業で評価した。
【0295】
「突然変異の発見」のアウトプットは、試料からNGSデータ、突然変異のリストへの、腫瘍細胞中の体細胞突然変異の同定である。B16試料中で、我々はエクソームリシークエンシングを用いて2448の体細胞突然変異を同定した。
【0296】
突然変異の優先順位付け
次に、我々は、ワクチンに含めるための突然変異の優先順位付けパイプラインの可能性を明らかにする。「個別癌突然変異検出パイプライン」(iCAM)と呼ばれるこの方法は、複数の最先端アルゴリズムとバイオインフォマティクスの方法を組み込んだ一連の工程を通して体細胞突然変異を同定し、優先順位付ける。この工程のアウトプットは、可能性の高い免疫原性に基づいて優先順位付けられた、体細胞突然変異のリストである。
【0297】
体細胞突然変異の同定:B16およびBlack6試料の両方に関して、3つの異なるアルゴリズムを用いて突然変異を同定する(突然変異の発見、上記)。最初のiCAM工程は、各アルゴリズムからのアウトプットリストを組み合わせて体細胞突然変異の高信頼度リストを作成することである。GATKおよびsamtoolsは、参照ゲノムと比較して1つの試料中の変異を報告する。所与の試料(すなわち腫瘍または正常)に関して偽陽性がほとんどない高信頼度突然変異を選択するために、すべてのレプリケート中で同定された突然変異を選択する。次に、腫瘍試料中には存在するが正常試料中には存在しない変異を選択する。SomaticSniperは、腫瘍データと正常データの対から潜在的な体細胞変異を自動的に報告する。我々は、レプリケートから得られた結果のインターセクションを通して結果をさらにフィルタリングした。できるだけ多くの偽陽性細胞を除去するために、3つすべてのアルゴリズムおよびすべてのレプリケートの使用から導かれる突然変異のリストをインターセクトさせた。各々の体細胞突然変異についての最終段階は、カバレッジの深度、SNPクオリティ、コンセンサスクオリティおよびマッピングクオリティに基づき各突然変異に信頼値(p値)を割り当てることである。
【0298】
突然変異の影響:フィルタリングしたコンセンサス体細胞突然変異の影響を、iCAM突然変異パイプライン内でスクリプトによって決定する。最初に、複数の箇所に整列される配列リードは除外されるので、一部のタンパク質パラログおよび偽遺伝子に関して起こるような、ゲノム内の固有でないゲノム領域で起こる突然変異は解析から除外する。第二に、突然変異が転写産物中で起こるかどうかを決定する。第三に、突然変異がタンパク質コード領域内で起こるかどうかを決定する。第四に、アミノ酸配列の変化が存在するかどうかを決定するために転写産物配列を突然変異と共におよび突然変異なしで翻訳する。
【0299】
突然変異の発現:iCaMパイプラインは、腫瘍細胞中で発現される遺伝子およびエクソンにおいて見出される体細胞突然変異を選択する。発現レベルは腫瘍細胞のNGS RNA−Seqを通して決定される(上記)。遺伝子とエクソンにオーバーラップするリードの数が発現レベルを指示する。これらのカウントをRPKM(百万個のマッピングされたリード当たりのエクソンモデルのキロベース当たりのリード(Reads Per Kilobase of exon model per Million mapped reads))[Mortazavi A.et al.Mapping and quantifying mammalian transcriptomes by RNA−Seq.Nat Methods.2008 Jul;5(7):621−8.Epub 2008 May 30])に正規化し、10RPKMを上回って発現されるものを選択する。
【0300】
MHC結合:突然変異ペプチドを含むエピトープがMHC分子に結合する可能性を決定するために、iCAMパイプラインは、Immune Epitope Database(http://www.iedb.org/)からのMHC予測ソフトウェアの修正版を実行する。ローカルインストールは、アルゴリズムを通してデータフローを最適化するための変更を含む。B16およびBlack6データに関して、それぞれのペプチド長についてすべての使用可能なblack6 MHCクラスI対立遺伝子およびすべてのエピトープを使用して予測を実行した。IEDBトレーニングデータ(http://mhcbindingpredictions.immuneepitope.org/dataset.html)の予測スコア分布の95パーセンタイルに順位付けられるエピトープに含まれる突然変異を選択し、突然変異にオーバーラップするすべてのMHC対立遺伝子およびすべての潜在的なエピトープを検討する。
【0301】
突然変異選択基準:体細胞突然変異は、以下の基準:a)固有の配列内容を有する、b)3つすべてのプログラムによって同定される、c)高い突然変異信頼度、d)非同義タンパク質変化、e)高い転写産物発現、およびf)良好なMHCクラスI結合予測によって選択する。
【0302】
この工程のアウトプットは、可能性の高い免疫原性に基づいて優先順位付けられた、体細胞突然変異のリストである。B16メラノーマ細胞中に、2448の体細胞突然変異が存在する。これらの突然変異のうち1247が遺伝子転写産物中で認められる。これらのうちで、734は非同義タンパク質変化を引き起こす。これらのうちで、149は腫瘍細胞において発現される遺伝子中に存在する。これらのうちで、これらの発現される非同義突然変異のうち102は、MHC分子上に提示されると予測される。次にこれら102の可能性の高い免疫原性突然変異を突然変異の確認(下記)へと進める。
【0303】
突然変異の確認
DNAエクソームリシークエンシングからの体細胞突然変異を2つの方法、すなわち突然変異領域のリシークエンシングおよびRNA−Seq分析のいずれかによって確認した。
【0304】
リシークエンシングによる突然変異の確認のために、突然変異を含むゲノム領域を、腫瘍DNAおよび正常コントロールDNAのどちらも50ngから標準的なPCRによって増幅した。増幅産物のサイズは150〜400ヌクレオチドの範囲であった。Qiaxel装置(Qiagen)にPCR産物を負荷することによって反応の特異性を制御した。minElute PCR精製キット(Qiagen)を使用してPCR産物を精製した。特異的PCR産物を、標準的なサンガーシークエンシング法(Eurofins)、次いでエレクトロフェログラム解析を用いて配列決定した。
【0305】
突然変異の確認は、腫瘍RNAの検査を通しても達成された。腫瘍遺伝子およびエクソン発現値を、転写産物にマッピングされ、カウントされるヌクレオチド配列を作製する、RNA−Seq(RNAのNGS)から生成した。我々は、腫瘍試料中の突然変異を同定するために配列データ自体を検討し[Berger MF.et al.Integrative analysis of the melanoma transcriptome.Genome Res.2010 Apr;20(4):413−27.Epub 2010 Feb 23]、DNAから導かれる同定された体細胞突然変異の独立した確認を提供した。
表1:50の実証された突然変異を含む遺伝子のリスト
50の同定され、確認された体細胞突然変異を含む遺伝子、ならびに遺伝子記号、遺伝子名および予測される局在と機能に関するアノテーション
【表1】
【0306】
(実施例2)
IVAC選択アルゴリズムは免疫原性突然変異の検出を可能にする
B16F10メラノーマ細胞からの確認された突然変異に対して特異的T細胞応答が誘導され得るかどうかを検討するため、ナイーブC57BL/6マウス(n=5/ペプチド)を、突然変異または野生型アミノ酸配列(表2参照)のいずれかを含むペプチド100μg(+アジュバントとしてPolyI:C 50μg)で皮下的に2回(0日目、7日目)免疫した。すべてのペプチドは27アミノ酸の長さで、中心位置に突然変異/野生型アミノ酸を有していた。12日目にマウスを犠死させ、脾細胞を採取した。読み出し法として、5×10
5脾細胞/ウェルをエフェクターとし、ペプチド(2μg/ml)を負荷した5×10
4骨髄樹状細胞を標的細胞として使用して、IFNγ ELISpotを実施した。エフェクター脾細胞を突然変異ペプチド、野生型ペプチドおよびコントロールペプチド(水疱性口内炎ウイルスヌクレオタンパク質、VSV−NP)に対して試験した。
【0307】
試験した44の配列に関して、これらのうちの6つは突然変異配列に対してのみT細胞免疫を誘導するが、野生型ペプチドに対しては免疫を誘導しないことを認めた(
図3)。
【0308】
データは、同定され、優先順位付けられた突然変異が、抗原ナイーブマウスにおいてペプチドワクチンとして使用された後、腫瘍特異的T細胞免疫を誘導するために使用できることを実証する。
表2:突然変異ペプチド対野生型ペプチドに特異的なT細胞反応性を誘導した突然変異配列の一覧表。アミノ酸交換に下線を付して示している。
【表2】
【0309】
(実施例3)
同定された突然変異は治療的抗腫瘍免疫を提供することができる
同定された突然変異が、ナイーブマウスへのワクチン接種後に抗腫瘍免疫を付与する潜在能を有するかどうかを検証するため、突然変異選択的T細胞反応性を誘導することが示された突然変異番号30についてのペプチドを用いてこの問題を検討した。B16F10細胞(7.5×10
4)を0日目に皮下的に接種した。マウスにペプチド30(表1参照;ペプチド100μg+PolyI:C 50μg s.c.)を−4日目、+2日目および+9日目にワクチン接種した。コントロール群にはPoly I:C(50μg s.c.)だけを与えた。腫瘍成長を1日おきに観測した。+16日目に、ペプチドワクチン群の5匹のマウスのうち1匹だけが腫瘍を発症し、コントロール群では5匹のマウスのうち4匹が腫瘍成長を示した。
【0310】
データは、B16F10特異的突然変異を組み込んだペプチド配列が、腫瘍細胞を効率的に破壊することができる抗腫瘍免疫を付与し得ることを実証する(
図4参照)。B16F10は高度に攻撃的な腫瘍細胞株であるので、突然変異を同定し、優先順位付けるために適用された方法が、最終的に、それ自体既にワクチンとして強力である突然変異の選択をもたらしたという所見は、工程全体についての重要な概念実証である。
【0311】
(実施例4)
ポリエピトープ抗原提示を裏付けるデータ
患者のタンパク質コード領域からの実証された突然変異は、RNAワクチンのGMP製造のための前駆物として使用されるポリネオエピトープワクチン鋳型のアセンブリの候補物をその中から選択することができるプールを構成する。ワクチン骨格として適切なベクターカセットは既に記述されている(Holtkamp,S.et al.,Blood,108:4009−4017,2006;Kreiter,S.et al.,Cancer Immunol.Immunother.,56:1577−1587,2007;Kreiter,S.et al.,J.Immunol.,180:309−318,2008)。好ましいベクターカセットは、コード領域および非翻訳領域(UTR)において修飾されており、長期間にわたってコードされるタンパク質の最大化された翻訳を確実にする(Holtkamp,S.et al.,Blood,108:4009−4017,2006;Kuhn,A.N.et al.,Gene Ther.,17:961−971,2010)。さらに、ベクター骨格は、細胞傷害性T細胞ならびにヘルパーT細胞の同時増殖のための抗原経路指定モジュールを含む(Kreiter,S.et al.,Cancer Immunol.Immunother.,56:1577−1587,2007;Kreiter,S.et al.,J.Immunol.,180:309−318,2008;Kreiter,S.etal.,Cancer Research,70(22),9031−9040,2010)(
図5)。重要な点として、我々は、そのようなRNAワクチンが複数のMHCクラスIおよびクラスIIエピトープを同時に提示するために使用できることを実証した。
【0312】
IVACポリネオエピトープRNAワクチン配列は、中心部に突然変異を含む30個までのアミノ酸のストレッチから構築される。これらの配列を短いリンカーによって頭部から尾部へと連結し、30までまたはそれ以上の選択された突然変異およびそれらのフランキング領域をコードするポリネオエピトープワクチンを形成する。これらの患者特異的な個別に誂えられたインサートをコドン最適化し、上述したRNA骨格にクローニングする。そのような構築物の品質管理には、機能的転写および翻訳の検証のためのインビトロ転写および細胞中での発現が含まれる。翻訳の分析は、C末端標的ドメインに対する抗体を用いて実施する。
【0313】
(実施例5)
RNAポリネオエピトープ構築物についての科学的概念実証
RNAポリネオエピトープの概念は、リンカー配列によって連結された、突然変異ペプチドをコードする連続的に配置された配列から成る長いインビトロ転写mRNAに基づく(
図6参照)。コード配列は非同義突然変異から選択され、常に、もとの配列状況からの30〜75塩基対の領域に隣接された突然変異アミノ酸についてのコドンで構築される。リンカー配列は、細胞の抗原プロセシング機構によって選択的にプロセシングされないアミノ酸をコードする。
【0314】
インビトロ転写構築物は、T7プロモーター、タンデムβグロビン3'UTR配列および120bpのポリ(A)尾部を含むpST1−A120ベクターに基づいており、これらはRNAの安定性および翻訳効率を高め、それによりコードされる抗原のT細胞刺激能力を増強することが示されている(Holtkamp S.et al.,Blood 2006;PMID:16940422)。加えて、MHCクラスIシグナルペプチドフラグメントならびにエピトープをクローニングするためのポリリンカー配列に隣接する終結コドン(MHCクラスI輸送シグナルまたはMITD)を含む膜貫通ドメインおよびサイトゾルドメインを挿入した(Kreiter S.et al.,J.Immunol.,180:309−318,2008)。後者は、抗原提示を増大させ、それにより抗原特異的CD8
+およびCD4+T細胞の増殖を増強して、エフェクター機能を改善することが示されている。
【0315】
最初の概念実証のために、バイエピトープベクター、すなわち2つの突然変異エピトープを含む1つのポリペプチドをコードするベクターを使用した。上述したようにpST1に基づく構築物にクローニングするための制限エンドヌクレアーゼの適切な認識部位に隣接した、(i)20〜50アミノ酸の突然変異エピトープ、(ii)グリシン/セリンリッチリンカー、(iii)20〜50アミノ酸の2番目の突然変異エピトープ、および(iv)付加的なグリシン/セリンリッチリンカーをコードするコドン最適化配列を設計し、これを商業的供給者(Geneart,Regensburg,Germany)によって合成させた。配列の検証後、これらをpST1に基づくベクター骨格にクローニングし、
図6に示す構築物を得た。
【0316】
上述したpST1−A120に基づくプラスミドをクラスII制限エンドヌクレアーゼで線状化した。線状化プラスミドDNAをフェノールクロロホルム抽出とエタノール沈殿によって精製した。線状化ベクターDNAを分光光度法で定量し、基本的にPokrovskayaとGurevich(1994,Anal.Biochem.220:420−423)によって記述されたようにインビトロ転写に供した。キャップ類似体を転写反応に加え、対応して修飾された5'キャップ構造を有するRNAを得た。反応物中に、GTPは1.5mMで存在し、キャップ類似体は6.0mMで存在した。すべての他のNTPは7.5mMで存在した。転写反応の終了時に、線状化ベクターDNAを0.1U/μl TURBO DNase(Ambion,Austin/TX,USA)で37℃にて15分間消化した。MEGAclear Kit(Ambion,Austin/TX,USA)を製造者のプロトコルのとおりに使用してRNAをこれらの反応物から精製した。RNAの濃度および品質を分光光度法および2100 Bioanalyzer(Agilent,Santa Clara,CA,USA)での分析によって評価した。
【0317】
突然変異アミノ酸を組み込み、5'および3'でリンカー配列に隣接されている配列が、プロセシングされ、提示されて、抗原特異的T細胞によって認識され得ることを証明するために、我々は、ペプチドワクチン接種したマウス由来のT細胞をエフェクター細胞として使用した。IFNγ ELISpotにおいて、上述したペプチドワクチン接種によって誘導されたT細胞が、ペプチドでパルスするか(2μg/ml、37℃および5%CO
2で2時間)またはエレクトロポレーションによってRNA(上述したように生成した20μg)でトランスフェクトした標的細胞(骨髄樹状細胞、BMDC)を認識することができるかどうかを試験した。突然変異12および30(表2参照)に関して
図7に例示するように、我々は、RNA構築物が突然変異特異的T細胞によって認識されるエピトープを生じさせることができることを観察できた。
【0318】
提供されるデータにより、我々は、グリシン/セリンリッチリンカーを含むポリネオエピトープをコードするRNAが抗原提示細胞中で翻訳され、プロセシングされて、抗原特異的T細胞によって認識される正しいエピトープの提示をもたらすことができることを実証できた。
【0319】
(実施例6)
ポリネオエピトープワクチンの設計−リンカーの関連性
ポリネオエピトープRNA構築物は、リンカーペプチド配列で連結された複数の体細胞突然変異コードペプチドが配置される骨格構築物を含む。コドン最適化ならびに骨格によるRNA安定性および翻訳効率の増大に加えて、RNAポリネオエピトープワクチンの1つの実施形態は、抗原ペプチドのMHCクラスIおよびII提示を増大させ、有害なエピトープの提示を減少させるように設計されたリンカーを含む。
【0320】
リンカー:リンカー配列を、複数の突然変異含有ペプチドを連結するように設計した。リンカーは、突然変異エピトープの生成と提示を可能にし、隣接ペプチド間またはリンカー配列と内因性ペプチドとの間の接合部縫合で生成されるような有害なエピトープの生成を妨げるべきである。これらの「接合」エピトープは、細胞表面に提示されるべき意図するエピトープと競合して、ワクチンの効果を低下させ得るだけでなく、望ましくない自己免疫反応も生じさせ得る。したがって、我々は、a)MHC分子に結合する「接合」ペプチドを生成することを回避する、b)「接合」ペプチドを生成するプロテアソームプロセシングを回避する、c)プロテアソームによって効率的に翻訳され、プロセシングされるように、リンカー配列を設計した。
【0321】
MHC分子に結合する「接合」ペプチドの生成を回避するため、我々は種々のリンカー配列を比較した。例えばグリシンは、MHC結合溝位置での強力な結合を阻害する[Abastado JP.et al.,J Immunol.1993 Oct 1;151(7):3569−75]。我々は複数のリンカー配列および複数のリンカー長を検討し、MHC分子に結合する「接合」ペプチドの数を計算した。Immune Epitope Database(IEDB,http://www.immuneepitope.org/)からのソフトウェアツールを用いて、所与のペプチド配列がMHCクラスI分子に結合するリガンドを含む尤度を計算した。
【0322】
B16モデルにおいて、MHCクラスI分子上に提示されると予測される102の発現された非同義体細胞突然変異を同定した。50の確認された突然変異を使用して、リンカーなしの使用または異なるリンカー配列の使用を含む、種々のワクチン構築物をコンピュータで設計し、IEDBアルゴリズムを用いて有害な「接合」ペプチドの数をコンピュータで計算した(
図8)。
【0323】
表5は、いくつかの異なるリンカー、異なるリンカー長、ならびにリンカーなしおよび5つのリンカーの使用の結果を示す。MHCに結合する接合ペプチドの数は、9アミノ酸および10アミノ酸エピトープ予測について2〜91の範囲である(上および中央)。リンカーのサイズは接合ペプチドの数に影響を及ぼす(下)。この配列に関して、最も少ない9アミノ酸エピトープが7アミノ酸リンカー配列GGSGGGGについて予測される。
【0324】
実験的に試験したRNAポリネオエピトープワクチン構築物において使用したリンカー1およびリンカー2(下記参照)も、予測される接合ネオエピトープの数が良好に低かった。これは九量体および十量体の予測にも当てはまる。
【0325】
これは、リンカーの配列が、望ましくないMHC結合エピトープの生成にとって極めて重要であることを明らかにする。さらに、リンカー配列の長さは望ましくないMHC結合エピトープの数に影響を及ぼす。我々は、Gに富む配列がMHC結合リガンドの生成を妨げることを認める。
表3:リンカーの影響(10アミノ酸エピトープ)。各々のペプチドリンカーについての、接合配列を含むMHCクラスI結合エピトープと定義される、望ましくないエピトープの予測される数。ここでは、10アミノ酸エピトープを検討している。グリシンリッチリンカーは最も少ない接合エピトープを有する。
【表3】
表4:リンカー部分の影響(9アミノ酸エピトープ)。各々のペプチドリンカーについての、接合配列を含むMHCクラスI結合エピトープと定義される、望ましくないエピトープの予測される数。ここでは、9アミノ酸エピトープを検討している。グリシンリッチリンカーは最も少ない接合エピトープを有する。
【表4】
表5:リンカー部分の影響。各々のペプチドリンカーについての、接合配列を含むMHCクラスI結合エピトープと定義される、望ましくないエピトープの予測される数。ここでは、9アミノ酸エピトープを検討している。上:リンカーなしおよび5つのそれぞれ異なるリンカーについての9アミノ酸接合エピトープの数。中央:リンカーなしおよび5つのそれぞれ異なるリンカーについての10アミノ酸接合エピトープの数。下:異なる長さの類似のリンカーについての99アミノ酸接合エピトープの数。グリシンリッチリンカーは最も少ない接合エピトープを有する。
【表5】
【0326】
「接合」ペプチドを生成し得るプロテアソームプロセシングを回避するため、我々はリンカー中で異なるアミノ酸を使用することを検討した。グリシンリッチ配列はプロテアソームプロセシングを減少させる[Hoyt MA et al.(2006).EMBO J 25(8):1720−9;Zhang M.and Coffino P.(2004)J Biol Chem 279(10):8635−41]。したがってグリシンリッチリンカー配列は、プロテアソームによってプロセシングされ得るリンカー含有ペプチドの数を最小限に抑えるように働く。
【0327】
リンカーは、突然変異含有ペプチドが効率的に翻訳され、プロテアソームによってプロセシングされることを可能にするべきである。アミノ酸グリシンおよびセリンは柔軟性がある[Schlessinger A and Rost B.,Proteins.2005 Oct 1;61(1):115−26];これらをリンカーに含めることはより柔軟性のあるタンパク質をもたらす。我々は、タンパク質の柔軟性を高めるためにグリシンおよびセリンをリンカーに組み込んでおり、これは、より効率的な翻訳およびプロテアソームによるプロセシングを可能にし、それが次にはコードされる抗原性ペプチドへのより良好なアクセスを可能にするはずである。
【0328】
したがって、リンカーは、MHCに結合する望ましくないエピトープの生成を妨げるためにグリシンリッチであるべきであり、リンカーペプチドをプロセシングするプロテアソームの能力を妨げるべきであり(グリシンを含めることによって達成され得る)、ならびに突然変異含有ペプチドへのアクセスを増大させるために柔軟であるべき(グリシンとセリンアミノ酸の組合せによって達成され得る)である。それゆえ、本発明のワクチン構築物の1つの実施形態では、配列GGSGGGGSGGおよびGGSGGGSGGSがリンカー配列として好ましく含まれる。
【0329】
(実施例7)
RNAポリネオエピトープワクチン
RNAポリネオエピトープワクチン構築物は、T7プロモーター、タンデムβグロビン3'UTR配列および120bpのポリ(A)尾部を含むpST1−A120ベクターに基づいており、これらはRNAの安定性および翻訳効率を高め、それにより、コードされる抗原のT細胞刺激能力を増強することが示されている(Holtkamp S.et al.,Blood 2006;PMID:16940422)。加えて、MHCクラスIシグナルペプチドフラグメントならびにエピトープをクローニングするためのポリリンカー配列に隣接する終結コドン(MHCクラスI輸送シグナルまたはMITD)を含む膜貫通ドメインおよびサイトゾルドメインを挿入した(Kreiter S.et al.,J.Immunol.,180:309−318,2008)。後者は、抗原提示を増大させ、それにより抗原特異的CD8
+およびCD4+T細胞の増殖を増強して、エフェクター機能を改善することが示されている。
【0330】
B16F10の50の同定され、実証された突然変異についてのRNAポリネオエピトープ構築物を提供するため、3つのRNA構築物を作製した。構築物は、(i)25アミノ酸の突然変異エピトープ、(ii)グリシン/セリンリッチリンカー、(iii)突然変異エピトープ配列とそれに続くグリシン/セリンリッチリンカーの反復、をコードするコドン最適化配列から成る。突然変異エピトープ含有配列とリンカーの鎖は、上述したpST1に基づく構築物にクローニングするための制限エンドヌクレアーゼの適切な認識部位に隣接している。ワクチン構築物を設計し、GENEARTによって合成させた。配列の検証後、これらをpST1に基づくベクター骨格にクローニングし、RNAポリネオエピトープワクチン構築物を得た。
【0331】
臨床アプローチの説明
臨床適用は以下の工程を含む:
・適格患者が次世代シークエンシングによるDNA分析に同意しなければならない。
・通常の診断手順から得られる腫瘍標本(パラフィン包埋し、ホルマリン固定した組織)および末梢血細胞を入手し、上述した突然変異分析のために使用する。
・発見された突然変異を確認する。
・優先順位付けに基づき、ワクチンを設計する。RNAワクチンのために、遺伝子合成およびクローニングによってマスタープラスミド鋳型を作製する。
・プラスミドを、臨床グレードのRNAの作製、RNAワクチンの品質管理および放出のために使用する。
・ワクチン薬剤製品を、臨床適用のためにそれぞれの治験施設に送付する。
・RNAワクチンは、製剤緩衝液中で裸のワクチンとしてまたは例えばリンパ節への直接注射、皮下、静脈内、筋肉内注射のためにナノ粒子もしくはリポソーム中に封入して使用することができる。あるいは、RNAワクチンは、例えば養子移入のための樹状細胞の、インビトロトランスフェクションに使用することができる。
【0332】
臨床工程全体で6週間未満しか要しない。患者のインフォームドコンセントと薬剤の入手可能性との間の「遅滞期」は、臨床試験プロトコルによって慎重に対処され、これには臨床試験用医薬品が入手可能になるまで標準的な治療レジメンが継続されるのを可能にすることが含まれる。
【0333】
(実施例8)
腫瘍転移の同定および腫瘍ワクチン接種のためのその利用
我々は、B16F10マウスメラノーマ細胞株における突然変異発見のためにNGSエクソームリシークエンシングを適用し、962の非同義体細胞点突然変異を同定し、563を発現遺伝子中で同定した。潜在的なドライバー突然変異は、古典的腫瘍サプレッサー遺伝子(Pten、Trp53、Tp63、Pml)ならびに細胞増殖(例えばMdm1、Pdgfra)、細胞接着および移動(例えばFdz7、Fat1)またはアポトーシス(Casp9)を制御する癌原遺伝子シグナル伝達経路に関与する遺伝子において起こる。さらに、B16F10は、ヒトメラノーマにおいて頻繁に変化すると以前に記述されたAim1およびTrrapの突然変異も保有する。
【0334】
50の実証された突然変異の免疫原性および特異性を、突然変異エピトープをコードする長いペプチドで免疫したC57BL/6マウスを使用して検定した。これらの3分の1(16/50)は免疫原性であることが示された。これらのうちで、60%は、野生型配列と比較して、突然変異配列に対して選択的に免疫応答を誘発した。
【0335】
我々は、腫瘍移植モデルにおいて仮説を試験した。ペプチドによる免疫は防御的および治療的設定でインビボ腫瘍抑制を与え、単一アミノ酸置換を含む突然変異エピトープを有効なワクチンとみなした。
【0336】
動物
C57BL/6マウス(Jackson Laboratories)をUniversity of Mainzにおいて動物研究に関する連邦および州政府の政策に従って飼育した。
【0337】
細胞
B16F10メラノーマ細胞株を2010年にAmerican Type Culture Collectionから購入した(製品:ATCC CRL−6475、ロット番号:58078645)。初期(3代目、4代目)継代の細胞を腫瘍実験に使用した。通常はマイコプラスマ属(Mycoplasma)に関して細胞を試験した。受領時以降に細胞の再確認は実施しなかった。
【0338】
次世代シークエンシング
核酸抽出および試料調製:バルクB16F10細胞からのDNAおよびRNAならびにC57BL/6尾部組織からのDNAを、Qiagen DNeasy Blood and Tissueキット(DNA用)およびQiagen RNeasy Microキット(RNA用)を使用して三つ組で抽出した。
【0339】
DNAエクソームシークエンシング:DNAリシークエンシングのためのエクソーム捕獲を、すべてのマウスタンパク質コード領域を捕獲するように設計された、Agilent Sure−Select mouse solutionに基づく捕獲アッセイ(Gnirke A et al.,Nat Biotechnol 2009;27:182−9)を用いて三つ組で実施した。精製ゲノムDNA(gDNA)3μgを、Covaris S2超音波装置を用いて150〜200bpに断片化した。フラグメントを、製造者の指示に従って末端修復し、5'リン酸化して、3'アデニル化した。Illuminaペアエンドアダプタを、アダプタ対gDNAの10:1モル比を用いてgDNAフラグメントに連結した。捕獲前に濃縮し、4回のPCRサイクルのためにIllumina PE PCRプライマー1.0および2.0を使用してフローセル特異的配列を付加した。アダプタ連結し、PCR濃縮したgDNAフラグメント500ngをAgilentのSureSelectビオチン化マウス全エクソームRNAライブラリベイトに65℃で24時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを用いて取り出し、洗浄して、SureSelect溶出緩衝液中での溶出の間にRNAベイトを切断した。これらの溶出したgDNAフラグメントを捕獲後に10サイクルPCR増幅した。エクソーム濃縮したgDNAライブラリを、7pMを使用してTruseq SRクラスターキットv2.5を用いてcBotでクラスター化し、Truseq SBSキット−HS 50bpを用いてIllumina HiSeq2000で50bpを配列決定した。
【0340】
RNA遺伝子発現、「トランスクリプトーム」プロファイリング(RNA−Seq):バーコード化されたmRNA−seq cDNAライブラリを、全RNA 5μgから三つ組で調製した(修正Illumina mRNA−seqプロトコル)。Seramag Oligo(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用してmRNAを単離し、二価カチオンと熱を用いて断片化した。生じたフラグメント(160〜220bp)を、ランダムプライマーとSuperScriptII(Invitrogen)を使用してcDNAに変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第二鎖を合成した。cDNAを製造者の指示に従って末端修復し、5'リン酸化して、3'アデニル化した。単一の3'TオーバーハングIlluminaマルチプレックス特異的アダプタを、アダプタ対cDNAインサートの10:1モル比を用いてT4 DNAリガーゼで連結した。cDNAライブラリを精製し、200〜220bpでサイズ選択した(E−Gel 2% SizeSelectゲル、Invitrogen)。濃縮、Illumina6塩基インデックス配列およびフローセル特異的配列の付加を、Phusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用してPCRによって実施した。この工程までのすべての清浄化は1.8倍容量のAgencourtAMPure XP磁気ビーズで行った。すべての品質管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを用いて実施し、フラグメントサイズはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを用いて決定した。バーコード化されたRNA−Seqライブラリを上述したようにクラスター化し、配列決定した。
【0341】
NGSデータ解析、遺伝子発現:RNA試料からの出力された配列リードをIllumina標準プロトコルに従って前処理し、これは低クオリティリードのフィルタリングを含んだ。配列リードを、bowtie(バージョン0.12.5)(Langmead B et al.,Genome Biol 2009;10:R25)を用いてmm9参照ゲノム配列(Waterston RH et al.,Nature 2002;420:520−62)に整列させた。ゲノムアラインメントに関して、2つのミスマッチを許容し、最適アラインメント(「−v2−best」)だけを記録した;トランスクリプトームアラインメントについてはデフォルトパラメータを使用した。ゲノム配列に整列可能でないリードは、RefSeq転写産物のすべての可能なエクソン−エクソン接合部配列のデータベースに整列させた(Pruitt KD et al.,Nucleic Acids Res 2007;35:D61−D65)。リード座標をRefSeq転写産物のものとインターセクトさせることによって発現値を決定し、オーバーラップするエクソンと接合部リードをカウントして、RPKM発現単位(百万個のマッピングされたリード当たりのエクソンモデルのキロベースごとにマッピングされるリード(Reads which map per Kilobase of exon model per million mapped reads))(Mortazavi A et al.,Nat Methods 2008;5:621−8)に正規化した。
【0342】
NGSデータ解析、体細胞突然変異の発見:体細胞突然変異を実施例9で述べるように同定した。50ヌクレオチドのシングルエンドリードを、bwa(デフォルトオプション、バージョン0.5.8c)(Li H and Durbin R,Bioinformatics 2009;25:1754−60)を用いてmm9参照マウスゲノムに整列させた。ゲノムの複数箇所にマッピングされる曖昧なリードを除去した。3つのソフトウェアプログラム:samtools(バージョン0.1.8)(Li H,Bioinformatics 2011;27:1157−8)、GATK(バージョン1.0.4418)(McKenna A et al,Genome Res 2010;20:1297−303)、およびSomaticSniper(http://genome.wustl.edu/software/somaticsniper)(Ding L et al.,Hum Mol Genet 2010;19:R188−R196)を用いて突然変異を同定した。すべてのB16F10三つ組において同定された潜在的な変異に「偽発見率」(FDR)の信頼値を割り当てた(実施例9参照)。
【0343】
突然変異の選択、実証および機能
選択:突然変異は、選択されるには以下の基準を満たさねばならなかった:(i)すべてのB16F10三つ組中に存在し、すべてのC57BL/6三つ組中に存在しない、(ii)FDR≦0.05、(iii)C57BL/6中で均一、(iv)RefSeq転写産物中で生じる、および(v)真の突然変異とスコアされる非同義変化を引き起こす。実証および免疫原性試験のための選択は、突然変異が発現された遺伝子であることを必要とした(レプリケート全体にわたって平均RPKM>10)。
【0344】
実証:DNA由来の突然変異を、サンガーシークエンシングまたはB16F10 RNA−Seqリードのいずれかによって確認された場合に実証されたと分類した。すべての選択した変異体を、B16F10細胞およびC57BL/6尾部組織由来のDNA 50ngから隣接プライマーを使用して増幅し、精製物を視覚化して(QIAxcelシステム、Qiagen)、精製した(QIAquick PCR Purification Kit,Qiagen)。予想されたサイズのアンプリコンをゲルから切り出し、精製して(QIAquick Gel Extraction Kit,Qiagen)、PCR増幅のために使用した正プライマーを用いてサンガーシークエンシング(Eurofins MWG Operon,Ebersberg,Germany)に供した。
【0345】
機能的影響:タンパク質ドメインの場所および異種間配列保存に基づきタンパク質機能へのアミノ酸の機能的重要性を予測するプログラム、SIFT(Kumar P et al.,Nat Protoc 2009;4:1073−81)およびPOLYPHEN−2(Adzhubei IA et al.,Nat Methods 2010;7:248−9)を用いて、選択した突然変異の影響を評価した。Ingenuity IPAツールを使用して遺伝子機能を推測した。
【0346】
合成ペプチドおよびアジュバント
オボアルブミンクラスI(OVA
258−265)、クラスII(OVAクラスII
330−338)、インフルエンザヌクレオタンパク質(Inf−NP
366−374)、水疱性口内炎ウイルスヌクレオタンパク質(VSV−NP
52−59)およびチロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2
180−188)を含むすべてのペプチドをJerini Peptide Technologies(Berlin,Germany)から購入した。合成ペプチドは27アミノ酸長で、14位に突然変異(MUT)または野生型(WT)アミノ酸を有していた。ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly(I:C),InvivoGen)を皮下注射用アジュバントとして使用した。Inf−NP
366−374ペプチドに特異的なMHC五量体をProImmune Ltd.から購入した。
【0347】
マウスの免疫
年齢をマッチさせた雌性C57BL/6マウスに、PBS中に製剤化したペプチド100μgおよびpoly(I:C)50μg(総容量200μl)を側腹部に皮下注射した(各群につき5匹のマウス)。すべての群を0日目と7日目に2つの異なる突然変異コードペプチドで免疫し、一方の側腹部につき1つのペプチドとした。初回注射の12日後にマウスを犠死させ、免疫学的試験のために脾細胞を単離した。
【0348】
あるいは、年齢をマッチさせた雌性C57BL/6マウスに、総注射容量200μlでPBS中にLipofectamine(登録商標)RNAiMAX(Invitrogen)20μlと共に製剤化したインビトロ転写RNA 20 μgを静脈内注射した(各群につき3匹のマウス)。すべての群を0、3、7、14および18日目に免疫した。初回注射の23日後にマウスを犠死させ、免疫学的試験のために脾細胞を単離した。1つ(モノエピトープ)、2つ(バイエピトープ)または16(ポリエピトープ)の突然変異を示すDNA配列を、25位に突然変異を有する50アミノ酸(バイエピトープ)または14位に突然変異を有する27アミノ酸(モノおよびポリエピトープ)を使用して構築し、9アミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって分離して、pST1−2BgUTR−A120骨格にクローニングした(Holtkamp et al.,Blood 2006;108:4009−17)。この鋳型からのインビトロ転写および精製は以前に記述されている(Kreiter et al.,Cancer Immunol Immunother 2007;56:1577−87)。
【0349】
酵素結合免疫スポットアッセイ
酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ(Kreiter S et al.,Cancer Res 2010;70:9031−40)および刺激因子としての同系骨髄由来樹状細胞(BMDC)の生成は以前に記述されている(Lutz MB et al.,J Immunol Methods 1999;223:77−92)。BMDCを、ペプチドでパルスするか(2μg/ml)、または指示される突然変異もしくはコントロールRNA(eGFP−RNA)をコードするインビトロ転写(IVT)RNAでトランスフェクトした。各々が25位に突然変異を有する50アミノ酸を含み、9アミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって分離された2つの突然変異を示す配列をpST1−2BgUTR−A120骨格にクローニングした(Holtkamp S et al.,Blood 2006;108:4009−17)。この鋳型からのインビトロ転写および精製は以前に記述されている(Kreiter S et al.,Cancer Immunol Immunother 2007;56:1577−87)。アッセイのために、5×10
4ペプチドまたはRNA操作したBMDCを、抗IFN−γ抗体(10μg/mL、クローンAN18;Mabtech)で被覆したマイクロタイタープレート中で5×10
5の新鮮単離した脾細胞と共に同時インキュベートした。37℃で18時間後、サイトカイン分泌を抗IFN−γ抗体(クローンR4−6A2;Mabtech)で検出した。スポット数をカウントし、ImmunoSpot(登録商標)S5 Versa ELISPOT Analyzer、ImmunoCapture(登録商標)Image AcquisitionソフトウェアおよびImmunoSpot(登録商標)Analysisソフトウェアバージョン5で解析した。統計解析はスチューデントt検定およびマン・ホイットニー検定(ノンパラメトリック検定)によって行った。検定でp値<0.05が与えられるか、平均スポット数が>30スポット/5×10
5エフェクター細胞である場合、応答を有意とみなした。反応性は平均スポット数によって評価した(−:<30;+:>30;++:>50;+++>200スポット/ウェル)。
【0350】
細胞内サイトカインアッセイ
ELISPOTアッセイ用に調製した脾細胞のアリコートを、細胞内フローサイトメトリによるサイトカイン産生の分析に供した。このために各試料につき2 ×10
6脾細胞を、96ウェルプレート中でゴルジ阻害剤ブレフェルジンA(10μg/mL)を添加した培地(RPMI+10%FCS)に塗布した。各動物からの細胞を、2× 10
5のペプチドパルスしたBMDCで37℃にて5時間再刺激した。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、PBS 50μl中に再懸濁して、以下の抗マウス抗体:抗CD4 FITC、抗CD8 APC−Cy7(BD Pharmingen)で4℃にて20分間細胞外染色した。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、その後外膜の透過処理のためにCytofix/Cytoperm(BD Bioscience)溶液100μL中に4℃にて20分間再懸濁した。透過処理後、細胞をPerm/Wash−Buffer(BD Bioscience)で洗浄し、Perm/Wash−Buffer中に50μL/試料で再懸濁し、以下の抗マウス抗体:抗IFN−γ PE、抗TNF−α PE−Cy7、抗IL2 APC(BD Pharmingen)で4℃にて30分間細胞内染色した。Perm/Wash−Bufferで洗浄した後、フローサイトメトリ分析のために1%パラホルムアルデヒドを含有するPBS中に細胞を再懸濁した。BD FACSCanto(登録商標)II血球計算器およびFlowJo(バージョン7.6.3)を用いて試料を分析した。
【0351】
B16メラノーマ腫瘍モデル
腫瘍ワクチン接種実験のために、7.5×10
4 B16F10メラノーマ細胞をC57BL/6マウスの側腹部に皮下的に接種した。予防的設定で、突然変異特異的ペプチドでの免疫を腫瘍接種の4日前および腫瘍接種後2日目と9日目に実施した。治療的実験のために、ペプチドワクチンを腫瘍注射後3日目と10日目に投与した。腫瘍サイズを3日ごとに測定し、腫瘍径が15mmに達したときにマウスを犠死させた。
【0352】
あるいは、腫瘍ワクチン接種実験のために、1×10
5 B16F10メラノーマ細胞を、年齢をマッチさせた雌性C57BL/6マウスの側腹部に皮下的に接種した。ペプチドワクチン接種を、腫瘍接種後3、10および17日目に、PBS中に製剤化したペプチド100μgおよびpoly(I:C)50μg(総容量200μl)を側腹部に皮下注射して実施した。RNA免疫を、総注射容量200μlでPBS中にLipofectamine(登録商標)RNAiMAX(Invitrogen)20μlと共に製剤化した、突然変異をコードするインビトロ転写RNA 20 μgを使用して実施した。コントロールとして、1つの群の動物にPBS中のRNAiMAX(Invitrogen)を注射した。動物を腫瘍接種後3、6、10、17および21日目に免疫した。カリパスを用いて腫瘍サイズを3日ごとに測定し、腫瘍径が15mmに達したときにマウスを犠死させた。
【0353】
B16F10マウスメラノーマにおける非同義突然変異の同定
我々の目的は、B16F10マウスメラノーマにおける潜在的に免疫原性の体細胞点突然変異をNGSによって同定し、これらをマウスのペプチドワクチン接種によってインビボ免疫原性に関して試験し、誘発されるT細胞応答をELISPOTアッセイによって測定することであった(
図9A)。我々は、C57BL/6野生型バックグラウンドゲノムおよびB16F10細胞のエクソームを、それぞれ三つ組で抽出し、捕獲して、配列決定した。各試料について、1億個を超えるシングルエンド50ヌクレオチドリードが生成された。これらのうち80%がマウスmm9ゲノムに特異的に整列し、49%が標的上に整列して、標的の濃縮が成功したことを明らかにし、三つ組試料の各々において標的ヌクレオチドの70%について20倍以上のカバレッジをもたらした。同じく三つ組でプロファイリングしたB16F10細胞のRNA−Seqは、平均3000万個のシングルエンドの50ヌクレオチドリードを生成し、このうち80%がマウストランスクリプトームに整列する。
【0354】
B16F10およびC57BL/6からのDNAリード(エクソーム捕獲)を分析し、体細胞突然変異を同定した。コピー数の差異分析(Sathirapongsasuti JF et al.,Bioinformatics 2011;27:2648−54)は、B16F10におけるDNA増幅および腫瘍サプレッサーCdkn2a(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A、p16Ink4A)のホモ接合性欠失を含む欠失を明らかにした。可能性のある免疫原性突然変異を同定するために点突然変異に焦点を合わせて、我々は3570の体細胞点突然変異をFDR≦0.05で同定した(
図9B)。最も頻度の高いクラスの突然変異は、典型的には紫外線から生じる、C>T/G>Aトランジションであった(Pfeifer GP et al.,Mutat Res 2005;571:19−31)。これらの体細胞突然変異のうちで、1392は転写産物中で起こり、126の突然変異は非翻訳領域で起こる。コード領域中の1266の突然変異のうちで、962は非同義タンパク質変化を引き起こし、これらのうちの563は発現された遺伝子中で起こる(
図9B)。
【0355】
同定された突然変異のキャリア遺伝子への割り当ておよび実証
注目すべき点として、突然変異遺伝子の多く(非同義体細胞点突然変異を含む962の遺伝子)が、これまでに癌表現型に関連付けられている。突然変異は、Pten、Trp53(p53とも呼ばれる)およびTp63を含む、確立された腫瘍サプレッサー遺伝子中で認められた。最も広く確立された腫瘍サプレッサーであるTrp53中で(Zilfou JT et al.,Cold Spring Harb Perspect Biol 2009;1:a001883)、タンパク質位置127おけるアスパラギンのアスパラギン酸への突然変異(p.N127D)は、DNA結合ドメイン内に局在し、SIFTによって機能を変化させると予測されている。Ptenは2つの突然変異(p.A39V、p.T131P)を含み、どちらもタンパク質機能に有害な影響を及ぼすと予測される。p.T131P突然変異は、ホスファターゼ活性を低下させることが示された突然変異(p.R130M)に隣接する(Dey N et al.,Cancer Res 2008;68:1862−71)。さらに、突然変異は、DNA修復経路に関連する遺伝子、例えばBrca2(乳癌2、若年性)、Atm(毛細管拡張性運動失調症の変異)、Ddb1(損傷特異的DNA結合タンパク質1)およびRad9b(RAD9ホモログB)中で認められた。さらに、突然変異は他の腫瘍関連遺伝子中でも起こり、これにはAim1(腫瘍サプレッサー「アブセントインメラノーマ1」)、Flt1(癌遺伝子Vegr1、fms関連チロシンキナーゼ1)、Pml(腫瘍サプレッサー「前骨髄球性白血病」)、Fat1(「FAT腫瘍サプレッサーホモログ1」)、Mdm1(TP53結合核タンパク質)、Mta3(転移関連1ファミリー、成員3)、およびAlk(未分化リンパ腫受容体チロシンキナーゼ)が含まれる。我々は、以前に腫瘍中で同定された、MAPK/ERK経路の細胞膜結合受容体チロシンキナーゼ、Pdgfra(血小板由来増殖因子受容体αポリペプチド)(Verhaak RG et al.,Cancer Cell 2010;17:98−110)中のp.S144Fにおける突然変異を認めた。突然変異は、Casp9(カスパーゼ9、アポトーシス関連システインペプチダーゼ)中のp.L222Vで起こる。CASP9は、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)をタンパク質分解によって切断し、アポトーシスを調節し、いくつかの癌に関連付けられている(Hajra KM et al.,Apoptosis 2004;9:691−704)。我々が認めた突然変異は潜在的にPARPおよびアポトーシスシグナル伝達に影響を及ぼす。最も興味深い点として、Braf、c−Kit、KrasまたはNrasでは突然変異が認められなかった。しかし、Rassf7(RAS関連タンパク質)(p.S90R)、Ksr1(ras 1のキナーゼサプレッサー)(p.L301V)、およびAtm(PI3K経路)(p.K91T)中で突然変異が同定され、そのすべてがタンパク質機能に有意の影響を及ぼすと予測される。Trrap(形質転換/転写ドメイン関連タンパク質)は、今年になって新規潜在的メラノーマ標的としてヒトメラノーマ標本中で同定された(Wei X et al.,Nat Genet 2011;43:442−6)。B16F10では、Trrap突然変異はp.K2783Rで起こり、オーバーラップするホスファチジルイノシトールキナーゼ(PIK)関連キナーゼFATドメインを障害すると予測される。
【0356】
NGSを用いて同定された962の非同義突然変異から、我々は、FDR<0.05を有する41突然変異を含む50の突然変異を、PCRに基づく実証と免疫原性試験のために選択した。選択基準は、発現された遺伝子中の位置(RPKM>10)および予測される免疫原性であった。注目すべきは、我々は50の突然変異すべてを実証することができた(表6、
図9B)。
表6:実証のために選択した突然変異。左から:割り当てたID、遺伝子記号、アミノ酸置換および位置、遺伝子名、予測される細胞内局在および種類(Ingenuity)
【表6】
【0357】
図9Cは、B16F10染色体の位置、遺伝子密度、遺伝子発現、突然変異、およびフィルタリングされた突然変異(内側の環)を示す。
【0358】
突然変異を示す長いペプチドに関する免疫原性試験のインビボ試験
これらの突然変異の免疫原性試験用の抗原を提供するため、我々は、免疫のために他のペプチドに比べて多くの利点を有する長いペプチドを使用した(Melief CJ and van der Burg SH,Nat Rev Cancer 2008;8:351−60)。長いペプチドは抗原特異的CD8
+およびCD4+T細胞を誘導することができる(Zwaveling S et al.,Cancer Res 2002;62:6187−93;Bijker MS et al.,J Immunol 2007;179:5033−40)。さらに、長いペプチドは、MHC分子に提示されるためにはプロセシングを必要とする。そのような取込みは、強力なT細胞応答をプライミングするのに最適な、樹状細胞によって最も効率的に行われる。適合するペプチドは、これに対し、トリミングを必要とせず、非活性化BおよびT細胞を含む、MHC分子を発現するすべての細胞上に外因的に負荷され、免疫学的寛容とフラトリサイドの誘導をもたらす(Toes RE et al.,J Immunol 1996;156:3911−8;Su MW et al.,J Immunol 1993;151:658−67)。50の実証された突然変異の各々について、我々は、中心部に位置する突然変異または野生型アミノ酸を有する27アミノ酸長のペプチドを設計した。したがって、突然変異を担持する8〜14アミノ酸長の任意の潜在的MHCクラスIおよびクラスIIエピトープをこの前駆体ペプチドからプロセシングすることができた。ペプチドワクチン接種のためのアジュバントとして、交差提示を促進し、ワクチン効果を高めることが公知であるpoly(I:C)を使用した(Datta SK et al.,J Immunol 2003;170:4102−10;Schulz O et al.,Nature 2005;433:887−92)。50の突然変異をT細胞の誘導に関してマウスにおいてインビボで試験した。印象的な点として、50の突然変異をコードするペプチドの中から16が、免疫マウスにおいて免疫応答を誘発することが認められた。誘導されたT細胞は種々の反応性パターンを示した(表7)。
表7:突然変異をコードするペプチドでのワクチン接種に続いて測定されたT細胞反応性の要約。統計解析はスチューデントt検定およびマン・ホイットニー検定(ノンパラメトリック検定)によって行った。検定でp値<0.05が与えられるか、平均スポット数が>30スポット/5×10
5エフェクター細胞である場合、応答を有意とみなした。反応性は平均スポット数によって評価した。−:<30;+:>30;++:>50;+++>200スポット/ウェル)。
【表7】
【0359】
11のペプチドが、突然変異エピトープを選択的に認識する免疫応答を誘導した。これは、突然変異30(MUT30、Kif18b)および36(MUT36、Plod2)で免疫したマウスに関して例示されている(
図10A)。ELISPOT試験は、野生型ペプチドまたは無関係なコントロールペプチド(VSV−NP)に対する交差反応性を伴わない強力な突然変異特異的免疫応答を明らかにした。突然変異05(MUT05、Eef2)および25(MUT25、Plod2)を含む5つのペプチドにより(
図10A)、突然変異ペプチドと野生型ペプチドの両方を同等に認識する免疫応答が得られた。突然変異ペプチドの大部分は、突然変異01(MUT01、Fzd7)、02(MUT02、Xpot)および07(MUT07、Trp53)に例示されるように有意のT細胞応答を誘導することができなかった。発見された突然変異のいくつかによって誘導される免疫応答は、十分に、陽性コントロールとしてマウスメラノーマ腫瘍抗原チロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2
180−188、
図10A)からの記述されているMHCクラスIエピトープでマウスを免疫することによって生じる免疫原性(500スポット/5×10
5細胞)の範囲内であった(Bloom MB et al.,Exp Med 1997;185:453−9;Schreurs MW et al.Cancer Res 2000;60:6995−7001)。強力な突然変異特異的T細胞応答を誘導する選択されたペプチドに関して、我々は独立したアプローチによって免疫認識を確認した。長いペプチドの代わりに、突然変異ペプチドフラグメントMUT17、MUT30およびMUT44をコードするインビトロ転写RNA(IVT RNA)を免疫学的読み出しのために使用した。ELISPOTアッセイにおいて、突然変異をコードするRNAまたは無関係なRNAでトランスフェクトしたBMDCを抗原提示細胞(APC)として使用し、免疫マウスの脾細胞をエフェクター細胞集団として使用した。MUT17、MUT30およびMUT44をコードするmRNAでトランスフェクトしたBMDCは、それぞれの長いペプチドで免疫したマウスの脾細胞によって特異的におよび強力に認識された(
図10B)。コントロールRNAでトランスフェクトBMDCに対しては有意に低い反応性が記録され、これはおそらく一本鎖RNAによるBMDCの非特異的活性化に起因すると考えられる(スチューデントt検定;MUT17:p=0.0024、MUT30:p=0.0122、MUT44:p=0.0075)。これらのデータは、誘導される突然変異特異的T細胞が内因的にプロセシングされたエピトープを実際に認識することを確認する。突然変異エピトープの好ましい認識を誘導する2つの突然変異は、遺伝子Actn4およびKif18b中に存在する。ACTN4(アクチニン、α4)中の体細胞突然変異は、カルシウム結合「EFハンド」タンパク質ドメイン内のp.F835Vに位置する。SIFTおよびPOLYPHENの両方がタンパク質機能へのこの突然変異の有意の影響を予測するが、この遺伝子は確立された癌遺伝子ではない。しかし、ACTN4に対する突然変異特異的T細胞は、最近、患者の良好な結果に関連付けられている(Echchakir H et al.,Cancer Res 2001;61:4078−83)。KIF18B(キネシンファミリー成員18B)は、微小管運動活性ならびに細胞分裂の調節に関与するATPおよびヌクレオチド結合を有するキネシンである(Lee YM et al.,Gene 2010;466:16−25)(
図10C)。p.K739をコードする位置のDNA配列は参照C57BL/6中で均一であるが、B16F10 DNAリードはヘテロ接合性体細胞突然変異を明らかにする。両方のヌクレオチドがB16F10 RNA−Seqリード中で検出され、サンガーシークエンシングによって実証された。KIF18Bはこれまで癌表現型には関連付けられていなかった。突然変異p.K739Nは、公知の機能的または保存されたタンパク質ドメインには局在せず(
図10C、下)、したがってドライバー突然変異ではなくパッセンジャー突然変異である可能性が最も高い。これらの例は、突然変異を認識する免疫応答を誘導する能力と機能的または免疫学的関連性との間に相関がないことを示唆する。
【0360】
ワクチン候補物の抗腫瘍活性のインビボ評価
インビボで誘発される免疫応答が腫瘍担持マウスにおける抗腫瘍作用につながるかどうかを評価するため、我々はMUT30(Kif18b中の突然変異)およびMUT44を例として選択した。これらの突然変異は、突然変異ペプチドに対して選択的に強力な免疫反応を誘導し、内因的にプロセシングされることが示されていた(
図10A、B)。突然変異ペプチドでワクチン接種することの治療的潜在能を、7.5×10
5 B16F10の移植の3日後および10日後にMUT30またはMUT44のいずれかとアジュバントでマウスを免疫することによって検討した。腫瘍の成長は、コントロール群と比較して両方のペプチドワクチン接種によって阻害された(
図11A)。B16F10は非常に攻撃的に成長する腫瘍であるので、我々は防御的免疫応答も試験した。マウスをMUT30ペプチドで免疫し、4日後に7.5×10
5 B16F10細胞を皮下的に接種して、腫瘍攻撃誘発の2日後および9日後にMUT30で追加免疫した。MUT30で処置したマウスの完全な腫瘍防御および40%の生存が認められ、一方コントロール処置群のすべてのマウスは44日以内に死亡した(
図11B、左)。MUT30での免疫にもかかわらず腫瘍を発症したマウスでは、腫瘍の成長がより緩やかであり、コントロール群と比較して6日間の平均生存期間の延長をもたらした(
図11B、右)。これらのデータは、単一突然変異に対するワクチン接種が既に抗腫瘍作用を付与することができることを示唆する。
【0361】
突然変異をコードするRNAでの免疫
B16F10メラノーマ細胞株からの50の実証された突然変異を用いて種々のRNAワクチンを構築した。1つ(モノエピトープ)、2つ(バイエピトープ)または16(ポリエピトープ)の異なる突然変異を示すDNA配列を、25位に突然変異を有する50アミノ酸(バイエピトープ)または14位に突然変異を有する27アミノ酸(モノおよびポリエピトープ)を使用して構築し、9アミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって分離した。これらの構築物をmRNAのインビトロ転写のためにpST1−2BgUTR−A120骨格にクローニングした(Holtkamp et al.,Blood 2006;108:4009−17)。
【0362】
種々のRNAワクチンに対するT細胞応答を誘導するインビボ能力を試験するため、3匹のC57BL/6マウスの群を、RNAとRNAiMAXリポフェクタミンの製剤化およびその後の静脈内注射によって免疫した。5回の免疫後、マウスを犠死させ、対応する突然変異コードペプチドまたはコントロールペプチド(VSV−NP)での再刺激後に、脾細胞を、細胞内サイトカイン染色およびIFN−γ ELISPOT分析を用いて突然変異特異的T細胞応答に関して分析した。
【0363】
図12は、各々のワクチン設計についての一例を示す。上での列では、マウスを、MUT30(Kif18b中の突然変異)をコードするモノエピトープ−RNAでワクチン接種し、これはMUT30特異的CD4+T細胞を誘導する(例示FACSプロット参照)。中央の列では、グラフおよびFACSプロットは、MUT33およびMUT08をコードするバイエピトープでの免疫後にMUT08(Ddx23中の突然変異)特異的CD4+T細胞の誘導を示す。下の列では、マウスを、MUT08、MUT33およびMUT27を含む16の異なる突然変異をコードするポリエピトープで免疫した(表8参照)。グラフおよびFACSプロットは、MUT27反応性T細胞がCD8表現型であることを例示する。
表8:モノエピトープ、バイエピトープおよびポリエピトープRNAワクチンによってコードされる突然変異および遺伝子名の概略
【表8】
【0364】
同じポリエピトープを使用して、
図13に示すデータを作成した。グラフは、コントロール(VSV−NP)、MUT08、MUT27およびMUT33ペプチドによる脾細胞の再刺激後のELISPOTデータを示しており、ポリエピトープワクチンがいくつかの異なる突然変異に対する特異的T細胞応答を誘導することができることを証明する。
【0365】
合わせて考慮すると、データは、モノエピトープ、バイエピトープおよびポリエピトープをコードするRNAを使用して突然変異特異的T細胞を誘導する可能性を示す。さらに、データは、1つの構築物からのCD4
+およびCD8+T細胞の誘導およびいくつかの異なる特異性の誘導を示す。
【0366】
モデルエピトープによる免疫
ポリエピトープRNAワクチン設計をさらに特性付けるため、1つのMHCクラスIIエピトープ(オボアルブミンクラスI(SIINFEKL)、クラスII(OVAクラスII)、インフルエンザヌクレオタンパク質(Inf−NP)、水疱性口内炎ウイルスヌクレオタンパク質(VSV−NP)およびチロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2))を含む5つの異なる公知のモデルエピトープを含有するDNA配列を構築した。突然変異ポリエピトープのために使用した9アミノ酸の同じグリシン/セリンリンカーでエピトープを分離した。この構築物をmRNAのインビトロ転写のためにpST1−2BgUTR−A120骨格にクローニングした。
【0367】
インビトロ転写RNAを使用して、節内免疫(鼠径部リンパ節内へのRNA 20μgによる4回の免疫)によって5匹のC57BL/6マウスにワクチン接種した。最後の免疫の5日後に、血液試料と脾細胞を分析のためにマウスから採取した。
図14Aは、指示されているペプチドで再刺激した脾細胞のIFN−γ ELISPOT分析を示す。3つすべてのMHCクラスIエピトープ(SIINFEKL、Trp2およびVSV−NP)が非常の高い数の抗原特異的CD8+T細胞を誘導することが明らかに認められる。MHCクラスIIエピトープOVAクラスIIも強力なCD4+T細胞応答を誘導する。4番目のMHCクラスIエピトープは、蛍光標識五量体MHCペプチド複合体(五量体)でInf−NP特異的CD8+T細胞を染色することによって分析した。(
図14B)。
【0368】
これらのデータは、異なる免疫原性MHCクラスIおよびクラスIIエピトープを分離するためにグリシン/セリンリンカーを使用するポリエピトープ設計が、その免疫優性に関わりなく、すべてのコードされるエピトープに対する特異的T細胞を誘導することができることを証明する。
【0369】
突然変異をコードするポリエピトープRNAワクチンによる治療後の抗腫瘍応答
免疫原性に関して
図13で分析した同じポリエピトープを使用して、B16F10腫瘍細胞に対する突然変異コードRNAの抗腫瘍活性を検討した。詳細には、C57BL/6マウスの群(n=10)に、1×10
5 B16F10メラノーマ細胞を側腹部に皮下的に接種した。3、6、10、17および21日目に、リポソームトランスフェクション試薬を用いてポリエピトープRNAでマウスを免疫した。コントロール群にはリポソームだけを注射した。
【0370】
図21は両群の生存率曲線を示し、コントロール群における18.5日の平均生存期間と比較して27日という強く改善された平均生存期間を明らかにし、10匹のマウスのうち1匹は腫瘍なしで生存した。
【0371】
突然変異ペプチドと正常ペプチドの組合せによる治療後の抗腫瘍応答
実証された突然変異の抗腫瘍活性を、MUT30をペプチドワクチンとして使用して治療的インビボ腫瘍実験によって評価した。詳細には、C57BL/6マウスの群(n=8)に、1×10
5 B16F10メラノーマ細胞を側腹部に皮下的に接種した。3、10および17日目に、polyI:Cをアジュバントとして使用してMUT30、チロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2
180−188)または両方のペプチドの組合せでマウスを免疫した。Trp2は、B16F10メラノーマ細胞によって発現される公知のCD8
+エピトープである。
【0372】
図15Aは各群の平均腫瘍成長を示す。公知のCD8+T細胞エピトープとCD4+T細胞を誘導するMUT30の組合せで免疫した群では、28日目まで腫瘍成長がほぼ完全に阻害されることが明らかに認められる。公知のTrp2エピトープ単独では、この設定で良好な抗腫瘍作用を提供するには十分でないが、両方の単一治療群(MUT30およびTrp2)が、実験の開始から25日目まで未処置群と比較してまだ腫瘍成長の阻害を提供する。これらのデータは、
図15Bに示す生存率曲線によって裏付けられる。明らかに、単一ペプチドを注射したマウスによって平均生存率が上昇し、Trp2でワクチン接種した群では1/8のマウスが生存した。加えて、両方のペプチドで処置した群はさらに良好な生存率を示し、2/8のマウスが生存した。
【0373】
合わせて考慮すると、2つのエピトープは強力な抗腫瘍作用を提供するように相乗作用的に働く。
【0374】
(実施例9)
信頼度に基づく体細胞突然変異検出のためのフレームワークおよびB16F10メラノーマ細胞への適用
NGSは、ゲノム全体またはタンパク質コードエクソンなどの標的領域内で変異の高スループット発見を可能にするという点でバイアスがない。
【0375】
しかし、画期的ではあるが、NGSプラットフォームはまだ誤った変異コールを導くエラーを生じやすい。さらに、結果の品質は実験計画のパラメータおよび解析方法に依存する。変異コールは、典型的には真の変異をエラーから区別するように設計されたスコアを含むが、これらのスコアの有用性は十分に理解されておらず、実験の最適化に関するその解釈も同様である。これは、組織状態を比較する、すなわち体細胞突然変異に関して腫瘍組織と正常組織を比較する場合に特に当てはまる。結果として、研究者は、突然変異を選択するための実験パラメータおよび恣意的なフィルタリング閾値を決定するにあたって個人的な経験に頼らざるを得ない。
【0376】
我々の研究は、a)体細胞突然変異を同定するパラメータおよび方法を比較するための枠組みを確立することならびにb)同定された突然変異に信頼値を割り当てることを目指す。我々は、C57BL/6マウスおよびB16F10メラノーマ細胞株からの三つ組試料を配列決定する。これらのデータを使用して、その後既存の突然変異発見ソフトウェアおよび実験プロトコルを評価するのに用いる尺度である、検出された体細胞突然変異の偽発見率を策定する。
【0377】
様々な実験およびアルゴリズム因子が、NGSによって見出された変異についての偽陽性率に寄与する[Nothnagel,M.et al.,Hum.Genet.2011 Feb 23[Epub ahead of print]]。エラーソースには、PCRアーティファクト、プライミングのバイアス[Hansen,K.D.,et al.,Nucleic.Acids.Res.38,e131(2010);Taub,M.A.et al.,Genome Med.2,87(2010)]および標的濃縮におけるバイアス[Bainbridge,M.N.et al.,Genome Biol.11,R62(2010)]、配列の影響[Nakamura,K.et al.,Acids Res.(2011)first published online May 16,2011 doi:10.1093/nar/gkr344]、配列エラーを引き起こすベースコーリング[Kircher,M.et al.,Genome Biol.10,R83(2009).Epub 2009 Aug 14]ならびにさらなる下流解析、例えばインデルの周囲の変異コーリング[Li,H.,Bioinformatics 27,1157−1158(2011)]に影響を及ぼすカバレッジの変動およびシークエンシングエラーを生じさせるリードアラインメント[Lassmann,T.et al.,Bioinformatics 27,130−131(2011)]が含まれる。
【0378】
体細胞突然変異コールへの種々のエラーソースの影響を説明する一般的な統計モデルは記述されていない;個別の局面だけがすべてのバイアスを除去することなくカバーされている。偽陽性突然変異コールの予想量を測定するための最近のコンピュータ法には、変異のセットのトランジション/トランスバージョン比の利用[Zhang,Z.,Gerstein,M.,Nucleic Acids Res 31,5338−5348(2003);DePristo,M.A.et al.,Nature Genetics 43,491−498(2011)]、機械学習[DePristo,M.A.et al.,Nature Genetics 43,491−498(2011)]および家族ゲノムに関して[Ewen,K.R.et al.,Am.J.Hum.Genet.67,727−736(2000)]またはプールされた試料に関して[Druley,T.E.et al.,Nature Methods 6,263−265(2009);Bansal,V.,Bioinformatics 26,318−324(2010)]作業する場合の継承エラーが含まれる。最適化のために、Druleyら[Druley,T.E.et al.,Nature Methods 6,263−265(2009)]は短いプラスミド配列フラグメントを利用したが、これらは試料を代表していない可能性があった。一塩基変異(SNV)のセットおよび選択された実験について、他の技術によって同定されたSNVとの比較が実行可能である[Van Tassell,C.P.et al.,Nature Methods 5,247−252(2008)]が、新規体細胞突然変異に関して評価することは困難である。
【0379】
一例としてエクソームシークエンシングプロジェクトを使用して、我々は、NGSデータだけに基づいて偽発見率(FDR)を計算することを提案する。この方法は、診断および治療標的の選択と優先順位付けに適用できるだけでなく、我々が類似の実験について信頼度駆動推奨を定義することを可能にすることにより、アルゴリズムおよび方法の開発も支援する。
【0380】
突然変異を発見するため、3匹のC57BL/6(black6)マウス(同腹子)の尾部組織からのDNAおよびB16F10(B16)メラノーマ細胞からのDNAを、三つ組で、タンパク質コードエクソンに関して個別に濃縮し(Agilent Sure Select Whole Mouse Exome)、6つの試料を得た。RNAをB16細胞から三つ組で抽出した。シングルエンド50ヌクレオチド(1×50nt)リードおよびペアエンド100ヌクレオチド(2×100nt)リードをIllumina HiSeq 2000で生成した。各試料を個別のレーンに負荷し、各レーンにつき平均1億400万リードを生じた。DNAリードをbwa[Li,H.Durbin,R.,Bioinformatics 25,1754−1760(2009)]を使用してマウス参照ゲノムに整列させ、RNAリードをbowtie[Langmead,B.et al.,Genome Biol.10,R25(2009)]を使用して整列させた。標的領域の97%の38倍の平均カバレッジが1×50ntライブラリに関して達成され、2×100nt実験は標的領域の98%の165倍の平均カバレッジを生じた。
【0381】
体細胞変異を、ソフトウェアパッケージSAMtools[Li,H.et al.,Bioinformatics 25,2078−2079(2009)]、GATK[DePristo,M.A.et al.,Nature Genetics 43,491−498(2011)]およびSomaticSNiPer[Ding,L.et al.,Hum.Mol.Genet(2010)first published online September 15,2010]を使用して(
図16)、B16試料中で見出された一塩基変異をblack6試料中の対応する遺伝子座と比較することによって(B16細胞はもともとblack6マウスに由来した)独立して同定した。潜在的突然変異を、それぞれのソフトウェアの作成者(SAMtoolsおよびGATK)による推奨に従ってまたはSomaticSNiPerの体細胞スコアに関する適切な下限閾値を選択することによって、それぞれフィルタリングした。
【0382】
突然変異発見に関する偽発見率(FDR)を作成するため、我々は最初に突然変異部位をインターセクトさせ、1,355の高品質体細胞突然変異を3つのプログラムすべてにおけるコンセンサスとして得た(
図17)。しかし、適用したソフトウェアツールの結果において認められた差異は実質的である。誤った結論を避けるため、我々は、レプリケートを使用して各突然変異にFDRを割り当てる方法を開発した。サンプルの技術的反復は同一の結果を生じるはずであり、この「対同一物比較」における検出された突然変異は偽陽性である。したがって、正常試料と比較して腫瘍試料中の体細胞突然変異検出に関する偽発見率を決定するために(「腫瘍比較」)、我々は、偽陽性の数を推定するための参照として正常試料の技術的反復を使用することができる。
【0383】
図18Aは、参照に対する体細胞突然変異(左)、非体細胞変異(中央)および可能性のある偽陽性(右)を含む、black6/B16データ中で見出された変異の例を示す。各体細胞突然変異をクオリティスコアQと関連付けることができる。腫瘍比較における偽陽性の数は、対同一物比較における偽陽性の数を示す。したがって、腫瘍比較で検出されたクオリティスコアQを有する所与の突然変異に関して、我々は、Qまたはより良好なスコアを有する腫瘍比較で見出された突然変異の全体数に対する、Qまたはより良好なスコアを有する対同一物突然変異の比率をコンピュータで計算することによって偽発見率を推定する。
【0384】
大部分の突然変異検出フレームワークは複数のクオリティスコアを計算するので、Qを定義するうえで問題が生じる。ここで我々は、複数のスコアを組み合わせて単一のクオリティスコアQにするためにランダムフォレスト分類器[Breiman,L.,Statist.Sci.16,199−231(2001)]を適用する。クオリティスコアおよびFDR計算の詳細に関しては方法の章を参照されたい。
【0385】
比較法における潜在的なバイアスは差分カバレッジである;我々は、したがって、カバレッジに関して偽発見率を正規化する:
【数1】
【0386】
我々は、腫瘍試料と正常試料の両方によってまたは両方の「対同一物」(same vs.same)試料によってそれぞれカバーされる参照ゲノムのすべてのベースをカウントすることによって共通カバレッジを計算する。
【0387】
各々のFDRで偽陽性および陽性の数を推定することにより(「方法」参照)、受信者操作特性(ROC)曲線を作成し、各突然変異発見法についてAUC(曲線下面積)を計算し、したがって突然変異発見のための戦略の比較を可能にする(
図18B)。
【0388】
さらに、参照データの選択はFDRの計算に影響を及ぼし得る。使用可能なblack6/B16データを使用して、18のトリプレット(black6対black6およびblack6対b16の組合せ)を生成することが可能である。体細胞突然変異のセットに関して生じたFDR分布を比較した場合、結果は一致する(
図18B)。
【0389】
偽発見率のこの定義を用いて、我々は、生じる体細胞突然変異のセットへの数多くの実験およびアルゴリズムパラメータの影響を評価するための一般的フレームワークを確立した。次に、体細胞突然変異同定へのソフトウェアツール、カバレッジ、ペアエンドシークエンシングおよび技術的レプリケートの数の影響を検討するためにこのフレームワークを適用する。
【0390】
第一に、ソフトウェアツールの選択は同定される体細胞突然変異に明らかな影響を及ぼす(
図19A)。試験したデータに関して、SAMtoolsは、FDRによって順位付けられる体細胞突然変異のセット中の真陽性の最も高い濃縮を生じる。しかし、我々は、すべてのツールが個々の突然変異に関して多くのパラメータおよびクオリティスコアを提供することに留意する。ここで我々は、アルゴリズム開発者によって指定されたデフォルト設定を使用した;我々は、パラメータを最適化することができると予想しており、ここで定義されるFDRフレームワークがそのような最適化を実行し、評価するために設計されていることを強調する。
【0391】
前述したB16シークエンシング実験のために、我々は個々のフローセルレーン中の各試料を配列決定し、個々の試料について38倍の標的領域平均ベースカバレッジを達成した。しかし、このカバレッジは体細胞突然変異の等しく良好なセットを得るには必要でないと考えられ、おそらくコストを低減する。また、全ゲノムSNV検出へのカバレッジの深度の影響が最近論じられている[Ajay,S.S.et al.,Genome Res.21,1498−1505(2011)]。エクソン捕獲データへのカバレッジの影響を検討するため、我々は、すべての1×50ntライブラリについて整列された配列リードの数をダウンサンプルし、それぞれ5、10および20倍の近似カバレッジを生成して、次に突然変異コールアルゴリズムを再適用した。予想されたように、より高いカバレッジはより良好な(すなわち偽陽性がより少ない)体細胞突然変異セットをもたらすが、20倍のカバレッジから最大値までの改善はわずかである(
図19B)。
【0392】
使用可能なデータとフレームワークを使用して種々の実験設定をシミュレートし、順位付けることが正攻法である。二つ組を三つ組と比較すると、三つ組は二つ組に比べて利益を与えない(
図19C)が、二つ組はレプリケートなしの試験に比べて明らかな改善を提供する。所与のセット中の体細胞突然変異の比率に関して、我々は、5%のFDRで、二つ組についてはレプリケートなしでの実行に関して24.2%から71.2%への濃縮および三つ組については85.8%の濃縮を認める。濃縮にもかかわらず、三つ組のインターセクションを使用すると、より低いROC AUCおよび曲線の左側へのシフトによって示されるように(
図19C)、高いFDRを有する突然変異よりも低いFDRを有する突然変異をより多く除去する:特異性は、より低い感受性という代償を払ってわずかに上昇する。
【0393】
付加的に配列決定した2×100ntライブラリを使用して、2番目のリードならびに/またはリードの3'および5'末端をインシリコで除去することにより、1×100nt、2つの2×50ntおよび2つの1×50ntライブラリをそれぞれシミュレートし、合計5つのシミュレートしたライブラリを作製した。これらのライブラリを、予測される突然変異の計算したFDRを用いて比較した(
図19D)。はるかに高い平均カバレッジ(77以上対38)にもかかわらず、2×50nt 5'および1×100ntライブラリを使用して見出された体細胞突然変異はより低いROC AUCを有し、したがって1×50ntライブラリより劣るFDR分布を有する。この現象は、見出された低FDR突然変異のセットが高度に類似しているため、低カバレッジ領域に高FDR突然変異が蓄積することから生じる。その結果として、最適シークエンシング長は、配列決定された塩基が捕獲プローブ配列の付近に集中するように小さいか(カバーされない領域中の体細胞突然変異状態に関する情報が潜在的に失われるが)またはカバレッジギャップを有効に埋める、フラグメント長に近くなければならない(我々の場合は約250ntフラグメントについて2×100nt=全長200nt)。これは、2×50nt 3'ライブラリ(2×100ntライブラリの3'末端だけを使用することによってシミュレートした)のROC AUCが、3'リード末端のより低いベースクオリティにもかかわらず、2×50nt 5'ライブラリ(2×100ntライブラリの5'末端だけを使用することによってシミュレートした)のものより高いことによっても裏付けられる。
【0394】
これらの観察から、体細胞突然変異の発見のための最良の実施手順を定義することが可能となる。すべての評価パラメータ全体にわたって、両方の試料における20倍のカバレッジおよび技術的な二つ組を使用することにより、コストも考慮しつつ、これらの比較的均質な試料中で最適に近い結果が達成される。約1億個のリードを生じる1×50ntライブラリがこのカバレッジを達成するための最も実際的な選択であると思われる。これはすべての可能なデータセット対にわたって当てはまる。我々は、これらのパラメータ設定を回顧的に適用し、生変異コールの付加的なフィルタリングを使用せずに、
図17に示す3つの方法すべてのインターセクションからの50の選択突然変異についてFDRを計算した。すべての突然変異をサンガーリシークエンシングとB16 RNA−Seq配列リードの組合せによって確認した。これらの突然変異のうち44は5%のFDRカットオフ値を使用して見出されたはずである(
図20)。陰性コントロールとして、高いFDR(>50%)を有する44の予測された突然変異の遺伝子座を再配列決定し、RNA−Seqデータ中のそれぞれの配列を検討した。我々は、これらの突然変異のうち37が実証されず、潜在的突然変異の残りの7つの遺伝子座はRNA−Seqリードによってカバーされず、シークエンシング反応も生じないことを認めた。
【0395】
我々は4つの特定の問題へのフレームワークの適用を示すが、決してこれらのパラメータに限定されるわけではなく、すべての実験またはアルゴリズムパラメータの影響、例えばアラインメントソフトウェアの影響、突然変異測定基準の選択、またはエクソーム選択のための販売者の選択の影響を検討するために適用することができる。
【0396】
我々は、すべての実験をB16メラノーマ細胞実験のセットに関して実施した;しかし、この方法はこれらのデータに限定されない。唯一の必要条件は、「対同一物」参照データセットが使用できることであり、少なくとも非腫瘍試料の1回の技術的反復が各々の新しいプロトコルに関して実施されるべきであることを意味する。我々の実験は、この方法が一定の範囲内で技術的反復の選択に関して堅固であることを示すが、そのためあらゆる単一実験において反復が必ずしも必要とされるわけではない。しかし、この方法は、様々なクオリティ評価尺度が参照データセットと残りのデータセットの間で同等であることを必要とする。
【0397】
この寄与度の範囲内で、我々は体細胞突然変異の偽発見率駆動検出のための統計的フレームワークを開発した。このフレームワークは、診断または治療標的選択に適用できるだけでなく、生成された疑似真値データに関する実験プロトコル工程とコンピュータプロトコル工程の一般的比較を可能にする。ここで、我々は、ソフトウェアツール、カバレッジ、レプリケートならびにペアエンドシークエンシングに関してプロトコルを決定するのにこの発想を適用した。
【0398】
方法
ライブラリの捕獲およびシークエンシング
次世代シークエンシング、DNAシークエンシング:この場合はすべての公知のマウスエクソンを捕獲するように設計された、Agilent Sure−Select solutionに基づく捕獲アッセイ[Gnirke,A.,et al.,Nat.Biotechnol.27,182−189(2009)]を用いてDNAリシークエンシングのためのエクソーム捕獲を実施した。
【0399】
精製ゲノムDNA 3μgを、Covaris S2超音波装置を用いて150〜200ntに断片化した。gDNAフラグメントを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端gDNAフラグメントを、クレノウフラグメントを使用して3'アデニル化した(3'−5'エキソマイナス)。単一の3'TオーバーハングIlluminaペアエンドアダプタを、T4 DNAリガーゼを使用してアダプタ対ゲノムDNAインサートの10:1モル比を用いてgDNAフラグメントに連結した。アダプタ連結gDNAフラグメントを捕獲前に濃縮し、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0ならびにHerculase IIポリメラーゼ(Agilent)を使用して4回のPCRサイクルを用いてフローセル特異的配列を付加した。
【0400】
アダプタ連結し、PCR濃縮したgDNAフラグメント500ngをAgilentのSureSelectビオチン化マウス全エクソームRNAライブラリベイトに65℃で24時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを用いて取り出した。gDNA/RNAベイト複合体を洗浄し、SureSelect溶出緩衝液中での溶出の間にRNAベイトを切断して、捕獲したアダプタ連結・PCR濃縮gDNAフラグメントを残した。gDNAフラグメントを、捕獲後にHerculase II DNAポリメラーゼ(Agilent)およびSureSelect GA PCRプライマーを10サイクル使用してPCR増幅した。
【0401】
清浄化は1.8倍容量のAMPure XP磁気ビーズ(Agencourt)を使用して実施した。品質管理のために我々はInvitrogenのQubit HSアッセイを使用し、フラグメントサイズはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを用いて決定した。
【0402】
エクソーム濃縮したgDNAライブラリを、7pMを使用してTruseq SRクラスターキットv2.5を用いてcBotでクラスター化し、Truseq SBSキットを使用してIllumina HiSeq2000で配列決定した。
【0403】
エクソームデータ解析
配列リードを、bwa(バージョン0.5.8c)[Li,H.Durbin,R.,Bioinformatics 25,1754−1760(2009)]を用いて、デフォルトオプションを使用して参照マウスゲノムアセンブリmm9[Mouse Genome Sequencing Consortium,Nature 420,520−562(2002)]に整列させた。曖昧なリード−bwa出力によって提供されるようなゲノムの複数箇所にマッピングされるリードを除去した。残りのアラインメントを選別し、インデックス化して、バイナリ圧縮フォーマット(BAM)に変換し、シェルスクリプトを用いてリードクオリティスコアをIllumina標準phred+64から標準サンガークオリティスコアに変換した。
【0404】
各シークエンシングレーンについて、3つのソフトウェアプログラム:SAMtools(バージョン0.1.8)[Li,H.et al.,Bioinformatics 25,2078−2079(2009)]、GATK(バージョン1.0.4418)[DePristo,M.A.et al.,Nature Genetics 43,491−498(2011)]、およびSomaticSniper[Ding,L.et al.,Hum.Mol.Genet(2010)first published online September 15,2010]を用いて突然変異を同定した。SAMtoolsについては、1回目のフィルタリング、最大カバレッジ200を含む、作成者が推奨するオプションおよびフィルタリング基準を使用した(http://sourceforge.net/apps/mediawiki/SAMtools/index.php?title=SAM_FAQ;2011年9月にアクセス)。SAMtoolsの2回目のフィルタリングについては、インデル最低限クオリティスコアは50であり、点突然変異最低限クオリティは30であった。GATK突然変異コーリングについては、我々は、GATKユーザーマニュアル(http://www.broadinstitute.org/gsa/wiki/index.php/The_Genome_Analysis_Toolkit;2010年10月にアクセス)に提示されている作成者が設計した最良実施ガイドラインに従った。各々の試料について、インデル部位の付近のローカルリアラインメント、次いでベースクオリティの再キャリブレーションを実施した。生じたアラインメントデータファイルにUnifiedGenotyperモジュールを適用した。必要な場合は、dbSNP[Sherry,S.T.et al.,Nucleic Acids Res.29,308−311(2009)](mm9用のバージョン128)の公知の多型を個々の工程に供給した。バリアントスコアの再キャリブレーション工程を省き、ハードフィルタリングオプションに置き換えた。SomaticSniper突然変異コーリングに関しては、デフォルトオプションを使用し、30以上の「体細胞スコア」を有する予測突然変異だけをさらに検討した。加えて、各々の潜在的変異遺伝子座について、正常組織におけるノンゼロカバレッジを必要とし、マウスゲノムアセンブリmm9のためのUCSC Genome BrowserのRepeatMaskerトラックによって定義される反復配列中に位置するすべての突然変異を除去した[Fujita,P.A.et al.,Nucleic Acids Res.39,876−882(2011)]。
【0405】
RNA−Seq
バーコード化されたmRNA−seqcDNAライブラリを、Illumina mRNA−seqプロトコルの修正版を用いて全RNA 5μgから調製した。SeramagOligo(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用してmRNAを単離した。単離したmRNAを、二価カチオンと熱を用いて断片化し、160〜200bpの範囲のフラグメントを生じさせた。断片化したmRNAを、ランダムプライマーとSuperScriptII(Invitrogen)を用いてcDNAに変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第二鎖を合成した。cDNAを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端cDNAフラグメントを、クレノウフラグメントを使用して3'アデニル化した(3'−5'エキソマイナス)。単一の3'TオーバーハングIlluminaマルチプレックス特異的アダプタを、T4 DNAリガーゼを使用してcDNAフラグメントに連結した。cDNAライブラリを精製し、E−Gel 2% SizeSelectゲル(Invitrogen)を用いて300bpでサイズ選択した。濃縮、Illumina6塩基インデックス配列およびフローセル特異的配列の付加を、Phusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用してPCRによって行った。すべての清浄化は1.8倍容量のAgencourt AMPure XP磁気ビーズを使用して実施した。
【0406】
バーコード化されたRNA−Seqライブラリを、7pMを使用してTruseq SRクラスターキットv2.5を用いてcBotでクラスター化し、Truseq SBSキットを使用してIllumina HiSeq2000で配列決定した。
【0407】
HiSeqからの生出力データを、Illumina標準プロトコルに従って処理し、これには低クオリティリードの除去およびデマルチプレックス化が含まれた。次に配列リードを、bowtie[Langmead,B.et al.,Genome Biol.10,R25(2009)]を用いて参照ゲノム配列に整列させた[Mouse Genome Sequencing Consortium,Nature 420,520−562(2002)]。アラインメント座標をRefSeq転写産物のエクソン座標と比較し[Pruitt,K.D.et al.,Nucleic Acids Res.33,501−504(2005)]、各転写産物についてオーバーラップアラインメントのカウントを記録した。ゲノム配列に整列されない配列リードは、RefSeq転写産物のすべての可能なエクソン−エクソン接合部配列のデータベースに整列させた[Pruitt,K.D.et al.,Nucleic Acids Res.33,501−504(2005)]。アラインメント座標をRefSeqエクソン座標および接合部座標と比較し、リードをカウントして、各転写産物についてRPKM(百万個のマッピングされたリード当たりの転写産物のヌクレオチドキロベースごとにマッピングされるリードの数(number of reads which map per nucleotide kilobase of transcript per million mapped reads))[Mortazavi,A.et al.,Nat.Methods 5,621−628(2008)])に正規化した。
【0408】
SNVの検証
我々は、サンガーリシークエンシングおよびRNAによる検証のためにSNVを選択した。3つすべてのプログラムによって予測され、非同義であり、最低限10RPKMを有する転写産物中で見出されるSNVを同定した。これらのうちで、プログラムによって提供される最も高いSNPクオリティスコアを有する50を選択した。陰性コントロールとして、50%以上のFDRを有し、1つの細胞株試料中だけに存在し、1つの突然変異コーリングプログラムによってのみ予測される44のSNVを選択した。DNAを使用して、選択した変異を、DNA 50ngを使用した領域のPCR増幅、次いでサンガーシークエンシング(Eurofins MWG Operon,Ebersberg,Germany)によって検証した。反応は、陽性および陰性コントロールの50遺伝子座と32遺伝子座についてそれぞれ成功であった。腫瘍RNA−Seqリードの検査によっても検証を行った。
【0409】
FDRの計算および機械学習
ランダムフォレストクオリティスコア計算:一般的に使用される突然変異コーリングアルゴリズム(DePristo,M.A.et al.,Nature Genetics 43,491−498(2011),Li,H.et al.,Bioinformatics 25,2078−2079(2009),Ding,L.et al.,Hum.Mol.Genet(2010)first published online September 15,2010)は複数のスコアを出力し、それらすべてが潜在的に突然変異コールのクオリティに影響を及ぼす。これらには、装置によって割り当てられる関心対象のベースクオリティ、この位置についてのクオリティアラインメント、この位置をカバーするリードの数またはこの位置で比較した2つのゲノム間の相違についてのスコアが含まれるが、これらに限定されない。偽発見率の計算のためには、突然変異の順位付けを必要とするが、様々なクオリティスコアから矛盾する情報が得られ得るので、これをすべての突然変異について直接実行できるわけではない。
【0410】
我々は、完全な順位付けを達成するために以下の戦略を用いる。第一工程では、突然変異がすべてのカテゴリーにおいて上回る場合かつその場合に限り、突然変異が別の突然変異よりも良好な品質を有すると仮定することによって有意性の非常に厳密な定義を適用する。そのため、品質特性S=(s
1,...,s
n)のセットは、すべてのi=1,...,nについてs
i>t
iである場合かつその場合に限り、T=(t
1,...,t
n)より好ましく、S>Tで表される。我々は中間FDR(IFDR)を以下のように定義する:
【数2】
【0411】
しかし、多くの密接に関連する場合に、比較が実行可能ではなく、したがって膨大な量の利用可能なデータから利益を得られないので、我々はIFDRを単に中間段階とみなす。したがって、我々は、ランダムフォレスト回帰[Breiman,L.,Statist.Sci.16,199−231(2001)]の良好な一般化特性を利用し、Rで実装されているランダムフォレストを学習する(R Development Core Team.R:A language and environment for statistical computing.R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria,2010,Liaw,A.,Wiener,M.,R News 2,18−22(2002))。
【0412】
それぞれn個の品質特性を有するm個の突然変異について、各特性の値範囲を決定し、p個までの値をこの範囲から均一な間隔でサンプリングした;品質特性についての値のセットがpより小さい場合、このセットをサンプルセットの代わりに使用した。次に、n次元品質スペースにおいて「p
n」データ点の最大値をもたらす、サンプリングしたまたは選択した品質値のそれぞれの可能な組合せを作成する。これらの点の1%のランダムなサンプルおよび対応するIFDR値を、ランダムフォレストトレーニングのためにそれぞれ予測子および応答として使用した。
【0413】
生じる回帰スコアが、我々の一般化したクオリティスコアQである:これは個々のクオリティスコアの局所的に加重された組合せとみなすことができる。これは、任意の2つの突然変異の直接の単一値比較および実際の偽発見率の計算を可能にする:
【数3】
【0414】
この研究の結果を作成するために使用されるランダムフォレストモデルのトレーニングのために、ランダムな1%サブセットを選択する前にすべての試料の体細胞突然変異に関するサンプルIFDRを計算する。これは、使用可能なクオリティスペース全体をFDR値にマッピングすることを確実にする。我々は、クオリティ特性「SNPクオリティ」、「カバレッジ深度」、「コンセンサスクオリティ」および「RMSマッピングクオリティ」(SAMtools、p=20);「SNPクオリティ」、「カバレッジ深度」、「バリアントの信頼度/フィルタリングしていない深度」および「RMSマッピングクオリティ」(GATK、p=20);または「SNPクオリティ」、「カバレッジ深度」、「コンセンサスクオリティ」、「RMSマッピングクオリティ」および「体細胞スコア」(SomaticSNiPer、p=12)をそれぞれ使用した。pの種々の値は、比較可能な大きさのセットサイズを確実にする。
【0415】
共通カバレッジの計算:可能な突然変異コールの数は、偽発見率の定義に重要なバイアスを導入し得る。我々の腫瘍比較および対同一物比較のために突然変異が起こる可能な位置の数が同じである場合にのみ、コールされる突然変異の数は比較可能であり、偽発見率計算のための基礎として用いることができる。この潜在的なバイアスを補正するために、我々は共通カバレッジ比を使用する。共通カバレッジとして、我々は、突然変異コーリングに使用される両方の試料中の少なくとも1つのカバレッジに関するベースの数を定義する。腫瘍比較および対同一物比較のために共通カバレッジを個別に計算する。
【0416】
ROCの推定
受信者操作特性(ROC)曲線および対応する曲線下面積(AUC)は、分類器を構成し、それらのパフォーマンスを視覚化するために有用である[Fawcett,T.,Pattern Recogn.Lett.27,861−874(2006)]。我々は、実験および計算手順のパフォーマンスを評価するためにこの概念を拡大適用する。しかし、ROCグラフをプロットするには、通常は与えられず、高スループットデータ(NGSデータなど)に関しては確立することが困難な情報である、データセット中のすべての真陽性および偽陽性(TPおよびFP)例の知識を必要とする。したがって、我々は、それぞれのTPおよびFP率を推定するために計算したFDRを使用し、ROCグラフをプロットして、AUCを計算する。中心となる概念は、データセット中の単一突然変異のFDRが、この突然変異がTP/FP突然変異の合計にそれぞれどの程度寄与するかの割合を与えることである。また、TPおよびFPへのランダムな割り当てのリストに関して、生じるROC AUCは、我々の方法では0.5に等しく、完全にランダムな予測を示す。
【0417】
我々は、2つの条件:
【数4】
から開始し、FPRおよびTPRは、所与の突然変異についてそれぞれ必要な偽陽性真陽性比であり、ROCスペース中の対応する点を定義する。[1]および[2]は、
【数5】
に並べ替えることができる。
【0418】
推定ROC曲線を得るために、データセット中の突然変異をFDRによって選別し、各々の突然変異について、それぞれすべてのTPRおよびTPR値の合計で除した、この突然変異までの累積TPRおよびFPR値に点をプロットする。曲線とx軸の間のすべての連続する台形の面積を合計することによってAUCを計算する。
【0419】
(実施例10)
癌治療のための標的としての腫瘍抗原の組合せの選択
この実施例では、大きな割合の腫瘍患者によって少なくとも部分的に共有され、その中で広いスペクトルの癌患者に適用できるワクチン生成物のセットを提供することができる腫瘍抗原のセットを確立することが可能であるかどうかを評価した。
【0420】
このために、RNeasy Lipid Tissue Mini Kit(Qiagen)を使用してメラノーマ転移試料からRNAを抽出した。SuperScript II Reverse Transcriptase Kit(Invitrogen)およびオリゴdTを使用してcDNA合成を実施した。BioMark(登録商標)HD Systemシステム(Fluidigm)を用いて発現を分析し、HPRTをハウスキーピング遺伝子として使用して相対発現を計算した。
【0421】
このようにして、メラノーマ試料中のDCT(=TRP2)、TYRおよびTPTEを含むいくつかの遺伝子の相対発現を検出することができた。さらに、3つの腫瘍抗原だけ、すなわちDCT(アイソフォーム1)、TYRおよびTPTEの組合せが、分析した患者試料の88%を示すのに十分であると確認することができた(
図22)。